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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】電池の健康状態の推定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20241129BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20241129BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241129BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/367
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024158288
(22)【出願日】2024-09-12
【審査請求日】2024-09-12
(31)【優先権主張番号】202410740853.2
(32)【優先日】2024-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521017642
【氏名又は名称】山東大学
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.17923, Jingshi Road, Lixia District Jinan, Shandong 250061, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 凱龍
(72)【発明者】
【氏名】彭 ▲チー▼奥
(72)【発明者】
【氏名】方 旌揚
(72)【発明者】
【氏名】張 承慧
(72)【発明者】
【氏名】崔 納新
(72)【発明者】
【氏名】楊 暁光
(72)【発明者】
【氏名】戴 海峰
(72)【発明者】
【氏名】林 偉杰
(72)【発明者】
【氏名】杜 冠浩
(72)【発明者】
【氏名】潘 亜梁
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179266(WO,A1)
【文献】特開2023-7980(JP,A)
【文献】特開2018-55402(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113138340(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115267557(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112327171(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114137429(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112816895(CN,A)
【文献】国際公開第2024/122165(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/128174(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36
H02J7/00
H01M10/48
H01M10/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)被試パワー電池の異なる作業状況でのエージングサイクル試験結果を取得し、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルを抽出するステップと、
(2)前記電池インピーダンススペクトルの緩和時間分布曲線を正則化法により計算し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算するステップと、
(3)電池インピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の周波数セグメントのインピーダンスの
【数44】
を入力として、計算された緩和時間分布曲線を出力として、トレーニングセットを構築するステップと、
(4)トレーニングセットに基づいて、選択された回帰予測モデルに対してオフライントレーニングを行うステップと、
(5)計算された緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗を得て、分極抵抗と健康状態との数学的関係式を確立するステップと、
(6)現在の電池周波数セグメントのインピーダンスを取得し、トレーニング済の回帰予測モデルによって緩和時間分布曲線を予測してから、予測された緩和時間分布曲線を平滑化し、分極抵抗と健康状態との数学的関係式に基づいて、電池の健康状態を推定するステップと、を含み、
前記ステップ(2)は、具体的に、
インピーダンススペクトルに対して正則化法によりデコンボリューション計算を行い、緩和時間分布曲線を得るように、電池インピーダンススペクトルに対して緩和時間分布関数を計算することと、
電池の反応メカニズム及び幾何学的曲線の角度に基づいて、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーを特徴として、ピークとバレーボトムの横軸における対応する時定数を記録することと、
前記時定数に基づいて、インピーダンススペクトルにおける対応する周波数を計算し、時間スケール表現から再び周波数領域表現に変換し、インピーダンススペクトルにおける各特徴周波数を見つけ、計算された周波数がインピーダンススペクトルで設定されたテスト範囲内にない場合、インピーダンススペクトルのテスト範囲内の最も近い周波数点に置き換えることと、
計算された周波数に最も近い実験周波数とその左右のi個の実験周波数によって周波数セグメントfl+2iを形成することで、緩和時間の予測時に対する様々な干渉の影響を回避し、予測精度とテスト時間の要求に応じて変数iを柔軟に調整し、各周波数セグメントfl+2i及び対応するインピーダンスセグメントZl+2iの長さを変更することと、を含み、
前記ステップ(3)は、具体的に、
緩和時間分布の周波数範囲及びサンプリング密度に従って、モデルによって出力された各緩和時間分布曲線のサンプリング点の総数NDRTを確定し、各サンプリング点の対応する緩和時間τDRTを計算することと、
測定されたインピーダンスと緩和時間のデータを正規化することと、
正規化した後、インピーダンスデータと緩和時間データを次元削減し、S+S個のインピーダンスセグメントの
【数45】
で構成される2次元データ配列[SP+V(l+2i),2]を1次元シーケンス[2SP+V(l+2i),l]に変換した後、該変換された1次元シーケンスをモデルの入力シーケンスとして、緩和時間分布関数g(τ)によって計算されたNDRT個の抵抗値
【数46】
から成る1次元データ配列
【数47】
をモデルの出力シーケンスとして、共同で回帰予測モデルのトレーニングセットを構成することと、を含み、
前記ステップ(5)は、具体的に、
緩和時間分布関数g(τ)のS個のピークを積分してS個の異なる分極抵抗を得ることで、共同で電池の健康状態を反映することと、
電池緩和時間分布曲線におけるS個のピークの分極抵抗と健康状態との数学的関係に従って、異なる温度と荷電状態での線形の数学的表現式を確立することと、
個のピークの分極抵抗
【数48】
を独立変数として、電池の健康状態を従属変数として、各タイプの電池の異なる作業状況でのエージングサイクルのデータセットを確立することと、
電池の健康状態の表現式におけるパラメーターを最小二乗法によりフィッティングすることにより、電池緩和時間分布曲線における分極抵抗に基づく健康状態の最適な数学的表現式を得ることと、を含み、
前記ステップ(6)は、具体的に、
+S個の周波数セグメントのインピーダンス値を測定し、トレーニング済の回帰予測モデルを入力し、トレーニング済の回帰予測モデルによって、電池の現在の完全な緩和時間分布曲線DRTpreを予測してから、平滑化することと、
予測された緩和時間分布曲線DRTpreにおけるS個の分極抵抗
【数49】
を計算し、分極抵抗と電池の健康状態との表現式に基づいて電池の健康状態を得ることと、を含む
ことを特徴とする、電池の健康状態の推定方法。
【請求項2】
前記ステップ(1)は、具体的に、
被試パワー電池に対してエージングサイクル試験を行い、電池の充放電終了後のたびに、設定された荷電状態及び温度の間隔で電池インピーダンススペクトルと容量を測定し、異なる状態での電池インピーダンススペクトルと健康状態が1対1に対応付けられたデータベースを生成することと、
電池のインピーダンススペクトルを収集する前に、インピーダンススペクトルの周波数範囲とサンプリング密度を確定し、単一のインピーダンスサンプリング点について、実際に測定されたインピーダンスの周波数、位相角、及び振幅値を記録することと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電池の健康状態の推定方法。
【請求項3】
K-K変換検証によって、取得された電池インピーダンススペクトルの妥当性を検証し、妥当性検証に合格したインピーダンススペクトルを最終的に収集されたインピーダンススペクトルとして選択して、緩和時間分布の計算を行うことを特徴とする、請求項2に記載の電池の健康状態の推定方法。
【請求項4】
前記ステップ(4)は、具体的に、
インピーダンスセグメントと緩和時間との非線形マッピング関係に従って、回帰予測モデルModelDRTを選択することと、
インピーダンスセグメントと緩和時間分布曲線で構成されるトレーニングセットによって、選択された回帰予測モデルModelDRTをトレーニングし、モデルパラメータを識別し、且つ識別中に、正則化法により異なる緩和時間が得られた実際の抵抗値
【数50】
とモデルで予測された抵抗値
【数51】
との間の誤差を計算することと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電池の健康状態の推定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に基づく電池の健康状態の推定システムであって、
被試パワー電池の異なる作業状況でのエージングサイクル試験結果を取得し、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルを抽出するためのデータ取得モジュールと、
前記電池インピーダンススペクトルの緩和時間分布曲線を正則化法により計算し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算するための周波数セグメント計算モジュールと、
電池インピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の周波数セグメントのインピーダンスの
【数52】
を入力として、計算された緩和時間分布曲線を出力として、トレーニングセットを構築するためのトレーニングセット構築モジュールと、
トレーニングセットに基づいて、選択された回帰予測モデルに対してオフライントレーニングを行うためのモデルトレーニングモジュールと、
計算された緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗を得て、分極抵抗と健康状態との数学的関係式を確立するためのフィッティングモジュールと、
現在の電池周波数セグメントのインピーダンスを取得し、トレーニング済の回帰予測モデルによって緩和時間分布曲線を予測し、予測された緩和時間分布曲線を平滑化し、分極抵抗と健康状態との数学的関係式に基づいて、電池の健康状態を推定するための推定モジュールと、
を含むことを特徴とする、電池の健康状態の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の健康状態の推定の技術分野に属し、電池の健康状態の推定方法及びシステムに関し、具体的には、緩和時間分布予測に基づく電池の健康状態の推定方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本部分の記述は、単なる本発明に関する背景技術の情報を提供するためのものであり、必ずしも従来技術を構成するものではない。
【0003】
電気自動車及びエネルギー貯蔵システムの実際の応用において、電池管理システムによって電池状態に対する迅速及び正確な監視を実現することは非常に重要である。電気化学インピーダンススペクトルは、電圧や電流などの時間領域信号よりも、より多くの動力学的情報と材料界面構造情報を提供できるため、電池の健康状態評価に対する判断基準とすることで、電池管理システムの電池状態に対する監視能力を向上させることができる。
【0004】
現在、インピーダンススペクトルは、電池の検出及び研究開発の分野で広く使用されており、電池のインピーダンス情報に基づいて健康状態を推定する方法としては、主に次のタイプがある。
【0005】
1)等価回路又は数学的モデルによってインピーダンススペクトルをフィッティングし、等価回路におけるコンポーネントパラメーター又は数学的モデルにおける関連パラメーターを特徴として、電池の健康状態を推定する。ただし、モデルは、計算が複雑であり、計算量が多いため、オンラインでの使用には適していない。
【0006】
2)データ駆動に基づく方法によって、インピーダンススペクトルにおける特定の周波数でのインピーダンスを特徴として電池の健康状態を推定する。このような方法は、自己適応能力が低く、ノイズに敏感で、作業状況によっては大きな誤差が発生しやすい。
【0007】
3)インピーダンススペクトルに対してデコンボリューション演算を行い、電池の緩和時間分布を得て、緩和時間分布曲線におけるピーク値、ピーク面積などを特徴として、電池の健康状態を推定する。ただし、通常の緩和時間の計算方法は非常に複雑で、広い周波数領域でインピーダンスデータを高密度に収集する必要があり、多大な実験コストと時間コストがかかる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、電池の健康状態の推定方法及びシステムを提案する。本発明は、複数の特定の周波数帯域における電池のインピーダンスを取得することによって、電池の現在の状態での緩和時間分布を予測し、予測された緩和時間分布に従って、電池の該サイクルにおける健康状態を正確かつ迅速に推定する。本発明は、リアルタイムかつ正確な電池の健康状態に対する監視を低コスト、高正確性で実現することができ、電池の信頼性、安全性及び耐久性の向上に大きな意義がある。
【0009】
いくつかの実施例によれば、本発明は以下の技術方案を採用する。
【0010】
(1)被試パワー電池の異なる作業状況でのエージングサイクル試験結果を取得し、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルを抽出するステップと、
(2)前記電池インピーダンススペクトルの緩和時間分布曲線を正則化法により計算し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算するステップと、
(3)電池インピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の周波数セグメントのインピーダンスの
【数1】
を入力として、計算された緩和時間分布曲線を出力として、トレーニングセットを構築するステップと、
(4)トレーニングセットに基づいて、選択された回帰予測モデルに対してオフライントレーニングを行うステップと、
(5)計算された緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗を得て、分極抵抗と健康状態との数学的関係式を確立するステップと、
(6)現在の電池周波数セグメントのインピーダンスを取得し、トレーニング済の回帰予測モデルによって緩和時間分布曲線を予測し、予測された緩和時間分布曲線を平滑化してから、分極抵抗と健康状態との数学的関係式に基づいて、電池の健康状態を推定するステップと、を含む、
電池の健康状態の推定方法。
【0011】
選択可能な実施形態として、前記ステップ(1)は、具体的に、
被試パワー電池に対してエージングサイクル試験を行い、電池の充放電終了後のたびに、設定された荷電状態及び温度の間隔で電池インピーダンススペクトルと容量を測定し、異なる状態での電池インピーダンススペクトルと健康状態が1対1に対応付けられたデータベースを生成することと、
電池のインピーダンススペクトルを収集する前に、少なくともインピーダンススペクトルの周波数範囲とサンプリング密度を確定するが、これらに限定されない。単一のインピーダンスサンプリング点について、実際に測定されたインピーダンスの周波数、位相角、及び振幅値を記録することと、を含む。
【0012】
さらに、K-K変換検証によって、取得された電池インピーダンススペクトルの妥当性を検証し、妥当性検証に合格したインピーダンススペクトルを最終的に収集されたインピーダンススペクトルとして選択して、緩和時間分布の計算を行う。
【0013】
選択可能な実施形態として、前記ステップ(2)は、具体的に、
インピーダンススペクトルに対してデコンボリューション計算を正則化法により行い、緩和時間分布曲線を得るように、電池インピーダンススペクトルに対して緩和時間分布関数を計算することと、
電池の反応メカニズム及び幾何学的曲線の角度に基づいて、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーを特徴として、ピークとバレーボトムの横軸における対応する時定数を記録することと、
前記時定数に基づいて、インピーダンススペクトルにおける対応する周波数を計算し、時間スケール表現から再び周波数領域表現に変換し、インピーダンススペクトルにおける各特徴周波数を見つけ、計算された周波数がインピーダンススペクトルで設定されたテスト範囲内にない場合、インピーダンススペクトルのテスト範囲内の最も近いテスト周波数点に置き換えることと、を含む。
【0014】
さらに、計算された周波数に最も近い実験周波数とその左右のi個の実験周波数によって周波数セグメントfl+2iを形成することで、緩和時間の予測時に対する様々な干渉の影響を回避し、予測精度とテスト時間の要求に応じて変数iを柔軟に調整し、各周波数セグメントfl+2i及び対応するインピーダンスセグメントZl+2iの長さを変更する。
【0015】
選択可能な実施形態として、前記ステップ(3)は、具体的に、
緩和時間分布の周波数範囲及びサンプリング密度に従って、モデルによって出力された各緩和時間分布曲線のサンプリング点の総数NDRTを確定し、各サンプリング点の対応する緩和時間τDRTを計算することと、
測定されたインピーダンスと緩和時間のデータを正規化することと、
正規化した後、インピーダンスデータと緩和時間データを次元削減し、S+S個のインピーダンスセグメントの
【数2】
で構成される2次元データ配列[SP+V(l+2i),2]を1次元シーケンス[2SP+V(l+2i),l]に変換した後、該変換された1次元シーケンスをモデルの入力シーケンスとして、緩和時間関数g(τ)によって計算されたNDRT個の抵抗値
【数3】
から成る1次元データ配列
【数4】
をモデルの出力シーケンスとして、共同で回帰予測モデルのトレーニングセットを構成することと、を含む。
【0016】
選択可能な実施形態として、前記ステップ(4)は、具体的に、
インピーダンスセグメントと緩和時間との非線形マッピング関係に従って、回帰予測モデルModelDRTを選択することと、
インピーダンスセグメントと緩和時間分布曲線で構成されるトレーニングセットによって、選択された回帰予測モデルModelDRTをトレーニングし、モデルパラメータを識別し、且つ識別中に、正則化法により異なる緩和時間が得られた実際の抵抗値
【数5】
とモデルで予測された抵抗値
【数6】
との間の誤差を計算することと、を含む。
【0017】
選択可能な実施形態として、前記ステップ(5)は、具体的に、
緩和時間分布関数g(τ)のS個のピークを積分してS個の異なる分極抵抗を得ることで、共同で電池の健康状態を反映することと、
該タイプの電池緩和時間分布曲線におけるS個のピークの分極抵抗と健康状態(SOH)との数学的関係に従って、異なる温度と荷電状態(SOC)での線形の数学的表現式FSOHを確立することと、
個のピークの分極抵抗
【数7】
を独立変数として、電池の健康状態SOHを従属変数として、各タイプの電池の異なる作業状況でのエージングサイクルのデータセットを確立することと、
電池の健康状態の表現式FSOHにおけるパラメーターを最小二乗法によりフィッティングすることにより、電池緩和時間分布曲線における分極抵抗に基づくSOHの最適な数学的表現式を得ることと、を含む。
【0018】
選択可能な実施形態として、前記ステップ(6)は、具体的に、
+S個の周波数セグメントのインピーダンス値を測定し、トレーニング済の回帰予測モデルを入力し、トレーニング済の回帰予測モデルによって、電池の現在の完全な緩和時間分布曲線DRTpreを予測してから、平滑化することと、
予測された緩和時間分布曲線DRTpreにおけるS個の分極抵抗
【数8】
を計算し、分極抵抗と電池の健康状態との表現式FSOHに基づいて電池のSOHを得ることと、を含む。
【0019】
被試パワー電池の異なる作業状況でのエージングサイクル試験結果を取得し、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルを抽出するためのデータ取得モジュールと、
前記電池インピーダンススペクトルの緩和時間分布曲線を正則化法により計算し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算するための周波数セグメント計算モジュールと、
電池インピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の周波数セグメントのインピーダンスの
【数9】
を入力として、計算された緩和時間分布曲線を出力として、トレーニングセットを構築するためのトレーニングセット構築モジュールと、
トレーニングセットに基づいて、選択された回帰予測モデルに対してオフライントレーニングを行うためのモデルトレーニングモジュールと、
計算された緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗を得て、分極抵抗と健康状態との数学的関係式を確立するためのフィッティングモジュールと、
現在の電池周波数セグメントのインピーダンスを取得し、トレーニング済の回帰予測モデルによって緩和時間分布曲線を予測してから、予測された緩和時間分布曲線を平滑化し、分極抵抗と健康状態との数学的関係式に基づいて、電池の健康状態を推定するための推定モジュールと、
を含む電池の健康状態の推定システム。
【0020】
本発明は、従来技術と比較して、以下のように有利な効果がある。
【0021】
本発明は、緩和時間分布曲線内の、電池の現在の状態を最もよく反映できる(関連性が高い)いくつかの重要なセグメントを選択し、電池の異なる作業状況に対応できる緩和時間分布予測モデルを開発し、数学的モデルによって、電池の分極抵抗と健康状態との関係により該電池の健康状態をオンラインで推定する。
【0022】
本発明は、ニューラルネットワークに基づいて緩和時間分布を取得する方法を提案し、電池の現在の状態での緩和時間分布を計算するとき、完全なインピーダンススペクトルを測定する必要がなく、複雑なデコンボリューション又はフィッティング計算も必要としないので、電池緩和時間分布の計算コストが大幅に削減される。
【0023】
本発明は、電池の反応メカニズム及び緩和時間分布曲線の幾何学的構造に基づいて、モデルの入力としてインピーダンススペクトルにおける適切な特徴を選択し、緩和時間予測モデルの予測性能を確保するとともに、入力特徴の次元を低減し、また、実際の応用におけるインピーダンスの測定時間及び健康状態の推定精度の要求に応じて、測定すべきインピーダンスセグメントの長さを柔軟に調整でき、緩和時間分布技術の適用可能な場面を拡張させる。
【0024】
本発明が提案する電池の健康状態の推定方法は、データに基づく特徴があり、複雑な電気化学モデルを必要とせず、実際の応用では、電池緩和時間分布曲線の形状に従って電池の分極抵抗と電池の健康状態との数学的表現式を調整でき、インピーダンス情報に基づく電池の健康状態の推定の精度と実用性が向上し、理論的には複雑な作業状況で様々なタイプの電池に便利に適用できる。
【0025】
本発明の他の利点、目標、及び特徴は、後の明細書においてある程度で説明され、且つある程度で、以下の説明に対する考察及び検討に基づいて本分野の技術者にとって明らかなものであるか、又は本発明の実践から教示され得るものである。本発明の目標及び他の利点は、以下の明細書によって実現し、得ることができる。
【0026】
本発明の一部を構成する明細書の添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するためのものであり、本発明の模式的実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明に対する不当な限定ではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施例に係る電池の健康状態の推定方法のフローチャートである。
図2】一実施例に係るステップS2における緩和時間分布曲線図である。
図3】一実施例に係る選択されたインピーダンススペクトルにおける周波数セグメントの図である。
図4】一実施例に係るニューラルネットワークに基づいて予測された緩和時間分布曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下で、添付の図面及び実施例を参照して本発明をさらに説明する。
【0029】
なお、以下の詳細な説明は例示的なものであり、本発明にさらなる説明を提供することを目的とする。別段の説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0030】
また、ここで使用される用語は、単なる発明を実施するための形態を説明するためのものであり、本発明の例示的な実施形態を制限することを意図しない。ここで使用されるように、文脈上明らかに別段の説明がない限り、単数形は複数形も含むことを意図する。なお、本明細書において、用語「含む」及び/又は「備える」が用いられる場合、特徴、ステップ、操作、デバイス、アセンブリ及び/又はそれらの組み合わせの存在を示す。
【0031】
本願における実施例及び実施例における特徴は、矛盾しない限り、互いに組み合わせることができる。
【0032】
実施例1
電池の健康状態の推定方法は、
被試パワー電池を選択して、異なる作業状況でエージングサイクル試験を行い、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルEISと容量を測定し、データの妥当性を検証するステップS1と、
インピーダンススペクトルの緩和時間分布を正則化法により算出し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算するステップS2と、
収集されたインピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の特定の周波数セグメントのインピーダンスの
【数10】
をモデルの入力として、完全な緩和時間分布曲線DRTPreをモデルの出力として、トレーニングセットを構築するステップS3と、
適切な回帰予測モデルを選択して、オフライントレーニングを行い、最適なニューラルネットワークモデルModelDRTを得るステップS4と、
緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗
【数11】
を得て、分極抵抗と健康状態SOHとの数学的関係式FSOHを確立するステップS5と、
電池の特定の周波数セグメントのインピーダンスをオンラインで測定し、トレーニング済の回帰予測モデルModelDRTに基づいて完全な緩和時間分布曲線DRTpreを予測し、分極抵抗と健康状態との関係式FSOHに基づいて電池の健康状態をオンラインで得るステップS6と、を含む。
【0033】
本実施例において、ステップS1は、具体的には、以下のステップを含む。
【0034】
ステップS11において、被試パワー電池を選択して、エージングサイクル試験を行い、電池の充放電終了後のたびに、設定された荷電状態ΔSOC及び温度ΔTの間隔で電池インピーダンススペクトルと容量を測定し、異なる状態での電池インピーダンススペクトルと健康状態が1対1に対応付けられたデータベースを最終的に生成する。
【0035】
ステップS12において、電池のインピーダンススペクトルを収集する前に、少なくともインピーダンススペクトルの周波数範囲とサンプリング密度を確定する必要があるが、これらに限定されない。また、単一のインピーダンスサンプリング点について、実際に測定されたインピーダンスの周波数、位相角、及び振幅値を記録する必要がある。
【数12】
式中、Z(ω)はインピーダンスであり、ωは角周波数であり、
【数13】
はそれぞれ励起電圧と応答電流の振幅値であり、Z’(ω)とZ’’(ω)は、それぞれインピーダンスの実部と虚部である。
【0036】
ステップS13において、実験で得られたインピーダンスデータが線形安定性を満たし、その後のモデルのトレーニングに使用可能であることを確保するために、K-K変換検証によってインピーダンススペクトルの有効性を検証する必要がある。
【0037】
本実施例において、ステップS2は、具体的には、以下のステップを含む。
【0038】
ステップS21において、K-K検証に合格したインピーダンススペクトルに対して緩和時間分布関数g(τ)の計算を行う。電池の異なる周波数でのインピーダンスと緩和時間との関係は、次の式で表すことができる。
【数14】
式中、fはインピーダンスのテストを行うべき周波数であり、τは緩和時定数であり、jは虚数単位であり、Rはオームインピーダンスを示し、Rは分極インピーダンスである。
【0039】
g(τ)の計算は、実質的に既知の結果に対するデコンボリューションであり、正則化法により実現することができ、これにより、最も真実な緩和時間曲線が得られる。周波数領域上のインピーダンススペクトルが緩和時間分布の時間領域に変換された後、電池内部の異なる電気化学プロセスに対するデカップリングが実現される。
【0040】
ステップS22において、緩和時間分布曲線図には、明らかなピークが複数あり、ピークの高さによって電気化学反応の強度が反映され、ピークの位置によって電気化学反応の応答速度が反映されるので、緩和時間分布曲線の全体的な形態は、ピークとバレーによって基本的に確定できる。電池の反応メカニズム及び幾何学的曲線の角度に基づいて、図におけるS個のピークとS個のバレーを特徴として、ピークとバレーボトムの横軸における対応する時定数τ~τ及びτ~τを記録する。
【0041】
実際の操作では、電池のタイプが異なるため、緩和時間分布曲線におけるピークとバレーの数は一定ではなく、確定するには緩和時間分布グラフを計算するしかない。
【0042】
ステップS23において、緩和時間分布で鍵となる時定数を見つけた後、それがインピーダンススペクトルにおける対応する周波数を次の式で計算できる。
【数15】
【0043】
時間スケール表現から再び周波数領域表現に変換することで、インピーダンススペクトルにおけるS+S個の特征周波数f~fとf~fを見つけることができ、計算された周波数がインピーダンススペクトルで設定されたテスト範囲内にない場合、インピーダンススペクトルのテスト範囲内の最も近い周波数点に置き換える。
【0044】
ステップS24において、電池は、健康状態及びサイクル作業状況などの要因が変化した場合、異なる電気化学反応の時定数にある程度のドリフトが生じ、且つインピーダンススペクトル測定の実験サンプリング周波数と計算された周波数とは完全に一致しないので、計算された周波数に最も近い実験周波数とその左右のi個の実験周波数によって周波数セグメントfl+2iを形成することで、緩和時間の予測時に対する様々な干渉の影響を回避する必要があり、これにより、予測モデルModelDRTのロバスト性が大幅に強化される。実際の応用では、予測精度とテスト時間の要求に応じて変数iを柔軟に調整し、各周波数セグメントfl+2i及び対応するインピーダンスセグメントZl+2iの長さを変更することができる。
【0045】
本実施例において、ステップS3は、具体的には、以下のステップを含む。
【0046】
ステップS31において、インピーダンススペクトルと緩和時間分布曲線が離散的であるため、モデルによって入力されたS+S個の周波数セグメントの範囲及び対応するインピーダンスセグメントが最終的に確定されると、緩和時間分布の周波数範囲及びサンプリング密度に従って、モデルによって出力された各緩和時間分布曲線のサンプリング点の総数NDRTを確定することができ、S23における式により各サンプリング点の対応する緩和時間τDRTを計算することができる。
【0047】
ステップS32において、電池は、異なる状態によってはインピーダンススペクトルと緩和時間分布が大きく異なるため、予測された時間緩和分布DRTpreの精度を向上させるために、測定されたインピーダンスと緩和時間のデータを正規化する必要がある。
【0048】
ステップS33において、正規化した後、インピーダンスデータと緩和時間データを次元削減し、S+S個のインピーダンスセグメントの
【数16】
で構成される2次元データ配列[SP+V(l+2i),2]を1次元シーケンス[2SP+V(l+2i),l]に変換した後、該変換された1次元シーケンスをニューラルネットワークモデルの入力シーケンスとして、緩和時間関数g(τ)によって計算されたNDRT個の抵抗値
【数17】
から成る1次元データ配列
【数18】
をモデルの出力シーケンスとして、共同で回帰予測モデルのトレーニングセットを構成する。
【0049】
本実施例において、緩和時間関数g(τ)は、横軸の緩和時間rと縦軸の抵抗値との関係を表し、抵抗値は
【数19】
で表される。
【0050】
本実施例において、ステップS4は、具体的には、以下のステップを含む。
【0051】
ステップS41において、インピーダンスセグメントと緩和時間との非線形マッピング関係に従って、適切な回帰予測モデルModelDRTを選択して緩和時間曲線を予測する。選択された回帰予測モデルの種類は、長期短期記憶ネットワークLSTMを含むが、これに限定されない。
【数20】
【0052】
いくつかの実施例において、モデルは完全な緩和時間曲線を予測する。
【0053】
いくつかの実施例において、モデルによって各緩和時間の抵抗値を予測し、そして、緩和時間関数と曲線を形成する。
【0054】
ステップS42において、インピーダンスセグメントと緩和時間分布曲線で構成されるトレーニングセットによって、選択された回帰予測モデルModelDRTをトレーニングし、例えば、遺伝的アルゴリズムによって、モデルパラメータを識別し、自己適応モーメント推定(Adam)などの勾配降下法によって、ModelDRTにおけるパラメーターを更新してもよいが、これらに限定されない。識別中の損失関数Lossは、二乗平均平方根誤差RMSEを含むが、これに限定されない。正則化法により異なる緩和時間が得られた実際の抵抗値
【数21】
とモデルで予測された抵抗値
【数22】
【0055】
もちろん、他のモデルを使用してもよく、トレーニング中の損失関数も他の損失関数を使用してもよい。トレーニング等については、ここでは詳しく説明しない。
【0056】
本実施例において、ステップS5は、具体的には、以下のステップを含む。
【0057】
ステップS51において、最適なニューラルネットワークモデルModelDRTを得た後、オンラインで測定された対象電池の現在の特定の周波数セグメントのインピーダンスに基づいて、緩和時間分布曲線を予測してもよいが、ニューラルネットワークモデルが非線形性であるため、予測された緩和時間分布曲線において、予測値にジッターが発生するサンプリング点があり、例えば、ガウスフィルターによって、予測された緩和時間分布曲線DRTpreを平滑化する必要があるが、これに限定されない。平滑化した後、S6の処理に進む。
【0058】
ステップS52において、ステップS2/S3で計算された緩和時間分布曲線は、左側のピークが電導度の損失を反映し、中部のピークが電池イオンの損失を反映し、右側のピークが正負極の活性材の損失を反映する。したがって、緩和時間分布関数g(τ)のSP個のピークを積分してS個の異なる分極抵抗を得ることで、共同で電池の健康状態を反映することができる。
【数23】
式中、RはS番目のピークの分極抵抗であり、τUとτLは、それぞれ各ピークの時定数の上限と下限である。
【0059】
ステップS53において、該タイプの電池緩和時間分布曲線におけるS個のピークの分極抵抗と健康状態SOHとの数学的関係に従って、異なる温度とSOCでの線形の数学的表現式FSOHを確立する。
【数24】
【0060】
ステップS54において、SOHの数学的表現式は、電池のタイプ及びサイクルエージング環境等の実際の状況に応じて調整してもよい。数学的表現式の種類は、指数モデル、正弦関数モデル、多項式モデルを含むが、これらに限定されない。該モデルに対する要求として、SOHと
【数25】
との関係を明確に反映できる一方、過フィッティング又は過小フィッティングが起こらなければよい。2次多項式モデルの表現式は次のとおりである。
【数26】
式中、aとbは、各ピークの対応する分極抵抗の重み係数であり、cはバイアス項である。
【0061】
ステップS55において、S個のピークの分極抵抗
【数27】
を独立変数として、電池の健康状態SOHを従属変数として、各タイプの電池の異なる作業状況でのエージングサイクルのデータセットを確立する。
【0062】
ステップS56において、電池の健康状態の表現式FSOHにおけるパラメーターa,b,cを最小二乗法によりフィッティングすることにより、電池緩和時間分布における分極抵抗に基づくSOHの最適な数学的表現式を得る。
【0063】
本実施例において、ステップS6は、具体的には、以下のステップを含む。
【0064】
ステップS61において、低コストのハードウェアデバイスによって、特定のS+S個の特定の周波数セグメントのインピーダンス値を測定してモデルに入力し、トレーニング済の回帰予測モデルModelDRTに基づいて電池の現在の完全な緩和時間分布DRTpreを予測する。
【0065】
ステップS62において、予測された緩和時間分布曲線におけるS個の分極抵抗
【数28】
を計算し、分極抵抗と電池の健康状態との表現式FSOHに基づいて電池のSOHを得る。
【0066】
実施例2
電池の健康状態の推定方法は、図1に示すように、以下のステップを含む。
【0067】
ステップS1において、被試パワー電池を選択して、異なる作業状況でエージングサイクル試験を行い、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルEISと容量を測定し、データの妥当性を検証する。具体的には、以下のステップを含む。
【0068】
ステップS11において、一例において、被試パワー電池を選択して、エージングサイクル試験を行い、電池の充放電終了後のたびに、10%の荷電状態ΔSOC及び5℃の温度ΔTの間隔ごとに電池のインピーダンススペクトルと容量を測定し、異なる状態での電池インピーダンススペクトルと健康状態が1対1に対応付けられたデータベースを最終的に生成する。
【0069】
ステップS12において、インピーダンススペクトルの周波数範囲は2kHz~0.02Hzであり、サンプリング密度は10逓倍あたり10サンプリング点である。単一のインピーダンスサンプリング点について、実際に測定されたインピーダンスの周波数、位相角、及び振幅値を記録する必要がある。
【数29】
式中、Z(ω)はインピーダンスであり、ωは角周波数であり、
【数30】
はそれぞれ励起電圧と応答電流の振幅値であり、Z’(ω)とZ’’(ω)は、それぞれインピーダンスの実部と虚部である。
【0070】
ステップS13において、実験で得られたインピーダンスデータが線形安定性を満たし、その後のモデルのトレーニングに使用可能であることを確保するために、K-K変換検証によってインピーダンススペクトルの有効性を検証する必要がある。
【0071】
ステップS2において、インピーダンススペクトルの緩和時間分布を正則化法により算出し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算する。図2図3に示すように、具体的には、以下のステップを含む。
【0072】
ステップS21において、K-K検証に合格したインピーダンススペクトルに対して緩和時間分布関数g(τ)の計算を行う。電池の異なる周波数でのインピーダンスと緩和時間との関係は、次の式で表すことができる。
【数31】
式中、fはインピーダンスのテストを行うべき周波数であり、τは緩和時定数であり、jは虚数単位であり、Rはオームインピーダンスを示し、Rは分極インピーダンスである。
【0073】
g(τ)の計算は、実質的に既知の結果に対するデコンボリューションであり、これは正則化法により実現することができ、これにより、最も真実な緩和時間曲線が得られる。周波数領域上のインピーダンススペクトルが緩和時間分布の時間領域に変換された後、電池内部の異なる電気化学プロセスに対するデカップリングが実現される。
【0074】
ステップS22において、図2に示すように、緩和時間分布曲線図において、左から6つのピークP1~P6と5つのバレーV1~V5がある。ピークの高さによって電気化学反応の強度が反映され、ピークの位置によって電気化学反応の応答速度が反映されるので、緩和時間分布曲線の全体的な形態は、ピークとバレーによって基本的に確定できる。電池の反応メカニズム及び幾何学的曲線の角度に基づいて、図における6つのピークと5つのバレーを特徴として、ピークとバレーボトムの横軸における対応する時定数τPl~τP6及びτVl~τV5を記録する。
【0075】
ステップS23において、緩和時間分布で鍵となる時定数を見つけた後、それがインピーダンススペクトルにおける対応する周波数を次の式で計算できる。
【数32】
【0076】
時間スケール表現から再び周波数領域表現に変換することで、インピーダンススペクトルにおける11個の特征周波数fPl~fP6とfVl~fV5を見つけた。ピークP1とピークP6の対応する周波数が設定されたテスト範囲内にないため、インピーダンススペクトルの左側最も高い周波数、及び右側で最も低い周波数を有するインピーダンステスト点に置き換える。
【0077】
ステップS24において、電池は、健康状態及びサイクル作業状況などの要因が変化した場合、異なる電気化学反応の時定数にある程度のドリフトが生じ、且つインピーダンススペクトル測定の実験サンプリング周波数と計算された周波数とは完全に一致しないので、計算された周波数に最も近い実験周波数とその左右の各1つの実験周波数によって周波数セグメントfl+2を形成することで、緩和時間の予測時に対する様々な干渉の影響を回避する必要があり、図3に示すように、予測モデルModelDRTのロバスト性が大幅に強化される。
【0078】
ステップS3において、収集されたインピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の特定の周波数セグメントのインピーダンスの
【数33】
をモデルの入力として、緩和時間分布曲線をモデルの出力として、トレーニングセットを構築する。具体的には、以下のステップを含む。
【0079】
ステップS31において、インピーダンススペクトルと緩和時間分布曲線は離散的であるため、モデルによって入力された11個の周波数セグメントの範囲及び対応するインピーダンスセグメントを最終的に確定した後、緩和時間分布の周波数範囲及びサンプリング密度に従って、モデルによって出力された各緩和時間分布曲線のサンプリング点は合計600個である。S23における式により各サンプリング点の対応する緩和時間τDRTを計算することができる。
【0080】
ステップS32において、電池の異なる状態でのインピーダンススペクトルと緩和時間分布は大きく異なるため、予測された時間緩和分布DRTpreの精度を向上させるために、測定されたインピーダンスと緩和時間のデータを正規化する必要がある。
【0081】
ステップS33において、正規化した後、インピーダンスデータと緩和時間データを次元削減し、11個のインピーダンスセグメントの
【数34】
で構成される2次元データ配列[29,2]を1次元シーケンス[58,1]に変換した後、該変換された1次元シーケンスをニューラルネットワークモデルの入力シーケンスとして、緩和時間に対応する600個の抵抗値
【数35】
から成る1次元データ配列[600×1]をニューラルネットワークモデルの出力シーケンスとして、共同で回帰予測モデルのトレーニングセットを構成する。
【0082】
ステップS4において、適切な回帰予測モデルを選択して、オフライントレーニングを行い、最適なニューラルネットワークモデルModelDRTを得る。具体的には、以下のステップを含む。
【0083】
ステップS41において、インピーダンスセグメントと緩和時間との非線形マッピング関係に従って、長期短期記憶ネットワークLSTMモデルを選択して緩和時間曲線を予測する。
【数36】
【0084】
ステップS42において、インピーダンスセグメントと緩和時間分布で構成されるトレーニングセットによって、LSTMモデルをトレーニングする。トレーニングにおいて、バッチサイズを128とし、反復の最大回数を100とし、70回の反復ごとに、学習率を現在の学習率の1/10に減少させる。遺伝的アルゴリズムにより識別すべきLSTMモデルパラメータ及びその識別範囲は、表1に示すとおりである。
【0085】
【表1】
【0086】
自己適応モーメント推定(Adam)法によりLSTMモデルにおけるパラメーターを更新する。二乗平均平方根誤差RMSEを識別中の損失関数Lossとする。正則化法により異なる緩和時間が得られた実際の抵抗値
【数37】
とモデルで予測された抵抗値
【数38】
の間の誤差を計算する。
【0087】
ステップS5において、緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗
【数39】
を得て、分極抵抗と健康状態SOHとの数学的関係式FSOHを確立する。具体的には、以下のステップを含む。
【0088】
ステップS51において、正則化法による計算とニューラルネットワークモデルによる予測で得られた緩和時間分布曲線は図4に示される。緩和時間分布曲線は、左側のピークが電導度の損失を反映し、中部のピークが電池イオンの損失を反映し、右側のピークが正負極の活性材の損失を反映する。したがって、緩和時間分布関数g(τ)の6つのピークを積分して6つの異なる分極抵抗を得ることで、共同で電池の健康状態を反映することができる。
【数40】
式中、RはS番目のピークの分極抵抗であり、τUとτLは、それぞれ各ピークの時定数の上限と下限である。
【0089】
ステップS52において、該タイプの電池緩和時間分布曲線における6つのピークの分極抵抗Rと健康状態SOHとの数学的関係に従って、異なる温度とSOCでの線形の数学的表現式FSOHを確立する。
【数41】
【0090】
ステップS53において、SOHの数学的表現式は、電池のタイプ及びサイクルエージング環境によっては、指数モデル、正弦関数モデル、多項式モデルを含むが、これらに限定されない。該モデル対する要求として、SOHとR~Rとの関係を明確に反映できる一方、過フィッティング又は過小フィッティングが起こらなければよい。
【0091】
ステップS54において、6つのピークの分極抵抗R~Rを独立変数として、電池の健康状態SOHを従属変数として、各タイプの電池の異なる作業状況でのエージングサイクルのデータセットを確立する。
【0092】
ステップS55において、電池の健康状態の表現式FSOHにおけるパラメーターを最小二乗法によりフィッティングすることにより、電池緩和時間分布における分極抵抗に基づくSOHの最適な数学的表現式を得る。
【0093】
本実施例において、
【数42】
である。
【0094】
ステップS6において、電池の特定の周波数セグメントのインピーダンスをオンラインで測定し、トレーニング済の回帰予測モデルModelDRTに基づいて完全な緩和時間分布曲線DRTpreを予測し、分極抵抗と健康状態との関係式FSOHに基づいて電池の健康状態をオンラインで得る。具体的には、以下のステップを含む。
【0095】
ステップS61において、低コストのハードウェアデバイスによって、11個の特定の周波数セグメントのインピーダンス値を測定してモデルに入力し、トレーニング済のLSTM回帰予測モデルに基づいて電池の現在の完全な緩和時間分布DRTpreを予測する。
【0096】
ニューラルネットワークモデルが非線形性であるため、予測された緩和時間分布において、予測値にジッターが発生するサンプリング点があり、ガウスフィルターによって、予測された緩和時間分布曲線DRTpreを平滑化する必要がある。本実施例におけるスライディングウィンドウのサイズは10である。
【0097】
ステップS62において、予測された緩和時間分布曲線における6つの分極抵抗R~Rを計算し、分極抵抗と電池の健康状態との表現式FSOHに基づいて電池の健康状態を得る。
【0098】
実施例3
電池の健康状態の推定システムは、
被試パワー電池の異なる作業状況でのエージングサイクル試験結果を取得し、充放電終了後のたびに電池インピーダンススペクトルを抽出するためのデータ取得モジュールと、
前記電池インピーダンススペクトルの緩和時間分布曲線を正則化法により計算し、緩和時間分布曲線におけるS個のピークとS個のバレーの対応する時定数τ~τとτ~τに基づいて、現在の作業状況でのインピーダンススペクトルにおける対応するS+S個の周波数セグメントを計算するための特定の周波数セグメント計算モジュールと、
電池インピーダンススペクトル及び対応する緩和時間分布曲線を正規化し、各インピーダンススペクトルにおけるS+S個の特定の周波数セグメントのインピーダンスの
【数43】
を入力として、計算された緩和時間分布曲線を出力として、トレーニングセットを構築するためのトレーニングセット構築モジュールと、
トレーニングセットに基づいて、選択された回帰予測モデルに対してオフライントレーニングを行うためのモデルトレーニングモジュールと、
計算された緩和時間分布曲線の特徴ピークを積分して各ピークの分極抵抗を得て、分極抵抗と健康状態との数学的関係式を確立するためのフィッティングモジュールと、
現在の電池の特定の周波数セグメントのインピーダンスを取得し、トレーニング済の回帰予測モデルによって緩和時間分布曲線を予測してから、予測された緩和時間分布曲線を平滑化し、分極抵抗と健康状態との数学的関係式に基づいて、電池の健康状態を推定するための推定モジュールと、を含む。
【0099】
本実施例において、データ取得モジュールは、エージングサイクル試験デバイスを含む。これらは、既存のデバイスを採用できるため、ここで説明を省略する。
【0100】
本分野の技術者であれば、本発明の実施例が方法、システム、又はコンピュータプログラム製品として提供され得ることを理解できる。したがって、本発明は、完全にハードウェアの実施例、完全にソフトウェアの実施例、又はソフトウェアとハードウェアの側面を組み合わせた実施例の形態をとることができる。また、本発明は、コンピュータ使用可能なプログラムコードを含む1つ又は複数のコンピュータ使用可能な記憶媒体(ディスクストレージ、CD-ROM、光学ストレージなどを含むが、これらに限定されない)に実施されたコンピュータプログラム製品の形態をとってもよい。
【0101】
本発明は、本発明の実施例に係る方法、デバイス(システム)、及びコンピュータプログラム製品のフローチャート及び/又はブロック図を参照して説明される。なお、フローチャート及び/又はブロック図における各フロー及び/又はブロック、ならびにフローチャート及び/又はブロック図におけるフロー及び/又はブロックの組み合わせは、コンピュータプログラムコマンドによって実現してもよい。これらのコンピュータプログラムコマンドを、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、埋め込みプロセッサ、又は他のプログラム可能なデータ処理デバイスのプロセッサに提供して機器を構成することにより、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理デバイスのプロセッサによって実行されるコマンドは、フローチャートにおける1つ又は複数のフロー及び/又はブロック図における1つ又は複数のブロックで指定された機能を実現するための装置を構成してもよい。
【0102】
これらのコンピュータプログラムコマンドを、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理デバイスを特定の方式で動作させることができるコンピュータ可読メモリに格納することにより、該コンピュータ可読メモリに格納されたコマンドによってコマンド装置を含む製品を構成してもよい。該コマンド装置はフローチャートにおける1つ又は複数のフロー及び/又はブロック図における1つ又は複数のブロックで指定された機能を実現する。
【0103】
これらのコンピュータプログラムコマンドを、コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理デバイスによってロードすることにより、コンピュータ又は他のプログラム可能なデバイスで一連の操作ステップを実行して、コンピュータにより実現される処理を構成してもよい。これにより、コンピュータ又は他のプログラム可能なデバイスで実行されるコマンドは、フローチャートにおける1つ又は複数のフロー及び/又はブロック図における1つ又は複数のブロックで指定された機能を実現するためのステップを提供する。
【0104】
上記の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するためのものではない。本分野の技術者にとって、本発明は様々な変更及び変化が可能である。本発明の精神及び原則内であれば、本分野の技術者が創造的な労働を必要とせず行うあらゆる変更、等価置換、改良などは、すべて本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【要約】
本発明は、電池の健康状態の推定の技術分野に属する。本発明は、電池の健康状態の推定方法及びシステムを提供する。本発明は、複数の特定の周波数帯域における電池のインピーダンスを取得することによって、電池の現在の状態での緩和時間分布を予測し、予測された緩和時間分布に従って、電池の該サイクルにおける健康状態を正確かつ迅速に推定する。本発明は、リアルタイムかつ正確な電池の健康状態に対する監視を低コスト、高正確性で実現することができ、電池の信頼性、安全性及び耐久性の向上に大きな意義がある。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4