(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0258 20160101AFI20241128BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/023 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/0245 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241128BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/0228
H01M8/023
H01M8/0245
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022579315
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004686
(87)【国際公開番号】W WO2022168333
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390032528
【氏名又は名称】株式会社エノモト
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷内 浩
(72)【発明者】
【氏名】那須 三紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政廣
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-016942(JP,A)
【文献】特開2008-047299(JP,A)
【文献】特開2002-100372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの透過及び拡散が可能で、かつ、導電性を有するシート状の多孔質体層と、
前記多孔質体層の一方の面において前記ガスの流入側から流出側に向かって形成された複数のガス流路用溝とを有するガス拡散層であって、
前記複数のガス流路用溝は、前記ガスの流入側に形成された複数のガス流入側溝と、前記ガスの流出側に形成された複数のガス流出側溝とを含み、
前記複数のガス流入側溝は、異なる長さを有する2種以上のガス流入側溝を含
み、
前記複数のガス流入側溝のうち最も短い長さを有するガス流入側溝は、前記多孔質体層の前記ガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有し、前記複数のガス流入側溝のうち最も長い長さを有するガス流入側溝は、前記多孔質体層の前記ガスの流入側から流出側に沿った長さの40%以上の長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項2】
請求項1に記載のガス拡散層において、
隣接する4つの前記ガス流入側溝のうち少なくとも1つの前記ガス流入側溝は、他の前記ガス流入側溝とは異なる長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項3】
請求項2に記載のガス拡散層において、
隣接する2つの前記ガス流入側溝は、異なる長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載のガス拡散層において、
前記複数のガス流出側溝は、異なる長さを有する2種以上のガス流出側溝を含むことを特徴とするガス拡散層。
【請求項5】
請求項
4に記載のガス拡散層において、
隣接する4つの前記ガス流出側溝のうち少なくとも1つの前記ガス流出側溝は、他の前記ガス流出側溝とは異なる長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項6】
請求項
5に記載のガス拡散層において、
隣接する2つの前記ガス流出側溝は、異なる長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載のガス拡散層において、
前記複数のガス流入側溝のうち最も短い長さを有するガス流入側溝は、前記多孔質体層の前記ガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有し、前記複数のガス流出側溝のうち最も長い長さを有するガス流出側溝は、前記多孔質体層の前記ガスの流入側から流出側に沿った長さの30%以上の長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載のガス拡散層において、
前記複数のガス流路用溝は、前記複数のガス流入側溝及び前記複数のガス流出側溝に加えて、前記ガス流入側溝と前記ガス流出側溝との間に形成された複数の中継用溝を含むことを特徴とするガス拡散層。
【請求項9】
請求項
8に記載のガス拡散層において、
前記複数の中継用溝は、前記ガスの流入側から流出側に向かう方向とは垂直な方向に沿って連通していることを特徴とするガス拡散層。
【請求項10】
請求項
8に記載のガス拡散層において、
前記複数の中継用溝として
、隣接する2本の
前記中継用溝が連通するように形成された中継用溝のペアが前記ガスの流入側から流出側に向かう方向とは垂直な方向に沿って形成されている複数の中継用溝を含むことを特徴とするガス拡散層。
【請求項11】
請求項
8~
10のいずれかに記載のガス拡散層において、
前記複数のガス流入側溝、前記複数のガス流出側溝及び前記複数の中継用溝は、互いに入り込むように形成されていることを特徴とするガス拡散層。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載のガス拡散層において、
前記複数のガス流路用溝の全部又は一部は、「1本の溝から2本の溝への分岐箇所」又は「2本の溝から1本の溝への合流箇所」を有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれかに記載のガス拡散層において、
前記ガス拡散層を平面視したとき、前記多孔質体層全体の面積に対する前記ガス流路用溝形成領域の面積の割合は、30%~80%の範囲内にあることを特徴とするガス拡散層。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれかに記載のガス拡散層において、
燃料電池用ガス供給拡散層であることを特徴とするガス拡散層。
【請求項15】
請求項
14に記載のガス拡散層において、
カソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層であることを特徴とするガス拡散層。
【請求項16】
ガスの透過及び拡散が可能で、かつ、導電性を有するシート状の多孔質体層と、
前記多孔質体層の一方の面において前記ガスの流入側から流出側に向かって形成された複数のガス流路用溝とを有するガス拡散層であって、
前記複数のガス流路用溝は、前記ガスの流入側に形成された複数のガス流入側溝と、前記ガスの流出側に形成された複数のガス流出側溝とを含み、
前記複数のガス流入側溝は、異なる長さを有する2種以上のガス流入側溝を含み、
前記複数のガス流入側溝のうち最も短い長さを有するガス流入側溝は、前記多孔質体層の前記ガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有し、前記複数のガス流出側溝のうち最も長い長さを有するガス流出側溝は、前記多孔質体層の前記ガスの流入側から流出側に沿った長さの30%以上の長さを有することを特徴とするガス拡散層。
【請求項17】
ガス遮蔽板と、
前記ガス遮蔽板の少なくとも一方の面に配設されたガス拡散層とを備えるセパレータであって、
前記ガス拡散層は、請求項1~16のいずれかに記載のガス拡散層であり、前記複数のガス流路用溝が前記ガス遮蔽板側に位置するように前記ガス遮蔽板に対して配置されており、
前記ガス流路用溝と前記ガス遮蔽板とでガス流路が構成されていることを特徴とするセパレータ。
【請求項18】
セパレータと、膜電極接合体とが積層されてなる電気化学反応装置であって、
前記セパレータは、請求項17に記載のセパレータであり、
前記セパレータと前記膜電極接合体とは、前記ガス拡散層の前記複数のガス流路用溝が形成されていない側の面に前記膜電極接合体が位置する位置関係で積層されていることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項19】
請求項18に記載の電気化学反応装置において、
燃料電池セルスタックであることを特徴とする電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の技術分野において、燃料電池用ガス(アノードガス、カソードガス)を均一に供給及び拡散させることが可能な燃料電池セルスタックが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
図32は、従来の燃料電池セルスタック920を模式的に示す正面図である。
図33及び
図34は、従来の燃料電池セルスタック920におけるタイプCAのセパレータ921の平面図である。このうち
図33は燃料電池用ガス供給拡散層(カソードガス供給拡散層)942側から見た平面図であり、
図34は燃料電池用ガス供給拡散層(アノードガス供給拡散層)941側から見た平面図である。
図35は、
図33のA-A線に沿った断面図である。
【0003】
従来の燃料電池セルスタック920は、
図32~
図35に示すように、金属板30の少なくとも一方の面に多孔質体層による燃料電池用ガス供給拡散層が設けられた構造の複数のセパレータ(タイプCAのセパレータ921、タイプAのセパレータ922、タイプCのセパレータ923、タイプAWのセパレータ924)が積層された構造を有する。なお、タイプCAのセパレータ921、タイプAのセパレータ922及びタイプAWのセパレータ924の「A」は燃料電池用ガス供給拡散層(アノードガス供給拡散層)941を表し、タイプCAのセパレータ921及びタイプCのセパレータ923の「C」は燃料電池用ガス供給拡散層(カソードガス供給拡散層)942を表し、タイプAWのセパレータ924の「W」は冷却水供給拡散層を表す。従来の燃料電池セルスタック920によれば、セパレータそのものに多孔質体層からなる燃料電池用ガス供給拡散層941,942が形成されていることから、燃料電池用ガスを燃料電池用ガス供給拡散層の全面にわたって均一に拡散できる。その結果、燃料電池用ガスを膜電極接合体(MEA)81の全面にわたって均一に供給でき、燃料電池の発電効率を従来よりも高くできる。
【0004】
なお、電気化学の分野においては、ガスの化学反応を用いる発電と電気分解とは表裏一体の関係にある。上記したような燃料電池用ガス供給拡散層、セパレータ及び燃料電池セルスタックは、ほぼそのままの構成で、ガスの代わりに水を用いれば電気分解(カソードガス及びアノードガスの生成)に転用することも可能であると考えられる。さらに、上記したような燃料電池用ガス供給拡散層、セパレータ及び燃料電池セルスタックは、ほぼそのままの構成で、ガスの代わりにガスと同様の流体である液体を用いるメタノール燃料電池(メタノール水溶液アノード、空気カソード)、リチウムイオン/空気電池(空気カソード)及びレドックスフロー電池(バナジウムイオン水溶液供給のアノード/カソード)に転用することも可能であると考えられる。このため、本明細書においては、「燃料電池用ガス供給拡散層」を含む表現(燃料電池用と電気分解用とを問わない表現)として「ガス拡散層」を用い、「燃料電池セルスタック」を含む表現として「電気化学反応装置」を用いる。なお、「ガス拡散層」は「ガスの拡散を主目的とする層」という程度の意味であり、層内部においてガス以外のもの(特に、水等の液体)を拡散させ又は流通させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電気化学の技術分野においては、従来よりも反応効率(燃料電池であれば発電効率)を高くできる技術が求められている。そこで、本発明は、従来よりも反応効率を高くできるガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によるガス拡散層は、ガスの透過及び拡散が可能で、かつ、導電性を有するシート状の多孔質体層と、前記多孔質体層の一方の面においてそれぞれが前記ガスの流入側から流出側に向かって形成された複数のガス流路用溝とを有するガス拡散層であって、前記複数のガス流路用溝は、前記ガスの流入側に形成された複数のガス流入側溝と、前記ガスの流出側に形成された複数のガス流出側溝とを含み、前記複数のガス流入側溝は、異なる長さを有する2種以上のガス流入側溝を含むガス拡散層である。
【0008】
本発明の一実施形態によるセパレータは、ガス遮蔽板と、前記ガス遮蔽板の少なくとも一方の面に配設されたガス拡散層とを備えるセパレータであって、前記ガス拡散層は、本発明のガス拡散層であり、前記複数のガス流路用溝が前記ガス遮蔽板側に位置するように前記ガス遮蔽板に対して配置されており、前記ガス流路用溝と前記ガス遮蔽板とでガス流路が構成されているセパレータである。
【0009】
本発明の一実施形態による電気化学反応装置は、セパレータと、膜電極接合体とが積層されてなる電気化学反応装置であって、前記セパレータは、本発明のセパレータであり、前記セパレータと前記膜電極接合体とは、前記ガス拡散層の前記複数のガス流路用溝が形成されていない側の面に前記膜電極接合体が位置する位置関係で積層されている電気化学反応装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも反応効率を高くすることが可能なガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係る燃料電池セルスタック20を模式的に示す正面図である。
【
図2】実施形態1に係る燃料電池セルスタック20を模式的に示す側面図である。
【
図3】膜電極接合体(MEA)81を説明するために示す図である。
【
図4】実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aの平面図である。
【
図5】実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aの断面図である。
【
図6】実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおけるガス流入側溝53a,53b及びガス流出側溝54a,54bを説明するために示す図である。
【
図7】実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおける中継用溝55a~55d及び連通溝56a,56bを説明するために示す図である。
【
図8】実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23A以外のセパレータ(燃料電池用セパレータ21,22,24,25)の断面図である。
【
図9】実施形態2に係る燃料電池用セパレータ23Bの平面図である。
【
図10】実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Bにおけるガス流入側溝53c~53f及びガス流出側溝54c~54fを説明するために示す図である。
【
図11】実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Bにおける中継用溝55e及び連通溝56cを説明するために示す図である。
【
図12】実施形態3に係る燃料電池用セパレータ23Cの平面図である。
【
図13】実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cにおけるガス流入側溝53g~53j及びガス流出側溝54g~54jを説明するために示す図である。
【
図14】実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cにおける中継用溝55d~55j及び連通溝56d,56eを説明するために示す図である。
【
図15】実施形態4に係る燃料電池用セパレータ23Dの平面図である。
【
図16】実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dにおけるガス流入側溝53k~53n及びガス流出側溝54k,54lを説明するために示す図である。
【
図17】実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dにおける中継用溝55k~55pを説明するために示す図である。
【
図18】実施形態5に係る燃料電池用セパレータ23Eの平面図である。
【
図19】実施形態6に係る燃料電池用セパレータ23Fの平面図である。
【
図20】実施形態7に係る燃料電池用セパレータ23Gの平面図である。
【
図21】実施形態8に係る燃料電池用セパレータ23Hの平面図である。
【
図22】比較例における燃料電池用セパレータ23Iの平面図である。
【
図23】試験例で用いたアノードガス用の燃料電池用セパレータ22Aの平面図である。
【
図24】試験例3において電流密度分布を計測するときにおける領域の区分を説明するために示す図である。
【
図25】試験例1の結果(ガス流路用溝のパターンと発電特性との関係)を示すグラフである。
【
図26】試験例2の結果(ガス流路用溝のパターンと燃料電池用ガス供給拡散層における圧力損失との関係)を示すグラフである。
【
図27】試験例3の結果(ガス流路用溝のパターンと燃料電池用ガス供給拡散層における電流密度分布との関係)を示すグラフである。
【
図28】変形例1に係る燃料電池用セパレータ23Jの平面図である。
【
図29】変形例2に係る燃料電池用セパレータ23Kの平面図である。
【
図30】変形例3に係る燃料電池用セパレータ23Lの平面図である。
【
図31】変形例4に係る燃料電池用セパレータ23Mの平面図である。
【
図32】従来の燃料電池セルスタック920を模式的に示す正面図である。
【
図33】従来の燃料電池セルスタック920におけるタイプCAの燃料電池用セパレータ921の平面図である。
【
図34】従来の燃料電池セルスタック920におけるタイプCAの燃料電池用セパレータ921の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置を図に示す実施形態を用いて詳細に説明する。
【0013】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る燃料電池セルスタック20(電気化学反応装置)を模式的に示す正面図である。
図2は、実施形態1に係る燃料電池セルスタック20を模式的に示す側面図である。
【0014】
実施形態1に係る燃料電池セルスタック20(電気化学反応装置)は、燃料電池用セパレータ21,22,23A,24(セパレータ)と、膜電極接合体81とが積層されてなる燃料電池セルスタックである。さらに言えば、燃料電池セルスタック20は、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)である。燃料電池セルスタック20は、複数の単セルを有する。燃料電池セルスタック20の各セルは、膜電極接合体81と、膜電極接合体81を挟んでカソード側を構成する要素とアノード側を構成する要素とを有する。
【0015】
燃料電池用セパレータ21は、金属板30(ガス遮蔽板)の一方の面にカソードガス供給拡散層Cが形成され、他方の面にアノードガス供給拡散層Aが形成されている(タイプCAのセパレータ)。燃料電池用セパレータ22は、金属板30の一方の面にアノードガス供給拡散層Aが形成されている(タイプAのセパレータ)。燃料電池用セパレータ23Aは、金属板30の一方の面にカソードガス供給拡散層Cが形成されている(タイプCのセパレータ)。燃料電池用セパレータ24は、金属板30の一方の面にカソードガス供給拡散層Cが形成され、他方の面に冷却水供給拡散層Wが形成されている(タイプCWのセパレータ)。
【0016】
各セルは、カソード側とアノード側とが交互になるように配置されている。カソードガス供給拡散層Cとアノードガス供給拡散層Aとは、膜電極接合体(MEA)81を挟んで対向して設けられている。実施形態においては、単セルが2つ配置される毎に冷却水を供給する冷却水供給拡散層Wが設けられている。なお、冷却水供給拡散層Wは、単セル1つ置きに設けられていてもよいし、3つ置き又はそれ以上置きに設けられていてもよい。冷却水供給拡散層Wには金属板30(好ましくはタイプAまたはタイプCのセパレータにおける金属板30)が対向するように、燃料電池用セパレータ21,22,23A,24が組み合わされて積層されている。
【0017】
なお、燃料電池セルスタックは、
図1及び
図2には図示していないが、金属板30の一方の面にアノードガス供給拡散層Aが形成され、他方の面に冷却水供給拡散層Wが形成されたもの(タイプAWのセパレータ)を備えていてもよい。また、金属板30の一方の面に冷却水供給拡散層Wが形成されたセパレータ(タイプWのセパレータ)を備えていてもよい。また、金属板の両面に冷却水供給拡散層Wが形成されたセパレータを備えていてもよい。各セパレータの構成の詳細については後述する。
【0018】
積層されたセルの両端部には、集電板27A,27Bが配設されている。さらに集電板27A、27Bの外側には、絶縁シート28A,28Bを介してエンドプレート75,76が配置されている。燃料電池用セパレータ21,22,23A,24は、エンドプレート75、76によって両側から押圧されている。燃料電池セルスタック20の両端に位置し、集電板27A,27Bに接するセパレータについては、その金属板30(耐食層)が外方を向くようにすることが好ましい。
【0019】
図1及び
図2においては、燃料電池用セパレータ21,22,23A,24、膜電極接合体81、集電板27A,27B、絶縁シート28A,28B、及び、エンドプレート75,76は、分かり易くするために、離間して描かれているが、これらは、図示された配列の順に、相互に密に接合されている。接合の方法は特に限定されない。例えば、エンドプレート75,76により各部材を両側から押圧することのみによって接合してもよいし、各部材の適宜の位置を接着剤により接着したうえでエンドプレート75,76により各部材を両側から押圧することにより接合してもよいし、その他の方法により接合してもよい。各燃料電池用セパレータ21,22,23A,24、膜電極接合体81、集電板27A,27B、絶縁シート28A,28B等は、例えば厚さが百μm程度から十mm程度である。本明細書の各実施形態における各図は、厚さを誇張して描かれている。
【0020】
アノード側のエンドプレート75の一端部にはアノードガス供給口71in、カソードガス排出口72out及び冷却水排出口73outがそれぞれ設けられている。他方、カソード側のエンドプレート76の一端部(エンドプレート75の上記一端部とは反対側)には、アノードガス排出口71out、カソードガス供給口72in及び冷却水供給口73in(
図2ではこれらがまとめて破線で示されている)が設けられている。これらの各供給口、各排出口にはそれぞれ対応する流体の供給管、排出管が接続されることになる。
【0021】
各燃料電池用セパレータ21,22,23A,24には、それぞれ、アノードガス供給口71inに連通するアノードガス流入口61in、カソードガス排出口72outに連通するカソードガス(及び生成水)流出口62out、及び、冷却水排出口73outに連通する冷却水流出口63outが設けられている。また、各燃料電池用セパレータ21,22,23A,24には、それぞれ、アノードガス排出口71outに連通するアノードガス流出口61out、カソードガス供給口72inに連通するカソードガス流入口62in、及び、冷却水供給口73inに連通する冷却水流入口63inが設けられている。
【0022】
アノードガス供給口71in、カソードガス供給口72in及び冷却水供給口73inを通じてカソードガス、アノードガス及び冷却水が供給される。実施形態1においては、アノードガスとして水素ガスを使用し、カソードガスとして空気を用いた場合を例示する。
【0023】
次に、膜電極接合体81について説明する。
図3は、膜電極接合体(MEA)81を説明するために示す図である。
図3(a)は膜電極接合体81の平面図であり、
図3(b)は膜電極接合体81の正面図であり、
図3(c)は膜電極接合体の側面図である。
【0024】
膜電極接合体81は、
図3に示すように、電解質膜(PEM)82と、電解質膜82の両面にそれぞれ配置された触媒層(CL)85と、各触媒層85の外側の面に配置されたマイクロポーラスレイヤ(MPL)83とを有する。本明細書においては、電解質膜82とその両側に配置された触媒層85から構成されるものを触媒コート電解質膜(Catalyst Coated Membrame:CCM)という。マイクロポーラスレイヤ83は多孔質体層40よりも微細な径の気孔(細孔)を有する。なお、マイクロポーラスレイヤ83は、省略することもできる。また、後述する変形例7で後述するように、マイクロポーラスレイヤ83の触媒層85への直接付与を省略する場合には、マイクロポーラスレイヤ83を触媒層85と接する燃料電池用ガス供給拡散層41,42Aの表面に付与することもできる。
【0025】
次に、燃料電池用セパレータ23Aを例にとって燃料電池用ガス供給拡散層42A(ガス供給拡散層)について説明する。
図4は、燃料電池用セパレータ23Aの平面図である。
図4はタイプCの燃料電池用セパレータ23Aを金属板30の側から見た平面図であるが、燃料電池用セパレータ23Aにおける複数のガス流路用溝の配置を分かり易く表すために、金属板30の図示は省略している。なお、
図4をはじめとするセパレータの平面図においては、符号の表示が複雑になることを避けるために、ガス流路用溝(ガス流入側溝、ガス流出側溝及び中継用溝)については、同形状の溝が複数ある場合であっても、原則任意の1つの溝にのみ符号を表示している。
【0026】
図5は、実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aの断面図である。
図5(a)は
図4のA1-A1線に沿った断面図であり、
図5(b)は
図4のA2-A2線に沿った断面図であり、
図5(c)は
図4のA3-A3線に沿った断面図である。
図5においては、燃料電池用セパレータ23Aと膜電極接合体81との位置関係を示すために、膜電極接合体81が接合された状態の燃料電池用セパレータ23Aを示している。また、膜電極接合体81の断面構造の図示は省略している。
図6は、実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aにおけるガス流入側溝53a,53b及びガス流出側溝54a,54bを説明するために示す図である。
図7は、実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aにおける中継用溝55a~55d及び連通溝56a,56bを説明するために示す図である。溝の配置を分かり易く表すために、
図6においては中継用溝55a~55d及び連通溝56a,56bの図示を省略し、
図7においてはガス流入側溝53a,53b及びガス流出側溝54a,54bの図示を省略している。
【0027】
燃料電池用セパレータ23Aは、
図4及び
図5に示すように、ガス遮蔽板である金属板30と、金属板30の少なくとも一方の面に配設された燃料電池用ガス供給拡散層42Aとを備えるセパレータである。
図5中、金属板30には、断面であることを示すハッチングを施している。金属板30は、インコネル、ニッケル、金、銀及び白金のうち一以上からなる金属、またはオーステナイト系ステンレス鋼板への金属のめっきもしくはクラッド材であることが好ましい。これらの金属を用いることにより耐食性を向上できる。
【0028】
燃料電池用セパレータ23Aにおいては、金属板30の縦方向の一端部(
図4の下部)に、
図4の右、中央、左の順に、カソードガス流入口62inと、冷却水流入口63inと、アノードガス流出口61outとが設けられている。また、他端部(
図4の上部)に、
図4の左、中央、右の順に、カソードガス流出口62outと、冷却水流出口63outと、アノードガス流入口61inとが設けられている。
【0029】
各流入口61in,62in,63in、各流出口61out,62out,63out、及び、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの形成領域のそれぞれの周囲は、電子導電性又は非電子導電性の緻密枠32によって囲まれている。緻密枠32はアノードガス、カソードガス及び冷却水の漏洩を防ぐ。緻密枠32の外面には、各流入口61in,62in,63in、各流出口61out,62out,63out、及び、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの形成領域を囲むように、緻密枠32に沿って溝が形成されている(図示せず。)。この溝内にガスケット(パッキン、Oリングなどのシール材)33が配置されている。
【0030】
金属板30の両面には、上記の各流入口61in,62in,63in、及び、各流出口61out,62out,63outが設けられている部分を除いて、その全面に電子導電性を有する耐食層(
図5においては図示せず)が形成されている。各流入口61in,62in,63in、及び、各流出口61out,62out,63outの内周面に耐食層が形成されていてもよい。金属板30の側面及び端面に耐食層が形成されていてもよい。耐食層は、好ましくは緻密枠32と同じ組成の緻密層であり、金属板30の腐食を抑制する作用を有する。セパレータを組み合わせて
図1あるいは
図2に示すような燃料電池セルスタック20を構成する段階で、ガスケット33は接合される他のセパレータ、膜電極接合体81又は集電板27A,27Bと密着して流体の漏洩を抑制する。
【0031】
燃料電池用セパレータ23Aは、タイプCのセパレータであって、
図4~
図7に示すように、基板としての長方形の金属板30の一方の面における中央部にカソードガスを供給・拡散する燃料電池用ガス供給拡散層42Aが形成されている。つまり、燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、カソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層である。燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、ガスの透過及び拡散が可能で、かつ、導電性を有するシート状の多孔質体層40と、多孔質体層40の一方の面においてそれぞれがガス(燃料電池用セパレータ23Aにおいてはカソードガス)の流入側から流出側に向かって形成された複数のガス流路用溝とを有する。複数のガス流路用溝は、金属板30(ガス遮蔽板)側に位置するように金属板30(ガス遮蔽板)に対して配置され、ガス流路用溝と金属板30(ガス遮蔽板)とでガス流路が構成されている。なお、燃料電池用セパレータ23Aと膜電極接合体81とは、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの複数のガス流路用溝が形成されていない側の面に膜電極接合体81が位置する位置関係で積層されている(
図5参照。)。なお、「ガス流路用溝」及び「ガス流路」はガス専用のものではなく、ガス以外のもの(特に、水等の液体)も流通させるために用いることもできる。
【0032】
本明細書において、「ガスの流入側から流出側に向かって」とは、「およそガスの流れる方向に沿って」という意味であり、「ガスの流入側から流出側に向かう」方向は、多孔質体層40全体としてみた場合の多孔質体層40内のガスの流れの方向である。これは、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aのように、カソードガス流入口62inとカソードガス流出口62outが金属板30の対角線上の位置に配設されている場合に、ガス流路は上記の対角線に沿って形成されている必要はなく、実施形態1のように、「ガスの流入側から流出側に向かう」方向は、「多孔質体層40全体としてみた場合の多孔質体層40内のガスの流れの方向が、
図4の紙面の下から上の縦方向に向かうような場合は」、
図4のように、
図4の紙面の下から上の縦方向に沿って複数のガス流路用溝は形成されていればよいし、また、それ以外の方向に沿って形成されていてもよい。
【0033】
複数のガス流路用溝は、ガスの流入側(
図4及び
図6の下部)に形成された複数のガス流入側溝53a,53bと、ガスの流出側(
図4及び
図6の上部)に形成された複数のガス流出側溝54a,54bとを含む。複数のガス流入側溝53a,53bは、異なる長さを有する2種以上の(この場合2種の)ガス流入側溝53a,53bを含む。
【0034】
燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、隣接する2つのガス流入側溝53a,53bは異なる長さを有する(
図6参照。)。言い換えると、ガスの流入側から流出側に向かう「y方向」に垂直な「x方向」に沿って隣接する2つのガス流入側溝53a,53bにおける流出側の終端の位置が「y方向」に沿って離間した位置に存在する。なお、燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、隣接する3つのガス流入側溝のうち少なくとも1つのガス流入側溝が他のガス流入側溝とは異なる長さを有することとなり、隣接する4つのガス流入側溝のうち少なくとも1つのガス流入側溝が他のガス流入側溝とは異なる長さを有することになる。
なお、本明細書において、「隣接する3つのガス流入側溝のうち少なくとも1つのガス流入側溝が他のガス流入側溝とは異なる長さを有する」、「隣接する4つのガス流入側溝のうち少なくとも1つのガス流入側溝が他のガス流入側溝とは異なる長さを有する」とは、「隣接する3つのガス流入側溝を1組のガス流入側溝群と定義したとき、ガス拡散層に含まれる複数組のガス流入側溝群のうちどの組のガス流入側溝群を見ても、3つのガス流入側溝のうち少なくとも1つが他のガス流入側溝とは異なる長さを有する」、「隣接する4つのガス流入側溝を1組のガス流入側溝群と定義したとき、ガス拡散層に含まれる複数組のガス流入側溝群のうちどの組のガス流入側溝群を見ても、4つのガス流入側溝のうち少なくとも1つが他のガス流入側溝とは異なる長さを有する」ことを意味する。後述するガス流出側溝の場合も同様である。
【0035】
燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、複数のガス流出側溝54a,54bは、異なる長さを有する2種以上の(この場合2種の)ガス流出側溝54a,54bを含む。隣接する2つのガス流出側溝54a,54bは、異なる長さを有する(
図6参照。)。言い換えると、上記「x方向」に沿って隣接する2つのガス流出側溝54A,54Bにおける流入側の始端の位置が、上記「y方向」に沿って離間した位置に存在する。なお、燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、隣接する3つのガス流出側溝のうち少なくとも1つのガス流出側溝が他のガス流出側溝とは異なる長さを有することとなり、隣接する4つのガス流出側溝のうち少なくとも1つのガス流出側溝が他のガス流出側溝とは異なる長さを有することにもなる。
【0036】
燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、複数のガス流入側溝53a,53bのうち最も短い長さを有するガス流入側溝53aは、多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有し、複数のガス流入側溝53a,53bのうち最も長い長さを有するガス流入側溝53bは、多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの40%以上の長さを有する。
【0037】
燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、複数のガス流入側溝53a,53bのうち最も短い長さを有するガス流入側溝53aは、多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有する。また、複数のガス流出側溝54a,54bのうち最も長い長さを有するガス流出側溝54bは、多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの30%以上の長さを有する。
【0038】
また、複数のガス流路用溝は、複数のガス流入側溝53a,53b及び複数のガス流出側溝54a,54bに加えて、ガス流入側溝53a,53bとガス流出側溝54a,54bとの間に形成された複数の中継用溝55a~55dを含む。複数の中継用溝55a~55dは、ガスの流入側から流出側に向かう方向とは垂直な方向(x方向)に沿って連通している。具体的には、中継用溝55a,55bは連通溝56aにより連通しており、中継用溝55c,55dは連通溝56bにより連通している(
図7参照。)。中継用溝55a,55bと中継用溝55c,55dとは独立しているため、燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、複数の中継用溝55a~55dが2段で形成されているということもできる。なお、中継用溝と連通溝との連通部分のようなガス流路用溝において角や隅ができる部分には、適宜の面取り処理や丸め処理が施されていてもよい。
【0039】
複数のガス流入側溝53a,53b、複数のガス流出側溝54a,54b及び複数の中継用溝55a~55dは、互いに入り込むように形成されている(
図4及び
図5参照。)。また、燃料電池用ガス供給拡散層42Aを平面視したとき、多孔質体層40全体の面積に対するガス流路用溝形成領域の面積の割合は、30%~80%の範囲内にある。当該面積の割合は、40%~70%の範囲内にあることが好ましい。
【0040】
カソードガスとしての空気(酸素ガス及び窒素ガス)は、多孔質体層40(ガス拡散層43)内を拡散する。多孔質体層40は、導電材(好ましくは炭素系導電材)と高分子樹脂の混合物を含む。高分子樹脂に炭素系導電材を混合することにより、高分子樹脂に高い導電性を付与することができ、また高分子樹脂の結着性により炭素材の成型性を向上させることができる。多孔質体層40の流体抵抗は、多孔質体層の気孔率と流体の流れる面の面積に依存する。気孔率が大きくなれば流体抵抗は小さくなる。流体が流れる面積が大きくなれば流体抵抗は小さくなる。およその目安としては、(カソードガス用の)燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおいては、多孔質体層40の気孔率は、50~85%程度である。なお、(アノードガス用の)燃料電池用ガス供給拡散層41においては、多孔質体層40の気孔率は、30~85%程度である。
【0041】
多孔質体層40の気孔率が上記のように構成されていることから、複数のガス流路用溝の内表面を介して、ガス流路用溝と多孔質体層40との間のカソードガス、水蒸気、凝結水の流通が適切に行われるようになる結果、多量のガスを膜電極接合体に対して均一に供給できるようになり、また、発電時に使用されなかったカソードガスや発電時に生成した水蒸気や凝結水をガス流路用溝外に効率よく排出することができるようになる。その結果、ガス流路用溝の内表面に、金属、セラミックス、樹脂等からなるガス不透過層に微細なガス流通孔を多数開口したガス透過フィルターのようなものを形成する必要も無い。
【0042】
炭素系導電材の含有率を調整することにより、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの気孔率を調整することができ、ひいては、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの移動抵抗を調整することができる。特に炭素系導電材の含有率を高くすると移動抵抗が小さくなる(気孔率が大きくなる)。逆に、炭素系導電材の含有率を低くすると移動抵抗が大きくなる(気孔率が小さくなる)。耐食層及び緻密枠32も炭素系導電材と高分子樹脂の混合物であり、炭素系導電材の適度な含有率により、導電性を確保しつつ緻密化したものであるのが好ましい。
【0043】
炭素系導電材としては特に限定されないが、例えば黒鉛、カーボンブラック、ダイヤモンド被覆カーボンブラック、炭化ケイ素、炭化チタン、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等を用いることができる。高分子樹脂としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれも用いることができる。高分子樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ゴム系樹脂、フラン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂等が挙げられる。
【0044】
カソードガス流入口62inと多孔質体層40が形成されている領域との間には流入通路57が形成されている(
図4参照。)。カソードガス流出口62outと多孔質体層40が形成されている領域との間には流出通路58が形成されている。これらの流入通路57及び流出通路58は膜電極接合体81又はそのフレーム81Aを支持するためのものである。したがって、カソードガスを円滑に流し、かつ膜電極接合体81をサポートできる構造であればよい。例えば、気孔率のきわめて大きい多孔質層でもよいし、多数の支柱を配列した構造でもよい。多孔質体層40における流入通路57と面する領域には金属板30の幅方向に沿って細長いガス流入側段差51が形成されている。また、多孔質体層40における流出通路58と面する領域にも金属板30の幅方向に沿って細長いガス流出側段差52が形成されている。但し、ガス流入側段差51及びガス流出側段差52は、これらを省略することもできる。
【0045】
多孔質体層40、流入通路57、及び流出通路58は、緻密枠32と同じ高さ(厚さ)に形成されている。燃料電池用ガス供給拡散層42Aにおける金属板30に対向する側の面には、空隙からなる複数のガス流路用溝が設けられており、これら複数のガス流路用溝と金属板30との隙間に複数のガス流路が形成されている。複数のガス流入側溝53a,53bはガス流入側段差51を介して流入通路57と連通し、複数のガス流出側溝54a,54bはガス流出側段差52を介して流出通路58と連通している。ガス流路用溝の数及び構造は図示のものに限定されない。
【0046】
実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、これを輸送機器用の燃料電池に用いる場合には、輸送機器の種類・大きさにもよるが、多孔質体層40の横幅は例えば30mm~300mm程度である。ガス流路用溝の幅は例えば0.3mm~2mm程度である。多孔質体層40の厚さは例えば150~400μm程度であり、ガス流路用溝の深さは例えば100~300μm程度であり、ガス流路用溝の底と多孔質体層40の他方の面との距離(天井厚)は例えば100~300μm程度である。実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aを輸送機器以外の用途(例えば定置用)の燃料電池や電気分解のための装置に用いる場合には、上記のサイズに限定されるものではなく、必要とされる性能などに応じて適宜のサイズのものを用いることができる。
【0047】
タイプAの燃料電池用セパレータ22における燃料電池用ガス供給拡散層41も、基本的には燃料電池用ガス供給拡散層42Aと同様の構成を有する。但し、ガス供給拡散層に供給するガスが水素ガスであることから、燃料電池用ガス供給拡散層42Aよりも気孔率が低く、また、厚さが薄い(後述する
図8(b)参照。)。
【0048】
タイプCAの燃料電池用セパレータ21においては、ガス拡散層として燃料電池用ガス供給拡散層41及び燃料電池用ガス供給拡散層42Aを用いる(後述する
図8(a)参照。)。タイプCWの燃料電池用セパレータ24は、タイプCの燃料電池用セパレータ23Aにおける燃料電池用ガス供給拡散層42Aが形成されていない面に冷却水供給拡散層が形成されたものである(後述する
図8(c)参照。)。タイプAWの燃料電池用セパレータ25は、タイプAの燃料電池用セパレータ22における燃料電池用ガス供給拡散層41が形成されていない面に冷却水供給拡散層が形成されたものである(後述する
図8(d)参照。)。
【0049】
実施形態1に係る燃料電池セルスタック20を運転すると、アノードガス(水素ガス)を導入する燃料極ではプロトン(H+)が生成する。プロトンは、膜電極接合体81中を拡散して酸素極側に移動し、酸素と反応して水が生成する。生成した水は、酸素極側から排出される。このとき、上記のような構造を有する燃料電池用ガス供給拡散層42Aを備える燃料電池用セパレータ23Aにおいては、カソードガス流入口62inから流入した空気は流入通路57及びガス流入側段差51を通って、ガス流入側溝53a,53bに流入する。ガス流入側段差51内に流入した空気の一部はガス流路用溝内に入ってガス流路用溝から多孔質体層40(ガス拡散層43)内に入り、他の一部は多孔質体層40(ガス拡散層43)の端面から直接に多孔質体層40(ガス拡散層43)に入って、多孔質体層40(ガス拡散層43)内を拡散していく。
【0050】
空気は、多孔質体層40(ガス拡散層43)内を平面方向に拡散しながら厚さ方向にも拡散し、多孔質体層40(ガス拡散層43)に接して設けられた膜電極接合体81に供給され、発電反応に寄与する。発電に使用されなかったガス(未使用の酸素ガス及び窒素ガス)及び発電時に生成した水(水蒸気又は凝縮水)は多孔質体層40(ガス拡散層43)、ガス流路用溝、ガス流出側段差52を介して流出通路58に流出する。流出通路58に流出した酸素ガス、窒素ガス及び水は、最終的に流出通路58からカソードガス流出口62out及びカソードガス排出口72outを通って排出されていく。このとき、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの構造上、全ての水は排出されず、一部が多孔質体層40(ガス拡散層43)内に留まる。
【0051】
実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、上記のような特徴を有することから、発電時に膜電極接合体81で生成した水(水蒸気又は凝縮水)を、多孔質体層40及びガス流路用溝を介してガス流路用溝外に効率良く排出できるようになる。
【0052】
[実施形態1の効果]
実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、多孔質体層40の一方の面において複数のガス流路用溝(ガス流入側溝53a,53b、ガス流出側溝54a,54b及び中継用溝55a~55d)が形成されていることから、従来よりもガスの移動抵抗が減少し、膜電極接合体に対して従来よりも多量のガスを供給できる。
【0053】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、多孔質体層40の一方の面において複数のガス流路用溝が形成されていることから、多孔質体層40の他方の面に配設される膜電極接合体81に対するガスの供給は必ず多孔質体層40を介して行われるので、複数のガス流路が多孔質体層40の一方の面から他方の面にかけて開口されている場合よりもガスを膜電極接合体81に対して均一に供給できる。
【0054】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、多孔質体層40の一方の面において複数のガス流路用溝が形成されていることから、発電に使用されなかったガス(この場合燃料電池用のカソードガス(酸素ガス、窒素ガス))を、多孔質体層40及びガス流路用溝を介してガス流路用溝外に効率良く排出できるようになるため、また、複数のガス流入側溝53a,53bと複数のガス流出側溝54a,54bとの間に形成される伏流領域において伏流ガス流れに押し出される形で発電に使用されなかったガスがガス流路用溝外に効率良く排出できるようになるため、従来よりもガスの移動抵抗を低く保つこと、ひいては、反応ガス濃度を高く保つことが可能となり、従来よりも反応効率(実施形態1の場合には燃料電池の発電効率)を高くできる、ガス拡散層となる。
【0055】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、多孔質体層40の一方の面において複数のガス流路用溝が形成されていることから、発電時に膜電極接合体81で生成した水分(水蒸気又は凝縮水)を、多孔質体層40及びガス流路用溝を介してガス流路用溝外に効率良く排出できるようになるため、また、伏流領域においては伏流ガス流れに押し出される形で水分(水蒸気又は凝縮水)をガス流路用溝外に効率良く排出できるようになるため、従来よりも排水性に優れたガス拡散層となる。
【0056】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流路用溝が、複数のガス流入側溝53a,53bと複数のガス流出側溝54a,54bとを含み、これらのうち複数のガス流入側溝53a,53bが、異なる長さを有する2種以上のガス流入側溝53a,53bを含むことから、複数のガス流入側溝のうち相対的に短い長さを有するガス流入側溝53a(流出側終端部)の作用により、本来乾燥しやすい流入側領域における多孔質体層40が乾燥しにくくなり、多孔質体層40が乾燥し過ぎることによる反応効率の低下が抑制できる。また、複数のガス流入側溝53a,53bのうち相対的に長い長さを有するガス流入側溝53bの作用により、本来滞留得し易い水分(水蒸気又は凝縮水)がガス流入側溝53bを通して効率的に排出され排水性が高くなり、また、流入側領域から離れていて本来ガス圧が低下し易い領域においてもガス圧が低下しにくくなり、ガス圧低下による反応効率の低下が抑制できる。これらにより、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、従来よりも反応効率(実施形態1の場合には燃料電池の発電効率)を高くでき、さらには、従来よりも排水性に優れた、ガス拡散層となる。
【0057】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、隣接する2つのガス流入側溝53a,53bは異なる長さを有する、すなわち上記x方向に沿って隣接する2つのガス流入側溝53a,53bにおける流出側終端部(デッドエンド部)の位置が、上記したy方向に沿って離間した位置に存在することから、流出側終端部が一層分散する。これにより、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、反応効率をより一層高くでき、さらには、より一層排水性に優れたガス拡散層となる。
【0058】
なお、本発明においては、隣接する4つ又は3つのガス流入側溝のうち少なくとも1つのガス流入側溝が、他のガス流入側溝とは異なる長さを有するものであってもよい。この場合でも、燃料電池用ガス供給拡散層は、隣接する2つのガス流入側溝が異なる長さを有する場合と同趣旨の効果を有する。
【0059】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流入側溝53a,53bのうち最も短い長さを有するガス流入側溝53aが多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有することから、多孔質体層40が乾燥し過ぎることによる反応効率の低下を一層抑制できる。また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流入側溝53a,53bのうち最も長い長さを有するガス流入側溝53bが多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの40%以上の長さを有することから、排水性を一層高くでき、かつ、ガス圧低下による反応効率の低下を一層抑制できる。
【0060】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、複数のガス流出側溝54a,54bが、異なる長さを有する2種以上のガス流出側溝54a,54bを含む。従って、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流出側溝54a,54bについても、異なる長さを有する2種以上のガス流出側溝54a,54bを含むことから、複数のガス流出側溝54a,54bのうち相対的に長いガス流出側溝54bの作用により、本来滞留しやすい水分(水蒸気・凝集水)の排出効率が高くなり、ガス拡散が促進され、反応効率(実施形態1の場合には発電効率)を高められる。一方、複数のガス流出側溝54a,54bのうち相対的に短いガス流出側溝54aの作用により、ガス流出側の領域においても上流のガス拡散用溝からのガスの伏流により所定の反応(実施形態1の場合には発電)がおこなわれ、全体としての反応効率(実施形態1の場合には発電効率)を高くできる。
【0061】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、隣接する2つのガス流出側溝54a,54bは異なる長さを有することから、長い溝と短い溝が分散して配置される。これにより、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、反応効率を一層高くでき、さらには、一層排水性に優れたガス拡散層となる。
【0062】
なお、本発明においては、隣接する4つ又は3つのガス流出側溝のうち少なくとも1つのガス流出側溝が、他のガス流出側溝とは異なる長さを有するものであってもよい。この場合でも、燃料電池用ガス供給拡散層は、隣接する2つのガス流出側溝が異なる長さを有する場合と同趣旨の効果を有する。
【0063】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流入側溝53a,53bのうち最も短い長さを有するガス流入側溝53aは、多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの30%未満の長さを有するため、乾燥しやすい流入側の多孔質体層40を特に乾燥しにくくすることが可能となり、反応効率を一層上昇させることが可能となる。また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流出側溝54a,54bのうち最も長い長さを有するガス流出側溝54bは、多孔質体層40のガスの流入側から流出側に沿った長さの30%以上の長さを有するため、滞留しやすい水分(水蒸気・凝集水)がガス流出側溝54bを通して効率的に排出されることから、ガス拡散を促進することが可能となり、この観点からも反応効率を一層上昇させることができる。
【0064】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流路用溝は、複数の中継用溝55a~55dを含むため、流出側終端部(デッドエンド部)の数を増やすことが可能となり、伏流領域を通過するガスの量を増やして反応効率を一層高くすることが可能となる。また、多孔質体層40の乾燥防止や、水分(水蒸気・凝集水)の排出効率向上のバランスの最適化を図ることも可能となる。
【0065】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数の中継用溝55a~55dは、ガスの流入側から流出側に向かう方向とは垂直な方向(x方向)に沿って連通しているため、連通する方向に沿ってガス圧を均等化することが可能となる。
【0066】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、複数のガス流入側溝53a,53b、複数のガス流出側溝54a,54b及び複数の中継用溝55a~55dは、互いに入り込むように形成されているため、ガス圧の均等化や伏流の増大を図ることが可能となる。
【0067】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、燃料電池用ガス供給拡散層42Aを平面視したとき、多孔質体層40全体の面積に対するガス流路用溝形成領域の面積の割合は、30%~80%の範囲内にあるため、十分なガス供給能力と十分な機械的強度とを両立することが可能となる。
【0068】
また、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aによれば、燃料電池用ガス供給拡散層42Aが、カソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層であるため、燃料電池セルスタックの性能を高くすることができる。
【0069】
実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aは、ガス遮蔽板である金属板30と、金属板30の少なくとも一方の面に配設された燃料電池用ガス供給拡散層42Aとを備えるセパレータであって、燃料電池用ガス供給拡散層42Aは、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aであり、複数のガス流路用溝(ガス流入側溝53a,53b、ガス流出側溝54a,54b及び中継用溝55a~55d)が金属板30側に位置するように金属板30に対して配置されており、ガス流路用溝と金属板30とでガス流路が構成されていることから、従来よりも反応効率を高くできるセパレータとなる。
【0070】
実施形態1に係る燃料電池セルスタック20は、セパレータと、膜電極接合体81とが積層されてなる燃料電池セルスタックであって、セパレータは、実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aであり、燃料電池用セパレータ23Aと膜電極接合体81とは、燃料電池用ガス供給拡散層42Aの複数のガス流路用溝(ガス流入側溝53a,53b、ガス流出側溝54a,54b及び中継用溝55a~55d)が形成されていない側の面に膜電極接合体81が位置する位置関係で積層されていることから、従来よりも反応効率を高くできる燃料電池セルスタックとなる。
【0071】
また、実施形態1に係る燃料電池セルスタック20によれば、燃料電池セルスタック20が燃料電池セルスタックであることから、従来よりも燃料電池の発電効率を高くできる燃料電池セルスタックとなる。
【0072】
[燃料電池用セパレータ23Aの製造方法]
一例として、耐食層、緻密枠32、燃料電池用ガス供給拡散層42A等は、熱硬化性樹脂(又は熱可塑性樹脂)、炭素系導電材粉末(及び、状況に応じて炭素繊維)、樹脂粉末および揮発性溶剤を混錬したペースト状の材料を用いた等方圧加圧により形成することができる。それぞれの部材及び部分に特有の形状は、例えば、プリント、スタンプ、絞り出し等により形成することができる。また、各部材を熱圧着やロールプレス(ホットプレス)で配置又は形成することもできる。
【0073】
なお、上記した製造方法は、燃料電池用セパレータ23A以外のセパレータ(燃料電池用セパレータ21,22,24,25)を製造する際にも適用できる。
【0074】
[燃料電池用セパレータ23A以外のセパレータ]
図8は、燃料電池用セパレータ23A以外のセパレータ(燃料電池用セパレータ21,22,24,25)の断面図である。
図8(a)はタイプCAの燃料電池用セパレータ21の断面図であり、
図8(b)はタイプAの燃料電池用セパレータ22の断面図であり、
図8(c)はタイプCWの燃料電池用セパレータ24の断面図であり、
図8(d)はタイプAWの燃料電池用セパレータ25の断面図である。
図8は、燃料電池用セパレータ23AのA1-A1断面(
図5(a)参照。)に相当する断面による断面図である。
図8においては、全ての複数のガス流路用溝に符号を付すと図面がわかりにくくなるため、1つのガス流路用溝のみにガス流路用溝である(ガス流入側溝、ガス流出側溝又は中継用溝のいずれかである)ことを示す「53」の符号を付している。
【0075】
本発明のガス拡散層は、燃料電池用セパレータ21の(カソードガス用)燃料電池用ガス供給拡散層42A及び/又は(アノードガス用)燃料電池用ガス供給拡散層41に適用することができる(
図8(a)参照。)。また、本発明のガス拡散層は、燃料電池用セパレータ22の(アノードガス用)燃料電池用ガス供給拡散層41に適用することができる(
図8(b)参照。)。また、本発明のガス拡散層は、燃料電池用セパレータ24の(カソードガス用)燃料電池用ガス供給拡散層42Aに適用することができる(
図8(c)参照。)。また、本発明のガス拡散層は、燃料電池用セパレータ25の(アノードガス用)燃料電池用ガス供給拡散層41に適用することができる(
図8(d)参照。)。
【0076】
このように本発明のガス拡散層を上記のような燃料電池用セパレータ21,22,24,25の燃料電池用ガス供給拡散層に適用した場合であっても、従来よりも反応効率(燃料電池であれば発電効率)を高くできる、ガス拡散層となる。
【0077】
[実施形態2]
図9は、実施形態2に係る燃料電池用セパレータ23Bの平面図である。但し、
図4の場合と同様に、燃料電池用ガス供給拡散層42Bの流路パターンを分かり易く表すために、金属板30の図示は省略している。以降の
図10~
図23及び
図29~
図31においても同様である。
図10は、実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Bにおけるガス流入側溝53c~53f及びガス流出側溝54c~54fを説明するために示す図である。
図11は、実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Bにおける中継用溝55e及び連通溝56cを説明するために示す図である。
【0078】
実施形態2に係る燃料電池用セパレータ23Bにおける燃料電池用ガス供給拡散層42Bは、基本的には実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aと同様の構成を有するが、ガス流路用溝の構成が実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aの場合と異なる。実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Bにおいては、
図9~
図11に示すように、それぞれ長さが異なる2種以上の(この場合4種の)ガス流入側溝53c~53f及びガス流出側溝54c~54fが形成されている。また、ガス流入側溝53c~53f及びガス流出側溝54c~54fに入り込むように中継用溝55eが形成されている。中継用溝55eは複数形成されており、それぞれの中継用溝55eは連通溝56cにより連通している。
【0079】
実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42B及び燃料電池用セパレータ23Bは、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと同様に、従来よりも反応効率を高くできるガス拡散層及びセパレータとなる。また、実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42B及び燃料電池用セパレータ23Bによれば、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと共通する特徴に起因する共通の効果も得られる。
【0080】
[実施形態3]
図12は、実施形態3に係る燃料電池用セパレータ23Cの平面図である。
図13は、実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cにおけるガス流入側溝53g~53j及びガス流出側溝54g~54jを説明するために示す図である。
図14は、実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cにおける中継用溝55d~55j及び連通溝56d,56eを説明するために示す図である。
【0081】
実施形態3に係る燃料電池用セパレータ23Cにおける燃料電池用ガス供給拡散層42Cは、基本的には実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aと同様の構成を有するが、ガス流路用溝の構成が実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aの場合と異なる。実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cにおいては、
図12~
図14に示すように、それぞれ長さが異なる2種以上の(この場合4種の)ガス流入側溝53g~53j及びガス流出側溝54g~54jが形成されている。また、ガス流入側溝53g~53j及びガス流出側溝54g~54jに入り込むように中継用溝55f~55jが形成されている。このうち、ガス流入側溝53i,53j及び中継用溝55i,jは1本の溝から2本の溝への分岐箇所を有する。また、中継用溝55fと中継用溝55gとは連通溝56dにより連通しており、中継用溝55f,55gと中継用溝55hとは連通溝56dにより連通している。つまり、燃料電池用ガス供給拡散層42Cは、複数の中継用溝として、隣接する2本の中継用溝が連通するように形成された中継用溝のペアがガスの流入側から流出側に向かう方向とは垂直な方向に沿って形成されている複数の中継用溝55f~55hを含む。
【0082】
実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42C及び燃料電池用セパレータ23Cは、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと同様に、従来よりも反応効率を高くできるガス拡散層及びセパレータとなる。また、実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cによれば、複数の中継用溝として、隣接する2本の中継用溝が連通するように形成された中継用溝のペアがガスの流入側から流出側に向かう方向とは垂直な方向に沿って形成されている複数の中継用溝55f~55hを含むため、圧力損失を低くすることが可能となり、伏流するガス及び水蒸気又は凝集水が下流側に流れ込みやすくなり、ガスをより均一に拡散させることが可能となるとともに、水蒸気または凝集水をより効率良く燃料電池用ガス供給拡散層42Cの外に排出することが可能となる。また、実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cによれば、複数のガス流路用溝の一部は、「1本の溝から2本の溝への分岐箇所」を有するため、場所を限定したガス圧の均等化が可能となる。また、流出側終端部(デッドエンド部)の数を増やすことが可能となり、伏流領域を通過するガスの量を増やして反応効率を一層高くすることが可能となる。また、実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42C及び燃料電池用セパレータ23Cによれば、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと共通する特徴に起因する共通の効果も得られる。
【0083】
[実施形態4]
図15は、実施形態4に係る燃料電池用セパレータ23Dの平面図である。
図16は、実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dにおけるガス流入側溝53k~53n及びガス流出側溝54k,54lを説明するために示す図である。
図17は、実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dにおける中継用溝55k~55pを説明するために示す図である。
【0084】
実施形態4に係る燃料電池用セパレータ23Dにおける燃料電池用ガス供給拡散層42Dは、基本的には実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aと同様の構成を有するが、ガス流路用溝の構成が実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aの場合と異なる。実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dにおいては、
図15~
図17に示すように、それぞれ長さが異なる2種以上の(この場合4種の)ガス流入側溝53k~53n及びガス流出側溝54k,54lが形成されている。また、ガス流入側溝53k~53n及びガス流出側溝54k,54lに入り込むように中継用溝55k~55pが形成されている。このうち、中継用溝55k~55nは2本の溝から1本の溝への合流箇所を有する。なお、実施形態4の変形として、ガス流入側溝53k~53nとガス流出側溝54k,54lとを入れ替え、中継用溝55k~55nを上記入れ替えに対応する配置及び形状とする形態も考えられる。
【0085】
実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42D及び燃料電池用セパレータ23Dは、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと同様に、従来よりも反応効率を高くできるガス拡散層及びセパレータとなる。また、実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dによれば、複数のガス流路用溝の一部は、「2本の溝から1本の溝への合流箇所」を有するため、場所を限定したガス圧の均等化が可能となる。また、実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42D及び燃料電池用セパレータ23Dによれば、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと共通する特徴に起因する共通の効果も得られる。
【0086】
[実施形態5~8]
図18は、実施形態5に係る燃料電池用セパレータ23Eの平面図である。
図19は、実施形態6に係る燃料電池用セパレータ23Fの平面図である。
図20は、実施形態7に係る燃料電池用セパレータ23Gの平面図である。
図21は、実施形態8に係る燃料電池用セパレータ23Hの平面図である。
【0087】
実施形態5~8に係る燃料電池用セパレータ23E~23H及び燃料電池用ガス供給拡散層42E~42Hは、基本的には実施形態1~4に係る燃料電池用セパレータ23A~23D及び燃料電池用ガス供給拡散層42A~42Dと同様の構成を有するが、燃料電池用ガス供給拡散層の縦横比が実施形態1~4に係る燃料電池用セパレータ23A~23D及び燃料電池用ガス供給拡散層42A~42Dの場合と異なる。また、実施形態5~8に係る燃料電池用ガス供給拡散層42E~42Hにおいては、ガス流路用溝を構成する各溝の幅等も実施形態1~4に係る燃料電池用セパレータ23A~23Dとは異なる。但し、ガス流路用溝のパターンについては、実施形態5に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Eは実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Aと、実施形態6に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Fは実施形態2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Bと、実施形態7に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Gは実施形態3に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Cと、実施形態8に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Hは実施形態4に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Dと、それぞれ同様である(
図18~
図21参照。)。
【0088】
実施形態5~8に係る燃料電池用ガス供給拡散層42E~42H及び燃料電池用セパレータ23E~23Hは、実施形態1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42A及び燃料電池用セパレータ23Aと同様に、従来よりも反応効率を高くできる燃料電池用ガス供給拡散層及び燃料電池用セパレータとなる。また、実施形態5~8に係る燃料電池用セパレータ23E~23H及び燃料電池用ガス供給拡散層42E~42Hによれば、対応する燃料電池用ガス供給拡散層42A~42D及び燃料電池用セパレータ23A~23Dと同様の効果が得られる。
【0089】
[試験例]
次に、本発明に係るガス拡散層及びセパレータを実際に製造して燃料電池の最小単位である単セルを形成し、ガス流路用溝のパターンの違いが特性にどのような影響を及ぼすか試験した結果について説明する。試験例は、後述する実施例1、実施例2及び比較例について、「電流密度と電圧との関係」を測定し(試験例1)、「電流密度とカソードガスの圧力との関係」を測定し(試験例2)、「電流密度分布」を測定する(試験例3)ことにより行った。これらの試験は実施例1、実施例2及び比較例についての試験結果を比較するものであるため、「比較試験」ということもできる。
【0090】
まず、試験例で製造した単セルについて説明する。単セルとしては、実施例1に係る単セル(以下、単に「実施例1」という。)、実施例2に係る単セル(以下、単に「実施例2」という)及び比較例に係る単セル(以下、単に「比較例」という)の3種類を製造して試験を行った。単セルとしては、カソードガス用の燃料電池用セパレータ(タイプCのセパレータ)とアノードガス用の燃料電池用セパレータ(タイプAのセパレータ)で膜電極接合体を挟み込んだもの(図示せず。)を用いた。実施例1のカソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層においては、ガス流路用溝の形状を実施形態5に示すもの(
図18参照。)とした。実施例2のカソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層においては、ガス流路用溝の形状を実施形態8に示すもの(
図21参照。)とした。比較例のカソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層においては、ガス流路用溝の形状を
図22に示すものとした。
【0091】
図22は、比較例における燃料電池用セパレータ23Iの平面図である。
図22(a)はガス流路用溝を全て表示する図であり、
図22(b)はガス流路用溝のうちガス流入側溝53o及びガス流出側溝54mのみを表示する図(中継用溝55q~55t及び連通溝56f,56gを表示しない図)である。比較例のカソードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層においては、ガス流路用溝の形状を燃料電池用セパレータ23Iの燃料電池用ガス供給拡散層42Iに形成されたもの(
図22参照)とした。燃料電池用ガス供給拡散層42Iにおいては、ガス流入側溝53o及びガス流出側溝54mとして、それぞれ同じ長さの溝を用いた。中継用溝55q~55tのうち中継用溝55q,55rは、幅方向に(x方向に)連通している連通溝56fにより連通しており、中継用溝55s,55tは、連通溝56gにより連通している。
【0092】
図23は、試験例(実施例1、実施例2及び比較例)で用いたアノードガス用の燃料電池用セパレータ22Aの平面図である。実施例1、実施例2及び比較例におけるアノードガス用の燃料電池用ガス供給拡散層は、
図23に示した燃料電池用セパレータ22Aに記載の燃料電池用ガス供給拡散層41Aを用いた。燃料電池用ガス供給拡散層41Aにおけるガス流路用溝の形状は、基本的には比較例における燃料電池用ガス供給拡散層42Iにおけるガス流路用溝の形状と同様であり、ガス流入側溝53o、ガス流出側溝54m及び中継用溝55q~55sが形成されている。ただし、単セルにおいてアノードガスとカソードガスとは流れる方向が逆となるため、燃料電池用ガス供給拡散層41Aにおいては、ガス流路用溝の上流下流が入れ替わっている。なお、試験例においては試験結果に影響を及ぼすのはガス流路用溝のパターンの差異のみである(実施例1、実施例2及び比較例においてガス流路用溝以外の構成要素は共通している)ため、ガス流路用溝のパターン以外については説明を省略する。
【0093】
各試験例(試験例1~3)においては、発電条件として、燃料電池の使用条件を考慮して「ドライ条件、背圧無し(発電条件1)」、「ドライ条件、背圧有り(発電条件2)」及び「ウェット条件、背圧無し(発電条件3)」を採用した。試験時の単セルの温度は80℃とした。カソードガスとしては空気を用い、アノードガスとしては水素ガスを用いた。カソードガス利用率は40%とし、アノードガス利用率は70%とした。触媒としては白金触媒(田中貴金属工業製のTEC10E50E)を用い、担持量は両極とも約0.3mg/cm2とした。高分子膜としてはメルク社のNAFION(登録商標) NR211からなる厚さ25μmのものを用いた。有効面積は29.16cm2(3cm×9.72cm)とした。「ドライ条件」におけるカソードガス・アノードガスの湿度は30%RHとし、「ウェット条件」におけるカソードガス・アノードガスの湿度は80%RHとした。「背圧無し」における背圧は0kPaG、つまり大気圧とした。「背圧有り」における背圧は150kPaG、つまり大気圧に150kPaを足した値とした。
【0094】
試験例1~3においては、パナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社製の燃料電池単セル評価装置を用いた。そして、試験例1における「電流密度と電圧との関係」の測定及び試験例2における「電流密度とカソードガスの圧力との関係」の測定は、電子負荷装置の電流値を変更することにより電流密度を徐々に増加させながら電圧及びカソードガスの入口側の圧力を測定することにより行った。なお、当該測定中、電流値に合わせて反応ガス(アノードガス及びカソードガス)の供給量を調整することで、ガス利用率を一定とした。
【0095】
試験例3においては、S++社製の電流密度分布センサーCurrent scan linを併用した。そして、試験例3における「電流密度分布」の測定は、単セルにおいて発電がなされる領域を20行6列に区分し区分ごとに電流密度を測定することにより行った。当該測定は、平均電流密度が一定となる条件で行った。
図24は、試験例3において電流密度分布を計測するときにおける領域の区分を説明するために示す図である。
図24に示すセパレータSは、単セルに用いたタイプCのセパレータに共通する構成を示すもの(ガス流路用溝の記載を省略したもの)である。
図24のガス供給拡散層42上の右から3列目に示す数字は、区分した領域にガスの流入側から流出側に向かって領域番号を付したものである。当該領域番号の数字は、後述する
図27のグラフの横軸(領域番号)の数字に対応する。
【0096】
次に、試験の結果について説明する。
図25は、試験例1の結果(ガス流路用溝のパターンと発電特性との関係)を示すグラフ、直接的には実施例1、実施例2及び比較例における電流密度と電圧との関係(いわゆるI-V性能)を示すグラフである。
図26は、試験例2の結果(ガス流路用溝のパターンと燃料電池用ガス供給拡散層における圧力損失との関係)を示すグラフ、直接的には実施例1、実施例2及び比較例における電流密度とカソードガスの圧力との関係を示すグラフである。
図27は、試験例3の結果(ガス流路用溝のパターンと燃料電池用ガス供給拡散層における電流密度分布との関係)を示すグラフ、直接的には実施例1、実施例2及び比較例における電流密度分布を示すグラフである。
図25(a)、
図26(a)及び
図27(a)は発電条件1についてのグラフであり、
図25(b)、
図26(b)及び
図27(b)は発電条件2についてのグラフであり、
図25(c)、
図26(c)及び
図27(c)は発電条件3についてのグラフである。なお、
図27(a)、
図27(b)及び
図27(c)においては、実施例1、実施例2及び比較例の文字の後ろに「平均電流密度の電流を流したときに得られる出力電圧」の値を記載している。また、各グラフにおいては、実施例1の結果を破線で、実施例2の結果を一点鎖線で、比較例の結果を実線で、それぞれ記載している。
なお、発電条件1においては、電流密度を増加させると得られる電圧が急激に低下して有意な結果が得られなくなったため、
図25及び
図26に示すように、電流密度と電圧との関係についての測定を0.6~0.8A/cm
2で打ち切った。また、この結果、
図27においては、発電条件1の場合だけ、設定平均電流密度を0.6A/cm
2とした条件で電流密度分布の測定を行った。
【0097】
1.試験例1の結果
試験例1の結果、いずれの発電条件の場合でも、どの電流密度で比較しても実施例1及び実施例2の場合には比較例の場合よりも高い電圧が得られ、発電効率が高くなることが分かった(
図25参照。)。
【0098】
2.試験例2の結果
試験例2の結果、いずれの発電条件の場合でも、同じ電流密度が得られるときに生ずるカソードガスの燃料電池用ガス供給拡散層内における圧力損失が、試験例1及び試験例2の場合には比較例の場合よりも低くて済むことが分かった(
図26参照。)。
これらの結果は、実施例1及び実施例2の場合には比較例の場合よりも発電効率を高くできることを意味している。
【0099】
3.試験例3の結果
まず、平均電流密度(Jm)とは、
図24の領域1~20を含む各区画(i)で得られる個別の電流密度(Ji)の合計を全区画の面積で除した値である。これらの区画内において、触媒の有効利用率で決まる活性化過電圧(Ea)、燃料電池用ガス供給拡散層内のガス供給/排出能で決まるガス拡散過電圧(Ed)、電極内の電子及びイオンの導電性で決まる抵抗過電圧(Er)のそれぞれが小さいほど、大きな電流密度値が得られる。ある区画が関与して得られる電圧(Ei)と理論的に可能な電池電圧(Et)との関係は、「Ei=Et-Ea-Ed-Er」という式で求められる。
触媒層及び燃料電池用ガス供給拡散層は電子導電性であるため、個別の区画が関与して得られる電圧(Ei)は電極全体として計測される電位(E(
図25で示される電圧(V)と実質的に一致))と同一値を示す。従って、本発明の燃料電池用ガス供給拡散層におけるガス流路用溝のパターンを適用して反応ガスの供給/排出能が改善できれば、活性化過電圧(Ea)及びガス拡散過電圧(Ed)が減少し、また、局所での反応生成水の排出/電極内の均等分配が出来れば、抵抗過電圧(Er)が減少し、その結果、個別の区画が関与して得られる電圧(Ei)及び電極全体として計測される電位(E)が増加するはずである。
【0100】
まず、発電条件1の「ドライ条件、背圧無し」(
図27(a)参照。)においては、0.6A/cm
2での電池出力が実施例1で0.522×0.6W/cm
2、実施例2で0.551×0.6W/cm
2と、比較例の0.452×0.6W/cm
2と比較して明らかに高い。それにもかかわらず、ガス流入側(領域番号1~7)では、いずれの場合でも、同程度の低い電流密度しか得られないことがわかった。これは、ドライ条件のガスを用いたことから多孔質体層(特にガス流入側の領域における多孔質体層)が乾燥し過ぎることに起因していると考えられる。しかし、実施例1及び実施例2では反応生成水が中間領域(領域番号7~16)を有効に加湿することから、比較例に比べ高電流密度をもたらし、上述の高い電池出力をもたらしている。こうなった理由は、本発明におけるガス流路用溝のパターンによる反応ガスの供給/排出能が改善できたことから活性化過電圧(Ea)及びガス拡散過電圧(Ed)が減少したこと、並びに、反応生成水の排出及び電極内の均等分配ができた結果、抵抗過電圧(Er)が減少し、個別の区画が関与して得られる電圧(Ei)及び電極全体として計測される電位(E)の増加につながったと判断される。
【0101】
次に、発電条件2の「ドライ条件、背圧有り」(
図27(b)参照。)においても、2.0A/cm
2での電池出力が実施例1で0.519×2W/cm
2、実施例2で0.554×2W/cm
2であり、比較例の0.436×2W/cm
2よりも高かった。発電条件2においては、発電条件1でのいずれの結果よりも電池出力の高出力化を図ることができた。これは、背圧付与の効果により発電量そのものが増大するとともに、発電で生成する水分量が増大する結果、多孔質体層の乾燥が抑制され電池出力が高くなるためである。また、発電条件2における実施例1及び実施例2の電流密度分布は、発電条件2における比較例の電流密度分布並びに発電条件1における実施例1、実施例2及び比較例の電流密度分布と比べ、発電領域がガス流入側(領域番号1~10)に明らかにシフトしている。実施例1及び実施例2の場合には、特に相対的に短い長さを有するガス流入側溝の作用により、ガス流入側の領域での発電で生成する水分が多くなり、この領域での多孔質体層の乾燥がより一層抑制され、活性化過電圧(Ea)及びガス拡散過電圧(Ed)の減少により、電極全体として一層高い電池出力が得られたと考えられる。
【0102】
次に、発電条件3の「ウェット条件、背圧無し」(
図27(c)参照。)においても、実施例1、実施例2及び比較例のいずれの場合でも、発電条件1の場合よりも電池出力を高くできることがわかった。この結果は、ウェット条件を採用した効果によりガス流入側(領域番号1~10)の多孔質体層の乾燥が抑制され、これらの領域の電流密度が増大することで、電池出力が高くなることに起因することがわかった。比較例に比べ、実施例1及び実施例2においては、そのガス流路用溝のパターンにより、電極全面へのガス供給及び加湿の効果が広がったため、各区画の電位(Ei)が改善され、したがって電極電位(E)も改善され、電池出力向上がもたらされた。
【0103】
[変形例1~4]
本発明における複数のガス流路用溝のパターンは、上記した各実施形態で説明したものに限られない。
図28は、変形例1に係る燃料電池用セパレータ23Jの平面図である。
図29は、変形例2に係る燃料電池用セパレータ23Kの平面図である。
図30は、変形例3に係る燃料電池用セパレータ23Lの平面図である。
図31は、変形例4に係る燃料電池用セパレータ23Mの平面図である。
【0104】
変形例1に係る燃料電池用セパレータ23Jの燃料電池用ガス供給拡散層42Jにおいては、異なる長さを有する2種以上の(この場合2種の)ガス流入側溝53p,53qが形成されており、このうち長い2本のガス流入側溝53qが燃料電池用ガス供給拡散層42Jのx方向全体に渡って形成されている連通溝56fと連通している(
図28参照。)。連通溝56fは、ガスの流れの方向に沿って形成されている追加の溝53r,53sと連通している。なお、変形例1に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Jにおいてはガス流出側溝54mは全て同じ長さであるが、本発明はこれに限られず、ガス流出側溝54mとは長さが異なるガス流出側溝を有していてもよい。
【0105】
変形例2に係る燃料電池用セパレータ23Kの燃料電池用ガス供給拡散層42Kにおいては、異なる長さを有する2種以上の(この場合2種の)ガス流入側溝53t,53uが形成されており、このうち長い2本のガス流入側溝53uが燃料電池用ガス供給拡散層42Kを3つの領域に区分するような構成となっている(
図29参照。)。中継用溝55u等の中継用溝は、ガス流入側溝53uにより区分された領域にそれぞれ形成されている連通溝56g~56i等の連通溝と連通している。なお、変形例2に係る燃料電池用ガス供給拡散層42Kにおいてはガス流出側溝54nは全て同じ長さであるが、ガス流出側溝54nとは長さが異なるガス流出側溝を有していてもよい。
【0106】
変形例3に係る燃料電池用セパレータ23Lの燃料電池用ガス供給拡散層42Lにおいては、単に長さが異なる溝が形成されているだけではなく、ガス流入側溝53v、ガス流出側溝54o及び中継用溝55vのような多段階に渡って分岐又は合流する溝が形成されている(
図30参照)。
図30においては、多段階に渡る分岐や合流の例示として、ガス流入側溝53vが分岐する場所を、符号Vを付した破線で囲んで強調している。
【0107】
変形例4に係る燃料電池用セパレータ23Mの燃料電池用ガス供給拡散層42Mにおいては、複数のガス流路用溝の基本的なパターンは、基本的には実施形態1に係る燃料電池用セパレータ23Aの燃料電池用ガス供給拡散層42Aと同様である。しかし、変形例4におけるガス流入用溝53w,53x、ガス流出用溝54q,54r及び中継用溝55x~55zは、それぞれジグザグ状に形成されている。なお、本発明においては、ガス流路用溝は、ウェーブ状や円弧状に形成されていてもよい。さらに、本発明においては、ガス流路用溝は、幅が変化する形状であってもよい。つまり、本発明においては、ガス流路用溝は直線状以外の形状で形成されていてもよい。このように、本発明における複数のガス流路用溝のパターンは、本発明の効果を損なうような形態でなければ、個々の事情等に応じて任意の形状に形成することができる。
【0108】
[変形例5]
上記した各実施形態においては、膜電極接合体として、燃料電池用ガス供給拡散層とほぼ同じ面積の触媒層85を有する膜電極接合体81を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。膜電極接合体として、燃料電池用ガス供給拡散層よりも小さい面積の触媒層85を有する膜電極接合体を用いてもよい。
【0109】
[変形例6]
上記した各実施形態においては、ガス流路用溝として、多孔質体層40(又はガス流路用溝)の表面のガス流路用溝の幅と、ガス流路用溝の底のガス流路用溝の幅とが等しく、断面が長方形状のガス流路用溝を用いたが(
図5及び
図8参照。)、本発明はこれに限定されるものではない。溝の底が表面よりも狭い断面三角形状のガス流路用溝であってもよいし、溝の底が表面よりも狭い断面半円形状のガス流路用溝であってもよいし、その他の形状のガス流路用溝であってもよい。
【0110】
[変形例7]
上記した各実施形態においては、ガス拡散層として、一方の面にガス流路用溝が形成された多孔質体層40を備える燃料電池用ガス供給拡散層を用いたが(
図4参照。)、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、一方の面にガス流路用溝が形成された多孔質体層40と、当該多孔質体層40の他方の面に配設されたマイクロポーラスレイヤとを備える燃料電池用ガス供給拡散層を用いることもできる。このような構成とした場合には、マイクロポーラスレイヤを備えない膜電極接合体を用いてセパレータを構成することができるようになる。
【0111】
[変形例8]
上記した各実施形態においては、ガス遮蔽板として金属板30を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。金属板30以外の、ガスを遮蔽する性質をもった材料からなる板(例えば、導電性の微粒子及び樹脂からなる導電性複合素材板や、集電シートと組み合わせたセラミックス板又は樹脂板)を用いることもできる。
【0112】
なお、各変形例に記載の特徴は、本発明のガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置の全般に適用可能である。例えば、各変形例に記載の特徴は、タイプCAの燃料電池用セパレータ21、タイプCWの燃料電池用セパレータ24、タイプAの燃料電池用セパレータ22、タイプAWの燃料電池用セパレータ25、これら燃料電池用ガス供給拡散層を備えた燃料電池用セパレータ及び燃料電池セルスタックにも適用可能である。
【0113】
[変形例9]
本発明のガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置は、電気分解のために用いることもできる。
【0114】
以上、本発明のガス拡散層、セパレータ及び電気化学反応装置を、図示の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。
【符号の説明】
【0115】
20…燃料電池セルスタック、21,22,22A,23A~23L,24,25…燃料電池用セパレータ、27A,27B…集電板、28A,28B…絶縁シート、30…金属板、32…緻密枠、33…ガスケット、40…多孔質体層、41,41A,42,42A~42L…燃料電池用ガス供給拡散層、43…ガス拡散層、51…ガス流入側段差、52…ガス流出側段差、53…ガス流路用溝、53a~53q,53t~53x…ガス流入側溝、53r,53s…追加の溝、54a~54q…ガス流出側溝、55a~55z…中継用溝、56a~56i…連通溝、57…流入通路、58…流出通路、61in…アノードガス流入口、61out…アノードガス流出口、62in…カソードガス流入口、62out…カソードガス流出口、63in…冷却水流入口、63out…冷却水流出口、71in…アノードガス供給口、71out…アノードガス排出口、72in…カソードガス供給口、72out…カソードガス排出口、73in…冷却水供給口、73out…冷却水排出口、75,76…エンドプレート、81…膜電極接合体、81A…フレーム、82…電解質膜、83…マイクロポーラスレイヤ、85…触媒層