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特許7595165非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体及びその製造方法、並びに非燃焼加熱型香味吸引器
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  • 特許-非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体及びその製造方法、並びに非燃焼加熱型香味吸引器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体及びその製造方法、並びに非燃焼加熱型香味吸引器
(51)【国際特許分類】
   A24D 1/20 20200101AFI20241128BHJP
   A24B 15/28 20060101ALI20241128BHJP
   A24F 40/20 20200101ALI20241128BHJP
【FI】
A24D1/20
A24B15/28
A24F40/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023528876
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2021023025
(87)【国際公開番号】W WO2022264356
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 亮祐
【審査官】杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-506276(JP,A)
【文献】特開昭63-198964(JP,A)
【文献】特表2011-504733(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0014576(US,A1)
【文献】米国特許第6164287(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24D 1/20
A24B 15/28
A24F 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エアロゾル源と、を含む非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体であって、
錠剤硬度計を用いて測定される、前記香味成型体の杭型プランジャによる圧縮破断強度が10N以上である、香味成型体。
【請求項2】
前記吸着材が活性炭である、請求項1に記載の香味成型体。
【請求項3】
前記吸着材が複数の粒子から構成され、前記粒子が前記香味成型体中に2つ以上含まれる、請求項1又は2に記載の香味成型体。
【請求項4】
前記香味成型体の表面に前記吸着材が露出していない、請求項1~3のいずれか一項に記載の香味成型体。
【請求項5】
前記揮発性香料成分が、フェネチルアセテート、エチルヘキサネート、イソアミルアセテート、ベンジルアセテート、エチルオクタネート、オレイン酸エチル、フェネチルアルコール、アセトアニソール、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、メントール、カルボン、ケイヒ酸、シンナムアルデヒド、シナミルアルコール、バニリン、エチルバニリン、シトロネロール、2,5-ジメチルピラジン、リモネン、フラネオール、シクロテン、デカン酸、イソ吉草酸エチル、吉草酸、パルミチン酸、サリチル酸エチル、ゲラニオール、グアイアコール、βイオノン、リナロール、酢酸リナリル、ネロリドール、ピペロナール、ソトロン、α-ターピネオール、メガスティグマトリエノン、ダマセノン及びネオフタジエンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の香味成型体。
【請求項6】
前記エアロゾル源が、グリセリン及びプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の香味成型体。
【請求項7】
前記香味成型体がタブレット形状を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の香味成型体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の香味成型体を収容する香味源収容体と、
電源部を備える電源ユニットと、
前記電源部から電力の供給を受けて前記香味源収容体内の前記香味成型体を加熱する加熱部と、
を備える非燃焼加熱型香味吸引器。
【請求項9】
前記吸着材が活性炭であり、
前記非燃焼加熱型香味吸引器がマイクロ波加熱型香味吸引器又は誘導加熱型香味吸引器である、請求項8に記載の非燃焼加熱型香味吸引器。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の香味成型体の製造方法であって、
たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エタノールと、エアロゾル源と、を混合して混合物を形成する工程と、
前記混合物を圧縮成型する工程と、
前記混合物から前記エタノールの少なくとも一部を除去する工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体及びその製造方法、並びに非燃焼加熱型香味吸引器に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼型香味吸引器(シガレット)では、葉たばこを含むたばこ充填物を燃焼して香味を得る。該燃焼型香味吸引器の代替として、たばこ材料を含む香味源を燃焼する代わりに加熱して香味を得る非燃焼加熱型香味吸引器が提案されている。非燃焼加熱型香味吸引器の加熱温度は、燃焼型香味吸引器の燃焼温度より低く、例えば約400℃以下である。このように、非燃焼加熱型香味吸引器の加熱温度は低いため、煙量を増加させる観点から、非燃焼加熱型香味吸引器では香味源にグリセリン等のエアロゾル発生剤が添加される。エアロゾル発生剤は加熱により気化し、エアロゾルを発生する。該エアロゾルはたばこ成分等の香味成分を伴い使用者に供給されるため、使用者は十分な香味を得ることができる。例えば特許文献1には、燃焼型香味吸引器用の香味源が開示されている。また、特許文献2には、非燃焼加熱型香味吸引器用の香味源が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-198964号公報
【文献】特表2021-503295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非燃焼加熱型香味吸引器用の香味源は以下の課題を有する。非燃焼加熱型香味吸引器用の香味源が粉末状である場合、使用時に該香味源をポットや巻紙に充填する必要があり、また該香味源は通常べとつきを有するため、取り扱い性の向上が望まれている。一方、非燃焼加熱型香味吸引器用の香味源がたばこシートである場合、たばこシートはたばこロッド部に充填され、使用時に加熱されるが、使用後(加熱後)に強度が低下し、その形状を維持できずにボロボロになるため、後処理が困難である。さらに、非燃焼加熱型香味吸引器用の香味源において、使用全体を通して香料成分が安定して揮発することが望まれている。
【0005】
本発明は、取り扱い性が良好であり、使用後も強度が高く、使用全体を通して香料成分が安定して揮発する非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体及びその製造方法、並びに非燃焼加熱型香味吸引器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の実施態様を含む。
【0007】
[1]たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エアロゾル源と、を含む非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体であって、
錠剤硬度計を用いて測定される、前記香味成型体の杭型プランジャによる圧縮破断強度が10N以上である、香味成型体。
【0008】
[2]前記吸着材が活性炭である、[1]に記載の香味成型体。
【0009】
[3]前記吸着材が複数の粒子から構成され、前記粒子が前記香味成型体中に2つ以上含まれる、[1]又は[2]に記載の香味成型体。
【0010】
[4]前記香味成型体の表面に前記吸着材が露出していない、[1]~[3]のいずれかに記載の香味成型体。
【0011】
[5]前記揮発性香料成分が、フェネチルアセテート、エチルヘキサネート、イソアミルアセテート、ベンジルアセテート、エチルオクタネート、オレイン酸エチル、フェネチルアルコール、アセトアニソール、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、メントール、カルボン、ケイヒ酸、シンナムアルデヒド、シナミルアルコール、バニリン、エチルバニリン、シトロネロール、2,5-ジメチルピラジン、リモネン、フラネオール、シクロテン、デカン酸、イソ吉草酸エチル、吉草酸、パルミチン酸、サリチル酸エチル、ゲラニオール、グアイアコール、βイオノン、リナロール、酢酸リナリル、ネロリドール、ピペロナール、ソトロン、α-ターピネオール、メガスティグマトリエノン、ダマセノン及びネオフタジエンからなる群から選択される少なくとも一種である、[1]~[4]のいずれかに記載の香味成型体。
【0012】
[6]前記エアロゾル源が、グリセリン及びプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも一種である、[1]~[5]のいずれかに記載の香味成型体。
【0013】
[7]前記香味成型体がタブレット形状を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の香味成型体。
【0014】
[8][1]~[7]のいずれかに記載の香味成型体を収容する香味源収容体と、
電源部を備える電源ユニットと、
前記電源部から電力の供給を受けて前記香味源収容体内の前記香味成型体を加熱する加熱部と、
を備える非燃焼加熱型香味吸引器。
【0015】
[9]前記吸着材が活性炭であり、
前記非燃焼加熱型香味吸引器がマイクロ波加熱型香味吸引器又は誘導加熱型香味吸引器である、[8]に記載の非燃焼加熱型香味吸引器。
【0016】
[10][1]~[7]のいずれかに記載の香味成型体の製造方法であって、
たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エタノールと、エアロゾル源と、を混合して混合物を形成する工程と、
前記混合物を圧縮成型する工程と、
前記混合物から前記エタノールの少なくとも一部を除去する工程と、
を含む、方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、取り扱い性が良好であり、使用後も強度が高く、使用全体を通して香料成分が安定して揮発する非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体及びその製造方法、並びに非燃焼加熱型香味吸引器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る誘導加熱型香味吸引器の一例を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器の一例を示す模式図である。
図3】実施例において、誘導加熱型香味吸引器を用いた経時におけるTPM量の測定方法を示す模式図である。
図4】実施例3において、外部加熱型香味吸引器を用いて経時におけるTPM量の測定した結果を示すグラフである。
図5】実施例3において、誘導加熱型香味吸引器を用いて経時におけるTPM量の測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体]
本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体(以下、香味成型体ともいう。)は、たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エアロゾル源と、を含む。ここで、錠剤硬度計を用いて測定される、前記香味成型体の杭型プランジャによる圧縮破断強度は10N以上である。
【0020】
本実施形態に係る香味成型体は、成型体としてある一定のサイズの形状を有しているためべとつきが抑制され、また高い強度を有するためそのままでも扱いやすく、ポットや巻紙に充填する必要がない。また、本実施形態に係る香味成型体は被加熱面において炭化層を形成し破断強度が向上するため、使用後(加熱後)も強度が高い。そのため、使用後も成型体の形状を十分に維持でき、後処理しやすい。さらに、本実施形態に係る香味成型体では揮発性香料成分が活性炭等の吸着材に吸着されているため、加熱により吸着材から揮発性香料成分が徐々に放出され、使用全体を通して香料成分が安定して揮発する。また、吸着材に吸着されることで成型体中の水分量を抑制できるため、成型時に成形しやすい。
【0021】
(たばこ粉末原料)
たばこ粉末原料としては、例えば葉たばこ、たばこの葉脈部、幹部、根、花等が裁刻等され、粉末状になったものが挙げられる。前記葉たばこの種類は特に限定されず、例えば黄色種、バーレー種、在来種、オリエント葉等や、それらの発酵葉等であることができる。これらのたばこ粉末原料は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0022】
前記たばこ粉末原料の平均粒子径は特に限定されないが、100μm以下であることが好ましい。前記平均粒子径が100μm以下であることにより、より高い強度を有する香味成型体が得られる。前記平均粒子径は5~80μmが好ましく、10~60μmがより好ましく、20~50μmがさらに好ましい。なお、前記平均粒子径は光散乱法を用いて測定される。
【0023】
(揮発性香料成分、吸着材)
揮発性香料成分としては、特に限定されないが、例えばフェネチルアセテート、エチルヘキサネート、イソアミルアセテート、ベンジルアセテート、エチルオクタネート、オレイン酸エチル、フェネチルアルコール、アセトアニソール、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、メントール、カルボン、ケイヒ酸、シンナムアルデヒド、シナミルアルコール、バニリン、エチルバニリン、シトロネロール、2,5-ジメチルピラジン、リモネン、フラネオール、シクロテン、デカン酸、イソ吉草酸エチル、吉草酸、パルミチン酸、サリチル酸エチル、ゲラニオール、グアイアコール、βイオノン、リナロール、酢酸リナリル、ネロリドール、ピペロナール、ソトロン、α-ターピネオール、メガスティグマトリエノン、ダマセノン、ネオフタジエン等が挙げられる。これらの揮発性香料成分は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
前記揮発性香料成分は、吸着材に吸着されている。すなわち、揮発性香料成分は吸着材に保持されており、例えば吸着材が有する細孔内に吸着され、保持されていることができる。吸着材としては、例えば活性炭、シリカゲル、イオン交換樹脂、モレキュラーシーブ、ゼオライト等が挙げられる。これらの吸着材は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも吸着材としては、揮発性香料成分を十分に保持することができ、かつ、後述するように非燃焼加熱型香味吸引器がマイクロ波加熱型香味吸引器又は誘導加熱型香味吸引器である場合に、加熱時に自身が発熱して使用初期における香料成分の揮発量を増加させることができる観点から、活性炭が好ましい。なお、燃焼型香味吸引器用の香味源では、活性炭は、燃焼により一酸化炭素が発生する可能性があるため通常用いられない。
【0025】
吸着材の比表面積は、揮発性香料成分を十分に保持できる観点から、500~3000m/gであることが好ましく、700~2500m/gであることがより好ましい。なお、該比表面積はBET法により測定される。吸着材が吸着する揮発性香料成分の量は、吸着材100質量部に対して1~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。香味成型体に含まれる、揮発性香料成分を吸着している吸着材の量は、たばこ粉末原料100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態では、吸着材が複数の粒子から構成され、前記粒子が香味成型体中に2つ以上含まれることが好ましい。香味成型体中に吸着材粒子が2つ以上含まれることで、香味成型体中に吸着材粒子が分散し、パフ毎における香味成分の揮発量がより安定化する。吸着材粒子の平均粒子径は特に限定されないが、例えば0.3~2.0mmであることができる。なお、前記平均粒子径は乾式篩法を用いて測定される。
【0027】
また、本実施形態では、香味成型体の表面に吸着材が露出していないことが好ましい。香味成型体の表面に吸着材が露出していないことで、外観が良好となり、また香味成型体を成型する際に活性炭等の吸着材が成型機に付着せず、製造効率が向上する。例えば、吸着材を含む香味成型体の表面を、吸着材を含まない香味成型体の成分で覆うことで、表面に吸着材が露出していない香味成型体を得ることができる。なお、香味成型体の表面に吸着材が露出していないことは目視により確認できる。
【0028】
(エアロゾル源)
エアロゾル源としては、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらのエアロゾル源は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。香味成型体に含まれるエアロゾル源の量は、たばこ粉末原料100質量部に対して5~30質量部であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。
【0029】
(その他の成分)
本実施形態に係る香味成型体は、前記たばこ粉末原料、前記揮発性香料成分を吸着している前記吸着材、前記エアロゾル源以外にも、例えばセルロース粉末、チャ粉末、シソ科植物粉末、セリ科植物粉末等を含むことができる。
【0030】
(香味成型体の物性、形状等)
本実施形態に係る香味成型体は、錠剤硬度計を用いて測定される、杭型プランジャによる圧縮破断強度が10N以上である。該圧縮破断強度が10N以上であることにより、取り扱い性が良好であり、かつ使用後も強度が高くなる。該圧縮破断強度は10~200Nであることが好ましく、20~150Nであることがより好ましく、30~120Nであることがさらに好ましい。なお、該圧縮破断強度は、具体的には後述する方法により測定される加熱前の値である。
【0031】
本実施形態に係る香味成型体の形状は特に限定されないが、例えばタブレット形状、板状、円筒形状、棒状、球状、中空形状、多孔形状等であることができ、使用時の容易性、および強度維持の観点からタブレット形状であることが好ましい。香味成型体がタブレット形状である場合、その大きさは、例えば直径:5~15mm、高さ:5~10mmであることができる。
【0032】
[非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体の製造方法]
本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器用の香味成型体の製造方法は、以下の工程を含む。たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エタノールと、エアロゾル源と、を混合して混合物を形成する工程(以下、「原料混合工程」ともいう。);前記混合物を圧縮成型する工程(以下、「圧縮成型工程」ともいう。);前記混合物から前記エタノールの少なくとも一部を除去する工程(以下、「エタノール除去工程」ともいう。)。本実施形態に係る方法では、本実施形態に係る香味成型体を効率よく簡便に製造することができる。
【0033】
特に、本実施形態に係る方法では、原料混合工程においてエタノールを添加することにより、たばこ粉末原料由来の樹脂組成物がたばこ粉末原料の表面に移行し、該樹脂組成物を介してたばこ粉末原料等が互いに結合されるため、高い強度を有する香味成型体が得られると推測される。また、エタノールの添加によりたばこ粉末原料に含まれるセルロースの一部の水酸基が脱水し、近傍のセルロースと縮合することで、高い強度を有する香味成型体が得られると推測される。このように、本実施形態に係る方法では、成型時に一般的な結合剤(バインダー)を用いる必要がなく、また使用されるエタノールはそのほとんどが除去されるため、香味に影響を与えず、かつ高い強度を有する香味成型体を得ることができる。
【0034】
以下、本実施形態に係る方法における各工程について説明するが、本実施形態に係る方法は、原料混合工程、圧縮成型工程、エタノール除去工程以外の他の工程を含んでもよい。また、エタノール除去工程は、原料混合工程後であれば、圧縮成型工程中に行われてもよく、圧縮成型工程後に行われてもよい。
【0035】
(原料混合工程)
本工程では、たばこ粉末原料と、揮発性香料成分を吸着している吸着材と、エタノールと、エアロゾル源と、を混合して混合物を形成する。エタノールの混合量としては、たばこ粉末原料100質量部に対してエタノールを1~20質量部混合することが好ましい。たばこ粉末原料100質量部に対してエタノールを1質量部以上混合することにより、より高い強度を有する香味成型体が得られる。また、たばこ粉末原料100質量部に対してエタノールを20質量部以下混合することにより、容易に圧縮成型を行うことができる。本工程において、たばこ粉末原料100質量部に対してエタノールを3~17質量部混合することがより好ましく、5~15質量部混合することがさらに好ましい。
【0036】
本工程では、たばこ粉末原料、揮発性香料成分を吸着している吸着材、エタノール及びエアロゾル源以外にも、例えばセルロース粉末、チャ粉末、シソ科植物粉末、セリ科植物粉末等の他の成分をさらに混合することができる。特に、セルロース粉末は香味成型体の強度をより向上させることができる。原料を混合する方法は特に限定されないが、例えばV型混合機等の一般的な混合機を用いて混合することができる。
【0037】
(圧縮成型工程)
本工程では、前記原料混合工程で得られた混合物を圧縮成型する。圧縮成型に用いられる圧縮成型機は特に限定されないが、例えば回転式打錠機等が挙げられる。圧縮成型の条件は特に限定されないが、例えば2kN以上の圧縮圧力で成形することが好ましい。なお、前述したように、例えば圧縮成型中に前記エタノールの少なくとも一部が自然乾燥等により除去されてもよい。
【0038】
(エタノール除去工程)
本工程では、前記混合物から前記エタノールの少なくとも一部を除去する。ここで、前述したように、前記エタノールの少なくとも一部の除去は、前記圧縮成型工程中に前記混合物に対して行われてもよく、前記圧縮成型工程後に得られた成型体に対して行われてもよい。
【0039】
本工程では、10~40℃でエタノールの少なくとも一部を除去することが好ましい。10℃以上でエタノールの少なくとも一部を除去することにより、エタノールの除去を十分に行うことができる。また、40℃以下でエタノールの少なくとも一部を除去することにより、加熱による香味への影響を抑制することができる。エタノールの少なくとも一部を除去する際の温度は、15~35℃がより好ましく、20~30℃がさらに好ましい。10~40℃でエタノールの少なくとも一部を除去する場合、例えば10~40℃で30~180分間乾燥することで、エタノールの少なくとも一部を除去することができる。エタノールの少なくとも一部の除去は、例えば電気オーブン、熱風乾燥、トンネルドライヤー、自然乾燥等により実施することができる。また、エタノールの除去は密閉空間内ではなく、開放状態で行うことが好ましい。
【0040】
本工程により、前記混合物(成型体)に含まれるエタノールの90質量%以上が除去されることが好ましく、95質量%以上が除去されることがより好ましく、99質量%以上が除去されることがさらに好ましく、全てのエタノールが除去されることが特に好ましい。
【0041】
[非燃焼加熱型香味吸引器]
本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器は、本実施形態に係る香味成型体を収容する香味源収容体と、電源部を備える電源ユニットと、前記電源部から電力の供給を受けて前記香味源収容体内の前記香味成型体を加熱する加熱部と、を備える。本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器は、本実施形態に係る香味成型体を備えるため、使用全体を通して香料成分を安定して使用者に供給することができる。また、該香味成型体は取り扱い性が良好であり、使用後も強度が高いため後処理が容易である。
【0042】
前記非燃焼加熱型香味吸引器としては、マイクロ波加熱型香味吸引器又は誘導加熱型香味吸引器であることが好ましい。非燃焼加熱型香味吸引器がマイクロ波加熱型香味吸引器又は誘導加熱型香味吸引器である場合、香味成型体に含まれる吸着材は活性炭であることができる。非燃焼加熱型香味吸引器が加熱ヒーターを用いて伝熱により加熱する形式である場合、使用初期において香味源がエアロゾル発生に必要な温度まで到達するのにある程度時間がかかるため、使用初期における香味成分の揮発量が少ない。しかし、本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器がマイクロ波加熱型香味吸引器又は誘導加熱型香味吸引器であり、香味成型体に含まれる吸着材が活性炭である場合、加熱時に活性炭自身が発熱するため、使用初期においても活性炭がより早く高温になり、使用初期における香味成分の揮発量が増加する。したがって、使用全体を通して香料成分をより安定して揮発させることができる。
【0043】
本実施形態に係る誘導加熱型香味吸引器の一例を図1に示す。図1(a)に示される誘導加熱型香味吸引器1は、本実施形態に係る香味成型体2を収容する香味源収容体3と、電源部を備える電源ユニット4と、電源部から電力の供給を受けて香味源収容体3内の香味成型体2を誘導加熱する加熱部6と、加熱部6の温度制御を行う制御部5と、を備える。香味源収容体3は加熱部6のチャンバ7内に着脱可能であり、使用時、香味源収容体3は加熱部6のチャンバ7内に挿入される。制御部5からの指示により電源ユニット4の電源部より加熱部6へ電力が供給されることで、香味成型体2が誘導加熱により加熱される。
【0044】
図1(a)に示される誘導加熱型香味吸引器1の、加熱部6の拡大図を図1(b)に示す。加熱部6の誘導コイル8は、熱伝導率が高い放熱性の非磁性材料からなるモールド9に埋設されている。モールド9の外周には、電磁波の漏洩を遮蔽するための遮蔽層10が形成されている。また、図1(b)には示されていないが、モールド9の内側には、PEEK等の耐熱性樹脂層が形成されていてもよい。また、香味源収容体3は、香味源収容体3の非吸口端側の端面から吸口端側の端面へ流通可能な流路11を備える。香味源収容体3を加熱部6のチャンバ7内に挿入し、加熱部6での誘導加熱により香味成型体2を加熱して香味成分を伴うエアロゾルを発生させ、流路11を通じて使用者が吸引することにより、使用者にエアロゾル及び香味成分を供給することができる。誘導加熱による加熱温度は、150~400℃であることが好ましく、200~350℃であることがより好ましい。なお、加熱温度とは加熱部の温度を示す。
【0045】
本実施形態に係る非燃焼加熱型香味吸引器の他の一例を図2に示す。図2に示される非燃焼加熱型香味吸引器12は、本実施形態に係る香味成型体2をその内部に配置可能な原料室18と、バッテリー14と、バッテリー14から電力の供給を受けて香味成型体2を加熱するヒーター15と、ヒーター15の温度制御を行う制御部13と、マウスピース19とを備える。原料室18内において、香味成型体2は原料位置調整治具17により固定されている。本実施形態に係る香味成型体はべとつきが抑制され、また高い強度を有し扱いやすいため、ポットや巻紙に充填する必要がなく、例えばこのように原料室内に直接固定して配置することができる。制御部13からの指示によりバッテリー14よりヒーター15へ電力が供給されることでヒーター15が加熱される。ヒーター15からの熱は金属板16を介して香味成型体2へ伝わり、香味成型体2が加熱される。香味成型体2の加熱により香味成分を伴うエアロゾルが発生し、使用者がマウスピース19より吸引することで、使用者にエアロゾル及び香味成分が供給される。加熱温度は、150~400℃であることが好ましく、200~350℃であることがより好ましい。なお、加熱温度とはヒーターの温度を示す。
【実施例
【0046】
以下、本実施形態を実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されない。なお、加熱前後における圧縮破断強度の測定、経時におけるTPM量の測定、及び官能評価は、以下の方法により行った。
【0047】
[加熱前後における圧縮破断強度の測定]
作製した香味成型体に対して、錠剤硬度計を用いて杭型プランジャにより加熱前後における圧縮破断強度の測定を行った。加熱前の測定に関して、具体的には、室温(22℃)の香味成型体に対して杭型プランジャ(商品名:錠剤硬度計 TH-1、アズワン製)を徐々に下していき、香味成型体を圧縮して破断した際の強度を錠剤硬度計(商品名:錠剤硬度計 TH-1、アズワン製)を用いて3回測定した。3回測定した値の平均値を圧縮破断強度(N)とした。また、加熱後の測定に関して、具体的には、香味成型体を40℃で2時間加熱した後、室温まで冷却し、加熱前の測定と同様に圧縮破断強度を測定した。なお、杭型プランジャは測定試料との接触部側が円錐形状を有し、該円錐形状の頂点部分において測定試料を押圧するため、1点に高い圧力をかけることができる。
【0048】
[経時におけるTPM量の測定]
作製した香味成型体について、外部加熱型香味吸引器及び誘導加熱型香味吸引器を用いて以下の方法により経時におけるTPM量の測定を行った。
【0049】
(1)外部加熱型香味吸引器
作製した香味成型体を、外部加熱型香味吸引器であるPAX(商品名、PAX Labs製)の原料室に充填し、PAXの電源を入れることで香味成型体を外部から伝熱により加熱した。加熱により発生したエアロゾルを一定時間ごとに捕集し、捕集物の質量(総粒子状物質量(TPM量))を測定することにより評価した。
【0050】
(2)誘導加熱型香味吸引器
作製した香味成型体を、図3に示されるようにアルミニウム製のカップ20内に収容した。ここで、カップ20の底には微小な複数の通気孔が設けられており、カップ20の底にアルミニウム板(不図示)と、その上に香味成型体2が配置されるようにした。また、カップ20内に収容した香味成型体の質量は、前記(1)の外部加熱型香味吸引器において原料室内に充填した香味成型体の質量と同じにした。カップ20を誘導コイル8を備える誘導加熱装置内に配置し、香味成型体2を誘導加熱により加熱した。誘導加熱により発生したエアロゾルを一定時間ごとに捕集し、その質量(総粒子状物質量(TPM量))を測定することにより評価した。
【0051】
[官能評価]
作製した香味成型体300mgを、外部加熱型香味吸引器であるPAX3(商品名、PAX Labs製)の原料室に充填し、PAXの電源を入れることで香味成型体を外部から伝熱により加熱した。加熱により発生したエアロゾルを専門評価パネル7人が吸引し、1~10パフ(使用初期)、11~25パフ(使用中前期)、26~40パフ(使用中後期)、41~50パフ(使用後期)における官能評価をフリーでコメントを行うことで実施した。なお、前記7名の専門評価パネルは非燃焼加熱型香味吸引器の官能評価について訓練が十分に行われており、評価の閾値が等しく、専門評価パネル間で統一化されていることが確認されている。
【0052】
[実施例1]
香料組成(濃度比)(フェネチルアセテート:613質量ppm、エチルヘキサネート:341質量ppm、イソアミルアセテート:560質量ppm、ベンジルアセテート:350質量ppm、エチルオクタネート:632質量ppm、オレイン酸エチル:635質量ppm)を有する香料成分溶液10mlに対して、クラレコール(商品名、(株)クラレ製、粒子状活性炭、比表面積:500~2500m/g)1gを入れて30分間振盪した。回収した活性炭をアルミニウム皿に載せて60℃に設定したセラミックヒーターで60分間乾燥した。これにより、揮発性香料成分を吸着した活性炭(香料吸着活性炭)を調製した。該活性炭が吸着している揮発性香料成分の量は、活性炭100質量部に対して3質量部であった。
【0053】
平均粒子径が30μmのたばこ粉末原料(葉たばこ、ブラジル産黄色種)100質量部に対して、エタノール1質量部と、グリセリン20質量部を添加し、スパチュラで軽く混ぜた後、30分間振盪した。さらに、たばこ粉末原料100質量部に対して前記揮発性香料成分を吸着した活性炭を30質量部添加して混合し、混合物を得た。得られた混合物を、圧縮成型機(商品名:TDP 0、LFA Machines oxford Ltd製)を用いて3kNの圧縮圧力でタブレット形状に成型した。得られた成型体を40℃で3時間乾燥し、成型体に含まれるエタノールを除去することで、香味成型体を得た。該香味成型体について、前記方法により加熱前後における圧縮破断強度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
エタノールの添加量を、たばこ粉末原料100質量部に対してエタノール10質量部に変更した以外は、実施例1と同様に香味成型体を製造し、加熱前後における圧縮破断強度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
エタノールの添加量を、たばこ粉末原料100質量部に対してエタノール20質量部に変更した以外は、実施例1と同様に香味成型体を製造し、加熱前後における圧縮破断強度を測定した。結果を表1に示す。また、得られた香味成型体について、前記方法により経時におけるTPM量の測定を行った。外部加熱型香味吸引器を用いた測定結果を図4に、誘導加熱型香味吸引器を用いた測定結果を図5にそれぞれ示す。さらに、得られた香味成型体について、前記方法により官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1に示されるように、本実施形態に係る香味成型体では、加熱後に圧縮破断強度が低下することなく、むしろ向上することが確認された。また、表2に示されるように、本実施形態に係る香味成型体では、使用全体を通して香料成分が安定して揮発することが確認された。この点については、図4及び図5からも理解できる。特に、図5に示されるように、非燃焼加熱型香味吸引器として誘導加熱型香味吸引器を用いた場合、図4に示される外部加熱型香味吸引器を用いた場合と比較して、特に使用初期における香味成分の揮発量が増加し、使用全体を通して香料成分をより安定して揮発させることができた。
【符号の説明】
【0059】
1 誘導加熱型香味吸引器
2 香味成型体
3 香味源収容体
4 電源ユニット
5 制御部
6 加熱部
7 チャンバ
8 誘導コイル
9 モールド
10 遮蔽層
11 流路
12 非燃焼加熱型香味吸引器
13 制御部
14 バッテリー
15 ヒーター
16 金属板
17 原料位置調整治具
18 原料室
19 マウスピース
20 カップ
図1
図2
図3
図4
図5