(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】等速自在継手用フレキシブルブーツおよび等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20241129BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20241129BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20241129BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241129BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
F16D3/84 J
F16J3/04 A
F16J15/52 C
C08L15/00
C08L23/16
(21)【出願番号】P 2021080172
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104490
【氏名又は名称】キーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】小原 美香
(72)【発明者】
【氏名】竹下 翔
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】増島 浩二
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-078149(JP,A)
【文献】特開平02-124951(JP,A)
【文献】特開2003-314619(JP,A)
【文献】特開2019-206663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/84
F16J 3/04
F16J 15/52
C08L 15/00
C08L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に相手部材への取付部を備えるとともに、前記両取付部の間に等速自在継手の作動に伴う変形を吸収する屈曲部が設けられ自動車の駆動軸やプロペラシャフトに用いられる等速自在継手用フレキシブルブーツであって、
前記フレキシブルブーツがアクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRを50~80重量部、EPDMを20~50重量部配合しているとともに、
TR試験における-40℃の弾性回復率が18%以上のゴム材料からなることを
特徴とする等速自在継手用フレキシブルブーツ。
【請求項2】
前記ゴム材料がIRM903油による浸漬試験で膨潤が100%以下であることを特徴とする請求項1記載の等速自在継手用フレキシブルブーツ。
【請求項3】
前記ゴム材料がTR試験における-40℃の弾性回復率が21%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の等速自在継手用フレキシブルブーツ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の前記等速自在継手用フレキシブルブーツを装着したことを特徴とする等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達機構に組み込まれる等速自在継手および等速自在継手用フレキシブルブーツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の駆動軸あるいは車軸の等速自在継手部や常に高速回転するプロペラシャフトに取り付けられるブーツは、耐グリース性(耐油性)が要求されるため、一般にはCR(クロロプレンゴム)が使用されている。しかしながら、クロロプレンゴムは、耐動的オゾン性や空気加熱老化性が十分ではないため、経時的にブーツに亀裂を生じさせてグリースが散逸するという問題がみられる。特に、自動車のエンジンルームの温度上昇傾向は、この問題をなお一層深刻なものとしている。例えば自動車に搭載される等速自在継手(Constant Velocity Joint…CVJとも略される)は、使用場所、エンジンの高出力化、エンジンルームのコンパクト化等に伴い130℃以上の雰囲気温度に晒されることがある。
【0003】
そこで、より高い耐熱性要求に応えるためHNBR(水素化ニトリルゴム)材料を用いたフレキシブルブーツも使用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、自動車に搭載した等速自在継手は過酷な環境下で使用されることが多く、等速自在継手用フレキシブルブーツは高温下で使用されるだけでなく、例えば、-40℃といった低温下で使用されることも想定される。低温下においてはゴムの弾性率が低下し、シャフトとの密着性、始動時の異常変形等の問題が発生するおそれがあり、耐熱性だけでなく耐寒性に優れた等速自在継手用フレキシブルブーツが要求される。しかし、一般的に耐寒性と耐油性は反比例の関係にあり、耐寒性を向上させると耐油性が悪化してしまう危険性がある。
【0006】
また、等速自在継手用フレキシブルブーツには、温度条件や耐油性の他にも、高速回転に伴う遠心力、高作動角による大変形、飛び石等の過酷な環境の中で使用されるため、それらに対応する優れた追随性や耐久性を維持する上で耐オゾン性も必要とされる。
【0007】
本発明は、等速自在継手用フレキシブルブーツに必要な耐熱性を備えるとともに、耐寒性、耐油性および耐オゾン性も十分満足できる等速自在継手用フレキシブルブーツおよびそのブーツを装着した等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、両端に相手部材への取付部を備えるとともに、両取付部の間に等速自在継手の作動に伴う変形を吸収する屈曲部が設けられ自動車の駆動軸やプロペラシャフトに用いられる等速自在継手用フレキシブルブーツであって、アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRを50~80重量部、EPDMを20~50重量部配合しているとともに、TR試験における-40℃の弾性回復率が18%以上のゴム材料を使用するようにしている。
【0009】
ここで、ゴム材料はIRM903油での浸漬試験による膨潤が100%以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、ゴム材料は、TR試験における-40℃の弾性回復率が21%以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載の等速自在継手用フレキシブルブーツを装着した等速自在継手であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の等速自在継手用フレキシブルブーツによれば、アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRとEPDMを配合し、TR試験における-40℃の弾性回復率が18%以上のゴム材料により成形されているので、耐熱性を維持しながらも、耐寒性、耐油性および耐オゾン性をともに満足させることを実現している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用したクロスグルーブ型等速自在継手及び同継手用フレキシブルブーツの一実施形態を示す中央縦断面図である。
【
図2】本発明を適用したトリポード型等速自在継手及び同継手用フレキシブルブーツの一実施形態を示す中央縦断面図である。
【
図3】本発明を適用したダブルオフセット型等速自在継手及び同継手用フレキシブルブーツの一実施形態を示す中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の等速自在継手用フレキシブルブーツ及び等速自在継手を以下に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
本発明の等速自在継手用フレキシブルブーツは、アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBR(水素化ニトリルゴム)を50~80重量部、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を20~50重量部配合したものをベースゴム材料として、耐寒性試験(TR試験)における-40℃の弾性回復率が18%以上のゴム材料によって成形されることを特徴とする。
【0016】
HNBRは、耐熱性に優れることは知られている(例えば、特許文献1)。また、HNBRはアクリロニトリルの添加量の増大とともに耐油性は向上するが、耐寒性が低下するという相反関係があることが知られている。
本発明者等の実験によれば、アクリロニトリル量が23~26重量%のものではTR試験での弾性回復率が10%以下であり、耐寒性が悪くブーツ材料としては使用できない。一方、アクリロニトリル量が少ないものは、耐油性が低下する問題があり、ブーツ材料として用いるHNBRは耐寒性と耐油性のバランスが重要となる。
【0017】
このことから、本発明に使用するHNBRのアクリロニトリル量は、耐寒性および耐油性のバランスが優れている15~21重量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、EPDMの添加は、耐寒性と耐オゾン性の両立を可能とする。CVJブーツオゾン耐久試験では、EPDMが配合されていないブーツでは破損が確認されたが、EPDMの配合量が増加するにしたがって改善されることを知見した。EPDMの配合量を増やすことで耐オゾン性は改善され、EPDMを10重量部以上配合するとブーツの破損は確認されなかった。さらに、EPDMを20重量部以上配合すると、ブーツの亀裂は確認されず、耐オゾン性はさらに向上した。その反面、EPDMの添加割合が増大すると、耐油性の低下が見られた。即ち、EPDMの過度の配合は耐油性を低下させる。
【0019】
また、EPDMの配合量を抑えることで耐油性を向上させることができる。IRM903油による浸漬試験の結果、EPDMの配合量が50重量部のゴム材料では膨潤は100%以上となり、40重量部以下のゴム材料の膨潤は100%以下となることを知見した。IRM903油での膨潤が100%以内であれば、実際に等速自在継手用フレキシブルブーツ内に封入・使用されるグリースでの膨潤が30%以内になることが経験上わかっており、実用上耐久性やシール性などに問題がないことが確認されている。このことから、ゴム材料はIRM903油による浸漬試験で膨潤が100%以下であることが好ましい。
【0020】
つまり、EPDMの配合量は、10重量部以上50重量部以下であれば耐オゾン性は改善され、より好ましくは20重量部以上50重量部以下で耐オゾン性を向上させ得ることを知見した。なかでも、EPDMの配合量を30~40重量部にする場合、ゴム材料の膨潤は100%以下であり、高速や高作動角、高温下などの厳しい条件に適用することができ、より好ましい。尚、EPDMの配合量が50重量部のゴム材料は、実験の結果、膨潤について100%以下の要件を満たせるものではなかったが、CVJブーツ高温回転試験とCVJブーツ低温回転試験に合格しており、等速自在継手の使用条件によっては実ブーツとして使用可能であることが判明した。
【0021】
アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRに耐寒性に優れたEPDMを配合するとともに、さらに適切な種類、量の添加剤を配合することで、等速自在継手用フレキシブルブーツとして必要な耐寒性を満足することができる。TR試験(低温弾性回復試験)における-40℃での弾性回復率が18%未満のゴム材料を使用した等速自在継手用フレキシブルブーツでは、実験結果から低温時にブーツ取付部に滑りが発生し、ブーツ取付部とシャフトが良好に密接せずブーツ始動時の異常変形やシール性に問題が生じる危険性があり、ブーツとしての使用には適さない。一方、TR試験(低温弾性回復試験)における-40℃での弾性回復率が18%以上のEPDMを20重量部以上配合させたゴム材料を使用した等速自在継手用フレキシブルブーツでは、低温時にブーツ取付部に滑りが発生するようなことがなく、等速自在継手用フレキシブルブーツとして十分な耐寒性を有していることが判明した。
【0022】
ここで、可塑剤および架橋剤について記載する。可塑剤としては、一般的にゴム用可塑剤又は軟化剤として使用される、フタル酸エステル系、ポリエステル系、リン酸エステル系、アジピン酸エステル系、セバシン酸エステル系、クエン酸エステル系、安息香酸エステル系、エーテル・エステル系、アゼライン酸エステル系、ポリエーテル・チオエーテル系などのエステル系可塑剤、菜種油、ひまし油、亜麻仁油などの植物油脂系可塑剤、エポキシ系可塑剤、石油系芳香族プロセスオイル、ナフテン系ラバーオイル、パラフィン系ラバーオイルなどが挙げられる。
【0023】
架橋剤としては、一般的にゴム用として使用されている硫黄系架橋剤、熱硬化樹脂架橋剤、過酸化物系架橋剤などが挙げられる。本試験は過酸化物系架橋剤を用いた。
【0024】
過酸化物系架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンなどを用いることができる。
【0025】
本発明者等の試験結果から、アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRを50~80重量部、EPDMを20~50重量部配合したものをベースゴム材料として、TR試験における-40℃の弾性回復率が18%以上のゴム材料によって等速自在継手用フレキシブルブーツが成形されることで、等速自在継手用フレキシブルブーツに必要な耐熱性を備えるとともに、耐寒性、耐油性および耐オゾン性も満足できることを知見するに至った。なかでも、アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRを60~70重量部、EPDMを30~40重量部配合してTR試験における-40℃の弾性回復率が21%以上のゴム材料によって成形するときには、さらに高い耐油性、耐寒性、耐オゾン性を得ることができる。
【0026】
以下に本発明の等速自在継手用フレキシブルブーツの特徴について記載する。
【0027】
[耐熱性について]
耐熱性を備えるアクリロニトリル量が15~21重量%のHNBR(水素化ニトリルゴム)にEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を配合したものをベースゴム材料とし、さらに適切な添加剤を適量配合したゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツは、CVJブーツ高温回転試験で破損は確認されず、等速自在継手用フレキシブルブーツとして十分な耐熱性を有している。
【0028】
[耐寒性について]
アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRにEPDM、および適切な添加剤を適量配合したゴム材料のTR試験における-40℃での弾性回復率が18%以上であれば、このゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツのCVJブーツ低温回転試験では問題が発生せず十分な耐寒性を有している。他方、弾性回復率が18%未満のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツのCVJブーツ低温回転試験では、ブーツ取付部に滑りが発生し、低温時にブーツ取付部とシャフトが良好に密接せずブーツ始動時の異常変形やシール性に問題が生じる危険性があるため、ブーツとしての使用には適さない。
【0029】
[耐油性について]
アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRに0~40重量部のEPDM、および適切な添加剤を適量配合したゴム材料は、IRM903油での浸漬試験よる膨潤が100%以下であり高い耐油性を有している。膨潤が100%以下のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツはグリースによる膨潤や硬さの低下量が少なく継手に高作動角が付いた時や高速回転時に変形や接触による異常摩耗が少なく十分な耐久性を有している。一方、EPDMを50重量部配合させたものは膨潤が100%を超えてしまい、このようなゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツは、継手に高作動角が付いた際にブーツの他部位と接触して異常摩耗を生じてしまったり、高速回転時に異常変形して破損する等の危険性がある。しかし、高作動角が付かないあるいは低速回転用の等速自在継手であれば使用可能である。
【0030】
[耐オゾン性について]
等速自在継手用フレキシブルブーツを用いてのオゾン耐久試験ではHNBR単体ではブーツの破損が確認された。EPDMの配合量を増やすことで耐オゾン性は改善され、EPDMを10重量部以上配合するとブーツの破損は確認されなかった。EPDMを20重量部以上配合するとブーツの亀裂は確認されず、耐オゾン性はさらに向上した。
【0031】
上述の実施形態にかかるゴム材料は、耐熱性、耐寒性、耐油性および耐オゾン性をともに満足させ得るものであることから、等速自在継手用フレキシブルブーツに適している。
【0032】
ここで、等速自在継手は、特定の継手構造に限られず、任意の形態を採りうる。例えば、
図1に例示するクロスグルーブ型、
図2に例示するトリポード型、
図3に例示するダブルオフセット型などの外側継手部材の軸線方向にスライドする機構を備えた摺動式等速自在継手に限られず、ゼッパ型、バーフィールド型などのボールを用いたタイプの固定式等速自在継手としても使用できる。なお、トリポード型等速自在継手は、ダブルローラタイプ、シングルローラタイプのいずれでも良い。
【0033】
また、等速自在継手に装着される等速自在継手用フレキシブルブーツの形態は特定の形態に限られるものではなく、両端に相手部材への取付部を備えるとともに、両取付部の間に等速自在継手の作動に伴う変形を吸収する屈曲部が設けられていれば良く、例えばU字状に湾曲した屈曲部を有するブーツであっても、複数の山谷を有する蛇腹状の屈曲部を有するブーツであっても、1箇所の山谷を有する屈曲部を有するブーツであっても良い。
【0034】
具体的には、
図1に示すように、クロスグルーブ型等速自在継手1は、外周面に複数のトラック溝7が形成された内側継手部材3と、内側継手部材3の外周に位置し、その内周面に内側継手部材3のトラック溝7と同数のトラック溝6が形成されている外側継手部材2とを備える。内側継手部材3のトラック溝7と外側継手部材2のトラック溝6は、軸線に対して反対方向に傾斜した角度をなし、対をなすトラック溝7とトラック溝6との交叉部にボール4が組み込まれている。内側継手部材3と外側継手部材2の間にケージ5が配置され、ボール4は、ケージ5のポケット内に保持されている。
【0035】
ここで、ブーツ9は、外側継手部材2に装着した環状部材10を介して、外側継手部材2と内側継手部材3に連結されたシャフト8との間にかけて装着され、等速自在継手を密封するように覆うものである。この密封空間に、グリースなどの潤滑剤(図示省略)が封入されている。このブーツ9は、外側継手部材2に装着された環状部材10の端部に固定される外筒端部(大径取付部)9aと、内側継手部材3に連結されたシャフト8に固定される内筒端部(小径取付部)9bと、それらの間に備えられ、U字状に湾曲した屈曲部9cを有するベロー部とを備えている。U字状に大きく湾曲した屈曲部9cを設けることにより、クロスグルーブ型等速自在継手1が高速回転した際のブーツ屈曲部の振れ回りを抑制すると共に、ブーツの耐久性を向上させている。
【0036】
また、ブーツ9の外筒端部9aは、環状部材10に固定されることによりシールされている。固定方法としては、
図1に示すように、環状部材10に凹部10aを設け、この凹部10aにブーツ9の外筒端部9aの先端を嵌合して環状部材10の凹部10aを加締める方法などが挙げられる。なお、この外筒端部9aと環状部材10との固定方法は一例であってこれに限られるものではない。例えば、環状部材10に外筒端部9aを締結バンド11等によって固定してもよいし、環状部材10をブーツ9と予め一体に成形して外側継手部材2に装着してもよい。図中の符号12は、ブーツ内部に充填されるグリースが漏れ出さない程度の空気抜き用の溝である。なお、環状部材10は、鉄製の金属環が一般的に使用されるが、アルミなどの他の金属製や、樹脂製であってもよい。
【0037】
さらに、ブーツ9の内筒端部9bは、シャフト8に固定されることによりシールされている。このシャフト8の内筒端部9bを固定する部位の外周面にはブーツ溝8aが形成され、このブーツ溝8aに内筒端部9bが嵌合して締結バンド等で固定される。また、ブーツ溝8aの両側にそれぞれ環状突出部8bを設けることにより、ブーツ溝8aに入っている内筒端部9bのシャフト8への固定をさらに強固なものとできる。
【0038】
図2にトリポード型等速自在継手の一実施形態を示す。このトリポード型等速自在継手13は、外側継手部材14の内面に軸方向の三本の直線状トラック溝15を形成している。外側継手部材14の内側に組み込んだ、トリポード部材(内側継手部材)16には、三本の脚軸17が設けられている。各脚軸17の外側に球面ローラ18を挿入し、その球面ローラ18と脚軸17との間にニードル19を組み込んで球面ローラ18を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持し、その球面ローラ18を上記トラック溝15に転動自在に挿入してある。外側継手部材14から、トリポード部材16に連結されたシャフト20にかけて、上記ゴム組成物の成形体であるブーツ21が装着されている。
【0039】
ここで、ブーツ21は、外側継手部材14に嵌合されて固定される外筒端部(大径取付部)21aと、内側継手部材16に連結されたシャフト20に嵌合されて固定される内筒端部(小径取付部)21bと、これら外筒端部21aと内筒端部21bとの間を繋ぐ複数の山谷を有する蛇腹状の屈曲部(以下、「蛇腹部」ともいう)21cとを備え、等速自在継手を密封するように覆うものである。この密封空間に、グリースなどの潤滑剤(図示省略)が封入されている。ブーツ21は、外筒端部21aを外側継手部材14に嵌合して締結バンド22a等で固定する一方、内筒端部21bをシャフト20に締結バンド22b等で固定する。シャフト20の内筒端部21bを固定する部位の外周面にはブーツ溝20aが形成され、該ブーツ溝20aに内筒端部21bが嵌入される。なお、ブーツ溝20aの両側にそれぞれ環状突出部20bを設けることにより、ブーツ溝20aに入っている内筒端部21bのシャフト20への固定をさらに強固なものとできる。
【0040】
さらに、
図3にダブルオフセット型等速自在継手の一実施形態を示す。このダブルオフセット型等速自在継手23は、外側継手部材24の内面および内輪(内側継手部材)25の外面に軸方向の複数の直線状トラック溝26、27を形成している。トラック溝26、27間に組み込んだボール28をケージ29で支持し、このケージ29の外周を球面29aとし、かつ内周を内輪25の外周に適合する球面29bとしている。各球面29a、29bの中心(イ)、(ロ)を外側継手部材24の軸心上において軸方向に位置をずらしてある。外側継手部材24から、内輪25に連結されたシャフト30にかけて、上記ゴム組成物の成形体であるブーツ31が装着されている。尚、ブーツ31の構造およびその取付構造は、
図2におけるブーツ21と同様である。また、ブーツ31で密封された空間に、グリースなどの潤滑剤(図示省略)が封入されている。
【0041】
図2および
図3において、それぞれのブーツ21、31の蛇腹形状は、蛇腹部の谷部外周面の曲率を山部外周面の曲率よりも小さくしている。すなわち、蛇腹谷部の湾曲の半径を山部の湾曲の半径よりも大きくすることで作動角を取った際のブーツ谷部の圧縮側位相の変形を抑制して谷部の耐久性を向上させている。谷部外周面の曲率を山部外周面の曲率と同等以上とすると、谷部が大きく潰されてしまい亀裂の起点を生じやすくなる。
【0042】
また、蛇腹部の小径取付部側の端部に、小径取付部と滑らかに連続し、かつ、外面がブーツの外部に曲率中心を有する円弧状に形成された接続部を設け、この接続部の外面の曲率半径が、蛇腹部の山部の外面の曲率半径よりも大きく設定され、かつ、上記接続部の任意の点における肉厚を該接続部の大径取付部側の端部における肉厚以上とする構造も採用できる。
【0043】
また、小径取付部において、その外径面にブーツバンド装着用の嵌合溝が形成されたシャフト装着部と、このシャフト装着部から肉厚部を介して蛇腹部に連結されてシャフト装着部および蛇腹部に対する座屈状変位を許容する肉薄部とを備えた構造も採用できる。
【0044】
さらには、ブーツバンドを、折り返し部を有しない円環状体とするとともに、ブーツバンドの軸方向外周縁部を外径側へ折り曲げた形状あるいは湾曲した形状とし、ブーツバンドの縮径状態において、軸方向外周縁部と、これに対応するブーツの嵌合溝の底部端部との間に隙間を形成し、干渉を回避した構造も採用できる。
【0045】
上述の所定のゴム組成物の成形体であり、かつ構造のブーツを装着した自動車用推進軸(プロペラシャフト)に使用される等速自在継手は、優れた耐熱性、耐寒性、耐油性および耐オゾン性を有する。
【0046】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0047】
HNBRとEPDMの配合比および添加剤の種類および量を変えた各種ゴム材料(実施例1~4及び比較例1~4)を作成し、TR試験、CVJブーツ低温回転試験、CVJブーツ高温回転試験、CVJブーツオゾン耐久試験及びIRM903油の浸漬試験を実施した。尚、本試験においては、ベースゴム材料となるHNBRについては、等速自在継手用フレキシブルブーツに必要な耐熱性と耐寒性を両立させるアクリロニトリル量が15~21重量%含有するものを用いた。
【0048】
ここで、実施例1~4、及び比較例1~2は、HNBRを50~100重量部、EPDMを0~50重量部配合しているとともに、エステル系可塑剤を30重量部、過酸化物系架橋剤を10重量部、カーボンブラックを70重量部配合した。
【0049】
比較例3はHNBRを70重量部、EPDMを30重量部配合しているとともに、エステル系可塑剤を30重量部、過酸化物系架橋剤を3重量部、カーボンブラックを70重量部配合した。
【0050】
比較例4はHNBRを70重量部、EPDMを30重量部配合しているとともに、植物油脂系可塑剤を30重量部、過酸化物系架橋剤を10重量部、カーボンブラックを70重量部配合した。
【0051】
本試験に使用した薬品は以下に示す通りである。
【0052】
【表1】
尚、本試験では、実施例の可塑剤Aとしてはエステル系可塑剤、比較例4の可塑剤Bとしては植物油脂系可塑剤を用いた。また、架橋剤としては、過酸化物系架橋剤を用いた。
【0053】
[ブーツ形状]
本試験では
図1に示す等速自在継手用フレキシブルブーツを使用した。
【0054】
各実施例と比較例の組成並びに各種試験結果を表2にして以下に示す。
【0055】
【0056】
[TR試験]
アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRに対して、EPDMを配合させたゴム材料のTR試験および等速自在継手用フレキシブルブーツの低温回転試験を実施した。
【0057】
TR試験はISO2921を参考として取得したデーターを用い、-40℃における復元率を確認した。
【0058】
実施例1~4および比較例1~2は添加剤の種類および量を固定しHNBRとEPDMの配合比を変更したもので、弾性回復率はEPDMの配合量が20重量部以上の実施例1~4で18%以上であった。一方、EPDMの配合量が10重量部以下の比較例1~2は18%未満であった。
【0059】
比較例3はHNBRとEPDMの配合比を実施例3と同一にし、架橋剤の配合量を変更したもので弾性回復率は18%未満であった。
【0060】
比較例4はHNBRとEPDMの配合比を実施例3と同一にし、可塑剤の種類を変更したもので弾性回復率は18%未満であった。
【0061】
試験の結果から添加剤の種類および量を適切に配合することおよびEPDMの配合量が20重量部以上で十分な弾性回復率を有していることが判明した。EPDMを30重量部以上配合させたゴム材料は弾性回復率が21%以上となりさらに好ましい。
【0062】
[CVJブーツ低温回転試験]
CVJブーツ低温回転試験は作動角5deg、雰囲気温度-40℃、回転数500rpm、耐久サイクル10cycの条件で、ブーツ取付部の滑りについて確認した。
【0063】
実施例4の弾性回復率が18%のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツで低温回転試験を実施したところ、一部にブーツ取付部の滑りが僅かに発生するものがあるものの十分な耐寒性を有することを確認した。
【0064】
実施例1~3の弾性回復率が21%以上のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツで低温回転試験を実施したところ、ブーツ取付部の滑りは発生せずより高い耐寒性を有することを確認した。
【0065】
一方、比較例1~4の弾性回復率が18%未満のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツで低温回転試験を実施したところ、ブーツ取付部に滑りが発生した。EPDMの配合量が20重量部以上のものは弾性回復率が18%以上で、低温回転試験でも問題ない(ブーツ取付部の滑りがない)ことから十分な耐寒性を有すると判断できた。EPDMの配合量が30重量部以上のものは弾性回復率が21%以上でブーツ取付部に滑りが発生しないことからさらに好ましいといえる。
【0066】
[CVJブーツ高温回転試験]
CVJブーツ高温回転試験は、作動角5deg、雰囲気温度130℃、回転数2700rpm、運転時間550hの条件で、ブーツの高温耐久性について確認した。
実施例1~4および比較例1でブーツの破損は確認されず、高温下で耐久性を有することが確認された。尚、比較例2~4については試験を省略した。
【0067】
[CVJブーツオゾン耐久試験]
CVJブーツオゾン耐久試験は、オゾン濃度200pphm、作動角5deg、雰囲気温度40℃、回転数1200rpm、運転時間200hの条件で、ブーツのオゾン耐久性について確認した。
【0068】
実施例1~4では、200h運転後に亀裂が確認されず、オゾン耐久性は良好であった。比較例1は、ブーツの破損の破損はなく運転可能な状態であったが、亀裂が確認された。比較例2は、ブーツが破損し運転不可能であった。尚、比較例3~4については試験を省略した。
このことから、HNBRに対しEPDMを配合することで耐オゾン性が向上し、EPDMを20重量部以上配合したゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツは亀裂が確認されず、高い耐オゾン性を有することが確認された。
【0069】
[IRM903油での浸漬試験]
[ブーツを装着した等速自在継手内に封入するグリースについて]
ブーツを装着した等速自在継手内にはグリースが封入される。グリースの成分としては増ちょう剤と基油からなるベースグリースから構成される。また、このベースグリースに各種添加剤を配合してもよい。
【0070】
グリースの増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0071】
ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0072】
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0073】
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0074】
グリースの基油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL 基油、フッ素油、シリコーン油等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一般的には、コストを考慮して鉱物油が使われることが多いが、使用される温度域を考慮して合成油及びその混合油が使われることもある。
【0075】
また、潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ-リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0076】
[浸漬試験について]
実際の等速自在継手用ブーツとしては、様々なグリースとの組み合わせで使用される。等速自在継手用フレキシブルブーツおよびそのブーツを装着した等速自在継手は封入されるグリースの基油の影響を最も受けるため、実際に使用されるグリースの基油と成分が近い標準油での試験が必要となる。
【0077】
そこで、浸漬試験用の標準油として、パラフィン系とナフテン系の鉱物油をおおよそ同程度含有しているIRM903油(ゴム部品のJIS K6258 ASTM D471規格検査に使用される体液性試験標準油)を選択し、IRM903油を対象とした耐油性を確認することにより、常にグリースと接して使用される等速自在継手用ブーツ材料として使用可能かの指標に用いた。
【0078】
ゴムの膨潤はアニリン点に大きく影響される。本浸漬試験に用いるIRM903油はアニリン点が70℃と低いため、ゴムを膨潤させる傾向が強い標準グリースとして試験用に用いられている。
【0079】
尚、等速自在継手用フレキシブルブーツにおいて、ゴム材料が膨張すること自体がブーツとしての性能を阻害するわけでなく、体積が膨張することによって各種物性の低下が生じることが問題となる。IRM903油での膨潤が100%以内であれば、実際に等速自在継手用フレキシブルブーツ内に封入・使用されるグリースでの膨潤が30%以内になることが経験上わかっており、実用上耐久性やシール性などに問題がないことが確認されている。そこで、膨潤が100%以下であるか否かを判定の基準とした。
【0080】
膨潤の測定はISO1817を参考として取得したデーターを用い、設定温度100℃のIRM903油中に72時間浸漬後のゴム材料の物性変化率を確認した。
【0081】
試験の結果、EPDMの配合量が40重量部以下の実施例2~4および比較例1~2のゴム材料の膨潤は100%以下であった。このゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツは、周囲との接触や異常摩耗を抑えることができる。依って、高速や高作動角、高温下などの厳しい条件に適用することができ、等速自在継手用フレキシブルブーツのゴム材料としてはより好ましいものといえる。一方、EPDMの配合量が50重量部の実施例1のゴム材料の膨潤は100%以上となった。このことから、EPDMの配合量を抑えることで耐油性を向上させることが確認された。尚、比較例3~4については試験を省略した。
【0082】
ここで、EPDMの配合量が50重量部の実施例1のゴム材料は、膨潤については100%以上であるが、CVJブーツ高温回転試験とCVJブーツ低温回転試験に合格しており、実ブーツとして使用可能であるといえる。また、耐オゾン性を向上させるため、EPDMを配合したが、一定以上配合すると耐油性が悪化した(実施例1参照)。EPDMを一定以上配合することで耐油性が悪化し、耐寒性と耐油性が反比例の関係であることを確認した。
【0083】
以上の各種試験結果より、エステル系可塑剤30重量部、過酸化物系架橋剤10重量部、カーボンブラック70重量部、アクリロニトリル量が15~21重量%のHNBRを50~80重量部、EPDMを20~50重量部配合し、かつTR試験における-40℃の弾性回復率が18%以上のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツおよびそのブーツを装着した等速自在継手は耐熱性を備えるとともに耐寒性および耐オゾン性の機能も満足することが確認された。
【0084】
さらに、IRM903油での浸漬試験で膨潤が100%以下のゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツおよびそのブーツを装着した等速自在継手は上記機能に加え高い耐油性の機能も満足することが確認された。
【0085】
したがって、本発明にかかるゴム材料を用いた等速自在継手用フレキシブルブーツおよびそのブーツを装着した等速自在継手は、自動車用ドライブシャフトや自動車用プロペラシャフトに用いる等速自在継手あるいは各種機械の自在継手として好適に利用できる。特に、ドライブシャフトの中でも高温となり易いインボード側ブーツや、プロペラシャフト用ブーツとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0086】
1,13,23 等速自在継手
9,21,31 フレキシブルブーツ