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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】透明成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20241129BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20241129BHJP
   C23C 8/10 20060101ALI20241129BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C04B35/486
C01G25/02
C23C8/10
G02B1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020086904
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181386
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月27日~11月1日、The 13th Pacific Rim Conference of Ceramic Societiesにおける公開 〔刊行物等〕 令和1年10月27日、The 13th Pacific Rim Conference of Ceramic Societies 要旨集(PACRIM 13 Program Book)における公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】松田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】姫野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】志田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】松田 元秀
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153424(JP,A)
【文献】特開2011-102227(JP,A)
【文献】国際公開第2007/052632(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/177386(WO,A1)
【文献】I. John Berlinら,Effect of Mn doping on the structural and optical properties of ZrO2 thin films prepared by sol-gel method,Thin Solid Films,2014年,Vol.50,p.199-205
【文献】Mitsuhiro Matsuda ら,Black-ZrO2 thin film produced by oxidation of Zr metal plate in air,Materials Letters,2018年,Vol.230,P.117-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01G 25/02
C23C 8/10
G02B 1/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4族元素酸化物からなり、板状、箔状、薄膜状のいずれかであって、厚みが5μm以上2mm以下である透明成形体であって、
組成式AO2-x(Aは、Zr又はHfであり、xは酸素欠損量を示し、0<x<0.2である。)で表され、
第4族元素からなる第4族元素層を備えず、
単斜晶構造を有し、
等軸結晶粒を含む表面層と、前記表面層より内部に前記等軸結晶粒よりも長径方向の平均長さが長い柱状結晶粒を含む内部層とを有する、第4族元素酸化物からなる透明成形体。
【請求項2】
前記柱状結晶粒は、長径方向の平均結晶粒径が100nm~5μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10~1000nmである、請求項に記載の第4族元素酸化物からなる透明成形体。
【請求項3】
前記組成式におけるAで表される元素及び酸素以外の第三元素の量が0.8質量パーセント以下である、請求項1又は2に記載の第4族元素酸化物からなる透明成形体。
【請求項4】
第4族元素酸化物からなり、板状、箔状、薄膜状のいずれかである透明成形体の製造方法であって、
組成式ZrO2-x(xは酸素欠損量を示し、x≧0である。)で表され、
第4族元素からなる第4族元素層を備えず、
単斜晶構造を有する透明成形体を製造する方法であって、
ジルコニウムで構成された基材を600~900℃で、10分~5時間、予備加熱する第1工程と、
予備酸化した前記基材を900~1100℃、酸素分圧1.0×10-5~1.0×10-7atmで10分~50時間加熱する第2工程と、を有し、
前記基材は、板状、箔状、薄膜状のいずれかである、第4族元素酸化物からなる透明成形体の製造方法。
【請求項5】
第4族元素酸化物からなり、板状、箔状、薄膜状のいずれかである透明成形体の製造方法であって、
組成式HfO2-x(xは酸素欠損量を示し、x≧0である。)で表され、
第4族元素からなる第4族元素層を備えず、
単斜晶構造を有する透明成形体を製造する方法であって、
ハフニウムで構成された基材を700~1000℃で、10分~5時間、予備加熱する第1工程と、
予備酸化した前記基材を900~1100℃、酸素分圧1.0×10-5~1.0×10-7atmで10分~50時間加熱する第2工程と、を有し、
前記基材は、板状、箔状、薄膜状のいずれかである、第4族元素酸化物からなる透明成形体の製造方法。
【請求項6】
前記基材の厚みは、5μm以上2mm以下である、請求項4又は5に記載の透明成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化ハフニウムなどの第4族元素酸化物は、耐熱性および耐食性が高く、高温部材、ガラス溶融炉や鉄鋼精錬における取鍋用の耐火物、研磨剤等に活用される。一方、透明度の高い第4族元素酸化物も知られており、これらの第4族元素酸化物は装飾部材、可視光~赤外光領域での窓材、などに用いられる。第4族元素酸化物を主成分とする透明焼結体に関する特許文献も知られている。
【0003】
例えば、酸化ジルコニウム系又は酸化ハフニウム系セラミックスであって、平均結晶粒径が5~300μmの範囲にある透明セラミックスが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、酸化ジルコニウム系又は酸化ハフニウム系セラミックスである透明セラミックスは、散乱ロスの抑制、光学品質の均一性の向上など、高度な光学機能が得られると記載されている。この特許文献1では、平均粒径が20~500nmの原料粉末を成形した後、500~900℃で仮焼することで仮焼成体を形成し、その後1400℃以上の高温で加熱することで透明セラミックスを形成する方法により、透明セラミックスが形成されるとされている。
【0004】
また、試料厚さが1mm以上の酸化ジルコニウム焼結体が提案されている(特許文献2)。特許文献2では、50μm以上の大きい結晶粒径を有している酸化ジルコニウム焼結体は機械的強度が低いと記載されています。特許文献2の実施例では、酸化ジルコニウム粉末TZ-Y(酸化イットリウム8mol%、比表面積13.5m/g)を加圧成形後、1200℃以上の高温で、焼結および熱間水圧プレス処理することで、酸化ジルコニウム焼結体が形成されたと記載されている。
【0005】
粉末原料以外のジルコニウムを用いて酸化ジルコニウムを製造する方法としては、純ジルコニウムの板材を大気中で酸化する方法が知られている(非特許文献1)。純ジルコニウムを大気中で酸化すると、通常白色の酸化ジルコニウム(ZrO)が形成されることが知られている。しかしながら、非特許文献1では大気中での酸化を低温に制御する方法や、短時間に制御する方法により、黒色の酸化ジルコニウムの板材が形成されると記載されている。非特許文献1の方法で得られる黒色の酸化ジルコニウム(ZrO2-a)は、酸素欠損をしている。図24は、酸化前の純ジルコニウムの板材及び酸化後の黒色の酸化ジルコニウムである。
【0006】
酸化ジルコニウムは、常温で白色であり、イオン伝導性を示し、熱処理温度により、単斜晶から正方晶(約1150℃、なお、正方晶から単斜晶へは一般に約950℃で変化)、正方晶から立方晶(約2200℃)へと結晶構造が相転移する性質を有する。このような相転移の性質を有する白色の酸化ジルコニウムは、温度変化に伴う体積膨張や収縮により、試料全体に亀裂が多数入り、脆化しやすい。
【0007】
非特許文献2には、白色の酸化ジルコニウム(ZrO)を水素還元(条件:5%H/Ar雰囲気下で熱処理。さらに、焼結させるためには高圧下での熱処理が必要)することで、黒色の酸化ジルコニウム(ZrO2-a)が形成されると記載されている。非特許文献2では、酸化ジルコニウムと同様に、白色の酸化チタニウム(TiO)を水素還元することで黒色の酸化チタニウム(TiO2-a)が形成されると記載されている。黒色の酸化ジルコニウム(ZrO2-a)及び酸化チタニウム(TiO2-a)は、酸素欠損により、白色の酸化ジルコニウム(ZrO)及び酸化チタニウム(TiO)と比較し、バンドギャップが小さい。図23は、容器に収容された白色の酸化ジルコニウム(ZrO)の粉末と黒色の酸化ジルコニウムの粉末の色を示す写真である。
また非特許文献3には、条件を制御しながらハフニウムを大気中で加熱することで、酸素欠損した黒色の酸化ハフニウム(HfO2-a)が形成されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-047460号公報
【文献】特開2011-051881号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Mitsuhiro Matsuda, Yuuta Himeno, Kenji Shida, Motohide Matsuda: Materials Letters 230 (2018) 117-119.
【文献】Apurba Sinhamahapatraら、Scientific Reports 6、(2016)
【文献】Mitsuhiro Matsuda, Yuta Himeno, Kenji Shida, Motohide Matsuda:Ceramics International 46(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、第4族元素酸化物からなる透明成形体は知られていない。第4族元素酸化物を主成分として含む透明成形体を製造するためには、第三元素を加える工程が必須であると考えられていた。例えば、特許文献1に記載の方法では、原料粉末として、酸化ジルコニウム又は酸化ハフニウムに加え、Y、Sc、MgO、CaO及びランタニド希土類酸化物から選択される安定化材、及び、CaF、MgF、ScF、YF、ZrF及びランタニド希土類元素のフッ化物から選択されるフッ化物を用いる。また、特許文献2に記載の方法でも、酸化イットリウムを安定化材として必須に用いる。これらの方法により製造された透明成形体には、イットリウム等の第三元素が多く含まれる。成形体に第三元素が含まれると、第三元素が成形体中に偏析し、第三元素濃度のばらつきや、粒界偏析が懸念される。また、製造プロセスにおいても、工程数を抑える観点や、製造プロセス簡便化の観点からも第三工程を加える工程はないことが望ましい。
【0011】
また、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3の方法では、第三元素を加える工程を含まないが、第4族元素酸化物からなる透明成形体を得ることができない。尚、非特許文献1で得られた黒色の酸化ジルコニウム(ZrO2-a)を大気中で加熱し続けると、白色の酸化ジルコニウム(ZrO)が形成され、非特許文献3で得られた黒色の酸化ハフニウム(HfO2-a)を大気中で加熱し続けると、白色の酸化ハフニウム(HfO)が形成される。
【0012】
特許文献1および2に記載の透明成形体の結晶構造は立方晶構造(蛍石型構造)または立方晶と正方晶が混在した構造をしている。単斜晶構造やルチル型構造を有する透明成形体は知られていない。
【0013】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、単斜晶構造またはルチル型構造を有し、第4族元素からなる透明成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、酸素欠損をしている第4族元素酸化物(黒色酸化ジルコニウム(ZrO2-a)等)の板材は、内側に第4族元素(純ジルコニウム等)からなる部分があり、その外側に第4族元素酸化物(酸化ジルコニウム(ZrO)等)からなる部分が形成されており、酸素分圧を制御した環境下で所定時間だけ加熱すると、板材の外部から酸素が取り込まれる速度と板材に取り込まれた酸素が内部に進行する速度との相関を制御し、第4族元素酸化物からなる透明成形体が得られることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0016】
(1)本発明の一態様にかかる透明成形体は、第4族元素酸化物からなる透明成形体であって、組成式AO2-x(Aは、Zr、Hf、およびTiから選択されるいずれか1つの元素であり、xは酸素欠損量を示し、x≧0である。)で表され、AがZrまたはHfである場合、単斜晶構造を有し、AがTiである場合、ルチル型構造を有し、厚さを20μmとしたときに、波長600nmにおける透過率が45%以上である。
【0017】
(2)本発明の一態様にかかる透明成形体は、第4族元素酸化物からなる透明成形体であって、組成式AO2-x(Aは、Zr、Hf、およびTiから選択されるいずれか1つの元素であり、xは酸素欠損量を示し、x≧0である。)で表され、AがZrまたはHfである場合、単斜晶構造を有し、AがTiである場合、ルチル型構造を有し、等軸結晶粒を含む表面層と、前記表面層より内部に前記等軸結晶粒よりも長径方向の平均長さが長い柱状結晶粒を含む内部層とを有する、第4族元素酸化物からなる。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載の透明成形体は、等軸結晶粒を含む表面層と、前記表面層より内部に前記等軸結晶粒よりも長径方向の平均長さが長い柱状結晶粒を含む内部層とを有し、前記柱状結晶粒は、長径方向の平均結晶粒径が100nm~5μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10~1000nmであってもよい。
【0019】
(4)上記(1)~(3)に記載の透明成形体において、前記酸素欠損量xはx>0であってもよい。
【0020】
(5)上記(1)~(4)に記載の透明成形体において、第三元素の量が0.8質量パーセント以下であってもよい。
(6)上記(1)~(5)に記載の透明成形体において、第4族元素からなる第4族元素層を有していなくてもよい。
【0021】
(7)本発明の一態様に係る透明成形体の製造方法は、上記(1)~(6)のいずれかに記載の第4族元素酸化物からなる透明成形体を製造する方法であって、ジルコニウム、ハフニウム及びチタンとからなる群から選択された第4族元素の板材を大気中で予備酸化する第1工程と、前記予備酸化した板材を酸素分圧雰囲気で熱処理する第2工程と、を有する。
【0022】
(8)上記(7)に記載の透明成形体の製造方法において、前記第4族元素はジルコニウムであり、前記第1工程において、ジルコニウム板材を600~900℃で、10分~5時間、予備加熱し、前記第2工程において、予備酸化した前記ジルコニウム板材を900~1100℃で、10分~50時間加熱し、前記酸素分圧は、1.0×10-5~1.0×10-7atmであってもよい。
【0023】
(9)上記(7)に記載の透明成形体の製造方法において、前記第4族元素はハフニウムであり、前記第1工程において、ハフニウム板材を700~1000℃で、10分~5時間、予備加熱し、前記第2工程において、予備酸化した前記ハフニウム板材を900~1100℃で、10分~50時間加熱し、前記酸素分圧は、1.0×10-5~1.0×10-7atmであってもよい。
【0024】
(10)上記(7)に記載の透明成形体の製造方法において、前記第4族元素はチタンであり前記第1工程において、チタン板材を500~800℃で、10分~50時間、予備加熱し、前記第2工程において、予備酸化した前記チタン板材を700~1000℃で、10分~50時間加熱し、前記酸素分圧は、1.0~1.0×10-5atmであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、単斜晶構造またはルチル型構造を有し、第4族元素からなる透明成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係る第4族元素酸化物からなる透明成形体の外観写真である。
図2】本実施形態に係る第4族元素酸化物からなる透明成形体の断面SEM像である。
図3】本実施形態に係る第4族元素酸化物からなる透明成形体のTEM像である。
図4】本実施形態に係る透明成形体の製造方法で用いられる板材の外観写真である。
図5】本実施形態に係る透明成形体の製造方法において、第1工程を行った後の板材の外観写真である。
図6】本実施形態に係る透明成形体の製造方法において、第1工程を行った後の板材の断面SEM像である。
図7】本実施形態に係る透明成形体の製造方法で用いることのできる第4族元素の板材の外観写真であり、実施例1で用いたジルコニウム板材を示す。
図8】本実施形態に係る透明成形体の製造方法において、第1工程を行った後の板材の外観写真であり、実施例1におけるBZを示す。
図9】本実施形態に係る透明成形体の製造方法で得られる透明成形体であり、実施例1で作製した透明成形体Aを示す。
図10】実施例1におけるBZのTEM像である。
図11】実施例におけるBrZ、透明成形体AおよびBZのXRD測定結果である。
図12】実施例におけるBZのXPS測定結果である。
図13】実施例1で作製した透明成形体AのXPS測定結果である。
図14】実施例2で作製した透明成形体Bの外観写真である。
図15】実施例2で作製した透明成形体Bの透過率を示すグラフである。
図16】実施例2で作製した透明成形体Bの透過率を示すグラフであり、波長が1000nm以下の領域の拡大図である。
図17】比較例1で作製したBrZの外観写真である。
図18】比較例1で作製したBrZの断面SEM像である。
図19】比較例2で作製したWZの外観写真である。
図20】比較例2で作製したWZの断面SEM像である。
図21】比較例2で作製したWZのTEM像である。
図22】参考例で作製した試料の外観写真である。
図23】容器に収容された白色の酸化ジルコニウム粉末と黒色の酸化ジルコニウム粉末の色を示す写真である。
図24】大気中で酸化する前後のジルコニウム板材である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっている場合がある。
【0028】
[透明成形体]
本実施形態に係る透明成形体は、第4族元素酸化物からなる透明成形体である。
【0029】
ここで、第4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びハフニウム(Hf)が挙げられる。第4族元素酸化物は、AO2-x(Aは、Zr、Hf、およびTiから選択されるいずれか1つの元素であり、xは酸素欠損量を示し、0≦xである。)の組成式により表される。
【0030】
図1は、透明成形体100の外観写真である。透明成形体100は、本実施形態に係る透明成形体の一例である。透明成形体100の形状は、例えば、常温にて板状、箔状、薄膜状などの形状である。これらの形状は、製造が容易であるため好ましいが、これらの形状に限られず任意の形状に制御することができる。
【0031】
透明成形体100は、試料厚さ20μmで、測定波長600nmの可視光に対する透過率が45%以上であり、好ましくは47%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上である。
【0032】
図2は、透明成形体100の断面を示す、断面走査型電子顕微鏡(SEM)像である。透明成形体100は、第4族元素がジルコニウムまたはハフニウムの場合、単斜晶構造を示し、第4族元素がチタンの場合、ルチル型構造を有している。透明成形体100は、図2に示されるように、き裂やボイドが形成されていないため可視光に対して透明である。
【0033】
透明成形体100の酸素欠損量xは、0≦x<0.2の数である。xは0を含む数である。酸素欠損量xは、0<x<0.1を満たす数であることが好ましく、0<x<0.05を満たす数であることがより好ましい。
【0034】
透明成形体100の酸素欠損の有無は、X線電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて評価することができる。透明成形体100が酸素欠損をしていない場合、XPSの分析結果は、単一のピーク(以下、第1ピークという場合がある)のみが確認される。一方、透明成形体100が酸素欠損をしている場合、第1ピークよりも高エネルギー領域に、別のピークも確認される。例えば、図13に示されるXPS分析結果は、後述する実施例1に係る透明成形体のXPS分析結果であり、結合エネルギー約530eVの位置のピークのほかに結合エネルギー約531eVのピークが確認される。すなわち、実施例1に係る透明成形体は酸素欠損していることが確認される。尚、酸素欠損量が多い程、高エネルギー領域におけるピーク強度が大きい。具体的に酸素欠損量を定量化する方法としては、「X線光電子分光法 丸善出版 日本表面科学会編 P120」に記載されている方法に従い、各種ピーク面積を分離し,感度係数を用いて算出することができる。
【0035】
図3は、透明成形体100の断面を示す断面透過型電子顕微鏡(TEM)像である。透明成形体100は、表面層L1と、表面層L1より内部に内部層L2とを有する。表面層L1と内部層L2との界面Bは、例えば、透明成形体100の表面から例えば1~3μmの位置に存在する。図3においては、界面Bは、透明成形体の表面から約2μmの位置に存在する。尚、界面Bの位置は、透明成形体100の厚み等により異なるので、この例に限定されるものではない。
【0036】
表面層L1は、透明成形体100の表面側に位置する層である。表面層L1は、等軸結晶粒10を含む。等軸結晶粒10の平均粒径は、例えば10nm~1000nmであり、100nm~500nmや、100nm~200nmであってもよい。
【0037】
内部層L2は、表面層L1よりも内部に位置する層である。内部層L2は、配向性の高い柱状結晶粒20を含む。柱状結晶粒20の長径方向の平均結晶粒径は、100nm~5μmであり、200nm~3μmであってもよく、500nm~2μmであってもよい。柱状結晶粒20の短径方向の平均結晶粒径は、10nm~1000nmであり、20nm~500nmであってもよく、50nm~300nmであってもよい。
【0038】
等軸結晶粒L1の大きさ、および柱状結晶粒の大きさは、公知の方法により測定される。例えば、等軸結晶粒の大きさは、電子顕微鏡観察による線分法により測定することができる。また柱状結晶粒の大きさは、電子顕微鏡観察による線分法及びアスペクト比の算出により測定することができる。線分法は、例えば、日本金属学会編集、「金属便覧 日本金属学会編」、改訂6版、丸善株式会社、2000年6月1日、264頁~265頁に記載されている方法に従い実施することができる。
【0039】
透明成形体100は、第4族元素と酸素との他に含まれる第三元素の量が少ない。第三元素の量は、例えば0.8質量パーセント以下であり、0.4質量パーセント以下であることが好ましい。
【0040】
透明成形体100は、詳細を後述する製造プロセスにおいて用いる原料のうち、酸素ガス以外の原料は、第4族元素からなる板材と反応しない。そのため、透明成形体100に含まれる第三元素の量は、材料となる板材の第三元素の量を基に算出することができる。例えば、第4族元素からなる板材に含まれる第三元素の量がa質量パーセント、第4族元素からなる板材の質量がb、透明成形体100の質量がcである場合、透明成形体100に含まれる第三元素の量は、a×b/c質量パーセントとみなすことができる。
【0041】
従来の第4族元素酸化物では、粒界から亀裂が生じやすかったが、本実施形態に係る透明成形体では、粒界を含めいずれの部分からも亀裂が生じていない。具体的には、立方晶や正方晶のZrやHfは,環境による温度変化や応力負荷に伴い単斜晶へ相変態する。相変態が起こってしまうとき裂が生じてしまう。しかしながら、本実施形態の透明成形体は、AがZrまたはHfの場合、単斜晶構造を有しており、相変態が生じないため相変態に伴うき裂などを抑制できる。また、同様にアナターゼ型構造のチタンは、環境による温度変化や応力負荷に伴いルチル型構造へ相変態する。しかしながら、本実施形態の透明成形体は、AがTiの場合、ルチル型構造を有しており、相変態が生じないため相変態に伴うき裂などを抑制できる。
【0042】
本実施形態にかかる透明成形体は、可視光、赤外光領域において高い透過率を示す。そのため、装飾部材、電子機器外装部品、審美歯科材料など幅広い分野に応用できる。
【0043】
[透明成形体の製造方法]
本実施形態に係る透明成形体の製造方法は、上記実施形態に係る透明成形体を製造する方法である。本実施形態に係る透明成形体の製造方法は、第4族元素の板材を大気中で予備酸化する第1工程と、予備酸化した板材を酸素雰囲気で熱処理する第2工程とを有する。
【0044】
(第1工程)
第1工程は、ジルコニウム、ハフニウム及びチタンからなる群から選択された第4族元素の板材を大気中で予備酸化する。図4は、第4族元素の板材の一例を示す外観写真である。すなわち、図4は第1工程を行う前の板材の一例を示す。図5は第1工程を行った後の板材の一例を示す外観写真である。
【0045】
板材としては、市販のものを用いてもよい。板材の厚さは任意であるが、例えば5μm~2mmである。板材としては、第4族元素のみからなる板材を用いることが好ましい。一方、板材は、第4族元素以外の第三元素を含む板材であってもよい。
【0046】
第1工程を行う際の熱処理温度は、500~1000℃である。第1工程は、公知の電気炉等を用いて行うことができる。熱処理温度は、ジルコニウム板材を予備酸化する場合、600~900℃、好ましくは800~900℃であり、ハフニウム板材を予備酸化する場合、700~1000℃、好ましくは800~900℃であり、チタン板材を予備酸化する場合、500~800℃、好ましくは600~700℃である。
【0047】
第1工程の熱処理温度をこれらの範囲に制御し、後述する第2工程を行うことで、透明成形体を得ることができる。第1工程の熱処理温度が、1000℃以上であると、粒界からき裂が生じてしまい、透明成形体を得ることができない。また、第1工程の熱処理温度が500℃未満であると、第4族元素を十分に酸化することができず、後述する第2工程を行う際にき裂などが生じてしまい、透明成形体を得ることができない。
【0048】
第1工程を行う熱処理時間は、第4族元素がジルコニウムである場合、10分間~5時間であり、好ましくは10分間~2時間、より好ましくは30分間~1時間であり、第4族元素がハフニウムである場合、10分間~5時間であり、好ましくは10分間~2時間、より好ましくは30分間~1時間であり、第4族元素がチタンである場合、10分間~50時間であり、好ましくは30分間~30時間、より好ましくは2時間~20時間である。
【0049】
尚、ここで熱処理時間とは、上述の熱処理温度に達してから維持される時間のことをいう。熱処理時間は、熱処理温度が高い場合には短くしてもよく、熱処理温度が低い場合には長くしてもよい。熱処理時間を上記範囲に制御することで、き裂や割れが生じることを抑制できる。
【0050】
図6は、第1工程で予備酸化した板材の断面を示すTEM像である。第1工程後の板材は、第4族元素層Laと、第4族元素層Laを挟む酸化物層Lbと、を有する。第4族元素層Laは、酸化されていない第4族元素を含む層であり、第1工程を行う前の板材は、第4族元素層Laのみからなる。酸化物層Lbは、第4族元素酸化物を含む層である。第1工程により、板材の表面から酸化が進行するため、酸化物層Lbは、第4族元素層Laよりも表面側に位置する。
【0051】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で予備酸化した板材を酸素分圧雰囲気で熱処理する工程である。第2工程は、公知の電気炉を用いて行うことができる。
【0052】
酸素分圧雰囲気とは、酸素分圧を制御した雰囲気である。酸素分圧雰囲気は、例えば、酸素ガス、窒素ガス、高純度アルゴンガス、空気ガスを組み合わせて制御した雰囲気である。酸素分圧雰囲気は、酸素のみを含んでいてもよく、酸素以外にプロセスガスとしてN、Arなどの不活性ガスを含んでいてもよい。尚、酸素分圧雰囲気は、酸素のみからなる、又は酸素と不活性ガスのみからなることが好ましい。
【0053】
第2工程を行う酸素分圧は、予備酸化したジルコニウム板材を熱処理する場合、1.0×10-5~1.0×10-7atm、好ましくは1.0×10-5~1.0×10-6atm、より好ましくは5.0×10-6~1.0×10-6atmであり、予備酸化したハフニウム板材を熱処理する場合、1.0×10-5~1.0×10-7atm、好ましくは1.0×10-5~1.0×10-6atm、より好ましくは5.0×10-6~1.0×10-6atmであり、予備酸化したチタン板材を熱処理する場合、1.0~1.0×10-5atm、好ましくは1.0×10-1~1.0×10-4atmであり、より好ましくは1.0×10-2~1.0×10-3atmである。
【0054】
酸素分圧の下限値を上述の値に制御することで、板材に取り込まれた酸素が内部に進行する速度に対して、板材の外部から酸素が取り込まれる速度が過剰となり表面でき裂などが生じることを抑制できる。また、酸素分圧の上限値を上述の値に制御することで、板材に取り込まれる酸素量が不十分で板材の厚み方向中心が、第4族元素層Laのままになることを抑制できる。
【0055】
酸素分圧の制御は、公知の方法により行うことができる。例えば、酸素分圧コントローラーを用いて行うことができる。
【0056】
第2工程を行う際の熱処理温度は、予備酸化したジルコニウム板材を熱処理する場合、900~1100℃、好ましくは900~1000℃、より好ましくは950~1000℃であり、予備酸化したハフニウム板材を熱処理する場合、900~1100℃、好ましくは900~1000℃、より好ましくは950~1000℃であり、予備酸化したチタン板材を熱処理する場合、700~1000℃、好ましくは800~900℃、より好ましくは850~900℃である。
【0057】
第2工程を行う熱処理時間は、第4族元素の種類に限らず、10分間~50時間、好ましくは30分間~30時間、より好ましくは2時間~20時間である。
【0058】
尚、ここで熱処理時間とは、上述の酸素分圧雰囲気で上述の熱処理温度に達してから維持される時間のことをいう。熱処理時間は、熱処理温度が高い場合には短くしてもよく、熱処理温度が低い場合には長くしてもよい。
【0059】
第2工程を行うことで、板材の外部から酸素が取り込まれる速度と板材に取り込まれた酸素が内部に進行する速度との相関を制御し、第4族元素酸化物からなる透明成形体が得られる。
【0060】
本実施形態に係る透明成形体の製造方法により、図1に外観写真、図2に断面SEM像、図3にTEM像が示されるような、透明成形体を得ることができる。図2及び図6を比較すると、第2工程を行うことにより、組成の異なる複数の層を有する板材が、組成のほぼ同質な、第4族元素酸化物からなる単一の層からなる板材が形成されたことが確認される。本実施形態に係る透明成形体の製造方法では、簡便な工程により透明成形体を得ることができる。
【実施例
【0061】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
以下の条件で実施例1に係る試料を作製し、その特性を評価した。
【0063】
(実施例1の試料作製)
先ず、厚さ20μmのジルコニウム板材を用意した。実施例1で用いたジルコニウム板材は、99.2質量パーセントがジルコニウムであり、残りの0.8質量パーセントがジルコニウム以外の元素であった。図7は、実施例1で用いたジルコニウム板材の外観写真である。
【0064】
次いで、ジルコニウム板材を大気中で予備酸化し、黒色の酸化ジルコニウム(BZ:Black-ZrO2-a)を作製した。予備酸化は、試料を電気炉内に配置して行った。予備酸化する際、熱処理温度は800℃、熱処理時間は15分間とした。尚、熱処理後、炉冷(約1℃/分の速度で冷却)を行った。図8は、BZの外観写真である。
【0065】
次いで、BZを酸素分圧雰囲気で熱処理し、炉冷(約1℃/分の速度で冷却)を行い、ジルコニウム酸化物からなる透明成形体Aを作製した。熱処理は、試料を電気炉内に配置して行った。尚、酸素分圧雰囲気では、酸素ガスの他にプロセスガスとしてアルゴンガスを用いた。熱処理は、熱処理温度900℃、熱処理時間15時間、酸素分圧1×10-6atmの条件で作製した。図9は、透明成形体Aの外観写真である。
【0066】
尚、本実施形態に係る透明成形体の一例である透明成形体Aの特性をより良く理解するため、BZの特性について説明しておく。
【0067】
図6は、BZを面内方向に対して垂直に切断し、走査電子顕微鏡を用いてこの切断面を観察した断面SEM像である。断面SEM像より、BZは積層方向に組成の異なる層を有していることが確認される。BZは、積層方向の表面側に酸化物層を有し、酸化物層よりも積層方向内側に第4族元素層を有している。BZの酸化物層の厚みの平均は9μmであった。
【0068】
図10は、BZの断面を透過電子顕微鏡で観察したTEM像である。このTEM像から、BZは表面から内部に約5μm迄の領域が等軸粒(平均粒径:約200nm)であり、表面から内部に向かって約5μmよりも内側の部分には短径方向の粒径が数μm、長径方向の粒径が数百μmの柱状結晶粒を有する構造をしていることが確認される。
【0069】
図11(c)は、BZに対してX線回折法(XRD:X-ray Diffraction)を行った結果である。尚、薄膜XRD測定において、試料表面への入射角度は1°にした。
【0070】
図11(c)より、BZは単斜晶構造のZrOと六方細密構造のZrとを有することが確認された。単斜晶構造のZrOは、断面SEM像における積層方向表面側の層を構成している組成物であり、六方細密構造のZrは、第4族元素層を構成している元素である。
【0071】
尚、図11(a)、(b)は、それぞれ後述する比較例1に係るBrZ、実施例1に係る透明成形体Aに対して薄膜XRD測定を行った結果であり、これらについては詳細を後述する。
【0072】
図12は、BZに対してX線電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて試料表面を構成する元素の組成を評価した結果である。図12には、説明の便宜上、後述する比較例2に係る、酸素欠損のない白色の酸化ジルコニウム(ZrO)の分析結果(短破線)を併せて示す。
【0073】
1s軌道のXPS測定の結果は、試料に酸素空孔が存在すると高エネルギー側にシフトすることが知られている。図12に示される結果においても、酸化ジルコニウムAは白色の酸化ジルコニウム(ZrO)と比べ、高エネルギー側にシフトしている。具体的には、白色の酸化ジルコニウム(ZrO)の分析結果よりも高エネルギーの領域でピークを示しており、BZのXPS分析結果は、短破線の分析結果と長破線の分析結果との重ね合わせと解釈することができる。すなわち、BZは酸素空孔が存在することが確認されている。
【0074】
(実施例1の試料評価)
透明成形体Aに対して以下の測定を行い、その特性を評価した。
【0075】
先ず、透明成形体Aに対して薄膜XRD測定を行った。薄膜XRD測定は、試料表面に対する入射角度を1°にして行った。図11(b)は、透明成形体Aに対して薄膜XRD測定を行った結果である。
【0076】
図11(b)より、透明成形体Aは、単斜晶構造のZrOのみからなることが確認される。また、白色の酸化ジルコニウム(ZrO)のJCPDSカードでは、ごく低強度となる211ピークが高強度となっており、透明成形体Aは11-1と211とに配向していると考えられる。
【0077】
次いで、透明成形体Aを面内方向に対して垂直に切断し、走査電子顕微鏡を用いて、この切断面を観察した。図2は、透明成形体Aの断面SEM像である。図6に示されるBZの断面SEM像と比較すると、BZは異なる組成の層が積層方向に形成されるのに対し、透明成形体Aは積層方向に均一な単一の層からなることが確認される。すなわち、透明成形体Aは第4族元素のみからなる第4族元素層を有していない。また透明成形体Aの観察により、断面SEM像でも観察できないほど緻密な結晶粒が形成されていることが確認される。
【0078】
次いで、透過電子顕微鏡を用いて透明成形体Aの断面を観察した。図3は、透明成形体AのTEM像である。
【0079】
透明成形体AのTEM像において、表面から内部に向かって約2μm迄の部分は、等軸結晶粒であった。また表面から内部に向かって約2μmよりも内側の部分には、長径方向の平均長さが等軸結晶粒よりも長い柱状結晶粒を有していた。また、透明成形体Aの柱状結晶粒は高い配向性を示していた。
【0080】
次いで、透明成形体Aに対してXPSを用いて試料表面を構成する元素の組成を評価した。図13は、透明成形体Aに対してXPSを用いて試料表面を構成する元素の組成を評価した結果である。図13には、説明の便宜上、後述する比較例2に係る白色の酸化ジルコニウム(ZrO)の分析結果(短破線)を併せて示す。1s軌道のXPS測定の結果は、試料に酸素空孔が存在すると高エネルギー領域においても高い強度を示すことが知られており、透明成形体AのXPS分析結果は、白色の酸化ジルコニウム(ZrO)の分析結果と比較し、高エネルギー領域においても高い強度を有している。図13中の長破線は、透明成形体Aが高エネルギー領域においても高い強度を有していることを説明するために便宜上描いた線であり、透明成形体AのXPS分析結果は、長破線と短破線との合計と概算することができる。すなわち、透明成形体Aにおいても酸素空孔が生じていることが確認される。尚、高エネルギー領域におけるピーク強度は、BZの方が透明成形体Aよりも高く、透明成形体Aは、BZよりも酸素欠損量が少ないと考えられる。
【0081】
[実施例2]
以下の条件で実施例2に係る試料(透明成形体B)を作製し、その特性を評価した。
【0082】
(実施例2の試料作製)
実施例2では、BZを酸素分圧雰囲気で熱処理する際の酸素分圧を1×10-5atmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で透明成形体Bを作製した。図14は、透明成形体Bの外観写真である。
【0083】
(実施例2の試料評価)
透明成形体Bに対して透過率を測定した。透過率の測定には、紫外可視赤外分光計(メーカー名:島津製作所、装置名:UV-3600)を用いた。
【0084】
図15は、透過率の測定結果を示すグラフであり、図16は波長1000nm迄の領域における図15の拡大図である。透過率の測定結果の要旨を表1に纏める。
【0085】
【表1】
【0086】
透明成形体Bは、波長600nmにおける透過率が47%であった。尚、透過率は酸素欠損量の制御、結晶粒の微細化及び緻密化によりさらに向上することが確認されている。例えば、実施例1に係る透明成形体Aでは、実施例2に係る透明成形体Bよりも透過率が高いことが確認される。
【0087】
[比較例1]
以下の条件で比較例1に係る茶色の酸化ジルコニウム(BrZ:Brown-ZrO2-b)を作製し、その特性を評価した。
【0088】
(比較例1の試料作製)
比較例1では、BZを熱処理する工程において、熱処理温度1000℃、熱処理時間10時間、酸素分圧1×10-10atmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でBrZを作製した。図17は、BrZの外観写真である。
【0089】
(比較例1の試料評価)
先ず、BrZに対して薄膜XRD測定を行った。薄膜XRD測定は、試料表面に対する入射角度を1°にして行った。図11(a)は、BrZに対して薄膜XRD測定を行った結果である。
【0090】
図11(a)より、BrZは単斜晶構造のZrO、六方細密構造のZr、立方晶構造のZrOを有することが確認された。すなわち、BrZは、Zrの組成からなる部分、およびZrOの組成の部分が残存している。
【0091】
次いで、BrZを面内方向に対して垂直に切断し、走査電子顕微鏡を用いて、この切断面を観察した。図18は、BrZの断面SEM像である。BrZは、積層方向に組成の異なる層を有していることが確認される。BrZは、積層方向の表面側に酸化物層を有し、酸化物層よりも積層方向内側に第4族元素層を有している。BrZの酸化物層の厚みの平均は10μmであった。
【0092】
[比較例2]
以下の条件で比較例2に係る白色の酸化ジルコニウム(WZ:White-ZrO)を作製し、その特性を評価した。
【0093】
(比較例2の試料作製)
比較例2では、実施例1と同じ組成のジルコニウム板材に対して大気中での酸化のみを行い、WZを作製した。ジルコニウム板材の酸化は、熱処理温度1100℃、熱処理時間1時間の条件で行った。図19は、WZの外観写真である。
【0094】
(比較例2の試料評価)
先ず、WZを面内方向に対して垂直に切断し、走査電子顕微鏡を用いて、この切断面を観察した。図20は、WZの断面SEM像である。断面SEM像から、温度変化に伴う体積膨張や収縮により、試料全体に亀裂が多数入り、脆化していることが確認される。き裂やボイドは、粒界から生じていると考えられる。
【0095】
次いで、透過電子顕微鏡を用いてWZの断面を観察した。図21は、WZのTEM像である。WZのTEM像で確認される白色の箇所はき裂またはボイドである。
【0096】
WZのTEM像において、全域に亘って、すなわち表面から内部に向かって約数十μm迄の部分は、結晶粒径が数百nmの等軸粒であった。WZには柱状結晶粒など、等軸粒以外は確認されなかった。結晶粒内にはき裂やボイドが生じており、結晶粒界からもき裂やボイドが生じていた。
【0097】
[参考例]
図22(a)および図22(b)は、その他の条件で作製した試料の外観写真である。図22(a)に示す試料は、BZを熱処理温度1000℃、熱処理時間1時間、酸素分圧1×10-10atmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で作製した。また、図22(b)に示す試料は、BZを熱処理温度900℃、熱処理時間20時間、酸素分圧1×10-10atmで熱処理した試料である。酸素分圧雰囲気では、酸素ガスの他にプロセスガスとしてアルゴンガスを用いた。尚、熱処理後、炉冷(約1℃/分の速度で冷却)を行った。これらの熱処理条件では、透明成形体を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の透明成形体は、可視光域において透過率の優れた材料であり、また簡便な工程により複雑形状も作製可能であることから、装飾部材、窓材、電子機器外装部品、審美歯科材料など、幅広い分野にて応用展開することができる。特に、第4族元素がハフニウムである透明成形体は、高誘電率材料としての用途も期待できる。
【符号の説明】
【0099】
100:透明成形体
10:等軸結晶粒
20:柱状結晶粒
L1:表面層
L2:内部層
La:第4族元素層
Lb:酸化物層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24