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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ゴルフシャフト及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/12 20150101AFI20241129BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20241129BHJP
【FI】
A63B53/12 Z
A63B102:32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024102082
(22)【出願日】2024-06-25
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三宅 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】藤原 甲介
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05989133(US,A)
【文献】特開2014-033831(JP,A)
【文献】特開2002-102400(JP,A)
【文献】特開平10-000252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/12
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドを取り付ける先端部と、
グリップを取り付ける基端部と、
前記先端部と前記基端部の間で前記先端部に隣接する端部から前記基端部に隣接する端部にわたって漸次外径が増加する複数の段部を有すると共に前記外径の増加に応じて漸次肉厚が減少する中間部と、
前記中間部において前記肉厚の減少傾向よりも肉厚が大きく形成され前記先端部から前記基端部にわたる曲げ剛性分布が上に凸となる第1の部分と、
前記中間部において前記第1の部分と前記基端部との間で前記第1の部分に隣接して位置し前記肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成され前記曲げ剛性分布が下に凸となる第2の部分と
前記中間部において前記第1の部分と前記先端部との間で前記第1の部分に隣接して位置し前記肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成され前記曲げ剛性分布が下に凸となる第3の部分とを備えた、
ゴルフシャフト。
【請求項2】
請求項1のゴルフシャフトであって、
前記第2の部分の前記段部は、前記第1の部分の前記段部よりも短い、
ゴルフシャフト。
【請求項3】
請求項1ゴルフシャフトであって、
前記第1の部分の段部は、前記第2の部分の段部よりも外径の差が小さい、
ゴルフシャフト。
【請求項4】
請求項のゴルフシャフトであって、
前記第1の部分の段部は、前記第2の部分の段部よりも外径の差が小さい、
ゴルフシャフト。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項のゴルフシャフトであって、
前記第3の部分の前記段部は、前記第1の部分の前記段部よりも短い、
ゴルフシャフト。
【請求項6】
請求項4のゴルフシャフトであって、
前記第3の部分は、前記基端部へ向けて曲げ剛性が一定に遷移する前記曲げ剛性分布のフラット部を有する、
ゴルフシャフト。
【請求項7】
請求項4のゴルフシャフトであって、
前記第3の部分よりも前記先端部側に位置し前記第3の部分よりも高剛性の第4の部分と、を含む
ゴルフシャフト。
【請求項8】
請求項1~4の何れか一項のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記ゴルフシャフトの中間部に対応する金属製の素管の中間部に偏肉加工により前記第1の部分に対応する相対的な厚肉部及び該厚肉部の軸方向両側に隣接する前記第2の部分及び前記第3の部分に対応する相対的な薄肉部を設定し、
前記先端部に対応する部分側の前記薄肉部が、前記基端部に対応する部分側の前記薄肉部よりも厚肉であり、
前記厚肉部及び前記薄肉部が設定された前記素管に対して肉厚に応じたステッピング加工により前記先端部に隣接する端部から前記基端部に隣接する端部にわたって漸次外径が増加する複数の段部を有すると共に前記素管の前記厚肉部及び前記薄肉部に応じて、それぞれ前記第1の部分、前記第2の部分、及び前記第3の部分を備えた前記中間部を有する前記ゴルフシャフトを形成する、
ゴルフシャフトの製造方法。
【請求項9】
請求項8のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記ステッピング加工は、前記厚肉部で前記段部を相対的に長く、前記薄肉部で前記段部を相対的に短く形成する、
ゴルフシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールスピードを上昇させるゴルフシャフト及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のゴルフシャフト及び製造方法としては、例えば特許文献1に記載のゴルフクラブシャフト(「ゴルフシャフト」とも言う。)がある。
【0003】
特許文献1に記載のゴルフシャフトは、ヘッドを装着するチップ側先端からグリップを装着するバット側後端までの全長にわたって隣接するバット側の領域より曲げ剛性を大とした曲げ剛性極大点を設けている。そして、これら曲げ剛性極大点の間に挟まれた領域に曲げ剛性低下領域を設けている。
【0004】
これにより、特許文献1の技術では、局所的でなく全体的に鞭のような滑らかなシャフトのしなりが得られるようになっている。結果として、違和感のない自然なスイングが可能となり、ヘッドスピードが上がってボールの飛距離が伸びる効果が得られる。
【0005】
しかし、上記従来のゴルフシャフトではボールスピードの上昇効果に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-152613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、ゴルフシャフトのしなりによるボールスピードの上昇効果に限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヘッドを取り付ける先端部と、グリップを取り付ける基端部と、前記先端部と前記基端部の間で前記先端部に隣接する端部から前記基端部に隣接する端部にわたって漸次外径が増加する複数の段部を有すると共に前記外径の増加に応じて漸次肉厚が減少する中間部と、前記中間部において前記肉厚の減少傾向よりも肉厚が大きく形成され前記先端部から前記基端部にわたる曲げ剛性分布が上に凸となる第1の部分と、前記中間部において前記第1の部分と前記基端部との間で前記第1の部分に隣接して位置し前記肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成され前記曲げ剛性分布が下に凸となる第2の部分と、前記中間部において前記第1の部分と前記先端部との間で前記第1の部分に隣接して位置し前記肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成され前記曲げ剛性分布が下に凸となる第3の部分とを備えた、ゴルフシャフトを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記ゴルフシャフトの製造方法であって、前記ゴルフシャフトの中間部に対応する金属製の素管の中間部に偏肉加工により前記第1の部分に対応する相対的な厚肉部及び該厚肉部の軸方向両側に隣接する前記第2の部分及び前記第3の部分に対応する相対的な薄肉部を設定し、前記先端部に対応する部分側の前記薄肉部が、前記基端部に対応する部分側の前記薄肉部よりも厚肉であり、前記厚肉部及び前記薄肉部が設定された前記素管に対して肉厚に応じたステッピング加工により前記先端部に隣接する端部から前記基端部に隣接する端部にわたって漸次外径が増加する複数の段部を有すると共に前記素管の前記厚肉部及び前記薄肉部に応じて、それぞれ前記第1の部分、前記第2の部分、及び前記第3の部分を備えた前記中間部を有する前記ゴルフシャフトを形成する、ゴルフシャフトの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シャフトのしなりによるボールスピードの上昇効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施例に係るゴルフクラブの外観を示す全体図である。
図2図2は、図1のゴルフクラブに用いるゴルフシャフトの概略断面図である。
図3図3は、図1のゴルフクラブに用いるゴルフシャフトの外観を示す概略拡大図である。
図4図4は、図3のゴルフシャフトの外径分布を比較例と共に示すグラフである。
図5図5は、図3のゴルフシャフトの曲げ剛性分布を偏肉加工が無い比較例の曲げ剛性分布と共に示すグラフである。
図6図6は、図3のゴルフシャフトの肉厚分布を偏肉加工が無い場合の比較例の肉厚分布と共に示すグラフである。
図7図7は、図3のゴルフシャフトの外径分布と段部との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施例に係るゴルフシャフトの製造方法における偏肉加工後の素管の断面図である。
図9図9(A)は、ボールに対するインパクトの直前、図9(B)は、インパクトの瞬間、図9(C)は、インパクトの直後をそれぞれ示すヘッド周辺の側面図である。
図10図10(A)は、一つのしなる箇所を有する比較例に係るゴルフクラブのダウンスイング時及びインパクト直前の状態を示す側面図、図10(B)は、二つのしなる箇所を有するゴルフクラブのダウンスイング及びインパクト直前の状態を示す側面図である。
図11図11(A)は、中間部内に硬い個所が無いゴルフクラブのダウンスイング初期及びダウンスイング中盤の状態を示す側面図、図11(B)は、中間部内に硬い個所があるゴルフクラブのダウンスイング初期及びダウンスイング中盤の状態を示す側面図である。
図12図12(A)は、先端部が軟らかいゴルフクラブのインパクト時の状態を示す側面図、図12(B)は、先端部が硬いゴルフクラブのインパクト時の状態を示す側面図である。
図13図13(A)は、実施例のゴルフシャフトのサンプル1の側面図、図13(B)は、同サンプル1の肉厚を示す断面図である。
図14図14(A)は、実施例のゴルフシャフトのサンプル2の側面図、図14(B)は、同サンプル2の肉厚を示す断面図である。
図15図15(A)は、実施例のゴルフシャフトのサンプル3の側面図、図15(B)は、同サンプル3の肉厚を示す断面図である。
図16図16(A)は、実施例のゴルフシャフトのサンプル4の側面図、図16(B)は、同サンプル4の肉厚を示す断面図である。
図17図17は、図13のサンプル1の曲げ剛性分布を示すグラフである。
図18図18は、図14のサンプル2の曲げ剛性分布を示すグラフである。
図19図19は、図15のサンプル3の曲げ剛性分布を示すグラフである。
図20図20は、図16のサンプル4の曲げ剛性分布を示すグラフである。
図21図21は、実施例及び比較例に係るゴルフシャフトのサンプルのスペックを示す図表である。
図22図22は、実施例及び比較例に係るゴルフシャフトのサンプルの曲げ剛性分布を示すグラフである。
図23図23は、実施例及び比較例に係るゴルフシャフトのサンプルの試打結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ゴルフシャフトのしなりによるボールスピードの上昇効果を向上させるという目的をゴルフシャフトの中間部の肉厚と段部の設定により実現した。
【0013】
ゴルフシャフト3は、先端部9と、基端部11と、中間部13とを備える。先端部9は、ヘッド5を取り付ける領域である。基端部11は、グリップ7を取り付ける領域である。中間部13は、先端部9と基端部11との間に位置し、先端部9に隣接する端部から基端部11に隣接する端部にわたって漸次外径が増加する複数の段部S1~S11を有すると共に外径の増加に応じて漸次肉厚が減少する。中間部13は、第1の部分R1と第2の部分E1とを有する。
【0014】
第1の部分R1は、肉厚の減少傾向よりも肉厚が大きく形成されている。この第1の部分R1は、先端部9から基端部11にわたる曲げ剛性分布が上に凸となる。第2の部分E1は、第1の部分R1と基端部11との間に第1の部分R1に隣接して位置し、肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成されている。これら第2の部分E1の段部S1~S3は、第1の部分R1の段部S4~S6よりも短いのが好ましい。この第2の部分E1は、曲げ剛性分布が下に凸となる。
【0015】
第1の部分R1の段部S4~S6は、第2の部分E1の段部S1~S3よりも外径の差が小さくてもよい。
【0016】
また、ゴルフシャフト3の中間部13は、第3の部分E2を有してもよい。第3の部分E2は、中間部13において第1の部分R1と先端部9との間で第1の部分R1に隣接して位置し、肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成されている。この第3の部分E2は、曲げ剛性分布が下に凸となる。第3の部分E2の段部S7~S11は、第1の部分R1の段部S4~S6よりも短いのが好ましい。
【0017】
第3の部分E2は、基端部11へ向けて曲げ剛性が一定に遷移する曲げ剛性分布のフラット部Fを有してもよい。
【0018】
また、ゴルフシャフト3は、第4の部分R2を有してもよい。第4の部分R2は、第3の部分E2よりも先端部9側に位置し、第3の部分E2よりも全体的に高剛性となっている。
【0019】
ゴルフシャフト3の製造方法は、金属製の素管20の中間部13に偏肉加工により相対的な厚肉部25a及びこの厚肉部25aに隣接する薄肉部24a及び24bを設定する。次いで、厚肉部25a及び薄肉部24a及び24bが設定された素管20に対して、肉厚に応じたステッピング加工により漸次外径が増加する複数の段部S1~S11を形成する。このとき、厚肉部25aで段部S1~S11を相対的に長く、薄肉部24a及び24bで段部S1~S11を相対的に短くするのが好ましい。
【実施例1】
【0020】
[ゴルフシャフト]
図1は、本発明の実施例に係るゴルフクラブの外観を示す全体図である。
【0021】
ゴルフクラブ1は、ヘッド5及びグリップ7が取り付けられたゴルフシャフト3を有する。ゴルフシャフト3は、先端部9と基端部11と中間部13とを備えている。先端部9は、ヘッド5が取り付けられる領域であり、基端部11は、グリップ7が取り付けられる領域である。中間部13は、先端部9と基端部11との間に位置する領域である。
【0022】
この中間部13にしなる箇所aが設けられている。しなる箇所aは、図1において二つであるが、一つ又は三つ以上とすることも可能である。また、中間部13には、しなる箇所aに隣接してしならない箇所b及びcが設けられている。
【0023】
しなる箇所aは、ゴルフシャフト3の相対的に柔らかい部分であり、しならない箇所b及びcは、ゴルフシャフト3の相対的に硬い部分である。これらしなる箇所a及びしならない箇所b及びcは、後述するようにゴルフシャフト3の外径及び肉厚によって設定されている。
【0024】
なお、しならない箇所b及びcは、全くしならないことを意味するのではなく、しなる箇所aと比較して相対的にしならないことを意味する。従って、しなる箇所aは、しならない箇所b及びcと比較して相対的にしなることを意味する。
【0025】
図2は、図1のゴルフクラブに用いるゴルフシャフトの概略断面図である。
【0026】
図1及び図2のように、先端部9は、ゴルフシャフト3の長さ方向の先端部であり、ゴルフシャフト3の先端から所定範囲のヘッド5が取り付けられる領域をいう。本実施例の先端部9の長さは、160mm程度までで適宜設定される。本実施例の先端部9は、差込部8、テーパー部19、及びストレート部17の一部を含む。
【0027】
差込部8は、ヘッド5に差し込まれる部分であり、ゴルフシャフト3の基端部11へ向けて漸次外径が増加するテーパー状に形成されている。ただし、先端部9は、外径を一定にした直管状に形成してもよい。テーパー部19は、差込部8の基端に隣接し、差込部8よりも大きいテーパー率を有する。ストレート部17は、テーパー部19の基端に隣接し、一定の外径を有する。なお、先端部9は、差込部8のみで構成してもよい。また、先端部9は、全体としてストレート形状であってもよい。
【0028】
基端部11は、ゴルフシャフト3の長さ方向の基端部であり、ゴルフシャフト3の基端から所定範囲のグリップ7が取り付けられる領域をいう。本実施例の基端部11の長さは、300mm程度までで適宜設定される。基端部11は、本実施例において外径を一定にした直管状に形成されているが、基端へ向けて外径が僅かに変化するテーパー状等としてもよい。
【0029】
中間部13は、先端部9と基端部11との間に位置し、先端部9に隣接する先端から基端部11に隣接する基端を有する。本実施例の中間部13の長さは、750mm程度までで適宜設定される。中間部13は、その先端から基端にわたって漸次外径が増加する複数の段部S1~S11を有すると共に外径の増加に応じて漸次肉厚が減少する。
【0030】
ここでの中間部13の肉厚の減少は、外径の増加量に応じた肉厚の減少量での減少を意味し、後述する第1の部分R1、第2の部分E1、及び第3の部分E2での肉厚の増減は除かれる。
【0031】
この中間部13の肉厚の減少は、肉厚分布において一定の減少傾向を有し、例えば先端部9の基端と基端部11の先端とを長さ及び外径の差が一定の段部で結ぶときの減少等とすることができる(図6の比較例参照)。肉厚の減少傾向は、肉厚分布において先端部9の基端と基端部11の先端とを直線状に結んだものであってもよい。
【0032】
かかる中間部13は、ストレート部17の残りの一部と、ステップ部15とを備えている。
【0033】
本実施例において、中間部13に含まれるストレート部17の一部は、先端部9に含まれるストレート部17の一部よりも長い。ただし、中間部13のストレート部17の長さは、適宜設定可能である。このストレート部17の基端にステップ部15が隣接する。ステップ部15は、複数の段部S1~S11によって構成されている。
【0034】
かかる中間部13は、外径と肉厚の設定により、第1の部分R1、第2の部分E1、及び第3の部分E2を有する。
【0035】
図3は、図1のゴルフクラブに用いるゴルフシャフトの外観を示す概略拡大図である。図4は、図3のゴルフシャフトの外径分布を比較例と共に示すグラフである。図5は、図3のゴルフシャフトの曲げ剛性分布を偏肉加工が無い比較例の曲げ剛性分布と共に示すグラフである。図6は、図3のゴルフシャフトの肉厚分布を偏肉加工が無い場合の比較例の肉厚分布と共に示すグラフである。図7は、図3のゴルフシャフトの外径分布と段部との関係を示すグラフである。なお、図2図3は、形状が完全に一致していないが、同一構造を概略的に示したものである。
【0036】
第1の部分R1は、図3図7のように、中間部13において肉厚の減少傾向(図6の比較例)よりも肉厚が大きく且つ段部が相対的に(第2の部分E1と比較して)長く形成されている。本実施例において、第1の部分R1は、三つの段部S4~S6によって構成されている。なお、第1の部分R1を構成する段部の長さや数はゴルフシャフト3の特性等に応じて任意である。
【0037】
第1の部分R1は、段部S4~S6の数を相対的に少なくすることに応じ、段部S4~S6がそれぞれ相対的に(第2の部分E1と比較して)長く形成されている。これにより、第1の部分R1では、外径の変動が抑制されている。また、段部S4~S6は、外径の差が相対的に小さく設定されている。かかる点からも、第1の部分R1では、外径の変動が抑制されている。
【0038】
従って、本実施例では、第1の部分R1の肉厚が大きく形成されている領域を長く確保できる。この第1の部分R1は、先端部9から基端部11にわたる曲げ剛性分布が上に凸となっている。これにより、第1の部分R1は、ゴルフシャフト3のしならない箇所bを構成する。なお、曲げ剛性分布の凸形状は、基準線L1に対するものである。基準線L1は、曲げ剛性分布において、第1の部分R1の始点と第2の部分E1の終点とを結ぶ直線をいう。第1の部分R1の曲げ剛性分布を上に凸とするためには、必ずしも段部S4~S6を相対的に長くしなくても、又は段部S4~S6の数を少なくしなくてもよい。
【0039】
第2の部分E1は、中間部13において、第1の部分R1と基端部11との間で、第1の部分R1に隣接して位置する。この第2の部分E1は、中間部13における肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく且つ段部が相対的に(第1の部分R1と比較して)短く形成されている。本実施例において、第2の部分E1は、一つの段部S3によって構成されている。なお、第2の部分E1を構成する段部の長さや数はゴルフシャフト3の特性等に応じて任意である。
【0040】
第2の部分E1の段部S1~S3の数は、第1の部分R1と同一であるが、第1の部分R1よりも多くしてもよい。第2の部分E1は、段部S1~S3が第1の部分R1の段部S4~S6よりも短いので、短い範囲で外径の変動を大きくできる。また、段部S1~S3は、外径の差が相対的に(第1の部分R1と比較して)大きく設定されている。かかる点からも、第2の部分E1では、外径の変動を大きくできる。
【0041】
従って、本実施例では、第2の部分E1の肉厚が小さく設定された領域において、この肉厚の設定と外径の変動との組み合わせによって、先端部9から基端部11にわたる曲げ剛性分布が下に凸となっている。これにより、第2の部分E1は、ゴルフシャフト3のしなる箇所aを構成する。なお、段部S1及びS2は、基端部11に連続する部分であり、ゴルフシャフト3のしならない箇所cを構成する。第2の部分E1の曲げ剛性分布を下に凸とするためには、必ずしも段部S1~S3を相対的に短くしなくてもよい。
【0042】
第2の部分E1の曲げ剛性分布の凸形状は、外径と肉厚の設定によって第2の部分E1から第1の部分R1へと急激に遷移させることができ、第1の部分R1を大きくすることができる。
【0043】
第3の部分E2は、中間部13において、第1の部分R1と先端部9との間で、第1の部分R1に隣接して位置する。この第3の部分E2は、中間部13における肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく且つ段部が相対的に(第1の部分R1と比較して)短く形成されている。なお、第3の部分E2を構成する段部の長さや数はゴルフシャフト3の特性等に応じて任意である。また、段部S1~S11の大小関係は、これに限られるものではないが、S4=S5=S6>S1=S2>S7>S3=S8>S9=S10=S11となっている。
【0044】
本実施例において、第3の部分E2は、五つの段部S7~S11とストレート部17の一部によって構成されている。なお、第3の部分E2を構成する段部の数はゴルフシャフト3の特性等に応じて任意である。
【0045】
第3の部分E2は、その段部S7~S11が第1の部分R1の段部S4~S6よりも短いので、短い範囲で外径の変動を大きくできる。また、段部S7~S11は、外径の差が相対的に(第1の部分R1と比較して)大きく設定されている。かかる点からも、第3の部分E2では、外径の変動を大きくできる。
【0046】
従って、本実施例では、第3の部分E2の厚肉が小さく設定された領域において、この肉厚の設定と外径の変動との組み合わせによって、先端部9から基端部11にわたる曲げ剛性分布が下に凸となっている。従って、第3の部分E2は、ゴルフシャフト3のしなる箇所aを構成する。
【0047】
ここでの曲げ剛性分布の凸形状は、基準線L2に対するものである。基準線L2は、曲げ剛性分布において、第1の部分R1の終点と第3の部分E2の始点とを結ぶ直線をいう。
【0048】
この第3の部分E2の曲げ剛性分布の凸形状は、外径と肉厚の設定によって第3の部分E2から第1の部分R1へと急激に遷移させることができ、第1の部分R1を大きくすることができる。なお、第3の部分E2の曲げ剛性分布の凸形状は、基端部11へ向けて曲げ剛性分布が一定に遷移する曲げ剛性分布のフラット部Fを有する。
【0049】
本実施例のゴルフシャフト3は、第4の部分R2を備えている。第4の部分R2は、第3の部分E2に隣接して先端部9に位置する。第4の部分R2は、先端部9のテーパー部19及びストレート部17の一部に対応する。
【0050】
この第4の部分R2の曲げ剛性は、第3の部分E2のフラット部Fよりも大きい。本実施例において、第4の部分R2の曲げ剛性分布は、上に凸となっている。ここでの曲げ剛性分布の凸形状は、基準線L3に対するものである。基準線L3は、曲げ剛性分布において、第4の部分R2の始点と第3の部分E2の終点とを結ぶ直線をいう。
【0051】
[ゴルフシャフトの製造方法]
図8は、実施例に係るゴルフシャフトの製造方法における偏肉加工による素管を概略的に示す。図2のゴルフシャフト3は、図8の偏肉加工の素管20に対するステッピング加工を経て製造される。
【0052】
偏肉加工では、金属、特にスチールの素管20の先端部23と中間部25とに相対的な厚肉部23a及び25aを設定し、厚肉部25aに隣接する薄肉部24a及び24bを設定する。なお、素管20の材質は、スチール以外の金属であってもよい。
【0053】
具体的には、ゴルフシャフト3の先端部9の差込部8及びテーパー部19に対応する素管20のA部及びB部に厚肉部23aを設定し、中間部13の第1の部分R1に対応するD部、E部、及びF部に厚肉部25aを設定する。B部、D部、及びF部は、テーパー状に形成されている。
【0054】
ゴルフシャフト3の第3の部分E2及び第2の部分E1にそれぞれ対応する素管20のC部及びG部は、それぞれ薄肉に設定された薄肉部24a及び24bとなる。なお、C部及びG部は、直管状であり、C部は、G部よりも厚肉に形成されている。
【0055】
かかる偏肉加工した素管20に対し図3のような肉厚に応じたステッピング加工を行い、図5のような曲げ剛性分布を得る。
【0056】
すなわち、ステッピング加工では、漸次外径が増加する複数の段部S1~S11を形成し、厚肉部25aで段部S4~S6を相対的に長く、薄肉部24a及び24bで段部S1~S3及びS7~S11を相対的に短くする。このとき、本実施例では、薄肉部24a及び24bでの段部S1~S3及びS7~S11の外径の差を相対的に大きくする。こうして図3のゴルフシャフト3が製造される。
【0057】
[ボールスピード(ヘッドスピード)向上のメカニズム]
図9(A)は、ボールに対するインパクトの直前、図9(B)は、インパクトの瞬間、図9(C)は、インパクトの直後をそれぞれ示すヘッド周辺の側面図である。図10(A)は、一つのしなる箇所を有する比較例に係るゴルフクラブのダウンスイング時及びインパクト直前の状態を示す側面図、図10(B)は、二つのしなる箇所を有するゴルフクラブのダウンスイング及びインパクト直前の状態を示す側面図である。
【0058】
ヘッド5は、図9(A)のインパクト直前のヘッドスピードがVhであり、図9(B)のインパクトの瞬間を経て、図9(C)のインパクト直後に至る。このインパクト直後のボールスピードがVbとなる。
【0059】
図10のように、ゴルフスイングでは、ダウンスイングでクラブフェースの向きに対する反対方向にゴルフシャフト3がしなり、インパクトの直前にクラブフェースが向く方向にゴルフシャフト3がしなる。
【0060】
図10(A)のように、中間部13にしなる箇所aが1箇所のゴルフクラブ1は、ダウンスイング及びインパクト直前のしなりが小さい。これに対し、図10(B)のように、中間部13にしなる箇所aが2箇所のゴルフクラブ1は、ダウンスイング及びインパクト直前の何れも大きくしなっている。
【0061】
従って、しなる箇所aが2箇所のゴルフクラブ1は、同じ時間でヘッド5の移動距離が増大するため、インパクト直前のヘッドスピードVhが上昇し、結果としてボールスピードVbも上昇する。
【0062】
図11(A)は、中間部内に硬い個所が無いゴルフクラブのダウンスイング初期及びダウンスイング中盤の状態を示す側面図、図11(B)は、中間部内に硬い個所があるゴルフクラブのダウンスイング初期及びダウンスイング中盤の状態を示す側面図である。
【0063】
図11(A)のように中間部13に、硬い箇所が無いゴルフクラブ1は、ダウンスイング初期のしなりに対し、ダウンスイング中盤のしなりからの復元が遅れる。これに対し、図11(B)のように中間部13に、硬い箇所があるゴルフクラブ1は、ダウンスイング初期のしなりに対し、ダウンスイング中盤のしなりからの復元が素早く行われる。
【0064】
従って、中間部13に硬い箇所があるゴルフクラブ1は、同じ時間でヘッド5の移動距離が増大するため、ボールスピードVb及びヘッドスピードVhが上昇する。
【0065】
図12(A)は、先端部が軟らかいゴルフクラブのインパクト時の状態を示す側面図、図12(B)は、先端部が硬いゴルフクラブのインパクト時の状態を示す側面図である。
【0066】
図12(A)のように先端部9が軟らかいゴルフクラブ1では、中間部13のしなりに基づくエネルギーが、ボールと接触している間に先端部9の変形に使われて失われてしまう。これに対し、図12(B)のように先端部9が硬いゴルフクラブ1では、中間部13のしなりに基づくエネルギーが、先端部9の変形により失われることが抑制される。
【0067】
従って、先端部9が硬いゴルフクラブ1は、ボールに伝達されるエネルギーが増大し、ボールスピードVbが上昇する。
【0068】
本実施例のゴルフシャフト3では、中間部13にしならない箇所bである第1の部分R1を有し、その両側にしなる部分aである第2及び第3の部分E1及びE2を有する。このため、ゴルフシャフト3は、ダウンスイング及びインパクト直前のしなりを大きくすることができ、ダウンスイング中盤のしなりからの復元も素早く行われる。結果として、かかるゴルフシャフト3は、ボールスピードVb及びヘッドスピードVhを上昇できる。
【0069】
しかも、本実施例のゴルフシャフト3では、第2の部分E1及び第3の部分E2の曲げ剛性分布の凸形状が、外径と肉厚の設定によって第2の部分E1及び第3の部分E2から第1の部分R1へと急激に剛性を遷移させることができる。
【0070】
この結果、第1の部分R1を大きくすることができると共に第2の部分E1及び第3の部分E2を第1の部分R1に近い領域からしなり易くすることができる。これにより、本実施例のゴルフシャフト3では、より確実にダウンスイング及びインパクト直前のしなりが大きくなると共にダウンスイング中盤からの素早い復元を行うことができる。
【0071】
しかも、本実施例のゴルフシャフト3では、先端部9にしならない箇所cである第4の部分R2を有するため、インパクト中の先端部9のしなりが抑制され、エネルギー伝達が向上することによってボールスピードVbを上昇できる。
【0072】
[サンプル]
上記メカニズムに基づく本実施例のゴルフシャフト3について、サンプル1~4を作成して試打を行った。
【0073】
図13(A)、図14(A)、図15(A)、及び図16(A)は、それぞれ実施例のゴルフシャフトのサンプル1~4の側面図である。図13(B)、図14(B)、図15(B)、及び図16(B)は、それぞれ同サンプル1~4の肉厚を示す断面図である。図17図20は、それぞれサンプル1~4の曲げ剛性分布を示すグラフである。
【0074】
図13(A)~図16(B)のサンプル1~サンプル4では、図13のサンプル1、図15のサンプル3、及び図16のサンプル4の中間部13は、それぞれ図17図19、及び図20のように、1箇所のしならない箇所(第1の部分R1)及び2箇所のしなる箇所(第2及び第3の部分E1及びE2)を有する。一方、図14のサンプル2の中間部13は、図18のように、2箇所のしならない箇所(第1の部分R1及び第5の部分R3)及び3箇所のしなる箇所(第2、第3、及び第6の部分E1、E2、及びE3)を設定した。
【0075】
サンプル1は、実施例1に対して、第1の部分R1、第2の部分E1、及び第3の部分E2が先端部9寄りに位置している。これに応じて、第4の部分R2も、実施例1に対して先端部9の先端よりに位置している。また、サンプル1では、第1の部分R1の凸形状が実施例1に対して小さい。その他、サンプル1の基本構成は、実施例1と同一である。
【0076】
サンプル2では、実施例1に対して、第1の部分R1、第2の部分E1、及び第3の部分E2が先端部9に寄りつつ第5の部分R3と第6の部分E3とが第1の部分R1及び第3の部分E2との間に設定されている。
【0077】
サンプル2の第1の部分R1は凸形状が実施例1に対して小さい。第5の部分R3は、第1の部分R1と同程度で上に凸となっており、第6の部分E3は、第2の部分E1と同程度で下に凸となっている。その他、サンプル2の基本構成は、実施例1と同一である。
【0078】
サンプル2の第1の部分R1、第2の部分E1、第3の部分E2、第4の部分R2、第5の部分R3、及び第6の部分E3は、ほぼ同等の長さであり、それぞれ実施例1よりも短い。
【0079】
サンプル3は、実施例1に対して、段部の数及び剛性分布において若干の相違はあるもののほぼ同一である。
【0080】
サンプル4は、サンプル3に対して先端部9を軟らかく設定したものである。サンプル4の曲げ剛性分布は、サンプル3の曲げ剛性分布に近い。
【0081】
ただし、サンプル4の隣接する第3部分E2及び第4の部分R2間並びに第3の部分E2及び第1の部分R1間は、サンプル3に対して曲げ剛性分布の傾斜が緩やかな設定である。
【0082】
[試打テスト]
図21及び図22は、それぞれ実施例及び比較例に係るゴルフシャフトのサンプルのスペック及び曲げ剛性分布を示す図表である。
【0083】
サンプル1~4及び比較例について、試打テストを行った。サンプル1~4は、上記のとおりの構成であり、比較例の構成は、図4図6の破線のように外径の増加に応じて肉厚が減少する構成である。この比較例では、図22のように曲げ剛性分布において上に凸、下に凸の部分が存在しないようになっている。また、サンプル1~サンプル3の第4の部分R2の曲げ剛性分布は、比較例の先端部9での曲げ剛性分布に対して高い。
【0084】
図21のように、サンプル1~4及び比較例のサンプルのスペックは、7番アイアンに用いるものを例とし、フレックスと全長を同一にした。その他、重量、B.P.(バランスポイント)、トルク、総重量、バランス、振動数は、サンプル1~4及び比較例のサンプルの外径・肉厚の設定によって異なっている。
【0085】
試打テストは、サンプル1~4及び比較例のサンプルにヘッド5を取り付け、ロボットにより行った。ボールの位置は、ロボット中心の延長線上とし、フェースの向きは、目標方向に対し直交とした。
【0086】
ヘッド5は、サンプル1~4及び比較例において、全ての試打で同じものを使用し、打点は、ヘッド5の重心位置とした。試打は、それぞれ10球行った。
【0087】
比較例のサンプルによって狙いのヘッドスピードを40m/sが出るようにロボットを設定し、この設定で全てのサンプル1~4及び比較例のサンプルについてテストした。
【0088】
図23は、実施例及び比較例に係るゴルフシャフトのサンプルの試打結果を示す図表である。図23では、試打結果としてB.S.(ボールスピード)及びキャリーを表示する。
【0089】
比較例のボールスピードは、Vb=55.5m/s、キャリー=168.9ヤードであるのに対し、サンプル1~サンプル4は、何れも比較例の数値を超えている。
【0090】
特にサンプル3は、ボールスピードVbが56.9m/s、キャリーが177.0ヤードであり、比較例に対してボールスピードVbが1.4m/s、キャリーが8.1ヤード上回った。
【符号の説明】
【0091】
1 ゴルフクラブ
3 ゴルフシャフト
5 ヘッド
7 グリップ
9 先端部
11 基端部
13 中間部
23a、25a 厚肉部
R1 第1の部分
E1 第2の部分
E2 第3の部分
R2 第4の部分
【要約】
【課題】ゴルフシャフトのしなりによるボールスピードの上昇効果を向上させることが可能なゴルフシャフトを提供する。
【解決手段】ヘッド5を取り付ける先端部9と、グリップ7を取り付ける基端部11と、先端部9と基端部11の間で先端部9に隣接する端部から基端部11に隣接する端部にわたって漸次外径が増加する複数の段部S1~S11を有すると共に外径の増加に応じて漸次肉厚が減少する中間部13と、中間部13において肉厚の減少傾向よりも肉厚が大きく形成され先端部9から基端部11にわたる曲げ剛性分布が上に凸となる第1の部分R1と、中間部13において第1の部分R1と基端部11との間で第1の部分R1に隣接して位置し肉厚の減少傾向よりも肉厚が小さく形成され曲げ剛性分布が下に凸となる第2の部分E1とを備えた。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23