(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ゼオライト緻密体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/14 20060101AFI20241129BHJP
C01B 39/22 20060101ALI20241129BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241129BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241129BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20241129BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C01B39/14
C01B39/22
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M12/06 G
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2020213207
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019239487
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】松田 元秀
(72)【発明者】
【氏名】吉野 諒一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 萌貴
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-200601(JP,A)
【文献】特開2005-306725(JP,A)
【文献】特開2016-219134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/16
C01B 39/00 -39/54
H01B 1/00 - 1/24
H01M 10/0562;12/06;12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、イオン伝導度が、1.0×10
-3S・cm
-1以上であり、
理論密度と嵩密度により測定された相対密度が、80%以上である、ゼオライト緻密体。
(M
1/n)
x(Al
xSi
yO
2(x+y))・zH
2O ・・・(1)
但し、Mは、Na、Li、K、Ca、Mg、Ba、Agから選択された一種又は二種以上の金属元素であり、0
<x≦y、0≦z≦216、nは価数である。
【請求項2】
嵩密度が、1.7g/cm
3以上2.0g/cm
3以下である、請求項
1に記載のゼオライト緻密体。
【請求項3】
室温以上150℃以下で、イオン伝導度から算出されるlog(σ/S・cm
-1)が、-3以上である、請求項1
又は2に記載のゼオライト緻密体。
【請求項4】
A型又はX型の骨格構造を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のゼオライト緻密体。
【請求項5】
前記Mは、Na又はLiである、請求項1に記載のゼオライト緻密体。
【請求項6】
請求項1に記載のゼオライト緻密体の製造方法であって、
加熱及び加圧可能に構成された密閉空間に、水又はアルカリ水溶液とゼオライト粉末とを混合した混合物を投入し、水熱ホットプレス法にてゼオライト緻密体を作製する、ゼオライト緻密体の製造方法。
【請求項7】
前記水又はアルカリ水溶液と前記ゼオライト粉末とを混合する前に、ボールミル法にてゼオライト粉末を粉砕する、請求項
6に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【請求項8】
前記水熱ホットプレス法にてゼオライト緻密体を作製した後、前記ゼオライト緻密体を脱水する、請求項
6又は
7に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【請求項9】
温度100℃以上200℃以下、圧力50MPa以上300MPa以下、保持時間0.5時間以上24時間以下で、前記混合物の加熱及び加圧を行う、請求項
6に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【請求項10】
前記混合物におけるアルカリ水溶液の濃度が、0.1mol/L以上1.8mol/Lである、請求項
6に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト緻密体及びその製造方法に関し、特に、バルク体の形態にて高イオン伝導性を有するゼオライト緻密体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、一般に、石油改質や、内燃機関から生じる排気ガスの浄化、或いは炭化水素の合成等を目的として、触媒や吸着体などに用いられることが多い。触媒や吸着体では、ゼオライトは粉体の形態で応用されることが多く、特許出願においても、粉体の形態を有するゼオライト及びその化学的性質に関する記載が多い。
【0003】
例えば、遷移金属が担持された8員環ゼオライトを含むゼオライト粉体であって、ゼオライト粉体中のAl量に対する、ゼオライト骨格を構成するAl量のモル比(以下、Al比とも称する)が0.70以上であるゼオライト粉体を含む排ガス浄化用触媒が提案されている(特許文献1)。この特許文献1の実施例では、ゼオライト粉体のAl比が1.06であると、窒素酸化物(NO)の浄化率が高く、高い初期触媒活性及び高い触媒活性維持率を達成できるとされている。
【0004】
一方、イオン伝導性材料は、各種電池や化学センサーなど電気化学デバイスの中で重要な役割を演じている。例えば、リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン伝導性を示す固体電解質材料と一対の電極によって構成される。そのため、リチウムイオン二次電池の性能は、固体電解質材料のイオン伝導性によって強く支配される。
【0005】
各種電池や化学センサーなどで利用される固体電解質は、1.0×10-3S・cm-1~1.0×10-2S・cm-1よりも高いイオン伝導度を示すものがある。しかし、例えばリチウムイオン全固体電池では、上記の範囲と同じかそれよりも一桁程度低い10-5~10-3オーダーのイオン伝導度で、応用研究が進められているのが現状である。例えば、従来のリチウムイオン二次電池の固体電解質膜として、ゼオライトで構成され、該ゼオライト中の炭素元素及び窒素元素の総含有量が1質量%未満である固体電解質膜が提案されている(特許文献2)。この特許文献2の実施例では、27℃で交流インピーダンスを測定し、Cole-Coleプロットして求めた抵抗値から算出されたリチウムイオン伝導度が7.0×10-4S・cm-1であるとされている(特許文献2)。また、従来のリチウムイオン全固体電池の固体電解質として、構成元素としてLi、P、SおよびMを含み、Mが、Fe、CoおよびZnから選択される一種または二種以上の元素である硫化物系無機固体電解質材料が提案されている(特許文献3)。この特許文献3の実施例では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が、1.4×10-3S・cm-1であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-171243号公報
【文献】特開2018-198128号公報
【文献】特開2019-071235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1では、ゼオライトが粉体であり、一般的なセラミックスとは異なり、焼結することができないため、緻密なバルク体を作製することが極めて困難である。また、ゼオライト粉末の電気的特性、特にゼオライト粉末のイオン伝導度についての開示、示唆はない。また、これまでゼオライトのイオン伝導性を検討した研究例が幾つか報告されているが、これら研究例ではゼオライト粉末の圧粉体が用いられているのが実状である。圧粉体の場合、ゼオライト粉同士の接合が弱く、良好なイオン伝導パスが形成され難いため、仮にゼオライト粉末自体が高イオン伝導性を示す物質であっても、高イオン伝導性を発現することができない。
【0008】
特許文献2では、実施例でリチウムイオン伝導度が10-4オーダーであることが開示されているが、イオン伝導度の値として十分とは言えず、改善の余地がある。また、特許文献3では、実施例でリチウムイオン伝導度が10-3オーダーであることが開示されているものの、無機固体電解質材料の構成元素であるLi、P、S、Fe、CoおよびZnはいずれも、クラーク数の小さい金属種であり、固体電解質の材料となる金属種を取得するための環境負荷が大きく、製造コストも増大する。電池が必要とされる自動車産業や通信機器産業等の更なる発展に伴い、イオン伝導度がより高く、環境負荷の小さい無機固体電解質材料が求められている。
【0009】
本発明の目的は、高イオン伝導性を発現すると共に、環境負荷が小さく、製造コストを低減し得るゼオライト緻密体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、安価で資源豊富な元素で構成されるゼオライト粉末を用い、水熱反応プロセスと加圧プロセスを同時に行う水熱ホットプレス法でゼオライト粉末を水熱・固化することにより、ゼオライトの骨格構造を維持しつつ粒子間の隙間が非常に少ない、極めて緻密なゼオライトバルク体が得られ、その結果、10-2オーダーの極めて高いイオン伝導性を発現することを見出した。また、ゼオライトの骨格構造は、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)及び酸素(O)といった、クラーク数の極めて大きい元素で構成されており(O、Si、Alは、クラーク数の上位3元素)、資源として豊富であるため、極めて安価で、環境にも優しい物質である、本発明のゼオライト緻密体を各種産業分野のデバイスに適用することにより、環境負荷を低減し、また、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0011】
特に、従前に触媒や吸着体などが主な応用分野として考えられていたゼオライトを、ゼオライト緻密体として、電池をはじめとする電気化学デバイスに適用すれば、産業界に与える影響は極めて大きい。
【0012】
また、エネルギー多様化の観点から、自動車会社をはじめ多くの企業は、リチウムイオン二次電池の他に、金属空気電池などの次世代電池の開発に鎬を削っている。その中には、ナトリウム金属空気電池やマグネシウム金属空気電池などがある。ゼオライトが持つ大きな特徴の一つに、イオン交換反応を通して様々な可動金属元素(カチオン種)を構造内に取り入れることができることが挙げられる。通常、金属などの母体材料に対して異種元素を導入する場合、導入される元素種は限られる。これに対してゼオライトはイオン交換性といった特異な化学的性質を示すため、多様な可動金属元素を骨格構造内に導入可能である。このイオン交換性の性質は、金属空気電池の開発上大きな魅力である。つまり、金属空気電池の反応にあわせて可動金属種を適宜制御することが可能となり、設計自由度の高い金属空気電池を提供することが可能となる。また、ゼオライトはその構造上、固体電解質として要求される電気絶縁性を兼備している。したがって、極めて高いイオン伝導性を有する本発明のゼオライト緻密体は、金属空気電池などの次世代電池の固体電解質としても非常に有用である。
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0014】
[1]下記一般式(1)で表され、イオン伝導度が、1.0×10-3S・cm-1以上である、ゼオライト緻密体。
(M1/n)x(AlxSiyO2(x+y))・zH2O ・・・(1)
但し、Mは、Na、Li、K、Ca、Mg、Ba、Agから選択された一種又は二種以上の金属元素であり、0≦x≦y、0≦z≦216、nは価数である。
【0015】
[2]理論密度と嵩密度により測定された相対密度が、80%以上である、上記[1]に記載のゼオライト緻密体。
【0016】
[3]嵩密度が、1.7g/cm3以上2.0g/cm3以下である、上記[1]又は[2]に記載のゼオライト緻密体。
【0017】
[4]室温以上150℃以下で、イオン伝導度から算出されるlog(σ/S・cm-1)が、-3以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のゼオライト緻密体。
【0018】
[5]A型又はX型の骨格構造を有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載のゼオライト緻密体。
【0019】
[6]前記Mは、Na又はLiである、上記[1]に記載のゼオライト緻密体。
【0020】
[7]加熱及び加圧可能に構成された密閉空間に、水又はアルカリ水溶液とゼオライト粉末とを混合した混合物を投入し、水熱ホットプレス法にてゼオライト緻密体を作製する、ゼオライト緻密体の製造方法。
【0021】
[8]前記水又はアルカリ水溶液と前記ゼオライト粉末とを混合する前に、ボールミル法にてゼオライト粉末を粉砕する、上記[7]に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【0022】
[9]前記水熱ホットプレス法にてゼオライト緻密体を作製した後、前記ゼオライト緻密体を脱水する、上記[7]又は[8]に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【0023】
[10]温度100℃以上200℃以下、圧力50MPa以上300MPa以下、保持時間0.5時間以上24時間以下で、前記混合物の加熱及び加圧を行う、上記[7]に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【0024】
[11]前記混合物におけるアルカリ水溶液の濃度が、0.1mol/L以上1.8mol/L以下である、上記[7]に記載のゼオライト緻密体の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高イオン伝導性を発現すると共に、環境負荷が小さく、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(a)~
図1(c)は、本実施形態に係るゼオライト緻密体の製造方法の一例を説明する模式図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は、実施例で得られたA型ゼオライト緻密体を示す電子顕微鏡画像である。
【
図3】
図3は、比較例で得られたA型ゼオライト圧粉体を示す電子顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、A型ゼオライト緻密体及びA型ゼオライト圧粉体のイオン伝導性の温度依存性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例で得られたX型ゼオライト緻密体を示す電子顕微鏡画像である。
【
図6】
図6は、比較例で得られたX型ゼオライト圧粉体を示す電子顕微鏡画像である。
【
図7】
図7は、X型ゼオライト緻密体及びX型ゼオライト圧粉体のイオン伝導性の温度依存性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例で得られたA型ゼオライト緻密体のイオン伝導度と該イオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例で得られたX型ゼオライト緻密体のイオン伝導度と該イオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例で得られたX型ゼオライト緻密体の水熱ホットプレス時の水酸化ナトリウム水溶液の濃度と、嵩密度、相対密度及びイオン伝導性との相関を示すグラフある。
【
図11】
図11は、実施例で得られたX型ゼオライト緻密体の相対密度とイオン伝導性との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっている場合がある。
【0028】
[ゼオライト緻密体の構成]
本実施形態に係るゼオライト緻密体は、下記一般式(1)で表され、イオン伝導度が、1.0×10-3S・cm-1以上である。
(M1/n)x(AlxSiyO2(x+y))・zH2O ・・・(1)
但し、Mは、Na、Li、K、Ca、Mg、Ba、Agから選択された一種又は二種以上の金属元素であり、0≦x≦y、0≦z≦216、nは価数である。
【0029】
本実施形態のゼオライト緻密体は、ゼオライト粉末を構成する粒子間に結合が生じ、ゼオライト圧粉体などの従来のゼオライト成形体とは異なり、結晶粒の緻密な集合体を形成している。この緻密な集合体による三次元構造を有することで、良好なイオン伝導パスを形成することができる。このため、ゼオライト緻密体のイオン伝導度は、1.0×10-3S・cm-1以上であり、好ましくは0.5×10-2S・cm-1以上であり、より好ましくは1.0×10-2S・cm-1以上である。ゼオライト緻密体の使用時における雰囲気の相対湿度は、30%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましく、70%以上であるのが更に好ましい。上記範囲の相対湿度を維持可能な環境下で本実施形態のゼオライト緻密体を用いることにより、より高いイオン伝導度を実現することができる。
【0030】
ゼオライト緻密体は、陰イオン性を有する結晶性アルミノケイ酸塩の骨格体と、該骨格体に支持された陽イオン性の金属元素Mとで構成される。金属元素Mは、イオン半径が小さいカチオン種の方が高いイオン伝導性を示す観点から、Na又はLiであるのが好ましい。
【0031】
このゼオライト緻密体では、理論密度と嵩密度により測定された相対密度が、80%以上であるのが好ましく、85%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが更に好ましい。相対密度が上記範囲内にあることで、粒子間により多くの結合が生じ、理論密度に近い相対密度を有するゼオライトバルク体を得ることができる。また、結晶粒界に不純物、ボイド、ピンホールなどが存在しない緻密な結晶構造を得ることができる。
【0032】
また、ゼオライト緻密体の嵩密度は、1.7g/cm3以上2.0g/cm3以下であるのが好ましく、1.8g/cm3以上2.0g/cm3以下であるのがより好ましい。ゼオライト粉末からなる圧粉体の嵩密度は、0.9g/cm3以上1.1g/cm3以下であることから、本実施形態のゼオライト緻密体は、これらよりも大きい嵩密度を有しており、より緻密なゼオライトバルク体を得ることができる。嵩密度は、試料形状と質量から測定することができる。
【0033】
ゼオライト緻密体は、原料として使用するゼオライト粉末の骨格構造と同じ骨格構造を有する。ゼオライト緻密体の骨格構造は、A型(LTA)、X型あるいはY型(FAU)、L型(LTL)、ZSM-5(MFI)、ベータ(BEA)、フェリエライト(FER)、モルデナイト(MOR)などが挙げられる。ゼオライト緻密体は、カチオンが多い程イオン伝導に寄与するカチオンが増大し、イオン伝導度が増大する観点から、シリカ/アルミナ比が低い骨格構造が好ましく、A型又はX型であるのが好ましい。
【0034】
ゼオライト緻密体には、各骨格構造に対応した孔径を有する孔が複数形成されている。例えば、ゼオライト緻密体がA型の骨格構造を有する場合、孔径は0.42nm(4.2Å)であり、ゼオライト緻密体がX型の骨格構造を有する場合、孔径は0.74nm(7.4Å)である。上記の骨格構造では、X型あるいはY型、L型、モルデナイト、ベータ、ZSM-5、フェリエライト、A型、の順に孔径が大きい。
【0035】
ゼオライト緻密体の形状は、特に制限されず、様々な形状を取り得るが、デバイスの小型化、低背化等の観点から、例えば層形状、シート形状、膜形状などが挙げられる。ゼオライト緻密体が層形状、シート形状あるいは膜形状である場合、厚さは10μm以上2000μm以下であることが好ましく、50μm以上1000μm以下であることがより好ましい。ゼオライト緻密体の厚さが50μm以上であることにより、緻密体の破壊や短絡を防止することができる。また、ゼオライト緻密体を薄くすることにより、イオン伝導の抵抗を低減し、高いイオン伝導特性を得ることができる。
【0036】
また、ゼオライト緻密体では、室温以上150℃以下で、イオン伝導度(σ)から算出されるlog(σ/S・cm-1)が、-3以上である。電池や化学センサー等の分野では、log(σ/S・cm-1)が-3以上の領域は超イオン伝導領域と呼ばれ、各デバイスの電気的性能を支配する指標の1つである。そして、この超イオン伝導領域に含まれるイオン伝導性を、室温以上150℃以下といった比較的低温の範囲で発現することにより、デバイス内での許容温度範囲、例えば車両のリチウムイオン二次電池での許容温度範囲で、各段に高いイオン伝導度を維持することができ、リチウムイオン二次電池の優れた充放電特性を得ることができる。
【0037】
このゼオライト緻密体は、正極層や負極層などの電極層上に形成されるゼオライト緻密層或いはゼオライト緻密膜として適用されてもよいし、基板上に形成されるゼオライト緻密層として適用されてもよい。ゼオライト緻密体が固体電解質層或いは固体電解質膜として用いられる場合、ゼオライト緻密体は、正極層の正極活物質層と負極層の負極活物質層との間に形成されるゼオライト緻密層或いはゼオライト緻密膜を構成することができる。また、ゼオライト緻密体が化学センサーとして用いられる場合、セラミック基板或いは金属基板上に形成されるゼオライト緻密層を構成することができる。
【0038】
[ゼオライト緻密体の製造方法]
本実施形態に係るゼオライト緻密体の製造方法は、加熱及び加圧可能に構成された密閉空間に、水又はアルカリ水溶液とゼオライト粉末とを混合した混合物を投入し、HHP法にてゼオライト緻密体を作製する。
【0039】
図1(a)~
図1(c)は、本実施形態に係るゼオライト緻密体の製造方法の一例を説明する模式図である。本製造方法で用いられる水熱ホットプレス装置10(以下、HHP装置ともいう)は、中心部に断面略円形の貫通孔12を有する反応容器本体11と、反応容器本体11の下方から貫通孔12に嵌入され、上下方向に移動可能に配置された下側ロッド13Aと、反応容器本体11の上方から貫通孔12に嵌入され、上下方向に移動可能に配置された上側ロッド13Bと、貫通孔12の内部において、下側ロッド13Aと上側ロッド13Bとの間に設けられる密閉空間14とを備える。密閉空間14は、下側ロッド13Aの上面13a、上側ロッド13Bの下面13b及び貫通孔12の内周面12aで画定され、ゼオライト緻密体の作製時に型として機能する。また、水熱ホットプレス装置10は、反応容器本体11を囲繞するように配置されたヒーター等の不図示の加熱部を備えている。
【0040】
先ず、原料として、水又は所定濃度のアルカリ水溶液とゼオライト粉末とを混合した混合物Pを調製する。原料として用いられるゼオライト粉末の種類は、特に制限されない。ゼオライト粉末の骨格構造としては、例えばA型(LTA)、X型あるいはY型(FAU)、L型(LTL)、ZSM-5(MFI)、ベータ(BEA)、フェリエライト(FER)、モルデナイト(MOR)などが挙げられ、A型又はX型であるのが好ましい。
【0041】
アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、天然ソーダ等から選択された1種又は複数種を含む水溶液を使用することができる。
【0042】
アルカリ水溶液の濃度は、アルカリの種類、ゼオライトの種類などに応じて適宜選択することができるが、0.1mol/L以上10mol/L以下であるのが好ましく、0.1mol/L以上5.0mol/L以下であるのがより好ましく、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であるのが更に好ましく、0.1mol/L以上1.8mol/L以下であるのが特に好ましい。
【0043】
混合物中の水又はアルカリ水溶液の配合比は、ゼオライトの種類、アルカリ水溶液の種類と濃度などに応じて適宜選択することができるが、混合物の質量に対する水又はアルカリ水溶液の質量が、5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。
【0044】
水又はアルカリ水溶液とゼオライト粉末とを混合する前に、ボールミル法にてゼオライト粉末を粉砕してもよい。ボールミル法にてゼオライト粉末を予め粉砕し、粉砕後のゼオライト粉末を水又はアルカリ水溶液と混合して混合物を調製することにより、ゼオライト緻密体の相対密度が増大し、より高いイオン伝導度を得ることができる。
【0045】
ボールミル粉砕後のゼオライト粉末の粒径は、0.1μm以上10μm以下であるのが好ましく、0.5μm以上5.0μm以下であるのがより好ましく、0.8μm以上3.0μm以下であるのが更に好ましい。
【0046】
そして、反応容器本体11の貫通孔12に下側ロッド13Aを上側から嵌入し、得られた混合物Pを下側ロッド13Aの上面13aに載置する(
図1(a))。その後、反応容器本体11の貫通孔12に上側ロッド13Bを上側から嵌入し、貫通孔12内に密閉空間14を形成する(
図1(b))。そして、下側ロッド13A及び上側ロッド13Bを互いに近接するように移動させて密閉空間14内を所定圧力にすると共に、不図示の加熱部によって密閉空間14内を加熱する(
図1(c))。これにより、水熱ホットプレス法(以下、HHP法ともいう)にて、密閉空間14内の混合物Pが所定温度で加熱されると共に所定圧力で加圧される。その後、貫通孔12から下側ロッド13A及び上側ロッド13Bを抜き取り、ゼオライト緻密体Mを得る。従来の作製方法では、ゼオライト粉末の支持体となる基板が必要となり、適切な基板を選定しなければ高イオン伝導度を有する膜を得ることが難しい。一方、本実施形態の製造方法では、ゼオライト粉末の支持体となる基板が不要であり、高イオン伝導度を有するゼオライト緻密体Mを安定的に作製することができる。
【0047】
HHP法の加熱条件及び加圧条件は、特に制限されないが、例えば温度100℃以上200℃以下、圧力50MPa以上300MPa以下、保持時間0.5時間以上24時間以下で、混合物の加熱及び加圧を行うのが好ましい。また、温度100℃以上150℃以下、圧力100MPa以上300MPa以下、保持時間1時間以上5時間以下で、混合物の加熱及び加圧を行うのがより好ましい。
【0048】
HHP法にてゼオライト緻密体Mを作製した後、必要に応じて、ゼオライト緻密体Mを脱水してもよい。電気絶縁性の観点からは、ゼオライト緻密体Mの含水量が低い方が好ましいが、ゼオライト緻密体Mの含水量が低すぎるとイオン伝導度が低下する虞がある。上記の観点から、ゼオライト緻密体Mの含水量は、ゼオライト緻密体M全体の質量に対して、0質量%以上25質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上25質量%以下であるのがより好ましい。
【0049】
下側ロッド13Aの上面13aや上側ロッド13Bの下面13b及び/又は反応容器本体11における貫通孔12の内周面12aに、カーボングラファイト粉末などの材料を塗布してもよい。また、貫通孔12のゼオライト緻密体Mの取り出し口となる部分に面取り加工等により傾斜面を設けてもよい。これにより、ゼオライト緻密体Mと反応容器本体11の張り付きを防ぎ、試料取出しの際のゼオライト緻密体Mへのダメージを抑制することができる。
また、下側ロッド13Aの上面13aや上側ロッド13Bの下面13b及び/又は反応容器本体11における貫通孔12の内周面12aに、浸炭処理などの表面処理が施されていてもよい。これにより、ゼオライト緻密体Mの製造の際に、下側ロッド13Aの上面13aや上側ロッド13Bの下面13b及び/又は反応容器本体11における貫通孔12の内周面12aの変形や摩耗を抑制することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
A型(LTA)ゼオライト粉末(東ソー社製)をボールミル(入江商会社製、装置名「卓上型ボールミル」)で粉砕した。粉砕後のゼオライト粉末と水とを、混合物の質量に対する水の質量が17質量%となるように調整し、これを均一に混合して混合物を得、表1に示すように、加熱温度150℃、圧力150MPaにて、HHP法にてA型ゼオライト緻密体を作製した。
【0052】
(実施例2)
HHP法で得られたA型ゼオライト緻密体を、通常加熱で脱水したこと以外は、実施例1と同様にしてA型ゼオライト緻密体を作製した。
【0053】
(実施例3)
粉砕後のゼオライト粉末と5.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを、混合物の質量に対する水酸化ナトリウム水溶液の質量が17質量%となるように調整し、これを均一に混合して混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にしてA型ゼオライト緻密体を作製した。
【0054】
(比較例1)
粉砕無しのA型(LTA)ゼオライト粉末と水とを混合し、HPP法に代えて圧力100MPaにてペレット状の圧粉体を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、A型ゼオライト圧粉体を作製した。
【0055】
(比較例2)
得られたA型ゼオライト圧粉体を、通常加熱で脱水したこと以外は、比較例1と同様にしてA型ゼオライト圧粉体を作製した。
【0056】
【0057】
次に、以下に示す方法で、実施例1~3のA型ゼオライト緻密体及び比較例1~2のA型ゼオライト圧粉体の各特性等を観察、測定、評価した。
【0058】
[ゼオライト緻密体及びゼオライト圧粉体の外観]
代表して、実施例1,3のA型ゼオライト緻密体及び比較例1のA型ゼオライト圧粉体の外観を、電子顕微鏡画像(日本電子社製、装置名「JSM-6510A」)で確認した。結果を
図2(a)及び
図2(b)及び
図3に示す。
【0059】
実施例1のゼオライト緻密体(
図2(a)及び
図2(b))では、比較例1のゼオライト圧粉体(
図3)と比較して、結晶粒間の隙間が非常に少ないことが分かった。また、実施例1と実施例3のA型ゼオライト緻密体を比較すると、混合物として5.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いる方が、水を用いるよりも結晶粒の隙間がより少なくなることが分かった。
【0060】
[イオン伝導性の評価]
(イオン伝導度の測定)
得られたゼオライト緻密体を交流二端子法にてインピーダンス測定し、各温度におけるイオン伝導度を算出した。実施例1~3及び比較例1~2では、湿度制御を行わず、測定日の外気の湿度環境でのイオン伝導度を測定した。
【0061】
上記で得られたイオン伝導度からlog(σ/S・cm
-1)を算出し、イオン伝導性を評価した。結果を
図4及び表1に示す。表1中の「※」は、不純物が生成していた試料であることを示す。また、表1のイオン伝導度は、一例として、各実施例及び比較例において同表に示す温度で測定されたイオン伝導度を示す。
【0062】
図4に示すように、実施例1では、室温から400℃付近の範囲の全体に亘って、log(σ/S・cm
-1)の値が-3よりも大きく、高いイオン伝導性が得られることが分かった。これは、結晶間の隙間が非常に小さく、結晶粒間で良好なイオン伝導パスが形成されていると推察される。また、実施例2でも、室温から400℃付近の範囲の全体に亘って、log(σ/S・cm
-1)の値が-3以上であり、実施例1と同等の高いイオン伝導性が得られることが分かった。また、βアルミナ及びナシコン型の結晶構造を有する固体電解質について取得した参考データと比較すると、実施例1,2のA型ゼオライト緻密体では、βアルミナ及びナシコン型の固体電解質と同等の高イオン伝導性が得られることが分かった。特に、実施例1では、室温から150℃付近までの比較的低温な温度領域において、ナシコン型の結晶構造よりも高いイオン伝導性を示すことが分かった。
【0063】
一方、比較例1及び比較例2では、室温から400℃付近の範囲の全体に亘って、log(σ/S・cm-1)の値がほぼ-4以下であり、イオン伝導性が劣った。
【0064】
(実施例4)
市販のX型(FAU)ゼオライト粉末を用いた。ゼオライト粉末と1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とを、混合物の質量に対する水酸化ナトリウム水溶液の質量が17質量%となるように調整し、これを均一に混合して混合物を得、加熱温度150℃、圧力150MPaにて、HHP法にてX型ゼオライト緻密体を作製した。
【0065】
(実施例5)
HHP法で得られたX型ゼオライト緻密体を、通常加熱で脱水したこと以外は、実施例4と同様にしてX型ゼオライト緻密体を作製した。
【0066】
(比較例3)
X型(FAU)ゼオライト粉末をHPP法に代えて圧力100MPaにてペレット状の圧粉体を作製し、通常加熱で脱水したこと以外は、実施例4と同様にして、X型ゼオライト圧粉体を作製した。
【0067】
次に、上記と同様の方法で、実施例4~5のX型ゼオライト緻密体及び比較例3のX型ゼオライト圧粉体の各特性等を観察、測定、評価した。結果を
図5~
図7に示す。実施例4~5及び比較例3では、湿度制御を行わず、測定日の外気の湿度環境でのイオン伝導度を測定した。
【0068】
図5及び
図6に示すように、実施例4のゼオライト緻密体(
図5)では、比較例3のゼオライト圧粉体(
図6)と比較して、結晶粒の隙間が非常に少ないことが分かった。
【0069】
また、
図7に示すように、実施例4では、室温から400℃付近の範囲の全体に亘って、log(σ/S・cm
-1)の値が-3よりも大きく、高いイオン伝導性が得られることが分かった。また、実施例5では、室温から400℃付近の範囲の全体に亘って、log(σ/S・cm
-1)の値が-4よりも大きく、実施例4よりは劣るものの、比較例3よりも高いイオン伝導性が得られることが分かった。また、βアルミナ及びナシコン型の結晶構造を有する固体電解質について取得した参考データと比較すると、実施例4,5のA型ゼオライト緻密体では、βアルミナ及びナシコン型の固体電解質と同等の高イオン伝導性が得られることが分かった。特に、実施例4では、室温から150℃付近までの比較的低温な温度領域において、ナシコン型の結晶構造よりも高いイオン伝導性を示すことが分かった。
【0070】
(実施例6)
A型ゼオライト緻密体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を30%に維持したこと以外は、実施例1と同様にしてA型ゼオライト緻密体のイオン伝導度を測定した。
【0071】
(実施例7)
A型ゼオライト緻密体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を90%に維持したこと以外は、実施例1と同様にしてA型ゼオライト緻密体のイオン伝導度を測定した。
【0072】
(比較例4)
A型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を30%に維持したこと以外は、比較例1と同様にしてA型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度を測定した。
【0073】
(比較例5)
A型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を90%に維持したこと以外は、比較例1と同様にしてA型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度を測定した。
【0074】
次に、上記と同様の方法で、実施例6~7のA型ゼオライト緻密体及び比較例4~5のA型ゼオライト圧粉体の特性を測定、評価した。結果を
図8に示す。
【0075】
図8に示すように、相対湿度30%の環境下で測定した実施例6は、室温から150℃付近の比較的低温な温度領域で、相対湿度30%の環境下で測定した比較例4よりもlog(σ/S・cm
-1)の値が大きく、高いイオン伝導性が得られることが分かった。同様にして、相対湿度90%の環境下で測定した実施例7は、同温度領域で、相対湿度90%の環境下で測定した比較例5よりもlog(σ/S・cm
-1)の値が大きく、高いイオン伝導性が得られることが分かった。
また、実施例7では、室温から150℃付近の比較的低温な温度領域で、実施例6と比較してlog(σ/S・cm
-1)の値が大きく、より高いイオン伝導性が得られることが分かった。すなわち、HHP法で作製されたA型ゼオライト緻密体では、相対湿度90%の環境下で測定されたイオン伝導度が、相対湿度30%の環境下で測定されたイオン伝導度に比べて、約2倍程度高い値となることが分かった。
更に、実施例6及び実施例7では、室温から150℃付近までの比較的低温な温度領域において、ナシコン型の結晶構造よりも高いイオン伝導性を示すことが分かった。
【0076】
一方、相対湿度30%の環境下で測定した比較例4では、室温から150℃付近の比較的低温な温度領域で、log(σ/S・cm-1)の値が比較例1と同等であり、相対湿度30%の環境下で測定した実施例6よりもイオン伝導性が劣った。同様にして、相対湿度90%の環境下で測定した比較例5では、同温度領域で、log(σ/S・cm-1)の値が比較例1よりも大きいものの、相対湿度90%の環境下で測定した実施例7よりもイオン伝導性が劣った。
【0077】
(実施例8)
X型ゼオライト緻密体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を30%に維持したこと以外は、実施例4と同様にしてX型ゼオライト緻密体のイオン伝導度を測定した。
【0078】
(実施例9)
X型ゼオライト緻密体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を80%に維持したこと以外は、実施例4と同様にしてX型ゼオライト緻密体のイオン伝導度を測定した。
【0079】
(比較例6)
得られたX型ゼオライト圧粉体を脱水しなかったこと以外は、比較例3と同様にしてX型ゼオライト圧粉体を作製し、イオン伝導度を測定した。
【0080】
(比較例7)
ゼオライト圧粉体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を30%に維持したこと以外は、比較例6と同様にしてX型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度を測定した。
【0081】
(比較例8)
ゼオライト圧粉体のイオン伝導度の測定時における雰囲気の相対湿度を80%に維持したこと以外は、比較例6と同様にしてX型ゼオライト緻密体のイオン伝導度を測定した。
【0082】
上記と同様の方法で、実施例8~9のX型ゼオライト緻密体及び比較例6~8のX型ゼオライト圧粉体の特性を測定、評価した。結果を
図9に示す。
【0083】
図9に示すように、相対湿度30%の環境下で測定した実施例8は、室温(27℃付近)から100℃付近の比較的低温な温度領域で、相対湿度30%の環境下で測定した比較例7よりもlog(σ/S・cm
-1)の値が大きく、高いイオン伝導性が得られることが分かった。同様にして、相対湿度80%の環境下で測定した実施例9は、同温度領域で、相対湿度80%の環境下で測定した比較例8よりもlog(σ/S・cm
-1)の値が大きく、高いイオン伝導性が得られることが分かった。
【0084】
また、実施例9では、室温から100℃付近の比較的低温な温度領域で、実施例8と比較してlog(σ/S・cm-1)の値が大きく、より高いイオン伝導性が得られることが分かった。すなわち、HHP法で作製されたX型ゼオライト緻密体では、相対湿度80%の環境下で測定されたイオン伝導度が、相対湿度30%の環境下で測定されたイオン伝導度に比べて高い値となることが分かった。
更に、実施例8及び実施例9では、室温から100℃付近までの比較的低温な温度領域において、ナシコン型の結晶構造よりも高いイオン伝導性を示すことが分かった。
【0085】
一方、相対湿度30%の環境下で測定した比較例7では、室温から100℃付近の比較的低温な温度領域で、log(σ/S・cm-1)の値が比較例6と同等であり、相対湿度30%の環境下で測定した実施例8よりもイオン伝導性が劣った。同様にして、相対湿度80%の環境下で測定した比較例8では、同温度領域で、log(σ/S・cm-1)の値が比較例6及び比較例7よりも大きいものの、相対湿度80%の環境下で測定した実施例9よりもイオン伝導性が劣った。
【0086】
[粉砕処理の有無と相対密度の相関]
ボールミルによる粉砕処理を行わない上記A型ゼオライト粉末を用い、混合物中の水又は水酸化ナトリウム水溶液の添加量を100μLで一定とし、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変えて、HHP時の加熱温度100℃及び150℃、保持時間2時間、圧力150MPaでA型ゼオライト緻密体を作製した。得られたA型ゼオライト緻密体の相対密度を表2に、室温及び450℃でのイオン伝導度を表3に示す。表2及び表3中、「0mol/L」は水酸化ナトリウム水溶液を用いず、水を用いたことを示す。表3の上段の値は室温でのイオン伝導度を、下段の値は450℃でのイオン伝導度を示す。また、表2中の「※」は、不純物が生成していた試料であることを示す。
【0087】
比較として、未粉砕処理のA型ゼオライト粉末を圧力100MPaでA型ゼオライト圧粉体を作製したところ、相対密度は52%、室温でのイオン伝導度は6.0×10-6S・cm-1、450℃でのイオン伝導度は9.6×10-5S・cm-1であった。
【0088】
【0089】
【0090】
表2の結果から、HHP時の加熱温度が100℃及び150℃のいずれの場合でも、A型ゼオライト緻密体の相対密度は、A型ゼオライト圧粉体の相対密度よりも大きくなり、また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が高くなると、相対密度が高くなる傾向があることが分かった。但し、HHP時の加熱温度が150℃の場合、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を3.0mol/L及び5.0mol/Lとすると、得られたA型ゼオライト緻密体に不純物が生成していた。
【0091】
また、表3の結果から、HHP時の加熱温度が100℃の場合、A型ゼオライト緻密体の室温及び450℃のいずれのイオン伝導度も、A型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度よりも大きくなることが分かった。また、HHP時の加熱温度が150℃の場合、A型ゼオライト緻密体の室温及び450℃のいずれのイオン伝導度も、A型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度よりも大きくなった。
【0092】
次に、上記A型ゼオライト粉末に、エタノールを用いた湿式の条件にて、ボールミルによる粉砕処理を行った。粉砕処理後のA型ゼオライト粉末の粒径は、0.5μm~3.0μmであった。粉砕処理後のA型ゼオライト粉末を用いたこと以外は上記と同様の条件とし、混合物中の水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変えて、HHP時の加熱温度100℃及び150℃、圧力150MPaでA型ゼオライト緻密体を作製した。得られたA型ゼオライト緻密体の相対密度を表4に、室温及び450℃でのイオン伝導度を表5に示す。表5の上段の値は室温でのイオン伝導度を、下段の値は450℃でのイオン伝導度を示す。また、表4中の「※」は、不純物が生成していた試料であることを示す。
【0093】
比較として、粉砕処理後のA型ゼオライト粉末を圧力150MPaでA型ゼオライト圧粉体を作製したところ、相対密度は61%、室温でのイオン伝導度は9.3×10-7S・cm-1、450℃でのイオン伝導度は1.6×10-4S・cm-1であった。
【0094】
【0095】
【0096】
表4の結果から、HHP時の加熱温度が60℃、80℃、100℃及び150℃のいずれの場合でも、A型ゼオライト緻密体の相対密度は、A型ゼオライト圧粉体の相対密度よりも大きくなることが分かった。また、HHP時の加熱温度が80℃、100℃及び150℃のいずれの場合でも、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が高くなると、相対密度が高くなる傾向があることが分かった。但し、HHP時の加熱温度が150℃の場合、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5.0mol/Lとすると、得られたA型ゼオライト緻密体に不純物が生成していた。
【0097】
また、表5の結果から、HHP時の加熱温度が80℃の場合、A型ゼオライト緻密体の室温及び450℃でのイオン伝導度のいずれも、A型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度よりも大きくなることが分かった。また、HHP時の加熱温度が150℃の場合、A型ゼオライト緻密体の室温及び450℃のいずれのイオン伝導度も、A型ゼオライト圧粉体のイオン伝導度よりも大きくなった。
【0098】
更に、HHP時の加熱温度、及び水又は水酸化ナトリウムの添加量が同条件である場合、粉砕処理を行ったA型ゼオライト緻密体のイオン伝導度は、未粉砕処理のA型ゼオライト緻密体よりも大きくなることが分かった。
【0099】
[溶液濃度とイオン伝導度の相関]
【0100】
上記X型ゼオライト粉末を用い、混合物中の水又は水酸化ナトリウム水溶液の添加量を100μLで一定とし、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変えて、HHP時の加熱温度150℃、保持時間2時間、圧力150MPaでX型ゼオライト緻密体を作製した。得られたX型ゼオライト緻密体の嵩密度及び相対密度、並びに300℃で測定されたイオン伝導度を表6に示す。また、得られた測定値をプロットしたグラフを
図10及び
図11に示す。
【0101】
【0102】
表6及び
図10の結果から、X型ゼオライト緻密体の嵩密度及び相対密度は、HHP時の水酸化ナトリウム水溶液の濃度の増大に伴って増大することが分かる。しかし、X型ゼオライト緻密体のlog(σ/S・cm
-1)の値は、HHP時の水酸化ナトリウム水溶液の濃度の増大に伴って増大しない。水酸化ナトリウム水溶液の濃度が1.5mol/Lまでは、log(σ/S・cm
-1)の値は-2.7以上であるものの、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が1.8mol/Lを超えると、log(σ/S・cm
-1)の値は-3.0未満となった。また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が5.0mol/Lを超えると、log(σ/S・cm
-1)の値は-3.7未満となり、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が5.5mol/Lを超えると、300℃でのX型ゼオライト圧粉体のlog(σ/S・cm
-1)の値以下となっている。
【0103】
また、表6の相対密度とlog(σ/S・cm
-1)の値との相関を
図11に示す。同図に示すように、図中のドット領域は、X型ゼオライト緻密体の相対密度が80%以上である領域であるが、X型ゼオライト緻密体がこの領域内の相対密度を有していても、高いイオン伝導性を有するとは限らず、特に、X型ゼオライト緻密体の相対密度が90%以上であっても、log(σ/S・cm
-1)の値が-3未満となっている。この結果から、単にHHP時の水酸化ナトリウム水溶液の濃度を増大すれば高イオン伝導性が得られるのではなく、各温度での高イオン伝導性を得るためには、HHP時の水酸化ナトリウム水溶液の濃度の最適範囲があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のゼオライト緻密体は、極めて高いイオン伝導性を有するため、全固体電池や、金属空気電池などの次世代電池の固体電解質材料として有用であり、また、従来のゼオライトが適用されなかった技術分野の材料、化学センサー用材料、熱電変換用材料などに用いることができる。
【符号の説明】
【0105】
10 水熱ホットプレス装置
11 反応容器本体
12 貫通孔
12a 内周面
13A 下側ロッド
13a 上面
13B 上側ロッド
13b 下面
14 密閉空間