(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】二次電池用の正極活物質、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20241129BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241129BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021554303
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2020038573
(87)【国際公開番号】W WO2021085112
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019196425
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 孝亮
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光宏
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-179661(JP,A)
【文献】特開2000-082466(JP,A)
【文献】特開2018-041657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む二次電池用の正極活物質において、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Li
α[Li
xMn
yCo
zMe
(1-x-y-z)]O
2(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表され、O2構造の結晶構造を有し、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒度分布は、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークとを有
し、
前記小粒径側の第1ピークに対応する第1粒子群の平均粒径(Da)は、30nm以上5μm以下であり、前記大粒径側の第2ピークに対応する第2粒子群の平均粒径(Db)は、2μm以上15μm以下であり、
前記第2粒子群の平均粒径(Db)に対する前記第1粒子群の平均粒径(Da)の比(Da/Db)は1/2以下である、二次電池用の正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる前記小粒径側の第1ピークに対応する
前記第1粒子群の存在比率は、前記リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる前記大粒径側の第2ピークに対応する
前記第2粒子群の存在比率より小さい、請求項1に記載の二次電池用の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる前記小粒径側の第1ピークに対応する前記第1粒子群の存在比率は、5%以上、30%以下であり、前記リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる前記大粒径側の第2ピークに対応する前記第2粒子群の存在比率は、70%以上、95%以下である、請求項2に記載の二次電池用の正極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池用の正極活物質を含む正極と、負極と、電解質とを備えた、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用の正極活物質、及び当該正極活物質を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池等の二次電池用の正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物が広く使用されている。例えば、特許文献1には、O2構造で規定される結晶構造を有し、遷移金属層にLiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が開示されている。また、O3構造で規定される結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物において、遷移金属層にLiを含有する複合酸化物も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
O2構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、O3構造のリチウム遷移金属複合酸化物と比較して、二次電池の充放電サイクルにおける電圧低下を抑えることは可能であるが、二次電池の容量や充放電サイクルにおける容量維持率が低いといった問題がある。
【0005】
本開示の一態様である二次電池用の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Liα[LixMnyCozMe(1-x-y-z)]O2(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表され、O2構造の結晶構造を有し、前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒度分布は、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークとを有する。
【0006】
本開示の一態様である二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、電解質とを備える。
【0007】
本開示の一態様である二次電池用の正極活物質によれば、二次電池の容量を向上させ、また、充放電サイクルにおける容量維持率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の一例である二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様である二次電池用の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Liα[LixMnyCozMe(1-x-y-z)]O2(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表され、O2構造の結晶構造を有し、前記リチウム遷移金属複合酸化物の粒度分布は、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークとを有する。そして、本開示の一態様である二次電池用の正極活物質によれば、二次電池の容量を向上させ、また、充放電サイクルにおける容量維持率の低下を抑制することができる。当該効果を奏するメカニズムは十分に明らかではないが、以下のことが考えられる。本開示のリチウム遷移金属複合酸化物は、粒度分布における小粒径側の第1ピークに対応する第1粒子群、大粒径側の第2ピークに対応する第2粒子群を含むが、このような小粒径の第1粒子群と大粒径の第2粒子群の混合体により、正極活物質の充填密度が向上し、また小粒径の第1粒子群の存在により、電解液との接触面積が増大するため、二次電池の容量が向上すると推察される。また、上記一般式で表され、O2構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、結晶構造の安定性が高い。したがって、充放電を繰り返した際に、反応面積が広い小粒径の第1粒子群においても結晶構造崩壊が抑制されるため、充放電サイクルにおける容量維持率の低下が抑制されると考えられる。
【0010】
以下に、本開示の一態様である二次電池の一例について説明する。
【0011】
図1は、実施形態の一例である二次電池の断面図である。
図1に示す二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(所謂ラミネート型)などが例示できる。
【0012】
電解質は、水系電解質であってもよいが、好ましくは非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む非水電解質である。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0013】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0014】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で二次電池10の内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0015】
図1に示す二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0016】
以下に、正極11、負極12、セパレータ13について詳述する。
【0017】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0018】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0019】
正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Liα[LixMnyCozMe(1-x-y-z)]O2(式中、MeはNi、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種、0.5<α<1、0.05<x<0.25、0.4<y<0.7、0<z<0.25)で表される。
【0020】
本実施形態では、正極活物質が上記リチウム遷移金属複合酸化物(以下、「複合酸化物A」とする)のみを含むものとして説明するが、正極活物質は、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物A以外の化合物を含んでいてもよい。
【0021】
複合酸化物Aは、O2構造の結晶構造を有する。O2構造は、結晶構造の安定性等の点から、複合酸化物Aの結晶構造の50体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。ここで、O2構造とは、リチウムが酸素八面体の中心に存在し、酸素と遷移金属の重なり方が単位格子あたり2種類存在する層状の結晶構造であって、空間群P63mcに属する。このような層状の結晶構造は、リチウム層、遷移金属層、及び酸素層を有する。複合酸化物Aの上記一般式において、リチウム層はLiαを含み、遷移金属層はLixMnyCozMe(1-x-y-z)を含み、酸素層はO2を含む。
【0022】
複合酸化物Aは、複合酸化物Aを合成する際に、副生成物として合成されるT2構造やO6構造の複合酸化物を含んでもよい。ここで、T2構造とは、リチウムが酸素四面体の中心に存在し、酸素と遷移金属の重なり方が単位格子あたり2種類存在する層状の結晶構造であって、空間群Cmcaに属する。O6構造とは、リチウムが酸素八面体の中心に存在し、酸素と遷移金属の重なり方が単位格子あたり6種類存在する層状の結晶構造であって、空間群R-3mに属する。
【0023】
複合酸化物Aにおいて、遷移金属層に含有されるLiは、結晶構造の安定性等から、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して5モル%超過25モル%未満であればよいが、10モル%超過20モル%未満であることが好ましい。また、Mnの含有量は、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して40モル%超過75モル%未満であればよいが、50モル%超過65モル%未満であることが好ましい。Coの含有量は、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して0モル%超過25モル%未満であればよいが、5モル%超過20モル%未満であることが好ましい。
【0024】
複合酸化物Aに含有されるLi、Mn、Co以外の金属元素Meとしては、Ni、Fe、Ti、Bi、Nbから選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、Ni、Feが好ましい。Meの含有量は、遷移金属層に含有される金属元素の総モル数に対して3モル%超過20モル%未満が好ましい。なお、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物Aには上記以外の金属元素が含まれていてもよい。
【0025】
複合酸化物Aを構成する各金属成分量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定される。
【0026】
複合酸化物Aの粒度分布は、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークとを有する。本明細書における複合酸化物Aの粒度分布は、体積基準による累積粒度分布を指し、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3300EXII)を用い、水を分散媒として測定できる。なお、粒度分布のピークは3つ以上存在していてもよいが、ここでは、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークに着眼して、以下説明する。
【0027】
複合酸化物Aは、小粒径側の第1ピークに対応する第1粒子群と、大粒径側の第2ピークに対応する第2粒子群とを有する。第1粒子群と第2粒子群は、複合酸化物Aの粒度分布を示す波形を、第1ピークと第2ピークとの間の頻度が最小となる粒径で分割することにより分類される。そして、複合酸化物Aに含まれる第1粒子群の存在比率は、複合酸化物Aに含まれる第2粒子群の存在比率より小さいことが好ましい。複合酸化物Aに含まれる第1粒子群の存在比率が、複合酸化物Aに含まれる第2粒子群の存在比率より小さいことで、正極活物質の充填密度がより高められ、二次電池の容量がより向上する場合がある。
【0028】
複合酸化物Aに含まれる第1粒子群の存在比率は、例えば、5%以上30%以下であることが好ましく、10%以上20%以下であることがより好ましい。複合酸化物Aに含まれる第2粒子群の存在比率は、例えば、70%以上95%以下であることが好ましく、80%以上90%以下であることがより好ましい。存在比率は、第1ピーク又は第2ピークの体積基準による相対粒子量により求めた値である。
【0029】
第1粒子群の平均粒径(Da)は、30nm以上5μm以下であることが好ましく、40nm以上1μm以下であることがより好ましい。また、第2粒子群の平均粒径(Db)は1μm以上15μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。そして、第2粒子群の平均粒径(Db)に対する第1粒子群の平均粒径(Da)の比(Db/Da)は、1/2以下であることが好ましい。第1粒子群の平均粒径(Da)、第2粒子群の平均粒径(Db)及びDb/Daが上記範囲を満たすことで、充放電サイクルによる結晶構造崩壊が抑制されたり、正極活物質の充填密度が向上したりして、上記範囲を満たさない場合と比較して、二次電池の容量が向上し、或いは充放電サイクルにおける容量維持率の低下が抑制される。第1粒子群の平均粒径は、第1ピークの粒径範囲の中央値であり、第2粒子群の平均粒径とは、第2ピークの粒径範囲の中央値である。
【0030】
第1粒子群及び第2粒子群は、上記一般式の範囲内であれば、同じ組成であっても異なる組成であってもよい。
【0031】
複合酸化物Aは、例えば、(1)前駆体であるMn、Co、Li及びNa含有複合酸化物を製造する第1工程、(2)前駆体に、リチウムを含有する溶融塩中やリチウム化合物を含有する溶媒中でイオン交換処理を実施する第2工程により、製造される。
【0032】
(第1工程)
前駆体であるMn、Co、Li及びNa含有複合酸化物は、ナトリウム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、リチウム化合物等の原料を、所定のモル比となるように添加・混合し、得られた混合物を焼成することにより製造される。混合物の焼成温度は、750℃以上850℃以下の範囲が好ましい。また、焼成雰囲気は、酸素雰囲気又は大気中であることが好ましい。焼成温度及び焼成雰囲気を上記条件とすることで、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークとを有する粒度分布を示す複合酸化物Aが得られ易い。
【0033】
ナトリウム化合物は、特に限定されないが、例えば、Na2O、Na2O2等の酸化物、Na2CO3、NaNO3等の塩類、NaOH等の水酸化物等が挙げられる。マンガン化合物は、特に限定されないが、例えば、Mn3O4,Mn2O3、MnO2等の酸化物、MnSO4、MnCO3、MnCl2等の塩類、Mn(OH)2等の水酸化物等が挙げられる。コバルト化合物は、特に限定されないが、例えば、CoO、Co2O3等の酸化物、CoSO4、CoCl2等の塩類、Co(OH)2等の水酸化物等が挙げられる。リチウム化合物は、特に限定されないが、Li2CO3、LiOH、LiCl等が挙げられる。また、前駆体の原料としては、マンガン、ニッケル、コバルト等の複合水酸化物、炭酸塩等も利用可能である。
【0034】
(第2工程)
第1工程で得られた前駆体に、リチウムを含有する溶融塩中やリチウム化合物を含有する溶媒中でイオン交換処理を実施することにより、複合酸化物Aが得られる。リチウムを含有する溶融塩は、例えば、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等の低温で溶融する塩類を使用することができる。リチウム化合物としては、例えば、リチウムの炭酸塩、リチウムの酢酸塩、リチウムの硝酸塩、リチウムのハロゲン化物等を使用することができ、有機溶媒としては、例えば、ヘキサノール等の高級アルコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル、または沸点が140℃以上の有機溶媒等が挙げられる。イオン交換処理の処理温度は、例えば、0℃以上300℃以下が好ましい。イオン交換処理の時間は、例えば、1時間以上48時間以下が好ましい。
【0035】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0036】
負極活物質は、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出することができる物質であれば特に限定されないが、炭素系活物質が含まれることが好ましい。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質は、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が含まれてもよい。
【0037】
結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0038】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0039】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
[正極活物質の合成]
NiSO4、CoSO4、及びMnSO4を、13.5:13.5:73の化学量論比となるように水溶液中で混合し、共沈させることで、(Ni,Co,Mn)(OH)2を得た。次に、(Ni,Co,Mn)(OH)2、Na2CO3、及びLiOH・H2Oを、(Ni+Co+Mn):Na:Liが87:83:13の化学量論比となるように混合し、大気中で、この混合物を800℃で10時間保持して、前駆体を合成した。
【0041】
誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、商品名「iCAP6300」)を用いて、得られた前駆体の組成を分析した。その結果、Na:Li:Mn:Co:Ni=0.756:0.133:0.633:0.117:0.117であった。
【0042】
次に、硝酸リチウムと塩化リチウムを88:12のモル比で混合した溶融塩を、上記前駆体5gに対し10倍当量(25g)加えた。その後、当該混合物を280℃で2時間保持して、前駆体中のNaをLiにイオン交換し、そこへヨウ化リチウムを加え、リチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0043】
誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、商品名「iCAP6300」)を用いて、得られた複合酸化物の組成を分析した。その結果、Li:Mn:Co:Ni=1.13:0.724:0.137:0.139であった。これを正極活物質とした。
【0044】
[正極の作製]
上記正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、92:5:3の質量比で混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合材スラリーを調製した。次に、この正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の表面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体上に正極合材層が形成された正極を作製した。
【0045】
[非水電解液の調製]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(FMP)とを、1:3の質量比で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解して、非水電解液を調製した。
【0046】
[試験セルの作製]
上記正極及びLi金属製の対極にリード線をそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と対極を対向配置することにより、電極体を作製した。この電極体及び上記非水電解液を、アルミニウムラミネートフィルムで構成された外装体内に封入して、試験セルを作製した。
【0047】
<実施例2>
前駆体の合成において、酸素雰囲気中、800℃で10時間保持する焼成条件としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を製造し、また、当該正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0048】
<比較例>
前駆体の合成において、大気中、900℃で10時間保持する焼成条件としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を製造し、また、当該正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製した。
【0049】
[正極活物質の評価]
実施例1、2及び比較例の正極活物質についてXRD測定を実施し、結晶構造の同定を実施した。実施例1、2及び比較例の正極活物質は空間群P63mcに帰属されるO2構造が主となる構造であった。
【0050】
レーザー回折式の粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3300EXII)を用いて、実施例1、2及び比較例の正極活物質の粒度分布を測定した。実施例1、2の正極活物質の粒度分布は、小粒径側の第1ピークと大粒径側の第2ピークとを有していた。実施例1の正極活物質に関して得られた粒度分布を解析したところ、正極活物質に含まれる、小粒径側の第1ピークに対応する第1粒子群の存在比率は、10%であり、大粒径側の第2ピークに対応する第2粒子群の存在比率は、90%であった。また、小粒径側の第1ピークに対応する第1粒子群の平均粒径は、40nmであり、大粒径側の第2ピークに対応する第2粒子群の平均粒径は、3μmであった。
【0051】
一方、比較例の正極活物質の粒度分布は、1つのピークのみを有していた。なお、比較例の正極活物質の平均粒径は、3μmであった。
【0052】
[電池容量及び充放電サイクルにおける容量維持率の評価]
各実施例及び比較例の試験セルを、25℃の温度環境で、電池の閉回路電圧が4.7V(Li対極基準)に達するまで0.05Cの定電流で充電し、その後、電流値が0.02C未満になるまで4.7Vの定電圧で充電を行った後、電池の閉回路電圧が2.0V(Li対極基準)に達するまで、0.05Cの定電流で放電を行った。この充放電を10サイクル行った。そして、1サイクル目の放電容量を電池容量とし、その結果を表1にまとめた。また、下記式にて充放電サイクルにおける容量維持率を求め、その結果を表1にまとめた。
【0053】
容量維持率(%)=10サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量×100
【0054】
【0055】
表1に示すように、実施例1、2は、比較例と比べて、高容量であり、充放電サイクルにおける容量維持率の低下が抑制された。すなわち、実施例の正極活物質を用いることにより、高容量で、良好なサイクル特性を示す二次電池を提供できる。
【符号の説明】
【0056】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 ケース本体
17 封口体
18 絶縁板
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 張り出し部
23 フィルタ
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット