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特許7595289マグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池
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  • 特許-マグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】マグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20241129BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241129BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/054
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020084734
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021180103
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】鄭 豪
(72)【発明者】
【氏名】大内 暁
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】大戸 貴司
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054078(JP,A)
【文献】特開2007-258165(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017461(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、遷移金属、及びオキシホウ酸アニオンを含み、
Mg x Fe y BO 4 の組成式で表される化合物を含み、0<x+y≦2の条件が満たされること及びMg x Mn y BO 5 の組成式で表される化合物を含み、0<x+y≦3の条件が満たされることからなる群より選ばれる少なくとも1つが成り立つ、
マグネシウム二次電池用正極活物質(ただし、シリコンの一部がホウ素に置換された物質を除く)。
【請求項2】
MgxFeyBO4の組成式で表される化合物を含み、0<x+y≦2の条件が満たされる、請求項1に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
MgxMnyBO5の組成式で表される化合物を含み、0<x+y≦3の条件が満たされる、請求項1に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
正極と、
負極と、
マグネシウムイオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記正極は、請求項1から3のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質を含む、マグネシウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マグネシウム二次電池に関する研究が注目を浴びている。
【0003】
特許文献1には、正極活物質の表面を被覆するように形成され、酸性を示すポリアニオン構造部を備えるコート層を有する正極活物質材料が記載されている。特許文献1には、この正極活物質材料を含有する正極活物質層を有する全固体電池が記載されている。全固体電池の例として、全固体マグネシウム電池が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-99323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、充放電容量を向上させることができるマグネシウム二次電池用正極活物質及びそれを用いたマグネシウム二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
マグネシウム、遷移金属、及びオキシホウ酸アニオンを含む、
マグネシウム二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、充放電容量を向上させることができるマグネシウム二次電池用正極活物質及びそれを用いたマグネシウム二次電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1に係る正極活物質の粉末X線回折測定の結果を示す図並びにシミュレーションによって得られたMgFeBO4及びFe23の粉末X線回折の結果を示す図である。
図2図2は、実施例2に係る正極活物質の粉末X線回折測定の結果を示す図及びシミュレーションによって得られたMg1.71Mn1.29BO5の粉末X線回折の結果を示す図である。
図3図3は、マグネシウム二次電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施例に係る充放電評価用電池の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の基礎となった知見>
以下、本開示の正極活物質を得るに至った経緯が説明される。
【0010】
現在、二次電池としてリチウム二次電池が汎用されている。近年、電気自動車(EV)が急速に普及しており、リチウム二次電池より大きな容量を有する二次電池が盛んに研究されている。マグネシウム二次電池は、マグネシウムの二電子反応を利用できるので、高容量な二次電池として期待されている。
【0011】
マグネシウム二次電池の正極活物質として、酸化バナジウムなどの遷移金属酸化物の使用が考えられる。しかし、マグネシウムイオンと酸素との相互作用は強いので、酸化バナジウムを用いた正極活物質では、マグネシウムイオンが拡散するための活性化障壁が大きいことが分かった。つまり、マグネシウムイオンが活物質内を移動しにくく、活物質における電極反応が進みにくい。その結果、遷移金属酸化物を正極活物質に用いたマグネシウム二次電池は、充放電しにくい。
【0012】
一方、特許文献1には、例えば、オキシホウ酸アニオンを有するポリアニオン構造部で正極活物質を被覆した正極活物質材料が記載されている。ポリアニオン構造部を備えるコート層で正極活物質の表面が被覆されているので、正極活物質と固体電解質材料との界面抵抗の経時的な増加が抑制されうる。しかし、特許文献1には、オキシホウ酸アニオンを有するポリアニオンを正極活物質として用いることは開示されていない。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、オキシホウ酸アニオンを含む正極活物質によって、マグネシウムの吸蔵及び放出が可能であることを新たに見出した。本発明者らは、この新たな知見に基づき、本開示を完成するに至った。
【0014】
<本開示に係る一態様の概要>
本開示の第1態様に係るマグネシウム二次電池用正極活物質は、
マグネシウム、遷移金属、及びオキシホウ酸アニオンを含む。
【0015】
第1態様によれば、充放電容量を向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。
【0016】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係るマグネシウム二次電池用正極活物質は、MgxFeyBO4の組成式で表される化合物を含んでいてもよく、0<x+y≦2の条件が満たされていてもよい。
【0017】
本開示の第3態様において、例えば、第1態様に係るマグネシウム二次電池用正極活物質は、MgxMnyBO5の組成式で表される化合物を含んでいてもよく、0<x+y≦3の条件が満たされていてもよい。
【0018】
第2及び第3態様によれば、充放電容量をより向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。
【0019】
本開示の第4態様に係るマグネシウム二次電池は、
正極と、
負極と、
マグネシウムイオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記正極は、第1から第3態様のいずれか1つに係るマグネシウム二次電池用正極活物質を含む。
【0020】
第4態様によれば、充放電容量を向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。
【0021】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は一例であり、本開示は以下の形態に限定されない。
【0022】
[実施形態1]
実施形態1では、本開示のマグネシウム二次電池用正極活物質の実施形態が説明される。
【0023】
本実施形態のマグネシウム二次電池用正極活物質は、マグネシウム、遷移金属、及びオキシホウ酸アニオンを含む。これにより、充放電容量を向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。本開示において、マグネシウム、遷移金属、及びオキシホウ酸アニオンを含む化合物をオキシホウ酸材料と称する。
【0024】
マグネシウム二次電池用正極活物質において、マグネシウムと、遷移金属と、オキシホウ酸アニオンとのモル比は、特定の値に限定されない。マグネシウムと、遷移金属と、オキシホウ酸アニオンとのモル比を適切に調節することによって、充放電効率をより向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。
【0025】
本実施形態のマグネシウム二次電池用正極活物質がオキシホウ酸アニオンを含んでいることは、例えば、粉末X線回折(XRD)測定によって確認できる。本実施形態のオキシホウ酸材料におけるマグネシウムと遷移金属とホウ素とのモル比は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法で確認できる。
【0026】
マグネシウム二次電池用正極活物質の結晶構造は、特定の結晶構造に限定されない。マグネシウム二次電池用正極活物質の結晶構造は、例えば、正極活物質からマグネシウムを引き抜いても結晶構造が崩壊しにくく、結晶構造が安定に維持されうる結晶構造であればよい。これにより、マグネシウム二次電池の充放電効率を確実に向上させることができる。
【0027】
マグネシウム二次電池用正極活物質は、例えば、遷移金属を含む。遷移金属の例は、Fe及びMnである。
【0028】
マグネシウム二次電池用正極活物質は、Mgと、Feと、オキシホウ酸アニオンとを含んでいてもよい。マグネシウム二次電池用正極活物質は、下記組成式(1)により表される化合物を含んでいてもよい。マグネシウム二次電池用正極活物質は、下記組成式(1)により表される化合物であってもよい。
【0029】
MgxFeyBO4 ・・・(1)
【0030】
組成式(1)において、x+yは、0<x+y≦2の条件を満たす。
【0031】
以上の構成によれば、充放電効率をより向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。
【0032】
マグネシウム二次電池用正極活物質は、Mgと、Mnと、オキシホウ酸アニオンとを含んでいてもよい。マグネシウム二次電池用正極活物質は、下記組成式(2)により表される化合物を含んでいてもよい。マグネシウム二次電池用正極活物質は、下記組成式(2)により表される化合物であってもよい。
【0033】
MgxMnyBO5 ・・・(2)
【0034】
組成式(2)において、x+yは、0<x+y≦3の条件を満たす。
【0035】
以上の構成によれば、充放電効率をより向上させることができるマグネシウム二次電池を提供できる。
【0036】
組成式(1)及び(2)において、各原子の組成比は、例えば、粉末X線回折測定及び/又はICP発光分光法で確認できる。
【0037】
次に、本実施形態におけるマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
【0038】
本実施形態におけるマグネシウム二次電池用正極活物質は、例えば、ホウ素を含む材料と、マグネシウムを含む材料と、遷移金属を含む材料とを混合し、活性雰囲気下又は不活性雰囲気下で焼成することによって製造されうる。
【0039】
マグネシウム二次電池用正極活物質の製造において、焼成温度は、例えば、800℃以上1500℃以下である。マグネシウム二次電池用正極活物質の製造は、大気下で実施されてもよく、活性雰囲気下で実施されてもよく、不活性雰囲気下で実施されてもよい。マグネシウム二次電池用正極活物質の製造において、原料中に十分な量の酸素が含まれている場合、窒素、アルゴン、ヘリウム、及びネオンなどの不活性ガスが用いられてもよい。
【0040】
ホウ素を含む材料の例は、ホウ素、ホウ酸、ホウ素化カルシウム、ホウ酸マグネシウム、及び二ホウ化物である。二ホウ化物の例は、二ホウ化アルミニウム及び二ホウ化マグネシウムである。
【0041】
マグネシウムを含む材料の例は、金属マグネシウム、マグネシウム酸化物、マグネシウム水素化物、マグネシウム水酸化物、ホウ酸マグネシウム、及び二ホウ化マグネシウムである。
【0042】
遷移金属を含む材料の例は、遷移金属、遷移金属化合物、遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、及び遷移金属ホウ酸化物である。
【0043】
各原料の分量は、目標とするオキシホウ酸材料の組成に応じて適宜調整される。オキシホウ酸材料の組成は、熱処理の条件及び/又は熱処理後の再処理の条件によっても調整できる。熱処理後の再処理の条件の例は、酸による洗浄及び二回目の熱処理である。
【0044】
[実施形態2]
実施形態2では、本開示の電池の実施形態が説明される。なお、上述の実施形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0045】
本実施形態に係るマグネシウム二次電池用正極活物質は、マグネシウム二次電池に利用されうる。マグネシウム二次電池は、正極と、負極と、電解質と、を備える。正極は、実施形態1で説明されたマグネシウム二次電池用正極活物質を含む。電解質は、マグネシウムイオン伝導性を有する。
【0046】
図3は、マグネシウム二次電池10の構成例を模式的に示す断面図である。
【0047】
マグネシウム二次電池10は、正極21、負極22、セパレータ14、ケース11、封口板15、及びガスケット18を備えている。セパレータ14は、正極21と負極22との間に配置されている。正極21、負極22、及びセパレータ14には、非水電解液が含浸されており、これらがケース11の中に収められている。ケース11は、ガスケット18及び封口板15によって閉じられている。
【0048】
ケース11は、正極21、負極22、及びセパレータ14を収容する。ケース11の形状及び材質は、特定の態様に限定されない。ケース11は、図3に示すものに限定されず、公知の電池のケースを適宜選択して用いることができる。
【0049】
マグネシウム二次電池10の構造は、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、又は扁平型であってもよい。
【0050】
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を含む。正極活物質層13は、正極集電体12とセパレータ14との間に配置されている。
【0051】
正極活物質層13は、実施形態1で説明された正極活物質を含有する。このような構成によれば、充放電容量を向上させることができるマグネシウム二次電池用正極を提供できる。
【0052】
正極活物質層13は、必要に応じて、導電助剤、イオン伝導体及び/又はバインダーをさらに含んでいてもよい。
【0053】
導電助剤の例は、炭素材料、金属、無機化合物、及び導電性高分子である。炭素材料の例は、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレン、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、及び炭素繊維である。黒鉛の例は、天然黒鉛及び人造黒鉛である。天然黒鉛の例は、塊状黒鉛及び鱗片状黒鉛である。金属の例は、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、及び金である。無機化合物の例は、タングステンカーバイド、炭化チタン、炭化タンタル、炭化モリブデン、ホウ化チタン、及びチッ化チタンである。導電性高分子の例は、ポリアニリン、ポリピロール、及びポリチオフェンである。これらの材料は単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0054】
イオン伝導体の例は、ゲル電解質、有機固体電解質、及び無機固体電解質である。ゲル電解質の例は、ポリメチルメタクリレート及びポリメタクリル酸メチルである。有機固体電解質の例は、ポリエチレンオキシドである。無機固体電解質の例は、MgSc2Se4である。
【0055】
バインダーは、電極を構成する材料の結着性を向上させるために用いられる。バインダーの例は、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリイミドである。
【0056】
正極活物質層13は、例えば、次の方法によって形成される。まず、正極活物質と導電助剤とバインダーとの混合物が得られるように、これらの材料が混合される。次に、この混合物に適切な溶剤が加えられ、ペースト状の正極合剤が得られる。次に、この正極合剤が正極集電体12の表面に塗布され、乾燥される。これによって、正極集電体12の上に正極活物質層13が形成される。なお、正極活物質層13は、電極密度を高めるために、圧縮されてもよい。
【0057】
正極活物質層13の膜厚は、特定の値に限定されない。その膜厚は、例えば、1μm以上、100μm以下である。
【0058】
正極集電体12の材料は、例えば、単体の金属又は合金である。より具体的には、正極集電体12の材料は、銅、クロム、ニッケル、チタン、白金、金、アルミニウム、タングステン、鉄、及びモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1つの材料を含む単体の金属又は合金であってもよい。正極集電体12の材料は、ステンレス鋼であってもよい。
【0059】
正極集電体12は、多孔質のシート又は無孔のシートであってもよい。正極集電体12は、多孔質のフィルム又は無孔のフィルムであってもよい。シート又はフィルムとして、金属箔及びメッシュが用いられうる。二次電池の抵抗値を低減させる観点、触媒効果を付与する観点、又は正極活物質層13と正極集電体12との結合力を向上させる観点から、正極集電体12の表面に導電性補助材料が塗布されていてもよい。導電性補助材料の例は、カーボンなどの炭素材料である。
【0060】
正極集電体12は、板状又は箔状であってもよい。正極集電体12は、積層膜であってもよい。
【0061】
ケース11が正極集電体を兼ねている場合、正極集電体12は省略されてもよい。
【0062】
負極22は、例えば、負極活物質を含有する負極活物質層17と、負極集電体16とを含む。負極活物質層17は、負極集電体16とセパレータ14との間に配置されている。
【0063】
負極活物質層17は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を含有する。負極活物質の例は、炭素材料である。炭素材料の例は、黒鉛、非黒鉛系炭素、及び黒鉛層間化合物である。非黒鉛系炭素の例は、ハードカーボン及びコークスである。
【0064】
負極活物質層17は、必要に応じて、導電助剤、イオン伝導体及び/又はバインダーをさらに含んでいてもよい。導電助剤、イオン伝導体、及びバインダーは、例えば、正極に関する説明で示した、導電助剤、イオン伝導体、及びバインダーを適宜利用できる。
【0065】
負極活物質層17の膜厚は、特定の値に限定されない。その膜厚は、例えば、1μm以上、50μm以下である。
【0066】
負極活物質層17は、マグネシウムを析出及び溶解させうる負極活物質を含有していてもよい。この場合、負極活物質の例は、金属マグネシウム及びマグネシウム合金である。マグネシウム合金は、例えば、アルミニウム、シリコン、ガリウム、亜鉛、錫、マンガン、ビスマス、及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属と、マグネシウムとの合金である。
【0067】
負極集電体16の材料は、例えば、正極に関する説明で示した、正極集電体12と同様の材料を適宜利用できる。負極集電体16は板状又は箔状であってもよい。
【0068】
封口板15が負極集電体を兼ねている場合、負極集電体16は省略されてもよい。
【0069】
負極集電体16が、その表面上にマグネシウムを析出及び溶解させ得る材料で構成される場合、負極活物質層17は省略されてもよい。すなわち、負極22は、マグネシウムを析出及び溶解させうる負極集電体16のみから構成されていてもよい。この場合、負極集電体16は、ステンレス鋼、ニッケル、銅、又は鉄であってもよい。
【0070】
セパレータ14の材料の例は、微多孔性薄膜、織布、及び不織布である。セパレータ14の材料は、ポリプロピレン及びポリエチレンなどのポリオレフィンであってもよい。セパレータ14の厚さは、例えば、10μm以上300μm以下である。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよく、2種類以上の材料で構成された複合膜、又は、多層膜であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30%以上70%以下である。
【0071】
電解質は、マグネシウムイオン伝導性を有する材料でありうる。
【0072】
電解質は、例えば、非水電解液である。非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したマグネシウム塩とを含む。
【0073】
マグネシウム塩の例は、MgBr2、MgI2,MgCl2、Mg(AsF62、Mg(ClO42、Mg(PF62、Mg(BF42、Mg(CF3SO32、Mg[N(CF3SO222、Mg(SbF62、Mg(SiF62、Mg[C(CF3SO232、Mg[N(FSO222、Mg[N(C25SO222、MgB10Cl10、MgB12Cl12、Mg[B(C6542、Mg[B(C6542、Mg[N(SO2CF2CF322、Mg[BF3252、Mg[PF3(CF2CF332、及びMg[B(OCH(CF3242である。マグネシウム塩として、上記の物質のうち1種類だけが用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0074】
非水溶媒には、一般に二次電池の非水溶媒として用いられる非水溶媒が用いられうる。非水溶媒の例は、環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、ピロ炭酸エステル、リン酸エステル、ホウ酸エステル、硫酸エステル、亜硫酸エステル、環状スルホン、鎖状スルホン、ニトリル、スルトン、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、及びアミド類である。
【0075】
環状炭酸エステル類の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,4-トリフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、4-フルオロプロピレンカーボネート、及び5-フルオロプロピレンカーボネートである。環状炭酸エステル類として、上記の化合物の水素基の一部又は全部がフッ素化されている化合物を用いることも可能である。フッ素化された化合物の例は、トリフルオロプロピレンカーボネート及びフルオロエチルカーボネートである。
【0076】
鎖状炭酸エステル類の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、及びメチルイソプロピルカーボネートである。鎖状炭酸エステル類として、上記の化合物の水素基の一部又は全部がフッ素化されている化合物を用いることも可能である。
【0077】
環状カルボン酸エステルの例は、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-アセトラクトン、及びこれらの誘導体である。
【0078】
鎖状カルボン酸エステルの例は、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、及びこれらの誘導体である。
【0079】
ピロ炭酸エステルの例は、ジエチルピロカーボネート、ジメチルピロカーボネート、ジ-tert-ブチルジカーボネート、及びこれらの誘導体である。
【0080】
リン酸エステルの例は、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、ヘキサメチルホスフォルアミド、及びこれらの誘導体である。
【0081】
ホウ酸エステルの例は、トリメチルボレート、トリエチルボレート、及びこれらの誘導体である。
【0082】
硫酸エステルの例は、トリメチルサルフェート、トリエチルサルフェート、及びこれらの誘導体である。
【0083】
亜硫酸エステルの例は、エチレンサルファイト及びその誘導体である。
【0084】
環状スルホンの例は、スルホラン及びその誘導体である。鎖状スルホンの例は、アルキルスルホン及びその誘導体である。ニトリルの例は、アセトニトリル、バレロニトリル、プロピオニトリル、トリメチルアセトニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、及びその誘導体である。スルトンの例は、1,3-プロパンスルトン及びその誘導体である。
【0085】
環状エーテル類の例は、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1、3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、及びクラウンエーテルである。
【0086】
鎖状エーテル類の例は、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルである。
【0087】
アミド類の例は、ジメチルホルムアミドである。
【0088】
非水溶媒は、グライムを含んでいてもよい。グライムは、マグネシウムイオンに対して二座配位しうる。グライムを使用することによって、非水溶媒へのマグネシウムイミド塩の溶解性を向上させることができる。グライムの例は、1,2-ジメトキシエタン(DME)、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライムである。
【0089】
溶媒として、上記の物質のうち1種類だけが用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよい。
【実施例
【0090】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は一例であり、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0091】
(実施例1)
[オキシホウ酸材料の作製]
メノウ乳鉢に、酸化鉄(II)と、酸化鉄(II)に対して質量換算で28.1%の酸化マグネシウム粉末と、酸化鉄(II)に対して質量換算で43.0%のホウ酸とを秤量して入れ、メノウ乳鉢を用いて粉砕混合して、混合物を得た。得られた混合物を、大気下の焼成炉で、室温(25℃)から毎分5℃の割合で昇温させて1300℃に到達するまで加熱し、さらに1300℃で3時間焼成した。その後、加熱を停止し、混合物を自然冷却させた。得られた混合物をメノウ乳鉢で粉砕し、実施例1に係る正極活物質であるオキシホウ酸材料を得た。
【0092】
[正極の作製]
実施例1に係るオキシホウ酸材料と、導電助剤としてアセチレンブラックと、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、8:1:1の質量比で秤量し、これらを、メノウ乳鉢を用いてよく混合することによって実施例1に係る正極合剤を得た。この正極合剤をロールプレス機で圧延することによって、実施例1に係る正極合剤シートを得た。得られた正極合剤シートを5mm×5mmの長方形に打ち抜いた。打ち抜いた正極合剤シートを5mm×30mmのメッシュの先端に配置して、圧着した。メッシュは、白金製であった。このようにして、実施例1に係る正極を作製した。
【0093】
[評価用セルの作製]
図4は、実施例に係る評価用セルの概略構成を示す模式図である。
【0094】
評価用セル30は、正極31、参照電極34、負極35、及び非水電解液36を備えている。非水電解液36は、ガラス製ビーカー37に貯留されている。ガラス製ビーカー37は、アルミブロック38によって囲まれている。正極31は、メッシュ32と、正極合剤33とを含む。正極合剤33は、メッシュ32の先端に配置されている。正極31と参照電極34と負極35とは、非水電解液36に浸されている。
【0095】
マグネシウムリボンを5mm×40mmの大きさに切断し、マグネシウム箔を得た。マグネシウム箔の表面を削って酸化皮膜を除去し、ヘキサンにて表面を洗浄した。これにより、参照電極34及び負極35を作製した。
【0096】
ガラス製ビーカー37に非水電解液36を2.5mL貯留した。非水電解液36は、非水溶媒として、1,2-ジメトキシエタン(DME)を使用した。DMEに、DMEが配位されている有機ホウ素アート錯体塩であるMg[B(OCH(CF3242・3DMEを0.3mol/Lの濃度で溶解させることによって、非水電解液36を調製した。
【0097】
正極31、参照電極34、及び負極35を非水電解液36に浸し、図4に示す構成を有する評価用セル30を作製した。電解液の調製及び評価用セルの作製は、露点-60度以下及び体積基準の酸素濃度5ppm以下のAr雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0098】
(実施例2)
[オキシホウ酸材料の作製]
メノウ乳鉢に、酸化マンガン(II)と、酸化マンガン(II)に対して質量換算で56.8%の酸化マグネシウム粉末と、酸化マンガン(II)に対して質量換算で58.1%のホウ酸とを秤量して入れたことを除き、実施例1と同様にして実施例2に係る正極活物質であるオキシホウ酸材料を得た。
【0099】
[正極の作製]
実施例2に係るオキシホウ酸材料を使用したことと、白金製のメッシュに代えてアルミニウム製のメッシュを使用したこととを除き、実施例1と同様にして、実施例2に係る正極を作製した。
【0100】
[評価用セルの作製]
実施例2に係る正極を使用したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2に係る評価用セルを作製した。
【0101】
(比較例1)
[酸化バナジウム正極の作製]
比較例1の活物質として、酸化バナジウム(V25)を用いた。酸化バナジウムと、導電助剤としてアセチレンブラックと、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、8:1:1の質量比で秤量したことを除き、実施例2と同様にして、比較例1に係る正極を得た。
【0102】
[評価用セルの作製]
比較例1に係る正極を使用したことを除き、実施例2と同様にして、比較例1に係る評価用セルを作製した。
【0103】
[充放電試験]
実施例1、2及び比較例1に係る評価用セルの充放電試験を、以下の条件で実施して、充放電特性を評価した。
【0104】
まず、評価用セルを60℃のホットプレートに配置した。
【0105】
MgFeBO4の理論容量を346mAh/gと仮定した。この理論容量に対して0.01Cレートとなる電流値で、実施例1に係る評価用セルを定電流充電した。このとき、正極活物質の単位重量1gあたりの定電流は、3.46mAh/gであった。充電容量が理論容量の50%に達したとき、充電を終了した。その後、評価用セルを5時間静置させた。
【0106】
次に、0.01Cレートとなる電流値で評価用セルを放電した。放電容量と充電容量とが等しくなったとき、放電を終了した。これにより、実施例1に係る評価用セルの充電容量及び放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
Mg1.5Mn1.5BO5の理論容量を257mAh/gと仮定したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2に係る評価用セルを充放電させ、充電容量及び放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
比較例1に係る評価用セルの充放電試験では、酸化バナジウム1分子あたり1分子のMgが吸蔵されると仮定した。そのため、MgV25の理論容量を295mAh/gと仮定した。この理論容量に対して0.01Cレートとなる電流値で、比較例1に係る評価用セルを定電流放電した。このとき、正極活物質の単位重量1gあたりの定電流は、2.95mAh/gであった。参照電極に対する正極の電位が1Vに達したとき、放電を終了した。その後、評価用セルを5時間静置させた。
【0109】
次に、参照電極に対する正極の電位が3Vに達するまで、比較例1に係る評価用セルを充電した。これにより、比較例1に係る評価用セルの充電容量及び放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
[考察]
図1は、実施例1に係る正極活物質の粉末X線回折測定の結果を示す図である。図1には、シミュレーションによって得られたMgFeBO4及びFe23の粉末X線回折の結果も示す。MgFeBO4の粉末X線回折のパターンは、International Crystal Structure Database(ICSD)のNo.251952のデータを用いた。Fe23の粉末X線回折パターンは、ICSDのNo.15840のデータを用いた。図1に示すように、実施例1に係るオキシホウ酸材料の粉末X線回折パターンは、Fe23を不純物として僅かに含むものの、主相はオキシホウ酸材料であるMgFeBO4の粉末X線回折パターンによく一致した。
【0112】
図2は、実施例2に係る正極活物質の粉末X線回折測定の結果を示す図である。図2には、シミュレーションによって得られたMg1.71Mn1.29BO5の粉末X線回折の結果も示す。Mg1.71Mn1.29BO5の粉末X線回折パターンは、ICSDのNo.62366のデータを用いた。図2に示すように、実施例2に係るオキシホウ酸材料の粉末X線回折パターンは、オキシホウ酸材料であるMg1.71Mn1.29BO5の粉末X線回折パターンによく一致した。しかし、実施例2に係るオキシホウ酸材料の粉末X線回折パターンは複雑であったので、ICP発光分光法により実施例2に係るオキシホウ酸材料の組成を決定した。その結果、実施例2に係るオキシホウ酸材料の組成は、Mg1.28Mn1.61BO5であった。
【0113】
実施例1、2及び比較例1に係る評価用セルの充電容量及び放電容量を表1に示す。実施例1及び2に係るオキシホウ酸材料は、比較例1に係る酸化バナジウムより高い充電容量及び高い放電容量を示した。実施例1及び2に係るオキシホウ酸材料では、マグネシウムに配位するアニオンは、酸素ではなく、オキシホウ酸アニオンである。これにより、実施例1及び2に係るオキシホウ酸材料では、マグネシウムと酸素との相互作用が低減し、マグネシウムが活物質内を移動しやすくなったと考えられる。本開示のマグネシウム二次電池用正極活物質によれば、マグネシウムとオキシホウ酸アニオンとの相互作用がマグネシウムと酸素との相互作用より弱いため、充放電容量を向上させることができる。
【0114】
実施例1に係るオキシホウ酸材料の粉末X線回折パターンは、MgFeBO4の粉末X線回折のパターンであるICSDのNo.251952によく一致した。MgFeBO4の結晶構造において、Mg及びFeは、同じサイトを共有し得る。そのため、実施例1によれば、オキシホウ酸材料の組成式をMgxFeyBO4と定義した場合、x+yは、0<x+y≦2の条件を満たしうる。
【0115】
実施例2に係るオキシホウ酸材料の粉末X線回折パターンは、Mg1.71Mn1.29BO5の粉末X線回折パターンであるICSDのNo.62366によく一致した。Mg1.71Mn1.29BO5の結晶構造において、Mg及びMnは、同じサイトを共有し得る。そのため、実施例2によれば、オキシホウ酸材料の組成式をMgxMnyBO5と定義した場合、x+yは、0<x+y≦3の条件を満たしうる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示のマグネシウム二次電池用正極活物質は、マグネシウム二次電池に利用されうる。
【符号の説明】
【0117】
10 マグネシウム二次電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極
30 評価用セル
31 正極
32 メッシュ
33 正極合剤
34 参照電極
35 負極
36 非水電解液
37 ビーカー
38 アルミブロック
図1
図2
図3
図4