(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】エッチング液
(51)【国際特許分類】
C23F 1/26 20060101AFI20241129BHJP
C23F 1/18 20060101ALI20241129BHJP
H01L 21/308 20060101ALI20241129BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241129BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C23F1/26
C23F1/18
H01L21/308 F
H01L29/78 627C
(21)【出願番号】P 2020159428
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 駿作
(72)【発明者】
【氏名】着能 真
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/099624(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1609114(KR,B1)
【文献】特許第6516214(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/015322(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047210(WO,A1)
【文献】特開2004-134818(JP,A)
【文献】特開昭63-111186(JP,A)
【文献】特開2011-151287(JP,A)
【文献】特開2016-025321(JP,A)
【文献】特表平01-503470(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066750(WO,A1)
【文献】特開2014-027274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00-4/04
H01L 21/306-21/308
H01L 21/465-21/467
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅とモリブデンの二層膜をエッチングするエッチング液であって、
過酸化水素と、
酸性物
質と、
アミン化合物と、
過酸化水素分解抑制剤と、
モリブデン浸食促進イオンとして鉄イオン若しくは銀イオ
ンを有し、
前記鉄イオンを用いる場合は、
100ppm以上9000ppm以下
(エッチング液100gあたり1.79×10
-4
mol以上1.61×10
-2
mol以下)とし、
また、前記銀イオンを用いる場合は、
80ppm以上5000ppm以下
(エッチング液100gあたり7.41×10
-5
mol以上4.63×10
-3
mol以下)とし、
リン酸化合物、フッ酸化合物、塩酸およびアゾール類を含まないことを特徴とするエッチング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモリブデン・銅の多層膜をエッチングする際のエッチング液に係るものであり、特にモリブデンの残渣を解消するのに、好適なエッチング液を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、画素のON/OFFをTFT(薄膜トランジスタ)で行っている。すなわち、画面の全域にわたって、TFTが配置されている。これらの電源供給は画面の縁から行われている。したがって、画面が大きくなるに従い、画面中央の画素への配線長は長くなる。そのため、配線抵抗が無視できなくなり、配線に低抵抗材料を使わざるを得なくなってきている。
【0003】
従来、表示装置の配線にはアルミニウム等が使われてきたが、近年では、それよりも抵抗率の低い銅が用いられている。そして、基板との接着性等を確保するために下地としてモリブデン等の金属を敷き、2重構造の配線が用いられている。
【0004】
大画面に設ける多数の画素を一気に形成するには、ウエットによるエッチングが必要不可欠となる。したがって、銅/モリブデンの二層構造の配線をエッチングするためのエッチング液が多く提案されている。
【0005】
特許文献1では、IGZOのような酸化物半導体層へのダメージを低減させた銅/モリブデン系多層薄膜用エッチング液、及びこれを用いた酸化物半導体層に対する銅/モリブデン系多層薄膜の選択的なエッチング方法を提供することを目的とし、(A)過酸化水素、(B)フッ素原子を含有しない無機酸、(C)有機酸、(D)炭素数2~10であり、かつアミノ基と、アミノ基及び水酸基から選ばれる少なくとも一の基とを有するアミン化合物、(E)アゾール類、及び(F)過酸化水素安定剤を含み、pHが2.5~5であることを特徴とする、エッチング液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅/モリブデンの二重膜をエッチングすると、モリブデンの残渣が残るという課題があった。モリブデンは銅のおよそ5~8%程度の厚みであるが、銅と比較してエッチングレートが小さい。また、銅のエッチングレートを調節する手段はいくつか見出されているが、モリブデンのエッチングレートを選択的に調節する手段は、見出されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、酸化力(モリブデン膜から電子を奪取する能力)が強い、金属イオンをモリブデン浸食促進イオンとして用いて、モリブデンのエッチングレートを高くし、モリブデン残渣が発生しないようにするエッチング液を提供するものである。
【0009】
より具体的に本発明に係るエッチング液は、
銅とモリブデンの二層膜をエッチングするエッチング液であって、
過酸化水素と、
酸性物質と、
アミン化合物と、
過酸化水素分解抑制剤と、
モリブデン浸食促進イオンとして鉄イオン若しくは銀イオンを有し、
前記鉄イオンを用いる場合は、
100ppm以上9000ppm以下
(エッチング液100gあたり1.79×10
-4
mol以上1.61×10
-2
mol以下)とし、
また、前記銀イオンを用いる場合は、
80ppm以上5000ppm以下
(エッチング液100gあたり7.41×10
-5
mol以上4.63×10
-3
mol以下)とし、
リン酸化合物、フッ酸化合物、塩酸およびアゾール類を含まないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るエッチング液は、特定の金属イオンであるモリブデン浸食促進イオンを含有させることで、モリブデンのエッチングレートを高くできる。したがって、銅/モリブデンの二層膜において、モリブデン残渣が生じないようにエッチングをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】処理後の二層膜試料のSi基板上を撮影したものであり、(a)はサンプル基本組成液2の場合、(b)は比較サンプル液の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明に係るエッチング液について実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。なお、以下の説明では銀の原子量を108とし、鉄の原子量を56とした。
【0013】
<エッチングの対象>
本発明に係るエッチング液はモリブデンと銅の二層膜を対象として用いられる。特に、モリブデンの厚みが10nm~50nmで銅膜の厚みが450nm~900nmの厚みのものが好適に利用できる。
【0014】
<エッチング液の組成>
本発明に係るエッチング液は、過酸化水素と、酸性物質と、アミン類と、過酸化水素分解抑制剤と、モリブデン浸食促進イオンおよび水を有することを特徴とする。なお、その他の微小添加物が含まれていてもよい。なお、モリブデン浸食促進イオンとは、特定の金属イオンを有するモリブデン浸食促進剤に由来する特定の金属イオンである。
【0015】
<過酸化水素>
銅のエッチングは、銅が酸化され、酸化銅(CuO)となり、酸(有機酸)により溶解される。また、モリブデンのエッチングは、モリブデンが酸化され酸化モリブデン(MoO3)になり溶解される。過酸化水素は、銅とモリブデンを酸化する酸化剤として用いられる。なお、過酸化水素と過水は同義語である。過酸化水素はエッチング液全量に対して3.0質量%~8.0質量%が好ましく、3.5質量%~6.0質量%であればより好ましい。
【0016】
<酸性物質>
酸性物質には、有機酸および無機酸が挙げられる。有機酸はエッチングされた配線の断面形状の制御に用いられる。
【0017】
無機酸は後述するアミン化合物と共にエッチング液のpH調整に用いられ、主に酸化された銅やモリブデンを溶解することに寄与する。また、金属イオンをイオンの状態に保持するためでもある。無機酸を利用する場合は、エッチング液の廃棄の際の環境負荷を軽減するために、リン酸化合物、フッ酸化合物および塩酸は用いないのが好ましい。硝酸、硫酸が好適に利用できる。無機酸であれば、エッチング液全量の0.01質量%以上2.00質量%以下、好ましくは0.02質量%以上1.50質量%以下の範囲で含ませる。
【0018】
有機酸としては、炭素数1~18の脂肪族カルボン酸、炭素数6~10の芳香族カルボン酸のほか、炭素数1~10のアミノ酸などが好ましく挙げられる。
【0019】
炭素数1~18の脂肪族カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、ジグリコール酸、ピルビン酸、マロン酸、酪酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、吉草酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、カプロン酸、アジピン酸、クエン酸、プロパントリカルボン酸、trans-アコニット酸、エナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが好ましく挙げられる。
【0020】
炭素数6~10の芳香族カルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸、マンデル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく挙げられる。
【0021】
また、炭素数1~10のアミノ酸としては、カルバミン酸、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、サルコシン、セリン、グルタミン、グルタミン酸、4-アミノ酪酸、イミノジ酪酸、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、ニトリロ三酢酸などが好ましく挙げられる。
【0022】
上記有機酸は複数種を混合して利用してもよい。なお、酸性有機酸は、エッチング液全量に対して1質量%以上10質量%以下含有させるのが好ましい。
【0023】
<アミン化合物>
アミン化合物はエッチング液のpH調整を担う。本発明に係るエッチング液は、過酸化水素による銅膜やモリブデン膜の酸化だけでなく、金属イオンによる強い酸化(モリブデンから電子を奪取する)によって、モリブデンのエッチングレートを向上させる。したがって、金属イオンはイオン状態で存在する必要がある。そのため、エッチング液のpHは1~5に制御する必要がある。アミン化合物はこのためのpHを調節する。
【0024】
アミン化合物としては、例えば以下の物質が例示できる。
アミン化合物としては、炭素数2~10のものが好適に利用できる。より具体的には、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、N,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、N,N,N,N-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、1,3-ジアミノブタン、2,3-ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2,4-ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、N-メチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、トリメチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、トリエチルエチレンジアミン、1,2,3-トリアミノプロパン、ヒドラジン、トリス(2-アミノエチル)アミン、テトラ(アミノメチル)メタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチルペンタミン、ヘプタエチレンオクタミン、ノナエチレンデカミン、ジアザビシクロウンデセンなどのポリアミン;エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-プロピルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、N-メチルイソプロパノールアミン、N-エチルイソプロパノールアミン、N-プロピルイソプロパノールアミン、2-アミノプロパン-1-オール、N-メチル-2-アミノ-プロパン-1-オール、N-エチル-2-アミノ-プロパン-1-オール、1-アミノプロパン-3-オール、N-メチル-1-アミノプロパン-3-オール、N-エチル-1-アミノプロパン-3-オール、1-アミノブタン-2-オール、N-メチル-1-アミノブタン-2-オール、N-エチル-1-アミノブタン-2オール、2-アミノブタン-1-オール、N-メチル-2-アミノブタン-1-オール、N-エチル-2-アミノブタン-1-オール、3-アミノブタン-1-オール、N-メチル-3-アミノブタン-1-オール、N-エチル-3-アミノブタン-1-オール、1-アミノブタン-4-オール、N-メチル1-アミノブタン-4-オール、N-エチル-1-アミノブタン-4-オール、1-アミノ-2-メチルプロパン-2-オール、2-アミノ-2-メチルプロパン-1-オール、1-アミノペンタン-4-オール、2-アミノ-4-メチルペンタン-1-オール、2-アミノヘキサン-1-オール、3-アミノヘプタン-4-オール、1-アミノオクタン-2-オール、5-アミノオクタン-4-オール、1-アミノプパン-2,3-ジオール、2-アミノプロパン-1,3-ジオール、トリス(オキシメチル)アミノメタン、1,2-ジアミノプロパン-3-オール、1,3-ジアミノプロパン-2-オール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、ジグリコールアミンなどのアルカノールアミンが好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、アミン化合物はエッチング液全量に対して、0.5質量%以上4.5質量%以下含有させるのが好ましく、より好ましくは1.5質量%以上3.5質量%以下含有させるのがよい。
【0026】
<過酸化水素分解抑制剤>
本発明に係る多層膜用エッチング液では、酸化剤として過酸化水素を利用している。過酸化水素は、自己分解するため、その分解を抑制する分解抑制剤を添加する。過酸化水素分解抑制剤は、過酸化水素安定剤(若しくは「過水安定剤」)とも呼ぶ。
【0027】
過酸化水素分解抑制剤としては、2-ブトキシエタノール(エチレングリコールモノブチルエーテル)、フェニル尿素、アリル尿素、1,3-ジメチル尿素、チオ尿素、フェニル酢酸アミド、フェニルエチレングリコールや、1-プロパノール、2-プロパノールなどが好適に利用できる。
【0028】
特に、エチレングリコールモノブチルエーテル(CAS番号111-76-2:以下「BG」とも呼ぶ。)、フェニル尿素(CAS番号64-10-8)、および1-プロパノール(CAS番号:71-23-8)が好適に用いられる。エッチング液中のCu濃度が高くなってもエッチングレートを維持する傾向が強いからである。
【0029】
過酸化水素分解抑制剤は、エッチング液全量に対して、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.2質量%以下であればより好ましい。
【0030】
<モリブデン浸食促進イオン>
本発明に係るエッチング液では、モリブデンから電子を奪取して酸化し、エッチングを促進するモリブデン浸食促進イオンとして、鉄イオン若しくは銀イオンを用いる。なお、モリブデン浸食促進イオンを供給する化合物をモリブデン浸食促進剤と呼ぶ。
【0031】
鉄イオンを有するモリブデン浸食促進剤としては、塩化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄などが好適に利用できる。また、銀イオンを有するモリブデン浸食促進剤では、塩化銀、硝酸銀、硫酸銀等が好適に利用できる。特に、エッチング液の廃棄処理の観点から、硝酸鉄および硝酸銀が好適に利用できる。
【0032】
モリブデン浸食促進イオンの含有量はエッチング液全量に対して、0.08質量%(80ppm)以上1.0質量%(10000ppm)未満が好ましく、0.1質量%(100ppm)以上0.5質量%(5000ppm)以下であればより好ましい。モリブデン浸食促進イオンを供給するモリブデン浸食促進剤は、塩の形で供給されるが、塩中のアニオンイオンによってモリブデン浸食促進剤のエッチング液全量に対する比率は変わる。その調整は水の組成比で調整してよい。
【0033】
例えば、モリブデン浸食促進イオンを銀イオンとした場合、0.08gの銀イオン(7.41×10-4mol)を硝酸銀で供給する場合は、硝酸銀を0.126gの重量で供給しなければならないが、硫酸銀で供給する場合、0.116gとなる。どちらも銀イオンの個数はおよび重量は同じであるが、塩(モリブデン浸食促進剤)としての重量はことなる。この違い分は水の量で調節することができる。モリブデン浸食促進イオンの量は微量であるからである。
【0034】
<その他>
本発明に係るエッチング液には、これらの成分の他、溶媒として水と、エッチング性能を阻害しない範囲で通常用いられる各種添加剤が添加されてもよい。また、Cu膜のエッチング調整剤としてアゾール類が含まれていてもよい。水は、精密加工を目的とするため、異物が存在しない物が望ましい。純水若しくは超純水であれば好ましい。また、上記に説明した各成分の含有比率の範囲は、エッチング液総量で100質量%になるように適宜それぞれ調整されるのは言うまでもない。
【0035】
また、本発明に係るエッチング液は、金属イオンを含有させるので、エッチング液のpHは、1~5の範囲に調整するのが望ましい。
【実施例】
【0036】
<金属イオンによるモリブデンエッチングレートの変化>
エッチングの処理対象としてはSi基板上にモリブデン(300nm)を成膜したものを用いた。これを「モリブデン膜試料」と呼ぶ。
【0037】
エッチング液は、目的によって組成が変化するが、銅/モリブデンの2層膜の基本組成(以下「サンプル基本組成液1」と呼ぶ。)として以下の組成とした。
【0038】
(サンプル基本組成液1)
過酸化水素を5.8質量%、
無機酸性物質として、
硝酸を1.3質量%、
有機酸性物質として、
マロン酸を1.7質量%、
アミン化合物として、
NNDPA(N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン)を2.5質量%、
過水安定剤として、
BGを0.7質量%、
残りを水とモリブデン浸食促進イオンとした。なお、モリブデン浸食促進イオンは、サンプル基本組成液1の全量に対して、80ppm以上であり、1.0質量%を超えることはない。モリブデン浸食促進イオンが多すぎると過水安定剤を添加していても、過水の分解が進みすぎてしまうからである。
【0039】
(実施例1)
サンプル基本組成液1において金属イオン供給源として銀、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ニッケル、アルミニウムの硝酸塩を、各金属イオンが1000ppm(0.1質量%)になるように調製した。各サンプルエッチング液を、銀液(金属イオン供給源として硝酸銀を銀イオンが1000ppmになるように調製した液という意味。以下同様。)、鉄液、亜鉛液、銅液、マンガン液、ニッケル液、アルミ液とした。なお、金属イオン供給源を入れないものをリファレンス液とした。
【0040】
各サンプルエッチング液を30℃に維持しながらモリブデン膜(300nm)試料を浸漬し、モリブデン膜が溶解しきるまで観察し、モリブデンのエッチングレートを算出した。結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
モリブデンのエッチングレートを向上させるのに、効果的なのは、銀イオン、鉄イオン、銅イオンであり、亜鉛イオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオンはリファレンス液とほぼ同じエッチングレートであった。特に銀イオンと鉄イオンは、モリブデンのエッチングレートを高めるのに、効果的であることが判った。
【0043】
以上の実験より銀イオンと銅イオンをモリブデン浸食促進イオンとし、モリブデン浸食促進イオンを供給できる金属イオン供給源をモリブデン浸食促進剤とした。また、参考まで1000ppm(0.1質量%)の銀イオンと鉄イオンは、サンプル基本組成液1では、それぞれ0.018モル%、0.035モル%となり、以下に記載の重量%も、同様にモル%に換算できる。
【0044】
(実施例2)
次に、銀イオンと、鉄イオンの濃度を変化させ、モリブデンのエッチングレートがどう変換するかを確認した。エッチングに用いたのは、実施例1と同じモリブデン膜試料である。
【0045】
銀イオンの場合の結果を表2に示し、鉄イオンの場合の結果を表3に示す。なお、Si基板上にCuを600nm成膜した「銅膜試料」を作製し、表2における銀イオンが1000ppm含まれているものと、表3において鉄イオンが1000ppm含まれているサンプル液に浸漬させCuのエッチングレートも測定した。各サンプル液の温度は30℃に維持した。
【0046】
【0047】
【0048】
表2を参照して、銀イオンは10ppmで、71[nm/min]のレートがあり、リファレンス液(実施例1を参照)の14[nm/min]よりモリブデンのエッチングレートは高かった。また、銀イオン濃度を高くするほどモリブデンのエッチングレートは高くなった。しかし、8000ppm(0.8質量%)では、銀が析出した。したがって、銀イオンは少なくとも10ppm以上8000ppm未満(エッチング液100gあたり9.26×10-6mol以上7.41×10-3mol未満)、より好ましくは80ppm以上5000ppm以下(エッチング液100gあたり7.41×10-5mol以上4.63×10-3mol以下)で利用できた。なお、80ppmは、モリブデンのエッチングレートが90nm/min以上になる値であり、実用的に要求される値である。すなわち、実験結果から、モリブデンのエッチングレートが90nm/min以上あればMo残渣が確認されなかった。
【0049】
一方表3を参照して、鉄イオンは、100ppmで90[nm/min]のエッチングレートを示し、鉄イオン濃度が高くなるほどモリブデンのエッチングレートも高くなった。しかし、10000ppm(1.0質量%)で、過水の異常分解が発生し、エッチング液として維持できなくなった。したがって、鉄イオンは100ppm以上10000ppm未満(エッチング液100gあたり1.79×10-4mol以上1.79×10-2mol未満)、より好ましくは100ppm以上9000ppm以下(エッチング液100gあたり1.79×10-4mol以上1.61×10-2mol以下)で利用できた。なお、過水の異常分解は、9000ppmで発生しないことを確認している。
【0050】
また、銀イオンを1000ppm含有させたエッチング液では、銅のエッチングレートは637nm/minであり、銀イオンがない場合は542nm/minであった。鉄イオンを1000ppm含有させたエッチング液では、銅のエッチングレートは、610nm/minであり、鉄イオンがない場合は、563nm/minであった。
【0051】
すなわち、銀イオンの存在によって、銅のエッチングレートは18%ほど高くなり、鉄イオンの存在によって銅のエッチングレートは8%ほど高くなった。しかし、この銅イオンのエッチングレートの差は、アミノ化合物や有機酸物質の種類と量によって、十分に調節可能である。
【0052】
(実施例3)
次に実際の二層膜のエッチングでモリブデン浸食促進イオンの効果を確認した。
エッチングの処理対象としてはSi基板上に膜厚30nmのモリブデンと、膜厚450nmの銅を順に成膜し、段差ができるように、フォトレジストで一部を被覆したものを用いた。これを「二層膜試料」と呼ぶ。
【0053】
エッチング液は以下の組成とした、このエッチング液を「サンプル基本組成液2」と呼ぶ。
(サンプル基本組成液2)
過酸化水素を5.81質量%、
無機酸性物質として、
硝酸を1.84質量%、
有機酸性物質として、
マロン酸を3.0質量%、
アミン化合物として、
TMEDA(N,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン)を3.0質量%、
過水安定剤として、
BGを0.88質量%、
モリブデン浸食促進イオンとして鉄イオンを650ppm、
残りを水とした。なお、鉄イオンは、硝酸鉄(III)九水和物[Fe(NO3)3・9H2O](モリブデン浸食促進剤)を0.47質量%で加えた。したがって、水は85.0質量%である。
【0054】
また、モリブデン浸食促進イオンを入れないエッチング液を「比較例サンプル液」として用意した。
【0055】
(比較例サンプル液)
過酸化水素を5.81質量%、
無機酸性物質として、
硝酸を1.84質量%、
有機酸性物質として、
マロン酸を3.0質量%、
アミン化合物として、
TMEDA(N,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン)を3.0質量%、
過水安定剤として、
BGを0.88質量%、
残りを水とした。水は、85.47質量%である。
【0056】
サンプル基本組成液2および比較サンプル液は、35℃の温度維持し、それぞれに、二層膜試料を110秒間浸漬させた。ジャストエッチはフォトレジストがない部分の下地(Si)を目視で確認した時間とした。
【0057】
結果を
図1に示す。
図1は、処理後の二層膜試料のSi基板上を撮影したものである。
図1を参照して、図(a)は、サンプル基本組成液2の場合であり、
図1(b)は比較サンプル液の場合である。スケールラインは500nmである。また、それぞれジャストエッチタイムは48秒と53秒であった。
【0058】
図1(a)のサンプル基本組成液2の場合は、Si基板上にモリブデンの残渣がわずかに認められる程度で、ほぼモリブデンは除去されていることが観察された。一方、
図1(b)の比較サンプル液では、Si基板上に50nm程度のモリブデンが密集するアイランド状に残っているのが観察された。以上のように、モリブデン浸食促進イオンの存在によって、モリブデンのエッチングレートは高まり、基板上に残留するモリブデンのエッチング残渣が残るという課題を解決することができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明はモリブデン、銅の二層膜のエッチングに好適に利用することができる。