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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】草刈機
(51)【国際特許分類】
   A01D 34/86 20060101AFI20241129BHJP
   A01D 34/43 20060101ALI20241129BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20241129BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
A01D34/86
A01D34/43
F16H59/42
F16H59/70
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021207483
(22)【出願日】2021-12-21
(65)【公開番号】P2023092326
(43)【公開日】2023-07-03
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】松岡 潤樹
(72)【発明者】
【氏名】山中 之史
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-129929(JP,A)
【文献】特開2004-218687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/00-34/90
F16H 59/42
F16H 59/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面の走行が可能な草刈機であって、
機体と、
左走行ユニットと右走行ユニットとを有する走行装置と、
変速操作具の操作に基づく前進位置と中立位置と後進位置とを含む変速位置の変更により前記左走行ユニット及び前記右走行ユニットを前進状態と中立状態と後進状態との間で切り替える変速装置を有するトランスミッションと、
前記トランスミッションの前記変速位置を変更する変速制御部と、
前記左走行ユニットの対地速度と前記右走行ユニットの対地速度とに基づいて前記機体の動きを検出する機体動き検出部と、を備え、
前記変速制御部は、前記左走行ユニットと前記右走行ユニットとが前記中立状態であるときに生じる前記機体動き検出部によって検出される前記機体の動きを停止させるために、前記変速位置を、前記走行装置を当該動きに対抗する駆動状態にする踏ん張り変速位置に変更する踏ん張り変速機能を備え、
前記変速操作具の操作に基づいて、前記踏ん張り変速位置から前記前進位置または前記後進位置に変更された場合、前記操作による前記変速位置の変速量に前記踏ん張り変速位置による変速量が加算される変速量加算機能を備えている草刈機。
【請求項2】
前記変速制御部は、前記機体動き検出部によって前記法面上での前記機体の動きが検出された場合、前記機体の動きが消失するまで、前記変速位置を停止用変速位置から最大前進位置方向または最大後進位置方向に変位させ、前記機体の動きが消失する変速位置を踏ん張り変速位置とする請求項1に記載の草刈機。
【請求項3】
前記停止用変速位置は前記中立位置である請求項2に記載の草刈機。
【請求項4】
前記法面上での前記機体の傾斜姿勢を判定する傾斜姿勢判定部を備え、
前記停止用変速位置は、前記傾斜姿勢判定部による前記機体の傾斜姿勢に応じて設定される請求項2に記載の草刈機。
【請求項5】
前記法面上での前記機体の傾斜姿勢を判定する傾斜姿勢判定部を備え、
前記変速量加算機能は、前記傾斜姿勢判定部による前記機体の傾斜姿勢が所定レベル以下になれば停止される請求項1から4のいずれか一項に記載の草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面の走行が可能な草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧式無段変速機を操作するための走行操作レバーが中立位置に操作されても、坂道などの傾斜地では、傾斜下り方向に機体がずれ動くという問題がある。この問題を解決するため、特許文献1では、油圧式無段変速機を操作するための走行操作レバーが中立位置に操作された時に、変速状態が低速前進状態であれば、後進方向に加速するように制御され、変速状態が低速後進状態であれば、前進方向に加速するように油圧式無段変速機を制御する方法が開示されている。
【0003】
HST(hydrostatic transmission)を備えた作業車において、傾斜地でもブレーキを掛けることなしに機体を停車させるため、特許文献2による作業車は、HSTに対する人為操作が解除されると、HSTを設定速度の前進伝動状態に自動的に操作し、その状態を維持する自動操作手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-130557号公報
【文献】特開2002-067727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、走行操作レバーが中立位置における油圧式無段変速機の変速状態だけに基づいて、つまり、傾斜度が異なる傾斜地や草などの密集度が異なる場所における実際の機体の動きとは無関係に、油圧式無段変速機からの駆動力を調節しているので、傾斜地でのずれ動きを、適切に抑制することが困難である。また、特許文献2による作業車においても、実際の機体の動きとは無関係に、HSTを設定速度の前進伝動状態に自動的に操作しているだけであり、傾斜地での実際の機体のずれ動きを適切に抑制することが困難である。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明の課題は、法面での、機体のずれ動きを適切に抑制できる草刈機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による、法面の走行が可能な草刈機は、機体と、左走行ユニットと右走行ユニットとを有する走行装置と、変速操作具の操作に基づく前進位置と中立位置と後進位置とを含む変速位置の変更により前記左走行ユニット及び前記右走行ユニットを前進状態と中立状態と後進状態との間で切り替える変速装置を有するトランスミッションと、前記トランスミッションの前記変速位置を変更する変速制御部と、前記左走行ユニットの対地速度と前記右走行ユニットの対地速度とに基づいて前記機体の動きを検出する機体動き検出部と、を備え、
前記変速制御部は、前記左走行ユニットと前記右走行ユニットとが前記中立状態であるときに生じる前記機体動き検出部によって検出される前記機体の動きを停止させるために、前記変速位置を、前記走行装置を当該動きに対抗する駆動状態にする踏ん張り変速位置に変更する踏ん張り変速機能を備え、前記変速操作具の操作に基づいて、前記踏ん張り変速位置から前記前進位置または前記後進位置に変更された場合、前記操作による前記変速位置の変速量に前記踏ん張り変速位置による変速量が加算される変速量加算機能を備えている。
【0008】
この構成によれば、左変速装置と右変速装置とを中立状態にすることにより機体を法面で停車させようとした時に、機体が不測に動くことを機体動き検出部によって検出されると、左変速装置と右変速装置との変速位置が調整される。この調整により、左走行ユニットと右走行ユニットとが駆動状態となり、機体のずれ動きが抑制される。機体の動きは機体動き検出部によって監視されているので、機体のずれ動きは適切に抑制される。
踏ん張り変速位置は、停止用変速位置から所定変速量(オフセット量)が制御的に加算された変速位置であるので、機体の走行を開始させようとする操縦者によって、手動により、停止用変速位置からこの所定変速量以下の変速位置に変更されると、機体が不測にずれ動く可能性がある。この問題を解消するために、発明の好適な実施形態の1つでは、前記変速操作具の操作に基づいて、前記踏ん張り変速位置から前記前進位置または前記後進位置に変更された場合、前記操作による変速位置による変速量に前記踏ん張り変速位置による変速量が加算される変速量加算機能が備えられている。これにより、機体の走行を開始させようとする操縦者によって操作される変速位置が、踏ん張り変速位置を下回っても、変速量加算機能によって、踏ん張り変速位置以上の変速位置が維持されるので、機体の不測のずれ動きは抑制される。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記変速制御部は、前記機体動き検出部によって前記法面上での前記機体の動きが検出された場合、前記機体の動きが消失するまで、前記変速位置を停止用変速位置から最大前進位置方向または最大後進位置方向に変位させ、前記機体の動きが消失する変速位置を踏ん張り変速位置とする。この構成によれば、機体動き検出部によって機体の動きが検出されなくなるまで、左変速装置と右変速装置との変速位置が、左走行ユニットと右走行ユニットとにより強い踏ん張り力が生じるように、調節される。これにより、機体のずれ動きは、確実に抑制される。
【0010】
傾斜角が小さい法面や、滑り易い草が茂っていない法面では、左変速装置と右変速装置との変速位置を、中立位置に操作すれば、機体は停車する。したがって、踏ん張り制御の基準変速位置としての停止用変速位置は中立位置とすることが好適な実施形態である。しかしながら、滑り易い草が茂っている傾斜角が大きい法面では、踏ん張り制御の基準変速位置となる停止用変速位置は、中立位置から外れることになる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記法面上での前記機体の傾斜姿勢を判定する傾斜姿勢判定部を備え、前記停止用変速位置は、前記傾斜姿勢判定部による前記機体の傾斜姿勢に応じて設定される。
【0011】
【0012】
機体の走行が再開されると、変速量加算機能は、操縦の操作性を悪化させる可能性がある。このため、変速量加算機能が不要となった場合には、この機能は、自動的に停止されることが好ましい。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記法面上での前記機体の傾斜姿勢を判定する傾斜姿勢判定部を備え、前記変速量加算機能は、前記傾斜姿勢判定部による前記機体の傾斜姿勢が所定レベル以下になれば停止される。ここで、傾斜姿勢が所定レベル以下とは、停車した際のずれ動きが発生しないような傾斜姿勢である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】草刈機の右側面図である。
図2】草刈機の平面図である。
図3】草刈機の動力伝達系を示す平面図である。
図4】リモコンを用いた法面での草刈機の種々の走行状況を示す模式図である。
図5】リモコンの正面図である。
図6】草刈機の制御系を示す機能ブロック図である。
図7】制御ユニットにおける各機能部を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図2に、リモコン操縦される草刈機が示されている。なお、図1図2において、「F」は機体前後方向(走行方向)に関して前方向を示し、「B」は後方向を示し、図1において、「U」は機体の鉛直方向(垂直方向)に関して上方向を示し、「D」は下方向を示し、図2において、「R」は機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)に関して右方向を示し、「L」は左方向を示している。
【0015】
〔草刈機の全体構成〕
図1及び図2に示すように、草刈機は、機体1と、機体1を対地支持する左走行ユニット2aと右走行ユニット2bとからなるクローラ型式の走行装置2と、機体1の前部に支持された草刈装置3とを備えている。
【0016】
機体1は、ラダーフレーム状に構成されており、クロスフレームによって連結された右及び左の支持フレームと有する。
【0017】
〔走行装置の構成〕
図1及び図2に示すように、左走行ユニット2aと右走行ユニット2bは、それぞれ、駆動輪10と、複数の転輪11と、誘導輪12と、トラックフレーム13と、ガイド部材と、クローラベルト14とからなる。トラックフレーム13が前後方向に沿って配置され、複数の転輪11がトラックフレーム13に支持されて、誘導輪12がトラックフレーム13の後部に支持されている。右及び左の駆動輪10が、トランスミッション20に支持されている。右の駆動輪10が、側面視で右のトラックフレーム13の前後中間部に対して上側に配置され、左の駆動輪10が、側面視で左のトラックフレーム13の前後中間部に対して上側に配置されている。
【0018】
図2に示すように、機体1には、エンジン4とトランスミッション20が搭載されている。エンジン4の出力軸4aとトランスミッション20の入力軸23が連結されている。図2図3とに示すように、トランスミッション20の前部から、PTO軸24が機体前後方向に延びている。PTO軸24は草刈装置3に動力を伝達する。
【0019】
図3に示すように、トランスミッション20には、左走行ユニット2aへ変速動力を伝達する左変速装置と、右走行ユニット2bへ変速動力を伝達する右変速装置とが、備えられている。左変速装置の出力軸は、左走行ユニット2aの駆動輪10の車軸10aに連結され、右変速装置の出力軸は、右走行ユニット2bの駆動輪10の車軸10aに連結されている。左変速装置及び右変速装置は、HST(hydrostatic transmission)で構成されているので、以下、左変速装置を左HST21と称し、右変速装置を右HST22と称する。但し、左変速装置及び右変速装置は、HSTだけで構成されているのではなく、ギヤ伝動機構も付属している。さらに、このギヤ伝動機構をクラッチ切替式のギヤ変速機構で構成することで、左HST21及び右HST22を省略してもよいし、左HST21及び右HST22とクラッチ切替式のギヤ変速機構の両方が用いられてもよい。
【0020】
〔草刈装置の構成〕
図2に示すように、草刈装置3には、回転駆動される刈刃41を備えた刈取本体部40と、刈取本体部40を地面から所定の高さに持ち上げ支持するように接地して滑走する左右一対の接地支持体30と、が装備されている。
【0021】
刈取本体部40は、多数の刈刃41が支持された回転ドラム部42が、左右方向に沿った軸心周りに回転駆動されるフレルモア型式に構成されている。すなわち、駆動軸の外周に刈刃41が備えられた回転刈刃が構成されている。回転刈刃(刈刃41および回転ドラム部42)は、刈刃ハウジング43に収容されている。
【0022】
刈取本体部40には、草刈装置3に入力された動力を回転ドラム部42に伝達する伝動部44が設けられている。伝動部44は、機体1からの動力の入力を受ける入力伝動ケース部45と、入力伝動ケース部45から入力された動力を回転ドラム部42へ伝動するベルト伝動機構46とを含む。
【0023】
図1図2に示すように、縦長の右及び左のブラケット35が、機体1の左右の支持フレームに連結されている。右及び左の支持アーム31が、左右方向に沿った軸心P1周りに上下に揺動可能にブラケット35の下部に支持されて、前側に向けて延出されている。
【0024】
支持アーム31を上下に揺動操作可能な右及び左の昇降シリンダ33が、ブラケット35の上部と支持アーム31とに亘って接続されており、昇降シリンダ33はブラケット35を介して支持フレームに接続されている。
【0025】
〔法面での走行形態〕
図4に、上述した草刈機が、圃場の周辺に形成されている法面で、草刈作業を行っている様子が示されている。ここでは、草刈機は、無線方式の操縦リモコン9によって操縦されている。図4では、草刈機の走行形態として、法面の等高線に沿って走行する等高線走行、等高線走行をつなぐUターン走行、法面を垂直に上っていく垂直上昇走行(登坂走行)、法面を垂直に下っていく垂直下降走行が示されている。
【0026】
〔操縦リモコン〕
図5に示すように、操縦リモコン9には、中立を含む前進速度と後進速度とを調節する変速操作具91、左旋回と右旋回とを選択する旋回操作具92と、走行モードを選択する走行モード選定スイッチ93が設けられている。変速操作具91は、前進位置、中立位置、後進位置との間で変位可能であり、旋回操作具92は、左旋回位置、中立位置(直進位置)、右旋回位置との間で変位可能である。操作具としてジョイスティック型を採用すれば、1本のジョイスティックで、前後進速度及び左右旋回を草刈機に指令することができる。走行モード選定スイッチ93は、後述する各走行モード(アンチストール走行モード、等高線アシスト走行モード、踏ん張り走行モードなど)のON/OFFを設定する。操縦リモコン9には、その他の操縦に関する操作具(エンジン回転数の調整、エンジン4の始動・停止など)も設けられているが、図5では、省略されている。
【0027】
〔制御系〕
図6図7には、草刈機の制御系を構成する機能部と、各機能部間のデータの流れを示す機能ブロック図が示されている。この制御系は、草刈機の各種動作を制御する制御ユニット100と、制御ユニット100と無線を介して接続可能な操縦リモコン9、制御ユニット100と有線(車載LANなど)を介して接続されている姿勢検出ユニット8を含む。
【0028】
姿勢検出ユニット8は、IMU(Inertial Measurement Unit)81を備えており、このIMU81には、加速度センサ、回転角加速度センサ、ジャイロセンサ、磁界センサ、などが含まれている。姿勢検出ユニット8は、機体1のロール角、ピッチ角、ヨー角などを算出し、姿勢検出データとして、制御ユニット100に送る。
【0029】
実質的にコンピュータユニットとして構成されている制御ユニット100は、草刈機を制御するために、エンジン回転数を調整するエンジン調整機構4A及びエンジン4の付属機器、トランスミッション20、草刈装置3と接続されている。制御ユニット100は、エンジン調整機構4A及びエンジン4の付属機器にエンジン制御信号を送る。また、エンジン回転数は、エンジン回転数検出部として機能する回転数センサ82によって検出され、制御ユニット100に送られる。
【0030】
制御ユニット100は、走行制御を行うために、トランスミッション20に付属している各種動作機器や各種センサと接続している。例えば、制御ユニット100は、左HST21及び右HST22の斜板角を変更する斜板アクチュエータに変速制御信号をトランスミッション20に送信する。この変速制御信号により、トランスミッション20の変速比、つまり左HST21及び右HST22の変速比が調節され、結果的に、機体1は、前進状態、中立状態(静止状態)、後進状態、旋回状態のいずれかに変更される。前進状態、後進状態、旋回状態における車速も変速制御信号により決定される。左走行ユニット2aの対地速度と右走行ユニット2bの対地速度とを検出する対地速度センサ83が設けられており、対地速度に関係するデータを検出する。検出された対地速度データは、制御ユニット100に送られる。例えば、対地速度は、駆動輪10の車軸10aの回転数から算出することも可能であり、その場合、対地速度センサ83は、左走行ユニット2aと右走行ユニット2bの出力速度センサとしても機能する。また、カメラを用いて、対地速度を算出することも可能である。
【0031】
図7は、制御ユニット100の機能部を示す機能ブロック図を示している。制御ユニット100は、エンジン制御ユニット51、作業制御ユニット52、走行制御ユニット6、走行機体姿勢判定ユニット7、対地速度算出部74、機体動き検出部75を備えている。
【0032】
エンジン制御ユニット51は、内部に格納されているエンジン制御プログラムの実行結果、操縦リモコン9からの操縦指令、制御ユニット100の機能部によって生成された指令に基づいて、エンジン制御指令を生成し、エンジン調整機構4Aやエンジン4の付属機器に送る。エンジン制御指令により、エンジン4の始動や停止、エンジン回転数の増減などが行われる。
【0033】
作業制御ユニット52も、内部に格納されている作業制御プログラムの実行結果、操縦リモコン9からの操縦指令、制御ユニット100の機能部によって生成された指令に基づいて、作業制御指令を生成し、草刈装置3に送る。作業制御指令により、草刈装置3の始動や停止、草刈装置3の昇降が行われる。
【0034】
走行機体姿勢判定ユニット7は、姿勢検出ユニット8からの姿勢検出データに基づいて、機体1の種々の姿勢状態を判定する。この実施形態では、走行機体姿勢判定ユニット7は、傾斜角算出部71、傾斜姿勢判定部72、走行状態判定部73を備えている。傾斜角算出部71は、法面の等高線に対する機体1の傾斜角を、ヨー角やピッチ角などから算出する。傾斜姿勢判定部72は、機体1の傾斜姿勢を判定する。この傾斜姿勢は、重力による法面での機体1に作用するずれ動きに強く関係する機体1の傾斜角を示すものであり、ロール角、ピッチ角、ヨー角、あるいは磁気方位角などから求めることができる。走行状態判定部73は、法面を走行中の機体1が直進走行状態であるか、直進走行状態から偏向した不安定直進走行状態であるか、あるいは旋回走行状態であるかを判定する。この走行状態は、実質的には、ヨー角の経時的な監視によって判定することができる。
【0035】
走行機体姿勢判定ユニット7によって生成される種々のデータは走行制御に用いられる。例えば、アンチストール走行モードでは、傾斜姿勢判定部72による傾斜姿勢が用いられ、等高線アシスト走行モードでは、傾斜角算出部71による傾斜角及び走行状態判定部73による走行状態が用いられ、踏ん張り走行モードでは、傾斜姿勢判定部72による傾斜姿勢が用いられる。
【0036】
対地速度算出部74は、走行装置2の対地速度を算出する。この実施形態では、対地速度算出部74は、左走行ユニット2a及び右走行ユニット2bの対地速度を検出する対地速度センサ83からの検出値に基づいて、左走行ユニット2a及び右走行ユニット2bの対地速度を算出し、走行装置2の対地速度を算出する。
【0037】
機体動き検出部75は、対地速度算出部74と連係し、左走行ユニット2a及び右走行ユニット2bの対地速度の監視に基づいて機体1の動きを検出する。
【0038】
走行制御ユニット6は、機体1の走行を制御する機能を有する。この実施形態では、走行制御ユニット6は、変速制御部60と、アンチストール部65と、アンチストール管理部66と、走行モード管理部67とを備えている。
【0039】
変速制御部60は、左変速信号生成部61と、右変速信号生成部62と、等高線アシスト部63と、踏ん張り変速部64とを備えている。左変速信号生成部61は、左HST21の変速比(斜板角)を調節する左変速信号を生成し、右変速信号生成部62は、右HST22の変速比(斜板角)を調節する左変速信号を生成する。
【0040】
(等高線アシスト走行モード)
等高線アシスト部63は、等高線アシスト走行モードにおいて動作し、傾斜角算出部71及び走行状態判定部73と連係し、機体1が法面の等高線に沿って直進走行することをアシストする。具体的には、等高線アシスト部63は、法面の等高線に対する機体1の傾斜角が所定範囲内に収まっている直進走行状態においては、アシストは行わないが、等高線に対する機体1の傾斜角が所定範囲を超えて不安定直進走行状態になると、等高線に対する機体1の傾斜角を減少させて、当該傾斜角が所定範囲に収まるための必要な左HST21及び右HST22の変速比の調整量を、機体1の傾斜角に基づいて算出する。さらに、等高線アシスト部63は、この調整量を含む調節指令を、左変速信号生成部61と右変速信号生成部62とに与える。この調節により、機体1は不安定直進走行状態から直進走行状態に復帰する。実際上は、機体1が法面の等高線に沿って走行する場合、谷側に向いて機体1が傾斜することになるので、その傾斜角に応じて、谷側の走行ユニットのための変速装置(左HST21または右HST22)の回転数を基準として山側の走行ユニットのための変速装置(右HST22または左HST21)の回転数を減少させることで、機体1が山側に向くようにアシストする。
【0041】
法面が通常より滑り易くなっている場合、等高線アシスト部63による等高線アシスト制御(直進走行保持機能)によっても、不安定直進走行状態が解消しない場合では、アシスト量を大きくする必要がある。このために、走行状態判定部73は、所定時間の間、同一方向の偏向を示している不安定直進走行状態を特異不安定直進走行状態と判定する。特異不安定直進走行状態が判定されると、等高線アシスト部63は、谷側の走行ユニットの速度が山側の走行ユニットの速度よりさらに速くなるように、左HST21の変速比と右HST22の変速比と相違を大きくする。
【0042】
上述した等高線アシスト制御は、法面の対角線に沿うような走行、特に、法面の等高線に直交するような角度で登っていく走行や下っていく走行では、不要な旋回を引き起こす可能性がある。このことから、走行状態判定部73が、機体1が等高線に直交する方向に走行する登坂走行状態(下り坂走行状態を含む)を判定した場合、等高線アシスト部63は、等高線アシスト制御(直進走行保持機能)を停止する。
【0043】
(踏ん張り走行モード)
踏ん張り変速部64は踏ん張り変速機能を実現する機能部であり、踏ん張り走行モードにおいて動作し、法面での停車時や、法面での停車から微速発進時に、機体1が不測に谷側に動くことを、走行装置2の駆動力を用いて防止する。つまり、踏ん張り変速部64は、左HST21と右HST22との斜板角が実質的に中立位置であるときに生じる、機体動き検出部75によって検出される法面上での機体1のずれ動きを停止させるために、左走行ユニット2aと右走行ユニット2bとの駆動状態にする。つまり、左走行ユニット2aと右走行ユニット2bとの駆動を通じて、このずれ動きが阻止されるように、左HST21と右HST22との斜板角を調節する。より具体的には、操縦者の操縦により左HST21と右HST22とが停止用変速位置に操作されているにもかかわらず、法面上で機体1が動いていることが機体動き検出部75によって検出された場合、踏ん張り変速部64は、機体1の動きが消失するまで、左HST21と右HST22との変速位置を停止用変速位置から最大前進位置方向または最大後進位置方向に変位させる。この機体1の動きが消失する変速位置が踏ん張り変速位置である。なお、停止用変速位置は、実質的にはHSTの中立位置であるので、中立位置を停止用変速位置として、踏ん張り変速部64は、踏ん張り制御を行う。しかしながら、傾斜角が大きい法面や、滑り易い草が茂っている法面では、踏ん張り制御の基準変速位置となる停止用変速位置は、中立位置から外れることになる。このような場合に対処するため、停止用変速位置は、傾斜姿勢判定部72による機体1の傾斜姿勢やその他の草刈機の状態に応じて設定することも可能である。
【0044】
踏ん張り変速部64には、オプショナルな機能として、変速操作具91の操作に基づいて、踏ん張り変速位置から前進位置または後進位置に変更された場合、当該操作による変速位置による変速量に踏ん張り変速位置による変速量が加算される変速量加算機能が備えられている。これは、踏ん張り変速位置は、停止用変速位置から所定変速量(オフセット量)が制御的に加算された変速位置であるので、操縦者によって、手動により、停止用変速位置からこの所定変速量以下の変速位置に変更されると、機体1が不測にずれ動く可能性がある。これを回避するために、操縦者によって操作される変速位置が、踏ん張り変速位置を下回った場合、変速量加算機能によって、踏ん張り変速位置以上の変速位置が自動的に維持される。操縦者によって操作される変速位置が、踏ん張り変速位置を超えると、変速量加算機能は停止される。また、傾斜姿勢判定部72による機体1の傾斜姿勢がずれ動きが発生しない所定レベル以下になれば、変速量加算機能は、自動的に停止される。
【0045】
(アンチストール走行モード)
アンチストール部65は、アンチストール走行モードにおいて動作し、エンジン制御ユニット51及び傾斜姿勢判定部72に連係し、機体1が法面の等高線に沿って、エンジン4がストールすることなしに走行できるようにアシストする。アンチストール部65は、エンジン負荷によってエンジン4の回転数がスロットル調整器(非図示)などによって設定された所定回転数より低下した場合、変速制御部60にエンジン負荷を軽減するように、左HST21及び右HST22の変速比(斜板角)を調節する負荷軽減指令を変速制御部60に出力し、車速を低減する。
【0046】
アンチストール部65は、機体1の走行状態に応じて、変速比の調整量を算出する変速比調整量算出部651を備えている。エンジン回転数の低下度が大きいほど、エンジン負荷が大きく、エンジンストールの可能性が高くなるので、変速比調整量算出部651は、エンジン回転数の低下度が大きいほど、変速比の調節量を大きくする。また、法面の傾斜が大きく、機体1の傾斜が大きくなるほど、エンジン負荷も大きくなる。このため、機体1の傾斜姿勢を判定する傾斜姿勢判定部72の判定結果に基づいて、アンチストール制御のパラメータ(アンチストール制御を開始するエンジン回転数やHST斜板角制御回路におけるゲイン定数)が変更される。例えば、変速比調整量算出部651は、傾斜姿勢判定部72の判定結果に基づいて、機体1がエンジン負荷に大きく影響を与える傾斜姿勢でその傾斜度が大きいほど、変速比の調節量を大きくする。
【0047】
アンチストール管理部66は、機体1の走行状態に応じて、アンチストール部65による負荷軽減指令の出力を禁止する。操縦者の意思で車速やエンジン回転数の調整が行われる場合、負荷軽減指令の出力は禁止される。また、アンチストール制御が不要とみなして、操縦者が変速操作具91を最速位置に操作した場合、アンチストール管理部66によるアンチストール制御が停止され、負荷軽減指令の出力は禁止される。つまり、変速操作具91がアンチストール制御のON/OFFスイッチとして機能する。
【0048】
走行モード管理部67は、アンチストール走行モード、等高線アシスト走行モード、踏ん張り走行モードを、操縦リモコン9からの走行モード設定指令や制御ユニット100の機能部によって生成された指令に基づいて、設定し、また設定解除する。
【0049】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、草刈機は、草刈装置3を機体1の前方に配置したフロントモーアタイプであったが、これに代えて、草刈装置3を機体1の中央下部に配置するミッドタイプを採用してもよい。さらに、草刈装置3も、ブレードタイプ、リールタイプなど任意のタイプが採用されてもよい。
【0050】
(2)上述した実施形態では、走行装置2は、クローラタイプであったが、これに代えてホイールタイプが採用されてもよいし、クローラとホイールとを組み合わせたタイプが採用されてもよい。
【0051】
(3)上述した実施形態では、左変速装置及び右変速装置にHSTが用いられていたが、HSTに代えて、ベルト式無段変速装置や摩擦無段変速装置、さらにはギヤ式の変速装置が用いられてもよい。
【0052】
(4)図6及び図7の機能ブロック図における機能部は、説明目的であり、各機能部の統合や分割は自由である。また制御ユニット100は、車載LANで接続される複数のユニットに分割してもよい。走行機体姿勢判定ユニット7は、姿勢検出ユニット8に組み込まれてもよい。さらには、姿勢検出ユニット8は草刈機に搭載されていたが、草刈機の外部に配置し、カメラやレーザを用いて機体1の姿勢を検出し、その姿勢検出データを草刈機に送信するようにしてもよい。
【0053】
(5)上述した実施形態では、機体1は無線式の操縦リモコン9で操縦されたが、有線式の操縦リモコン9が用いられてもよい。また操縦リモコン9ではなく、機体1に設けられた操縦装置を用いて管理者が操縦してもよい。
【0054】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、法面の走行が可能な草刈機に適用される。
【符号の説明】
【0056】
1 :機体
2 :走行装置
2a :左走行ユニット
2b :右走行ユニット
3 :草刈装置
4 :エンジン
20 :トランスミッション
21 :左HST(変速装置)
22 :右HST(変速装置)
51 :エンジン制御ユニット
63 :等高線アシスト部
64 :踏ん張り変速部
65 :アンチストール部
66 :アンチストール管理部
67 :走行モード管理部
7 :走行機体姿勢判定ユニット
71 :傾斜角算出部
72 :傾斜姿勢判定部
73 :走行状態判定部
74 :対地速度算出部
75 :機体動き検出部
8 :姿勢検出ユニット
82 :回転数センサ(エンジン回転数検出部)
83 :対地速度センサ
9 :操縦リモコン
91 :変速操作具
100 :制御ユニット


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7