(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法およびメタクリル樹脂を製造する方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20241128BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20241128BHJP
C07C 67/333 20060101ALI20241128BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20241128BHJP
C08F 20/14 20060101ALI20241128BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B09B3/40
B29B17/04
B29B17/04 ZAB
C07C67/333
C07C67/333 ZAB
C07C69/54 Z
C08F20/14
C08J11/12
(21)【出願番号】P 2024144392
(22)【出願日】2024-08-26
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2024039242
(32)【優先日】2024-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昂
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1466011(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0031301(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/40
C07C 67/333
B29B 17/04
C08J 11/12
C07C 69/54
C08F 20/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法であって、
メタクリル樹脂と水酸化アルミニウムとを含む人工大理石を準備する工程(1)と、
前記人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)と、
前記粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)と、
前記工程(2)の後、かつ、前記工程(3)の前に、前記粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)と、
を含む、人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項2】
前記メタクリル樹脂の重量平均分子量が、50000~200000である、請求項1に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項3】
前記メタクリル樹脂が、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとの共重合体である、請求項1に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項4】
前記酸溶液が、硫酸である、請求項1に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項5】
前記工程(4)の後の前記人工大理石と、メタクリル樹脂とを混合する工程(5)をさらに含み、前記工程(3)の前に前記工程(5)を行う、請求項1に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項6】
前記工程(3)から得られたメタクリル酸メチルを40℃未満まで冷却して、粗メタクリル酸メチルを得る工程(6)をさらに含む、請求項1に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項7】
前記粗メタクリル酸メチルを蒸留して、高沸点成分を除去する工程(7)をさらに含む、請求項6に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項8】
前記押出機に直結された残渣回収タンクを有し、
前記残渣回収タンクは、その上部にガス導出ラインを有し、
前記ガス導出ラインから前記メタクリル酸メチルをガス形態で回収する工程(8)をさらに含む、請求項1に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
【請求項9】
請求項1に記載のメタクリル酸メチルを回収する方法によって得られたメタクリル酸メチルを準備する工程(P1)と、
前記メタクリル酸メチルを重合して、メタクリル樹脂を製造する工程(P2)と、
を含む、メタクリル樹脂を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法およびメタクリル樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷を低減する観点から、ポリメタクリル酸メチルを熱分解および解重合してメタクリル酸メチルを単離して再利用する、「ケミカルリサイクル」の検討が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を熱分解する方法が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2022-520072号公報
【文献】韓国登録特許10-0982728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、PMMAのケミカルリサイクルにおいては、リサイクルするための多量の原料の確保が難しい。一方、人工大理石は端材等として多量に入手しやすくメタクリル酸メチルを回収するための原料として好ましいが、人工大理石の成分の半分以上が無機成分であり、リサイクル時の無機成分の除去に課題があった。また、PMMAの熱分解における1%減少温度は約300℃であり、300℃未満での熱分解では回収率が低いという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、人工大理石から効率よくメタクリル酸メチルを回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、押出機を用いて熱分解温度を350℃以上550℃未満とすることにより回収率を上げることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法であって、
メタクリル樹脂と水酸化アルミニウムとを含む人工大理石を準備する工程(1)と、
前記人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)と、
前記粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)と、
前記工程(2)の後、かつ、前記工程(3)の前に、前記粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)と、
を含む、人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[2] 前記メタクリル樹脂の重量平均分子量が、50000~200000である、[1]に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[3] 前記メタクリル樹脂が、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとの共重合体である、[1]または[2]に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[4] 前記酸溶液が、硫酸である、[1]~[3]のいずれかに記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[5] 前記工程(4)の後の前記人工大理石と、メタクリル樹脂とを混合する工程(5)をさらに含み、前記工程(3)の前に前記工程(5)を行う、[1]~[4]のいずれかに記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[6] 前記工程(3)から得られたメタクリル酸メチルを40℃未満まで冷却して、粗メタクリル酸メチルを得る工程(6)をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[7] 前記粗メタクリル酸メチルを蒸留して、高沸点成分を除去する工程(7)をさらに含む、[6]に記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[8] 前記押出機に直結された残渣回収タンクを有し、
前記残渣回収タンクは、その上部にガス導出ラインを有し、
前記ガス導出ラインから前記メタクリル酸メチルをガス形態で回収する工程(8)をさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のメタクリル酸メチルを回収する方法によって得られたメタクリル酸メチルを準備する工程(P1)と、
前記メタクリル酸メチルを重合して、メタクリル樹脂を製造する工程(P2)と、
を含む、メタクリル樹脂を製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、人工大理石から効率よくメタクリル酸メチルを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法の一例のフロー図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法の一例のフロー図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法の一例のフロー図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法の一例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に例示説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本実施形態において、「メタクリル樹脂」は、メタクリル酸メチルの重合体を指し、ポリメタクリル酸メチルを包含する概念である。
【0014】
本明細書に記載の材料、成分、化合物、樹脂および溶剤は、別段の記載がない限り、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本実施形態において、各工程に説明の便宜上、工程に番号を付して工程(1)などのように表しているが、これは工程の順序を意味するものではない。
【0016】
(メタクリル酸メチルの回収方法)
本発明の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法は、
メタクリル樹脂と水酸化アルミニウムとを含む人工大理石を準備する工程(1)と、
前記人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)と、
前記粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)と、
前記工程(2)の後、かつ、前記工程(3)の前に、前記粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)と、
を含む、人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法である。これにより、人工大理石から効率よくメタクリル酸メチルを回収することができる。
【0017】
図1~
図4は、本実施形態の人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法の一例のフロー図である。
【0018】
図1の例では、メタクリル樹脂を含む人工大理石を準備する工程(1)、人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)および粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)を順に行う。
【0019】
図2の例では、メタクリル樹脂を含む人工大理石を準備する工程(1)、人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)、人工大理石とメタクリル樹脂とを混合する工程(5)および粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)を順に行う。
【0020】
図3の例では、メタクリル樹脂を含む人工大理石を準備する工程(1)、人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)、人工大理石とメタクリル樹脂とを混合する工程(5)、粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)およびメタクリル酸メチルを40℃未満まで冷却して、粗メタクリル酸メチルを得る工程(6)を順に行う。
【0021】
図4の例では、メタクリル樹脂を含む人工大理石を準備する工程(1)、人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)、人工大理石とメタクリル樹脂とを混合する工程(5)、粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)、メタクリル酸メチルを40℃未満まで冷却して、粗メタクリル酸メチルを得る工程(6)および粗メタクリル酸メチルを蒸留して、高沸点成分を除去する工程(7)を順に行う。
【0022】
以下、本発明の回収方法の各工程を例示説明する。
【0023】
工程(1)
工程(1)では、メタクリル樹脂を含む人工大理石を準備する。人工大理石は、メタクリル樹脂を含めばよい。
【0024】
・メタクリル樹脂
メタクリル樹脂は、公知のメタクリル樹脂であってもよい。メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチル単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。
【0025】
他のビニル単量体としては、例えば、アルキル基の炭素数が2~18のメタクリル酸アルキル、アルキル基の炭素数が1~18のアクリル酸アルキル;アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、ベンゼン環に置換基を有するスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、マレイミド、N-置換マレイミド等;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸またはメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマーなどが挙げられる。これら中でも、耐光性、熱安定性、耐熱性、流動性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が好ましく用いられる。
【0026】
一実施形態では、メタクリル樹脂100質量%に対する、メタクリル酸メチルに由来する構成単位の質量割合は、80~100質量%である。
【0027】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体は、溶解特性と耐熱性に影響を与える。上記メタクリル樹脂100質量%に対する、メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位の質量割合は、0~20質量%であることが好ましい。耐熱分解性の観点から、1質量%以上が好ましい。また、機械強度の観点から、20質量%以下が好ましい。より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。メタクリル樹脂は、例えば、架橋部を含むメタクリル酸メチル共重合体と、非架橋メタクリル酸メチル共重合体との混合物であってもよい。
【0028】
一実施形態では、メタクリル樹脂は、ポリメタクリル酸メチルを含む。別の実施形態では、メタクリル樹脂は、ポリメタクリル酸メチルである。メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチル単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。
【0029】
メタクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、50000~200000であることが好ましい。Mwが当該範囲であることと、人工大理石を酸溶液で洗浄して水酸化アルミニウムの量を低減することによって、可塑性が高まり、押出機での熱分解の効率が向上する。
【0030】
・無機フィラー
人工大理石は、メタクリル樹脂に加えて、無機フィラーをさらに含んでいてもよい。一実施形態では、人工大理石は、メタクリル樹脂と無機フィラーとを含む。
【0031】
無機フィラーとしては、公知の無機フィラーであってもよい。無機フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、クレイ、ガラスフレーク、ガラス繊維、マイカ、チタン酸カリウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、亜鉛化合物、カーボンナノチューブ、黒鉛類などが挙げられる。
【0032】
一実施形態では、人工大理石は、水酸化アルミニウムを含む。
【0033】
一実施形態では、人工大理石がメタクリル樹脂と無機フィラーと含み、メタクリル樹脂と無機フィラーとの合計100質量部に対して、メタクリル樹脂の量が20~95質量部である。
【0034】
工程(2)
工程(2)では、人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る。
【0035】
人工大理石の粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法を用いることができる。粉砕された人工大理石の大きさは、例えば、平均粒径が50μm~1000μmである。後述する洗浄の効率から平均粒径500μm以下が好ましい。洗浄後の固液分離の効率から平均粒径100μm以上が好ましい。
【0036】
なお、既に粉砕された所望の大きさの人工大理石を入手可能な場合は、工程(2)を省略することができる。
【0037】
工程(3)
工程(3)では、粉砕された人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する。
【0038】
・押出機
押出機としては、例えば、熱分解させる原料を少なくとも原料成分の一部を可塑化させた後、熱分解によりリサイクルモノマーへ解重合することができる押出機が挙げられる。押出機での熱分解は連続プロセスであり、釜方式および流動床方式に比べて、熱履歴が安定化することによる解重合プロセスの安定化およびメンテナンスの容易さで優位である。また、同じ連続プロセスであるロータリーキルン方式は熱源による熱分解のみであるが、押出機では、熱源とスクリューせん断により解重合を促進させ、より効率的なケミカルリサイクルとすることができる。
【0039】
押出の後、押出機での熱分解部出口から排出された無機成分等の未分解成分を含む残渣を貯蔵タンク、熱分解により発生したリサイクルメタクリル酸メチルを含むガスを冷却により液体成分として回収タンクに分離するとリサイクルモノマーでなく、無機成分のリサイクルも容易になるので好ましい。
【0040】
無機成分のリサイクル方法としては、例えば、貯蔵タンクにある無機成分等の未分解成分を含む残渣に対し、貯蔵タンク、または残渣を移送した別のタンクを加温することにより、有機成分を全て揮発させ、無機成分を焼成できる温度であればよい。
【0041】
工程(3)の温度、すなわち、熱分解温度が350℃未満では分解収率が悪い。また、工程(3)の温度が550℃を超えるとメタクリル酸メチルが一酸化炭素または二酸化炭素等にまで分解してしまい、メタクリル酸メチルの回収率が低下する。
【0042】
一実施形態では、熱分解温度は、350℃以上、400℃以上、450℃以上または500℃以上である。別の実施形態では、熱分解温度は、550℃未満、500℃以下、450℃以下または400℃以下である。
【0043】
工程(3)で生成したメタクリル酸メチルを回収してもよいし、さらにそのメタクリル酸メチルを処理してもよい。そのような処理としては、例えば、メタクリル酸メチルを冷却する処理、粗メタクリル酸メチルを蒸留する処理などが挙げられる。
【0044】
工程(3)で生成したメタクリル酸メチルは、任意の形態であってもよい。例えば、工程(3)で生成したメタクリル酸メチルは、固体形態、液体形態またはガス状形態のいずれであってもよい。
【0045】
本実施形態の回収方法は、工程(2)の後、かつ、工程(3)の前に、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)をさらに含んでいてもよい。本実施形態の回収方法は、工程(4)を含むことが好ましい。
【0046】
工程(4)
工程(4)では、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する。酸溶液で水酸化アルミニウムを溶解して、水酸化アルミニウムを除去する。
【0047】
酸溶液としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などが挙げられる。一実施形態では、酸溶液は、硫酸である。
【0048】
酸溶液は、酸そのものであってもよいし、酸の水溶液であってもよい。
【0049】
酸溶液として、硫酸を使用する場合、硫酸の濃度は10%~100%が好ましい。効率及び安全上の観点から20%程度の硫酸を使用することが好ましい。
【0050】
一実施形態では、酸溶液のpHは、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.5以下、2.1以下、2.0以下、1.5以下、1.2以下、1.0以下、0.5以下、0.3以下または0.1以下である。別の実施形態では、酸溶液のpHは、0.1以上、0.3以上、0.5以上、1.0以上、1.2以上、1.5以上、2.0以上、2.1以上、2.5以上、3.0以上または3.5以上である。
【0051】
酸溶液の量は、人工大理石中の水酸化アルミニウムの濃度に応じて適宜調整できる。酸溶液の量は、例えば、人工大理石中の水酸化アルミニウムに対し、約1倍モル当量~約10倍モル当量である。
【0052】
人工大理石を洗浄する際は、人工大理石と酸溶液を混合し、混合液を50℃~100℃に加熱することが好ましい。この温度範囲にあることで水酸化アルミニウムを効率的に溶解することができる。効率の観点から60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。安全上の観点から90℃以下であることが好ましい。
【0053】
人工大理石を洗浄する際には、攪拌方式または振とう方式により洗浄することが好ましい。
【0054】
洗浄後の固相(例えば、メタクリル樹脂を含む)と液相(例えば、水酸化アルミニウムを含む)を分離する手段としては、特に限定されず、フィルターを使用したろ過、遠心沈降法など公知の手段を用いることができる。固相と液相を分離することで、液相に含まれる水酸化アルミニウムを除去することができる。
【0055】
本実施形態の回収方法は、工程(4)の後の人工大理石と、メタクリル樹脂とを混合する工程(5)をさらに含んでいてもよい。
【0056】
工程(5)
工程(4)の後の人工大理石と、メタクリル樹脂とを混合する。工程(4)の後の水酸化アルミニウムを除去した後の人工大理石にも、若干の水酸化アルミニウムが残る場合があり、また、メタクリル樹脂などの架橋成分が多い場合もある。そこで、工程(5)における処理対象の流動性を確保するため、メタクリル樹脂を人工大理石に添加してもよい。
【0057】
工程(5)で添加するメタクリル樹脂の重量平均分子量は、50000~200000であることが好ましい。
【0058】
<押出機の構成>
本発明においては、押出機と残渣回収タンクが直結しており、残渣タンク上部のガス導出ラインからメタクリル酸メチル含有組成物ガスを回収することが好ましい。無機フィラーを含んでいる人工大理石を熱分解すると無機フィラー成分については可塑性がなく、残渣タンクまでに配管距離があると閉塞の可能性があるためである。
【0059】
本実施形態の回収方法は、工程(3)から得られたメタクリル酸メチルを40℃未満まで冷却して、粗メタクリル酸メチルを得る工程(6)をさらに含んでいてもよい。
【0060】
工程(6)
工程(6)では、工程(3)から得られたメタクリル酸メチルを40℃未満まで冷却して、粗メタクリル酸メチルを得る。冷却温度は、好ましくは35℃未満、より好ましくは30℃未満である。粗メタクリル酸メチルとは、メタクリル酸メチルの含有率が90%以上の組成物を示す。メタクリル酸メチル以外の不純物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸-nブチル、メタノール、イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、メタクリル酸メチルオリゴマー、メタクリル酸メチル・アクリル酸メチル共重合オリゴマー等が含まれることが多い。
【0061】
本実施形態の回収方法は、粗メタクリル酸メチルを蒸留して、高沸点成分を除去する工程(7)をさらに含んでいてもよい。
【0062】
工程(7)
工程(7)では、粗メタクリル酸メチルを蒸留して、高沸点成分を除去する。蒸留操作としては、特に限定されず、公知の蒸留操作を用いることができる。高沸点成分としては、例えば、メタクリル酸メチルオリゴマー、メタクリル酸メチル・アクリル酸メチル共重合オリゴマー等が挙げられる。
【0063】
工程(3)から得られるメタクリル酸メチルの純度および用途に応じて、工程(3)から得られたメタクリル酸メチルを回収してもよいし、工程(6)および工程(7)をさらに行ってもよい。
【0064】
本実施形態の回収方法は、押出機に直結された残渣回収タンクを有し、残渣回収タンクは、その上部にガス導出ラインを有し、ガス導出ラインからメタクリル酸メチルをガス形態で回収する工程(8)をさらに含んでいてもよい。
【0065】
工程(8)
工程(8)では、押出機に直結された残渣回収タンクを有し、残渣回収タンクは、その上部にガス導出ラインを有し、ガス導出ラインからメタクリル酸メチルをガス形態で回収する。工程(8)は、工程(3)の後に行えばよい。
【0066】
(メタクリル樹脂を製造する方法)
本実施形態のメタクリル樹脂を製造する方法は、本実施形態のメタクリル酸メチルを回収する方法によって得られたメタクリル酸メチルを準備する工程(P1)と、
メタクリル酸メチルを重合して、メタクリル樹脂を製造する工程(P2)と、
を含む。
【0067】
工程(P2)で重合するメタクリル酸メチルは、少なくとも本実施形態のメタクリル酸メチルを回収する方法によって得られたメタクリル酸メチルを用いればよい。本実施形態のメタクリル酸メチルを回収する方法によって得られたメタクリル酸メチルのみを用いてもよいし、市販品などのメタクリル酸メチルと組み合わせて用いてもよい。
【0068】
重合方法は、特に限定されず、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、キャスト重合など、公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例、比較例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0070】
(実施例1)
以下の工程(1)~(8)を行い、精製メタクリル酸メチルを回収した。
【0071】
工程(1)として、市販の人工大理石を準備した。その人工大理石のメタクリル樹脂の分子量を測定したところ、Mwは150000であった。また、メタクリル樹脂中、アクリル酸メチルが2重量%共重合されていることを確認した。
【0072】
工程(2)として、その人工大理石を粉砕して、最大長10mmの粉砕された人工大理石を得た。粉砕された人工大理石について、
TGAで400℃まで加熱した残渣から、水酸化アルミニウムの含有量は50%であった。
【0073】
工程(4)として、粉砕された人工大理石と、濃度20%の硫酸を1:5の質量割合で混合し、80℃で3時間攪拌し、粉砕された人工大理石を硫酸で洗浄した。洗浄した人工大理石を濾過し、洗浄後の人工大理石を得た。洗浄後の人工大理石中の水酸化アルミニウムの含有量は10%であった。得られた硫酸アルミニウム水溶液の硫酸アルミニウム濃度は33%であった。
【0074】
工程(5)として、洗浄後の人工大理石80質量%と、メタクリル樹脂20質量%を乾燥状態で混合した。
【0075】
工程(3)および工程(8)として、押出機と残渣回収タンクが直結しており、残渣タンク上部にガス導出ラインを設けた押出機を用いて、工程(5)からの混合物が通る流路を不活性ガスとして窒素ガスを充填した市販の二軸押出機の原料投入口にその混合物を投入した。投入口下の温度を250℃とし、300℃の熱可塑ゾーンを経て450℃に温度調節した熱分解ゾーンに通し、解重合を行った。
【0076】
工程(6)として、押出の後、押出機での熱分解部出口から排出された無機成分等の未分解成分を含む残渣成分を貯蔵タンクに分離し、熱分解により発生したガス形態の粗メタクリル酸メチルを冷却して液体成分として回収タンクに分離した。得られた粗メタクリル酸メチルを含む成分は、投入された無機成分を除く原材料の重量に対して99%の収率であった。液温は10℃であった。
【0077】
工程(7)として、粗メタクリル酸メチルをTOP真空度400hPa以下、TOP温度50℃前後、釜温70℃前後で蒸留して、高沸点成分を除去した。得られた精製メタクリル酸メチルの純度は99.5%であった。
【0078】
(比較例1)
押出機の熱分解ゾーンの温度を300℃としたこと以外は実施例1と同様にして、人工大理石の熱分解を行った。得られた粗メタクリル酸メチルを含む成分は、投入された無機成分を除く原材料の重量に対して10%の収率であった。この結果から、300℃では熱分解がほとんど進んでいなかった。
【0079】
(比較例2)
押出機の熱分解ゾーンの温度を590℃としたこと以外は実施例1と同様にして、人工大理石の熱分解を行った。得られた粗メタクリル酸メチルを含む成分は、投入された無機成分を除く原材料の重量に対して55%の収率であった。この結果から、590℃ではメタクリル酸メチル自体の熱分解がさらに進み、収率が上がらなかった。
【0080】
(実施例2)
以下の工程(P1)と工程(P2)を行い、メタクリル樹脂を製造した。
【0081】
工程(P1)として、実施例1で回収したメタクリル酸メチルを準備した。
【0082】
攪拌機を有する容器に、70℃の水5kg、平均粒子径23μmの水酸化アルミニウム130g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)2.3gを投入して混合液を得た。その混合液に水酸化ナトリウム水溶液を適量加え、pHを4~7の範囲に調整し、懸濁剤を得た。
【0083】
工程(P2)として、60Lの反応器に水25kg、懸濁剤3kgおよびモノマー原料を投入し、反応混合物を得た。このモノマー原料の組成は、メタクリル酸メチル15kg、実施例1で回収したメタクリル酸メチル5kg、アクリル酸メチル0.42kg、ジラウロイルパーオキサイド42gおよびn-オクチルメルカプタン50gである。その反応混合物を攪拌し、80℃で150分間、懸濁重合した。次いで、反応を実質終了して重合体を得た。次に、その重合体を含む混合物を50℃まで冷却して、懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次いで、その混合物について、洗浄、脱水および乾燥を行い、メタクリル樹脂を得た。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、人工大理石から効率よくメタクリル酸メチルを回収することができる。
【要約】
【課題】人工大理石から効率よくメタクリル酸メチルを回収する方法を提供すること。
【解決手段】人工大理石からメタクリル酸メチルを回収する方法であって、メタクリル樹脂と水酸化アルミニウムとを含む人工大理石を準備する工程(1)と、人工大理石を粉砕して、粉砕された人工大理石を得る工程(2)と、粉砕した人工大理石を押出機で350℃以上550℃未満に加熱し、メタクリル酸メチルを生成する工程(3)と、工程(2)の後、かつ、工程(3)の前に、粉砕された人工大理石を酸溶液で洗浄して、水酸化アルミニウムを除去する工程(4)とを含む、メタクリル酸メチルの回収方法。
【選択図】
図1