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特許7595496磁気ギアード回転機械、及び発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】磁気ギアード回転機械、及び発電システム
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/28 20060101AFI20241129BHJP
   H02K 7/10 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H02K1/28 Z
H02K7/10 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021047372
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146424
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池見 健
(72)【発明者】
【氏名】松下 崇俊
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幹人
(72)【発明者】
【氏名】岡部 良次
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-019365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0134815(US,A1)
【文献】特開2016-135014(JP,A)
【文献】特公昭49-033308(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/28
H02K 16/02
H02K 21/16
H02K 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶように配置された複数の固定子磁石を含む固定子と、
前記周方向に並ぶように配置され、磁極数が前記複数の固定子磁石よりも少ない複数の回転子磁石を含む回転子と、
前記周方向に並ぶように配置された複数の磁極片を含む磁極片回転子と
を備え、
各々の前記磁極片は、
前記回転子と径方向にて対向する第1面と、
前記固定子と前記径方向にて対向し、周方向長さが、前記第1面の周方向長さよりも長い第2面と
を含み、
前記磁極片の径方向断面において前記磁極片の外側輪郭によって囲まれる領域の面積を、前記磁極片の前記径方向の長さ、および回転中心から前記磁極片の前記径方向における中点までの長さで除した値として規定される角度であるθ と、前記周方向に隣り合う2つの前記磁極片の各々について、前記回転中心を基準とした角度位置の正の差分値として規定される角度であるθ との関係が、式(1)によって規定される
磁気ギアード回転機械。
θ ≦0.67θ ・・・式(1)
【請求項2】
前記磁極片回転子は、前記複数の磁極片と前記周方向に交互に配置される複数の非磁性ホルダを備え、
各々の前記非磁性ホルダは、前記径方向の内側に向かうほど前記非磁性ホルダの周方向中点に近づく方向に延在するホルダ面を備え、
各々の前記磁極片は、
前記ホルダ面と対向して当接する第3面と、
前記周方向において前記第3面とは反対側にある第4面と
を含み、
前記第3面から前記第4面までの前記周方向の長さは、前記第2面の周方向長さよりも長い請求項1に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項3】
前記θと前記θとの関係が式(2)によって規定される請求項に記載の磁気ギアード回転機械。
θ≧0.54θ ・・・式(2)
【請求項4】
周方向に並ぶように配置された複数の固定子磁石を含む固定子と、
前記周方向に並ぶように配置され、磁極数が前記複数の固定子磁石よりも少ない複数の回転子磁石を含む回転子と、
前記周方向に並ぶように配置された複数の磁極片を含む磁極片回転子と
を備え、
各々の前記磁極片は、
前記回転子と径方向にて対向する第1面と、
前記固定子と前記径方向にて対向し、周方向長さが、前記第1面の周方向長さよりも長い第2面と
を含み、
前記第1面の周方向長さであるL1と、前記第2面の周方向長さであるL2との関係が式(A)によって規定される磁気ギアード回転機械。
0.75L2>L1 ・・・式(A)
【請求項5】
前記磁極片回転子は、前記磁極片を軸方向に貫通するように設けられた軸方向孔の内側で前記軸方向に延在する連結バーを備え、
前記軸方向孔の中心の径方向位置は、前記磁極片の前記径方向における中点よりも前記第2面側にある請求項1からのいずれかに記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項6】
前記磁極片回転子は、前記複数の磁極片の各々を前記周方向に挟む複数の非磁性ホルダを備え、
各々の前記非磁性ホルダは、前記径方向の内側に向かうほど前記非磁性ホルダの周方向中点に近づく方向に延在するホルダ面を備え、
各々の前記磁極片は、
前記ホルダ面と対向して当接する第3面と、
前記周方向において前記第3面とは反対側にある第4面と
を含み、
前記第3面から前記第4面までの前記周方向の長さは、前記第2面の周方向長さよりも長く、
前記第1面と前記第2面のうち前記径方向の内側にある内側面から前記軸方向孔の中心までの径方向長さは、前記内側面とは反対側の外側面から前記第3面までの最大径方向長さよりも長い請求項に記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項7】
前記第1面は、前記回転子側に露出し、
前記第2面は、前記固定子側に露出する
請求項1からのいずれかに記載の磁気ギアード回転機械。
【請求項8】
原動機と、
前記原動機からの入力によって駆動されて発電するための磁気ギアード発電機としての、請求項1からのいずれかに記載の磁気ギアード回転機械と
を備える発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気ギアード回転機械、及び発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの回転子の間で回転数を変換してトルクを伝達する磁気ギアード回転機械が公知である。例えば、特許文献1に開示の磁気ギアード回転機械は、径方向外側から順に、コイルが設けられたステータ、軟磁性体である誘導磁極が設けられたアウターロータ、及び、永久磁石が設けられたインナーロータを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-193823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気ギアード回転機械における伝達トルクが大きくなるには、ステータにステータ磁石が設けられることが好ましい。ステータ磁石が設けられる場合、磁気ギアード回転機械の稼働時におけるステータ磁石の磁石損失を低減する必要がある。しかしながら、上記文献には、ステータ磁石が設けられる構成の開示すらない。
【0005】
本開示は、固定子磁石における磁石損失を低減することができる磁気ギアード回転機械、及び発電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係る磁気ギアード回転機械は、
周方向に並ぶように配置された複数の固定子磁石を含む固定子と、
前記周方向に並ぶように配置され、磁極数が前記複数の固定子磁石よりも少ない複数の回転子磁石を含む回転子と、
前記周方向に並ぶように配置された複数の磁極片を含む磁極片回転子と
を備え、
各々の前記磁極片は、
前記回転子と径方向にて対向する第1面と、
前記固定子と前記径方向にて対向し、周方向長さが、前記第1面の周方向長さよりも長い第2面とを含む。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る発電システムは、
原動機と、
前記原動機からの入力によって駆動されて発電するための磁気ギアード発電機としての上記磁気ギアード回転機械と
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、固定子磁石における磁石損失を低減することができる磁気ギアード回転機械、及び発電システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】一実施形態に係る磁気ギアード回転機械を示す概略図である。
図1B】他の実施形態に係る磁気ギアード回転を示す概略図である。
図2】一実施形態に係る磁気ギアード回転機械の径方向断面図である。
図3】一実施形態に係る磁極片回転子の斜視図である。
図4A】一実施形態に係る磁極片回転子の径方向断面図である。
図4B】他の実施形態に係る磁極片回転子の径方向断面図である。
図5】一実施形態に係る第1周長及び第2周長に応じた磁極片32の鉄損を示すグラフである。
図6】一実施形態に係る第1周長及び第2周長に応じた固定子磁石の磁石損失を示すグラフである。
図7】一実施形態に係る磁極片回転子の形状に応じた磁気ギアード回転機械のトルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
(磁気ギアード回転機械の概要)
図1A及び図1Bは、それぞれ、磁気ギアード回転機械の例を示す概略図である。ここで、図1A及び図1Bにおいて、「軸方向」は磁気ギアード回転機械10の磁極片回転子30および回転子40の回転軸(rotational axis)に平行な方向であり、「径方向」は磁極片32および回転子40の回転軸(rotational axis)に直交する方向である。
一実施形態では、図1Aに示すように、磁気ギアード回転機械10は、原動機2からの入力によって駆動されて発電するための磁気ギアード発電機10Aである。磁気ギアード発電機10Aは、発電により生成した電力Pを例えば電力系統であってもよい電力供給先4に向けて供給するように構成される。
他の実施形態では、図1Bに示すように、磁気ギアード回転機械10は、例えば電力系統であってもよい電力供給源6からの電力Pの供給を受けて、回転機械8を駆動するように構成される磁気ギアードモータ10Bである。
【0012】
図1Aに示す実施形態では、磁気ギアード発電機10Aは、発電システム1の一部を構成する。発電システム1は、例えば、風力発電システムや潮流発電システムのような再生可能エネルギー発電システムであってもよい。発電システム1が風力発電システムである場合、原動機2は風車ロータである。発電システム1が潮流発電システムである場合、原動機2は水車ロータである。
磁気ギアード発電機10Aは、固定子磁石22及び固定子巻線24を含む固定子20と、磁極片32を含む磁極片回転子30と、回転子磁石42を含む回転子40とを備える。図1Aに示す例では、固定子20は、軸受B1を介して原動機2の回転シャフト3を支持するハウジング21の内部に配置される。磁極片回転子30は、原動機2の回転シャフト3とともに回転するように構成される。磁極片回転子30の磁極片32は、軸方向に積層された複数の電磁鋼板35を含む。磁極片回転子30は、磁極片32の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドリング34を含み、各々のエンドリング34が回転シャフト3に連結される。回転子40は、回転子磁石42の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドプレート44を含む。各々のエンドプレート44は、回転子40が回転シャフト3及び磁極片回転子30よりも高速で回転することを許容するように、軸受B2を介して回転シャフト3(又は回転シャフト3とともに回転する磁極片回転子30)に取り付けられる。回転子40は、磁極片32及びエンドリング34を含む磁極片回転子30と回転シャフト3とによって囲まれる領域内に設けられる。
なお、図1Aに示す実施形態では、磁気ギアード発電機10Aは、径方向の内側に向かって、固定子20、磁極片回転子30、及び回転子40の順に配置された構成を有する。別の実施形態では、磁気ギアード発電機10Aは、径方向の内側に向かって、回転子40、磁極片回転子30、及び固定子20の順に配置された構成を有する。この場合、円筒状の回転シャフト3の径方向内側に、回転子40、磁極片回転子30及び固定子20が配置される。
【0013】
上述の磁気ギアード発電機10Aは、磁気ギアと発電機とを一体化したものであり、高調波型磁気ギア原理および電磁誘導を利用することで、原動機2からの機械的入力を電力に変換するものである。
例えば、磁気ギアード発電機10Aにおける発電は以下の原理により行われてもよい。原動機2の回転シャフト3とともに回転する磁極片回転子(低速ロータ)30の磁極片32によって、固定子磁石22の磁束が変調され、変調された磁場から回転子磁石42が磁力を受けて回転子(高速ロータ)40が回転する。このとき、磁極片回転子30に対する回転子40の回転数の比(増速比)は、回転子磁石42の極対数Nに対する磁極片32の磁極数Nの比(=N/N)で表される。回転子40が回転することで、電磁誘導によって固定子巻線24に電流が発生する。なお、磁極片32の磁極数Nは、固定子磁石22の磁極数Nよりも少ない。
磁気ギアード発電機10Aの稼働時、磁気ギアード発電機10Aの内部では、N次の磁束(主磁束)、及び、N次よりも高次な高調波磁束(例えば、N+N次の磁束)など種々の磁束が生じ得る。これらの磁束の一部は、例えば固定子磁石22を避けるために、磁極片32を軸方向に通過する漏れ磁束Lfになる。漏れ磁束Lfが生じると、各電磁鋼板35では、面内方向に渦電流が発生し得る。磁極片32のうち例えば軸方向両端部にある電磁鋼板35では、比較的大きな渦電流が発生し得る。
【0014】
図1Bに示す実施形態において、磁気ギアードモータ10Bの基本構成は、図1Aに示す磁気ギアード発電機10Aと共通する。
すなわち、磁気ギアードモータ10Bは、固定子磁石22及び固定子巻線24を含む固定子20と、磁極片32を含む磁極片回転子30と、回転子磁石42を含む回転子40とを備える。図1Bに示す例では、固定子20は、軸受B1を介して回転機械8の回転シャフト9を支持するハウジング21の内部に固定される。磁極片回転子30の磁極片32は、軸方向に積層された複数の電磁鋼板35を含む。磁極片回転子30は、磁極片32の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドリング34を含み、各々のエンドリング34が回転シャフト9に連結される。回転子40は、回転子磁石42の軸方向両端にそれぞれ設けられるエンドプレート44を含む。各々のエンドプレート44は、回転子40が回転シャフト9及び磁極片回転子30よりも高速で回転することを許容するように、軸受B2を介して回転シャフト9(又は回転シャフト9とともに回転する磁極片回転子30)に取り付けられる。回転子40は、磁極片32及びエンドリング34を含む磁極片回転子30と回転シャフト9とによって囲まれる領域内に設けられる。
図1Bに示す実施形態では、磁気ギアードモータ10Bは、径方向の内側に向かって、固定子20、磁極片回転子30、及び回転子40の順に配置された構成を有する。別の実施形態では、磁気ギアードモータ10Bは、径方向の内側に向かって、回転子40、磁極片回転子30、固定子20の順に配置された構成を有する。この場合、円筒状の回転シャフト9の径方向内側に、回転子40、磁極片回転子30及び固定子20が配置される。
【0015】
なお、磁気ギアードモータ10Bは、磁気ギアとモータとを一体化したものであり、固定子巻線24の通電によって発生する回転磁界によって回転子(高速ロータ)40を回転させる。回転子40から磁極片回転子(低速ロータ)30への動力伝達は高調波磁気ギアの原理を利用するものである。
磁気ギアードモータ10Bの稼働時、磁気ギアード発電機10Aと同様、磁極片32では軸方向の漏れ磁束Lfが発生し得る。この場合、各磁極片32では、面内方向に渦電流が発生し得る。磁極片32のうち例えば軸方向両端部にある電磁鋼板35では、比較的大きな渦電流が発生し得る。
【0016】
(磁気ギアード回転機械の内部構造)
続けて、図2を参照して、上述した磁気ギアード回転機械10(10A,10B)の内部構造について説明する。
図2は、一実施形態に係る磁気ギアード回転機械10の径方向断面図である。図2では、図面を見易くする都合、磁気ギアード回転機械10の一部の構成要素にのみ、ハッチングを施している。図2において、「周方向」は、既述の「軸方向」(図1A図1B参照)を基準とした周方向である。
図2に示すように、磁気ギアード回転機械10の固定子20は、周方向に並ぶように配置された複数の固定子磁石22と固定子巻線24とを含む。固定子磁石22及び固定子巻線24は、ステータコア23に取り付けられる。
【0017】
固定子磁石22は、永久磁石により構成され、径方向において固定子巻線24と磁極片回転子30との間を軸方向に通過するように周方向に複数設けられる。本例の複数の固定子磁石22は、周方向に交互に配置される磁極の異なる複数の固定子磁石22N、22Sによって構成される。図2に示す例では、各々の固定子磁石22は、矩形断面を有する軸方向に長尺なロッド状部材である。
図2には、固定子磁石22がステータコア23の表面に取り付けられた表面磁石型(SPM;Surface Permanent Magnet)の構造を有する固定子20を示している。他の実施形態では、固定子20は、固定子磁石22がステータコア23に埋め込まれた埋込磁石型(IPM;Interior Permanent Magnet)の構造を有していてもよい。
【0018】
固定子巻線24は、ステータコア23に設けられた複数のスロット25内に設けられる。複数のスロット25は周方向に複数設けられ、各々のスロット25は軸方向に延在する。各々のスロット25の軸方向両端は開放されており、ステータコア23の軸方向の両端において、スロット25に収まらない固定子巻線24のコイルエンドがステータコア23から突出してもよい。
【0019】
上記構成の固定子20から径方向にずれた位置に設けられる回転子40は、周方向に並ぶように配置された複数の回転子磁石42を含む。複数の回転子磁石42は、周方向に交互に配置された磁極が互いに異なる複数の永久磁石である。複数の回転子磁石42の磁極数は、複数の固定子磁石22の磁極数よりも少ない。各々の回転子磁石42は、矩形断面を有する長尺なロッド部材であってもよい。
【0020】
図2には、回転子磁石42がロータコア43の表面に取り付けられた表面磁石型(SPM;Surface Permanent Magnet)の構造を有する回転子40を示している。他の実施形態では、回転子40は、回転子磁石42がロータコア43に埋め込まれた埋込磁石型(IPM;Interior Permanent Magnet)の構造を有していてもよい。
【0021】
回転子40は、回転子磁石42及びロータコア43以外にも、図1A及び図1Bを参照して上述したエンドプレート44を含んでいてもよい。エンドプレート44は、軸受B2の取付け位置からロータコア43に向かって径方向に沿って延在する環状プレートである。
【0022】
上記構成の固定子20と回転子40との間の径方向位置に設けられた磁極片回転子30は、周方向に交互に並ぶように配置された複数の磁極片32、及び、複数の磁極片32を保持する少なくとも1つの非磁性ホルダ39を含む。各々の磁極片32は、軸方向に積層された既述の複数の電磁鋼板35(図1A図1B参照)を含む。非磁性ホルダ39は、例えば樹脂材料によって形成される。
図2で例示される実施形態では、複数の非磁性ホルダ39と複数の磁極片32が周方向に交互に配置される。各々の磁極片32は、第1エアギャップG1を隔てて回転子40と対向し、且つ、第2エアギャップG2を隔てて固定子20と対向する。
他の実施形態では、非磁性ホルダ39が、複数の磁極片32を保持してもよい(図4B参照)。この場合、非磁性ホルダ39は周方向に延在してもよい。より具体的な一例として、非磁性ホルダ39に設けられた複数の開口部の各々の内側で、複数の磁極片32が軸方向に延在してもよく、各々の磁極片32の外表面は非磁性ホルダ39によって覆われてもよい。周方向に延在する非磁性ホルダ39は1つであってもよい。この場合、1つの非磁性ホルダ39が、磁極片回転子30の全周に亘って周方向に連続的に延在する。あるいは、周方向に延在する非磁性ホルダ39は複数であってもよい。この場合、複数の非磁性ホルダ39が各々複数の磁極片32を保持し、複数の非磁性ホルダ39が、軸方向視で円環状を形成してもよい。いずれの実施形態であっても、各々の磁極片32は、非磁性ホルダ39の開口部の内側に配置される。従って、磁極片32は、第1エアギャップG1と非磁性ホルダ39の一部を隔てて回転子40と対向し、且つ、第2エアギャップG2と非磁性ホルダ39の他部を隔てて固定子20と対向する。
【0023】
続いて、図3を参照し、磁極片回転子30の更なる構成の詳細を説明する。図3は、一実施形態に係る磁極片回転子30の斜視図である。図3で例示される実施形態では、複数の磁極片32と複数の非磁性ホルダ39が周方向に交互に配置される。
図3に示すように、磁極片回転子30の構成要素である複数の連結バー36が、磁極片32を軸方向に貫通するように設けられた軸方向孔86の内側で軸方向に延在する。連結バー36は、例えば、チタンまたはステンレス鋼などの非磁性材料によって形成される。また、複数の連結バー36は、一対のエンドリング34によって保持される。一対のエンドリング34は、複数の磁極片32と複数の非磁性ホルダ39を挟んで軸方向の両側にそれぞれ位置する。なお、図3では、一対のエンドリング34の一方を二点鎖線によって仮想的に図示する。
複数の連結バー36が配置されることで、磁極片回転子30は複数の磁極片32の集合体を形成することができる。また、複数の連結バー36が各々、複数の軸方向孔86の内側で軸方向に延在することで、磁極片回転子30の回転時に磁極片32が遠心力によって径方向外側にずれるのを抑制できる。
他の実施形態では、磁極片回転子30は、複数の連結バー36を備えなくてもよい。この場合、磁極片32には軸方向孔86が形成されなくてもよい。このような実施形態であっても、磁極片回転子30は複数の磁極片32の集合体を形成することができる。
また、図3で例示される磁極片32の軸方向視の形状は一例として6角形状である。別の実施形態では、磁極片32の軸方向視の形状は、例えば、4角形状または8角形状などの多角形形状であってもよい。磁極片32の軸方向視の形状に応じて、非磁性ホルダ39の軸方向視の形状も変更されてよい。
【0024】
図4A図4Bを参照し、磁極片32と非磁性ホルダ39の更なる構成の詳細を説明する。図4A図4Bは、一実施形態に係る磁極片回転子30A、30B(30)の径方向断面図である。図4A図4Bでは図面を見やすくする都合、図示される構成要素にハッチングを施していない。
図4A図4Bに示すように、磁極片32A、32B(32)は、回転子磁石42と径方向にて対向する第1面51A、51B(51)と、固定子磁石22と径方向にて対向する第2面52A、52B(52)とを含む。一実施形態では、第2面52の周方向における長さ(以下、第2周長ともいう)は、第1面51の周方向における長さ(以下、第1周長ともいう)よりも長い。第1周長は寸法L1に該当し、第2周長は寸法L2に該当する。第2周長が第1周長よりも長いことで、固定子磁石22における磁石損失を低減できる(詳細は後述する)。
磁極片32A、32B(32)において、第1周長(寸法L1)と第2周長(寸法L2)との関係は式(3)によって規定されてもよい。
0.25L2<L1<0.75L2 ・・・式(3)
L1が0.25L2よりも大きいことで、回転子磁石42から生じる径方向に流れる磁束の磁路が磁極片において確保される。また、0.75L2がL1よりも大きいことで、第2周長を十分に長くできる。
【0025】
また、図4A図4Bで例示されるように、磁極片32A、32B(32)の周方向長さは、径方向位置に応じて変化する。この周方向の長さの平均値を求めるためには、磁極片32の径方向断面において、磁極片32の外側輪郭60によって囲まれる領域の面積(Sとする)を、磁極片32の径方向長さ(寸法Lr)で割ればよい。なお、外側輪郭60の内側に磁極片32を軸方向に貫通する孔(例えば軸方向孔86)が設けられる実施形態では(図4A参照)、該孔の面積も上記の面積(S)に含まれる。該孔が磁極片32の径方向の一端面または周方向の一端面に開口する場合も同様である。
周方向長さの平均値(=S/Lr)を、磁極片32の回転中心Oから磁極片32の径方向における中点Crまでの長さ(寸法Ls)で割ることで得られる角度(θ)は、磁極片32の周方向長さの平均値と相関する値として扱うことができる。まとめると、θは、以下の式(4)によって規定される。以下ではθを磁極片平均角度という場合がある。
θ=S/(Lr×Ls) ・・・式(4)
式(4)から判る通り、磁極片平均角度(θ)は、磁極片32の径方向断面において外側輪郭60によって囲まれる領域の面積(S)を、磁極片の径方向の長さ(Lr)、および回転中心Oから磁極片32の径方向における中点までの長さ(Lr)で除した値である。
さらに、周方向に隣り合う2つの磁極片32の各々について、回転中心Oを基準とした角度位置の正の差分値として規定される角度をθ(寸法θ)とする。以下では、θを差分角度という場合がある。
磁極片32A、32Bでは、磁極片平均角度(θ)と差分角度(θ)との関係が、式(1)によって規定されてもよい。
θ≦0.67θ ・・・式(1)
また、磁極片平均角度(θ)と差分角度(θ)との関係が、式(2)によって規定されてもよい。
θ≧0.54θ ・・・式(2)
後述するように、式(1)または式(2)の少なくとも一方が成立することにより、磁気ギアード回転機械10の高い伝達トルクが実現する。また、式(2)が成立する代わりに、式(5)が成立してもよい。
θ≧0.4θ ・・・式(5)
磁気ギアード回転機械10として、磁気ギアードモータ10Bが採用された他の実施形態では、式(2)または式(5)が成立する代わりに、式(6)が成立してもよい。
θ>0.2θ ・・・式(6)
後述するように、θが0.2θ以下になると、磁気ギアード回転機械10の負荷トルクが最大伝達トルクを超えてしまうので、磁気ギアード回転機械10の脱調を回避するために式(6)が成立する必要がある。
【0026】
図4Aに示すように、磁極片回転子30A(30)は、複数の磁極片32A(32)の各々を周方向に挟む複数の非磁性ホルダ39A(39)を備える。
各々の非磁性ホルダ39A(39)は、径方向の内側に向かうほど非磁性ホルダ39の周方向の中点に近づく方向に延在するホルダ面37を含み、磁極片32A(32)は、ホルダ面37と対向して当接する第3面53を含んでもよい。ホルダ面37が径方向に対して上述のように傾斜し、且つ第3面53がホルダ面37に対向して当接するので、磁極片回転子30の回転時に磁極片32が遠心力によって非磁性ホルダ39Aから外れるのを抑制できる。
また、非磁性ホルダ39A(39)は、周方向において第3面と反対側にある第4面54を含んでもよい。第4面54は、別の非磁性ホルダ39Aと対向して当接する。第4面54は、径方向の内側に向かうほど、別の非磁性ホルダ39Aの周方向の中点に近づくように延在してもよい。径方向に対してこのように傾斜する第4面54が、別の非磁性ホルダ39に対向して当接することで、磁極片回転子30の回転時に磁極片32が遠心力によって非磁性ホルダ39Aから外れるのをさらに抑制できる。
第3面53から第4面54までの周方向長さ(寸法Lc)は、第2周長(寸法L2)よりも長い。これにより、固定子20側の磁極片32Aの大きさが確保される。よって、磁極片32A内部で形成される磁束の磁路が整い易い。また、磁気ギアード回転機械10が磁気ギアードモータ10Bである実施形態においては、上記の寸法関係によって、固定子磁石22から生じる周方向を流れる磁束の磁路が磁極片32Aにおいて適正に変調され、磁気ギアードモータ10Bの出力トルクの低下を抑制できる。
なお、他の実施形態では、第4面54は、径方向と平行に延在してもよい。この場合、第4面54は、第1面51と第2面52の各々に接続される。
【0027】
図4Aで示すように、非磁性ホルダ39A(39)は、第3面53に接続される第5面55と、第4面54に接続される第6面56を含んでもよい。第6面56は周方向において第5面55と反対側にある。第5面55と第6面56はいずれも、径方向の内側に向かうほど、磁極片32Aの周方向の中点に近づく方向に延在する。別の実施形態では、第5面55と第6面56の少なくとも一方は、径方向と平行に延在してもよい。
磁極片32Aのうちで、第3面53と第5面55との接続位置に形成される角部と、第4面54と第6面56との接続位置に形成される角部は、いずれも尖っている。別の実施形態では、2つの角部の少なくとも一方は、丸みを帯びてもよい。
【0028】
図4Aに示すように、非磁性ホルダ39A(39)は、回転子40と第1エアギャップG1を隔てて径方向にて対向する第1ホルダ周面11と、固定子20と第2エアギャップG2を隔てて径方向にて対向する第2ホルダ周面12とを備えてもよい。第1ホルダ周面11は、非磁性ホルダ39Aのうちで径方向の一方側の端面である。第2ホルダ周面12は、非磁性ホルダ39Aのうちで第1ホルダ周面11とは反対側に位置する端面である。
図4Aで例示される実施形態では、第1ホルダ周面11は非磁性ホルダ39Aの内周面であり、第2ホルダ周面12は非磁性ホルダ39Aの外周面である。
なお、径方向外側から順に回転子40、磁極片回転子30、及び固定子20が配置される既述の構造が採用された別の実施形態では、第1ホルダ周面11は磁極片32Aの外周面であり、第2ホルダ周面12は磁極片32Aの内周面である。
【0029】
図4Aで示すように、磁極片32A(32)は、上述の軸方向孔86を備えてもよい。この場合、軸方向孔86の中心86Cの径方向位置は、磁極片32A(32)の径方向における中点Crよりも第2面52A(52)側にある。
第2周長が第1周長よりも長いので、固定子磁石22に近い位置でより多くの磁極片32が配置される傾向にある。この点、軸方向孔86の中心86Cの径方向位置が、磁極片32A(32)の径方向における中点Crよりも第2面52A側にあることで、固定子磁石22に近い位置にある磁極片32の量が低減する。これにより、磁極片32Aの径方向における中点Crに対して回転子磁石42側と固定子磁石22側とにおいて、磁極片32Aの配置量が均等化される。
また、軸方向孔86が設けられる実施形態において、第3面53から第4面54までの周方向長さ(寸法Lc)が第2周長(寸法L2)よりも長い場合、磁極片32Aを通過する磁束の磁路が軸方向孔86の近くで周方向に狭まることが抑制される。これにより、磁気ギアード回転機械10が磁気ギアードモータ10Bである実施形態においては、固定子磁石22から生じる周方向を流れる磁束の磁路が磁極片32Aにおいて適正に変調され、出力トルクの低下を抑制できる。
また、第1面51Aと第2面52Aのうち径方向内側にある面である内側面57から、軸方向孔86の中心86Cまでの径方向長さは、寸法Miに該当する。第1面51Aと第2面52Aのうち内側面57とは反対側にある面である外側面58から第3面53までの最大径方向長さは、寸法Mwに該当する。図4Aで例示される実施形態では、内側面57は第1面51Aであり、外側面58は第2面52Bである。寸法Miは寸法Mwよりも長い。上述のように第3面53から第4面54までの周方向長さ(寸法Lc)が第2周長(寸法L2)よりも長いので、第3面53と第4面54との間にはより多くの磁極片32が配置される傾向にある。この点、寸法Miが寸法Mwよりも長いので、軸方向孔86の径方向位置は、第3面53と第4面54との間にある領域の近くに配置される。これにより、第3面53と第4面54との間にある磁極片32の量が低減する。従って、磁極片32の径方向における中点Crに対して回転子磁石42側と固定子磁石22側とにおいて、磁極片32Aの配置量が均等化される。よって、磁極片32Aの内部で形成される磁路は整い易い。
なお、径方向外側から順に回転子40、磁極片回転子30、及び固定子20が配置される既述の構造が採用された別の実施形態では、内側面57は第2面52Aであり、外側面58は第1面51Aである。この実施形態においても、内側面57から軸方向孔86の中心86Cまでの径方向長さが、外側面58から第3面53までの最大径方向長さよりも長くてもよい。
【0030】
図4Aで示すように、第1面51A(51)は、非磁性ホルダ39A(39)の第1ホルダ周面11と同じ径方向位置に配置され、第2面52A(52)は、第2ホルダ周面12と同じ径方向位置に配置されてもよい。なお、第1面51Aと第1ホルダ周面11とが、例えば製造誤差などにより、径方向において互いにずれる場合であっても、第1面51Aと第1ホルダ周面11とは実質的に同じ径方向位置に配置されている。第2面52Aと第2ホルダ周面12とが、例えば製造誤差などにより、径方向において互いにずれる場合も同様である。
さらに、第1面51A(51)は回転子40側に露出し、第2面52A(52)は固定子20側に露出してもよい。より具体的な一例として、第1面51は回転子磁石42と第1エアギャップG1を隔てて対向し、第2面52は固定子磁石22と第2エアギャップG2を隔てて対向してもよい。第1面51と第2面52がいずれも露出することによって、磁極片32による磁束の変調効果を増大させることができる。
なお、他の実施形態では、磁極片32Aと非磁性ホルダ39Aは、他の部品によって覆われてもよい。この場合、第1面51Aまたは第2面52Aの少なくとも一方は露出しなくてもよく、同様に、第1ホルダ周面11または第2ホルダ周面12の少なくとも一方は露出しなくてもよい。例えば、第2面52Aと第2ホルダ周面12はいずれも、他の部品と第2エアギャップG2とを隔てて固定子20に対向してもよい。
【0031】
図4Bで示すように、磁極片回転子30B(30)は、複数の磁極片32B(32)を保持する単一の非磁性ホルダ39B(39)を含む。非磁性ホルダ39Bは周方向に延在する。
この場合、第1面51B(51)と第2面52B(52)は、単一の非磁性ホルダ39B(39)によって覆われる。より具体的には一例として、第1面51Bは、非磁性ホルダ39と第1エアギャップG1を隔てて、回転子磁石42と対向し、第2面52B(52)は、非磁性ホルダ39と第2エアギャップG2を隔てて回転子磁石42と対向する。
図4Bで示すように、各々の磁極片32Bの軸方向視の形状は台形状である。
別の実施形態では、各々の磁極片32B(32)に、軸方向孔86(図4A参照)が設けられ、軸方向孔86の内側で連結バー36が軸方向に延在してもよい。
【0032】
図5及び図6を参照し、磁極片32の形状と、磁極片32の鉄損及び固定子磁石22の磁石損失の関係を説明する。
図5は、一実施形態に係る第1周長及び第2周長に応じた磁極片32の鉄損を示すグラフである。磁極片32の鉄損(Pole piece iron losses)は、磁極片32のヒステリシス損失と渦電流損失を含む。
図6は、一実施形態に係る第1周長及び第2周長に応じた固定子磁石22の磁石損失を示すグラフである。固定子磁石22の磁石損失(Stator magnet losses)は渦電流損失を含む。
図5図6は一例として、磁極片回転子30B(図4B参照)が磁気ギアードモータ10B(図1B参照)に適用されたときのシミュレーションデータである。図5図6のグラフでは、横軸が第1周長(寸法L1)を示し、第2周長(寸法L2)に応じてシミュレーションデータがプロットされている。また、グラフの縦方向における1目盛りあたりの損失量は、図5図6とにおいて同じである。
【0033】
図5に示すように、第1周長と第2周長が各々短いほど、磁極片32Bの鉄損は低減することが判る。これは、磁束の通過対象である磁極片32B自体が小さくなることで、漏れ磁束Lf(図1A図1B参照)が低減し、電磁鋼板35を流れる渦電流が低減することが理由であると推定される。
図6に示すように、第1周長の長短は、固定子磁石22の磁石損失に殆ど影響を与えないことが判る。一方、第2周長が長いほど固定子磁石22の磁石損失は低減することが判った。これは、第2周長が長いほど、磁極片回転子30の回転時に特定の磁極片32Bが特定の固定子磁石22と対向している時間が長くなり、固定子磁石22を通過する磁束の単位時間当たりの変化量が抑制されたためだと推定される。
なお、上記で推定した理由に基づけば、磁極片回転子30Bの代わりに磁極片回転子30A(図4A参照)が設けられた磁気ギアードモータ10Bにおいても、図5図6と同様の結果が得られることが了解される。また、磁気ギアード発電機10Aと磁気ギアードモータ10Bとの間で共通の構成が採用されていることを踏まえれば、磁極片回転子30Bが設けられた磁気ギアード発電機10A(図1A参照)においても、図5図6と同様の結果が得られることが了解される。
【0034】
図5図6の結果から判る通り、磁極片32の鉄損の増減傾向と固定子磁石22の磁石損失の増減傾向は、第2周長の長短に応じて互いに反対である。即ち、第2周長が短いほど、磁極片32の鉄損は低減し、固定子磁石22の磁石損失は増大する。一方、第2周長が長いほど、磁極片32の鉄損は増大し、固定子磁石22の磁石損失は低減する。
磁気ギアード回転機械10の効率的な稼働を実現するには、固定子磁石22の磁石損失を磁極片32の鉄損よりも重視して、第2周長を長くする方が好ましいと発明者らは考える。なぜなら、固定子磁石22を含む固定子20には、固定子巻線24が設けられており、固定子巻線24の通電に伴い固定子磁石22の温度は上昇し易い傾向を有するからである。固定子磁石22が温度上昇すると、固定子磁石22は減磁され、磁極片回転子30の回転は阻害される(例えば、磁気ギアードモータ10Bでは、出力トルクが低減する)。
特に固定子磁石22が希土類磁石である実施形態では、固定子磁石22が例えばネオジウム磁石である実施形態に比べ、固定子磁石22の減磁が著しい。この点、第2周長が長いことで、固定子磁石22の磁石損失が抑制される結果、固定子磁石22の温度上昇が抑制される。これにより、磁気ギアード回転機械10の稼働時における効率低下は抑制される。
【0035】
図7を参照し、磁極片回転子30の形状と磁気ギアード回転機械10におけるトルクの関係を説明する。
図7は、一実施形態に係る磁極片回転子30の形状に応じた磁気ギアード回転機械10のトルクを示すグラフである。該グラフは一例として、磁極片回転子30B(図4B参照)が磁気ギアードモータ10B(図1B)に適用されたときのシミュレーションに基づくデータを示す。
図7は、差分角度(θ)に対する磁極片平均角度(θ)の比(θ/θ)と、磁気ギアードモータ10Bの最大伝達トルク(Max. pull out torque)及び定格トルク(Rated torque)との関係を示すグラフである。最大伝達トルクは、磁気ギアードモータ10Bの回転子40から磁極片32へと伝達される磁気的なトルクの最大値である。定格トルクは、磁気ギアード回転機械10が定格運転をするときに求められる出力トルクである。この定格トルクが最大伝達トルクを上回ると、磁気ギアードモータ10Bにおける負荷トルクが最大伝達トルクを超えるため、脱調が生じる。
【0036】
図7から判るように、θ/θが0.67以下である場合に、高い水準の最大伝達トルクが達成されることが判った。従って、上述の式(1)が成立すれば、磁気ギアードモータ10Bにおいて高い水準の伝達トルクが確保されることが了解される。
また、θ/θが0.4以上である場合、θ/θが0.67であるときの最大伝達トルクと同等またはそれ以上の最大伝達トルクが達成されることが判った。従って、上述の式(5)が成立すれば、磁気ギアードモータ10Bにおいて高い水準の伝達トルクが確保されることが了解される。
さらに、θ/θが0.53である場合には、最大伝達トルクが最大になることが判った。従って、上述の式(2)が成立すれば、磁気ギアードモータ10Bの伝達トルクが高水準で達成されることが了解される。
なお、磁極片回転子30Bに代えて磁極片回転子30Aが磁気ギアードモータ10Bに適用されたときも同様のデータが得られると予想される。なぜなら、磁気ギアードモータ10Bの出力トルクの高低は、複数の固定子磁石22から生じる磁束が、磁極片32のうち固定子20側の部位をどれだけ流れるかに応じて主に決まるからである。つまり、連結バー36が挿入されている軸方向孔86が設けられた磁極片回転子30Aにおいても、図7と同様のデータが取得されることが了解される。
また、磁気ギアードモータ10Bと共通の構成を有する磁気ギアード発電機10Aにおいても、図7と同様のデータが得られると予想される。
【0037】
なお、θ/θが0.2以下になると、最大伝達トルクが定格トルクを下回ること、図7のグラフから予測される。従って、磁気ギアード回転機械10が脱調することなく稼働するためには、上述の式(3)が成立することが前提となる。
【0038】
(まとめ)
以下、幾つかの実施形態に係る磁気ギアード回転機械10及びこれを用いた発電システム1について概要を記載する。
【0039】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る磁気ギアード回転機械(10)は、
周方向に並ぶように配置された複数の固定子磁石(22)を含む固定子(20)と、
前記周方向に並ぶように配置され、磁極数が前記複数の固定子磁石(22)よりも少ない複数の回転子磁石(42)を含む回転子(40)と、
前記周方向に並ぶように配置された複数の磁極片(32)を含む磁極片回転子(30)と
を備え、
各々の前記磁極片(32)は、
前記回転子(40)と径方向にて対向する第1面(51)と、
前記固定子(20)と前記径方向にて対向し、周方向長さ(寸法L2)が、前記第1面(51)の周方向長さ(寸法L1)よりも長い第2面(52)と
を含む。
【0040】
上記(1)の構成によれば、第2面(52)の周方向長さである第2周長(寸法L2)が、第1面(51)の周方向長さである第1周長(寸法L1)よりも長い。これにより、磁極片回転子(30)が回転することに起因する、固定子磁石(22)を通過する磁束の単位時間当たりの変化量が抑制される。よって、固定子磁石(22)の磁石損失を低減することができる磁気ギアード回転機械(10)が実現する。
【0041】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記磁極片回転子(30)は、前記複数の磁極片(32)と前記周方向に交互に配置される複数の非磁性ホルダ(39)を備え、
各々の前記非磁性ホルダ(39)は、前記径方向の内側に向かうほど前記非磁性ホルダ(39)の周方向中点に近づく方向に延在するホルダ面(37)を備え、
各々の前記磁極片(32)は、
前記ホルダ面(37)と対向して当接する第3面(53)と、
前記周方向において前記第3面(53)とは反対側にある第4面(54)と
を含み、
前記第3面(53)から前記第4面(54)までの前記周方向の長さ(寸法Lc)は、前記第2面(52)の周方向長さ(寸法L2)よりも長い。
【0042】
上記(2)の構成によれば、磁極片(32)の第3面(53)が非磁性ホルダ(39)のホルダ面(37)に対向して当接するので、磁極片回転子(30)の回転時において磁極片(32)が遠心力によって磁極片回転子(30)から外れるのを抑制できる。また、第3面(53)から第4面(54)までの周方向の長さ(寸法Lc)が第2面(52)の周方向の長さ(寸法L2)よりも長いことで、固定子磁石(22)側における磁極片(32)の大きさが確保される。これにより、磁極片(32)の内部で形成される磁束の磁路が整い易い。また、磁気ギアード回転機械(10)が磁気ギアードモータ(10B)である実施形態において、第3面(53)から第4面(54)までの周方向の長さ(寸法Lc)が第2面(52)の周方向の長さ(寸法L2)よりも長いことで、固定子磁石(22)から生じる周方向を流れる磁束の磁路が磁極片(32)において適正に変調され、磁気ギアードモータ(10B)の出力トルクの低下を抑制できる。
【0043】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)または(2)の構成において、
前記磁極片(32)の径方向断面において前記磁極片(32)の外側輪郭(60)によって囲まれる領域の面積(S)を、前記磁極片(32)の前記径方向の長さ(寸法Lr)、および回転中心(O)から前記磁極片(32)の前記径方向における中点(Cr)までの長さ(寸法Ls)で除した値として規定される角度であるθと、前記周方向に隣り合う2つの前記磁極片(32)の各々について、前記回転中心(O)を基準とした角度位置の正の差分値として規定される角度であるθとの関係が、式(1)によって規定される。
θ≦0.67θ ・・・式(1)
【0044】
上記(3)の構成によれば、θが0.67θ以下であることで、磁気ギアード回転機械(10)の高い伝達トルクが実現する。
【0045】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記θと前記θとの関係が式(2)によって規定される。
θ≧0.54θ ・・・式(2)
【0046】
上記(4)の構成によれば、θが0.54θ以上であることで、磁気ギアード回転機械(10)の高い伝達出力トルクが実現する。
【0047】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(4)のいずれかの構成において、
前記第1面(51)の周方向長さであるL1と、前記第2面(52)の周方向長さであるL2との関係が式(3)によって規定される。
0.25L2<L1<0.75L2 ・・・式(3)
【0048】
上記(5)の構成によれば、L1が0.25L2よりも大きいことで、回転子磁石(42)から生じる径方向に流れる磁束の磁路が磁極片(32)において確保される。磁極片(32)の内部において磁束が整い易い。また、0.75L2がL1よりも大きいことで、第2周長(寸法L2)を十分に長くでき、固定子磁石(22)における磁石損失を低減することができる。
【0049】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)から(5)のいずれかの構成において、
前記磁極片回転子(30)は、前記磁極片(32)を軸方向に貫通するように設けられた軸方向孔(86)の内側で前記軸方向に延在する連結バー(36)を備え、
前記軸方向孔(86)の中心(86C)の径方向位置は、前記磁極片(32)の前記径方向における中点(Cr)よりも前記第2面(52)側にある。
【0050】
上記(6)の構成によれば、軸方向孔(86)の内側で軸方向に延在する連結バー(36)は、磁極片回転子(30)の回転時に磁極片(32)が遠心力によって径方向外側にずれるのを抑制できる。また、第2周長(寸法L2)が、第1周長(寸法L1)よりも長いので、固定子磁石(22)に近い位置でより多くの磁極片(32)が配置される傾向がある。この点、軸方向孔(86)の中心(86C)の径方向位置が、磁極片(32)の径方向における中点(Cr)よりも第2面(52)側にあることで、固定子磁石(22)に近い位置にある磁極片(32)の量が低減する。これにより、磁極片(32)の径方向における中点(Cr)に対して回転子磁石(42)側と固定子磁石(22)側とにおいて、磁極片(32)の配置量が均等化される。従って、磁極片(32)内部で形成される磁路は整い易い。
【0051】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、
前記磁極片回転子(30)は、前記複数の磁極片(32)の各々を前記周方向に挟む複数の非磁性ホルダ(39)を備え、
各々の前記非磁性ホルダ(39)は、前記径方向の内側に向かうほど前記非磁性ホルダ(39)の周方向中点に近づく方向に延在するホルダ面(37)を備え、
各々の前記磁極片(32)は、
前記ホルダ面(37)と対向して当接する第3面(53)と、
前記周方向において前記第3面(53)とは反対側にある第4面(54)と
を含み、
前記第3面(53)から前記第4面(54)までの前記周方向の長さ(寸法Lc)は、前記第2面(52)の周方向長さ(寸法L2)よりも長く、
前記第1面(51)と前記第2面(52)のうち前記径方向の内側にある内側面(57)から前記軸方向孔(86)の中心(86C)までの径方向長さ(寸法Mi)は、前記内側面(57)とは反対側の外側面(58)から前記第3面(53)までの最大径方向長さ(寸法Mw)よりも長い。
【0052】
上記(7)の構成によれば、軸方向孔(86)の内側で軸方向に延在する連結バー(36)は、磁極片回転子(30)の回転時に磁極片(32)が遠心力によって非磁性ホルダ(39)から外れるのを抑制できる。第3面(53)から前記第4面(54)までの周方向長さ(寸法Lc)が、第2周長(寸法L2)よりも長いので、第3面(53)と第4面(54)との間にはより多くの磁極片(32)が配置される傾向にある。この点、内側面(57)から軸方向孔(86)の中心(86C)までの径方向長さ(寸法Mi)が、外側面(58)から第3面(53)までの最大径方向長さ(寸法Mw)よりも長いので、軸方向孔(86)の径方向位置は第3面(53)と第4面(54)の間にある領域の近くに配置される。これにより、第3面(53)と第4面(54)との間にある磁極片(32)の量が低減する。従って、磁極片(32)の径方向における中点(Cr)に対して回転子磁石(42)側と固定子磁石(22)側とにおいて、磁極片(32)の配置量が均等化される。よって、磁極片(32)内部で形成される磁路は整い易い。
【0053】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)から(7)のいずれかの構成において、
前記第1面(51)は、前記回転子(40)側に露出し、
前記第2面(52)は、前記固定子(20)側に露出する。
【0054】
上記(8)の構成によれば、第1面(51)と第2面(52)がいずれも露出することによって、磁極片(32)による磁束の変調効果を増大させることができる。
【0055】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る発電システム(1)は、
原動機(2)と、
前記原動機からの入力によって駆動されて発電するための磁気ギアード発電機(10A)としての、上記(1)から(8)のいずれかに記載の磁気ギアード回転機械(10)と
を備える。
【0056】
上記(9)の構成によれば、上記(1)と同様の理由によって、固定子磁石(22)の磁石損失を低減することができる発電システム(1)が実現する。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0058】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0059】
1 :発電システム
2 :原動機
10 :磁気ギアード回転機械
10A :磁気ギアード発電機
20 :固定子
22 :固定子磁石
30 :磁極片回転子
32 :磁極片
37 :ホルダ面
39 :非磁性ホルダ
40 :回転子
42 :回転子磁石
51 :第1面
52 :第2面
53 :第3面
54 :第4面
57 :内側面
58 :外側面
60 :外側輪郭
86 :軸方向孔
86C :中心
Cr :中点
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7