(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】抗菌水用組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 47/44 20060101AFI20241129BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20241129BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20241129BHJP
A01N 43/50 20060101ALI20241129BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20241129BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241129BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20241129BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20241129BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20241129BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241129BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20241129BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20241129BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20241129BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20241129BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241129BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241129BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20241129BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
A01N47/44
A01N25/02
A01N37/44
A01N43/50 L
A01P1/00
A01P3/00
A61K8/19
A61K8/44
A61K8/49
A61K9/08
A61K31/198
A61K31/4172
A61K47/04
A61P31/12 171
A61P31/14
A61P31/16
A61Q5/00
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020148557
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2021-06-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】397021235
【氏名又は名称】株式会社サニープレイス
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】向井 信人
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-50400(JP,A)
【文献】特開2019-19097(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094905(WO,A1)
【文献】代表者 関根茂、編集者 田村博明他5名、新 化粧品ハンドブック、日光ケミカルズ株式会社他4社、2006年10月30日発行、pp.392-411
【文献】S-100および弊社原料によるウイルス不活化と殺菌効力試験のご報告、株式会社エー・アイ・システムプロダクト、[令和4年7月27日検索]、[online]、2020年8月6日、インターネット、<URL:https://www.aisp.co.jp/news/details/detail39.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N25/02,37/44,43/50,47/44,A61K8/19,8/44,8/49,9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、又はこれらの
塩の少なくとも1種のアミノ酸と、還元性イオン水とを含有するウイルス不活性化用抗菌水用組成物であって、前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物のpHは10.944~11.639であり、前記アミノ酸の含有量は、前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物の全量に対して、
0.001質量%~0.01質量%の範囲であり、前記還元性イオン水の含有量は、前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物の全量に対して、10~20質量%の範囲であることを特徴とするウイルス不活性化用抗菌水用組成物を用いて、ウイルスを不活性化するウイルス不活性化用抗菌水用組成物を用いたウイルスの不活性化方法
(但し、人間を治療する方法を除く。)。
【請求項2】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、又はPEDウイルスである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物は、pH調整剤を含有しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌水用組成物に関し、特に、安全性を有する抗菌水用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌水には一般的に、中身や容器が微生物により腐敗などの変性を起こさないように、微生物の繁殖や成育を抑制する防腐・殺菌成分が配合されている。多くの防腐・殺菌成分は、配合可能成分リスト(ポジティブリスト)に記載されているので、配合規制がある。
【0003】
例えば、殺菌剤を含む拭き取り用の抗菌水であって、敏感肌用、ニキビ予防用、及びニキビ改善用からなる群より選ばれた用途に用いられ、下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、下記成分(D)、及び下記成分(E)を含むことを特徴とする抗菌水が知られている(特許文献1)。
成分(A):抗炎症剤
成分(B):殺菌剤
成分(C):脂肪酸エステル非イオン性界面活性剤
成分(D):保湿剤
成分(E):水
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、上述の特許文献1を含め従来技術においては、中身や容器が微生物により腐敗などの変性を起こさないように、殺菌剤を含むものが多いのが現状である。一方で、未だにこれらの抗菌成分等は有害であるという認識を持つ消費者が多いことから、防腐・殺菌剤を配合しないことが望まれる。したがって、使用する前に、内容物や容器が微生物により腐敗などの変性を起こさないように、防腐・殺菌成分以外の手段によって、微生物の繁殖や成育を抑制することができれば望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、抗菌力を有し、安全性を有する抗菌水組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、防腐、殺菌成分を配合することなく、抗菌性を有する組成物について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。
【0008】
すなわち、本発明のウイルス不活性化用抗菌水用組成物を用いたウイルスの不活性化方法(但し、人間を治療する方法を除く。)は、L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、又はこれらの塩の少なくとも1種のアミノ酸と、還元性イオン水とを含有するウイルス不活性化用抗菌水用組成物であって、前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物のpHは10.944~11.639であり、前記アミノ酸の含有量は、前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物の全量に対して、0.001質量%~0.01質量%の範囲であり、前記還元性イオン水の含有量は、前記ウイルス不活性化用抗菌水用組成物の全量に対して、10~20質量%の範囲であることを特徴とするウイルス不活性化用抗菌水用組成物を用いて、ウイルスを不活性化することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のウイルス不活性化用抗菌水用組成物を用いたウイルスの不活性化方法の好ましい実施態様において、前記ウイルスは、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、又はPEDウイルスであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の抗菌水用組成物の好ましい実施態様において、pH調整剤を含有しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗菌水用組成物によれば、いわゆる防腐剤や殺菌剤を配合せず、抗菌性を有する抗菌水用組成物の提供が可能であるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様における抗菌水用組成物の効果の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様における抗菌水用組成物の効果の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施態様における抗菌水用組成物の効果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の抗菌水用組成物は、L-システイン、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン、又はこれらの塩類の少なくとも1種のアミノ酸を含有する抗菌水用組成物であって、前記抗菌水用組成物のpHは10.9以上、より好ましくは、11.5以上であることを特徴とする。これは、抗菌成分等の添加を望まない消費者に対して、いわゆる防腐・殺菌剤を配合せずに、抗菌作用を有する組成物を提供しようとするものである。なお、L-システイン及びその塩類は毛髪の保湿および柔軟性を保たせることが可能であり、L-アルギニン、L-リシン、L-ヒスチジン等は毛髪の損傷により毛髪から流出するため、添加することにより、アミノ酸成分を補充することも可能となる。
【0016】
このように、本発明においては、アルカリ度が極めて低いため塗布されたときに肌の中和能で瞬時に弱酸性になり、肌に刺激のない抗菌水とすることができる。したがって、肌に塗布される前は、pH10.9以上~pH11.5付近なので防腐剤を配合しなくても抗菌性のある抗菌水であり、肌に塗布されると瞬時に弱酸性(肌表面でpH6.0付近)になることを特徴の一つとすることができる。
【0017】
また、本発明の抗菌水用組成物の好ましい実施態様において、前記アミノ酸の含有量は、抗菌水用組成物の全量に対して、0.00001質量%~1.0質量%の範囲、より好ましくは、0.0001質量%~0.01質量%の範囲であることを特徴とする。かかる範囲としたのは、この程度の量であれば、抗菌性を有する組成物として効果を発揮し得るからである。
【0018】
本発明において、pH値の調整は、配合するアミノ酸の種類、配合量等により適宜調整可能である。一般に、炭酸ナトリウムの他、炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム等を含めpH調整剤を用いて調整することができるが、このようなpH調整剤の使用は、組成物のアルカリ度が高くなりpHを維持する力は強くなり、肌に塗布した場合は瞬時に弱酸性には戻りづらくなる傾向がある。
【0019】
したがって、かかる観点から、本発明の好ましい実施態様において、pH調整剤を含有しないことを特徴とする。
【0020】
また、本発明において、前記抗菌水用組成物のpHは10.9以上であるとしたのは、このようなpH値であれば、いわゆる防腐・殺菌成分を添加しなくても、多くの好アルカリ性微生物を排除することが可能だからである。
【0021】
また、本発明の抗菌水用組成物の好ましい実施態様において、さらに、還元性イオン水を含有することを特徴とする。上述のように、pH値の調整は、配合するアミノ酸の種類、配合量等により適宜調整可能であるが、配合するアミノ酸や配合量によっては、所望のpH値を達成できない虞もある。この場合には、還元性イオン水を使用することができる。還元イオン水は、電気分解され、アルカリ性を示す水とすることができる。例えば、還元イオン水としては、株式会社エー・アイ・システムプロダクトが製造販売するS-100等を挙げることができ、S-100は、、電気分解された高機能還元性イオン水で、化粧品表示名称は「水」、pH12±0.5のアルカリ性水である。
【0022】
また、本発明の抗菌水用組成物の好ましい実施態様において、抗菌水用組成物の全量に対して、前記還元性イオン水の含有量は、10質量%~90質量%の範囲、より好ましくは、10質量%~20質量%の範囲であることを特徴とする。
【実施例】
【0023】
以下では本発明の抗菌水用組成物の一例について実施例を用いて説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0024】
実施例1
まず、アルカリ性を呈し、防腐・殺菌成分を配合しない頭髪・肌の抗菌水用組成物の一例を試みた。アミノ酸の一例として、アルギニンを用いた。具体的に、精製水99.0質量%にL(+)―アルギニン(和光純薬工業(株)製)1.0%質量を配合して、アルカリ性水溶液を作成しpHを測定した。また、参照のため、精製水80.0質量%に電解還元性イオン水S-100((株)エー・アイ・システムプロダクト製)を20質量%配合し、アルカリ性水溶液を作成しpHを測定した。
【0025】
なお、pH測定には以下の機種及び電極を用いた。
pHメーターの機種:pH METER F-71((株)堀場製作所)
pHメーターの電極:#9615-10D((株)堀場製作所)
【0026】
実施例2
次に、精製水79.0質量%にS-100を20.0質量%、L-アルギニン1.0質量%を配合して、アルカリ性水溶液を作成し、実施例1と同様にpHを測定した。
【0027】
表1に、実施例1~2、参照例のpH測定値を示す。
【0028】
【0029】
表1の結果から参照例のpH測定値が一番高いことが判明した。
【0030】
実施例3~6
表1の結果をもとに、実施例1と同様の手順に従って、種々の調整例を作成した。表2は、本発明の一実施態様における抗菌水用組成物の成分例及び調整例を示す。
【0031】
【0032】
【0033】
実施例7
次に、アミノ酸として、L-ヒスチジンを用いて、かつ、種々の量の還元イオン水を用いて、上述の実施例の手順に従って、本発明の抗菌水用組成物を作成した。その結果を、表4に示す。
【0034】
【0035】
これらの結果、pH10.9以上の組成物を作成することができ、いわゆる防腐剤、殺菌剤を含むことなく、抗菌性を有する組成物を作成するできることが判明した。また、仮に、3種類の塩基性アミノ酸を同量配合する場合には、0.001%以下が好ましいことが判明した。
【0036】
また、本発明においては、炭酸ナトリウムの他、炭酸ソーダ、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤を使用していないので、アルカリ度が極めて低い組成物を提供することができるので肌に塗布されたときに肌の中和能で瞬時に弱酸性になり肌を刺激しないという有利な効果を奏する。さらに、本発明の組成物を頭髪に塗布した場合にはアルカリ性の時に毛髪への浸透性を高め、塩基性アミノ酸を補うことが可能であることが判明した。
【0037】
実施例8
次に、実際に、本発明の抗菌水用組成物について、各種ウイルスを用いて、当該ウイルスの不活性化効果を調べた。具体的に、本発明の抗菌水用組成物と、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、PEDウイルスとを反応させた時のウイルス不活化効果を確認した。対照資材として滅菌リン酸緩衝液を使用した。ウイルス不活化試験に使用した本発明の抗菌水用組成物の成分を、表5に示す。
【0038】
【0039】
供試微生物については、以下の通りである。
・インフルエンザウイルス:swine influenza virus H1N1 IOWA株、培養細胞: MDCK細胞 (イヌ腎臓由来株化細胞)
・ネコカリシウイルス:feline calicivirus F9 株、培養細胞: CRFK細胞 (ネコ腎臓由来株化細胞)※ノロウイルス代替
・PEDウイルス: Porcine epidemic diarrhea virus P-5V 株、培養細胞: vero細胞(アフリカミドリザルの腎臓上皮由来株化細胞)※豚感染性のコロナウイルス(新型コロナウイルス代替として)
【0040】
試験区等の設定については、試験区においては、以下の通りである。
処置:試験資材(本発明の抗菌水用組成物)1mLにウイルス液0.1mL添加
感作時間:試験開始後30分
【0041】
対照区においては、以下の通りである。
処置:リン酸緩衝液1mLにウイルス液0.1mL添加
感作時間:試験開始後 0分、 30 分
【0042】
試験方法については、「ウイルス実験学 総論 改訂二版 丸善株式会社 ウイルス中和試験法」を参考として実施した 。
【0043】
<試験 手順>
1)予備試験:
試験に先立って、試験資材が培養細胞に与える影響(細胞毒性)を調査した。試験資材をリン酸緩衝液で10倍段階希釈した後、培養細胞に接種し、培養後の細胞の正常な状態を示す最高濃度を確認し、試験に使用するウイルス濃度を決定した。その結果、細胞毒性について、MDCK細胞、CRFK細胞、vero細胞のいずれにおいても確認されなかった。この為、各ウイルス添加濃度は105 TCID50 /mL以上、検出限界は<101.5TCID50/mLとした。
【0044】
2)本試験・試験液混合:
試験区分に従い、試験資材及びリン酸緩衝液の各1mLをそれぞ分取し、予備試験で決定した濃度にウイルス液を添加した。ウイルス液添加後、混合液として室温(25℃)にて所定の時間静置した。
【0045】
3)本試験・細胞接種及び菌数測定:
試験区分ごとに感作が終了した混合液をそれぞれ10倍段階希釈し、96wellプレートに培養した細胞に100μLずつ接種した。判定は、37℃、炭酸ガス培養(5%)で5日間培養した後、インフルエンザウイルスの場合は、各ウェル内の培養上清を回収し、赤血球凝集反応によりウイルスの増殖の有無を確認し、その濃度を算出した。また、ネコカリシウイルス及び PEDウイルスの場合は、培養細胞を顕微鏡観察し、培養細胞に現れるCPE(細胞変性)をもってウイルス増殖の有無を確認し、その濃度を算出した。
【0046】
<結果>
1)インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスに対する試験結果を
図1にした。対照区では試験開始後から、30分までの間にウイルス量変化は見られなかった(10
8.1TCID
50/mL(130000000))。試験区では開始後30分で10
3.9TCID
50/mL(8000)(99.99%減少)となった。
【0047】
2)PEDウイルス
PEDウイルスに対する試験結果を
図2に示した。対照区では試験開始後から、30分までの間にウイルス量変化は見られなかった (10
8.1TCID
50/mL(130000000))。試験区では開始後30分で10
3.9TCID
50/mL(8000)(99.99%減少)となった。
【0048】
3)ネコカリシウイルス
ネコカリシウイルスに対する試験結果を
図3に示した。対照区では試験開始後から、30分までの間にウイルス量変化は見られなかった(10
6.7TCID
50/mL(5000000))。試験区では開始後30分で10
1.9TCID
50/mL(99.99%減少)となった。
【0049】
今回、試験資材のインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス及びPEDウイルスに対する不活化効果試験を実施した。その結果、試験資材(本発明の抗菌水用組成物)はインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、及びPEDウイルスに対して30分以上の反応で99.99%以上のウイルス不活化効果があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によると、防腐剤、殺菌剤を配合することなく、抗菌性を有することから、広い分野において産業上利用価値が高い。