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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】学習装置及びボイラ制御システム
(51)【国際特許分類】
   F22B 35/00 20060101AFI20241129BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20241129BHJP
【FI】
F22B35/00 Z
G06N20/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020571299
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004864
(87)【国際公開番号】W WO2020162607
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-01-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019021712
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真次
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊
(72)【発明者】
【氏名】兎本 勇雄
(72)【発明者】
【氏名】松原 智典
(72)【発明者】
【氏名】中村 忍
【合議体】
【審判長】水野 治彦
【審判官】飯星 潤耶
【審判官】間中 耕治
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-242503(JP,A)
【文献】特開2002-215205(JP,A)
【文献】特開平7-210208(JP,A)
【文献】特開2009-222332(JP,A)
【文献】特開平10-228301(JP,A)
【文献】特開2004-355329(JP,A)
【文献】特開2007-132630(JP,A)
【文献】特開平5-53605(JP,A)
【文献】特開2007-271187(JP,A)
【文献】特開平10-63307(JP,A)
【文献】特開平6-195104(JP,A)
【文献】特開平5-265507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 35/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火力発電に用いられるボイラの負荷変化時において制御対象を先行して制御するための先行加速指令値を生成するための学習モデルを構築する学習装置であって、
前記ボイラの過去の運転で用いられた、前記火力発電の発電指令値及び前記先行加速指令値を含むデータセットを学習データとして機械学習することで前記学習モデルを生成する学習部を備え、
前記先行加速指令値として前記ボイラにおける主蒸気圧力の指令値又は燃料流量の指令値を用い
前記学習部は、前記学習データに基づいて、少なくとも前記発電指令値を入力として当該発電指令値に対する発電量Eの追従性が一定の水準を超える前記先行加速指令値を出力する前記学習モデルを構築する学習装置。
【請求項2】
火力発電に用いられるボイラの負荷変化時において制御対象を先行して制御するための先行加速指令値を生成するための学習モデルを構築する学習装置であって、
前記ボイラの過去の運転で用いられた、前記火力発電の発電指令値及び前記先行加速指令値を含むデータセットを学習データとして機械学習することで前記学習モデルを生成する学習部を備え、
前記先行加速指令値として前記ボイラにおける主蒸気圧力の指令値又は燃料流量の指令値を用い、
前記学習部は、過去の前記ボイラの運転で得られた前記火力発電の発電量を前記データセットに含める学習装置。
【請求項3】
前記学習部は、過去の前記ボイラの運転で得られた前記制御対象のプロセス値を前記学習データに含める、請求項1または2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記制御対象のプロセス値は、前記ボイラに供給される燃料の流量、前記ボイラに供給される水の流量、前記ボイラに供給される空気の流量、脱硝用アンモニア流量、再熱蒸気温度制御用スプレー流量及び蒸気の圧力のいずれか一以上である、請求項3に記載の学習装置。
【請求項5】
前記学習部は、過去の前記ボイラの運転で得られた前記データセットを前記学習データとして用いる、請求項1から4のいずれか一項に記載の学習装置。
【請求項6】
前記学習部は、前記学習データに基づいて、少なくとも前記発電指令値及び前記先行加速指令値を入力として前記発電量を出力する前記学習モデルを構築する請求項2に記載の学習装置。
【請求項7】
請求項6に記載の学習装置と、
少なくとも前記発電指令値を前記学習装置が構築した前記学習モデルである学習済みモデルに入力することで前記発電量を得るボイラ制御装置と、
を備え、
前記ボイラ制御装置は、前記学習済みモデルに入力した前記発電指令値と、前記学習済みモデルから出力された前記発電量との偏差が最小になるような前記先行加速指令値を求める、ボイラ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、学習装置及びボイラ制御システムに関する。
本願は、2019年2月8日に日本に出願された特願2019-021712号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、火力発電プラントに用いられるボイラ制御装置が開示されている。このボイラ制御装置は、火力発電プラント(蒸気タービン)の発電量Eが発電指令値MWDに追従するようにボイラを制御する。
【0003】
ところで、ボイラの負荷変化時において、当該ボイラの応答遅れが発生することが知られている。したがって、ボイラ制御装置は、上記応答遅れを補償するために、ボイラの負荷変化時には、発電指令値MWDに加えてBIR(Boiler Input Rate)と呼ばれる先行加速指令値に基づいて、例えばボイラの燃料を先行的に増加させる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2012-41889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記BIRは、ユーザが過去の経験に基づいて設定する必要がある。したがって、BIRの精度がユーザの経験によって大きく左右されることがあり、上記応答遅れを補償することができない可能性がある。その結果、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性が低い場合がある。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、発電指令値に対する発電量の追従性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様の学習装置は、火力発電に用いられるボイラの負荷変化時において制御対象を先行して制御するための先行加速指令値を生成するための学習モデルを構築する学習装置であって、前記ボイラの過去の運転で用いられた、前記火力発電の発電指令値及び前記先行加速指令値を含むデータセットを学習データとして機械学習することで前記学習モデルを生成する学習部を備える。
【0008】
本開示の第2の態様は、前記第1の態様の学習装置において、前記学習部は、過去の前記ボイラの運転で得られた前記制御対象のプロセス値を前記学習データに含める。
【0009】
本開示の第3の態様は、前記第2の態様の学習装置において、前記制御対象のプロセス値は、前記ボイラに供給される燃料の流量、前記ボイラに供給される水の流量、前記ボイラに供給される空気の流量、脱硝用アンモニア流量、再熱蒸気温度制御用スプレー流量及び蒸気の圧力のいずれか一以上である。
【0010】
本開示の第4の態様は、前記第1から第3のいずれか1つの態様の学習装置において、前記学習部は、過去の前記ボイラの運転で得られた前記データセットを学習データとして用いる。
【0011】
本開示の第5の態様は、前記第1から第4のいずれか1つの態様の学習装置において、前記学習部は、前記学習データに基づいて、少なくとも前記発電指令値を入力として当該発電指令値に対する発電量Eの追従性が一定の水準を超える前記先行加速指令値を出力する前記学習モデルを構築する。
【0012】
本開示の第6の態様は、前記第1から第4のいずれか1つの態様の学習装置において、前記学習部は、過去の前記ボイラの運転で得られた前記火力発電の発電量を前記データセットに含める。
【0013】
本開示の第7の態様は、前記第6の態様の学習装置において、前記学習部は、前記学習データに基づいて、少なくとも前記発電指令値及び前記先行加速指令値を入力として前記発電量を出力する学習モデルを構築する。
【0014】
本開示の第8の態様のボイラ制御システムは、前記第5の態様の学習装置と、少なくとも前記発電指令値を前記学習装置が構築した前記学習モデルである学習済みモデルに入力することで前記先行加速指令値を得るボイラ制御装置と、を備え、前記ボイラ制御装置は、前記ボイラの負荷変化時において、前記発電指令値に前記先行加速指令値を加算した値に基づいて前記制御対象を制御することで、前記発電量を前記発電指令値に追従させる。
【0015】
本開示の第9の態様のボイラ制御システムは、前記第7の態様の学習装置と、少なくとも前記発電指令値を前記学習装置が構築した前記学習モデルである学習済みモデルに入力することで前記発電量を得るボイラ制御装置と、を備え、前記ボイラ制御装置は、前記学習済みモデルに入力した前記発電指令値と、前記学習済みモデルから出力された前記発電量との偏差が最小になるような前記先行加速指令値を求める。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本開示によれば、発電指令値に対する発電量の追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る火力発電システムの概略構成の一例を示す図である。
図2】先行加速指令値BIRを説明する図である。
図3】第1の実施形態に係る学習装置の機能ブロック図である。
図4】第1の実施形態に係るボイラ制御装置の機能ブロック図である。
図5】第1の実施形態に係る学習装置の動作の一例のフロー図である。
図6】第2の実施形態に係る火力発電システムの概略構成の一例を示す図である。
図7】第2の実施形態に係る学習装置の機能ブロック図である。
図8】第2の実施形態に係るボイラ制御装置の機能ブロック図である。
図9A】第2の実施形態に係る学習装置の動作の一例のフロー図である。
図9B】第2の実施形態に係るBIR生成部の動作の一例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、第1の実施形態に係る学習装置及びボイラ制御システムを、図面を用いて説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る火力発電システムAの概略構成の一例を示す図である。図1に示すように、火力発電システムAは、火力発電プラント1及びプラント制御システム2を備える。
【0020】
火力発電プラント1は、燃料を燃焼させることで発生する燃焼ガスの熱でボイラ3により蒸気を発生させる。そして、火力発電プラント1は、この蒸気により蒸気タービン4を駆動させて、蒸気タービン4に直結する発電機5で所望の発電量Eを得る。
【0021】
プラント制御システム2は、ボイラ3を制御することで、発電機5が発電する発電量Eを制御する。ここで、ボイラ3を制御するとは、ボイラ3の運転に必要なパラメータ(以下、「制御対象」という。)を制御することである。例えば、制御対象とは、ボイラ3に供給される燃料の流量(以下、「燃料流量」という。)、ボイラ3に供給される水の流量(以下、「給水流量」という。)、ボイラ3に供給される空気の流量(以下、「空気流量」という。)、ボイラ3から蒸気タービン4に供給される蒸気の圧力(以下、「主蒸気圧力」という。)、及び当該蒸気の温度(以下、「主蒸気温度」という。)、脱硝用アンモニア流量、及び再熱蒸気温度を制御するためのスプレーの流量(以下、「再熱蒸気温度制御用スプレー流量」という。)のいずれか一以上である。
【0022】
以下に、第1の実施形態に係る火力発電プラント1の概略構成を、図1を用いて説明する。
【0023】
火力発電プラント1は、ボイラ3、蒸気タービン4、発電機5、復水器6、燃料流量調整部7、空気流量調整部8、蒸気流量調節部9、給水ポンプ10、燃料流量センサ11、空気流量センサ12、圧力センサ13、温度センサ14、給水流量センサ15及び電力センサ16を備える。
【0024】
ボイラ3は、外気と微粉炭等の燃料とを取り込んで当該燃料を燃焼させることで燃焼ガスを生成する。そして、ボイラ3は、この燃焼ガスの熱で水を加熱して蒸気を発生させて当該蒸気を蒸気タービン4に供給する。ここで、微粉炭とは、石炭が粉砕されてなる燃料である。
なお、第1の実施形態では、燃料が石炭(例えば、微粉炭)である場合について説明するが、燃料はこれに限定されない。例えば、燃料は、重油や軽油等の石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、メタンハイドレートやシェールガス等の天然ガス、又はバイオマスであってもよい。
【0025】
蒸気タービン4は、発電機5と直結されている。すなわち、蒸気タービン4の出力軸が、発電機5の回転軸に接続されている。蒸気タービン4は、ボイラ3で発生した蒸気により回転して発電機5を回転させる。
発電機5は、蒸気タービン4の回転により駆動することで発電する。
【0026】
復水器6は、蒸気タービン4を回転させた後の蒸気を冷却して復水する。
燃料流量調整部7は、プラント制御システム2によって制御されることで、ボイラ3に供給される燃料流量を調整する。例えば、燃料流量調整部7は、流量調整弁であって、プラント制御システム2によって開度が制御されることで、ボイラ3に供給される燃料流量を調整する。
【0027】
空気流量調整部8は、プラント制御システム2によって制御されることで、ボイラ3に供給される空気流量を調整する。例えば、空気流量調整部8は、流量調整弁やダンパであって、プラント制御システム2によって開度が制御されることで、ボイラ3に供給される空気流量を調整する。ここで上記空気は一次空気であてもよいし、二次空気であってもよいし、その両方であってもよい。
【0028】
蒸気流量調節部9は、プラント制御システム2によって制御されることで、ボイラ3から蒸気タービン4に供給される蒸気の流量を調整する。例えば、蒸気流量調節部9は、流量調整弁であって、プラント制御システム2によって開度が制御されることで、ボイラ3から蒸気タービン4に供給される蒸気の流量を調整する。
【0029】
給水ポンプ10は、復水器6で復水された水をボイラ3に給水する。給水ポンプ10の駆動は、プラント制御システム2によって制御される。したがって、給水ポンプ10からボイラ3に給水される給水流量は、プラント制御システム2によって制御される。
【0030】
燃料流量センサ11は、ボイラ3に供給される燃料流量を計測して、その計測した燃料流量をプラント制御システム2に出力する。
【0031】
空気流量センサ12は、ボイラ3に供給される空気流量を計測して、その計測した空気流量をプラント制御システム2に出力する。
【0032】
圧力センサ13は、ボイラ3から蒸気タービン4に供給される蒸気の圧力を計測して、その計測した蒸気の圧力をプラント制御システム2に出力する。
【0033】
温度センサ14は、ボイラ3から蒸気タービン4に供給される蒸気の温度である主蒸気温度を計測して、その計測した主蒸気温度をプラント制御システム2に出力する。
【0034】
給水流量センサ15は、ボイラ3に給水される給水流量を計測して、その計測した給水流量をプラント制御システム2に出力する。
【0035】
電力センサ16は、発電機5が発電した発電量Eを計測して、その計測した発電量Eをプラント制御システム2に出力する。
【0036】
次に、第1の実施形態に係るプラント制御システム2の概略構成について、説明する。
プラント制御システム2は、ボイラ制御装置17及び学習装置18を備える。なお、第1の実施形態では、ボイラ制御装置17及び学習装置18は、別体で構成される場合を例として説明するが、本開示はこれに限定されない。ボイラ制御装置17及び学習装置18は、一体で構成されてもよい。例えば、情報処理装置がボイラ制御装置17の機能及び学習装置18の機能を有してもよい。この情報処理装置は、例えば、コンピュータである。
なお、ボイラ制御装置17及び学習装置18の各々は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサ、MCU(Micro Controller Unit)などのマイクロコントローラなどにより構成されてよい。
ボイラ制御装置17の機能及び学習装置18の機能を有する情報処理装置が、CPU、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)といったメモリ、SSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive)といった記憶装置、及びセンサ等の外部機器との信号のやり取りを行う入出力装置から構成されてもよい。
【0037】
ボイラ制御装置17は、火力発電(発電機5)の出力の指令値である発電指令値MWD(Mega Watt Demand)に基づいて各制御対象を制御することで、発電量Eを発電指令値MWDに追従させる。この発電指令値MWDは、発電機5が発電する発電量Eの目標値である。ボイラ制御装置17は、発電指令値MWDを外部装置から取得してもよいし、公知の技術を用いて算出してもよい。
【0038】
ここで、ボイラ3の負荷変化時において、ボイラ3の応答遅れが発生することが知られている。したがって、ボイラ制御装置17は、上記応答遅れを補償するために、ボイラ3の負荷変化時には、発電指令値MWDに加えてBIR(Boiler Input Rate)と呼ばれる先行加速指令値(以下、「先行加速指令値BIR」という。)に基づいて、例えばボイラ3の燃料を先行的に増加させる先行制御を行う。
【0039】
図2に示すように、例えば、第1の実施形態に係る火力発電プラント1が700MWの石炭焚き発電プラントであって、負荷変化として発電機5の発電量Eを350MWから700MWに上昇させる場合を仮定する。そして、ボイラ3の静特性として、発電量Eを350MWから700MWに上昇させるのに、燃料消費量(燃料流量)として110t/hから220t/hの燃料が必要であるとする。
【0040】
この場合において、ボイラ制御装置17は、発電量Eを350MWから700MWにするために、燃料流量を110t/hから一気に220t/hに制御すると、複数の機器(例えば、石炭を粉砕する装置)の駆動が追従できなくなる場合がある。したがって、ボイラ制御装置17は、350MWから700MWを一気に上昇させるのではなく、ある変化速度で上昇させる。すなわち、発電指令値MWDは、第1の発電量から第2の発電量への負荷変化がある場合には、ある変化速度で第1の発電量から第2の発電量に上昇させることを指示する発電指令値となる(図2(a))。ただし、一方でこの負荷変化を早くしたいとのユーザの要求がある。そこで、ボイラ制御装置17は、ボイラ3の負荷変化時において、図2(c)に示すように、静定ベースの制御対象を先行して増加させる先行制御を行う。具体的には、ボイラ制御装置17は、図2(b)に示す先行加速指令値BIRに基づいて制御対象を先行的に増加させている。
図2(a)は、ある変化速度で発電量を上昇させた場合の時間と発電量との関係を示す図であり、図2(b)は、先行加速指令値BIRのみを適用した場合の時間と燃料流量との関係を示す図であり、図2(c)は、静定時の燃料流量(図2(a)に示される変化速度で発電量を上昇させる場合の燃料流量)に、BIRに基づく燃料流量を加えた場合の、時間と燃料流量との関係を示す図である。
【0041】
第1の実施形態では、ボイラ制御装置17は、主蒸気温度の先行制御として燃料流量を先行的に増加させる先行制御を例として説明する。ただし、ボイラ制御装置17の先行制御は、これに限定されず、主蒸気圧力の先行制御として給水流量を先行制御してもよい。さらに、ボイラ制御装置17は、空気流量を先行制御してもよい。例えば、ボイラ制御装置17は、上記制御対象の少なくとも一以上を先行制御してもよい。
【0042】
ここで、本実施形態の特徴の一つは、ボイラ制御装置17は、学習装置18が機械学習により構築した学習モデル(学習済みモデル)を用いて生成した先行加速指令値BIRを先行制御に用いる点である。なお、以下の説明において、学習モデルを構築する過程を学習プロセスと称し、学習済みモデルを用いて先行加速指令値BIRを生成する過程を制御プロセスと称する場合がある。
【0043】
学習装置18は、先行制御に用いられる先行加速指令値BIRを生成するための学習モデルを構築する。
まず、第1の実施形態に係る学習装置18の機能ブロックについて、図3を用いて説明する。図3は、第1の実施形態に係る学習装置18の機能ブロック図である。
【0044】
図3に示すように、学習装置18は、学習データ取得部19、学習部20、及び学習モデル格納部21を備える。
【0045】
学習データ取得部19は、ボイラ3の過去の運転データを学習データとして取得する。この運転データとは、ボイラ3の運転に必要なデータ及び当該運転でのボイラの状態を示すデータの少なくともいずれかであって、双方のデータを含んでもよい。例えば、この運転データは、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR、発電量E、及び制御対象のプロセス値である。制御対象のプロセス値とは、例えば、燃料流量、給水流量、空気流量、主蒸気圧力、脱硝用アンモニア流量、再熱蒸気温度制御用スプレー流量及び主蒸気温度のいずれか一以上である。
具体的には、学習データ取得部19は、ボイラ3の過去の運転で用いられた、発電指令値MWD及び先行加速指令値BIRを含むデータセットを学習データとして取得する。また、学習データ取得部19は、発電量Eやボイラ3の過去の運転で得られた制御対象のプロセス値を上記データセットに含めてもよい。
【0046】
さらに、学習データ取得部19は、ボイラ3の過去の運転データのうち、ボイラ3の過去の運転で用いられた発電指令値MWDと当該運転によって得られた発電量Eとの偏差(以下、「発電偏差量」という。)が閾値以下であるときのデータセットを学習データとして抽出してもよい。上記発電偏差量が閾値以下であるときのデータセットとは、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性が一定の水準を超えているときのデータセットであることを示す。なお、上記閾値は、ボイラ3を実運転時において発電偏差量として許容される値に応じて設定されてもよい。
【0047】
このように、学習データ取得部19は、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性を評価する評価機能を有し、追従性の評価が一定の水準を超えているときの運転データを学習データとして抽出してもよい。ただし、学習データ取得部19は、追従性の評価が一定の水準を超えているときの運転データを学習データとして用いることは必須ではなく、追従性の評価が一定の水準を超えていない運転データも学習データとして抽出してもよい。すなわち、学習データ取得部19は、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性に関わらず、すべての運転データを学習データとして用いてもよい。例えば、学習データ取得部19は、追従性の評価が一定の水準を超えているときの運転データと、追従性がよい旨の正解ラベルとをセットで学習データとして用いてもよい。また、学習データ取得部19は、追従性の評価が一定の水準を超えていない運転データと、追従性が悪い旨の正解ラベルとをセットで学習データとして用いてもよい。
また、上記過去の運転とは、過去に行ったボイラの試運転であってもよいし、過去に行ったボイラの実運転であってもよいし、その両方であってもよい。また、学習データ取得部19は、電力センサ16から発電量Eを取得してもよい。
【0048】
なお、学習データ取得部19は、上記運転データを学習データとして当該ボイラ制御装置17から取得してもよいし、上記各種センサ(燃料流量センサ11、空気流量センサ12、圧力センサ13、温度センサ14、給水流量センサ15等)から直接取得してもよい。さらに、学習データ取得部19は、学習装置18の外部又は内部に設けられた格納部(不図示)に格納されている上記運転データを学習データとして読み込むことで取得してもよい。
このように、学習データ取得部19は、運転データのうち、発電指令値MWD及び先行加速指令値BIRを含むデータセットを学習データとして取得する。
【0049】
学習部20は、学習データ取得部19で取得した学習データに基づいて機械学習することで先行加速指令値BIRを生成するための学習モデルを構築する。この学習モデルは、少なくとも発電指令値MWDを入力として、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性が一定の水準を超えている先行加速指令値BIRを出力することができればよく、機械学習の種類には特に限定されない。例えば、この機械学習は、サポートベクターマシン(support vector machine:SVM)等の教師あり学習であってもよいし、強化学習であってもよい。また、上記機械学習は、ニューラルネットワークを用いた機械学習であってもよく、例えば、ディープラーニングであってもよい。
【0050】
例えば、学習部20は、学習データ(データセット)のうち、発電指令値MWDを入力データとし、先行加速指令値BIRを当該入力値の正解データとする。そして、学習部20は、入力値を学習モデルに入力することで当該学習モデルから出力される出力値と、正解データとの偏差を最小化するように学習モデルのパラメータ(重み)を学習する。なお、入力値として制御対象のプロセス値を用いてもよい。当該プロセス値とは、例えば、燃料流量、給水流量、空気流量、主蒸気圧力、脱硝用アンモニア流量、再熱蒸気温度制御用スプレー流量及び主蒸気温度のいずれか一以上である。
【0051】
このように、学習部20は、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性が一定の水準を超えている先行加速指令値BIRを生成又は予測するような重みを決定する。例えば、学習部20は、所定の説明変数が目的変数に与える影響を示す重みωを決定する。この場合の説明変数とは、発電指令値MWDや制御対象のプロセス値である。また、目的変数とは、先行加速指令値BIRである。
【0052】
学習モデル格納部21には、学習部20が構築した学習モデルが格納される。
例えば、学習モデル格納部21は、HDD(Hard Disk Drive)や不揮発性のメモリ等で構成される。
【0053】
次に、第1の実施形態に係るボイラ3の負荷変化時におけるボイラ制御装置17の機能ブロックについて、図4を用いて説明する。図4は、第1の実施形態に係るボイラ制御装置17の機能ブロック図である。
【0054】
図4に示すように、ボイラ制御装置17は、先行制御部22及びフィードバック制御部23を備える。なお、第1の実施形態では、ボイラ制御装置17が燃料流量を先行制御する場合を例として説明するが、主蒸気温度、給水流量、主蒸気圧力又は空気流量等の他の制御対象を先行制御する場合でも同様に適用可能である。また、ボイラ制御装置17の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
【0055】
先行制御部22は、関数発生器221、BIR生成部222、及び加算器223を備える。
【0056】
関数発生器221は、発電指令値MWDを取得する。そして、関数発生器221は、あらかじめ設定された関数により、発電指令値MWDを燃料流量の指令値(以下、「燃料流量指令値」という。)に変換する。そして、関数発生器221は、変換した燃料流量指令値を加算器223に出力する。
【0057】
BIR生成部222は、学習装置18が構築した学習モデル(学習済みモデル)を、学習装置18から取得する。例えば、BIR生成部222は、学習モデル格納部21に格納されている学習済みモデルを読み出す。そして、BIR生成部222は、読み出した学習済みモデルに発電指令値MWDを入力することで当該学習済みモデルから先行加速指令値BIRを得る。例えば、BIR生成部222は、実際にボイラ3の負荷が変化する前に、学習モデルから先行加速指令値BIRを取得する。BIR生成部222は、学習済みモデルから得られた先行加速指令値BIRを加算器223に出力する。
【0058】
なお、BIR生成部222は、読み出した学習済みモデルに発電指令値MWD及び現在のプロセス値(例えば、現在の燃料流量、主蒸気温度、又はその両方)を入力することで当該学習モデルから先行加速指令値BIRを得てもよい。例えば、BIR生成部222は、読み出した学習済みモデルがプロセス値を用いて学習された場合には、発電指令値MWDに加えて、当該プロセス値の現在値を上記学習済みモデルに入力することで当該学習モデルから先行加速指令値BIRを得てもよい。
【0059】
加算器223は、関数発生器221から出力された燃料流量指令値と、BIR生成部222から出力された先行加速指令値BIRとを加算することで、第1の指令値を生成する。加算器223は、生成した第1の指令値をフィードバック制御部23に出力する。
【0060】
フィードバック制御部23は、減算器231、乗算器232、PI制御器233、及び加算器234を備える。
【0061】
減算器231は、制御対象のプロセス値として、例えば圧力センサ13が計測した主蒸気圧力と、予め設定された当該プロセス値の設定値との偏差ΔHを求める。
【0062】
乗算器232は、減算器231で求められた偏差ΔHに対して、発電指令値MWD等により設定される係数Kを乗算する。そして。乗算器232は、偏差ΔHに係数Kを乗算した値(ΔH×K)をPI制御器233に出力する。
【0063】
PI制御器233は、乗算器232から出力された値(ΔH×K)に対してPI制御を適用することにより、当該値(ΔH×K)をなくすための制御指令を生成する。そして、PI制御器233は、生成した制御指令を加算器234に出力する。
【0064】
加算器234は、PI制御器233から出力された制御指令と、加算器223から出力された第1の指令値とを加算することで、第2の指令値を生成する。この第2の指令値は、制御対象を制御するための操作指令である。加算器234は、この第2の指令値を、制御対象を制御するための装置、例えば燃料流量調整部7に出力する。
【0065】
次に、第1の実施形態に係る学習装置18の動作の流れの一例を、図5を用いて説明する。図5は、第1の実施形態に係る学習装置18の動作の一例のフロー図である。
【0066】
まず、学習データ取得部19は、ボイラ3の過去の運転データを学習データとして取得する(ステップS101)。ここで、一例として、学習データ取得部19は、ボイラ3の過去の運転データのうち、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性が水準を超えている運転データを学習データとして抽出してもよい。例えば、学習データ取得部19は、ボイラ制御装置17の制御サイクルごとに得られた過去の運転データのうち、発電偏差量が閾値以下であるときの運転データを学習データとして抽出する。これにより、学習データ取得部19は、追従性が水準を超えている運転データを学習データとして抽出することができる。なお、例えば、運転データとは、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR、及びプロセス値(例えば、プロセス値とは、燃料流量、給水流量、空気流量、主蒸気圧力、脱硝用アンモニア流量、再熱蒸気温度制御用スプレー流量及び主蒸気温度のいずれか一以上)である。
ただし、学習データ取得部19は、ボイラ3の過去の運転データのうち、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性が水準を超えていない運転データも学習データとして抽出してもよい。
【0067】
次に、学習部20は、学習データのうち、発電指令値MWD及びプロセス値を入力値として学習モデルに入力することで当該学習モデルから出力値を取得する。そして、学習部20は、その学習モデルからの出力値と、学習データの先行加速指令値BIRとの偏差を最小化するように、例えば誤差逆伝播法を用いて学習モデルのパラメータ(重み)を学習する(ステップS102)。
【0068】
そして、学習部20は、構築した学習モデル(学習済みモデル)を学習モデル格納部21に格納する(ステップS103)。
【0069】
以上、説明したように、上記実施形態の学習装置18は、火力発電に用いられるボイラ3の負荷変化時において制御対象を先行して制御するための先行加速指令値BIRを生成するための学習モデルを構築する学習部20を備える。そして、学習部20は、ボイラ3の過去の運転で用いられた、火力発電の発電指令値MWWD及び先行加速指令値BIRを含むデータセットを学習データとして機械学習することで上記学習モデルを生成する。
【0070】
このような構成によれば、過去の経験に基づいた先行加速指令値BIRの設定をユーザが行うことなく、上記追従性が一定の水準を超える先行加速指令値BIRを生成することができる。したがって、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性を向上させることができる。
さらに、上記第1の実施形態の学習モデルから得られた先行加速指令値BIRを用いた実運転での運転データは、学習データとして活用される。その結果、学習装置18は、実運転を行うにしたがって、上記追従性が一定の水準を超える先行加速指令値BIRを精度よく生成することができる。
【0071】
(第2の実施形態)
以下に、第2の実施形態に係る火力発電システムBについて、説明する。第2の実施形態に係る火力発電システムBは、第1の実施形態に係る火力発電システムAと比較して、先行加速指令値BIRの生成方法が異なる点で相違する。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。
【0072】
図6は、第2の実施形態に係る火力発電システムBの概略構成の一例を示す図である。図6に示すように、火力発電システムBは、火力発電プラント1及びプラント制御システム2bを備える。
【0073】
プラント制御システム2bは、ボイラ3を制御することで、発電機5が発電する発電量Eを制御する。ここで、ボイラ3を制御するとは、ボイラ3の運転に必要なパラメータである制御対象を制御することである。この制御対象は、第1の実施形態と同様である。
【0074】
次に、第2の実施形態に係るプラント制御システム2bの概略構成について、説明する。
プラント制御システム2bは、ボイラ制御装置17b及び学習装置18bを備える。なお、第2の実施形態では、ボイラ制御装置17b及び学習装置18bは、別体で構成される場合を例として説明するが、本開示はこれに限定されない。ボイラ制御装置17b及び学習装置18bは、第1の実施形態と同様に、一体で構成されてもよい。例えば、情報処理装置がボイラ制御装置17bの機能及び学習装置18bの機能を有してもよい。
なお、ボイラ制御装置17b及び学習装置18bの各々は、CPU又はMPUなどのマイクロプロセッサ、MCUなどのマイクロコントローラなどにより構成されてもよい。
【0075】
ボイラ制御装置17bは、火力発電(発電機5)の出力の指令値である発電指令値MWDに基づいて各制御対象を制御することで、発電量Eを発電指令値MWDに追従させる。この発電指令値MWDは、発電機5が発電する発電量Eの目標値である。ボイラ制御装置17bは、発電指令値MWDを外部装置から取得してもよいし、公知の技術を用いて算出してもよい。
【0076】
ボイラ制御装置17bは、ボイラ3の負荷変化時には、先行加速指令値BIRに基づいて、例えばボイラの燃料を先行的に増加させる先行制御を行う。なお、第2の実施形態のボイラ制御装置17bは、第1の実施形態と同様に、主蒸気温度の先行制御として燃料流量を先行的に増加させる先行制御を例として説明する。ただし、ボイラ制御装置17bの先行制御は、これに限定されず、主蒸気圧力の先行制御として給水流量を先行制御してもよい。さらに、ボイラ制御装置17bは、空気流量を先行制御してもよい。
【0077】
学習装置18bは、先行制御に用いられる先行加速指令値BIRを生成するための学習モデルを構築する。
まず、第2の実施形態に係る学習装置18bの機能ブロックについて、図7を用いて説明する。図7は、第2の実施形態に係る学習装置18bの機能ブロック図である。
【0078】
図7に示すように、学習装置18bは、学習データ取得部19b、学習部20b、及び学習モデル格納部21bを備える。
【0079】
学習データ取得部19bは、ボイラ3の過去の運転データ及び当該運転データを得た際の運転で得られた発電量Eを学習データとして取得する。例えば、学習データ取得部19bは、運転データ及び発電量Eを、ボイラ制御装置17bの制御サイクルごとに取得する。この運転データとは、第1の実施形態と同様である。具体的には、学習データ取得部19bは、ボイラ3の過去の運転で用いられた、発電指令値MWD及び先行加速指令値BIRを含む運転データと、当該運転により得られた発電量Eとのデータセットを学習データとして取得する。
【0080】
なお、学習データ取得部19bは、上記学習データをボイラ制御装置17bから一定周期ごとに取得してもよいし、上記各種センサ(燃料流量センサ11、空気流量センサ12、圧力センサ13、温度センサ14、給水流量センサ15、及び電力センサ16等)から一定周期ごとに直接取得してもよい。さらに、学習データ取得部19bは、学習装置18bの外部又は内部に設けられた格納部(不図示)に格納され、互いに関連付けられている運転データ及び発電量Eを学習データとして読み込むことで取得してもよい。
【0081】
学習部20bは、学習データ取得部19bで取得した学習データに基づいて機械学習することで先行加速指令値BIRを生成するための学習モデルを構築する。例えば、学習部20bは、学習データ取得部19bで取得した学習データに基づいて、ボイラ3の特性を機械学習する。
【0082】
例えば、学習部20bは、学習データ取得部19bで取得した学習データに基づいて、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR及び発電量Eの関連性をディープラーニングやニューラルネット等の学習モデルに学習させる。すなわち、学習部20bは、制御プロセスにおいて、発電指令値MWD及び先行加速指令値BIRを入力すれば発電量Eが出力される学習モデルを構築する。一例として、学習部20bは、学習データのうち、発電指令値MWD及び先行加速指令値BIRを入力データとして学習モデルに入力することで出力される出力値と、学習データである発電量Eとの偏差を最小化するように、例えば誤差逆伝播法を用いて学習モデルのパラメータ(重み)を学習することで、上記学習モデルを構築する。
【0083】
ただし、本実施形態に係る学習部20bは、これに限定されず、学習データ取得部19bで取得した学習データに基づいて、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR、プロセス値及び発電量Eの関連性を学習モデルに機械学習させてもよい。すなわち、学習部20bは、制御プロセスにおいて、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR及びプロセス値を入力すれば発電量Eが出力される学習モデルを機械学習により構築してもよい。一例として、学習部20bは、学習データのうち、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR及びプロセス値を入力データとして学習モデルに入力することで出力される出力値と、学習データである発電量Eとの偏差を最小化するように、例えば誤差逆伝播法を用いて学習モデルのパラメータ(重み)を機械学習することで、上記学習モデルを構築してもよい。
【0084】
学習モデル格納部21bには、学習部20bが構築した学習モデルが格納される。例えば、学習モデル格納部21bは、HDDや不揮発性のメモリ等で構成される。
【0085】
次に、第2の実施形態に係るボイラ3の負荷変化時におけるボイラ制御装置17bの機能ブロックについて、図8を用いて説明する。図8は、第2の実施形態に係るボイラ制御装置17bの機能ブロック図である。
【0086】
図8に示すように、ボイラ制御装置17bは、先行制御部22b及びフィードバック制御部23を備える。なお、第2の実施形態では、ボイラ制御装置17bが燃料流量を先行制御する場合を例として説明するが、主蒸気圧力、主蒸気温度、給水流量、又は空気流量等を先行制御する場合でも同様に適用可能である。また、ボイラ制御装置17bの全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
【0087】
先行制御部22bは、関数発生器221、BIR生成部222b、及び加算器223を備える。
【0088】
BIR生成部222bは、学習装置18bが構築した学習モデル(学習済みモデル)を、学習装置18bから取得する。例えば、BIR生成部222bは、学習モデル格納部21bに格納されている学習モデルを読み出す。そして、BIR生成部222bは、制御プロセスにおいて、読み出した学習モデルを用いて先行加速指令値BIRを最適化する。例えば、BIR生成部222bは、制御プロセスにおいて、少なくとも外部装置から得られた発電指令値MWDを入力値として学習モデルに入力し、当該学習モデルから出力値として発電量Eを取得する。そして、BIR生成部222bは、当該発電指令値MWD(入力値)と当該発電量E(出力値)との偏差が最小となる先行加速指令値BIRを求める。ただし、本実施形態に係るBIR生成部222bは、これに限定されず、当該発電指令値MWD(入力値)と当該発電量E(出力値)との偏差が最小でなくても、当該偏差が予め設定された閾値以下となる先行加速指令値BIRを求めればよい。
【0089】
ここで、学習プロセスにおいて、学習データにプロセス値が含まれている場合には、BIR生成部222bは、制御プロセスにおいて、外部装置から得られた発電指令値MWD及びプロセス値を入力値として学習モデルに入力し、当該学習モデルから出力値として発電量Eを取得してもよい。そして、BIR生成部222bは、当該発電指令値MWD(入力値)と当該発電量E(出力値)との偏差が最小となる先行加速指令値BIRを求めてもよい。
【0090】
なお、上記先行加速指令値BIRは、ボイラ3の負荷変化前に行われることが望ましい。
【0091】
BIR生成部222bは、学習装置18bが構築した学習モデルを用いて先行加速指令値BIRを求め、当該先行加速指令値BIRを加算器223に出力する。
【0092】
加算器223は、関数発生器221から出力された燃料流量指令値と、BIR生成部222bから出力された先行加速指令値BIRとを加算することで、第1の指令値を生成する。加算器223は、生成した第1の指令値を加算器234に出力する。そして、加算器234は、PI制御器233から出力された制御指令と、加算器223から出力された第1の指令値とを加算することで、第2の指令値を生成する。加算器234は、この第2の指令値を、制御対象を制御するための装置、例えば燃料流量調整部7に出力する。
【0093】
以下に、第2の実施形態に係る学習装置18bの動作の流れの一例を、図9Aを用いて説明する。図9Aは、第2の実施形態に係る学習装置18bの動作の一例のフロー図である。
【0094】
まず、学習データ取得部19bは、ボイラ3の過去の運転で用いられた、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR、及び発電量Eを含むデータセットを学習データとして取得する(ステップS201)。
【0095】
次に、学習部20bは、学習データ取得部19bが取得した学習データに基づいて、ボイラ3の特性を、学習モデルを用いて機械学習する。例えば、学習部20bは、学習データのうち、発電指令値MWD、先行加速指令値BIRを入力値として学習モデルに入力することで当該学習モデルから出力される出力値を取得する。そして、学習部20bは、当該学習モデルからの出力値と、学習データの発電量Eとの偏差を最小化するように、例えば誤差逆伝播法を用いて学習モデルのパラメータ(重み)を学習する(ステップS202)。
【0096】
そして、学習部20bは、構築した学習モデル(学習済みモデル)を学習モデル格納部21bに格納する(ステップS203)。
【0097】
次に、第2の実施形態に係るBIR生成部222bの先行加速指令値BIRの生成方法の一例を、図9Bを用いて説明する。図9Bは、第2の実施形態に係るBIR生成部222bの動作の一例のフロー図である。
【0098】
BIR生成部222bは、学習装置18bが構築した学習モデルである学習済みモデルを、学習モデル格納部21bから読み出す(ステップS301)。次に、BIR生成部222bは、ボイラ3の負荷変化前において、読み出した学習モデル(学習済みモデル)に、外部装置から得られた発電指令値MWDを入力値として入力する(ステップS302)。そして、BIR生成部222bは、当該学習モデルから出力された出力値と、入力値である発電指令値MWDとの偏差が最小となる先行加速指令値BIRを求める(ステップS303)。
【0099】
ここで、ステップS302及びステップ303において、BIR生成部222bは、外部装置から得られた発電指令値MWD及びプロセス値を入力値として学習モデルに入力し、当該学習モデルから出力される出力値と当該入力値の発電指令値MWDとの偏差が最小となる先行加速指令値BIRを求めてもよい。
【0100】
以上、説明したように、第2の実施形態に係る学習装置18bは、火力発電に用いられるボイラ3の負荷変化時において制御対象を先行して制御するための先行加速指令値BIRを生成するための学習モデルを構築する学習部20bを備える。そして、学習部20bは、ボイラ3の過去の運転で用いられた、火力発電の発電指令値MWD、先行加速指令値BIR及び発電量Eを含むデータセットを学習データとして機械学習することで上記学習モデルを生成する。
【0101】
より具体的には、第2の実施形態に係る学習部20bは、学習データ取得部19bで取得した学習データに基づいて、発電指令値MWD、先行加速指令値BIR、及び発電量Eの関連性を機械学習することにより、ボイラ3の特性を機械学習する。
【0102】
このような構成によれば、過去の経験に基づいた先行加速指令値BIRの設定をユーザが行うことなく、上記追従性が一定の水準を超える先行加速指令値BIRを生成することができる。例えば、ボイラ制御装置17bは、学習装置18bが構築した学習モデルである学習済みモデルに入力した発電指令値MWDと、当該学習済みモデルから出力された発電量Eとの偏差が最小になるような先行加速指令値BIRを求めることができる。したがって、発電指令値MWDに対する発電量Eの追従性を向上させることができる。
さらに、上記第2の実施形態の学習モデルから得られた先行加速指令値BIRを用いた実運転での運転データは、学習データとして活用される。すなわち、学習モデルは、学習部20bにより最新の運転データ及び発電量Eに基づいて更新される。その結果、学習装置18bは、実運転を行うにしたがって、上記追従性が一定の水準を超える先行加速指令値BIRを精度よく生成することができる。
【0103】
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0104】
(変形例1)上記第1の実施形態及び第2の実施形態では、ボイラ3は、燃料として微粉炭を燃焼させるように構成された微粉炭焚きボイラである場合を例として説明したが、これに限定されない。例えば、ボイラ3は、燃料として化石燃料に加えてアンモニア燃料を用い、当該化石燃料とアンモニア燃料との混焼を行う混焼ボイラであってもよい。
【0105】
(変形例2)上記第1の実施形態及び第2の実施形態において、先行加速指令値BIRは、例えば、以下に列挙する項目のいずれであってもよい。
・主蒸気圧力の指令値
・燃料流量の指令値
・排ガスOの指令値
・再熱蒸気温度制御のガスダンパの開度の指令値
・中間スプレー開度の指令値
・2段燃焼用の空気流量の指令値
・脱硝用アンモニア制御の指令値
【0106】
なお、上述した第1の実施形態又は第2の実施形態の学習装置の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、上記コンピュータは、CPU、GPUなどのプロセッサ及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えてもよい。そして、上記学習装置の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示は、火力発電に用いられるボイラの負荷変化時において制御対象を先行して制御するための先行加速指令値を生成するための学習モデルを構築する学習装置、及び当該学習装置を備えるボイラ制御システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
A,B 火力発電システム
1 火力発電プラント
2,2b プラント制御システム
3 ボイラ
17,17b ボイラ制御装置
18,18b 学習装置
20,20b 学習部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B