(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】光電変換素子、電子デバイスおよび発光装置
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241129BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20241129BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20241129BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20241129BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241129BHJP
H10K 85/20 20230101ALI20241129BHJP
【FI】
H10K30/50
H01L27/146 E
H10K30/60
H10K30/30
H10K85/60
H10K85/20
(21)【出願番号】P 2021554236
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037788
(87)【国際公開番号】W WO2021085047
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2019198673
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】町田 真一
(72)【発明者】
【氏名】能澤 克弥
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 三四郎
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201695(JP,A)
【文献】特開平05-259486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0114273(US,A1)
【文献】LI, Wei et al.,Visible to Near-Infrared Photodetection Based on Ternary Organic Heterojunctions,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2019年03月26日,Vol.29,pp.1808948-1 - 1808948-7
【文献】LI, Yongxi et al.,Near-Infrared Ternary Tandem Solar Cells,ADVANCED MATERIALS,2018年10月01日,Vol.30,pp.1804416-1 - 1804416-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08-31/119
H10K 30/00-99/00
H01L 27/146
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
複数の半導体型カーボンナノチューブと、前記複数の半導体型カーボンナノチューブに対してドナーまたはアクセプターとして機能する第1材料と、を含み、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、
を備え、
前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、第1波長において第1吸収ピークを含み、前記第1波長よりも短い第2波長において第2吸収ピークを含み、前記第2波長よりも短い第3波長において第3吸収ピークを含む吸光特性を有し、
前記第1材料は、前記第1波長と前記第2波長との間の第1波長範囲、および、前記第2波長と前記第3波長との間の第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明であ
り、
前記第1材料は、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明であり、
前記第1材料のエネルギーギャップは、3.1eV以下であり、
前記第1材料は、非フラーレン系有機半導体を含む、
光電変換素子。
【請求項2】
前記第2波長範囲は、400nm以上650nm以下の波長範囲を含む、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第1波長は、1300nm以上1600nm以下である、
請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、(8,7)、(14,0)、(13,2)、(9,7)、(11,4)、(12,2)、(12,4)、(10,6)、(13,0)、(11,6)、(9,8)、(15,1)、(14,3)、(10,8)、(13,3)、(14,1)、(13,5)、(12,5)、(11,7)、(17,0)、(12,7)、(16,2)および(10,9)からなる群から選択される少なくとも1つのカイラリティを有する半導体型カーボンナノチューブを含む、
請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第1材料は、BT-CICおよびCO
i8DFICからなる群から選択される少なくとも一つを含む、
請求項
1から4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
複数の半導体型カーボンナノチューブの各々の直径が均一である、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第1波長は、1500nm以上1800nm以下である、
請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、(10,8)、(13,3)、(14,1)、(13,5)、(12,5)、(11,7)、(17,0)、(12,7)、(16,2)、(10,9)、(15,4)、(14,4)、(15,2)、(16,0)、(13,6)、(11,9)、(14,6)、(12,8)、(18,1)、(13,8)、(17,3)、(11,10)、(16,3)、(16,5)、(17,1)、および(15,5)からなる群から選択される少なくとも1つのカイラリティを有する半導体型カーボンナノチューブを含む、
請求項
7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の光電変換素子で構成される第1光電変換素子と、
前記第1光電変換素子を透過した光を受光する第2光電変換素子と、
を備える、
電子デバイス。
【請求項10】
前記第1光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する第1信号を生成し、
前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を通過した、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対応する第2信号を生成する、
請求項
9に記載の電子デバイス。
【請求項11】
前記第1光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成し、
前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を通過した、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対応する信号を生成する、
請求項
9に記載の電子デバイス。
【請求項12】
第1光電変換素子と、
前記第1光電変換素子を透過した光を受光する第2光電変換素子と、
を備え、
前記第1光電変換素子は、
第1電極と、
第2電極と、
複数の半導体型カーボンナノチューブと、前記複数の半導体型カーボンナノチューブに対してドナーまたはアクセプターとして機能する第1材料と、を含み、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、
を備え、
前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、第1波長において第1吸収ピークを含み、前記第1波長よりも短い第2波長において第2吸収ピークを含み、前記第2波長よりも短い第3波長において第3吸収ピークを含む吸光特性を有し、
前記第1材料は、前記第1波長と前記第2波長との間の第1波長範囲、および、前記第2波長と前記第3波長との間の第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明であり、
前記第1光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する信号を生成し、
前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を通過した、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の光を吸収して電力を生成する、
電子デバイス。
【請求項13】
発光素子と、
前記発光素子の発光面上方に位置する請求項1から
8のいずれか一項に記載の光電変換素子と、
を備え、
前記発光素子は、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光を出射し、
前記光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成する、または、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する信号を生成する、
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光電変換素子、電子デバイスおよび発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体型単層カーボンナノチューブは近赤外領域の吸光に対応するバンドギャップを有すること、キャリア輸送特性に優れること、および、その特異な状態密度を反映した吸光係数の大きさから、太陽電池または光センサなどの光電変換素子において有望な材料として研究されている。以下では、半導体型単層カーボンナノチューブをsemi-SWCNT(Single-Walled Carbon NanoTube)と称する場合がある。semi-SWCNTは、指数(n,m)で表されるカイラリティによって、semi-SWCNTの直径および吸光特性が異なる。
【0003】
特許文献1には、半導体型カーボンナノチューブをドナーまたはアクセプターとして含む光電変換層を含む撮像装置が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、semi-SWCNT層とC60フラーレン層との積層構造を利用した太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「Efficiently harvesting excitons from electronic type-controlled semiconducting carbon nanotube films」D. J. Bindl et al., Nano Letters, Vol. 11, p455-460, 2011
【文献】「Empirical Prediction of Electronic Potentials of Single-Walled Carbon Nanotubes With a Specific Chirality (n,m)」Y. Hirana et al., Scientific Reports, Vol. 3, p2959, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、特定の波長範囲において十分な光透過性を有し、かつ、当該特定の波長範囲とは異なる別の波長範囲において光応答する光電変換素子等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光電変換素子は、第1電極と、第2電極と、複数の半導体型カーボンナノチューブと前記複数の半導体型カーボンナノチューブに対してドナーまたはアクセプターとして機能する第1材料とを含み、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える。前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、第1波長において第1吸収ピークを含み、前記第1波長よりも短い第2波長において第2吸収ピークを含み、前記第2波長よりも短い第3波長において第3吸収ピークを含む吸光特性を有する。前記第1材料は、前記第1波長と前記第2波長との間の第1波長範囲、および、前記第2波長と前記第3波長との間の第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である。
【0009】
また、本開示の一態様に係る電子デバイスは、上記光電変換素子で構成される第1光電変換素子と、前記第1光電変換素子を透過した光を受光する第2光電変換素子と、を備える。
【0010】
また、本開示の一態様に係る発光装置は、発光素子と、前記発光素子の発光面上方に位置する上記光電変換素子と、を備える。前記発光素子は、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光を出射する。前記光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成する、または、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する信号を生成する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、特定の波長範囲において十分な光透過性を有し、かつ、当該特定の波長範囲とは異なる別の波長範囲において光応答する光電変換素子等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、semi-SWCNTにおける状態密度と光学遷移との関係を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、semi-SWCNTの吸収スペクトルの例を示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは、semi-SWCNTにおける直径と光学遷移エネルギーとの関係を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、semi-SWCNTにおける直径と吸収波長との関係を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、実施の形態1に係る光電変換素子の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態1に係る光電変換素子の構成の別の例を模式的に示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、実施の形態1に係る光電変換素子の構成のさらに別の例を模式的に示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、semi-SWCNTの直径範囲を1.1nm±0.3nmとした場合の第1波長範囲および第2波長範囲を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、semi-SWCNTの直径範囲を1.1nm±0.1nmとした場合の第1波長範囲および第2波長範囲を示す図である。
【
図6】
図6は、各種有機半導体の吸収スペクトルを示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態1に係るアクセプター層に用いられる電子アクセプター材料のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【
図8A】
図8Aは、実施の形態1に係る光電変換素子の構成のさらに別の例を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態2に係る撮像装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態2に係る撮像装置中の画素のデバイス構造を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態3に係る撮像装置の2つの光電変換部の構成を模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、実施の形態4に係る太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態5に係る電子デバイスの構成を模式的に示す概略斜視図である。
【
図14】
図14は、実施の形態6に係る発光装置の構成を模式的に示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の一態様を得るに至った知見)
semi-SWCNTは、励起子の束縛エネルギーが数百meV程度と大きいため、室温程度では容易に励起子を乖離することができない。そこで、非特許文献1では、励起子を電子と正孔とに乖離するために、semi-SWCNT層にC60フラーレン層を積層して、semi-SWCNT層とC60フラーレン層との界面にヘテロ構造を設けている。励起子、すなわち、電子正孔対は、semi-SWCNT層とC60フラーレン層との界面、いわゆるヘテロ界面まで拡散した後、このヘテロ界面のエネルギーオフセットを利用して、励起子の電子はC60フラーレン層側へ移動し、励起子の正孔はsemi-SWCNT層側へ移動する。その結果、励起子の電子および正孔は、電荷キャリアとして外部電極へ移動する。
【0014】
しかしながら、C60フラーレンは、可視光領域の波長に吸収を有する。そのため、semi-SWCNTとC60フラーレンとを組み合わせた光電変換材料の分光感度スペクトルは、可視光領域から近赤外領域にわたる広い波長範囲において感度を有する。例えば、家屋の屋根など光を透過させる必要のない用途においては、太陽電池に入射する光のうち、より広い波長範囲の光に対して感度を有することが有効である。しかし、例えば、窓に設置される太陽電池などの用途においては、可視光領域の波長の光が吸収され、可視光を室内に十分取り込めないため、窓としての機能に弊害が生じ得る。その他にも、透過光を積極的に利用する用途が考えられる。
【0015】
本発明者らは、特定の波長範囲の光を透過する光電変換素子について検討を行った。その結果、特定のカイラリティを有するsemi-SWCNTと特定の材料とを組み合わせることにより、特定の波長範囲の光、例えば可視光を透過し得る光電変換素子を実現できることを見出した。
【0016】
図1Aは、semi-SWCNTにおける状態密度と光学遷移との関係を示す図である。また、
図1Bは、semi-SWCNTの吸収スペクトルの例を示す模式図である。
図1Aに示されるように、semi-SWCNTの状態密度は、価電子帯と伝導帯とのそれぞれにvan Hove特異点と呼ばれる離散的なピークを有し、これらの状態密度間に対応したエネルギーに、強くて鋭い光学吸収遷移を有する。これらの光学吸収遷移の光学遷移エネルギーは、低エネルギー側から、光学遷移エネルギーE
11、E
22およびE
3
3である。つまり、低エネルギー側からi番目の光学遷移エネルギーは、光学遷移エネルギーE
iiである。また、これらの光学吸収遷移は、光学遷移エネルギーの小さい順に、E
11遷移、E
22遷移およびE
33遷移と呼ばれる場合がある。つまり低エネルギー側からi番目の光学吸収遷移は、E
ii遷移である。これにより、
図1Bに示されるように、semi-SWCNTの吸収スペクトルは、低エネルギーつまり長波長側から順に、E
11、E
22およびE
33遷移に対応する狭波長帯域の吸収ピークを有し、その他の波長範囲にはほとんど吸収をもたない。
【0017】
図2Aは、semi-SWCNTにおける直径と光学遷移エネルギーとの関係を示す図である。また、
図2Bは、semi-SWCNTにおける直径と吸収波長との関係を示す図である。
図2Bは、
図2Aにおける光学遷移エネルギーE
iiを、そのエネルギーに相当する光の吸収波長に換算して表示した図である。
図2Aに示されるように、光学遷移エネルギーE
iiは、semi-SWCNTの直径に依存する。また、
図2Bからわかるように、semi-SWCNTの直径が大きくなるにつれて、光学遷移エネルギーE
iiに相当する吸収波長も長波長側に推移する。ここで、特定の直径に着目したとき、光学遷移エネルギーE
11、E
22およびE
33それぞれに相当する吸収波長の間隔は50nm以上離れていることがわかる。例えば、semi-SWCNTの直径が1nm程度であれば、光学遷移エネルギーE
11、E
22およびE
33に相当する吸収波長は、それぞれ、およそ、1300nm以上1400nm以下、700nm以上800nm以下、および、350nm以上450nm以下の範囲にあり、各吸収波長の間の波長では光吸収がほとんどないと言える。言い換えると、直径1nmのsemi-SWCNTは、450nm以上700nm以下、および、800nm以上1300nm以下の波長に対して光学的に透明な媒体となり得る。よって、450nm以上700nm以下の波長に対して透明な半導体と直径1nmのsemi-SWCNTとを組み合わせてヘテロ界面を形成することで、可視光に対して透明、かつ、光学遷移エネルギーE
iiに相当する吸収波長で光電変換するような光電変換素子が実現できる。
【0018】
本開示の一態様の概要は以下の通りである。
【0019】
本開示の一態様に係る光電変換素子は、第1電極と、第2電極と、複数の半導体型カーボンナノチューブと前記複数の半導体型カーボンナノチューブに対してドナーまたはアクセプターとして機能する第1材料とを含み、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える。前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、第1波長において第1吸収ピークを含み、前記第1波長よりも短い第2波長において第2吸収ピークを含み、前記第2波長よりも短い第3波長において第3吸収ピークを含む吸光特性を有する。前記第1材料は、前記第1波長と前記第2波長との間の第1波長範囲、および、前記第2波長と前記第3波長との間の第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である。
【0020】
これにより、光電変換層は、第1波長、第2波長および第3波長に吸収ピークを有する。その結果、光電変換層は、これらの波長を含む波長範囲に感度を有するとともに、第1波長範囲および第2波長範囲の光を透過させる。また、光の吸収により半導体型カーボンナノチューブで生成した電子正孔対の電子と正孔とを解離させるために必要なドナーまたはアクセプターとして機能する第1材料は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である。そのため、光電変換素子は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光を透過させることができる。よって、特定の波長範囲において十分な光透過性を有し、かつ、当該特定の波長範囲とは異なる別の波長範囲において光応答する光電変換素子が実現される。
【0021】
また、例えば、前記第2波長範囲は、400nm以上650nm以下の波長範囲を含んでもよい。
【0022】
これにより、第1材料が400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明である場合には、400nm以上650nm以下の波長範囲の可視光を透過させることができる光電変換素子が実現される。
【0023】
また、例えば、前記第1波長は、1300nm以上1600nm以下であってもよい。
【0024】
これにより、光電変換素子は、地上における太陽光スペクトルのうち大気の吸収によりその強度が減衰する波長帯域を含む1300nm以上1600nm以下の波長範囲に感度を有する。そのため、光電変換素子を撮像装置に用いた場合、撮像装置は、別途被写体に照射する照明光の反射光に応じた撮像を、太陽光の影響を受けずに行うことが可能であり、昼と夜とで同等の撮像を行うことができる。
【0025】
また、例えば、前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、(8,7)、(14,0)、(13,2)、(9,7)、(11,4)、(12,2)、(12,4)、(10,6)、(13,0)、(11,6)、(9,8)、(15,1)、(14,3)、(10,8)、(13,3)、(14,1)、(13,5)、(12,5)、(11,7)、(17,0)、(12,7)、(16,2)および(10,9)からなる群から選択される少なくとも1つのカイラリティを有する半導体型カーボンナノチューブを含んでもよい。
【0026】
このようなカイラリティの半導体型カーボンナノチューブを含むことで、第1波長が1300nm以上1600nm以下となるような複数の半導体型カーボンナノチューブが実現される。
【0027】
また、例えば、前記第1波長は、1500nm以上1800nm以下であってもよい。
【0028】
これにより、光電変換素子は、夜間において上空の大気が発する赤外光であるナイトグロウの強度が月の満ち欠けによらずに高くなる波長範囲に感度を有する。そのため、光電変換素子を撮像装置に用いた場合、撮像装置は、照明をたかなくても夜間の屋外撮像を行うことができる。
【0029】
また、例えば、前記複数の半導体型カーボンナノチューブは、(10,8)、(13,3)、(14,1)、(13,5)、(12,5)、(11,7)、(17,0)、(12,7)、(16,2)、(10,9)、(15,4)、(14,4)、(15,2)、(16,0)、(13,6)、(11,9)、(14,6)、(12,8)、(18,1)、(13,8)、(17,3)、(11,10)、(16,3)、(16,5)、(17,1)、および(15,5)からなる群から選択される少なくとも1つのカイラリティを有する半導体型カーボンナノチューブを含んでもよい。
【0030】
このようなカイラリティの半導体型カーボンナノチューブを含むことで、第1波長が1500nm以上1800nm以下となるような複数の半導体型カーボンナノチューブが実現される。
【0031】
また、例えば、前記第1材料のエネルギーギャップは、3.1eV以上であってもよい。
【0032】
これにより、第1材料は、可視光領域よりも短い波長範囲の光を吸収し、可視光領域の光は吸収しない。そのため、可視光を透過させることができる光電変換素子が実現される。
【0033】
また、例えば、前記第1材料は、TiO2、ZnO、AlZnO(AZO)、InGaZnO(IGZO)、In2O3、SnO2、Ta2O5、NTCDA、TCNQおよびTCNNQからなる群から選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0034】
これにより、semi-SWCNTで生成した励起子を電荷分離するために有効なエネルギーオフセットがsemi-SWCNTとのヘテロ界面で形成されるため、電荷分離効率、すなわち光電変換効率を高められる。
【0035】
また、例えば、前記第1材料は、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明であり、前記第1材料のエネルギーギャップは、3.1eV以下であってもよい。
【0036】
これにより、第1材料は、エネルギーギャップが3.1eV以下であっても、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明であるため、400nm以上650nm以下の波長範囲の可視光を透過させることができる光電変換素子が実現される。
【0037】
また、例えば、前記第1材料は、BT-CICおよびCOi8DFICからなる群から選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0038】
これにより、semi-SWCNTで生成した励起子を電荷分離するために有効なエネルギーオフセットがsemi-SWCNTとのヘテロ界面で形成されるため、電荷分離効率、すなわち光電変換効率を高められる。
【0039】
また、例えば、数の半導体型カーボンナノチューブの各々の直径が均一であってもよい。
【0040】
これにより、光電変換層は、均一な直径の複数の半導体型カーボンナノチューブを含むため、第1波長、第2波長および第3波長に狭波長帯域の吸収ピークを有する。その結果、光電変換層は、これらの波長を含む波長範囲に感度を有するとともに、第1波長範囲および第2波長範囲の光を透過させる。
【0041】
また、本開示の一態様に係る電子デバイスは、上記光電変換素子で構成される第1光電変換素子と、前記第1光電変換素子を透過した光を受光する第2光電変換素子と、を備える。
【0042】
これにより、第2光電変換素子が、第1光電変換素子を透過した光を光電変換できる。よって、異なる2つの波長範囲の光を利用した電子デバイスが実現される。また、同じ入射光軸上に第1光電変換素子と第2光電変換素子とを配置できるため、電子デバイスを小型化できる。
【0043】
また、例えば、前記第1光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する第1信号を生成し、前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を通過した、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対応する第2信号を生成してもよい。
【0044】
これにより、第1光電変換素子と第2光電変換素子とによって、異なる2つの波長範囲に対応する信号を得ることができる電子デバイスが実現される。また、同じ入射光軸上に第1光電変換素子と第2光電変換素子とを配置できるため、電子デバイスを小型化できる。
【0045】
また、例えば、前記第1光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成し、前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を通過した、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光に対応する信号を生成してもよい。
【0046】
これにより、第1光電変換素子で生成された電力を使って、第2光電変換素子を含む撮像装置または光センサ等を駆動させるための電力の少なくとも一部を賄うことができる。よって、省電力な電子デバイスが実現される。また、同じ入射光軸上に第1光電変換素子と第2光電変換素子とを配置できるため、電子デバイスを小型化できる。
【0047】
また、例えば、前記第1光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する信号を生成し、前記第2光電変換素子は、前記第1光電変換素子を通過した、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の光を吸収して電力を生成してもよい。
【0048】
これにより、第2光電変換素子で生成された電力を使って、第1光電変換素子を含む撮像装置または光センサ等を駆動させるための電力の少なくとも一部を賄うことができる。よって、省電力な電子デバイスが実現される。また、同じ入射光軸上に第1光電変換素子と第2光電変換素子とを配置できるため、電子デバイスを小型化できる。
【0049】
また、本開示の一態様に係る発光装置は、発光素子と、前記発光素子の発光面上方に位置する上記光電変換素子と、を備え、前記発光素子は、前記第1波長範囲および前記第2波長範囲からなる群から選択される少なくとも一方の波長範囲の光を出射し、前記光電変換素子は、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成する、または、前記第1波長、前記第2波長および前記第3波長からなる群から選択される少なくとも一つの波長の光に対応する信号を生成する。
【0050】
これにより、光電変換素子がイメージセンサまたは光センサなどの一部として機能する場合、対象物の検知結果に応じて発光素子を含む照明の明るさを制御したり、発光素子を含むディスプレイに表示させる内容を変更したりすることができる。また、光電変換素子が太陽電池の一部として機能する場合、発光素子を含む発光モジュールの電力の少なくとも一部を賄うことができる。よって、省電力な発光装置が実現される。
【0051】
また、光電変換素子が、発光素子の出射する光の光軸上に配置される場合であっても、発光素子の出射する第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光が光電変換素子を透過するため、発光装置として機能が損なわれない。よって、光電変換素子を発光素子の出射する光の光軸上に配置できるため、発光装置を小型化できる。
【0052】
以下で、本開示の実施形態のいくつかについて図面を参照しながら説明する。しかしながら、それらは本開示の範囲を限定するのではなく、説明のためにのみ提供されるものである。
【0053】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0054】
また、本明細書において、光電変換素子、電子デバイスおよび発光装置としての動作に必須あるいは特性の改善に有効であるが、本開示の説明に不要な要素については省略している。また、各図面はあくまで概念を示す図であり、縮尺、形状等は一切考慮に入れていない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0055】
また、本明細書において、等しいなどの要素間の関係性を示す用語、および、正方形または円形などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0056】
また、本明細書において、「上方」および「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)および下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」および「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0057】
(実施の形態1)
[光電変換素子の全体構成]
まず、本実施の形態に係る光電変換素子の全体構成について説明する。
図3Aは、本実施の形態に係る光電変換素子10Aの構成を模式的に示す断面図である。また、
図3Bは、
図3Aに示される光電変換素子10Aのエネルギーダイアグラムの一例である。
図3Aに示されるように、光電変換素子10Aは、一対の電極である下部電極2および上部電極3と、下部電極2と上部電極3との間に位置する光電変換層4とを備える。光電変換層4は、それぞれの直径が均一な複数のsemi-SWCNTを含むカーボンナノチューブ層4aと、カーボンナノチューブ層4aと上部電極3との間に位置し、複数のsemi-SWCNTに対してアクセプターとして機能する電子アクセプター材料を含むアクセプター層4bとを有する。つまり、光電変換層4は、それぞれの直径が均一な複数のsemi-SWCNTと、複数のsemi-SWCNTに対してアクセプターとして機能する電子アクセプター材料とを含む。本明細書において、semi-SWCNTは半導体型カーボンナノチューブの一例であり、電子アクセプター材料は第1材料の一例である。また、下部電極2は第1電極の一例であり、上部電極3は第2電極の一例である。また、以下では、「それぞれの直径が均一な複数のsemi-SWCNT」を「均一な直径の複数のsemi-SWCNT」と称する場合がある。
【0058】
また、光電変換素子10Aは、基板1に支持されている。光電変換素子10Aでは、基板1の表面に、下部電極2、ドナー層として特定の直径に制限され、均一な直径の複数のsemi-SWCNTを含むカーボンナノチューブ層4a、アクセプター層4b、および、上部電極3がこの順に積層されている。
【0059】
図4A及び
図4Bは、本実施の形態に係る光電変換素子の構成の別の例を模式的に示す断面図である。
図4Aに示されるように、光電変換素子11Aは、光電変換層10Aの光電変換層4の代わりに、光電変換層4dを備えていてもよい。光電変換層4dは、カーボンナノチューブ層4aと、アクセプター層4bと、カーボンナノチューブ層4aと、アクセプター層4bとの間に位置し、均一な直径の複数のsemi-SWCNTと電子アクセプター材料とを含む混合層4cとを有する。光電変換層4dがこのような構成を有することで、均一な直径の複数のsemi-SWCNTと電子アクセプター材料とが接触するヘテロ界面が、混合層4cのなかに多数形成されるため、光電変換層4dはヘテロ界面の面積を増やすことができる。その結果、光電変換素子11Aの光電変換効率が増加する。また、
図4Bに示されるように、光電変換素子11Bは、光電変換層10Aの光電変換層4の代わりに、光電変換層4eを備えていてもよい。光電変換層4eは、混合層4cで構成されている。光電変換層4eがこのような構成を有することで、光電変換層4eは、ヘテロ界面の面積を最大化できる。そのため、光電変換素子11Bにおいてより高い光電変換効率が実現できる。
【0060】
[基板]
基板1は、光電変換素子10Aを支持する支持基板である。基板1の材料は特に限定されるものではなく、第1波長範囲または第2波長範囲等の所望とする波長において高透光性であり、かつ、高導電性である材料を用いることができる。本明細書において、所望とする波長において高透光性であるとは、所望とする波長において、光の透過率が50%以上であることを意味する。また、光電変換素子10Aを窓等の一部として使用する場合における視認性および透過光の利用等の観点から、高導電性である材料の光の透過率は70%以上であってもよい。基板1の材料は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明であってもよい。例えば、可視光領域に対して光透過性を持たせる場合には、基板1の材料は、ITO(Indium Tin Oxide)などの導電性金属酸化物、または、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸から成る複合物(PEDOT/PSS)などの導電性高分子がコートされたガラス基板もしくはプラスチック基板であってもよい。また、基板1は、プラグまたは配線等によって下部電極2を外部と電気的に接続して使用される場合には、導電性を有していなくてもよい。
【0061】
[下部電極および上部電極]
下部電極2および上部電極3は、所望とする波長において高透光性の透明電極である。下部電極2および上部電極3には、例えば、配線(不図示)によってバイアス電圧が印加される。例えば、バイアス電圧は、光電変換層4で発生した電子正孔対のうち、電子が上部電極3に移動し、正孔が下部電極2に移動するように、極性が決定される。また、光電変換層4で発生した電子正孔対のうち、正孔が上部電極3に移動し、電子が下部電極2に移動するように、バイアス電圧を設定してもよい。
【0062】
下部電極2および上部電極3の材料は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明であってもよい。下部電極2および上部電極3の材料としては、例えば、抵抗値が小さい透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conducting Oxide)が用いられる。TCOは、特に限定されないが、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(InZnO;Indium Zinc Oxide)、AZO(AlZnO:Aluminum Zinc
Oxide)、FTO(Florine-doped Tin Oxide)、SnO2、TiO2、ZnO2等を用いることができる。
【0063】
[カーボンナノチューブ層]
カーボンナノチューブ層4aは、均一な直径の複数のsemi-SWCNTを含む層である。例えば、カーボンナノチューブ層4aに含まれるすべての複数のsemi-SWCNTは、均一な直径の複数のsemi-SWCNTで構成され、均一な直径の複数のsemi-SWCNT以外のsemi-SWCNTは、実質的に含まれない。カーボンナノチューブ層4aは、複数のsemi-SWCNTとして種々の直径を有するsemi-SWCNTが混在した状態では、様々な波長に吸収ピークが現れてしまい、結果として所望の波長範囲に対して十分な透光性をもたなくなってしまう。
【0064】
図5Aは、semi-SWCNTの直径範囲を1.1nm±0.3nmとした場合の第1波長範囲および第2波長範囲を示す図である。
図5Bは、semi-SWCNTの直径範囲を1.1nm±0.1nmとした場合の第1波長範囲および第2波長範囲を示す図である。例えば、
図5Aに示されるように、直径1.1nm±0.3nmの直径範囲に含まれる種々の直径を有するsemi-SWCNTでカーボンナノチューブ層が構成される場合、第1波長、第2波長および第3波長は、それぞれドットでハッチングされた吸収波長範囲に複数の吸収ピークを有し、第1波長範囲および第2波長範囲は、100nm以下の波長帯域しかない。そのため、ごく限られた波長範囲でのみ透光性を有するものの、第1波長範囲および第2波長範囲が存在していても実質的にはほとんど不透明とみなされる。他方、カーボンナノチューブ層4aを構成するsemi-SWCNTの直径分布が、
図5Bに示されるように直径1.1nm±0.1nmの直径範囲に制限されている場合、高い透光性を示す第1波長範囲および第2波長範囲の波長帯域の幅は、200nm以上に拡がる。
【0065】
従って、本実施の形態に係るカーボンナノチューブ層4aの複数のsemi-SWCNTは、所望の波長に対して高い透光性を有するように、均一な直径の複数のsemi-SWCNTで構成される。semi-SWCNTの直径は、カイラリティによって決定される。そのため、複数のsemi-SWCNTは、カイラリティの揃った複数のsemi-SWCNTで構成されることにより、均一な直径の複数のsemi-SWCNTで構成されることになる。なお、本明細書において、均一な直径の複数のsemi-SWCNTとは、複数のsemi-SWCNTそれぞれの直径が、複数のsemi-SWCNTの平均直径に対して±10%以内の直径であることを意味する。
【0066】
通常、合成された複数のsemi-SWCNTは、様々なカイラリティを含んでいるため、そのままでは所望の波長に対する透光性が十分とは言えない。他方で、ある種のポリマーは、特定のカイラリティのsemi-SWCNTに選択的に巻き付き、かつ、溶媒に良く分散することが知られている。従って、例えば、ポリチオフェン系またはポリフルオレン系のポリマーと種々のカイラリティを有するsemi-SWCNTとを溶媒中で超音波処理する。その後、遠心分離によって、ポリマーによってラップされたsemi-SWCNTを選り分けることで、特定のカイラリティに限定された、すなわち、均一な直径の複数のsemi-SWCNTを含む分散液が得られる。得られた分散液をスピンコートまたはディップコートなど種々の方法で成膜することで、特定の波長範囲に対して高い透光性を有するカーボンナノチューブ層4aを形成できる。
【0067】
また、ポリマーで選別する方法とは異なる、均一な直径のsemi-SWCNTを得る方法として、(a)合成時の触媒種類または合成条件等を変えることによって、特定のカイラリティに限定したsemi-SWCNTの選択成長法、および、(b)カーボンナノチューブの最短構造となるカーボンナノリングをテンプレートとして特定のカイラリティのsemi-SWCNTを精密に合成する方法など、が挙げられる。カーボンナノチューブ層4aには、種々の方法によって合成された特定のカイラリティのsemi-SWCNTがそのまま用いられてもよい。また、カーボンナノチューブ層4aには、さらに上述の方法を組み合わせることで、より高純度の単一カイラリティのみを有するsemi-SWCNTが用いられてもよい。
【0068】
均一な直径の複数のsemi-SWCNTは、
図1Bに示されるように、長波長側からみて順に、第1波長において第1吸収ピークを有し、第2波長において第2吸収ピークを有し、第3波長において第3吸収ピークを有する吸光特性を有する。第1吸収ピーク、第2吸収ピークおよび第3吸収ピークは、それぞれ、光学遷移エネルギーE
11、E
22およびE
33に対応する吸収ピークである。また、第1吸収ピーク、第2吸収ピークおよび第3吸収ピークの半値幅は小さい。そのため、狭波長帯域で感度を有する光電変換素子10Aが実現される。
【0069】
第1波長は、1300nm以上1600nm以下であってもよい。これにより、1300nm以上1600nm以下の波長範囲は、地表においてその強度が大きく減衰しており太陽光が欠落している波長範囲であるため、光電変換素子10Aを撮像装置に用いた場合、当該波長範囲の光を被写体に別途照射することで、太陽光の影響を受けることなく、昼でも夜でも同等の撮像が可能となる。特に、1350nm以上1450nm以下の波長範囲では地表において太陽光の減衰がより大きいため、太陽光の影響がより少ない撮像が実現できる。また、1400nmを超える波長は、アイセーフ波長と呼ばれ、目に対する障害しきい値が高い、すなわち、目に対する最大許容露光量が高いという特徴を有するため、他の波長帯域よりも安全性が高い。従って、例えば、人がいる環境下において波長1550nmに第1波長を有する均一な直径の複数のsemi-SWCNTで光電変換層4を構成した光電変換素子10Aを撮像装置に用いた場合、当該波長の光を被写体に照射する際に、他の波長帯域よりも高い出力のレーザまたはLED(Light Emitting Diode)を使用することができる。そのため、当該撮像装置は、より明るい撮像を実現できる。
【0070】
第1波長が1300nm以上1600nm以下となるようなsemi-SWCNTの直径は、およそ1nm以上1.4nm以下の範囲にある。第1波長が1300nm以上1600nm以下となるようなsemi-SWCNTの具体的なカイラリティとしては、(8,7)、(14,0)、(13,2)、(9,7)、(11,4)、(12,2)、(12,4)、(10,6)、(13,0)、(11,6)、(9,8)、(15,1)、(14,3)、(10,8)、(13,3)、(14,1)、(13,5)、(12,5)、(11,7)、(17,0)、(12,7)、(16,2)および(10,9)のなかから選択される。
【0071】
[アクセプター層]
アクセプター層4bは、複数のsemi-SWCNTで発生した励起子すなわち電子正孔対を効率的に電子と正孔とに乖離するための層である。具体的には、アクセプター層4bは、カーボンナノチューブ層4aとのヘテロ界面で電子を受けとる層である。アクセプター層4bは、例えば、複数のsemi-SWCNTに対して電子受容性が高い、すなわち、アクセプターとして機能する電子アクセプター材料を含む。言い換えれば、
図3Bに示されるように、アクセプター層4bの電子親和力χ
Aは、例えば、カーボンナノチューブ層4aの電子親和力χ
CNTと同等かそれより大きい。ここで、電子親和力とは、真空準位と最低非占有軌道(LUMO;Lowest Unoccupied Molecular Orbital)または伝導帯下端のエネルギー準位との差である。アクセプター層4bが電子アクセプター材料で構成され、カーボンナノチューブ層が複数のsemi-SWCNTで構成される場合、電子親和力χ
Aは電子アクセプター材料の電子親和力であり、電子親和力χ
CNTは複数のsemi-SWCNTの電子親和力である。非特許文献2によれば、semi-SWCNTのLUMOの準位は、直径に依存し、直径が大きいほど真空準位を基準として深いエネルギー準位をとる。従って、用いられる複数のsemi-SWCNTの直径に対応するカイラリティに応じて、適したLUMOのエネルギー準位となるような電子アクセプター材料が選択される。例えば、可視光領域に対して透明となる直径1nm程度のsemi-SWCNTの場合、電子親和力χ
CNTは4eV程度である。そのため、電子アクセプター材料として、電子親和力χ
Aが、4eVと同等かそれよりも大きい値を有する材料が選択される。アクセプター層4bは、例えば、電子アクセプター材料を含む分散液のスピンコートまたはアクセプター材料の蒸着など種々の方法で成膜することで形成される。
【0072】
また、電子アクセプター材料は、第1波長と第2波長との間の第1波長範囲、および、第2波長と第3波長との間の第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である。これにより、第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である光電変換素子10Aが実現される。また、第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して感度を有さない光電変換素子10Aが実現される。なお、本明細書において、材料がある波長範囲の光に対して透明であるとは、当該材料を100nm以下の膜厚で堆積した場合に、当該波長範囲の光の透過率が、波長によらず50%以上であることを意味し、実質的に光を透過させることを意味する。また、光電変換素子10Aを窓等の一部として使用する場合における視認性および透過光の利用等の観点から、電子アクセプター材料において、当該材料を100nm以下の膜厚で堆積した場合に、当該波長範囲の光の透過率が、70%以上であってもよい。また、電子アクセプター材料において、当該材料で形成する膜の膜厚によらず、当該波長範囲の光の透過率が、50%以上であってもよく、70%以上であってもよい。
【0073】
また、アクセプター層4bは、電子アクセプター材料以外の材料を含む場合であっても、例えば、電子アクセプター材料以外の材料も第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である。
【0074】
第2波長範囲は、400nm以上650nm以下の波長範囲を含んでもよい。これにより、電子アクセプター材料が400nm以上650nm以下の波長範囲に対して透明である材料である場合には、400nm以上650nm以下の波長範囲を含む可視光領域に対して透明な光電変換素子10Aが実現できる。
【0075】
例えば、可視光領域に対して透明となる、つまり、第1波長範囲または第2波長範囲が可視光領域の波長範囲を含む、直径1nm程度のsemi-SWCNTの場合、電子アクセプター材料として、可視光領域に対して高い透過率を有するようエネルギーギャップが3.1eV以上の材料が選択される。ここで、エネルギーギャップとは、LUMOまたは伝導帯下端のエネルギー準位と、最高占有軌道(HOMO;Highest Occupied Molecular Orbital)または価電子帯上端のエネルギー準位との差である。
【0076】
可視光に対して透明な電子アクセプター材料とは、例えば、400nm以上の波長の光に対する吸収を持たない、すなわち、吸収端と相関するエネルギーギャップが3.1eV以上の半導体材料である。つまり、電子アクセプター材料のエネルギーギャップは3.1eV以上であってもよい。また、例えば、可視光に対して透明な電子アクセプター材料は、エネルギーギャップが3.1eV以下であっても、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明であり、実質的に透明とみなせる半導体材料である。つまり、電子アクセプター材料は、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明であり、電子アクセプター材料のエネルギーギャップが3.1eV以下であってもよい。
【0077】
エネルギーギャップが3.1eV以上の電子アクセプター材料としては、具体的には、TiO2、ZnO、AZO、IGZO(InGaZnO;Indium Gallium
Zinc Oxide)、In2O3、SnO2およびTa2O5などの酸化物半導体、ならびに、NTCDA(Naphthalene-1,4,5,8-TetraCarboxylic DiAnhydride)、TCNQ(7,7,8,8-TetraCyaNoQuinodimethane)およびTCNNQ(11,11,12,12-TetraCyaNoNaphtho-2,6-Quinodimethane)などのワイドギャップn型有機半導体が挙げられる。
【0078】
また、エネルギーギャップが3.1eV以下であっても400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明である電子アクセプター材料としては、具体的には、下記構造式(1)で示されるBT-CICおよび下記構造式(2)で示されるCOi8DFICなどの非フラーレン系ローバンドギャップ有機半導体が挙げられる。
【0079】
【0080】
【0081】
図6は、各種有機半導体の吸収スペクトルを示す図である。
図6には、C
60フラーレン、C
70フラーレン、BT-CICおよびCO
i8DFICの吸収スペクトルが示されている。
図6に示されるように、可視光領域である400nm以上650nm以下の波長範囲の光において、BT-CICおよびCO
i8DFICの吸光係数は、C
60フラーレンおよびC
70フラーレンの吸光係数に比べて低く、波長の変化に対して概ね平坦である。従って、例えば、アクセプター層4bとしてBT-CICまたはCO
i8DFICを100nmの膜厚で堆積した場合であっても、400nm以上650nm以下の波長範囲の光の透過率は、波長によらず50%以上を実現できる。また、アクセプター層4bとしてBT-CICまたはCO
i8DFICを用いる場合には、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対する感度が小さい光電変換素子10Aが実現される。例えば近赤外光または赤外光を用いた撮像用の撮像装置に光電変換素子10Aを用いることで、環境光に可視光が含まれるなかでも外乱の少ない映像を撮影できる撮像装置が実現される。
【0082】
他方、C60フラーレンをアクセプター層の電子アクセプター材料として用い、膜厚100nmの膜厚で体積した場合、400nm以上650nm以下の波長範囲の光の透過率は、最も低くなる波長440nmにおいて37%まで低下する。さらに、C60フラーレンは、短波長ほど吸光係数が大きい特性を有することから、アクセプター層の透過光は、黄色味を呈し自然光と異なる色温度となる。また、C60フラーレンによる光の吸収によって励起子が生成するため、光電変換素子が400nm以上650nm以下の波長範囲の光に大きな感度を有することになり、可視光の当該波長範囲の光に感度を有さない光電変換素子が実現されない。よって、近赤外光または赤外光を用いた撮像用の撮像装置にC6
0フラーレンを含む光電変換素子を用いる場合には、環境光に可視光が含まれるなかでは外乱の生じた映像が撮像される。そのため、当該光電変換素子は、バンドパスフィルタ等によって400nm以上650nm以下の波長範囲の光をカットしなければ、撮像装置に用いることができない。
【0083】
図7は、本実施の形態に係るアクセプター層4bに用いられる電子アクセプター材料のエネルギーダイアグラムを示す図である。
図7に示されるように、TiO
2、ZnO、IGZO、SnO
2、NTCDAおよびTCNQは、エネルギーギャップが3.1eV以上であり、かつ、直径1nm程度のsemi-SWCNTよりも電子親和力が大きい。よって、光電変換素子10Aとして、可視光に対して透明な光電変換素子を実現する場合、TiO
2、ZnO、IGZO、SnO
2、NTCDAおよびTCNQは、電子アクセプター材料として有用である。また、BT-CICおよびCO
i8DFICは、エネルギーギャップが3.1eV以下であるものの、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に対して透明であり、かつ、直径1nm程度のsemi-SWCNTよりも電子親和力が大きい。よって、光電変換素子10Aとして、可視光に対して透明な光電変換素子を実現する場合、BT-CICおよびCO
i8DFICは、電子アクセプター材料として有用である。
【0084】
以上のように、例えば、光電変換層4の材料として、直径1nm程度のsemi-SWCNTと可視光領域に対して透明な電子アクセプター材料とを組み合わせることで、可視光領域に対して高い光透過性を有し、光学遷移エネルギーE11に相当する波長1100nm以上1400nm以下の光に応答する近赤外光電変換素子が実現できる。
【0085】
このように、均一な直径の複数のsemi-SWCNTと当該複数のsemi-SWCNTが透光性を有する波長範囲の光に対して透明である電子アクセプター材料とで光電変換層4を構成することで、特定の波長の光を光電変換し、かつ、選択的にある範囲の波長に対して透光性を有する光電変換素子10Aが実現できる。また、semi-SWCNTの直径は、カイラリティによって決まるので、均一な直径の複数のsemi-SWCNTは、所望とする単一の直径に相当する複数のカイラリティのsemi-SWCNTで構成してもよいし、単一のカイラリティのsemi-SWCNTで構成してもよい。複数のsemi-SWCNTが単一のカイラリティを有することで、異なるカイラリティのsemi-SWCNTの間での吸収スペクトルの吸収ピークにおける波長の違いがなくなる分、吸収スペクトルに現れる吸収ピークを先鋭化させることができ、かつ、透光性を有する波長範囲における光の透過性も向上する。
【0086】
なお、光電変換素子10Aは、アクセプター層4bの代わりにドナー層を備えていてもよい。ドナー層は、複数のsemi-SWCNTで発生した励起子すなわち電子正孔対を効率的に電子と正孔とに乖離するための層である。具体的には、ドナー層は、カーボンナノチューブ層4aとのヘテロ界面で、正孔を受けとる層である。ドナー層は、例えば、複数のsemi-SWCNTに対して電子供与性が高い、すなわち、ドナーとして機能する電子ドナー材料を含む。言い換えれば、ドナー層のイオン化ポテンシャルは、例えば、カーボンナノチューブ層4aのイオン化ポテンシャル以下である。
【0087】
[混合層]
混合層4cは、上述の、均一な直径の複数のsemi-SWCNTと電子アクセプター材料とを含む層である。混合層4cは、例えば、均一な直径の複数のsemi-SWCNTと電子アクセプター材料とを含む分散液のスピンコートなど種々の方法で成膜することで形成される。均一な直径の複数のsemi-SWCNTおよび電子アクセプター材料については、上述の通りであり、説明は省略する。
【0088】
[光電変換素子の別の例]
次に、本実施の形態に係る光電変換素子の別の例について
図8Aおよび
図8Bを用いて説明する。
図8Aは、本実施の形態に係る光電変換素子の別の例である光電変換素子10Bの構成を模式的に示す断面図である。
図8Bは、
図8Aに示される光電変換素子10Bのエネルギーダイアグラムの一例である。なお、
図8Aに示される光電変換素子10Bにおいて、
図3Aに示される光電変換素子10Aと同じ構成要素には同じ参照符号を付し、共通点の説明を省略または簡略化する。
【0089】
図8Aに示されるように、光電変換素子10Bは、一対の下部電極2および上部電極3と、下部電極2と上部電極3との間に位置する光電変換層4と、光電変換層4と下部電極2との間に位置する電子ブロッキング層5と、光電変換層4と上部電極3との間に位置する正孔ブロッキング層6とを備える。言い換えると、光電変換素子10Bは、基板1の表面に、下部電極2、電子ブロッキング層5、カーボンナノチューブ層4a、アクセプター層4b、正孔ブロッキング層6、および、上部電極3がこの順に積層されている構造を有する。光電変換素子10Bは、光電変換層4で発生した正孔が下部電極2に流れ、電子が上部電極3に流れる場合の構成である。なお、光電変換層4はカーボンナノチューブ層4a、アクセプター層4bの積層構造としてもよいし、カーボンナノチューブ層4a、アクセプター層4bの混合層をさらに含んでいてもよいし、混合層のみ構成されていてもよい。
【0090】
本実施の形態に係る光電変換素子は、光電変換素子10Bのように、下部電極2とカーボンナノチューブ層4aとの間に、暗電流抑制のための電子ブロッキング層5(EBL)を備えてもよい。
図8Bに示されるように、電子ブロッキング層5は、下部電極2からの電子注入の障壁となる層である。下部電極2からの電子注入による暗電流を抑制するため、例えば、電子ブロッキング層5の電子親和力χ
EBLは、カーボンナノチューブ層4aの電子親和力χ
CNTと同等かそれよりも小さい。また、例えば、カーボンナノチューブ層4aから下部電極2への正孔の伝導を妨げないよう、電子ブロッキング層5のイオン化ポテンシャルI
EBLは、カーボンナノチューブ層4aのイオン化ポテンシャルI
CNTよりも0.3eV大きい値を上限としてそれと同等かそれよりも小さい。ここで、イオン化ポテンシャルとは、真空準位と、最高占有軌道(HOMO)または価電子帯上端のエネルギー準位との差である。
【0091】
例えば、電子ブロッキング層5の材料は、上記の電子親和力およびイオン化ポテンシャルの関係を満たす材料であり、例えば、p型半導体である。電子ブロッキング層5の材料は、PEDOT/PSSもしくはpoly-TPDなどの有機材料またはNiO、CoO、Co3O4、Cr2O3、Cu2OもしくはCuOなどの金属酸化物であってもよい。また、電子ブロッキング層5の材料は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である材料であってもよい。
【0092】
同様に、本実施の形態に係る光電変換素子は、光電変換素子10Bのように、上部電極3とアクセプター層4bとの間に正孔ブロッキング層6(HBL)を備えてもよい。
図8Bに示されるように、正孔ブロッキング層6は、上部電極3からの正孔注入の障壁となる層である。この場合には、上部電極3からの正孔注入による暗電流を抑制するため、例えば、正孔ブロッキング層6のイオン化ポテンシャルI
HBLは、アクセプター層4bのイオン化ポテンシャルI
Aと同等かそれよりも大きい。また、例えば、アクセプター層4bから上部電極3への電子の伝導を妨げないように、正孔ブロッキング層6の電子親和力χ
HBLは、アクセプター層4bの電子親和力χ
Aと同等かそれよりも大きい。例えば、正孔ブロッキング層6の材料は、上記の電子親和力およびイオン化ポテンシャルの関係を満たす材料であり、例えば、n型半導体である。正孔ブロッキング層6の材料は、バトクプロイン(BCP)またはバトフェナントロリン(BPhen)であってもよい。また、正孔ブロッキング層6の材料は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち、少なくとも一方の波長範囲の光に対して透明である材料であってもよい。
【0093】
正孔ブロッキング層6および電子ブロッキング層5は、それぞれ、電子および正孔を輸送するため、電気伝導性を有している。このため、電子ブロッキング層5が下部電極2と光電変換層4との間に設けられる場合、カーボンナノチューブ層4aが電子ブロッキング層5と接することにより、カーボンナノチューブ層4aは電子ブロッキング層5を介して下部電極2と電気的に接続される。
【0094】
なお、光電変換層4で発生した電子が下部電極2に流れ、正孔が上部電極3に流れる場合には、光電変換素子10Bの電子ブロッキング層5と正孔ブロッキング層6との位置を入れ替えた構成の光電変換素子として実現される。また、その場合には、カーボンナノチューブ層4aとアクセプター層4bとの位置も入れ替えた構成、または、アクセプター層4bの代わりに電子ドナー材料を含むドナー層を備える構成の光電変換素子として実現される。
【0095】
また、光電変換素子10Bは、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6のうちいずれか一方のみを備えていてもよい。また、所望とする波長に対して高い透光性を持たせるために、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6ともに、材料のエネルギーギャップは、3.1eV以上であってもよい。
【0096】
また、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6は、光吸収によって、光電変換層4に含まれる複数のsemi-SWCNT内で生じた電子正孔対から電子を引き抜く電子アクセプターとして利用してもよい。電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6を電子アクセプターとして利用する場合には、例えば、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6の材料の伝導帯下端エネルギーまたは最低空軌道エネルギーが、真空準位を基準として4.0eV以上である。他方、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6は、光吸収によって、光電変換層4に含まれる複数のsemi-SWCNT内で生じた電子正孔対から正孔を引き抜く電子ドナーとして利用してもよい。電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6を電子ドナーとして利用する場合には、例えば、電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6の材料の価電子帯上端エネルギーまたは最高占有軌道エネルギーが、真空準位を基準として5.1eV以下である。
【0097】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、実施の形態1に係る光電変換素子を有する撮像装置について説明する。なお、実施の形態2に係る撮像装置において、実施の形態1に係る光電変換素子と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、共通点の説明を省略または簡略化する。
【0098】
[撮像装置の全体構成]
まず、本実施の形態に係る撮像装置の全体構成について説明する。
図9は、本実施の形態に係る撮像装置100の回路構成の一例を示す図である。
図9に示される撮像装置100は、複数の画素20と、周辺回路とを有する。周辺回路は、画素20の各々に所定の電圧を供給する電圧供給回路30を含む。
【0099】
画素20は、半導体基板に1次元または2次元に配置されることにより、感光領域、いわゆる、画素領域を形成する。
図9に例示される構成では、画素20が、行方向および列方向に配列されている。本明細書において、行方向および列方向は、それぞれ、行および列が延びる方向を意味する。つまり、
図9の紙面における鉛直方向が列方向であり、水平方向が行方向である。
図9では、2×2のマトリクス状に配置された4つの画素20が示されている。
図9に示される画素20の個数はあくまでも説明のための例示であり、画素20の個数は4つに限定されない。画素20が1次元に配置される場合、撮像装置100はラインセンサである。
【0100】
画素20の各々は、光電変換部10Cと、光電変換部10Cによって生成された信号を検出する信号検出回路40とを有する。光電変換部10Cは、下部電極2および上部電極3と、これらの間に配置された光電変換層4とを含む。光電変換部10Cは、例えば、実施の形態1に係る光電変換素子10Aまたは10Bで構成される。下部電極2は、電荷捕集部として機能する。
図9に示されるように、上部電極3は、蓄積制御線22を介して電圧供給回路30に接続されている。撮像装置100の動作時、蓄積制御線22を介して上部電極3に所定のバイアス電圧が印加される。下部電極2は、画素電極とも呼ばれ、上部電極3は、画素電極と対向する対向電極とも呼ばれる。
【0101】
上述のように、光電変換層4は複数のsemi-SWCNTを含み、光電変換部10Cは、光電変換によって生じた電子正孔対のうち、信号電荷として正孔(言い換えると、正電荷)または電子(言い換えると、負電荷)のいずれかを下部電極2で捕集するように構成されている。電圧供給回路30が生成するバイアス電圧を用いて上部電極3の電位を制御することにより、正孔および電子のいずれか一方を下部電極2によって捕集することができる。例えば信号電荷として正孔を利用する場合、下部電極2よりも上部電極3の電位が高くなるように、蓄積制御線22に例えば10V程度の電圧が印加される。
【0102】
図9に例示される構成において、信号検出回路40は、増幅トランジスタ42と、アドレストランジスタ44と、リセットトランジスタ46とを含む。増幅トランジスタ42は、電荷検出用トランジスタとも呼ばれ、アドレストランジスタ44は、行選択トランジスタとも呼ばれる。典型的には、増幅トランジスタ42およびアドレストランジスタ44は、半導体基板に形成された電界効果トランジスタ(FET)である。以下、特に断りの無い限り、トランジスタとしてNチャネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる例を説明する。増幅トランジスタ42、アドレストランジスタ44およびリセットトランジスタ46は、制御端子、入力端子および出力端子を有する。制御端子は、例えばゲートである。入力端子は、ドレインおよびソースの一方であり、典型的にはドレインである。出力端子は、ドレインおよびソースの他方であり、典型的にはソースである。
【0103】
なお、本明細書における「半導体基板」は、その全体が半導体である基板に限定されず、感光領域が形成される側の表面に半導体層が設けられた絶縁基板などであってもよい。半導体基板の例は、p型シリコン基板である。
【0104】
図9に示されるように、増幅トランジスタ42の入力端子および出力端子のうちの一方と、アドレストランジスタ44の入力端子および出力端子のうちの一方とが接続されている。増幅トランジスタ42の制御端子は、光電変換部10Cの下部電極2に電気的に接続されている。下部電極2によって集められた信号電荷は、下部電極2と増幅トランジスタ42のゲートとの間の電荷蓄積ノード41に蓄積される。ここで、信号電荷は、正孔または電子である。電荷蓄積ノード41は、電荷蓄積部の一例であり、「フローティングディフュージョンノード」とも呼ばれる。
【0105】
増幅トランジスタ42のゲートには、電荷蓄積ノード41に蓄積された信号電荷に応じた電圧が印加される。増幅トランジスタ42は、この電圧を増幅する。すなわち、増幅トランジスタ42は、光電変換部10Cによって生成された信号を増幅する。増幅トランジスタ42によって増幅された電圧は、信号電圧として、アドレストランジスタ44を介して選択的に読み出される。
【0106】
リセットトランジスタ46のソースおよびドレインの一方は、電荷蓄積ノード41に接続されており、リセットトランジスタ46のソースおよびドレインの一方は、下部電極2との電気的な接続を有する。
【0107】
リセットトランジスタ46は、電荷蓄積ノード41に蓄積された信号電荷をリセットする。換言すると、リセットトランジスタ46は、増幅トランジスタ42のゲートおよび下部電極2の電位をリセットする。
【0108】
図9に示されるように、撮像装置100は、電源線23と、垂直信号線24と、アドレス信号線25と、リセット信号線26とを含む。これらの線は、各画素20に接続されている。電源線23は、増幅トランジスタ42のソースおよびドレインの一方に接続されており、各画素20に所定の電源電圧を供給する。電源線23は、ソースフォロア電源として機能する。垂直信号線24は、アドレストランジスタ44のソースおよびドレインのうち、増幅トランジスタ42のソースまたはドレインと接続されていない側に接続されている。アドレス信号線25は、アドレストランジスタ44のゲート電極に接続されている。リセット信号線26は、リセットトランジスタ46のゲートに接続されている。
【0109】
撮像装置100の周辺回路は、垂直走査回路52と、水平信号読出し回路54と、複数のカラム信号処理回路56と、複数の負荷回路58と、複数の反転増幅器59とを含む。垂直走査回路52は、「行走査回路」とも呼ばれ、水平信号読出し回路54は、「列走査回路」とも呼ばれ、カラム信号処理回路56は、「行信号蓄積回路」とも呼ばれる。カラム信号処理回路56、負荷回路58および反転増幅器59は、行方向および列方向に配列された複数の画素20の各列に対応して設けられている。カラム信号処理回路56の各々は、複数の画素20の各列に対応した垂直信号線24を介して、各列に配置された画素20に電気的に接続されている。複数のカラム信号処理回路56は、水平信号読出し回路54に電気的に接続されている。負荷回路58の各々は、各垂直信号線24に電気的に接続されており、負荷回路58と増幅トランジスタ42とによってソースフォロア回路が形成されている。
【0110】
垂直走査回路52は、アドレス信号線25およびリセット信号線26に接続されている。垂直走査回路52は、アドレス信号線25を介して、アドレストランジスタ44のオンおよびオフを制御するための行選択信号をアドレストランジスタ44のゲートに印加する。アドレス信号線25毎に行選択信号が送出されることにより、読出し対象の行が走査および選択される。選択された行の画素20から垂直信号線24に信号電圧が読み出される。また、垂直走査回路52は、リセット信号線26を介して、リセットトランジスタ46のオンおよびオフを制御するためのリセット信号をリセットトランジスタ46のゲートに印加する。リセット信号線26毎に行選択信号が送出されることにより、リセット動作の対象となる画素20の行が選択される。このように、垂直走査回路52は、複数の画素20を行単位で選択し、信号電圧の読出しおよび下部電極2の電位のリセットを行う。
【0111】
垂直走査回路52によって選択された画素20から読み出された信号電圧は、垂直信号線24を介して、カラム信号処理回路56へ送られる。カラム信号処理回路56は、相関二重サンプリングに代表される雑音抑圧信号処理およびアナログ-デジタル変換(AD変換)などを行う。水平信号読出し回路54は、複数のカラム信号処理回路56から不図示の水平共通信号線に信号を順次読み出す。
【0112】
なお、垂直走査回路52は、上述の電圧供給回路30を一部に含んでいてもよい。あるいは、電圧供給回路30が垂直走査回路52との電気的接続を有していてもよい。言い換えれば、垂直走査回路52を介して、上部電極3にバイアス電圧が印加されてもよい。
【0113】
図9に例示される構成では、複数の反転増幅器59が、各列に対応して設けられている。反転増幅器59の負側の入力端子は、対応する垂直信号線24に接続されている。反転増幅器59の出力端子は、各列に対応して設けられたフィードバック線27を介して、対応する列の各画素20に接続されている。
【0114】
図9に示されるように、フィードバック線27は、リセットトランジスタ46のソースおよびドレインのうち、電荷蓄積ノード41と接続されていない側(例えば、ドレイン)に接続されている。したがって、反転増幅器59は、アドレストランジスタ44とリセットトランジスタ46とが導通状態にあるときに、アドレストランジスタ44の出力を負端子に受ける。一方、反転増幅器59の正側の入力端子には、不図示の電源からリセットにおける基準電圧が印加される。反転増幅器59は、増幅トランジスタ42のゲート電圧が所定のフィードバック電圧となるようにフィードバック動作を行う。フィードバック電圧とは、反転増幅器59の出力電圧を意味する。反転増幅器59の出力電圧は、例えば0Vまたは0V近傍の正電圧である。反転増幅器59を「フィードバックアンプ」と呼んでもよい。
【0115】
[撮像装置のデバイス構造]
図10は、本実施の形態に係る撮像装置100中の画素20のデバイス構造を模式的に示す断面図である。
図10に例示される構成において、画素20は、光電変換部10Cを支持する半導体基板62を含む。半導体基板62は、例えばシリコン基板である。
図10に示されるように、光電変換部10Cは、半導体基板62の上方に配置される。この例では、半導体基板62上に層間絶縁層63A、63Bおよび63Cが積層されており、層間絶縁層63C上に、下部電極2、光電変換層4および上部電極3の積層体が配置されている。下部電極2は画素ごとに区画されており、隣接する2つの画素20間において下部電極2が空間的に分離して形成されることにより、隣接する2つの下部電極2は、電気的に分離されている。また、光電変換層4および上部電極3は、複数の画素20に跨るように形成されていてもよい。また、
図10に示されるような、光電変換部10Cと半導体基板62との間に、他の光電変換部等が配置されない場合には、下部電極2は、金属等の材料で形成されていてもよい。
【0116】
半導体基板62には、増幅トランジスタ42、アドレストランジスタ44およびリセットトランジスタ46が形成されている。
【0117】
増幅トランジスタ42は、半導体基板62に形成された不純物領域62aおよび62bと、半導体基板62上に位置するゲート絶縁層42gと、ゲート絶縁層42g上に位置するゲート電極42eとを含む。不純物領域62aおよび62bは、増幅トランジスタ42のドレインまたはソースとして機能する。不純物領域62aおよび62b、ならびに、後述する不純物領域62c、62dおよび62eは、例えば、n型不純物領域である。
【0118】
アドレストランジスタ44は、半導体基板62に形成された不純物領域62aおよび62cと、半導体基板62上に位置するゲート絶縁層44gと、ゲート絶縁層44g上に位置するゲート電極44eとを含む。不純物領域62aおよび62cは、アドレストランジスタ44のドレインまたはソースとして機能する。この例では、増幅トランジスタ42とアドレストランジスタ44とが不純物領域62aを共有することにより、増幅トランジスタ42のソース(またはドレイン)と、アドレストランジスタ44のドレイン(またはソース)とが電気的に接続されている。
【0119】
リセットトランジスタ46は、半導体基板62内に形成された不純物領域62dおよび62eと、半導体基板62上に位置するゲート絶縁層46gと、ゲート絶縁層46g上に位置するゲート電極46eとを含む。不純物領域62dおよび62eは、リセットトランジスタ46のドレインまたはソースとして機能する。
【0120】
半導体基板62において、互いに隣接する画素20間、および、増幅トランジスタ42とリセットトランジスタ46との間には、素子分離領域62sが設けられている。素子分離領域62sにより、互いに隣接する画素20が電気的に分離されている。また、互いに隣接する画素20間に素子分離領域62sが設けられることにより、電荷蓄積ノード41に蓄積される信号電荷のリークが抑制される。
【0121】
層間絶縁層63A内には、リセットトランジスタ46の不純物領域62dに接続されたコンタクトプラグ65A、増幅トランジスタ42のゲート電極42eに接続されたコンタクトプラグ65B、および、コンタクトプラグ65Aとコンタクトプラグ65Bとを接続する配線66Aが形成されている。これにより、リセットトランジスタ46の不純物領域62d(例えばドレイン)が増幅トランジスタ42のゲート電極42eと電気的に接続されている。
図10に例示される構成では、層間絶縁層63A内に、プラグ67Aおよび配線68Aがさらに形成されている。また、層間絶縁層63B内にプラグ67Bおよび配線68Bが形成され、層間絶縁層63C内にプラグ67Cが形成されることにより、配線66Aと下部電極2とが電気的に接続されている。コンタクトプラグ65A、コンタクトプラグ65B、配線66A、プラグ67A、配線68A、プラグ67B、配線68B、および、プラグ67Cは、典型的には金属で構成される。
【0122】
図10に例示される構成では、上部電極3上に保護層72が配置されている。この保護層72は、光電変換部10Cを支持するために配置された基板ではない。保護層72は、光電変換部10Cを保護し、他から絶縁するための層である。保護層72は、所望とする波長において高透光性であってもよい。保護層72の材料は、透光性を有する絶縁体であればよく、例えば、SiONまたはAlO等である。保護層72は、
図10に示されるような1層構造であってもよく、異なる材料の層が積層された多層構造であってもよい。
図10に示されるように、保護層72上にマイクロレンズ74が配置されていてもよい。
【0123】
[光電変換層の構成]
本実施の形態において、光電変換部10Cは、光電変換素子の一例であり、実施の形態1に係る光電変換素子で構成される。光電変換部10Cは、例えば、
図10に示されるように、上述した光電変換素子10Aと同様の構造を有する。光電変換部10Cは、上述した光電変換素子10Bと同様の構造を有していてもよく、上述した光電変換素子10Bの電子ブロッキング層5および正孔ブロッキング層6のうち、いずれか一方を備えない構造を有していてもよい。
【0124】
[撮像装置の製造方法]
以上のような撮像装置100は、一般的な半導体製造プロセスを用いて製造することができる。特に、半導体基板62としてシリコン基板を用いる場合には、種々のシリコン半導体プロセスを利用することによって製造することができる。
【0125】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、実施の形態1に係る光電変換素子で構成される光電変換部に加えて、別の光電変換素子で構成される光電変換部を備える撮像装置について説明する。つまり、実施の形態3では、撮像装置が2種類の光電変換部を備える点が、実施の形態2と相違する。以下では、実施の形態2との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略または簡略化する。
【0126】
図11は、本実施の形態に係る撮像装置の2つの光電変換部10Dおよび110Aの構成を模式的に示す断面図である。本実施の形態に係る撮像装置は、電子デバイスの一例である。実施の形態3に係る撮像装置では、実施の形態1に係る光電変換素子で構成される光電変換部10Dと、光電変換部110Aとが積層されている。光電変換部110Aは、光電変換部10Dの下方に位置し、上方から入射する光のうち、光電変換部10Dを透過した光を受光する。
【0127】
光電変換部10Dは、第1光電変換素子の一例であり、実施の形態1に係る光電変換素子で構成される。光電変換部110Aは、第2光電変換素子の一例であり、光電変換部10Dを透過する光に感度を有する。
【0128】
光電変換部10Dは、例えば、
図11に示されるように、上述した光電変換素子10Bにおいて正孔ブロッキング層6を備えない構造、つまり、光電変換層4と上部電極3とが接する構造を有する。具体的には、光電変換部10Dは、一対の下部電極2および上部電極3と、下部電極2と上部電極3との間に位置する光電変換層4と、光電変換層4と下部電極2との間に位置する電子ブロッキング層5とを備える。
【0129】
光電変換部10Dは、第1波長、第2波長および第3波長のうち、少なくとも一つの波長の光に対応する第1信号を生成する。つまり、上述したように、光電変換部10Dは、信号電荷として正孔または電子のいずれかを下部電極2で捕集する。
【0130】
光電変換部110Aは、光電変換部10Dを透過した第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光に対応する第2信号を生成する。光電変換部110Aは、信号電荷として正孔または電子のいずれかを下部電極12で捕集する。光電変換部110Aは、一対の電極である下部電極12および上部電極13と、下部電極12と上部電極13との間に位置する光電変換層14と、光電変換層14と下部電極12との間に位置する電子ブロッキング層15を備える。上部電極13および電子ブロッキング層15については、上部電極3および電子ブロッキング層5で説明された材料が用いられる。なお、光電変換部110Aは、
図11に示される構造に限らず、公知の光電変換素子のうち、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光を吸収する光電変換素子を用いてもよい。光電変換部110Aは、例えば、シリコン基板内に設けられたフォトダイオードであってもよい。
【0131】
下部電極12は、上部電極13とは異なり、透光性を有していなくてもよく、導電性材料を用いて形成されている。導電性材料は、例えば、アルミニウム、銅などの金属、金属窒化物、または、不純物がドープされることにより導電性が付与されたポリシリコンである。
【0132】
光電変換層14は、光電変換部10Dを透過した第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光を吸収し、電子正孔対を生成する。光電変換層14の材料としては、例えば、所望の波長範囲の光を吸収する、半導体性の無機材料、または、半導体性の有機材料などが用いられる。光電変換層14の材料としては、量子閉じ込め効果を持つ量子ドット材料または量子井戸材料であってもよい。
【0133】
図11に示されるように、光電変換部110Aは、層間絶縁層63D上に配置されている。光電変換部10Dは、光電変換部110Aの上方に配置され、光電変換部10Dと光電変換部110Aとの間には、絶縁保護層72Aが配置される。絶縁保護層72Aは、上述の保護層72と同様の材料で構成されてもよく、光電変換部10Dと光電変換部110Aとを絶縁している。また、光電変換部10Dの上部電極3上には、実施の形態2と同様に、保護層72およびマイクロレンズ74が配置されている。
【0134】
層間絶縁層63D内には、下部電極2と接続されたプラグ67Dおよび下部電極12と接続されたプラグ67Eが形成されている。下部電極2および下部電極12は、それぞれ、プラグ67Dおよびプラグ67Eを介して、実施の形態2において説明した配線等と電気的に接続される。プラグ67Dおよびプラグ67Eは、典型的には金属で構成される。プラグ67Dは、光電変換部110Aを貫通するように形成されている。また、プラグ67Dの周囲には絶縁被覆69が形成されており、プラグ67Dと光電変換部110Aとは、接触していない。絶縁被覆69は、例えば、AlOxまたはSiN等で構成される。
【0135】
例えば、光電変換部10Dは赤外光に感度を有し、可視光を透過し、光電変換部110Aは、光電変換部10Dを透過した可視光に感度を有する。具体的には、光電変換部10Dに含まれる複数のsemi-SWCNTの第2波長範囲が400nm以上650nm以下であり、光電変換部110Aは、400nm以上650nm以下の波長範囲の光に感度を有する。
【0136】
図11に示されるように、可視光に感度を有する光電変換部110Aの上に、赤外光に感度を有する光電変換部10Dを積層することで、異なる2つの波長範囲に対応する画像を得ることができる。また、同じ入射光軸上に2つの光電変換部が配置されるため、撮像装置の小型化、または、高解像度化が可能である。さらに、撮像装置は、同じ入射光軸上に2つの光電変換部が配置されるため、2つの光電変換部で撮像された画像に視差がない撮像を実現できる。
【0137】
また、このような光電変換部の積層構造においては、上層の光電変換部10Dから信号電荷を取り出すために、光電変換部110Aを貫通するように配置されるプラグ67Dでリーク電流および寄生容量が生じるため、得られた画像のシグナル/ノイズ(S/N)比が低下する。そのため、例えば、人が視認することの多い可視光撮像の画質低下の影響を小さくする観点から、光電変換部110Aは、下層に配置する。このとき、上層の光電変換部10Dは、下層の光電変換部110Aが感度を有する可視光に対して透明である本実施の形態に係る光電変換素子で構成されることによって、撮像装置に入射した光のうち、可視光を下層の光電変換部110Aに透過させることができる。したがって、画質劣化の抑制された可視光撮像と近赤外撮像とがひとつのデバイスで、かつ、同一の光軸上で行える。
【0138】
なお、赤外光の撮像による画質を重視する場合には、光電変換部10Dは可視光に感度を有し、赤外光を透過し、光電変換部110Aは、光電変換部10Dを透過した赤外光に感度を有してもよい。
【0139】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4について説明する。実施の形態4では、実施の形態1に係る光電変換素子を備える太陽電池について説明する。なお、実施の形態2に係る撮像装置において、実施の形態1に係る光電変換素子と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、共通点の説明を省略または簡略化する。
【0140】
図12は、本実施の形態に係る太陽電池101の構成を模式的に示す断面図である。太陽電池101は、基板1と、基板1上方に位置する実施の形態1に係る光電変換素子10Aと、光電変換素子10Aの下部電極2および上部電極3のそれぞれに接続されたリードライン8とを備える。太陽電池101には、例えば、基板1側から光が入射される。光吸収によって光電変換層4で発生した電子が拡散により上部電極3まで到達し、さらに到達した電子がリードライン8を通り、動作部9に流れることで、動作部9が動作する。動作部9に流れた電子は、リードライン8を通り、光電変換素子10Aの下部電極2に戻る。このようにして、太陽電池101は電池として機能する。動作部9は、電力により動作するデバイス等であり、例えば、撮像装置の駆動回路、発光素子またはモータ等である。以上のように、光電変換素子10Aは、第1波長、第2波長および第3波長のうち、少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成する。また、光電変換素子10Aは、第1波長範囲および第2波長範囲の光を透過させるため、透過した光を利用することができる。
【0141】
また、太陽電池101が備える光電変換素子10Aは、1つに限らず、太陽電池は、基板上に複数の光電変換素子10Aがアレイ状に配置され、複数の光電変換素子10Aを接続する配線を備える太陽電池モジュールであってもよい。
【0142】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5について説明する。実施の形態5では、実施の形態1に係る光電変換素子を備える電子デバイスについて説明する。
【0143】
図13は、本実施の形態に係る電子デバイス200の構成を模式的に示す概略斜視図である。
図13においては、光電変換素子以外の構成要素については、記載が省略されている。
図13に示されるように、電子デバイス200は、光電変換素子110Bと、光電変換素子110Bの上方に配置された光電変換素子10Eとを備える。電子デバイス200には、光電変換素子10Eの上方から光が入射する。
【0144】
光電変換素子10Eは、第1光電変換素子の一例であり、実施の形態1に係る光電変換素子で構成される。光電変換素子10Eは、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光を透過させる。
【0145】
光電変換素子10Eは、例えば、第1波長、第2波長および第3波長のうち、少なくとも一つの波長の光に対応する第1信号を生成する。この場合、光電変換素子10Eは、光センサまたは撮像装置の一部として機能する。また、例えば、光電変換素子10Eは、第1波長、第2波長および第3波長のうち、少なくとも一つの波長の光を吸収して電力を生成する。この場合、光電変換素子10Eは太陽電池の一部として機能する。
【0146】
光電変換素子110Bは、第2光電変換素子の一例であり、光電変換素子10Eを透過した光を受光する。光電変換素子110Bは、例えば、実施の形態3に係る光電変換部110Aと同様の構造、または、公知の光電変換素子の構造を有する。
図13に示されるように、例えば、光電変換素子10Eは、近赤外光を吸収し、可視光を透過させ、光電変換素子110Bは、透過した可視光を受光する。
【0147】
光電変換素子110Bは、例えば、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光に対応する第2信号を生成する。この場合、光電変換素子110Bは、光センサまたは撮像装置の一部として機能する。また、例えば、光電変換素子110Bは、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の波長範囲の光を吸収して、電力を生成する。この場合、光電変換素子110Bは、太陽電池の一部として機能する。
【0148】
電子デバイス200は、例えば、光電変換素子10Eおよび光電変換素子110Bのうち、一方の光電変換素子を含む太陽電池と、他方の光電変換素子を含む光センサまたは撮像装置とで構成される。また、同じ入射光軸上に2つの光電変換素子が配置されるため、2つの光電変換素子を同一平面上に並べて構成する場合に比べ、電子デバイス200の小型化が可能である。
【0149】
本実施の形態に係る電子デバイス200によれば、光電変換素子10Eおよび光電変換素子110Bのうち、一方の光電変換素子を含む太陽電池によって生成された電力の一部を使って、他方の光電変換素子を含む光センサまたは撮像装置の電力の少なくとも一部を賄うことができる。よって、省電力な電子デバイス200が実現される。また、駆動用の大型のバッテリーを設ける必要がなくなり、電子デバイス200のさらなる小型化が可能になる。
【0150】
なお、電子デバイス200は、光電変換素子10Eおよび光電変換素子110Bの両方を含む太陽電池で構成されてもよい。これにより、2つの異なる波長範囲の光から電力を生成できるため、太陽電池の発電効率が向上する。また、電子デバイス200は、光電変換素子10Eおよび光電変換素子110Bの両方を含む光センサまたは撮像装置で構成されてもよい。
【0151】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6について説明する。実施の形態6では、実施の形態1に係る光電変換素子を備える発光装置について説明する。
【0152】
図14は、本実施の形態に係る発光装置300の構成を模式的に示す概略斜視図である。
図14においては、光電変換素子および発光素子以外の構成要素については、記載が省略されている。
図14に示されるように、発光装置300は、発光素子120と、発光素子120の発光面上方に位置する光電変換素子10Eとを備える。
【0153】
発光素子120は、第1波長範囲および第2波長範囲のうち少なくとも一方の光を出射する。発光素子120は、ディスプレイまたは照明等の発光モジュールの一部として機能する。発光素子120は、例えば、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、有機EL(Electro Luminescence)、または、無機EL等で構成される。
【0154】
光電変換素子10Eは、実施の形態5で説明したため、説明は省略する。
【0155】
図12に示されるように、例えば、光電変換素子10Eは、近赤外光を吸収し、発光素子120が出射した可視光を透過させる。そのため、光電変換素子10Eが、発光素子120の出射する光の光軸上に配置される場合であっても、発光素子120の出射する可視光が、光電変換素子10Eを透過するため、発光装置300としての発光機能が損なわれない。このように、発光装置300では、光電変換素子10Eが、発光素子120の出射する光の光軸上に配置されるため、発光装置300の小型化が可能である。
【0156】
発光装置300は、例えば、発光素子120を含むディスプレイまたは照明と、光電変換素子10Eを含む太陽電池、光センサまたは撮像装置とで構成される。
【0157】
本実施の形態に係る発光装置300によれば、光電変換素子10Eがイメージセンサまたは光センサなどの一部として機能する場合、対象物の検知結果に応じて発光素子120を含む照明の明るさを制御したり、発光素子120を含むディスプレイに表示させる内容を変更したりすることができるため、省電力な発光装置300が実現できる。また、光電変換素子10Eが太陽電池の一部として機能する場合、発光素子120を含む発光モジュールの電力の少なくとも一部を賄うことができるため、省電力な発光装置300が実現される。
【0158】
(他の実施の形態)
以上、1つまたは複数の態様に係る光電変換素子、撮像装置、太陽電池、電子デバイスおよび発光装置について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、および、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本開示に係る光電変換素子等は、例えば、太陽電池、医療用カメラ、監視用カメラ、車載用カメラ、測距カメラ、顕微鏡カメラ、ドローン用カメラ、または、ロボット用カメラなど、様々なカメラシステムおよびセンサシステムに適用できる。
【符号の説明】
【0160】
1 基板
2、12 下部電極
3、13 上部電極
4、4d、4e、14 光電変換層
4a カーボンナノチューブ層
4b アクセプター層
4c 混合層
5、15 電子ブロッキング層
6 正孔ブロッキング層
8 リードライン
9 動作部
10A、10B、10E、11A、11B、110B 光電変換素子
10C、10D、110A 光電変換部
20 画素
22 蓄積制御線
23 電源線
24 垂直信号線
25 アドレス信号線
26 リセット信号線
27 フィードバック線
30 電圧供給回路
40 信号検出回路
41 電荷蓄積ノード
42 増幅トランジスタ
42g、44g、46g ゲート絶縁層
42e、44e、46e ゲート電極
44 アドレストランジスタ
46 リセットトランジスタ
52 垂直走査回路
54 水平信号読出し回路
56 カラム信号処理回路
58 負荷回路
59 反転増幅器
62 半導体基板
62a、62b、62c、62d、62e 不純物領域
62s 素子分離領域
63A、63B、63C、63D 層間絶縁層
65A、65B コンタクトプラグ
66A、68A、68B 配線
67A、67B、67C、67D、67E プラグ
69 絶縁被覆
72 保護層
72A 絶縁保護層
74 マイクロレンズ
100 撮像装置
101 太陽電池
120 発光素子
200 電子デバイス
300 発光装置