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特許7595196温度調整用金型、樹脂製容器の製造装置および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】温度調整用金型、樹脂製容器の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/64 20060101AFI20241128BHJP
   B29C 49/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B29C49/64
B29C49/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023578514
(86)(22)【出願日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2023002419
(87)【国際公開番号】W WO2023149330
(87)【国際公開日】2023-08-10
【審査請求日】2024-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022014048
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227032
【氏名又は名称】日精エー・エス・ビー機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】荻原 学
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純治
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/078358(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/158918(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015111001(DE,A1)
【文献】国際公開第2020/138292(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/64
B29C 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形された有底形状の樹脂製のプリフォームの温度を調整するための温度調整用金型であって、
前記プリフォームに挿入され、前記プリフォームの内部に圧縮空気を導入して前記プリフォームを冷却するエア導入部と、
前記プリフォームを内側に収容し、前記圧縮空気が導入された前記プリフォームの外周面と接触して熱交換を行うキャビティ型と、を備え、
前記エア導入部は、
前記プリフォームから前記圧縮空気を排気する内管と、
前記内管の外周に配置され、前記プリフォームに前記圧縮空気を供給する給気口を前記内管との間に形成する外管と、
前記内管の外周に形成され、前記内管の軸心を前記外管の軸心に対して偏心させて前記給気口の開口幅を周方向に変化させる位置決め部と、を有する
温度調整用金型。
【請求項2】
前記内管は、異なる偏心量で前記外管と当接する複数の前記位置決め部を有し、
前記給気口の開口幅は、前記外管に当接する前記内管の前記位置決め部を変化させることで調整される
請求項1に記載の温度調整用金型。
【請求項3】
前記内管は、前記外管に対して交換可能であり、
前記給気口の開口幅は、前記位置決め部の異なる前記内管の交換により調整される
請求項1に記載の温度調整用金型。
【請求項4】
樹脂製のプリフォームを射出成形する射出成形部と、
請求項2または請求項3に記載の温度調整用金型を有し、前記射出成形部で製造された前記プリフォームの温度調整を行う温度調整部と、
温度調整された前記プリフォームをブロー成形して樹脂製容器を製造するブロー成形部と、を備える
樹脂製容器の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の製造装置を用いた樹脂製容器の製造方法であって、
前記温度調整用金型における前記給気口の開口幅および周方向位置を調整する金型調整工程と、
前記金型調整工程の後に、
前記プリフォームを射出成形する射出成形工程と、
前記射出成形工程で製造された前記プリフォームの温度調整を行う温度調整工程と
温度調整された前記プリフォームをブロー成形して樹脂製容器を製造するブロー成形工程と、
を行う樹脂製容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度調整用金型、樹脂製容器の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から樹脂製容器の製造装置の一つとして、ホットパリソン式のブロー成形装置が知られている。ホットパリソン式のブロー成形装置は、プリフォームの射出成形時の保有熱を利用して樹脂製容器をブロー成形する構成であり、コールドパリソン式と比較して多様かつ美的外観に優れた樹脂製容器を製造できる点で有利である。
【0003】
ホットパリソン式の成形サイクルの短縮化のために、例えば、律速段階であるプリフォームの射出成形時間(例えば射出時間(樹脂充填)後に行われる射出金型内でのプリフォームの冷却時間)を短縮し、射出成形後の温度調整工程で高熱のプリフォームの追加冷却を行うことも提案されている。
また、プリフォームの追加冷却の一手法として、温度調整工程においてプリフォームの外周面を冷却金型と接触させて熱交換を行うとともに、プリフォーム内に圧縮空気を流し当てて冷却する方式も知られている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6505344号公報
【文献】国際公開2020/158918号公報
【文献】特許第2509042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、容器の胴部外面の周方向の特定部位に点字などの凹凸構造を形成する場合、ブロー成形の初期段階では特定部位を延伸されにくくし、ブロー成形の後半段階で特定部位が延伸されるように調整することが好ましい。例えば、容器の凹凸構造の対応位置となるプリフォームの周方向の特定部位は、ブローされてブロー型に接触する時点において、他の部位より肉厚であって賦形に十分な保有熱を備える状態に調整されることが望ましい。上記の延伸を実現するためには、温度調整工程でプリフォームの特定部位の温度または保有熱量を選択的に低下させる(つまり、特定部位の温度または保有熱量を他の部位より相対的に低下させる)必要がある。
また、容器胴部の周方向の肉厚の偏りを改善する場合においても、温度調整工程でプリフォーム周方向の特定部位の温度を調整することが要望される。
【0006】
しかしながら、この種のプリフォームの追加冷却では、プリフォーム周方向において特定部位の温度を選択的に調整することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、温度調整工程で空冷を行うときに、プリフォーム周方向において特定部位の温度を調整できる温度調整用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、射出成形された有底形状の樹脂製のプリフォームの温度を調整するための温度調整用金型である。温度調整用金型は、プリフォームに挿入され、プリフォームの内部に圧縮空気を導入してプリフォームを冷却するエア導入部と、プリフォームを内側に収容し、圧縮空気が導入されたプリフォームの外周面と接触して熱交換を行うキャビティ型と、を備える。エア導入部は、プリフォームから圧縮空気を排気する内管と、内管の外周に配置され、プリフォームに圧縮空気を供給する給気口を内管との間に形成する外管と、内管の外周に形成され、内管の軸心を外管の軸心に対して偏心させて給気口の開口幅を周方向に変化させる位置決め部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、温度調整工程で空冷を行うときに、プリフォーム周方向において特定部位の温度を調整できる温度調整用金型を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態のブロー成形装置の構成を模式的に示す図である。
図2】温度調整部の構成例を示す縦断面図である。
図3図2から内管を変更した状態を示す縦断面図である。
図4】(a)は、図2のA-A線断面図であり、(b)は、図3のB-B線断面図である。
図5図4(b)の内管の変形例を示す図である。
図6】ブロー成形方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0012】
(ブロー成形装置の説明)
図1は、本実施形態のブロー成形装置20の構成を模式的に示す図である。本実施形態のブロー成形装置20は、プリフォームを室温まで冷却せずに射出成形時の保有熱(内部熱量、熱量)を活用して容器をブロー成形するホットパリソン方式(1ステージ方式とも称する)の装置である。
【0013】
ブロー成形装置20は、射出成形部21と、温度調整部22と、ブロー成形部23と、取り出し部24と、搬送機構26とを備える。射出成形部21、温度調整部22、ブロー成形部23および取り出し部24は、搬送機構26を中心として所定角度(例えば90度)ずつ回転した位置に配置されている。
【0014】
搬送機構26は、図1の紙面垂直方向の軸を中心に回転するように移動する移送板28(図1では不図示)を備える。移送板28には、プリフォーム10または容器の首部11を保持するネック型27(または1つ以上のネック型を保持したネック型固定板、共に図1では不図示)が、所定角度ごと(例えば、成形部ごと)にそれぞれ1以上配置されている。搬送機構26は、移送板28を90度分ずつ移動させることで、ネック型27で首部11が保持されたプリフォーム10(または容器)を、射出成形部21、温度調整部22、ブロー成形部23、取り出し部24の順に搬送する。なお、搬送機構26は、ネック型27の型開き機構などもさらに備える。
【0015】
(射出成形部21)
射出成形部21は、それぞれ図示を省略する射出キャビティ型、射出コア型を備え、後述の図2図3に示すプリフォーム10を製造する。射出成形部21には、プリフォーム10の原材料である樹脂材料を供給する射出装置25が接続されている。
【0016】
射出成形部21においては、上記の射出キャビティ型、射出コア型と、搬送機構26のネック型27とを型閉じしてプリフォーム形状の型空間を形成する。そして、このようなプリフォーム形状の型空間内に射出装置25から樹脂材料を流し込むことで、射出成形部21でプリフォーム10が製造される。
【0017】
ここで、プリフォーム10の全体形状は、一端側が開口され、他端側が閉塞された有底円筒形状である。後述の図2図3に示すように、プリフォーム10は、一端側に形成され開口を有する首部11と、首部11に接続されて円筒状に形成された胴部12と、胴部12に接続されて他端側を閉塞する底部13とを有する。
【0018】
また、容器およびプリフォーム10の材料は、熱可塑性の合成樹脂であり、容器の用途に応じて適宜選択できる。具体的な材料の種類としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PCTA(ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、Tritan(トライタン(登録商標):イーストマンケミカル社製のコポリエステル)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)、PES(ポリエーテルスルホン)、PPSU(ポリフェニルスルホン)、PS(ポリスチレン)、COP/COC(環状オレフィン系ポリマー)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル:アクリル)、PLA(ポリ乳酸)などが挙げられる。本願におけるプリフォーム10や容器の材料は、PETが好ましい。
【0019】
なお、射出成形部21の型開きをしたときにも、搬送機構26のネック型27は開放されずにそのままプリフォーム10を保持して搬送する。射出成形部21で同時に成形されるプリフォーム10の数(すなわち、ブロー成形装置20で同時に成形できる容器の数)は、適宜設定できる。
【0020】
(温度調整部22)
温度調整部22は、射出成形部21で製造されたプリフォーム10の均温化や偏温除去を行い、プリフォーム10の温度をブロー成形に適した温度(例えば約90℃~105℃)かつ賦形される容器形状に適した温度分布を備えるように調整する。また、温度調整部22は、射出成形後の高温状態のプリフォーム10を冷却する機能も担う。プリフォーム10がPET製である場合、射出成形部21での高温離型時または温度調整部22への搬入時、プリフォーム10の胴部12の外表面温度は120℃から160℃にもなり、胴部12の外表面より内側部分は一層高温になる。この温度帯のPETを徐冷すると結晶化(白化)が起こるため、温度調整部22でプリフォーム10を急冷して白化を抑制する必要がある。
【0021】
図2図3は、温度調整部22の構成例を示す縦断面図である。図2に示す温度調整部22は、温度調整用金型の一例として、プリフォーム10を収容可能なキャビティ型(温調ポット)31と、エア導入部材(エア導入出部材とも称する)32を有している。
【0022】
キャビティ型31は、射出成形部21で製造されたプリフォーム10の胴部12を収容可能な温調空間を有する金型である。キャビティ型31は、プリフォーム10の胴部12および底部13を温調空間に収容する。キャビティ型31の上面にはプリフォーム10の首部11を保持するネック型27の底面が当接される。なお、温調空間は、プリフォーム10の胴部12の外観形状と同一であっても相違していてもよい。キャビティ型31の温調空間と胴部12の外観形状が相違する例としては、例えば、温調空間のサイズがプリフォーム10の胴部12のサイズより大きい場合などが挙げられる。
【0023】
キャビティ型31には、温度調整媒体(冷媒)の流れる流路(不図示)が内部に形成されている。そのため、キャビティ型31の温度は、温度調整媒体により所定の温度に保たれる。なお、キャビティ型31の温度調整媒体の温度は特に限定されるものではないが、例えば、5℃~90℃、好ましくは30℃から80℃の間の範囲内で適宜選択することが可能である。
【0024】
エア導入部材32は、プリフォーム10への圧縮空気の導入および排気を行う部材であって、筒状の嵌合コア41の内側に、外管42と内管43が同心状に挿入された三重管構造を有する。
【0025】
嵌合コア41は、ネック型27の内側に挿入される金型である。嵌合コア41は、ネック型27に挿入された状態においてプリフォーム10の首部11の内周または上端面と密着し、プリフォーム10とエア導入部材32との気密を保つ。また、嵌合コア41の内側には、外管42を挿入可能な円形の開口(中空空間)が軸方向に沿って形成されている。嵌合コア41の開口の内径は外管42の外径よりも大きい。
【0026】
外管42は、嵌合コア41の開口に挿入された状態で保持される管体であり、嵌合コア41との間に圧縮空気の流路を形成する。外管42の先端は、エア導入部材32をプリフォーム10に挿入したときに、首部11よりも下側で胴部12の上側寄りに配置される。なお、本実施形態では、嵌合コア41と外管42の間の流路は、圧縮空気の排気に用いられる。
【0027】
内管43は、外管42の内側に交換可能または外管42との隙間が調整可能に挿入される管体であり、その外径は外管42の内径よりも小さい。内管43は、外管42および内管43の間と、内管43の内部にそれぞれ圧縮空気の流路を形成する。
なお、本実施形態では、外管42と内管43の間の流路は、圧縮空気の給気に用いられ、内管43の内部の流路は、圧縮空気の排気に用いられる。
【0028】
内管43は、プリフォーム10に挿入される細径の先端部43bと、先端部43bの基端側に連結され、先端部43bよりも太径の基部43cとを有している。
【0029】
また、内管43の基部43cの外周には、径方向に突出して外管42の内周と接触するスペーサー44が複数設けられている。図4(a)、(b)に示すように、スペーサー(位置調整部、突起部)44は、例えば、周方向に120度間隔を空けて3つ配置され、外管42の内周とそれぞれ部分的に接触する。これにより、スペーサー44は、内管43の基部43cと外管42のスペース(圧縮空気の流路)を塞ぐことなく、基部43cに連結された内管43の先端部43bを位置決めして外管42の内側に保持する。なお、スペーサー44は位置決め部の一例である。
【0030】
温度調整部22では、冷却ブローの際に、外管42の開口42aを介してプリフォーム10に圧縮空気が導入される。そして、プリフォーム10に導入される圧縮空気は、嵌合コア41の開口41aと内管43の先端部43bの開口43aからそれぞれ排気される。外管42の開口42aは、給気口の一例である。
これにより、プリフォーム10内では、外管42の開口42aから首部11に向かう圧縮空気の流れと、外管42の開口42aから底部13に向かう圧縮空気の流れが生じ、これらの圧縮空気の流れによってプリフォーム10は内側から冷却される。
【0031】
また、本実施形態では、外管42に対して内管43の先端部43bの偏心量を調整できる。具体的には、径方向の突出量が異なる複数のスペーサー44を備えた内管43を準備する。そして、外管42と当接するスペーサーを変更することで、外管42内に挿入されて配置される内管43の先端部43bを径方向に移動させて偏心量を調整する。偏心量を調整した後、内管43と外管42は、各管の上方に設けられた図示しない固定部により位置ズレしないように連結される。
【0032】
また、外管42に対して内管43の先端部43bの偏心量を調整する場合、スペーサー44の径方向の突出量が異なる複数の内管43を準備し、外管42に挿入する内管43を交換することで外管42に対して内管43の先端部43bの偏心量を調整してもよい(図5参照)。
【0033】
図2図3は、それぞれ異なる内管43、43’を外管42に挿入した場合の例を示している。また、図4(a)は、図2のA-A線断面図であり、図4(b)は、図3のB-B線断面図である。
【0034】
図2の内管43は、図4(a)に示すように、スペーサー44の径方向の突出量が均一に構成されている。そのため、内管43の先端部43bは、軸心O2が外管42の軸心O1と一致するように同心状に配置される。この場合、図2に示すように、外管42に対して内管43の先端部43bが中央に位置し、外管42と内管43の先端部43bの径方向距離は周方向においてほぼ同一となる。つまり、外管42の開口42aでの圧縮空気は周方向に偏りなく流れる。
【0035】
一方、図3の内管43’は、内管43の一態様であり、図4(b)に示すように、スペーサー44’の径方向の突出量が不均一であり、図中右側のスペーサー44’の突出量が他よりも相対的に小さい。ここで、内管43’を外管42に対して回動または水平移動させることで、突出量の小さいスペーサー44’を外管42の内周面に当接させて図中右寄りに偏って配置する。すると、内管43’が径方向に移動したことで、内管43’の軸心O2と外管42の軸心O1の間にはズレDが生じる。この場合、図3に示すように、外管42に対して内管43’の先端部43b’は図3中右寄りに位置し、外管42と内管43’の先端部43b’の径方向距離は図3の左側(ズレDの反対側)で最大となり、図3の右側(ズレDの側)に向かうにつれて小さくなる。つまり、外管42の開口42aでは、圧縮空気は図3左側の方がより多く流れるので、外管42の開口42aでの圧縮空気の流れには周方向の偏りが生じる。
【0036】
上記のズレDを形成することで、内管43’の先端部43b’と外管44との間には、隙間を大きくすることで圧縮空気の流量が大きくなる部位を局所的に形成できる。開口部42aの当該部位と、温度または保有熱量を低下させたいプリフォーム10の胴部12の特定部位とを周方向で位置合わせすることで、従来は困難であった適切な温調が実現可能になる。なお、内管43’にスペーサー44’を3つ設ける場合、少なくとも1つのスペーサー44’の長さは他の2つより径方向長さを短くし、残りの2つスペーサー44’は短いスペーサーよりも径方向長さを長くしてもよい。このとき、2つのスペーサー44’の径方向長さは同じ長さにしてもよい。
【0037】
また、複数のスペーサー44’は、径方向の突出量が全て異なるように構成されていてもよい。例えば、径方向の突出量が一番大きいスペーサー44’を外管42の内周面に当接させることで内管43’の先端部43b’の軸心O2と外管42の軸心O1を同心状態としてもよく、径方向の突出量が其々異なる小さいスペーサー44’を外管42の内周面に当接させることで内管43’の先端部43b’の軸心O2と外管42の軸心O1の間のズレDを調整してもよい。また、スペーサー44’の径方向の突出量が不均一でスペーサー44’が外管42の内周面に全て当接する構成にしてもよい。これにより、スペーサー44’の径方向の突出量が異なる内管43’を外管42に挿入しても(交換しても)、外管42に対して図中右寄りに偏って配置され、内管43’の軸心O2と外管42の軸心O1の間にはズレDが生じる。これにより、ズレDが形成された開口42aからの圧縮空気の流量が調整でき、プリフォーム10の冷却強度が調整可能になり、融通性が高まる。
【0038】
図5は、図4(b)に示す内管43’の変形例として、内管43’の交換により偏心量を調整する場合の構成例を示している。図5に示す内管43’は、3つのスペーサー44’のうち、図中右側のスペーサー44’の突出量が相対的に小さく、残りのスペーサー44’の長さが等しく、全てのスペーサー44’が外管42の内周面に当接する。図5の構成においても、図4(b)と同様に内管43’の軸心O2と外管42の軸心O1の間にはズレDが生じる。なお、図5の構成において、ズレDの大きさは、スペーサー44’の突出量が異なる他の内管43’に交換することで調整される。
【0039】
図5の構成の場合、スペーサー44’が全て外管42に当接し、これらのスペーサー44’によって内管43’が偏心した状態で安定して支持されるので、内管43’の位置決め精度が向上する。また、図5の構成は、図中両矢印で示すように、外管42に対して内管43’を回動させることで、ズレDが生じる部位(つまり、外管42と内管43’の広い隙間ができる箇所)を周方向に調整することも容易である。
【0040】
(ブロー成形部23)
図1に戻って、ブロー成形部23は、温度調整部22で温度調整されたプリフォーム10に対して延伸ブロー成形を行い、容器を製造する。
ブロー成形部23は、容器の形状に対応した一対の割型であるブローキャビティ型と、底型と、延伸ロッドおよびブローエア供給用のエア導入部材(ブローコア型、いずれも不図示)を備える。ブロー成形部23は、プリフォーム10を延伸しながらブロー成形する。これにより、プリフォーム10がブローキャビティ型の形状に賦形されて容器を製造できる。
【0041】
(取り出し部24)
取り出し部24は、ブロー成形部23で製造された容器の首部をネック型27から開放し、容器をブロー成形装置20の外部へ取り出すように構成されている。
【0042】
(ブロー成形方法の説明)
次に、本実施形態のブロー成形装置によるブロー成形方法について説明する。図6は、ブロー成形方法の工程を示すフローチャートである。本実施形態では、ブロー成形方法の後述の各工程(S101~S104)が実施される前に金型調整工程(S100)が行われる。
【0043】
(ステップS100:金型調整工程)
金型調整工程は、賦形する容器の形状等に応じて、温度調整部22の外管42に対する内管43の偏心量を調整する工程である。一例として、金型調整工程では以下の作業が行われる。
【0044】
まず、ブロー成形装置20でテスト成形し、調整前の容器形状の情報を得る。例えば、テスト成形のときには、温度調整部22は、図2に示すように、外管42の軸心O1と内管43の軸心O2を一致させた状態にする。上記の状態でブロー成形装置20を運転し、調整前におけるプリフォーム10の温度分布または容器の肉厚分布の情報を得る。あるいは、容器の周方向の特定部位に点字等の凹凸構造がある場合には、当該凹凸構造の形状情報(賦形性の良否に関する情報)を得てもよい。
【0045】
上記のテスト運転の結果、プリフォーム10の温度分布や容器の肉厚分布に調整が必要となる場合、温度調整部22の内管43を外管42に対して移動させる、または内管43を交換することで、外管42に対して内管43の偏心量を調整する。
具体的には、適切な突出量のスペーサー44が外管44の内周面に当接するように内管を移動させるか、スペーサー44の形状の異なる内管に交換する。これにより、外管42の軸心O1に対して内管43の先端部43bの軸心O2を偏心させて、外管42の開口42の開口量を周方向で変化させる。
【0046】
ここで、プリフォーム10の周方向温度分布の偏りを抑制する場合には、プリフォーム10の温度の高い特定部位が外管42の開口量が大きくなる箇所と対向するように金型が調整される。また、例えば、容器に点字等の凹凸構造を形成する場合、プリフォーム10において凹凸構造の形成位置に対応する特定部位が、外管42の開口量が大きくなる箇所と対向するように金型が調整される。
【0047】
なお、容器の肉厚分布に基づいて肉厚分布の偏りを抑制するように金型の調整を行う場合、容器の肉厚が薄い部分はプリフォーム10の温度の高い部分とみなし、容器の肉厚が厚い部分はプリフォーム10の温度の低い部分とみなして上記と同様に調整を行えばよい。
上記の金型調整工程が完了すると、以下に示すブロー成形方法の各工程が実行される。
【0048】
(ステップS101:射出成形工程)
まず、射出成形部21において、射出キャビティ型、射出コア型および搬送機構26のネック型27で形成されたプリフォーム形状の型空間に射出装置25から樹脂が射出され、これによりプリフォーム10が製造される。
そして、樹脂材料の射出(充填および保圧)の完了後、または射出の完了後に設けられた最小限の冷却時間後に射出成形部21の射出金型が型開きされる。
【0049】
高速な成形サイクルで容器を製造する観点からは、ステップS101において、樹脂材料の射出(充填および保圧)の完了後に射出金型内でプリフォーム10の冷却時間を設けずに型開きを行うことが好ましい。
【0050】
一方、射出金型内でプリフォーム10の最小限の冷却を行う場合、射出成形部21で樹脂材料の射出が完了してから樹脂材料を冷却する時間(冷却時間)は、樹脂材料を射出する時間(射出時間)に対して1/2以下であることが好ましい。また、上記の冷却時間は、樹脂材料の重量に応じて、樹脂材料を射出する時間に対してより短くすることができる。例えば、冷却時間は、樹脂材料の射出時間に対して2/5以下であるとより好ましく、1/4以下であるとさらに好ましく、1/5以下であると特に好ましい。
【0051】
本実施形態では、射出金型でのプリフォーム10の冷却時間がない(あるいは冷却時間が非常に短い)ため、射出金型内でプリフォームを十分に冷却する場合と比べて、プリフォームのスキン層(固化状態にある表面層)は薄く、コア層(軟化状態または溶融状態にある内部層)は厚く形成される。つまり、本実施形態では、スキン層とコア層の間の熱勾配が大きく、高温で保有熱が高いプリフォーム10が成形される。
【0052】
ステップS101で射出金型が型開きされると、外形が維持できる程度の高温状態でプリフォーム10が射出キャビティ型、射出コア型から離型される。その後、搬送機構26の移送板28が所定角度分回転するように移動し、ネック型27に保持された高温状態のプリフォーム10は温度調整部22に搬送される。
【0053】
(ステップS102:温度調整工程)
次に、温度調整部22において、プリフォーム10の温度を最終ブローに適した温度(ブロー温度)に近づけるための冷却および温度調整が行われる。
温度調整部22では、プリフォーム10の温度がブロー温度まで低下され、その後、ブロー成形が行われるまでプリフォーム10の温度はブロー温度に維持される。温度調整部22で高温のプリフォームを急冷することで、プリフォームを徐冷した場合に生じうる球晶生成結晶化による白化(白濁化)が抑制される。
【0054】
温度調整部22では、まず、プリフォーム10がキャビティ型31に収容される。続いて、キャビティ型31に収容されたプリフォーム10の首部11にエア導入部材32が挿入される。このとき、プリフォーム10の首部と嵌合コア41が密着して両者の気密が保たれた状態となる。
【0055】
その後、プリフォーム10の冷却ブロー(クーリングブロー)が行われる。本実施形態の冷却ブローでは、外管42の先端の開口42aを介してプリフォーム10に圧縮空気が導入される。そして、プリフォーム10に導入される圧縮空気は、嵌合コア41の開口41aと内管43の先端の開口43aからそれぞれ排気される。
【0056】
これにより、プリフォーム10内では、外管42の開口42aから首部11に向かう圧縮空気の流れと、外管42の開口42aから底部13に向かう圧縮空気の流れが生じ、これらの圧縮空気の流れによってプリフォーム10は内側から冷却される。
【0057】
本実施形態では、上記の金型調整工程(S101)において、外管42の開口量が大きくなる箇所がプリフォーム10の周方向の特定部位に対向している。そのため、プリフォーム10の特定部位の近くでは外管42の開口42aからの圧縮空気が多く流れ、周方向の他の部分よりも強く冷却される。
【0058】
また、温度調整部22でのプリフォーム10は、内側から圧縮空気の圧力を受けて所定の温度に保たれたキャビティ型31と接触し続け、プリフォーム10とキャビティ型31の間でも熱交換(すなわち、プリフォーム10の冷却および温度調整)が行われる。これにより、プリフォーム10は外側からブロー成形に適した温度以下にならないように温度調整され、さらに射出成形時に生じた偏温も低減される。なお、温度調整工程でのプリフォーム10の形状は、キャビティ型31で維持されて大きく変化することはない。
【0059】
温度調整工程の後、搬送機構26の移送板28が所定角度分回転するように移動し、ネック型27に保持された温度調整後のプリフォーム10がブロー成形部23に搬送される。
【0060】
(ステップS103:ブロー成形工程)
続いて、ブロー成形部23において、容器のブロー成形が行われる。
まず、ブローキャビティ型を型閉じしてプリフォーム10を型空間に収容し、ブローエア供給用のエア導入部材(ブローコア)を下降させることで、プリフォーム10の首部に当該エア導入部材が当接される。そして、延伸ロッド(縦軸延伸部材)を降下させてプリフォーム10の底部を内面から抑えて、必要に応じて縦軸延伸を行いつつ、エア導入部材からブローエアを供給することで、プリフォーム10を横軸延伸する。これにより、プリフォーム10は、ブローキャビティ型の型空間に密着するように膨出して賦形され、容器にブロー成形される。なお、底型は、ブローキャビティ型の型閉じ前はプリフォーム10の底部と接触しない下方の位置で待機し、型閉前または型閉後に成形位置まで素早く上昇する。
【0061】
(ステップS104:容器取り出し工程)
ブロー成形が終了すると、ブローキャビティ型および底型が型開きされる。これにより、ブロー成形部23から容器が移動可能となる。
続いて、搬送機構26の移送板28が所定角度回転するように移動し、容器が取り出し部24に搬送される。取り出し部24において、容器の首部がネック型27から開放され、容器がブロー成形装置20の外部へ取り出される。
【0062】
以上で、ブロー成形方法の一連の工程が終了する。その後、搬送機構26の移送板28を所定角度回転するように移動させることで、上記のS101からS104の各工程が繰り返される。ブロー成形装置20の運転時には、1工程ずつの時間差を有する4組分の容器の製造が並列に実行される。
【0063】
なお、ブロー成形装置20の構造上、射出成形部21、温度調整部22、ブロー成形部23および取り出し部24で移送板が停止している時間はそれぞれ同じ長さになる。同様に、各部間における移送板28の搬送時間もそれぞれ同じ長さになる。
【0064】
以下、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態の温度調整部22では、射出金型での冷却時間がない(あるいは冷却時間が非常に短い)高温のプリフォーム10をキャビティ型31に収容し、エア導入部材32でプリフォーム10内に圧縮空気を吹き込む冷却ブローによって、プリフォーム10の冷却と温度調整を行う。
エア導入部材32は、プリフォーム10から圧縮空気を排気する内管43と、内管43の外周に配置され、プリフォーム10に圧縮空気を供給する開口42aを内管43との間に形成する外管42と、内管43の外周に形成され、内管43の軸心O2を外管42の軸心O1に対して偏心させて開口42aの開口幅を周方向に変化させるスペーサー44と、を有している。開口42aの開口幅の周方向変化により、プリフォーム10の周方向で圧縮空気の流量に差が生じるので、プリフォーム10の周方向の特定部位を強く冷却する温度調整が可能となる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0066】
上記実施形態では、エア導入部材32は嵌合コア41、外管42、内管43の三重管構造である例を説明したが、エア導入部材32を、外管42と内管43の二重管構造とし、外管42が嵌合コアの機能を兼ねるように構成してもよい。この場合、圧縮空気はプリフォームの首部側から導入され、プリフォームの底部側の内管から排気されるようになる。
【0067】
上記実施形態では、内管43のスペーサー44が周方向に3個設けられる構成例を説明したが、スペーサー44の形状、配置などは上記に限定されない。例えば、スペーサー44の個数は2つまたは4つ以上であってもよく、周方向に延びる円弧状のスペーサー44や、内管43にらせん状に形成されたスペーサー44を用いてもよい。また、スペーサー44は内管43の軸方向にずらして配置されていてもよい。
【0068】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
10…プリフォーム、20…ブロー成形装置、21…射出成形部、22…温度調整部、23…ブロー成形部、31…キャビティ金型、32…エア導入部材、41…嵌合コア、42…外管、42a…開口、43,43’…内管、44,44’…スペーサー

図1
図2
図3
図4
図5
図6