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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/08 20060101AFI20241129BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B29D30/08
B60C5/00 F
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020212583
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098914
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 法行
(72)【発明者】
【氏名】松延 裕子
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520930(JP,A)
【文献】特開2007-161070(JP,A)
【文献】特表2018-527232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00ー19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部、サイド部およびビード部を有するタイヤ本体を成型する成型工程と、
前記タイヤ本体の内腔面に、25℃における粘度が300Pa.s以上、400Pa.s以下の接着体を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程によって塗布された前記接着体に制音材を押し付けるようにして接触させて前記制音材を前記内腔面に貼り付ける貼付け工程と、
を備え
前記成型工程では、ブラダーを前記内腔面に押し付けることによって凸状の条部が形成されており、
前記塗布工程では、前記接着体の厚みが前記条部の高さより大きいことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制音材を設けた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着された空気入りタイヤは、車両の走行によってタイヤ内腔の空気によって空洞共鳴が発生する。タイヤの空洞共鳴によって生じた音は、車両に伝わり、車室内では騒音となるため、低減化のためにタイヤ空洞共鳴対策が講じられてきた。
【0003】
特許文献1には、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、トレッド部の内面にタイヤ周方向に沿って接着層を介して制音材が固定され、接着層が基材を含まない固形型の粘着剤からなる空気入りタイヤが記載されている。特許文献1には、空気入りタイヤの接着層の平均厚さを0.05mm~5.00mmとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-73246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気入りタイヤは、成型時にブラダーをタイヤ内腔面に押し付けることによって、タイヤ内腔面に凸凹が形成される場合がある。例えば、特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、接着層の厚みを下限側の0.05mmのように薄くした場合、タイヤ内腔面の凹凸が原因となり、接着層と制音材との間に生じる空隙によって接着不足が生じることがある。空気入りタイヤは、接着時における制音材のタイヤ内腔面への押し付けによって凸部分で接着層が薄くなり接着強度が低下して接着不足が生じてしまう問題があった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、制音材のタイヤ内腔面への接着不足を抑制することができる空気入りタイヤおよび空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は空気入りタイヤである。空気入りタイヤは、タイヤ本体と、前記タイヤ本体の内腔面に接着体によって貼り付けられた制音材と、を備え、前記接着体は、前記内腔面への塗布時の粘度が300Pa.s以上、400Pa.s以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は空気入りタイヤの製造方法である。空気入りタイヤの製造方法は、トレッド部、サイド部およびビード部を有するタイヤ本体を成型する成型工程と、前記タイヤ本体の内腔面に粘度が300Pa.s以上、400Pa.s以下の接着体を塗布する塗布工程と、前記塗布工程によって塗布された接着体に制音材を押し付けるようにして接触させて制音材を前記内腔面に貼り付ける貼付け工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制音材のタイヤ内腔面への接着不足を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る制音材を備える空気入りタイヤの縦断面を示す断面図である。
図2】タイヤ内腔に配設した状態の制音材の外観を示す斜視図である。
図3】タイヤ本体および接着体の縦断面を示す断面図である。
図4】空気入りタイヤの製造方法を示すフローチャートである。
図5図3に示すA-A線による接着体塗布後の空気入りタイヤの断面図である。
図6図3に示すA-A線による制音材貼付け後の空気入りタイヤの断面図である。
図7図7(a)および図7(b)は、変形例に係る接着体について説明するための模式図である。
図8図8(a)および図8(b)は、別の変形例に係る接着体について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図8を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る制音材30を備える空気入りタイヤ1の縦断面を示す断面図である。空気入りタイヤ1は、タイヤ本体10、ホイール20、制音材30および接着体40を備える。タイヤ本体10は、リング状に形成されたトレッド部11によって地面に接触する。トレッド部11の軸方向(タイヤの幅方向)の両端に連続してサイド部12が設けられ、サイド部12のホイール20側の端部にビード部13が形成されている。
【0013】
タイヤ本体10の中央部にはホイール20が嵌め合わされている。ホイール20は、車軸を連結するハブ部21を中心にして、ディスク部22が放射状に延びて円筒状をなすリム部23を支持している。リム部23にタイヤ本体10のビード部13が嵌め合わされる。タイヤ本体10およびリム部23によって囲まれたタイヤ内腔14に空気が充填されている。
【0014】
制音材30は、トレッド部11のタイヤ内腔14側の面であるタイヤ内腔面14aに接着体40によって貼り付けられている。制音材30は、発泡材料で形成されたスポンジであり、多数の気孔を備え、外部の空気との通気性を有する連続気泡体である。制音材30は、例えば軟質ウレタンフォーム製であり、空気入りタイヤ1における重量バランスの観点から密度60kg/m以下のものが好ましく、密度40kg/m以下のものがより好ましい。また、制音材30は、耐久性の観点から引っ張り強さが30kPa以上で、引き裂き強度が2.0N/cm以上(JIS K 6400-5)のものが好ましい。制音材30は、少なくとも1つの部材でタイヤ内腔面14aにリング状に配設される。制音材30は、2つ以上の部材でリングを構成するようにしてもよい。
【0015】
図2は、タイヤ内腔14に配設した状態の制音材30の外観を示す斜視図である。上述のように、制音材30は、タイヤ内腔面14aに配設した状態でリング状となる。図2には、制音材30をタイヤ内腔面14aに貼り付けるための接着体40も図示している。制音材30は、タイヤ内腔面14aへ接着体40を塗布した後、タイヤ内腔面14aへ押し付けるようにして貼り付けられる。
【0016】
接着体40は、周方向に延びて線状に形成され全体としてリング状にタイヤ内腔面14aに塗布されており、図2では3本の接着体40が設けられている。接着体40の本数は図示した3本に限られず、2本以上であればよい。制音材30は、外周面32が接着体40によってタイヤ内腔面14aによって貼り付けられ、内周面31がタイヤ内腔14に臨む。接着体40は、粘度が300Pa.s(25℃,20rpmにおけるブルックフィールド粘度、以下同じ。)以上、400Pa.s以下の接着剤を用い、例えば、340Pa.sとする。
【0017】
制音材30は、タイヤ内腔14に配設される前の状態では、細長い板状となっており、リング状に変形させてタイヤ内腔面14aに貼り付けられる。タイヤ内腔面14aに制音材30を貼り付けた状態で、制音材30の周方向における両端部は、突き合わされており、両端部の擦れによる摩耗を防止するために接着体41によって接合されているとよい。
【0018】
図3は、タイヤ本体10および接着体40の縦断面を示す断面図である。タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aには、成型時において、ブラダーをタイヤ内腔面14aに押し付けることによって条部50が形成されている。条部50は、凸状に形成されている。図3に示す例では、条部50は、周方向に対して傾斜する方向へ延びるように設けられており、タイヤ本体10の軸方向の中心を挟んで両側に形成されている。条部50は、タイヤ本体10の軸方向の中心寄りの位置から外側へ延び、ビード部13まで形成されている。また、条部50は、周方向に対して直交する方向へ延びるように設けられていてもよい。接着体40は、上述のように周方向に延びており、条部50に交差する。
【0019】
図4は、空気入りタイヤ1の製造方法を示すフローチャートである。図4では、主として空気入りタイヤ1における制音材30の貼り付けに関わる工程を示している。空気入りタイヤ1の製造に当たって、タイヤ本体10の原型となる加硫前のタイヤ成型体が製作されているものとする。空気入りタイヤ1の製造方法は、加硫によるタイヤ本体10の成型工程、離型剤の除去工程、接着体40の塗布工程、および制音材30の貼付け工程を含む。
【0020】
タイヤ本体10の成型工程では、トレッドパターンや刻印文字等を備えたモールド金型に、加硫前のタイヤ成型体を嵌め込み、タイヤ内腔14側からブラダーによって押圧した状態で加硫させて、タイヤ本体10を成型する(S1)。この際に、ブラダー側に離型のための凹状の条が形成されていることで、上述のように、タイヤ内腔面14aに凸状の条部50が形成される。
【0021】
離型剤の除去工程では、ブラダーの離型のために塗布されてタイヤ内腔面14aに残留する離型剤を、洗浄処理、溶解処理やバフ処理によって除去する(S2)。
【0022】
接着体40の塗布工程では、上述のようにタイヤ内腔面14aに周方向に延びるように線状に接着体40としての接着剤を塗布する(S3)。図5は、図3に示すA-A線による接着体40塗布後の空気入りタイヤ1の断面図である。図5では、タイヤ本体10、制音材30および接着体40の断面を示す。また図3に示したA-A線は、接着体40を含む位置における周方向に延びる線分である。
【0023】
図5に示すように、接着体40は、条部50、および条部50間に塗布されている。接着体40は、粘度が300Pa.s以上、400Pa.s以下の接着剤を用いることにより、塗布後、凸状の条部50において、条部50間よりも盛り上がって起伏した状態となっている。接着体40の条部50間における厚みT1は、条部50の高さHよりも大きくなるようにする。
【0024】
制音材30の貼付け工程では、制音材30をリング状にしてタイヤ内腔面14aへ適度に押し付けるようにして貼り付ける(S4)。図6は、図3に示すA-A線による制音材30貼付け後の空気入りタイヤ1の断面図である。接着体40は、条部50間における厚みT2が条部50の高さHよりも大きくなるようにする。例えば、条部50の高さが0.6mm以上、0.8mm以下である場合に、接着体40の厚みT2が0.8mmよりも大きくなるようにする。
【0025】
接着体40の条部50間における厚みT2は、接着体40塗布直後の厚みT1よりも小さくなり得るが、制音材30の貼付け時の押付け力を適切にコントロールすることによって、タイヤ内腔面14aの全周において条部50の高さHよりも大きくすることができる。また、接着体40は、制音材30の貼付け後の厚みT2が条部50の高さHよりも大きいことにより、条部50においても接着層を形成する。
【0026】
次に空気入りタイヤ1の動作について制音材30および接着体40に着目して説明する。空気入りタイヤ1を装着した車両が走行している際、タイヤ内腔14で発生する空洞共鳴が、制音材30によって吸収されて熱エネルギーとして消散し、空気入りタイヤ1での騒音が低減される。
【0027】
空気入りタイヤ1は、接着体40の粘度が300Pa.s以上、400Pa.sであり、少なくとも塗布直後には接着体40に厚みが生じる。このため、空気入りタイヤ1は、タイヤ本体10の全周において、制音材30をタイヤ内腔面14aへ概ね均等に押し付けるようにして接着層を形成させ、制音材30をタイヤ内腔面14aへ確実に接着することができ、接着不足を抑制できる。
【0028】
空気入りタイヤ1は、タイヤ内腔面14aにブラダー痕としての凸状の条部50が形成されている場合、接着体40の厚みを塗布直後において条部50の高さHよりも大きくなるようにする。これにより、空気入りタイヤ1は、凸状の条部50がある場合にも、制音材30をタイヤ内腔面14aに沿って全周において確実に接着することができ、接着不足を抑制することができる。
【0029】
空気入りタイヤ1は、線状に延びるように形成した接着体40が、凸状の条部50と交差している場合、制音材30の貼付け後における接着体40の厚みが条部50の高さHよりも大きくなるようにすることで、条部50でも接着層を形成することができ、接着強度を高めることができる。
【0030】
空気入りタイヤ1は、接着体40がタイヤ本体10の周方向に延びる線状に設けられていることにより、接着体40としての接着剤の塗布工程の簡潔化、およびタイヤ重量への影響の低減化を図ることができる。
【0031】
(変形例)
図7(a)および図7(b)は、変形例に係る接着体40について説明するための模式図である。図7(a)および図7(b)は、タイヤ内腔14からタイヤ内腔面14aを望んだ外観図に相当する。図7(a)では、タイヤ幅方向の中央において接着体40を幅狭に塗布し、その両側で幅広に塗布することで、制音材30がタイヤ幅方向の両側辺部で剥がれることを抑制できる。図7(b)では、タイヤ幅方向において、概ね均等に、幅広に接着体40を塗布することで、制音材30の接着強度を高めることができる。
【0032】
図8(a)および図8(b)は、別の変形例に係る接着体40について説明するための模式図である。図8(a)および図8(b)は、タイヤ内腔14からタイヤ内腔面14aを望んだ外観図に相当する。図8(a)では、周方向に対して傾斜する線状に接着体40を形成している。接着体40の線は、凸状の条部50と同じ方向に傾斜して、条部50と交差しないようにしてもよいし、凸状の条部50と逆方向に傾斜して、条部50と交差するようにしてもよい。図8(b)では、接着体40をタイヤ幅方向の両側を往復する波状に形成することで、全周において制音材30をタイヤ幅方向に偏りなく貼り付けることができる。
【0033】
次に実施形態および変形例に係る空気入りタイヤ1、および空気入りタイヤ1の製造方法の特徴について説明する。
空気入りタイヤ1は、タイヤ本体10と制音材30とを備える。制音材30は、タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aに接着体40によって貼り付けられている。接着体40は、タイヤ内腔面14aへの塗布時の粘度が300Pa.s以上、400Pa.s以下である。これにより、空気入りタイヤ1は、接着体40が塗布時に厚みを有し、制音材30をタイヤ内腔面14aへ概ね均等に押し付けるようにして確実に接着することができ、接着不足を抑制できる。
【0034】
タイヤ本体10は、成型時にブラダーをタイヤ内腔面14aに押し付けることによって形成された凸状の条部50を有する。接着体40の厚みは、条部50の高さより大きい。これにより、空気入りタイヤ1は、凸状の条部50がある場合にも制音材30をタイヤ内腔面14aに確実に接着することができる。
【0035】
接着体40は、線状に形成されており、条部50に交差している。これにより、空気入りタイヤ1は、線状に延びるように形成した接着体40が凸状の条部50と交差している場合にも、条部50でも接着層を形成することができ、接着強度を高めることができる。
【0036】
接着体40は、周方向に延びるように形成されている。これにより、空気入りタイヤ1は、接着体40としての接着剤の塗布工程の簡潔化、およびタイヤ重量への影響の低減化を図ることができる。
【0037】
空気入りタイヤ1の製造方法は、成型工程、塗布工程および貼付け工程を備える。成型工程は、トレッド部11、サイド部12およびビード部13を有するタイヤ本体10を成型する。塗布工程は、タイヤ本体10のタイヤ内腔面14aに粘度が300Pa.s以上、400Pa.s以下の接着体40を塗布する。貼付け工程は、塗布工程によって塗布された接着体40に制音材30を押し付けるようにして接触させて制音材30をタイヤ内腔面14aに貼り付ける。この製造方法によれば、接着体40が塗布時に厚みを有し、制音材30をタイヤ内腔面14aへ概ね均等に押し付けるようにして確実に接着することができ、接着不足を抑制できる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0039】
1 空気入りタイヤ、 10 タイヤ本体、 11 トレッド部、
12 サイド部、 13 ビード部、 14a タイヤ内腔面(内腔面)、
30 制音材、 40 接着体、 50 条部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8