IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の下部車体構造 図1
  • 特許-車両の下部車体構造 図2
  • 特許-車両の下部車体構造 図3
  • 特許-車両の下部車体構造 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】車両の下部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/02 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
B62D25/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021071137
(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公開番号】P2022165692
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【弁理士】
【氏名又は名称】重泉 達志
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 利之
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 高志
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-052362(JP,A)
【文献】特開2020-125048(JP,A)
【文献】特開2019-043447(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077840(WO,A1)
【文献】特開2013-163501(JP,A)
【文献】特開2019-093845(JP,A)
【文献】米国特許第10112654(US,B1)
【文献】特開2020-146746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面をなすインナパネル及びアウタパネルを有し、前後方向へ延びサイドシルと、
前記サイドシルの車幅方向外側に配置されるサイドパネルと、を備えた車両の側部車体構造であって、
前記サイドパネルは、
前記サイドパネルの下端側をなす平坦な一般面と、
前記一般面に傾斜面を介して前記サイドパネルの下端を含んで形成され、前記一般面よりも車幅方向内側に位置し、前記サイドシルの前記アウタパネルと溶接される溶接部を含む溶接座面と、
前記一般面に前記溶接座面と隣接して前後一対に配置され、前後方向へ延びるビードと、を有し、
前記溶接座面の前記溶接部は、前記各ビードよりも下方に配置され、
前記一般面と前記傾斜面により形成される前記溶接座面の前側及び後側の稜線は、それぞれ下方へ凹となるよう湾曲し、上端側から下端側へ向かって、前記溶接部に近づくにつれて曲率半径が大きくなり、かつ、前記溶接部に近づくにつれて互いの前後方向の間隔が広がるよう形成される車両の側部車体構造。
【請求項2】
前記溶接座面の前側及び後側の前記傾斜面は、それぞれ、下端に近づくにつれて幅方向寸法が大きくなる請求項1に記載の車両の側部車体構造。
【請求項3】
前記サイドシルから上方へ延びるピラーが前後に間隔をおいて複数配置され、
前記サイドパネルは、前後方向所定位置の上端側が少なくとも1つの前記ピラーの一部をなす請求項1または2に記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
前記サイドパネルは、下端側が前記サイドシルに沿って前後方向へ延び、前記溶接座面が前後に間隔をおいて複数形成される請求項1から3のいずれか1項に記載の車両の側部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドシルのアウタパネルにサイドパネルが接合される車両の側部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、車幅方向外端側に前後方向へ延び閉断面を有するサイドシルが配置される(例えば、特許文献1参照)。サイドシルには、閉断面を有するピラー等が接続される。特許文献1の車体構造では、サイドシルリンフォースとセンターピラーリンフォースをスポット溶接により接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-94089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、閉断面をなすサイドシルに、閉断面の車幅方向外側からサイドパネルをスポット溶接により接合する場合がある。この場合、片面のスポット溶接によりサイドパネル及びサイドシルアウタを溶接するため、溶接ガンを車幅方向外側からサイドパネルに接触させる。そして、スポット溶接に際し、サイドパネル及びサイドシルアウタを加圧する必要があるため、溶接ガンから車幅方向内側へ向かって比較的大きな力がサイドパネル及びサイドシルアウタに加わることとなる。片面のスポット溶接では、通常、溶接ガンと反対側の部材の変形を抑制しているが、サイドシルアウタの形状、板厚、材質等について溶接時の変形抑制に好適なものを選択してしまうと、側面衝突性能、走行性能等の車両に要求される他の性能が損なわれるおそれがあった。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶接時のサイドシルアウタの変形を抑制することなく、サイドシルとサイドシルアウタの片面のスポット溶接を良好に行うことのできる車両の側部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、閉断面をなすインナパネル及びアウタパネルを有し、前後方向へ延びサイドシルと、前記サイドシルの車幅方向外側に配置されるサイドパネルと、を備えた車両の側部車体構造であって、前記サイドパネルは、前記サイドパネルの下端側をなす平坦な一般面と、前記一般面に傾斜面を介して前記サイドパネルの下端を含んで形成され、前記一般面よりも車幅方向内側に位置し、前記サイドシルの前記アウタパネルと溶接される溶接部を含む溶接座面と、前記一般面に前記溶接座面と隣接して前後一対に配置され、前後方向へ延びるビードと、を有し、前記溶接座面の前記溶接部は、前記各ビードよりも下方に配置され、前記一般面と前記傾斜面により形成される前記溶接座面の前側及び後側の外側稜線は、それぞれ下方へ凹となるよう湾曲し、上端側から下端側へ向かって、前記溶接部に近づくにつれて曲率半径が大きくなり、かつ、前記溶接部に近づくにつれて互いの前後方向の間隔が広がるよう形成される車両の側部車体構造が提供される。
【0007】
この車両の側部車体構造によれば、サイドパネルの一般面に形成された各ビードにより、一般面の剛性が全体的に向上し、一般面の変形が抑制される。一方、各稜線は下方へ向かって溶接部に近づくにつれて曲率半径が大きくなり、かつ、互いの前後方向の間隔が広がるよう形成されているので、溶接座面は上端側よりも溶接部の方が剛性が低い。これに加え、溶接部は、各ビードによる剛性向上の影響がほとんどない各ビードの下方に配置される。これにより、溶接座面において溶接部は比較的剛性が低く変形しやすくなっている。
サイドパネルとサイドシルアウタの片面のスポット溶接に際し、溶接ガンを車幅方向外側からサイドパネルの溶接座面に接触させることにより、サイドパネル及びサイドシルアウタは加圧される。このとき、溶接ガンから車幅方向内側へ向かって比較的大きな力がサイドパネル及びサイドシルアウタに加わることとなるが、サイドパネルの一般面の剛性が向上しているので、サイドパネルの下端側の全体的な変形が抑制される。一方、溶接部は、溶接座面において比較的変形しやすいことから、溶接ガンとの接触時に、車幅方向内側方向への変形が許容される。これにより、溶接時に溶接ガンから車幅方向内側へ向かって比較的大きな力がサイドパネル及びサイドシルアウタに加わった際に、サイドパネルの溶接部をサイドシルアウタに追従させて変形させることができる。
【0008】
また、上記車両の側部車体構造において、前記溶接座面の前側及び後側の前記傾斜面は、それぞれ、下端に近づくにつれて幅方向寸法が大きくなってもよい。
【0009】
この車両の側部車体構造によれば、各傾斜面は、それぞれ、下端に近づくにつれて幅方向寸法が大きくなるので、これによっても溶接座面は上端側よりも下端側の方が剛性が低くなる。
【0010】
また、上記車両の側部車体構造において、前記サイドシルから上方へ延びるピラーが前後に間隔をおいて複数配置され、前記サイドパネルは、前後方向所定位置の上端側が少なくとも1つの前記ピラーの一部をなしてもよい。
【0011】
この車両の側部車体構造によれば、ピラーの一部をなすパネルが、サイドパネルとしてサイドシルアウタに接合される。
【0012】
また、上記車両の側部車体構造において、前記サイドパネルは、下端側が前記サイドシルに沿って前後方向へ延び、前記溶接座面が前後に間隔をおいて複数形成されてもよい。
【0013】
この車両の側部車体構造によれば、サイドパネルの下端側が前後方向について複数個所で片面のスポット溶接によりサイドシルに接合される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両の側部車体構造によれば、溶接時のサイドシルアウタの変形を抑制することなく、サイドシルとサイドシルアウタとの片面のスポット溶接を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態を示す車両の側面図である。
図2】車両の側部車体構造の一部側面図である。
図3】車両の側部車体構造の断面図である。
図4】車両の側部車体構造の一部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1から図4は本発明の一実施形態を示すものであり、図1は車両の側面図、図2は車両の側部車体構造の一部側面図、図3は車両の側部車体構造の断面図、図4は車両の側部車体構造の一部拡大側面図である。
【0017】
図1に示すように、この車両1の側部車体構造は、外板をなすフェンダーパネル20,30を有し、フェンダーパネル20,30の車幅方向内側に上下方向へ延びる複数のピラー2,3(図2参照)が配置される。各ピラー2,3は、車体の骨格をなし、インナパネル及びアウタパネルにより閉断面を形成する。
【0018】
図2に示すように、各ピラー2,3は、前後に間隔をおいて配置され、前後方向へ延びるサイドシル4から上方へ延びて形成される。図3に示すように、サイドシル4は、サイドシルインナ41及びサイドシルアウタ42により形成される閉断面を有する。本実施形態においては、サイドシル4は、閉断面を車幅方向に仕切るリンフォースパネル43を有している。本実施形態においては、サイドシル4及びサイドパネル5は、鋼板からなり、スポット溶接により接合される。
【0019】
図2に示すように、サイドパネル5は、前後方向両端側の上端側が各ピラー2,3のアウタパネルをなし、前後方向中央側の下端側がサイドシル4の車幅方向外側に配置される。図4に示すように、サイドパネル5は、下端側をなす平坦な一般面51と、一般面51に傾斜面52を介して形成されるサイドシルアウタ42と溶接される溶接部54を含む溶接座面53と、一般面51に溶接座面53と隣接して前後一対に形成され前後方向へ延びるビード55と、を有する。図3に示すように、溶接座面53は、一般面51よりも車幅方向内側に位置している。また、サイドシルアウタ42の溶接部分は、平坦に形成されている。図3及び図4中、溶接座面53の溶接部54を〇印に×印を記入して示している。図2に示すように、本実施形態においては、溶接座面53は、前後に間隔をおいて複数形成されている。
【0020】
図4に示すように、各溶接座面53の溶接部54は、各ビード55よりも下方に配置される。尚、ここでいう下方とは、溶接部54の少なくとも一部がビード55の下端よりも下方であることをいう。本実施形態においては、溶接部54のほぼ全ての部分がビード55の下端よりも下方に配置され、溶接部54の上下中央がビード55の下端よりも下方となっている。本実施形態においては、サイドパネル5の下端は、一般部51における溶接座面53から比較的離れた部分の下端をなす水平部56と、水平部56の溶接座面53側端部から溶接座面53の前後中央へ向かって下方へ傾斜して延びる傾斜部57と、を有する。サイドパネル5の下端は、傾斜部57の形成区間が水平部56よりも下方へ突出しており、溶接部54の下端側はこの突出部分に配置される。
【0021】
また、本実施形態においては、傾斜面52は、一般部51と溶接座面53とを、溶接座面53の前側及び後側で上下方向に分断する。一般面51と傾斜面52により形成される溶接座面53の前側及び後側の外側稜線58は、それぞれ下方へ凹となるよう湾曲し、上端側から下端側へ向かって溶接部54に近づくにつれて曲率半径が大きくなるよう形成される。また、溶接座面53の前側及び後側の外側稜線58は、上端側から下端側へ向かって、溶接部54に近づくにつれて互いの前後方向の間隔が広がるよう形成される。傾斜面52と溶接座面53により形成される溶接座面53の前側及び後側の内側稜線59は、上端側が下方へ凹となるよう湾曲し、下端側が上下方向に延びる。溶接座面53の前側及び後側の傾斜面52は、それぞれ、下端に近づくにつれて幅方向寸法が大きくなるよう形成される。
【0022】
以上のように構成された側部車体構造によれば、サイドパネル5の一般面51に形成された各ビード55により、一般面51の剛性が全体的に向上し、一般面51の変形が抑制される。一方、各外側稜線58は下方へ向かって溶接部54に近づくにつれて曲率半径が大きくなり、かつ、互いの前後方向の間隔が広がるよう形成されているので、溶接座面53は上端側よりも溶接部54の方が剛性が低い。これに加え、各傾斜面52は、それぞれ、下端に近づくにつれて幅方向寸法が大きくなるので、これによっても溶接座面53は上端側よりも下端側の方が剛性が低くなる。さらに、溶接部54は、各ビード55による剛性向上の影響がほとんどない各ビード55の下方に配置される。これにより、溶接座面53において溶接部54は比較的剛性が低く変形しやすくなっている。
【0023】
図3に示すように、サイドパネル5とサイドシルアウタ42は、片面のスポット溶接に接合される。溶接に際し、溶接ガン100を車幅方向外側からサイドパネル5の溶接座面53に接触させて、サイドパネル5及びサイドシルアウタ42を加圧する。このとき、溶接ガン100から車幅方向内側へ向かって比較的大きな力がサイドパネル5及びサイドシルアウタ42に加わることとなるが、サイドパネル5の一般面51の剛性が向上しているので、サイドパネル5の下端側の全体的な変形が抑制される。一方、溶接部54は、溶接座面53において比較的変形しやすいことから、溶接ガン100との接触時に、車幅方向内側方向への変形が許容される。これにより、溶接時に溶接ガン100から車幅方向内側へ向かって比較的大きな力がサイドパネル5及びサイドシルアウタ42に加わった際に、サイドパネル5の溶接部54をサイドシルアウタ42に追従させて変形させることができる。
【0024】
従って、溶接時のサイドシルアウタ42の変形を抑制することなく、サイドパネル5とサイドシルアウタ42との片面のスポット溶接を良好に行うことができる。これにより、溶接時の変形を考慮することなくサイドシルアウタ42を設計することができる。すなわち、片面のスポット溶接では、通常、溶接ガン100と反対側のサイドシルアウタ42の変形を抑制する必要があるところ、サイドパネル5をサイドシルアウタ42の変形に追従させることにより、側面衝突性能、走行性能等を優先させたサイドシルアウタ42形状、板厚、材質等を選択することが可能となる。
【0025】
尚、前記実施形態においては、図1に2ドアの車両1を例示したが、例えば4ドアの車両等、他のタイプの車両であっても本発明を適用可能なことはいうまでもない。また、サイドパネル5の溶接座面53が前後に間隔をおいて複数形成されるものを示したが、溶接座面53は1つであってもよい。また、サイドパネル5が前側ピラー2と後側ピラー3のアウタパネルをなすものを示したが、いずれか一方のピラー2,3のアウタパネルをなすものであってもよいし、ピラーと独立して設けられたものであってもよい。
【0026】
また、前記実施形態においては、傾斜面52が一般部51と溶接座面53とを上下方向に分断するものを示したが、傾斜面52が溶接座面53の上側にまで回り込んで形成されたものであってもよい。また、傾斜面52が下端に近づくにつれて幅方向寸法が大きくなるよう形成されたものを示したが、溶接時における溶接部54の車幅方向内側への変形量が確保されていれば、例えば傾斜面52の幅方向寸法を一定としてもよい。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0028】
2 前側ピラー
3 後側ピラー
4 サイドシル
5 サイドパネル
42 サイドシルアウタ
51 一般面
52 傾斜面
53 溶接座面
54 溶接部
55 ビード
58 外側稜線
図1
図2
図3
図4