(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び制御装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241129BHJP
F04D 27/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04D27/00 F
F04D27/00 H
(21)【出願番号】P 2021192231
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2022-11-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】本間 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 一哉
(72)【発明者】
【氏名】深美 英夫
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055586(JP,A)
【文献】米国特許第06961363(US,B1)
【文献】特開2019-022106(JP,A)
【文献】特開2017-153050(JP,A)
【文献】特開2012-004759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプに含まれる各部の動作を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記各部と接続されて当該各部の動作を制御するスレーブ回路と、前記スレーブ回路と接続されて当該スレーブ回路を制御するマスター回路と、前記マスター回路と接続されたメモリとを備え、
前記マスター回路は、前記スレーブ回路と定期的に通信を行い、当該通信における通信状態の履歴を取得するものであり、
前記メモリは、前記通信状態の履歴を記憶するものであり、
前記通信状態の履歴は、通信エラーの種類別の回数を含み、
直近に生じた前記通信状態の履歴より前に前記メモリに記憶させていた
前記通信エラーの種類別の回数を含む前記通信状態の履歴を前記メモリから削除するように構成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記通信状態の履歴をもとに、外部にアラームを発報することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記アラームは、所定期間における前記通信エラーの総回数をもとに発報されることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記アラームは、所定期間における前記通信エラーの発生割合をもとに発報されることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記アラームは、前記通信エラーが複数回連続したことをもとに発報されることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記通信状態の履歴は、直近に生じた前記通信エラーにおけるデータの要求内容、データの応答内容、エラーの種類、及び時刻の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
真空ポンプに含まれる各部の動作を制御する制御装置であって、
前記各部と接続されて当該各部の動作を制御するスレーブ回路と、前記スレーブ回路と接続されて当該スレーブ回路を制御するマスター回路と、前記マスター回路と接続されたメモリとを備え、
前記マスター回路は、前記スレーブ回路と定期的な通信を行い、当該通信における通信状態の履歴を取得するものであり、
前記メモリは、前記通信状態の履歴を記憶するものであり、
前記通信状態の履歴は、通信エラーの種類別の回数を含み、
直近に生じた前記通信状態の履歴より前に前記メモリに記憶させていた
前記通信エラーの種類別の回数を含む前記通信状態の履歴を前記メモリから削除するように構成されていることを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、及び真空ポンプに用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や電子顕微鏡、質量分析装置等の機器において、真空チャンバ内を高真空にするために真空ポンプが使用されている。各種の真空ポンプにおいて、特にターボ分子ポンプは、残留ガスが少なく保守が容易である等の点で多用されている。
【0003】
ターボ分子ポンプは、特許文献1に示されているように、外周面に複数段の回転翼が設けられたロータ軸を備えていて、このロータ軸はケーシング内で回転可能に支持されている。またケーシングの内周面には、回転翼間に位置決めされた複数段の固定翼が配置されている。そして、真空チャンバ内をある程度減圧した後、モータでロータを高速回転させると、回転翼と固定翼に衝突したガス分子が運動量を付与され排気され、この排気動作により真空チャンバからポンプ内に吸引されたガス分子を圧縮しながら排気して、真空チャンバ内に所定の高真空度が形成される。
【0004】
ロータ軸を回転可能に支持するにあたっては、例えば5軸制御の磁気軸受が用いられていて、これによりロータ軸は空中に浮上支持かつ位置制御されている。またモータは、ロータ軸を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えていて、各磁極は、ロータ軸との間に作用する電磁力を介してロータ軸を回転駆動させる。
【0005】
磁気軸受は、ロータ軸に電磁力を作用させる電磁石を含んで構成されていて、磁気軸受制御回路(特許文献1では磁気軸受制御部)でこの電磁石を制御することによって、ロータ軸は非接触で支持される。またモータは、ロータ軸との間に作用する電各磁極からの電磁力によってロータ軸を回転駆動するように、モータ制御回路(特許文献1ではモータ駆動制御部)によって制御される。
【0006】
磁気軸受制御回路とモータ制御回路は、制御回路(特許文献1では保護機能処理部)に接続されている。制御回路は、磁気軸受制御回路における電磁石の動作状態とモータ制御回路におけるモータの動作状態が設定された範囲となるようにこれらを制御する。すなわち制御回路は、マスター・スレーブ方式における「マスター回路」に相当し、磁気軸受制御回路とモータ制御回路は、マスター・スレーブ制御における「スレーブ回路」に相当する。また制御回路は、電磁石の動作状態とモータの動作状態を監視し、これらの動作状態が設定された範囲から外れる場合にはアラームを報知する又はターボ分子ポンプを停止させる等の処理を行う機能も備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところでマスター回路とスレーブ回路との間での通信は、外部ノイズ等の影響によってエラーが生じるおそれがある。このような場合においても、通信で使用されるデータは、整合性が適切に保たれるようにソフトウェア設計がなされているため、基本的にはターボ分子ポンプの動作に直接的な影響が及ぶことはない。しかし、各回路のノイズ耐性は機差等によって異なっている可能性があるため、耐性の低い回路が使用された場合にターボ分子ポンプの動作に影響が及ぶことが考えられる。また、各回路は正常であっても、ターボ分子ポンプが使用される環境によっては予想を超えた外部ノイズが作用し、これにより通信エラーが発生してしまうおそれもある。
【0009】
このような点に鑑み、本発明は、真空ポンプに含まれる各部の動作の制御を行うマスター回路とスレーブ回路の通信に関し、その品質の評価を行うことが可能であって、これにより各回路のノイズ耐性等を把握することができ、惹いては動作の安定性をより高めることができる真空ポンプ及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、真空ポンプに含まれる各部の動作を制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記各部と接続されて当該各部の動作を制御するスレーブ回路と、前記スレーブ回路と接続されて当該スレーブ回路を制御するマスター回路と、前記マスター回路と接続されたメモリとを備え、前記マスター回路は、前記スレーブ回路と定期的に通信を行い、当該通信における通信状態の履歴を取得するものであり、前記メモリは、前記通信状態の履歴を記憶するものであり、前記通信状態の履歴は、通信エラーの種類別の回数を含み、直近に生じた前記通信状態の履歴より前に前記メモリに記憶させていた前記通信エラーの種類別の回数を含む前記通信状態の履歴を前記メモリから削除するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
このような真空ポンプは、前記通信状態の履歴をもとに、外部にアラームを発報することが好ましい。
【0012】
また前記アラームは、所定期間における前記通信エラーの総回数をもとに発報されることが好ましい。
【0013】
前記アラームは、所定期間における前記通信エラーの発生割合をもとに発報されるものでもよい。
【0014】
そして前記アラームは、前記通信エラーが複数回連続したことをもとに発報されるものでもよい。
【0015】
前記通信状態の履歴は、直近に生じた前記通信エラーにおけるデータの要求内容、データの応答内容、エラーの種類、及び時刻の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0016】
また本発明は、真空ポンプに含まれる各部の動作を制御する制御装置であって、前記各部と接続されて当該各部の動作を制御するスレーブ回路と、前記スレーブ回路と接続されて当該スレーブ回路を制御するマスター回路と、前記マスター回路と接続されたメモリとを備え、前記マスター回路は、前記スレーブ回路と定期的な通信を行い、当該通信における通信状態の履歴を取得することを特徴とするものであり、前記メモリは、前記通信状態の履歴を記憶するものであり、前記通信状態の履歴は、通信エラーの種類別の回数を含み、直近に生じた前記通信状態の履歴より前に前記メモリに記憶させていた前記通信エラーの種類別の回数を含む前記通信状態の履歴を前記メモリから削除するように構成されているものでもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真空ポンプ及び制御装置によれば、マスター回路はスレーブ回路と定期的な通信を行い、この通信における通信状態の履歴を取得することができる。従って、取得した通信状態の履歴をもとにして通信品質を評価することができ、この評価に基づいてマスター回路とスレーブ回路のノイズ耐性等を把握することが可能になるため、把握したノイズ耐性等に基づいて各種の対策を適確に施して真空ポンプにおける動作の安定性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る真空ポンプの一実施形態を概略的に示した縦断面図である。
【
図2】
図1に示した真空ポンプのアンプ回路の回路図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図6】制御装置に含まれるマスター回路とスレーブ回路に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係る真空ポンプの一実施形態であるターボ分子ポンプ100について説明する。まず、
図1~
図4を参照しながらターボ分子ポンプ100の全体的な構成について説明する。
【0020】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100には、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が備えられている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受115(
図5を参照。
図1に示した後述する電磁石104、105、106A、106Bを含んで構成される)により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0021】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。本実施形態の制御装置(制御手段)200は、
図5に示した磁気軸受制御回路201、モータ制御回路202を含んで構成されている。
【0022】
この磁気軸受制御回路201においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0023】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0024】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が磁気軸受制御回路201に送られるように構成されている。
【0025】
そして、磁気軸受制御回路201において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0026】
このように、磁気軸受制御回路201は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0027】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、モータ制御回路202によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0028】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。モータ制御回路202では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0029】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0030】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0031】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0032】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0033】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0034】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0035】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを本体ケーシング部114へと伝達する。
【0036】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0037】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0038】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0039】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0040】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0041】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0042】
そのため、この問題を解決するために、従来は本体ケーシング部114やベース部129等の外周に環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0043】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0044】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0045】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0046】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0047】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0048】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0049】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0050】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0051】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0052】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0053】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0054】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0055】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0056】
次に、本実施形態の制御装置(制御手段)200について
図5を参照しながら詳細に説明する。本実施形態の制御装置200は、磁気軸受制御回路201、モータ制御回路202、制御回路204、メモリ205を含んで構成されている。
【0057】
磁気軸受制御回路201は、磁気軸受115(本実施形態においては、上述した電磁石104、105、106A、106Bを含んで構成される)の他、上述したセンサ107、108、109と接続されていて、センサ107、108、109で検出されるロータ軸113の位置情報に基づいて、磁気軸受115の動作を制御する。
【0058】
モータ制御回路202は、上述したモータ121(不図示の回転速度センサが組み込まれている)や位相センサ(不図示)と接続されていて、回転速度センサと位相センサで検出されるロータ軸113の回転速度及び位相に基づいて、モータ121の動作を制御する。
【0059】
制御回路204は、磁気軸受制御回路201、及びモータ制御回路202と接続されている。制御回路204は、磁気軸受制御回路201との間、及びモータ制御回路202との間で定期的に通信を行っていて、これにより磁気軸受制御回路201に接続された磁気軸受115の動作を制御し、またモータ制御回路202に接続されたモータ121の動作を制御している。すなわち制御回路204は、マスター・スレーブ方式における「マスター回路」に相当し、磁気軸受制御回路201とモータ制御回路202は、マスター・スレーブ制御における「スレーブ回路」に相当する。なお制御回路204が磁気軸受制御回路201やモータ制御回路202との間で行う通信の間隔は、一例として30ms~100msである。
【0060】
更に制御回路204は、メモリ205とも接続されている。メモリ205は、例えばFeRAMである。なおメモリ205は、FeRAM以外の他の不揮発性メモリ(例えばEEPROM)でもよいし、揮発性メモリ(SRAMやDRAM)でもよい。制御回路204は、後述する「通信状態の履歴」をメモリ205に記憶させ、またメモリ205から呼び出す機能も有する。
【0061】
また制御回路204は、情報出力機器210とも接続されている。情報出力機器210は、例えばターボ分子ポンプ100に取り付けられたLCDであって、ターボ分子ポンプ100に関する各種の情報を文字や画像等で表示し、ユーザーに知覚させることができる。なお情報出力機器210は、LEDのように光を点灯(点滅)させるものでもよい。またLCDやLEDのように視覚によってユーザーに知覚させるものに限られず、他の五感で知覚できる(例えば音を出力してユーザーの聴覚で知覚できる)ものでもよい。
【0062】
ところで本実施形態の制御回路204は、スレーブ回路に相当する磁気軸受制御回路201やモータ制御回路202との間での通信状態の履歴を取得する機能を有する。
【0063】
ここで、「通信状態の履歴」について、
図6を参照しながら詳細に説明する。マスター回路である制御回路204が、スレーブ回路である磁気軸受制御回路201(又はモータ制御回路202)に対して要求内容を含むデータを送信すると、スレーブ回路である磁気軸受制御回路201(又はモータ制御回路202)は、マスター回路である制御回路204に対して応答内容を含むデータを送信する。本実施形態の制御回路204は、マスター回路とスレーブ回路との間で行われた通信の回数をカウントする機能を有していて、マスター回路とスレーブ回路との総通信回数を算出することができる。通信の回数をカウントする方法の一例としては、メモリ205に累積回数を記憶できるようにしておき、制御回路204は、マスター回路とスレーブ回路との間で通信が行われる毎にメモリ205の累積回数をカウントアップする方法が挙げられる。この総通信回数は、「通信状態の履歴」に含まれる。
【0064】
またマスター回路とスレーブ回路との間で発生した通信エラーに関する履歴も「通信状態の履歴」に含まれる。「通信エラー」の種類には、マスター回路の通信素子に異常があってスレーブ回路にデータを送信できない場合のエラー、マスター回路からデータを送信した後にスレーブ回路からのデータがマスター回路で受信できない場合のエラー、スレーブ回路からのデータが使えないものであった場合のエラー、スレーブ回路からのデータは使えるものであるが期待したデータではない(例えばデータに含まれる数値が規定範囲外であった)場合のエラーが含まれる。本実施形態の制御回路204は、上述した通信エラーに関し、所定期間における通信エラーの種類別の回数をカウントしたり、所定期間における全ての通信エラーの総回数をカウントしたりする機能を有する。また制御回路204は、所定期間における通信エラーの発生割合(通信エラーの種類別の回数をマスター回路とスレーブ回路との総通信回数で除したもの、通信エラーの総回数をマスター回路とスレーブ回路との総通信回数で除したもの等)を算出する機能を備えている。なお、「所定期間」とは、ターボ分子ポンプ100を最初に起動させたときから現在までの期間に限られず、ある特定の期間も含む。すなわち、通信エラーの回数等をカウントするにあたっては、ターボ分子ポンプ100を最初に起動させた状態からの通信エラーの回数をカウントしてもよいし、ターボ分子ポンプ100の定期点検を行った後の通信エラーの回数をカウントしてもよい。
【0065】
また制御回路204は、通信エラーが複数回連続したことを検出する機能も備えている。
【0066】
そして「通信状態の履歴」には、直近に生じた通信エラーに関し、マスター回路がスレーブ回路に送信した要求内容を含むデータ、スレーブ回路がマスター回路に送信した応答内容を含むデータ、上述した通信エラーの種類、通信エラーが発生した時刻の少なくとも一つが含まれる。上述したようにメモリ205には、「通信状態の履歴」が記憶される。ここで、全ての通信エラーについてエラー発生時の時刻等を記憶させようとすると、メモリ205に記憶させるデータの容量が膨大になってしまう。このため本実施形態においては、直近に生じた通信エラーに関してのみエラー発生時の時刻等を記憶させる(それ以前に記憶させていたデータはメモリ205から削除する)ことにより、メモリ205に記憶させるデータの容量を最小限に抑えることができる。
【0067】
このような「通信状態の履歴」に関し、制御回路204は、「通信状態の履歴」をもとに外部にアラームを発報する機能も有している。本実施形態においては、所定期間における通信エラーの総回数が所定回数を超えた場合に、制御回路204が情報出力機器210に対してアラームを発報する(例えばターボ分子ポンプ100に異常が生じていることがLCDに表示される)ように構成されている。上述した「所定回数」となる情報は、メモリ205又は不図示の記憶部に閾値として記憶されていて、制御回路204は、通信エラーの総回数がメモリ205等に記憶させた閾値を超えた時に情報出力機器210へ信号を送信し、情報出力機器210からアラームを発報させる。これによりユーザーに、ターボ分子ポンプ100に異常が生じていることを知覚させることができる。
【0068】
なお、制御回路204から情報出力機器210へアラームを発報させる信号は、所定期間における通信エラーの総回数をもとにした場合に限られず、所定期間における通信エラーの発生割合をもとに発報させてもよいし、通信エラーが複数回連続したことをもとに発報させてもよい。
【0069】
上述したように「通信状態の履歴」はメモリ205に記憶されている。すなわち、例えば突発的に発生した外部ノイズによって通信エラーが発生した場合でも、メモリ205に記憶されている「通信状態の履歴」に関するデータを解析することによって通信エラーの発生要因の特定につなげることができるため、外部ノイズに対する有効な対策を行うことができる。またこのような機能を持つ新型のターボ分子ポンプ100を開発する段階においては、各種のテストを通じてマスター回路とスレーブ回路との通信に対するノイズ耐性を把握して通信品質を評価することができるため、開発時からノイズの影響を受けにくい対策を施すことができる。またターボ分子ポンプ100を量産する段階においては、製造工程において機差によるノイズ耐性のばらつきを把握することができるため、量産される各ターボ分子ポンプ100の品質評価項目の一つとして利用することができる。
【0070】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更、組み合わせが可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0071】
例えば本実施形態におけるスレーブ回路は、磁気軸受制御回路201とモータ制御回路202であったが、本発明に係るスレーブ回路は、真空ポンプに含まれる各部の動作を制御するものであればよい。このようなスレーブ回路の一例としては、ターボ分子ポンプ100の情報を外部機器に出力したり、外部機器からの情報をターボ分子ポンプ100に入力したりすることができるEthernet回路が挙げられる。
【符号の説明】
【0072】
100:ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
201:磁気軸受制御回路(スレーブ回路)
202:モータ制御回路(スレーブ回路)
204:制御回路(マスター回路)