IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電力変換装置 図1
  • 特許-電力変換装置 図2
  • 特許-電力変換装置 図3
  • 特許-電力変換装置 図4
  • 特許-電力変換装置 図5
  • 特許-電力変換装置 図6
  • 特許-電力変換装置 図7
  • 特許-電力変換装置 図8
  • 特許-電力変換装置 図9
  • 特許-電力変換装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241129BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021170072
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060449
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】服部 圭佑
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119109(WO,A1)
【文献】特開平08-047257(JP,A)
【文献】特開平08-289551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流回路と直流回路との間に接続された電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置と、
を備え、
前記電力変換器は、第1の6相サイリスタバルブと、前記第1の6相サイリスタバルブに直列に接続された第2の6相サイリスタバルブと、前記3相交流回路と前記第1の6相サイリスタバルブとの間に接続された第1変圧器と、前記3相交流回路と前記第2の6相サイリスタバルブとの間に接続され、前記第1変圧器の2次巻線に現れる電圧の位相が30°ずれた電圧の位相が現れるように2次巻線を構成された第2変圧器と、を含む12相変換器を含み、
前記制御装置は、前記3相交流回路で生じた事故に対応して発動され、前記電力変換器をゲートブロックすることなく再起動する再起動シーケンスを有し、前記再起動シーケンスが発動されると、前記第1の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、前記第2の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、
前記第1の6相サイリスタバルブにおいてバイパスペア状態とする相は、前記第2の6相サイリスタバルブにおいてバイパスペア状態とする相と同じ相であり、あらかじめ設定された電力変換装置。
【請求項2】
3相交流回路と直流回路との間に接続された電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置と、
を備え、
前記電力変換器は、第1の6相サイリスタバルブと、前記第1の6相サイリスタバルブに直列に接続された第2の6相サイリスタバルブと、前記3相交流回路と前記第1の6相サイリスタバルブとの間に接続された第1変圧器と、前記3相交流回路と前記第2の6相サイリスタバルブとの間に接続され、前記第1変圧器の2次巻線に現れる電圧の位相が30°異なる電圧の位相が現れるように2次巻線を構成された第2変圧器と、を含む12相変換器を含み、
前記制御装置は、前記3相交流回路で生じた事故に対応して発動され、前記電力変換器をゲートブロックすることなく再起動する再起動シーケンスを有し、前記再起動シーケンスを発動する指令を入力した後、あらかじめ設定されたタイミングで、前記第1の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、前記第1の6相サイリスタバルブにおいてバイパスペア状態とする相を決定した後、前記第1の6相サイリスタバルブのバイパスペア状態とされた相と同じ相を、前記第2の6相サイリスタバルブのバイパスペア状態とする相に決定する電力変換装置。
【請求項3】
3相交流回路と直流回路との間に接続された電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置と、
を備え、
前記電力変換器は、第1の6相サイリスタバルブと、前記第1の6相サイリスタバルブに直列に接続された第2の6相サイリスタバルブと、前記3相交流回路と前記第1の6相サイリスタバルブとの間に接続された第1変圧器と、前記3相交流回路と前記第2の6相サイリスタバルブとの間に接続され、前記第1変圧器の2次巻線に現れる電圧の位相が30°ずれた電圧の位相が現れるように2次巻線を構成された第2変圧器と、を含む12相変換器を含み、
前記制御装置は、前記3相交流回路で生じた事故に対応して発動され、前記電力変換器をゲートブロックすることなく再起動する再起動シーケンスを有し、前記再起動シーケンスを発動する指令を入力した後の所定のタイミングで、前記第1の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、前記所定のタイミングで、前記第2の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、その後、前記電力変換器の再起動の条件が成立したときに、前記第1の6相サイリスタバルブの起動を開始し、前記第2の6相サイリスタバルブの起動を開始し
前記制御装置は、前記第1の6相サイリスタバルブの起動を開始するタイミングが、前記第2の6相サイリスタバルブの起動の前であるか後であるか、および、前記第1の6相サイリスタバルブのバイパスペア状態とされた相が、前記第2の6相サイリスタバルブのバイパスペア状態とされた相と同じであるか異なっているか、にもとづいて、前記第1の6相サイリスタバルブの起動を開始するタイミングおよび前記第2の6相サイリスタバルブの起動を開始するタイミングを決定する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、他励式の電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流送電システムや周波数変換システム、BTB変換器等(以下、単に直流送電システム等ともいう)に他励式の電力変換装置が利用されている。他励式の電力変換装置では、交流回路への高調波の侵入を抑制するために多相の変換器が用いられることがあり、6相の変換器を2段直列接続し、30°の位相差で動作するようにした12相の変換器とすることがある(たとえば、特許文献1、2等参照)。
【0003】
直流送電システム等では、システムの起動、停止および事故発生時の保護動作時に、直流回路と交流回路とを電気的に分離するために、同一相のサイリスタバルブを導通させるバイパスペア(BPP)動作をさせることがある。
【0004】
事故時の直流送電システム等の保護動作では、その事故の程度によっては、変換器をゲートブロックにより停止させることなく、事故状態の解消後、変換器をすみやかに再起動する高速再起動シーケンスが実装される場合がある。
【0005】
高速再起動シーケンスでは、事故状態の解消後、すみやかに電力変換器を再起動させるため、停止シーケンスにおいて、ゲートブロック(GB)を介さずに、起動シーケンスに移行させる。このような高速再起動シーケンス時の停止および起動を通常の停止シーケンスおよび起動シーケンスにしたがって実行すると、12相の変換器を用いた電力変換装置の場合に、BPP動作する相によっては、動作が不安定になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭50-85835号公報
【文献】特開昭54-54234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、安定かつ迅速に再起動できる電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態の電力変換装置は、3相交流回路と直流回路との間に接続された電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御装置と、を備える。前記電力変換器は、第1の6相サイリスタバルブと、前記第1の6相サイリスタバルブに直列に接続された第2の6相サイリスタバルブと、前記3相交流回路と前記第1の6相サイリスタバルブとの間に接続された第1変圧器と、前記3相交流回路と前記第2の6相サイリスタバルブとの間に接続され、前記第1変圧器の2次巻線に現れる電圧の位相が30°ずれた電圧の位相が現れるように2次巻線を構成された第2変圧器と、を含む12相変換器を含む。前記制御装置は、前記3相交流回路で生じた事故に対応して発動され、前記電力変換器をゲートブロックすることなく再起動する再起動シーケンスを有し、前記再起動シーケンスが発動されると、前記第1の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、前記第2の6相サイリスタバルブの各相のうち直列に接続された相を導通させてバイパスペア状態とし、前記第1の6相サイリスタバルブにおいてバイパスペア状態とする相は、前記第2の6相サイリスタバルブにおいてバイパスペア状態とする相と同じ相であり、あらかじめ設定される。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態では、安定かつ迅速に再起動できる電力変換装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図2】第1の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図3図3(a)および図3(b)は、第1の実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
図4】第1の実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
図5】第1の実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
図6図6(a)および図6(b)は、比較例の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
図7】第2の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図8】第2の実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
図9】第3の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図10】第3の実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、電力変換装置10は、電力変換器20と、制御装置40と、を備える。電力変換装置10は、交流回路1と直流回路2との間に接続される。交流回路1は、3相の交流回路であり、交流電源や交流の送電線等を含むことができる。直流回路2は、直流送電線等を含むことができる。たとえば、電力変換装置10は、直流回路2を介して他の電力変換装置に接続されることにより、直流送電システム等を構成することができる。
【0013】
電力変換器20は、端子21a~21cを有する。電力変換器20は、端子21a~21cを介して、交流回路1に接続される。端子21aは、交流回路1のU相に接続され、端子21bは、交流回路1のV相に接続され、端子21cは、交流回路1のW相に接続されるものとする。電力変換器20は、端子21d,21eを有する。電力変換器20は、端子21d,21eを介して、直流回路2に接続される。直流電流は、端子21dから流出し、端子21eに流入するものとする。
【0014】
電力変換器20は、変圧器22,24を含む。変圧器22では、スター結線とされた1次巻線は、端子21a~21cに接続されている。変圧器22の2次巻線は、スター結線とされ、変換回路に接続されている。変圧器24では、スター結線とされた1次巻線は、端子21a~21cに接続されている。変圧器24の2次巻線は、Δ結線とされ、変換回路に接続されている。変圧器22,24の1次巻線をいずれもスター結線とし、変圧器22の2次巻線をスター結線、変圧器24の2次巻線をΔ結線とすることによって、変圧器24の2次巻線は、変圧器22の2次巻線に現れる3相交流電圧から30°の位相差のある3相交流電圧を出力する。
【0015】
電力変換器20は、12相分のサイリスタバルブ26を含む。1相分のサイリスタバルブ26は、図1では1つのサイリスタの回路図記号で表されているが、1つ以上のサイリスタを含んでいる。サイリスタバルブ26が複数のサイリスタを含む場合には、複数のサイリスタは、直列に接続される。サイリスタの直列数は、扱う交流電圧および直流電圧に応じて決定される。
【0016】
以下では、サイリスタバルブ26を3相の交流回路1の各相に応じて、バルブU1,V1,W1,U2,V2,W2と呼ぶことがある。バルブU1,X1は、直列に接続されている。バルブV1,Y1は、直列に接続されている。バルブW1,Z1は、直列に接続されている。バルブU1,X1、バルブV1,Y1およびバルブW1,Z1は、並列に接続され、変換回路を構成している。バルブU1,X1の直列回路、バルブV1,Y1の直列回路およびバルブW1,Z1の直列回路のそれぞれの直列接続ノードは、変圧器22の2次巻線に接続されている。
【0017】
バルブU2,X2は、直列に接続されている。バルブV2,Y2は、直列に接続されている。バルブW2,Z2は、直列に接続されている。バルブW1,Z1は、直列に接続されている。バルブU2,X2、バルブV2,Y2およびバルブW2,Z2は、並列に接続され、変換回路を構成している。バルブU2,X2の直列回路、バルブV2,Y2の直列回路およびバルブW2,Z2の直列回路のそれぞれの直列接続ノードは、変圧器24の2次巻線に接続されている。
【0018】
バルブU1~Z1による変換回路と、バルブU2~Z2による変換回路とは、端子21d,21eの間で直列に接続されている。バルブU1~Z1による変換回路は、端子21dとバルブU2~Z2による変換回路との間に接続されている。バルブU2~Z2による変換回路は、バルブU1~Z1による変換回路と端子21eとの間に接続されている。
【0019】
制御装置40は、BPP制御部50を含んでいる。制御装置40は、各種指令等を入力し、BPP制御部50によって、各種指令等に適応した各相バルブのためのゲートパルスを出力し、電力変換器20を制御する。各種指令等には、起動指令、停止指令、保護連動動作指令および高速再起動指令等が含まれる。これらの各種指令等は、図示しないが、たとえば、制御装置40の上位に設けられる上位制御装置から送出され、あるいは、交流回路1に設けられた電圧検出器や電流検出器等によって検出されたデータにもとづいて、制御装置40自身で生成される。
【0020】
本実施形態の電力変換装置10のBPP制御部50では、高速再起動指令の入力時に、バルブU1~Z1の変換回路でBPP動作する相およびバルブU2~Z2の変換回路でBPP動作する相があらかじめ設定されており、BPP動作する相は同じ相とされている。そのため、高速再起動時に、バルブU1~Z1の変換回路とバルブU2~Z2の変換回路とで、30°の位相差のゲートパルスによって、両方の変換器が順次動作を再開するので、電力変換器20を安定して再起動することができる。
【0021】
制御装置40は、電力変換器20の起動、停止、保護連動動作および高速再起動のほか、通常の運転時のためのゲートパルスを出力し、電力変換器20を制御する。制御装置40は、図示しないが、BPP制御部50によるゲートパルスの生成のほか、交流回路1の交流電圧を所望の直流電圧に変換し、直流回路2へ送出するためのゲートパルスを生成する構成要素を含んでいる。制御装置40は、交流電圧から直流電圧への変換に限らず、直流電圧から交流電圧への変換も行うためのゲートパルスを出力することができる。
【0022】
図2は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図2に示すように、BPP制御部50は、起動指令、停止指令、保護連動動作指令または高速再起動指令のいずれかを入力し、それぞれの指令に応じたBPP指令を生成する。BPP指令とは、電力変換器20をBPP状態とするための指令である。バイパスペア(BPP)とは、電力変換器20の直列に接続されたバルブを点弧して導通状態とすることをいう。BPP状態とした相をBPP相ということがある。たとえば、BPP指令によりU相をBPPすることとは、バルブU1,X1を導通させ、バルブU2,X2を導通させることであり、U相およびX相は、BPP相であるという。
【0023】
なお、直流送電システム等において、電力変換器をBPP動作させる意義は、次のとおりである。直流送電システムでは、直流送電線の両端に電力変換器が設けられる。このような直流送電システムにおいて、たとえば、INV側が停止状態で、BPP状態とせずにREC側を起動させると、送電線や電力ケーブル等のインダクタンスおよび静電容量によりREC端を含む振動回路系が形成され、直流送電線を含む直流回路に過電圧が発生する可能性がある。そこで、起動時に電力変換器をBPP状態とすることによって、直流回路の過電圧印加を防止することが可能となる。また、電力変換器を停止やBPP動作をともなう保護連動動作で停止させる場合には、その電力変換器をBPP状態とすることによって、交流系統に影響を与えないようにすることが可能になる。ここで、直流送電システムにおいて、REC側とは、交流を直流に変換する順変換器を指しており、REC端ともいう。INV側とは、直流を交流に変換する逆変換器を指しており、INV端ともいう。
【0024】
高速再起動BPP動作部(図2では、高速再起動BPP動作と表記)51は、入力された指令が高速再起動指令の場合に、固定相BPP回路52をイネーブルする。固定相BPP回路52は、イネーブルされると、あらかじめ設定されたBPP相の情報を、起動/保護/停止BPP動作回路53に供給する。起動/保護/停止BPP動作回路53は、供給された情報にしたがって、バルブをBPP状態とするようにゲートパルスを生成して出力する。本実施形態では、高速再起動シーケンスにおいて、BPP動作をする相は、バルブU1~Z1の変換回路およびバルブU2~Z2の変換回路で、同じ相とされる。たとえば、BPP制御部50は、高速再起動シーケンスに入ると、U1相、X1相、U2相およびX2相を点弧してBPP動作するようにゲートパルスを出力する。
【0025】
起動/保護/停止BPP動作部(図2では、起動/保護/停止BPP動作と表記)54は、入力された指令が、起動指令、保護連動動作指令または停止指令のいずれであるかを判定し、判定結果をBPP相決定回路55に供給する。BPP相決定回路55は、判定結果にもとづいて、BPP相とする相の情報を、起動/保護/停止BPP動作回路53に供給する。起動/保護/停止BPP動作回路53は、供給された情報にしたがって、BPP状態とするようにゲートパルスを出力する。
【0026】
本実施形態の電力変換装置10の動作について説明する。
図3(a)~図5は、本実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
以下、タイミングチャートという場合には、横軸を時間軸に代えて電気角をとるものとする。電気角は、360°(=2π[rad])を1周期とするので、周波数50Hzの交流の場合には、1周期が20msであり、電気角360°は、20msに対応する。したがって、以下の説明では、タイミングチャートの横軸は、実質的に時間軸と同じである。
【0027】
図3(a)には、通常の運転時において制御装置40が出力するゲートパルスの様子が示されている。図1において、バルブU1~Z1は、U1→Z1→V1→X1→W1→Y1の順に点弧する。バルブU2~Z2は、U2→Z2→V2→X2→W2→Y2の順に点弧する。バルブU1~Z1とバルブU2~Z2とでは、同じ相の点弧の位相がそれぞれ30°ずれるように設定されている。この例では、バルブU2の点弧位相は、バルブU1の点弧位相よりも30°遅れ、以降同様にして、バルブZ2の点弧位相は、バルブZ1の点弧位相よりも30°遅れて設定される。変圧器24の2次巻線から出力される交流電圧の位相が、変圧器22の2次巻線から出力される交流電圧の位相よりも30°遅れており、そのため、バルブU2~Z2は、バルブU1~Z1よりも点呼の位相が30°遅れて設定されている。
【0028】
バルブU1~Z1は、変圧器22のスター結線された2次巻線に接続されていることから、Y側のバルブ、あるいは単にY側のようにいうことがある。バルブU2~Z2は、変圧器24のΔ結線された2次巻線に接続されていることから、Δ側のバルブ、あるいは単にΔ側のようにいうことがある。したがって、この例では、Y側の点弧位相はΔ側の点弧位相よりも30°進んでいる。このような場合に以下では、Y側を進み側ということがあり、Δ側を遅れ側ということがある。なお、変圧器22の2次巻線の出力電圧の位相が、変圧器24の2次巻線の出力電圧の位相よりも遅れるように設定された場合には、Y側のバルブの点弧位相は、Δ側のバルブの点弧位相よりも30°遅れることとなる。
【0029】
図3(a)に示すように、制御装置40は、ゲートパルスをU1→U2→Z1→Z2→V1→V2→X1→X2→W1→W2→Y1→Y2を1周期(=360°)として、電力変換器20に出力する。制御装置40は、交流回路1側の電圧や電流、上位制御装置等により設定される直流電圧の指令値等にもとづいて、ゲートパルスの投入位相を設定する。制御装置40は、通常運転を行う場合には、BPP制御部50を介さずにゲートパルスを生成し、電力変換器20は、供給されたゲートパルスにしたがって動作する。
【0030】
ゲートパルスの生成の順序は、上述のように設定されている。制御装置40は、生成されたゲートパルスを出力する。制御装置40は、生成されたゲートパルスを電力変換器20に出力することをDEB(DEBlock)するといい、制御装置40がゲートパルスを電力変換器20に出力している状態をDEB状態という。BPP制御部50は、電力変換器20をDEB状態とするために、DEB指令を生成する。制御装置40がゲートパルスの生成および電力変換器20への供給を停止することをGB(Gate Block)状態という。制御装置40は、電力変換器20をGB状態とするためにGB指令を生成する。
【0031】
図3(b)には、電力変換器20が停止状態から起動する場合に制御装置40が出力するゲートパルスの様子が示されている。ただし、起動シーケンスの実行に際して、電力変換器20には直流回路2が接続されており、直流回路2を介して電流が流れ得るものとする。たとえば、上位制御装置が起動指令を制御装置40に送信し、制御装置40は、起動指令にもとづいて、電力変換器20を起動する。起動指令では、制御装置40は、ゲートパルスの生成を開始し、電力変換器20をBPP動作とするためのゲートパルスを出力して、電力変換器20をBPP状態にして、交流回路1から切り離す。その後、制御装置40自身の初期化等の設定が完了した後、制御装置40は、DEB指令を生成して、ゲートパルスを出力し、電力変換器20を起動させる。
【0032】
通常の起動の場合には、図2に示したBPP制御部50の起動/保護/停止BPP動作部54、BPP相決定回路55および起動/保護/停止BPP動作回路53によって、通常の起動時のBPP動作が決定され、BPP制御部50は、決定されたBPP動作のためのゲートパルスを生成し、電力変換器20に供給する。通常の起動シーケンスでは、制御装置40のBPP制御部50は、この例では、Y側に進み側BPP指令を生成し、Δ側に遅れ側BPP指令を生成する。なお、本実施形態では、Y側およびΔ側のうち、どちらが進み側となり、遅れ側となるかは、電力変換装置10の設置時に決定される。したがって、Y側の位相がΔ側の位相よりも遅れている場合には、制御装置40は、Y側に遅れ側BPP指令を生成し、Δ側に進み側BPP指令を生成する。
【0033】
より具体的には、電力変換装置10は、以下のように動作する。
図3(b)に示すように、θ1において、BPP制御部50は、起動指令にもとづいて、進み側BPP指令を生成し、Y側のU1相およびX1相を点弧してBPP状態とする。続いて、制御装置40は、遅れ側BPP指令により、θ1から30°遅れたθ2でΔ側のU2相およびX2相を点弧する。
【0034】
通常の起動時に、どの相をBPP状態とするかについては、あらかじめ設定された固定相とされ、たとえば、この例のように、U相、X相とすることができる。U相、X相に限らず、V相、Y相を起動時の固定相としてもよいし、W相、Z相を起動時の固定相としてもよい。
【0035】
このようにして、電力変換装置10は、進み側の相がBPP状態とされ、続いて遅れ側の相がBPP状態とされる。起動時のBPP指令では、同じ相のバルブが点弧される。この例では、U1相およびX1相が点弧され、それから30°遅れてU2相およびX2相が点弧される。これに限らず、V1相およびY1相が点弧された場合には、それから30°遅れてV2相およびY2相が点弧され、W1相およびZ1相が点弧された場合には、それから30°遅れてW2相およびZ2相が点弧される。
【0036】
図3(b)の破線は、制御装置40内で生成されているゲートパルスであり、DEB指令により出力可能なゲートパルスを示している。このようなゲートパルスは、電力変換器20には供給されないので、電力変換器20の停止状態は維持されている。破線で示されたゲートパルスの意味は、以下の図において同様である。
【0037】
θ3において、制御装置40は、起動のための設定が完了するので、DEB指令を生成することが可能となる。DEB指令は、進み側のバルブを点弧して動作させるための進み側DEB指令と、遅れ側のバルブを点弧して動作させるための遅れ側DEB指令とからなる。
【0038】
制御装置40は、θ3以降に、進み側DEB指令を生成し、ゲートパルスを出力する。進み側DEB指令では、BPP相と同じ相を点弧するようにタイミングが決定される。この例では、U相およびX相がBPP状態とされているので、制御装置40は、θ3以降でU1相を点弧するようにゲートパルスを出力する(θ4)。同時に、制御装置40は、BPP状態とされたX1相からY1相に転流するようにゲートパルスを出力する。
【0039】
遅れ側DEB指令は、進み側DEB指令が点弧した相と同じ相を点弧するようにゲートパルスを出力する。この例では、遅れ側DEB指令は、U2相およびY2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。進み側DEB指令および遅れ側DEB指令においては、BPP相のいずれか一方と同じ相を点弧すればよく、BPP相がU相およびX相であるこの例では、U相を点弧することに限らず、X相を点弧するようにしてもよい。進み側DEB指令および遅れ側DEB指令では、BPP相のうち一方をDEB状態とすることによって、DEB時に転流する相を1相とすることができ、転流による直流回路への影響を小さくすることができる。なお、DEB指令において、U相をDEB状態とする場合に、転流相は、Y相に限らずZ相としてもよい。
【0040】
このようにして、遅れ側DEB指令は、進み側DEB指令が生成された位相にもっとも近い30°遅れの位相とすることができるので、電力変換器20は、安定して起動される。
【0041】
なお、電力変換装置10を含む直流送電システム等の場合には、直流回路2を介して他の電力変換装置が接続される。この場合において、電力変換装置10をREC端とすると、上位制御装置からの起動指令によって、電力変換器20および他の電力変換装置をBPP状態とすることとされ、電力変換器20をDEB状態とした後に、他の電力変換装置をDEB状態とすることによって、直流送電システム等の全体を起動することができる。
【0042】
図4には、電力変換装置10が通常に停止する場合のゲートパルスの出力の様子が示されている。
通常の停止シーケンスにおいては、制御装置40は、停止指令の入力を判断すると、即座に停止時BPP指令を生成する。停止時BPP指令は、Y側およびΔ側の両方に同時に生成される。
図4に示すように、たとえば上位制御装置から停止指令が送信され、制御装置40が停止指令を受信したと判断すると、この例では、停止時BPP指令は、θ11で生成されている。BPP制御部50では、停止動作においては、進み側および遅れ側のそれぞれで、停止指令の入力前に導通している相に応じて、BPP動作する相があらかじめ設定されている。BPP動作する相は、BPP指令の直前に点弧された相にあらかじめ設定されてもよいし、BPP指令の直前に点弧された相の1つ前に点弧された相としてもよい。BPP指令により点弧する相をBPP指令の直前に点弧している相や1つ前に点弧している相とすることにより、BPP指令時に転流する相を1つにすることができるので、BPP指令時の直流回路2への影響を小さくすることができる。
【0043】
この例では、U相およびZ相が点弧され導通している状態であり、停止時BPP指令が生成されるθ11時点では、進み側では、停止時BPP指令の生成の直前に点弧されたZ1相の1つ前に点弧された相は、U1相である。また、遅れ側では、停止時BPP指令の生成の直前に点弧されたZ2相の1つ前に点弧された相は、U2相である。制御装置40は、U1相、X1相、U2相およびX2相を点弧するようにゲートパルスを出力してこれらをBPP状態とする。なお、停止時BPP指令生成時の直前に点弧された相をBPP相とする場合には、W1相、Z1相、W2相およびZ2相がBPP相とされる。
【0044】
停止時BPP指令によりBPP状態が設定された後、制御装置40は、停止のための処理を実行する。制御装置40は、θ12において所定の停止処理を完了すると、GB指令を生成し、すべてのゲートパルスの生成、出力を停止する。
【0045】
このようにして、電力変換装置10は、正常に停止される。
【0046】
なお、後述の比較例で説明するように、停止時BPP指令では、停止時BPP指令の生成タイミングにもとづいて同一の条件(生成タイミングの直前やその1つ前のタイミング等)でBPP相を決定する。そのため、停止時のBPP指令の生成タイミングによっては、進み側と遅れ側とで異なる相がBPP相とされることがある。たとえば、V1相とV2相の間の位相で停止時BPP指令が生成された場合には、停止時BPP指令の生成時点の直前に点弧した相の1つ前に点弧した相をBPP相とすると、進み側では、W1相およびZ1相がBPP相とされ、遅れ側では、U2相およびX2相がBPP相とされる。上述したような通常の停止シーケンスでは、その後GB指令が生成されるので、制御装置40は、ゲートパルスの生成を停止し、その後、図3(b)に関連して説明した通常の起動シーケンスにより電力変換器20を起動する。そのため、通常の停止および起動について不安定性等の問題を生ずることはない。
【0047】
また、電力変換装置10を含む直流送電システム等の場合には、以下のシーケンスにより直流送電システム等の全体を停止させることができる。すなわち、電力変換装置10をINV端であるものとし、上位制御装置からの停止指令によって、INV端である電力変換器20をBPP状態とし、REC端の他の電力変換装置を停止させた後に、電力変換器20をGB指令により停止させることとなる。このようにして、直流送電システム等の全体を停止させることができる。
【0048】
保護連動動作の場合について説明する。保護連動動作には複数の保護連動パターンがあるが、そのうち、BPP動作を経由する保護連動動作の場合には、上述した停止時と同様に、BPP動作を経由してGB動作となる。なお、保護連動動作とは、直流送電システムにおいて、直流回路や交流回路に異常が発生した場合に、発生した事故種類に応じた手順で直流送電システムを緊急停止させることをいう。
【0049】
次に、高速再起動の場合について説明する。高速再起動とは、事故等を検出した場合に、電力変換器をGBすることなく、事故等の解消後に迅速に再起動させることをいう。
図5には、制御装置40が電力変換器20を高速再起動させる場合のゲートパルスの出力の様子が示されている。
制御装置40が高速再起動シーケンスの実行を判断すると、BPP制御部50は、即座に高速再起動時BPP指令を生成し、あらかじめ設定されたBPP相を点弧するようにゲートパルスを出力する。高速再起動時BPP指令は、Y側およびΔ側の両方に同時に生成される。この例では、高速再起動時のあらかじめ設定されたBPP相は、U相およびX相とされている。
図5に示すように、θ21において、制御装置40は、高速再起動時BPP指令を生成する。BPP制御部50は、高速再起動時BPP指令の生成直前の導通相にかかわらず、U1相、X1相、U2相およびX2相を点弧するように、ゲートパルスを出力し、U相およびX相をBPP状態とする。
【0050】
制御装置40は、θ22において、再起動の条件が整ったことを判断する。制御装置40は、θ23において進み側DEB指令を生成する。進み側DEB指令では、制御装置40は、θ22以降で、進み側のバルブでBPP状態とされた相の点弧タイミングで点弧するようにゲートパルスを出力する。制御装置40は、θ22以降でU1相またはX1相の点弧タイミングが到来するのを監視し、この例では、制御装置40は、θ23においてX1相の点弧タイミングが到来するので、X1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。同時に、制御装置40は、BPP状態とされたU1相をV1相に転流するようにゲートパルスを出力する。
【0051】
制御装置40は、進み側DEB指令が生成された位相に30°遅れて、遅れ側DEB指令を生成する。BPP相は、進み側のバルブおよび遅れ側のバルブで同じ相とされているので、この例では、遅れ側DEB指令は、X2相を点弧するタイミングとすることができる。制御装置40は、X2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。また、制御装置40は、U2相をV2相に転流するように、ゲートパルスを出力する。
【0052】
このように、本実施形態の電力変換装置10では、BPP制御部50によって、高速再起動時のBPP相を、進み側と遅れ側とであらかじめ設定された同じ相としている。そのため、高速再起動指令が入力され、どのようなタイミングで再起動時BPP指令が生成されても、電力変換器20を安定して再起動することができる。
【0053】
本実施形態の電力変換装置10の効果について、比較例の場合と比較しつつ説明する。
図6(a)および図6(b)は、比較例の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
比較例の電力変換装置では、高速再起動指令時のBPP相が固定されておらず、通常の停止指令時および保護連動動作時のように、指令の生成の直前に導通している相に応じて、BPP相が決定される。なお、比較例の場合の通常の起動時や停止時、保護連動動作時のシーケンスは、本実施形態の場合と同じである。
図6(a)には、比較例の電力変換装置について、高速再起動時に正常に再起動する場合のゲートパルスの様子が示されている。
図6(b)には、比較例の電力変換装置について、高速再起動時に適切に再起動できない場合のゲートパルスの様子が示されている。
【0054】
比較例の電力変換装置では、高速再起動指令時にも、上述の図4に関連して説明した通常の停止時と同じタイミングでBPP指令が生成され、上述の図3(b)に関連して説明した通常の起動時と同じタイミングでDEB指令が生成される。
図6(a)に示すように、θ31において、制御装置は、高速再起動時BPP指令を生成する。比較例の場合には、進み側および遅れ側のそれぞれで、θ31の直前に点弧された相の1つ前に導通している相がBPP相とされる。この例では、進み側において、θ31の直前に点弧された相は、Z1相であり、Z1相の1つ前に点弧された相は、U1相である。したがって、進み側では、U1相およびX1相がBPP相とされる。遅れ側においては、θ31の直前に点弧された相は、Z2相であり、Z2相の1つ前に点弧された相は、U2相である。したがって、遅れ側では、U2相およびZ2相がBPP相とされる。制御装置は、これらの相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0055】
その後、θ32で再起動条件が成立し、θ32以降、進み側では、U1相またはX1相の点弧タイミングとなった時点でいずれか早い方のタイミングで進み側DEB指令が生成され、ゲートパルスが出力される。この例では、θ33でX1相の点弧タイミングとなるので、制御装置40は、進み側DEB指令によって、このタイミングで、X1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。制御装置40は、進み側DEB指令によって、θ33でX1相の点弧と同時に、U1相を転流するためにV1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。制御装置40は、V1相およびX1相の点弧位相に30°遅れて、θ34において遅れ側DEB指令を生成し、V2相およびX2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0056】
このように、この例の場合では、BPP動作する相が進み側および遅れ側で同じ相であるために、DEB指令時に30°の差をもって、適切な相を点弧させることができる。
【0057】
図6(b)に示すように、この例では、BPP動作する相が進み側および遅れ側で異なっている。具体的には、進み側では、U1相およびX1相がBPP相であり、遅れ側では、V2相およびY2相がBPP相とされている。図6(b)の例では、BPP指令が生成されるθ41の直前に導通している相の1つ前に導通している相は、進み側ではU1相であり、遅れ側ではY2相である。なお、図では示されていないが、θ41の1つ前は、U2相であるため、U2相の1つ前に点弧される相は、Y2相である。そのため、制御装置は、U1相およびX1相をBPP動作するように、ゲートパルスを出力し、V2相およびY2相をBPP動作するように、ゲートパルスを出力する。
【0058】
その後、θ42で再起動条件が成立すると、進み側でBPP動作したX1相の点弧タイミングで進み側DEB指令が生成され、制御装置は、θ43において、V1相およびX1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。制御装置は、θ43以降で、遅れ側DEB指令によって、BPP動作したV2相またはY2相のうち早く到来する方を点弧するようにゲートパルスを出力する。遅れ側DEB指令は、進み側DEB指令よりも30°以上遅れて生成される。そのため、より早く到来するのは、Y2相の点弧タイミングθ44であるが、進み側DEB指令による点弧タイミングθ43よりも150°遅れている。
【0059】
このように、比較例の場合には、再起動時におけるDEB指令時の点弧タイミングに対して、遅れ側の点弧タイミングが大幅に遅れることがある。そのため、電力変換器20の起動時間がより長くかかることとなり、直流電圧不足等の状態となり得る。電力変換装置に直流電圧不足保護機能や、起動時間についての保護機能等が内蔵される場合には、起動が完了せずに保護機能が動作したり、起動が不安定になったりする場合が生じ得る。
【0060】
上述したように、比較例の電力変換装置では、再起動時にBPP相となるための条件が進み側および遅れ側でそれぞれ設定され、進み側および遅れ側の異なる相でBPP動作となる場合がある。進み側および遅れ側で異なるBPP相となるのは、BPP指令が、進み側と遅れ側とで、同じ相の後で生成されるか、異なる相の後で生成されるかの相違である。そのため、遅れ側の点弧タイミングが大幅に遅れる確率は、1/2であり、高速再起動時の不安定現象も1/2の確率で生じ得ることとなる。
【0061】
本実施形態の電力変換装置10では、制御装置40が高速再起動時のBPP相をあらかじめ設定された特定の相とするBPP制御部50を有しているので、進み側および遅れ側でBPP動作する相が異なることがない。したがって、安定して、高速再起動シーケンスを実行することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
上述の他の実施形態では、高速再起動時にBPP動作する相をU相およびX相等のように固定とすることによって、高速再起動時に不安定動作等を生ずることを回避することができる。一方、制御装置内の信号の遅延やサイリスタのターンオン時間等によって、実際にBPP動作が完了するまでの遅れが生じることがあり、BPP動作に入るまでに他相から転流させる必要が生じる場合がある。本実施形態では、高速再起動時にBPP動作する相を固定せずに、進み側または遅れ側のいずれか一方の側で先にBPP動作を決定し、その後、他方の側についても、すでに決定されたBPP相と同じ相となるようにBPP相を決定する。
【0063】
図7は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
本実施形態では、制御装置が有するBPP制御部250の構成が上述した他の実施形態の場合と相違する。
【0064】
図7に示すように、BPP制御部250は、進み側のBPP動作を決定する第1回路251と、遅れ側のBPP動作を決定する第2回路252と、を含んでいる。なお、制御装置は、BPP制御部250のほか、図示しないが、起動指令、停止指令および保護連動動作指令にもとづいてBPP動作する相を決定する回路も含んでいる。この回路は、たとえば、図2に関連して説明した起動/保護/停止BPP動作部54、BPP相決定回路55および起動/保護/停止BPP動作回路53を含んでいる。なお、起動指令、停止指令および保護連動動作にもとづくBPP動作は、上述の場合と同様とすることができる。
【0065】
第1回路251では、高速再起動指令が高速再起動BPP動作部253に入力されると、高速再起動BPP動作部253は、導通相の情報をBPP相決定回路254に供給する。BPP相決定回路254は、高速再起動指令をBPP指令と解釈し、BPP指令の入力後のあらかじめ設定されたタイミングでBPP動作する相を決定する。BPP指令の入力後のあらかじめ設定されたタイミングでBPP動作する相を決定することとは、たとえば、BPP指令が入力されたタイミングの直前に点弧された相を点弧することである。あるいは、BPP動作する相は、BPP指令が入力されたタイミングの直前に点弧された相の1つ前に点弧された相としてもよい。BPP相決定回路254は、BPP動作する相に関する情報を起動/保護/停止BPP動作回路255に供給し、起動/保護/停止BPP動作回路255は、対象の相を点弧するためのゲートパルスを生成して出力する。
【0066】
第2回路252では、高速再起動BPP動作部256に高速再起動指令が入力されると、高速再起動BPP動作部256は、高速再起動指令をBPP指令と解釈し、BPP指令が入力されたタイミングでアクティブとなる信号をBPP相決定回路257に供給する。BPP相決定回路257には、第1回路251によって決定されたBPP動作する相の情報が入力される。BPP相決定回路257は、第1回路251から入力されたアクティブとされた情報と、高速再起動BPP動作部256からのアクティブ信号の論理積をとって、起動/保護/停止BPP動作回路258に供給する。起動/保護/停止BPP動作回路258は、BPP相決定回路257で決定されたBPP動作する相を点弧するようにゲートパルスを生成し、出力する。
【0067】
本実施形態の電力変換装置の動作について説明する。
図8は、本実施形態の電力変換装置の動作を例示する模式的なタイミングチャートである。
図8に示すように、制御装置は、θ51において高速再起動指令が発動されたと判断すると、即座に進み側BPP指令を生成する。このときのBPP相は、θ51の直前に点弧されたZ1相の1つ前に点弧されたU1相を含む相とされる。すなわち、U1相およびX1相がBPP相とされ、第1回路251は、U1相およびX1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0068】
第2回路252は、第1回路251が生成した点弧相の情報にもとづいて、BPP相を決定する。この例では、第1回路251は、U1相およびX1相をBPP相としたので、第2回路252は、U2相およびX2相をBPP相とするべく、U2相およびX2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0069】
制御装置は、θ53において、再起動の条件が整ったことを判断する。制御装置は、θ54において進み側DEB指令を生成する。進み側DEB指令では、制御装置は、θ53以降で、進み側でBPP状態とされた相の点弧タイミングのうち先に到来する相の点弧タイミングで点弧するようにゲートパルスを出力する。この例では、制御装置は、BPP相がU1相およびX1相とされており、θ53以降で先に点弧タイミングが到来するX1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。同時に、制御装置は、BPP状態とされたU1相をV1相に転流するようにゲートパルスを出力する。
【0070】
制御装置は、進み側DEB指令の位相に30°遅れて、遅れ側DEB指令を生成する。BPP相は、進み側および遅れ側で同じ相とされているので、遅れ側DEB指令は、X2相を点弧するタイミングとすることができ、制御装置は、X2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。また、制御装置は、U2相をV2相に転流するように、ゲートパルスを出力する。この例では、進み側のBPP相を先に決定し、その後、遅れ側のBPP相を決定したが、遅れ側のBPP相を先に決定して(たとえば遅れ側を第1回路に設定)、その後、進み側のBPP相を決定するようにしてもよい(たとえば進み側を第2回路に設定)。
【0071】
このように、本実施形態の電力変換装置では、進み側および遅れ側のうちの一方の側で決定されたBPP相の情報にもとづいて、他方の側のBPP相を決定する。そのため、DEB指令時の最短の30°遅れで遅れ側を起動することができ、安定した起動を確保することが可能になる。
【0072】
(第3の実施形態)
上述の他の実施形態の場合には、高速再起動時のBPP指令を、進み側および遅れ側で同じ相とすることにより、遅れ側のバルブに、進み側のバルブの起動から最短でDEB指令を供給できるとするものである。本実施形態では、BPP相を固定せず、異なる相でBPPとなったことを判定し、判定結果にもとづいて、進み側および遅れ側のDEB指令の順序を設定する。
図9は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
本実施形態では、BPP制御部350は、Y側およびΔ側のそれぞれに設けられる。図9には、Y側またはΔ側の一方の構成が示されている。たとえば、図9のBPP制御部350はY側のBPP指令およびDEB指令の生成のために設けられ、図示しない他のBPP制御部はΔ側のBPP指令およびDEB指令の生成のために設けられている。
【0073】
以下の説明では、図示の構成を有するBPP制御部350がY側のBPP指令およびDEB指令の生成のために用いられるものとして説明する。
図9に示すように、Y側のBPP制御部350の相手側DEB入力部(図9では、相手側DEBと表記)351には、図示しないΔ側のBPP制御部の出力が接続される。いずれのBPP制御部も、DEB指令を生成するとアクティブな信号を出力する。図9では、「DEB条件成立」と表示されている。Y側およびΔ側のいずれの相手側DEB入力も初期的には、非アクティブな信号(“0”)が入力された状態である。
【0074】
相手側DEB入力部351に入力された“0”(非アクティブ)または“1”(アクティブ)の2値信号は、AND回路354に入力される。
【0075】
Y側の進み側判定部(図9では、進み側と表記)352には、Y側の電圧の位相がΔ側の電圧の位相に対して進んでいるか、遅れているかを表す2値信号が入力される。Y側の位相がΔ側の位相よりも進んでいるときには、アクティブな信号(“1”)が入力される。図示しないΔ側の進み側判定部には、非アクティブな信号(“0”)が入力される。
【0076】
また、Y側の位相がΔ側の位相よりも遅れているときには、Y側の進み側判定部352には、非アクティブな信号(“0”)が入力され、Δ側の進み判定部には、アクティブな信号(“1”)が入力される。Y側およびΔ側のそれぞれの進み側判定部には、たとえば、電力変換装置の設置時に、バルブU1~Z1の変換器が進み側であるのか、バルブU2~Z2の変換器が進み側であるのかを実測等することにより判断し、あらかじめ設定されたレベルの信号が入力される。
【0077】
同相BPP判定部(図9では、同相BPPと表記)353には、BPP指令によりBPP相とされたY側の相とΔ側の相とが、同じ相の場合に、アクティブな信号(“1”)が入力される。Y側の相とΔ側の相とが、異なる相の場合には、非アクティブな信号(“0”)が入力される。本実施形態では、BPP制御部350は、高速再起動指令を入力すると即座にBPP指令生成し、Y側およびΔ側に同時に出力する。BPP制御部350は、BPP指令の生成されたタイミングの直前に点弧された相、またはBPP指令の生成されたタイミングの直前の1つの前に点弧された相にあらかじめ設定されている。
【0078】
XOR回路(図9では、XORと表記)355には、進み側判定部352および同相BPP判定部353から出力される信号が入力される。XOR回路355は、排他的論理和を論理演算して出力する演算回路であり、排他的論理和は、入力が両方とも“1”の場合および両方とも“0”の場合に、“0”を出力する。排他的論理和は、入力されるの一方が“1”で他方が“0”の場合には、“1”を出力する。つまり、XOR回路355は、Y側の電圧位相がΔ側より進んでおり(“1”)、かつ、BPP指令によりBPP相とされた相が同じである(“1”)場合に非アクティブ(“0”)な信号を出力し、Y側の電圧位相がΔ側よりも遅れており(“0”)、BPP相とされた相が異なっている(“0”)場合に、非アクティブな信号(“0”)を出力する。その他の場合には、XOR回路355は、アクティブな信号(“1”)を出力する。
【0079】
XOR回路355の出力は、AND回路354に入力される。また、XOR回路355の出力は、インバータ回路356に入力されて論理反転される。
【0080】
AND回路354の出力およびインバータ回路356の出力は、OR回路357に入力され、OR回路357は、DEB指令を出力する。
【0081】
このような論理構成とすることにより、Y側が進み側となり、BPP相が同じ相の場合であっても、BPP相が異なる相の場合であっても、30°の位相差を有する相を順にDEB指令により点弧するようにゲートパルスを出力することができる。また、Y側が遅れ側となり、BPP相が同じ相の場合であっても、BPP相が異なる相の場合であっても、30°の位相差を有する相を順にDEB指令により点弧するようにゲートパルスを出力することができる。
【0082】
本実施形態の電力変換装置の動作について説明する。
図10は、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのタイミングチャートの例である。
図10には、上述した他の実施形態の場合と同様に、Y側が進み側であり、Δ側が遅れ側とされた場合に出力されるゲートパルスの様子が示されている。
図10に示すように、制御部350は、θ61において、高速再起動指令が発動されたと判断すると、即座に高速再起動時BPP指令を生成する。この例では、図6(b)に関連して説明した場合と同様に、Y側では、θ61の直前に点弧されたZ1相の1つ前に点弧されたU1相がBPP相とされ、BPP制御部350は、X1相とともに点弧するようにゲートパルスを出力する。Δ側では、θ61の直前に点弧されたU2相の1つ前に点弧されたY2相がBPP相とされ、他のBPP制御部は、Y2相とともにV2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0083】
BPP制御部350は、Y側のBPP相とΔ相のBPP相が異なる相であると判断し、Y側の同相BPP入力部353には、“0”が入力される。また、Y側は進み側であるため、Y側の進み側判定部352には、“1”が入力される。したがって、OR回路357の一方の入力は、“0”となり、相手側DEB入力部351が初期状態の“0”であるため、BPP制御部350のY側の判定部分の出力は、初期的に“0”である。Y側の判定部分は、Δ側の判定部分が出力する“1”を相手側DEB入力351に入力することによって、アクティブなDEB指令(“1”)を出力する。
【0084】
ここで、Δ側の判定部分では、進み側判定部の入力は“0”であり、同相BPP判定部の入力も“0”であるため、XOR回路355の出力は“0”となる。そのため、OR回路の一方の入力は、他方の入力にかかわらず、“1”となって、他のBPP制御回路は、DEB指令を出力可能となる。
【0085】
具体的には、θ62で再起動条件が成立し、θ63でΔ側がDEB指令を生成し、制御装置は、V2相およびZ2相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0086】
Y側のBPP制御部350は、θ63において、Δ側のBPP制御部が出力するDEB指令“1”を相手側DEB入力部351に入力する。BPP制御部350のAND回路354の入力は、いずれも“1”となるので、BPP制御部350は、Y側のDEB指令として“1”を出力する。30°遅れてθ64において、X1相の点弧タイミングが到来するので、BPP制御部350は、θ64において、X1相およびV1相を点弧するようにゲートパルスを出力する。
【0087】
このようにして、本実施形態の電力変換装置では、Y側のバルブおよびΔ側のバルブで異なる相がBPP状態とされた場合であっても、先にDEB指令を生成したのち、30°に隣接して点弧する相を点弧することができる。そのため、本実施形態の電力変換装置は、高速再起動シーケンスにおいても、安定して再起動することができる。
【0088】
以上説明した実施形態によれば、安定かつ迅速に再起動できる電力変換装置を実現することができる。
【0089】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 交流回路、2 直流回路、10 電力変換装置、20 電力変換器、22,24 変圧器、26 サイリスタバルブ、40 制御装置、50,250,350 BPP制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10