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特許7595536シールリング及びこのシールリングの装着構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】シールリング及びこのシールリングの装着構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/328 20160101AFI20241129BHJP
   F16J 15/3272 20160101ALI20241129BHJP
【FI】
F16J15/328
F16J15/3272
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021114706
(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公開番号】P2022058162
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020166078
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大鋸 哲平
(72)【発明者】
【氏名】小山 哲司
(72)【発明者】
【氏名】篠原 知来
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218791(JP,A)
【文献】特開2004-205003(JP,A)
【文献】特開2015-218790(JP,A)
【文献】特開平10-318375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0194948(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105221291(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16- 15/32
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/46- 15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングとその内部に組み付けられる軸との間の環状隙間を封止するシールリングであって、射出成形の際樹脂溜りが形成されない、フィラー繊維が配合された樹脂製のシールリングにおいて、
合口部を有する円環状のシールリング本体と、
前記シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように形成された複数のタブと、を備え、
前記タブは、少なくとも、前記合口部の近傍に形成され
前記合口部において断面形状が変化する位置である合口部端部から、前記合口部端部に最も近い前記タブの端までの長さ寸法が、0.5mm以上、2.5mm以下であることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
前記フィラー繊維の長さ寸法が1000μm以下であることを特徴とする請求項1に記載されたシールリング。
【請求項3】
前記合口部の近傍に形成されたタブの位置における、前記タブと前記シールリング本体とを合わせた軸線に平行な断面積は、前記タブの左右両側の位置における前記シールリング本体の軸線に平行な断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたシールリング。
【請求項4】
前記合口部は、前記シールリング本体の一端部と他端部とが相対向し、
かつ、前記一端部と他端部には、軸線に平行な断面積が前記合口部以外の前記シールリング本体の軸線に平行な断面積よりも小さく形成された互いに係合可能な係合凸部または係合凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたシールリング。
【請求項5】
前記シールリング本体の内周面に対する前記タブの側面の傾斜角が、100°以上150°以下の範囲内で設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載されたシールリング。
【請求項6】
前記タブの径方向の厚さ寸法は、前記シールリング本体の径方向の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたシールリング。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載された、ハウジングとその内部に組み付けられる軸との間の環状隙間を封止するシールリングの装着構造であって、
前記シールリング本体は、前記ハウジングの内部に挿入される軸に形成された環状溝に
装着され
前記シールリングの装着の際、シールリング本体と軸に芯ずれが発生した場合には、前記シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように形成されたタブの先端が、前記環状溝の溝底面に当接することを特徴とするシールリングの装着構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリング及びこのシールリングの装着構造に関し、例えば、自動車の自動変速機(AT)に用いられる軸とハウジングとの隙間に介在する潤滑油を封止するためのシールリング及びこのシールリングの装着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用の自動変速機(AT)には、複数のシールリングが用いられている。図8図9に示すような円環状のシールリング100は、変速機の油圧回路内で相対運動する軸300とハウジング200との間に組み付けられ、摺動しながら潤滑油を封止する役割を果たす。
【0003】
このシールリング100には、図8に示すように、シールリング100の内周面100a側の複数箇所に、径方向内側に突出するタブ101が設けられることがある。
このタブ101は、軸300をハウジング200の内部に組み付ける際に、その先端が環状溝301の溝底面に当接することによって、シールリング100の中心が軸中心から大きくずれないようにするためのものである。
【0004】
また、前記シールリング100は、図8に示すように、合口部102が形成される。この合口部102は、シールリング100の一部分をカットしたものであり、軸300への装着時には、合口部102を拡げて装着される。
【0005】
このシールリングとしては、ポリアミド(PA)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等)およびそのアロイ材や、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に代表されるスーパーエンジニアリングプラスチック、ポリベンゾイミダゾール(PBI)などに炭素繊維などの補強材(フィラー繊維と呼ぶ)を配合した材料をリング状に射出成形したものが多く用いられている。
【0006】
また、シールリングの射出成形に関して、特許文献1において、図10に示すように、合口部151のシールリング150上の対向部152からずらした位置に、ゲート153を配置した上で、ゲート153と合口部151との距離が短い方(流動長さT1側)に樹脂溜り154を設けることが提案されている。
【0007】
この構成を採用することにより、特許文献1に示されたシールリング150の製造方法にあっては、ゲート153と合口部151との距離が長い方(流動長さT2側)と、ゲート153と合口部151との距離が短い方(流動長さT1側)との樹脂充填量を同一とすることができ、樹脂を過不足なく充填でき、またバリなどの不具合の発生を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-205003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、合口部の対向部にゲートが配置されている場合であっても、実際に、フィラー繊維を配合した樹脂を射出成形してシールリングを成形すると、合口部近傍の厚みがシールリング本体の他の箇所に比べて厚くなるという課題があった。
具体的に、この事象を図11図12に基づいて説明する。図11(a)は、シールリング本体の合口部近傍以外の箇所における、シールリング本体の軸線と垂直な断面図である。図11(b)は、図11(a)の一部拡大図である。図12(a)は、シールリング本体の合口部近傍における、シールリング本体の軸線と垂直な断面図である。図12(b)は、図12(a)の一部拡大図である。
【0010】
図11(b)に示されるように、シールリング本体の合口部近傍以外の箇所における、フィラー繊維Fは細長く視認され、フィラー繊維Fの軸線がシールリング本体の軸線に対して垂直方向になるように配向されていることがわかる(フィラー繊維Fの軸線が、溶融樹脂の流れの方向と平行に配向されている)。
これに対して、図12(b)では、フィラー繊維Fの軸線が図11(b)のようにシールリング本体の軸線に対して垂直方向に配向された状態は視認できない。
即ち、シールリング本体の合口部近傍におけるフィラー繊維は、フィラー繊維の軸線が溶融樹脂の流れの方向と垂直方向に配向されていることがわかる。
【0011】
上記事象は、金型におけるシールリング本体の合口部の端部に対応する、金型の合口端部に樹脂が衝突して、フィラー繊維の配向に乱れが生じることに起因する。そして、シールリングの合口部近傍では、フィラー繊維が溶融樹脂の流れの方向と垂直方向に配向されるため、その部分の硬化収縮率は他の部分(合口部近傍以外の箇所)の硬化収縮率より小さくなる。その結果、合口部近傍の厚さが、他の部分と比べ厚くなる。
【0012】
このように、合口部近傍の厚みがシールリング本体の他の箇所に比べて厚くなることにより、更にシールリング本体の平面度が悪化し、シールリングのシール性能が低下するという課題が生じる。
尚、シールリング本体の合口部の対向部に対応する金型の部位にゲートが配置され、このゲートからフィラー繊維を配合した樹脂を射出成形して、シールリングを成形する場合において、前記したような樹脂溜りを形成すると、射出成形後に樹脂溜りを精度よく除去しなければならず、工数や材料がより多く必要となり、コストがかかるという課題があった。
【0013】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、フィラー繊維が配合された樹脂製のシールリングにおいて、従来のような射出成形後に除去する樹脂溜りを形成する必要がなく、平面度、シール性が良好なシールリング及びこのシールリングの装着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明に係るシールリングは、ハウジングとその内部に組み付けられる軸との間の環状隙間を封止するシールリングであって、射出成形の際樹脂溜りが形成されない、フィラー繊維が配合された樹脂製のシールリングにおいて、合口部を有する円環状のシールリング本体と、前記シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように形成された複数のタブと、を備え、前記タブは、少なくとも、前記合口部の近傍に形成され、前記合口部において断面形状が変化する位置である合口部端部から、前記合口部端部に最も近い前記タブの端までの長さ寸法が、0.5mm以上、2.5mm以下であることを特徴とする。
【0015】
このように本発明に係るシールリングは、シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように形成された複数のタブを備え、前記タブが少なくとも合口部近傍に形成されているため、シールリングの射出成形の際、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込み、シールリング本体の合口部近傍に対応する金型の領域における金型内圧が低減される。
前記したように、合口部近傍以外の箇所に対し、フィラー配向が乱れている合口部近傍は硬化収縮率が小さくなる傾向にある。
また、合口部近傍では金型内圧が低減され、この金型内圧低減によって硬化収縮率が増加する傾向にある。そのため、合口部近傍では、フィラー配向の乱れによる硬化収縮率の減少と、金型内圧低減による硬化収縮率の増加が相殺される。
その結果、合口部近傍とシールリング本体の他の箇所の硬化収縮率が略同一になり、合口部近傍の厚みとシールリング本体の他の箇所の厚みが略均等となり、シールリングの平面度、シール性を向上させることができる。
また従来のような樹脂溜りが形成されないため、シールリングの射出成形後に、樹脂溜りを除去する必要がなく、工数や材料の削減を図ることができる。
【0016】
また、前記合口部端部から、前記合口部端部に最も近い前記タブの端までの長さ寸法が、0.5mm以上、2.5mm以下であることに特徴がある。
合口部端部から、合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が2.5mmを超える場合には、その長さ寸法が大きくなるため、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込むことによる、金型内圧低減の効果が少ない。
一方、合口部端部から、合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が0.5mm未満であっても、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込むことによる、金型内圧低減の効果を得ることができるが、前記長さ寸法が0.5mm未満の場合、合口部の形状が複雑となり、金型の製作が困難となるため、好ましくない。
【0017】
前記フィラー繊維の長さの寸法は、1000μm以下であることが望ましい。
前記フィラー繊維の長さの寸法が1000μmを超える場合には、射出成形時の収縮異方性が強くなり、好ましくない。また、前記フィラー繊維の長さの平均寸法は、200μm程度であることが望ましい。
【0018】
また、前記合口部近傍に形成されたタブの位置における、前記タブと前記シールリング本体とを合わせた軸線に平行な断面積は、前記タブの左右両側の位置における前記シールリング本体の軸線に平行な断面積よりも大きいことが望ましい。
このように、前記タブと前記シールリング本体とを合わせた軸線に平行な断面積が、前記タブの左右両側の位置における前記シールリング本体の軸線に平行な断面積よりも大きいため、合口部近傍に対応する金型の領域における、金型内圧を低減することができる。
【0019】
また、前記合口部は、前記シールリング本体の一端部と他端部とが相対向し、かつ、前記一端部と他端部には、軸線に平行な断面積が前記シールリング本体の軸線に平行な断面積よりも小さく形成された互いに係合可能な係合凸部または係合凹部が形成されていることが望ましい。
【0020】
このように、合口部の一端部と他端部に、軸線に平行な断面積が前記シールリング本体の軸線に平行な断面積よりも小さな係合凸部または係合凹部が形成されても、シールリングの射出成形の際、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込み、シールリング本体の合口部近傍に対応する、金型の領域の金型内圧が低減される。
そのため、前記したように、合口部近傍以外の箇所に対し、フィラー配向が乱れている合口部近傍は硬化収縮率が小さくなる傾向にあるが、合口部近傍では金型内圧が低減され、この金型内圧低減によって硬化収縮率が増加する傾向にある。
その結果、合口部近傍では、フィラー配向の乱れによる硬化収縮率の減少と、金型内圧低減による硬化収縮率の増加が相殺され、合口部近傍の厚みとシールリング本体の他の箇所の厚みが略均等となり、シールリングの平面度、シール性を向上させることができる。
【0021】
また、前記シールリング本体の周方向に対する前記タブの側面の傾斜角が、100°以上150°以下の範囲内で設定されていることが望ましい。
タブの側面の傾斜角が、100°未満の場合には、タブ内のフィラー繊維の配向が乱れやすくなり、好ましくない。また、タブの側面の傾斜角が、150°を超える場合には、タブの周方向長さが長くなり、合口部近傍以外の箇所についても硬化収縮率が大きくなり、平面度の悪化につながり、好ましくない。
【0022】
また、前記タブの径方向の厚さ寸法は、前記シールリング本体の径方向の厚さ寸法よりも小さく形成されていることが望ましい。
シールリング本体の径方向の厚さ寸法が、タブの径方向の厚さ寸法よりも小さく形成されている場合には、シールリング本体の機械的強度が小さくなり、好ましくない。
【0023】
また、本発明に係るシールリングの装着構造は、上記した、ハウジングとその内部に組み付けられる軸との間の環状隙間を封止するシールリングの装着構造であって、前記シールリング本体は、前記ハウジングの内部に挿入される軸に形成された環状溝に装着され、前記シールリングの装着の際、シールリング本体と軸に芯ずれが発生した場合には、前記シールリング本体の内周面に径方向内側に突出するように形成されたタブの先端が、前記環状溝の溝底面に当接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フィラー繊維を配合した樹脂製のシールリングにおいて、従来のような射出成形後に除去する樹脂溜りを形成する必要がなく、平面度、シール性が良好なシールリング及びこのシールリングの装着構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るシールリングの斜視図である。
図2図2は、図1のシールリングを別の方向から見た斜視図である。
図3図3(a)は、図1図2のシールリングの平面図であり、図3(b)は、該シールリングの外側からみた側面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態のシールリングを軸の環状溝に装着した状態のシールリング本体の軸線と平行な断面図である。
図5図5(a)は、合口部及びその近傍のタブを拡大して示す斜視図であり、図5(b)は、図5(a)のI-I断面図である。
図6図6(a)は、合口部及びその近傍のタブを拡大してみた平面図であり、図6(b)は合口部をシールリングの外側からみた側面図である。
図7図7は、合口部の他の形態を示し、図7(a)は、合口部及びその近傍のタブを拡大してみた平面図であり、図7(b)は合口部をシールリングの外側からみた側面図である。
図8図8は、従来のシールリングの斜視図である。
図9図9は、従来のシールリングを装着した軸をハウジングに組み付けた状態のシールリング本体の軸線と平行な断面図である。
図10図10は、従来のシールリングの平面図である。
図11図11は、従来のシールリングであって、(a)は、シールリング本体の合口部近傍以外の箇所における、シールリング本体の軸線と垂直な断面図、(b)は、(a)の一部拡大図である。
図12図12は、従来のシールリングであって、(a)は、シールリング本体の合口部近傍における、シールリング本体の軸線と垂直な断面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明にかかるシールリング及びこのシールリングの装着構造に係る実施の形態につき、図面に基づいて説明する。本実施の形態におけるシールリングは、例えば、自動車の自動変速機の油圧回路内で相対運動する軸とハウジングの間に組み付けられ、摺動しながら潤滑油を封止する役割を果たすものである。
図1は、本発明の実施の形態に係るシールリングの斜視図であり、図2図1のシールリングを別の方向から見た斜視図である。また、図3(a)は、図1図2のシールリングの平面図であり、図3(b)は、該シールリングの外側からみた側面図である。また、図4は、本発明の実施の形態に係るシールリングを軸の環状溝に装着した状態のシールリング本体の軸線と平行な断面図である。
尚、シールリング本体の軸線とは、本発明の実施の形態に係るシールリングを軸の環状
溝に装着した状態の円環状のシールリングの中心C(円環の中心)を通り、シールリング
の第1シール面を含む平面に対して、垂直方向に延びる線をいう。
【0027】
図示するシールリング1は、ハウジングと軸との間の隙間を封止する、ポリアミド(PA)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等)およびそのアロイ材や、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に代表されるスーパーエンジニアリングプラスチック、ポリベンゾイミダゾール(PBI)などに補強材として炭素繊維などのフィラー繊維を配合した材料により形成された円環状のシールリング本体1Aと、シールリング本体1Aの内周面に複数形成されたタブ10とを備えている。前記タブ10が形成されていない箇所におけるシールリング本体1Aのシールリング本体の軸線と平行な断面は、矩形状に形成されている。
尚、前記シールリング1は、特許文献1に示された樹脂溜りが形成されない、樹脂製のシールリングである。また、このシールリング1には、前記したように、前記樹脂にフィラー繊維が含まれているため、高い耐摩耗性を有する。
【0028】
更に、具体的に説明すると、図4に示すようにシールリング本体1Aのオイルシール側(シール面側)には、第1シール面2を備える。この第1シール面2は、軸20の環状溝21の側壁面(環状溝のオイルシール側の側面)21aと摺動接触し、側壁面21aをシールする。
また、シールリング本体1Aの外周面は第2シール面5である。この第2シール面5は、ハウジング30の内周面31に接触し、シールする。
【0029】
前記したように、図1乃至図3に示すシールリング1の内周面7には、所定間隔を空けて複数(図では6つ)のタブ10が設けられている。
各タブ10は、図3に示すように内周面7よりも径方向内側に突出し、図4に示すようにシールリング1を軸20の環状溝21に装着した際、シールリング本体1Aと軸20に芯ずれが発生した場合には、タブ10の先端部10aが環状溝21の溝底面21bに当接する。
このように、タブ10は、機能の一つとして、軸20をハウジング30の内部に組み付ける際に、シールリング本体1Aの中心Cが軸20の中心から大きくずれないようにするという機能を備えている。
【0030】
また、図1乃至図3に示すようにシールリング1の周方向の一箇所には合口部15(分離部)が形成されており、軸20への装着の際には、この合口部15を分離する方向にシールリング1を拡げることにより軸20の環状溝21に容易に装着する。
前記タブ10は、少なくとも前記合口部15により分離されるシールリング本体1Aの両端近傍にそれぞれ設けられている。
【0031】
具体的には、前記タブ10は、シールリング本体1Aの合口部15の端部(合口部15において断面積が変化する部位)の近傍に、少なくとも設けられている。
これによりシールリング1の射出成形の際に、金型のタブ形成部分にフィラー繊維を含む溶融樹脂が流れ込み、シールリング本体1Aの合口部近傍に対応する金型の領域における、金型内圧が低減される。
また、前記したように、合口部近傍以外の箇所に対し、フィラー配向が乱れている合口部近傍は硬化収縮率が小さくなる傾向にある。この合口部近傍では金型内圧が低減され、この金型内圧低減によって硬化収縮率が増加する傾向にある。
そのため、合口部近傍では、フィラー配向の乱れによる硬化収縮率の減少と、金型内圧低減による硬化収縮率の増加が相殺される。
その結果、合口部近傍とシールリング本体の他の箇所の硬化収縮率が略同一になり、合口部近傍の厚みとシールリング本体の他の箇所の厚みが略均等となり、シールリングの平面度、シール性を向上させることができる。
【0032】
シールリング1を形成する樹脂に含まれるフィラー繊維の長さの寸法は、1000μm以下であることが望ましい。前記フィラー繊維の長さの寸法が1000μmを超える場合には、射出成形時の収縮異方性が強くなり、好ましくない。
また、前記フィラー繊維の長さの平均寸法は、200μm程度であることが望ましい。
尚、フィラー繊維は、上記長さに限定されるものではなく、耐摩耗性の効果を発揮し得る形状、寸法であれば良い。またフィラー繊維として炭素繊維を例示したが、本発明は炭素繊維に限定されるものでなく、例えば、ガラス繊維、CNF(セルロースナノファイバ)であっても良い。
【0033】
続いて合口部15の構造、及びタブ10について詳しく説明する。
図5(a)は、合口部15及びその近傍のタブ10を拡大して示す斜視図であり、図5(b)は、図5(a)のI-I断面図である。また、図6(a)は、合口部15及びその近傍のタブ10を拡大してみた平面図であり、図6(b)は合口部15をシールリング本体1Aの外側からみた側面図である。
【0034】
前記合口部15、即ちシールリング本体1Aの一端部と他端部とが相対向する部位は、軸線に平行な断面積がシールリング本体1Aの軸線に平行な断面積よりも小さく形成された互いに係合可能な係合凸部または係合凹部を有する。
具体的には、シールリング本体1Aの一端側は、シールリング本体1Aの内周面において周方向に壁状に延設された内周側壁15aが形成される。
また、該内周側壁15aの径方向外側において、段差状に周方向に延設された下段部15bが形成されている。前記下段部15bが形成されることにより、その上には上段凹部15cが形成される。
【0035】
一方、シールリング本体1Aの他端側では、シールリング本体1Aの内周面において、前記内周側壁15aが係合可能に形成された内周側凹部15dが形成されている。
また、内周側凹部15dより径方向外側において、前記下段部15bの上に係合可能に形成され、前記上段凹部15cに係合する上段部15eが延設されている。
尚、前記上段部15eが形成されることによって、その下に下段凹部15fが形成され、そこに下段部15bが係合するようになっている。
このように合口部15にあっては、シールリング本体1Aの両端部が段差状に形成され、互いに係合する構造により、合口部15を閉じた状態では、シール面である第1シール面2と非シール面6とが連通しない状態となり、また第2シール面5と非シール面7とが連通しない状態となり、シール性能が向上する。
【0036】
また、図6(a)に示すように、前記したように、タブ10は、シールリング本体1Aの合口部15の端部(合口部15において断面積が変化する部位)の近傍に、少なくとも設けられている。好ましくは、前記合口部15の端部から、前記合口部15の端部に最も近い前記タブ10の端までの長さ寸法L1が、0.5mm以上、2.5mm以下に形成されている。
この合口部15の端部からそれに最も近いタブ10までの長さ寸法L1とは、シールリング本体1Aの両端部が段差状に形成される、即ちシールリング本体1Aの合口部15において断面形状が変化する位置(合口部端部)からそれに最も近いタブ10までの長さ寸法である。
【0037】
そして、合口部端部から、合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が2.5mmを超える場合には、その長さ寸法が大きくなるため、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込むことによる、金型内圧低減の効果が少ない。
一方、合口部端部から、合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が0.5mm未満であっても、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込むことによる、金型内圧低減の効果を得ることができるが、前記長さ寸法が0.5mm未満の場合、合口部の形状が複雑となり、金型の製作が困難となるため、好ましくない。
【0038】
また、前記シールリング本体の周方向に対する前記タブの側面の傾斜角が、100°以上150°以下の範囲内で設定されている。
タブの側面の傾斜角が、100°未満の場合には、タブ内のフィラー繊維の配向が乱れやすくなり、好ましくない。また、タブの側面の傾斜角が、150°を超える場合には、タブの周方向長さが長くなり、合口部近傍以外の箇所についても硬化収縮率が大きくなり、平面度の悪化につながり、好ましくない。
【0039】
さらに、図6(a)に示すように前記タブ10の径方向の厚さ寸法L2は、前記シールリング本体1Aの径方向の厚さ寸法L3よりも小さく形成されている。
シールリング本体の径方向の厚さ寸法L3が、タブの径方向の厚さ寸法L2よりも小さく形成されている場合には、シールリング本体1Aのシール面2の径方向の厚さ寸法が小さくなり、シール性能が低下するため好ましくない。
したがって、シールリング本体1Aのシール性能の観点から、シールリング本体1Aの径方向の厚さ寸法L3は、タブ10の径方向の厚さ寸法L2よりも大きく形成されているのが好ましい。
【0040】
また、図5(b)に示すようにタブ10とシールリング本体1Aとを合わせた軸線に平行な断面積S1は、前記タブ10の左右両側の位置(タブが形成されていない位置)におけるシールリング本体10の軸線に平行な断面積S2よりも大きく形成される。
これにより、シールリング1の射出成形の際、金型のタブ形成部分にフィラー繊維を含む溶融樹脂が流れ込み、合口部近傍に対応する金型の領域における、金型内圧が低減される。
【0041】
このように構成されたシールリング1は、フィラー繊維を含む溶融樹脂を金型(図示せず)内に射出することにより得られる。
前記金型において樹脂が流入するゲートは、シールリング1の合口部15の対向部に対応する金型の部位に形成される。成形されたシールリング1にあっては、図2に示すように、シールリング1上での合口部15の対向部における、内周面7にゲート痕17が形成される。
【0042】
射出ノズル(図示せず)により射出された溶融樹脂は、前記金型のゲートより前記金型内に流入し、左右両側に分かれて所定の金型内圧により合口部15の形成部に向けて流れることになる。
【0043】
また、ゲートから左右両側に流れる溶融樹脂は、前記したように、タブ10に対応する、金型のタブ形成部にも流れ込む。
そして、合口部15に対応する金型の合口部形成部近傍に、タブ形成部が設けられているため、前記タブ形成部を通過する溶融樹脂、即ち、合口部形成部近傍における溶融樹脂の金型内圧は、前記タブ形成部によって低減される。
【0044】
前記したように、合口部近傍以外の箇所に対し、フィラー配向が乱れている合口部近傍は硬化収縮率が小さくなる傾向にある。
また、タブ形成部によって、合口部形成部の近傍における溶融樹脂の金型内圧が低減されるため、この金型内圧低減によって硬化収縮率は増加する傾向にある。
そのため、合口部近傍では、フィラー配向の乱れによる硬化収縮率の減少と、金型内圧低減による硬化収縮率の増加が相殺される。
その結果、合口部近傍の厚みとシールリング本体の他の箇所の厚みが略均等となり、シールリングの平面度、シール性を向上させることができる。
また、従来のような樹脂溜りが形成されないため、シールリングの射出成形後に、樹脂溜りを除去する必要がなく、工数や材料の削減を図ることができる。
【0045】
また、ゲートの位置を合口部の対向部に配置することにより、シールリング本体1Aの左右両側に流れる樹脂の量が同一になり、溶融樹脂の金型内圧が低減されるため、バリなどの発生も防止することができる。
【0046】
また、前記実施の形態においては、図6に示したように合口部15において、シールリング本体1Aの両端部が段差状に形成され、互いに係合する構造としたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではない。
例えば、図7(a)の合口部15の平面図、図7(b)の側面図に示すように構成してもよい。即ち、シールリング内周面において、シールリング本体1Aの一端側に、周方向に壁状に延設された内周側壁15gが形成される。また、該内周側壁15gの径方向外側において、段差状に周方向に延設された係合凸部15hが形成される。前記係合凸部15hが形成されていることにより、その上下には、それぞれ上段凹部15i(係合凹部)、下段凹部15j(係合凹部)が形成される。
【0047】
一方、シールリング本体1Aの他端側では、シールリング内周面において、前記内周側壁15gが係合可能に形成された内周側凹部15kが形成される。
また、前記内周側凹部15kよりも径方向外側において、前記係合凸部15hの上下に係合可能で前記上段凹部15i、下段凹部15jにそれぞれ係合する上段凸部15m(係合凸部)、下段凸部15n(係合凸部)が延設される。
尚、前記上段凸部15mと下段凸部15nとが形成されることによって、その間に中間凹部15p(係合凹部)が形成され、そこに係合凸部15hが係合する。
【0048】
このように合口部15において、シールリング本体1Aの両端部を対向する凹凸状に形成し、互いに係合する構造としてもよい。
この場合においても、合口部15を閉じた状態では、シール面である第1シール面2と非シール面6とが連通しない状態となり、また第2シール面5と非シール面7とが連通しない状態となり、シール性能が向上する。
【0049】
尚、上記実施形態では、図3に示したように、タブ10がシールリング1に6個設けられた場合を示したが、本発明にあっては、特にタブ10が6個に限定されるものではない。
また、上記実施形態において、フィラー繊維が含まれている樹脂でシールリングを射出成形する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィラー繊維を含まない樹脂でシールリングを射出成形する場合にも適用することができる。
【0050】
(実施例1)
射出成形により、下記シールリングを製作した。
このシールリングは、図6に示すようなステップ形状の合口部を有し、材質がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で、外径がφ50mm、内径がφ46mmである。
そして、このシールリングを形成する樹脂に含まれるフィラー繊維の長さ寸法が1000μm以下で、平均長さ寸法が200μm、タブ10の個数は6個で、合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法L1が1mm、タブの径方向の厚さ寸法L2は0.5mm、シールリング本体の径方向の厚さ寸法L3が2mm、タブ側面の傾斜角θが120度である。
そして、マイクロメーターを用いて、シールリングの1本内におけるシールリング本体の10箇所の軸方向の厚さの最大値と最小値を測定し、その差を平面度として求めた。
その結果、平面度は0.014(mm)であった。
【0051】
(実施例2)
合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法L1を0.5mmとした以外、上記した実施例1と同一条件で、射出成形によりシールリングを製作した。
そして、マイクロメーターを用いて、シールリングの1本内におけるシールリング本体の10箇所の軸方向の厚さの最大値と最小値を測定し、その差を平面度として求めた。
その結果、平面度は0.01(mm)であった。
【0052】
(実施例3)
合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法L1を1.5mmとした以外、上記した実施例1と同一条件で、射出成形によりシールリングを製作した。
そして、マイクロメーターを用いて、シールリングの1本内におけるシールリング本体の10箇所の軸方向の厚さの最大値と最小値を測定し、その差を平面度として求めた。
その結果、平面度は0.017(mm)であった。
【0053】
(実施例4)
合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法L1を2.5mmとした以外、上記した実施例1と同一条件で、射出成形によりシールリングを製作した。
そして、マイクロメーターを用いて、シールリングの1本内におけるシールリング本体の10箇所の軸方向の厚さの最大値と最小値を測定し、その差を平面度として求めた。
その結果、平面度は0.019(mm)であった。
【0054】
(実施例5)
実施例5として、合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法L1を0.3mmとし、これ以外は上記した実施例1と同一条件で、シールリングの製作を試みたが、金型の合口端部から合口端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が短く、金型の合口形状が複雑になり、金型の製作を断念した。
【0055】
(比較例1)
比較例1として、実施例1におけるタブを形成しない以外は、実施例1と同様なシールリングを製作した。そして、実施例1と同様に、シールリングの1本内におけるシールリング本体の10箇所の軸方向の厚さの最大値と最小値を測定し、その差を平面度として求めた。
その結果、平面度は0.024(mm)であった。
【0056】
(比較例2)
合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法L1を3mmとした以外、上記した実施例1と同一条件で、射出成形によりシールリングを製作した。
そして、マイクロメーターを用いて、シールリングの1本内におけるシールリング本体の10箇所の軸方向の厚さの最大値と最小値を測定し、その差を平面度として求めた。
その結果、平面度は0.024(mm)であった。
【0057】
上記したように、実施例5では平面度を測定していないが、実施例5のように合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が短い場合にも、溶融樹脂が金型のタブ形成部に流れ込むことによる、金型内圧低減の効果が得られることは推察できる。
しかしながら、実施例5のように合口部端部から合口部端部に最も近いタブの端までの長さ寸法が短くなりすぎると、合口部の形状が複雑となり、金型の製作が困難となるため、金型製作上の観点から好ましくない。
また、タブが少なくとも合口部近傍に形成されている実施例1~4のシールリングと比較例1、2のシールリングと比べると、実施例1~4の方が平面度に優れている。尚、平面度に優れていることから、シール性能も優れていると言える。
よって、タブを少なくとも合口部近傍に形成することにより、平面度、シール性が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 シールリング
1A シールリング本体
2 第1シール面
5 第2シール面
6 非シール面
7 内周面
10 タブ
15 合口部
20 軸
21 環状溝
21a 側面(オイルシール側)
22 隙間
30 ハウジング
31 ハウジング内周面
図1
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