(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】制御装置、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20241129BHJP
H02J 3/16 20060101ALI20241129BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241129BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/16
H02J3/38 180
H02M7/48 R
(21)【出願番号】P 2021041837
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】大槻 洋輔
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-078134(JP,A)
【文献】特開2021-002947(JP,A)
【文献】特開2018-148664(JP,A)
【文献】特開2020-145835(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0179720(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/38
H02J 3/16
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換し、変換した前記交流電力を電力系統に出力するインバータ部を制御する制御装置であって、
単独運転を検出するために注入する第1無効電力を算出する第1無効電力算出部と、
前記電力系統を安定化させるために注入する第2無効電力を算出する第2無効電力算出部と、
前記第1無効電力算出部により算出された第1無効電力と、前記第2無効電力算出部により算出された第2無効電力に基づいて、前記インバータ部から出力する交流電力に注入する無効電力の注入量を算出する無効電力注入量算出部と、を備え、
前記第2無効電力算出部は、前記第2無効電力の算出値を、前記第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より緩和された第2観測条件に基づき、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正するか否か決定する、
制御装置。
【請求項2】
前記第1無効電力算出部により算出された第1無効電力の変化方向と、前記第2無効電力算出部により算出された第2無効電力の変化方向が逆の場合で、前記系統状態の第2観測条件を満たした場合、前記第2無効電力算出部は、前記第2無効電力の算出値を、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正し、
前記第1無効電力算出部により算出された第1無効電力の変化方向と、前記第2無効電力算出部により算出された第2無効電力の変化方向が同じ場合、前記系統状態の第2観測条件を満たした場合でも、前記第2無効電力算出部は、前記第2無効電力の算出値を補正しない、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第2無効電力算出部は、前記系統状態が第2観測条件を満たした場合、前記第2無効電力の変化量を、前記単独運転検出機能への影響を無視できる変化量を超えないように制限する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1無効電力算出部は、
周波数変化を助長するためのステップ注入用の前記第1無効電力を算出するステップ注入用無効電力算出部を含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記ステップ注入の開始条件より前に発動する条件である、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記ステップ注入の開始条件より前に発動する条件であり、かつ段階的な複数の条件を有し、
前記第2無効電力算出部は、前記系統状態が前記ステップ注入の開始条件に近づくほど、前記第2無効電力の変化量の最大値を段階的に小さくする、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項7】
前記第1無効電力算出部は、
前記電力系統の周波数偏差に応じた前記第1無効電力を算出する周波数フィードバック注入用無効電力算出部を含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記第2観測条件で使用される周波数偏差の第2測定値は、前記第1観測条件で使用される周波数偏差の第1測定値より、周波数変化に対する感度が高い測定値である、
請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記第2観測条件で使用する周波数偏差の第2測定値は、前記第1観測条件として使用される周波数偏差の第1測定値より、周波数変化に対する感度が高い測定値であり、前記第2測定値は段階的に複数算出され、
前記第2無効電力算出部は、前記第2測定値が前記第1測定値に近いほど、前記第2無効電力の変化量の最大値を小さくする、
請求項7に記載の制御装置。
【請求項10】
前記第2無効電力算出部は、前記第2測定値に基づく無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より大きい場合、前記第2無効電力の算出値を、前記単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する、
請求項8または9に記載の制御装置。
【請求項11】
前記第2無効電力算出部は、前記第2測定値に基づく無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より第1設定値以上大きい場合、前記第2無効電力の算出値を、前記単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する、
請求項8または9に記載の制御装置。
【請求項12】
前記第2無効電力算出部は、前記第2測定値の絶対値が、前記第1測定値の絶対値より第2設定値以上大きい場合、前記第2無効電力の算出値を、前記単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する、
請求項8または9に記載の制御装置。
【請求項13】
前記第1無効電力算出部は、
前記単独運転検出機能に含まれる周波数フィードバック機能を無効にする待機状態と、前記周波数フィードバック機能を有効にする通常状態を切り替えて、無効電力の発振を抑制する無効電力発振抑制制御部をさらに含む、
請求項1から12のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項14】
前記第2無効電力算出部は、前記待機状態のとき、前記第2無効電力の算出値を補正しない、
請求項13に記載の制御装置。
【請求項15】
前記2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記待機状態から前記通常状態へ遷移する切替条件を満たす前に発動する条件であり、
前記第2無効電力算出部は、前記系統状態が第2観測条件を満たした場合、前記第2無効電力の算出値の補正を開始する、
請求項13に記載の制御装置。
【請求項16】
前記2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記待機状態から前記通常状態へ遷移する切替条件を満たす前に発動する条件であり、かつ段階的な複数の条件を有し、
前記第2無効電力算出部は、前記系統状態が前記切替条件に近づくほど、前記第2無効電力の変化量の最大値を小さくする、
請求項13に記載の制御装置。
【請求項17】
直流電力を交流電力に変換し、変換した前記交流電力を電力系統に出力するインバータ部と、
前記インバータ部を制御する請求項1から13のいずれか1項に記載の制御装置と、
を備える電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分散型電源の出力電力を制御する制御装置、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システム、蓄電システム等の分散型電源システムが普及してきている。分散型電源システムでは、分散型電源から出力される直流電力を交流電力に変換して、変換した交流電力を商用電力系統(以下、単に系統という)に出力するためのパワーコンディショナが必要となる。パワーコンディショナには、単独運転検出機能の搭載が義務付けられている(例えば、特許文献1参照)。単独運転検出機能は、分散型電源が系統連系している配電線への送電が停止した際に、当該配電線から分散型電源を解列する機能である。単独運転検出機能により、無電圧のはずの場所に分散型電源から充電されることを防止し、作業者の感電や機器の故障を防止することができる。
【0003】
JEM1498規格において、複数のパワーコンディショナが系統連係している状況下での、単独運転検出用の能動信号の相互干渉を防止すべく、能動的単独運転検出方式が標準化されている。この能動的単独運転検出方式は、ステップ注入付フィードバック方式を採用しており、周波数フィードバック機能や無効電力ステップ注入機能による無効電力の注入によって、単独運転時の周波数シフトを促し、単独運転を早期に検知する方式である。
【0004】
ところで近年、系統安定化のために、上位サーバからの無効電力や力率の指令値に基づき無効電力の出力を制御する機能や、系統電圧や系統周波数の状態から無効電力の出力を自律的に制御する機能を搭載したパワーコンディショナ(スマートインバータとも呼ばれる)が開発されている。例えば、IEC61850-90-7には、分散型電源用のパワーコンディショナの有効電力と無効電力の出力を、系統周波数や系統電圧に応じて遠隔制御する方式が標準化されている。系統状態に応じて無効電力の出力を自律的に制御する制御方法として、Volt-Var制御や動的無効電流制御が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
系統安定化のための無効電力注入機能を搭載したパワーコンディショナでは、系統安定化のための無効電力注入が、単独運転検出のための無効電力注入に影響を及ぼし、単独運転を規定時限内に検出できないことがあった。単独運転状態にある場合、無効電力の注入により周波数が基準周波数(50Hz/60Hz)から乖離していくが、系統安定化のための無効電力が逆方向に注入されると、周波数が狙い通りに変化しなくなり、単独運転の検出が遅れることがあった。
【0007】
これに対して、系統安定化のための無効電力注入のランプレートを、単独運転検出に影響を及ぼさない傾きに設定することが考えられる。しかしながら、その場合、系統安定化のための無効電力注入の変化量が小さくなり、系統変化に対する追従性が低下する。
【0008】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、単独運転の早期検出の要請と、系統変化に対する追従性の確保の要請を両立した制御装置、電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の制御装置は、直流電力を交流電力に変換し、変換した前記交流電力を電力系統に出力するインバータ部を制御する制御装置であって、単独運転を検出するために注入する第1無効電力を算出する第1無効電力算出部と、前記電力系統を安定化させるために注入する第2無効電力を算出する第2無効電力算出部と、前記第1無効電力算出部により算出された第1無効電力と、前記第2無効電力算出部により算出された第2無効電力に基づいて、前記インバータ部から出力する交流電力に注入する無効電力の注入量を算出する無効電力注入量算出部と、を備える。前記第2無効電力算出部は、前記第2無効電力の算出値を、前記第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より緩和された第2観測条件に基づき、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正するか否か決定する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、単独運転の早期検出の要請と、系統変化に対する追従性の確保の要請を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る電力変換装置を説明するための図である。
【
図2】実施の形態に係る第1無効電力算出部の構成例を示す図である。
【
図3】周波数偏差-無効電力特性の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態に係る第2無効電力算出部の構成例を示す図である。
【
図5】
図5(a)-(c)は、系統安定化のための無効電力注入機能の具体例を説明するための図である。
【
図6】系統安定化のための無効電力注入機能のさらに別の具体例を説明するための図である。
【
図7】
図7(a)-(b)は、単独運転検出のための無効電力注入機能と、系統安定化のための無効電力注入機能が併用される場合の課題を説明するための図である。
【
図8】比較例に係る目標無効電力の注入量の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施の形態に係る目標無効電力の注入量の算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図10】第4具体例に係る目標無効電力の決定方法をグラフで示した図である。
【
図11】
図11(a)-(b)は、単独運転検出のための無効電力注入機能によりステップ注入される第1無効電力と、外部設定された無効電力の指令値に応じて注入される第2無効電力が干渉する場合の具体例を示す図である。
【
図12】
図12(a)-(d)は、
図11(a)-(b)に示した状態における無効電力決定方法の具体例を示す図である。
【
図13】第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より時間的に先に満たす第2観測条件を設定する意義を説明するための図である。
【
図14】
図14(a)-(c)は、周波数偏差の第2測定値に基づき、第2無効電力を補正する場合の変更条件の具体例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施の形態に係る電力変換装置2を説明するための図である。電力変換装置2は、分散型電源1から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を、分電盤(不図示)を介して系統3または負荷4に出力する。分散型電源1は、太陽電池、蓄電池、燃料電池などが該当する。太陽電池が使用される場合、太陽電池と電力変換装置2のインバータ部10との間にDC/DCコンバータ(昇圧チョッパ)が設けられ、当該DC/DCコンバータは、MPPT(Maximum Power Point Tracking)制御を実行する。
【0013】
分散型電源1は電力変換装置2に対して複数並列に接続されてもよい。例えば、太陽電池と蓄電池が並列に接続されてもよい。その場合、太陽電池とインバータ部10との間、および蓄電池とインバータ部10との間にそれぞれDC/DCコンバータが設けられる。
【0014】
電力変換装置2は、インバータ部10、制御部20、系統周波数検出部31、系統電圧検出部32および通信部40を備える。制御部20は、無効電力注入部21、電流制御部25および単独運転検出部26を含む。無効電力注入部21は、第1無効電力算出部22、第2無効電力算出部23および無効電力注入量算出部24を含む。
【0015】
制御部20の構成は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、またはハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源としてアナログ素子、マイクロコンピュータ、DSP、ROM、RAM、ASIC、FPGA、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてファームウェアなどのプログラムを利用できる。
【0016】
インバータ部10は、分散型電源1から供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を負荷4または系統3に出力する。なお分散型電源1に蓄電池が含まれる場合、インバータ部10は、系統3から供給される交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力を蓄電池に出力することもできる。
【0017】
系統周波数検出部31は、系統3の周波数をハードウェアで検出して制御部20に出力する。具体的には系統周波数検出部31は、正弦波の系統電圧を方形波の系統電圧に変換する。系統周波数検出部31は、当該方形波の立ち下がりと立ち上がりの間の中間値と、次の立ち下がりと立ち上がりの間の中間値との時間差を周期とする。系統電圧検出部32は、系統3の電圧をハードウェアで検出して制御部20に出力する。
【0018】
通信部40は、外部のサーバ5からネットワークを介して、系統安定化のための無効電力または力率の指令値を受信する。外部のサーバ5は例えば、デマンドレスポンスサービス、VPP(Virtual Power Plant)サービスなどを提供するアグリゲータが管理・運営するサーバであってもよい。通信部40は、サーバ5から受信した指令値を制御部20に出力する。通信部40は、電力変換装置2の内部に設けられてもよいし、外部に設けられてもよい。なお、電力変換装置2と外部のサーバ5を接続しない場合は、通信部40は省略可能である。
【0019】
図2は、実施の形態に係る第1無効電力算出部22の構成例を示す図である。第1無効電力算出部22は、第1周波数偏差算出部221、高調波電圧算出部222、無効電力発振抑制制御部223、第1能動待機解除条件判定部224、第1ステップ注入条件判定部225、周波数フィードバック注入用無効電力算出部226、ステップ注入用無効電力算出部227および無効電力決定部228を含む。
【0020】
第1周波数偏差算出部221は、系統電圧の周波数偏差を算出する。本実施の形態ではJEM1498規格に準拠して周波数偏差を算出する。第1周波数偏差算出部221は、系統周波数検出部31で検出された系統電圧の過去周期と最近周期の差をもとに周波数偏差を算出する。第1周波数偏差算出部221は、周期データを1周期ごとに更新する。現在の周期を最新周期と呼ぶ。過去周期として、最新周期から200ms過去の時点における320ms分の移動平均値を用いる。最近周期として、最新周期から40ms分の移動平均値を用いる。
【0021】
第1周波数偏差算出部221は、移動平均値と周波数偏差を、5msごとに算出する。第1周波数偏差算出部221は、算出した周波数偏差を周波数フィードバック注入用無効電力算出部226、無効電力発振抑制制御部223および第1ステップ注入条件判定部225に出力する。
【0022】
周波数フィードバック注入用無効電力算出部226は、周波数偏差-無効電力特性を参照して、第1周波数偏差算出部221により算出された周波数偏差をもとに、周波数フィードバック注入用の無効電力を算出する。
【0023】
図3は、周波数偏差-無効電力特性の一例を示す図である。周波数フィードバック注入用無効電力算出部226は、周波数偏差が±0.01Hzを境に、無効電力算出時に使用するゲインを変える。系統周波数が50Hzの場合、±0.01Hzの周波数偏差は±4.0μsの周期偏差に相当する。系統周波数が60Hzの場合、±0.01Hzの周波数偏差は±2.8μsの周期偏差に相当する。
【0024】
図3に示す例は、電力変換装置2の定格容量が4kVAで無効電力注入量の上下限が±0.25p.u.に設定された場合の例を示しており、無効電力注入量の上下限は±1kvarとなる。p.u.(per unit)は定格容量に対する比率を示す。なお、周波数フィードバックによる無効電力注入量の上下限は±0.25p.u.の範囲内に設定されていればよい。周波数フィードバックによる無効電力の注入は、周波数偏差検出後から系統周波数の半サイクル以内に行う。また、無効電力発振抑制制御部223により能動機能待機状態と判定されている場合(詳細は後述する)、周波数偏差によらず、周波数フィードバックによる無効電力注入量は0p.u.に設定される。
【0025】
高調波電圧算出部222は、系統電圧の高調波電圧を算出する。本実施の形態ではJEM1498規格に準拠して高調波電圧を算出する。高調波電圧の算出には、2次~7次の高調波を用いる。高調波電圧の算出には、次の離散フーリエ解析を用いてもよい。
A[h]=Σ(x[nT]cos[2πhf1(nT)])/(M/2) ・・・(式1)
B[h]=Σ(x[nT]sin[2πhf1(nT)])/(M/2) ・・・(式2)
Harm[h]=√(A2[h]+B2[h]) ・・・(式3)
n:サンプリング点(M個) n=0,1,2,・・・,M-1
f1:基本周波数 f1=1/(MT)=fs/M
fs:サンプリング周波数
T:サンプリング間隔 T=1/fs
h:高調波の次数 h=0,1,2,・・・,M/2
x[nT]:系統電圧
A[h]:h次余弦の振幅
B[h]:h次正弦の振幅
Harm[h]:h次高調波電圧(ピーク電圧)
【0026】
高調波電圧算出部222は、算出した高調波電圧を、第1ステップ注入条件判定部225、第1能動待機解除条件判定部224および第2無効電力算出部23に出力する。
【0027】
ステップ注入機能は、電力変換装置2の出力電力と負荷4の消費電力が平衡した状態でも単独運転を検出可能とするために、ステップ状の無効電力を注入して周波数に変化を与える機能である。電力変換装置2の出力電力と負荷4の消費電力が平衡した状態で単独運転になった場合、周波数フィードバック機能だけでは周波数に変化を与えることができず、ステップ注入機能が必要となる。
【0028】
第1ステップ注入条件判定部225は、周波数偏差が0.01Hz以内であり、かつ下記(式4)-(式9)の条件を全て満たす場合、ステップ注入用無効電力算出部227にステップ注入の開始を指示する。周波数偏差が0.01Hz以内でない場合、または下記(式4)-(式9)の条件を1つでも満たさない場合、ステップ注入用無効電力算出部227にステップ注入の開始を指示しない。
(Nh0-Nh_ave)>2V ・・・(式4)
(Nh1-Nh_ave)>2V ・・・(式5)
(Nh2-Nh_ave)>-0.5V ・・・(式6)
-0.5V<(Nh3-Nh_ave)<0.5V ・・・(式7)
-0.5V<(Nh4-Nh_ave)<0.5V ・・・(式8)
-0.5V<(Nh5-Nh_ave)<0.5V ・・・(式9)
Nhi:iサイクル前の2次~7次の高調波電圧実効値
Nh_ave:3サイクル前から5サイクル前までの3個の高調波電圧平均値
【0029】
また、第1ステップ注入条件判定部225は、周波数偏差が0.01Hz以内であり、かつ下記(式10)-(式15)の条件を全て満たす場合、ステップ注入用無効電力算出部227にステップ注入の開始を指示してもよい。周波数偏差が0.01Hz以内でない場合、または下記(式10)-(式15)の条件を1つでも満たさない場合、ステップ注入用無効電力算出部227にステップ注入の開始を指示しない。
(Nb0-Nb_ave)>2.5V ・・・(式10)
(Nb1-Nb_ave)>2.5V ・・・(式11)
(Nb2-Nb_ave)>-0.5V ・・・(式12)
-0.5V<(Nb3-Nb_ave)<0.5V ・・・(式13)
-0.5V<(Nb4-Nb_ave)<0.5V ・・・(式14)
-0.5V<(Nb5-Nb_ave)<0.5V ・・・(式15)
Nbi:iサイクル前の基本波電圧
Nb_ave:3サイクル前から5サイクル前までの3個の基本波電圧平均値
【0030】
なお、無効電力発振抑制制御部223により能動機能待機状態と判定されている場合(詳細は後述する)、上記(式10)-(式15)の基本波電圧条件を満たす場合でも、ステップ注入は行わない。
【0031】
ステップ注入用無効電力算出部227は、第1ステップ注入条件判定部225からステップ注入の開始指示を受けると、ステップ注入用の無効電力を算出する。ステップ注入用の無効電力の注入は、ステップ注入条件を満たしてから系統周波数の半サイクル以内に行う。ステップ注入用の無効電力の注入時間は、3サイクル以下に設定される。ステップ注入用の無効電力注入量の上限は0.1p.u.に設定される。ステップ注入用の無効電力は、電力変換装置2から見て電流位相を遅らせる方向(周波数は低下方向)に注入される。
【0032】
無効電力決定部228は、周波数フィードバック注入用の無効電力とステップ注入用の無効電力から、第1無効電力を決定し、無効電力注入量算出部24および第2無効電力算出部23に出力する。
【0033】
無効電力発振抑制制御部223は、周波数フィードバックにより注入される無効電力の発振を抑制するための制御を行う。具体的には、無効電力発振抑制制御部223は、能動機能通常状態と能動機能待機状態との間の状態遷移を制御する。能動機能待機状態では、周波数フィードバックによる無効電力の注入量が0に設定される。
【0034】
系統3に多数の電力変換装置2が連係している場合、配電線の線路インピーダンスや需要家負荷によっては、周波数フィードバックによる無効電力の注入により電圧フリッカ(6~7Hz程度の系統電圧の変動)が発生することがあった。無効電力発振抑制制御部223は、無効電力の発振によるフリッカ発生の予兆が検出された場合に、周波数フィードバックによる無効電力の注入量を0にする。
【0035】
無効電力発振抑制制御部223は、外乱検知として、周波数急変または低振幅周波数変動継続を検知すると、能動機能通常状態から能動機能待機状態に遷移させる。無効電力発振抑制制御部223は、周波数急変の監視と低振幅周波数変動の監視を、能動機能通常状態か能動機能待機状態かによらず、周波数フィードバック制御の実行中に継続的に実施する。無効電力発振抑制制御部223は、周波数急変の判定と低振幅周波数変動継続の判定を、周波数偏差の演算に同期して5msごとに行う。
【0036】
無効電力発振抑制制御部223は、周波数偏差が±0.16Hzを超えた後、周波数偏差の極性が反転する、または0になったとき周波数急変を検知する。無効電力発振抑制制御部223は、周波数急変を検知すると、能動機能通常状態から能動機能待機状態に遷移させるとともに、待機移行回数を管理する待機移行カウンタ(上限値=100、下限値=0)の値を1つインクリメントさせる。待機移行カウンタの値が2以下の場合、無効電力発振抑制制御部223は、待機移行カウンタの値を3に設定する。なお、能動機能待機状態で周波数急変を検知した場合、無効電力発振抑制制御部223は、待機移行カウンタの値をインクリメントさせない。
【0037】
無効電力発振抑制制御部223は、±0.01Hzを超える周波数偏差の検出後、165ms以内に、検出した周波数偏差の極性と反対の極性の0.01Hzを超える周波数偏差を検出したとき、低振幅周波数偏差カウンタの値を1つインクリメントさせる。低振幅周波数偏差カウンタの値が12に到達すると、無効電力発振抑制制御部223は、低振幅周波数変動の継続を検知する。低振幅周波数変動の継続を検知すると、無効電力発振抑制制御部223は、低振幅周波数偏差カウンタの値を0に戻し、上記待機移行カウンタの値を1つインクリメントさせる。
【0038】
無効電力発振抑制制御部223は、±0.01Hzを超える周波数偏差の検出後、165ms以内に、検出した周波数偏差の極性と反対の極性の0.01Hzを超える周波数偏差を検出しないとき、低振幅周波数偏差カウンタの値を0に戻す。
【0039】
無効電力発振抑制制御部223は、±0.01Hzを超える周波数偏差の検出後、周波数偏差が±0.01Hzとなり、±0.01Hzを超えた時点の極性と同じ極性で再度、周波数偏差が0.01Hzを超えたとき、低振幅周波数偏差カウンタの値を1に戻す。
【0040】
第1能動待機解除条件判定部224は、能動機能待機状態において、能動機能通常状態への復帰条件(能動機能待機状態の解除条件)を満たしたか否か判定する。
【0041】
第1能動待機解除条件判定部224は、高調波電圧算出部222により算出された高調波電圧が、下記(式16)-(式17)の条件を全て満たす場合、能動機能待機状態から能動機能通常状態に遷移させる。
(Nh0-Nh_ave0)>α ・・・(式16)
(Nh1-Nh_ave0)>α ・・・(式17)
Nhi:iサイクル前の2次~7次の高調波電圧実効値
Nh_avei:iサイクル前において、その3サイクル前から5サイクル前までの3個の高調波電圧平均値
αは、オートチューニングにより算出される最新周期のしきい値であり、下記(式18)で定義される。
α=max[(Nhi-Nh_avei)]+1 ・・・(式18)
αは、最新周期の1秒前から0.1秒前の期間(900ms)における(Nhi-Nh_avei)の最大値(系統周波数が50Hzの場合はi=5~50、系統周波数が60Hzの場合はi=6~60)に、1を加えた電圧値である。オートチューニングにより算出されるαの最小値は2[V]とする。
【0042】
第1能動待機解除条件判定部224は、高調波電圧実効値偏差(Nhi-Nh_avei)を所定の期間(例えば、100ms)ごとに算出する。100ms間隔でしきい値αを算出する場合、第1能動待機解除条件判定部224は、100ms期間最大値をX0として保持する。第1能動待機解除条件判定部224は、過去900ms分の100ms期間最大値(X0~X-8)から、最大の100ms期間最大値を算出する。第1能動待機解除条件判定部224は、算出した100ms期間最大値を、次回の100ms期間の100ms期間最大値として採用する。
【0043】
次回の100ms期間の過去900ms分(次回の100ms期間最大値を含まず)の100ms期間最大値(X-1~X-9)は、今回の100ms期間の過去900ms分(今回の100ms期間最大値を含む)の100ms期間最大値(X0~X-8)と同じ区間である。したがって、一旦、今回の100ms期間の過去900ms分の100ms期間最大値(X0~X-8)を算出し、次回の100ms期間の後に、最大値として採用する。
【0044】
第1能動待機解除条件判定部224は、直近100ms期間の100ms期間最大値を除外した、(過去900ms分の100ms期間最大値)+1[V]を、しきい値αに設定する。
【0045】
また、第1能動待機解除条件判定部224は、上記待機移行カウンタの値が2以下で、かつ上記周波数急変および上記低振幅周波数変動継続の両方が5秒間未検知の場合も、能動機能待機状態から能動機能通常状態に遷移させる。
【0046】
また、第1能動待機解除条件判定部224は、上記待機移行カウンタの値が3で、かつ上記周波数急変および上記低振幅周波数変動継続の両方が5分間未検知の場合も、能動機能待機状態から能動機能通常状態に遷移させる。
【0047】
第1能動待機解除条件判定部224は、上記周波数急変および上記低振幅周波数変動継続の両方が5分間未検知の場合、上記待機移行カウンタの値を1つデクリメントする。なお、上記待機移行カウンタの値は、電力変換装置2の停止後、または電力変換装置2の再起動時に0にクリアされてもよい。
【0048】
無効電力発振抑制制御部223および第1能動待機解除条件判定部224は、状態遷移の発生を、周波数フィードバック注入用無効電力算出部226、第1ステップ注入条件判定部225および第2無効電力算出部23に出力する。
【0049】
図4は、実施の形態に係る第2無効電力算出部23の構成例を示す図である。第2無効電力算出部23は、系統安定化用無効電力算出部231、第2周波数偏差算出部232、条件判定部233および系統安定化用無効電力補正部234を含む。条件判定部233は、変化方向判定部233a、周波数偏差条件判定部233b、第2ステップ注入条件判定部233cおよび第2能動待機解除条件判定部233dを含む。系統安定化用無効電力算出部231は、系統電圧の上昇および低下を防止して、系統電圧を安定化させるための無効電力を算出する。
【0050】
図5(a)-(c)は、系統安定化のための無効電力注入機能の具体例を説明するための図である。
図5(a)は、無効電力の指令値をサーバ5から受信して、無効電力の出力を制御する例を示している。なお、ユーザがリモコン設定器から無効電力の指令値を設定してもよい。
図5(a)に示す例では、無効電力の指令値が低下方向に変更されると、系統安定化用無効電力算出部231は、設定されたランプレート[var/s]にしたがい、無効電力の出力を、緩やかに変更後の指令値まで低下させている。
【0051】
図5(b)は、系統電圧検出部32により検出された系統電圧に応じて、無効電力の出力を変化させるVolt-Var制御の一例を示している。Volt-Var制御では、系統電圧が基準電圧(
図5(b)では200V)より低い一定の範囲で、容量性(進み方向)の無効電力を注入する。反対に、系統電圧が基準電圧より高い一定の範囲で、誘導性の(遅れ方向)の無効電力を注入する。
【0052】
図5(c)は、系統電圧検出部32により検出された系統電圧の変化に応じて、無効電流の出力を変化させる動的無効電流制御の一例を示している。動的無効電流制御では、系統電圧の急激な低下に対して、進み無効電流を系統3に流す。反対に、系統電圧の急激な上昇に対して、遅れ無効電流を系統3に流す。
【0053】
図6は、系統安定化のための無効電力注入機能のさらに別の具体例を説明するための図である。
図6は、力率の指令値をサーバ5から受信して、無効電力の出力を制御する例を示している。なお、ユーザがリモコン設定器から力率の指令値を設定してもよい。系統安定化用無効電力算出部231は、設定された力率に固定して、無効電力の出力を制御する。
【0054】
図6に示す例では、力率の指令値が低下方向に変更されると、系統安定化用無効電力算出部231は、設定されたランプレート[var/s]にしたがい、無効電力の出力を、変更後の力率に対応する値まで緩やかに上昇させている。力率が固定されているため、系統安定化用無効電力算出部231は、負荷変動などにより有効電力が低下すると、無効電力の出力を当該力率に応じて低下させ、有効電力が上昇すると、無効電力の出力を当該力率に応じて上昇させる。
【0055】
第2無効電力算出部23の他の構成要素の説明は後述し、
図1に戻る。系統安定化用無効電力算出部231により算出された無効電力は第2無効電力として、
図1の無効電力注入量算出部24にそのまま出力されることを前提に説明を続ける。
【0056】
無効電力注入量算出部24は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力と、第2無効電力算出部23により算出された第2無効電力に基づいて、インバータ部10から出力する交流電力に注入する無効電力(以下適宜、目標無効電力という)の注入量を算出する。最も単純な例では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力と、第2無効電力算出部23により算出された第2無効電力を加算して、目標無効電力の注入量を算出する。
【0057】
電流制御部25は、設定された運転力率に応じた無効電力の注入量に、無効電力注入量算出部24から入力される目標無効電力の注入量を加算した最終的な無効電力の注入量をもとに電流指令値を生成する。
【0058】
電流制御部25は基本制御として、インバータ部10の入力電圧(直流バスの電圧)が目標電圧を維持するように電流指令値を生成する。すなわち、分散型電源1から電力変換装置2に入力される電力量と、電力変換装置2から負荷4または系統3に出力される電力量が平衡するように電流指令値を生成する。電流制御部25は、基本制御により生成した電流指令値を、最終的な無効電力の注入量に応じて調整する。電流制御部25は、調整した電流指令値をインバータ部10の駆動部に出力して、インバータ部10に含まれる複数のスイッチング素子のデューティ比を制御する。
【0059】
単独運転検出部26は、系統3の周波数を監視し、系統周波数の変化が単独運転検出用のしきい値を越えると単独運転状態と判定し、インバータ部10を停止させる。単独運転検出部26は、系統周波数検出部31により検出される周波数の変化を用いて単独運転を検出してもよいし、第1周波数偏差算出部221により算出される周波数偏差を用いて単独運転を検出してもよい。
【0060】
図7(a)-(b)は、単独運転検出のための無効電力注入機能と、系統安定化のための無効電力注入機能が併用される場合の課題を説明するための図である。
図7(a)は、単独運転検出のための無効電力注入機能のみが動作している場合の周波数と無効電力注入量の推移例を示す図である。周波数偏差の検出により、周波数フィードバックによる進み無効電力の注入が開始すると、系統周波数の上昇が助長される。周波数変化がしきい値を越えると単独運転が検知される。
【0061】
図7(b)は、単独運転検出のための無効電力注入機能と、系統安定化のための無効電力注入機能の両方が動作している場合の周波数と無効電力注入量の推移例を示す図である。
図7(a)と同様に、周波数偏差の検出により、周波数フィードバック制御による進み無効電力の注入が開始される。
図7(b)に示す例では、周波数フィードバック制御による進み無効電力の注入による系統周波数と系統電圧の上昇に応じて、Volt-Var制御による遅れ無効電力の注入が開始される。このVolt-Var制御による遅れ無効電力の注入により、周波数フィードバック制御による進み無効電力の注入量の一部が相殺される。これにより、系統周波数の変化が遅くなり、単独運転の検出が遅れる。すなわち、系統安定化のための無効電力注入が、単独運転検出のための無効電力注入に影響を及ぼし、単独運転を規定時限内に検出できないことがあった。
【0062】
これに対して、系統安定化のための無効電力注入のランプレートを、単独運転検出に影響を及ぼさない傾きに設定することが考えられる。ランプレートは、無効電力の急激な変化を抑制するための変化率[var/s]を規定したパラメータである。しかしながら、ランプレートにより無効電力の変化率を抑制すると、系統安定化のための無効電力注入の変化量が小さくなり、系統変化に対する追従性が低下する。本実施の形態は、この系統安定化のための無効電力注入機能における系統変化に対する追従性低下に対する対策が施された電力変換装置2を提供する。
【0063】
まず、系統安定化のための無効電力注入機能における系統変化に対する追従性低下に対する対策を、無効電力注入量算出部24で行う例を説明する。上述したように、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力と、第2無効電力算出部23により算出された第2無効電力に基づいて、目標無効電力を算出する。
【0064】
目標無効電力の第1の算出方法では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力と、第2無効電力算出部23により算出された第2無効電力を加算して、目標無効電力を算出する。
【0065】
図8は、比較例に係る目標無効電力の注入量の算出方法を説明するためのフローチャートである。第1無効電力算出部22は、周波数フィードバック注入用の無効電力をもとに、または周波数フィードバック注入用の無効電力とステップ注入用の無効電力をもとに、第1無効電力を算出する(S10)。第2無効電力算出部23は、系統電圧を安定化させるための第2無効電力を算出する(S11)。無効電力注入量算出部24は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力と、第2無効電力算出部23により算出された第2無効電力に基づいて(例えば、両者を加算して)、目標無効電力を算出する(S12)。
【0066】
図9は、実施の形態に係る目標無効電力の注入量の算出方法を説明するためのフローチャートである。第1無効電力算出部22は、周波数フィードバック注入用の無効電力をもとに、または周波数フィードバック注入用の無効電力とステップ注入用の無効電力をもとに、第1無効電力を算出する(S20)。第2無効電力算出部23は、系統電圧を安定化させるための第2無効電力を算出する(S21)。
【0067】
無効電力注入量算出部24は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力の変化量を算出する(S22)。無効電力注入量算出部24は、第2無効電力算出部23により算出された第2無効電力の変化量を算出する(S23)。無効電力注入量算出部24は、第1無効電力の変化方向と第2無効電力の変化方向との関係性を特定する(S24)。無効電力注入量算出部24は、第1無効電力、第2無効電力、および両者の変化方向の関係性をもとに、目標無効電力を算出する(S25)。以下、当該変化方向の関係性を加味した目標無効電力の決定方法の具体例を説明する。
【0068】
第1具体例では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力と第2無効電力が同じ方向に変化している場合、第1無効電力と第2無効電力のうち、変化量が大きい方の無効電力を目標無効電力として選択する。
【0069】
第2具体例では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力と第2無効電力が同じ方向に変化している場合、第1無効電力と第2無効電力のうち、第1無効電力を目標無効電力として選択する。
【0070】
第3具体例では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力と第2無効電力が同じ方向に変化している場合であって、第1無効電力と第2無効電力の変化量の大きい方の無効電力が、第1無効電力の上限値と下限値の範囲内にある場合、変化量が大きい方の無効電力を選択する。無効電力注入量算出部24は、第1無効電力と第2無効電力が同じ方向に変化している場合であって、第1無効電力と第2無効電力の変化量の大きい方の無効電力が、第1無効電力の上限値と下限値の範囲を超過している場合、進み方向に超過していれば第1無効電力の上限値を目標無効電力に決定し、遅れ方向に超過していれば第1無効電力の下限値を目標無効電力に決定する。
【0071】
本実施の形態では、第1無効電力の上限値と下限値は±2.5p.u.(上記
図3に示した例では±1kvar)に設定される。すなわち、第1無効電力と第2無効電力の変化量の大きい方の無効電力が、第1無効電力の上限値または下限値を超過している場合、+1kvarまたは-1kvarに目標無効電力がクリップされる。
【0072】
第4具体例では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力の絶対値が増加方向(進み位相で増加方向または遅れ位相で減少方向)に変化している場合、第1無効電力を選択し、第1無効電力の絶対値が減少方向(進み位相で減少方向または遅れ位相で増加方向)に変化している場合、第2無効電力を選択する。
【0073】
図10は、第4具体例に係る目標無効電力の決定方法をグラフで示した図である。第1無効電力の進み位相で増加方向(1)または遅れ位相で減少方向(2)の場合、第1無効電力が選択される。第1無効電力の進み位相で減少方向(3)または遅れ位相で増加方向(4)の場合、第2無効電力が選択される。
【0074】
第5具体例では、無効電力注入量算出部24は、第1無効電力と第2無効電力が逆方向に変化している場合であって、第1無効電力の絶対値が増加方向(進み位相で増加方向または遅れ位相で減少方向)に変化している場合、第1無効電力を選択し、第1無効電力の絶対値が減少方向(進み位相で減少方向または遅れ位相で増加方向)に変化している場合、第2無効電力を選択する。第1無効電力と第2無効電力が逆方向に変化している場合は、第1~第3具体例のいずれかにより、目標無効電力を決定する。
【0075】
次に、系統安定化のための無効電力注入機能における系統変化に対する追従性低下に対する対策を、第2無効電力算出部23で行う例を説明する。以下に示す例では、無効電力注入量算出部24は、
図8に示した比較例に係る目標無効電力の算出方法を含み、上述したいずれの目標無効電力の算出方法を採用してもよい。
【0076】
第2無効電力算出部23は、単独運転検出のための無効電力注入機能が、系統安定化のための無効電力注入機能から受ける干渉の影響度を低減するように、第2無効電力を算出する。第2無効電力算出部23は、系統状態の観測条件に応じて第2無効電力の算出値に制限を加える。第2無効電力算出部23は、第1無効電力と第2無効電力が逆方向に変化している場合、系統状態の観測条件に応じて第2無効電力の算出値に制限を加え、第1無効電力と第2無効電力が同じ方向に変化している場合、第2無効電力の算出値に制限を加えない。
【0077】
第2無効電力算出部23は、第2無効電力の算出値に制限を加える場合、第2無効電力の算出値を0varとしてもよい。また、第2無効電力算出部23は、第2無効電力の算出値に制限を加える場合、第2無効電力の算出値を、単独運転検出機能への影響を無視できる変化量を超えないように制限してもよい。また、第2無効電力算出部23は、第2無効電力の算出値に制限を加える場合、第2無効電力の算出値を、無制限の変化量から単独運転検出機能への影響を無視できる変化量までの範囲で、段階的に制限してもよい。
【0078】
単独運転検出機能への影響を無視できる変化量として、例えば、系統連系試験方法通則で認められている値を使用することができる。系統連系試験方法通則の潮流による力率切替試験では、力率1と力率0.8との間の切り替えを、80~100sで行うことが規定されている。この場合、順潮流時力率1.0と逆潮流時力率0.8の間の無効電力変化量が最大変化量となる。
【0079】
順潮流時力率1.0(最大力率)のときの無効電力は0p.u.=0varとなり、逆潮流時力率0.8(最小力率)のときの無効電力は0.6p.u.となる。以上から、系統1周期単位での無効電力の変化量は下記(式19)で表される。
0.6p.u.÷50Hz÷80s=0.00015p.u./s ・・・(式19)
0.6(=0.6-0.0)p.u.は、最大無効電力変化量
50Hzは、60Hzより少ないサイクル数で、80sは、最短変化時間であることから最大変化量は0.00015p.u./sとなる。
【0080】
0.00015p.u.は、周波数フィードバックによる無効電力の注入量の上下限である±0.25p.u.およびステップ注入による無効電力の注入量の上限である0.1p.u.に対して、大幅に少ない量であり、単独運転検出機能への影響を無視できる変化量である。
【0081】
以下、
図4に戻り、具体的に説明する。系統安定化用無効電力算出部231は、外部設定された無効電力の指令値、外部設定された力率の指令値、Volt-Var制御、または動的無効電流制御に基づき、第2無効電力を算出する。
【0082】
変化方向判定部233aは、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力の変化方向と、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力の変化方向を比較する。両者の変化方向が逆の場合、系統安定化用無効電力補正部234は、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力を、第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より緩和された第2観測条件に基づき、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する。第2観測条件には、第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より時間的に先に発動する条件が設定される。第1観測条件と第2観測条件の具体例は後述する。
【0083】
系統安定化用無効電力補正部234は、第1無効電力の変化方向と第2無効電力の変化方向が逆の場合であって、系統状態が第2観測条件を満たした場合、第2無効電力の変化量を、単独運転検出機能への影響を無視できる変化量を超えないように制限する。系統安定化用無効電力補正部234は、補正後の第2無効電力を無効電力注入量算出部24に出力する。
【0084】
第1無効電力の変化方向と第2無効電力の変化方向が同じ場合、系統安定化用無効電力補正部234は、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力を、系統状態の第2観測条件に関わらず補正しない。系統安定化用無効電力補正部234は、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力を、そのまま無効電力注入量算出部24に出力する。
【0085】
図11(a)-(b)は、単独運転検出のための無効電力注入機能によりステップ注入される第1無効電力と、外部設定された無効電力の指令値に応じて注入される第2無効電力が干渉する場合の具体例を示す図である。
【0086】
図12(a)-(d)は、
図11(a)-(b)に示した状態における無効電力決定方法の具体例を示す図である。
図12(a)は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力に、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力をそのまま加算して、目標無効電力を算出する例である。この例では、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力の最大変化量が、目標無効電力にそのまま反映される。
【0087】
図12(b)は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力に、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力の変化量を制限して加算する例である。この例では、系統状態の第2観測条件を満足した時点で、第2無効電力の変化量が、単独運転検出機能への影響を無視できる変化量(上述した例では、0.00015[p.u./s])に制限される。
【0088】
図12(c)は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力に、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力の変化量を制限して加算する別の例である。この例では、段階的な複数の第2観測条件が設定される。各段階の第2観測条件を満足した時点で、無制限から単独運転検出機能への影響を無視できる変化量の範囲で、第2無効電力の変化量が段階的に制限されていく。
【0089】
図12(d)は、第1無効電力算出部22により算出された第1無効電力に、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力の変化量を制限して加算するさらに別の例である。この例では、系統状態の第2観測条件を満足した時点で、第2無効電力が0varに制限される。
【0090】
図13は、第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より時間的に先に満たす第2観測条件を設定する意義を説明するための図である。系統状態に実際に変化が発生してから、その変化に応じて単独運転検出のための第1無効電力の注入量が変化するまでにはタイムラグがある。そのタイムラグが大きくなればなるほど、系統安定化のための逆方向の第2無効電力が注入される場合、単独運転検出のための第1無効電力の注入効果が低減される。その場合、単独運転を早期に正しく検出できなくなるリスクが増加する。
【0091】
図4に戻る。ステップ注入機能により第1無効電力が算出される場面では、第1観測条件は、ステップ注入の開始条件を示す。第2観測条件は、第1観測条件と同じ条件に設定されてもよいし、第1観測条件より前に発動する条件に設定されてもよい。第2観測条件は、段階的に複数設定されてもよい。その場合、系統状態がステップ注入の開始条件(第1観測条件)に近づくほど、第2無効電力の変化量の最大値を段階的に小さくしていく。これにより、系統状態が第2観測条件から第1観測条件に近づいて行くほど第2無効電力の変化量が緩やかになる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0092】
第2ステップ注入条件判定部233cは、周波数偏差が0.01Hz以内であり、かつ下記(式20)-(式21)の条件を全て満たす場合、第2観測条件を満たしたと判定する。また、第2ステップ注入条件判定部233cは、周波数偏差が0.01Hz以内であり、かつ下記(式20)の条件を満たす場合、第2観測条件を満たしたと判定してもよい。なお、下記(式20)を下記(式22)に置き換えてもよい。
(Nh0-Nh_ave)>2V ・・・(式20)
(Nh1-Nh_ave)>-0.5V ・・・(式21)
(Nh0-Nh_ave)>1V ・・・(式22)
【0093】
いずれの場合でも、上述した(式4)-(式9)の条件を全て満たす必要がある第1観測条件と比較して、時間や電圧に関する条件が緩和されており、第2観測条件は第1観測条件より前に発動する。
【0094】
周波数フィードバック機能により第1無効電力が算出される場面では、第2観測条件で使用される周波数偏差の第2測定値に、第1観測条件で使用される周波数偏差の第1測定値より、周波数変化に対する感度が高い測定値が使用される。すなわち、第2測定値のほうが第1測定値より系統3の周波数変動を早く検知することができる。
【0095】
第2観測条件で使用される周波数偏差の第2測定値として、周波数変化に対する感度が異なる段階的な複数の値が算出されてもよい。算出された第2測定値が第1測定値に近いほど、第2無効電力の変化量の最大値を小さく設定する。これにより、第2測定値が第1測定値に近づくほど、第2無効電力の変化量が緩やかになる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0096】
上述した第1周波数偏差算出部221は、最新周期から200ms過去の時点における320ms分の移動平均値と、最新周期から40ms分の移動平均値との差をもとに、周波数偏差の第1測定値を算出する。
【0097】
これに対して、第2周波数偏差算出部232は、最新周期から100ms過去の時点における320ms分の移動平均値と、最新周期から40ms分の移動平均値との差をもとに、周波数偏差の第2測定値を算出する。また、第2周波数偏差算出部232は、最新周期から200ms過去の時点における100ms分の移動平均値と、最新周期から40ms分の移動平均値との差をもとに、周波数偏差の第2測定値を算出してもよい。また、第2周波数偏差算出部232は、最新周期から100ms過去の時点における100ms分の移動平均値と、最新周期から40ms分の移動平均値との差をもとに、周波数偏差の第2測定値を算出してもよい。いずれの場合も、第2測定値は、系統3の周波数変化に対する感度が第1測定値より高くなる。
【0098】
周波数偏差条件判定部233bは、上記周波数偏差-無効電力特性を参照して、第2周波数偏差算出部232により算出された周波数偏差をもとに、周波数フィードバック注入用の無効電力を算出する。周波数偏差条件判定部233bは、現在の第1無効電力の算出値と、周波数偏差算の第2測定値に基づき算出された無効電力の算出値を比較する。現在の第1無効電力の算出値には、周波数フィードバック注入用無効電力算出部226の出力値を用いてもよいし、無効電力決定部228の出力値を用いてもよい。
【0099】
系統安定化用無効電力補正部234は、第2測定値に基づき算出された無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より大きい場合、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力を、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する。すなわち、第2測定値に基づき算出された無効電力が、現在の第1無効電力に対して、進み位相で増加方向または遅れ位相で減少方向にある場合、第2無効電力を補正する。系統安定化用無効電力補正部234は、第2測定値に基づき算出された無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値以下の場合、第2無効電力を補正しない。
【0100】
また、系統安定化用無効電力補正部234は、第2測定値に基づき算出された無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より第1設定値以上大きい場合、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力を、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正してもよい。系統安定化用無効電力補正部234は、第2測定値に基づき算出された無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より第1設定値以上大きくない場合、第2無効電力を補正しない。
【0101】
また、系統安定化用無効電力補正部234は、周波数偏差の第2測定値の絶対値が、周波数偏差の第1測定値の絶対値より第2設定値以上大きい場合、系統安定化用無効電力算出部231により算出された第2無効電力を、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正してもよい。系統安定化用無効電力補正部234は、周波数偏差の第2測定値の絶対値が、周波数偏差の第1測定値の絶対値より第2設定値以上大きくない場合、第2無効電力を補正しない。
【0102】
図14(a)-(c)は、周波数偏差の第2測定値に基づき、第2無効電力を補正する場合の変更条件の具体例を示した図である。
図14(a)は、第2測定値に基づき算出された無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より少しでも大きい場合に、第2無効電力を補正する場合の変更条件の例を示している。
図14(b)は、第2測定値に基づき算出された無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より第1設定値以上大きい場合に、第2無効電力を補正する場合の変更条件の例を示している。
図14(c)は、周波数偏差の第2測定値の絶対値が、周波数偏差の第1測定値の絶対値(現在値)より第1設定値以上大きい場合に、第2無効電力を補正する場合の変更条件の例を示している。
【0103】
上述した無効電力発振抑制制御により能動機能待機状態に設定されている場合、第2無効電力算出部23は、第2無効電力の算出値に制限を加えない。能動機能通常状態に設定されている場合、第2無効電力算出部23は、第2無効電力の算出値を、必要に応じて単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する。
【0104】
能動機能待機状態から能動機能通常状態へ遷移する切替条件(能動機能待機状態の解除条件)を第1観測条件とするとき、第2観測条件は、第1観測条件と同じ条件に設定されてもよいし、第1観測条件より前に発動する条件に設定されてもよい。第2観測条件は、段階的に複数設定されてもよい。その場合、系統状態が第2観測条件から第1観測条件に近づくほど、第2無効電力の変化量の最大値を段階的に小さくしていく。これにより、系統状態が第2観測条件から第1観測条件に近づくほど、第2無効電力の変化量が緩やかになる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0105】
第2能動待機解除条件判定部233dは、高調波電圧算出部222により算出された高調波電圧が、上記(式16)-(式17)の条件を全て満たす場合、能動機能待機状態を解除する。第1能動待機解除条件判定部224では、Nh_aveiに、iサイクル前の時点において3サイクル前から5サイクル前までの3個の高調波電圧平均値を使用したが、第2能動待機解除条件判定部233dでは、Nh_aveiに、iサイクル前の時点において2サイクル前から4サイクル前までの3個の高調波電圧平均値を使用する。
【0106】
第1能動待機解除条件判定部224では、直近100ms期間の100ms期間最大値を除外した、(過去900ms分の100ms期間最大値)+1[V]を、しきい値αに設定したが、第2能動待機解除条件判定部233dでは、直近100ms期間の100ms期間最大値を除外した、(過去400ms分の100ms期間最大値)+1[V]を、しきい値αに設定してもよい。
【0107】
また、第2能動待機解除条件判定部233dは、高調波電圧算出部222により算出された高調波電圧が、上記(式16)の条件を満たす場合、能動機能待機状態を解除してもよい。上記(式17)の条件を満たすか否かは問わない。
【0108】
また、第2能動待機解除条件判定部233dは、高調波電圧算出部222により算出された高調波電圧が、下記(式23)の条件を満たす場合、能動機能待機状態を解除してもよい。
(Nh0-Nh_ave0)>α-1 ・・・(式23)
【0109】
いずれの場合でも、第1観測条件と比較して、時間、電圧、オートチューニングの少なくとも1つに関する条件が緩和されており、第2観測条件は第1観測条件より前に発動する。
【0110】
以上説明したように本実施の形態によれば、系統安定化のための無効電力注入が、単独運転検出のための無効電力注入に影響を及ぼし、単独運転を規定時限内に検出できなくなることを防止することができる。また、単独運転検出のための第1無効電力の変化方向と、系統安定化のために第2無効電力の変化方向が同じ場合は、第2無効電力の注入量に制限を加えず、両者の変化方向が逆の場合に、必要に応じて第2無効電力の注入量に制限を加える。これにより、系統安定化のための無効電力注入機能における系統変化に対する追従性低下を最小限に抑えることができる。以上により、単独運転の早期検出の要請と、系統変化に対する追従性の確保の要請を両立することができる。
【0111】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0112】
上述した実施の形態では、周波数偏差、高調波電圧の算出、周波数フィードバック注入量の算出、ステップ注入量の算出、外乱検知、能動機能待機状態の解除について、JEM1498規格に準拠した例を説明したが、JEM1498規格に準拠した手法に限定されるものでなく、メーカ独自の手法を採用してもよい。
【0113】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0114】
[項目1]
直流電力を交流電力に変換し、変換した前記交流電力を電力系統(3)に出力するインバータ部(10)を制御する制御装置(20)であって、
単独運転を検出するために注入する第1無効電力を算出する第1無効電力算出部(22)と、
前記電力系統(3)を安定化させるために注入する第2無効電力を算出する第2無効電力算出部(23)と、
前記第1無効電力算出部(22)により算出された第1無効電力と、前記第2無効電力算出部(23)により算出された第2無効電力に基づいて、前記インバータ部(10)から出力する交流電力に注入する無効電力の注入量を算出する無効電力注入量算出部(24)と、を備え、
前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2無効電力の算出値を、前記第1無効電力の算出に使用される系統状態の第1観測条件より緩和された第2観測条件に基づき、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正するか否か決定する、
制御装置(20)。
これによれば、系統安定化のための第2無効電力の注入により、単独運転検出機能が阻害されることを防止することができる。
[項目2]
前記第1無効電力算出部(22)により算出された第1無効電力の変化方向と、前記第2無効電力算出部(23)により算出された第2無効電力の変化方向が逆の場合で、前記系統状態の第2観測条件を満たした場合、前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2無効電力の算出値を、単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正し、
前記第1無効電力算出部(22)により算出された第1無効電力の変化方向と、前記第2無効電力算出部(23)により算出された第2無効電力の変化方向が同じ場合、前記系統状態の第2観測条件を満たした場合でも、前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2無効電力の算出値を補正しない、
項目1に記載の制御装置(20)。
これによれば、第1無効電力の変化方向と第2無効電力の変化方向が同じ場合は、第2無効電力の注入量を制限しないことにより、第2無効電力の注入による系統安定化機能の制限を最小限に抑えることができる。
[項目3]
前記第2無効電力算出部(23)は、前記系統状態が第2観測条件を満たした場合、前記第2無効電力の変化量を、前記単独運転検出機能への影響を無視できる変化量を超えないように制限する、
項目1または2に記載の制御装置(20)。
これによれば、第1無効電力の変化より先に第2無効電力を変化させることができ、第1無効電力の変化時に、第2無効電力により第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目4]
前記第1無効電力算出部(22)は、
周波数変化を助長するためのステップ注入用の前記第1無効電力を算出するステップ注入用無効電力算出部(227)を含む、
項目1から3のいずれか1項に記載の制御装置(20)。
これによれば、系統安定化のための第2無効電力の注入により、ステップ注入による単独運転検出機能が阻害されることを防止することができる。
[項目5]
前記第2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記ステップ注入の開始条件より前に発動する条件である、
項目4に記載の制御装置(20)。
これによれば、第1無効電力のステップ注入開始前から、第2無効電力の注入量を制限させることができ、ステップ注入開始時に、第2無効電力によりステップ注入用の第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目6]
前記第2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記ステップ注入の開始条件より前に発動する条件であり、かつ段階的な複数の条件を有し、
前記第2無効電力算出部(23)は、前記系統状態が前記ステップ注入の開始条件に近づくほど、前記第2無効電力の変化量の最大値を段階的に小さくする、
項目4に記載の制御装置(20)。
これによれば、第1無効電力のステップ注入開始前から、第2無効電力の注入量を滑らかに制限させることができ、ステップ注入開始時に、第2無効電力によりステップ注入用の第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目7]
前記第1無効電力算出部(22)は、
前記電力系統(3)の周波数偏差に応じた前記第1無効電力を算出する周波数フィードバック注入用無効電力算出部(226)を含む、
項目1から6のいずれか1項に記載の制御装置(20)。
これによれば、系統安定化のための第2無効電力の注入により、周波数フィードバックによる単独運転検出機能が阻害されることを防止することができる。
[項目8]
前記第2観測条件で使用される周波数偏差の第2測定値は、前記第1観測条件で使用される周波数偏差の第1測定値より、周波数変化に対する感度が高い測定値である、
項目7に記載の制御装置(20)。
これによれば、周波数フィードバックによる第1無効電力の変化より先に第2無効電力を変化させることができ、第1無効電力の変化時に、第2無効電力により第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目9]
前記第2観測条件で使用する周波数偏差の第2測定値は、前記第1観測条件として使用される周波数偏差の第1測定値より、周波数変化に対する感度が高い測定値であり、前記第2測定値は段階的に複数算出され、
前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2測定値が前記第1測定値に近いほど、前記第2無効電力の変化量の最大値を小さくする、
項目7に記載の制御装置(20)。
これによれば、周波数フィードバックによる第1無効電力の変化より先に第2無効電力を滑らかに変化させることができ、第1無効電力の変化時に、第2無効電力により第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目10]
前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2測定値に基づく無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より大きい場合、前記第2無効電力の算出値を、前記単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する、
項目8または9に記載の制御装置(20)。
これによれば、周波数フィードバックによる第1無効電力の変化が、助長される方向に少しでも発生する場合に、第2無効電力の注入量を制限することができる。
[項目11]
前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2測定値に基づく無効電力の絶対値が、現在の第1無効電力の絶対値より第1設定値以上大きい場合、前記第2無効電力の算出値を、前記単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する、
項目8または9に記載の制御装置(20)。
これによれば、周波数フィードバックによる第1無効電力が助長される方向に一定値以上変化した場合に、第2無効電力の注入量を制限することにより、第2無効電力の注入量の制限機能に不感帯を設けることができる。
[項目12]
前記第2無効電力算出部(23)は、前記第2測定値の絶対値が、前記第1測定値の絶対値より第2設定値以上大きい場合、前記第2無効電力の算出値を、前記単独運転検出機能への影響度が低下された値に補正する、
項目8または9に記載の制御装置(20)。
これによれば、周波数フィードバックによる第1無効電力が助長される方向に一定値以上変化した場合に、第2無効電力の注入量を制限することにより、第2無効電力の注入量の制限機能に不感帯を設けることができる。
[項目13]
前記第1無効電力算出部(22)は、
前記単独運転検出機能に含まれる周波数フィードバック機能を無効にする待機状態と、前記周波数フィードバック機能を有効にする通常状態を切り替えて、無効電力の発振を抑制する無効電力発振抑制制御部(223)をさらに含む、
項目1から12のいずれか1項に記載の制御装置(20)。
これによれば、系統安定化のための第2無効電力の注入により、単独運転検出機能に付随する無効電力発振抑制機能が阻害されることを防止することができる。
[項目14]
前記第2無効電力算出部(23)は、前記待機状態のとき、前記第2無効電力の算出値を補正しない、
項目13に記載の制御装置(20)。
これによれば、単独運転検出機能が無効になる待機状態のとき、第2無効電力の注入量を制限しないことにより、第2無効電力の注入による系統安定化機能の制限を最小限に抑えることができる。
[項目15]
前記2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記待機状態から前記通常状態へ遷移する切替条件を満たす前に発動する条件であり、
前記第2無効電力算出部(23)は、前記系統状態が第2観測条件を満たした場合、前記第2無効電力の算出値の補正を開始する、
項目13に記載の制御装置(20)。
これによれば、待機状態の解除に先立ち、第2無効電力を変化させることができ、待機状態から通常状態への切り替わり時に、第2無効電力により第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目16]
前記2観測条件は、前記第1観測条件に含まれる前記待機状態から前記通常状態へ遷移する切替条件を満たす前に発動する条件であり、かつ段階的な複数の条件を有し、
前記第2無効電力算出部(23)は、前記系統状態が前記切替条件に近づくほど、前記第2無効電力の変化量の最大値を小さくする、
項目13に記載の制御装置(20)。
これによれば、待機状態の解除に先立ち、第2無効電力を滑らかに変化させることができ、待機状態から通常状態への切り替わり時に、第2無効電力により第1無効電力が大きく相殺されることを防止することができる。
[項目17]
直流電力を交流電力に変換し、変換した前記交流電力を電力系統(3)に出力するインバータ部(10)と、
前記インバータ部(10)を制御する項目1から13のいずれか1項に記載の制御装置(20)と、
を備える電力変換装置(2)。
これによれば、系統安定化のための第2無効電力の注入により、単独運転検出機能が阻害されることが防止された電力変換装置(2)を実現できる。
【符号の説明】
【0115】
1 分散型電源、 2 電力変換装置、 3 系統、 4 負荷、 5 サーバ、 10 インバータ部、 20 制御部、 21 無効電力注入部、 22 第1無効電力算出部、 221 第1周波数偏差算出部、 222 高調波電圧算出部、 223 無効電力発振抑制制御部、 224 第1能動待機解除条件判定部、 225 第1ステップ注入条件判定部、 226 周波数フィードバック注入用無効電力算出部、 227 ステップ注入用無効電力算出部、 228 無効電力決定部、 23 第2無効電力算出部、 231 系統安定化用無効電力算出部、 232 第2周波数偏差算出部、 233 条件判定部、 233a 変化方向判定部、 233b 周波数偏差条件判定部、 233c 第2ステップ注入条件判定部、 233d 第2能動待機解除条件判定部、 234 系統安定化用無効電力補正部、 24 無効電力注入量算出部、 25 電流制御部、 26 単独運転検出部、 31 系統周波数検出部、 32 系統電圧検出部、 40 通信部。