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特許7595166電力変換装置および電力変換装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電力変換装置および電力変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241128BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/12 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023529831
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2022023273
(87)【国際公開番号】W WO2022264916
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021101317
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児島 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦晃
(72)【発明者】
【氏名】安東 正登
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-027951(JP,A)
【文献】特開平08-182347(JP,A)
【文献】特開2002-272117(JP,A)
【文献】特開2017-093073(JP,A)
【文献】特開平10-004690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子により構成され、直流電力を交流電力に変換または交流電力を直流電力に変換する電力変換部と、
前記電力変換部に対する直流電流指令値および前記電力変換部の駆動周波数を基に求めた当該電力変換部の基本波位相を用いて前記電力変換部の電流検出値を変換して求めた直流電流検出値に基づいて、前記電力変換部の交流電流を制御する電流制御部と、
前記電流制御部の出力に基づいて生成した電圧指令値を補正し、当該補正後の電圧指令値を用いて前記半導体素子を駆動するためのゲート信号を生成する駆動制御部と
を備え、
前記駆動制御部は、
前記電力変換部の次サイクルの基本波位相を、前記駆動周波数と前記電力変換部をPWM制御する際のサンプリング周期との積から求めた前記基本波位相の増分を前記基本波位相に加算することにより生成し、
前記直流電流指令値および前記次サイクルの基本波位相に基づいて交流電流指令値を求め、
前記交流電流指令値および前記電力変換部の直流ステージ検出電圧に基づいて前記電圧指令値に対する補正量を算出し、
前記電圧指令値に前記補正量を加算して前記補正後の電圧指令値とする
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記電力変換部が、直流電力を交流電力に変換する場合、
前記電流検出値は、前記電力変換部の交流側出力電流の検出値である
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記電力変換部が、交流電力を直流電力に変換する場合、
前記電流検出値は、前記電力変換部の入力交流電流の検出値であり、
前記駆動制御部は、前記電圧指令値を前記電流制御部の出力と交流電源電圧検出値との差分により生成する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電力変換装置であって、
前記駆動制御部は、前記補正量を、前記交流電流指令値に応じた前記半導体素子のターンオン遅延時間から前記交流電流指令値に応じた前記半導体素子のターンオフ遅延時間を減算した値を前記電力変換部に対して固定された非ラップ期間に加算した値および前記直流ステージ検出電圧に基づいて算出する
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置であって、
前記駆動制御部は、前記補正量を、前記交流電流指令値が所定の閾値以下では、前記交流電流指令値がゼロの時に当該補正量もゼロとなる直線的な補間により求める
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
半導体素子により構成され、直流電力を交流電力に変換または交流電力を直流電力に変換する電力変換装置の制御方法であって、
前記電力変換装置の駆動周波数を積分して当該電力変換装置の基本波位相を求め、
前記基本波位相を用いて前記電力変換装置の電流検出値を変換して直流電流検出値を求め、
前記電力変換装置の次サイクルの基本波位相を、前記駆動周波数と前記電力変換装置をPWM制御する際のサンプリング周期との積から求めた前記基本波位相の増分を前記基本波位相に加算することにより演算し、
前記電力変換装置に対する直流電流指令値および前記直流電流検出値に基づいて、前記電力変換装置の交流電流を制御するための電圧指令値を生成し、
前記直流電流指令値および前記次サイクルの基本波位相に基づいて交流電流指令値を求め、
前記交流電流指令値および前記電力変換装置の直流ステージ検出電圧に基づいて前記電圧指令値に対する補正量を算出し、
前記電圧指令値に前記補正量を加算した補正後の電圧指令値に基づいて前記半導体素子を駆動するためのゲート信号を生成する
ことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記補正量を、前記交流電流指令値に応じた前記半導体素子のターンオン遅延時間から前記交流電流指令値に応じた前記半導体素子のターンオフ遅延時間を減算した値を前記電力変換装置に対して固定された非ラップ期間に加算した値および前記直流ステージ検出電圧に基づいて算出する
ことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電力変換装置の制御方法であって、
前記補正量を、前記交流電流指令値が所定の閾値以下では、前記交流電流指令値がゼロの時に当該補正量もゼロとなる直線的な補間により求める
ことを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子を用いて直流電力を交流電力に変換あるいは交流電力を直流電力に変換する電力変換装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体スイッチング素子を用いて直流電力を交流電力に変換あるいは交流電力を直流電力に変換する、いわゆる電力変換装置は、直流電源に対して、上下2つの半導体スイッチング素子を直列接続した回路を負荷の相数分だけ並列接続し、上下の半導体スイッチング素子の接続点を負荷に接続したブリッジ回路を構成することが多い。
【0003】
一般的なブリッジ回路として、2レベル回路を例に挙げる。各相の出力電位は、直流電源電圧Edと0の2種類あり、上側の半導体スイッチング素子がオンかつ下側の半導体スイッチング素子がオフの場合の出力電位はEdとなり、下側の半導体スイッチング素子がオンかつ上側の半導体スイッチング素子がオフの場合は0となる。
【0004】
このとき、上下の半導体スイッチング素子が同時にオン状態になると、半導体スイッチング素子の内部インピーダンスは負荷に比べて極めて小さいため、負荷には電流はほとんど流れず、上下の半導体スイッチング素子に膨大な短絡電流が流れ、半導体スイッチング素子の破壊を招くことになる。
【0005】
このような短絡破壊を避けるため、上下いずれかの半導体スイッチング素子がオンの状態から、もう一方の半導体スイッチング素子がオンの状態に遷移する間に、必ず上下両方の半導体スイッチング素子がオフになる期間を設けている。このオフ期間を、上下の半導体スイッチング素子のオン状態が“重ならない”という意味で「非ラップ期間」と呼ぶ。
【0006】
非ラップ期間中の電力変換装置の動作を、図で説明する。図5から図8は、電力変換装置の一相(U相)のみを取り出し、非ラップ期間中の動作波形を示す図である。
【0007】
図5および図6のいずれも、U相上側半導体スイッチング素子Spuがオン状態から、上下の半導体スイッチング素子がいずれもオフの状態の非ラップ期間を経て、U相下側半導体スイッチング素子Snuがオン状態になるまでの、ゲート信号GpuとGnu、各素子の印加電圧EpuとEnuおよび出力電位vuの各波形を示す。図5は、負荷電流iu>0の場合で、非ラップ期間の出力電位vu=0となる。図6は、負荷電流iu<0の場合で、非ラップ期間の出力電位vu=Edとなる。
【0008】
一方、図7および図8のいずれも、U相下側半導体スイッチング素子Snuがオン状態から、上下の半導体スイッチング素子がいずれもオフの状態の非ラップ期間を経て、U相上側半導体スイッチング素子Spuがオン状態になるまでの、ゲート信号GpuとGnu、各素子の印加電圧EpuとEnuおよび出力電位vuの各波形を示す。図7は、負荷電流iu>0の場合で、非ラップ期間の出力電位はvu=0となる。図8は、負荷電流iu<0の場合で、非ラップ期間の出力電位はvu=Edとなる。
【0009】
以上より、非ラップ期間の出力電位vuは、負荷電流iuの極性によって決まることが分かり、非ラップ期間における電力変換装置の出力電位は不定になる。このため、電力変換装置の出力電圧精度を高めるためには、出力電位不定の期間、すなわち非ラップ期間をできるだけ短くすることが好ましい。
【0010】
ところが、半導体スイッチング素子はゲート信号の印加から僅かに遅れて動作し、ターンオン時の遅延とターンオフ時の遅延とは一般的には異なること、また、これらの遅延時間は、印加電圧、通流電流、動作温度、そして半導体スイッチング素子の個体差によって変動やばらつきを生じることから、これらの変動量やばらつきに対して十分なマージンを確保して非ラップ期間を設定する必要がある。
【0011】
このように状況に応じて、好適な非ラップ期間を確保する技術としては、特許文献1あるいは特許文献2に記載の技術が知られている。
【0012】
また、非ラップ期間中の負荷電流の極性を予想して出力電位を予測し、この出力電位の予測値に基づいて電圧補償を行う技術(一般的に、「非ラップ補償」と呼ぶ)としては、特許文献3あるいは特許文献4に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2010-142074号公報
【文献】特開2017-93073号公報
【文献】特開昭64-60264号公報
【文献】特開平6-62580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1および特許文献2に記載の技術は、半導体スイッチング素子の動作条件、印加電圧、通流電流および動作温度などに応じて、非ラップ期間をできるだけ短く保つことによって、出力電位不定の期間を短くして出力電圧精度を向上させるものである。ただし、非ラップ期間そのものを無くすことはできず、出力電圧精度の向上には限界がある。
【0015】
また、特許文献3および特許文献に4記載の技術は、電流極性に応じて非ラップ期間中の出力電位を推定し、これを補償することによって出力電圧精度の向上を図るものである。しかし、半導体スイッチング素子はゲート信号の印加から僅かに遅れて動作し、ターンオン時の遅延とターンオフ時の遅延とは一般的には異なること、また、これらの遅延時間は、印加電圧、通流電流、動作温度、そして半導体スイッチング素子の個体差によって変動やばらつきを生じることから、補償量が不足あるいは過剰になる場合がある。
【0016】
そこで、本発明では、半導体スイッチング素子のターンオン時およびターンオフ時の遅延に最も支配的な要因である通流電流の大きさによる遅延時間の変動に対して、電力変換装置の出力電圧の精度を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明に係る電力変換装置の一つは、半導体素子により構成され直流電力を交流電力に変換または交流電力を直流電力に変換する電力変換部と、電力変換部に対する直流電流指令値および電力変換部の駆動周波数を基に求めた当該電力変換部の基本波位相を用いて電力変換部の電流検出値を変換して求めた直流電流検出値に基づいて電力変換部の交流電流を制御する電流制御部と、電流制御部の出力に基づいて生成した電圧指令値を補正し当該補正後の電圧指令値を用いて半導体素子を駆動するためのゲート信号を生成する駆動制御部とを備え、駆動制御部は、電力変換部の次サイクルの基本波位相を、駆動周波数と電力変換部をPWM制御する際のサンプリング周期との積から求めた基本波位相の増分を基本波位相に加算することにより生成し、直流電流指令値および次サイクルの基本波位相に基づいて交流電流指令値を求め、交流電流指令値および電力変換部の直流ステージ検出電圧に基づいて電圧指令値に対する補正量を算出し、電圧指令値に補正量を加算して補正後の電圧指令値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、半導体スイッチング素子の通流電流によるターンオン遅延およびターンオフ遅延に応じた最適な電圧補償を行うことにより、電力変換装置の出力電圧の精度を向上させることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例1に係る電力変換装置の構成とそれに含まれる駆動制御系のブロックとを示す図である。
図2】実施例1における電流波形をU相電流を例にして示す図である。
図3】実施例1の電圧補償手段による電圧補償の第一の態様を示す図である。
図4】実施例1の電圧補償手段による電圧補償の第二の態様を示す図である。
図5】実施例1が対象とする2レベルインバータ回路一相分の一時点の動作波形を示す図である。
図6図5と同じ一相分の同じ時点で、U相電流iuが負の場合の動作波形を示す図である。
図7図5と同じ一相分で別の一時点の動作波形を示す図である。
図8図7と同じ一相分の同じ時点で、U相電流iuが負の場合の動作波形を示す図である。
図9】本発明の実施例2に係る電力変換装置の構成とそれに含まれる駆動制御系のブロックとを示す図である。
図10】実施例2における電流波形を、U相電流となる二次電流isを例にして示す図である。
図11】実施例2の電圧補償手段による電圧補償の第一の態様を示す図である。
図12】実施例2の電圧補償手段による電圧補償の第二の態様を示す図である。
図13】実施例2が対象とする3レベルコンバータ回路一相分の一時点の動作波形を示す図である。
図14図13と同じ一相分の同じ時点で、二次電流isが負の場合の動作波形を示す図である。
図15】スイッチング素子のターンオン動作遅延時間の定義を説明するための図である。
図16】スイッチング素子のターンオフ動作遅延時間の定義を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として、実施例1および2について説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係る電力変換装置の構成とそれに含まれる駆動制御系のブロックとを示す図である。
電力変換装置として、図示しない直流電圧源に並列接続した平滑化コンデンサ10を介して、U相上側半導体スイッチング素子11とU相下側半導体スイッチング素子12とを直列接続したもの、V相上側半導体スイッチング素子13とV相下側半導体スイッチング素子14を直列接続したものおよびW相上側半導体スイッチング素子15とW相下側半導体スイッチング素子16を直列接続したものがそれぞれ直流ステージの線路間に接続される。
【0022】
また、U相上側半導体スイッチング素子11とU相下側半導体スイッチング素子12との接続点、V相上側半導体スイッチング素子13とV相下側半導体スイッチング素子14との接続点およびW相上側半導体スイッチング素子15とW相下側半導体スイッチング素子16との接続点が、順に交流電動機17のU相端子、V相端子およびW相端子に接続される。
【0023】
検出器としては、平滑化コンデンサ10の電圧を検出する電圧センサ(PT)18および交流電動機17への出力電流を検出する電流センサ(CT)19を備える。
【0024】
駆動制御系のブロックは、以下の構成要素から構成される。
・電流センサ(CT)19の検出したU/V/W相電流(検出値)iu、ivおよびiwを量子化するA/D変換器20
・電圧センサ(PT)18の検出した直流ステージ電圧(検出値)Edを量子化するA/D変換器36
・交流電動機17を駆動する基本波角周波数ωを積分して基本波位相θを求める積分器23
・A/D変換器20の出力より基本波位相θを用いてd/q軸電流(検出値)IdおよびIqを求める回転座標変換手段21
・与えられたd/q軸電流指令Id*およびIq*とd/q軸電流(検出値)IdおよびIqとの差分を求める減算器25および26
・減算器25および26の出力(偏差)を用いて偏差が0になるような操作量を出力する電流制御手段(ACR)27
・電流制御手段(ACR)27の出力を用いてd/q軸電圧指令値Vd*およびVq*を求める電圧ベクトル生成手段28
・基本波角周波数ωとサンプリング周期Tcの積より基本波位相の増分Δθを求める乗算器22
・基本波位相の増分Δθと基本波位相θの和より次サイクルの基本波位相θ′を求める加算器24
・d/q軸電圧指令値Vd*およびVq*より次サイクルの基本波位相θ′を用いて、U/V/W相電圧指令値vu*、vv*およびvw*を求める静止座標変換手段29
・与えられたd/q軸電流指令Id*およびIq*より次サイクルの基本波位相θ′を用いてU/V/W相電流指令値iu*、iv*およびiw*を求める静止座標変換手段40
・U/V/W相電流指令値iu*、iv*およびiw*とA/D変換器26の出力を用いてU/V/W相電圧補償量Δvu、ΔvvおよびΔvwを求める電圧補償手段41、42および43
・U/V/W相電圧指令値vu*、vv*およびvw*にU/V/W相電圧補償量Δvu、ΔvvおよびΔvwを加算する加算器30、31および32
・加算器30、31および32の出力であるU/V/W相電圧補償後指令値vu**、vv**およびvw**並びにA/D変換器36の出力を用いて半導体スイッチング素子11~16を駆動するゲート信号Gpu、Gnu、Gpv、Gnv、GpwおよびGnwを出力するPWM生成手段33、34および35
【0025】
図2は、実施例1における電流波形をU相電流を例にして示す図である。
図2からは、U相電流iuに対して、U相電流指令値iu*は基本波位相の増分Δθだけ先読みしていることが分かる。これは、半導体スイッチング素子の動作遅延時間に電流依存性があり、これを補償すべく電圧補償量にも当然ながら電流依存性があるため、電流検出値を用いると、電流の変化率di/dtとサンプリング周期Tcとの積、Tc×di/dtだけ電流誤差が生じてしまうためである。
【0026】
実施例1では、時間tではなく位相θを基準軸にとり、U相電流の周波数(基本波角周波数ω)が分かっていることを利用して、Δθ=ω・Tcとし、サンプリング周期Tc分の位相遅れを補償している。
【0027】
この結果、実施例1では、次サイクルの基本波位相θ′におけるU/V/W相電流指令値iu*、iv*およびiw*を予測し、この予測値を用いて電圧補償量Δvu、ΔvvおよびΔvwを求めている。
【0028】
次に、実施例1の動作原理を図で説明する。
図5は、実施例1が対象とする2レべルインバータ回路一相分の一時点の動作波形を示す図である。ここでは、U相部分を例として取り出し、U相上側半導体スイッチング素子Spuがターンオフし、非ラップ期間Tlap経過後、U相下側半導体スイッチング素子Snuがターンオンしたときの動作波形を示す。図5では、U相電流iuは正とする。なお、電流極性は、回路から出ていく方向を正とする。
【0029】
ここで、非ラップ期間Tlapは、U相上側半導体スイッチング素子Spuを駆動するゲート信号Gpuの立ち下がりからU相下側半導体スイッチング素子Snuを駆動するゲート信号Gnuの立ち上がりまでと規定する。
【0030】
このとき、U相上側半導体スイッチング素子Spuは、ゲート信号Gpuの立ち下がりからターンオフ遅延時間Tdoffだけ遅れて遮断状態に遷移し、直流電源電圧Edが印加されるようになる。同時に、U相下側半導体スイッチング素子Snuの印加電圧は0になり、U相下側半導体スイッチング素子Snuのダイオード側に電流が流れるようになる(図5の上中央の図)。
【0031】
一方、ゲート信号Gnuの立ち上がり時にはこの立ち上がり前の状態から変化はなく何も起こらない(図5の上の図の中央から右側への推移)。U相電位vuは、U相下側半導体スイッチング素子Snuの印加電圧Enuに等しい。
【0032】
ここで、非ラップ期間における出力電圧誤差を求める。本来、非ラップ期間の出力電位は、出力電流の極性によって決まり、直流電源電圧Edもしくは0のいずれかとなるが、その期待値として、非ラップ期間の半分は直流電源電圧Edとし、残りの半分は0として考える。
【0033】
U相電位vuの期待値は、ゲート信号Gpuの立ち下がりから非ラップ期間の半分、すなわちTlap/2に対してターンオン遅延時間とターンオフ遅延時間の平均値を加えた(Tlap+Tdon+Tdoff)/2だけ遅れて立ち下がると考えられる。
【0034】
しかし、実際のU相電位vuは、ゲート信号Gpuの立ち下がりからターンオフ遅延時間Tdoffだけ遅れて立ち下がっているため、双方の差し引きから、(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ早めに立ち下がっていることになる。つまり、この時間だけ出力電圧が不足していることになる。
【0035】
図6は、図5と同じ一相分の同じ時点で、U相電流iuが負の場合の動作波形を示す図である。非ラップ期間Tlapの規定も図5の場合と同様である。
このとき、U相上側半導体スイッチング素子Spuのゲート信号Gpuの立ち下がり時には、この立下り前の状態から変化はなく何も起こらない(図6の上の図の左側から中央への推移)。
【0036】
一方、U相下側半導体スイッチング素子Snuは、ゲート信号Gnuの立ち上がりからターンオン遅延時間Tdonだけ遅れて導通状態に遷移し、印加電圧は0になり、U相下側スイッチング素子Snuに電流が流れるようになる(図6の上右側の図)。同時に、U相上側半導体スイッチング素子Spuの印加電圧は直流電源電圧Edになる。
U相電位vuは、U相下側半導体スイッチング素子Snuの印加電圧Enuに等しい。
【0037】
ここで、非ラップ期間における出力電圧誤差を求める。図5の場合と同様に、非ラップ期間の出力電位の期待値として、非ラップ期間の半分は直流電源電圧Edとし、残りの半分は0として考える。
【0038】
U相電位vuの期待値は、図5の場合と同様に、(Tlap+Tdon+Tdoff)/2だけ遅れて立ち下がると考えられるが、実際のU相電位vuは、ゲート信号Gnuの立ち上がりからターンオン遅延時間Tdonだけ遅れて立ち下がっているため、双方の差し引きから、(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ遅れて立ち下がっていることになる。つまり、この時間だけ出力電圧が過剰になっていることになる。
【0039】
図7は、図5と同じ一相分で別の一時点の動作波形を示す図である。すなわち、U相下側半導体スイッチング素子Snuがターンオフし、非ラップ期間Tlap経過後、U相上側半導体スイッチング素子Spuがターンオンしたときの動作波形を示す。図7では、U相電流iuは正とする。なお、電流極性は、回路から出ていく方向を正とする。
【0040】
ここで、非ラップ期間Tlapは、U相下側半導体スイッチング素子Snuを駆動するゲート信号Gnuの立ち下がりからU相上側半導体スイッチング素子Spuを駆動するゲート信号Gpuの立ち上がりまでと規定する。
【0041】
このとき、U相下側半導体スイッチング素子Snuのゲート信号Gnuの立ち下がり時には、この立下り前の状態から変化はなく何も起こらない(図7の上の図の左側から中央への推移)。
【0042】
一方、U相上側半導体スイッチング素子Spuは、ゲート信号Gpuの立ち上がりからターンオン遅延時間Tdonだけ遅れて導通状態に遷移し、印加電圧は0になり、U相上側スイッチング素子Spuに電流が流れるようになる(図7の上右側の図)。同時に、U相下側半導体スイッチング素子Snuの印加電圧は直流電源電圧Edになる。
U相電位vuは、U相下側半導体スイッチング素子Snuの印加電圧Enuに等しい。
【0043】
ここで、非ラップ期間における出力電圧誤差を求める。図5図6の場合と同様に、非ラップ期間の出力電位の期待値として、非ラップ期間の半分は直流電源電圧Edとし、残りの半分は0として考える。
【0044】
U相電位vuの期待値は、ゲート信号Gnuの立ち下がりから非ラップ期間の半分、すなわちTlap/2に対してターンオン遅延時間とターンオフ遅延時間の平均値を加えた(Tlap+Tdon+Tdoff)/2だけ遅れて立ち上がると考えられる。
【0045】
しかし、実際のU相電位vuは、ゲート信号Gpuの立ち上がりからターンオン遅延時間Tdonだけ遅れて立ち上がっているため、双方の差し引きから、(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ遅れて立ち上がっていることになる。つまり、この時間だけ出力電圧が不足していることになる。
【0046】
図8は、図7と同じ一相分の同じ時点で、U相電流iuが負の場合の動作波形を示す図である。非ラップ期間Tlapの規定も図7の場合と同様である。
このとき、U相下側半導体スイッチング素子Snuは、ゲート信号Gnuの立ち下がりからターンオフ遅延時間Tdoffだけ遅れて遮断状態に遷移し、直流電源電圧Edが印加されるようになる。同時に、U相上側半導体スイッチング素子Spuの印加電圧は0になり、U相上側半導体スイッチング素子Spuのダイオード側に電流が流れるようになる(図8の上中央の図)。
【0047】
一方、ゲート信号Gpuの立ち上がり時にはこの立ち上がり前の状態から変化はなく何も起こらない(図5の上の図の中央から右側への推移)。U相電位vuは、U相下側半導体スイッチング素子Snuの印加電圧Enuに等しい。
【0048】
ここで、非ラップ期間における出力電圧誤差を求める。図5から図7の場合と同様に、非ラップ期間の出力電位の期待値として、非ラップ期間の半分は直流電源電圧Edとし、残りの半分は0として考える。
【0049】
U相電位vuの期待値は、図7の場合と同様に、(Tlap+Tdon+Tdoff)/2だけ遅れて立ち上がると考えられるが、実際のU相電位vuは、ゲート信号Gnuの立ち下がりからターンオフ遅延時間Tdoffだけ遅れて立ち下がっているため、双方の差し引きから、(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ早めに立ち上がっていることになる。つまり、この時間だけ出力電圧が過剰になっていることになる。
【0050】
以上の図5から図8により求めた出力電圧誤差についてまとめると、以下のことが分かる。すなわち、U相に関して示すと、
・U相電流iuが正のとき、ΔT=(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ出力電圧が不足する。
・U相電流iuが負のとき、ΔT=(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ出力電圧が過剰になる。
【0051】
そこで、図1に示すPWM生成手段33~35において、直接ΔTだけパルス幅を補正しても構わない。ただし、実施例1では、電圧補償手段41~43によって、直流電源電圧Ed、サンプリング周期Tcとして、各相の電圧補正量ΔVをΔV=±ΔT/Tc×Edとして求めている。
【0052】
さらに、半導体スイッチング素子のターンオン遅延時間Tdonおよびターンオフ遅延時間Tdoffには電流依存性があることが分かっているので(後述する図3および図4の下側のグラフ、参照)、電圧補償手段41~43において、各相毎に通流電流の大きさおよび極性に応じたΔTのテーブルを用意しておけばよい。
【0053】
図3は、実施例1の電圧補償手段41~43による電圧補償の第一の態様を示す図である。
図3の下側のグラフでは、IGBTのようなバイポーラ素子におけるターンオン遅延時間Tdonとターンオフ遅延時間Tdoffの電流依存性の一例を示す。
【0054】
IGBTのようなバイポーラ素子においては、ターンオン遅延時間Tdonは通流電流が増加するにつれて増大していく傾向があり、一方、ターンオフ遅延時間Tdoffは遮断電流が減少するにつれて急激に増大する傾向がある。
【0055】
図3の上側のグラフでは、このような傾向を持つ半導体スイッチング素子に対する電圧補償手段41、42および43の特性を示す。この特性においては、非ラップ補償電流下限値Iminを設け、電流指令値iu*、iv*およびiw*の絶対値がImin以下の場合、電流指令値が0のときに補償量を0にするよう直線的な補間を行う。
【0056】
ここで、直線的な補間を行う理由について説明する。実施例1の電圧補償手段41、42および43は、電流検出値を用いず電流指令値を用いているが、図2に示すように、電流指令値は、基本波成分のみで高調波成分(スイッチングリップル)が重畳されていないという差異がある。通常、高調波成分であるスイッチングリップルは、基本波成分に対して正負対称に表れると考えられるので、補償量の誤差としては平均0になると考えられる。しかし、電流値がゼロクロスする近傍では、スイッチングリップルの影響により極性判別を誤ると誤差が大きくなるため、電流値がゼロクロスする近傍では補償量も小さくした方が好ましいため、上記した直線的な補間を行うのである。
【0057】
図4は、実施例1の電圧補償手段41~43による電圧補償の第二の態様を示す図である。
図4の下側のグラフでは、MOS-FETのようなユニポーラ素子におけるターンオン遅延時間Tdonとターンオフ遅延時間Tdoffの電流依存性の一例を示す。
【0058】
MOS-FETのようなユニポーラ素子においては、ターンオン遅延時間Tdonは通流電流が増加するにつれてほぼ一定あるいは緩やかに減少する傾向があり、一方、ターンオフ遅延時間Tdoffは遮断電流が増加するにつれて緩やかに増加していく傾向がある。
【0059】
図4の上側のグラフでは、このような傾向を持つ半導体スイッチング素子に対する電圧補償手段41、42および43の特性を示す。この特性においても、図3に示す特性と同様に、非ラップ補償電流下限値Iminを設け、電流指令値iu*、iv*およびiw*の絶対値がImin以下の場合、電流指令値が0のときに補償量を0にするよう直線的な補間を行う。
【0060】
ここで、本発明におけるターンオン遅延時間Tdonおよびターンオフ遅延時間Tdoffの定義について説明する。
図15は、スイッチング素子のターンオン遅延時間Tdonの定義を説明するための図である。
【0061】
U相上側半導体スイッチング素子Spuのゲート信号Gpuの立ち上がりに対して(図15の上段)、U相上側半導体スイッチング素子Spuの印加電圧Epuは、直流電源電圧Edから0に遷移するまでのdv/dtは一定ではない(図15の中段)。このため、印加電圧Epuを矩形波近似したEpu′を考え(図15の下段)、Gpuの立ち下がりからEpuが定常状態に収束するまでの時間をT1とし、時間T1までのEpuの面積Sと矩形波Epu′の面積が等しくなる時間T0をターンオン遅延時間Tdonと定義する(式1、参照)。
【数1】
【0062】
図16は、スイッチング素子のターンオフ遅延時間Tdoffの定義を説明するための図である。
U相上側半導体スイッチング素子Spuのゲート信号Gpuの立ち下がりに対して(図16の上段)、U相上側半導体スイッチング素子Spuの印加電圧Epuは、0から直流電源電圧Edに遷移するまでのdv/dtは一定ではないし、直流電源電圧Edを超えてオーバーシュートする場合もある(図16の中段)。このため、印加電圧Epuを矩形波近似したEpu′を考え(図16の下段)、Gpuの立ち下がりからEpuが定常状態に収束するまでの時間をT1とし、時間T1までのEpuの面積Sと矩形波Epu′の面積が等しくなる時間T0をターンオフ遅延時間Tdoffと定義する(式2、参照)。
【数2】
【0063】
図15および図16のように、ターンオン遅延時間Tdonおよびターンオフ遅延時間Tdoffを定義することにより、立ち上がり時および立ち下がり時のdv/dtが一定でない場合においても、正確な遅延時間を把握し、正確な電圧補償量を求めることができる。
【0064】
これは、電力変換器が駆動する交流電動機は、いわゆる誘導負荷(インダクタンス負荷)であり、電力変換器の出力電圧を積分した磁束をインダクタンスで除算したものが電流値になるので、立ち上がり時および立ち下がり時のdv/dtが一定でない電圧波形であっても、積分して等面積になる矩形波で近似することができるからである。
【実施例2】
【0065】
図9は、本発明の実施例2に係る電力変換装置の構成とそれに含まれる駆動制御系のブロックとを示す図である。
電力変換装置として、本体部分は以下のように構成される。
・図示しない直流負荷に対して、平滑化コンデンサ62および63を直列接続したものが並列接続される。
・U相の第1および第2の半導体スイッチング素子50および51を直列接続したものが平滑化コンデンサ62に並列接続され、U相の第3および第4の半導体スイッチング素子52および53を直列接続したものが平滑化コンデンサ63に並列接続される。
・U相の第1および第2のクランプダイオード54および55を直列接続したものが、U相の第1および第2の半導体スイッチング素子50および51の接続点とU相の第3および第4の半導体スイッチング素子52および53の接続点を結ぶように接続され、U相の第1および第2のクランプダイオード54および55の接続点が平滑化コンデンサ62および63の接続点に接続される。
・V相の第1および第2の半導体スイッチング素子56および57を直列接続したものが平滑化コンデンサ62に並列接続され、V相の第3および第4の半導体スイッチング素子58および59を直列接続したものが平滑化コンデンサ63に並列接続される。
・V相の第1および第2のクランプダイオード60および61を直列接続したものが、V相の第1および第2の半導体スイッチング素子56および57の接続点とV相の第3および第4の半導体スイッチング素子58および59の接続点を結ぶように接続され、V相の第1および第2のクランプダイオード60および61の接続点が平滑化コンデンサ62および63の接続点に接続される。
【0066】
入力電圧は、交流電圧源64から、一次側端子を交流電圧源64に接続し二次側端子をU相の第2および第3の半導体スイッチング素子51および52の接続点とV相の第2および第3の半導体スイッチング素子57および58の接続点に接続した変圧器65を介して供給される。
【0067】
検出器としては、交流電圧源64の電圧esを検出する電圧センサ(PT)66、変圧器65の二次側端子からU相の第2および第3の半導体スイッチング素子51および52の接続点へ流れる二次電流isを検出する電流センサ(CT)67並びに平滑化コンデンサ62および63の電圧EdpおよびEdnを検出する電圧センサ(PT)68および69を備える。
【0068】
駆動制御系のブロックは、以下の構成要素から構成される。
・電圧センサ(PT)66が検出した交流電源電圧検出値esを量子化するA/D変換器70
・電流センサ(CT)67が検出した二次電流isを量子化するA/D変換器71
・電圧センサ(PT)68および69が検出した直流ステージ電圧(上)の検出値Edpおよび直流ステージ電圧(下)の検出値Ednを量子化するA/D変換器72
・交流電圧源64の角周波数ωを積分して基本波位相θを求める積分器73
・基本波位相θより基準正弦波sinθを生成する正弦関数テーブル74
・与えられた二次電流実効値指令Ispと基準正弦波sinθとの積より第1の二次電流瞬時値指令is1*を求める乗算器75
・二次電流瞬時値指令is1*とA/D変換器71の出力との偏差を求める減算器76
・減算器76の出力(偏差)が0になるような操作量を出力する電流制御手段(ACR)77
・A/D変換器70の出力と電流制御手段(ACR)77の出力との差分によりコンバータ出力電圧指令値ec*を求める減算器78
・交流電圧源64の角周波数ωとサンプリング周期Tcとの積より基本波位相の増分Δθを求める乗算器80
・基本波位相の増分Δθと基本波位相θとの和より次サイクルの基本波位相θ′を求める加算器81
・次サイクル基本波位相θ′より次サイクルの基準正弦波sinθ′を生成する正弦関数テーブル82
・与えられた二次電流実効値指令Ispと次サイクルの基準正弦波sinθ′との積より第2の二次電流瞬時値指令is2*を求める乗算器83
・第2の二次電流瞬時値指令is2*とA/D変換器72の出力を用いてコンバータ出力電圧補償量Δecを求める電圧補償手段84
・コンバータ出力電圧指令値ec*にコンバータ出力電圧補償量Δecを加算する加算器85
・加算器85の出力とA/D変換器72の出力を用いて半導体スイッチング素子50~53および56~59を駆動するゲート信号Gu1~4およびGv1~4を出力するPWM生成手段79
【0069】
図10は、実施例2における電流波形をU相電流となる二次電流isを例にして示す図である。
図10からは、二次電流isに対して、第2の二次電流瞬時値指令is2*は基本波位相の増分Δθだけ先読みしていることが分かる。これは、半導体スイッチング素子の動作遅延時間に電流依存性があり、これを補償すべく電圧補償量にも当然ながら電流依存性があるため、電流検出値を用いると、電流の変化率di/dtとサンプリング周期Tcの積Tc×di/dtだけ電流誤差が生じてしまうためである。
【0070】
実施例2では、時間tではなく位相θを基準軸にとり、二次電流isの周波数(基本波角周波数ω)が分かっていることを利用して、Δθ=ω・Tcとし、サンプリング周期Tc分の位相遅れを補償している。
【0071】
この結果、実施例2では、次サイクルの基本波位相θ′における第2の二次電流指令値is2*を予測し、この予測値を用いて電圧補償量Δecを求めている。
【0072】
次に、実施例2の動作原理を図で説明する。
図13は、実施例2が対象とする3レべルコンバータ回路一相分の一時点の動作波形を示す図である。ここでは、U相部分を取り出し、U相第1半導体スイッチング素子Su1がターンオフし、非ラップ期間Tlap経過後、U相第3半導体スイッチング素子Su3がターンオンしたときの動作波形を示す。図13では、二次電流isは正とする。なお、電流極性は、回路に入ってくる方向を正とする。
【0073】
ここで、非ラップ期間Tlapは、U相第1半導体スイッチング素子Su1を駆動するゲート信号Gu1の立ち下がりからU相第3半導体スイッチング素子Su3を駆動するゲート信号Gu3の立ち上がりまでと規定する。
【0074】
このとき、U相第1半導体スイッチング素子Su1のゲート信号Gu1の立ち下がり時にはこの立ち下がり前の状態から変化はなく何も起こらない(図13の上の図の左側から中央への推移)。一方、U相第3半導体スイッチング素子Su3は、ゲート信号Gu3の立ち上がりからターンオン遅延時間Tdonだけ遅れて導通状態に遷移し、印加電圧は0になり、U相第3スイッチング素子Su3とU相第2クランプダイオードDu2に電流が流れるようになる(図13の上右側の図)。同時に、U相第1半導体スイッチング素子Su1の印加電圧は、直流電源電圧(上)Edpになる。
U相電位ecuは、U相第3半導体スイッチング素子Su3の印加電圧Eu3に等しい。
【0075】
ここで、非ラップ期間における出力電圧誤差を求める。本来、非ラップ期間の出力電位は、入力電流の極性によって決まり、直流電源電圧(上)Edpもしくは0のいずれかとなるが、その期待値として、非ラップ期間の半分は直流電源電圧(上)Edpとし、残りの半分は0として考える。
【0076】
U相電位ecuの期待値は、ゲート信号Gpuの立ち下がりから非ラップ期間の半分、すなわちTlap/2に対してターンオン遅延時間とターンオフ遅延時間の平均値を加えた(Tlap+Tdon+Tdoff)/2だけ遅れて立ち下がると考えられる。
【0077】
しかし、実際のU相電位ecuは、ゲート信号Gu3の立ち上がりからターンオン遅延時間Tdonだけ遅れて立ち下がっているため、双方の差し引きから、(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ遅れて立ち下がっていることになる。つまり、この時間だけ出力電圧が過剰になっていることになる。
【0078】
図14は、図13と同じ一相分の同じ時点で、二次電流isが負の場合の動作波形を示す図である。非ラップ期間Tlapの規定も図13の場合と同様である。
このとき、U相第1半導体スイッチング素子Su1は、ゲート信号Gu1の立ち下がりからターンオフ遅延時間Tdoffだけ遅れて遮断状態に遷移し、直流電源電圧(上)Edpが印加されるようになる。同時に、U相第3半導体スイッチング素子Su3の印加電圧は0になり、U相第1クランプダイオードDu1と半導体スイッチング素子Su2に電流が流れるようになる(図14の上中央の図)。
【0079】
一方、ゲート信号Gu3の立ち上がり時にはこの立ちあがり前の状態から変化はなく何も起こらない(図14の上の図の中央から右側への推移)。U相電位ecuは、U相第3半導体スイッチング素子Su3の印加電圧Eu3に等しい。
【0080】
ここで、非ラップ期間における出力電圧誤差を求める。本来、非ラップ期間の出力電位は、入力電流の極性によって決まり、直流電源電圧(上)Edpもしくは0のいずれかとなるが、その期待値として、非ラップ期間の半分は直流電源電圧(上)Edpとし、残りの半分は0として考える。
【0081】
U相電位ecuの期待値は、ゲート信号Gu1の立ち下がりから非ラップ期間の半分、すなわちTlap/2に対してターンオン遅延時間とターンオフ遅延時間の平均値を加えた(Tlap+Tdon+Tdoff)/2だけ遅れて立ち下がると考えられる。
【0082】
しかし、実際のU相電位ecuは、ゲート信号Gu1の立ち下がりからターンオフ遅延時間Tdoffだけ遅れて立ち下がっているため、双方の差し引きから、(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ早めに立ち下がっていることになる。つまり、この時間だけ出力電圧が不足していることになる。
【0083】
以上の図13および図14により求めた出力電圧誤差についてまとめると、以下のことが分かる。すなわち、
・二次電流が正のとき、ΔT=(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ出力電圧が過剰になる。
・二次電流が負のとき、ΔT=(Tlap+Tdon-Tdoff)/2だけ出力電圧が不足する。
【0084】
そこで、図9に示すPWM生成手段79において、直接ΔTだけパルス幅を補正しても構わない。ただし、実施例2では、電圧補償手段84により、直流電源電圧(上)Edp、直流電源電圧(下)Ednおよびサンプリング周期Tcとして、電圧補償量ΔecをΔec=±ΔT/Tc×(Edp+Edn)/2として求めている。
【0085】
さらに、半導体スイッチング素子のターンオン遅延時間Tdonおよびターンオフ遅延時間Tdoffには電流依存性があることが分かっているので(後述する図11および図12の下側のグラフ、参照)、電圧補償手段84において、通流電流の大きさおよび極性に応じたΔTのテーブルを用意しておけばよい。
【0086】
図11は、実施例2の電圧補償手段84による電圧補償の第一の態様を示す図である。
図11の下側のグラフには、図3の下側のグラフと同様に、IGBTのようなバイポーラ素子におけるターンオン遅延時間Tdonとターンオフ遅延時間Tdoffの電流依存性の一例を示す。
【0087】
IGBTのようなバイポーラ素子においては、ターンオン遅延時間Tdonは通流電流が増加するにつれて増大していく傾向があり、一方、ターンオフ遅延時間Tdoffは遮断電流が減少するにつれて急激に増大する傾向がある。
【0088】
図11の上側のグラフでは、このような傾向を持つ半導体スイッチング素子に対する電圧補償手段84の特性を示す。この特性においては、非ラップ補償電流下限値Iminを設け、電流指令値iu*、iv*およびiw*の絶対値がImin以下の場合、電流指令値が0のときに補償量を0にするよう直線的な補間を行う。ここで、直線的な補間を行う理由は、図3を用いた実施例1の電圧補償手段41、42および43の特性についての説明で示した理由(段落[0056])と同様である。
【0089】
図12は、実施例2の電圧補償手段84による電圧補償の第二の態様を示す図である。
図12の下側のグラフには、図4の下側のグラフと同様に、MOS-FETのようなユニポーラ素子におけるターンオン遅延時間Tdonとターンオフ遅延時間Tdoffの電流依存性の一例を示す。
【0090】
MOS-FETのようなユニポーラ素子においては、ターンオン遅延時間Tdonは通流電流が増加するにつれてほぼ一定あるいは緩やかに減少する傾向があり、一方、ターンオフ遅延時間Tdoffは遮断電流が増加するにつれて緩やかに増加していく傾向がある。
【0091】
図12の上側のグラフでは、このような傾向を持つ半導体スイッチング素子に対する電圧補償手段84の特性を示す。この特性においても、図11に示す特性と同様に、非ラップ補償電流下限値Iminを設け、電流指令値iu*、iv*およびiw*の絶対値がImin以下の場合、電流指令値が0のときに補償量を0にするよう直線的な補間を行う。
【0092】
以上、本発明に係る実施例1では、2レベル回路による三相インバータ回路、また、実施例2では、3レベル回路による単相コンバータ回路を、構成の一例として挙げたが、これらの構成により、3レベル回路による三相インバータ回路も、2レベル回路による単相コンバータ回路も、同様に実現が可能である。このように、本発明は、上述した2つの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
10、62、63 平滑化コンデンサ
11~16、50~53、56~59 半導体スイッチング素子
17 交流電動機
18、66、68,69 電圧センサ(PT)
19、67 電流センサ(CT)
20、36、70、71、72 A/D変換器
21 回転座標変換手段
22、75、80、83 乗算器
23、73 積分器
24、30~32、81 加算器
25、26、76、78 減算器
27、77 電流制御手段(ACR)
28 電圧ベクトル生成手段
29、40 静止座標変換手段
33~35、79 PWM生成手段
41~43、84 電圧補償手段
54、55、60、61 クランプダイオード
64 交流電圧源
65 変圧器
74、82 正弦関数テーブル
Du1、2、Dv1、2 U/V相第1、2クランプダイオード
Ed 直流ステージ電圧検出値
Edp 直流ステージ電圧(上)(検出値)
Edn 直流ステージ電圧(下)(検出値)
Epu、Enu U相上/下側素子印加電圧
Epu’ U相上側素子印加電圧(矩形波近似)
Eu1~4 U相第1~4素子印加電圧
es 交流電源電圧検出値
ec コンバータ出力電圧(U-V線間電圧)
ecu、ecv U/V相電圧
ec* コンバータ出力電圧指令値
ec** コンバータ出力電圧補償後指令値
Δec コンバータ出力電圧補償量
Gpu、Gpv、Gpw U/V/W相上側スイッチング素子ゲート信号
Gnu、Gnv、Gnw U/V/W相下側スイッチング素子ゲート信号
Gu1~4、Gv1~4 U/V相第1~4スイッチング素子ゲート信号
iu*、iv*、iw* U/V/W相電流指令値
iu、iv、iw U/V/W相電流検出値
Id*、Iq* d/q軸電流指令値
Id、Iq d/q軸電流検出値
Imin 非ラップ補償電流下限値
Isp 二次電流実効値指令
is 二次電流検出値
is1* 第1の二次電流瞬時値指令
is2* 第2の二次電流瞬時値指令
Spu、Spv、Spw U/V/W相上側スイッチング素子
Snu、Snv、Snw U/V/W相下側スイッチング素子
Su1~4 U相第1~4素子
Sv1~4 U相第1~4素子
Tc サンプリング周期
Tdon ターンオン遅延時間
Tdoff ターンオフ遅延時間
Tlap 非ラップ期間
Vd*、Vq* d/q軸電圧指令値
vu、vv、vw U/V/W相電圧
vu*、vv*、vw* U/V/W相電圧指令値
vu**、vv**、vw** U/V/W相電圧補償後指令値
Δvu、Δvv、Δvw U/V/W相電圧補償量
ω 基本波角周波数
θ 基本波位相
θ′ 次サイクルの基本波位相
Δθ 基本波位相の増分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16