(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】水素燃焼エンジンの燃焼制御方法、水素燃焼エンジン、及び水素燃焼エンジンを搭載した船舶
(51)【国際特許分類】
F02D 19/02 20060101AFI20241129BHJP
F02D 19/12 20060101ALI20241129BHJP
F02D 21/02 20060101ALI20241129BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20241129BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
F02D19/02 B
F02D19/12 A
F02D21/02
F02D21/08
F02D19/08 C
F02D19/02 F
(21)【出願番号】P 2021058407
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 泰久
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0087981(US,A1)
【文献】特開2016-130473(JP,A)
【文献】特開2004-190640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を燃焼して動作する水素燃焼エンジンにおける燃焼制御方法であって、
前記水素燃焼エンジンが燃焼室に空気を供給する過給機を有し、
前記過給機から供給される前記空気量を推定し、負荷を含む前記水素燃焼エンジンのエンジン状態を計測して制御を行うとともに、
前記水素を希薄燃焼する前記水素燃焼エンジンの
前記エンジン状態としての前記負荷が運
転中に増大
するときに、前記負荷の増大に対応した必要な空気量の推定結果と現在の空気量とから空気変動量を算出し、前記空気変動量と前記過給機の現在の運転状況とに基づいて前記過給機の応答性を考慮して前記空気量変動に対応できるかを判断し、前記過給機の前記運転状況における送風量が最大に近く設定され前記空気変動量に対応できずに前記必要な空気量が不足する場合に
、前記負荷に対応しつつ前記水素の異常燃焼を抑制するための燃焼制御を前記過給機の応答性を考慮して所定時間行う、
ことを特徴とする水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項2】
前記水素燃焼エンジンで、前記水素よりも燃焼速度が遅い補助燃料と前記水素とを比率
を制御して混焼する、
ことを特徴とする請求項1に記載の水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項3】
前記補助燃料として天然ガスを用いる、
ことを特徴とする請求項2に記載の水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項4】
前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記補助燃料の比率を増す制御を行う、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項5】
前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記燃焼室に水を供給する制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項6】
前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記水素燃焼エンジンの排気ガスを給気経路に戻すEGR率を増大させる制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項7】
前記過給機として他エネルギー源によるアシスト機能を付与し、前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記アシスト機能により前記空気量を確保する制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジンの燃焼制御方法。
【請求項8】
水素を燃焼して動作する水素燃焼エンジンであって、燃焼室と、前記燃焼室に前記水素を供給する水素供給手段と、前記燃焼室に空気を供給する過給機と、前記過給機から供給される前記空気の供給状態を推定する供給空気推定手段と、前記水素燃焼エンジンの負荷を含む前記
水素燃焼エンジンの状態を計測するエンジン状態計測手段と、前記供給空気推定手段による少なくとも空気量の推定結果と前記エンジン状態計測手段による少なくとも前記負荷の計測結果に基づいて前記水素燃焼エンジンの燃焼状態を制御する燃焼制御手段とを備え
、前記燃焼制御手段は、前記水素を希薄燃焼する前記水素燃焼エンジンの前記負荷が運転中に増大するときに、前記エンジン状態計測手段で計測された前記負荷の増大に対応した必要な空気量を推定し、前記必要な空気量の推定結果と前記供給空気推定手段で推定した現在の空気量とから空気変動量を算出し、前記空気変動量と前記過給機の現在の運転状況とに基づいて前記過給機の応答性を考慮して前記空気量変動に対応できるかを判断し、前記過給機の前記運転状況における送風量が最大に近く設定され前記空気変動量に対応できずに前記必要な空気量が不足する場合に、前記負荷に対応しつつ前記水素の異常燃焼を抑制するための燃焼制御を前記過給機の応答性を考慮して所定時間行う、
ことを特徴とする水素燃焼エンジン。
【請求項9】
前記燃焼室に前記水素よりも燃焼速度が遅い補助燃料を供給する補助燃料供給手段を備え、
前記燃焼制御手段が前記補助燃料と前記水素の供給比率を制御し混焼させることを特徴とする請求項
8に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項10】
前記補助燃料として天然ガスを用いることを特徴とする請求項
9に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項11】
前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記補助燃料の比率を増す制御を行うことを特徴とする請求項
9又は請求項
10に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項12】
前記燃焼室に水を直接又は間接的に供給する水供給手段を備え、前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記水供給手段を制御して前記燃焼室に水を供給する制御を行うことを特徴とする請求項
8から請求項
11のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項13】
前記燃焼室からの排気ガスを排気経路から給気経路へ戻すEGR経路を備え、前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記排気ガスを前記給気経路に戻すEGR率を増大させる制御を行うことを特徴とする請求項
8から請求項
12のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項14】
前記過給機が回転を補助するアシスト手段を有し、前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記
必要な空気量が不足する場合に、前記アシスト手段により前記
必要な空気量を確保する制御を行うことを特徴とする請求項
8から請求項
13のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項15】
前記燃焼制御手段は、前記水素の量と前記補助燃料の量と前記空気量から決まる空燃比を推定し、前記燃焼状態を制御することを特徴とする請求項
9、又は請求項
9を引用する請求項
10から請求項
14のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジン。
【請求項16】
請求項
8から請求項
15のいずれか1項に記載の水素燃焼エンジンを、船舶に搭載したことを特徴とする水素燃焼エンジンを搭載した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を燃焼して動作する水素燃焼エンジンにおける燃焼制御に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止や大気汚染防止等の環境保全の観点から、例えば、船舶においても国際海事機関(IMO)から排出物に対する環境規制が強化されてきている。従来、重油を燃焼することが主流であった船舶のエンジンにおいても、温室効果ガスの排出削減のために各種の取り組みがなされており、その中の1つとして水素燃焼エンジンがある。ここで、水素ガスは、通常使用される石油系燃料や天然ガスなどとは、最小点火エネルギーが小さく燃焼速度が高いなど、その性状が大きく異なっており、実用においては、各種の課題がある(特許文献1参照)。そこで、水素ガスを含め、複数の特性を有する燃料を単独で或いは混合して利用することについての提案もある(特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-130473号公報
【文献】特開2004-190640号公報
【文献】特開2016-133110号公報
【文献】特開2019-056324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、船舶用のエンジンなどの燃料として水素ガスを用いる場合、水素ガスは非常に燃焼速度が高いため、天然ガスなどの運転に比べて空気量を増大させ、希薄状態で燃焼させる必要がある。通常、過給機を用いて空気の供給量を増大させているが、エンジンの負荷が増加した場合に既に過給機風量が高いため風量の増大幅が小さく、その応答性能が比較的よくない。このため、エンジンの負荷が増大した場合に、空気の供給量が不足する場合も考えられ、その場合にはエンジンにおいて異常燃焼が発生する。
【0005】
本発明は、水素燃焼エンジンにおいて、負荷変動に対する応答性を改善し、空気量を適切なものに維持して、異常燃焼を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る水素燃焼エンジンの燃焼制御方法は、水素を燃焼して動作する水素燃焼エンジンにおける燃焼制御方法であって、前記水素燃焼エンジンが燃焼室に空気を供給する過給機を有し、前記過給機から供給される前記空気量を推定し、負荷を含む前記水素燃焼エンジンのエンジン状態を計測して制御を行うとともに、前記水素を希薄燃焼する前記水素燃焼エンジンの前記エンジン状態としての前記負荷が運転中に増大するときに、前記負荷の増大に対応した必要な空気量の推定結果と現在の空気量とから空気変動量を算出し、前記空気変動量と前記過給機の現在の運転状況とに基づいて前記過給機の応答性を考慮して前記空気量変動に対応できるかを判断し、前記過給機の前記運転状況における送風量が最大に近く設定され前記空気変動量に対応できずに前記必要な空気量が不足する場合に、前記負荷に対応しつつ前記水素の異常燃焼を抑制するための燃焼制御を前記過給機の応答性を考慮して所定時間行うことを特徴とする。
【0007】
前記水素燃焼エンジンで、前記水素よりも燃焼速度が遅い補助燃料と前記水素とを比率を制御して混焼するとよい。
【0008】
前記補助燃料として天然ガスを用いるとよい。
【0009】
前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記補助燃料の比率を増す制御を行うとよい。
【0010】
前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記燃焼室に水を供給する制御を行うとよい。
【0011】
前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記水素燃焼エンジンの排気ガスを給気経路に戻すEGR率を増大させる制御を行うとよい。
【0012】
前記過給機に他エネルギー源によるアシスト機能を付与し、前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記燃焼制御として前記アシスト機能により前記空気量を確保する制御を行うとよい。
【0014】
請求項8に係る発明は、水素を燃焼して動作する水素燃焼エンジンであって、燃焼室と、前記燃焼室に前記水素を供給する水素供給手段と、前記燃焼室に空気を供給する過給機と、前記過給機から供給される前記空気の供給状態を推定する供給空気推定手段と、前記水素燃焼エンジンの負荷を含む水素燃焼の状態を計測するエンジン状態計測手段と、前記供給空気推定手段による少なくとも空気量の推定結果と前記エンジン状態計測手段による少なくとも前記負荷の計測結果に基づいて前記水素燃焼エンジンの燃焼状態を制御する燃焼制御手段とを備え、前記燃焼制御手段は、前記水素を希薄燃焼する前記水素燃焼エンジンの前記負荷が運転中に増大するときに、前記エンジン状態計測手段で計測された前記負荷の増大に対応した必要な空気量を推定し、前記必要な空気量の推定結果と前記供給空気推定手段で推定した現在の空気量とから空気変動量を算出し、前記空気変動量と前記過給機の現在の運転状況とに基づいて前記過給機の応答性を考慮して前記空気量変動に対応できるかを判断し、前記過給機の前記運転状況における送風量が最大に近く設定され前記空気変動量に対応できずに前記必要な空気量が不足する場合に、前記負荷に対応しつつ前記水素の異常燃焼を抑制するための燃焼制御を前記過給機の応答性を考慮して所定時間行う、ことを特徴とする。
【0015】
前記燃焼室に前記水素よりも燃焼速度が遅い補助燃料を供給する補助燃料供給手段を備え、前記燃焼制御手段が前記補助燃料と前記水素の供給比率を制御し混焼させるとよい。
【0016】
前記補助燃料として天然ガスを用いるとよい。
【0017】
前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記補助燃料の比率を増す制御を行うとよい。
【0018】
前記燃焼室に水を直接又は間接的に供給する水供給手段を備え、前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記水供給手段を制御して前記燃焼室に水を供給する制御を行うとよい。
【0019】
前記燃焼室からの排気ガスを排気経路から給気経路へ戻すEGR経路を備え、前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記排気ガスを前記給気経路に戻すEGR率を増大させる制御を行うとよい。
【0020】
前記過給機が回転を補助するアシスト手段を有し、前記燃焼制御手段が、前記負荷が増大し前記必要な空気量が不足する場合に、前記アシスト手段により前記必要な空気量を確保する制御を行うとよい。
【0021】
前記燃焼制御手段は、前記水素の量と前記補助燃料の量と前記空気量から決まる空燃比を推定し、前記燃焼状態を制御するとよい。
【0022】
また、請求項17に係る船舶は、前記水素燃焼エンジンを、船舶に搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る水素燃焼エンジンの燃焼制御方法によれば、空気量が不足する場合に、水素の異常燃焼を抑制するための燃焼制御を過給機の応答性を考慮して所定時間行う。これによって、過給機により水素の希薄燃焼のための空気を十分に供給できない場合に対応することができる。
【0024】
水素燃焼エンジンで、水素よりも燃焼速度が遅い補助燃料と水素とを混焼させることで、空気の量を増加することなく、又は空気の増加率を大きくすることなく負荷の増加に対応することができる。補助燃料としては、天然ガスが好適である。
【0025】
空気量が不足する場合に、補助燃料の比率を増すことで、希薄燃焼のための適正な空燃比を維持することができる。
【0026】
空気量が不足する場合に、燃焼室に水を供給することで、燃焼室を冷却しバックファイア等の異常燃焼を抑制することができる。
【0027】
空気量が不足する場合に、水素燃焼エンジンの排気ガスを給気経路に戻すEGR率を増大させることで、酸素濃度が低い状態での燃焼によって燃焼温度を下げて異常燃焼を抑制することができる。
【0028】
過給機にアシスト機能を付与することで、空気の供給量が不足する場合に過給機をアシストし、空気量を確保することができる。
【0029】
燃焼制御は、過給機から供給される空気量を推定し、水素燃焼エンジンのエンジン状態を計測して制御を行うことで、エンジン状態に合った適切な空燃比を維持することが可能となる。
【0030】
請求項9に係る発明によれば、供給空気推定手段により推定した供給空気推定手段と、エンジン状態計測手段により計測した負荷等に基づいて、燃焼制御手段が水素燃焼エンジンの燃焼状態を制御することで、負荷等のエンジン状態が変動してもエンジンの燃焼状態を適切なものに制御することができる。
【0031】
補助燃料供給手段により、水素よりも燃焼速度が遅い補助燃料を供給することで、補助燃料と水素の供給比率を制御して空燃比を効果的に制御することができる。補助燃料としては天然ガスが好適である。
【0032】
燃焼制御手段が、空気量が不足する場合に、補助燃料の比率を増すことで、希薄燃焼のための適切な空燃比制御が行える。
【0033】
水供給手段により、前記燃焼室に水を直接又は間接的に水を供給することで、燃焼室を冷却しバックファイア等の異常燃焼を抑制することができる。
【0034】
空気量が不足する場合に、EGR率を増大させることにより、酸素濃度が低い状態での燃焼によって燃焼温度を下げて異常燃焼を抑制することができる。
【0035】
過給機が回転を補助するアシスト手段により、空気の供給量が不足する場合に過給機をアシストし、過給機の送風量をアシストすることで必要な空気量を確保することができる。
【0036】
燃焼制御手段が、水素の量と補助燃料の量と空気量から決まる空燃比を推定し、燃焼状態を制御することで、負荷変動等に対応することができる。
【0037】
上述のような水素燃焼エンジンを船舶に搭載することにより、船舶からの排出物の規制強化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】水素燃焼エンジンを含むシステムの構成を示す図である。
【
図2】燃焼制御手段76における天然ガス混合の処理の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0040】
図1は、水素ガス(以下、単に水素という)を燃焼させるエンジン10を含む水素燃焼エンジンの構成を示す図である。なお、本実施形態における水素燃焼エンジンは、船舶に搭載することが好適である。
【0041】
エンジン10はシリンダ10a、ピストン10bを有し、ピストン10bの上下動がクランクを介し出力軸の回転として出力される。シリンダ10a内のピストン10bの上側が燃焼室10dであり、燃焼室10dの上部(シリンダ10aの上壁)には、給気弁10e、排気弁10fが設けられている。給気弁10eは、給気管12を介し給気マニホールド14に接続され、排気弁10fは、排気管16を介し排気マニホールド18に接続されている。なお、エンジン10はシリンダ10a、ピストン10b、燃焼室10d等を有した多気筒エンジンとして構成される。
【0042】
給気マニホールド14は、インタークーラ20、スロットルメイン22を介し過給機30のコンプレッサ30cに接続され、排気マニホールド18は、過給機30のタービン30tに接続されている。従って、排気マニホールド18からの排気によって、タービン30tが回転されてコンプレッサ30cが駆動され、コンプレッサ30cによって吸い込まれ加圧された空気がスロットルメイン22で流量調整、インタークーラ20で冷却されて、給気マニホールド14を介しエンジン10に供給される。
【0043】
給気管12には、水素インジェクタ40、水インジェクタ42、補助燃料インジェクタ44が配置されている。水素インジェクタ40が水素供給手段、水インジェクタ42が水供給手段、補助燃料インジェクタ44が補助燃料供給手段として機能する。
【0044】
水素インジェクタ40は、水素ボンベ46からの水素ガスを給気管12内に供給する。水インジェクタ42は、水を給気管12内に供給し、補助燃料インジェクタ44は、補助燃料を給気管12内に供給する。補助燃料としては、天然ガス、都市ガス、LPG、メタノールなどの水素に比べ、燃焼速度が遅いものが採用され、天然ガスが特に好適である。なお、水素インジェクタ40、水インジェクタ42、補助燃料インジェクタ44は、水素、水、補助燃料を直接または間接的に燃焼室10cに供給できれば、設置場所は問わない。すなわち、水素インジェクタ40、水インジェクタ42、補助燃料インジェクタ44は、給気管12に設け間接的に水素、水、補助燃料を供給してもよいし、燃焼室10dに設け直接的に水素、水、補助燃料を供給してもよく、間接的な供給と直接的な供給を組み合わせることもできる。また、水、補助燃料の供給は、どちらかに限ることもできる。なお、
図1においては、補助燃料はコンプレッサ80を介し、補助燃料インジェクタ44に供給される。
【0045】
シリンダ10aの頂部には、副室50の下端が接続されている。この副室50には、点火プラグ50aが設けられるとともに、燃料供給弁50bを介し補助燃料が供給されるようになっている。すなわち、エンジン10は副室火花点火方式をとっており、副室50における燃焼に基づいて主室である燃焼室10dの混合気に点火する。なお、副室50にも水素、水、補助燃料を任意に選んで供給できるし、副室50有しない構成、点火プラグ50a有さずに圧縮着火を行う構成も採用が可能である。
【0046】
また、本実施形態では、過給機30からの排気の一部を給気経路に循環するEGR(Exhaust Gas Recirculation)経路を有している。すなわち、タービン30tからの排気の一部は、油分凝縮クーラ52で油分除去、EGRクーラ54で水分除去された後、EGRブロア56、EGRスロットル58により風量調整されてコンプレッサ30cに戻され、スロットルメイン22、インタークーラ20を介し、給気マニホールド14に循環される。すなわち、排気ガスが所定の温度のガスとして、給気マニホールド14に循環される。また、過給機30のコンプレッサ30cには、アシスト手段68が設けられ、送風をアシストするアシスト機能が付与さている。このアシスト手段68はコンプレッサ30cの送風を他エネルギー源を利用する動力でアシストするもので、例えば電動アシスト手段(電動モータ)や油圧アシスト手段で構成される。従って、アシスト手段68を駆動することで、コンプレッサ30cの送風量を制御することが可能となる。なお、給気マニホールド14、給気管12、排気管16、燃焼室10dについて圧力を検出する圧力計を設け、各所の圧力を計測するとよい。
【0047】
EGRクーラ54において排気ガスを冷却することによって得られたEGR凝縮水は、水精製装置60に供給され、ろ過、イオン交換、軟水化などの処理が行われ、不純物が除去された精製水が噴射水タンク62に供給される。噴射水タンク62内の精製水は、循環ポンプ64により水精製装置60に循環されることで、必要な生成処理が行われるとともに、水ポンプ66によって、必要量だけ水インジェクタ42に供給され、給気管12内の給気に噴射される。なお、噴射水タンク62内の水質を水質監視部78で監視し、循環ポンプ64の循環量を制御するようになっている。
【0048】
なお、噴射水タンク62に供給される水は、EGR凝縮水以外にも予め準備した水や、海水を精製した水等が利用可能である。
【0049】
過給機30の状態を検出するセンサ70の出力は、供給空気推定手段72に送られ、ここでエンジンの空気の供給状態(給気量)が検出される。過給機30から供給される給気量の推定は、センサ70で過給機30の回転数や排気温度を検出すること、又はセンサ70で過給機30の掃気圧力や排気圧力、また掃気温度を検出すること等により既知の方法を用いて推定が可能である。
【0050】
また、エンジン10の回転数は、センサ74によって検出され、検出信号が燃焼制御手段76に供給され、供給空気推定手段72で得られた推定供給空気量は燃焼制御手段76に供給される。なお、センサ74がエンジン状態計測手段として機能し、その計測結果が燃焼制御手段76に供給される。また、センサ74にトルクセンサも含むこともできる。また、エンジン状態計測手段としては、バックファイア等の異常燃焼を検出する紫外光のフォトセンサを含むこともでき、さらにセンサ値としてエンジンの回転数や燃料量等を検出して、エンジンの複数のパラメータを推定するカルマンフィルタを用いたエンジン状態観測器等も利用が可能である。
【0051】
燃焼制御手段76には、供給空気推定手段72の推定結果である推定供給空気量が供給されている。なお、供給空気推定手段72、燃焼制御手段76は、基本的にコンピュータで構成され、1つのコンピュータで構成してもよい。
【0052】
燃焼制御手段76にはエンジン10の回転数についての出力指令が設定されており、この出力指令に応じてエンジン10の燃焼状態を制御する。すなわち、設定されたエンジン回転数、エンジン回転数により決まる燃料供給量、燃料供給量により決まる供給空気量を制御する。設定されたエンジン回転数は、センサ74で検出されるエンジン10の回転数と比較され、その偏差に応じて燃料供給量と供給空気量が制御される。燃焼制御手段76は、主燃料としての水素の供給量を水素インジェクタ40により制御することでエンジン10の給気中の水素ガスの供給量を制御する。また、EGRスロットル58、アシスト手段68を制御することでも供給空気量を制御し、水インジェクタ42、補助燃料インジェクタ44を制御することで、エンジン10の給気中への水、補助燃料の供給量を制御する。
【0053】
「燃焼の制御」
本実施形態においては、供給空気推定手段72において、エンジン10への供給空気量を推定する。まず、センサ70の検出値に応じて、コンプレッサ30cの回転数を特定する。コンプレッサ30cには、各種の形式のものがあるが、過給機30のコンプレッサ30cは、タービン30tの回転を伝える回転軸の回転により羽根を回転させ空気を圧縮排出するものであり、その回転軸の回転数と送風量には一定の関係がある。そこで、これらの関係を記憶しておき、回転数から送風量を推定するとよい。センサ70で過給機30の回転数に加え排気温度を検出すること、又はセンサ70で過給機30の掃気圧力や排気圧力、また掃気温度を検出すること等により、より正確に送風量を推定することができる。
なお、スロットルメイン22,EGRスロットル58の開度情報を参照したり、各部の圧力、特に給気管12内の圧力も参照したりするとよい。
【0054】
ここで、水素は非常に燃焼速度が高い。最高燃焼速度は、メタンの37-38cm/sec程度、一方水素では270-290cm/secといわれている。
【0055】
このため、エンジン10でのノッキングやプレイグニッションによる異常燃焼を防止するためには、エンジン10に供給する給気量(空気量)を大きくして燃料に対する空気の比率を大きくし水素を希薄燃焼する必要がある。ところが、過給機30における空気供給量を大きく設定していると、スロットルメイン22、EGRスロットル58などの開度による流量の変化が比較的小さくなってしまう。そこで、エンジン10の負荷が大きくなり、空気量を増大したいときに、空気量の増大が間に合わず、異常燃焼が発生しやすい。
【0056】
本実施形態では、このような場合に、補助燃料として天然ガスを供給する。これによって、必要とする空気量が少なくなり、異常燃焼の発生を防止することができる。すなわち、過給機30の送風量に遅れがあっても、適切な空燃比(空気過剰率)を維持することが可能となる。さらに、過給機30における送風量を最大に近く設定して運転すると、長時間の運転の場合に増量に限りがある問題が生じる。従って、このような場合においても、水素に補助燃料を混合し、燃焼室10cにおいて混焼させることが好適である。
【0057】
また、この状態において、過給機30の送風量を増大するよう制御し、実際に送風量が増大してきた場合に天然ガスの供給量を減少する。このようにして、燃焼制御手段76が必要空気量の変動に追従して水素と天然ガスの供給比率を制御することで、常に適切な空燃比を維持することができ、過給機30の風量に頼らず、空燃比制御が行える。言い換えると、水素と天然ガスの混合比を制御することで、失火領域とノッキング領域の境界の位置を制御し、異常燃焼の発生しない適切な空気過剰率(空燃比)を維持する。
【0058】
図2は、燃焼制御手段76における天然ガス混合の処理の一例を説明するフローチャートである。
【0059】
まず、エンジン10に対する運転指令(例えば、船舶の加速、減速指令・・ガバナ指令)から、エンジン10の出力要求を取り込む(S11)。そして、出力要求に見合う運転について必要水素量、空気量、天然ガス量計算する(S12)。この場合、天然ガス量は0を基本としてよい。一方、出力要求に対し、最適な水素量、空気量、天然ガス量のマップを用意しておき、天然ガス量も含めて必要量を算出してもよい。また、運転指令は変えなくとも船舶の場合、風向、風速や波浪の変化による負荷変動に対して、適した水素量、空気量、天然ガス量も同様に算出してもよい。
【0060】
次に、現在の運転状況(水素量、空気量、天然ガス量)を取り込み(S13)、S12で算出した必要量との比較において、空気量の変動量を計算する(S14)。そして、算出された空気量の変動量が、変動の大きさ、現在風量を考慮して、十分な応答性で可能な量か否かを判定する(S15)。例えば、負荷が増大した場合に、それに応答した水素量の増加に空気量が追いつけるかを判定する。
【0061】
S15の判定でNOの場合には、過給機30の風量変更で空燃比を適切に維持できない。そこで、天然ガスを混合することで適切な空燃比を維持する。このため、空気量を変更することなく、空燃比を維持するための、水素量、天然ガス量を計算する(S16)。すなわち、要求出力に見合った出力が得られることを前提に、燃料の一部を必要空気量の大きな水素から必要空気量の小さな天然ガスに変更する。なお、天然ガス量については、最小量を決定しておき、必ずそれ以上の量として、水素量、空気を調整してもよい。なお、すでに天然ガスを混合している場合には、この制御によって天然ガスの比率を増す制御になる。
【0062】
S15の判定でYESの場合には、天然ガス量が減少可能かを判定する(S17)。水素100%で運転している場合には、この判定はNOになり、天然ガスを最適量(0を含む)以上に混合して運転している場合には、通常YESとなる。ここで、上述したように、過給機30の風量変更には所定のタイムラグがある。そこで、S17の判定では、過給機30の応答時間に対応した所定時間が経過したことを考慮するとよい。また、ただし、制御の都合でハンチング等を防止するために、制御についてヒステリシスを設けてもよい。
【0063】
S17の判定おいてYESの場合、変更した天然ガス量で、水素量、空気量を再計算する(S18)。S16,S18の再計算が終了した場合、およびS17の判定においてNOの場合には、求められた水素量、空気量、天然ガス量に決定し、これらの量を制御する(S19)。
【0064】
このようにして、エンジン10の出力を負荷変動などに応答して変更する場合において、水素量の変更では、空燃比が維持できない場合に、天然ガスを供給することで空燃比を維持しつつ出力を制御することができる。
【0065】
「水噴射」
本実施形態においては、EGR凝結水を用いた水噴射システムを有し、給気に水を噴射する水インジェクタ42を有している。そこで、この水インジェクタ42からの水噴射によって、異常燃焼を抑制する。すなわち、エンジン10の負荷が増大し、空気量が不足する場合に、上述のように天然ガスを混合するが、その他に燃焼室に水を供給することで、燃焼を抑制する。なお、水噴射システムは、他の方法と組み合わせても単独でも利用ができる。
【0066】
「EGR経路」
本実施形態においては、排気経路からの排気ガスを給気経路に戻すEGR経路を有している。すなわち、タービン30tからの排気の一部は、油分凝縮クーラ52で油分除去、EGRクーラ54で水分除去された後、EGRブロア56、EGRスロットル58により風量調整されてコンプレッサ30cに戻される。このEGR経路により排気を循環することで、エンジン10の自着火時期を遅角することができる。そこで、EGR経路の循環率(EGR率)を制御することで異常燃焼を抑制することができる。すなわち、エンジン10の負荷が増大し、空気量が不足する場合に、EGRの循環量を増加する。なお、EGRの利用は、単独でも他の方法と組み合わせても利用ができる。
【0067】
「アシスト手段」
本実施形態においては、アシスト手段68を有しており、アシスト手段68の駆動によって、空気量を増大することができる。例えば、アシスト手段68を電動モータにより構成し、必要な空気量を確保すべく電動モータを制御することができる。電動モータは比較的応答性がよいため、コンプレッサ30cの能力に余裕があれば、要求に追従して空気量を制御することが可能になる。なお、アシスト手段68の利用も、単独でも他の方法と組み合わせても利用ができる。
【0068】
「インジェクタ」
本実施形態では、水素と天然ガスを給気管12の内部にて混合した。混合箇所は、ここに限らず上流で混合して、1つのインジェクタで噴射してもよい。ただし、この場合は、上流側での混合であり、燃焼室での混合比が変更されるまでの時間が必要であり、本実施形態に比べ、混合比制御にラグが生じることになる。
【0069】
また、天然ガスの専焼運転ができるようにすると、大きな天然ガスインジェクタの設置が必要になる。この場合、水素運転時に天然ガスを少量噴射することで、制御する場合には、天然ガスインジェクタの噴射下限が問題になる可能性がある。そこで、水素/天然ガス混合インジェクタと、小型の天然ガスインジェクタの組み合わせることもできる。
【0070】
さらに、天然ガスインジェクタとして、大型のものと、小型のものを用意し、天然ガス供給量の大きな変動を可能とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、水素を燃焼させる船舶や移動体の水素燃焼エンジン、また陸上用の水素燃焼エンジン等、陸舶産業分野の水素燃焼エンジンに幅広く利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 エンジン、10d 燃焼室、12 給気管、14 給気マニホールド、14 給気管、16 排気管、18 排気マニホールド、30 過給機、30c コンプレッサ、30t タービン、40 水素インジェクタ(水素供給手段)、42 水インジェクタ(水供給手段)、44 補助燃料インジェクタ(補助燃料供給手段)、62 噴射水タンク、68 アシスト手段、72 供給空気推定手段、74 センサ(エンジン状態計測手段)、76 燃焼制御手段。