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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】非定型抗精神病薬による副作用の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20241128BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K33/242
A61P25/00
A61P43/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022567028
(86)(22)【出願日】2020-05-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 CN2020089320
(87)【国際公開番号】W WO2021226736
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】519000526
【氏名又は名称】深▲セン▼深見医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROFOUND VIEW PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 3311, Building 9A,District II,Shenzhen Bay Eco-Technology Park, No. 3609, Baishi Road, High-tech Zone Community, Yuehai Street, Nanshan District, Shenzhen, Guangdong 518000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】スゥン、タオレイ
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-507572(JP,A)
【文献】特表2017-534673(JP,A)
【文献】特表2022-502450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00-33/44
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 25/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非定型抗精神病薬による副作用を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、リガンド結合金クラスターを含み、前記リガンド結合金クラスターは、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドと、
を含み、
前記金コアの直径が、0.5~3nmにあり、
前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つであ
前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれ、
前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドであり、
前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる、
医薬組成物。
【請求項2】
前記金コアの直径が、0.5~2.6nmにある、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
前記システイン含有ジペプチドは、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、請求項の医薬組成物。
【請求項4】
前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、請求項の医薬組成物。
【請求項5】
前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、請求項の医薬組成物。
【請求項6】
前記非定型抗精神病薬は、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンからなる群より選ばれる一つである、請求項1の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗精神病薬の技術分野に関し、特にリガンド結合金クラスター(AuCs)、リガンド結合AuCsを含む組成物、およびリガンド結合AuCsおよび組成物を採用して非定型抗精神病薬による副作用を予防、抑制、軽減および/または逆転する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非定型抗精神病薬は、統合失調症、双極性障害、うつ病、および自閉症を含む様々な精神状態を治療するために現在使用されている第2世代の抗精神病薬である。抗精神病薬は、それらの高治療効果および低い錐体外路症状のリスクが文献に記載されているが、一般的には、過剰な体重増加、脂質代謝障害、およびグルコース代謝障害を特徴とする肥満を含む様々な副作用につながることがある。例えば、オランザピンまたはクロザピンを摂取した対象は、体重増加を経験する危険性が最も高い。体重増加の急速な進行は、非定型抗精神病誘発の代謝症候群の背後にある独特の病因を示唆している。
【0003】
残念ながら、第2世代の非定型抗精神病による体重増加や代謝異常などの様々な副作用のメカニズムは、これまで広範な研究が行われてきたが、ほとんど知られていない。
【0004】
オランザピンは、ドーパミンD2、セロトニン5-HT2Aおよび5-HT2C、ヒスタミンH1受容体、ならびにムスカリンM1とM3受容体を含む複数の神経伝達受容体との高い結合親和性を有する。オランザピン誘発体重増加を打ち消すために、多くの薬理学的補助的治療が試みられてきた。例えば、オランザピンとベタヒスチン(H1RアゴニストおよびH3Rアンタゴニスト)の共治療は、オランザピンによって誘導される体重増加を有意に減少させる(Lian et al. Preventing Olanzapine-induced weight gain using betahistine: a study in a rat model with chronic olanzapine treatment. PLoS One. 2014, 9(8): e104160)。別の例として、オランザピン誘発体重増加の治療のためのムスカリン性アセチルコリン受容体M1サブタイプアンタゴニストであるテレンゼピン(WO2011/011238A1)、クロザピン、オランザピン、クエチアピンおよびリスペリドン(WO 2009/059418A 1)を含む非定型抗精神病薬を受ける対象における体重増加および関連するメタボリックシンドロームの予防または軽減のためのドーパミンアゴニストであるプラミペキソール、ならびにニザチジン、ファモチジン、シミチジン、レニチジンからなる群より選ばれるヒスタミンH2受容体アンタゴニストが含まれる。しかしながら、これらのアゴニストまたはアンタゴニストによる結果は、不確定的または矛盾している。
【0005】
オランザピンおよびクロザピンのような第2世代抗精神病薬による副作用を打ち消すためのより良い策が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、リガンド結合金クラスターを含む、非定型抗精神病薬による副作用を治療するための医薬組成物を提供する。
【0007】
本発明の特定の実施形態は、非定型抗精神病薬による副作用を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、リガンド結合金クラスターを含み、前記リガンド結合金クラスターは、金コアと、前記金コアに結合したリガンドを含む、医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、前記非定型抗精神病薬は、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンからなる群より選ばれる一つである。
【0008】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径は、0.5~3nmにある。特定の実施形態では、前記金コアの直径は、0.5~2.6nmにある。
【0009】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0010】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0011】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである。
【0012】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドは、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)かなる群より選ばれる。
【0013】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0015】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる。
【0016】
本発明の目的および利点は、添付の図面と関連してその好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、本発明に係る好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1】様々な粒子サイズのリガンドL-NIBCで修飾された金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)の紫外線可視(UV)スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0019】
図2】様々な粒子サイズのリガンドL-NIBC結合金クラスター(L-NIBC-AuCs)の紫外線可視(UV)スペクトル、TEM画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0020】
図3】様々な粒子サイズのL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。
【0021】
図4】リガンドCR結合金クラスター(CR-AuCs)のUVスペクトル、赤外線、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0022】
図5】リガンドRC結合金クラスター(RC-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0023】
図6】リガンド1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(即ち、Cap)結合金クラスター(Cap-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0024】
図7】リガンドGSH結合金クラスター(GSH-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0025】
図8】リガンドD-NIBC結合金クラスター(D-NIBC-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0026】
図9】リガンドL-システイン結合金クラスター(L-Cys-AuC)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0027】
図10】リガンド2-アミノエタンチオール結合金クラスター(CSH-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0028】
図11】リガンド3-メルカプトプロピオン酸結合金クラスター(MPA-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0029】
図12】リガンド4-メルカプト安息香酸結合金クラスター(p-MBA-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0030】
図13】それぞれの群のラットにおける(A)血糖代謝曲線および(B)血糖曲線下の面積(AUG)を示す。CON:陰性対照群;OLZ:オランザピンモデル対照群;OLZ+A1H:OLZ+A1高用量投与群;OLZ+A1L:OLZ+A1低用量投与群;OLZ+A2H:OLZ+A2高用量投与群;OLZ+A2L :OLZ+A2低用量投与群;OLZ+A3H:OLZ+A3高用量投与群;OLZ+A3L :OLZ+A3低用量投与群;OLZ+B:OLA+B高用量投与群;*:P<0.05;**:P<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、以下の本発明の特定の実施形態に対する詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0032】
本出願全体において、刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、本発明が適用する技術の現状をより十分に説明するために、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0033】
本明細書で使用されるように、「投与」とは、経口(「po」)投与、坐剤としての投与、局所的接触、静脈内(「iv」)、腹腔内(「ip」)、筋肉内(「im」)、内腔、鼻腔内または皮下(「sc」)投与、または対象への徐放デバイス(例えば、ミニ浸透圧ポンプまたは浸食性インプラント)の移植を投与することを意味する。投与は、非経口および経粘膜(例えば、経口、鼻、膣、直腸、または経皮)を含む任意の経路によるものである。非経口投与は、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、腹腔内、心室内、および頭蓋内を含む。送達の他の態様は、リポソーム製剤、静脈内注入、経皮パッチなどの使用を含むが、これらに限定されない。
【0034】
用語「全身投与」および「全身的に投与される」とは、化合物または組成物が、循環器システムを介して、医薬作用の標的部位を含む身体内の部位に送達されるように、前記化合物または組成物を哺乳動物に投与する方法を指す。全身投与は、経口、鼻腔内、直腸および非経口(すなわち、筋肉内、静脈内、動脈内、経皮および皮下などの消化管以外の投与)を含むが、これらに限定されず、ただし、全身投与は、髄腔内注射および頭蓋内投与などの循環器系以外の手段による脳領域への直接投与を含まない。
【0035】
本明細書で使用されるように、用語「治療する」および「治療」は、用語が適用される疾患または状態の発症を遅延させること、その過程を遅延させるまたは反転させること、またはそのような疾患または状態の1つまたは複数の症状を軽減または予防することを指す。例示的な指標は、本明細書における体重増加率である。患者に応じて、治療は、抗精神病薬を同じまたは類似の時間に亘って受けながら治療することない、同じまたは異なる患者に経験された体重増加または患者の集団の平均体重増加と比較して、5%、10%、15%、20%、25%またはそれ以上、例えば、体重増加を減少させることができる。いくつかの患者では、前記治療は、抗精神病誘発体重増加の逆転、すなわち体重減少をもたらすことができる。例えば、治療を受けるいくつかの患者は、例えば、5%、10%、15%、20%、25%、50%、75%、または100%の抗精神病性体重増加を失うことができ、例えば、治療を受けないままの抗精神病薬を投与する前に維持された重量に戻ることができる。
【0036】
用語「患者」、「対象」または「個体」とは、哺乳動物、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物を意味し、霊長類(例えば、マカク、パン・トログロダイト、ポンゴ)、家畜化された哺乳類(例えば、ネコ科、イヌ科)、農業哺乳類(例えば、ウシ科、ヒツジ科、ブタ科、ウマ科)、および実験室哺乳動物またはげっ歯類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット)を含む。
【0037】
用語「非定型抗精神病薬による副作用」とは、肥満の体重増加、脂質代謝障害、および糖代謝障害を特徴とする肥満を含む既知の副作用のいずれかを指す。用語「抗精神病薬誘発体重増加」とは、患者が非定型抗精神病薬の治療薬を受け取ることによって経験される体重増加の副作用を指す。非定型抗精神病薬は、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンを含む。
【0038】
オランザピンおよびクロザピンは、いずれも非選択的アセチルコリンムスカリン受容体(Ach-M)アンタゴニストとして特徴付けられる
【0039】
オランザピンの化学的名称は、2-メチル-4-(4-メチル-1-ピペラジニル)-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピンである。分子式は、C1720Sであり、312.44の分子量に相当する。オランザピンは、チエノベンゾジアゼピンとして分類される。化学構造は、以下の通りである。
【0040】
クロザピンの化学的名称は、8-クロロ-11-(4-メチル-1-ピペラジニル)-5H-ジベンゾ(b,e)(1,4)アゼピンである。分子式は、C1819ClN、326.8の分子量に相当する。化学構造は、以下の通りである。
【0041】
金クラスター(AuCs)は、金原子と金ナノ粒子の間に存在する特殊な形態の金である。AuCsは、サイズが3nm未満であり、数個から数百個の金原子で構成されているため、金ナノ粒子の面心立方積層構造が崩壊する。その結果、AuCsは、金ナノ粒子の連続又は準連続エネルギーレベルとは異なり、違うHOMO-LUMOギャップを持つ分子のような離散化した電子構造を示す。これにより、表面プラズモン共鳴効果と、従来の金ナノ粒子が持つuv-visスペクトルでの対応するプラズモン共鳴吸収帯(520±20nm)が消失する。
【0042】
本発明は、リガンド結合AuCを提供する。
【0043】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCは、リガンドと、金コアとを含み、前記リガンドが前記金コアに結合している。リガンドを金コアに結合させることは、リガンドが共有結合、水素結合、静電気力、疎水性力(hydrophobic force)、ファンデルワールス力等を介して金コアと溶液中で安定している複合体を形成することを意味する。特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmの範囲にある。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0044】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCの前記リガンドが、チオール含有化合物またはオリゴペプチドである。特定の実施形態では、前記リガンドが、Au-S結合を介して金コアに結合してリガンド結合AuCを形成する。
【0045】
特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、またはシステイン誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン誘導体が、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、またはN-アセチル-D-システイン(D-NAC)である。
【0046】
特定の実施形態では、前記リガンドが、システイン含有オリゴペプチドとその誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有ジペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、またはL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有トリペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、またはL-グルタチオン(GSH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有テトラペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)またはグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)である。
【0047】
特定の実施形態では、前記リガンドは、チオール含有化合物である。特定の実施形態では、チオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、または4-メルカプト安息香酸(p-MBA)である。
【0048】
本発明は、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンを含む非定型抗精神病薬による副作用を患う対象の治療のための医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、前記対象が、人である。特定の実施形態では、前記対象が、犬のようなペット動物である。
【0049】
特定の実施形態では、前記医薬組成物が、上文で開示されたリガンド結合AuCと、薬理学的に許容される賦形剤とを含む。特定の実施形態では、前記賦形剤が、リン酸緩衝液、または生理食塩水である。
【0050】
本発明は、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンを含む非定型抗精神病薬による副作用を患う対象の治療のための医薬の製造における上文で開示されたリガンド結合AuCsの使用を提供する。
【0051】
本発明は、オランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンを含む非定型抗精神病薬による副作用を患う対象の治療のための上文で開示されたリガンド結合AuCsの使用、または上文で開示されたリガンド結合AuCsを使用してオランザピン、クロザピン、リスペリドン、およびクエチアピンを含む非定型抗精神病薬による副作用を患う対象を治療する方法を提供する。特定の実施形態では、前記治療方法は、前記対象に薬学的に有効量のリガンド結合AuCsを投与することを含む。前記薬学的に有効な量は、通常の体内研究によって確認することができる。
【0052】
特定の実施形態では、前記非定型抗精神病薬と、前記リガンド結合AuCsとは、共投与されることができる。特定の実施形態では、前記非定型抗精神病薬と、前記リガンド結合AuCとは、同じ又は異なる経路により分別に投与されることができる。
【0053】
以下の実施例は、本発明の原理を説明することのみを目的として提供されている。それらは、決して本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0054】
実施例
【0055】
1. リガンド結合AuCsの製造
【0056】
1.1 HAuClをメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、又は酢酸エチルに溶解して、HAuCl濃度0.01~0.03Mの溶液Aが得られた。
【0057】
1.2 リガンドを溶媒に溶解して、リガンド濃度0.01~0.18Mの溶液Bが得られた。前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、及び、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、及びN-アセチル-D-システイン(D-NAC)等のその他のシステイン誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体(L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-システイン L(D)-ヒスチジン(CH)、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-グルタチオン(GSH)、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)及びグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)等の、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド及びその他のシステイン含有ペプチドを含むが、これらに限定されない)、及び1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)の一つ又は複数等のその他のチオール含有化合物を含むが、これらに限定されない。前記溶媒は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、酢酸ブチル、t-ブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール及び酢酸プロピルの一つ又は複数であった。
【0058】
1.3 HAuClとリガンドとのモル比が1:(0.01~100)となるように、溶液Aと溶液Bを混合して、氷浴において0.1~48時間撹拌し、0.025~0.8M NaBHの水、エタノール又はメタノール溶液を加えて、氷水浴において引き続き撹拌し、そして0.1~12時間反応させた。NaBHとリガンドとのモル比は、1:(0.01~100)であった。
【0059】
1.4 反応終了した後、MWCOが3K~30Kの限外ろ過チューブを使用して、8000~17500r/minの勾配で反応溶液を10~100分間遠心することにより、異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を得た。異なるMWCOの限外ろ過チューブのろ過メンブレンの開きは、直接的に、前記メンブレンを通過できるリガンド結合AuCsのサイズを決定した。当該ステップは、任意に省略されてもよい。
【0060】
1.5 ステップ(1.4)で得られた異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を水に溶解し、透析バッグに投入し、そして水において室温で1~7日間透析した。
【0061】
1.6 透析後、リガンド結合AuCsを12~24時間凍結乾燥して、粉末状又は凝集状物質であるリガンド結合AuCsを得た。
【0062】
測定からわかるように、前記方法により得られた粉末状又は凝集状物質の粒子サイズは、3nm未満であった(全体的に、0.5~2.6nmにわたって分布した)。520nmで明らかな吸収ピークがなかった。得られた粉末又は凝集体がリガンド結合AuCsであったことが特定された。
【0063】
2. 異なるリガンドが結合されたAuCsの製造及び同定
【0064】
2.1 L-NIBC結合AuCs、即ち、L-NIBC-AuCsの製造
【0065】
リガンドであるL-NIBCを例とし、L-NIBCが結合したAuCsの製造及び確認について以下で詳細に説明する。
【0066】
2.1.1 1.00gのHAuClを量り、そして100mLのメタノールに溶解して、0.03Mの溶液Aを得た。
【0067】
2.1.2 0.57gのL-NIBCを量り、そして100mLの氷酢酸(酢酸)に溶解して、0.03Mの溶液Bを得た。
【0068】
2.1.3 1mLの溶液Aを量り、0.5mL、1mL、2mL、3mL、4mL、又は5mLの溶液Bとそれぞれ混合し(すなわち、HAuClとL-NIBCとのモル比が、それぞれ、1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5であった。)、氷浴において撹拌しながら2時間反応させ、溶液が明るい黄色から無色になると、速やかに1mLの新たに製造された0.03M(11.3mgのNaBHを量り、そして10mLのエタノールに溶解することにより製造された。)のNaBHエタノール溶液を加えて、溶液が濃褐色になった後、引き続き30分間反応し、そして10mLのアセトンを加えて反応を停止した。
【0069】
2.1.4 反応後、反応溶液に対して勾配遠心に供して、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs粉末を得た。具体的な方法は以下のとおりである。即ち、反応完了後、反応溶液を30KのMWCO及び50mLの体積を有する限外ろ過チューブに転移し、そして10000r/minで20分間を遠心し、そして内チューブ中の保持液(retentate)を超純水に溶解して、約2.6nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び10KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、そして13,000r/minで30分間を遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.8nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び3KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、そして17,500r/minで40分間を遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.1nmの粒子サイズを有する粉末を得た。
【0070】
2.1.5 勾配遠心により得られた3つの異なる粒子サイズでの粉末を沈殿させ、それぞれ溶媒を除去し、粗生成物をNでブロー乾燥させ、5mLの超純水に溶解し、透析バッグ(MWCOが3KDa)に置き、透析バッグを2Lの超純水に置き、一日おきに水を交換し、7日間透析し、凍結乾燥し、そして将来の使用のために保持した。
【0071】
2.2 L-NIBC-AuCsの同定
【0072】
上記で得られた粉末(L-NIBC-AuC)に対して同定実験は行われた。同時に、リガンドであるL-NIBCにより修飾した金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)は、対照として使用された。前記リガンドがL-NIBCである金ナノ粒子の製造方法は、参考文献(W.Yan、L.Xu、C.Xu、W.Ma、H.Kuang、L.Wang及びN.A.Kotov、Journal of American Chemical Society 2012、134、15114;X.Yuan、B.Zhang、Z.Luo、Q.Yao、D.T.Leong、N.Yan及びJ.Xie、Angewandte Chemie International Edition 2014、53、4623)に参照する。
【0073】
2.2.1 透過型電子顕微鏡(TEM)によるモーフォロジーの観察
【0074】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に2mg/Lになるまで溶解してサンプルとし、そして懸滴法により試験サンプルを製造した。より具体的に、5μLのサンプルを超薄型カーボンフィルムに滴下し、水滴がなくなるまで自然蒸発させ、そしてJEM-2100F STEM/EDS電界放出形高分解能TEMによりサンプルのモーフォロジーを観察した。
【0075】
L-NIBC-AuNPs の4つのTEM画像は、図1のパネルB、E、H、及びKに示され、L-NIBC-AuCsの3つのTEM画像は、図2のパネルB、E、及びHに示される。
【0076】
図2中の画像で示されるように、各々のL-NIBC-AuCsサンプルは、均一な粒子サイズ及び良好な分散性を有し、かつ、L-NIBC-AuCsの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ1.1nm、1.8nm及び2.6nmであり、図2のパネルC、F及びI中の結果とよく一致した。これに対して、L-NIBC-AuNPsサンプルは、より大きい粒子サイズを有した。これらの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ3.6nm、6.0nm、10.1nm及び18.2nmであり、図1のパネルC、F、I及びL中の結果とよく一致した。
【0077】
2.2.2 紫外線(UV)-可視光(vis)吸収スペクトル
【0078】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に濃度が10mg・L-1になるまで溶解し、室温でUV-vis吸収スペクトルが測定された。走査範囲が190~1100nmであり、サンプルセルが光路長1cmの標準石英キュベットであり、参照セルが超純水により充填された。
【0079】
異なるサイズを有する4つのL-NIBC-AuNPsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図1のパネルA、D、G及びJに示され、及び粒子サイズの統計学的分布は、図1のパネルC、F、I及びLに示され、異なるサイズを有する3つのL-NIBC-AuCsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図2のパネルA、D及びGに示され、及び粒子サイズの統計学的分布は、図2のパネルC、F及びIに示される。
【0080】
図1で示されるように、表面プラズモン作用により、L-NIBC-AuNPsは、約520nmで吸収ピークを有した。吸収ピークの位置は、粒子サイズに関連した。粒子サイズが3.6nmである場合、UV吸収ピークが516nmで現れ、粒子サイズが6.0nmである場合、UV吸収ピークが517nmで現れ、粒子サイズが10.1nmである場合、UV吸収ピークが520nmで現れ、及び粒子サイズが18.2nmである場合、吸収ピークが523nmで現れた。4つのサンプルは、いずれも560nm以上で吸収ピークを有しなかった。
【0081】
図2で示されるように、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsサンプルのUV吸収スペクトルでは、520nmでの表面プラズモン作用による吸収ピークがなくなり、560nm以上で2つの明らかな吸収ピークが現れ、吸収ピークの位置がAuCsの粒子径により僅かな相違があった。これは、AuCsが面心立方構造の崩壊により分子のような特性を示し、AuCsの状態密度の不連続性、エネルギー準位の分裂、プラズモン共鳴効果の消失、及び長波方向の新しい吸収ピークに繋がったためである。上記で得られた異なる粒子サイズでの3つの粉末サンプルは、いずれもリガンド結合AuCsであったと結論付けることができる。
【0082】
2.2.3 フーリエ変換赤外線分光法
【0083】
赤外線スペクトルは、Bruker製のVERTEX80Vフーリエ変換赤外線分光計で固体粉末高真空全反射モードで測定された。走査範囲は、4000~400 cm-1であり、走査数が64であった。L-NIBC-AuCsサンプルを例とし、試験サンプルは、異なる3つの粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs乾燥粉末であり、対照サンプルは、純粋なL-NIBC粉末であった。結果は、図3に示した。
【0084】
図3は、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。純粋なL-NIBC(下部の曲線)と比較すると、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsのSH伸縮振動は、全て、2500~2600cm-1で完全に消失したが、L-NIBCの他の特徴的なピークは、依然として残っていて、L-NIBC分子がAu-S結合を介してAuCsの表面に成功に固定されていたことが証明された。この図は、リガンド結合AuCsの赤外スペクトルがそのサイズとは無関係であることも示した。
【0085】
溶液Bの溶媒、HAuClとリガンドとの仕込み比、反応時間及び添加されたNaBHの量をわずかに調整した以外、上記方法と同様な方法で、その他のリガンドが結合したAuCsを製造した。例えば、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)又はN-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)がリガンドとして使用された場合、溶媒として酢酸が選択され、ジペプチドCR、ジペプチドRC又は1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンがリガンドとして使用された場合、溶媒として水が選択されることなど、その他のステップについても同じようにするため、更なる詳細はここで省略する。
【0086】
本発明は、前述の方法により、一連のリガンド結合AuCsを製造した。リガンドと製造プロセスのパラメーターを表1に示す。
【0087】
表1.本発明において異なるリガンドが結合したAuCsの製造パラメーター
【0088】
表1に挙げられたサンプルは、前記方法により確認された。9つの異なるリガンド結合AuCsの特性を図4(CR-AuCs)、図5(RC-AuCs)、図6(Cap-AuCs)(Capは1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンである)、図7(GSH-AuCs)、図8(D-NIBC-AuCs)、図9(L-Cys-AuCs)、図10(CSH-AuCs)、図11(MPA-AuCs)、および図12(p-MBA-AuCs)に示す。図4図12は、UVスペクトル(パネルA)、赤外線スペクトル(パネルB)、TEM画像(パネルC)、及び粒子サイズ分布(パネルD)を示す。
【0089】
その結果、表1から得られた異なるリガンドが結合したAuCsの直径は、いずれも、3nm未満であることを示した。紫外線スペクトルは、520±20nmでのピークの消失、及び他の位置での吸収ピークの出現も示した。この吸収ピークの位置は、リガンド、粒子サイズ、及び構造によって異なった。特定の状況で、特殊な吸収ピークが形成されないが、主な原因は、粒子径や構造の異なるAuCsの混合物が形成されたこと、または、ある特殊なAuCsにより吸収ピークの位置が紫外線可視スペクトルの範囲外に移動されたことである。一方、フーリエ変換赤外スペクトルでは、リガンドのチオールの赤外線吸収ピーク(図4~8のパネルBの点線の間)が消失したが、他の赤外特性ピークはいずれも保持されていることから、全てのリガンド分子がAuCsの表面に成功に固定されており、本発明は、表1に記載されたリガンドの結合したAuCsを取得することに成功したことを示した。
【0090】
3. 動物試験
【0091】
3.1 試験サンプル
【0092】
A1:リガンドL-NIBC結合金クラスター(L-NIBC-AuCs)、サイズ分布が0.5~3nmにある。
【0093】
A2:リガンドN-アセチル-L-システイン結合金クラスター(L-NAC-AuCs)、サイズ分布が 0.5~3nmにある。
【0094】
A3:リガンドL-システイン結合金クラスター(L-Cys-AuCs)、サイズ分布が 0.5~3nmにある。
【0095】
A4:リガンド2-アミノエタンチオール結合金クラスター(CSH-AuCs)、サイズ分布が 0.5~3nmにある。
【0096】
A5:リガンド3-メルカプトプロピオン酸結合金クラスター(MPA-AuCs)、サイズ分布が 0.5~3nmにある。
【0097】
A6:リガンド4-メルカプト安息香酸結合金クラスター(p-MBA-AuCs)、サイズ分布が0.5~3nmにある。
【0098】
B:L-NIBC結合金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)、サイズ分布が5~9nmにある。
【0099】
全ての試験サンプルは、上記の方法に従って調製されたがわずかな変更を加えた。それらの品質は上記の方法を使用して特徴づけられた。
【0100】
3.2 オランザピン誘発副作用モデルの確立と、オランザピン誘発体重増加に対する異なるリガンド結合AuCsの抑制効果と用量効果の検討
【0101】
144匹のSPFメスSprague Dawleyラット(8~10週齢)を、SiPeifu(Beijing) Biotechnology Co.,Ltd.の実験動物センターから購入した。全てのラットは隔離環境で飼育し、温度は22±2℃に制御し、昼夜の間隔は12時間とし、7:00~19:00を昼、19:00~7:00を夜とした。適応給餌の1週間後、ラットを無作為に12の群に分けた(n=12/群、ラットの各群の平均体重と食物摂取量がほぼ同じであることを確認した。):陰性対照群(CON、群1)、オランザピンモデル対照群(OLZ、群2)、オランザピン+A1高用量群(OLZ+A1H、群3)、オランザピン+A1低用量群(OLZ+A1L、群4)、オランザピン+A2高用量群(OLZ+A2H、群5)、オランザピン+A2低用量群(OLZ+A2L、群6)、オランザピン+A3高用量群(OLZ+A3H、群7),オランザピン+A3低用量群(OLZ+A3L、群8)、オランザピン+A4高用量群(OLZ+A4H、群9)、オランザピン+A5高用量群(OLZ+A5H、群10)、オランザピン+A6高用量群(OLZ+A6H、群11)、およびオランザピン+B高用量群(OLZ+B、群12)。群2-12のラットに経口でオランザピン(1mg/kg、tid(一日三回)、投与時点:7:00、15:00、および23:00)を投与し、陰性対照群(群1)に等量のプラセボを対照として投与し、ここで0.3gの餌(24.3%カゼイン、34.3%コーンスターチ、34.36%スクロース、および6.98%ゼラチンと混合したもの)で作られたペレットでオランザピンをラットに経口投与した。プラセボは、同量のオランザピンを含まない食品ピルであった。オランザピン(またはプラセボ)投与の初日から、オランザピン+薬物高用量群に薬物A1、A2、A3、A4、A5、A6またはB(20mg/kg、1日1回)を腹腔内注射し、オランザピン+薬物低用量群には、薬物A1、A2またはA3(10mg/kg、1日1回)を腹腔内注射した。陰性対照群およびオランザピンモデル対照群には対照として同量の生理食塩水を腹腔内注射した。同じ投与方法を21日間連続して行った。動物の摂食を24時間ごとに測定し、動物の体重を48時間ごとに測定して、オランザピン誘発体重増加に対するさまざまな用量のAuCsの抑制効果を観察した。
【0102】
3.3 耐糖能試験
【0103】
投与21日目に、すべてのラットを16時間絶食させた。血液サンプルはラットの尾静脈から採取し、ラットの空腹時血糖値(0h)を血糖測定器(Johnson & Johnson One Touch Ultra、Johnson & Johnson(China) Medical Equipment Co., Ltd)で、対応する用量のブドウ糖溶液を腹腔内に注射し(1g/kg)、血糖値をブドウ糖溶液の投与後30分、60分、90分、および120分で測定し、各マウスの曲線下の曲線(AUC)を計算した。
【0104】
3.4 ラットの安楽死と組織採取
【0105】
最後の投与後、ラットを7%水和クロラールで麻酔した。心臓から血液サンプルを採取した後、肝臓、腸間膜、腎周囲、および卵巣周囲組織を採取し、重量を測定し、-80℃で保存した。
【0106】
3.5 データの統計と分析
【0107】
SPSS 22.0統計ソフトウェアを使用して、すべてのデータに対して統計分析を実行した。すべてのデータは平均±SEMとして表され、統計的差異はP<0.05として定義される。
【0108】
3.6 実験結果
【0109】
3.6.1 金クラスター薬物の投与により、オランザピンによるラットの体重増加と摂餌量が有意に減少された。
【0110】
表2は、陰性対照群、オランザピンモデル対照群、3つのAuCs(A1、A2、およびA3)の高用量および低用量群、ならびにAuNP高用量群におけるラットの体重変化を示す。表2に示すように、ラットのすべての群の初期体重(IBW)はほぼ同じであった(245.48g~247.86g)。薬物投与の21日後、オランザピンモデル対照群の最終体重(FBW)は、陰性対照群のそれよりも有意に高く(P<0.01)、モデルが正常に確立されたことを示す。オランザピンモデル対照群と比較して、高用量の金クラスター薬物群(OLZ+A1H、OLZ+A2H、およびOLZ+A3H)は有意に低く(両方ともP<0.05)、低用量の金クラスター薬物群(OLZ+A1L、OLZ+A2L、およびOLZ+A3L)の重量は明らかに低かった。同時に、陰性対照群と比較して、オランザピンモデル対照群の最終体重増加(BWG、すなわち最終体重と初期体重の差)は非常に有意に増加した(P<0.01)。オランザピンモデル対照群と比較して、高用量の金クラスター薬物群(OLZ+A1H、OLZ+A2HおよびOLZ+A3H)の最終体重増加(BGW)は、非常に有意に減少した(両方ともP<0.01)。低用量の金クラスター薬物群(OLZ+A1L、OLZ+A2L、およびOLZ+A3L)の最終体重増加(BGW)も有意に減少した(両方ともP<0.05)。他の3つの高用量の金クラスター薬物群(OLZ+A4H、OLZ+A5H、およびOLZ+A6H)も同様の結果を示した。ただし、オランザピンモデル対照群と比較して、高用量金ナノ粒子薬物群(OLZ+B)の最終体重(FBW)と最終体重増加(BGW)は有意に減少しなかった(P>0.05)。
【0111】
表2:オランザピンによるラットの体重増加に対するさまざまな薬物投与の影響
【0112】
表2では、IBW:初期体重;FBW:最終体重;BWG:体重増加;CON:陰性対照群;OLZ:オランザピンモデル対照群;OLZ+A1H:OLZ+A1高用量投与群;OLZ+A1L:OLZ+A1低用量投与群;OLZ+A2H:OLZ+A2高用量投与群;OLZ+A2L:OLZ+A2低用量投与群;OLZ+A3H:OLZ+A3高用量投与群;OLZ+A3L:OLZ+A3低用量投与群;OLZ+B:OLZ+B高用量投与群;*:P<0.05、OLZ対CON;**:P<0.01、OLZ対CON;#:P<0.05、各投与群対OLZ;##:P<0.01、各投与群対OLZを意味する。
【0113】
3.6.2 金クラスター薬物の投与により、オランザピンによる腸間膜脂肪の増加が有意に減少した。
【0114】
オランザピン誘発体重増加は、脂肪肝につながる可能性がある。表3は、陰性対照群、オランザピンモデル対照群、3つのAuCs(A1、A2、およびA3)の高用量および低用量群、ならびにAuNP高用量群におけるラットの肝臓重量および腸間膜脂肪の変化を示す。表3に示すように、陰性対照群と比較して、オランザピンモデル対照群では肝臓重量が増加したが、有意差はなかった(P>0.05)。オランザピンモデル対照群と比較して、3つの異なる用量群の金クラスター薬は肝臓の重量を減らすことができ、A1の低用量群とA3の高用量群は有意差を示した(P<0.05)。末梢脂肪の中で、陰性対照群と比較して、オランザピンモデル対照群は腸脂肪の蓄積を有意に増加させた(P<0.05)。オランザピンモデル対照群と比較して、A1、A2、およびA3の高用量と低用量の両方で、オランザピンによって誘発される腸周囲脂肪の増加が用量依存的に減少した(最大の減量率は32%と高かった)。他の3つの高用量の金クラスター薬物群(OLZ+A4H、OLZ+A5H、およびOLZ+A6H)も同様の結果を示した。まとめると、金クラスター薬物は、明らかにオランザピンによる脂肪の増加を減少させることができ、一定の用量依存性を示す。しかし、金ナノ粒子の高用量群は有意な変化を示さず、金ナノ粒子が無効であることを示す。
【0115】
表3:ラット肝臓および腸周囲脂肪重量に対する薬物の効果
【0116】
表3では、CON:陰性対照群;OLZ:オランザピンモデル対照群;OLZ+A1H:OLZ+A1高用量投与群;OLZ+A1L:OLZ+A1低用量投与群;OLZ+A2H:OLZ+A2高用量投与群;OLZ+A2L :OLZ+A2低用量投与群;OLZ+A3H:OLZ+A3高用量投与群;OLZ+A3L :OLZ+A3低用量投与群;OLZ+B:OLZ+B高用量投与群;*:P<0.05、OLZ対CON;#:P<0.05、各投与群対OLZ;♯♯:P<0.01 、各投与群対OLZを意味する。
【0117】
3.6.3 金クラスター薬物の投与により、オランザピンによる血糖上昇が有意に抑制された。
【0118】
臨床的に、オランザピンの投与は血糖値の上昇および糖尿病を引き起こす可能性がある。図13は、陰性対照群、オランザピンモデル対照群、3つのAuCs(A1、A2、およびA3)の高用量および低用量群、ならびにAuNP高用量群におけるラットの血糖代謝曲線および血糖曲線下の面積(AUG)を示す。
【0119】
この研究では、オランザピンモデルの対照群と様々な投与群が空腹時血糖に有意な影響を与えないことがわかった(P>0.05)。しかし、陰性対照群と比較して、ブドウ糖注射後、オランザピンモデル対照群ラットの血糖値は、腹腔内ブドウ糖注射後30分(P<0.01)および120分(P<0.05)で有意に増加し、7.54±0.26mmol/Lおよび6.11±0.12mmol/Lから、それぞれ9.16±0.48mmol/Lおよび6.79±0.32mmol/Lに増加した(図13A)。血糖曲線下面積(AUG)は、766.83±15.05mmol/minから845.07±37.88mmol/minに有意に増加した(P<0.05、図13B)。上記の結果は、動物の糖代謝障害に対するオランザピン投与の有意な効果を示す。
【0120】
オランザピンモデル対照群と比較して、3つの金クラスター薬物(A1、A2、およびA3)の群の血糖値は、特に高用量群で大幅に低下した。3つのラットの血糖値高用量群は、ブドウ糖注射後30分(両方P<0.01)、60分(両方P<0.01)、120分(両方P<0.01)で有意に減少し、血糖値は陰性対照群のそれに近かった(図13A)。A1を例にとると、これら3つの時点での血糖値は、オランザピンモデル対照群の9.16±0.48mmol/L、6.79±0.32mmol/L、および6.30±0.33mmol/Lから、それぞれ7.7±0.15、mmol/L、5.74±0.18mmol/Lおよび5.53±0.14mmol/Lに減少した(図13A)。さらに、3つの高用量金クラスター薬剤の血糖曲線下面積(AUG)もまた、オランザピンモデル対照群のものより有意に低かった(両方ともP<0.01、図13B)。A1(OLZ+A1H)を例にとると、AUG値はオランザピンモデル対照群(OLZ)の845.07±37.88mmol/minから743.50±13.04mmol/minに減少した。3つのラットの血糖値低用量の金クラスター薬物も異なる時点で明らかに減少したが、どちらも30分でのみ有意差を示した(P<0.05)。他の3つの高用量の金クラスター薬物群(OLZ+A4H、OLZ+A5H、およびOLZ+A6H)も同様の結果を示した。これは、金クラスター薬物は、オランザピンによる血糖代謝障害を用量依存的に改善することができることを示す。
【0121】
しかしながら、金ナノ粒子(B)の投与は、血糖濃度(図13A)または血糖曲線下面積(AUG)(図13B)を異なる期間で有意に減少させなかった。したがって、オランザピンによる血糖代謝障害に対する改善効果はなかった。
【0122】
まとめると、金クラスターの長期投与は、オランザピンによって引き起こされる体重増加と脂肪の増加を大幅に減少させ、オランザピンによって引き起こされる脂質と糖の代謝障害を大幅に改善することができ、第2世代の抗精神病薬による副作用を軽減するための医薬として金クラスターの次の研究開発の基礎を提供する。しかし、金ナノ粒子にはそのような効果はなく、オランザピンによる肥満の治療薬として使用することはできない。
【0123】
その他のサイズのL-Cys-AuCs,L-NAC-AuCs、L-NIBC-AuCs、CSH-AuCs、MPA-AuCs、およびp-MBA-AuCs、および異なるサイズの他のリガンド結合AuCsも、EAEの抑制に影響を及ぼし、その影響はある程度異なります。ここでは詳しく説明しない。
【0124】
本発明を特定の実施形態を参照して説明してきたが、これらの実施形態は例示的なものであり、発明の範囲はそのように限定されないことが理解される。本発明の代替実施形態は、本発明が関係する当業者には明らかとなる。そのような代替実施形態は、本発明の範囲内に包含されると考えられる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、前述の説明によってサポートされる。

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