(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】サーミスタ層、電池用電極、電池及びサーミスタ
(51)【国際特許分類】
H01C 7/02 20060101AFI20241129BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20241129BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241129BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01C7/02
H01M4/02 Z
H01M4/13
H01M4/04 A
(21)【出願番号】P 2022578006
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2021003539
(87)【国際公開番号】W WO2022162940
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231202
【氏名又は名称】日本黒鉛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】辻 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】村田 学
(72)【発明者】
【氏名】川上 尚
(72)【発明者】
【氏名】今井 康人
(72)【発明者】
【氏名】小島 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】福永 孝夫
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-028301(JP,A)
【文献】特開2002-043104(JP,A)
【文献】特開2007-294940(JP,A)
【文献】特開2002-008630(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003350(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/02
H01M 4/02
H01M 4/13
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流パスに配置されるように設けられたサーミスタ層であって、
前記サーミスタ層は、感熱粒子と、前記感熱粒子の表面を覆う複数の導電性粒子と、複数の導電性粒子を接着するバインダとを含み、
複数の導電性粒子は、導電ネットワークを形成し、
前記感熱粒子は、少なくともその表面層が熱可塑性樹脂である粒子であり、
前記熱可塑性樹脂は、前記バインダよりも低い温度で軟化する樹脂であり、
前記サーミスタ層は、前記熱可塑性樹脂が軟化し変形することにより高抵抗化するように設けられたことを特徴とするサーミスタ層。
【請求項2】
複数の導電性粒子は、前記感熱粒子の表面を覆う表面コーティング層を形成し、
前記表面コーティング層は、前記導電ネットワークが形成された層であり、かつ、前記感熱粒子の平均粒径よりも薄い厚さを有する請求項1に記載のサーミスタ層。
【請求項3】
前記感熱粒子は、膨張剤を前記熱可塑性樹脂でコーティングしたもの、熱膨張性マイクロカプセル、又は熱可塑性樹脂粒子である請求項1又は2に記載のサーミスタ層。
【請求項4】
複数の導電性粒子の平均粒径は、20nm以上100μm以下であり、
前記感熱粒子の平均粒径は、2μm以上1000μm以下である請求項1~3のいずれか1つに記載のサーミスタ層。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載のサーミスタ層と、集電シートと、前記集電シート上に設けられた電極活物質層とを備え、
前記サーミスタ層は、前記集電シートと前記電極活物質層との間に配置された電池用電極。
【請求項6】
請求項5の電池用電極と、電解質と、前記電池用電極及び前記電解質とを収容する容器とを備えた電池。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1つのサーミスタ層と、第1導電層と、第2導電層とを備え、
前記サーミスタ層は、第1導電層から前記サーミスタ層を経由して第2導電層に電流が流れるように又は第2導電層から前記サーミスタ層を経由して第1導電層に電流が流れるように配置されたサーミスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタ層、電池用電極、電池及びサーミスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や電池などで、何らかの故障が起こった場合、電流が流れ続け異常発熱が生じる場合がある。このような異常発熱が生じたときに高抵抗化し流れる電流を小さくするPTCサーミスタなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。PTCサーミスタの中に、樹脂層に導電性フィラーを混合した導電性樹脂層を用いたポリマー系PTCサーミスタなどが知られている。サーミスタだけでなく、電池の電極や面状発熱体や熱センサなどに応用される例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PTCサーミスタの電気抵抗が急激に上昇する温度(スイッチング温度)は、使用する結晶性ポリマーの融点によってほぼ決まる。このため、スイッチング温度の設計自由度が小さい。また、結晶性ポリマーの融点よりも低い温度にスイッチング温度を設定することができない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高抵抗化する温度を高い自由度で設計・変更することが可能であり、かつ、優れたサーミスタ特性を有するサーミスタ層を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、電流パスに配置されるように設けられたサーミスタ層を提供する。前記サーミスタ層は、感熱粒子と、前記感熱粒子の表面を覆う複数の導電性粒子と、複数の導電性粒子を接着するバインダとを含み、複数の導電性粒子は、導電ネットワークを形成し、前記感熱粒子は、少なくともその表面層が熱可塑性樹脂である粒子であり、前記熱可塑性樹脂は、前記バインダよりも低い温度で軟化する樹脂であり、前記サーミスタ層は、前記熱可塑性樹脂が軟化し変形することにより高抵抗化するように設けられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のサーミスタ層は、感熱粒子の表面を覆う複数の導電性粒子を含み、複数の導電性粒子は導電ネットワークを形成する。この導電ネットワークによりサーミスタ層は優れた導電性を有することができ、電流パスとなることができる。
前記感熱粒子の表面層又は全体は熱可塑性樹脂である。このため、サーミスタ層の温度が熱可塑性樹脂の軟化点よりも高くなると、感熱粒子の表面層又は全体の熱可塑性樹脂が軟化・変形し、熱可塑性樹脂がサーミスタ層の隙間(例えば、隣接する導電性粒子の間)に入り込んだり、感熱粒子の一部が凹んだりする。この結果、感熱粒子の表面上の複数の導電性粒子により形成された導電ネットワークが変化し又は壊れ、サーミスタ層の高抵抗化が引き起こされる。又は、感熱粒子の表面層又は全体が軟化し変形すると、サーミスタ層と、サーミスタ層に接続する電流パスとの間の界面における接触点が減少する(例えば、サーミスタ層の導電性粒子と導電層との界面に剥離が生じる。また、例えば、サーミスタ層の導電性粒子と導電層との界面に軟化した感熱性樹脂が侵入する)。このため、この界面における電気抵抗が大きくなりサーミスタ層は高抵抗化する。
【0007】
このように、サーミスタ層が高抵抗化することにより、電流パスを流れる電流を小さくすることができ、異常発熱を抑制することができる。従って、本発明のサーミスタ層を過熱保護構造として利用することができる。また、サーミスタ層は、感熱粒子の表面層又は全体の熱可塑性樹脂が軟化し変形する温度で高抵抗化するため、本発明のサーミスタ層が高抵抗化したことを感知することにより、サーミスタ層がその温度に達したことを検知することができる。従って、本発明のサーミスタ層は熱センサとして利用することできる。
また、サーミスタ層に含まれる熱可塑性樹脂の種類や分子量を変更することにより、熱可塑性樹脂が軟化する温度を変更することができるため、サーミスタ層が高抵抗化する温度を高い自由度で設計・変更することが可能である。また、熱可塑性樹脂が軟化する温度は、熱可塑性樹脂の融点に比べ低いため、サーミスタ層が高抵抗化する温度を比較的低い温度に設定することが可能になる。
【0008】
前記熱可塑性樹脂は、バインダよりも低い温度で軟化する樹脂であるため、熱可塑性樹脂が軟化・変形する温度よりも低い温度において、バインダが軟化し導電性粒子により形成された導電ネットワークが変化することを抑制することができる。このため、サーミスタ層は、熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度において優れた導電特性を有することができ、サーミスタ層において電力損失が生じることを抑制することができる。また、サーミスタ層の温度が熱可塑性樹脂の軟化点より高くなると、上述のようにサーミスタ層の電気抵抗値は急激に高くなる。このように、本発明のサーミスタ層は優れたサーミスタ特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態のサーミスタ層を含むサーミスタの概略断面図であり、(b)は複数の導電性粒子で覆われた感熱粒子の概略上面図である。
【
図2】(a)は、熱可塑性樹脂が軟化し変形した後のサーミスタの概略断面図であり、(b)は複数の導電性粒子で覆われた感熱粒子の概略上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態のサーミスタ層を含むサーミスタの概略断面図である。
【
図4】(a)は本発明の一実施形態のサーミスタ層を含む電池用正極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線A-Aにおける正極の概略断面図である。
【
図5】(a)は本発明の一実施形態のサーミスタ層を含む電池用負極の概略平面図であり、(b)は(a)の破線B-Bにおける負極の概略断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態のサーミスタ層を含む電池の概略断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態のサーミスタ層を含むコンデンサの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のサーミスタ層は、電流パスに配置されるように設けられたサーミスタ層である。前記サーミスタ層は、感熱粒子と、前記感熱粒子の表面を覆う複数の導電性粒子と、複数の導電性粒子を接着するバインダとを含み、複数の導電性粒子は、導電ネットワークを形成し、前記感熱粒子は、少なくともその表面層が熱可塑性樹脂である粒子であり、前記熱可塑性樹脂は、前記バインダよりも低い温度で軟化する樹脂であり、前記サーミスタ層は、前記熱可塑性樹脂が軟化し変形することにより高抵抗化するように設けられる。
【0011】
複数の導電性粒子は、感熱粒子の表面を覆う表面コーティング層を形成することが好ましく、表面コーティング層は、導電ネットワークが形成された層であり、かつ、感熱粒子の平均粒径よりも薄い厚さを有することが好ましい。このことにより、熱可塑性樹脂が軟化する温度付近においてサーミスタ層の電気抵抗を急激に大きくすることができ、サーミスタ層のサーミスタ特性を向上させることができる。
前記感熱粒子は、膨張剤を前記熱可塑性樹脂でコーティングしたもの、熱膨張性マイクロカプセル、又は熱可塑性樹脂粒子であることが好ましい。このことにより、サーミスタ層のサーミスタ特性を向上させることができる。
複数の導電性粒子の平均粒径は、20nm以上100μm以下であることが好ましく、前記感熱粒子の平均粒径は、2μm以上1000μm以下であることが好ましい。このことにより、サーミスタ層が優れたサーミスタ特性を有することができる。
【0012】
本発明は、本発明のサーミスタ層と、集電シートと、集電シート上に設けられた電極活物質層とを備える電池用電極も提供する。前記サーミスタ層は、集電シートと電極活物質層との間に配置される。
本発明は、本発明の電池用電極と、電解質と、電池用電極及び電解質とを収容する容器とを備えた電池も提供する。
本発明は、本発明のサーミスタ層と、第1導電層と、第2導電層とを備えるサーミスタも提供する。前記サーミスタ層は、第1導電層からサーミスタ層を経由して第2導電層に電流が流れるように又は第2導電層からサーミスタ層を経由して第1導電層に電流が流れるように配置される。
【0013】
以下、複数の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0014】
第1実施形態
図1(a)は本発明のサーミスタ層を含むサーミスタの概略断面図であり、
図1(b)は複数の導電性粒子で覆われた感熱粒子の概略上面図である。
本実施形態では、本発明のサーミスタ層4を含むサーミスタ10について説明する。
本実施形態のサーミスタ10は、第1導電層2と、サーミスタ層4と、第2導電層3とを備え、電流が第1導電層2からサーミスタ層4を経由して第2導電層3へと流れるように、又は電流が第2導電層3からサーミスタ層4を経由して第1導電層2へと流れるように構成される。このようにサーミスタ層4は、電流パスに配置することができる。
サーミスタ層4は、感熱粒子5と、感熱粒子5の表面を覆う複数の導電性粒子6と、複数の導電性粒子6を接着するバインダとを含み、複数の導電性粒子6は、導電ネットワークを形成し、感熱粒子5は、少なくともその表面層が熱可塑性樹脂である粒子であり、前記熱可塑性樹脂は、前記バインダよりも低い温度で軟化する樹脂であり、サーミスタ層4は、前記熱可塑性樹脂が軟化し変形することにより高抵抗化するように設けられる。
【0015】
サーミスタ10は、温度が高くなると電気抵抗が大きくなるサーミスタである。サーミスタ10は、サーミスタ素子であってもよく、電池用電極、コンデンサ、熱センサ、火災報知器、面状発熱体などに組み込まれたサーミスタであってもよい。
【0016】
第1導電層2又は第2導電層3は、電流パスを構成する。第1導電層2と第2導電層3とは直接接触しないように設けることができる。第1導電層2又は第2導電層3は、金属層であってもよく、半導体層であってもよく、炭素層であってもよく、導電性酸化物層であってもよい。また、第1導電層2又は第2導電層3は、粒子の表面被覆層であってもよく、導電助剤であってもよい。また、第1導電層2は例えば金属箔(厚さ:5μm~5mm)などであり、サーミスタ10の基材となる。
第2導電層3は、サーミスタ層4上に金属箔などの導電体層を重ねることにより形成してもよい。この場合、サーミスタ層4と同じ成分のペーストをサーミスタ層4上に塗布した後サーミスタ層4と導電体層とを接着してもよい。また、第2導電層3は、サーミスタ層4上に塗布法や蒸着法などにより導電体を積層することにより形成してもよい。
【0017】
サーミスタ層4は、温度が高くなると電気抵抗が大きくなる層である。サーミスタ層4は、感熱粒子5と、感熱粒子5の表面を覆う複数の導電性粒子6と、複数の導電性粒子6を接着するバインダとを含む。また、サーミスタ層4は、発泡剤、可塑剤等を含んでもよい。
サーミスタ層4の厚さは、例えば、0.1μm以上300μm以下である。サーミスタ層4は、厚さが不均一な層であってもよい。この場合、サーミスタ層4は、感熱粒子5が存在する箇所が凸部となり、隣接する2つの感熱粒子5の間の箇所が凹部となるように設けることができる。また、サーミスタ層4は、感熱粒子5が実質的に重ならないように設けることができる。また、感熱粒子5の一部がサーミスタ層4から突き出していてもよい。
例えば、サーミスタ層4が電池用電極に組み込まれる場合(後述の第2実施形態を参照)、サーミスタ層4の厚さは、0.1μm以上10μm以下とすることができる。また、サーミスタ層4がサーミスタ素子に組み込まれる場合、サーミスタ層4の厚さは、50μm以上300μm以下とすることができる。
水銀圧入法により測定されるサーミスタ層4の気孔率は、5%以上65%以下であることが好ましい。気孔率が低すぎると、導電性粒子による導電ネットワークが密になり、抵抗上昇が遅くなるので好ましくない。また、気孔率が高すぎると、サーミスタ層の初期抵抗が高くなるので好ましくない。
【0018】
感熱粒子5は、所定の温度を超えると軟化し変形する粒子であり、少なくともその表面層が熱可塑性樹脂である粒子である。感熱粒子5は、熱可塑性樹脂からなる粒子であってもよく、熱可塑性樹脂でコーティングされた粒子であってもよく、熱可塑性樹脂で作られたカプセルであってもよい。例えば、
図1(a)に示したサーミスタ層4に含まれる感熱粒子5は、熱可塑性樹脂からなる粒子(単一素材粒子)であり、
図3(c)に示したサーミスタ層4に含まれる感熱粒子5では、膨張剤7が熱可塑性樹脂の外皮膜8でコーティングされている。
感熱粒子5の形状は、例えば、粒状、繊維状、板状、球状、多孔体、綿状体、凝集体、塊状体などである。感熱粒子5に関しては1種類でも2種類以上の組み合わせでも良い。
サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の平均粒径は、例えば、2μm以上1000μm未満である。感熱粒子5の平均粒径が2μm未満の場合、サーミスタ特性を向上させるためにサーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の量(添加部数)を増やす必要があり、この感熱粒子5の量の増加は、低温時におけるサーミスタ層4の電気抵抗値を増加させる場合がある。また、感熱粒子5の平均粒径が1000μm以上の場合、サーミスタ層4が優れたサーミスタ特性を示さない場合がある。
感熱粒子5の平均粒径は、サーミスタ層4の平均厚さよりも大きくてもよく小さくてもよい。感熱粒子5の平均粒径がサーミスタ層4の平均厚さよりも大きい場合、サーミスタ層4の表面に凹凸ができ、この凹凸が第2導電層3との密着性を向上させることができる。
【0019】
熱可塑性樹脂は、所定の温度(例えば、軟化点)よりも高い温度になると反応が起ることなく軟化して塑性を示し、冷却すると固化する樹脂である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリアセタール、アクリル系樹脂などである。感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂が軟化する温度は、熱可塑性樹脂の種類や分子量を変更することにより調整することができる。この熱可塑性樹脂が軟化する温度はサーミスタ層4の高抵抗化が開始する温度となるため、サーミスタ層4が所望のサーミスタ特性を有するように適した熱可塑性樹脂が選択される。熱可塑性樹脂の軟化点(熱可塑性樹脂が軟化する温度)は、JIS・K2235又はJIS・K0129又はASTM・D127等に記載された測定方法に従って測定される。
また、感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂は、単一種の熱可塑性樹脂であってもよく、複数種の熱可塑性樹脂を混合した樹脂であってもよい。
また、感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂は、バインダとしての作用を有してもよい。
また、感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂には、サーミスタ層4に含まれるバインダが軟化する温度よりも低い温度で軟化する樹脂が選択される。
【0020】
感熱粒子5は、その表面層の熱可塑性樹脂が軟化すると膨張する粒子であってもよい。
例えば、感熱粒子5は、熱分解型化学発泡剤(膨張剤7)を熱可塑性樹脂の外皮膜8でコーティングした粒子である。熱分解型化学発泡剤は、熱によって化学分解してガスを発生する物質である。熱分解型化学発泡剤は、例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p-p'一オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、無機系発泡剤(炭酸水素ナトリウムを含む)、複合発泡剤などである。
感熱粒子5における熱可塑性樹脂と熱分解型化学発泡剤は、熱可塑性樹脂が軟化する温度よりも熱分解型化学発泡剤からガスが発生する温度が低くなるように組み合わせることができる。このような感熱粒子5の温度が高くなっていき、熱分解型化学発泡剤からガスが発生する温度に達すると、感熱粒子5の内部でガスが発生する。しかし、発泡剤は熱可塑性樹脂でコーティングされているため、感熱粒子5の内圧は大きくなるが、感熱粒子5の形状はほとんど変わらない。感熱粒子5の温度がさらに高くなり熱可塑性樹脂が軟化する温度に達すると、感熱粒子5はその内圧により膨張する。
感熱粒子5の熱可塑性樹脂の外皮膜8の厚さは、例えば、0.05μm以上40μm以下とすることができる。
【0021】
また、感熱粒子5は、例えば、熱膨張性マイクロカプセルである。熱膨張性マイクロカプセルは、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシランなどの揮発性有機溶剤(膨張剤7)を熱可塑性樹脂のカプセル(外皮膜8)に封入したものである。膨張剤は、炭化水素系のものが好ましい。
このような感熱粒子5の温度が高くなっていき、揮発性有機溶剤が揮発又は気化すると感熱粒子5の内圧が高くなる。感熱粒子5の温度がさらに高くなり熱可塑性樹脂が軟化する温度に達すると、感熱粒子5はその内圧により膨張する。熱可塑性樹脂からなるカプセル殻(外皮膜8)の厚さは、例えば、0.05μm以上40μm以下とすることができる。
また、感熱粒子5は、多孔体や綿状体の内部に球状体や塊状体などを内包するものや表面に繊維状のものが付着したもの(コアシェル構造)であってもよい。
【0022】
導電性粒子6は、導電性を有する粒子であれば特に限定されないが、例えば、炭素粒子(ハードカーボン、ソフトカーボン、黒鉛、カーボンブラック)、金属粒子、導電性ガラス粒子、酸化物導電体粒子(例えば、ITO粒子)などである。
導電性粒子6の平均粒径は、20nm以上100μm以下とすることができる。導電性粒子6の平均粒子径が20nm未満の場合、感熱粒子5が軟化し形状が変化しても電気抵抗の上昇が少ない、また、100μmより大きい場合、高温度時効果(優れたサーミスタ特性)が出る添加部数ではサーミスタ層4の低温時の電気抵抗が高くなる場合がある。
また、導電性粒子6は、感熱粒子5の表面を覆うように設けられる。また、サーミスタ層4は、導電性粒子6が感熱粒子5の表面を覆うことができる量の導電性粒子6を含む。感熱粒子5の表面の全体が導電性粒子6で覆われていてもよく、感熱粒子5の表面の一部が導電性粒子6で覆われていてもよい。また、感熱粒子5の一部がサーミスタ層4から突き出している場合には、少なくともサーミスタ層4内において感熱粒子5の表面は導電性粒子6で覆われる。
また、感熱粒子5の平均粒径は、導電性粒子6の平均粒径の0.1倍以上10000倍以下とすることができる。
【0023】
サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の量は、100質量部の導電性粒子6に対し、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましい(導電性粒子:感熱粒子=1:0.05~10)。この混合比率は、サーミスタ層4を組み込むデバイスにより異なる。
サーミスタ層4を電池用電極に組み込む場合(第2実施形態参照)、サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の量は、100質量部の導電性粒子6に対し、5質量部以上300質量部以下であることが好ましい(導電性粒子:感熱粒子=1:0.05~3)。
サーミスタ層4を面状発熱体に組み込む場合、サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の量は、100質量部の導電性粒子6に対し、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましい(導電性粒子:感熱粒子=1:0.05~10)。
【0024】
サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の量が100質量部の導電性粒子6に対し5質量部以下である場合、熱可塑性樹脂が軟化し変形したときのサーミスタ層4の電気抵抗の上昇が小さく、サーミスタ層4が優れたサーミスタ特性を示さない場合がある。また、サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5の量が100質量部の導電性粒子6に対し1000質量部以上である場合、サーミスタ層4の電気抵抗が大きくなり、サーミスタ層4で電流パスの電力損失が生じる場合がある。
【0025】
サーミスタ層4に含まれるバインダは、複数の導電性粒子6を接着するバインダである。バインダは、例えば、ポリオレフィン、PVP(ポリビニルピロリドン)、アクリル樹脂、CMC(カルボキシメチルセルロース)、SBR(スチレンブタジエンゴム)などである。また、バインダは、導電性粒子6と感熱粒子5とを接着してもよい。また、バインダは、サーミスタ層4と第1導電層2とを接着してもよい。
このようなバインダにより複数の導電性粒子6を接着することにより、サーミスタ層4中において導電性粒子6の多孔体を形成することができ、導電性粒子6の導電ネットワークを形成することができる。このことにより、サーミスタ層4が高い導電性を有することができる。
サーミスタ層4に含まれるバインダの量は、感熱粒子5と導電性粒子6の合計100質量部に対し、20質量部以上1000質量部以下であることが好ましい。このことにより、サーミスタ層4に含まれる導電性粒子6を接着し導電ネットワークを形成することができる。このバインダの量は、サーミスタ層4が組み込まれる装置に応じて適宜変更することができる。また、バインダが20質量部より少ない場合、サーミスタ層4と基材との密着性が悪くなり、バインダが1000質量部より多い場合、サーミスタ層4の初期抵抗が高くなりすぎる。
【0026】
サーミスタ層4に含まれるバインダには、感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂が軟化する温度よりも低い温度では軟化しないものが選択される。このことにより、熱可塑性樹脂が軟化する温度よりも低い温度において導電性粒子6の導電ネットワークが壊れることを抑制することができ、サーミスタ層4が高い導電性を有することができる。従って、第1導電層2と第2導電層3との間のサーミスタ層4を経由する電流パスにおける電力損失を小さくすることができる。
また、熱可塑性樹脂が軟化する温度がバインダが軟化する温度よりも低くなるため、バインダよりも先に熱可塑性樹脂(感熱粒子5)が軟化し始め、サーミスタ層4の導電性粒子6の接触により形成されている導電ネットワークが熱可塑性樹脂の軟化に伴う感熱粒子5の変形によって壊れる。このことにより、熱可塑性樹脂が軟化する温度付近において、サーミスタ層4の電気抵抗を急激に高くすることができる。
【0027】
サーミスタ層4に含まれる熱可塑性樹脂(感熱粒子5)とバインダとの組み合わせは、サーミスタ層4が所望の温度で作動する(高抵抗化する)ように適宜選択することができる。
熱可塑性樹脂が軟化する温度は、バインダが軟化する温度よりも50℃以上低い温度であることが好ましい。
例えば、サーミスタ層4がリチウムイオン電池の電池用電極に組み込まれる場合(第2実施形態参照)、セパレータのシャットダウン機能が作動する温度が約180℃であるため、感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂が軟化する温度が130℃~150℃となるように熱可塑性樹脂を選択することができる。また、サーミスタ層4に含まれるバインダには200℃~220℃で軟化するバインダを選択することができる。
【0028】
サーミスタ層4が面状発熱体又は火災報知器用熱センサに組み込まれる場合、サーミスタ層4の所望作動温度が70℃~150℃であるため、感熱粒子5に含まれる熱可塑性樹脂が軟化する温度が50℃~130℃となるように熱可塑性樹脂を選択することができる。また、サーミスタ層4に含まれるバインダには100℃~200℃で軟化するバインダを選択することができる。
【0029】
サーミスタ層4が感熱粒子5の熱可塑性樹脂が軟化する温度よりも低い温度である場合、例えば、
図1(a)のように、感熱粒子5の表面は導電性粒子6で覆われ、複数の導電性粒子6は導電ネットワークを形成する。また、感熱粒子5の表面上においても、
図1(b)のように、複数の導電性粒子6は導電ネットワークを形成する。
【0030】
サーミスタ層4に含まれる導電性粒子6は、感熱粒子5の表面を覆う表面コーティング層11を形成することができる。表面コーティング層11は、導電ネットワークを形成する複数の導電性粒子6から形成された層であり、感熱粒子5の平均粒径よりも薄い厚さを有することができる。表面コーティング層11は、感熱粒子5の表面に沿うような形状を有することができ、表面コーティング層11の外側表面は第2導電層3と接触するように設けることができる。導電性粒子6がこのような表面コーティング層11を形成することにより、感熱粒子5が軟化し変形した際に導電性粒子6の導電ネットワークが容易に壊れ、サーミスタ層4を高抵抗化することができる。
【0031】
サーミスタ層4が感熱粒子5の熱可塑性樹脂が軟化する温度よりも高い温度になると、
図2(a)のように、感熱粒子5は軟化し変形し、熱可塑性樹脂が粒子間の隙間や空隙に入り込んだり、感熱粒子5が凹み空隙9が生じたりする。また、感熱粒子5が変形すると、
図2(b)のように、感熱粒子5の表面上における導電性粒子6の導電ネットワークが壊れる。この結果、サーミスタ層4が高抵抗化し、第1導電層2と第2導電層3との間のサーミスタ層4を経由する電流パスに流れる電流が少なくなる。
【0032】
図3に示したサーミスタ10のように、サーミスタ層4に含まれる感熱粒子5がその表面層の熱可塑性樹脂(外皮膜8)が軟化すると膨張する粒子である場合、サーミスタ層4が感熱粒子5の熱可塑性樹脂が軟化する温度よりも高い温度になると、感熱粒子5の内圧により熱可塑性樹脂の外皮膜8は膨張し、粒子間の隙間や空隙に入り込む。隣接する導電性粒子6の間に入り込んだ熱可塑性樹脂は、導電性粒子6の間の導電的接触を切断し、導電性粒子6の導電ネットワークを壊す。また、感熱粒子5の表面上における導電性粒子6の導電ネットワークも壊れる。この結果、サーミスタ層4が高抵抗化し、第1導電層2と第2導電層3との間のサーミスタ層4を経由する電流パスに流れる電流が少なくなる。
サーミスタ層4は、感熱粒子5とは別に、熱分解型化学発泡剤を含んでもよい。この場合、サーミスタ層4の温度が高くなっていき、熱分解型化学発泡剤からガスが発生する温度に達すると、発泡剤から発生したガスでサーミスタ層4が膨張し、サーミスタ層4の内部に空隙が生じる。サーミスタ層4の温度がさらに高くなり熱可塑性樹脂が軟化する温度に達すると、空隙に感熱粒子5の軟化した熱可塑性樹脂が流れ込み、導電ネットワークが壊れる。このことにより、サーミスタ層4を高抵抗化することができる。
【0033】
サーミスタ層4は、例えば、次のように形成することができる。
導電性粒子6、バインダ、分散剤を溶媒に分散させた後、このスラリーに感熱粒子5を添加する。その後、スラリーの粘度・固形分の量を調整し、塗工用スラリーを調製する。この塗工用スラリーを第1導電層2上に塗工し、塗工膜を乾燥させることによりサーミスタ層4が形成される。
【0034】
第2実施形態
第2実施形態は、本発明のサーミスタ層4が組み込まれた電池用電極(電池用正極又は電池用負極)及びこの電池用電極が組み込まれた電池に関する。
図4(a)は電池用正極の概略平面図であり、
図4(b)は
図4(a)の破線A-Aにおける電池用正極の概略断面図である。
図5(a)は電池用負極の概略平面図であり、
図5(b)は
図5(a)の破線B-Bにおける電池用負極の概略断面図である。
図6は、
図4(a)(b)に示した電池用正極と、
図5(a)(b)に示した電池用負極とが組み込まれた電池の概略断面図である。なお、
図6では、サーミスタ層4を省略している。
電池30は、熱暴走する可能性がある電池であれば特に限定されないが、例えば、非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池など)である。
【0035】
サーミスタ層4については、第1実施形態と同様である。サーミスタ層4に含まれる熱可塑性樹脂は、サーミスタ層4が電池30の正常な充放電を妨げることなく、電池30の熱暴走を防止できるように選択される。例えば、リチウムイオン二次電池では、130℃~150℃でサーミスタ層4が高抵抗化するように熱可塑性樹脂を選択することができる。
【0036】
電池用正極18では、サーミスタ層4は、正極集電シート13と正極活物質層15との間に配置される。サーミスタ層4は、正極集電シート13をコーティングするように設けることができる。また、サーミスタ層4は、正極集電シート13と正極活物質層15とが接触しないように設けることができる。このことにより、過充電や内部短絡などにより電池30が異常発熱した場合、サーミスタ層4を高抵抗化することができ、この高抵抗化したサーミスタ層4により、正極集電シート13と正極活物質層15との間に流れる電流を少なくすることができる。このことにより、電池30が熱暴走することを防止することができる。
なお、正極集電シート13が、第1実施形態の第1導電層2に相当し、正極活物質層15(又は正極活物質層15に含まれる導電性皮膜や導電助剤)が第1実施形態の第2導電層3に相当する。
【0037】
電池用負極19では、サーミスタ層4は、負極集電シート14と負極活物質層16との間に配置される。サーミスタ層4は、負極集電シート14をコーティングするように設けることができる。また、サーミスタ層4は、負極集電シート14と負極活物質層16とが接触しないように設けることができる。このことにより、過充電や内部短絡などにより電池30が異常発熱した場合、サーミスタ層4を高抵抗化することができ、この高抵抗化したサーミスタ層4により、負極集電シート14と負極活物質層16との間に流れる電流を少なくすることができる。このことにより、電池30が熱暴走することを防止することができる。
なお、負極集電シート14が第1実施形態の第1導電層2に相当し、負極活物質層16が第1実施形態の第2導電層3に相当する。
【0038】
図6に示した電池30では、電池用正極18と電池用負極19の両方にサーミスタ層4を設けているが、電池用正極18と電池用負極19のうちどちらか一方だけにサーミスタ層4を設けてもよい。
【0039】
第3実施形態
第3実施形態は、本発明のサーミスタ層4が組み込まれたアルミニウム電解コンデンサに関する。
図7は、本実施形態のコンデンサ50の概略断面図である。
アルミニウム電解コンデンサ50(アルミニウム電解キャパシタ50)は、陽極アルミニウム電極41の表面に形成した酸化皮膜43を誘電体層として用いる。この酸化皮膜43は非常に薄いため、アルミニウム電解コンデンサ50は大きな容量を有している。しかし、電気化学反応により酸化皮膜43が破壊された場合、従来のアルミニウム電解コンデンサは、使用不能になるとともに、破裂・発煙する場合がある。
【0040】
本実施形態のコンデンサ50では、陽極アルミニウム電極41と陽極リード48との間にサーミスタ層4を設けている。また、陰極アルミニウム電極42と陰極リード49との間にもサーミスタ層4を設けている。サーミスタ層4については、第1実施形態と同様である。サーミスタ層4に含まれる熱可塑性樹脂は、サーミスタ層4がコンデンサ50の正常な働きを妨げることなく、コンデンサ50の破裂・発煙を防止できるように選択される。
【0041】
コンデンサ50の酸化皮膜43が電気化学反応により破壊された場合、コンデンサ50は異常発熱する場合がある。この異常発熱により、サーミスタ層4を高抵抗化することができ、この高抵抗化したサーミスタ層4により、陽極アルミニウム電極41と陽極リード48との間に流れる電流及び陰極アルミニウム電極42と陰極リード49との間に流れる電流を少なくすることができる。このことにより、コンデンサ50が破裂・発煙することを防止することができる。
なお、陽極リード48又は陰極リード49が第1実施形態の第1導電層2に相当し、陽極アルミニウム電極41又は陰極アルミニウム電極42が第1実施形態の第2導電層3に相当する。
【0042】
電気抵抗率測定
次の試料1~9を作製した。
(試料1)
10質量部の高純度黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製UP-5α(平均粒径約5.5μm))(導電性粒子)と、5質量部の水溶性アクリル樹脂(バインダ)とを100質量部のイオン交換水に入れ、混合することにより均一なスラリーを調製した。このスラリーに5質量部の球状ポリオレフィンA(平均粒径:約7μm、軟化点:約135℃、市販品)(感熱粒子)を添加し均一に分散させることにより、塗布用ペーストを調製した。なお、水溶性アクリル樹脂の軟化点は約205℃であった。
グラビア塗工機を用い調製した塗布用ペーストを塗工し乾燥させることにより、アルミニウム箔(厚さ:約15μm)(第1導電層)上に厚さ約3μmのサーミスタ層を形成した。
【0043】
炭素被膜でコーティングされたリン酸鉄リチウム粒子(90質量部)と、アセチレンブラック(導電剤)(3質量部)と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)(7質量部)とを含む正極活物質層用ペーストを調製した。この正極活物質層用ペーストをサーミスタ層上に塗工し乾燥させることにより、正極活物質層(厚さ:約50μm)(第2導電層)を形成した。
【0044】
ローラープレス機を用いてアルミニウム箔、サーミスタ層、第2導電層の積層体(サーミスタ10)を圧縮し厚さを約50μmにした。その後、圧縮したサーミスタ10を80℃の乾燥機中に5分間放置した後、室温のデシケータ中に10分間放置した。その後、サーミスタ10から直径15mmの試験片を打ち抜くことにより試料1を作製した。
【0045】
(試料2)
感熱粒子に、3質量部の球状ポリオレフィンA(平均粒径:約7μm、軟化点:約135℃、市販品)と、2質量部の熱膨張性マイクロカプセル(平均粒径:20μm、発泡開始温度:135℃、市販品)との両方を用いたこと以外は、試料1と同様の方法で試料2を作製した。
【0046】
(試料3)
感熱粒子に、5質量部の球状ポリオレフィンB(平均粒径:4.5μm、軟化点:115℃、市販品)を用いたこと以外は、試料1と同様の方法で試料3を作製した。
【0047】
(試料4)
バインダーにCMC(カルボキシメチルセルロース)を用いたこと以外は、試料2と同様の方法で試料4を作製した。
【0048】
(試料5)
感熱粒子を加えていないこと以外は、試料1と同様の方法で試料5を作製した。
【0049】
(試料6)
感熱粒子に、35質量部の球状ポリオレフィンA(平均粒径:7μm、軟化点:135℃)を用いたこと以外は、試料1と同様の方法で試料6を作製した。
【0050】
(試料7)
感熱粒子に5質量部の繊維状ポリオレフィン(平均長さ1000μm、市販品)を用いたこと以外は試料1と同様の方法で試料7を作製した。
【0051】
(試料8)
サーミスタ10の第2導電層3に厚み10μmのステンレス箔を用い、アルミニウム箔、サーミスタ層、第2導電層の積層体をロールプレス機で厚み30μmにした以外は、試料1と同様の方法で試料8を作製した。
【0052】
(試料9)
シリカ粒子(85質量部)と、高純度黒鉛粒子とアセチレンブラック(導電剤)(5質量部)と、SBR(スチレンブタジエンゴム)(10質量部)とを含むペーストを調製し、このペーストをサーミスタ層上に塗工し乾燥させることにより、第2導電層を形成したこと以外は試料1と同様の方法で試料9を作製した。
【0053】
(加熱処理)
試料1~9について後述する抵抗率測定を終えた後、試料1~9を180℃の乾燥機中に2時間放置した。
【0054】
(抵抗率測定)
加熱処理前の試料1、2、3、4、5、6、7、8又は9或いは加熱処理後の試料1、2、3、4、5、6、7、8又は9を、2個の金メッキした銅製の円柱(直径:11.3mm)の間に挟み、0.98MPaの圧力を加えた状態で加熱処理前の試料1~9又は加熱処理後の試料1~9の電気抵抗率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
感熱粒子を加えた試料(試料1~4、6~9)では、加熱処理後の試料の電気抵抗率は、加熱処理前の試料の電気抵抗率よりも大きくなった。このため、感熱粒子が軟化し変形することによりサーミスタ層が高抵抗化することが確認された。また、試料1、2、3、8、9では、加熱処理後の試料の電気抵抗率は、加熱処理前の試料に比べ300Ω・cm以上大きいことが確認された。
【0057】
電池釘刺し実験
(リチウムイオン電池の作製)
10質量部の高純度黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製UP-5α(平均粒径約5.5μm))(導電性粒子)と、5質量部の水溶性アクリル樹脂(バインダ)とを100質量部のイオン交換水に入れ、混合することにより均一なスラリーを調製した。このスラリーに10質量部の球状ポリオレフィン粒子(平均粒径:約7μm、軟化点:約135℃、市販品)(感熱粒子)を添加し均一に分散させることにより、塗布用ペーストを調製した。なお、水溶性アクリル樹脂の軟化点は約205℃であった。
グラビア塗工機を用い調製した塗布用ペーストを塗工し乾燥させることにより、アルミニウム箔(厚さ:約15μm)両面上にそれぞれ厚さ約3μmのサーミスタ層を形成した。
【0058】
炭素被膜でコーティングされたリン酸鉄リチウム粒子(90質量部)と、アセチレンブラック(導電剤)(3質量部)と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)(7質量部)とを含む正極活物質層用ペーストを調製した。この正極活物質層用ペーストを、アルミニウム箔の両面のサーミスタ層上にそれぞれ塗工し乾燥させることにより、正極活物質層(厚さ:約20μm)を形成した。このようにして、実施例の正極を作製した。
また、サーミスタ層を設けていないこと以外は同様の方法で作製した比較例の正極も作製した。
【0059】
負極活物質である非晶質炭素とバインダであるPVDFとを含む負極活物質層用ペーストを調製し、この負極活物質層用ペーストを銅箔の両面上にそれぞれ塗工し乾燥させることにより負極活物質層を形成した。このようにして、負極を作製した。
【0060】
複数枚の実施例の正極と、複数枚の負極とをセパレータを介して交互に積層し、テープで固定することにより電極積層体を作製した。この電極積層体を角型のアルミニウムケースに挿入し、正極及び負極に導電接続を行い、電解液を注入し、蓋をして実施例のリチウムイオン電池を作製した。電解液には、70質量部のエチレンカーボネートと30質量部のジエチルカーボネートを混合したものに、6フッ化リン酸リチウムを支持電解質として溶かしたものを用いた。また、蓋には安全弁が設けられている。
また、比較例の正極を用いたこと以外は実施例のリチウムイオン電池と同様の方法で比較例のリチウムイオン電池を作製した。
【0061】
(釘刺し試験)
実施例のリチウムイオン電池又は比較例のリチウムイオン電池を電流30A、電圧3.60Vで4時間充電(CCCV充電)後、角型アルミニウムケースに熱電対を取り付け、直径5mmの釘を角型アルミニウムケースの側面に刺し電池を貫通させ、内部短絡を強制的に発生させた。この内部短絡により生じる発熱によるアルミニウムケースの温度上昇を熱電対を用いてモニタリングした。また、蓋の安全弁の開閉及び発煙の有無を観察した。測定結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
実施例のリチウムイオン電池では、最高温度が94.7℃であり、安全弁が開くことがなく、発煙も観察されなかった。これに対し、比較例のリチウムイオン電池では、最高温度が147.7℃に達し、安全弁が開き、発煙も観察された。
この結果から、正極のサーミスタ層は、内部短絡に伴う発熱により高抵抗化し、短絡電流による発熱の抑制することが確認できた。
【符号の説明】
【0064】
2:第1導電層 3:第2導電層 4:サーミスタ層 5:感熱粒子 6:導電性粒子 7:膨張剤 8:外皮膜 9:空隙 10:サーミスタ 11:表面コーティング層 13:正極集電シート 14:負極集電シート 15:正極活物質層 16:負極活物質層 18:電池用正極 19:電池用負極 22:セパレータ 23:電解質 24:容器 26:正極端子 27:負極端子 30:電池 41:陽極アルミニウム電極 42:陰極アルミニウム電極 43:酸化皮膜 45:電解液 46:電解紙 48:陽極リード 49:陰極リード 50:アルミニウム電解コンデンサ