(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/067 20060101AFI20241129BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20241129BHJP
B23K 9/167 20060101ALN20241129BHJP
【FI】
B23K9/067
B23K9/10 Z
B23K9/167 A
(21)【出願番号】P 2021573100
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021000955
(87)【国際公開番号】W WO2021149570
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020009392
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151378
【氏名又は名称】宮村 憲浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157484
【氏名又は名称】廣田 智之
(72)【発明者】
【氏名】大崎 憲和
(72)【発明者】
【氏名】井原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】玉川 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀江 宏太
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169409(WO,A1)
【文献】特開2011-133336(JP,A)
【文献】特開2012-197001(JP,A)
【文献】特開2002-263839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/067
B23K 9/10
B23K 9/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶接を行う溶接装置であって、
前記タングステン電極と前記溶接対象物との間に高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、
溶接電流を制御する溶接出力回路部と、
所定の電流閾値以上の前記溶接電流を検出する電流検出部と、
前記高周波電圧印加部に前記高周波電圧の印加を開始させるスタート動作時に、当該スタート動作の実行から、前記電流検出部による前記溶接電流の検出までの遅れ時間を取得し、今回以前の複数回のスタート動作時における前記遅れ時間が所定の時間条件を満たすか否かを判定し、前記遅れ時間が前記時間条件を満たした場合に所定の異常時処理を実行する制御部とを備え
、
前記制御部は、前記電流検出部による前記溶接電流の検出から所定のホットスタート期間が経過するまで、前記溶接電流が所定のホットスタート設定電流値となるように前記溶接出力回路部を制御するものであり、
前記異常時処理は、前記ホットスタート設定電流値をより大きい値に変更する処理であることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置において、
前記時間条件は、所定の複数の設定回数のスタート動作時における前記遅れ時間に、所定の時間閾値を超える遅れ時間が、2以上の所定個数以上含まれることであることを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接装置において、
前記時間条件は、今回のスタート動作における前記遅れ時間が所定の閾値を超え、かつ今回のスタート動作と、前記遅れ時間が前記所定の閾値を超える前回のスタート動作との間に実行されたスタート動作の回数が、所定の基準回数未満となることであることを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
請求項1に記載の溶接装置において、
前記時間条件は、前記複数回のスタート動作時における前記遅れ時間の分散が所定値以上となることであることを特徴とする溶接装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接装置において、
前記時間条件は、前記溶接電流の指令値、シールドガスの流量、前記タングステン電極の先端角度、前記タングステン電極の不純物濃度、前記タングステン電極の直径、及び交流出力モードと直流出力モードのいずれのモードであるかのうちの少なくとも1つの設定条件に基づいて、変更されることを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の溶接装置において、所定の出力を行う出力部をさらに備え、
前記異常時処理は、前記出力部に前記所定の出力を行わせることであることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タングステン電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶接を行う溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された溶接装置は、タングステン電極と溶接対象物との間に高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、溶接電流を検出する電流検出部と、前記高周波電圧印加部に前記高周波電圧の印加を開始させるスタート動作時に、当該スタート動作の開始から、前記電流検出部による前記溶接電流の検出までの遅れ時間を取得し、当該遅れ時間が所定時間以上である場合に、警告装置に警告を出力させる等の所定の異常時処理を実行する制御部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1では、スタート動作時の遅れ時間が1回だけ所定時間以上になった場合でも、異常時処理を実行するので、タングステン電極の損耗及び汚れ以外の一時的な要因で異常時処理が実行されやすい。
【0005】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タングステン電極の損耗及び汚れ以外の一時的な要因で異常時処理が実行されるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、タングステン電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶接を行う溶接装置であって、前記タングステン電極と前記溶接対象物との間に高周波電圧を印加する高周波電圧印加部と、溶接電流を制御する溶接出力回路部と、所定の電流閾値以上の前記溶接電流を検出する電流検出部と、前記高周波電圧印加部に前記高周波電圧の印加を開始させるスタート動作時に、当該スタート動作の実行から、前記電流検出部による前記溶接電流の検出までの遅れ時間を取得し、今回以前の複数回のスタート動作時における前記遅れ時間が所定の時間条件を満たすか否かを判定し、前記遅れ時間が前記時間条件を満たした場合に所定の異常時処理を実行する制御部とを備え、前記制御部は、前記電流検出部による前記溶接電流の検出から所定のホットスタート期間が経過するまで、前記溶接電流が所定のホットスタート設定電流値となるように前記溶接出力回路部を制御するものであり、前記異常時処理は、前記ホットスタート設定電流値をより大きい値に変更する処理であることを特徴とする。
【0007】
この態様によると、異常時処理を実行するか否かを、複数回のスタート動作時における遅れ時間に基づいて判定するので、特許文献1のように1回のスタート動作時における遅れ時間に基づいて判定する場合に比べ、タングステン電極の損耗及び汚れ以外の一時的な要因で異常時処理が実行されにくい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、タングステン電極の損耗及び汚れ以外の一時的な要因で異常時処理が実行されるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、スイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたときの溶接指示信号、ガス供給信号、高周波電圧印加信号、及び電流検出信号の出力波形を示す図である。
【
図3】
図3は、スイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたときの制御部による処理を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態の変形例1に係る溶接装置の制御部によって取得される複数の遅れ時間を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
(実施形態)
図1は、本開示の実施形態に係る溶接装置10を示す。この溶接装置10は、溶接トーチ20に設けられたタングステン電極21と溶接対象物としての母材30との間にアークAを発生させてTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行う。具体的には、溶接装置10は、入力回路部11と、ガス制御装置12と、高周波電圧印加部13と、溶接出力回路部14と、電流検出部15と、表示データ記憶部16と、出力部としての表示部17と、制御部18と、遅れ時間記憶部19とを備えている。
【0012】
入力回路部11は、溶接トーチ20に設けられたスイッチ22のオンオフ状態を示す溶接指示信号S1を出力する。
【0013】
ガス制御装置12は、制御部18によりガス供給信号S2の出力が開始されると、シールドガスの母材30への噴射を溶接トーチ20に開始させる。シールドガスとしては、例えばアルゴンガスが用いられる。ガス制御装置12は、溶接トーチ20にガスホース23を介して接続されている。
【0014】
高周波電圧印加部13は、制御部18により高周波電圧印加信号S3が出力されているときに、タングステン電極21と母材30との間に高周波の高電圧を印加する。
【0015】
溶接出力回路部14は、制御部18により出力される溶接制御信号S4に基づいて、溶接電圧及び溶接電流を制御する。溶接出力回路部14は、溶接出力ケーブル24を介して溶接トーチ20に電気的に接続されている。
【0016】
電流検出部15は、所定の電流閾値以上の溶接電流を検出する。具体的な動作としては、電流検出部15は、溶接電流が前記電流閾値を超えたときに電流検出信号S5を出力する。
【0017】
表示データ記憶部16は、表示部17に出力表示させる画像の画像データを記憶している。記憶する画像データには、出力としての第1~第4の警告画像の画像データが含まれる。第1の警告画像は、「電極が汚れてきています。」という文言を表示し、第2の警告画像は、「電極が損耗しアークスタートしない可能性があります。」という文言を表示し、第3の警告画像は、「電極の損耗および汚れが大きくなっています。研磨することをお勧めします。」という文言を表示し、第4の警告画像は、「電極の研磨または交換をして下さい。」という文言を表示するものである。
【0018】
表示部17は、例えばディスプレイであり、表示データ記憶部16に記憶された画像データに基づく画像を出力表示する。
【0019】
制御部18は、溶接電圧及び溶接電流が交流となるように溶接出力回路部14に溶接制御信号S4を出力する交流出力モードの制御と、溶接電圧及び溶接電流が直流となるように溶接出力回路部14に溶接制御信号S4を出力する直流出力モードの制御とを選択的に実行する。
【0020】
また、制御部18は、溶接トーチ20のスイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替えられ、入力回路部11により出力される溶接指示信号S1がオフ状態を示す信号からオン状態を示す信号に切り替わると、ガス供給信号S2の出力を開始する。
【0021】
また、制御部18は、ガス供給信号S2の出力開始から所定のプリフロー時間Tpが経過すると、タイミングt2で、高周波電圧印加信号S3を出力することにより、高周波電圧印加部13に高周波の高電圧の印加を開始させるスタート動作を実行する。そして、制御部18は、このスタート動作時に、当該スタート動作の開始から、前記電流検出部15により前記電流閾値以上の溶接電流の検出が開始されるまでの遅れ時間Tl(
図2参照)を取得し、遅れ時間記憶部19に記憶させる。そして、遅れ時間記憶部19に記憶された今回を含む複数回の前記スタート動作時における遅れ時間Tlを参照し、これら複数回の前記スタート動作時における遅れ時間Tlが所定の時間条件を満たすか否かを判定し、当該複数回の前記スタート動作時における遅れ時間Tlが時間条件を満たした場合に異常時処理を実行する。
【0022】
時間条件は、最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlに、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlが、2以上の第1の個数N1以上含まれることである。時間条件は、制御部18が記憶している。なお、制御部18は、所定の設定条件に応じて前記時間閾値を変更することにより、前記時間条件を変更する。設定条件は、溶接電流の指令値、シールドガスの流量、タングステン電極21の先端角度、タングステン電極21の不純物濃度、タングステン電極21の直径、及び交流出力モードと直流出力モードのいずれのモードであるかである。
【0023】
異常時処理は、表示データ記憶部16に記憶された画像データに基づいて、第1~第4の警告画像のいずれかを表示部17に出力表示させる処理である。詳しくは、最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第1の個数N1以上であって、かつ所定の第2の個数N2未満である場合には、異常時処理は、第1の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。第2の個数N2は、第1の個数N1よりも大きい値である。また、最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第2の個数N2以上であって、かつ所定の第3の個数N3未満である場合には、異常時処理は、第2の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。第3の個数N3は、第2の個数N2よりも大きい値である。また、最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数が、第3の個数N3以上であって、かつ所定の第4の個数N4未満である場合には、異常時処理は、第3の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。第4の個数N4は、第3の個数N3よりも大きい値である。また、最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数が、第4の個数N4以上である場合には、異常時処理は、第4の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。なお、時間閾値、第1~第4の個数N1~N4は、予め実験により適当な値に設定される。
【0024】
本実施形態では、前記設定回数は、100回に設定され、第1~第4の個数N1~N4は、順に10個、20個、30個、40個に設定されるが、設定回数は、第1~第4の個数N1~N4よりも大きい回数であれば、100回以外の回数に設定してもよく、第1~第4の個数N1~N4も、以下の式1の関係が成立すれば、他の個数に設定してもよい。
【0025】
第1の個数N1<第2の個数N2<第3の個数N3<第4の個数N4・・・(式1)
また、制御部18は、電流検出部15による前記電流閾値以上の溶接電流の検出から所定のホットスタート期間Th(
図2参照)が経過するまで、前記溶接電流が所定のホットスタート設定電流値となるように、溶接制御信号S4により溶接出力回路部14を制御する。
【0026】
制御部18の機能は、CPU(Central Processing Unit)及び記憶装置によって実現される。
【0027】
遅れ時間記憶部19は、スタート動作の開始から、電流検出部15により前記電流閾値以上の溶接電流の検出が開始されるまでの遅れ時間Tlを記憶する。
【0028】
ここで、スイッチがオフ状態からオン状態に切り替えられたときの溶接装置10の動作の例を
図2のタイミングチャートを参照して説明する。
【0029】
まず、タイミングt1で、作業者が溶接トーチ20のスイッチ22をオンすると、入力回路部11がオン状態を示す溶接指示信号S1を出力する。これに応じて、制御部18がガス供給信号S2の出力を開始し、ガス制御装置12が、シールドガスの母材30への噴射を溶接トーチ20に開始させる。その後、制御部18によるガス供給信号S2の出力開始から所定のプリフロー時間Tpが経過すると、タイミングt2で、制御部18が、高周波電圧印加信号S3を出力することにより、高周波電圧印加部13に前記高周波の高電圧の印加を開始させるスタート動作を実行する。その後、高周波電圧印加部13により印可される高周波電圧によりタングステン電極21と母材30との間の絶縁が破壊されてアークAが発生し、溶接電流が流れ、タイミングt3で、電流検出部15が所定の電流閾値以上の溶接電流を検出する。そして、制御部18が、スタート動作の開始から、電流検出部15による前記電流閾値以上の溶接電流の検出までの遅れ時間Tlを取得して記憶する。また、制御部18は、電流検出部15による前記電流閾値以上の溶接電流の検出から所定のホットスタート期間Thが経過するまで、溶接電流が所定のホットスタート設定電流値となるように溶接出力回路部14を制御する。
【0030】
図3は、スイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替えられたときに制御部18により実行される詳細な処理を説明するフローチャートである。
【0031】
スイッチ22がオフ状態からオン状態に切り替えられ、入力回路部11により出力される溶接指示信号S1がオフ状態を示す状態からオン状態を示す状態に切り替わると、S101において、制御部18は、ガス供給信号S2の出力を開始する。
【0032】
次に、S102において、制御部18は、S101におけるガス供給信号S2の出力開始から所定のプリフロー時間Tpが経過するのを待つ。そして、S101におけるガス供給信号S2の出力開始から所定のプリフロー時間Tpが経過すると、S103において、制御部18は、高周波電圧印加信号S3を出力することにより、高周波の高電圧の印加を高周波電圧印加部13に開始させるスタート動作を実行する。
【0033】
次に、S104において、制御部18は、S103におけるスタート動作の開始から、電流検出部15による前記電流閾値以上の溶接電流の検出までの遅れ時間Tlを取得し、遅れ時間記憶部19に記憶させる。
【0034】
そして、S105において、制御部18は、遅れ時間記憶部19に記憶された最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlを参照し、これら最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlに、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlが、第1の個数N1、すなわち10個以上含まれるという時間条件が満たされているか否かを判定する。所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlが、第1の個数N1以上含まれず、時間条件が満たされない場合には、S106に進む一方、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlが、第1の個数N1以上含まれ、時間条件が満たされる場合には、S107に進む。
【0035】
S106では、制御部18は、異常時処理を実行しない。
【0036】
S107では、制御部18は、遅れ時間記憶部19に記憶された最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlを参照し、これら最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第2の個数N2、すなわち20個未満であるか否かを判定する。所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第2の個数N2未満である場合には、S108に進む一方、所定の時間閾値を超える遅れ時間の個数LNが、第2の個数N2以上である場合には、S109に進む。
【0037】
S108では、制御部18は、「電極が汚れてきています。」という文言を表示する第1の警告画像を表示部17に出力表示させる処理を、異常時処理として実行する。
【0038】
S109では、制御部18は、遅れ時間記憶部19に記憶された最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlを参照し、これら最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間の個数LNが、第3の個数N3、すなわち30個未満であるか否かを判定する。所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第3の個数N3未満である場合には、S110に進む一方、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第3の個数N3以上である場合には、S111に進む。
【0039】
S110では、制御部18は、「電極が損耗しアークスタートしない可能性があります。」という文言を表示する第2の警告画像を表示部17に出力表示させる処理を、異常時処理として実行する。
【0040】
S111では、制御部18は、遅れ時間記憶部19に記憶された最近の100回分のスタート動作時における遅れ時間Tlを参照し、これら最近の100回分のスタート動作時における前記遅れ時間Tlのうち、所定の時間閾値を超える遅れ時間の個数LNが、第4の個数N4、すなわち40個未満であるか否かを判定する。所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第4の個数N4未満である場合には、S112に進む一方、所定の時間閾値を超える遅れ時間Tlの個数LNが、第4の個数N4以上である場合には、S113に進む。
【0041】
S112では、制御部18は、「電極の損耗および汚れが大きくなっています。研磨することをお勧めします。」という文言を表示する第3の警告画像を表示部17に出力表示させる処理を、異常時処理として実行する。
【0042】
S113では、制御部18は、「電極の研磨または交換をして下さい。」という文言を表示する第4の警告画像を表示部17に出力表示させる処理を、異常時処理として実行する。
【0043】
一般に、タングステン電極21が損耗するか又は汚れると、アーク放電状態に移行しにくくなり、高周波電圧の発生から溶接電流が流れ始めるまでの時間、すなわち遅れ時間Tlが長くなる。本実施形態では、遅れ時間Tlが時間閾値を超える頻度が高くなったときに制御部18が異常時処理を実行し、表示部17が第1~第4の警告画像を表示するので、作業者は、タングステン電極21の消耗又は汚れを認識し、タングステン電極21の研磨や交換等の対策を施せる。したがって、タングステン電極21の消耗又は汚れにより、アークスタートにかかる時間が長くなり過ぎたり、アークスタートできなくなるのを抑制できる。
【0044】
また、異常時処理を実行するか否かを、複数回のスタート動作時における遅れ時間Tlに基づいて判定するので、特許文献1のように1回のスタート動作時における遅れ時間に基づいて判定する場合に比べ、タングステン電極21の損耗及び汚れ以外の一時的な要因で異常時処理が実行されにくい。したがって、タングステン電極21に対して不必要な研磨や交換が行われるのを抑制できる。
【0045】
(実施形態の変形例1)
本実施形態の変形例1では、時間条件が、今回のスタート動作における遅れ時間Tlが所定の閾値TH(
図4参照)を超え、かつ今回のスタート動作と、遅れ時間Tlが前記閾値THを超える前回のスタート動作との間に実行されたスタート動作の回数が、所定の基準回数未満となることである。本変形例1では、基準回数は20回に設定されるが、基準回数は、他の回数に設定してもよい。また、常に、異常時処理が、第1の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。
【0046】
例えば、
図4の例では、S1回目のスタート動作、S2(=S1+86)回目のスタート動作、及びS3(=S2+19)回目のスタート動作で、遅れ時間Tlが閾値THを超えている。この場合、S2回目のスタート動作時には、今回のスタート動作と、遅れ時間Tlが閾値THを超える前回のスタート動作、すなわちS1回目のスタート動作との間に実行されるスタート動作の回数NU1が、20回以上の85回であり、時間条件が満たされない。したがって、制御部18は、第1の警告画像を表示部17に出力表示させない。
【0047】
一方、S3回目のスタート動作時には、今回のスタート動作と、遅れ時間Tlが閾値THを超える前回のスタート動作、すなわちS2回目のスタート動作との間に実行されるスタート動作の回数NU2が、20回未満の18回であり、時間条件が満たされる。したがって、制御部18は、第1の警告画像を表示部17に出力表示させる。
【0048】
その他の構成及び動作は、上記実施形態と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0049】
(実施形態の変形例2)
本実施形態の変形例2でも、常に、異常時処理が、第1の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。
【0050】
また、時間条件が、今回のスタート動作における遅れ時間Tlが所定の第1の時間閾値を超えるという第1条件、今回を含む最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlに、所定の第2の時間閾値を超える遅れ時間Tlが、所定の基準個以上含まれるという第2条件、及び今回のスタート動作における遅れ時間Tlが所定の第3の時間閾値を超え、かつ今回のスタート動作と、遅れ時間Tlが第3の時間閾値を超える前回のスタート動作との間に実行されるスタート動作の回数が、所定の基準回数未満となるという第3条件のうちの少なくとも1つの条件を満たすことである。そして、第1~第3の時間閾値は、以下の式2を満たすように設定される。
【0051】
第1の時間閾値>第2の時間閾値>第3の時間閾値・・・(式2)
その他の構成及び動作は、上記実施形態と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0052】
(実施形態の変形例3)
本実施形態の変形例3でも、異常時処理が、常に第1の警告画像を表示部17に出力表示させる処理となる。
【0053】
また、時間条件が、最近の複数の設定回数のスタート動作時における遅れ時間Tlの分散が所定値以上となることである。設定回数は、例えば、100回に設定される。タングステン電極21の損耗及び汚れが少ない場合には、遅れ時間Tlは比較的一定となるので、前記分散は小さくなるが、タングステン電極21の損耗及び汚れが多くなるに従って前記分散は大きくなるので、前記分散に基づいてタングステン電極21の損耗及び汚れを推定できる。
【0054】
その他の構成及び動作は、上記実施形態と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0055】
なお、異常時処理を、前記分散の値に応じて、第1~第4の警告画像からいずれかを選択して出力表示させる処理としてもよい。
【0056】
(実施形態の変形例4)
本実施形態の変形例4では、制御部18が、第1~第4の警告画像のいずれかを表示部17に出力表示させる処理に代えて、ホットスタート設定電流値をより大きい値に変更する処理を、異常時処理として実行する。これにより、タングステン電極21をより速く温めることができる。なお、ホットスタート設定電流値は、タングステン電極21を消耗させ過ぎない程度に大きくされる。
【0057】
その他の構成及び動作は、上記実施形態と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0058】
(その他の変形例)
なお、時間条件は、上記実施形態及びその変形例1~4に示した条件に限らず、実験により他の適当な条件に設定してもよい。上記実施形態及びその変形例1~4では、時間条件を、今回以前の複数回のスタート動作時における遅れ時間を所定の関数に入力したときの出力値が所定の数値条件を満たすこととした。しかし、時間条件を、今回以前の複数回のスタート動作時における遅れ時間を人工知能(AI:Artificial Intelligence)に入力したときに当該人工知能の出力が所定の条件を満たすこととしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態の変形例4では、異常時処理を、ホットスタート設定電流値を大きくする処理としたが、溶接終了後にシールドガスを放出し続けるアフターフロー時間を長くする処理としてもよいし、交流出力モードでの動作中における出力の周波数等、他のパラメータを変更する処理としてもよい。
【0060】
また、制御部18が、異常時処理として、ホットスタート設定電流値を大きくする処理と、警告画像を表示部17に出力表示させる処理の両方を実行するようにしてもよい。
【0061】
また、異常時処理は、画像を表示部17に出力させる処理に限らず、音声を音声出力装置に出力させる処理であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、制御部18が、溶接電流の指令値、シールドガスの流量、タングステン電極21の先端角度、タングステン電極21の不純物濃度、タングステン電極21の直径、及び交流出力モードと直流出力モードのいずれのモードであるかの6つの設定条件に応じて時間条件を変更したが、これら6つの設定条件のうち、少なくとも1つ一部の設定条件だけに応じて時間条件を変更できるようにしてもよい。また、時間条件が変更されないようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示の溶接装置は、タングステン電極の損耗及び汚れ以外の一時的な要因で異常時処理が実行されるのを抑制でき、タングステン電極と溶接対象物との間にアークを発生させて溶接を行う溶接装置として有用である。
【符号の説明】
【0064】
10 溶接装置
13 高周波電圧印加部
14 溶接出力回路部
15 電流検出部
17 表示部(出力部)
18 制御部
21 タングステン電極
30 母材(溶接対象物)
A アーク
Tl 遅れ時間
Th ホットスタート期間
N1 第1の個数
N2 第2の個数
N3 第3の個数
N4 第4の個数
NU1,NU2 回数