(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/426 20210101AFI20241129BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20241129BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20241129BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20241129BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20241129BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20241129BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20241129BHJP
【FI】
H01M50/426
H01G11/52
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/44
H01M50/446
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2020066080
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂と無機粒子ならびに繊維集合体を備える、電気化学素子用セパレータであって、
前記繊維集合体を構成する繊維は、有機ポリマーで構成された繊維のみであり、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂によって前記無機粒子が前記繊維集合体に担持されており、
ガーレ値が8秒/100cc以上35秒/100cc以下である、電気化学素子用セパレータ(但し、
前記繊維集合体が導電性繊維を含むものを除くと共に、前記無機粒子が導電性粒子であるものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば電気自動車やハイブリッドカーならびにドローンなどの運行可能距離を延長するため、また、電気機器の小型化や軽量化の要望をかなえるため、その電源に対して出力特性の向上が求められている。そして、そのような電源を実現できるよう、電源の構成部材である二次電池やキャパシタなどの電気化学素子用セパレータには、電源の内部抵抗を低くして電源の出力特性を向上できることが求められている。
【0003】
更に、高温条件下に曝された場合や発熱した場合であっても電源に内部短絡が発生するのを防止できるよう、電気化学素子用セパレータには耐熱性の向上が求められている。そして、耐熱性に優れる電気化学素子用セパレータとして、多孔質基材へバインダ樹脂によって無機粒子を担持してなる電気化学素子用セパレータが検討されている。
【0004】
このような電気化学素子用セパレータとして、国際公開公報WO2014/147888(特許文献1)には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂によって無機粒子が多孔質基材に担持されてなる電気化学素子用セパレータが開示されている。
なお、特許文献1には、電気化学素子用セパレータのイオン透過性の観点から、JIS P8117に従い測定されたガーレ値は400秒/100cc以下が好ましいとの開示があり、実施例にはガーレ値が130~257秒/100ccの電気化学素子用セパレータを製造したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/147888(特許請求の範囲、0068、0103、実施例など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本願出願人が検討を続けた結果、特許文献1が開示するような従来技術にかかる電気化学素子用セパレータはなおも通イオン特性に劣り内部抵抗が高いことがあり、出力特性に優れる電源を提供できないことがあった。そのため、より内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な、電気化学素子用セパレータの提供が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「ポリフッ化ビニリデン系樹脂と無機粒子ならびに繊維集合体を備える、電気化学素子用セパレータであって、
前記繊維集合体を構成する繊維は、有機ポリマーで構成された繊維のみであり、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂によって前記無機粒子が前記繊維集合体に担持されており、
ガーレ値が8秒/100cc以上35秒/100cc以下である、電気化学素子用セパレータ(但し、前記繊維集合体が導電性繊維を含むものを除くと共に、前記無機粒子が導電性粒子であるものを除く)。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本願出願人が検討した結果、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂と無機粒子ならびに繊維集合体を備える、電気化学素子用セパレータであって、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂によって前記無機粒子が前記繊維集合体に担持されて」なるという構成を有する電気化学素子用セパレータにおいて、当該電気化学素子用セパレータのガーレ値を最適化することで、従来技術よりも通イオン特性に優れ内部抵抗の低い電気化学素子用セパレータを提供できることを見出した。
【0009】
一般的に電気化学素子用セパレータのガーレ値が小さいほど通気性に優れ、電気化学素子用セパレータの両主面間を流体が通過し易いことを意味している。具体的に、本願出願人は後述する実施例と比較例の作成を通し、ガーレ値が44秒/100cc未満であるときに、より内部抵抗の低い電気化学素子用セパレータを提供し得ることを見出した。
このようなガーレ値が小さい電気化学素子用セパレータではこれまで、両主面間をイオンが通過し易いことで内部抵抗が低下しているものであると考えられてきた。つまり、この知見に基づけば、ガーレ値が0秒/100ccに近付くほど電気化学素子用セパレータの通イオン特性は向上すると考えられてきた。
【0010】
しかし、この考えに対し本願出願人は、電気化学素子用セパレータがガーレ値の小さ過ぎる繊維集合体を備えている場合には、逆に、電気化学素子用セパレータの内部抵抗が上昇する現象を見出した。
当該現象が発生する理由は完全には明らかにできていないが、本願出願人は、本発明にかかる構成を有する電気化学素子用セパレータが、6秒/100cc以下のガーレ値が小さ過ぎる繊維集合体を備えている場合には、電気化学素子用セパレータを構成する繊維の存在が少ないことに起因して、電解液が電気化学素子用セパレータ中(構成繊維間)に十分保持できず保液性が低下して、電気化学素子用セパレータの内部抵抗が上昇すると考えた。
【0011】
まとめると、本発明にかかる構成を有する電気化学素子用セパレータでは、ガーレ値が小さいほど両主面間を流体が通過し易いことに由来して通イオン特性が向上するものの、ガーレ値が6秒/100cc以下になると保液性が低下していることに起因して、逆に、電気化学素子用セパレータの内部抵抗が上昇すると考えられた。
そして、当該両作用効果が発揮される結果、本発明にかかる構成を有する電気化学素子用セパレータにおいて、通イオン特性が総合的に向上するのは「ガーレ値が6秒/100ccより高く44秒/100cc未満」のときであることを見出した。
【0012】
以上から、本発明により内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0014】
本発明の電気化学素子用セパレータを構成する繊維集合体は、主として電気化学素子用セパレータの骨格を成す役割を担う。
【0015】
繊維集合体の種類は適宜選択できるが、例えば、不織布や繊維ウェブ、織物あるいは編物などの布帛であり、これら素材単体や、単一種類の素材を複数積層したもの複数種類の素材を複数積層したものを使用できる。特に、繊維がランダムに存在することで、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、繊維集合体は繊維ウェブや不織布を備えているのが好ましく、繊維集合体は繊維ウェブや不織布のみで構成されているのがより好ましい。
【0016】
特に不織布や繊維ウェブの空隙に、短繊維及び/又はフィブリルを有するパルプ状繊維が入り込んだ二層構造の繊維集合体であると、繊維集合体の孔径が均一かつ緻密な構造であり、デンドライトによる短絡防止性により優れると共に、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供し易いため好適である。
【0017】
繊維集合体を構成する繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース繊維、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーを用いて構成できる。
【0018】
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機ポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。更には、多成分の有機ポリマーを混ぜ合わせたものでも良い。
【0019】
特に、耐熱性に優れる電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、繊維集合体は構成繊維として耐熱性に富む繊維(例えば、アラミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維など)を備えているのが好ましく、繊維集合体の構成繊維は当該繊維のみであるのがより好ましい。
【0020】
繊維集合体の構成繊維は、例えば、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(例えばメルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0021】
また、繊維集合体は構成繊維として横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0022】
繊維集合体の構成繊維は、一種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも、複数種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機ポリマーから構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0023】
繊維集合体は構成繊維として接着繊維を含んでいてもよい。接着繊維を含むことで、繊維集合体の強度を向上でき好ましい。接着繊維の種類は適宜選択するが、例えば、芯鞘型接着繊維、サイドバイサイド型接着繊維、あるいは、全溶融型接着繊維を採用することができる。
【0024】
繊維集合体が不織布である場合、不織布として、例えば、カード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせて不織布の態様とする乾式不織布、繊維を液体に分散させた分散液をシート状に抄き上げ不織布や繊維ウェブの態様とする湿式不織布、直接紡糸法(例えばメルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集してなる不織布などが挙げられる。また、不織布の主面上に繊維の分散液をシート状に抄き上げ、二層構造の不織布を調製しても良い。
【0025】
繊維集合体の構成繊維同士を絡合および/または一体化する方法は適宜選択できるが、例えば、ニードルや水流によって繊維同士を絡合する方法、繊維同士をバインダで一体化する方法、あるいは、熱可塑性樹脂を備える繊維を含んでいる場合には、加熱処理によって前記熱可塑性樹脂を融解もしくは軟化して、繊維同士を一体化する方法などを挙げることができる。なお、加熱処理する方法として、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して熱可塑性樹脂繊維を融解させる方法などを用いることができる。あるいは、直接紡糸法を用いて紡糸された繊維を捕集することで、繊維集合体を調製してもよい。
【0026】
なお、繊維集合体が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を、織るあるいは編むことで調製できる。
【0027】
繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が細いほど、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供し易いこと、また、繊維集合体の強度を向上して電気化学素子用セパレータに破断が生じるのを防止できると共に、空隙の大きさを均一かつ小さくして内部短絡の発生を防止できる傾向がある。そのため、布帛を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、20μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましく、5μm以下であるのが最も好ましい。なお、繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、フィブリルを有するパルプ状繊維ではない単繊維の平均繊維径は0.1μm以上であるのが現実的である。
なお、本発明でいう「平均繊維径」は、繊維集合体や電気化学素子用セパレータの主面や断面の電子顕微鏡写真に写る繊維から選出した、100本の繊維の繊維直径の算術平均値であり、繊維直径は繊維の断面積と同じ面積をもつ円の直径をいう。
【0028】
また、繊維集合体を構成する繊維の繊維長も適宜選択するが、また、不織布基材構成繊維の繊維長は繊維が均一に分散しており、均一に電解液を保持しやすいように、0.1~20mmであるのが好ましく、0.5~15mmであるのがより好ましく、1~10mmであるのが更に好ましい。なお、「繊維長」は不織布基材又はセパレータの主面における電子顕微鏡写真を観察した時の、繊維の伸長する方向における長さを意味する。繊維が均一に分散してなる繊維集合体であることによって、均一に電解液を保持でき、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、繊維長は0.1~20mmであるのが好ましく、0.5~15mmであるのがより好ましく、1~10mmであるのが更に好ましい。あるいは、繊維の製造方法によっては連続繊維であることもできる。
なお、「繊維長」は繊維集合体や電気化学素子用セパレータの主面における電子顕微鏡写真を観察した時の、繊維の伸長する方向における長さを意味する。
【0029】
また、繊維集合体は、平均繊維径および/または繊維長の点で異なる繊維を2種類以上含んでも良い。
【0030】
繊維集合体の構成繊維はフィブリルを有するパルプ状繊維であっても良いし、フィブリルを有するパルプ状繊維を有しない繊維であっても良いが、構成繊維にフィブリルを有するパルプ状繊維を含んでいると、繊維集合体の孔径が均一かつ緻密な構造であり、デンドライトによる短絡防止性により優れ、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供し易いため好適である。
【0031】
繊維集合体は親水化処理を施されていてもよい。繊維集合体を親水化する方法は適宜選択するが、例えば、プラズマ処理やスルホン化処理、フッ素処理もしくはコロナ帯電処理などへ供する方法を挙げることができる。
【0032】
繊維集合体の、例えば、厚さや目付などの諸構成は、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを得られるように適宜調整する。
目付は3~40g/m2であることができ、5~25g/m2であることができる。なお、本発明でいう「目付」は、主面における1m2あたりの質量をいい、本発明において主面とは面積が広い部分の面をいう。
また、厚さは、5~60μmであることができ、8~40μmであることができる。本発明でいう「厚さ」は、JIS B7502に規定されている外側マイクロメーター(0~25mm)を用いて、JIS C2111 5.1(1)の測定法で、無作為に選んで測定した10点の平均値をいう。
【0033】
本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、無機粒子は主として耐熱性を付与すると共に、繊維集合体の空隙の大きさを小さくして内部短絡の発生を防止する役割を担う。
【0034】
無機粒子の種類は適宜選択するが、例えば、SiO2(シリカ)、Al2O3(アルミナ)、アルミナ-シリカ複合酸化物、TiO2、BaTiO2などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物などを使用することができる。
【0035】
使用する無機粒子の形状は、例えば、球状(略球状や真球状)、繊維状、針状、平板状、多角形立方体状、羽毛状などから適宜選択することができる。繊維集合体の表面や空隙に無機粒子が均一に存在することによって、繊維集合体の空隙の大きさを小さくして内部短絡の発生を防止できると共に、耐熱性に優れる電気化学素子用セパレータを提供できるよう、球状(略球状や真球状)の無機粒子を採用するのが好ましい。
【0036】
本発明で使用できる無機粒子の平均粒子径は適宜調整するが、繊維集合体の表面や空隙に無機粒子が均一に存在することによって、繊維集合体の空隙の大きさを小さくして内部短絡の発生を防止できると共に、耐熱性に優れる電気化学素子用セパレータとなるように、無機粒子の平均粒子径は、例えば、2μm以下とすることができ、1μm以下とすることができる。
【0037】
無機粒子の平均粒子径の下限値は適宜調整するが、無機粒子の平均粒子径が小さすぎると繊維集合体の空隙が無機粒子によって閉塞し易くなり、通イオン特性に劣り内部抵抗が高い電気化学素子用セパレータとなるおそれがある。そのため、無機粒子の平均粒子径は0.05μm以上であるのが好ましく、0.1μm以上であるのがより好ましく、0.2μm以上であるのが最も好ましい。
【0038】
なお、無機粒子の平均粒子径は、無機粒子を大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)に供して、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求めることができる。つまり、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示したデータにおける無機粒子の累積値50%点の粒子径D50(以降、D50と略して称する)を、無機粒子の平均粒子径とする。なお、測定に使用する分散液は温度25℃に調整し、25℃の水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0039】
また、無機粒子の粒子径分布は適宜調整するが、粒子径の大きな無機粒子が多数存在する場合には無機粒子が脱落してピンホールが形成され易くなる恐れがあり、粒子径の小さな無機粒子が多数存在する場合には繊維集合体の空隙が閉塞し易くなる恐れがある。
そのため、無機粒子の粒子径分布は(D50/2)以上(D50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお、無機粒子の粒子径分布は前述した動的光散乱法の測定で得られた、散乱強度から得られた粒子径測定データから求める。
【0040】
電気化学素子用セパレータの質量に占める無機粒子の質量の百分率が高い電気化学素子用セパレータでは、搬送時や電気化学用素子の製造時などの取り扱い時、および/または、電気化学素子の使用中に無機粒子が脱落し易い傾向がある。無機粒子が脱落した電気化学素子用セパレータを備えてなる電気化学素子は、その充放電性能や安全性が意図せず低下する恐れがあることから、電気化学素子用セパレータの質量に占める無機粒子の質量の百分率は、40質量%未満であるのが好ましく、36.7質量%以下であるのが好ましい。
【0041】
本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、主として繊維集合体に無機粒子を担持する役割を担う。本発明でいうポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、分子構造中に(-CH2-CF2-)という化学構造を有する有機樹脂である。ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体などを挙げることができる。
特に、ポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体は、繊維集合体に無機粒子を担持する能力に優れている(例えば、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体よりも優れている)と共に、高温条件下であっても繊維集合体に無機粒子を担持する能力を維持できるという性能に優れている。そのため、高温条件下でも内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータであるように、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としてポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体を採用するのがより好ましい。
【0042】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は金属イオンと相互作用することで金属イオンの拡散を防ぐバリア層としての機能を発揮できる。その結果、過放電後であっても再度充放電が可能となり良好なサイクル特性を維持でき、デントライトによる短絡防止性に優れる電気化学素子用セパレータを提供できる。更に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は耐熱性に優れている。その結果、その製造工程である加熱乾燥工程や使用中に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が溶融し難く、耐熱性に優れる電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0043】
なお、ポリエチレンオキサイドも、金属イオンと相互作用することで金属イオンの拡散を防ぐバリア層としての機能を発揮可能な樹脂ではあるが、ポリエチレンオキサイドの融点は約66℃であり、100℃を超える高い融点を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂よりも耐熱性に劣る。そのため、バインダ樹脂としてポリエチレンオキサイドを採用してなる電気化学素子用セパレータ(特に、バインダ樹脂としてポリエチレンオキサイドのみを採用してなる電気化学素子用セパレータ)は、その製造工程である加熱乾燥工程や使用中に、ポリエチレンオキサイドが溶融して、電気化学素子用セパレータの構造が変化し易い。その結果、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を提供できなくなる、および/または、電源に内部短絡を発生させる原因となる。
【0044】
また、製造した電気化学素子用セパレータ中に水分などの溶媒や分散媒が残留していると、電源の性能が低下する恐れがある。このような問題が発生するのを防止するためには、電気化学素子用セパレータの製造工程で、繊維集合体や電気化学素子用セパレータを80℃以上や90℃以上望ましくは100℃以上の温度で乾燥するのが望ましい。このような乾燥処理へ供した場合であっても、電気化学素子用セパレータの構造が変化し難いよう、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を採用するのが好ましい。
【0045】
更に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を採用することによって、高レート特性に優れる電気化学素子用セパレータを提供できる。
上述の効果がより効率よく発揮されるよう、無機粒子はポリフッ化ビニリデン系樹脂のみによって繊維集合体に担持されているのが好ましい。
【0046】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂により繊維集合体に無機粒子を担持する方法は適宜選択するが、例えば、
1.溶媒あるいは分散媒にポリフッ化ビニリデン系樹脂と無機粒子を混合してなる塗工液(以降、塗工液と称することがある)を用意し、繊維集合体を塗工液に浸漬する、
2.繊維集合体に塗工液をスプレーする、
3.グラビアロールを用いたキスコータ法などの塗工方法を用いて、繊維集合体の一方の主面あるいは両主面に塗工液を塗工する、
ことを行った後、塗工液を含んだ繊維集合体を乾燥することで、塗工液中の溶媒や分散媒を除去すると共に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂により繊維集合体の構成繊維に無機粒子を担持させる方法を採用できる。
【0047】
塗工液を含んだ繊維集合体を乾燥する方法は適宜選択するが、例えば、近赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ、ハロゲンヒータなどの加熱手段へ供することにより溶媒あるいは分散媒を除去する方法、あるいは、熱風あるいは送風などにより溶媒あるいは分散媒を除去する方法などを使用できる。また、塗工液を含んだ繊維集合体を、例えば、室温(25℃)に放置する方法、減圧条件下に曝す方法、溶媒あるいは分散媒が揮発可能な温度以上の雰囲気下に曝す方法、接触式のヤンキードライヤー、キャンドライヤーなど、公知の方法を用いることができる。
【0048】
なお、塗工液中にポリフッ化ビニリデン系樹脂が粒子状などの固体で存在している場合、上述の乾燥を行う際に分散溶媒である水分を蒸発させることで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂により繊維集合体に無機粒子を担持できる。粒子状のポリフッ化ビニリデン系樹脂を分散させてなる塗工液を採用することで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂により繊維集合体の空隙が閉塞するのを防止でき、より通イオン特性に優れる電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。このとき、塗工液中に分散し存在するポリフッ化ビニリデン系樹脂粒子の形状は適宜選択するが、例えば、球状(略球状や真球状)、繊維状、針状、平板状、多角形立方体状などから適宜選択することができる。
【0049】
なお、粒子の脱落を抑えるためポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点以上の熱を作用させても良いが、溶融したポリフッ化ビニリデン系樹脂により繊維集合体の空隙が閉塞するのを防止できるよう、加熱温度や加熱時間などを調整するのが好ましい。
【0050】
また、塗工液中に存在するポリフッ化ビニリデン系樹脂粒子の平均粒子径は、適宜調整するが、繊維集合体に無機粒子を均一に担持できるように、ポリフッ化ビニリデン系樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、0.1~10μmであるのが好ましく、0.2~2μmであるのがより好ましく、0.3~1μmであるのが最も好ましい。なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂粒子の平均粒子径は、無機粒子の平均粒子径と同じ方法で測定できる。
【0051】
溶媒あるいは分散媒の種類は適宜選択するが、例えば、水、アルコール類、エーテル類などを、単独あるいは混合して使用することができる。
【0052】
なお、塗工液にはポリフッ化ビニリデン系樹脂や無機粒子の凝集を防止し分散性を向上するため、例えば、界面活性剤(例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤など)などを添加しても良く、添加量は適宜調整する。更に、塗工液中には無機粒子を繊維集合体に担持可能な有機ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂以外の有機ポリマーを含んでいてもよいが、電気化学素子用セパレータから無機粒子が脱落し難いという効果が効率良く発揮されるように、塗工液中には無機粒子を繊維集合体に担持する有機ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみが含まれているのが好ましい。
【0053】
電気化学素子用セパレータに含まれている無機粒子の質量は適宜調整するが、電気化学素子用セパレータが備えている無機粒子の質量が多いほど、高温条件下でも内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0054】
一方、電気化学素子用セパレータが備えている無機粒子の質量が多過ぎると、繊維集合体の空隙が無機粒子によって閉塞してガーレ値が意図せず高くなり、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供できなくなるおそれがある。
【0055】
そのため、電気化学素子用セパレータ質量に含まれている無機粒子の質量は、0.5~40g/m2であるのが好ましく、1~30g/m2であるのが好ましく、2~20g/m2であるのが好ましい。
【0056】
また、電気化学素子用セパレータに含まれているポリフッ化ビニリデン系樹脂の質量は適宜調整するが、電気化学素子用セパレータが備えているポリフッ化ビニリデン系樹脂の質量が多すぎると、繊維集合体の空隙がポリフッ化ビニリデン系樹脂によって閉塞してガーレ値が意図せず高くなり、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供できなくなるおそれがある。
【0057】
一方、電気化学素子用セパレータに含まれているポリフッ化ビニリデン系樹脂の質量が少なすぎると、電気化学素子用セパレータから無機粒子が脱落する恐れがあり、無機粒子の脱落箇所がピンホールになって電気化学素子に内部短絡が発生する恐れがある。
そのため、電気化学素子用セパレータに含まれているポリフッ化ビニリデン系樹脂の質量は、0.01~3g/m2であるのが好ましく、0.05~2.5g/m2であるのが好ましく、0.1~2g/m2であるのが好ましい。
【0058】
電気化学素子用セパレータの、例えば、厚さや目付などの諸構成は、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能となるよう適宜調整するが、目付が低過ぎると強度が低くなる傾向があるため、目付は、5~50g/m2であることができ、8~45g/m2であることができ、10~40g/m2であることができる。また、厚さは、8~100μmであるのが好ましく、9~60μmであるのがより好ましく、10~30μmであるのが最も好ましい。
【0059】
電気化学用素子における電気化学素子用セパレータによる内部抵抗を低下できるよう、電気化学素子用セパレータの保液率は高いのが好ましい。電気化学素子用セパレータの保液率は、10%以上が好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上がさらに好ましい。なお、保液率は以下の測定によって求めることができる。
【0060】
(保液率の測定方法)
(1)測定対象物から円形状の試験片(直径25mm)を採取し、質量(A)を測定する。
(2)試験片を炭酸プロピレンに浸漬し、試験片の空隙を炭酸プロピレンで満たす。
(3)試験片の両主面の各々に3枚のろ紙(型番:ADVANTEC-TYPE2)を重ね、そのまま試験片をろ紙で挟んだ状態で2.1MPaの圧力で圧縮し、試験片に含まれている炭酸プロピレンをろ紙で吸い取る。
(4)炭酸プロピレンを吸い取られた後の試験片の質量(B)を測定し、次の式により保液率(R、単位:%)をそれぞれ算出する。
R=100×(B-A)/A
なお、本値(単位:%)が高いほど、保液性に優れる電気化学素子用セパレータであることを意味する。
【0061】
電気化学素子用セパレータの空隙率は適宜選択するが、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能となるよう、空隙率は20%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがより好ましく、40以上%であるのがさらに好ましい。一方、空隙率が高過ぎると強度が低下して、電気化学素子用セパレータに亀裂が生じ易くなることから、空隙率は80%以下であるのが現実的である。
なお、本発明において「空隙率」は次の式により得られる値をいう。
空隙率={1-W/(T×d)}×100
ここで、Wは測定対象物の目付(g/m2)を意味し、Tは測定対象物の厚さ(μm)を意味し、dは測定対象物を構成する材料の質量平均密度(g/cm3)をそれぞれ意味する。例えば、密度d1の樹脂Aがa質量部と、密度d2の無機成分Bがb質量部存在している場合、質量平均密度(d)は次の式により算出できる。
質量平均密度(d)=1/{(a/100/d1)+(b/100/d2)}
【0062】
電気化学素子用セパレータの最大孔径や平均孔径は適宜選択するが、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現可能となるよう、最大孔径は0.5~50μmであるのが好ましく、0.8~20μmであるのが好ましく、1~10μmであるのが好ましく、また、平均孔径は0.1~5μmであるのが好ましく、0.2~3μmであるのが好ましい。
なお、本発明において平均孔径は、バブルポイント法により測定される平均流量孔径をいい、最大孔径は前述と同法で測定される最大流量孔径をいう。なお、平均流量孔径と最大流量孔径は、ポロメータ(Polometer、コールター(Coulter)社製)を用いることで測定できる。
【0063】
本発明の電気化学素子用セパレータは、ガーレ値が6秒/100ccより高く44秒/100cc未満であることを特徴としている。
本願出願人は「ポリフッ化ビニリデン系樹脂と無機粒子ならびに繊維集合体を備える、電気化学素子用セパレータであって、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂によって前記無機粒子が前記繊維集合体に担持されて」なる電気化学素子用セパレータにおいて、当該電気化学素子用セパレータのガーレ値が上述した範囲である時に、通イオン特性が総合的に向上することを見出した。
【0064】
本発明にかかる電気化学素子用セパレータのガーレ値の範囲は、電気化学用素子に求められる物性により上述した範囲内で適宜調整できるが、7~40秒/100ccであることができ、8~35秒/100ccであることができる。
なお、本発明においてガーレ値は、電気化学素子用セパレータから試験片を採取し、「JIS P8117:2009(紙及び板紙-透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)-ガーレ法) 5ガーレ試験機法」において規定されている方法へ供することで算出される値である。
【0065】
上述した電気化学素子用セパレータは単体で使用できるが、必要であれば、電気化学素子用セパレータに別途フィルムや布帛などシート状の基材を積層してもよい。電気化学素子用セパレータと基材の積層方法は適宜選択できるが、ただ重ね合せる方法、電気化学素子用セパレータおよび/または基材の構成成分を一部溶融接着させることによって、あるいは、バインダによって積層一体化する方法などを採用できる。
【0066】
以上のようにして製造した電気化学素子用セパレータあるいは電気化学素子用セパレータの積層体は、その用途や使用態様に合わせて、リライアントプレス処理などの加圧処理する工程へ供し厚さを調整する、スルホン化処理やプラズマ処理あるいはフッ素ガス処理などの親水化処理へ供する、形状を打ち抜く、成型するなどの各種二次工程へ供してもよい。
【0067】
本発明の電気化学素子用セパレータは、例えば、一次電池(例えば、リチウム電池、マンガン電池、マグネシウム電池など)や二次電池(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、亜鉛電池、空気電池、全固体電池、レドックスフロー電池など)あるいはキャパシタなどの電気化学素子用セパレータとして水系、非水系問わずに使用できる。なお、電気化学素子用セパレータの形状は使用用途によって、例えば、平板状や巻回状など適宜調整できる。
【0068】
本発明の電気化学素子用セパレータを、例えば、リチウムイオン二次電池用のセパレータとして使用する場合、正極として例えば、リチウムやナトリウム含有遷移金属化合物や硫黄系化合物のスラリーを集電材に担持させたもの等を使用することができ、負極として例えば、リチウム金属やリチウムと合金になる材料(例えば、スズ系合金、シリコン系合金などの材料)、及びリチウムを吸蔵、放出可能なポリアセン、炭素材料(例えば、カーボン、天然黒鉛や人造黒鉛など)、バナジウム系化合物、チタン酸リチウム系化合物を集電材に担持させたもの等を使用することができ、電解質として例えば、非水系電解液(例えば、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒にLiPF6を溶解させた電解液)等を使用することができる。また、調製可能なセル構造も適宜選択するが、例えば、円筒型、角型、コイン型などであることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
(不織布Aの調製)
以下の繊維を水中に分散させた繊維分散液を調製した。
・フィブリルを有するパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:80mlCSF、分解温度:約500℃)
・ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊維径:4μm、融点:260℃、横断面形状:円形)
・ポリエチレンテレフタレート延伸短繊維(繊維径2μm、融点:260℃、横断面形状:円形)
そして、前記繊維分散液を抄き上げた後、分散媒である水をサクションして除去することで繊維ウエブを形成した。その後、繊維ウエブをヒートロール間へ通して加熱加圧し、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維により繊維接着することで、単層構造の不織布A(目付:10.8g/m2)を調製した。
【0071】
(不織布A1の調製)
繊維分散液の抄き上げる量を変更したこと以外は、上述した(不織布Aの準備)で説明した方法と同様にして、単層構造の不織布A1(目付:6.0g/m2)を調製した。
【0072】
(不織布Bの調製)
以下の繊維を水中に分散させた繊維分散液を調製した。
・フィブリルを有するパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:80mlCSF、分解温度:約500℃)
・ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊維径:4μm、融点:260℃、横断面形状:円形)
このようにして調製した繊維分散液を用いたこと以外は、上述した(不織布Aの準備)で説明した方法と同様にして、単層構造の不織布B(目付:12.0g/m2)を調製した。
(不織布Cの調製)
以下の繊維を、不織布Bの調製時とは異なる配合比率で、水中に分散させた繊維分散液を調製した。
・フィブリルを有するパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:80mlCSF、分解温度:約500℃)
・ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊維径:4μm、融点:260℃、横断面形状:円形)
不織布A1の一方の主面上に前記繊維分散液を抄き上げた後、分散媒である水をサクションして除去することで、不織布A1の一方の主面上に繊維ウエブを備えた積層体を形成し、当該積層体を乾燥した。
その後、ヒートロール間を通して加熱加圧し、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維により繊維接着することで、二層構造の不織布C(目付:10.8g/m2)を調製した。
なお、このようにして調製した二層構造の不織布Cは、不織布A1由来の繊維層における空隙に、不織布A1の一方の主面上に抄き上げられた短繊維及び/又はフィブリルを有するパルプ状繊維が入り込んだ構造を有していた。
【0073】
(不織布Dの調製)
ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊維径:4μm、融点:260℃、横断面形状:円形)と延伸短繊維(繊維径2μm、融点:260℃、横断面形状:円形)からなる湿式不織布(目付:5.5g/m2)を用意した。
以下の繊維を水中に分散させた繊維分散液を調製した。
・フィブリルを有するパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:80mlCSF、分解温度:約500℃)
・ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊維径:4μm、融点:260℃、横断面形状:円形)
湿式不織布の一方の主面上に前記繊維分散液を抄き上げた後、分散媒である水をサクションして除去することで、湿式不織布の一方の主面上に繊維ウエブを備えた積層体を形成し、乾燥した。
その後、ヒートロール間を通して加熱加圧し、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維により繊維接着することで、二層構造の不織布D(目付:10.0g/m2)を調製した。
なお、このようにして調製した二層構造の不織布Dは、湿式不織布由来の繊維層における空隙に、湿式不織布の一方の主面上に抄き上げられた短繊維及び/又はフィブリルを有するパルプ状繊維が入り込んだ構造を有していた。
【0074】
(不織布D1と不織布D2および不織布D3の調製)
繊維分散液の抄き上げる量を変更したこと以外は、上述した(不織布Dの準備)で説明した方法と同様にして、二層構造の不織布D1(目付:9.5g/m2)と不織布D2(目付:8.3g/m2)ならびに不織布D3(目付:10.5g/m2)を調製した。
なお、このようにして調製した二層構造の各不織布は、湿式不織布由来の繊維層における空隙に、湿式不織布の一方の主面上に抄き上げられた短繊維及び/又はフィブリルを有するパルプ状繊維が入り込んだ構造を有していた。
【0075】
(不織布Eの調製)
ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊維径:4μm、融点:260℃、横断面形状:円形)と延伸短繊維(繊維径2μm、融点:260℃、横断面形状:円形)からなる、別の湿式不織布(目付:7.5g/m2)を用意し、これを単層構造の不織布Eとした。
【0076】
(分散液Aの準備)
シリカ粒子分散液(形状:真球状、粒子径:450nm、溶媒:水 固形分濃度:45質量%)を用意した。そして、ポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体粒子(粒子径:250nm、融点:165℃)をシリカ粒子分散液中に分散させ、分散液Aを調製した。
なお、このようにして調製した分散液Aに含まれる、シリカ粒子とポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体粒子の固形分質量比率は、92質量部:8質量部であった。
【0077】
(分散液Bの準備)
シリカ粒子分散液(粒子径:450nm、溶媒:水、固形分濃度:45質量%)を用意した。そして、ポリエチレンオキサイド粉末(融点:66℃)をシリカ粒子分散液中に溶解させ、分散液Bを調製した。
なお、このようにして調製した分散液Bに含まれる、シリカ粒子とポリエチレンオキサイド粒子の固形分質量比率は、97質量部:3質量部であった。
【0078】
(実施例1~5、比較例1~4)
グラビアロール塗工機を用いて、不織布A~不織布Eにおける一方の主面上に分散液Aを塗工した。なお、二層構造の不織布Cと不織布D、ならびに、不織布D1と不織布D2においては分散液Aを、パルプ状全芳香族ポリアミド繊維の存在量が少ない側(繊維分散液を抄き上げた側の反対側)の主面上に塗工した。
その後、加熱温度を100℃に調整したドライヤーへ供することで、分散液Aに含まれる分散媒を除去すると共に、ポリフッ化ビニリデン-アクリル共重合体により不織布A~不織布Eの各構成繊維の表面にシリカ粒子を担持させて、各種電気化学素子用セパレータを調製した。
【0079】
(比較例5)
グラビアロール塗工機を用いて、不織布D3におけるパルプ状全芳香族ポリアミド繊維の存在量が少ない側(繊維分散液を抄き上げた側の反対側)の主面上に分散液Bを塗工した。その後、加熱温度を100℃に調整したドライヤーへ供することで、分散液Bに含まれる分散媒を除去すると共に、ポリエチレンオキサイド粒子により不織布D3の構成繊維の表面にシリカ粒子を担持させて、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0080】
上述のようにして製造した、実施例および比較例の電気化学素子用セパレータの構成、ならびに、以下に記載する各測定へ供し評価された諸物性を、表1にまとめた。
【0081】
(50%SOC INPUTおよび50%SOC OUTPUTの測定方法)
LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2からなる平板状正極、天然黒鉛からなる平板状負極、LiPF6ED(濃度:1M)とジエチルカーボネートを体積比で当量となるよう混合してなる電解液を用意した。そして、平板状正極の一方の主面上に測定対象物を積層し、更に露出する測定対象物の主面上に平板状負極の主面を接触させ積層した。このようにして45mAhのラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を作製した。
(1)電池容量の確認
測定対象とするリチウムイオン二次電池に対し0.1CAの電流値で充放電した。その充放電時の出力電圧が2.0V~4.2Vとなる範囲における挙動を通して、当該リチウムイオン二次電池の電池容量を算出することで確認した。
(2)50%SOCの開回路電圧の確認
当該リチウムイオン二次電池における確認された当該電池容量の10%を、0.1CAの電流値で充電するためにかかった実際の充電時間を確認した。当該時間から算出される充電時間をもとにして50%まで充電し、1時間放置した後、当該リチウムイオン二次電池の電池電圧を確認した。このとき測定された電池電圧を当該リチウムイオン二次電池の「50%SOCの開回路電圧」と定義した。
(3)50%SOCの入力測定
「50%SOCの開回路電圧」を確認した後のリチウムイオン二次電池(50%まで充電されているリチウムイオン二次電池)に対し、以下の充放電を行った。
(i)0.1CAの電流値で、当該リチウムイオン二次電池の放電電圧が2.0Vまで低下するまで放電した。
(ii)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで充電し、そして、0.5CAの電流値で10秒間充電した。
(iii)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで放電し、そして、1.0CAの電流値で10秒間充電した。
(iv)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで放電し、そして、2.0CAの電流値で10秒間充電した。
(v)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで放電し、そして、5.0CAの電流値で10秒間充電した。
上述した(ii)~(v)各充電電流値をX軸に、充電10秒後の電圧値をY軸に取った各プロットにより形成される直線の傾きを「50%SOC INPUT」(単位:Ω)とした。なお、50%SOC INPUTの値(単位:Ω)が低いほど、内部抵抗が低い電気化学素子用セパレータであることを意味する。
(4)50%SOCの出力測定
「50%SOCの開回路電圧」を確認した後のリチウムイオン二次電池(50%まで充電されているリチウムイオン二次電池)に対し、以下の充放電を行った。
(i)0.1CAの電流値で、当該リチウムイオン二次電池の放電電圧が2.0Vまで低下するまで放電した。
(ii)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで充電し、そして、0.5CAの電流値で10秒間放電した。
(iii)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで充電し、そして、1.0CAの電流値で10秒間放電した。
(iv)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで充電し、そして、2.0CAの電流値で10秒間放電した。
(v)0.1CAの電流値で電池電圧が「50%SOCの開回路電圧」となるまで充電し、そして、5.0CAの電流値で10秒間放電した。
上述した(ii)~(v)各放電電流値をX軸に、放電10秒後の電圧値をY軸に取った各プロットにより形成される直線の傾きを「50%SOC OUTPUT」(単位:Ω)とした。なお、50%SOC OUTPUTの値(単位:Ω)が低いほど、内部抵抗が低い電気化学素子用セパレータであることを意味する。
【0082】
【0083】
ガーレ値が44秒/100ccの比較例3ならびにガーレ値が194秒/100ccの比較例4の電気化学素子用セパレータに比べ、ガーレ値が44秒/100cc未満である実施例の電気化学素子用セパレータはいずれも、50%SOC INPUTおよび50%SOC OUTPUTの値が共に低かった。そのため、本発明にかかる電気化学素子用セパレータは、ガーレ値が44秒/100cc未満であることによって、より内部抵抗の低い電気化学素子用セパレータであることが判明した。
【0084】
一方、ガーレ値が1秒/100ccの比較例1ならびにガーレ値が6秒/100ccの比較例2の電気化学素子用セパレータに比べ、本発明の構成を満足する実施例の電気化学素子用セパレータはいずれも、ガーレ値が高いにも関わらず50%SOC INPUTおよび50%SOC OUTPUTの値が共に低かった。この理由として、本発明の電気化学素子用セパレータは比較例1~比較例2の電気化学素子用セパレータより保液率に富むため、通イオン特性に優れていると考えられた。そのため、本発明にかかる電気化学素子用セパレータは、ガーレ値が6秒/100ccより高いことによって、より内部抵抗の低い電気化学素子用セパレータであることが判明した。
【0085】
以上から、本発明の構成を満足する電気化学素子用セパレータによって、内部抵抗が低く出力特性が向上した電源を実現できる。
【0086】
また、実施例の電気化学素子用セパレータは、50%SOC INPUTの測定値と50%SOC OUTPUTの測定値の差が十分小さいことから、本発明の構成を満足する電気化学素子用セパレータは、過放電後であっても再度充放電が可能となりサイクル特性に優れる電源を実現可能な電気化学素子用セパレータであった。
更に、実施例の電気化学素子用セパレータはいずれも、無機粒子が脱落し難いものであった。そのため、本発明の構成を満足する電気化学素子用セパレータを用いることで、充放電性能や安全性が意図せず低下し難い電気化学素子を提供できるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明電気化学素子用セパレータによって、例えば、リチウムイオン二次電池やキャパシタなどのエネルギー密度が高い電気化学素子を提供できる。