(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】脳デトックス促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/216 20060101AFI20241128BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K31/216
A61P25/28
A61P43/00 105
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2023178840
(22)【出願日】2023-10-17
(62)【分割の表示】P 2019072323の分割
【原出願日】2019-04-04
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】西村 瞳
(72)【発明者】
【氏名】三澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 征輝
(72)【発明者】
【氏名】太田 宣康
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207790(WO,A1)
【文献】特開2018-039797(JP,A)
【文献】特開2018-052913(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150704(WO,A1)
【文献】J. Agric. Food Chem.,2012年,60,11625-11630
【文献】J. Agric. Food Chem.,2004年,52,4893-4898
【文献】宮前友策ら,カフェオイルキナ酸のアミロイドβ凝集阻害活性及び分子機構,天然有機化合物討論会講演要旨集,2011年,Vol.53,p.67-72,ISSN 2433-1856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするグリンパティックシステム促進剤。
【請求項2】
カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするグリンパティックシステム促進用食品
【請求項3】
カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするアクアポリン4発現促進剤。
【請求項4】
カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするアクアポリン4発現促進用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳内から老廃物を排出する脳デトックス促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳神経系細胞は体が消費するエネルギー全体の20-25%を消費しており、その過程
で大量の代謝物、すなわちタンパク質や乳酸などの水溶性物質や脂質などの親油性物質が
老廃物として排出されている(非特許文献1、非特許文献2)。
末梢での老廃物除去はリンパ系を介しておこなわれているが、脳にはリンパ系がないと
考えられていた。このためこれまで脳での老廃物除去は、脳細胞が自力で処理しているも
のと考えられていた。しかし近年、Glymphatic system(グリンパティ
ックシステム)と呼ばれる脳の老廃物除去システムが発見された(非特許文献1、2)。
脳脊髄液(CSF)は動脈を取り囲む空洞である動脈周囲腔を流れている。動脈周囲腔の
外壁はアストロサイトの足突起でできており、CSFはアストロサイトの足突起に発現す
る水チャネルであるアクアポリン4(Aquaporin4;AQP4)を通って、動脈
周囲腔からアストロサイト内に流れ込む。その後CSFはアストロサイトから浸み出し、
対流によって脳内を移動することで老廃物を回収し、静脈周囲腔に入り脳外へ排出され代
謝される(非特許文献1、2)。この老廃物除去システムによるCSFの輸送は、AQP
4を欠損させたマウスで大幅に低下すること(非特許文献3)、老廃物が蓄積したマウス
では血管周囲腔を取り囲むAQP4発現が低下すること(非特許文献4)が報告されてい
る。
【0003】
また、脳の老廃物排出は睡眠時に活性化され、脳の老廃物量は覚醒時よりも睡眠時のほ
うが多いことも見出されている(非特許文献1、2)。例えば、神経活動のマーカーとし
て利用されている脳組織中の乳酸(非特許文献5)は、組織中で産生された後、余剰分が
脳の老廃物排出システムで排出されることが報告されており(非特許文献6)、特に睡眠
時は覚醒時に比較して排出量が増加し日内変動があることが報告されている(非特許文献
7)。
【0004】
斯かる老廃物の排出は、脳の恒常性を維持しその機能を健全に保つ為に重要であるが、
斯かる排出機能は加齢とともに低下すると考えられている。例えば、老化及びアルツハイ
マー病モデルマウスでは、睡眠時の老廃物排出が低下しており、その結果脳に不要な老廃
物が蓄積されていることが報告されている(非特許文献4、6)。従って、脳の老廃物排
出を改善・促進する素材、すなわち脳デトックス促進剤は、老化に伴う脳機能低下の改善
に有用である。
【0005】
一方、カフェオイルキナ酸に代表されるクロロゲン酸類は、植物においてはコーヒー豆
等に見出され、これまでに血糖値上昇抑制作用(特許文献1)、感覚刺激増強作用(特許
文献2)、血液流動性改善による末梢での老廃物の排泄作用(特許文献3)が報告されて
いる。また、2個のカフェ酸がエステル結合したジ-O-カフェオイルキナ酸に神経細胞
保護作用があることが報告されている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、カフェオイルキナ酸に脳のデトックス効果があることは知られていない
。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-34636号公報
【文献】特開2006-104071号公報
【文献】特開2004-168749号公報
【文献】国際公開第2007/091613号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nedergaard M et al. 日経サイエンス 2016.7:72-77.
【文献】Jessen NA et al. Neurochem Res.2015.40:2583-2599.
【文献】Iliff JJ et al. Sci Transl Med.2012.4:147ra111.
【文献】Xu Z et al. Mol Neurodegener.2015.10:58.
【文献】Uehara T et al. Pharmacol Biochem Behav.2008.90:273-281
【文献】Roh JH et al. Sci Transl Med.2012.4:150ra122.
【文献】Lundgaard I et al. J Cereb Blood Flow Metab.2017.37:2112-2124.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性が高く持続的に摂取可能な脳デトックス促進剤を提供することに関す
る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、長期的に服用又は摂取することができる安全性の高い成分について、種
々検討した結果、カフェオイルキナ酸が睡眠時の海馬近傍間質液中の乳酸量を低下させ、
また海馬の脳血管周囲のAQP4発現量を増加させることから、グリンパティックシステ
ムの促進、すなわち脳デトックスを促進するために有用であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)~6)に係るものである。
1)カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とする脳デトックス促進剤。
2)カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とする脳デトックス促進用食品。
3)カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするグリンパティックシステム促進剤
。
4)カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするグリンパティックシステム促進用
食品。
5)カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするAQP4発現促進剤。
6)カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするAQP4発現促進用食品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脳デトックスを促進し、脳機能の維持又は改善に有用な、医薬品、食
品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】カフェオイルキナ酸による海馬近傍間質液中の乳酸量の変化を示す図。
【
図2】カフェオイルキナ酸による海馬の脳血管周囲のAQP4発現量の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の「カフェオイルキナ酸」(Caffeoylquinic acid)は、3
-カフェオイルキナ酸(3-CQA)、4-カフェオイルキナ酸(4-CQA)及び5-カ
フェオイルキナ酸(5-CQA)の総称であり、これらの1種以上を用いることができる
が、少なくも5-カフェオイルキナ酸を含むのが好ましい。
【0015】
本発明のカフェオイルキナ酸の塩としては、薬学的に許容される塩、例えばナトリウム
、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、モ
ノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩、ア
ルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0016】
本発明のカフェオイルキナ酸又はその塩は、これを含む植物の抽出物、その濃縮物又は
それらの精製物から取得することができるが、単離されたカフェオイルキナ酸又はその塩
のみならず、カフェオイルキナ酸又はその塩を多く含む当該植物の抽出物、その濃縮物又
はそれらの精製物を用いることもできる。カフェオイルキナ酸又はその塩を抽出、濃縮、
精製するための方法・条件は特に限定されず、公知の方法及び条件を採用することができ
る。なかでも、アスコルビン酸水溶液、クエン酸水溶液又は熱水による抽出が好ましい。
【0017】
カフェオイルキナ酸又はその塩を含む植物抽出物としては、例えば、ヒマワリ種子、リ
ンゴ未熟果、コーヒー豆、シモン葉、マツ科植物の球果、マツ科植物の種子殻、ジャガイ
モ、カンショ、サトウキビ、小麦、南天の葉、ゴボウ、ニンジン、キャベツ、レタス、ア
ーチチョーク、トマト、モロヘイヤ、ナスの皮、ナシ、プラム、モモ、アプリコット、チ
ェリー、ウメの果実、フキタンポポ、ブドウ科植物等から抽出されたものが挙げられる。
なかでも、カフェオイルキナ酸含量の点から、コーヒー豆抽出物が好ましく、焙煎コーヒ
ー豆でもよいが、浅焙煎コーヒー豆、微焙煎コーヒー豆、生コーヒー豆が好ましい。コー
ヒーの木の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種及びアラブスタ種のいず
れでもよい。
【0018】
本発明のカフェオイルキナ酸又はその塩としてコーヒー豆抽出物を用いる場合、カフェ
インを除去したものが好ましく、カフェインとカフェオイルキナ酸又はその塩との質量比
[カフェイン/カフェオイルキナ酸又はその塩(以下、カフェオイルキナ酸換算量)]が
、風味の観点から0.1以下が好ましく、0.06以下がより好ましく、0.04以下が
更に好ましい。なお、カフェイン/カフェオイルキナ酸又はその塩の比の下限は特に限定
されず、0であってもよい。
当該コーヒー豆抽出物は、カリウム(K)とナトリウム(Na)の和とカフェオイルキ
ナ酸又はその塩との質量比〔(K+Na)/カフェオイルキナ酸又はその塩〕が風味の観点
から、0.4以下、更に0.3以下、更に0.2以下、殊更に0.1以下が好ましい。な
お、質量比〔(K+Na)/カフェオイルキナ酸又はその塩〕の下限は特に限定されず、0
であってもよいが、生産効率の観点から、0.0002、更に0.002が好ましい。
【0019】
後記実施例1に示すように、カフェオイルキナ酸は、マウスにおいて睡眠時の海馬近傍
間質液中の乳酸量を低下させる作用を有する。脳において、乳酸はニューロンの活動に応
じてアストロサイトから産生されるエネルギー基質であり、ニューロンの活動や機能維持
にとって非常に重要である(Cell Metabo, 14:724-738, 2011)。このため脳組織中の乳
酸は神経活動のマーカーとして利用されており(前記非特許文献5)、脳(神経)が働く
覚醒時にはエネルギー基質が必要なため脳組織中濃度が高く、脳間質液中濃度が増加する
ことが報告されている(前記非特許文献6)。一方で、脳組織中で産生された後、利用さ
れず余剰となった乳酸は脳の老廃物排出システムで排出されることが報告されており(前
記非特許文献6)、特に睡眠時は覚醒時に比較して排出量が増加し、脳間質液中濃度が低
下する日内変動があることが報告されている(前記非特許文献7)。従って、脳間質液中
の乳酸量を測定し日内変動を観察することは脳の老廃物排出が正常に行われているか判断
する指標ともなり、脳の老廃物排出機能が低下したマウスでは、睡眠時の脳間質液中の乳
酸量が増加しており、その結果脳に不要な老廃物が蓄積されていることが報告されている
(前記非特許文献6)。
【0020】
また後記実施例2に示すように、カフェオイルキナ酸は、マウスにおいて海馬の脳血管
周囲のAQP4発現量を増加させる作用を有する。AQP4は血管周囲腔の外壁を構成す
るアストロサイトの足突起に発現しており、老廃物除去システム(グリンパティックシス
テム)によるCSFの輸送に非常に重要である(前記非特許文献1、2、3)。前述非特
許文献4では老廃物が蓄積したマウスでは血管周囲を取り囲むAQP4発現が低下するこ
とが報告されており、脳血管周囲のAQP4発現を観察することは脳の老廃物排出が正常
に行えるか、すなわちグリンパティックシステムが正常に機能するかを判断する指標とな
る。
【0021】
従って、睡眠時の脳間質液中の乳酸量を低下させる作用及び脳血管周囲のAQP4発現
を増加させる作用を有するカフェオイルキナ酸又はその塩は、脳デトックス促進剤、グリ
ンパティックシステム促進剤、AQP4発現促進剤(以下、「脳デトックス促進剤等」と
称す)となり得、脳デトックスを促進するため、グリンパティックシステムを促進するた
め、AQP4発現を促進するために使用することができ、また脳デトックス促進剤等を製
造するために使用することができる。
ここで、「使用」は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与又は摂取であり得、また治療的
使用であっても非治療的使用であってもよい。尚、「非治療的」とは、医療行為を含まな
い概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医
師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まな
い概念である。
【0022】
本発明において、「脳デトックス促進」とは、脳内に蓄積した各種代謝物や老廃物(例
えば、タンパク質、脂質、乳酸等)の脳内からの排出を促進して脳内蓄積を抑制すること
を意味する。
【0023】
また、「グリンパティックシステム促進」とは、血管周囲腔を介して脳から老廃物を排
出する仕組みであるグリンパティックシステムを促進して老廃物の脳内蓄積を抑制するこ
とを意味する。
【0024】
また、「AQP4発現促進」とは、AQP4mRNAへのAQP4遺伝子の転写を誘導
又は促進すること、AQP4タンパク質へのAQP4mRNAの翻訳を誘導又は促進する
ことが挙げられ、好ましくは脳血管周囲での発現を促進することが挙げられる。ここで、
AQP4は、水選択性のきわめて高いアクアポリン(AQP)ファミリーの一つであり、
脳内の水の輸送に関与する主要なAQPであるとされている。
【0025】
また、本発明において「脳機能」とは、特に高次脳機能を指し、具体的には、言語や行
為、知覚、認知、記憶、注意、判断、情動等、脳で営まれる様々な機能を意味する。
また、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又
は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0026】
本発明の脳デトックス促進剤等は、それ自体、脳デトックスを促進するための医薬品、
医薬部外品、サプリメント又は食品であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、又
は食品に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
当該食品には、脳デトックス促進、グリンパティックシステム促進、あるいはアクアポ
リン4発現促進をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品
、病者用食品、特定保健用食品、サプリメントが包含される。これらの食品は機能表示が
許可された食品であるため、一般の食品と区別することができる。
【0027】
上記医薬品(医薬部外品も含む)の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒
剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は注射剤、坐剤、吸入薬等による非経口投与
が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤は、本発明のカフェオイルキナ酸又は
その塩を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活
性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、本発明
の5-カフェオイルキナ酸又はその塩以外の薬効成分等を適宜組み合わせて調製すること
ができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与である。
【0028】
上記食品の形態としては、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料
、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種
食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ
等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0029】
種々の形態の食品は、本発明のカフェオイルキナ酸又はその塩を単独で、又は他の食品
材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、香科、安定剤、
着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、カフェオイルキナ酸又はその塩以外の有効成分等
を適宜組み合わせて調製することができる。
上記の医薬品(医薬部外品を含む)や食品中の本発明のカフェオイルキナ酸又はその塩
の含有量は、その使用形態により適宜決定することができる。
例えば、食品若しくは経口投与製剤で且つ錠剤、顆粒剤、丸剤、散剤、グミ剤等の固形
の場合は、カフェオイルキナ酸量換算で0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以
上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。また、90質量%以下が好ましい。食
品若しくは経口投与製剤で且つ液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、ゼリー
剤等の液体の場合は、カフェオイルキナ酸量換算で0.001質量%以上が好ましく、0
.003質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましい。また、90質
量%未満が好ましく、10質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。ま
た、好ましくは0.001~90質量%、より好ましくは0.003~10質量%、更に
好ましくは0.01~1質量%である。
【0030】
上記医薬品(医薬部外品も含む)及び食品の投与量又は摂取量は、適宜決定され得るが
、通常、成人(60kg)に対して1日あたり、カフェオイルキナ酸換算量として、好ま
しくは30mg以上、より好ましくは100mg以上であり、また、好ましくは1000
mg以下、より好ましくは300mg以下である。本発明では斯かる量を1回で投与又は
摂取するのが好ましい。
【0031】
上記製剤は、任意の計画に従って投与又は摂取され、投与又は摂取期間は特に限定され
ないが、反復・連続して投与又は摂取することが好ましく、7日間以上連続して投与又は
摂取することがより好ましく、28日間以上連続して投与又は摂取することが更に好まし
い。
【0032】
投与又は摂取対象としては、脳機能低下の予防又は改善、脳デトックス促進、又はグリ
ンパティックシステム促進を必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物であれば特
に限定されないが、ヒトにおける投与又は摂取が有効である。
【0033】
上述した実施形態に関し、本発明においては以下の態様が開示される。
<1>カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とする脳デトックス促進剤。
<2>カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とする脳デトックス促進用食品。
<3>カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするグリンパティックシステム促進
剤。
<4>カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするグリンパティックシステム促進
用食品
<5>カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするAQP4発現促進剤。
<6>カフェオイルキナ酸又はその塩を有効成分とするAQP4発現促進用食品。
【0034】
<7>脳デトックス促進剤を製造するための、カフェオイルキナ酸又はその塩の使用。
<8>脳デトックス促進用食品を製造するための、カフェオイルキナ酸又はその塩の使
用。
<9>グリンパティックシステム促進剤を製造するための、カフェオイルキナ酸又はそ
の塩の使用。
<10>グリンパティックシステム促進用食品を製造するための、カフェオイルキナ酸
又はその塩の使用。
<11>AQP4発現促進剤を製造するための、カフェオイルキナ酸又はその塩の使用
。
<12>AQP4発現促進用食品を製造するための、カフェオイルキナ酸又はその塩の
使用。
【0035】
<13>脳デトックス促進に使用するための、カフェオイルキナ酸又はその塩。
<14>脳デトックスを促進するための、カフェオイルキナ酸又はその塩の非治療的使
用。
<15>グリンパティックシステム促進に使用するための、カフェオイルキナ酸又はそ
の塩。
<16>グリンパティックシステムを促進するための、カフェオイルキナ酸又はその塩
の非治療的使用。
<17>AQP4発現促進に使用するための、カフェオイルキナ酸又はその塩。
<18>AQP4発現を促進するための、カフェオイルキナ酸又はその塩の非治療的使
用。
【0036】
<19>カフェオイルキナ酸又はその塩を、それらを必要とする対象に有効量で投与又
は摂取する脳デトックス促進方法。
<20>カフェオイルキナ酸又はその塩を、それらを必要とする対象に有効量で投与又
は摂取するグリンパティックシステム促進方法。
<21>カフェオイルキナ酸又はその塩を、それらを必要とする対象に有効量で投与又
は摂取するアクアポリン4発現促進方法。
【0037】
<22><1>、<3>、<5>、<7>、<9>又は<11>の剤、<2>、<4>
、<6>、<8>、<10>又は<12>の食品における、前記有効成分の含有量は、食
品若しくは経口投与製剤で且つ錠剤、顆粒剤、丸剤、散剤、グミ剤等の固形の場合は、カ
フェオイルキナ酸量換算で0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ま
しく、1質量%以上が更に好ましい。また、90質量%以下が好ましい。食品若しくは経
口投与製剤で且つ液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、ゼリー剤等の液体の
場合は、カフェオイルキナ酸量換算で0.001質量%以上が好ましく、0.003質量
%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましい。また、90質量%未満が好
ましく、10質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。また、好ましく
は0.001~90質量%、より好ましくは0.003~10質量%、更に好ましくは0
.01~1質量%である。
<23><13>~<21>において、成人1人当たりの1日の投与量は、カフェオイ
ルキナ酸として、好ましくは30mg以上、より好ましくは100mg以上であり、また
、好ましくは1000mg以下、より好ましくは300mg以下である。
【実施例】
【0038】
実施例1 カフェオイルキナ酸(5-CQA)の脳デトックス促進作用
(1)製造例 動物用飼料の調製
本試験に用いた試験食(粉末飼料)中の餌組成を表1に示す。通常食は61.5%ポテ
トスターチ、5-CQA食は配合する5-CQA相当量のポテトスターチを5-CQA(
Cayman Chemical)に置き換えることで作製した。それ以外の成分(カゼ
イン、セルロース、ミネラル、ビタミン)は通常食と5-CQA食で同一量とした。試験
食中のコーン油、ラード、カゼイン、セルロース、AIN76ミネラル混合、AIN76
ビタミン混合、ポテトスターチはオリエンタル酵母工業(株)社製を使用した。
【0039】
【0040】
(2)動物及び飼育方法
アルツハイマー病モデルマウスであるAPP/PS2ダブルトランスジェニックマウス
(APP/PS2WTg)の作出には、B6;SJLをバックグランドとしたヒトアミロ
イド前駆体蛋白質(APP)のK670NとM671L変異(スェーデン型変異)を全身
に有するAPP-Tgマウス(Taconic Biosciences)と、C57B
L/6Jマウスをバックグラウンドとしたヒトプレセニン2(PS2)のN141変異を
全身に有するPS2-Tgマウス(オリエンタル酵母)を使用した。雄性APP-Tgマ
ウス(10週齢以上)より採取した精子と、雌性PS2-Tgマウス(4週齢以上)の卵
母細胞を体外受精に供し、APP/PS2WTgマウスを作出した。試験には10週齢の
雄性APP/PS2WTgを用い、実験群には製造例で調製した5-CQAを0.8質量
% 配合した5-CQA食を、コントロール群には標準食を4か月間摂取させた(各n=
4-5)。
【0041】
(3)海馬近傍間質液中の乳酸量の測定
試験は試験食摂取4ヶ月後に行った。イソフルラン(アボットジャパン)麻酔下で脳定
位固定装置を用いて海馬(A:-3.1、L:+2.5、V:-1.3mm)にマイクロダ
イアリシス用ガイドカニューレ(エイコム(株))を挿入した。手術後、4日以上の回復
期間の後、マイクロダイアリシス用プローブ(PEP-4-3、半透膜3mm、エイコム
(株))を装着し、0.15%のBovine serum Albumin(Sigm
a-Aldrich)を添加した人工脳脊髄液(NaCl:145mM,KCl:12.
7mM,CaCl2:1.2mM,MgCl2:1.0mM)を10μl/minで灌流
させ、灌流開始から3時間後に灌流速度を1μl/minに変更し、1時間間隔で海馬間
質液のサンプリングを行った。なお20:00~1:00のサンプルを覚醒時、8:00
~13:00のサンプルを睡眠時とした。海馬間質液中の乳酸はLactate Col
orimetric /Fluorometric Assay kit(Bio Vi
sion)を用いて測定した。
【0042】
(4)統計解析
解析結果は平均値(Ave.)±標準誤差(SE)で示した。対照群と5-CQA群の
平均値の比較にはunpaired Student’s t-testを用い、P値が
0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。
【0043】
(5)結果
覚醒時の乳酸値は、対照群と5-CQA群で変化はなかった。一方、睡眠時の乳酸値は
対照群と比較して5-CQA群で有意に低下しており、5-CQAにより睡眠時の脳デト
ックス機能が促進していることが明らかとなった(
図1)。
【0044】
実施例2 カフェオイルキナ酸(5-CQA)の脳血管周囲のAQP4発現増加作用
(1)海馬の脳血管周囲のAQP4発現量の測定
実施例1と同様の動物を用いた。試験食摂取4ヶ月後にイソフルラン(アボットジャパ
ン)深麻酔下で、氷冷下のヘパリン(5U/mL)を含有したPBS及び4%パラホルム
アルデヒド・リン酸緩衝液(PFA)を約3mL/minの速度で計15mL灌流した。
灌流後、全脳を摘出し、4%PFAに浸漬後冷蔵保存し固定した。固定した脳を用い、パ
ラフィンブロックを作製した。パラフィンブロック作製後、背側海馬領域について3μm
厚のパラフィン切片を作製した。脳切片は脱パラフィン化し、アルコール及び流水、TB
Sで洗浄した。その後Proteinase Kによる賦活化を行い、TBSで洗浄した
。次にメタノールに1%過酸化水素水を加えた溶液に浸した後、TBSで洗浄した。スキ
ムミルクにてブロッキングを行い、抗AQP4抗体(1:500、Millipore)
を用いて一次抗体反応を行った。反応後TBSで洗浄し、ビオチン標識二次抗体を用いて
二次抗体反応を行った。反応後TBSで洗浄し、ABC法にて感度の増幅を行った。反応
後TBSで洗浄し、DABにて発色反応を行った。ヘマトキシリンで核染色を行った後、
流水で洗浄し脱水、透徹、封入し、スライドサンプルを作製した。観察はオールインワン
顕微鏡(BZX-710、キーエンス)を用いて行い、付属の解析ソフト(BZ-IIア
プリケーション)にて海馬領域の染色含有面積と血管周囲の染色含有面積を算出し、血管
周囲のAQP4発現量割合を算出した。1個体につき6切片の平均染色含有面積値をその
個体の値とした。
【0045】
(2)統計解析
解析結果は平均値(Ave.)±標準誤差(SE)で示した。対照群と5-CQA群の
平均値の比較にはunpaired Student’s t-testを用い、P値が
0.05以下の場合においては統計学的に有意差ありと判定した。
【0046】
(3)結果
観察像(
図2)から、海馬の脳血管周囲におけるAQP4発現が対照群と比較して5-
CQA群で明らかに増加している様子がわかり、またAQP4発現割合の算出から有意な
増加が認められた(
図2)。