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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】PGMの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/02 20060101AFI20241129BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B7/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021533916
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2020026339
(87)【国際公開番号】W WO2021014946
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019133690
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020003745
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599027242
【氏名又は名称】株式会社日本ピージーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 圭一
(72)【発明者】
【氏名】八ッ橋 広光
(72)【発明者】
【氏名】山口 勉功
(72)【発明者】
【氏名】村田 敬
【審査官】本間 友孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/099009(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/081243(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/108522(WO,A1)
【文献】特開2010-077470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PGMを含有する被処理物と、卑金属および/または卑金属酸化物と、フラックスと、還元剤とを還元溶錬に用いる還元炉に入れて加熱し、これら溶融して溶融スラグと還元炉メタルとを形成する還元溶錬工程と、
前記還元炉から溶融スラグを抽出し、PGMを含有する還元炉メタルを得る抽出工程と、
前記還元炉メタルを酸化溶錬に用いる酸化炉に移して酸化溶融し、卑金属酸化物のスラグとPGM合金とを形成した後に、卑金属酸化物スラグを抽出し、PGMが濃縮されたPGM合金を得る酸化溶錬工程と、を行うPGMの回収方法において、
前記還元炉からの前記溶融スラグの抽出前に、前記還元炉の上部から前記溶融スラグへ、または、前記還元炉とは別の還元炉を用いて溶融状態を保つ前記溶融スラグへ、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から成る群より選ばれた少なくとも1種の卑金属酸化物を添加して前記溶融スラグ中を沈降させ、前記溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収することを特徴とするPGMの回収方法。
【請求項2】
前記溶融スラグの質量に対して、35質量%未満の前記卑金属酸化物を添加することを特徴とする請求項1に記載のPGMの回収方法。
【請求項3】
前記溶融スラグへ、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から成る群より選ばれた少なくとも1種の卑金属酸化物を添加し、前記溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収する際、少なくとも2時間の保持時間を設けることを特徴とする請求項1または2に記載のPGMの回収方法。
【請求項4】
前記卑金属酸化物は、前記溶融スラグに含まれるPGMの質量の10倍以上500倍以下を添加することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のPGMの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素(本発明において「PGM」と記載する場合がある。)を含有する各種の部材、例えば、使用済みの自動車排ガス浄化用触媒、使用済みの電子基板やリードフレーム、使用済みの石油化学系触媒等を被処理物とし、当該PGMを含有する被処理物からのPGMの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、使用済みの自動車排ガス浄化用触媒のように、PGMを含有する各種の部材を被処理物とし、当該PGMを含有する被処理物からPGMを回収する方法が提案されている。例えば、本発明出願人は、PGMを含有する被処理物を銅源材料と共に加熱溶融し、生成した溶融メタル中にPGMを吸収させる、効率の良いPGMの乾式回収法を開示している(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に係るPGMの乾式回収法においては、PGMを含有する被処理物と、酸化銅を含有する銅源材料とを、フラックス成分および還元剤と共に密閉型の還元炉に装填して溶融する。そして、生成した酸化物主体の溶融スラグの下方に沈降した溶融メタル中に、PGMを濃縮させてこれを回収する(本発明において「還元溶錬工程」と記載する場合がある)。一方、銅含有量が低下した前記溶融スラグを前記還元炉から排出し、また前記銅源材料として一定粒径を有する粒状銅源材料を用いる、という構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-24263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述の成果に満足することなく、PGMを含有する被処理物からのさらに高効率なPGM回収方法について研究を行なった。そして、特許文献1の方法は、被処理物中のPGMを高効率、高収率で回収できたが、当該回収工程から排出される溶融スラグ中にはPGMが残存していることに注目した。
本発明が解決しようとする課題は、この溶融スラグ中に残存するPGMの回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、溶融スラグ中に残存するPGMを回収する方法を研究した結果、当該溶融スラグに卑金属酸化物を添加することでPGMの回収ができることに想到した。
【0007】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
PGMを含有する被処理物と、卑金属および/または卑金属酸化物と、フラックスと、還元剤とを還元溶錬に用いる還元炉に入れて加熱し、これら溶融して溶融スラグと還元炉メタルとを形成する還元溶錬工程と、
前記還元炉から溶融スラグを抽出し、PGMを含有する還元炉メタルを得る抽出工程と、
前記還元炉メタルを酸化溶錬に用いる酸化炉に移して酸化溶融し、卑金属酸化物のスラグとPGM合金とを形成した後に、前記卑金属酸化物スラグを抽出し、PGMが濃縮されたPGM合金を得る酸化溶錬工程と、を行うPGMの回収方法において、
前記溶融スラグへ、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から成る群より選ばれた少なくとも1種の卑金属酸化物を添加して、前記溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収することを特徴とするPGMの回収方法である。
第2の発明は、
前記溶融スラグの質量に対して、35質量%未満の前記卑金属酸化物を添加することを特徴とする第1の発明に記載のPGMの回収方法である。
第3の発明は、
前記溶融スラグへ、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から成る群より選ばれた少なくとも1種の卑金属酸化物を添加し、前記溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収する際、少なくとも2時間の保持時間を設けることを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載のPGMの回収方法である。
第4の発明は、
前記卑金属酸化物は、前記溶融スラグに含まれるPGMの質量の10倍以上500倍以下を添加することを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載のPGMの回収方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶融スラグに卑金属酸化物を添加することにより、当該溶融スラグからPGM合金を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る溶融スラグからのPGM回収方法の工程フロー図である。
図2】本発明の異なる実施形態に係る溶融スラグからのPGM回収方法の工程フロー図である。
図3】従来の技術に係るPGM回収方法の工程フロー図である。
図4】縦軸に回収メタルを分離した後の溶融スラグ試料中のPt濃度、横軸に卑金属酸化物添加後のサンプリング時間をとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るPGMの回収方法について図面(図1~3)を参照しながら、[1]還元溶錬工程、[2]酸化溶錬工程、[3]従来の技術に係る還元溶錬工程の課題と解決方法、[4]本発明に係る還元溶錬工程、[5]本発明に係る酸化溶錬工程、および[6]本発明に係るPGM回収方法例、の順に説明する。
尚、図1は本発明に係る溶融スラグからのPGM回収方法の工程フロー図であり、図2は本発明の異なる実施形態に係る溶融スラグからのPGM回収方法の工程フロー図であり、図3は従来の技術に係るPGM回収方法の工程フロー図である。
そして、これらのPGM回収方法の工程フローにて用いる原材料、添加剤、生産物、廃棄物、および工程に符号を付しているが、同一の符号を付された原材料等は、同様のものである。
【0011】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
PGMを含有する被処理物と、卑金属および/または卑金属酸化物と、フラックスと、還元剤とを還元溶錬に用いる還元炉に入れて加熱し、これら溶融して溶融スラグと還元炉メタルとを形成する還元溶錬工程と、
前記還元炉から溶融スラグを抽出し、PGMを含有する還元炉メタルを得る抽出工程と、
前記還元炉メタルを酸化溶錬に用いる酸化炉に移して酸化溶融し、卑金属酸化物のスラグとPGM合金とを形成した後に、卑金属酸化物スラグを抽出し、PGMが濃縮されたPGM合金を得る酸化溶錬工程と、を行うPGMの回収方法において、
前記還元炉からの前記溶融スラグの抽出前に、前記還元炉の上部から前記溶融スラグへ、または、前記還元炉とは別の還元炉を用いて溶融状態を保つ前記溶融スラグへ、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から成る群より選ばれた少なくとも1種の卑金属酸化物を添加して前記溶融スラグ中を沈降させ、前記溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収することを特徴とするPGMの回収方法である。
第2の発明は、
前記溶融スラグの質量に対して、35質量%未満の前記卑金属酸化物を添加することを特徴とする第1の発明に記載のPGMの回収方法である。
第3の発明は、
前記溶融スラグへ、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から成る群より選ばれた少なくとも1種の卑金属酸化物を添加し、前記溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収する際、少なくとも2時間の保持時間を設けることを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載のPGMの回収方法である。
第4の発明は、
前記卑金属酸化物は、前記溶融スラグに含まれるPGMの質量の10倍以上500倍以下を添加することを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載のPGMの回収方法である。
【0012】
[1]還元溶錬工程
図3に示すように、PGMを含有する被処理物(2)である、例えばセラミックス製自動車触媒の粉砕物と、抽出剤(3)である卑金属および/または卑金属酸化物と、フラックス(1)であるCaOおよび/またはSiOと、そして還元剤(4)の一例であるC(炭素)含有材料とを、還元溶錬に用いる還元炉(5)内に装填する。そして炉内の電極に通電し、前記装填物を加熱し溶融させる。
【0013】
尚、本発明において卑金属とはイオン化傾向がPGMより大きな金属のことである。尤も、卑金属を抽出剤(3)に用いる観点から検討した場合、取り扱い易さ、コスト、等の観点から、銅、鉄、錫、ニッケル及び鉛を好ましく挙げることが出来る。従って、卑金属酸化物としても酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛を好ましく挙げること出来る。そして例えば、卑金属として銅を用いる場合は卑金属酸化物としても酸化銅を用い、鉄を用いる場合は酸化鉄というように、卑金属と卑金属酸化物とに同種の金属を用いることが、PGMの回収の効率を上げる観点から好ましい。代表的には、卑金属として銅を、卑金属酸化物として酸化銅を用いることが、PGMの回収率を高める観点からは特に好ましい。
【0014】
還元剤(4)としては、例えば、C(炭素)、SiC、COガス、メタンガス、プロパンガス、アンモニアガス、および、金属Al、Ti等の前記卑金属より酸化し易い金属を用いることができる。これらの還元剤により雰囲気を炭素飽和にして還元性とし、スラグに溶解した酸化銅を還元する。
【0015】
すると、還元溶錬に用いる還元炉(5)内において、酸化物(CaO-SiO-Al)を主体とする溶融スラグ(7)の下方に、PGMを含有する卑金属の合金である還元炉メタル(6)が沈降する。このとき、当該下方に沈降した還元炉メタル(6)中にはPGMが濃縮している。この後、卑金属含有量が3.0質量%以下にまで低下した溶融スラグ(7)を、還元溶錬に用いる還元炉(5)内から抽出し排出する。
【0016】
即ち、本発明において「還元炉メタル(6)」とは、被処理物(2)の粉砕物と還元剤(4)とフラックス(1)と抽出剤(3)とを、還元溶錬に用いる還元炉(5)で溶融した後に、生成した溶融スラグ(7)を抽出し排出して得られる、PGMを含有する銅合金主体の溶湯を示す。
【0017】
以上説明した、被処理物(2)の粉砕物他の還元溶錬に用いる還元炉(5)内装填物を溶融した後、溶融スラグ(7)を抽出分離して排出し、還元炉メタル(6)を得るまでの工程が「還元溶錬工程」であり、鉄鋼製錬において高炉で酸化鉄の鉱石を還元して銑鉄を得るのと類似の手法である。
【0018】
[2]酸化溶錬工程
還元溶錬工程にて得られたPGMが濃縮した還元炉メタル(6)を還元溶錬に用いる還元炉(5)内から抽出し、溶融状態のまま酸化溶錬に用いる酸化炉(9)に移し替え、さらに、空気および/または酸素を吹き込んで酸化する。すると還元炉メタル(6)は、卑金属の酸化物を主体とする卑金属酸化物スラグ(11)と、PGMがさらに濃縮したPGM合金(10)とに層分離する。
【0019】
即ち、本発明において「PGM合金(10)」とは、酸化溶錬に用いる酸化炉(9)にて、還元炉メタル(6)へ空気および/または酸素を吹き込んで酸化した後に、生成した卑金属酸化物スラグ(11)を抜き出して得られる、卑金属とPGMとを主成分として含む合金物質を示す。
【0020】
このPGM合金(10)の湯面上に生成した卑金属酸化物スラグ(11)を酸化溶錬に用いる酸化炉(9)外に排出した後、再び、空気および/または酸素を吹き込んで、酸化物主体の卑金属酸化物スラグ(11)と、PGMがさらに濃縮したPGM合金(10)とに層分離させる。そして、PGM合金(10)の湯面上に生成した卑金属酸化物スラグ(11)を、再び酸化溶錬に用いる酸化炉(9)外に排出する。
【0021】
そして、以上説明した酸化溶錬に用いる酸化炉(9)における酸化処理と、卑金属酸化物スラグ(11)の排出処理とを繰り返すことにより、PGM合金(10)中におけるPGM含有量をさらに濃縮させる。
【0022】
以上説明した酸化溶錬に用いる酸化炉(9)内において、濃縮されたPGMを含有するPGM合金(10)を得るまでの工程が「酸化溶錬工程」であり、鉄鋼製錬において銑鉄中の炭素,ケイ素,リンなどの不純物を酸化して除去するのと類似の工程である。
【0023】
[3]従来の技術に係る還元溶錬工程の課題と解決方法
本発明者らの研究により、従来の技術に係る還元溶錬工程において発生した溶融スラグには、PGM合金が含有されていることが明らかとなった。そして、従来の技術において発生した溶融スラグは当該PGM合金を含有したまま、還元溶錬に用いる還元炉(5)内から抽出され、さらに排出されて廃棄物となっていた。
【0024】
本発明者らは、最終的に廃棄物となる溶融スラグ中に含有されているPGM合金を回収することを従来の技術に係る還元溶錬工程の課題と考え研究を行った。そして、当該研究の結果、還元溶錬工程において発生した溶融スラグへ、卑金属酸化物を添加するという容易な方法でPGM合金を回収できることを知見した。
【0025】
[4]本発明に係る還元溶錬工程
本発明に係る還元溶錬工程は、溶融スラグ(7)に卑金属酸化物(21)の粒子を添加して溶解、還元し、溶融スラグ(7)中に残留するPGM合金を回収する工程である。以下、図1、2を参照しながら〈1〉卑金属酸化物、〈2〉卑金属酸化物の添加方法、の順に説明する。但し、既に図3を用いて説明した従来技術と重複する部分については、説明を省略する場合がある。
【0026】
〈1〉卑金属酸化物
溶融スラグ(7)へ添加する卑金属酸化物(21)としては、「[1]還元溶錬工程」にて説明した卑金属酸化物と同様の、酸化銅、酸化鉄、酸化錫、酸化ニッケル及び酸化鉛から選択した任意の1種又は2種以上を用いることが好ましい。
この場合、「[1]還元溶錬工程」にて用いる卑金属酸化物と異なる卑金属酸化物を用いることも可能ではあるが、「[1]還元溶錬工程」にて用いる卑金属酸化物と同じ卑金属酸化物を用いることが、後述するPGM回収の観点から有利である。還元溶錬工程で銅及び/又は酸化銅を用いることが好ましいことから、溶融スラグに添加する卑金属酸化物としても酸化銅を用いることが好ましい。
【0027】
卑金属酸化物(21)は、溶融スラグへの添加後に溶解しやすい粒状とすることが好ましい。また、粒径は1mm以下であればよく、100μm以下の粒径であることがより好ましい。
【0028】
また、卑金属酸化物(21)の添加量は溶融スラグ(7)の質量に対して、5質量%以上35質量%未満を添加することが好ましい。これは、この範囲で添加することでPGM合金の回収効果を得ることができ、25質量%未満であれば、後述する卑金属酸化物(21)の沈降までの保持時間が長くなり過ぎず、生産性が担保できる為である。
【0029】
さらに、卑金属酸化物(21)の添加量は溶融スラグ(7)に含まれるPGMの質量に対して、10倍以上500倍以下を添加することが好ましい。これは、PGMの質量に対して、卑金属酸化物(21)を10倍以上添加することで溶融スラグ(7)中に懸垂したPGM合金の回収率を担保することができるからである。一方、500倍以下であればPGM合金の回収時間が長くなり過ぎるのを回避できると共に、スラグ中の金属濃度が高くなり過ぎ、回収メタルを回収した後の溶融スラグ(25)や、PGM合金を回収した後の溶融スラグ(26)に起因するPGM合金損失が高くなることを回避することができる為である。当該観点から溶融スラグ(7)に含まれるPGMの質量に対する卑金属酸化物(21)の添加量は、100倍以上300倍以下とすることがより好ましい。
尚、溶融スラグ(7)に含まれるPGM合金量の定量分析は、例えば、ICP分析することで実施できる。
【0030】
〈2〉卑金属酸化物の添加方法
卑金属酸化物(21)は溶融スラグ(7)へ添加された後、溶融スラグ(7)中を沈降しながら残留するPGM合金を補足すると推察できる。このため、卑金属酸化物(21)を添加してから少なくとも2時間の保持時間を設けることが好ましい。保持時間が2時間以上あれば、卑金属酸化物(21)の沈降が十分に進行し、溶融スラグ(7)中に卑金属酸化物(21)が浮遊している状態を完了できる為である。
【0031】
卑金属酸化物(21)による溶融スラグ(7)中の残留PGM合金の補足効率を高める観点から、卑金属酸化物(21)は溶融スラグ(7)中において一度、溶解することが好ましい。従って、卑金属酸化物(21)の添加後における溶融スラグ(7)の温度は、卑金属酸化物(21)の融点ないしは、炉内スラグ(7)と卑金属酸化物(21)とで形成されるスラグの共晶温度より高いことが好ましい。卑金属酸化物(21)が溶融スラグ(7)中において溶解しない場合は、懸垂したPGM合金との合金化反応に寄与せずに析出、沈降する場合があるからである。
【0032】
卑金属酸化物(21)の添加は、還元溶錬に用いる還元炉(5)からの溶融スラグ(7)抽出後および/または抽出前に、行うことができる。以下、図1を参照しながら《a》溶融スラグの抽出前に卑金属酸化物を添加する場合、図2を参照しながら《b》溶融スラグの抽出後に卑金属酸化物を添加する場合、の順に説明する。
【0033】
《a》溶融スラグの抽出前に卑金属酸化物を添加する場合
還元溶錬に用いる還元炉(5)内における溶融スラグ(7)の抽出前に、還元溶錬に用いる還元炉(5)の上部から卑金属酸化物(21)を溶融スラグ(7)へ投入し、保持させることができる。卑金属酸化物(21)の投入は溶融スラグ(7)の表面の広い範囲に行うことが、溶融スラグ(7)中に残留するPGM合金との接触効率を高める観点から好ましい。
【0034】
溶融スラグ(7)中に卑金属酸化物(21)を保持させる時間は、2時間以上とすることが好ましい。当該保持により、卑金属酸化物(21)が還元されてPGM合金との合金を形成し、さらに十分粒成長することで、沈降し易くなると推察できる。沈降した卑金属酸化物(21)由来の金属と、回収されたPGM合金との合金は、還元炉メタル(6)と合体する。
一方、PGM合金を回収した後の溶融スラグ(26)は廃棄物となる。
【0035】
《b》溶融スラグの抽出後に卑金属酸化物を添加する場合
還元溶錬に用いる還元炉(5)から溶融スラグ(7)の抽出後に卑金属酸化物(21)を添加する場合には、再度、還元溶錬に用いる還元炉(5)とは別の還元炉(22)等を用いて溶融スラグ(7)の溶融状態を保ち、そこに卑金属酸化物(21)を投入し沈降まで静置させることで、溶融スラグ(7)中に残留するPGM合金との合金層を、還元炉内の溶融スラグ(23)から分離し回収メタル(24)として還元炉(22)底に形成させることにより、残留するPGM合金を回収することができる。
一方、回収メタルを回収した後の溶融スラグ(25)は廃棄物となる。
【0036】
回収メタル(24)は、酸化溶錬に用いる酸化炉(9)へ加えてPGM合金(10)を得、さらにPGMを得ても良いし、別途の適宜な工程を設けてPGMを得ても良い。
【0037】
[5]本発明に係る酸化溶錬工程
本発明に係る酸化溶錬工程における卑金属酸化物スラグ(11)とPGM合金(10)との間の白金、ロジウム、パラジウムの分配比は、還元溶錬工程における溶融スラグ(7)と還元炉メタル(6)間の分配比の値に比べ、100倍程度大きな値を示す。この為、卑金属酸化物によって回収されたPGM合金と還元炉メタル(6)中とのPGMを濃縮する過程において、相当量のPGMが、発生する卑金属酸化物スラグ(11)中へ分配されてしまう。即ち、PGM合金(10)としてのPGMの回収率は抑制される。
【0038】
そこで、当該相当量のPGMが分配された卑金属酸化物スラグ(11)を、再び、以降実施される還元溶錬工程へ抽出剤(3)として繰り返し、投入することが好ましい。当該構成により、卑金属酸化物スラグ(11)中へ分配された相当量のPGMは、還元溶錬工程と酸化溶錬工程との系内を循環することになり、結果として高効率でPGMを回収できる。
【0039】
また、酸化溶錬工程の際に酸化物(8)を添加し、前記溶融した還元炉メタル(6)を撹拌した後、静置することが好ましい。これにより、卑金属酸化物スラグ(11)へのPGMの分配を低減することができる。
【0040】
[6]本発明に係るPGM回収方法例
本発明に係るPGMの回収工程について、一例を挙げながら説明する。
セラミックス製自動車触媒等のPGMを含有する被処理物(2)と、抽出剤(3)である卑金属および/または卑金属酸化物と、フラックス(1)であるCaOおよび/またはSiOと、そして還元剤(4)であるSiC等のC含有材料とを、還元溶錬に用いる還元炉(5)に装填して加熱する。
その後、酸化物(CaO-SiO-Al)主体の溶融スラグ(7)の下方にPGMを含む卑金属の合金である溶融メタルを沈降させ、当該卑金属合金中にPGMが濃縮した還元炉メタル(6)を得る。
【0041】
一方、卑金属含有量が3.0質量%以下にまで低下した溶融スラグ(7)の表面全体へ、卑金属酸化物(21)として酸化銅の微粉を、分散させて添加し4~10時間程度静置した後に、当該還元溶錬に用いる還元炉(5)から溶融スラグ(7)を抽出し排出する。
【0042】
そして、PGMが濃縮した還元炉メタル(6)を抽出し、溶融状態のまま酸化溶錬に用いる酸化炉(9)に移し替える。溶融した還元炉メタル(6)を酸化溶錬する際、上述した酸化物(8)としてSiO、CaO、NaOから選択される1種以上を添加できる。還元炉メタル(6)へSiO等の酸化物(8)を添加する際は、添加量の全量を一挙に添加するのではなく、少量ずつ添加することが好ましい。これは還元炉メタル(6)へ、添加する酸化物(8)の全量を一挙に添加すると、溶融している還元炉メタル(6)の溶体温度が低下し、添加された酸化物(8)が溶解できなくなる為である。従って、酸化物(8)の添加時間は、溶融している還元炉メタル(6)量にも依るが、20分間以上かけて添加することが好ましい。
【0043】
酸化物(8)添加後に還元炉メタル(6)を撹拌し、酸化物(8)を溶解させるが、溶体の撹拌方法としては、空気および/または酸素によるエアレーションが好ましい。
【0044】
酸化物(8)が溶解後、溶体を静置する。このとき、酸化溶錬に用いる酸化炉(9)内の溶融物の中心近傍が1200~1500℃になっていると推察できる。そして、酸化物主体の卑金属酸化物スラグ(11)と、PGMがさらに濃縮したPGM合金(10)とに分離し、PGM合金(10)を得る。得られたPGM合金(10)から、適宜な回収方法(主に、湿式法)により、PGMを得る。
【実施例
【0045】
(実施例1)
試薬のAlとSiO、およびCaCO試薬を仮焼し得られたCaOとを準備した。そして、これらをAl35質量%、CaO30質量%、SiO35質量%となるように秤量・配合した。乾式法で作製されたスラグ200gを棒状の黒鉛125g(12時間後62.8g)と共にMgOルツボに挿入した。試料は1450℃で溶融保持した。その後、1450℃で保持されているスラグへ、Al35質量%-CaO30質量%-SiO35質量%を100gと、0.4~0.8μmの粒径を持つPt粉末0.3gとを投入し、さらに3時間保持し、前記のPGM回収方法例で得られる溶融スラグを模したスラグを得た。
【0046】
次いで、1450℃で加熱を継続した前記スラグに、卑金属酸化物としてCuO33.78g(金属Cu換算で30gのCuを含む)を添加した。添加したCuOの粒径は53μm以下であった。卑金属酸化物の添加後、1450℃で加熱を継続し、0.5、1、2、3、4、6、8、12時間経過毎に溶融スラグ試料1g程度を吸上げでサンプリングし、水冷した。但し、12時間後においては溶融スラグ試料をMgOルツボごと水冷して、サンプルを採取した。尚、溶融スラグ試料の吸い上げによるサンプリングは、溶融スラグ層の厚さ方向の中央付近より、ムライト管とシリンジとを用いて実施した。
【0047】
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPt濃度を測定した。この結果を図4のグラフに-▲-でプロットした。
ここで、図4のグラフは、縦軸に回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPt濃度(ppm)の対数をとり、横軸に卑金属酸化物添加後のサンプリング時間をとった片対数グラフである。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本実施例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。回収率は次式を用いて算出した。

ここで、Rは回収率(%)、mは合金相の質量(g)、mはスラグ相の質量(g)、xは合金相のPGM濃度(質量%)、xはスラグ相のPGM濃度(質量%)を表す。スラグは構成成分のAl3、CaO、SiOの他に、るつぼ成分であるMgO、抽出剤由来のCuO、懸垂した金属粒子を含んでいる。また、保持時間毎の試料を採取していることにより合計8g程度減少するが、これらのスラグ質量に及ぼす影響は小さいと仮定し、スラグ相の質量mは溶融したAl3、CaO、SiOの質量である300gとして計算した。
【0048】
(実施例2)
溶融スラグ試料へ、卑金属酸化物としてCuOの粉末を67.56g(金属Cu換算で60gのCuを含む)添加した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPt濃度を測定した。この結果を図4のグラフに・・・▼・・・でプロットした。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本実施例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。
【0049】
(比較例1)
溶融スラグ試料へ、卑金属酸化物に代替してCuの粉末を30g(粒径は53μm以下)添加した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPt濃度を測定した。この結果を図4のグラフに-●-でプロットした。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本比較例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。
【0050】
(比較例2)
溶融スラグ試料へ、CuO粉末を添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を実施した。
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPt濃度を測定した。この結果を図4のグラフに-◆-でプロットした。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本比較例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。
【0051】
(実施例3)
前記のPGM回収方法例で得られる溶融スラグを模したスラグを調整する際、Pt粉末に代えてPd粉末を投入した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPd濃度を測定した。この結果を図4のグラフに・・・△・・・でプロットした。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本実施例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。
【0052】
(比較例3)
前記のPGM回収方法例で得られる溶融スラグを模したスラグを調整する際、Pt粉末に代えてPd粉末を投入した以外は、比較例1と同様の操作を実施した。
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPd濃度を測定した。この結果を図4のグラフに・・・〇・・・でプロットした。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本比較例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。
【0053】
(比較例4)
前記のPGM回収方法例で得られる溶融スラグを模したスラグを調整する際、Pt粉末に代えてPd粉末を投入した以外は、比較例2と同様の操作を実施した。
回収された各溶融スラグ試料から回収メタル(金属銅)を分離した。そして、回収メタル(金属銅)を分離した後の溶融スラグ試料中のPd濃度を測定した。この結果を図4のグラフに・・・◇・・・でプロットした。
併せてICPで測定した回収メタル(金属銅)の成分分析結果を表1に示す。
また、本比較例における水冷後のPGMの回収率を表2に示す。
【0054】
(まとめ)
溶融スラグ試料へ卑金属酸化物としてCuOを添加した実施例1~3においては、時間の経過と共に溶融スラグ試料中に含まれるPtまたはPd濃度が顕著に低下し、PtまたはPdが回収されていることが確認された。当該PtまたはPdの回収は、回収メタルの分析結果においてPtまたはPd濃度が高いことからも確認できた。
これに対し、溶融スラグ試料へ卑金属としてCuを添加した比較例1においては、PtまたはPd濃度が若干低下し、何も添加しなかった比較例2においては、PtまたはPd濃度が殆ど低下せず、Ptの回収が殆ど進行しないことが確認された。当該Ptの回収の進行が遅いことは、回収メタルの分析結果においてPtまたはPd濃度が低いことからも確認できた。
【0055】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0056】
(1)フラックス
(2)被処理物
(3)抽出剤
(4)還元剤
(5)還元溶錬に用いる還元炉
(6)還元炉メタル
(7)溶融スラグ
(8)酸化物
(9)酸化溶錬に用いる酸化炉
(10)PGM合金
(11)卑金属酸化物スラグ
(21)卑金属酸化物
(22)還元炉
(23)還元炉内の溶融スラグ
(24)回収メタル
(25)回収メタルを回収した後の溶融スラグ
(26)PGM合金を回収した後の溶融スラグ
図1
図2
図3
図4