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特許7595534導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20241129BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20241129BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20241129BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20241129BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20241129BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C08L83/04
C08L101/12
C08L65/00
C08L25/18
B32B7/025
B32B27/00 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021110676
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2023007677
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】和泉 忍
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/042188(WO,A1)
【文献】特開2019-099738(JP,A)
【文献】特開2014-040549(JP,A)
【文献】特開2014-080608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F251/00 -283/00
C08F283/02 -289/00
C08F291/00 -297/08
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、前記水にエマルション化されたシリコーンと、分子中に炭素原子同士の不飽和結合を1つ又は2つ有する、炭素数4~8のジオール化合物である不飽和脂肪族アルコール化合物と、を含有する導電性高分子分散液であり、
前記導電性複合体100質量部に対する前記不飽和脂肪族アルコール化合物の含有量が、10質量部以上10000質量部以下であり、
前記導電性複合体100質量部に対する前記シリコーンの含有量が、10質量部以上10000質量部以下である、導電性高分子分散液。
【請求項2】
前記不飽和脂肪族アルコール化合物が、シス-2-ブテン-1,4-ジオール、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
ポリビニルアルコールをさらに含有する、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
アルカリ化合物をさらに含有する、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
【請求項7】
前記基材が非晶性フィルム基材であり、前記非晶性フィルム基材の少なくとも一部の面に前記導電性高分子分散液を塗布して塗工フィルムを得ることと、
前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得ることとを有する、請求項に記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項8】
基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス等の製造において、離型性を備えた導電性フィルム(帯電防止性離型フィルム)が使用されることがある。特許文献1には、導電性複合体とシリコーンエマルションを含む導電性高分子分散液をフィルム基材に塗布し、この塗膜が硬化してなる導電層を備えた導電性フィルムを延伸処理した帯電防止性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-013668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の導電性高分子分散液によって形成された導電層及び導電性フィルムは、2倍延伸処理した後では充分な導電性を有するが、4倍延伸処理を行った後の導電性は必ずしも充分とはいえなかった(特許文献1の実施例2)。
【0005】
本発明は、延伸処理した後においても充分な導電性を有する導電層を形成することが可能な導電性高分子分散液、並びにこれを用いた導電性積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、前記水にエマルション化されたシリコーンと、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物と、を含有する導電性高分子分散液。
[2] 前記不飽和脂肪族アルコール化合物が、ジオール類である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記不飽和脂肪族アルコール化合物の炭素数が、4以上8以下である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] 前記不飽和脂肪族アルコール化合物が、シス-2-ブテン-1,4-ジオール、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[5] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[6] ポリビニルアルコールをさらに含有する、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[7] アルカリ化合物をさらに含有する、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[8] [1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
[9] 前記基材が非晶性フィルム基材であり、前記非晶性フィルム基材の少なくとも一部の面に前記導電性高分子分散液を塗布して塗工フィルムを得ることと、前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得ることとを有する、[8]に記載の導電性積層体の製造方法。
[10] 基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子分散液によれば、4倍延伸処理を行った後においても充分な導電性を有する導電層を形成することができる。
本発明の導電性積層体が有する導電層にあっては、4倍延伸処理を行った後においても充分な導電性を有する。
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、上記の導電性積層体を容易に製造することができる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、前記水にエマルション化されたシリコーンと、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物と、を含有する導電性高分子分散液である。
【0011】
[導電性複合体]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0012】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0016】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量としては、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子分散液を塗布して形成する導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を高め、均一な導電層を形成することができる。
【0017】
[不飽和脂肪族アルコール化合物]
本態様の導電性高分子分散液に含まれている1種以上の不飽和脂肪族アルコール化合物は、分子内に炭素原子同士の二重結合又は三重結合を1つ以上有し、かつ、分子内にヒドロキシル基(水酸基)を1つ以上有するアルコールである。
【0018】
本態様の導電性高分子分散液によって形成される導電層の延伸後の導電性をより向上させる観点から、前記不飽和脂肪族アルコール化合物は、ヒドロキシル基を2つ有するジオール類であることが好ましい。
また、同様の観点から、前記不飽和脂肪族アルコール化合物の炭素数は、4以上12以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、4以上8以下がさらに好ましく、4以上6以下が特に好ましい。
また、同様の観点から、前記不飽和脂肪族アルコール化合物が有する不飽和結合の数は1つ以上4つ以下が好ましく、1つ以上3つ以下がより好ましく、1つ又は2つがさらに好ましい。
【0019】
前記不飽和脂肪族アルコール化合物としては、例えば、シス-2-ブテン-1,4-ジオール、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、及び2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
また、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール等も挙げられる。
【0020】
本態様の導電性高分子分散液において、前記導電性複合体100質量部に対する前記不飽和脂肪族アルコール化合物の合計の含有量は、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。上記の好適な範囲であると、本発明の効果が一層優れる。
【0021】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する、前記不飽和脂肪族アルコール化合物の含有量は、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、導電層の延伸後の導電性を充分に向上させることができる。
【0022】
[分散媒]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる分散媒としては、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合液が挙げられる。
前記不飽和脂肪族アルコール化合物は、本態様の導電性高分子分散液に含まれる分散媒には該当しないものとする。
【0023】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等の一価アルコールが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
導電性複合体は水に対する分散性が高いので、本態様の導電性高分子分散液の分散媒は水を含有する水系分散媒であることが好ましい。
本態様の導電性高分子分散液が含む全分散媒に対する水の含有割合は、例えば、50質量%以上100質量%以下とすることができ、60質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましい。水以外の分散媒としては、一価アルコールが好ましい。
【0025】
[シリコーンエマルション]
シリコーンエマルションは、シリコーン(シリコーン樹脂)が水にエマルション化されたものである。オルガノシロキサンモノマーを乳化重合して得たシリコーンエマルションが好ましい。ここで、シリコーンを乳化する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
シリコーンは硬化型シリコーンであることが好ましい。硬化型シリコーンは、反応性基を有するシリコーンであり、公知方法により反応させ、硬化させることができる。具体的には、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンが挙げられる。中でも、離型性(剥離性)を高める観点から、付加硬化型シリコーンが好ましい。
【0026】
付加硬化型シリコーンとしては、例えば、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマー(例えばポリジメチルシロキサン)であって、前記直鎖状ポリマーの少なくとも一方の末端にビニル基を有するもの、前記直鎖状ポリマーの少なくとも一方の末端にハイドロジェンシランを有するもの等が挙げられる。
付加硬化型シリコーン樹脂の具体例としては、KM-3951、KM768、X-52-6015(いずれも信越化学工業社製)等が挙げられる。
付加硬化型シリコーンは、付加反応によって架橋構造を形成して硬化する。
【0027】
縮合硬化型シリコーンとしては、例えば、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマー(例えばポリジメチルシロキサン)であって、前記直鎖状ポリマーの少なくとも一方の末端にヒドロキシ基を有するポリジメチルシロキサン、前記直鎖状ポリマーの少なくとも一方の末端が水素原子であるもの等が挙げられる。
縮合反応型シリコーン樹脂は、縮合反応によって架橋構造を形成して硬化する。
【0028】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体100質量部に対する、シリコーンの含有量は、例えば、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。なお、シリコーンエマルションの不揮発成分のほとんど全てがシリコーンであると考えてよい。
【0029】
[硬化剤]
本態様の導電性高分子分散液には、硬化型シリコーンの硬化を促進させる硬化剤が含まれていてもよい。硬化剤は、使用する硬化型シリコーンの種類に応じて選択される。
付加反応型シリコーンの場合には硬化剤として白金系触媒を使用することが好ましい。白金系触媒の具体例としては、CAT-PL-50T、CAT-PM-10A(信越化学工業社製)等が挙げられる。
縮合反応型シリコーン樹脂の場合には硬化剤として有機錫触媒(例えば有機錫アシレート触媒)を使用することが好ましい。有機錫触媒の具体例としては、CAT-PS-8S(信越化学工業社製)等が挙げられる。
【0030】
[ポリビニルアルコール]
本態様の導電性高分子分散液には、ポリビニルアルコールが含まれていることが好ましい。ポリビニルアルコールは、導電性複合体の分散剤として機能すると共に、基材上に形成される導電層の延伸性を向上させる機能も有する。つまり、ポリビニアルコールを含有する導電層は、フィルムの延伸に追従し易く、導電層に割れや剥がれ等が発生し難くなり、導電性が高くなる。また、ポリビニルアルコールは、導電層においてバインダ樹脂としての役割も果たす。そのため、フィルムを延伸しない場合であっても、導電性高分子分散液がポリビニルアルコールを含有することにより、導電層の欠陥を少なくでき、導電性を向上させることができる。
【0031】
ポリビニルアルコールは、一般にポリ酢酸ビニルのアセチル基をけん化することによって製造されるが、一部のアセチル基がけん化されないことがある。そのため、ポリビニルアルコールは、酢酸ビニル単位を含むことがある。本態様で用いるポリビニルアルコールのけん化度は、70%以上100%以下であることが好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度が前記下限値以上であれば、水に簡単に溶解させることができる。
ポリビニルアルコールの重合度は、500以上10000以下であることが好ましく、1000以上5000以下であることがより好ましい。ポリビニルアルコールの重合度が前記下限値以上であれば、導電層の延伸性を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、水への溶解性を向上させることができる。
ポリビニルアルコールの重合度は公知方法により測定された値である。
前記導電性高分子分散液に含まれるポリビニルアルコールは、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0032】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体100質量部に対する、ポリビニルアルコールの含有量は、例えば、1質量部以上2000質量部以下が好ましく、10質量部以上1000質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。
前記下限値以上であれば、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を向上させることができるとともに、導電層の延伸性をより高くできる。
前記上限値以下であれば、導電性の低下をより抑制できる。
【0033】
[アルカリ化合物]
本態様の導電性高分子分散液には、アルカリ化合物が含まれてもよい。アルカリ化合物としては、例えば、無機アルカリ、アミン化合物、窒素含有芳香族性環式化合物等が挙げられる。アルカリ化合物は1種のみが含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
【0034】
無機アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
導電性高分子分散液の総質量に対する無機アルカリの含有量は、例えば、0.1~1質量%が挙げられる。
シリコーンエマルションが、付加反応型シリコーンを含むエマルションである場合、アルカリ化合物として無機アルカリを用いることが好ましい。脂肪族アミンあるいは芳香族アミンは、付加反応型シリコーンの硬化剤の白金触媒に対する触媒毒になり、塗膜の硬化が不十分になることがある。一方、無機アルカリは触媒毒になることはない。
【0035】
アミン化合物としては、1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩のいずれであってもよい。ここで便宜上、4級アンモニウムをアミン化合物に分類している。
アミン化合物は、炭素数2~12の直鎖、もしくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数2~12のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基、炭素数7~12のアラルキレン基、及び炭素数2~12のオキシアルキレン基から選択される置換基を有していてもよい。
【0036】
具体的な1級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
具体的な2級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
具体的な3級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
具体的な4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等が挙げられる。アンモニウムの対となる陰イオンとしてはヒドロキシドイオンが挙げられる。
このうち、3級アミンが好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、またはトリブチルアミンがより好ましい。
【0037】
窒素含有芳香族性環式化合物とは、少なくとも1個以上の窒素原子を含む芳香族性環を有するものであり、前記窒素原子は2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩のいずれの形で芳香族性環に含まれていてもよい。
窒素含有芳香族性環式化合物の具体例としては、ピロール、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、4,5-イミダゾールジカルボン酸、4,5-イミダゾールジカルボン酸ジメチル、ベンズイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール-2-スルホン酸、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヒドロキシド、ピリジン等が挙げられる。このうち、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、又はピリジンがより好ましい。
【0038】
前記アルカリ化合物は、水への溶解度が0.1g/100ml(10℃)以上であることが好ましい。水への溶解度が0.1g/100ml(10℃)以上のアルカリ化合物は分散媒に溶解しやすく、本態様の導電性高分子分散液の保存安定性が高められる。
【0039】
本態様の導電性高分子分散液に含まれるアルカリ化合物の含有量は、当該アルカリ化合物により導電性複合体を中和滴定して得られる中和滴定曲線の変曲点の添加量、すなわち中和当量のモル数に対して、0.7倍モル以上であることが好ましく、0.9倍モル以上であることがより好ましい。アルカリ化合物の含有量が、導電性複合体の中和当量に対して0.7倍モル未満であると、導電性高分子分散液の保存安定性が低下する場合がある。
前記アルカリ化合物の前記含有量は、導電性複合体の中和当量のモル数に対して、1.5倍モル以下が好ましく、1.2倍モル以下がより好ましい。
【0040】
本態様の導電性高分子分散液のpH(25℃)は、10以下であることが好ましく、9以下がより好ましい。前記pHが10を超えると、導電性高分子分散液の保存安定性が低下する場合がある。一方、前記pHは、3以上が好ましく、5以上がより好ましい。なお、前記pHは公知方法により校正されたpHメーターを用いて測定した値である。
【0041】
[その他の添加剤]
本態様の導電性高分子分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、不飽和脂肪族アルコール化合物、分散媒、ポリビニルアルコール及び前記アルカリ化合物以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0042】
導電性高分子分散液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下の範囲とすることができる。
【0043】
<導電性高分子分散液の製造方法>
本態様の導電性高分子分散液を製造する方法としては、例えば、導電性複合体の水分散液に、アルカリ化合物、ポリビニルアルコール、不飽和脂肪族アルコール化合物、シリコーンエマルション、硬化剤を順次添加する方法が挙げられる。
導電性複合体の水分散液は、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合させて得てもよいし、市販のものを使用しても構わない。
【0044】
前記化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0045】
≪導電性積層体≫
本発明の第二態様は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、第一態様の導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体である。
【0046】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0047】
前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
【0048】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0049】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0050】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0051】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0052】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0053】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0054】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第三態様は、基材の少なくとも一部の面に、第一態様の導電性高分子分散液を塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により、第二態様の導電性積層体を製造することができる。
【0055】
導電性高分子分散液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0056】
導電性高分子分散液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0057】
基材上に塗工した導電性高分子分散液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
【0058】
本態様の導電性積層体の製造方法において、延伸処理を経た導電性フィルムを次のように製造することができる。
その製造方法は、前記基材として非晶性フィルム基材を用い、前記非晶性フィルム基材の少なくとも一部の面に前記導電性高分子分散液を塗布して塗工フィルムを得ること(塗工工程)と、前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得ること(延伸工程)とを有する。さらに、延伸工程で加熱したフィルムを結晶化すること(結晶化工程)を有していてもよい。以下に、塗工工程、延伸工程、結晶化工程を説明する。
【0059】
[塗工工程]
本工程で使用するフィルム基材は、非晶性であれば特に制限されず、例えば、前述したフィルム基材から任意に選択して使用することができる。
本工程で非晶性フィルム基材に塗料(導電性高分子分散液)を塗工して塗工フィルムを得る方法は特に制限されず、例えば、前述した塗工方法を適用することができる。
【0060】
[延伸工程]
延伸工程は、前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得る工程である。前記塗料に含まれる分散媒は、本工程における加熱で乾燥させてもよいし、本工程に供する前に別途乾燥工程を設けて乾燥させてもよい。
塗工フィルムを加熱して延伸させることにより、塗工面積を小さくしても大面積の導電性フィルムを得ることができ、導電性フィルムの生産性が向上する。
延伸は一軸延伸でもよいし、二軸延伸でもよいが、非晶性フィルム基材として一軸延伸フィルムを用いた場合には、延伸されている方向とは垂直な方向に延伸することが好ましい。例えば、長手方向に沿って延伸された一軸延伸フィルムを非晶性フィルム基材として用いた場合には、幅方向に沿って延伸することが好ましい。
塗工フィルムの延伸倍率は2倍以上20倍以下にすることが好ましく、3倍以上15倍以下にすることがより好ましく、4倍以上10倍以下にすることがさらに好ましい。
ここで、延伸倍率は、少なくとも一軸方向に対する延伸倍率であり、直交する二軸方向に対する各々の延伸倍率であってもよい。
【0061】
加熱法としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
延伸工程における加熱温度は、非晶性フィルム基材の結晶化温度未満にし、50℃以上150℃以下の範囲内であることが好ましい。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。延伸工程における加熱温度を、非晶性フィルム基材の材料の融点まで高くすると、フィルムが軟化しすぎて延伸が困難になることがある。
【0062】
[結晶化工程]
結晶化工程は、前記延伸フィルムを加熱した後に冷却して非晶性フィルム基材を結晶化させる工程である。
結晶化工程における延伸フィルムの加熱温度は、非晶性フィルム基材の結晶化温度以上であり、200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさらに好ましい。延伸フィルムの加熱温度が前記下限値以上であれば、非晶性フィルム基材を充分に結晶化できる。一方、フィルム基材の溶融を防ぐ観点から、延伸フィルムの加熱温度は300℃以下であることが好ましい。
【0063】
200℃以上の加熱で結晶化しやすいことから、非晶性フィルム基材は非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
200℃以上に加熱すると、フィルム基材を構成する非晶性ポリエチレンテレフタレートの少なくとも一部が融解し始める。その融解後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度未満の温度まで冷却した際には、融解した一部の非晶性ポリエチレンテレフタレートが結晶化すると共に固化する。これにより、フィルム基材を結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムにすることができる。結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムからなるフィルム基材は、引張強度等の機械的物性に優れる。
【0064】
加熱後の冷却方法としては特に制限はなく、室温の空気を送風してもよいし、放冷でもよい。非晶性フィルム基材が結晶化しやすいことから、冷却の際の降温速度は遅い方が好ましく、具体的には、200℃/分以下であることが好ましい。
以上の工程により延伸工程と結晶化工程を経た導電性フィルムが得られる。
【実施例
【0065】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸(PSS)を得た。このPSSについてゲル濾過クロマトグラフィーカラムを備えた高速液体クロマトグラフィーシステムを用いて、昭和電工株式会社製プルランを標準物質として重量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。
【0066】
(製造例2)PEDOT-PSS水分散液の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た44.0gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
次に、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、固形分濃度1.2質量%、PEDOT:PSS=1:3(質量比)のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)水分散液(PEDOT-PSS水分散液)を得た。
【0067】
(製造例3)導電性高分子含有液の製造
製造例2で製造したPEDOT-PSS水分散液100gに、イオン交換水3.2gに予め溶かした0.30gの炭酸水素ナトリウムを添加し、攪拌した。その後、ポリビニルアルコール(重合度:4500、けん化度:86.5~89.5モル%、日本酢ビ・ポバール株式会社製、型番:JP45)の5質量%水溶液40gを添加し、これを導電性高分子含有液Aとした。
【0068】
[実施例1]
製造例3で得た導電性高分子含有液Aの143.5gに、2-ブチン-1,4-ジオール20gを添加し、付加硬化型シリコーンのエマルションであるKM-3951(信越化学工業株式会社製、不揮発成分30質量%、約70質量%の水を含有)を81.8g添加し、白金触媒であるCAT-PM-10Aを4.0g添加し、81.8gのイオン交換水で希釈し、目的の導電性高分子分散液を得た。これら各材料の配合割合を表1に示す。
得られた導電性高分子分散液を、No.8のバーコーターを用いて、非結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、塗工フィルムを得た。得られた塗工フィルムを、二軸延伸装置(株式会社井元製作所製、11A9)を用いて、100℃で、直交する2軸方向に対してそれぞれ4倍に延伸して延伸フィルムを得た。前記延伸フィルムを240℃で30秒間加熱した後、降温速度が100℃/分以下になるようにゆっくりと冷却した。これにより、非結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを結晶化して、結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に導電層を有する導電性フィルムを得た。
得られた導電性フィルムの表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で、表面抵抗値を測定した。その結果を表1に示す。表中、「1.00E+09」は「1.00×10」を表し、他も同様である。表中、「OVER」は測定不能な程、表面抵抗値が高いことを表す。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、2-ブチン-1,4-ジオール20gを、シス-2-ブテン-1,4-ジオール20gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得て、その測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
実施例1において、2-ブチン-1,4-ジオール20gを、トランス-2-ブテン-1,4-ジオール20gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得て、その測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例4]
実施例1において、2-ブチン-1,4-ジオール20gを、2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール20gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得て、その測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
実施例1の導電性高分子分散液の代わりに、分子中に炭素原子同士の不飽和結合とヒドロキシル基を有する不飽和脂肪族アルコール化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得て、その測定を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
不飽和脂肪族アルコール化合物及びシリコーンエマルションを含む実施例の導電性フィルムは、直交する2軸方向へ4倍延伸処理を行った後においても充分な導電性を有していた。一方、不飽和脂肪族アルコール化合物を含まない比較例1は、上記延伸処理を行った後では導電性を示さなかった。