(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】温度履歴推定装置、温度履歴推定方法、温度履歴推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20241128BHJP
G01N 25/38 20060101ALI20241128BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01N25/20 G
G01N25/38
G01N33/44
(21)【出願番号】P 2024541047
(86)(22)【出願日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2023042044
(87)【国際公開番号】W WO2024111640
(87)【国際公開日】2024-05-30
【審査請求日】2024-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2022188015
(32)【優先日】2022-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】安斎 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】青柳 裕一
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-093265(JP,A)
【文献】特開2009-036756(JP,A)
【文献】特開2016-183899(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112179852(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
G01N 33/00-33/46
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する装置であり、
前記測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値を受け付ける測定値受付部と、
前記ゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度履歴との関係を示すデータを記憶する記憶部と、
炭化率の前記測定値と前記データとに基づいて、前記測定対象物の温度履歴を推定する温度履歴推定部と、
を備える、温度履歴推定装置。
【請求項2】
前記温度履歴推定部は、炭化率の前記測定値を、前記データにおけるサンプルに含まれるポリマーの炭化率に対応付けて、前記測定対象物の温度履歴を推定する、
請求項1に記載の温度履歴推定装置。
【請求項3】
ゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する方法であり、
前記測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値を受け付けるステップと、
炭化率の前記測定値と前記ゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度履歴との関係を示すデータとに基づいて、前記測定対象物の温度履歴を推定するステップと、
を実行する、温度履歴推定方法。
【請求項4】
前記測定対象物の温度履歴を推定するステップでは、炭化率の前記測定値を、前記データにおけるサンプルに含まれるポリマーの炭化率に対応付けて、前記測定対象物の温度履歴を推定する、
請求項
3に記載の温度履歴推定方法。
【請求項5】
炭化率の前記測定値は、熱重量-示差熱分析装置を用いて測定する、
請求項
3または
4に記載の温度履歴推定方法。
【請求項6】
ゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する処理をコンピュータに実行されるプログラムであり、
前記測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値を受け付けるステップと、
炭化率の前記測定値と前記ゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度履歴との関係を示すデータとに基づいて、前記測定対象物の温度履歴を推定するステップと、
を前記コンピュータに実行させる、温度履歴推定プログラム。
【請求項7】
前記測定対象物の温度履歴を推定するステップでは、炭化率の前記測定値を、前記データにおけるサンプルに含まれるポリマーの炭化率に対応付けて、前記測定対象物の温度履歴を推定する、
請求項
6に記載の温度履歴推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度履歴推定装置、温度履歴推定方法、温度履歴推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム組成物について、FT-IRを用いた構造変化の測定や、ゴム硬度変化を測定することにより、劣化度を推定することが行われてきた(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】川島 哲哉、小川 俊夫 著、「NBRの熱劣化による破壊」、「日本ゴム協会誌 2002年75巻6号」、一般社団法人 日本ゴム協会、p.257~262
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの変化は定量化が困難であり、また誤差も大きいため、ゴム組成物のサンプルの温度履歴を正確に推定することは困難であった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な方法によりゴム組成物の温度履歴を推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る温度履歴推定装置は、ゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する装置であり、前記測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値を受け付ける測定値受付部と、前記ゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度との関係を示すデータを記憶する記憶部と、炭化率の前記測定値と前記データとに基づいて、前記測定対象物の温度履歴を推定する温度履歴推定部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る温度履歴推定装置において、前記温度履歴推定部は、炭化率の前記測定値を、前記データにおけるサンプルに含まれるポリマーの炭化率に対応付けて、前記測定対象物の温度履歴を推定する。
【0008】
本発明の一態様に係る温度履歴推定装置において、炭化率の前記測定値は、熱重量-示差熱分析装置を用いて測定する。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る温度履歴推定方法は、ゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する方法であり、前記測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値を受け付けるステップと、炭化率の前記測定値と前記ゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度との関係を示すデータとに基づいて、前記測定対象物の温度履歴を推定するステップと、を実行する。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る温度履歴推定プログラムは、ゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する処理をコンピュータに実行されるプログラムであり、前記測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値を受け付けるステップと、炭化率の前記測定値と前記ゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度との関係を示すデータとに基づいて、前記測定対象物の温度履歴を推定するステップと、を前記コンピュータに実行させる。
【0011】
本発明の一態様に係る温度履歴推定方法、温度履歴推定プログラムにおいて、前記測定対象物の温度履歴を推定するステップでは、炭化率の前記測定値を、前記データにおけるサンプルに含まれるポリマーの炭化率に対応付けて、前記測定対象物の温度履歴を推定する。
【0012】
本発明の一態様に係る温度履歴推定方法、温度履歴推定プログラムにおいて、炭化率の前記測定値は、熱重量-示差熱分析装置を用いて測定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る温度履歴推定装置、温度履歴推定方法、温度履歴推定プログラムによれば、簡便な方法によりゴム組成物の温度履歴を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る温度履歴推定装置の機能ブロック図である。
【
図2】本実施の形態に係る温度履歴推定装置により温度履歴の推定を行うゴム組成物の一例を有するギアダンパの断面斜視図である。
【
図3】本実施の形態に係る温度履歴推定装置における測定値受付部により報知部に表示される、炭化率の測定値の入力を受け付ける画面の一例を示す模式図である。
【
図4】本実施の形態に係る温度履歴推定装置により温度履歴の推定を行うゴム組成物における、TG-DTA曲線を示すグラフである。
【
図5】ゴム組成物の劣化の原理を説明するための模式図である。
【
図6】本実施の形態に係る温度履歴推定装置により温度履歴の推定を行うゴム組成物における、ポリマーの炭化率と温度履歴との関係を示すグラフである。
【
図7】ゴム組成物における、ゴム硬度変化と温度履歴との関係を示すグラフである。
【
図8】ゴム組成物における、FT-IRと温度履歴との関係を示すグラフである。
【
図9】本実施の形態に係る温度履歴推定装置における温度履歴推定部により報知部に表示される、測定値に基づいて算出される温度履歴の推定結果を表示する画面の一例を示す模式図である。
【
図10】本実施の形態に係る温度履歴推定装置が実行する温度履歴推定方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る温度履歴推定装置1の機能ブロック図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る温度履歴推定装置1は、例えば、PC(Personal Computer)、スマートフォン、タブレット端末などの、データ処理制御部10と、記憶部20を備える情報処理装置である。
【0018】
データ処理制御部10は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと記憶装置を含むMCU(Micro Controller Unit)等のコンピュータプログラムを実行可能な情報処理機器により構成される。データ処理制御部10に含まれる記憶装置は、例えば、ROMやRAM、フラッシュメモリ等の公知の記憶装置(記憶媒体)によって実現されている。
【0019】
データ処理制御部10は、温度履歴推定装置1内の各機能部を統括的に制御する機能部である。データ処理制御部10は、上述したように例えば、CPU等のプロセッサを含んで構成されている。データ処理制御部10は、例えば、記憶部20に記憶されているプログラムに従って各種演算を実行することにより温度履歴推定装置1内の各機能部を制御する。
【0020】
記憶部20は、後述する各種の情報を記憶する不揮発性記憶装置であって、例えば、ハードディスクドライブ等の磁気的な記憶装置、あるいは、ソリッドステートドライブ等の電気的な記憶装置である。
【0021】
記憶部20には、情報処理装置を温度履歴推定装置1としての機能を実現するための各種プログラムが記憶されている。記憶部20に記憶されている各種プログラムには、本発明に係る温度履歴推定プログラム201を含む。また、記憶部20には、測定対象物の温度履歴を推定するための演算に用いられる測定対象物に対応する組成を有するゴム組成物のサンプルに含まれるポリマーの炭化率と温度との関係を示すデータ(以下「炭化率-温度サンプルデータ202」という。)が記憶されている。さらに、記憶部20には、温度履歴推定結果203等の各種データを記憶するための機能部である。
【0022】
操作部30は、ユーザが温度履歴推定装置1を操作するための入力インタフェースである。操作部30としては、各種のボタン、キーボード、ポインティングディバイス、タッチパネル等を例示することができる。例えば、ユーザが操作部30を操作することにより、測定対象物の温度履歴を推定するための各種条件等を温度履歴推定装置1に設定するとともに、温度履歴推定処理の実行および停止を温度履歴推定装置1に指示することができる。なお、操作部30は、上述したボタンやタッチパネルに限定されず、ユーザが温度履歴推定装置1を操作するための入力を受け付けることができる機能を有していればよい。操作部30は、例えば、音声によるコマンド入力で操作を受け付けるものであってもよい。
【0023】
報知部40は、温度履歴推定装置1における測定対象物の特定、温度履歴の推定処理に用いられる炭化率-温度サンプルデータ202の名称や記憶されているデータの確認、推定条件、推定結果などの各種情報を出力して、ユーザに情報を報知するための機能部である。報知部40は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)や有機ELを備えた表示装置である。また、報知部40は、スピーカーやヘッドホンなどの、音声データを出力してユーザに情報を報知するものであってもよい。なお、報知部40は、操作部30としての一部の機能を実現するタッチパネルを備えた表示装置であってもよい。
【0024】
インタフェース部50は、温度履歴推定装置1と不図示の外部機器との間でデータの入出力を可能とする各種インタフェースにより構成される。インタフェース部50は、例えば、LAN、USB、RS-232C等の各種通信インタフェースであってもよい。インタフェース部50により、温度履歴推定装置1は、上記外部機器を介してデータの入出力を可能とする。インタフェース部50は、温度履歴の推定に用いられる各種データを、有線または無線によって外部に出力する通信回路等を含んでいてもよい。これらの各種通信インタフェースにより、温度履歴推定装置1は、例えばインターネットに代表される広域ネットワーク(WAN:Wide Area Network)またはローカルネットワーク(LAN:Local Area Network)と通信可能である。
【0025】
温度履歴推定装置1は、以上のハードウェア構成を備え、データ処理制御部10が記憶部20に記憶されている温度履歴推定プログラムを実行することにより、ハードウェアとソフトウェアとが協同してゴム組成物である測定対象物の温度履歴を推定する処理を行う。温度履歴推定装置1は、温度履歴推定プログラムによって実現される機能ブロックとして、測定値受付部101と、上述した記憶部20と、温度履歴推定部102と、を備える。
【0026】
図2は、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1により温度履歴の推定を行うゴム組成物の一例を有するギアダンパ2の断面斜視図である。本実施の形態において、温度履歴推定装置1は、例えば、ギアダンパ2に設けられているゴムリング3のようなゴム組成物、例えば、水素化ニトリルゴム(HNBR)に含まれるポリマーの炭化率を測定することにより、このゴム組成物が受けた熱の温度の値、すなわち、温度履歴を推定する。
【0027】
なお、温度履歴推定装置1による温度履歴の推定処理を行う測定対象物としてのゴム組成物は、
図2に示すギアダンパやトーショナルダンパなどの防振ゴム製品に用いられるものに限定されず、各種ゴム製品に用いることができる。
【0028】
測定値受付部101は、測定対象物に含まれるポリマーの炭化率の測定値(以下、「測定値」という。)を受け付ける。測定値は、熱重量分析と示差熱分析とを同時に測定する装置である、熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA:Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)を用いて測定する。具体的には、ゴムの燃焼領域(空気中、約450~550℃)における重量減少量から、ゴムが温度履歴により構造変化し炭化した量を測定する。
【0029】
図3は、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1における測定値受付部101により報知部40に表示される、炭化率の測定値の入力を受け付ける測定値受付画面300の一例を示す模式図である。測定値受付画面300は、例えば、報知部40(
図1参照)を構成する表示装置に表示される。ユーザは、例えば、測定値受付画面300における測定値入力部301に、操作部30またはインタフェース部50を介して、測定値を入力することができる。測定値入力部301に入力された測定値は、測定値受付部101に受け付けられる。なお、測定値の入力方法は、上述した例に限定されない。
【0030】
温度履歴推定部102は、測定値受付部101が受け付けた測定値と、記憶部20に記憶されている炭化率-温度サンプルデータ202とに基づいて、測定対象物の温度履歴を推定する。具体的には、温度履歴推定部102は、測定値受付部101が受け付けた炭化率の測定値を、炭化率-温度サンプルデータ202におけるサンプルに含まれるポリマーの炭化率に対応付けて、測定対象物の温度履歴を推定する。
【0031】
図4は、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1により温度履歴の推定を行うゴム組成物における、TG-DTA曲線を示すグラフである。
図4において、左側の縦軸が重量減少率(wt%)、右側の縦軸が温度(℃)、横軸が時間(分)をそれぞれ示す。
図4において、新品(高温の環境に置かれていない)のゴム組成物におけるTG-DTA曲線210と、所定の温度(例えば、150℃)の熱を受けていたゴム組成物におけるTG-DTA曲線211とを示す。本実施の形態において、高温の環境下で使用されたゴム組成物が、温度履歴を推定する対象、すなわち、測定対象物となるゴム組成物である。
【0032】
図5は、ゴム組成物の劣化の原理を説明するための模式図である。
図4に示す新品のゴム組成物におけるTG-DTA曲線210と、所定の温度の熱を受けていたゴム組成物におけるTG-DTA曲線211とからわかるように、ゴム組成物は、高温の環境下で使用されることにより、炭化物(炭素前駆体)の重量パーセントが増加している。そして、
図5に示すように、HNBRなどのゴム組成物のポリマーは、高温の環境において環化して炭化物(炭素前駆体)に変質していると推定される。このため、温度履歴推定装置1では、ゴム組成物の測定対象物に含まれるポリマーの炭化率に基づいて、測定対象物の温度履歴を推定する。
【0033】
図6は、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1により温度履歴の推定を行うゴム組成物における、ポリマーの炭化率と温度履歴との関係を示すグラフである。
図6において、縦軸にポリマーの炭化率[%]、横軸にゴム組成物の温度履歴[℃]を示す。
図6に示すように、温度履歴推定装置1により温度履歴の推定を行うゴム組成物において、ポリマーの炭化率が上昇するのに従い、ポリマーが含まれるゴム組成物が受けた温度履歴が示す温度も上昇するという関係があることがわかる。つまり、ゴム組成物において、ポリマーの炭化率を測定することができれば、このゴム組成物が受けた温度履歴を推定することができることがわかる。このような、ポリマーの炭化率と温度履歴との間の関係を示すグラフにおいて、線L1は、ゴム組成物の劣化を判断する上で基準となる所定の温度及び炭化率を示している。グラフにおいてプロットされた任意の数の点、例えば、
図5における点P1~P4のうち、線L1を上回っている点P4は、上記所定の温度を上回る温度履歴であることがわかる。
【0034】
図7は、ゴム組成物における、ゴム硬度変化と温度履歴との関係を示すグラフである。また、
図8は、ゴム組成物における、FT-IRと温度履歴との関係を示すグラフである。
【0035】
図7に示すゴム硬度変化を用いた評価、及び、
図8に示すFT-IR(Fourier Transform-Infrared Spectroscopy)を用いた評価では、ゴム組成物から測定したそれぞれの値とゴム組成物が受けた温度履歴との間にバラつきが大きい。このため、ゴム硬度変化、及び、FT-IRを用いて、ゴム組成物の温度履歴を推定することは困難である。また、FT-IRによる構造変化から温度履歴を推定する場合、測定した値から高温下での構造変化を捉えることができず、規格化が困難である。
【0036】
そこで、温度履歴推定装置1は、測定対象物と同等の組成を有するゴム組成物のサンプルからあらかじめ測定した、温度履歴の値とその温度履歴におけるポリマーの炭化率との組み合わせを、炭化率-温度サンプルデータ202として、記憶部20に記憶している。炭化率-温度サンプルデータ202は、例えば、ゴム組成物の種別ごとに記憶部20に記憶されている。炭化率-温度サンプルデータ202において、炭化率に対応付けられている温度履歴は、例えば、温度履歴が20℃ごと、あるいは炭化率が5%ごとなど、任意の値の間隔(ステップ)で記憶部20に記憶されていればよい。
【0037】
そして、温度履歴推定装置1は、測定値受付部101から受け付けた炭化率の測定値に対応する温度履歴の値を、記憶部20に記憶されている炭化率-温度サンプルデータ202から特定する。このようにすることで、温度履歴推定装置1は、ゴム組成物のポリマーの炭化率を測定することにより、そのゴム組成物の温度履歴を推定することができる。
【0038】
図9は、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1における温度履歴推定部102により報知部40に表示される、測定値に基づいて算出される温度履歴の推定結果を表示する温度履歴推定結果表示画面310の一例を示す模式図である。温度履歴推定結果表示画面310は、例えば、報知部40を構成する表示装置に表示される。ユーザは、例えば、温度履歴推定結果表示画面310における推定結果表示部311に表示される数値を確認することにより、温度履歴の推定結果を認識することができる。なお、温度履歴の推定結果の表示方法や出力方法は、上述した例に限定されない。
【0039】
図10は、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1が実行する温度履歴推定方法を説明するためのフローチャートである。
【0040】
まず、温度履歴推定装置1において、測定値受付部101が、操作部30またはインタフェース部50から、測定対象物のポリマーの炭化率の測定値の入力を受け付ける(ステップS101)。
【0041】
温度履歴推定部102は、測定値受付部101が受け付けた、測定対象物の測定値に対応する、すなわち、同等の組成を有するゴム組成物の炭化率-温度サンプルデータ202を記憶部20で検索する(ステップS102)。
【0042】
温度履歴推定部102は、測定対象物の測定値に対応する炭化率-温度サンプルデータ202が記憶部20にあるか否かを判定する(ステップS103)。記憶部20に対応する炭化率-温度サンプルデータ202がない場合(S103:NO)に、温度履歴推定部102は、対応する炭化率-温度サンプルデータ202の格納を要求する旨、報知部40を介してユーザに報知する(ステップS104)。S104の後、温度履歴推定部102は、S102の処理に戻る。
【0043】
記憶部20に対応する炭化率-温度サンプルデータ202がある場合(S103:YES)に、温度履歴推定部102は、測定対象物の測定値と、炭化率-温度サンプルデータ202とに基づいて、測定対象物の温度履歴を推定する(ステップS105)。
【0044】
温度履歴推定部102は、測定対象物の測定値を炭化率-温度サンプルデータ202における炭化率の値と対応付けることで、測定対象物の温度履歴の推定処理が完了できたか否かを判定する(ステップS106)。測定対象物の温度履歴の推定処理が完了できていない場合(S106:NO)に、温度履歴推定部102は、報知部40から温度履歴推定処理が完了していない旨のエラーメッセージを報知(ステップS107)し、S101の処理に戻る。
【0045】
測定対象物の温度履歴の推定処理が完了できている場合(S106:YES)に、温度履歴推定部102は、報知部40から測定対象物の温度履歴の推定値を出力する(ステップS108)。S108の処理後、温度履歴推定装置1は処理を終了する。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態に係る、温度履歴推定装置1において、温度履歴推定プログラムを実行させることで、測定対象物のゴム組成物に含まれるポリマーの炭化率の測定値に基づいて、ゴム組成物の温度履歴を推定するという温度履歴推定方法を実行することができる。
【0047】
具体的には、本実施の形態に係る温度履歴推定装置1が実行する温度履歴推定方法では、ゴム(NBR)が劣化してゴムの構造が変化した際に、炭素の前駆体を経由することに着目した。そして、温度履歴推定方法では、炭素の前駆体の量すなわちポリマーの炭化率をTG-DTAを用いて測定し、その炭化率と温度履歴との関係に基づいて、測定対象物の温度履歴を推定した。ここで、ゴム組成物の温度履歴は、劣化度の指標として用いることができる。TG-DTAは、FT-IRやゴム硬度変化と比較し、それぞれの値と温度履歴との関係における誤差が小さい。また、TG-DTAは、FT-IRやゴム硬度変化と比較し、また簡便に定量化することが可能である。
【0048】
従って、温度履歴推定装置1が実行する温度履歴推定方法によれば、簡便な方法により、ゴム組成物の温度履歴を推定することができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0050】
1:温度履歴推定装置、2:ギアダンパ、3:ゴムリング、10:データ処理制御部、20:記憶部、30:操作部、40:報知部、50:インタフェース部、101:測定値受付部、102:温度履歴推定部、201:温度履歴推定プログラム、202:温度サンプルデータ、203:温度履歴推定結果、210,211:TG-DTA曲線、300:測定値受付画面、301:測定値入力部、310:温度履歴推定結果表示画面、311:推定結果表示部