(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/16 20060101AFI20241128BHJP
B60S 1/50 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E02F9/16 C
B60S1/50
(21)【出願番号】P 2024511464
(86)(22)【出願日】2023-02-23
(86)【国際出願番号】 JP2023006608
(87)【国際公開番号】W WO2023189047
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2022059882
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398071668
【氏名又は名称】株式会社日立建機ティエラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】薄井 龍矩
(72)【発明者】
【氏名】山本 大介
(72)【発明者】
【氏名】塚口 晶仁
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239043(JP,A)
【文献】特開2002-174122(JP,A)
【文献】特開2019-143506(JP,A)
【文献】特開2019-142116(JP,A)
【文献】特開2004-217164(JP,A)
【文献】実開平03-121022(JP,U)
【文献】特開2004-359274(JP,A)
【文献】実開昭59-165337(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第00042214(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/16
B60S 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な車体と、前記車体に設けられ窓を有するキャブと、を備え、
前記キャブは、前記窓にウォッシャ液を噴出する噴出装置と、前記噴出装置に供給するウォッシャ液を貯えるウォッシャタンクと、を備えてなる建設機械において、
前記ウォッシャタンクは、透明または半透明な容器からなり、底面から天面に亘って傾斜した傾斜面を備え
、
前記キャブ内に運転席が設けられ、
前記ウォッシャタンクは、前記運転席の背もたれの上端よりも低い位置で、前記背もたれと前記キャブの後面部との間に配置され、
前記ウォッシャタンクは、左右方向に延びた横長形状の容器として形成され、
前記傾斜面は、前記ウォッシャタンクの前面のうち、前記背もたれと前後方向で重なる位置に配置されていることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項
1に記載の建設機械において、
前記ウォッシャタンクは、前記傾斜面を有する第1容器部と、前記第1容器部に連続して設けられた第2容器部と、を備え、
前記第1容器部は、左右方向に垂直な断面形状が台形状または三角形状であり、
前記第2容器部は、前面から後面に亘って平坦な前記天面を有し、左右方向に垂直な断面形状が四角形状であり、
前記第2容器部の前記天面には、ウォッシャ液を充填するための充填口が設けられていることを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、オペレータが搭乗するキャブを備えた油圧ショベル、ホイールローダ等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械の代表例である油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体と、上部旋回体の前側に回動可能に設けられた作業装置と、を備えている。車体を構成する上部旋回体には、オペレータが搭乗するキャブが設けられている。
【0003】
キャブは、運転席を覆うように、前面部、後面部、左面部、右面部および天面部からなるボックス状のキャブボックスを備えている。このキャブボックスの前面部、後面部、左面部、右面部には、オペレータが周囲を目視するための窓が設けられている。
【0004】
ここで、油圧ショベルが稼働する現場は、稼働時に塵埃や泥水が飛散する荒地である。このために、例えば、キャブの前面部や後面部には、窓(窓ガラス)に付着した水滴を払拭するワイパ装置と、窓にウォッシャ液を噴出する噴出装置と、が設けられている。また、キャブ内には、噴出装置に供給するウォッシャ液を貯えるウォッシャタンクが設けられている(特許文献1)。
【0005】
ウォッシャタンクは、例えば、直方体状の容器として形成されている。この場合、ウォッシャタンクは、透明または半透明な樹脂材料によって形成されることにより、横方向から目視することで、ウォッシャ液の残量を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
ところで、特許文献1の発明によるウォッシャタンクは、横方向から目視することにより、ウォッシャ液の残量(液面位置)を確認することができる。しかし、油圧ショベルのキャブは、オペレータが操作するだけの狭い空間となっている。特に、ミニショベルと呼ばれる小型の油圧ショベルは、運転席、操作レバー、スイッチ、モニタ等をキャブボックスで囲む構造になっている。
【0008】
小型の油圧ショベルのキャブでは、ウォッシャタンクを設置する場所も限られてしまう。このため、周囲がキャブボックスや他の物品で囲まれて横方向から目視できない場所にウォッシャタンクが設置される場合がある。この場合には、ウォッシャタンク内のウォッシャ液の残量を容易に確認することができなくなる。
【0009】
ここで、前述したように油圧ショベルは、塵埃や泥水が飛散する荒地での作業が多く、視界を確保するためにワイパ装置とウォッシャ液を頻繁に使用する。従って、ウォッシャ液の残量が少ないまま作業を開始し、作業途中でウォッシャ液が無くなった場合には、作業を止めてウォッシャ液を充填(補充)しなくてはならず、作業効率が低下するという問題がある。また、現場によっては、ウォッシャ液を容易に確保できない場合があり、この場合には、良好な視界を確保するのが難しくなる虞がある。
【0010】
さらに、ウォッシャ液の残量(液面位置)が確認し難い場合には、ウォッシャ液の充填作業でウォッシャ液が溢れる虞があり、ウォッシャ液が溢れた場合には、別途清掃作業が必要になったり、電気系統のトラブルの原因になったりするという問題がある。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ウォッシャタンク内のウォッシャ液の残量を容易に確認することができるようにした建設機械を提供することにある。
【0012】
本発明は、自走可能な車体と、前記車体に設けられ窓を有するキャブと、を備え、前記キャブは、前記窓にウォッシャ液を噴出する噴出装置と、前記噴出装置に供給するウォッシャ液を貯えるウォッシャタンクと、を備えてなる建設機械において、前記ウォッシャタンクは、透明または半透明な容器からなり、底面から天面に亘って傾斜した傾斜面を備え、前記キャブ内に運転席が設けられ、前記ウォッシャタンクは、前記運転席の背もたれの上端よりも低い位置で、前記背もたれと前記キャブの後面部との間に配置され、前記ウォッシャタンクは、左右方向に延びた横長形状の容器として形成され、前記傾斜面は、前記ウォッシャタンクの前面のうち、前記背もたれと前後方向で重なる位置に配置されている。
【0013】
本発明によれば、作業者は、ウォッシャ液の液面を横方向から目視できない場所にウォッシャタンクが配置された場合でも、ウォッシャタンク内のウォッシャ液の残量を容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの左側面図である。
【
図2】上部旋回体を
図1中の矢示II-II方向から示す断面図である。
【
図3】
図2中のキャブの後部を拡大して示す断面図である。
【
図4】キャブの後部を
図3中の矢示IV-IV方向から示す断面図である。
【
図5】運転席の背もたれが倒れた状態を
図4と同様位置から示す断面図である。
【
図6】ポンプとホースが組付けられたウォッシャタンクを示す斜視図である。
【
図7】ポンプとホースが組付けられたウォッシャタンクを示す前面図である。
【
図8】ポンプとホースが組付けられたウォッシャタンクを示す平面図である。
【
図9】ポンプとホースが組付けられたウォッシャタンクを示す左側面図である。
【
図10】ウォッシャタンクを単体で示す斜視図である。
【
図11】ウォッシャタンクを
図8中の矢示XI-XI方向から示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る建設機械として、クローラ式の油圧ショベルを例に挙げ、
図1ないし
図11に従って詳細に説明する。なお、実施形態では、作業装置側が前側、カウンタウエイト側が後側とした上で、この前後方向と直交する幅方向を左右方向として説明する。
【0016】
図1において、建設機械としての油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に回動可能に設けられたスイング式の作業装置4と、により構成されている。下部走行体2と上部旋回体3は、油圧ショベル1の車体を構成している。作業装置4は、オペレータによって操作されることで土砂の掘削作業等を行う。ここで、本実施形態による油圧ショベル1は、ミニショベルと呼ばれる小型の油圧ショベルであり、上部旋回体3に小さなキャブ8が設けられている。
【0017】
上部旋回体3は、ベースとなる後述の旋回フレーム5を有している。上部旋回体3の旋回フレーム5には、カウンタウエイト6、キャブ8等が設けられている。
【0018】
旋回フレーム5は、支持構造体として形成され、下部走行体2上に旋回可能に取付けられている。旋回フレーム5の前部には、作業装置4が左右方向に揺動可能に取付けられている。旋回フレーム5の後部には、作業装置4との重量バランスをとるためのカウンタウエイト6が設けられている。また、旋回フレーム5の右側には、作動油タンク、燃料タンク等(いずれも図示せず)を覆ってカバー部材7が設けられている。さらに、旋回フレーム5の後側には、原動機としてのエンジン(ディーゼルエンジン)、熱交換器、油圧ポンプ(いずれも図示せず)が設けられている。なお、原動機としては、ディーゼルエンジンと電動モータとを組み合わせたハイブリッド式の原動機または電動モータ単体を用いることができる。
【0019】
キャブ8は、上部旋回体3の左右方向の中央から左側に亘って設けられている。
図2に示すように、キャブ8は、後述のフロア部材9、運転席10、キャブボックス13、前ワイパ装置14、後ワイパ装置15、前噴出装置16、後噴出装置17、ウォッシャタンク18を含んで構成されている。
【0020】
フロア部材9は、キャブ8のベースを構成している。フロア部材9は、前側に配置された平坦な足載せ部9Aと、足載せ部9Aの後部からステップ状に立ち上がり、エンジン等を覆った運転席台座9Bと、運転席台座9Bの後部から斜め上側に延びた背面部9Cと、背面部9Cの上部に左右方向に延びて設けられたタンク台9Dと、を備えている。
【0021】
運転席台座9B上には、運転席10等が取付けられている。また、タンク台9Dは、後述するキャブボックス13の後面部13Bの直前に位置し、ウォッシャタンク18を取付けるための台座を兼ねている。
図4に示すように、例えば、タンク台9Dは、背面部9Cの上部から後側に延び、その後部が立ち上がったL字状の構造体からなり、後側の縦面部9D1にウォッシャタンク18が取付けられている。さらに、フロア部材9の周囲には、キャブボックス13が取付けられている。
【0022】
運転席10は、フロア部材9の運転席台座9B上に設けられている。運転席10は、オペレータが座る座面10Aと、座面10Aの後部から立ち上がった背もたれ10Bと、を備えている。背もたれ10Bは、オペレータの体形、好みに応じて前後方向に固定角度を調整することができる。具体的には、
図5に示すように、背もたれ10Bは、後側に最大に回動させることにより、上端(ヘッドレスト)がキャブボックス13の後面部13Bの近傍に達する。
【0023】
作業用のレバー装置11は、運転席10の左右両側に設けられている。作業用のレバー装置11は、作業装置4等を動作させるときにオペレータによって操作される。また、走行用のレバー・ペダル装置12は、フロア部材9の足載せ部9Aの前部に設けられている。走行用のレバー・ペダル装置12は、下部走行体2を走行させるときにオペレータによって操作される。
【0024】
キャブボックス13は、フロア部材9の上側に設けられている。キャブボックス13は、キャブ8の外殻を形成すると共に、内部に運転室を形成している。キャブボックス13は、前面部13A、後面部13B、左面部13C、右面部13Dおよび天面部13Eによりボックス状に形成されている。
【0025】
また、キャブボックス13は、前面部13Aに前窓13Fを有し、後面部13Bに後窓13Gを有し、左面部13Cに左窓13Hを有し、右面部13Dに右窓13Jを有し、天面部13Eに天窓(図示せず)を有している。さらに、キャブボックス13は、左面部13Cの前側の乗降口を開閉するドア13Kを備えている。
【0026】
前窓13F、後窓13G、左窓13H、右窓13J等は、透明な窓ガラスによって形成されている。また、前窓13Fは、キャブボックス13の全高に亘って設けられている。一方、後窓13G、左窓13H、右窓13Jは、キャブボックス13の上下方向の中間部から上側に設けられている。
【0027】
ここで、後面部13Bの後窓13G、左面部13Cの左窓13Hおよび右面部13Dの右窓13Jの後部は、フロア部材9のタンク台9Dよりも上側に設けられている。このために、タンク台9Dに取付けられたウォッシャタンク18内のウォッシャ液の液面L1,L2の位置を側方から目視し難い。
【0028】
図2に示すように、前ワイパ装置14は、前窓13Fの左側に設けられている。前ワイパ装置14は、前窓13F(窓ガラス)に付着した水滴、例えば、雨水、泥水等を払拭する。後ワイパ装置15は、後窓13Gの右側に設けられている。後ワイパ装置15は、後窓13Gに付着した水滴を払拭する。前ワイパ装置14、後ワイパ装置15は、ワイパ装置を構成している。前ワイパ装置14、後ワイパ装置15以外にも、天窓に付着した水滴を払拭する天ワイパ装置を設けることもできる。
【0029】
前噴出装置16は、前窓13Fの右上部に設けられている。前噴出装置16は、ウォッシャタンク18から圧送されるウォッシャ液を前窓13F(窓ガラス)に噴出する。後噴出装置17は、後窓13Gの左上部に設けられている。後噴出装置17は、ウォッシャ液を後窓13G(窓ガラス)に噴出する。前噴出装置16、後噴出装置17は、噴出装置を構成している。
【0030】
前噴出装置16は、後述の前用ポンプ27(ホース27A)を介してウォッシャタンク18に接続されている。後噴出装置17は、後用ポンプ28(ホース28A)を介してウォッシャタンク18に接続されている。前噴出装置16、後噴出装置17以外にも、ウォッシャ液を天窓に噴出する天噴出装置を設けることもできる。
【0031】
次に、本実施形態の特徴部分となるウォッシャタンクの構成、ウォッシャ液の点検作業、充填作業等について詳細に説明する。
【0032】
ウォッシャタンク18は、前噴出装置16、後噴出装置17に供給するウォッシャ液を貯える容器である。ウォッシャタンク18は、例えば、樹脂材料からなる透明または半透明な容器として形成されている。ウォッシャタンク18は、オペレータが運転席10の座面10Aに着座できるように運転席10の背もたれ10Bの角度が設定された状態(運転席10の背もたれ10Bが座面10Aに対して略垂直な姿勢)において、この背もたれ10Bの上端よりも低い位置で、背もたれ10Bとキャブボックス13の後面部13Bとの間に配置されている。具体的には、ウォッシャタンク18は、フロア部材9のタンク台9D上に位置して縦面部9D1に取付けられている。
【0033】
ここで、ウォッシャタンク18が運転席10の背もたれ10Bとキャブボックス13の後面部13Bとの間に配置されている理由について述べる。まず、レバー装置11、各種スイッチ、モニタ、ランプ等は、運転席10に座ったオペレータが目視と操作ができる位置に配置する必要がある。従って、レバー装置11、各種スイッチ、モニタ、ランプ等は、運転席10の左右両側に配置されている。この場合、小型の油圧ショベル1のキャブ8は、小さなボックス状に形成されているため、運転席10の左右両側には、レバー装置11、各種スイッチ等が配置されているから、ウォッシャタンク18を設置するスペースを確保することが困難である。
【0034】
一方、運転席10の背もたれ10Bよりも後側は、背もたれ10Bを倒すためのスペースが存在するから、このスペースを利用することでウォッシャタンク18を設置することができる。しかし、運転席10の後側にウォッシャタンク18を設置する場合、後窓13Gを遮らないように、後窓13Gよりも低い位置に配置する必要がある。
【0035】
この場合、スペースの限られたキャブ8内において、ウォッシャタンク18内のウォッシャ液の残量(液面位置)を横方向から目視することが困難である。しかし、本実施形態のウォッシャタンク18は、上側からウォッシャ液の残量を目視で確認することができる。
【0036】
ウォッシャタンク18は、運転席10の背もたれ10Bとキャブボックス13の後面部13Bとの間を左右方向に延びた横長形状の容器として形成されている。ウォッシャタンク18は、背もたれ10Bと前後方向で重なる左側位置に配置された第1容器部19と、第1容器部19に連続して右側に設けられた第2容器部20と、を備えている。
【0037】
第1容器部19は、ウォッシャタンク18の左右方向の長さ寸法のうち、中間部から左端部までの3分の2程度の寸法範囲に設けられている。第1容器部19は、前側の傾斜面19A、後面19B、天面19C、底面19D、左面19Eを有し、左右方向に垂直な断面形状が台形状の横長な容器として形成されている。後面19Bは、第2容器部20の後面20Bと同一面をなし、天面19Cは、第2容器部20の天面20Cと同一面をなし、底面19Dは、第2容器部20の底面20Dと同一面をなしている。
【0038】
傾斜面19Aは、底面19Dから天面19Cに亘って傾斜している。具体的には、傾斜面19Aは、底面19Dの前端縁から天面19Cの前端縁に向け後側に傾斜した長方形状の平面として形成されている。これにより、天面19Cは、細長な面となるから、第1容器部19は、断面が三角形状(直角三角形状)の横長な容器とも言える。
【0039】
ここで、傾斜面19Aは、底面19Dの前端縁から天面19Cの前端縁に向け後側に傾斜している。この上で、ウォッシャタンク18の一部をなす傾斜面19Aは、透明または半透明となっている。従って、
図7に示すように、ウォッシャタンク18を前側(横方向)から見たときに、ウォッシャ液の残量、即ち、液面L1が点線で示す位置の場合、
図8に示すように、ウォッシャタンク18を上側から見ると、液面L1の前端縁の位置P1(液面L1が傾斜面19Aに接した位置として
図11に図示)が残量E1(点線)として目視で確認できる。
【0040】
また、
図11に示すように、ウォッシャ液の残量が多く、二点鎖線で示す高い液面L2の場合には、液面L2の前端縁が傾斜面19Aに接する位置がP2になるから、ウォッシャタンク18を上側から見ると、残量E2として目視で確認できる。
【0041】
これにより、傾斜面19Aに映る液面L1,L2等の前端縁P1,P2等は、残量E1,E2等として前後方向で位置を変える。従って、ウォッシャタンク18を上側から見たときに、傾斜面19Aの前側寄りに液面の前端縁(残量)がある状態では、残量が少ないことになる。一方、傾斜面19Aの後側寄りに液面の前端縁(残量)がある状態では、残量が多いことになる。即ち、ウォッシャタンク18を上側から見るだけで、ウォッシャ液の残量を容易に確認することができる。
【0042】
また、傾斜面19Aは、運転席10の背もたれ10Bと前後方向で重なる位置に配置されているから、
図5に示すように、後側に倒された背もたれ10Bを避けることができる。換言すると、背もたれ10Bに当たらない位置を有効に利用することができ、限られたスペースで、ウォッシャタンク18の容量を大きくすることができる。ここで、運転席10が前後方向に移動可能な機能を有している場合、運転席10の前後位置によって背もたれ10Bが後側に最大に回動(後傾)できる角度が変わるが、傾斜面19Aの傾斜角度は、背もたれ10Bを後側に最大に回動させた状態で、背もたれ10Bの背面に沿うように設定されている。この点によっても、ウォッシャタンク18の容量を大きくすることができる上に、背もたれ10Bの後傾角度を大きく取ることができ、オペレータの着座姿勢の対応範囲を広くすることができる。
【0043】
さらに、ウォッシャタンク18に傾斜面19Aを設けたことで、ウォッシャタンク18内のウォッシャ液は、上側に行くほどに少なくなる。このために、ウォッシャタンク18が揺れてウォッシャ液の波が発生しても、小さな波に抑えることができるから、この波が内壁に衝突するときの負荷を小さくすることができる。
【0044】
第2容器部20は、ウォッシャタンク18の左右方向の長さ寸法のうち、右側の3分の1程度の寸法範囲に設けられている。第2容器部20は、前面20A、後面20B、天面20C、底面20D、右面20Eを有し、左右方向に垂直な断面形状が四角形状の容器として形成されている。第2容器部20は、第1容器部19に右側に連続して設けられている。後面20Bは、第1容器部19の後面19Bと同一面をなし、天面20Cは、第1容器部19の天面19Cと同一面をなし、底面20Dは、第1容器部19の底面19Dと同一面をなしている。
【0045】
ウォッシャタンク18は、第2容器部20を直方体状に形成したことで、ウォッシャ液の充填量を増大することができる。また、天面20Cは、前面20Aから後面20Bに亘って平坦に形成することができる。これにより、天面20Cには、大きな(大口径な)充填口21を設けることができる。
【0046】
充填口21は、第2容器部20の天面20Cに上側に突出して設けられている。充填口21は、前述したように大口径に形成されているから、ウォッシャ液の充填作業を容易に行うことができる。キャップフック22は、充填口21の傍らに位置して天面20Cに設けられている。キャップフック22には、後述するキャップ29のベルト29Aが掛止めされる。
【0047】
ウォッシャタンク18には、第1容器部19の左側と第2容器部20の右側に前後方向に貫通してボルト挿通孔23が設けられている。2個のボルト挿通孔23には、後述のボルト26が挿通される。また、第1容器部19の底面19Dには、左右方向の中央に位置してモータブラケット24が設けられ、左側に位置してホースブラケット25が設けられている。
【0048】
モータブラケット24は、後述の前用ポンプ27と後用ポンプ28とを保持する。
図7に示すように、モータブラケット24は、左右方向に延びた長方形状の板体からなり、上端縁が第1容器部19の底面19Dに固着されている。また、
図10に示すように、モータブラケット24は、左右方向に並んで下側に開口したC字状の切欠24A,24Bを有している。切欠24Aには、前用ポンプ27が弾性力を利用して嵌合されている。切欠24Bには、後用ポンプ28が弾性力を利用して嵌合されている。
【0049】
ホースブラケット25は、前用ポンプ27のホース27Aと後用ポンプ28のホース28Aとを保持する。
図11に示すように、ホースブラケット25は、前後方向に延びた長方形状の板体からなり、上端縁が第1容器部19の底面19Dに固着されている。また、ホースブラケット25は、左右方向に並んで斜め下側に開口したC字状の切欠25A,25Bを有している。切欠25Aには、前用ポンプ27のホース27Aが弾性力を利用して嵌合されている。切欠25Bには、後用ポンプ28のホース28Aが弾性力を利用して嵌合されている。
【0050】
そして、
図3ないし
図5に示すように、ウォッシャタンク18は、第1容器部19の後面19Bと第2容器部20の後面20Bとを、フロア部材9のタンク台9Dを構成する縦面部9D1の所定位置(運転席10の背もたれ10Bの後側)に当接させる。この状態で、2個のボルト挿通孔23に挿通したボルト26をタンク台9Dに螺着することにより、ウォッシャタンク18は、背もたれ10Bよりも低い位置で、背もたれ10Bとキャブボックス13(キャブ8)の後面部13Bとの間に設置することができる。
【0051】
図6、
図7に示すように、前用ポンプ27は、ウォッシャタンク18のモータブラケット24の切欠24Aに嵌合状態で取付けられている。前用ポンプ27は、ポンプ部とモータ部とを備え、ポンプ部から延びたホース27Aは、前噴出装置16に接続されている。また、ホース27Aは、途中部分がホースブラケット25の切欠25Aに嵌合されている。
【0052】
後用ポンプ28は、モータブラケット24の切欠24Bに嵌合状態で取付けられている。後用ポンプ28は、ポンプ部とモータ部とを備え、ポンプ部から延びたホース28Aは、後噴出装置17に接続されている。また、ホース28Aは、途中部分がホースブラケット25の切欠25Bに嵌合されている。
【0053】
キャップ29は、ウォッシャタンク18の充填口21に着脱可能となっている。キャップ29は、充填口21に取付けられることにより、充填口21を閉塞することができる。一方、キャップ29は、充填口21から取外されることにより、充填口21を開放することができる。この充填口21の開放状態では、充填口21を通じてウォッシャ液を充填することができる。また、キャップ29は、脱落、紛失を防止するためのベルト29Aを有し、このベルト29Aの先端は、キャップフック22に掛止めされている。
【0054】
本実施形態に適用された油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0055】
まず、オペレータは、キャブ8に搭乗して運転席10に座り、走行用のレバー・ペダル装置12を操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。また、作業用のレバー装置11を操作することにより、作業装置4を回動させて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0056】
さらに、キャブボックス13の前窓13Fが塵埃や泥水で汚れた場合には、キャブ8内のワイパスイッチ(図示せず)をONにして前ワイパ装置14を動作させることにより、前窓13Fの汚れを払拭することができる。このときに、ウォッシャスイッチ(図示せず)をONにして前用ポンプ27を起動し、ウォッシャタンク18内のウォッシャ液を前噴出装置16から前窓13Fに向けて噴出する。これにより、強固に付着した汚れをウォッシャ液で溶かし、前ワイパ装置14によって効率よく払拭することができる。同様に、後窓13Gについても、後ワイパ装置15、後噴出装置17によって汚れを払拭することができる。
【0057】
次に、油圧ショベル1で執り行われる各種の点検作業、例えば、ウォッシャタンク18のウォッシャ液の残量を点検する作業やウォッシャタンク18にウォッシャ液を充填する作業について説明する。
【0058】
ウォッシャ液の残量の点検作業は、キャブ8に乗り込んだオペレータが運転席10の背もたれ10Bの後側を覗き込み、ウォッシャタンク18を上側から目視する。ウォッシャタンク18を上側から目視すると、第1容器部19の傾斜面19Aには、ウォッシャ液の液面L1,L2の前端縁P1,P2が透けて映っている。このときに、前端縁P1,P2の位置は、液面L1,L2の高さに応じて前後方向に移動する。従って、ウォッシャタンク18を上側から目視したときに、液面L1の前端縁P1が傾斜面19Aの前側寄りに見える状態では、ウォッシャ液の残量E1が少ない(液面L1が低い)ことが分かる。一方、液面L2の前端縁P2が傾斜面19Aの後側寄りに見える状態では、残量E2が多い(液面L2が高い)ことが分かる。即ち、ウォッシャタンク18を上側から見るだけで、ウォッシャ液の残量E1,E2を容易に確認することができる。
【0059】
ウォッシャ液の残量E1,E2の点検作業で、ウォッシャタンク18内のウォッシャ液の残量が少ないことが分かった場合には、ウォッシャ液の充填作業を行う。まず、キャップ29を取外して充填口21を開放させる。この状態で、充填口21からウォッシャ液を充填(補充)する。このウォッシャ液の充填時には、傾斜面19Aに映る液面の前端縁が後側に移動するのが見えるから、天面19Cに近付いたらウォッシャ液の充填を止める。これにより、ウォッシャ液を溢れさせることなく、素早く充填することができる。ウォッシャ液を充填したら、充填口21にキャップ29を取付ける。
【0060】
かくして、本実施形態によれば、前噴出装置16、後噴出装置17に供給するウォッシャ液を貯えるウォッシャタンク18は、透明または半透明な容器からなり、第1容器部19の底面19Dから天面19Cに亘って傾斜した傾斜面19Aを備えている。従って、ウォッシャタンク18内でウォッシャ液の液面L1,L2の高さが変化すると、液面L1,L2の前端縁P1,P2が傾斜面19Aに沿って前後方向に移動する。これにより、オペレータは、第1容器部19の傾斜面19Aに映った液面L1,L2の前端縁P1,P2の位置を上側から見て確認するだけで、ウォッシャ液の残量E1,E2を確認することができる。
【0061】
この結果、小型の油圧ショベル1のキャブ8のように、ウォッシャ液の液面を横方向から目視することが困難である場所にウォッシャタンク18が配置された場合でも、ウォッシャタンク18内のウォッシャ液の残量(液面高さ位置)を容易に確認することができ、点検作業や充填作業の作業性を向上することができる。また、上側からのウォッシャ液の充填作業では、ウォッシャタンク18を上側から目視するだけで、充填の進行具合を容易に認識することができ、ウォッシャ液が溢れるのを未然に防ぐことができる。
【0062】
キャブ8内には、オペレータが座る運転席10が設けられている。ウォッシャタンク18は、運転席10の背もたれ10Bの上端(ヘッドレスト)よりも低い位置で、背もたれ10Bとキャブ8を構成するキャブボックス13の後面部13Bとの間に配置されている。これにより、キャブ8内で使い勝手の悪い運転席10の後側位置を利用してウォッシャタンク18を設置することができる。また、背もたれ10Bの上端よりも低い位置のウォッシャタンク18は、後方視界を邪魔することがないから、オペレータに広い後方視界を提供することができる。
【0063】
ウォッシャタンク18は、左右方向に延びた横長形状の容器として形成されている。傾斜面19Aは、ウォッシャタンク18の前面のうち、背もたれ10Bと前後方向で重なる位置に配置されている。これにより、傾斜面19Aは、後側に倒された背もたれ10Bを避けることができる。換言すると、背もたれ10Bに当たらない位置を有効に利用することができ、限られたスペースで、ウォッシャタンク18の容量を大きくすることができる。しかも、背もたれ10Bの後傾角度を大きく取ることができ、オペレータの着座姿勢の好みに対応できる範囲を広くすることができる。
【0064】
ウォッシャタンク18は、傾斜面19Aを有する第1容器部19と、第1容器部19に連続して設けられた第2容器部20と、を備えている。第1容器部19は、左右方向に垂直な断面形状が台形状または三角形状であり、第2容器部20は、前面20Aから後面20Bに亘って平坦な天面20Cを有し、左右方向に垂直な断面形状が四角形状である。第2容器部20の天面20Cには、ウォッシャ液を充填するための充填口21が設けられている。従って、平坦な天面20Cには、大きな(大口径な)充填口21を設けることができ、ウォッシャ液の充填作業を効率よく行うことができる。
【0065】
なお、実施形態では、第1容器部19の右側に第2容器部20を設けた場合を例に挙げて説明している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、第1容器部の左側に第2容器部を設ける構成としてもよい。また、第1容器部の左右両側に第2容器部を設ける構成としてもよい。さらに、第2容器部を廃止して第1容器部だけとしてもよい。
【0066】
実施形態では、運転席10の背もたれ10Bとキャブ8を構成するキャブボックス13の後面部13Bとの間に、ウォッシャタンク18を配置した場合を例示している。しかし、本発明はこの構成に限るものではなく、ウォッシャタンク18は、運転席10の後側以外でも、キャブ8内において、ウォッシャ液の液面を横方向から目視できない位置であれば有効である。即ち、ウォッシャタンクは、運転席の背もたれの真後ろではなく、背もたれよりも後側で、背もたれよりも左側または右側に外れた位置に配置してもよい。或いは、運転席(作業用のレバー装置)の横のフロア部材上にウォッシャタンクを配置する構成としてもよい。
【0067】
実施形態では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、キャブを備えたホイール式の油圧ショベルに適用してもよい。さらに、本発明は、キャブを備えたホイールローダ等の他の建設機械にも広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体(車体)
3 上部旋回体(車体)
8 キャブ
10 運転席
10B 背もたれ
13 キャブボックス
13B 後面部
13F 前窓(窓)
13G 後窓(窓)
13H 左窓(窓)
13J 右窓(窓)
16 前噴出装置(噴出装置)
17 後噴出装置(噴出装置)
18 ウォッシャタンク
19 第1容器部
19A 傾斜面
19C,20C 天面
19D 底面
20 第2容器部
20A 前面
20B 後面
21 充填口