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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】スタータ作動方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/08 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
F02N11/08 X
F02N11/08 G
F02N11/08 V
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020566773
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 DE2019100592
(87)【国際公開番号】W WO2020007406
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-01-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】102018211137.5
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100191938
【弁理士】
【氏名又は名称】高原 昭典
(72)【発明者】
【氏名】ホルト・ペーター
(72)【発明者】
【氏名】カンセーヴァー・ユーミット
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】北村 亮
【審判官】河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-196501(JP,A)
【文献】特開2007-165406(JP,A)
【文献】実開昭51-32342(JP,U)
【文献】実開昭54-88563(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータリレー(102)を用いて燃焼エンジン(103)のスタータ(105)を駆動する方法(200)であって、
このスタータリレー(102)が、前記スタータ(105)に車載網(100)を介して選択的に電力を供給するように構成されており、
この方法は、
前記燃焼エンジン(103)の故障状態検出する工程(204)と、
前記工程(204)で故障状態が検出された場合に、前記スタータリレー(102)の複数回の駆動を開始する工程(206)と、
前記工程(206)の開始後に、前記燃焼エンジン(103)のその時々の状態が少なくとも一つの故障状態又は少なくとも一つの動作状態を表すとして、前記燃焼エンジン(103)のその時々の状態を検出する工程(208)と、
その時々の状態が少なくとも一つの動作状態を表す場合に、前記スタータリレー(102)の複数回の駆動を終了する工程(210)、並びに、そうでない場合に、その時々の状態を新たに検出する工程(208)と、
を有し、
車載網(100)の電圧において、期待される電圧急落よりも小さい電圧急落が検出されるときに、燃焼エンジン(103)の故障状態が検出される当該方法。
【請求項2】
スタータリレー(102)の駆動が、第一の予め決められた時間期間の間スタータリレー(102)を閉じることと、次に第二の予め決められた時間期間の間スタータリレー(102)を開くこととから成る請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スタータリレー(102)を初回に駆動する工程を更に有し、スタータリレー(102)を初回に駆動する場合の第一の予め決められた時間期間が、3,000msまでの範囲内、有利には、500msまでの範囲内に有る請求項2に記載の方法。
【請求項4】
スタータリレー(102)を複数回駆動する場合の第一の予め決められた時間期間が、130ms~230msの範囲内、有利には、約180msの範囲内に有る請求項2から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
スタータリレー(102)を複数回駆動する場合の第二の予め決められた時間期間が、130ms~230msの範囲内、有利には、約180msの範囲内に有る請求項2から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
燃焼エンジン(103)の故障状態又はその時々の状態の検出が、
スタータ(105)の電力消費量を検出する工程と
燃焼エンジン(103)の回転数を検出する工程と、
負荷オープン障害を検出する工程と、
の中の一つ又は複数に基づき実施される請求項1から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
燃焼エンジン(103)の故障状態の検出が、
スタータ(105)の電力消費量がほぼゼロであることに基づき故障状態を検出する工程と
確認された負荷オープン障害に基づき故障状態を検出する工程と、
燃焼エンジン(103)の回転数がほぼゼロであることと、スタータ(105)の電力消費量がほぼゼロでないこととに基づき故障状態を検出する工程と、
スタータ(105)の電力消費量が、燃焼エンジン(103)の正常なスタートプロセス時におけるスタータ(105)の標準的な電力消費量よりも著しく大きいことに基づき故障状態を検出する工程と、
の中の一つ又は複数に基づき実施される請求項1から6までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
燃焼エンジン(103)のその時々の状態が、更に、少なくとも一つの停止状態を表し、この停止状態が、
スタータ(105)の複数回の駆動を開始してから、予め決められた時間限界を上回る工程であって、任意選択として、この予め決められた時間限界が15秒まで、有利には、10秒までである工程と、
予め決められた時間期間内にスタータ(105)の最大駆動回数を上回る工程であって、任意選択として、この最大回数が50回より少ない、有利には、30回より少ないことと、この予め決められた時間期間が15秒より短い、有利には、10秒より短いこととの中の一つ以上である工程と、
使用者又はエンジン制御部によって、燃焼エンジン(103)を始動する要求が取り消される工程と、
燃焼エンジン(103)が始動する工程と、
の中の一つ又は複数に基づき検出され、
この方法が、更に、その時々の状態が少なくとも一つの停止状態を表す場合に、スタータリレー(102)の複数回の駆動を終了する工程(210)を有する、
請求項1から7までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
燃焼エンジン(103)のスタータ(105)を駆動するシステムであって、
制御機器(101)と、
電源(106,107)と、
制御機器(101)と接続され、燃焼エンジン(103)のスタータ(105)に電源(106,107)からの電力を選択的に供給するように構成されたスタータリレー(102)と、
を有し、
この制御機器が、請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法を実施するように構成されている、
システム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スタータを作動する方法及びシステムに関する。本開示は、特に、燃焼エンジンを備えた車両において始動が困難な場合にスタータを作動する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼エンジンを備えた車両は、典型的には、少なくとも一つの吸気サイクル及び圧縮サイクルを実行して、それにより燃焼エンジンを始動できるように、燃焼エンジンを回転させるために使用されるスタータを有する。そのスタータは、典型的には、電気モーターを、特に、車両の電気車載網(特に、車載網電圧が60V以下、典型的には、12V又は48Vの低ボルト車載網)からの電気エネルギーにより動作する直流モーターを有する。
【0003】
車両の運転者は、(例えば、車両のスタートボタンによって)車両のイグニッションを作動することができる。それに反応して、一つ又は複数の電気接点が閉じられて、スタータが燃焼エンジンのクランクシャフトを駆動して、それを始動回転数にまで加速させ、その結果、燃焼エンジンを始動することができる。
【0004】
スタータを作動できないために、車両の燃焼エンジンを始動できないことが起こる可能性がある。その原因に、スタータへの電力供給に関する問題、例えば、スタータリレーの氷結が含まれる可能性が有る。別の場合には、例えば、燃焼エンジンによって駆動される一つ又は複数のコンポーネント(例えば、コンプレッサー、発電機)の腐食に起因する固着によるロックがスタータの始動を妨げる可能性がある。
【0005】
接点の氷結による機能障害を予防するために、特許文献1に開示されたスタータは、接点表面の中の一つに関して溝輪郭の固定接点と可動接点を使用している。そのような接点接触部の機械的な腐食時に、接点表面上に形成される、場合によっては存在する氷の層を破壊し、それによって、可動接点と固定接点の間の十分な電気接触を保証している。しかし、多くの場合、接点は、小さい衝撃力しか受けず、その結果、特に、より大きな氷結時には、スイッチの作動によって、氷を破壊できず、スタータが始動しない。更に、特殊なスイッチの使用は、コストがかかるか、構造的な変更が要求されるか、或いはその両方である。
【0006】
特許文献2及び3に開示された別のスタータは、磁石スイッチの接点の周りに配置された加熱電線を利用しており、そのようにして発生させた熱を用いて接点表面上に発生した氷を溶かしている。しかし、そのような熱線を発する加熱電線を備えたスタータは、比較的長い時間を必要とする。そのため、そのような手法では、燃焼エンジンの出来る限り迅速なスタートに係る使用者の要求に対応することができない。更に、その場合、製造コストを高める、加熱装置の電力供給を制御する部品が必要である。
【0007】
特許文献4により、氷結した接点によって妨害されずにスタータモーターを二段階方式で作動できる特殊な磁石スイッチが周知である。そのために、スタータモーターに電力を供給する磁石スイッチには、スタータモーターを二段階方式で(始めは低い回転数で、次に、高い回転数で)動かすために、二つの固定接点(一つの主固定接点と一つの補助固定接点)が設けられている。発熱する電気抵抗の形の発熱部品が組み込まれて、回転数制御と除氷の両方の役割を同様に果たしている。その特殊な磁石スイッチは、追加の接点と加熱部品が必要であるので、構造的な負担が比較的大きい。更に、その場合でも、氷結が大きい時に、発熱部品の加熱に必要な時間に起因するスタートプロセスの遅延を考慮しなければならない。特許文献4は、場合によってはロック又は固着する燃焼エンジンをスタータモーターの二段階方式の作動に基づき始動できるのか否かに関する記述を提供していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国実用新案出願第54-88563号明細書
【文献】日本国実用新案出願第50-9635号明細書
【文献】日本国実用新案出願第51-32342号明細書
【文献】欧州特許公開第0744761号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のことから、本開示が取り組む技術的な課題は、特に、燃焼エンジンの前記の始動の困難性及び同様の始動の困難性を克服するために、より精密かつより効率的に燃焼エンジンのためのスタータを作動することである。
【0010】
本開示は、始動の困難性を除去する機能的なアプローチに基づいている。リレー接点を制御して複数回閉じることによって、スタータリレー及び/又はスタータモーターを特別な手法により駆動する。
【0011】
氷結した場合に、リレー接点を閉じるための一連のパルスが、繰り返し制御された所与のパターンによる閉鎖プロセスにより、機械的にリレー接点を介して氷層に作用することによって、接点上に場合によっては存在する氷層を破壊することができる。
【0012】
コンポーネントがロックした場合、リレー接点を閉じるための一連のパルスとそれに対応する燃焼エンジンへのスタータモーターの作用が、場合によっては存在するロック又は固着したコンポーネントを解きほぐすことができる。
【0013】
本課題は、独立請求項によって解決される。有利な実施構成は、特に、従属請求項に記載されている。独立請求項に依存する請求項の追加の特徴が独立請求項の特徴無しに、或いは独立請求項の特徴の部分集合と組み合わせただけで、独立請求項、部分集合又は追加出願の対象を作り出すことができる独自の発明及び独立請求項の全ての特徴の組合せから独立した発明を構成できることを指摘しておきたい。このことは、同じく本明細書に記載された、独立請求項の特徴から独立した発明を構成できる技術的な教示にも言うことができる。
【0014】
ここで開示する方法及びシステムは、燃焼エンジンのスタートプロセス時の問題を取り除くことができる。
【0015】
特に、ここで開示する方法及びシステムは、スタータリレー接点の氷結を考慮した条件下において、例えば、低い温度、大きな温度勾配、高い大気湿度の時、激しい降雪又は降雨の影響下、及び/又はエンジン室内の激しい凝結又は湿気の発生時において燃焼エンジンを始動することができる。
【0016】
更に、ここで開示する方法及びシステムは、燃焼エンジン及び/又はクランクシャフトと動作形態で接続された燃焼エンジンの個々のコンポーネントがスタータの始動を阻止又は妨害する場合に、燃焼エンジンを始動することができる。
【0017】
本開示の課題は、前記の欠点の中の一つ又は複数を防止するとともに、前記の利点の中の一つ又は複数を実現した、車両においてスタータを作動する方法及びシステム、並びにそのようなシステムを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本課題は、独立請求項の各対象によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項に規定されている。
【0019】
本開示の実施構成では、車両においてスタータリレーを用いて燃焼エンジンのスタータを駆動する方法が規定される。このスタータリレーは、スタータに車載網を介して選択的に電力を供給するように構成されている。本方法は、燃焼エンジンの故障状態を検出する工程と、スタータリレーの複数回の駆動を開始する工程と、燃焼エンジンのその時々の状態が少なくとも一つの故障状態又は少なくとも一つの動作状態を表すとして、燃焼エンジンのその時々の状態を検出する工程と、その時々の状態が少なくとも一つの動作状態を表す場合に、スタータリレーの複数回の駆動を終了し、そうでない場合に、その時々の状態を新たに検出する工程とを有する。
【0020】
有利には、スタータリレーの駆動は、更に、第一の予め決められた時間期間の間スタータリレーを閉じる工程と、次に第二の予め決められた時間期間の間スタータリレーを開く工程とを有する。
【0021】
有利には、本方法は、更に、スタータリレーを初回に駆動する工程を有する。このスタータリレー102を初回に駆動する場合の第一の予め決められた時間期間が、3,000msまでの範囲内に、有利には、500msまでの範囲内に有る。
【0022】
有利には、スタータリレーを複数回駆動する場合の第一の予め決められた時間期間が、130ms~230msの範囲内に、有利には、約180msの範囲内に有る。
【0023】
有利には、スタータリレーを複数回駆動する場合の第二の予め決められた時間期間が、130ms~230msの範囲内に、有利には、約180msの範囲内に有る。
【0024】
有利には、燃焼エンジンの故障状態又はその時々の状態の検出が、以下の工程の中の一つ又は複数に基づき実施される。
ア スタータの電力消費量を検出する工程
イ 車載網の電圧の非急落を検出する工程
ウ 燃焼エンジンの回転数を検出する工程
エ 負荷オープン障害を検出する工程
【0025】
有利には、燃焼エンジンの故障状態の検出が、以下の工程の中の一つ又は複数に基づき実施される。
ア スタータの電力消費量がほぼゼロであることに基づき故障状態を検出する工程
イ 車載網の電圧を検出して、期待される電圧急落の欠如を確認する工程
ウ 車載網の電圧において期待される電圧急落よりも小さい電圧急落を検出する工程
エ 確認された負荷オープン障害に基づき故障状態を検出する工程
オ 燃焼エンジンの回転数がほぼゼロであることと、スタータの電力消費量がほぼゼロに等しくないこととに基づき故障状態を検出する工程
カ スタータの電力消費量が、燃焼エンジンの正常なスタートプロセス時におけるスタータの標準的な電力消費量よりも著しく大きいことに基づき故障状態を検出する工程
【0026】
有利には、燃焼エンジンのその時々の状態は、更に、少なくとも一つの停止状態を表し、この停止状態は、以下の工程の中の一つ又は複数に基づき検出される。
ア スタータの複数回の駆動を開始してから、予め決められた時間限界を上回る工程であって、任意選択として、予め決められた時間期間が15秒まで、有利には、10秒までである工程
イ 予め決められた時間期間内にスタータの最大駆動回数を上回る工程であって、任意選択として、この最大回数が50回以内、有利には、30回以内であることと、予め決められた時間期間が15秒以内、有利には、10秒以内であることとの一つ以上である工程
ウ 使用者又はエンジン制御部により燃焼エンジンの始動に関する要求を撤回される工程
エ 燃焼エンジンの始動
ここで、本方法は、更に、その時々の状態が少なくとも停止状態を表す場合に、スタータリレーの複数回の駆動を終了する工程を含む。
【0027】
本開示の実施構成では、更に、燃焼エンジンのスタータを駆動するシステムが規定される。このシステムは、制御機器と、電源と、制御機器と接続され、燃焼エンジンのスタータに車載網を介して電源からの電力を選択的に供給するように構成されたスタータリレーとを有する。この制御機器は、ここで開示した方法を実施するように構成される。
【0028】
本開示の実施構成では、更に、ここで開示したシステムを備えた車両が規定される。
【0029】
本明細書に記載された方法、装置及びシステムが、単独でも、本明細書に記載された別の方法、装置及びシステムと組み合わせても使用できることに留意すべきである。更に、本明細書に記載された方法、装置及びシステムの如何なる観点も、多様な手法で互いに組み合わせることができる。特に、請求項の特徴は、多様な手法で互いに組み合わせることができる。
【0030】
本開示の実施例を図面に図示しており、以下において詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本開示の実施構成に基づく燃焼エンジンのためのスタータを備えた車両の電気車載網の例のブロック接続図
図2】本開示の実施構成に基づくスタータを作動する方法のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下において、別に指摘されていない限り、同じ構成要素及び同様の構成要素に対して、同じ符号を使用している。
【0033】
図1は、本開示の実施構成に基づく燃焼エンジン103のためのスタータ105を備えた車両の電気車載網100の例を図示している。図1は、低ボルト車載網100のブロック接続図を図示している。この車載網100は、典型的には、12V~14Vの公称電圧を有し、従って、多くの場合、12V又は14Vの車載網とも呼ばれる。それに代わって、この車載網100は、それ以外の電圧、例えば、48Vの車載網電圧を有することができる。
【0034】
この車載網100は、車載網100から電気エネルギーを供給される一つ又は複数の電気消費体108(例えば、インフォテイメントシステム、空調設備)を有する。この車載網100は、電気エネルギーを保存するために、一つ又は複数の電源106,107(例えば、エネルギー貯蔵器、バッテリー、蓄電池)を備えることができる。図示された例では、車載網100は、電源106,107として、鉛蓄電池を有し、この電池は、車載網電圧をサポートするとともに、車両の燃焼エンジン103のスタータ105のための電気エネルギーを提供するために使用することができる。
【0035】
既に冒頭で述べた通り、このスタータ105は、スタートプロセス時に燃焼エンジン103を機械的に駆動するために(そのために使用される燃焼エンジン103のクランクシャフトとの機械的な接続形態が図1に単に模式的に図示され、符号103mを付与されている)作動することができる。更に、図示された実施例では、車載網100は、循環手法により大量の電気エネルギーを回収して、再び放出するように構成された回生式エネルギー貯蔵器107(例えば、リチウムイオンバッテリー)を有する。
【0036】
この車載網100は、更に、運動エネルギーを電気エネルギーに変換するために、燃焼エンジン103により駆動される発電機104を有し、電気エネルギーは、一つ又は複数の消費体108を動かすために使用することと、電源又はエネルギー貯蔵器106,107に保存することとの一つ以上を実施できる。発電機104が燃焼エンジン103又は車両の車輪により間接的に駆動されるエンジンブレーキ段階(例えば、山下り走行時)では、車両のエネルギー消費量を低減するために、発電機104によって、電気エネルギーを回生することができる。
【0037】
この車載網100は、更に、車載網100の一つ又は複数のコンポーネントを駆動するように構成された制御ユニット101を有する。特に、この制御ユニット101は、スタートプロセスの枠組みにおいて燃焼エンジン103を動かすために、(例えば、スタートボタンを用いたイグニッションの起動による)スタート信号に反応して、スタータ105を駆動するように構成することができる。そのために、この制御ユニット101は、スタータ105に車載網100から電力を供給するスタータリレー102を駆動することができる。燃焼エンジン103のスタータ105が始動しないこと、或いはスタートプロセスが成功しないことに、様々な原因が有り得る。多くの場合、燃焼エンジン103が始動しないことに関する障害がスタータ105に有るのではなく、電気機器の領域に有るか、或いは機械的な原因が存在する。
【0038】
スタートの試みが成功しないことは、複数の欠点を引き起こす可能性がある。車両の使用者は、計画していたドライブを始めることができず、その使用を制限される。更に、使用者は、障害の原因を確認するか、或いは確認してもらわなければならず、それによって、更なる不都合が生じる。その後修理工場に居る時に、(例えば、障害が起こらない異なる動作条件のために)障害が再現できないこと、或いはスタータ105が不必要に交換されることが起こる可能性がある。多くの場合、スタートの試行が成功しない本当の原因を取り除くことは容易ではない。
【0039】
決められた気象条件又は動作条件では、例えば、低い温度、大きな温度勾配、高い大気湿度の時、激しい降雪又は降雨の影響下及び/又はエンジン室内の激しい凝結又は湿気の発生時には、スタータリレー接点の氷結を考慮しなければならない。リレー接点の氷結が発生した場合、制御ユニット101によって、確かにスタータリレー102を駆動できるが、氷結したリレー接点が電気的な接触を実現できないので、そのリレーは、スタータ105と電源100,106,107の間の電気接続を構築することができない。一方又は両方のリレー接点上に存在する氷層が、電流が流れないように接点を絶縁させる可能性が有る。その結果、そのような氷結の場合には、燃焼エンジン103を始動することができない。
【0040】
別の場合には、燃焼エンジン103の機械的な駆動接続部103mに、スタータ105により燃焼エンジン103を回すことを妨げる機械的な妨害が生じる可能性がある。一つの妨害が、例えば、機械的な駆動接続部103mと接続されたコンポーネントのロック又は固着として生じる可能性がある。そのようにして、例えば、発電機104又はそれ以外の燃焼エンジン103により駆動されるコンポーネント(例えば、空調設備のコンプレッサー、バルブ駆動系)が機械的にロックされ、それにより、例えば、駆動ベルト又は駆動チェーンを介して燃焼エンジン103を同じくロックする可能性がある。その結果、そのようなロックの場合にも、燃焼エンジン103を始動することができない。
【0041】
燃焼エンジン103が始動しないことは、例えば、所謂「負荷オープン障害」の検知によって、制御機器101により検出することができる。更に、制御機器101は、スタータ105による電力消費量に基づき、スタータ105が電力を供給されているのか否かを検出することができる。スタータ105による電力消費量は、例えば、直接測定するか、或いは車載網での電圧降下又は電圧急落によっても検出することができる。更に、制御機器101は、燃焼エンジン103の検出された回転数によって、機械的なロックが生じているのか否かを検出することができる。一般的には、燃焼エンジン103の始動しないこと及び/又はその時々の動作パラメータを検出するために、前記の方法を個別に、或いは組み合わせて適用することができる。
【0042】
一つの例では、制御機器101は、スタータリレー102が閉じられているか、或いは閉じるために駆動されている間に、スタータ105の電力消費量がほぼゼロであることを検出する。この例では、スタータリレー102の接点の氷結又はスタータ105の電力供給に関するそれ以外の問題を推測することができる。既に言及した通り、それに追加して、或いはそれに代わって、車載網での電圧急落によってスタータ105の電力消費量を検出し、そのようにして、氷結を検知することができる。後者は、目標とする挙動、即ち、スタータ105が駆動された場合に、それが非常に大きな電力を奪うので、車載網の電圧が降下又は急落しているに違いないと推測することができる。電圧の急落が確認できない場合、その駆動が実現されていないとの結論になる。
【0043】
別の例では、この制御機器101が、スタータの電力消費量がほぼゼロ(例えば、燃焼エンジン103の始動時の標準的な電力消費量)に等しくない一方、燃焼エンジン103の回転数がほぼゼロであることを検出する。この例では、燃焼エンジン103がロックしていると推測できる。それに代わって、或いはそれに追加して、この場合でも、選択的に燃焼エンジン103の(欠如する)回転数と組み合わせて、電圧急落を検知することができる。
【0044】
別の例では、制御機器101が、スタータの電力消費量が明らかにほぼゼロに等しくないこと(例えば、標準的な電力消費量を大幅に上回る電力消費量)を検出する。この例では、選択的に更に燃焼エンジン103のゼロ又はほぼゼロの回転数に基づき、同じく燃焼エンジン103がロックしていると推測できる。
【0045】
スタータリレー102の相応の駆動にも関わらず、燃焼エンジン103が制御機器101によって始動されない別の故障状態が考えられることは自明である。制御機器101は、更に、そのような故障状態を検出するように構成することができる。
【0046】
制御機器が、燃焼エンジン103が始動しないこと(例えば、燃焼エンジン103の故障状態)を検出すると、スタータリレー102の駆動によって、それにも関わらず多くの場合に追加の構造的な措置又は手動による介入無しに、専らスタータリレー又はスタータの特別な駆動に基づき燃焼エンジン103の始動を可能にする措置をとることができる。
【0047】
本開示の実施構成では、スタータリレー102が特別なパターンに基づき間欠的に駆動され、その結果、スタータとの電力回路を閉じる一回のクローズプロセスだけが起動されるのではなく、スタータリレーを閉じて再び開く間欠的な駆動が複数回実行される。
【0048】
このようにして、スタータリレーが氷結した場合に、閉じる接点の機械的な作用が繰り返されることによって、氷結を壊して、ほぼ取り除くことができ、その結果、スタータ105は、手動による介入無しに再び電力を供給される。その場合、燃焼エンジン103の始動は、典型的には問題無く可能となる。
【0049】
ロックが起こった場合、スタータ105の作動を繰り返すことによって、ロックを解除できる可能性がある力、一つ又は複数のパルス、振動、或いはそれらと同等の事象を機械的な駆動系統に機械的に誘発させることができる。特に、腐食(例えば、風化、錆、撒き塩又は撒き砂利による汚染)によってロックされているコンポーネントが分かった場合、スタータ105のそのような間欠的に繰り返される作動が、多くの場合にロックを解消することができる。
【0050】
図2は、本開示の実施構成による燃焼エンジン103のスタータ105を駆動する方法200のフロー図を図示している。スタータ105の駆動は、スタータリレー102を用いて行われ、このスタータリレー102は、スタータ105に選択的に電力を供給するように構成されている。この場合、スタータ105は、スタータリレー102によって、選択的に電力を供給される(即ち、リレーの動作接点が閉じられる)か、或いは電力を遮断される(即ち、リレーの動作接点が開かれる)。本方法200は、工程201から始まる。任意選択の工程202では、エンジンの始動を試みるために、スタータリレーの初回の駆動を行うことができる。
【0051】
工程204では、燃焼エンジン103の故障状態が検出される。この場合、燃焼エンジン103の故障状態は、スタートプロセス時に観測され、燃焼エンジン103の側、車両の電気機器(例えば、配線、バッテリー)又はスタータの故障であるとすることができる。燃焼エンジンの故障状態は、スタータ105の電力消費量の検出、車載網100での電圧急落の(欠如の)検出(そのような電圧急落は、通常燃焼エンジンの平常通りの、或いは誤りの無い始動時に起こる)、燃焼エンジン103の回転数の検出及び負荷オープン障害の検出の中の一つに基づき検出することができる。例えば、故障状態は、スタータ105の電力消費量がほぼゼロであること(及び/又は車載網100の電圧急落の欠如、上記を参照)に基づき検出することができ、この例では、おそらくスタータリレーの氷結が発生している。更に、故障状態は、例えば、確認された負荷オープン障害に基づき検出することができる(おそらく氷結又はロック)。別の例では、故障状態は、燃焼エンジン103の回転数がほぼゼロであることと、スタータ105の電力消費量がほぼゼロに等しくないこととに基づき検出することができ、この例では、おそらくロックが発生している。更に、故障状態は、スタータ105の電力消費量が燃焼エンジン103の通常のスタートプロセス時のスタータ105の標準的な電力消費量よりも著しく大きいことに基づき検出することができる。この例でも、おそらくロックが発生している。
【0052】
工程206では、故障状態の発生が検出された後、スタータリレー102の複数回の駆動が開始される。スタータリレー102の駆動とは、一般的にリレー又はリレーの動作接点を閉じて、次に開くことを意味する。一般的に、この駆動は、駆動の規則的な開始と停止から成り、その間に、燃焼エンジン103がそうこうするうちに始動できた(そのため、故障状態が解消できた)のか否かの連続的な監視が行われる。この場合、接点の開閉は、予め決められたパターンに基づき行われる。
【0053】
一般的に、スタートプロセスは、標準的な場合には、非常に迅速に実施することができる。暑い温度の場合には、500ms未満の値となり、非常に冷たい温度の場合には、3,000msまでの値となる可能性が有る。基本的に、前記の値は、電力回路が機能している場合に適用される、即ち、スタータ105は、この時間期間において、燃焼が回転モーメントを発生させ、それにより、燃焼エンジン103が自律的に動作できるまで駆動される。電力回路が機能していない場合、スタートプロセスは、約600msまで観察され、その後、代替的な対策が開始される。
【0054】
問題が有る場合、有利には、約360msのサイクル周期と50%のデューティサイクルによる接点のサイクリックな開閉を行うことができる。これは、スタータリレー102の接点が先ずは約180msの時間期間の間閉じられ、次に約180msの時間期間の間開かれることを意味する。その後、燃焼エンジン103が始動しないか、或いは停止条件(例えば、時間限界、使用者による要求又は停止、エンジンの始動)が満たされない限り、このサイクルが繰り返される。
【0055】
一般的に、前記のサイクルは、より長く、或いはより短く、例えば、同じく50%のデューティサイクルで、500msまで、有利には、460msまでのサイクル周期にすることもできる。多くの実施構成では、それ以外のデューティサイクル又はサイクル周期を用いることができる。
【0056】
工程208では、燃焼エンジン103のその時々の状態が検出され、燃焼エンジン103のその時々の状態とは、少なくとも一つの故障状態又は少なくとも一つの動作状態を表す。これは、その時々の状態が依然として故障状態である(或いはそれが故障状態を含む)こと、さもなければ、その時々の状態が動作状態である(或いはそのような状態を含む)ことを意味する。前者の場合には、燃焼エンジン103を未だ始動できておらず(故障状態)、後者の場合には、既に始動できている(動作状態)。その時々の状態が少なくとも一つの動作状態を表す場合、工程210で、スタータリレー102の複数回の駆動が終了する。そうでない場合、停止条件(上記を参照)、特に、予め決められた時間期限に到達した場合と予め決められた時間期間内の最大駆動回数に到達した場合の中の一つが成立する(移行209を参照)まで(移行209)、その時々の状態の新たな検出208が行われる。ここで開示した実施構成では、予め決められた時間期限が約15秒、有利には、約10秒であることと、最大駆動回数が約50サイクル(360ms/サイクル)、有利には、30サイクル(360ms/サイクル)であることとの一つ以上である。本方法は、工程212で終了する。
【0057】
ここで、車両について述べると、それは、有利には、マルチトラック自動車(乗用車、貨物自動車、運搬車)である。そのことから、本明細書の範囲内で明示的に述べた複数の利点及び当業者が後追いできる別の複数の利点が得られる。
【0058】
有利な実施例により、本発明を詳細に詳しく図解して説明したが、本発明は、ここで開示した例によって限定されず、当業者は、本発明の保護範囲を逸脱すること無く、これらから別の変化形態を導き出すことができる。従って、多数の変化形態の可能性が存在することは明らかである。同じく、例として挙げた実施構成が、例えば、本発明の保護範囲、考えられる用途又は構成を何らかの形で制限するものであると理解するべきではない例だけを実際に表すことは明らかである。むしろ、前記の記述及び図面の説明は、当業者に、例とした実施構成を具体化することを可能にし、当業者は、本発明の開示された考えを知ると、例えば、例とした実施構成で挙げられた個々の構成要素の機能又は配置構成に関して、請求項と、例えば、明細書の先の説明などのそれらに対応する法的な内容とにより定義される保護範囲を逸脱すること無く、多彩な変化を加えることができる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る:
1.
スタータリレー(102)を用いて燃焼エンジン(103)のスタータ(105)を駆動する方法(200)であって、
このスタータリレー(102)が、スタータ(105)に車載網(100)を介して選択的に電力を供給するように構成されており、
この方法が、
燃焼エンジン(103)の故障状態を検出する工程(204)と、
スタータリレー(102)の複数回の駆動を開始する工程(206)と、
燃焼エンジン(103)のその時々の状態が少なくとも一つの故障状態又は少なくとも一つの動作状態を表すとして、燃焼エンジン(103)のその時々の状態を検出する工程(208)と、
その時々の状態が少なくとも一つの動作状態を表す場合に、スタータリレー(102)の複数回の駆動を終了する工程(210)、並びに、そうでない場合に、その時々の状態を新たに検出する工程(208)とを有する方法。
2.
スタータリレー(102)の駆動が、第一の予め決められた時間期間の間スタータリレー(102)を閉じることと、次に第二の予め決められた時間期間の間スタータリレー(102)を開くこととから成る上記1に記載の方法。
3.
スタータリレー(102)を初回に駆動する工程を更に有し、スタータリレー(102)を初回に駆動する場合の第一の予め決められた時間期間が、3,000msまでの範囲内、有利には、500msまでの範囲内に有る上記2に記載の方法。
4.
スタータリレー(102)を複数回駆動する場合の第一の予め決められた時間期間が、130ms~230msの範囲内、有利には、約180msの範囲内に有る上記2から3までのいずれか一つに記載の方法。
5.
スタータリレー(102)を複数回駆動する場合の第二の予め決められた時間期間が、130ms~230msの範囲内、有利には、約180msの範囲内に有る上記2から4までのいずれか一つに記載の方法。
6.
燃焼エンジン(103)の故障状態又はその時々の状態の検出が、
スタータ(105)の電力消費量を検出する工程と、
車載網(100)の電圧が急落しないことを検出する工程と、
燃焼エンジン(103)の回転数を検出する工程と、
負荷オープン障害を検出する工程と、
の中の一つ又は複数に基づき実施される上記1から5までのいずれか一つに記載の方法。
7.
燃焼エンジン(103)の故障状態の検出が、
スタータ(105)の電力消費量がほぼゼロであることに基づき故障状態を検出する工程と、
車載網(100)の電圧を検出して、期待される電圧急落の欠如を確認する工程と、
車載網(100)の電圧において、期待される電圧急落よりも小さい電圧急落を検出する工程と、
確認された負荷オープン障害に基づき故障状態を検出する工程と、
燃焼エンジン(103)の回転数がほぼゼロであることと、スタータ(105)の電力消費量がほぼゼロでないこととに基づき故障状態を検出する工程と、
スタータ(105)の電力消費量が、燃焼エンジン(103)の正常なスタートプロセス時におけるスタータ(105)の標準的な電力消費量よりも著しく大きいことに基づき故障状態を検出する工程との中の一つ又は複数に基づき実施される上記1から6までのいずれか一つに記載の方法。
8.
燃焼エンジン(103)のその時々の状態が、更に、少なくとも一つの停止状態を表し、この停止状態が、
スタータ(105)の複数回の駆動を開始してから、予め決められた時間限界を上回る工程であって、任意選択として、この予め決められた時間限界が15秒まで、有利には、10秒までである工程と、
予め決められた時間期間内にスタータ(105)の最大駆動回数を上回る工程であって、任意選択として、この最大回数が50回より少ない、有利には、30回より少ないことと、この予め決められた時間期間が15秒より短い、有利には、10秒より短いこととの中の一つ以上である工程と、
使用者又はエンジン制御部によって、燃焼エンジン(103)を始動する要求が取り消される工程と、
燃焼エンジン(103)が始動する工程と、
の中の一つ又は複数に基づき検出され、
この方法が、更に、その時々の状態が少なくとも一つの停止状態を表す場合に、スタータリレー(102)の複数回の駆動を終了する工程(210)を有する上記1から7までのいずれか一つに記載の方法。
9.
燃焼エンジン(103)のスタータ(105)を駆動するシステムであって、
制御機器(101)と、
電源(106,107)と、
制御機器(101)と接続され、燃焼エンジン(103)のスタータ(105)に電源(106,107)からの電力を選択的に供給するように構成されたスタータリレー(102)とを有し、
この制御機器が、上記1から8までのいずれか一つに記載の方法を実施するように構成されている当該システム。
10.
上記9に記載のシステムを備えた車両。
図1
図2