(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】位置標定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 5/06 20060101AFI20241129BHJP
G01S 19/40 20100101ALI20241129BHJP
【FI】
G01S5/06
G01S19/40
(21)【出願番号】P 2020165988
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩文
(72)【発明者】
【氏名】古橋 秀之
(72)【発明者】
【氏名】井上 透
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-060303(JP,A)
【文献】特開2007-107929(JP,A)
【文献】特表2000-512380(JP,A)
【文献】特開2009-198435(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109951(WO,A1)
【文献】特許第6625295(JP,B1)
【文献】特許第6261831(JP,B1)
【文献】特開2005-283187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0124824(US,A1)
【文献】米国特許第05594452(US,A)
【文献】特開2019-095234(JP,A)
【文献】特開2018-004601(JP,A)
【文献】特開2020-041952(JP,A)
【文献】特開2006-349470(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167268(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/146723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素数で表される第1の信号および第2の信号、前記第1の信号と前記第2の信号とのそれぞれ時間差および周波数差が入力されて、前記第1の信号に対して前記時間差を持たせた前記第2の信号の複素共役をとり、かつ前記周波数差で回転する絶対値が1である複素数を乗算して得られる信号と前記第1の信号とを乗算した値を決められた時間だけ積分して、前記第1の信号と前記第2の信号との間の2次元相関値を計算する相関関数計算部と、
前記時間差と前記周波数差を変化させて前記2次元相関値を計算し、前記2次元相関値が最大のピークをとる前記時間差であるピーク時間差および前記2次元相関値が最大のピークをとる前記周波数差であるピーク周波数差を検出するピーク検出部と、
位置が未知である電波源が放射する電波が第1の衛星で中継されて第1の観測局で受信された第1の受信信号を前記第1の信号とし、前記電波源が放射する電波が前記第1の衛星とは異なる第2の衛星で中継されて第2の観測局で受信された第2の受信信号を前記第2の信号として計算された前記2次元相関値の前記ピーク時間差から、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置を使用して、前記電波源から前記第1の衛星までの電波の到達時間と、前記電波源から前記第2の衛星までの電波の到達時間の差である到達時間差を計算する到達時間差計算部と、
前記第1の受信信号を前記第1の信号とし、前記第2の受信信号を前記第2の信号として計算された前記2次元相関値の前記ピーク周波数差から、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記電波源から前記第1の衛星までで発生する周波数偏移と、前記電波源から前記第2の衛星までで発生する周波数偏移との差である到達周波数差を計算する到達周波数差計算部と、
前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置を使用して、前記到達時間差が得られる前記電波源の位置を表す線である等到達時間差線を計算する等到達時間差線計算部と、
前記第1の衛星および前記第2の衛星が静止衛星かどうかを判別する静止衛星判別部と、
前記静止衛星判別部において、前記第1の衛星および前記第2の衛星の両方が静止衛星である
と判別されると、前記到達周波数差から前記電波源の移動を表す速度ベクトルである電波源速度を推定する電波源速度推定部と、
前記静止衛星判別部において、前記第1の衛星および前記第2の衛星の両方が静止衛星である
と判別されると、前記電波源速度と、前記等到達時間差線と、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルとを使用して、前記電波源の位置に関する電波源位置推定情報を生成する第2の測位部とを備えた位置標定装置。
【請求項2】
前記電波源速度推定部は、前記電波源の位置が存在すると想定する範囲である想定位置範囲に含まれる前記等到達時間差線上の位置で、前記電波源速度が存在すると想定する範囲である想定速度範囲に存在する前記電波源速度を求める、請求項1に記載の位置標定装置。
【請求項3】
前記想定位置範囲を記憶する想定位置範囲記憶部と、
前記想定速度範囲を記憶する想定速度範囲記憶部と、
前記想定位置範囲および前記想定速度範囲をユーザが入力する入力手段とをさらに、備えた請求項2に記載の位置標定装置。
【請求項4】
前記電波源速度推定部が、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記等到達時間差線の上に設定された想定位置での、前記第1の衛星が移動することで発生する周波数偏移と前記第2の衛星が移動することで発生する周波数偏移との差である衛星周波数差と、前記第1の衛星までで発生する前記電波源速度による周波数偏移と前記第2の衛星までで発生する前記電波源速度による周波数偏移との差である電波源速度周波数差との和と、前記到達周波数差との差が決められた範囲になるように前記電波源速度を推定し、
前記第2の測位部が、前記電波源速度と、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記想定位置での前記衛星周波数差を前記到達周波数差から前記電波源速度周波数差を減算した値に決め、前記衛星周波数差が得られる前記電波源の位置である推定等周波数差線を計算する推定等周波数差線計算部を含み、
前記電波源位置推定情報が、前記等到達時間差線および前記推定等周波数差線である、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の位置標定装置。
【請求項5】
前記電波源が存在すると想定する位置である想定位置に対して、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記第1の衛星が移動することで発生する周波数偏移と、前記第2の衛星が移動することで発生する周波数偏移との差である衛星周波数差を計算する衛星周波数差計算部をさらに備え、
前記電波源速度推定部が、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記第1の衛星までで発生する前記電波源速度による周波数偏移と前記第2の衛星までで発生する前記電波源速度による周波数偏移との差である電波源周波数差が、前記想定位置範囲に含まれる前記等到達時間差線の上に設定した前記想定位置に対する前記衛星周波数差を前記到達周波数差から減算した周波数差になるように、前記想定速度範囲に含まれる前記電波源速度を前記想定位置に応じて推定し、
前記第2の測位部が、前記等到達時間差線および推定した前記電波源速度を使用して算出した推定等周波数差線を前記電波源位置推定情報とする、請求項2または請求項3に記載の位置標定装置。
【請求項6】
前記電波源速度推定部が推定する前記電波源速度の範囲の前記想定速度範囲に対する割合である可能速度割合が決められた下限値以上である前記想定位置である可能位置を、前記電波源位置推定情報とする、請求項5に記載の位置標定装置。
【請求項7】
前記第2の測位部が、前記想定位置範囲に含まれる前記等到達時間差線の上に設定された各前記想定位置で推定される前記電波源速度の前記可能速度割合に基づき、前記可能位置よりも前記電波源が存在する可能性が高いと推定される最尤位置を求める最尤位置推定部を含み、
前記電波源位置推定情報が、前記最尤位置、または前記最尤位置および前記可能位置である、請求項6に記載の位置標定装置。
【請求項8】
前記最尤位置推定部が、各前記可能位置で推定される前記電波源速度の前記可能速度割合をすべての各前記可能位置で推定される前記電波源速度の前記可能速度割合の和である全体可能速度割合で除算した値を重み付け係数として、各前記可能位置の重み付け平均した位置に基づき前記最尤位置を求める、請求項7に記載の位置標定装置。
【請求項9】
前記最尤位置推定部が、前記可能速度割合が最大になる前記可能位置を前記最尤位置として求める、請求項7に記載の位置標定装置。
【請求項10】
前記第2の測位部が、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記衛星周波数差が得られる前記電波源の位置である推定等周波数差線を計算する推定等周波数差線計算部を含み、
前記電波源位置推定情報が、前記推定等周波数差線を含む、請求項5から請求項9の何れか1項に記載の位置標定装置。
【請求項11】
前記到達時間差計算部が、位置が既知の参照局が放射する電波が前記第1の衛星で中継されて前記第1の観測局で受信された第3の受信信号を前記第1の信号とし、前記参照局が放射する電波が前記第2の衛星で中継されて前記第2の観測局で受信された第4の受信信号を前記第2の信号として計算された前記2次元相関値の前記ピーク時間差である参照局ピーク時間差と、前記第1の受信信号を前記第1の信号とし、前記第2の受信信号を前記第2の信号として計算された前記2次元相関値の前記ピーク時間差である電波源ピーク時間差と、前記参照局から前記第1の衛星までの電波の到達時間と前記参照局から前記第2の衛星までの電波の到達時間との差である参照局時間差とに基づき、前記到達時間差を計算し、
前記到達周波数差計算部が、前記第3の受信信号を前記第1の信号とし、前記第4の受信信号を前記第2の信号として計算された前記2次元相関値の前記ピーク周波数差である参照局ピーク周波数差と、前記第1の受信信号を前記第1の信号とし、前記第2の受信信号を前記第2の信号として計算された前記2次元相関値の前記ピーク周波数差である電波源ピーク周波数差と、前記参照局から前記第1の衛星までで発生する周波数偏移と、前記参照局から前記第2の衛星までで発生する周波数偏移との差である参照局周波数差とに基づき、前記到達周波数差を計算する、請求項1から請求項10の何れか1項に記載の位置標定装置。
【請求項12】
前記到達時間差計算部が、前記第1の観測局、前記第2の観測局、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置を使用して、前記到達時間差を計算し、
前記到達周波数差計算部が、前記第1の観測局および前記第2の観測局の位置、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記到達周波数差を計算する、請求項1から請求項10の何れか1項に記載の位置標定装置。
【請求項13】
前記静止衛星判別部において、前記第1の衛星および前記第2の衛星の少なくとも1つが静止衛星ではない
と判別されると、前記第1の衛星および前記第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、前記等到達時間差線の上で前記到達周波数差が得られる位置を、前記電波源の位置として求める第1の測位部をさらに備える、請求項1から請求項12の何れか1項に記載の位置標定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体に搭載されて衛星通信をする通信装置である電波源の位置を決める位置標定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信をする通信装置(電波源)の位置を決める(位置標定)ために、位置標定する対象の通信装置が異なる2個の衛星でそれぞれ中継されて地上局で受信される2個の受信信号についての到達時間差(TDOA)と到達周波数差(FDOA)を使用する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
通信に使用される衛星は、静止衛星、準天頂軌道衛星、低軌道衛星などの種類がある。2個の衛星がどちらも静止衛星の場合には、2個の衛星でそれぞれ中継されて受信される2個の受信信号の周波数差の中で、電波源の移動により発生するドップラ効果による周波数偏移が、衛星の移動による周波数偏移よりも大きくなる場合がある。そのような場合には、従来の位置標定装置では、検出された周波数差が得られるような電波源の位置を表す等FDOA線を決めることができず位置標定できない場合がある、等FDOA線が求められる場合でも、等FDOA線の誤差が大きく、標定位置の精度が大きく劣化する場合がある。
【0004】
従来の位置標定装置は、位置標定できない場合には、電波源の位置を表示しない。位置標定できた場合は、精度が劣化している場合もそのまま表示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】D. P. Haworth, et.al,“Interference Localization For Eutelsat Satellites -The First European Transmitter Location System,” International Journal of Satellite Communications, Vol.15, pp.155-183, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の位置標定装置は、中継する衛星が2個とも静止衛星である場合に、電波源の位置に関する情報を適切に提示し難いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る位置標定装置は、複素数で表される第1の信号および第2の信号、第1の信号と第2の信号とのそれぞれ時間差および周波数差が入力されて、第1の信号に対して時間差を持たせた第2の信号の複素共役をとり、かつ周波数差で回転する絶対値が1である複素数を乗算して得られる信号と第1の信号とを乗算した値を決められた時間だけ積分して、第1の信号と第2の信号との間の2次元相関値を計算する相関関数計算部と、時間差と周波数差を変化させて2次元相関値を計算し、2次元相関値が最大のピークをとる時間差であるピーク時間差および2次元相関値が最大のピークをとる周波数差であるピーク周波数差を検出するピーク検出部と、位置が未知である電波源が放射する電波が第1の衛星で中継されて第1の観測局で受信された第1の受信信号を第1の信号とし、電波源が放射する電波が第1の衛星とは異なる第2の衛星で中継されて第2の観測局で受信された第2の受信信号を第2の信号として計算された2次元相関値のピーク時間差から、第1の衛星および第2の衛星の位置を使用して、電波源から第1の衛星までの電波の到達時間と、電波源から第2の衛星までの電波の到達時間の差である到達時間差を計算する到達時間差計算部と、第1の受信信号を第1の信号とし、第2の受信信号を第2の信号として計算された2次元相関値のピーク周波数差から、第1の衛星および第2の衛星の位置および速度ベクトルを使用して、電波源から第1の衛星までで発生する周波数偏移と、電波源から第2の衛星までで発生する周波数偏移との差である到達周波数差を計算する到達周波数差計算部と、第1の衛星および第2の衛星の位置を使用して、到達時間差が得られる電波源の位置を表す線である等到達時間差線を計算する等到達時間差線計算部と、第1の衛星および第2の衛星が静止衛星かどうかを判別する静止衛星判別部と、静止衛星判別部において、第1の衛星および第2の衛星の両方が静止衛星であると判別されると、到達周波数差から電波源の移動を表す速度ベクトルである電波源速度を推定する電波源速度推定部と、静止衛星判別部において、第1の衛星および第2の衛星の両方が静止衛星であると判別されると、電波源速度と、等到達時間差線と、第1の衛星および第2の衛星の位置および速度ベクトルとを使用して、電波源の位置に関する電波源位置推定情報を生成する第2の測位部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、中継する衛星が2個とも静止衛星である場合に、電波源の位置に関する情報を従来よりも適切に提示できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来の位置標定装置で位置が未知の電波源の位置を標定する処理を説明する概念図である。
【
図2】実施の形態1に係る位置標定装置で、位置が未知の電波源の位置を標定する処理を説明する概念図である。
【
図3】実施の形態1に係る位置標定装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本開示に係る位置標定装置で使用するXYZ座標系を説明する模式図である。
【
図5】実施の形態1に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る位置標定装置が出力する電波源位置推定情報の例を説明する図である。
【
図7】実施の形態2に係る位置標定装置で、位置が未知の電波源の位置を標定する処理を説明する概念図である。
【
図8】実施の形態2に係る位置標定装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】実施の形態2に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図10】実施の形態3に係る位置標定装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】実施の形態3に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図12】実施の形態3に係る位置標定装置が出力する電波源位置推定情報の1例を説明する図である。
【
図13】実施の形態3に係る位置標定装置が出力する電波源位置推定情報の別の1例を説明する図である。
【
図14】実施の形態3に係る位置標定装置において電波源位置推定情報を示す2個の例での存在確度を示すグラフである。
【
図15】実施の形態4に係る位置標定装置の構成を示すブロック図である。
【
図16】実施の形態4に係る位置標定装置が使用する可能方向範囲、想定速度範囲および許容方向範囲の関係を例により説明する図である。
【
図17】実施の形態4に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、従来の位置標定装置で位置が未知の電波源の位置を標定する処理を説明する概念図である。
図1は、非特許文献1に開示されている方法に基づいている。
図1の例では、位置が未知である電波源70から電波が送信されている。電波源70が放射するメインローブの電波81が衛星(#1)71に向けて送信される。同時に、電波源70はサイドローブの電波82を放射する。衛星(#1)71は電波81を中継して電波83を送信する。衛星(#1)71からの電波83は、監視局のアンテナ(#1)72で受信される。アンテナ(#1)72は、電波83を受信して受信信号91を生成する。電波源70が放射するサイドローブの電波82は、衛星(#2)73により中継され、監視局のアンテナ(#2)74で電波84として受信される。アンテナ(#2)74は、電波84を受信して受信信号92を生成する。
【0011】
アンテナ(#1)72とアンテナ(#2)74は、別の監視局に設置されてもよい。アンテナ(#1)72が設置される監視局が第1の監視局であり、アンテナ(#2)74が設置される監視局が第2の監視局である。受信信号91が、第1の衛星である衛星(#1)71で中継されて第1の観測局で受信された第1の受信信号である。受信信号92が、第2の衛星である衛星(#2)73で中継されて第2の観測局で受信された第2の受信信号である。アンテナ(#1)72とアンテナ(#2)74が同じ監視局に設置される場合には、その監視局が第1の監視局であり、かつ第2の監視局である。
【0012】
受信信号91,92が、位置標定装置50Xに入力される。位置標定装置50Xは、従来の方式で位置標定する位置標定装置である。位置標定装置50Xは、衛星(#1)71と衛星(#2)73からそれぞれ中継されて受信された受信信号91,92の相関を取ることで、到達時間差(TDOA:Time Difference Of Arrival)と到達周波数差(FDOA:Frequency Difference Of Arrival)を推定する。推定したTDOAが一定である面と地球の表面との交線である等TDOA線61と、推定したFDOAが一定である面と地球の表面との交線である等FDOA線62の交点を、位置標定装置50Xは電波源70の位置と推定する。推定された電波源70の位置すなわち等TDOA線61と等FDOA線62の交点を、標定位置63と呼ぶ。
【0013】
位置が未知の電波源70から放射された電波81がアンテナ(#1)72で電波83として受信されるまでの経路と、電波82がアンテナ(#2)74で電波84として受信されるまでの経路とにおいて、衛星(#1)71以降の経路と衛星(#2)73以降の経路は分かっている。受信信号の相関を取ることで得られる時間差と周波数差から、衛星(#1)71以降および衛星(#2)73以降の経路で発生する時間差および周波数差を減算して、到達時間差(TDOA)と到達周波数差(FDOA)を計算する。TDOAは、電波81が衛星(#1)71に電波が到達する時間と、電波82が衛星(#2)73に到達する時間の差である。FDOAは、電波81が衛星(#1)71に受信されるまでに発生する周波数偏移と、電波82が衛星(#2)73に受信されるまでに発生する周波数偏移との差である。
【0014】
まず、TDOAおよびFDOAから電波源70の位置を標定する従来の方法を説明する。
【0015】
以下の変数を定義する。
r:電波源70の位置。地球の中心を原点とする3次元座標系で表す。
r1:衛星(#1)71の位置。
r2:衛星(#2)73の位置。
rm1:アンテナ(#1)72の位置。
rm2:アンテナ(#2)74の位置。
c:光速。
v1:衛星(#1)71の速度ベクトル。
v2:衛星(#2)73の速度ベクトル。
f:電波源70からの電波の搬送波の周波数。
f1:衛星(#1)71でのアップリンク周波数とダウンリンク周波数の差。
f2:衛星(#2)73でのアップリンク周波数とダウンリンク周波数の差。
Δt:衛星(#1)71、衛星(#2)73で中継される電波の時間差。
Δf:衛星(#1)71、衛星(#2)73で中継される電波の周波数差。
Δtm:衛星(#1)71または衛星(#2)73からの経路で発生する時間差。
Δfm:衛星(#1)71または衛星(#2)73からの経路で発生する周波数差。
Δtr:衛星(#1)71または衛星(#2)73までに発生するTDOA。
Δfr:衛星(#1)71または衛星(#2)73までに発生するFDOA。
u1:電波源70から衛星(#1)71へ向かう単位ベクトル。
u2:電波源70から衛星(#2)73へ向かう単位ベクトル。
u1m:アンテナ(#1)72から衛星(#1)71へ向かう単位ベクトル。
u2m:アンテナ(#2)74から衛星(#2)73へ向かう単位ベクトル。
s1(t):アンテナ(#1)72で受信される信号91。
s2(t):アンテナ(#2)74で受信される信号92。
R:地球の半径。地球は真球と仮定する。
【0016】
位置標定では、アンテナ(#1)72で受信される信号s1(t)と、アンテナ(#2)74で受信される信号の共役s2
*(t)の間の、式(1)で計算される相関関数(Cross ambiguity function :CAF)を計算する。信号s1(t)が相関関数を計算する上での第1の信号であり、信号s2(t)が第2の信号である。第1の受信信号を第1の信号とし、第2の受信信号を第2の信号として、相関関数CAFを計算する。
【0017】
【数1】
ここで、Tは信号長である。τは、信号s
1(t)と信号s
2(t)の間に設定する時間差である。νは、信号s
1(t)と信号s
2(t)の間に設定する周波数差である。s
1(t)が第一の信号である。信号s
2(t)が第2の信号である。式(1)で計算されるCAF(τ,ν)は、時間差τおよび周波数νが入力されて、s
1(t)に対して時間差τを持たせ複素共役をとったs
2
*(t+τ)に、周波数νで回転する絶対値が1である複素数e
-j2πνtを乗算して得られる信号とs
1(t)とを乗算して得られる値を決められた時間Tだけ積分した、s
1(t)とs
2(t)との間の2次元相関値である。
【0018】
式(1)で計算する相関関数CAFがピーク値を取るτが、時間差Δtである。また、ピークを取るνが、周波数差Δfである。Δtは、信号s1(t)と信号s2(t)の経路の長さの差により発生するので、下に示す式で表せる。
【0019】
【0020】
周波数差Δfは、衛星(#1)71でアンテナ(#1)72で発生するドップラ周波数偏移と、衛星(#2)73およびアンテナ(#2)74で発生するドップラ周波数偏移の差なので、以下の式で計算する。従来は、電波源70の速度を考慮しないで、周波数差を計算している。
【0021】
【0022】
式(3)で使用する各単位ベクトルは、下に示す式で計算する。
【0023】
【0024】
Δtの中で、電波81が衛星(#1)71に到達した後の経路と、電波82が衛星(#2)73に到達した後の経路との差による成分であるΔtmを、下に示す式(8)により計算する。式(9)に示すように、ΔtからΔtmを減算して、Δtrを計算する。Δtrに関する電波源70の位置rに対する条件式は、式(10)である。位置標定装置50Xは、Δtrに対して、式(10)を満足する位置rを計算する。
【0025】
【0026】
Δfの中で、電波源70の位置rおよび速度ベクトルvのどちらにもよらないで発生する周波数差であるΔfmを、下に示す式(11)により計算する。式(12)に示すように、Δf
からΔfmを減算して、Δfrを計算する。Δfrに関する電波源の位置rに対する条件式は、式(13)である。位置標定装置50Xは、Δfrに対して、式(13)を満足する位置rを計算する。
【0027】
【0028】
電波源70は地球の表面に存在するとして、電波源70の位置rに関して以下の条件が成立するものとする。
【0029】
【0030】
従来の位置標定装置50Xは、式(10)および式(14)を満足する位置rを表す等TDOA線61を求める。また、式(13)および式(14)を満足する位置rを表す等FDOA線62を求める。等TDOA線61と等FDOA線62の交点を、電波源70の標定位置63とする。
【0031】
電波源70が移動していない場合、あるいは衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方または一方が静止衛星でない場合は、従来の位置標定装置50Xでも電波源70の位置を適切な精度で標定できる。電波源70が移動していない場合は、式(13)で周波数差を正しく計算できる。衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方または一方が静止衛星でない場合は、衛星の速度に対して電波源70の速度が小さいので、電波源70の速度を考慮しない式(13)でも周波数差が得られる電波源70の位置rを適切な精度で計算できる。
【0032】
静止衛星でない衛星の移動速度は電波源70の移動速度よりも50倍以上大きいと考えられる。これは、静止衛星でない衛星は、数時間以下の周期で地球を周回しており、地球の表面に対して毎秒1km程度以上の速度で移動するからである。電波源70は、速度の上限は秒速30m程度と考えられる。船舶の場合は時速30ノット(時速55.6km、秒速15.4m)が速度の上限と言われている。自動車の場合は、例えば時速100km(秒速27.8m)程度が速度の上限と考えられる。
【0033】
静止衛星の地球の表面に対する移動速度は秒速1m程度である。電波源70がある程度速く移動する場合には、電波源70の移動速度が静止衛星の移動速度よりも大きくなる。その結果、衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方が静止衛星である場合には、周波数差は主に電波源70が移動することにより発生する。そのため、衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方が静止衛星であり、かつ電波源70が移動している場合には、電波源70が移動することにより発生する周波数差を考慮しない式(13)を充足する電波源70の位置が求められない場合がある。式(13)を充足する電波源70の位置が求められても、実際の電波源70の位置から大きく離れた位置である場合がある。
【0034】
本開示に係る位置標定装置は、電波源70が移動する速度ベクトルを推定して、衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方が静止衛星であり、かつ電波源70が移動している場合に、従来よりも適切な位置標定に関する情報をユーザに提示するものである。
図2は、実施の形態1に係る位置標定装置で、位置が未知の電波源の位置を標定する処理を説明する概念図である。従来との最も大きな違いは、移動する電波源70の速度ベクトルvを推定することである。
【0035】
本開示に係る位置標定装置50では、周波数差Δfに電波源70の速度ベクトルvに起因して発生する周波数差も考慮する。位置標定装置50の処理を説明するために、以下の変数を定義する。
v:電波源70の速度ベクトル。電波源速度とも呼ぶ。
еFDOA(v,r):電波源70の速度ベクトルvにより発生する周波数差。電波源周波数差と呼ぶ。
Δfc(r):衛星(#1)71および衛星(#2)73で発生する周波数差。
ud:u1とu2の差を表すベクトル。ud=u1‐u2。
【0036】
位置標定装置50では、周波数差ΔfおよびΔfrに関して、下に示す式を使用する。周波数差Δfは、式(15)示す成分を有する。式(15)によるΔf対しては、式(12)で計算されるΔfrに対する電波源70の位置rおよび速度ベクトルvの関係式は、式(16)になる。式(16)における第3項が、電波源70が移動することを考慮することで発生する周波数差である。
【0037】
【0038】
電波源70の速度ベクトルvが推定できると、電波源周波数差であるеFDOA(v,r)、を下に示す式(17)で計算する。u1(r),u2(r)は、vを推定する際に使用した電波源70の位置rでのベクトルを使用する。さらに、式(18)に示すように、ΔfrからеFDOA(v,r)を減算してΔfc(r)を計算する。Δfc(r)は、FDOAであるΔfrから電波源周波数差еFDOA(v,r)を減算した周波数差である。Δfc(r)は、衛星が移動することで発生する周波数差の推定値である。Δfc(r)を推定FDOAと呼ぶ。Δfc(r)に対して、式(19)で計算される電波源70の位置rを結ぶ線を、推定等FDOA線64と呼ぶ。
【0039】
【0040】
図3を参照して、実施の形態1に係る位置標定装置の構成を説明する。位置標定装置50は、周波数変換部1A,1B、AD変換部2A,2B、直交検波部3A,3B、相関関数計算部4、ピーク検出部5、衛星データ取得部6、TDOA計算部7、FDOA計算部8、等TDOA線計算部9、静止衛星判別部10、第1の測位部11、電波源速度推定部12、第2の測位部13、記憶部14を有する。第1の測位部11は、等FDOA線計算部15を有する。第2の測位部13は、FDOA修正部16、推定等FDOA線計算部17を有する。
【0041】
位置標定装置50には、受信信号91,92が入力される。周波数変換部1Aは、受信信号91を中間周波数に変換する。AD変換部2Aは、周波数変換部1Aが出力する信号を決められた時間の刻み幅で決められたビット数のデジタル値に変換する。直交検波部3Aは、AD変換部2Aでデジタル化された信号を直交検波して、複素ベースバンド信号s1(t)を出力する。周波数変換部1B、AD変換部2Bおよび直交検波部3Bは、同様な処理を受信信号92に対して実施する。直交検波部3Bは、複素ベースバンド信号s2(t)を出力する。複素ベースバンド信号は、複素数で表される信号である。
【0042】
相関関数計算部4は、決められた期間Tのs1(t)およびs2(t)に対して、式(1)により相関関数CAFを計算する。ピーク検出部5は、τとνを変化させて相関関数CAFを計算し、相関関数CAFが最大のピークを取るτおよびνであるΔtおよびΔfを検出する。Δtは、相関関数CAFが最大のピークをとるピーク時間差である。Δfは、相関関数CAFが最大のピークをとるピーク周波数差である。信号91,92から、中継する衛星(#1)71および衛星(#2)73を決める。衛星データ取得部6は、中継する衛星(#1)71および衛星(#2)73の位置および速度ベクトルなどを含む衛星データを外部から取得する。
【0043】
TDOA計算部7は、位置r1,r2,rm1,rm2を使用して、式(9)によりΔtからΔtrを計算する。Δtrが、到達時間差(TDOA)である。FDOA計算部8は、位置r1,r2,rm1,rm2と速度ベクトルv1,v2とを使用して、式(12)によりΔfからΔfrを計算する。Δfrが、到達周波数差(FDOA)である。なお、式(12)には位置r1,r2,rm1,rm2が含まれていないが、単位ベクトルu1mは、式(6)により位置r1,rm1から計算され、単位ベクトルu2mは、式(7)により位置r2,rm2から計算される。Δfrは、間接的に位置r1,r2,rm1,rm2を使用して計算される。
【0044】
等TDOA線計算部9は、位置r1,r2を使用して、式(10)および式(14)を満足する位置rを表す等TDOA線61を計算する。等FDOA線計算部15は、位置r1,r2と速度ベクトルv1,v2とを使用して、式(13)および式(14)を満足する位置rを表す等FDOA線62を計算する。静止衛星判別部10は、衛星(#1)71が静止衛星かどうかを判別し、衛星(#2)73が静止衛星かどうかを判別する。第1の測位部11は、衛星(#1)71および衛星(#2)73の少なくとも一方が静止衛星でない場合に、等TDOA線61と等FDOA線62の交点を電波源70の標定位置63(位置r)として決定する。
【0045】
等TDOA線61は、到達時間差(TDOA)が得られる電波源70の位置rを表す線である等到達時間差線である。等TDOA線計算部9は、等到達時間差線を計算する等到達時間差線計算部である。等FDOA線62は、到達周波数差(FDOA)が得られる電波源70の位置rを表す線である等到達周波数差線である。等FDOA線計算部15は、到達周波数差を計算する等到達周波数差線計算部である。
【0046】
電波源速度推定部12は、衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方が静止衛星である場合に、電波源70の速度ベクトルvを推定する。第2の測位部13は、等TDOA線61と速度ベクトルvを使用して算出した推定等FDOA線64を、電波源位置推定情報65として生成する。
【0047】
第2の測位部13は、FDOA修正部16、推定等FDOA線計算部17を有する。FDOA修正部16は、推定された速度ベクトルvからFDOA(=Δfr)を修正してΔfc(r)を推定する。推定されたΔfc(r)の中から決められた個数のΔfc(r)をほぼ等間隔になるように抽出する。抽出したΔfc(r)に対して、推定等FDOA線計算部17は、式(14)および式(19)を満足する電波源70の位置rである推定等FODA線64を計算する。
【0048】
Δfc(r)は、衛星(#1)71が移動することで発生する周波数偏移と、衛星(#2)73が移動することで発生する周波数偏移との差である衛星周波数差である。衛星周波数差は、Δfrから電波源周波数差еFDOA(v,r)を減算した周波数差でもある。FDOA修正部16は、衛星周波数差を計算する衛星周波数差計算部である。推定等FDOA線64は、Δfc(r)が得られる電波源70の位置rである推定等周波数差線である。推定等FDOA線計算部17は、推定等周波数差線を計算する推定等周波数差線計算部である。
【0049】
記憶部14は、位置r1,r2,rm1,rm2、速度ベクトルv1,v2、周波数f,f1,f2などの処理に必要なデータを記憶する。記憶部14は、u1,u2,u1m,u2m,Δtm,Δfmなどの処理の途中で使用するデータも記憶する。記憶部14は、想定位置範囲31、想定速度範囲32も記憶する。想定位置範囲31は、電波源70の位置rが存在すると想定する範囲である。想定速度範囲32は、電波源70の速度ベクトルvが存在すると想定する範囲である。電波源速度推定部12は、想定位置範囲31、想定速度範囲32を使用して電波源70の速度ベクトルvを推定する。電波源速度推定部12は、想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61上の位置で、想定速度範囲32に存在するvを推定する。
【0050】
電波源速度推定部12が電波源70の速度ベクトルvを推定する方法を説明する。以下の変数を定義する。
rTDOAk:想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61の上に分散して配置した位置。nを配置した位置の数として、kは、k=1,2,…,nである。均等に配置することが望ましい。
Qk(rTDOAk, v):速度ベクトルvを計算する際に使用する誤差関数。
ε:誤差関数Qk(rTDOAk, v)に対する閾値。
vmax:想定速度範囲32で規定する|v|の上限値。
vmin:想定速度範囲32で規定する|v|の下限値。
(vx, vy, vz):速度ベクトルvを直交座標系で表現したベクトル。
Δv:速度ベクトルvを探索する際の、直交座標系の各成分を変化させる刻み幅。
【0051】
想定位置範囲31は、例えば、緯度が東経130度~140度、経度が25度~45度などのように設定する。想定位置範囲31は、緯度と経度が同時に変化するような境界線を有するものでもよい。想定速度範囲32は、例えば、スカラー値である|v|に対して、上限値vmaxと下限値vminとにより設定する。上限値vmaxは、例えば秒速15mに設定する。下限値vminは、例えば秒速0mに設定する。想定速度範囲32は、速度ベクトルvの方向も制限するものでもよい。
【0052】
地球中心を原点とし地球の自転とともに回転する直交座標系であるXYZ座標系を使用する。
図4を参照して、XYZ座標系を説明する。
図4は、本開示に係る位置標定装置で使用するXYZ座標系を説明する模式図である。ここで、Rcは静止軌道の半径(Rc≒35786km)である。XYZ座標系では、地球60が自転する軸にZ軸を設定する。北向きが、Z軸の正の向きである。赤道77を通る平面をXY平面とする。衛星(#1)71および衛星(#2)73がYZ平面に対して対称に配置されるように、Y軸を設定する。衛星(#1)71および衛星(#2)73が存在する側がY軸の正の向きとする。つまり、衛星(#1)71および衛星(#2)73の中間の経度がゼロ度になり、衛星(#1)71および衛星(#2)73の中間を通る経線78が、YZ平面上に存在する。
【0053】
Y軸およびZ軸に直交するように、X軸を設定する。Y軸の正の向きに対して、東側に90度の方向がX軸の正の向きである。なお、静止衛星である衛星(#1)71および衛星(#2)73が、静止軌道76上に存在する場合で計算する。静止衛星が静止軌道から微小にずれた位置に存在する場合があるが、静止軌道からのずれは、XYZ座標系を回転して補正することで対応できる。
【0054】
rTDOAkは、想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61の上に、例えば緯度が0.5度刻みで設定する。rTDOAkは、緯度の小数点以下が0または0.5の値を取るように設定してもよいし、0または0.5以外の値を取るように設定してもよい。想定位置範囲31の広さに応じて、適切な間隔で適切な個数のrTDOAkを設定する。rTDOAkは、想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61の上に設定した想定位置である。
【0055】
各rTDOAkで電波源70の速度ベクトルvを求める際に使用する誤差関数Qk(rTDOAk, v)は、下に示す式で定義する。
【0056】
【0057】
電波源速度推定部12は、速度ベクトルvをQk(rTDOAk, v)が十分小さくなるように、すなわち下記の式を満足するように決める。εは、速度ベクトルvが必要な精度で求められるように決める。
【0058】
【0059】
式(20)で計算する誤差関数Qk(rTDOAk, v)が式(21)を満足するように速度ベクトルvを決定することは、vにより発生する周波数差であるеFDOA(v,rTDOAk)が、下に示す式(22)を満足するようにvを決めることを意味する。еFDOA(v,r)は、衛星(#1)71までで発生する電波源70が移動する速度ベクトルvによる周波数偏移と、衛星(#2)73までで発生する速度ベクトルvによる周波数偏移との差である電波源周波数差である。電波源速度推定部12は、速度ベクトルvを想定位置rTDOAkに応じて推定する。電波源速度推定部12は、еFDOA(v,rTDOAk)がΔfrからΔfc(rTDOAk)を減算した周波数差になるように、速度ベクトルvを推定する。
【0060】
【0061】
装置のH/W的な制約などのために、十分な計算時間、メモリ等が確保できない場合も考えられる。式(23)および式(24)に示すように、Qk(rTDOAk, v)をTDOA線に沿って平均を取った値が、十分小さくなるようなVを計算してもよい。
【0062】
【0063】
式(23)および式(24)を使用することで算出される速度ベクトルの数が削減され、それに伴い算出するFDOA線、標定点の数を減少し、演算負荷及び装置のメモリ等の負荷を低減することが可能となる。
【0064】
電波源速度推定部12は、速度ベクトルvの大きさ|v|を以下の式で計算する。
【0065】
【0066】
想定速度範囲32は、下に示す式(26)のように、速度ベクトルvの大きさ|v|を制限する。
【0067】
【0068】
電波源速度推定部12は、vx,vy,vzのそれぞれを、Δvずつ変化させて、式(21)および式(26)を満足するvをすべて計算する。Δvの大きさは、必要な精度でvが計算でき、かつ計算時間が過度に長くならないように決める。
【0069】
FDOA修正部16は、速度ベクトルvを推定する際に使用したrTDOAkでのu1(rTDOAk),u2(rTDOAk)と推定された速度ベクトルvとから式(17)によりеFDOA(v,r)を計算する。さらに、式(18)によりΔfc(r)を計算する。Δfc(r)が修正されたFDOAである。静止衛星は地球の中心から約35786kmの距離を有する静止軌道にある。電波源70の位置rが数100km程度変化しても、u1(r),u2(r)の変化は小さい。rが変化した際のu1(r)とu2(r)との差ベクトルu2(r)‐u1(r)の変化は、u1(r),u2(r)の変化よりも小さい。そのため、位置ベクトルrが正確に求まっていない場合でも、еFDOA(v,r)を推定できる。
【0070】
推定されたΔfc(r)の中から、想定位置範囲内31の大きさに応じた個数のΔfc(r)を抽出する。Δfc(r)の個数は、想定位置範囲内31で適切な間隔で等FDOA線64が配置されるように決める。Δfc(r)は、位置rが等間隔に近くなるように抽出する。抽出した各Δfc(r)に対して、推定等FDOA線計算部17は、式(14)および式(19)を満足する電波源70の位置rである推定等FODA線64を計算する。第2の測位部13は、想定位置範囲内31内の等TDOA線61および推定等FDOA線64を電波源位置推定情報として出力する。
【0071】
動作を説明する。
図5は、実施の形態1に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。ステップS01で、アンテナ(#1)72が衛星(#1)71で中継された電波83を受信して第1の受信信号s
1(t)を生成する。同時に、アンテナ(#2)74が衛星(#2)73で中継された電波84を受信して第2の受信信号s
2(t)を生成する。ステップS02で、ピーク検出部5が、s
1(t)とs
2(t)の相関関数が最大のピークになるピーク時間差Δtおよびピーク周波数差Δfを検出する。ステップS03で、TDOA計算部7がTDOAであるΔtrを計算する。FDOA計算部8がFDOAであるΔfrを計算する。ステップS04で、等TDOA線計算部9がΔtrに対して等TDOA線61を計算する。
【0072】
ステップS05で、静止衛星判別部10が衛星(#1)71および衛星(#2)73が静止衛星かどうか判別する。ステップS06で、衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方が静止衛星かどうかチェックする。S06で、衛星(#1)71および衛星(#2)73の少なくと一方が静止衛星でない(S06でNO)場合は、ステップS07で、等FDOA線計算部15がΔfrに対して等FDOA線62を計算する。ステップS08で、第1の測位部11が、等TDOA線61と等FDOA線62の交点を電波源70の標定位置63(位置r)として決定する。
【0073】
S06で、衛星(#1)71および衛星(#2)73の両方が静止衛星である(S06でYES)場合は、ステップS09で、電波源速度推定部12が電波源70の速度ベクトルvを推定する。ステップS10で、FDOA修正部16が速度ベクトルvを考慮してΔfrを修正して、Δfc(r)を計算する。ステップS11で、推定等FDOA線計算部17がΔfc(r)に対して推定等FDOA線64を計算する。ステップS12で、第2の測位部13は、等TDOA線61および想定位置範囲内31に含まれる推定等FDOA線64を電波源位置推定情報として出力する。
【0074】
図6に、位置標定装置50が位置標定した結果の例を示す。
位置標定する条件は、以下である。
衛星(#1)71の位置:経度が2度の静止軌道。
衛星(#2)73の位置:経度が-2度の静止軌道。
衛星(#1)71の速度ベクトルv
1:
v
1=(v
x,v
y,v
z)=(0.5,-0.3,-0.9)[m/秒]。
衛星(#2)73の速度ベクトルv
2:
v
2=(v
x,v
y,v
z)=(-0.3,-0.2,0.9)[m/秒]。
Δtr=-0.2[ミリ秒]。
Δfr=24[Hz]。
想定位置範囲31:緯度20~35度、経度-14~-1度。
vmax:15[m/秒]
【0075】
想定位置範囲31内での推定等FDOA線64と、等TDOA線61を電波源位置推定情報65として表示する。推定等FDOA線64には、衛星(#1)71および衛星(#2)73の移動により発生するFDOAであるΔfc(r)の値が分かるように表示する。推定等FDOA線64は、図を見やすくするために4本だけ表示している。実際には、適切な間隔で適切な個数の推定等FDOA線64を表示する。等TDOA線61を、想定位置範囲31内でだけ表示してもよい。想定位置範囲31は、枠線ではなく、透過するハッチングで表示してもよい。想定位置範囲31内でだけ推定等FDOA線64を表示する場合は、想定位置範囲31を表示しなくてもよい。想定位置範囲31の内部および外部で推定等FDOA線64を表示し、想定位置範囲31も表示してもよい。
【0076】
中継する衛星が2個とも静止衛星であり、位置標定できない場合でも、位置標定装置50は、電波源70の速度ベクトルvを推定して、速度ベクトルvに基づく電波源位置推定情報65を提示できる。中継する衛星が2個とも静止衛星である場合に、電波源70の位置に関する情報を従来よりも適切に提示できる。
【0077】
実際の測位では、監視局の受信機材や通信衛星の発振器の周波数ずれや、通信衛星の軌道(位置、速度)にオフセットずれ(定常的な偏差)が発生することは避けられない。そのため、受信信号s1(t),s2(t)には時間あるいは周波数のオフセットずれが生じる。時間あるいは周波数のオフセットずれが発生していると、位置標定の精度が悪くなる。
【0078】
位置標定装置は、等FDOA線計算部15を備えず、第1の測位部11が、位置r1,r2と速度ベクトルv1,v2とを使用して、等TODA線61上で式(13)を満足する位置を求めて、標定位置63としてもよい。式(13)を満足する位置は、FDOAを満足する位置である。等FDOA線計算部15を有するかどうかによらず、第1の測位部11が、等TODA線61上でFDOAを満足する位置を求めて標定位置63とする。
以上のことは、他の実施の形態でもあてはまる。
【0079】
実施の形態2.
実施の形態2に係る位置標定装置50Aは、位置が既知な参照局であるリファレンス局が放射する電波が2個の衛星でそれぞれ中継されて受信される第3の受信信号および第4の受信信号も使用して、電波源の位置を標定するように実施の形態1を変更した場合である。実施の形態2に係る位置標定装置では、第1の受信信号および第2の受信信号で検出するピーク時間差Δtおよびピーク周波数差Δfから、第3の受信信号および第4の受信信号検出するΔtrefおよびΔfrefを減算することで、第1の受信信号および第2の受信信号に存在する時間あるいは周波数のオフセットずれを除去する。
【0080】
図7は、実施の形態2に係る位置標定装置で、位置が未知の電波源の位置を標定する処理を説明する概念図である。
図7では、位置が既知であるリファレンス局75からも電波が放射される。リファレンス局75が放射するメインローブの電波85が衛星(#1)71に向けて送信される。同時に、リファレンス局75はサイドローブの電波86を放射する。衛星(#1)71は電波85を中継して電波87を送信する。衛星(#1)71からの電波87は、監視局のアンテナ(#1)72で受信される。アンテナ(#1)72は、電波87を受信して受信信号93を生成する。受信信号93が第3の受信信号である。リファレンス局75が放射するサイドローブの電波86は、衛星(#2)73により中継され、監視局のアンテナ(#2)74で電波88として受信される。アンテナ(#2)74は、電波88を受信して受信信号94を生成する。受信信号94が第4の受信信号である。
【0081】
リファレンス局75を使用する場合について、TDOAおよび周波数差(FDOA)から電波源70の位置を標定する方法を説明する。
【0082】
以下の変数を定義する。
rc:リファレンス局75の位置。
Δtref:リファレンス局75が放射する電波が衛星(#1)71、衛星(#2)73で中継されることで発生する時間差。
Δfref:リファレンス局75が放射する電波が衛星(#1)71、衛星(#2)73で中継されることで発生する周波数差。
Δttar-ref:ΔtとΔtrefの差。
Δftar-ref:ΔfとΔfrefの差。
Δts:リファレンス局75が放射する電波で、衛星(#1)71および衛星(#2)73までに発生する時間差。
Δfs:リファレンス局75が放射する電波で、衛星(#1)71および衛星(#2)73までに発生する周波数差。
u1c:リファレンス局75から衛星(#1)71へ向かう単位ベクトル。
u2c:リファレンス局75から衛星(#2)73へ向かう単位ベクトル。
s3(t):アンテナ(#1)72で受信される信号93。
s4(t):アンテナ(#2)74で受信される信号94。
【0083】
リファレンス局75から放射されてアンテナ(#1)72で受信される信号s3(t)と、アンテナ(#2)74で受信される信号の共役s4
*(t)の間でも、式(1)と同様に計算される相関関数CAFを計算する。第3の受信信号s3(t)を第1の信号とし、第4の受信信号s4(t)を第2の信号として、相関関数CAFを計算する。
【0084】
リファレンス局75から放射される電波の受信信号に関して、式(1)で計算する相関関数がピーク値を取るτが、時間差Δtrefである。また、ピークを取るνが、周波数差Δfrefである。Δtrefは、信号s3(t)と信号s4(t)の経路の長さの差により発生するので、下に示す式で表せる。また、リファレンス局75から衛星までで発生する時間差Δtsは、下に示す式で表せる。
【0085】
【0086】
Δtsは、リファレンス局75から衛星(#1)71までの電波の到達時間と、リファレンス局75から衛星(#3)73までの電波の到達時間との差である参照局時間差である。
【0087】
周波数差Δfrefおよびリファレンス局75から衛星までで発生する周波数差Δfsは、以下の式で計算する。
【0088】
【0089】
Δfsは、リファレンス局75から衛星(#1)71までで発生する周波数偏移と、リファレンス局75から衛星(#2)73までで発生する周波数偏移との差である参照局周波数差である。
【0090】
式(29)および式(30)で使用する単位ベクトルu1c(r),u2c(r)は、下に示す式で計算する。
【0091】
【0092】
実施の形態2では、電波源70から放射される電波が受信されて生成された受信信号s1(t)およびs2(t)のピーク時間差Δtと、リファレンス局75から放射される電波が受信されて生成された受信信号s3(t)およびs4(t)のピーク時間差Δtrefとの差であるΔttar-refを計算する。また、受信信号s1(t)およびs2(t)のピーク周波数差Δfと、受信信号s3(t)およびs4(t)のピーク周波数差Δtrefとの差であるΔftar-refを計算する。ピーク時間差Δtを電波源ピーク時間差と呼び、ピーク周波数差Δfを電波源ピーク周波数差と呼ぶ。ピーク時間差Δtrefを参照局ピーク時間差と呼び、ピーク周波数差Δfrefを参照局ピーク周波数差と呼ぶ。
【0093】
Δttar-refは、下に示す式(33)に示すような成分を有する。
【0094】
【0095】
Δftar-refは、下に示す式(34)に示すような成分を有する。
【0096】
【0097】
位置が既知であるリファレンス局75、衛星(#1)71および衛星(#2)73の位置rc,r1,r2を使用して、Δtsを式(28)により計算する。Δtsは、リファレンス局75から衛星(#1)71および衛星(#2)73までの時間差である。さらに式(35)に示すように、Δttar-refからΔtsを減算したものをΔtrとする。
【0098】
【0099】
位置が既知であるリファレンス局75、衛星(#1)71および衛星(#2)73の位置rc,r1,r2と、衛星(#1)71および衛星(#2)73の速度ベクトルv1,v2とを使用して、Δfsを式(30)により計算する。Δfsは、リファレンス局75から衛星(#1)71および衛星(#2)73までで発生する周波数差である。さらに式(36)に示すように、Δftar-refからΔfsを減算した周波数差をΔfrとする。
【0100】
【0101】
式(35)で計算するΔtrと式(36)で計算するΔfrを使用する実施の形態2では、衛星(#1)71からアンテナ(#1)72までの経路と、衛星(#2)73からアンテナ(#2)74までの経路とにおいて時間差または周波数差を発生させる要因およびその他のずれを発生させる要因の影響を排除して、電波源70の位置rを推定できる。
【0102】
図8を参照して、実施の形態2に係る位置標定装置の構成を説明する。位置標定装置50Aには、受信信号91,92に加えて受信信号93,94が入力される。そのため、位置標定装置50Aは、周波数変換部1A,1B,1C,1D、AD変換部2A,2B,2C,2D、直交検波部3A,3B,3C,3Dを有する。相関関数計算部4A、ピーク検出部5A、TDOA計算部7A、FDOA計算部8Aおよび記憶部14Aを変更している。
【0103】
周波数変換部1Cは、受信信号93を中間周波数に変換する。AD変換部3Cは、周波数変換部1Cが出力する信号をデジタル値に変換する。直交検波部3Cは、AD変換部2Cでデジタル化された信号を直交検波して、複素ベースバンド信号s3(t)を出力する。周波数変換部1D、AD変換部2Dおよび直交検波部3Dは、同様な処理を受信信号94に対して実施する。直交検波部3Dは、複素ベースバンド信号s4(t)を出力する。
【0104】
相関関数計算部4Aは、決められた期間Tのs1(t)およびs2(t)に対して、式(1)により相関関数CAFを計算する。ピーク検出部5Aは、相関関数CAFが最大のピークを取るΔtおよびΔfを検出する。Δtは、s1(t)およびs2(t)の間での相関関数CAFがピークになるピーク時間差である。Δfは、s1(t)およびs2(t)の間での相関関数CAFがピークになるピーク周波数差である。
【0105】
相関関数計算部4Aおよびピーク検出部5Aは、決められた期間Tのs3(t)およびs4(t)に対しても同様に動作する。相関関数計算部4Aは、決められた期間Tのs3(t)およびs4(t)に対して、式(1)により相関関数CAFを計算する。ピーク検出部5Aは、相関関数CAFが最大のピークを取るΔtrefおよびΔfrefを検出する。Δtrefは、s3(t)およびs4(t)の間での相関関数CAFがピークになるピーク時間差である。Δfrefは、s3(t)およびs4(t)の間での相関関数CAFがピークになるピーク周波数差である。
【0106】
TDOA計算部7Aは、式(33)に示すようにΔtからΔtrefを減算してΔttar-refを計算する。位置r1,r2,rcを使用して、式(28)に示すようにΔtsを計算する。さらに式(35)に示すようにΔttar-refからΔtsを減算して、Δtrを計算する。TDOA計算部7Aは、ΔtとΔtrefとΔtsとに基づき、Δtrを計算する。
【0107】
FDOA計算部8Aは、式(34)に示すようにΔfからΔfrefを減算してΔftar-refを計算する。位置r1,r2,rcおよび速度ベクトルv1,v2を使用して、式(30)に示すようにΔfsを計算する。さらに式(36)に示すようにΔftar-refからΔfsを減算して、Δfrを計算する。FDOA計算部8Aは、ΔfとΔfrefとΔfsとに基づき、Δfrを計算する。
【0108】
記憶部14Aは、記憶部14と比較して、処理に必要なデータと、処理の途中で使用するデータに関して記憶するデータを変更している。記憶部14Aは、位置rm1,rm2、Δtm,Δfm、ベクトルu1m,u2mなどを記憶しない。記憶部14Aは、位置rc、Δtc,Δfc、ベクトルu1c,u2cなどを記憶する。
【0109】
動作を説明する。
図9は、実施の形態2に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
図9について、実施の形態1の場合の
図5と異なる点を説明する。ステップS01Aで、アンテナ(#1)72が電波83を受信して第1の受信信号s
1(t)を生成し、電波87を受信して第3の受信信号s
3(t)を生成する。同時に、アンテナ(#2)74が電波84を受信して第2の受信信号s
2(t)を生成し、電波88を受信して第4の受信信号s
4(t)をする。ステップS02Aで、ピーク検出部5が、s
1(t)およびs
2(t)に関してピーク時間差Δtおよびピーク周波数差Δfを検出し、s
3(t)およびs
4(t)に関してピーク時間差Δt
refおよびピーク周波数差Δf
refを検出する。ステップS03Aで、TDOA計算部7Aが、ΔtとΔt
refからTDOAであるΔtrを計算する。FDOA計算部8Aが、ΔfとΔf
refからFDOAであるΔfrを計算する。
【0110】
ステップS04以降の動作は、位置標定装置50と同じである。
【0111】
リファレンス局が送信する電波を受信して得られる第3の受信信号および第4の受信信号も使用することで、第1の受信信号および第2の受信信号に存在する時間あるいは周波数のオフセットずれを除去する。リファレンス局を使用することで、リファレンス局を使用しない場合よりも、電波源を位置標定する精度が高くなる。
【0112】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態1を基に、等TDOA線上の位置を電波源位置推定情報として出力するようにした場合である。
図10は、実施の形態3に係る位置標定装置の構成を示すブロック図である。
図10について、実施の形態1の場合の
図3とは異なる点を説明する。実施の形態2あるいは他の実施の形態を基に、同様な変更をしてもよい。
【0113】
位置標定装置50Bは、想定情報入力部18を追加している。想定情報入力部18は、ユーザが使用して想定位置範囲31および想定速度範囲32Bを入力する。想定速度範囲32Bは、速度ベクトルvの大きさ|v|の範囲だけでなく、vの方向も制限する範囲である。想定情報入力部18は、想定位置範囲31および想定速度範囲32Bをユーザが入力する入力手段である。
【0114】
位置標定装置50Bでは、電波源速度推定部12B、第2の測位部13B、記憶部14Bを変更している。第2の測位部13Bは、FDOA修正部16Bを変更している。電波源速度推定部12Bは、想定速度範囲32Bの範囲内で速度ベクトルvを探索する。電波源速度推定部12Bは、起動されるとすぐに想定速度範囲32Bを読み込む。
【0115】
第2の測位部13Bでは、FDOA修正部16Bを変更している。FDOA修正部16Bは、想定位置範囲31に含まれる等TDOA線上に配置した位置である各rTDOAkで、推定FDOAであるΔfc(rTDOAk)を計算する。FDOA修正部16Bは、各rTDOAkに対して、式(37)によりΔfc(rTDOAk)を計算する。
【0116】
【0117】
第2の測位部13Bは、存在確度計算部19および最尤位置推定部20も有する。存在確度計算部19は、各rTDOAkで計算されたすべての速度ベクトルvを含む錐体を求める。錐体はすべての速度ベクトルvを包含する方向の範囲を規定する。錐体で規定される速度ベクトルvの方向の範囲を許容方向範囲66と呼ぶ。電波源速度推定部12Bは、推定速度範囲32B内の速度ベクトルvを求めているので、許容方向範囲66は推定速度範囲32Bに含まれる。存在確度計算部19は、許容方向範囲66が想定速度範囲32Bに占める割合(存在確度)を計算する。さらに、存在確度が決められた下限値(存在判断下限値33)以上である場合に、その点に電波源70が存在する可能性があると判断する。電波源70が存在する可能性があるrTDOAkを、可能位置67と呼ぶ。すべての可能位置67について存在確度を重み付け係数として求めた重心に至近の等TDOA線61上の位置を最尤位置68と呼ぶ。最尤位置推定部20が、最尤位置68を求める。最尤位置68は、可能位置67よりも電波源70が存在する可能性が高いと考えられる位置である。可能位置67および最尤位置68は、電波源位置推定情報として出力する。
【0118】
存在判断下限値33は、例えば10%に設定する。存在判断下限値33は、想定位置範囲31内における存在確度の最大値に対する比率で規定してもよい。存在判断下限値33は、固定値および存在確度の最大値に対する比率の両方で、AND条件またはOR条件で使用するような複数の値でもよい。ユーザが存在判断下限値33を入力する手段を備えてもよい。
【0119】
推定等FDOA線計算部17は、可能位置67と判定された位置rTDOAkに対して、式(37)で計算される推定FDOAであるΔfc(rTDOAk)が得られる位置rである推定等FODA線64を計算する。
【0120】
記憶部14Bは、想定位置範囲31、想定速度範囲32Bおよび在判断下限値33を記憶する。記憶部14Bは、処理の途中で使用するデータとして、記憶部14とは異なるデータを記憶する。
【0121】
想定速度範囲32Bでは、速度ベクトルvの方向を指定するために、地平座標系での仰角と方位角を使用する。地平座標系をXYZ座標系に変換する方法を説明する。
以下の変数を定義する。
φ:電波源70の位置rの緯度。
θ:電波源70の位置rの経度。
ξ:電波源70の速度ベクトルvの地平座標系での仰角。
ψ:電波源70の速度ベクトルvの地平座標系での方位角。南向きでψ=0度。東向きでψ=90度。
ξmax:電波源70の速度ベクトルvの地平座標系での仰角の上限値。
ξmin:電波源70の速度ベクトルvの地平座標系での仰角の下限値。
ψmax:電波源70の速度ベクトルvの地平座標系での方位角の上限値。
ψmin:電波源70の速度ベクトルvの地平座標系での方位角の下限値。
[M]:地平座標系からXYZ座標系への変換行列。
【0122】
想定速度範囲32Bでは、下に示す式で速度ベクトルvの範囲を制限する。
【0123】
【数24】
|v|に対する上限値v
maxは、例えば秒速15mに設定する。下限値v
minは、例えば秒速0mに設定する。仰角ξに対する上限値ξ
maxは、例えば12[度]に設定する。下限値ξ
minは、例えば-12[度]に設定する。これは、自動車が通る道路の勾配が最大で10度程度であることに合わせている。方位角ψは、範囲を指定しない場合は、ψmin=-180[度]、ψmax=180[度]に設定する。北を含む範囲で方位角ψを制限する場合は、例えばψmin<180[度]<ψmaxとなるように、ψminおよびψmaxを設定する。
【0124】
地平座標系で極座標で表す速度ベクトルvは、変換行列[M]により、下に示す式(41)のようにXYZ直交座標系での値に変換できる。
【0125】
【0126】
変換行列[M]は、下に示す式(42)で表される。
【0127】
【0128】
電波源速度推定部12Bは、起動されるとすぐに想定速度範囲32Bを読み込み、想定速度範囲32Bを式(41)によりXYZ座標系での範囲に変換する。電波源速度推定部12Bは、速度ベクトルvを探索する際には、想定速度範囲32Bの範囲内で探索する。
【0129】
直交座標系での速度ベクトルVは、変換行列[M-1]により、下に示す式(43)で表されるように地平座標系で極座標で表す速度ベクトルに変換できる。
【0130】
【0131】
変換行列[M-1]は、下に示す式(44)で表される。
【0132】
【0133】
存在確度計算部19の処理を説明するため、以下の変数を定義する。
G(rTDOAk):位置rTDOAkでの許容方向範囲66の面積。
Gdet:想定速度範囲32Bの面積。
γ(rTDOAk):G(rTDOAk)のGdetに対する割合。存在確度と呼ぶ。
γmin:rTDOAkに電波源70が存在すると判断する存在確度γに対する下限値。存在判断下限値33として、記憶部14Bに記憶される。
rcent:可能位置67であるrTDOAkの重み付け重心。
rmost:最尤位置68を表す。rcentに至近のTODA線61上の位置。
【0134】
存在確度計算部19は、各rTDOAkに対して、そのrTDOAkで計算されたすべての速度ベクトルvを、式(43)により地平座標系での速度ベクトルに変換する。地平座標系での速度ベクトルvをすべて含む範囲を求める。求めた範囲が、許容方向範囲66である。式(45)に示すように、許容方向範囲66の面積であるG(rTDOAk)を推定速度範囲32Bの面積で除算して、存在確度γ(rTDOAk)を計算する。
【0135】
【0136】
ここで、推定速度範囲32Bの面積は、仰角ξおよび方位角ψを直交するように設定したξψ平面において、推定速度範囲32Bが占める範囲の面積である。許容方向範囲66も、ξψ平面における面積である。
【0137】
可能位置67は、存在確度γ(rTDOAk)がγmin以上(γ(rTDOAk)≧γmin)であるrTDOAkである。最尤位置推定部20が、すべての可能位置67であるrTDOAkを重み付けして重心rcentを求める。
【0138】
【数30】
式(46)において、Σは、γ(r
TDOAk)≧γminであるr
TDOAkすなわち各可能位置67ついて和を取ることを意味する。r
centに至近のTODA線61上の位置を求めて、最尤位置68であるr
mostとする。
【0139】
存在確度γ(rTDOAk)は、電波源速度推定部12Bが推定する速度ベクトルvの範囲の想定方向範囲32Bに対する割合である可能速度割合である。式(46)の右辺の分母は、すべての可能位置67で推定される速度ベクトルvの存在確度γ(rTDOAk)の和である全体可能速度割合である。各可能位置67の存在確度γ(rTDOAk)を全体可能速度割合で除算した値を重み付け係数として、各rTDOAkを重み付け平均した位置、すなわち重み付け重心rcentを求める。最尤位置68は、重み付け重心rcentに基づき決める。
【0140】
動作を説明する。
図11は、実施の形態3に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
図11について、実施の形態1の場合の
図5と異なる点を説明する。ステップS09Bで、電波源速度推定部12Bが、速度ベクトルvの方向も制限する想定速度範囲32Bを考慮して電波源70の速度ベクトルvを推定する。S09Bの次にステップS13で、各r
TDOAkに対して計算されたすべての速度ベクトルvを含む許容方向範囲66を求める。ステップS14で、許容方向範囲66から各r
TDOAkの存在確度γ(r
TDOAk)を計算する。ステップS15で、γ(r
TDOAk)≧γminであるr
TDOAkを、可能位置67とする。ステップS16で、可能位置67の重み付け重心r
centを計算する。ステップS17で、r
centに至近のTODA線61上の位置を求めて、最尤位置68であるr
mostとする。ステップS11Bで、推定等FDOA線計算部17が可能位置67に対して推定等FDOA線64を計算する。ステップS12Bで、第2の測位部13Bは、想定位置範囲内31に含まれる等TDOA線61、推定等FDOA線64、可能位置67および最尤位置68を電波源位置推定情報として出力する。電波源位置推定情報として、可能位置67を通る推定等FDOA線64あるいは可能位置67を出力しなくてもよい。
【0141】
ステップS18で、想定位置範囲31または想定速度範囲32Bが変更されたかチェックする。想定位置範囲31または想定速度範囲32Bが変更されている(S18でYES)場合は、S09Bへ戻る。想定位置範囲31または想定速度範囲32Bが変更されていない(S18でNO)場合は、処理を終了する。
【0142】
図12および
図13に、位置標定装置50Bが位置標定した結果の例を示す。
図12が速度ベクトルvの大きさ|v|とvの仰角ξに制約条件を設定し、vの方位角ψを制約しない場合である。
図13が速度ベクトルvの大きさ|v|、仰角ξおよび方位角ψを制約する場合である。
【0143】
位置標定装置50Bは、電波源位置推定情報65Bとして、可能位置67と最尤位置68も生成する。図では、可能位置67は白丸で表示し、最尤位置68は×印で表示する。
【0144】
設定した制約条件は、以下である。
図12に示す場合をCase1とし、
図13に示す場合をCase2とする。
γmin=0.1
(Case1)
|v|≦15[m/秒]
-12[度]≦ξ≦12[度]
-180[度]≦ψ≦180[度]
(Case2)
13[m/秒]≦|v|≦15[m/秒]
-12[度]≦ξ≦12[度]
135[度]≦ψ≦145[度]
【0145】
想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61の上の各位置r
TDOAkでの存在確度γは、
図14に示すようになる。
図14では横軸を位置r
TDOAkの緯度φとしている。Case1、Case2のどちらでも、想定位置範囲31に含まれる各位置r
TDOAkで、存在確度γ>γminである。そのため、想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61の上の各位置r
TDOAkは可能位置67である。各可能位置67について、その存在確度γをユーザが参照できる。
図を見やすくするため、可能位置67を4個、表示している。可能位置67は、適切な間隔で適切な個数を表示すればよい。
【0146】
Case1とCase2では、Case2の方が想定方向範囲32Bを狭く設定している。そのため、位置rTDOAkの中で緯度φが大きいものの存在確度γが大きくなる。その結果、Case2での最尤位置68は、Case1での最尤位置68よりも緯度が大きい位置になる。衛星(#1)71および衛星(#2)73の速度ベクトルv1,v2が異なる状況で、速度ベクトルvの大きさ|v|と方向の制約をより狭く設定すると、想定位置範囲31に含まれる等TDOA線61の上の各位置rTDOAkで、可能位置67でないものが発生する場合がある。また、設定した想定方向範囲32Bに応じて、最尤位置68が変化する。
【0147】
位置標定装置50Bでは、中継する衛星が2個とも静止衛星であり、位置標定できない場合でも、電波源70の速度ベクトルvを推定して、速度ベクトルvに基づく電波源位置推定情報65Bを提示できる。中継する衛星が2個とも静止衛星である場合に、電波源70の位置に関する情報を従来よりも適切に提示できる。
【0148】
最尤位置68に対応する推定等FDOA線64を表示してもよい。可能位置67に対応させて推定等FDOA線64を表示しているが、推定等FDOA線64は表示しなくてもよい。
【0149】
各可能位置67の中で存在確度γが最大になる可能位置67を、最尤位置68としてもよい。存在確度γが最大になる可能位置67は、例えば2分探索法により求めればよい。
【0150】
存在確度γ(rTDOAk)としては、直交座標系での許容方向範囲66および想定速度範囲32Bの立体角の比として計算してもよい。あるいは、重み付け和を利用して存在確度γ(rTDOAk)を計算してもよい。重み付け和とは、重み付け関数g(ξ, ψ)を使用してG(rTDOAk)を計算することである。重み付け関数g(ξ,ψ)は、ある方向(ξ,ψ)が許容方向範囲66に含まれない場合に0を返し、含まれる場合に0でない値を返す関数である。重み付け関数g(ξ,ψ)は、0でない値を返す場合に、ξまたはψの少なくとも一方の値に応じて返す値を変化させる。そうすることで、ξまたはψの上限または下限に近い範囲での重みg(ξ, ψ)を小さくしてG(rTDOAk)を計算することができる。なお、許容方向範囲66のξψ平面に面積であるG(rTDOAk)を計算することは、方向(ξ,ψ)が許容方向範囲66に含まれない場合に0を返し、許容方向範囲66に含まれる場合に1を返す関数(仮にh(ξ, ψ)とする)を、想定速度範囲32Bに含まれるξおよびψで積分することと等価である。
以上のことは、他の実施の形態でもあてはまる。
【0151】
実施の形態4.
実施の形態4は、実施の形態3を基に、電波源の移動を表す速度ベクトルvの推定方法を変更した場合である。実施の形態4に係る位置標定装置50Cでは、各rTDOAkに対してFDOAであるΔfrと修正FDOAであるΔfc(rTDOAk)の差に等しい、電波源周波数差であるеFDOA(v,rTDOAk)を計算する。
【0152】
図15は、実施の形態4に係る位置標定装置50Cの構成を示すブロック図である。
図15について、実施の形態3の場合の
図10とは異なる点を説明する。位置標定装置50Cでは、電波源速度推定部12Cおよび存在確度計算部19Cを変更している。
【0153】
電波源速度推定部12Cは、各rTDOAkに対して式(47)で計算されるеFDOA(v,rTDOAk)に対して、式(48)を満足するような電波源70の速度ベクトルvを計算する。なお、Δfc(rTDOAk)は、式(37)で計算する。
【0154】
【0155】
式(48)を満足する速度ベクトルvを計算する方法を説明するために、以下の変数を定義する。
ud(rTDOAk):u1(rTDOAk)とu2(rTDOAk)の差ベクトル。
(ux, uy, uz):ud(rTDOAk)を直交座標で表したベクトル。
φd:ud(rTDOAk)を極座標で表現した際のXY平面となす角度。
θd:ud(rTDOAk)を極座標で表現した際のYZ平面となす角度。
ζ:速度ベクトルvとud(rTDOAk)とがなす角度。
ρ:速度ベクトルvのud(rTDOAk)の回りの回転角度。
ζmax:еFDOA(v,rTDOAk)が得られる角度ζの上限値。
ζmax:еFDOA(v,rTDOAk)が得られる角度ζの下限値。
【0156】
ud(rTDOAk)は、下に示す式(49)で計算する。u1(rTDOAk)およびu2(rTDOAk)は、式(4)および式(5)においてr=rTDOAkとして計算する。
【0157】
【0158】
ud(rTDOAk)を極座標で表現する際の角度φdおよびθdは、以下の式で計算する。
【0159】
【0160】
式(49)を、式(48)に代入して、下に示す式(53)が得られる。式(53)を変形して、式(54)となる。
【0161】
【0162】
式(54)をcosζについて解くと、式(55)となる。
【0163】
【0164】
式(55)を満足する角度ζを、速度ベクトルvの大きさ|v|の制約条件である式(38)を考慮して求める。余弦関数は1以下の値しか取らないので、式(55)を満足する角度ζが存在するためには、|v|の上限値であるvmaxは、下に示す式(56)を満足する必要がある。vmaxが式(56)を満足しない場合は、式(55)を満足する速度ベクトルvは存在しない。
【0165】
【0166】
vmaxが式(56)を満足する場合には、角度ζの上限値ζmaxは、式(57)で計算する。
【0167】
【0168】
vmaxが式(56)を満足する場合には、角度ζの下限値ζminは、vminの値を場合分けして下に示す式で計算する。
【0169】
【0170】
電波源速度推定部12Cは、各rTDOAkに対して、式(56)が成立しない場合は、速度ベクトルvは存在しないとする。式(56)が成立する場合は、式(57)で角度ζの上限値ζmaxを計算し、式(58-1)または式(58-2)で角度ζの下限値ζminを計算する。ζmaxおよびζminを使用して、式(49)と式(38)を満足する速度ベクトルvとして、以下の範囲が得られる。
【0171】
【0172】
速度ベクトルvは、ベクトルud(rTDOAk)となす角度ζがζmax以下かつζmin以上であり、ud(rTDOAk)に平行な成分が(c/f)(еFDOA(v,r)/|ud(rTDOAk)|)であるベクトルである。式(59)~(61)を満足するすべての速度ベクトルvの始点をud(rTDOAk)の始点に一致させると、vの先端は、ud(rTDOAk)に垂直な平面で円またはドーナツ状に存在する。
【0173】
速度ベクトルvを、下に示すように変換行列[T]を使用してXYZ座標系での値に変換できる。
【0174】
【0175】
変換行列[T]は、下に示すように表される。
【0176】
【0177】
式(57)から式(60)で規定される速度ベクトルvの方向は、式(49)と式(38)を満足する速度ベクトルvの方向である。式(49)と式(38)を満足する速度ベクトルvの方向の範囲を可能方向範囲69と呼ぶ。
【0178】
存在確度計算部19Cは、XYZ座標系で表現された可能方向範囲69を式(43)により地平座標系での方向の範囲に変換する。角度ζおよびρで表現される方向を、直接に地平座標系での方向に変換してもよい。その場合には、下に示す式で変換できる。
【0179】
【0180】
存在確度計算部19Cは、
図16に示すように、可能方向範囲69と想定速度範囲32Bとの重複部分を許容方向範囲66として求める。
図16は、可能方向範囲69、想定速度範囲32Bおよび許容方向範囲66の関係を例により説明する図である。
図16では、方位角ψが正の範囲だけを表示している。方位角ψは、360[度](2π[rad])の範囲で変化する。可能方向範囲69に含まれる方向であり、かつ想定速度範囲32Bにも含まれる方向が、許容方向範囲66である。
図16では、想定速度範囲32Bを、|ξ|≦12[度]、75[度]≦ψ≦150[度]に設定している。環状の領域である可能方向範囲69と想定方向範囲32との両方に含まれる方向の範囲が、許容方向範囲66である。
図16では、許容方向範囲66にハッチングを付して表示している。
【0181】
動作を説明する。
図17は、実施の形態4に係る位置標定装置の動作を説明するフローチャートである。
図17について、実施の形態3の場合の
図11と異なる点を説明する。ステップS09Cで、電波源速度推定部12Cが、速度ベクトルvの大きさ|v|を考慮し、vの方向を考慮しないで電波源70の速度ベクトルvを推定する。推定したすべての速度ベクトルvの方向を含む範囲を、可能方向範囲69とする。ステップS13Cで、可能方向範囲69と想定速度範囲32Bとが重なり合う部分を、存在確度計算部19Cが許容方向範囲66として求める。
その他の点では、位置標定装置50Bと同様に動作する。
【0182】
位置標定装置50Cでは、中継する衛星が2個とも静止衛星であり、位置標定できない場合でも、電波源70の速度ベクトルvを推定して、速度ベクトルvに基づく電波源位置推定情報65Bを提示できる。中継する衛星が2個とも静止衛星である場合に、電波源70の位置に関する情報を従来よりも適切に提示できる。
【0183】
位置標定装置50Cでは、電波源70の速度ベクトルvの可能方向範囲69を解析的に求めている。そのため、位置標定装置50Cは、位置標定装置50Bよりも可能方向範囲69を効率的に求めることができる。
【0184】
各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の変形や一部の構成要素を省略すること、あるいは一部の構成要素の省略や変形をした各実施の形態の自由な組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0185】
50、50A、50B、50C、50X 位置標定装置、
1A,1B,1C,1D 周波数変換部、
2A,2B,2C,3D AD変換部、
3A,3B,3C,3D 直交検波部、
4、4A 相関関数計算部、
5、5A ピーク検出部、
6 衛星データ取得部、
7、7A TDOA計算部、
8、8A FDOA計算部、
9 等TDOA線計算部、
10 静止衛星判別部、
11 第1の測位部、
12、12B、12C 電波源速度推定部、
13、13B、13C 第2の測位部、
14、14A、14B、14C 記憶部、
15 等FDOA線計算部、
16、16B FDOA修正部、
17 推定等FDOA線計算部、
18 想定情報入力部、
19、19C 存在確度計算部、
20 最尤位置推定部、
31 想定位置範囲、
32、32B 想定速度範囲、
33 存在判断下限値、
60 地球、
61 等TDOA線(等到達時間差線)、
62 等FDOA線(等到達周波数差線)、
63 標定位置、
64 推定等FDOA線(推定等周波数差線)、
65、65B 電波源位置推定情報、
66 許容方向範囲、
67 可能位置、
68 最尤位置、
69 可能方向範囲、
70 電波源、
71 衛星(#1)(第1の衛星)、
72 アンテナ(#1)、
73 衛星(#2)(第2の衛星)、
74 アンテナ(#2)、
75 リファレンス局(参照局)、
76 静止軌道、
77 赤道、
78 衛星(#1)71および衛星(#2)73の中間を通る経線、
81 電波、
82 電波、
83 電波、
84 電波、
85 電波、
86 電波、
87 電波、
88 電波、
91 受信信号(第1の受信信号)、
92 受信信号(第2の受信信号)、
93 受信信号(第3の受信信号)、
94 受信信号(第4の受信信号)。