(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】製紙用2層織物
(51)【国際特許分類】
D21F 1/10 20060101AFI20241129BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20241129BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
D21F1/10
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
(21)【出願番号】P 2021072119
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安野 正徳
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-152694(JP,A)
【文献】特開2000-273740(JP,A)
【文献】特開2017-057527(JP,A)
【文献】特開2000-170083(JP,A)
【文献】特開2005-299003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/10
D03D 1/00
D03D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上経糸を含む製紙面側層と、下経糸を含む走行面側層とを備える製紙用2層織物であって、
完全組織の緯糸の構成は、複数のサブユニットを含み、
各々の前記サブユニットは、
前記下経糸に織り込まれ、前記上経糸に織り込まれない下緯糸と、
所定本数の前記上経糸の分だけ互いにずれた位置にて、前記上経糸及び前記下経糸に織り込まれる1対の緯自接結糸と、
1対の前記緯自接結糸の間に、かつ前記製紙面側層にて各々が対応する前記緯自接結糸の隣に配置され、互いに隣り合い、前記所定本数の前記上経糸の分だけ互いにずれた位置にて前記上経糸に織り込まれ、前記下経糸に織り込まれない1対の補助緯糸と、
を含み、
各々の前記補助緯糸は、対応する前記緯自接結糸を補完して前記製紙面側層にて織物組織1本分を形成するように、対応する前記緯自接結糸が前記下経糸を織り込む部分で前記上経糸に織り込まれた第1部分と、対をなす前記補助緯糸と組み合わさって前記製紙面側層にて前記織物組織1本分を形成するように、前記上経糸に織り込まれた第2部分とを含むことを特徴とする、製紙用2層織物。
【請求項2】
前記完全組織は、12本の前記上経糸を含み、
前記所定本数は6本であり、
前記製紙面側層の前記織物組織は、平組織であり、
各々の前記緯自接結糸は、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、5本の前記上経糸の下を順に通ることを繰り返すように前記上経糸に織り込まれ、
各々の前記補助緯糸は、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、2本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸の下を順に通ることを繰り返すように前記上経糸に織り込まれたことを特徴とする請求項1に記載の製紙用2層織物。
【請求項3】
前記完全組織は、12本の前記下経糸を含み、
各々の前記緯自接結糸は、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸と1本の前記下経糸との間、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸と1本の前記下経糸との間、1本の前記上経糸の上、1本の前記上経糸と1本の前記下経糸との間、1本の前記上経糸の上、2本の前記上経糸と2本の前記下経糸との間、1本の前記下経糸の下、2本の前記上経糸と2本の前記下経糸との間を順に通ることを繰り返すように前記上経糸及び前記下経糸に織り込まれたことを特徴とする請求項2に記載の製紙用2層織物。
【請求項4】
前記完全組織は、12組の前記サブユニットを含むことを特徴とする請求項3に記載の製紙用2層織物。
【請求項5】
前記サブユニットは、2本の前記下緯糸、1対の前記緯自接結糸、及び1対の前記補助緯糸のみからなることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の製紙用2層織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、緯自接結糸を備える製紙用2層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用2層織物は、抄紙機のワイヤーパートにおいて使用される抄紙用ワイヤー等である。抄紙用ワイヤーは、製造される紙の品質向上や、製造速度の高速化による生産効率向上の要請に応えるため、皺なく蛇行せずに安定して走行する走行安定性、原料液から水をより多く除去する脱水性や通気性、表面の凹凸が転写して紙に残ることを抑制する表面性(紙面性)、目詰まりや粘着成分の付着を抑制する防汚性、摩耗に耐える耐摩耗性、製造される紙の厚さを均一にするため湿紙の厚さを乱さないこと等が求められている。
【0003】
2層織物のワイヤーは、製紙面側層を表面性重視とした構造とし、走行面側層を耐摩耗性重視とした構造とすることにより、両特性を併せ持つ。製紙面側層と走行面側層とは接結糸によって接合される。製紙面側層の組織を形成する糸と接結糸とを兼ねる糸を自接結糸といい、緯方向に配置された自接結糸を緯自接結糸という。自接結糸で製紙面側層と走行面側層とが互いに接結された製紙用2層織物は、3重織SSB(シートサポートバインダー)とも呼ばれる。
【0004】
緯自接結糸が走行面側層の経糸(下経糸)に織り込まれる部分では、その緯自接結糸によっては製紙面側層の織物組織が形成されないため、他の緯糸によってその部分に織物組織が形成される。例えば、特許文献1では、2本の緯自接結糸(結合ヤーン)の間に1本の置換ヤーンを配置して、1本の置換ヤーンの一部で一方の緯自接結糸を補完して製紙面側層(ペーパー側の面)の織物組織を形成し、置換ヤーンの他の部分で他方の緯自接結糸を補完して製紙面側層の織物組織を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抄紙機には、製造速度の高速化が求められており、製紙用織物にも高速化に耐えるため更なる性能の向上が求められており、特許文献1に記載の織物は、高速化された抄紙機に用いるには満足できるレベルではなかった。このような状況に鑑み、本発明は、製紙面側層の斜め方向の強度を向上させることにより、走行安定性が向上した製紙用2層織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態は、上経糸(4)を含む製紙面側層(2)と、下経糸(5)を含む走行面側層(3)とを備える製紙用2層織物(1)であって、完全組織の緯糸(6,7,8)の構成は、複数のサブユニット(9)を含み、各々の前記サブユニット(9)は、前記下経糸(5)に織り込まれ、前記上経糸(4)に織り込まれない下緯糸(6)と、所定本数の前記上経糸(4)の分だけ互いにずれた位置にて、前記上経糸(4)及び前記下経糸(5)に織り込まれる1対の緯自接結糸(7)と、1対の前記緯自接結糸(7)の間に、かつ前記製紙面側層(2)にて各々が対応する前記緯自接結糸(7)の隣に配置され、互いに隣り合い、前記所定本数の前記上経糸(4)の分だけ互いにずれた位置にて前記上経糸(4)に織り込まれ、前記下経糸(5)に織り込まれない1対の補助緯糸(8)と、を含み、各々の前記補助緯糸(8)は、対応する前記緯自接結糸(7)を補完して前記製紙面側層(2)にて織物組織1本分を形成するように、対応する前記緯自接結糸(7)が前記下経糸(5)を織り込む部分で前記上経糸(4)に織り込まれた第1部分(11)と、対をなす前記補助緯糸(8)と組み合わさって前記製紙面側層(2)にて前記織物組織1本分を形成するように、前記上経糸(4)に織り込まれた第2部分(12)とを含むことを特徴とする。なお、「完全組織」とは、織物の基本となる組織の最小単位のことであり、織物は、完全組織を前後左右に展開して織られる。
【0008】
この構成によれば、補助緯糸に、斜め方向の強度を向上させる傾斜部分が生じる。1つのサブユニットに2本の補助緯糸が存在するため、傾斜部分の数が多くなる。また、2本の補助緯糸が互いに隣り合っているため、傾斜部分が互いに密集する。多数の密集した傾斜部分が存在するため、製紙面側層の斜め方向の強度が向上し、製紙用2層織物の走行安定性が向上する。4本の緯糸(2本の緯自接結糸と2本の補助緯糸)によって、3本分の織物組織が形成されるため、効率よく糸を配置できて余分な部分が少なくなり、従来技術に比べて通気度を維持しながら経方向の単位長さ当たりの緯糸本数を多くすることができる。
【0009】
本発明のある実施形態に係る製紙用2層織物(1)は、上記構成において、前記完全組織は、12本の前記上経糸(4)を含み、前記所定本数は6本であり、前記製紙面側層(2)の前記織物組織は、平組織であり、各々の前記緯自接結糸(7)は、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、5本の前記上経糸(4)の下を順に通ることを繰り返すように前記上経糸(4)に織り込まれ、各々の前記補助緯糸(8)は、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、2本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)の下を順に通ることを繰り返すように前記上経糸(4)に織り込まれたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、更に、効率よく糸を配置できて余分な部分が少なくなり、通気度を維持しながら経方向の単位長さ当たりの緯糸本数を多くすることができる。
【0011】
本発明のある実施形態に係る製紙用2層織物(1)は、直上の構成において、前記完全組織は、12本の前記下経糸(5)を含み、各々の前記緯自接結糸(7)は、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)と1本の前記下経糸(5)との間、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)と1本の前記下経糸(5)との間、1本の前記上経糸(4)の上、1本の前記上経糸(4)と1本の前記下経糸(5)との間、1本の前記上経糸(4)の上、2本の前記上経糸(4)と2本の前記下経糸(5)との間、1本の前記下経糸(5)の下、2本の前記上経糸(4)と2本の前記下経糸(5)との間を順に通ることを繰り返すように前記上経糸(4)及び前記下経糸(5)に織り込まれたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、緯自接結糸の織物内部の部分を短くすることができる。これにより、製紙面側層と走行面側層を互いに密着することができ、両層間のずれが抑制されるため、内部摩耗が抑制される。
【0013】
本発明のある実施形態に係る製紙用2層織物(1)は、直上の構成において、前記完全組織は、12組の前記サブユニット(9)を含むことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、更に、効率よく糸を配置できて余分な部分が少なくなり、通気度を維持しながら経方向の単位長さ当たりの緯糸本数を多くすることができる。
【0015】
本発明のある実施形態に係る製紙用2層織物(1)は、上記構成の何れかにおいて、前記サブユニット(9)は、2本の前記下緯糸(6)、1対の前記緯自接結糸(7)、及び1対の前記補助緯糸(8)のみからなることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、更に、傾斜部分が密集して、製紙面側層の斜め方向の強度が向上するとともに、効率よく糸を配置できて余分な部分が少なくなり、通気度を維持しながら経方向の単位長さ当たりの緯糸本数を多くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製紙面側層の斜め方向の強度を向上させることにより、走行安定性が向上した製紙用2層織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る製紙用2層織物の完全組織の組織図
【
図2】実施形態に係る製紙用2層織物の模式的な断面図(経方向に直交する断面)
【
図3】製紙用2層織物のサンプルの写真(A:従来技術、B:実施形態)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る製紙用2層織物1の組織図である。製紙用2層織物1は、抄紙機のワイヤーパートでワイヤーとして使用される。製紙用2層織物1は、製紙面側層2と走行面側層3とを備える。製紙用2層織物1が抄紙機に取り付けられ、丈方向に無端状になった時、走行面側層3が内側に配置されて製紙用2層織物1を走行させるためのロールと接触し、製紙面側層2が外側に配置されてパルプ原料液を載せる。特に説明しない限り、「上」側は製紙面側を指し、「下」側は走行面側を指す(上下方向を図の紙面の上下方向の意味で使用する箇所では、その旨を説明する)。「経方向」は、製紙用2層織物1の丈方向(機械方向(MD))に相当し、「緯方向」は、製紙用2層織物1の幅方向(交差機械方向(CMD))に相当する。
【0020】
製紙用2層織物1は、上経糸4と、下経糸5と、下緯糸6と、緯自接結糸7と、補助緯糸8とを含む。製紙面側層2は、上経糸4に緯自接結糸7及び補助緯糸8が織り込まれることによって形成される。走行面側層3は、下経糸5に下緯糸6及び緯自接結糸7が織り込まれることによって形成される。緯自接結糸7が上経糸4と下経糸5の双方に織り込まれることにより、製紙面側層2と走行面側層3とが互いに接結している。
図1では、上経糸4と下経糸5とを左右に並べて表示しているが、実際には、経糸No.m(mは1以上12以下の整数)の上経糸4が、経糸No.m+12の下経糸5の上に重なるように配置される。
図1の右側(経糸No.1~12)は、上方から見た時の製紙用2層織物1の組織図であり、
図1の左側(経糸No.13~24)は、上経糸4を省略して上方から見た時の製紙用2層織物1の組織図である。
【0021】
製紙用2層織物1の完全組織は、12本の上経糸4(経糸No.1~12)と、12本の下経糸5(経糸No.13~24)と、24本の下緯糸6(緯糸No.6n+1,6n+4(nは0以上11以下の整数。以下同じ))と、24本の緯自接結糸7(緯糸No.6n+2,6n+6)と、24本の補助緯糸8(緯糸No.6n+3,6n+5)とを含む。以下、緯方向に延在する糸(本実施形態では下緯糸6、緯自接結糸7及び補助緯糸8)を総称して、「緯糸」と記す。完全組織における緯糸の構成は、12組のサブユニット9によって構成される。(n+1)番目のサブユニット9は、2本の下緯糸6(緯糸No.6n+1,6n+4)、1対の緯自接結糸7(緯糸No.6n+2,6n+6)、及び1対の補助緯糸8(緯糸No.6n+3,6n+5)を含む。
図1において、任意のサブユニット9の各々の緯糸6,7,8は、
図1の紙面における上側(縦方向における緯糸No.が小さい側)に隣接するサブユニット9の対応する緯糸6,7,8に対して、
図1の紙面における左側(横方向の経糸No.が大きい側)に5本の上経糸4の分だけずれた位置で上経糸4及び/又は下経糸5に織り込まれている。
【0022】
下緯糸6は、上経糸4には織り込まれず、常に上経糸4の下を通っている。下緯糸6(例えば緯糸No.25)は、1本の下経糸5の上を通った後、5本の下経糸5の下を通ることを繰り返すように下経糸5に織り込まれている。任意のサブユニット9内において、緯糸No.6n+4の下緯糸6は、緯糸No.6n+1の下緯糸6に対して
図1の左方に2本の下経糸5の分だけずれて下経糸5に織り込まれている。
【0023】
緯自接結糸7(例えば緯糸No.30)は、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4と1本の下経糸5との間、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4と1本の下経糸5との間、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4と1本の下経糸5との間、1本の上経糸4の上、2本の上経糸4と2本の下経糸5との間、1本の下経糸5の下、2本の上経糸4と2本の下経糸5との間を順に通ることを繰り返すように上経糸4及び下経糸5に織り込まれている。任意のサブユニット9内において、緯糸No.6n+6の緯自接結糸7は、緯糸No.6n+2の緯自接結糸7に対して6本の上経糸4の分だけずれて上経糸4及び下経糸5に織り込まれている。換言すると、任意のサブユニット9内において、一方の緯自接結糸7は、他方の緯自接結糸7に対して、完全組織における上経糸4の全本数の半分の本数分だけずれて上経糸4及び下経糸5に織り込まれている。
【0024】
補助緯糸8は、下経糸5には織り込まれず、常に下経糸5の上を通っている。補助緯糸8(例えば緯糸No.29)は、1本の上経糸4の下、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4の下、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4の下、1本の上経糸4の上、2本の上経糸4の下、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4の下、1本の上経糸4の上、1本の上経糸4の下を順に通ることを繰り返すように前記上経糸4に織り込まれている。任意のサブユニット9内において、緯糸No.6n+5の補助緯糸8は、緯糸No.6n+3の補助緯糸8に対して、6本の上経糸4の分だけずれて上経糸4に織り込まれている。換言すると、任意のサブユニット9内において、一方の補助緯糸8は、他方の補助緯糸8に対して、完全組織における上経糸4の全本数の半分の本数分だけずれて上経糸4に織り込まれている。
【0025】
以下、緯糸No.6n+2の緯自接結糸7を第1緯自接結糸7aと記載し、緯糸No.6n+6の緯自接結糸7を第2緯自接結糸7bと記載し、緯糸No.6n+3の補助緯糸8を第1補助緯糸8aと記載し、緯糸No.6n+5の補助緯糸8を第2補助緯糸8bと記載して、緯糸No.1~6の緯糸6,7,8によって構成されたサブユニット9を例に、サブユニット9内の1対の緯自接結糸7及び1対の補助緯糸8と織物組織との関係について説明する。なお、他のサブユニット9においても、緯自接結糸7及び補助緯糸8が織り込む上経糸4及び下経糸5の位置がずれるだけで、同様の関係が成立する。
【0026】
図1に示すように、製紙面側層2内にて、第1緯自接結糸7aと第1補助緯糸8aとは互いに隣り合い、第1補助緯糸8aと第2補助緯糸8bは互いに隣り合い、第2補助緯糸8bと第2緯自接結糸7bとは互いに隣り合っている。
図2に示すように、緯自接結糸7は、平組織4つが連続する平織部分10を含む。補助緯糸8は、平組織2つが連続する第1部分11と、平組織3つが連続する第2部分12とを含む。
【0027】
図2(A)に示すように、経方向から見て、製紙面側層2における第1緯自接結糸7a(緯糸No.2)の平織が途切れる部分に、第1補助緯糸8a(緯糸No.3)の第1部分11が整合する。このため、第1補助緯糸8aの第1部分11が第1緯自接結糸7aを補完することにより、すなわち、第1緯自接結糸7aの平織部分10と第1補助緯糸8aの第1部分11とが互いに組み合わさることにより、製紙面側層2に1本の平織組織が形成される。
【0028】
図2(B)に示すように、第1補助緯糸8a(緯糸No.3)の第2部分12と第2補助緯糸8b(緯糸No.5)の第2部分12とが互いに組み合わさることにより、製紙面側層2に1本の平織組織が形成される。
【0029】
図2(C)に示すように、経方向から見て、製紙面側層2における第2緯自接結糸7b(緯糸No.6)の平織が途切れる部分に、第2補助緯糸8b(緯糸No.5)の第1部分11が整合する。このため、第2補助緯糸8bの第1部分11が第2緯自接結糸7bを補完することにより、すなわち、第2緯自接結糸7bの平織部分10と第2補助緯糸8bの第1部分11とが互いに組み合わさることにより、製紙面側層2に1本の平織組織が形成される。
【0030】
図3(A)は、特許文献1に記載の織物21のサンプルを上方から写した写真であり、
図3(B)は、上記実施形態に係る製紙用2層織物1のサンプルを上方から写した写真である。
図3(A)に示す織物21では、サブユニット22は、図の紙面の上から順に、下経糸に織り込まれた下緯糸、上経糸23に平織で織り込まれた上緯糸24(頂部緯糸)、緯自接結糸25(結合ヤーン)、下緯糸、上経糸23に織り込まれた補助緯糸26(置換ヤーン)、緯自接結糸25(結合ヤーン)と配置された緯糸を含む。補助緯糸26(置換ヤーン)は、一方の緯自接結糸25(結合ヤーン)を補完して1本の平組織を構成する部分と、他方の緯自接結糸25(結合ヤーン)を補完して1本の平組織を構成する部分とを含む。
【0031】
上経糸4と補助緯糸8との交差部分に、
図3(B)に示すように、2本の補助緯糸8を1本の上経糸4で同位置にて織り合わせて寄り集める部位と、他の上経糸4との織込み方を変えて別々の平組織を形成して分離する部位とがある事で、傾斜部13が生じ易くなる。同様の理由により、
図3(A)に示すように、特許文献1に係る織物21の補助緯糸26(置換ヤーン)にも傾斜部13が生じ易くなる。傾斜部13は、製紙面側層2の斜め方向の強度を高める。
【0032】
完全組織において、各々の補助緯糸8又は補助緯糸26(置換ヤーン)には、2か所の傾斜部13が形成されている。実施形態に係る製紙用2層織物1は、1つのサブユニット9に2本の補助緯糸8を含むため、1つのサブユニット22に1本の補助緯糸26(置換ヤーン)を含む特許文献1に係る織物21に対して2倍の傾斜部13を有する。また、実施形態に係る製紙用2層織物1では、1対の補助緯糸8が互いに隣り合っているため、傾斜部13が密集している。このように実施形態に係る製紙用2層織物1は、傾斜部13が多くかつ互いに密集しているため、従来技術に比べて、製紙面側層2の斜め方向の強度が高く、走行安定性が向上する。
【0033】
製紙面側層2には、各々のサブユニット9に、2組の緯自接結糸7及び補助緯糸8により2本分の平組織が形成され、1対の補助緯糸8により1本分の平組織が形成される。すなわち、4本の糸によって合計3本分の平組織が形成される。このため、製紙面側層2の組織が効率的に形成され、余分な部分が少なくなり、通水抵抗を増加させずに(通気度を維持しながら)経方向の単位長さ当たりの緯糸6,7,8の本数を多くすることが可能になる。
【0034】
図3に示すサンプルを作成したところ、
図3(B)に示す実施形態に係る製紙用2層織物1は、
図3(A)に示す特許文献1に係る織物21に比べて、緯自接結糸7の走行面側層3を含む織物内部の部分を短くすることができた。これにより、製紙面側層2と走行面側層3を互いに密着することができ、両層2,3間のずれが抑制されるため、内部摩耗が抑制される。
【0035】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、製紙面側層の組織を平織以外の組織にしてもよい。下緯糸の下経糸に対する織り込み方は変更してもよい。完全組織における各糸の本数や、サブユニットの数を変更してもよい。1対の緯自接結糸の外側に、上緯糸(1本で製紙面側層の1本分の織物組織を構成する糸)を設けてもよい。この場合、各サブユニットに含まれる上緯糸の本数は1本又は2本が好ましい。
【符号の説明】
【0036】
1:製紙用2層織物
2:製紙面側層
3:走行面側層
4:上経糸
5:下経糸
6:下緯糸
7:緯自接結糸
8:補助緯糸
9:サブユニット
10:平織部分
11:第1部分
12:第2部分
13:傾斜部