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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】動態予測システム及び動態予測方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
A01K29/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024137872
(22)【出願日】2024-08-19
【審査請求日】2024-09-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005854
【氏名又は名称】丸紅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 啓雅
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 裕規
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-65370(JP,A)
【文献】特開2024-46596(JP,A)
【文献】特許第6902815(JP,B1)
【文献】特開2021-108170(JP,A)
【文献】特開2021-35355(JP,A)
【文献】特開平10-98981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜の群れである家畜群を構成する家畜の個体情報、前記家畜群を構成する個体の数、前記家畜群を構成する個体の健康状態情報及び家畜のライフサイクル情報を含む家畜群情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記家畜群情報に基づいて、前記個体の数の推移を含む前記家畜群の動態を予測する動態予測部と、
を備え、
前記個体の数及び前記健康状態情報の少なくとも一部は、家畜周辺のセンサにより取得されるデータに基づいて管理される、
動態予測システム。
【請求項2】
前記家畜群情報は、前記個体のゲノム情報をさらに含む、
請求項1記載の動態予測システム。
【請求項3】
前記家畜群情報は、前記個体の畜産物情報をさらに含み、
前記家畜群の動態は、前記個体の畜産物量の推移をさらに含む、
請求項1記載の動態予測システム。
【請求項4】
前記家畜は、牛であり、前記家畜群は、牛群であり、前記家畜群情報は、牛群情報である、
請求項1記載の動態予測システム。
【請求項5】
前記動態予測部は、前記牛の個体ごとに、ユーザにより入力されるパラメータ及び前記牛群情報に基づいて、種付開始日、妊娠日、分娩日、搾乳開始日、及び乾乳開始日を推定することで、前記牛群の動態を予測する、
請求項4記載の動態予測システム。
【請求項6】
前記動態予測部は、前記妊娠日及び前記分娩日を推定する際に、前記個体のゲノム情報を用いる、
請求項5記載の動態予測システム。
【請求項7】
プロセッサにより実行される方法であって、
家畜の群れである家畜群を構成する家畜の個体情報、前記家畜群を構成する個体の数、前記家畜群を構成する個体の健康状態情報及び家畜のライフサイクル情報を含む家畜群情報を記憶するステップと、
記憶された前記家畜群情報に基づいて、前記個体の数の推移を含む前記家畜群の動態を予測するステップと、
を含み、
前記個体の数及び前記健康状態情報の少なくとも一部は、家畜周辺のセンサにより取得されるデータに基づいて管理される、
動態予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜群の動態を予測する動態予測システム及び動態予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、牧場で飼育されている牛群などを含む動物群を構成する動物の数の変動を算定するシミュレーション装置が開示されている。このシミュレーション装置は、所定の期間(例えば1年)における期首の経産動物の数、期首の非経産動物の数及び期首の初妊動物の数、並びに動物群における分娩間隔の入力を受け付け、それらの入力に基づいて期末の経産動物の数、期末の非経産動物の数及び期末の初妊動物の数を算定して出力する。また、上記の所定の期間に対する算定を複数年分繰り返すことで、例えば10年後までの1年ごとの各数の推移も算定する。
【0003】
このシミュレーション装置は、期首の個体数から期末の個体数を算定する際に、過去の統計をもとに設定された変化率、又は牧場の経営者により任意に設定された変化率を用いて算定する。つまり、設定された特定の変化率を用いて画一的に期末の個体数が算定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5546825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、群を構成する個体の数の変化率は、それぞれの個体がどのような状態であるのかに応じて変動するものである。したがって、期首の個体数から期末の個体数を予測する際に、特定の変化率を用いて画一的に予測すると、予測値の精度が低下する要因になる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、個体ごとの違いを反映させた形で、家畜の群れである家畜群の動態を予測することができる動態予測システムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る動態予測システムは、家畜の群れである家畜群を構成する家畜の個体情報、家畜群を構成する個体の数、家畜群を構成する個体の健康状態情報及び家畜のライフサイクル情報を含む家畜群情報を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された家畜群情報に基づいて、個体の数の推移を含む家畜群の動態を予測する動態予測部と、を備え、個体の数及び健康状態情報の少なくとも一部は、家畜周辺のセンサにより取得されるデータに基づいて管理される。
【0008】
本発明の他の態様に係る動態予測方法は、プロセッサにより実行される方法であって、家畜の群れである家畜群を構成する家畜の個体情報、家畜群を構成する個体の数、家畜群を構成する個体の健康状態情報及び家畜のライフサイクル情報を含む家畜群情報を記憶するステップと、記憶された家畜群情報に基づいて、個体の数の推移を含む家畜群の動態を予測するステップと、を含み、個体の数及び健康状態情報の少なくとも一部は、家畜周辺のセンサにより取得されるデータに基づいて管理される。
【0009】
これらの態様によれば、家畜の個体情報と、少なくとも一部が家畜周辺のセンサによって取得されるデータに基づいて管理される個体の数及び健康状態情報と、家畜のライフサイクル情報と、を含む家畜群情報を記憶し、その記憶した家畜群情報に基づいて、個体の数の推移を含む家畜群の動態を予測することが可能となる。
【0010】
上記各態様において、家畜群情報は、個体のゲノム情報をさらに含むこととしてもよい。
【0011】
この態様によれば、ゲノム情報を用いて家畜群の動態を予測することができるため、家畜群の動態を単に統計的に予測するだけでなく、個体の集合体として、個体ごとの違いや多様性を反映させた形で、家畜群の動態をより精緻に予測することが可能となる。
【0012】
上記各態様において、家畜群情報は、個体の畜産物情報をさらに含み、家畜群の動態は、個体の畜産物量の推移をさらに含むこととしてもよい。
【0013】
上記各態様において、家畜は、牛であり、家畜群は、牛群であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、個体ごとの違いを反映させた形で、家畜の群れである家畜群の動態を予測することができる動態予測システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る動態予測システムの構成を例示する図である。
図2】サーバ装置の物理的な構成を例示する図である。
図3】端末装置の物理的な構成を例示する図である。
図4】サーバ装置の機能的な構成を例示する図である。
図5】牛群動態を予測する際の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図6】牛群動態の予測結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
[動態予測システムの概要]
図1を参照して、実施形態に係る動態予測システムについて説明する。動態予測システム1は、例えば、サーバ装置2と、IoTセンサ3と、端末装置4と、を備える。IoTセンサ3は、家畜の周辺に備えられるセンサであり、例えば、家畜を飼う小屋などに備えられたり、家畜に取り付けられたりする。
【0018】
実施形態に係る動態予測システム1は、例えば、家畜の群れである家畜群を構成する家畜の個体情報、家畜群を構成する個体の数、健康状態情報、畜産物情報及びゲノム情報、並びに家畜のライフサイクル情報などを含む家畜群情報に基づいて、家畜群の動態を予測するシステムである。
【0019】
本実施形態では、家畜の一例として牛を用いて説明するが、これは家畜を牛に限定するものではない。例えば、豚や鳥、魚などを含む他の家畜にも牛と同様に適用することができる。
【0020】
ここで、家畜群の一例である牛群は、空間的なまとまりをもった牛の集団、例えば、ある牧場で飼育されている乳牛の集団である。牛群動態は、牛群の個体数や乳量などが、時間の経過によって増えたり減ったり推移することである。牛群動態の予測は、牛群の個体数や乳量などが、将来どのように推移するかを予測することである。この予測により、例えば、1年後に、乳牛が○頭いて、牛乳が1日○リットル取れる等の将来の推移を推し量ることが可能となる。
【0021】
サーバ装置2は、牛群動態を予測する機能などを実現するための処理を実行するコンピュータ装置である。端末装置4は、牛群動態の予測を依頼するユーザなどが使用するコンピュータ装置である。端末装置4は、例えば、PC(パーソナルコンピュータ)、ノートPC、タブレット端末、スマートフォン、その他の端末装置であってよい。
【0022】
サーバ装置2とIoTセンサ3や、サーバ装置2と端末装置4は、ネットワークNを介して相互に通信できるように構成される。ネットワークNは、例えば、インターネット、LAN、専用線、電話回線、移動体通信網、WiFi(Wireless Fidelity)、ブルートゥース(登録商標)、その他の通信回線、それらの組み合わせなどのいずれであってもよく、有線であるか無線であるかを問わない。
【0023】
[サーバ装置の構成]
図2に示すように、サーバ装置2は、物理的な構成として、例えば、プロセッサ21と、通信インタフェース22と、記憶装置23と、を備える。
【0024】
プロセッサ21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などである。プロセッサ21は、記憶装置23に記憶されているプログラム231を実行することで、サーバ装置2の各種機能を実現する制御部として機能する。
【0025】
通信インタフェース22は、ネットワークNに接続し、ネットワークN上の他の装置と通信する通信部として機能する。
【0026】
記憶装置23は、例えば、ディスクドライブ又は半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。記憶装置23は、サーバ装置2の各種機能を実現するためのプログラム231や、そのプログラム231で使用される各種のデータ232などを記憶する記憶部として機能する。なお、データ232の一部を外部の装置や外部のシステムに記憶させてもよい。
【0027】
各種のデータ232には、例えば、牛の群れである牛群に関する情報である牛群情報を構成するデータが含まれる。牛群情報の詳細については後述する。
【0028】
[端末装置の構成]
図3に示すように、端末装置4は、物理的な構成として、例えば、プロセッサ41と、通信インタフェース42と、記憶装置43と、入力装置44と、表示装置45と、を備える。
【0029】
プロセッサ41は、例えば、CPUやMPUなどである。プロセッサ41は、記憶装置43に記憶されているプログラムを実行することで、端末装置4の各種機能を実現する制御部として機能する。
【0030】
通信インタフェース42は、ネットワークNに接続し、ネットワークN上の他の装置と通信する通信部として機能する。
【0031】
記憶装置43は、例えば、ディスクドライブ又は半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。記憶装置43は、端末装置4の種々の機能を実現するためのプログラムや、そのプログラムで使用される種々のデータなどを記憶する記憶部として機能する。
【0032】
入力装置44は、ユーザからの入力を受け付ける入力部として機能する。入力装置44として、例えば、キーボード、タッチパネル、ペンタブレット、マウス、マイクなどを用いることができる。
【0033】
表示装置45は、画像や画面などを表示する表示部として機能する。表示装置45として、例えば、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどを用いることができる。
【0034】
[動態予測システムの機能]
図4に示すように、サーバ装置2は、機能的な構成として、例えば、記憶部211と、動態予測部212と、を備える。各部について以下に説明する。
【0035】
記憶部211は、散在する各種のデータを収集し、それらを一元的に統合管理するデータベースであり、例えば、牛群情報を管理する。牛群情報には、例えば、牛群を構成する牛の個体情報、牛群を構成する個体の数、牛群を構成する個体の健康状態情報、牛群を構成する個体の畜産物情報、牛群を構成する個体のゲノム情報、及び牛のライフサイクル情報、牛群の異動履歴情報などが含まれる。牛群情報を構成する各情報は、個体を識別する個体識別IDに紐付けて管理することが好ましい。各情報について以下に説明する。
【0036】
牛の個体情報は、牛の個体に関する基本情報である。牛の個体情報には、例えば、品種や、性別、生年月日などを含めることができる。
【0037】
牛群を構成する個体の数は、例えば、育成に応じた区分ごとに管理することができる。その区分として、例えば、初生子牛(生後2ヶ月齢未満の子牛)や、育成牛(分娩歴が無く受胎確認前の牛)、初妊牛(受胎が確認された分娩歴の無い牛)、経産牛(分娩歴の有る牛)、及び廃用牛(乳用又は繁殖目的としての用をなさなくなった牛)、などを設けることができる。
【0038】
個体数は、1年などの所定の期間単位に、上記の区分ごとに管理することが好ましい。具体的に、期首の飼養頭数と、期中に増減した頭数と、期末の飼養頭数と、を記録するなどして管理することができる。期中の増減には、例えば、出生により増加した頭数や、廃用や事故により減少した頭数、他の区分からの繰り入れにより増加した頭数、他の区分への繰り入れにより減少した頭数、外部からの導入により増加した頭数、及び外部への販売により減少した頭数、などを含むことができる。
【0039】
健康状態情報は、牛の健康に関する情報である。健康状態情報には、例えば、体温や、脈拍、体重、乳量、受胎情報、分娩情報、疾病情報、血液検査情報などを含めることができる。受胎情報には、受胎回数や、受胎間隔、受胎履歴などを含めることができる。分娩情報には、分娩回数や、分娩間隔、分娩履歴などを含めることができる。疾病情報には、疾病内容や、治療期間、疾病履歴などを含めることができる。
【0040】
個体数や健康状態情報の少なくとも一部は、IoTセンサ3を用いて取得することが好ましい。具体的に、個体数は、各牛に取り付けたICタグのデータをIoTセンサ3で取得することにより管理してもよい。また、健康状態情報に含まれる牛の体温や、脈拍、体重、乳量などもIoTセンサ3で取得して管理してもよい。
【0041】
ここで、IoTセンサ3を用いて取得する情報は、これらの情報に限定されず、牛群に関する統計データとしてセンサで取得可能な情報を適宜含めることができる。例えば、飼料の種類及び飼料の在庫量などを含む在庫状況情報や、牛舎の気温、湿度及び風向などを含む気候情報などもIoTセンサ3を用いて取得してもよい。なお、センサは、IoTセンサ3に限定されず、物理量を測定可能なセンサを適宜用いることができる。
【0042】
畜産物情報は、牛から得られる産物に関する情報である。畜産物情報には、例えば、乳牛の乳量に関する履歴情報や、生乳の生産量に関する履歴情報、生乳の出荷に関する履歴情報、牛肉の出荷に関する履歴情報などを含めることができる。
【0043】
ゲノム情報は、個体ごとの特性の違いを表すために利用可能な遺伝情報である。ゲノム情報には、例えば、乳量が多いとか少ないなどの乳量に関する特性や、特定の病気にかかりやすい体質であるなどの疾病に関する特性、などの情報を含めることができる。
【0044】
乳牛のゲノム情報として、例えば、個体の繁殖容易性や乳量などの評価指標を用いることが好ましい。このようなゲノム情報を用いることで、牛群動態を単に統計的に予測するだけでなく、個体の集合体として、個体ごとの違いや多様性を反映させた形で、牛群動態をより精緻に予測することが可能となる。
【0045】
ライフサイクル情報は、牛のライフサイクルに関する情報である。ライフサイクル情報には、例えば、どのタイミングで分娩を実施するか、その際の出生確率がどれくらいか、牛が一生を終えるタイミングがいつになるか、などの情報を含めることができる。
【0046】
また、子牛が生まれてから〇ヶ月程度で受胎可能になり、受胎してから〇ヶ月程度で子牛を生み、子牛を生んでから〇日程度で搾乳可能になり、〇ヶ月程度の搾乳期間と〇ヶ月程度の乾乳期間とを経て再度受胎可能になる、などの情報をライフサイクル情報に含めてもよい。
【0047】
異動履歴情報は、牛群を構成する個体の異動に関する履歴情報である。異動履歴情報は、例えば、廃用や、死亡、事故、販売、導入などにより、牛に異動が生じた場合に登録される情報である。
【0048】
動態予測部212は、記憶部211に記憶された牛群情報に基づいて、牛群動態を予測し、予測結果を出力する。予測する牛群動態として、例えば、牛群を構成する個体(全体や区分単位など)の数の1月や1年ごとの推移や、牛群を構成する個体の畜産物量の1月や1年ごとの推移、などを含めることができる。それぞれの推移について以下に具体的に説明する。
【0049】
予測対象の牛群における個体数の推移として、例えば、1年後に乳牛が○頭いて、2年後に乳牛が○頭いて、3年後に乳牛が○頭いて、4年後に乳牛が○頭いて、目標となる5年後に乳牛が○頭いる、という予測結果が得られる。
【0050】
予測対象の牛群における畜産物量の推移として、例えば、1年後に牛乳が1日○リットル取れて、2年後に牛乳が1日○リットル取れて、3年後に牛乳が1日○リットル取れて、4年後に牛乳が1日○リットル取れて、目標となる5年後に牛乳が1日○リットル取れる、という予測結果が得られる。
【0051】
図5を参照して、牛群動態を予測する際の処理手順の一例について以下に説明する。この処理手順には、例示的に、次の(1)~(6)の6つの処理ステップが含まれる。なお、この処理手順では、例示的に、乳牛の処理手順について説明するが、肉牛の処理手順についても同様の手順により表すことができる。
【0052】
(1)予測対象となる牧場の牛群情報を取得する[ステップS101]。(2)現存する未経産牛のライフサイクルを算出する[ステップS102]。(3)現存する経産牛のライフサイクルを算出する[ステップS103]。(4)分娩の結果生まれてくる乳牛のライフサイクルを算出する[ステップS104]。(5)外部から導入される牛のライフサイクルを算出する[ステップS105]。(6)牛群動態の予測結果を表示する[ステップS106]。以下、(1)~(6)を順に説明する。
【0053】
(1)予測対象となる牧場の牛群情報を取得する[ステップS101]:
予測対象の牧場において、現時点で存在している牛の生年月日、及び区分を、データベースで統合管理される牛群情報から取得する。区分は、牧場ごとに設定することができる。区分として、例えば、哺乳牛、育成牛、未経産牛、経産牛、搾乳牛、乾乳牛などを設けることができる。
【0054】
(2)現存する未経産牛のライフサイクルを算出する[ステップS102]:
動態予測部212は、牛個体ごとに、別途推定される死亡日又は廃用日までの期間、以下(2-1)から(2-5)までの処理を順次繰り返し実行する。
【0055】
(2-1)種付開始日の推定:
動態予測部212は、ユーザがパラメータとして入力する未経牛の種付開始日(生後日数)と、牛個体の生年月日と、に基づいて、種付開始日を推定する。
【0056】
(2-2)妊娠日の推定:
動態予測部212は、推定した種付開始日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、発情発見率、受胎率、妊娠率)と、牛個体のゲノム情報と、に基づいて、妊娠日を推定する。繁殖成績及びゲノム情報は、牛群情報から取得することができる。
【0057】
妊娠率を用いて妊娠日を推定する手順の一例を、以下(a)~(f)に記載する。
(a)一頭の牛の種付期間を、例えば21日サイクルとして固定する。
(b)牛群動態の予測期間において、日次で、ライフサイクル上で種付開始日に該当する牛を抽出する。抽出した牛の数に妊娠率を乗じて、受胎する牛の数を特定する。妊娠率は、発情発見率に受胎率を乗じて算出する。
(c)受胎した牛は、種付開始日の翌日から、次のライフサイクルである妊娠期間に移行する。
(d)受胎しなかった牛は、種付開始日から21日経過後の日付を、次回の種付開始日とする。
【0058】
(e)上記(b)~(d)を繰り返し、日次で、妊娠に該当する牛を特定する。
(f)上記(e)の結果、長期不受胎に該当する牛は、淘汰する。ここで、ユーザが任意に設定可能な長期不受胎日数を経過した牛を、長期不受胎に該当する牛であると判定する。
【0059】
(2-3)分娩日の推定:
動態予測部212は、推定した妊娠日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、妊娠期間、出生事故率、分娩事故率)と、個体のゲノム情報と、に基づいて、分娩日を推定する。繁殖成績及びゲノム情報は、牛群情報から取得することができる。
【0060】
具体的に、推定した妊娠日に対し、ユーザがライフサイクルのパラメータとして入力する妊娠期間を加算して分娩日を推定する。また、牛群動態の予測期間において、日次で、ライフサイクル上の分娩日に該当する牛を抽出する。抽出した牛の数に出生事故率及び分娩事故率を乗じて、出生する子牛及び分娩事故により淘汰する母牛の数を特定する。
【0061】
(2-4)搾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した分娩日と、過去の同タイプの牛の分娩後搾乳までの期間と、に基づいて、搾乳開始日を推定する。分娩後搾乳までの期間は、牛群情報から取得することができる。
【0062】
(2-5)乾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した搾乳開始日と、過去の同タイプの牛の搾乳期間と、に基づいて、乾乳開始日を推定する。搾乳期間は、牛群情報から取得することができる。
【0063】
(3)現存する経産牛のライフサイクルを算出する[ステップS103]:
動態予測部212は、牛個体ごとに、別途推定される死亡日又は廃用日までの期間、以下(3-1)から(3-5)までの処理を順次繰り返し実行する。
【0064】
(3-1)種付開始日の推定:
動態予測部212は、前回の分娩日と、過去の同タイプの牛の分娩後の種付開始までの期間と、に基づいて、種付開始日を推定する。分娩後の種付開始までの期間は、牛群情報から取得することができる。
【0065】
(3-2)妊娠日の推定:
動態予測部212は、推定した種付開始日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、受胎率、妊娠率)と、個体のゲノム情報と、に基づいて、妊娠日を推定する。繁殖成績及びゲノム情報は、牛群情報から取得することができる。
【0066】
(3-3)分娩日の推定:
動態予測部212は、推定した妊娠日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、妊娠期間、出生事故率、分娩事故率)と、個体のゲノム情報と、に基づいて、分娩日を推定する。繁殖成績及びゲノム情報は、牛群情報から取得することができる。
【0067】
(3-4)搾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した分娩日と、過去の同タイプの牛の分娩後搾乳までの期間と、に基づいて、搾乳開始日を推定する。分娩後搾乳までの期間は、牛群情報から取得することができる。
【0068】
(3-5)乾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した搾乳開始日と、過去の同タイプの牛の搾乳期間と、に基づいて、乾乳開始日を推定する。搾乳期間は、牛群情報から取得することができる。
【0069】
(4)分娩の結果生まれてくる乳牛のライフサイクルを算出する[ステップS104]:
動態予測部212は、牛個体ごとに、別途推定される死亡日又は廃用日までの期間、以下(4-1)から(4-6)までの処理を順次繰り返し実行する。
【0070】
(4-1)生年月日の推定:
動態予測部212は、上記(2-3)又は(3-3)で推定した分娩日を、生まれてくる子牛の生年月日とする。
【0071】
(4-2)種付開始日の推定:
動態予測部212は、ユーザがライフサイクルのパラメータとして入力する種付開始日(生後日数)を起点とする。
【0072】
(4-3)妊娠日の推定:
動態予測部212は、入力された種付開始日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、受胎率、妊娠率)と、親個体のゲノム情報と、に基づいて、妊娠日を推定する。繁殖成績及びゲノム情報は、牛群情報から取得することができる。
【0073】
(4-4)分娩日の推定:
動態予測部212は、推定した妊娠日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、妊娠期間、出生事故率、分娩事故率)と、親個体のゲノム情報と、に基づいて、分娩日を推定する。繁殖成績及びゲノム情報は、牛群情報から取得することができる。
【0074】
(4-5)搾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した分娩日と、過去の同タイプの牛の分娩後搾乳までの期間と、に基づいて、搾乳開始日を推定する。分娩後搾乳までの期間は、牛群情報から取得することができる。
【0075】
(4-6)乾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した搾乳開始日と、過去の同タイプの牛の搾乳期間と、に基づいて、乾乳開始日を推定する。搾乳期間は、牛群情報から取得することができる。
【0076】
(5)外部から導入される牛のライフサイクルを算出する[ステップS105]:
外部から導入する牛の頭数及び導入日は、ユーザがパラメータとして入力する維持したい頭数規模、及び維持したい頭数規模に到達するまでの期間(作成時点を起算月とする)と、牛群動態を予測する際に算出される日次の残存頭数と、に基づいて算出される。また、導入する牛の月齢も、ユーザがパラメータとして入力することができる。
【0077】
具体的に説明する。最初に、残存頭数と維持したい頭数規模との差分を、増頭又は減頭すべき頭数として算出する。続いて、算出した増頭又は減頭すべき頭数を、維持したい頭数規模に達成するまでの期間で除して、月当たりの増頭又は減頭すべき頭数を算出する。続いて、算出した頭数に対し、別途管理している牧場内で生まれる牛又は死亡する牛の頭数を、加減算することで、月当たりに外部から導入する頭数を算出する。外部から牛を導入するタイミングは、例えば、各月末などを設定することができる。
【0078】
動態予測部212は、導入時の月齢を起点にして、牛個体ごとに、別途推定される死亡日又は廃用日までの期間、以下(5-1)から(5-5)までの処理を順次繰り返し実行する。
【0079】
(5-1)種付開始日の推定:
動態予測部212は、前回の分娩日と、過去の同タイプの牛の分娩後の種付開始までの期間と、に基づいて、種付開始日を推定する。分娩後の種付開始までの期間は、牛群情報から取得することができる。
【0080】
(5-2)妊娠日の推定:
動態予測部212は、推定した種付開始日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、受胎率、妊娠率)と、に基づいて、妊娠日を推定する。繁殖成績は、牛群情報から取得することができる。
【0081】
(5-3)分娩日の推定:
動態予測部212は、推定した妊娠推定日と、過去の同タイプの牛の繁殖成績(例えば、妊娠期間、出生事故率、分娩事故率)と、に基づいて、分娩日を推定する。繁殖成績は、牛群情報から取得することができる。
【0082】
(5-4)搾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した分娩日と、過去の同タイプの牛の分娩後搾乳までの期間と、に基づいて、搾乳開始日を推定する。分娩後搾乳までの期間は、牛群情報から取得することができる。
【0083】
(5-5)乾乳開始日の推定:
動態予測部212は、推定した搾乳開始日と、過去の同タイプの牛の搾乳期間と、に基づいて、乾乳開始日を推定する。搾乳期間は、牛群情報から取得することができる。
【0084】
(6)牛群動態の予測結果を表示する[ステップS106]:
動態予測部212は、例えば、上記(2)~(5)で推定された各情報に基づいて、日次で各牛のカテゴリごとに整理した結果を牛群動態として表示する。これにより、将来における各牛個体の存在状況や、各牛個体の状態を把握することが可能となる。各牛のカテゴリには、例えば、乳用牛、肉用牛などが含まれる。各牛個体の存在状況には、例えば、哺育牛、育成牛、搾乳牛、乾乳牛、導入牛、出生牛、出荷牛、淘汰牛、事故・死廃牛などが含まれる。各牛個体の状態には、例えば、妊娠中、搾乳、乾乳などが含まれる。
【0085】
図6に、牛群動態の予測結果の一例を示す。図6は、ある牧場の牛群を構成する個体の数の推移を含む牛群動態を月ごとに予測したものである。同図には、例えば、経産牛、未経産牛、搾乳牛、乾乳牛、哺乳牛、育成牛、個体販売(子牛、素牛)、分娩予定牛、VWP終了予定牛、当月乾乳移動牛、当月生乳出荷開始牛、新規導入牛、新規出生牛、淘汰牛、事故や死廃用の数の推移が、月ごとに表示されている。
【0086】
上述したように、本実施形態における動態予測システム1によれば、牛群の個体情報と、少なくとも一部が牛周辺のIoTセンサ3によって取得されるデータに基づいて管理される個体の数及び健康状態情報と、畜産物情報と、ゲノム情報と、ライフサイクル情報と、を含む牛群情報を記憶し、その記憶した牛群情報に基づいて、牛群を構成する個体の数の推移及び牛群を構成する個体の畜産物量の推移を含む牛群動態を予測することができる。
【0087】
それゆえ、動態予測システム1によれば、個体ごとの違いを反映させた形で、牛畜の群れである牛群の動態を予測することが可能となる。
【0088】
特に、ゲノム情報を用いて牛群動態を予測することで、牛群動態を単に統計的に予測するだけでなく、個体の集合体として、個体ごとの違いや多様性を反映させた形で、牛群動態をより精緻に予測することが可能となる。
【0089】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。このため、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるべきではない。
【0090】
例えば、上述した実施形態で予測した牛群動態に基づいて、その牧場における将来の営業キャッシュフローを予測してもよい。営業キャッシュフローは、例えば、予測した牛群動態に基づいて、市場データや牧場の過去の実績に基づいて算出される餌代や販売単価、乳量、枝肉重量などを掛け合わせるなどして予測することができる。予測に用いる各種のパラメータを、変数として指定できるようにすることで、種々の条件下でユーザがシミュレーションを試行できるようになる。
【符号の説明】
【0091】
1…動態予測システム、2…サーバ装置、3…IoTセンサ、4…端末装置、21…プロセッサ、22…通信インタフェース、23…記憶装置、41…プロセッサ、42…通信インタフェース、43…記憶装置、44…入力装置、45…表示装置、211…記憶部、212…動態予測部、231…プログラム、232…データ
【要約】
【課題】個体ごとの違いを反映させた形で、家畜の群れである家畜群の動態を予測することができる動態予測システムを提供する。
【解決手段】動態予測システムは、家畜の群れである家畜群を構成する家畜の個体情報、家畜群を構成する個体の数、家畜群を構成する個体の健康状態情報及び家畜のライフサイクル情報を含む家畜群情報を記憶する記憶部211と、記憶部211に記憶された家畜群情報に基づいて、個体の数の推移を含む家畜群の動態を予測する動態予測部212と、を備え、個体の数及び健康状態情報の少なくとも一部は、家畜周辺のセンサにより取得されるデータに基づいて管理される。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6