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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】回転電機の回転角推定装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/185 20160101AFI20241129BHJP
   H02P 21/26 20160101ALI20241129BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H02P6/185
H02P21/26
H02P25/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020205927
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092923
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孔亮
(72)【発明者】
【氏名】青木 康明
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】今井 幸司
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-043643(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189694(WO,A1)
【文献】特開2012-165608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
H02P 21/26
H02P 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの巻線群(10A,10B)を有する回転電機(10)と、
前記各巻線群に電圧を印加する電力変換器(20A,20B)と、を備えるシステムに適用され、
前記回転電機の回転角(θest)を推定する推定部(52)を備える回転電機の回転角推定装置(40)において、
推定された前記回転角に基づいて、前記回転電機の推定回転座標系における前記各巻線群に対応するトルク電流及び励磁電流を算出し、前記各巻線群に対応する励磁電流の差である励磁差電流(IγDr)、前記各巻線群に対応するトルク電流の差であるトルク差電流(IδDr)、前記各巻線群に対応する励磁電流の和である励磁和電流(IγSr)、及び前記各巻線群に対応するトルク電流の和であるトルク和電流(IδSr)を算出する電流算出部(41)と、
前記励磁差電流に基づいて励磁差指令電圧(VγD*)を算出し、前記トルク差電流に基づいてトルク差指令電圧(VδD*)を算出し、前記励磁和電流に基づいて励磁和指令電圧(VγS*)を算出し、前記トルク和電流に基づいてトルク和指令電圧(VδS*)を算出する電圧算出部(42,44)と、
前記励磁差指令電圧、前記トルク差指令電圧、前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧に基づいて、前記各電力変換器のスイッチング制御を行うスイッチ制御部(46~48)と、
前記スイッチ制御部で用いられる前記励磁差指令電圧及び前記トルク差指令電圧のうち少なくとも一方、又は前記スイッチ制御部で用いられる前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧のうち少なくとも一方に、高周波電圧(VγDh,VδDh,VγSh,VδSh)を重畳する重畳部(45a,45b,61a,61b)と、を備え、
前記推定部は、前記高周波電圧の重畳に伴って流れる高周波電流であって、前記励磁差電流及び前記トルク差電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方、又は前記励磁和電流及び前記トルク和電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方に基づいて、前記回転角を推定する、回転電機の回転角推定装置。
【請求項2】
前記重畳部は、前記励磁差指令電圧及び前記トルク差指令電圧のうち少なくとも一方に前記高周波電圧(VγDh,VδDh)を重畳し、
前記推定部は、前記励磁差電流及び前記トルク差電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方に基づいて、前記回転角を推定する、請求項1に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項3】
前記重畳部(45a)は、前記励磁差指令電圧及び前記トルク差指令電圧のうち前記励磁差指令電圧に前記高周波電圧(VγDh)を重畳する、請求項2に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項4】
前記重畳部(45b)は、前記励磁差指令電圧及び前記トルク差指令電圧のうち前記トルク差指令電圧に前記高周波電圧(VδDh)を重畳する、請求項2に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記励磁差電流に含まれる高周波成分又は前記トルク差電流に含まれる高周波成分に基づいて、前記回転角を推定する、請求項3又は4に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項6】
前記重畳部(45a,45b)は、前記励磁差指令電圧及び前記トルク差指令電圧それぞれに前記高周波電圧(VγDh,VδDh)を重畳する、請求項2に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項7】
前記重畳部(61a,61b)は、前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧のうち少なくとも一方に前記高周波電圧(VγSh,VδSh)を重畳し、
前記推定部は、前記励磁和電流及び前記トルク和電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方に基づいて、前記回転角を推定する、請求項1に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項8】
前記重畳部(61a)は、前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧のうち前記励磁和指令電圧に前記高周波電圧(VγSh)を重畳する、請求項7に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項9】
前記重畳部(61b)は、前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧のうち前記トルク和指令電圧に前記高周波電圧(VδSh)を重畳する、請求項7に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項10】
前記推定部は、前記励磁和電流に含まれる高周波成分又は前記トルク和電流に含まれる高周波成分に基づいて、前記回転角を推定する、請求項8又は9に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項11】
前記重畳部は、前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧それぞれに前記高周波電圧(VγSh,VδSh)を重畳する、請求項7に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項12】
前記重畳部は、前記高周波電圧として、前記回転電機の電気角周波数よりも高い角周波数で変動する正弦波の高周波電圧を重畳する、請求項1~11のいずれか1項に記載の回転電機の回転角推定装置。
【請求項13】
前記重畳部は、前記高周波電圧として、前記回転電機の電気角周波数よりも高い角周波数で変動する矩形波の高周波電圧を重畳する、請求項1~11のいずれか1項に記載の回転電機の回転角推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の回転角推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非特許文献1に記載されているように、2つの巻線群を有する回転電機と、各巻線群に電圧を印加する電力変換器とを備えるシステムに適用され、回転電機の回転角を推定する回転角推定装置が知られている。詳しくは、推定装置は、推定した回転角に基づいて、回転電機の推定回転座標系における各巻線群に対応するトルク電流及び励磁電流を算出し、算出したトルク電流及び励磁電流を制御するための指令電圧を算出する。推定装置は、算出した指令電圧に基づいて、各電力変換器のスイッチング制御を行う。
【0003】
推定装置は、各巻線のうち、一方に対応する指令電圧に第1高周波電圧を重畳し、他方に対応する指令電圧に第1高周波電圧の逆位相電圧である第2高周波電圧を重畳する。推定装置は、第1,第2高周波電圧の重畳に伴って各巻線に流れる高周波電流に基づいて、回転角を推定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】”Modeling and Position Sensorless Control at Standstill/Low-speed Operation of the Wound-field Synchronous Motor with Double Three-phase Wound Stator for Integrated Starter Generator”, EVTeC and APE Japan, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の推定装置では、トルク電流及び励磁電流に、高周波電圧の重畳に伴う高周波成分が含まれる。このため、推定装置は、トルク電流及び励磁電流から高周波成分を除去するためのフィルタを備えている。推定装置は、高周波成分が除去されたトルク電流及び励磁電流に基づいて、指令電圧を算出する。ここで、フィルタが備えられることにより、トルク電流及び励磁電流の電流制御系における応答性が悪化する懸念がある。
【0006】
本発明は、応答性を改善できる回転電機の回転角推定装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、2つの巻線群を有する回転電機と、
前記各巻線群に電圧を印加する電力変換器と、を備えるシステムに適用され、
前記回転電機の回転角を推定する推定部を備える回転電機の回転角推定装置において、
推定された前記回転角に基づいて、前記回転電機の推定回転座標系における前記各巻線群に対応するトルク電流及び励磁電流を算出し、前記各巻線群に対応する励磁電流の差である励磁差電流、前記各巻線群に対応するトルク電流の差であるトルク差電流、前記各巻線群に対応する励磁電流の和である励磁和電流、及び前記各巻線群に対応するトルク電流の和であるトルク和電流を算出する電流算出部と、
前記励磁差電流に基づいて励磁差指令電圧を算出し、前記トルク差電流に基づいてトルク差指令電圧を算出し、前記励磁和電流に基づいて励磁和指令電圧を算出し、前記トルク和電流に基づいてトルク和指令電圧を算出する電圧算出部と、
前記励磁差指令電圧、前記トルク差指令電圧、前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧に基づいて、前記各電力変換器のスイッチング制御を行うスイッチ制御部と、
前記スイッチ制御部で用いられる前記励磁差指令電圧及び前記トルク差指令電圧のうち少なくとも一方、又は前記スイッチ制御部で用いられる前記励磁和指令電圧及び前記トルク和指令電圧のうち少なくとも一方に、高周波電圧を重畳する重畳部と、を備え、
前記推定部は、前記高周波電圧の重畳に伴って流れる高周波電流であって、前記励磁差電流及び前記トルク差電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方、又は前記励磁和電流及び前記トルク和電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方に基づいて、前記回転角を推定する。
【0008】
本発明において、電流算出部は、推定された回転角に基づいて、推定回転座標系における各巻線群に対応するトルク電流及び励磁電流を算出する。電流算出部は、各巻線群に対応する励磁電流の差である励磁差電流、各巻線群に対応するトルク電流の差であるトルク差電流、各巻線群に対応する励磁電流の和である励磁和電流、及び各巻線群に対応するトルク電流の和であるトルク和電流を算出する。
【0009】
電圧算出部は、算出された励磁差電流に基づいて励磁差指令電圧を算出し、算出されたトルク差電流に基づいてトルク差指令電圧を算出し、算出された励磁和電流に基づいて励磁和指令電圧を算出し、算出されたトルク和電流に基づいてトルク和指令電圧を算出する。スイッチ制御部は、算出された励磁差指令電圧、トルク差指令電圧、励磁和指令電圧及びトルク和指令電圧に基づいて、各電力変換器のスイッチング制御を行う。
【0010】
重畳部は、スイッチ制御部で用いられる励磁差指令電圧及びトルク差指令電圧のうち少なくとも一方、又はスイッチ制御部で用いられる励磁和指令電圧及びトルク和指令電圧のうち少なくとも一方に、高周波電圧を重畳する。
【0011】
推定部は、高周波電圧の重畳に伴って流れる高周波電流であって、励磁差電流及びトルク差電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方、又は励磁和電流及びトルク和電流それぞれに含まれる高周波成分の少なくとも一方に基づいて、回転角を推定する。
【0012】
ここで、励磁差電流及びトルク差電流の制御系を含む差系統と、励磁和電流及びトルク和電流の制御系を含む和系統との間においては、高周波電圧と、高周波電圧の重畳に伴い流れる高周波電流との間の干渉が発生しない。このため、励磁差指令電圧及びトルク差指令電圧のうち少なくとも一方に高周波電圧が重畳される場合、高周波電圧の重畳に伴う高周波成分が励磁和電流及びトルク和電流に含まれない。これにより、励磁和指令電圧の算出に用いられる励磁和電流、及びトルク和指令電圧の算出に用いられるトルク和電流から高周波成分を除去するフィルタ等の除去部を不要にできる。また、除去部が推定装置に備えられる場合であっても、除去部として、応答性の悪化が抑制されたものを用いることができる。
【0013】
一方、励磁和指令電圧及びトルク和指令電圧のうち少なくとも一方に高周波電圧が重畳される場合、高周波電圧の重畳に伴う高周波成分が励磁差電流及びトルク差電流に含まれない。これにより、励磁差指令電圧の算出に用いられる励磁差電流、及びトルク差指令電圧の算出に用いられるトルク差電流から高周波成分を除去する除去部を不要にできる。また、除去部が推定装置に備えられる場合であっても、除去部として、応答性の悪化が抑制されたものを用いることができる。
【0014】
以上説明した本発明によれば、応答性を改善できる回転電機の回転角推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る制御システムの全体構成図。
図2】制御装置の処理を示すブロック図。
図3】dq座標系とγδ座標系との関係を示す図。
図4】高周波電圧の重畳態様を示す図。
図5】位相推定部の処理を示すブロック図。
図6】第1実施形態の変形例に係る高周波除去部の処理を示すブロック図。
図7】第1実施形態の変形例に係る高周波抽出部の処理を示すブロック図。
図8】第1実施形態の変形例に係る位相推定部の処理を示すブロック図。
図9】第2実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図10】第3実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図11】高周波電圧の重畳態様を示す図。
図12】第4実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図13】第5実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図14】高周波電圧の重畳態様を示す図。
図15】第6実施形態に係る高周波電圧の重畳態様を示す図。
図16】第7実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図17】高周波電圧及び高周波電流等の推移を示すタイムチャート。
図18】第9実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図19】第10実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図20】第11実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図21】第12実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図22】第13実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
図23】第15実施形態に係る制御装置の処理を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る回転角推定装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1に示すように、制御システムは、車両に搭載されており、回転電機10を備えている。回転電機10は、3相2重巻線を有する永久磁石界磁型の同期機である。本実施形態において、回転電機10は、突極機であり、具体的には例えばIPMSMである。
【0018】
回転電機10は、車両の走行動力源となり、駆動輪と動力伝達が可能なロータ12と、ステータ13とを備えている。ステータ13には、2つの電機子巻線群である第1巻線群10A及び第2巻線群10Bが設けられている。第1,第2巻線群10A,10Bに対して、ロータ12が共通化されている。第1,第2巻線群10A,10Bのそれぞれは、異なる中性点を有する3相巻線からなる。第1巻線群10Aは、電気角で互いに120°ずつずれたU,V,W相巻線UA,VA,WAを有し、第2巻線群10Bは、電気角で互いに120°ずつずれたU,V,W相巻線UB,VB,WBを有している。本実施形態では、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとのなす角度が電気角で0°とされている。すなわち、第1巻線群10AのU相巻線UAと第2巻線群10BのU相巻線UBとのなす角度が電気角で0°とされている。また、本実施形態では、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとが同じ構成とされている。具体的には、第1巻線群10Aを構成するU,V,W相巻線UA,VA,WAそれぞれの巻数と、第2巻線群10Bを構成するU,V,W相巻線UB,VB,WBそれぞれの巻数とが等しく設定されている。
【0019】
制御システムは、第1,第2巻線群10A,10Bに対応した第1,第2インバータ20A,20Bと、直流電源21と、平滑コンデンサ22とを備えている。第1,第2インバータ20A,20Bは、入力される直流電圧を交流電圧に変換して出力する電力変換器に相当する。第1インバータ20A及び第2インバータ20Bのそれぞれには、共通の直流電源21が接続されている。本実施形態において、直流電源21は、蓄電池である。なお、直流電源21には、コンデンサ22が並列接続されている。
【0020】
第1インバータ20Aは、第1U,V,W相上アームスイッチSuAH,SvAH,SwAHと、第1U,V,W相下アームスイッチSuAL,SvAL,SwALとの直列接続体を備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点には、第1巻線群10Aを構成するU,V,W相巻線UA,VA,WAが接続されている。本実施形態において、各スイッチSuAH~SwALは、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを備えている。
【0021】
第2インバータ20Bは、第1インバータ20Aと同様に、第2U,V,W相上アームスイッチSuBH,SvBH,SwBHと、第2U,V,W相下アームスイッチSuBL,SvBL,SwBLとの直列接続体を備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点には、第2巻線群10Bを構成するU,V,W相巻線UB,VB,WBが接続されている。本実施形態において、各スイッチSuBH~SwBLは、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを備えている。
【0022】
なお、各インバータ20A,20Bが備えるスイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、スイッチにフリーホイールダイオードが逆並列接続されていればよい。
【0023】
第1,第2インバータ20A,20Bにおいて各上アームスイッチの高電位側端子であるドレインには、直流電源21の正極端子が接続されている。第1,第2インバータ20A,20Bにおいて各下アームスイッチの低電位側端子であるソースには、直流電源21の負極端子が接続されている。すなわち、本実施形態では、各インバータ20A,20Bで直流電源21が共通化されている。ただし、各インバータ20A,20Bに対応して個別の直流電源が設けられる構成であってもよい。
【0024】
制御システムは、電圧検出部30、第1電流検出部31A、及び第2電流検出部31Bを備えている。電圧検出部30は、直流電源21の出力電圧を電源電圧VDCとして検出する。第1電流検出部31Aは、第1巻線群10Aに流れる3相電流のうち少なくとも2相分の電流を検出する。第2電流検出部31Bは、第2巻線群10Bに流れる3相電流のうち少なくとも2相分の電流を検出する。なお、第1,第2電流検出部31A,31Bとしては、例えば、カレントトランス又は抵抗器を備えるものを用いることができる。
【0025】
上記各検出部30,31A,31Bの検出値は、制御システムが備える制御装置40に入力される。制御装置40は、マイコンを主体として構成されている。制御装置40は、CPU及びメモリを備え、メモリに格納されたプログラムをCPUにて実行する。
【0026】
制御装置40は、回転電機10の制御量を制御指令値に制御すべく、入力された検出値に基づいて、第1,第2インバータ20A,20Bの各スイッチをオンオフする駆動信号を生成する。制御量は、例えば、トルク又はロータの回転速度である。図1に、第1インバータ20Aの各スイッチSuAH,SuAL,SvAH,SvAL,SwAH,SwALに対応する駆動信号である第1駆動信号GuAH,GuAL,GvAH,GvAL,GwAH,GwALと、第2インバータ20Bの各スイッチSuBH,SuBL,SvBH,SvBL,SwBH,SwBLに対応する駆動信号である第2駆動信号GuBH,GuBL,GvBH,GvBL,GwBH,GwBLとを示す。
【0027】
続いて、図2を用いて、回転電機10の制御量の制御について説明する。この制御は、回転電機10の磁極位置である電気角を直接検出するレゾルバ等の角度検出器を用いない制御である位置センサレス制御である。
【0028】
変換部41は、後述する位相推定部52により算出された回転電機10の電気角推定値である推定角θestと、第1電流検出部31Aの検出値とに基づいて、UVW座標系における第1巻線群10Aの第1U,V,W相電流IuA,IvA,IwAを、γδ座標系における第1d軸電流IγA及び第1δ軸電流IδAに変換する。UVW座標系は、回転電機10の3相固定座標系であり、γδ座標系は、回転電機10の2相回転座標系であるdq座標系の推定座標系である。第1d軸電流IγAは、第1巻線群10Aに対応する「励磁電流」であり、第1δ軸電流IδAは、第1巻線群10Aに対応する「トルク電流」である。
【0029】
変換部41は、位相推定部52により算出された推定角θestと、第2電流検出部31Bの検出値とに基づいて、UVW座標系における第1巻線群10Aの第2U,V,W相電流IuB,IvB,IwBを、γδ座標系における第2d軸電流IγB及び第2δ軸電流IδBに変換する。第2d軸電流IγBは、第2巻線群10Bに対応する「励磁電流」であり、第2δ軸電流IδBは、第2巻線群10Bに対応する「トルク電流」である。
【0030】
変換部41は、算出した第1d軸電流IγA、第1δ軸電流IδA、第2d軸電流IγB及び第2δ軸電流IδBと、下式(eq1)とに基づいて、和系統γ軸電流IγSr、和系統δ軸電流IδSr、差系統γ軸電流IγDr及び差系統δ軸電流IδDrを算出する。
【0031】
【数1】
本実施形態において、和系統γ軸電流IγSrは「励磁和電流」に相当し、和系統δ軸電流IδSrは「トルク和電流」に相当し、差系統γ軸電流IγDrは「励磁差電流」に相当し、差系統δ軸電流IδDrは「トルク差電流」に相当する。また、変換部41が「電流算出部」に相当する。
【0032】
和系統算出部42は、算出された和系統γ軸電流IγSrを和系統γ軸指令電流IγS*にフィードバック制御するための操作量として、「励磁和指令電圧」に相当する和系統γ軸電圧VγS*を算出する。また、和系統算出部42は、算出された和系統δ軸電流IδSrを和系統δ軸指令電流IδS*にフィードバック制御するための操作量として、「トルク和指令電圧」に相当する和系統δ軸電圧VδS*を算出する。なお、和系統算出部42で用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。また、和系統γ軸指令電流IγS*及び和系統δ軸指令電流IδS*は、制御指令値に基づいて設定される値であり、例えば、制御装置40よりも上位の制御装置から制御装置40に入力される。
【0033】
本実施形態において、変換部41から出力された和系統γ軸電流IγSr及び和系統δ軸電流IδSrは、高周波成分を除去するフィルタを介さず和系統算出部42に直接入力される。上記フィルタは、例えば、バンドストップフィルタ又はローパスフィルタである。
【0034】
高周波除去部43は、算出された差系統γ軸電流IγDrに含まれる高周波成分を除去することにより、差系統γ軸電流IγDrに含まれる直流成分である差系統γ軸基本値IγDfを抽出する。また、高周波除去部43は、算出された差系統δ軸電流IδDrに含まれる高周波成分を除去することにより、差系統δ軸電流IδDrに含まれる直流成分である差系統δ軸基本値IδDfを抽出する。本実施形態において、高周波除去部45は、バンドストップフィルタである。また、差系統γ軸電流IγDr及び差系統δ軸電流IδDrに含まれる高周波成分は、後述する高周波生成部50により生成された差系統γ軸高周波電圧VγDhが差系統γ軸電圧VγD*に重畳されることに起因して発生し、差系統γ軸高周波電圧VγDhの周波数と同等の周波数で変動する。
【0035】
差系統算出部44は、抽出された差系統γ軸基本値IγDfを差系統γ軸指令電流IγD*にフィードバック制御するための操作量として、「励磁差指令電圧」に相当する差系統γ軸電圧VγD*を算出する。また、差系統算出部44は、抽出された差系統δ軸基本値IδDfを差系統δ軸指令電流IδD*にフィードバック制御するための操作量として、「トルク差指令電圧」に相当する差系統δ軸電圧VδD*を算出する。なお、差系統算出部44で用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。また、本実施形態において、差系統γ軸指令電流IγD*及び差系統δ軸指令電流IδD*は0に設定されている。ただし、この設定に限らず、差系統γ軸指令電流IγD*及び差系統δ軸指令電流IδD*は0以外の値に設定されていてもよい。また、本実施形態において、差系統算出部44及び和系統算出部42が「電圧算出部」に相当する。
【0036】
γ軸重畳部45aは、差系統γ軸電圧VγD*に、高周波生成部50により生成された差系統γ軸高周波電圧VγDhを重畳する。
【0037】
指令電圧算出部46は、算出された和系統γ軸電圧VγS*、和系統δ軸電圧VδS*及び差系統δ軸電圧VδD*と、γ軸重畳部45aの出力値「VγD*+VγDh」と、下式(eq2)とに基づいて、第1巻線群10Aの第1γ軸電圧VγA及び第1δ軸電圧VδAと、第2巻線群10Bの第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBとを算出する。
【0038】
【数2】
指令電圧算出部46は、算出した第1γ軸電圧VγA及び第1δ軸電圧VδAを、推定角θestに基づいて、UVW座標系における第1U,V,W相指令電圧VuA*,VvA*,VwA*に変換する。本実施形態において、第1U,V,W相指令電圧VuA*,VvA*,VwA*は、電気角で位相が互いに120°ずつずれた波形となる。
【0039】
また、指令電圧算出部46は、算出した第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBを、推定角θestに基づいて、UVW座標系における第2U,V,W相指令電圧VuB*,VvB*,VwB*に変換する。本実施形態において、第2U,V,W相指令電圧VuB*,VvB*,VwB*は、電気角で位相が互いに120°ずつずれた波形となる。
【0040】
第1生成部47は、第1U,V,W相指令電圧VuA*,VvA*,VwA*と、電圧検出部30により検出された電源電圧VDCとに基づいて、第1駆動信号GuAH~GwALを生成する。第1生成部47は、生成した第1駆動信号GuAH~GwALを各スイッチSuAH~SwALのゲートに対して出力する。U相を例にして説明すると、例えば、第1生成部47は、第1U相指令電圧VuA*を電源電圧VDCで規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、U相上,下アーム駆動信号GuAH,GuALを生成する。各相において、上アーム側の駆動信号と、下アーム側の駆動信号とは、互いに相補的な信号となっている。このため、上アームスイッチと、対応する下アームスイッチとは、交互にオンされる。
【0041】
第2生成部48は、第2U,V,W相指令電圧VuB*,VvB*,VwB*と、電源電圧VDCとに基づいて、第1生成部47と同様に、第2駆動信号GuBH~GwBLを生成する。第2生成部48は、生成した第2駆動信号GuBH~GwBLを各スイッチSuBH~SwBLのゲートに対して出力する。これにより、各インバータ20A,20Bにおいてスイッチング制御が行われ、回転電機10の制御量が制御指令値に制御される。
【0042】
なお、本実施形態において、指令電圧算出部46、第1生成部47及び第2生成部48が「スイッチ制御部」に相当する。
【0043】
制御装置40は、高周波抽出部51及び位相推定部52を備えている。ここで、位相推定部52における電気角の推定原理について説明する。
【0044】
2つの巻線群を備える回転電機10における電圧方程式は、下式(eq3)により表せられる。
【0045】
【数3】
上式(eq3)において、VdA,VqAは第1巻線群10Aの第1d,q軸電圧を示し、VdB,VqBは第2巻線群10Bの第2d,q軸電圧を示し、IdA,IqAは第1巻線群10Aの第1d,q軸電流を示し、IdB,IqBは第2巻線群10Bの第2d,q軸電流を示す。RdA,RqAは第1巻線群10Aのd,q軸電機子抵抗を示し、RdB,RqBは第2巻線群10Bのd,q軸電機子抵抗を示す。Ld,Lqは第1,第2巻線群10A,10Bそれぞれのd,q軸インダクタンスを示し、Md,Mqは第1,第2巻線群10A,10B間のd,q軸相互インダクタンスを示す。pは微分演算子を示し、ωreは回転電機10の電気角周波数を示し、Keは誘起電圧定数を示す。上式(eq3)では、第1,第2巻線群10A,10Bそれぞれにおいて、d軸インダクタンスが同じ値とされ、q軸インダクタンスが同じ値とされている。d,q軸相互インダクタンスMd,Mqは、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとが磁気的に結合しているために発生する。
【0046】
上式(eq3)において、右辺第1項は巻線抵抗による電圧降下を示し、右辺第2項は電流変化によるインダクタンスの電圧降下を示し、右辺第3項は電機子反作用を示す。右辺第2,3項のインダクタンス行列が示すように、相互インダクタンスは非対角成分となる。その結果、第1巻線群10Aに対応する系統と、第2巻線群10Bに対応する系統との間に干渉が発生する。
【0047】
上式(eq1)の変換行列[Tvsd]を用いて、上式(eq3)に対して和系統及び差系統への座標変換を施すと、下式(eq4)が導かれる。
【0048】
【数4】
上式(eq4)において、添え字のSは和系統であることを示し、添え字のDは差系統であることを示す。
【0049】
図3に示すように、実際の電気角θreと推定角θestとの間の位置誤差をΔθにて示す。位置誤差Δθは、d軸とγ軸とのなす角度である。各巻線群に高周波電圧を重畳し、dq座標系をγδ座標系に変換すると、下式(eq5)が導かれる。
【0050】
【数5】
上式(eq5)において、IγShは和系統γ軸高周波電流を示し、IδShは和系統δ軸高周波電流を示し、IγDhは差系統γ軸高周波電流を示し、IδDhは差系統δ軸高周波電流を示す。VγShは和系統γ軸高周波電圧を示し、VδShは和系統δ軸高周波電圧を示し、VδDhは差系統δ軸高周波電圧を示す。
【0051】
上式(eq5)に示すように、和系統と差系統との間に干渉が発生しない。また、上式(eq5)の右辺に示す係数行列は、位置誤差Δθと相関する項を含む。このため、上式(eq5)の左辺に示す和系統γ軸高周波電流IγSh、和系統δ軸高周波電流IδSh、差系統γ軸高周波電流IγDh及び差系統δ軸高周波電流IδDhに基づいて、電気角を推定することができる。
【0052】
ここで、和系統及び差系統のいずれに高周波電圧を重畳することによっても電気角を推定することができる。本実施形態では、差系統に高周波電圧を重畳する。これは、回転電機10のトルク脈動を低減するためである。詳しくは、回転電機10のトルクTrqは、下式(eq6)で表される。
【0053】
【数6】
上式(eq6)において、Pnは極対数を示し、添え字のfは直流成分を示し、添え字のhは高周波成分を示す。和系統の高周波電流は、回転子磁束及び電流の直流成分の積でトルク脈動を発生させる。一方、差系統の高周波電流は、回転子磁束及び直流成分と非干渉化されているため、トルク脈動は差系統の高周波電流同士でしか発生しない。つまり、位置センサレス制御においてトルク脈動の低減を図るために、本実施形態では、和系統及び差系統のうち差系統に高周波電圧を重畳する。
【0054】
また、差系統において、差系統γ,δ軸のうちどちらの軸に高周波電圧を重畳する場合であっても電気角を推定することができる。本実施形態では、図4に示すように、差系統γ軸に高周波電圧を重畳する。
【0055】
高周波生成部50は、下式(eq7)で表される高周波電圧を生成する。下式(eq7)において、Vhは差系統γ軸高周波電圧VγDhの振幅を示し、ωhは差系統γ軸高周波電圧VγDhの角周波数を示す。この角周波数ωhは、回転電機10の電気角周波数よりも十分高い角周波数である。
【0056】
【数7】
上式(eq7)を上式(eq5)に代入すると、「IγSh=0、IδSh=0」になるとともに、下式(eq8),(eq9)が導かれる。
【0057】
【数8】
【0058】
【数9】
差系統γ軸高周波電流IγDh及び差系統δ軸高周波電流IδDhのいずれを用いても電気角を推定することができる。本実施形態では、差系統δ軸高周波電流IδDhを用いて電気角を推定する。これは、差系統γ軸高周波電流IγDhには直流成分が含まれているのに対し、差系統δ軸高周波電流IδDhには直流成分が含まれておらず、差系統δ軸高周波電流IδDhから位置誤差Δθの情報を取り出しやすいためである。
【0059】
高周波抽出部51は、変換部41から出力された差系統δ軸電流IδDrから差系統δ軸高周波電流IδDhを抽出する。本実施形態において、高周波抽出部51はバンドパスフィルタである。なお、高周波抽出部51はハイパスフィルタであってもよい。
【0060】
位相推定部52は、高周波抽出部51により抽出された差系統δ軸高周波電流IδDhに基づいて、推定角θestを算出する。詳しくは、位相推定部52は、図5に示すように、検波部53と、位相同期回路54とを備えている。
【0061】
検波部53は、乗算部53aと、フィルタ部53bとを備えている。乗算部53aは、抽出された差系統δ軸高周波電流IδDhに、差系統γ軸高周波電圧VγDhとは位相がπ/2ずれた信号である検波信号「cоs(ωh×t)」を乗算するヘテロダイン処理を行う。差系統δ軸高周波電流IδDhが上式(eq9)で表されることを踏まえると、乗算部53aの出力値「IδDh×cоs(ωh×t)」である誤差量εは、下式(eq10)で表される。
【0062】
【数10】
フィルタ部53bは、乗算部53aの出力値である誤差量εにローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ処理が施された誤差量εは、下式(eq11)で表される。
【0063】
【数11】
つまり、ローパスフィルタ処理が施された誤差量εは、位置誤差Δθに比例する信号となる。
【0064】
位相同期回路54は、制御器54aと、積分器54bとを備えている。制御器54aは、フィルタ部53bから出力された誤差量εを0にフィードバック制御するための操作量として、電気角周波数の推定値である推定角周波数ωestを算出する。
【0065】
積分器54bは、推定角周波数ωestを時間積分することにより、推定角θestを算出する。算出された推定角θestは、指令電圧算出部46及び変換部41で用いられる。
【0066】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0067】
差系統と和系統との間においては、高周波電圧と、高周波電圧の重畳に伴い流れる高周波電流との間の干渉が発生しない。このため、差系統γ軸電圧VγD*に差系統γ軸高周波電圧VγDhが重畳される場合、差系統γ軸高周波電圧VγDhの重畳に伴う高周波成分が和系統γ軸電流IγSr及び和系統δ軸電流IδSrに含まれない。これにより、和系統算出部42において和系統γ軸電圧VγS*及び和系統δ軸電圧VδS*の算出に用いられる和系統γ軸電流IγSr及び和系統δ軸電流IδSrから高周波成分を除去するフィルタを、変換部41と和系統算出部42との間に設ける必要がない。このため、制御量の制御系における応答性を高めることができる等、応答性を好適に改善することができる。
【0068】
また、差系統に高周波電圧が重畳されるため、回転電機10のトルク脈動を低減することができ、ひいては回転電機10の騒音を低減することができる。
【0069】
さらに、差系統γ,δ軸のうちγ軸のみに高周波電圧が重畳されるため、制御装置40における演算量を削減することができる。
【0070】
ちなみに、変換部41と和系統算出部42との間にフィルタが設けられていてもよい。この場合であっても、フィルタとして応答性の悪化が抑制されたものを用いることができるため、制御量の制御系における応答性を改善することはできる。
【0071】
<第1実施形態の変形例>
図2に示す高周波除去部43に代えて、例えば、図6に示す高周波除去部49が用いられてもよい。高周波除去部49は、高周波電流算出部49a及び除去部49bを備えている。高周波電流算出部49aは、差系統γ軸高周波電圧VγDh及び上式(eq5)に基づいて、差系統γ軸高周波電流IγDhを算出し、差系統δ軸高周波電圧VδDh及び上式(eq5)に基づいて、差系統δ軸高周波電流IδDhを算出する。
【0072】
除去部49bは、変換部41から出力された差系統γ軸電流IγDrから、高周波電流算出部49aにより算出された差系統γ軸高周波電流IγDhを減算することにより差系統γ軸基本値IγDfを算出する。また、除去部49bは、変換部41から出力された差系統δ軸電流IδDrから、高周波電流算出部49aにより算出された差系統δ軸高周波電流IδDhを減算することにより差系統δ軸基本値IδDfを算出する。算出された差系統γ軸基本値IγDf及び差系統δ軸基本値IδDfは、差系統算出部44に入力される。
【0073】
なお、和系統γ軸電流IγSrに含まれる直流成分である和系統γ軸基本値IγSf、及び和系統δ軸電流IδSrに含まれる直流成分である和系統δ軸基本値IδSfについても、差系統γ軸基本値IγDf等と同様に、高周波除去部49により算出することができる。
【0074】
図2に示す高周波抽出部51に代えて、例えば、図7に示す高周波抽出部55が用いられてもよい。高周波抽出部55は、基本波電流算出部55a及び除去部55bを備えている。基本波電流算出部55aは、差系統δ軸における電圧直流成分である差系統δ軸基本電圧VδDfと、モデル式とに基づいて、差系統δ軸基本値IδDfを算出する。ここで、モデル式は、差系統δ軸基本電圧VδDfを入力とし、差系統δ軸基本値IδDfを出力とするモデル式である。
【0075】
除去部55bは、変換部41から出力された差系統δ軸電流IδDrから、基本波電流算出部55aにより算出された差系統δ軸基本値IδDfを減算することにより差系統δ軸高周波電流IδDhを算出する。算出された差系統δ軸高周波電流IδDhは、位相推定部52に入力される。
【0076】
なお、差系統γ軸高周波電流IγDh、和系統γ軸高周波電流IγSh及び和系統δ軸高周波電流IδShについても、差系統δ軸高周波電流IδDhと同様に、高周波抽出部55により算出することができる。この場合、差系統γ軸における電圧直流成分である差系統γ軸基本電圧VγDf、和系統γ軸における電圧直流成分である和系統γ軸基本電圧VγSf、及び和系統δ軸における電圧直流成分である和系統δ軸基本電圧VδSfが基本波電流算出部55aの入力となる。
【0077】
・差系統γ軸高周波電圧VγDhとしては、上式(eq7)に示すものに限らず、例えば、「Vh×cоs(ωh×t)」であってもよい。この場合、図5の乗算部53aに入力される検波信号は、差系統γ軸高周波電圧VγDhとは位相がπ/2ずれた信号である「sin(ωh×t)」であればよい。
【0078】
・位相推定部52は、例えば図8に示すように、検波部53に代えて、誤差算出部56を備えるものであってもよい。誤差算出部56は、抽出された差系統γ軸高周波電流IγDhと、差系統γ軸高周波電圧VγDhと、下式(eq12)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。下式(eq12)は、上式(eq9)から導かれたものである。なお、差系統γ軸高周波電圧VγDhが用いられるのは、下式(eq12)の右辺の「cоs(ωh×t)」の情報を把握するためである。
【0079】
【数12】
位相同期回路54の制御器54aは、誤差算出部56により算出された位置誤差Δθを0にフィードバック制御するための操作量として、推定角周波数ωestを算出する。
【0080】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図9に示すように、位相推定部52において、差系統δ軸高周波電流IδDhに代えて、差系統γ軸高周波電流IγDhが推定角θestの算出に用いられる。なお、図9において、先の図2に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0081】
高周波抽出部51は、変換部41から出力された差系統γ軸電流IγDrから差系統γ軸高周波電流IγDhを抽出する。
【0082】
位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられる。位相推定部52の誤差算出部56は、抽出された差系統γ軸高周波電流IγDhと、差系統γ軸高周波電圧VγDhと、下式(eq13)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。下式(eq13)は、上式(eq8)から導かれたものである。
【0083】
【数13】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0084】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図10に示すように、差系統γ軸に代えて、差系統δ軸に高周波電圧が重畳される。また、位相推定部52において、差系統δ軸高周波電流IδDhに代えて、差系統γ軸高周波電流IγDhが推定角θestの算出に用いられる。なお、図10において、先の図2に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0085】
高周波生成部50は、下式(eq14)で表される差系統δ軸高周波電圧VδDhを生成する。差系統δ軸高周波電圧VδDhは、図11に示すように、差系統δ軸上に重畳される。
【0086】
【数14】
δ軸重畳部45bは、差系統δ軸電圧VδD*に、高周波生成部50により生成された差系統δ軸高周波電圧VδDhを重畳する。
【0087】
指令電圧算出部46は、算出された和系統γ軸電圧VγS*、和系統δ軸電圧VδS*及び差系統γ軸電圧VγD*と、δ軸重畳部45bの出力値「VδD*+VδDh」と、下式(eq15)とに基づいて、第1γ軸電圧VγA、第1δ軸電圧VδA、第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBを算出する。
【0088】
【数15】
上式(eq14)を上式(eq5)に代入すると、「IγSh=0、IδSh=0」になるとともに、下式(eq16),(eq17)が導かれる。
【0089】
【数16】
【0090】
【数17】
差系統γ軸高周波電流IγDh及び差系統δ軸高周波電流IδDhのいずれを用いても電気角を推定することができる。本実施形態では、差系統γ軸高周波電流IγDhを用いて電気角を推定する。これは、差系統γ軸高周波電流IγDhには直流成分が含まれず、差系統γ軸高周波電流IγDhから位置誤差Δθの情報を取り出しやすいためである。
【0091】
位相推定部52の検波部53において、乗算部53aは、抽出された差系統γ軸高周波電流IγDhに検波信号「cоs(ωh×t)」を乗算するヘテロダイン処理を行う。差系統γ軸高周波電流IγDhが上式(eq16)で表されることを踏まえると、乗算部53aの出力値「IγDh×cоs(ωh×t)」である誤差量εは、上式(eq10)で表される。なお、フィルタ部53b及び位相同期回路54における処理は、第1実施形態と同様である。
【0092】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0093】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第3実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図12に示すように、位相推定部52において、差系統γ軸高周波電流IγDhに代えて、差系統δ軸高周波電流IδDhが推定角θestの算出に用いられる。なお、図12において、先の図10に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0094】
位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられる。位相推定部52の誤差算出部56は、抽出された差系統δ軸高周波電流IδDhと、差系統δ軸高周波電圧VδDhと、下式(eq18)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。下式(eq18)は、上式(eq17)から導かれたものである。
【0095】
【数18】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1~第4実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図13に示すように、差系統γ,δ軸のいずれかではなく、差系統γ,δ軸の双方に高周波電圧が重畳される。なお、図13において、先の図2及び図10に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0096】
高周波生成部50は、下式(eq19)で表される差系統γ軸高周波電圧VγDh及び差系統δ軸高周波電圧VδDhを生成する。
【0097】
【数19】
上式(eq19)において、「0<a≦1」,「0<b≦1」である。差系統γ,δ軸座標系において、上式(eq19)により表される高周波電圧の軌跡は、図14に示すように、直線状の軌跡となる。周期的に極性が変化する高周波電圧が差系統γ,δ軸それぞれに印加されるため、回転電機10のトルク脈動を低減でき、回転電機10の騒音を低減できる。
【0098】
指令電圧算出部46は、算出された和系統γ軸電圧VγS*及び和系統δ軸電圧VδS*と、γ軸重畳部45aの出力値「VγD*+VγDh」と、δ軸重畳部45bの出力値「VδD*+VδDh」と、下式(eq20)とに基づいて、第1γ軸電圧VγA、第1δ軸電圧VδA、第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBを算出する。
【0099】
【数20】
上式(eq19)を上式(eq5)に代入すると、「IγSh=0、IδSh=0」になるとともに、下式(eq21),(eq22)が導かれる。
【0100】
【数21】
【0101】
【数22】
差系統γ軸高周波電流IγDh及び差系統δ軸高周波電流IδDhの少なくとも一方に基づいて電気角を推定することができる。以下、推定方法の一例について説明する。
【0102】
まず、差系統γ軸高周波電流IγDhを用いる場合について説明する。以下では、便宜上、「a=b」とする。ただし、「a≠b」であってもよい。「a=b」の場合、上式(eq21)は下式(eq23)になる。
【0103】
【数23】
位相推定部52として、例えば先の図5又は図8に示したものを用いることができる。まず、図5の場合について説明すると、乗算部53aは、高周波抽出部51により抽出された差系統γ軸高周波電流IγDhに検波信号「cоs(ωh×t)」を乗算する。この乗算値である誤差量εは、下式(eq24)で表される。
【0104】
【数24】
フィルタ部53bは、乗算部53aの出力値である誤差量εにローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ処理が施された誤差量εは、下式(eq25)で表される。
【0105】
【数25】
上式(eq24)の右辺第2項の直流成分C2を誤差量εから減算した値が制御器54aに入力される。制御器54aは、入力値を0にフィードバック制御するための操作量として、推定角周波数ωestを算出する。
【0106】
続いて、図8の場合について説明すると、誤差算出部56は、抽出された差系統γ軸高周波電流IγDhと、各高周波電圧VγDh,VδDhのいずれかと、下式(eq26)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。下式(eq26)は、上式(eq23)から導かれたものである。
【0107】
【数26】
続いて、差系統δ軸高周波電流IδDhを用いる場合について説明する。以下では、便宜上、「a=b」とする。この場合、上式(eq22)は下式(eq27)になる。
【0108】
【数27】
位相推定部52として、例えば先の図5又は図8に示したものを用いることができる。まず、図5の場合について説明すると、乗算部53aは、高周波抽出部51により抽出された差系統δ軸高周波電流IδDhに検波信号「cоs(ωh×t)」を乗算する。この乗算値である誤差量εは、下式(eq28)で表される。
【0109】
【数28】
上式(eq28)の右辺第2項の直流成分C3を誤差量εから減算した値が制御器54aに入力される。
【0110】
続いて、図8の場合について説明すると、誤差算出部56は、抽出された差系統δ軸高周波電流IδDhと、各高周波電圧VγDh,VδDhのいずれかと、下式(eq29)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。下式(eq29)は、上式(eq27)から導かれたものである。
【0111】
【数29】
以上説明した本実施形態によれば、高周波電圧の重畳に伴い発生する騒音をより低減することができる。
【0112】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第5実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、差系統γ,δ軸の双方に重畳される高周波電圧が変更されている。高周波生成部50は、下式(eq30)で表される差系統γ軸高周波電圧VγDh及び差系統δ軸高周波電圧VδDhを生成する。
【0113】
【数30】
上式(eq30)において、「0<a≦1」,「0<b≦1」である。差系統γ,δ軸座標系において、上式(eq30)により表される高周波電圧の軌跡は、円を描く軌跡となる。「a=b」の場合、図15に示すように、真円状の軌跡となり、「a≠b」の場合、楕円状の軌跡となる。周期的に極性が変化する高周波電圧が差系統γ,δ軸それぞれに印加されることとなる。
【0114】
上式(eq30)を上式(eq5)に代入すると、差系統γ軸高周波電流IγDhは、上式(eq21)と同じになる。このため、例えば、「a=b」の場合、推定角θestの算出に差系統γ軸高周波電流IγDhが用いられる場合、第5実施形態と同様の手法で位置誤差Δθを算出できる。
【0115】
一方、差系統δ軸高周波電流IδDhは、下式(eq31)で表される。
【0116】
【数31】
「a=b」の場合、上式(eq31)は下式(eq32)になる。
【0117】
【数32】
位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられる。この場合、位相推定部52の誤差算出部56は、上式(eq32)をΔθについて解いた式と、抽出された差系統δ軸高周波電流IδDhと、各高周波電圧VγDh,VδDhのいずれかとに基づいて、位置誤差Δθを算出する。
【0118】
以上説明した本実施形態によれば、第6実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0119】
<第7実施形態>
以下、第7実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、差系統γ軸に高周波の矩形波電圧が重畳される。
【0120】
図16は、本実施形態に係る制御装置40の処理のブロック図である。なお、図16において、先の図2に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0121】
高周波生成部50は、電気角周波数よりも高い周波数で変動する矩形波の差系統γ軸高周波電圧VγDhを生成する。差系統γ軸高周波電圧VγDhの振幅はVhである。差系統γ軸高周波電圧VγDhは、第1生成部47及び第2生成部48で用いられるキャリア信号SgCの1周期Tc毎に極性が切り替わる信号である。
【0122】
図17を用いて、電気角の推定方法について説明する。図17において、(a)はキャリア信号SgCの推移を示し、(c)は差系統δ軸高周波電圧VδDhの推移を示し、(b)は差系統γ軸高周波電圧VγDhの推移を示し、(d)は差系統γ軸高周波電流IγDh及び差系統δ軸高周波電流IδDhの推移を示す。
【0123】
図17(a),(b)に示すように、キャリア信号SgCと差系統δ軸高周波電圧VδDhとは同期している。詳しくは、キャリア信号SgCが最小値になるタイミングで差系統δ軸高周波電圧VδDhの極性が切り替わる。
【0124】
上式(eq5)から下式(eq33),(eq34)が導かれる。
【0125】
【数33】
【0126】
【数34】
本実施形態では、差系統δ軸高周波電流IδDhを用いて推定角θestを算出する。本実施形態では、図17に示すように、差系統γ軸高周波電圧VγDhが正極性とされる場合において、キャリア信号SgCが最小値となるタイミング毎に、高周波抽出部51において差系統δ軸電流IδDrが抽出される。この場合、差系統δ軸電流IδDrの一対のサンプリング値IδDr(n),IδDr(n-1)の差と、上式(eq34)とから、下式(eq35)が導かれる。
【0127】
【数35】
つまり、差系統δ軸電流IδDrの一対のサンプリング値IδDr(n),IδDr(n-1)の差は、位置誤差Δθの情報を含んでいる。
【0128】
位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられる。位相推定部52の誤差算出部56は、一対のサンプリング値IδDr(n),IδDr(n-1)の差を算出し、算出した差を制御器54aに出力する。制御器54aは、入力値を0にフィードバック制御するための操作量として、推定角周波数ωestを算出する。
【0129】
なお、本実施形態において、高周波除去部43は、下式(eq36)に基づいて、差系統γ軸基本値IγDfを算出する。また、高周波除去部43は、下式(eq37)に基づいて、差系統δ軸基本値IδDfを算出する。
【0130】
【数36】
【0131】
【数37】
<第7実施形態の変形例>
・差系統γ軸高周波電圧VγDhが負極性とされる場合において、キャリア信号SgCが最小値となるタイミング毎に、高周波抽出部51において差系統δ軸電流IδDrが抽出されてもよい。
【0132】
・差系統γ軸高周波電流IγDhを用いて推定角θestが算出されてもよい。詳しくは、図17に示すように、差系統γ軸高周波電圧VγDhが正極性とされる場合において、キャリア信号SgCが最小値となるタイミング毎に、高周波抽出部51において差系統γ軸電流IγDrが抽出される。これにより、差系統γ軸電流IγDrの変化量を大きくでき、推定角θestの算出精度を高めることができる。
【0133】
差系統γ軸電流IγDrの一対のサンプリング値IγDr(n),IγDr(n-1)の差と、上式(eq33)とから、下式(eq38)が導かれる。
【0134】
【数38】
上式(eq38),(eq33)から下式(eq39)が導かれる。
【0135】
【数39】
位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられる。位相推定部52の誤差算出部56は、一対のサンプリング値IγDr(n),IγDr(n-1)の差を算出し、算出した差と、上式(eq39)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。
【0136】
・差系統γ軸高周波電圧VγDhに代えて、矩形波の差系統δ軸高周波電圧VδDhが差系統δ軸電圧VδD*に重畳されてもよい。この場合、差系統γ軸高周波電流IγDh又は差系統δ軸高周波電流IδDhに基づいて、推定角θestが算出されればよい。
【0137】
・差系統γ軸高周波電圧VγDhの極性が正極性に切り替わった後、差系統γ軸高周波電圧VγDhの極性が負極性に切り替わる前のタイミングにおいて、差系統γ軸高周波電流IγDhがサンプリングされてもよい。
【0138】
<第8実施形態>
以下、第8実施形態について、第7実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、差系統γ軸高周波電圧VγDhの極性にかかわらず、キャリア信号SgCが最小値となるタイミング毎に、高周波抽出部51において差系統δ軸電流IδDrが抽出される。この場合、上式(eq35)に代えて、下式(40)が用いられればよい。
【0139】
【数40】
また、上式(eq38)に代えて、下式(41)が用いられればよい。
【0140】
【数41】
<第9実施形態>
以下、第9実施形態について、上記各実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。上記各実施形態では、差系統に高周波電圧が重畳されたが、以降の実施形態では、和系統に高周波電圧が重畳される。第9実施形態では、図18に示すように、和系統γ軸に高周波電圧が重畳される。なお、図18において、先の図2に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0141】
本実施形態において、変換部41から出力された差系統γ軸電流IγDr及び差系統δ軸電流IδDrは、高周波成分を除去するフィルタを介さず差系統算出部44に直接入力される。上記フィルタは、例えば、バンドストップフィルタ又はローパスフィルタである。差系統算出部44は、差系統γ軸電流IγDrを差系統γ軸指令電流IγD*にフィードバック制御するための操作量として、差系統γ軸電圧VγD*を算出する。また、差系統算出部44は、差系統δ軸電流IδDrを差系統δ軸指令電流IδD*にフィードバック制御するための操作量として、差系統δ軸電圧VδD*を算出する。
【0142】
高周波除去部43は、算出された和系統γ軸電流IγSrに含まれる高周波成分を除去することにより、和系統γ軸電流IγSrに含まれる直流成分である和系統γ軸基本値IγSfを抽出する。また、高周波除去部43は、算出された和系統δ軸電流IδSrに含まれる高周波成分を除去することにより、和系統δ軸電流IδSrに含まれる直流成分である和系統δ軸基本値IδSfを抽出する。本実施形態において、高周波除去部45は、バンドストップフィルタである。なお、高周波除去部43としては、例えば、先の図6に示すものが用いられてもよい。
【0143】
和系統算出部42は、算出された和系統γ軸基本値IγSfを和系統γ軸指令電流IγS*にフィードバック制御するための操作量として、和系統γ軸電圧VγS*を算出する。また、和系統算出部42は、算出された和系統δ軸基本値IδSfを和系統δ軸指令電流IδS*にフィードバック制御するための操作量として、和系統δ軸電圧VδS*を算出する。
【0144】
高周波生成部60は、下式(eq42)で表される和系統γ軸高周波電圧VγShを生成する。
【0145】
【数42】
γ軸重畳部61aは、和系統γ軸電圧VγS*に、高周波生成部60により生成された和系統γ軸高周波電圧VγShを重畳する。
【0146】
指令電圧算出部46は、算出された和系統δ軸電圧VδS*、差系統γ軸電圧VγD*及び差系統δ軸電圧VδD*と、γ軸重畳部61aの出力値「VγS*+VγSh」と、下式(eq43)とに基づいて、第1γ軸電圧VγA、第1δ軸電圧VδA、第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBを算出する。
【0147】
【数43】
上式(eq42)を上式(eq5)に代入すると、「IγDh=0、IδDh=0」になるとともに、下式(eq44),(eq45)が導かれる。
【0148】
【数44】
【0149】
【数45】
和系統γ軸高周波電流IγSh及び和系統δ軸高周波電流IδShのいずれを用いても電気角を推定することができる。本実施形態では、和系統δ軸高周波電流IδShを用いて電気角を推定する。
【0150】
高周波抽出部51は、変換部41から出力された和系統δ軸電流IδSrから和系統δ軸高周波電流IδShを抽出する。本実施形態において、高周波抽出部51はバンドパスフィルタである。なお、高周波抽出部51はハイパスフィルタであってもよいし、図7に示すものであってもよい。
【0151】
位相推定部52は、高周波抽出部51により抽出された和系統δ軸高周波電流IδShに基づいて、推定角θestを算出する。位相推定部52として、例えば図5に示すものが用いられる。
【0152】
位相推定部52の乗算部53aは、抽出された和系統δ軸高周波電流IδShに、和系統γ軸高周波電圧VγShとは位相がπ/2ずれた信号である検波信号「cоs(ωh×t)」を乗算するヘテロダイン処理を行う。
【0153】
フィルタ部53bは、乗算部53aの出力値である誤差量εにローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ処理が施された誤差量εは、下式(eq46)で表される。
【0154】
【数46】
位相同期回路54の制御器54aは、誤差量εを0にフィードバック制御するための操作量として、推定角周波数ωestを算出する。
【0155】
なお、位相推定部52として、例えば図8に示すものが用いられてもよい。
【0156】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態の効果に準じた効果を奏することができる。
【0157】
<第10実施形態>
以下、第10実施形態について、第9実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図19に示すように、位相推定部52において、和系統δ軸高周波電流IδShに代えて、和系統γ軸高周波電流IγShが推定角θestの算出に用いられる。なお、図19において、先の図18に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0158】
高周波抽出部51は、変換部41から出力された和系統γ軸電流IγSrから和系統γ軸高周波電流IγShを抽出する。
【0159】
位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられる。位相推定部52の誤差算出部56は、抽出された和系統γ軸高周波電流IγShと、和系統γ軸高周波電圧VγShと、下式(eq47)とに基づいて、位置誤差Δθを算出する。下式(eq47)は、上式(eq44)から導かれたものである。
【0160】
【数47】
以上説明した本実施形態によれば、第9実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0161】
<第11実施形態>
以下、第11実施形態について、第9実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図20に示すように、和系統γ軸に代えて、和系統δ軸に高周波電圧が重畳される。また、位相推定部52において、和系統δ軸高周波電流IδShに代えて、和系統γ軸高周波電流IγShが推定角θestの算出に用いられる。なお、図20において、先の図18に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0162】
高周波生成部60は、下式(eq48)で表される差系統δ軸高周波電圧VδDhを生成する。
【0163】
【数48】
δ軸重畳部61bは、和系統δ軸電圧VδS*に、高周波生成部60により生成された和系統δ軸高周波電圧VδShを重畳する。
【0164】
指令電圧算出部46は、算出された和系統γ軸電圧VγS*、差系統γ軸電圧VγD*及び差系統δ軸電圧VδD*と、δ軸重畳部61bの出力値「VδS*+VδSh」と、下式(eq49)とに基づいて、第1γ軸電圧VγA、第1δ軸電圧VδA、第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBを算出する。
【0165】
【数49】
上式(eq49)を上式(eq5)に代入すると、下式(eq50),(eq51)が導かれる。
【0166】
【数50】
【0167】
【数51】
和系統γ軸高周波電流IγSh及び和系統δ軸高周波電流IδShのいずれを用いても電気角を推定することができる。本実施形態では、和系統γ軸高周波電流IγShを用いて電気角を推定する。電気角は、例えば、先の図5に示した位相推定部52を用いて推定すればよい。
【0168】
<第12実施形態>
以下、第12実施形態について、第11実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図21に示すように、位相推定部52において、和系統γ軸高周波電流IγShに代えて、和系統δ軸高周波電流IδShが推定角θestの算出に用いられる。この場合、位相推定部52として、例えば先の図8に示したものが用いられればよい。なお、図21において、先の図20に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0169】
<第13実施形態>
以下、第13実施形態について、第9~第12実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図22に示すように、和系統γ,δ軸のいずれかではなく、γ,δ軸の双方に高周波電圧が重畳される。なお、図22において、先の図18及び図20に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0170】
高周波生成部60は、下式(eq52)で表される和系統γ軸高周波電圧VγSh及び和系統δ軸高周波電圧VδShを生成する。
【0171】
【数52】
指令電圧算出部46は、算出された差系統γ軸電圧VγD*及び差系統δ軸電圧VδD*と、γ軸重畳部61aの出力値「VγS*+VγSh」と、δ軸重畳部61bの出力値「VδS*+VδSh」と、下式(eq53)とに基づいて、第1γ軸電圧VγA、第1δ軸電圧VδA、第2γ軸電圧VγB及び第2δ軸電圧VδBを算出する。
【0172】
【数53】
なお、推定角θestは、和系統γ軸高周波電流IγSh及び和系統δ軸高周波電流IδShの少なくとも一方に基づいて、第5実施形態で説明した方法と同様な方法で算出されればよい。
【0173】
<第14実施形態>
以下、第14実施形態について、第13実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、和系統のγ,δ軸の双方に重畳される高周波電圧が変更されている。高周波生成部50は、下式(eq54)で表される和系統γ軸高周波電圧VγSh及び和系統δ軸高周波電圧VδShを生成する。
【0174】
【数54】
なお、推定角θestは、和系統γ軸高周波電流IγSh及び和系統δ軸高周波電流IδShの少なくとも一方に基づいて、第6実施形態で説明した方法と同様な方法で算出されればよい。
【0175】
<第15実施形態>
以下、第15実施形態について、第9実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図23に示すように、和系統γ軸に高周波の矩形波電圧が重畳される。なお、図23において、先の図18に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0176】
高周波生成部60は、和系統γ軸高周波電圧VγShとして、第7実施形態の差系統γ軸高周波電圧VγDhと同様な高周波電圧を生成する。
【0177】
なお、推定角θestは、和系統γ軸高周波電流IγShの一対のサンプリング値IγSr(n),IγSr(n-1)の差、又は和系統δ軸高周波電流IδShの一対のサンプリング値IδSr(n),IδSr(n-1)の差に基づいて、第7実施形態又は第7実施形態の変形例で説明した方法と同様な方法で算出されればよい。
【0178】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0179】
・第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとのなす角度が電気角で0°以外の角度(例えば30°)とされていてもよい。
【0180】
・回転電機としては、永久磁石界磁型のものに限らず、例えば、ロータに界磁巻線を備える巻線界磁型のものであってもよい。
【0181】
・回転電機を構成する各巻線群の相数としては、3相に限らず,4相以上であってもよい。
【0182】
・制御システムが搭載される移動体としては、車両に限らず、例えば、航空機又は船舶であってもよい。例えば、移動体が航空機の場合、制御システムを構成する回転電機は航空機の飛行動力源となる。また、例えば、移動体が船舶の場合、制御システムを構成する回転電機は船舶の航行動力源となる。また、制御システムの搭載先は、移動体に限らない。
【0183】
・回転電機の用途としては、移動体の移動動力源に限らず、例えば、電動パワーステアリング装置又は電動ブレーキのアクチュエータとして用いられてもよい。
【0184】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0185】
10…回転電機、10A,10B…第1,第2巻線群、20A,20B…第1,第2インバータ、40…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図21
図22
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