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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】研磨体及びウェハ研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 11/00 20060101AFI20241129BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20241129BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B24D11/00 M
B24D11/00 Q
B24B7/04 A
H01L21/304 622F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021051298
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149239
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 将太
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/023487(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152021(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 11/00
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
B24B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸心と直交する方向に延びる第1固定面を有し、前記第1軸心周りに回転される定盤と、前記第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて前記第1固定面と対面する第2固定面を有し、前記第2軸心周りに回転されるキャリヤとを備え、前記第2固定面に平板状のウェハが固定されたウェハ研磨装置に用いられる研磨体であって、
前記研磨体は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記第1固定面に固定される第1面と、前記第1面とは逆を向き、前記第1面に対して厚さ方向に離隔した第2面と、前記第1面及び前記第2面から凹設され、前記第1面と前記第2面とを連通する無数のボイドとを有し、
各前記ボイドは、前記第1軸心に対する距離が等しければ、前記第1軸心に交差する角度が等しく、
各前記ボイドは、前記第1軸心周りにおいて、前記第1面及び前記第2面の一方では前記第1軸心に近づき、前記第1面及び前記第2面の他方では前記第1軸心から遠ざかっており、
前記第1軸心と一致する中心線に対する距離が短い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度は、前記中心線に対する距離が長い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度より大きいことを特徴とする研磨体。
【請求項2】
平板状のウェハと平板状の研磨体とを研磨液の存在下で所定の面圧の下で当接しつつ、前記ウェハの厚さ方向に延びる第軸心周りに前記ウェハを回転するとともに、前記研磨体の厚さ方向に延び、前記第軸心と平行な第軸心周りに前記研磨体を回転し、前記ウェハを研磨するウェハ研磨方法において、
前記研磨体は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記研磨体は、第1面と、前記第1面とは逆を向き、前記第1面に対して厚さ方向に離隔した第2面と、前記第1面及び前記第2面から凹設され、前記第1面と前記第2面とを連通する無数のボイドとを有し、
各前記ボイドは、前記第1軸心に対する距離が等しければ、前記第1軸心に交差する角度が等しく、
各前記ボイドは、前記第1軸心周りにおいて、前記第1面及び前記第2面の一方では前記第1軸心に近づき、前記第1面及び前記第2面の他方では前記第1軸心から遠ざかっており、
前記第1軸心と一致する中心線に対する距離が短い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度は、前記中心線に対する距離が長い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度より大きいことを特徴とするウェハ研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨体と、ウェハ研磨方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
定盤とキャリヤとを備えたウェハ研磨装置が知られている。定盤は、第1軸心と直交する方向に延びる第1固定面を有し、第1軸心周りに回転される。キャリヤは、第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて第1固定面と対面する第2固定面を有し、第2軸心周りに回転される。研磨体は、第1固定面に固定される第1面と、第1面とは逆を向き、第1面に対して厚さ方向に離隔した第2面とを有している。
【0003】
このウェハ研磨装置によりSiC、GaN等の平板状のウェハを研磨する場合、定盤の第1固定面に研磨体の第1面が固定され、キャリヤの第2固定面に平板状のウェハが固定される。そして、研磨液の存在下で研磨体とウェハとを所定の面圧の下で当接しながら、定盤とキャリヤとを回転させる。
【0004】
研磨体が一般的な不織布や硬質ウレタンからなる場合、研磨液が研磨粒子を含んでいる。また、研磨体が特許文献1~3に開示されているように、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有しているものである場合には、研磨粒子を含まない研磨液を採用できる。こうして、ウェハの研磨を行う。研磨液がアルカリ等の薬剤を含む場合には、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)工程でウェハが研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4266579号公報
【文献】特許第5511266号公報
【文献】特許第6636634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、半導体を用いたデバイスが高性能化するに伴って、近年、加工後のウェハの品質要求が厳しくなっている。
【0007】
特に、ウェハの加工工程の中でも、仕上げ工程にあたるCMP工程ではスクラッチレスに加え、内部の歪をなくすニーズも出てきている。また、研磨液が研磨粒子を含む遊離砥粒方式でウェハを研磨すると、ウェハ表面のダメージが不均ーであり、局所的に歪が残ることが判明している。さらに、ウェハのダメージのみならず、高い研磨能率、優れた表面粗さ等が求められている。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、加工後のウェハがスクラッチレス等の高品質要求に堪え得る研磨体を提供することを解決すべき課題としている。また、本発明はそのようなウェハ研磨方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の研磨体は、第1軸心と直交する方向に延びる第1固定面を有し、前記第1軸心周りに回転される定盤と、前記第1軸心と平行な第2軸心と直交する方向に延びて前記第1固定面と対面する第2固定面を有し、前記第2軸心周りに回転されるキャリヤとを備え、前記第2固定面に平板状のウェハが固定されたウェハ研磨装置に用いられる研磨体であって、
前記研磨体は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記第1固定面に固定される第1面と、前記第1面とは逆を向き、前記第1面に対して厚さ方向に離隔した第2面と、前記第1面及び前記第2面から凹設され、前記第1面と前記第2面とを連通する無数のボイドとを有し、
各前記ボイドは、前記第1軸心に対する距離が等しければ、前記第1軸心に交差する角度が等しく、
各前記ボイドは、前記第1軸心周りにおいて、前記第1面及び前記第2面の一方では前記第1軸心に近づき、前記第1面及び前記第2面の他方では前記第1軸心から遠ざかっており、
前記第1軸心と一致する中心線に対する距離が短い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度は、前記中心線に対する距離が長い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度より大きいことを特徴とする。
【0010】
発明者は、本発明の研磨体を用いて上記ウェハ研磨装置によってウェハを研磨すれば、スクラッチを生じ難く、かつ高い研磨能率と優れた表面粗さでウェハを研磨できることを確認した。
【0011】
すなわち、発明者の試験によれば、定盤が第1軸心周りに回転し、かつキャリヤが第2軸心周りに回転するウェハ研磨装置において、一般的な不織布や硬質ウレタン等の研磨体を用いた場合には、研磨体がウェハを能率よく研磨することができず、研磨後のウェハにスクラッチを生じやすい。
【0012】
一方、無数のボイドを有する研磨体を用いた場合には、ボイドによってウェハをある程度能率よく研磨できるようではある。しかし、従来の研磨体では、ボイドが一方向に傾斜しているため、ウェハが第2軸心周りの特定の方向では磨耗されやすく、他の特定の方向では磨耗され難いという方向性を生じてしまう。このため、この場合には、表面粗さが劣るとともに、研磨能率が未だ十分ではない。
【0013】
これらに対し、本発明の研磨体を用いた場合には、各ボイドが第1軸心周りに存在し、各ボイドは、第1軸心に対して第1面及び第2面の一方では近づき、第1面及び第2面の他方では遠ざかっている。このため、ウェハが第2軸心周りの全ての方向で磨耗されやすい。このため、この場合には、高い研磨能率と優れた表面粗さでウェハを研磨できる。
【0014】
したがって、上記ウェハ研磨装置に本発明の研磨体を用いれば、加工後のウェハが高品質要求に堪え得る。
【0015】
各ボイドは、第1軸心に対する距離が等しければ、第1軸心に交差する角度が等しいことが好ましい。この場合、研磨条件による研磨能率等の再現性が優れる。第1軸心からの距離の等しいボイドがウェハに対して等しい角度でウェハに当接することにより、同程度の研磨力でウェハを研磨すると考えられる。
【0016】
研磨体は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有していることが好ましい。発明者はこの研磨体において本発明の作用効果を確認している。この場合、研磨粒子を有さない研磨液を採用できるため、研磨液の再利用が容易であり、半導体デバイスの製造コストの低廉化を実現できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0017】
本発明の研磨体の製造方法は、母材樹脂と、研磨粒子と、溶媒とを含むペーストを用意する第1工程と、
前記ペーストをシート状の成形体に成形する第2工程と、
前記成形体を置換液中に浸漬し、前記成形体中の前記溶媒を前記置換液で置換して無数のボイドを形成する第3工程とを備え、
前記第3工程では、前記成形体を前記置換液中で水平になるように浸漬することを特徴とする。
【0018】
発明者は、第3工程のように成形体を水平に置換液中に浸漬すると、ボイドは、第1軸心周りにおいて、第1軸心を対称に傾斜していることを発見した。
【0019】
したがって、本発明の製造方法により、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子と、第1軸心を対称として傾斜した複数のボイドとを有する本発明の研磨体を製造することができる。
【0020】
本発明のウェハ研磨方法は、平板状のウェハと平板状の研磨体とを研磨液の存在下で所定の面圧の下で当接しつつ、前記ウェハの厚さ方向に延びる第軸心周りに前記ウェハを回転するとともに、前記研磨体の厚さ方向に延び、前記第軸心と平行な第軸心周りに前記研磨体を回転し、前記ウェハを研磨するウェハ研磨方法において、
前記研磨体は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、
前記研磨体は、第1面と、前記第1面とは逆を向き、前記第1面に対して厚さ方向に離隔した第2面と、前記第1面及び前記第2面から凹設され、前記第1面と前記第2面とを連通する無数のボイドとを有し、
各前記ボイドは、前記第1軸心に対する距離が等しければ、前記第1軸心に交差する角度が等しく、
各前記ボイドは、前記第1軸心周りにおいて、前記第1面及び前記第2面の一方では前記第1軸心に近づき、前記第1面及び前記第2面の他方では前記第1軸心から遠ざかっており、
前記第1軸心と一致する中心線に対する距離が短い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度は、前記中心線に対する距離が長い位置に存在する前記ボイドと前記中心線とがなす角度より大きいことを特徴とする。
【0021】
本発明のウェハ研磨方法は、本発明の研磨体を用いていることから、加工後のウェハが高品質要求に堪え得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明の研磨体を用いれば、加工後のウェハが高品質要求に堪え得る。本発明のウェハ研磨方法によれば、加工後のウェハが高品質要求に堪え得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例1、2の製造方法で得られた研磨パッドの模式拡大断面図である。
図2図2は、比較例1の製造方法で得た研磨パッドの模式拡大断面図である。
図3図3は、実施例1、2の製造方法で得た研磨パッドにおいて、中心線からの距離と、各ボイドが中心線となす角度との関係を示すグラフである。
図4図4は、ウェハ研磨方法で用いたウェハ研磨装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
研磨体を製造するために用いる母材樹脂としては、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0025】
研磨体を製造するために用いる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等を採用することができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。溶媒は、バインダ樹脂に応じて種々選択される。
【0026】
研磨体を製造したり、研磨液に含有され得る研磨粒子としては、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ダイヤモンド、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、酸化鉄等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0027】
研磨体を製造するために用いるペーストは、母材樹脂と研磨粒子と溶媒とを含む他、炭酸ナトリウム、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ微粒子を含んでいてもよい。また、ペーストは、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、炭化水素系撥水剤及び金属化合物系撥水剤等の撥水剤を含んでもよい。さらに、ペーストは、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ顔料、多環顔料等の有機顔料等の顔料を含んでもよい。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0028】
研磨体の製造方法において、溶媒と置換される置換液としては、油性の溶媒を採用した場合には、水道水等の水性の液体を採用することができる。
【0029】
研磨液を用いる場合、研磨液は純水であってもよく、油性であってもよく、酸性又はアルカリ性の薬品を含むものであってもよい。
【0030】
(実施例・比較例)
以下、本発明を具体化した実施例1、2と、比較例1とを説明する。
【0031】
まず、第1工程として、以下の母材樹脂と、研磨粒子と、溶媒とを準備した。
(母材樹脂)
PES(ポリエーテルサルフォン)
(研磨粒子)
シリカ(SiO2)(平均粒径:0.3μm)
(溶媒)
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)
【0032】
これらを母材樹脂20体積%、研磨粒子25体積%、溶媒55体積%で混合し、実施例1、2及び比較例1のペーストを得た。
【0033】
第2工程として、上記第1工程で得られたペーストを用い、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形する。この成形方法についてはある程度厚みを揃えることができればこれに限られない。
【0034】
第3工程として、実施例1、2では成形体を水平に置換液に浸漬させ、一方、比較例1では成形体を傾斜するように置換液に浸漬させ、所定時間経過後に置換液からそれぞれを取り出し、乾燥させた。
【0035】
この間、発明者の観察によれば、各成形体中の溶媒が置換液と置換され、ボイドを生じた。ボイド以外の部分では、微細な気孔を生じている。この際、成形体は溶媒と置換液との置換によって徐々に縮小している。このため、実施例1、2の製造方法では、各ボイドは、図1に示すように、中心軸O周りにおいて、置換液側では中心線Oに近づき、反対側では中心線Oから遠ざかるように傾斜した。一方、比較例1の製造方法では、図2に示すように、各ボイドは、中心軸O周りにかかわらず、一方向に傾斜した。
【0036】
所定時間の経過後、成形体を置換液から引き揚げた。成形体は、全ての溶媒が置換液に置換されて固化し、固化体となっている。固化体を乾燥し、所定の厚みまで研削し、直径30cmの研磨体としての研磨パッド41を得た。
【0037】
実施例1、2の製造方法で得られた各研磨パッド41は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子と、中心軸Oを対称として傾斜している複数のボイド37とを有している。また、各研磨パッド41は、表面41aと裏面41bとを有している。表面41a及び裏面41bの一方が第1面に相当し、表面41a及び裏面41bの他方が第2面に相当する。
【0038】
比較例1の製造方法で得られた研磨パッド41も、母材と研磨粒子とを有する点と、表面41aと裏面41bとを連通する無数のボイド37を有する点とでは、実施例1、2の製造方法で得られた研磨パッド41と同様である。
【0039】
実施例1、2の製造方法で得られた各研磨パッド41について、中心線Oからの距離と、ボイド37が中心線Oとなす角度θとの関係を求めた。結果を図3に示す。図1及び図3に示されるように、実施例1、2の製造方法で得られた各ボイド37は、表面41aでは中心線Oに近づき、裏面21bでは中心線Oから遠ざかっていることがわかる。また、中心線Oに対する距離が短い位置に存在するボイド37と中心線Oとがなす角度θ1は、中心線Oに対する距離が長い位置に存在するボイド37と中心線Oとがなす角度θ2より大きい。さらに、図4に示すように、各ボイド37は、中心線Oに対する距離が等しければ、中心線Oに交差する角度θが等しい。
【0040】
一方、比較例1の製造方法で得られた各研磨パッド41は、図2に示すように、中心線Oにかかわらず、各ボイド37が一方向に傾斜していた。
【0041】
実施例1、2の製造方法で得られた研磨パッド41の表面41aを研磨面とした場合を実施例1とし、実施例の製造方法で得られた研磨パッド41の裏面41bを研磨面とした場合を実施例2とした。比較例1の研磨パッドは比較例1の製造方法で得られたものである。比較例2の研磨パッドは硬質ウレタンからなる公知のものである(ウレタンパッドIC1000(ニッタ・ハース製))。ウェハ研磨装置(Engis EJW-380)を用意し、実施例1、2及び比較例1、2の研磨パッドによってウェハ1の研磨を行った。
【0042】
ウェハ研磨装置は、図8に示すように、複数のキャリヤ5と、定盤7と、駆動装置9と、研磨液供給装置11とを備えている。図8には単一のキャリヤ5だけを図示しているが、ウェハ研磨装置は複数のキャリヤ5を有している。各キャリヤ5は水平な円板状をなしている。各キャリヤ5の下面には第2固定面5aが凹設されており、第2固定面5aにはウェハ1が固定されるようになっている。各キャリヤ5の上面にはキャリヤ回転軸5bが垂直に突設されている。各ウェハ1は、直径4inchの4H-SiC単結晶である。各ウェハ1のSi面である被研磨面1aは下方を向いている。
【0043】
定盤7は、全てのキャリヤ5を内包する水平な円板状をなしている。定盤7の下面には定盤回転軸7aが垂直に突設されている。定盤7の上面は第1固定面7bとされている。第1固定面7bには、各ウェハ1と対面するように円板状の研磨パッド41が接着剤によって固定されている。研磨パッド41の中心線Oは第1軸心O1と一致されている。
【0044】
駆動装置9は、主駆動装置9aと、副駆動装置9bと、加圧装置9cとを有している。主駆動装置9aは定盤回転軸7aを第1軸心O1周りで所定速度で回転駆動する。副駆動装置9bは各キャリヤ回転軸5bを第2軸心O2周りで所定速度で回転駆動する。加圧装置9cは各キャリヤ回転軸5b及び副駆動装置9bを定盤7に向けて所定荷重で加圧する。
【0045】
研磨液供給装置11は定盤7の上方に設けられている。研磨液供給装置11は各ウェハ1と研磨パッド41との間に研磨液11aを介在させる。実施例1、2及び比較例1の研磨方法においては、過マンガン酸カリウム水溶液からなり、研磨粒子を含まない研磨液11aを用いた。比較例2の研磨方法においては、研磨粒子としてアルミナを含む市販の研磨液11a(DSC-201(フジミインコーポレーテッド製))を用いた。
【0046】
このウェハ研磨装置において、以下の条件で各ウェハ1を研磨した。
研磨液11aの流量:10mL/分
荷重:30kPa
定盤7の回転数:60rpm
キャリア5の回転数:60rpm
加工時間:60分
【0047】
研磨能率(μm/h)と、研磨後のウェハ1の表面粗さSa(nm)と、スクラッチの有無とを評価した。研磨能率の評価は、1.2μm/h以上であれば〇、1.0μm/h以上であり、1.2μm/h未満であれば△、1.0μm/h未満であれば×とした。また、表面粗さSaの評価は、0.095nm以下であれば〇、0.095nm以上であり、0.100nm未満であれば△、0.100nm未満であれば×とした。スクラッチの有無は、微分干渉顕微鏡で観察し、スクラッチがなければ〇、スクラッチがあれば×で評価した。各評価項目において、〇を2点、△を1点、×は0点とし、総合評価において、5点以上で〇、3~4点で△、2点以下で×とした。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より、定盤7が第1軸心O1周りに回転し、かつキャリヤ5が第2軸心O2周りに回転するウェハ研磨装置において、一般的な硬質ウレタンからなる比較例2の研磨パッドを用いた場合には、研磨パッドがウェハ1を能率よく研磨することができず、研磨後のウェハ1にスクラッチを生じやすいことがわかる。
【0050】
一方、比較例1の研磨パッドを用いた場合には、研磨パッドが無数のボイド37を有することから、ウェハ1をある程度能率よく研磨できるようではある。しかし、比較例1の研磨パッドでは、ボイド37が一方向に傾斜しているため、表面粗さが劣るとともに、研磨能率が未だ十分ではない。ウェハ1が第2軸心O2周りの特定の方向では磨耗されやすく、他の特定の方向では磨耗され難いという方向性を生じていると考えられる。
【0051】
これらに対し、実施例1、2の研磨パッド41を用いた場合には、高い研磨能率と優れた表面粗さでウェハ1を研磨できる。実施例1、2の研磨パッド41では、各ボイド37が第1軸心O1周りに存在し、各ボイド37は、第1軸心O1に対して表面41a又は裏面41bでは近づき、裏面41b又は表面41aでは遠ざかっているため、ウェハ1が第2軸心O2周りの全ての方向で磨耗されやすいからであると考えられる。
【0052】
したがって、上記ウェハ研磨装置に実施例1、2の研磨パッド41を用いれば、加工後のウェハ1が高品質要求に堪え得ることがわかる。
【0053】
特に、実施例1、2の研磨パッド41は、第1軸心Oに対する距離が等しければ、各ボイド37における第1軸心Oに交差する角度が等しい。このため、研磨条件による研磨能率等の再現性が優れている。第1軸心Oからの距離の等しいボイド37がウェハ1に対して等しい角度でウェハ1に当接することにより、同程度の研磨力でウェハ1を研磨すると考えられる。
【0054】
また、実施例1、2の研磨パッド41は、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材又は気孔内に保持された研磨粒子とを有している。このため、研磨粒子を有さない研磨液11aを採用できるため、研磨液11aの再利用が容易であり、半導体デバイスの製造コストの低廉化を実現できるとともに、環境負荷を軽減することができる。
【0055】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は半導体製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
O1…第1軸心
7b…第1固定面
7…定盤
O2…第2軸心
5a…第2固定面
5…キャリヤ
1…ウェハ
41…研磨体(研磨パッド)
41a…表面(第1面又は第2面)
41b…裏面(第2面又は第1面)
37…ボイド
図1
図2
図3
図4