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特許7595609張出局、集約局およびフェーズドアレイアンテナシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】張出局、集約局およびフェーズドアレイアンテナシステム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/022 20170101AFI20241129BHJP
   H04B 7/026 20170101ALI20241129BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20241129BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H04B7/022
H04B7/026
H04B7/06 150
H04B7/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022054568
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023147039
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5G通信インフラを高効率に構成するメトロアクセス光技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二村 真司
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-179785(JP,A)
【文献】特開2016-122895(JP,A)
【文献】特開2001-086057(JP,A)
【文献】特開2013-201556(JP,A)
【文献】特開2001-085925(JP,A)
【文献】特開2009-206735(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026347(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/022-7/026
H04B 7/06
H04B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムに適用される張出局であって、
前記集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、
前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、
前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する制御部と、
前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、
前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備え、
前記集約局から取得した前記制御信号に基づいて、隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴とする張出局。
【請求項2】
前記送信ブランチは、前記信号分割分配部から出力された無線信号の位相を調整する位相調整部をさらに備え、
前記位相調整部は、隣接する送信ブランチのうち一方の位相を初期値から360度を超えない範囲で変化させ、位相誤差を補正することを特徴とする請求項1記載の張出局。
【請求項3】
前記送信ブランチは、前記信号分割分配部から出力された無線信号の位相を調整する位相調整部をさらに備え、
前記位相調整部は、隣接する送信ブランチのうち一方の位相を初期値から180度を超えない範囲で変化させ、前記範囲における無線信号の極大値および極小値の少なくともいずれかに基づいて位相誤差を補正することを特徴とする請求項1記載の張出局。
【請求項4】
光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムに適用される集約局であって、
無線信号および測定信号を生成する信号発生部と、
前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、
前記生成した電気信号を光信号に変換し、前記張出局へ出力する電気/光信号変換部と、
前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、
前記光信号から変換した電気信号に基づいて、前記張出局の各アンテナの振幅と位相を測定する計測部と、
前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御信号を生成する制御演算部と、を備え、
前記制御信号を前記張出局へ送信することによって、前記張出局の隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴とする集約局。
【請求項5】
前記制御演算部は、前記測定結果から、前記張出局内の伝送線路長を推定することを特徴とする請求項4記載の集約局。
【請求項6】
前記推定した伝送線路長から前記張出局内の送信ブランチ間の振幅誤差および位相誤差を補正することを特徴とする請求項5記載の集約局。
【請求項7】
光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムであって、
前記集約局は、
無線信号および測定信号を生成する信号発生部と、
前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、
前記生成した電気信号を光信号に変換し、張出局へ出力する電気/光信号変換部と、
前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、
前記光信号から変換した電気信号に基づいて、振幅と位相を測定する計測部と、
前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御信号を生成する制御演算部と、を備え、
前記張出局は、
前記集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、
前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、
前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する制御部と、
前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、
前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備え、
前記張出局は、前記集約局から取得した前記制御信号に基づいて、隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴とするフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項8】
前記制御演算部は、前記測定結果から、前記張出局内の伝送線路長を推定し、
前記推定した伝送線路長から前記張出局内の送信ブランチ間の振幅誤差および位相誤差を補正することを特徴とする請求項7記載のフェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項9】
光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムであって、
前記集約局は、
無線信号を生成する信号発生部と、
前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、
前記生成した電気信号を光信号に変換し、張出局へ出力する電気/光信号変換部と、
前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、
測定信号を出力し、前記変換した電気信号から振幅と位相を測定する計測部と、
前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御信号を生成する制御演算部と、
前記張出局へ出力する信号に応じて出力元を前記信号発生部または前記計測部に切り替える切替部と、を備え、
前記張出局は、
前記集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、
前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、
前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する制御部と、
前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、
前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備え、
前記張出局は、前記集約局から取得した前記制御信号に基づいて、隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴とするフェーズドアレイアンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張出局、集約局およびフェーズドアレイアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の分野においてフェーズドアレイアンテナ技術が用いられており、特に次世代移動通信システムとなる5G(5th Generation)においては、フェーズドアレイアンテナ技術は必須となる技術である。フェーズドアレイアンテナは、隣接するアンテナ間で同じ無線信号を異なる振幅・位相で放射することで指向性パターンが変化する。そのため、正確な制御には、隣接アンテナ間の振幅誤差と位相誤差の校正が必須となる。
【0003】
特許文献1および特許文献2では、複数のアンテナ素子をアレイ状に配置し、各アンテナ素子に給電する複数の並列送信系統である各送信ブランチの位相と振幅の誤差を校正することで、所望の指向性パターンを得ることを可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-179785号
【文献】特開2016-122895号
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2では、いずれもフェーズドアレイアンテナ送信装置などの張出局側に校正機能を有する。そのため、張出局毎に校正機能を設ける必要があり、消費電力や設置等のコストが掛かる。また、特許文献1では、伝送路差により誤差が生じた場合については考慮されていない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、フォトミキシングの技術を用いて集約局側に校正機能を持たせることで、張出局側の構成を簡素化することを可能としたフェーズドアレイアンテナシステムを提供することを目的とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の張出局は、光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムに適用される張出局であって、前記集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する制御部と、前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備え、前記集約局から取得した前記制御信号に基づいて、隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴としている。
【0008】
このように、フォトミキシングの技術を用いることで、張出局で測定した振幅・位相誤差をアナログ値のまま集約局に送信でき、集約局で振幅・位相誤差の校正を行うことが可能となるため、張出局では誤差計測用の機器を設ける必要がなく、低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0009】
(2)また、本発明の張出局において、前記送信ブランチは、前記信号分割分配部から出力された無線信号の位相を調整する位相調整部をさらに備え、前記位相調整部は、隣接する送信ブランチのうち一方の位相を初期値から360度を超えない範囲で変化させ、位相誤差を補正することを特徴としている。これにより、集約局において、測定した情報を基に隣接する送信ブランチの振幅誤差と位相誤差の補正を行うことができる。
【0010】
(3)また、本発明の張出局において、前記送信ブランチは、前記信号分割分配部から出力された無線信号の位相を調整する位相調整部をさらに備え、前記位相調整部は、隣接する送信ブランチのうち一方の位相を初期値から180度を超えない範囲で変化させ、前記範囲における無線信号の極大値および極小値の少なくともいずれかに基づいて位相誤差を補正することを特徴としている。このように、変化させる位相が180度でよいため、測定時間の短縮を図ることができる。
【0011】
(4)また、本発明の集約局は、光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムに適用される集約局であって、無線信号および測定信号を生成する信号発生部と、前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、前記生成した電気信号を光信号に変換し、前記張出局へ出力する電気/光信号変換部と、前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、前記光信号から変換した電気信号に基づいて、前記張出局の各アンテナの振幅と位相を測定する計測部と、前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御信号を生成する制御演算部と、を備え、前記制御信号を前記張出局へ送信することによって、前記張出局の隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴としている。
【0012】
このように、フォトミキシングの技術を用いることで、1つの集約局で複数の張出局の振幅・位相誤差の校正を行うことが可能となるため、張出局では誤差計測用の機器を設ける必要がなく、低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0013】
(5)また、本発明の集約局において、前記制御演算部は、前記測定結果から、前記張出局内の伝送線路長を推定することを特徴としている。これにより、伝送線路長の差により生じた振幅・位相誤差についても補正することができる。
【0014】
(6)また、本発明の集約局において、前記推定した伝送線路長から前記張出局内の送信ブランチ間の振幅誤差および位相誤差を補正することを特徴としている。これにより、隣接しない送信ブランチ間においても、伝送線路長の差により生じた振幅・位相誤差についても補正することができる。
【0015】
(7)また、本発明のフェーズドアレイアンテナシステムは、光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムであって、前記集約局は、無線信号および測定信号を生成する信号発生部と、前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、前記生成した電気信号を光信号に変換し、張出局へ出力する電気/光信号変換部と、前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、前記光信号から変換した電気信号に基づいて、振幅と位相を測定する計測部と、前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御信号を生成する制御演算部と、を備え、前記張出局は、前記集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する制御部と、前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備え、前記張出局は、前記集約局から取得した前記制御信号に基づいて、隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴としている。
【0016】
このように、フォトミキシングの技術を用いることで、張出局で測定した振幅・位相誤差をアナログ値のまま集約局に送信でき、集約局で振幅・位相誤差の校正を行うことが可能となるため、張出局では誤差計測用の機器を設ける必要がなく、低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0017】
(8)本発明のフェーズドアレイアンテナシステムにおいて、前記制御演算部は、前記測定結果から、前記張出局内の伝送線路長を推定し、前記推定した伝送線路長から前記張出局内の送信ブランチ間の振幅誤差および位相誤差を補正することを特徴としている。伝送線路長の差により生じた振幅・位相誤差についても補正することができる。
【0018】
c(9)また、本発明のフェーズドアレイアンテナシステムは、光伝送路で接続された集約局と複数のアンテナを有する張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムであって、前記集約局は、無線信号を生成する信号発生部と、前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、前記生成した電気信号を光信号に変換し、張出局へ出力する電気/光信号変換部と、前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、測定信号を出力し、前記変換した電気信号から振幅と位相を測定する計測部と、前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御信号を生成する制御演算部と、前記張出局へ出力する信号に応じて出力元を前記信号発生部または前記計測部に切り替える切替部と、を備え、前記張出局は、前記集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する制御部と、前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備え、前記張出局は、前記集約局から取得した制御信号に基づいて、隣接するアンテナ間の誤差を校正することを特徴としている。
【0019】
このように、フォトミキシングの技術を用いることで、張出局で測定した振幅・位相誤差をアナログ値のまま集約局に送信でき、集約局で振幅・位相誤差の校正を行うことが可能となるため、張出局では誤差計測用の機器を設ける必要がなく、低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができる。また、複数の集約局においても、計測部を共有することが可能となるため、集約局においても、低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フォトミキシングの技術を用いることで、フェーズドアレイアンテナシステムの低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態における各送信ブランチ間の位相誤差および振幅誤差に関する誤差補正の手順(校正方法)を示すフローチャートである。
図3】光/電気変換部の出力(正弦波)G1を示す図である。光/電気変換部の出力(正弦波)を示す図である。
図4】信号合成部とアナログ光/電気信号変換における接続の変形例を示すブロック図である。
図5】第2の実施形態における各送信ブランチ間の位相誤差および振幅誤差に関する誤差補正の手順(校正方法)を示すフローチャートである。
図6】光/電気変換部の出力(正弦波)G3を示す図である。
図7】光/電気変換部の出力(正弦波)G4を示す図である。
図8】極大値の数と極小値の数を示す図である。
図9】RF回路の一例を示す図である。
図10】インピーダンスの変化を示す図である。
図11】インピーダンスの変化を示す図である。
図12】第3の実施形態における各伝送線路と信号選択部による伝送線路長差を推定する手順を示すフローチャートである。
図13】第3の実施形態の変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
図14】第4の実施形態の変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
図15】第5の実施形態の変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
すなわち、本発明は、光伝送路で接続された集約局と張出局から構成されるフェーズドアレイアンテナシステムであって、前記集約局は、無線信号および測定信号を生成する信号発生部と、前記生成した無線信号と制御信号を多重し電気信号を生成する信号多重部と、前記生成した電気信号を光信号に変換し、張出局へ出力する電気/光信号変換部と、前記張出局から光信号を受信し、電気信号に変換するアナログ光/電気信号変換部と、前記変換した電気信号から振幅と位相を測定する計測部と、前記測定結果から位相誤差および振幅誤差を算出し、前記制御情報を生成する制御演算部と、を備え、前記張出局は、集約局から受信した光信号を電気信号に変換する光/電気信号変換部と、前記電気信号を、無線信号と制御信号に分離する信号分割分配部と、前記分離された制御信号に基づき、送信ブランチへ送信された無線信号の高周波、振幅または位相を調整する高周波・位相・振幅制御部と、前記送信ブランチから出力された無線信号を合成する信号合成部と、前記合成した無線信号を光信号に変換するアナログ電気/光信号変換部と、を備えることを特徴をとしている。
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。本明細書では、複数のアンテナ素子をアレイ状に配置して、各アンテナ素子に給電する複数の並列送信系統を「送信ブランチ」と称する。
【0024】
[第1の実施形態]
(フェーズドアレイアンテナシステムの構成)
図1は、第1の実施形態に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。第1の実施形態では、張出局2に、複数の並列送信系統として、3つの送信ブランチB1、B2、B3を有する構成例を示すが、これに限定されない。2つの送信ブランチを有する構成であってもよいし、4つ以上の送信ブランチを有する構成であってもよい。
【0025】
第1の実施形態に係るフェーズドアレイアンテナシステムは、集約局1、光伝送路13、張出局2を備える。集約局1は光伝送路13によって、張出局2と接続されている。第1の実施形態では、説明をわかりやすくするため、1つの張出局を一例として示すが、集約局1は、2つ以上の張出局と接続されていてもよい。
【0026】
集約局1は、張出局から送信する無線信号を生成する機能、フェーズドアレイアンテナを制御する機能、制御情報を記憶する機能、制御情報を補正する機能、および、これらに必要な信号を送受信する機能(制御信号の送受信、無線信号の送信、フォトミキシングの出力)を有する。すなわち、集約局1は、信号発生部100、信号多重部111、電気/光信号変換部121、アナログ光/電気信号変換部240、計測部250、制御演算部260、制御情報記憶部270を備える。次に、集約局1を構成する各要素の詳細を説明する。
【0027】
信号発生部100は、後述する張出局2で空間に放射する無線信号を生成、および後述するフェーズドアレイアンテナ(アンテナ部211~213)から放射される指向性パターンを校正するために必要な信号を生成する機能を有する。信号源となる信号発生部100は、例えば、DAC(Digital to Analog Converter)とそれを制御する機能(FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Demand Side Platform)、電子計算機などの組込みシステム)を備えた装置などにより実現できる。なお、信号発生部100は、受信機能を備えていてもよい。また、信号発生部100は、後述する送信ブランチB1~B3ごとに無線信号のON、OFFを切り替えられる機能や、送信ブランチB1~B3ごとに異なる位相や振幅を持つ無線信号を生成する機能を備えていてもよい。
【0028】
信号多重部111は、信号発生部100で生成した無線信号と、後述する制御演算部260で生成した制御信号を多重する機能を有する。信号多重部111は、例えば、RF(Radio Frequency)電力合成器などのアナログ的な方法を組み合わせた構成などにより実現できる。
【0029】
電気/光信号変換部121は、信号多重部111で生成された電気信号を、後述する光伝送路13で伝送可能な光信号に変換する機能を有する。
【0030】
アナログ光/電気信号変換部240は、後述するアナログ電気/光信号変換部231、232で生成された光信号を電気信号に変換する機能を有する。アナログ光/電気信号変換部240は、例えば、フォトダイオードなどにより実現できる。
【0031】
計測部250は、アナログ光/電気信号変換部240にて変換した電気信号を測定し、測定結果を制御演算部260に送信する機能を有する。計測部250は、例えば、DAC、オシロスコープ、FPGAなどにより実現できるが、それらに限らない。その他、電圧などのアナログ値をパソコンで読み込める形式に変換できる装置であれば、何を使用してもよい。なお、信号発生部100に受信機能を備える場合は、信号発生部100の受信機能を利用してもよい。
【0032】
制御演算部260は、信号発生部100を制御する機能、信号発生部100と計測部250を連係動作させて、後述する各送信ブランチB1~B3間の位相誤差と振幅誤差を算出する機能、算出結果を後述する制御情報記憶部270に出力する機能、制御情報記憶部270の情報に基づいて後述する高周波・位相・振幅制御部160を制御するための信号を生成する機能などを有する。制御演算部260は、例えば、電子計算機、またはFPGAなどにより実現できる。
【0033】
制御情報記憶部270は、後述する高周波・位相・振幅制御部160の制御情報を保存する。また、制御演算部260が新たに振幅誤差と位相誤差を算出した場合は、誤差を補正した制御情報に更新する。制御情報記憶部270は、後述する高周波・位相・振幅制御部160に接続してもよい。
【0034】
光伝送路13は光信号を伝送、増幅、分岐する機能を有し、光伝送路131、132を含む。光伝送路131、132は、電気/光信号変換部121、または後述するアナログ電気/光信号変換部231、232より変換される光信号を伝送、増幅、分岐する機能を有する。光伝送路131、132は、例えば、光ファイバ、およびスプリッタなどにより構成される。また、光伝送路131、132は、波長分割多重、時分割多重などの多重化技術を用いることで一体化してもよい。図1では、2本の光ファイバに分けた構成をとっているが、これに限定されない。例えば、WDM(Wavelength Division Multiplexing)などを使用して1本の光ファイバを使用してもよい。
【0035】
張出局2は、フェーズドアレイアンテナを構成する各送信ブランチB1~B3に無線信号を給電する機能、フェーズドアレイアンテナの指向性を制御する機能、各送信ブランチB1~B3の誤差を検出する機能を有する。張出局2は、光/電気信号変換部141、信号分割分配部151、送信ブランチB1~B3、高周波・位相・振幅制御部160、信号合成部221、222、アナログ電気/光信号変換部231、232を備える。次に、張出局2を構成する各要素の詳細を説明する。
【0036】
光/電気信号変換部141は、集約局1の電気/光信号変換部121で生成された光信号を電気信号に変換する機能を有する。光/電気信号変換部141は、例えば、フォトダイオードなどにより実現できる。
【0037】
信号分割分配部151は、電気信号を信号発生部100で生成した無線信号と、制御演算部260で生成した制御信号に分離する機能、および分離した無線信号を後述する送信ブランチB1~B3へ分配して給電する機能を有する。また、信号分割分配部151は、各送信ブランチB1~B3へ必ずしも同じ無線信号を給電する必要はなく、例えば、送信ブランチB1およびB2に同じ無線信号を給電し、送信ブランチB3に別の無線信号を給電するなど、送信ブランチごとに異なる無線信号を給電する機能を持たせてもよい。
【0038】
さらに、同じ信号を単純に分岐するだけではなく、例えば、波長多重や周波数多重などで多重されてきた異なる信号を適当な送信ブランチに割り振る機能を持たせてもよい。また、信号分割分配部151は、送信ブランチB1~B3ごとに給電のON、OFFを切り替える機能を持たせてもよい。信号分割分配部151は、例えば、RF電力分配器などのアナログ的な方法、またはデマルチプレクサなどのデジタル的な方法、またはアナログ的な方法とデジタル的な方法を組み合わせた構成などにより実現できる。
【0039】
高周波・位相・振幅制御部160は、制御演算部260で生成した制御信号に基づき、後述する送信ブランチB1~B3の振幅調整部171~173、位相調整部181~183、高周波調整部191~193を制御する信号を生成する。これにより、アンテナ部211~213から放射される指向性パターンを制御する。高周波・位相・振幅制御部160は、DACとそれを制御する機能(FPGA、DSP、電子計算機などの組込みシステム)を備えた装置などにより実現できる。
【0040】
なお、制御情報記憶部270を高周波・位相・振幅制御部160に持たせることで、制御信号をやりとりする距離が短縮されるため、指向性パターンの切替の高速化が期待できる。このように制御情報記憶部270を制御演算部260の代わりに高周波・位相・振幅制御部160に持たせてもよい。または、制御情報記憶部270を制御演算部260と高周波・位相・振幅制御部160の両方に持たせてもよい。
【0041】
送信ブランチB1~B3は、複数のアンテナ素子をアレイ状に配置して、各アンテナ素子に各々無線信号を給電し、無線信号の位相や振幅を制御する機能を有する。各送信ブランチB1~B3は、同一の構成を有する。送信ブランチB1は、振幅調整部171、位相調整部181、高周波調整部191、信号分配部201、アンテナ部211を備える。送信ブランチB2は、振幅調整部172、位相調整部182、高周波調整部192、信号分配部202、アンテナ部212を備える。送信ブランチB3は、振幅調整部173、位相調整部183、高周波調整部193、信号分配部203、アンテナ部213を備える。
【0042】
アンテナ部211~213は、無線信号を空間に放射し、複数のアンテナを配列することでアレイアンテナを構成する。フェーズドアレイアンテナの場合、個々のアンテナの指向性と各アンテナ間の間隔、無線信号の振幅と位相により指向性パターンが変化する。
【0043】
振幅調整部171~173は、各送信ブランチB1~B3において、無線信号の振幅を調整する機能を有する。振幅調整部171~173は、例えば、可変利得増幅器、あるいは可変減衰器などの回路により実現できる。なお、無線信号の振幅調整は必ずしも送信周波数と同じ周波数帯で行う必要はなく、周波数変換をする場合は、ベースバンド帯、中間周波数帯のいずれに対しても行ってもよい。また、周波数変換にミキサなどを用いる場合は、局部発信器の出力に対して行ってもよい。つまり、図1に示す配置に限らず、後述する高周波調整部191~193の内部に設けてもよいし、または信号分配部201~203と高周波調整部191~193の間に設けてもよいし、または高周波調整部191~193と位相調整部181~183の間に設けてもよい。
【0044】
さらに、これらの方法に加え、光/電気信号変換部へ入力する光パワーと出力されるRF電力には比例関係があるため、光伝送路131にEDFA(Erbium doped fiber amplifier)や光減衰器などを挿入して振幅を調整してもよい。また、信号発生部100と信号多重部111の間で振幅を調整してもよい。また、信号発生部100から直接振幅を調整した信号を出力してもよい。信号発生部100から振幅を変化させた信号を出力させる場合、振幅調整部171~173を設けなくても別段問題はない。なお、信号多重部111と電気/光信号変換部121の間で調整すると、制御信号の振幅調整も変化してしまうため、好ましくない。
【0045】
位相調整部181~183は、各送信ブランチB1~B3において、無線信号の位相を調整する機能を有する。位相調整部181~183は、例えば、位相器、遅延器といった回路により実現できる。なお、無線信号の位相調整は、必ずしも送信周波数と同じ周波数帯で行う必要はなく、周波数変換をする場合は、ベースバンド帯、中間周波数帯のいずれに対しても行ってもよい。
【0046】
また、周波数変換にミキサなどを用いる場合は、局部発信器の出力に対して行ってもよい。つまり、位相調整部181~183は、振幅調整部171~173と同じく、後述する高周波調整部191~193の内部に設けてもよいし、または信号分配部201~203と高周波調整部191~193の間に設けてもよいし、または高周波調整部191~193と位相調整部181~183の間に設けてもよい。
【0047】
さらに、これらの方法に加え、光/電気信号変換部へ入力する光の位相と出力されるRF電力の位相には比例関係があるため、光伝送路131に光位相シフタなどを挿入して位相を調整してもよい。また、アナログRoF(Radio over Fiber)の利用方法として提唱されているように、送信ブランチB1~B3毎に異なる波長の光を割り当てることで位相を調整してもよい。また、信号発生部100と信号多重部111間で調整してもよい。また、信号発生部100から直接位相を調整した信号を出力してもよい。信号発生部100から位相を変化させた信号を出力させる場合、位相調整部181~183を設けなくても別段問題はない。なお、信号多重部111と電気/光信号変換部121の間で調整すると制御信号の位相も変化してしまうため、好ましくない。
【0048】
なお、高周波調整部191~193、位相調整部181~183、振幅調整部171~173の配置順は、図示した順番に限らず、どの順番に並べて配置してもよい。
【0049】
信号分配部201~203は、各アンテナ部211~213の手前のアンテナ端付近に設けられ、信号分配部201~203に給電される無線信号の一部を抜き出す機能を有する。信号分配部201~203は、例えば、無線信号の伝送路に対して電界結合または磁界結合する分布結合線路、または比較的容量の小さいキャパシタ、または不等分配器といった受動回路により実現できる。また、アンテナ部211~213から無線信号を空間に放射した状態で評価しなくてもよい場合は、例えばRFスイッチなどを利用して無線信号を抜き出してもよい。また、直接張出局機能を触れられる環境にある場合は、例えば同軸ケーブルなどを利用して無線信号を抜き出してもよい。
【0050】
信号合成部221は、信号分配部201、202より入力される無線信号を合成する機能を有し、信号分配部201と信号合成部221を接続する伝送線路、および信号分配部202と信号合成部221を接続する伝送線路が同じ長さとなる位置に配置される。
【0051】
信号合成部222は、信号分配部202、203より入力される無線信号を合成する機能を有し、信号分配部202と信号合成部222を接続する伝送線路、および信号分配部203と信号合成部222を接続する伝送線路が同じ長さとなる位置に配置される。
【0052】
信号合成部221、222は、例えばウィルキンソン電力合成器のように、信号分配部201と信号分配部202、または信号分配部202と信号分配部203の分離が確保できるRF電力合成器を使用することにより実現できる。
【0053】
アナログ電気/光信号変換部231、232は、信号合成部221、222より入力される合成された無線信号をデジタル変換することなく電気信号から光信号へ変換する機能を有する。アナログ電気/光信号変換部231、232は、例えば、DML(Directly Modulated Laser)、またはEML(Electro-absorption Modulator Laser)などの変調器を備えたレーザを用いることにより実現できる。
【0054】
アナログ電気/光信号変換部231、232のレーザで同じ波長を同時に利用すると、集約局1のアナログ光/電気信号変換部240で光信号を電気信号に変換した際にノイズが発生する。このため、任意の隣接する2つの送信ブランチを測定するときは、測定対象の送信ブランチ間に設けた信号合成部に接続するアナログ電気/光信号変換部のみ出力させるとよい。そのためには、図示しないアナログ電気/光信号変換部231、232の電源をON、OFFすることで同時に出力しないようにしてもよい。あるいは図示しないアナログ電気/光信号変換部231、232と光伝送路132に設けた光スイッチを切り替えることで同時に出力しないようにしてもよい。あるいは、アナログ電気/光信号変換部231、232で異なる波長のレーザを使用してもよい。
【0055】
張出局2の信号合成部221、222、アナログ電気/光信号変換部231、232、および集約局1のアナログ光/電気信号変換部240を用いることで、隣接する送信ブランチB1、B2、またはB2、B3の各振幅と位相差を集約局1で検出できるようになる。この検出方法について、数式を用いて説明する。説明を簡単にするために、送信ブランチB1、B2のみの場合を考える。すなわち、信号合成部221、アナログ電気/光信号変換部231、アナログ光/電気信号変換部240に焦点をあてて説明する。また、説明を簡単にするために、無線信号は送信ブランチB1、B2で異なる位相と振幅を持つ正弦波を送信する場合を考える。
【0056】
まず、送信ブランチB1の無線信号が信号分配部201で分配され、信号合成部221を経由してアナログ電気/光信号変換部231へ入力されると、アナログ電気/光信号変換部231より式(1)で表される電界E1が出力される。
【0057】
【数1】
ω=2πf
ここで、A1は送信ブランチB1の無線信号の振幅に比例する振幅値、jは虚数、f1は送信ブランチB1の無線信号の周波数、φ1は送信ブランチB1の無線信号の位相に比例する位相値、ωは角周波数である。
【0058】
同様に、送信ブランチB2の無線信号が信号分配部202で分配され、信号合成部221を経由してアナログ電気/光信号変換部231へ入力されると、アナログ電気/光信号変換部231より式(2)で表される電界E2が出力される。
【0059】
【数2】
ここで、A2は送信ブランチB2の無線信号の振幅に比例する振幅値、jは虚数、f2は送信ブランチB2の無線信号の周波数、φ2は送信ブランチB2の無線信号の位相に比例する位相値である。よって、送信ブランチB1、B2を同時に入力すると、式(1)と式(2)が加算された信号が出力される。
【0060】
また、アナログ光/電気信号変換部240に電界を入力すると、電界の絶対値の2乗に比例した成分が電流として出力される。すなわち、アナログ光/電気信号変換部240からは式(3)の電流Iが出力される。
【0061】
【数3】
ここで、送信ブランチB1と送信ブランチB2の無線信号の周波数が等しいとすると、f1=f2となる。このとき、式(3)を計算すると式(4)で示される直流成分が得られる。
【0062】
【数4】
位相値φ1と位相値φ2は、送信ブランチB1と送信ブランチB2の位相成分に比例するため、式(4)より送信ブランチB1と送信ブランチB2の位相差がわかる。また、送信ブランチB1、または送信ブランチB2のどちらか片方のみ送信することで振幅A1、A2を把握できるため、送信ブランチB1と送信ブランチB2の各振幅がわかる。
【0063】
以上で説明したように、信号合成部221、アナログ電気/光信号変換部231、アナログ光/電気信号変換部240を用いることで、隣接する送信ブランチB1、B2の各振幅と位相差を集約局1で検出できるようになる。なお、この説明は隣接する送信ブランチB2、B3に対しても成り立ち、送信ブランチが4つ以上存在する場合も成り立つ。
【0064】
また、無線信号をフーリエ級数展開すると周波数の異なる複数の正弦波の足し算となることから、この説明の考え方は一般的な無線信号についても成り立つ。ただし、周波数の異なる複数の正弦波を掛け合わせると直流成分のみではなく交流成分も生じるため、位相誤差を測定する際はアナログ光/電気信号変換部240と計測部250の間にローパスフィルタなどの直流成分のみ選択する回路を組み合わせる必要がある。また、直接アナログ光/電気信号変換部240と計測部250の間にローパスフィルタを挿入すると、前述した方法で振幅を測定できなくなるため、ローパスフィルタを経由する場合と、経由しない場合を切り替えるようなスイッチを設ける必要がある。
【0065】
式(1)と式(2)のf1とf2で算出される周波数は、直流成分のみ抜き出すことを目的としたローパスフィルタの遮断周波数と比べると、かなり高い値であるため、仮にローパスフィルタを回避せず直接入力すると、出力が全く出なくなる。ゆえに、これを利用することで集約局側に振幅誤差と位相誤差の検出機能をもたせることが可能となる。
【0066】
(誤差補正方法)
図2は、第1の実施形態における各送信ブランチ間の位相誤差および振幅誤差に関する誤差補正の手順(校正方法)を示すフローチャートである。なお、説明を簡単にするため、隣接する送信ブランチB1と送信ブランチB2の場合について説明する。また、説明を簡単にするため、無線信号は送信ブランチB1、B2で異なる位相と振幅を持つ正弦波を送信する場合を考える。つまり、前述した式(1)~(4)と同じ条件の場合を考える。
【0067】
[1]送信ブランチB1の振幅誤差を補正する手順(T11)
はじめに、送信ブランチB1の振幅誤差を補正する手順(T11)について説明する。まず、送信ブランチB2は出力せず、送信ブランチB1のみ無線信号を出力する(T111)。無線信号の出力、停止の制御は、前述したとおり高周波調整部191、192で行ってもよいし、信号分割分配部151で行ってもよいし、信号発生部100で行ってもよい。
【0068】
次に、送信ブランチB1の振幅を測定する(T112)。振幅の測定は、信号発生部100から無線信号(正弦波)を生成し、信号分配部201で分配した無線信号を信号合成部221経由でアナログ電気/光信号変換部231へ送り、アナログ光/電気信号変換部240で電気信号に変換したものを計測部250で測定する。このとき、測定に用いるために信号発生部100から出力した無線信号は、制御演算部260へ記録しておく。
【0069】
次に、送信ブランチB1の推定振幅との誤差を補正する(T113)。推定振幅との誤差を補正は、まず制御情報記憶部270の情報と、先ほど制御演算部260へ記録した無線信号より、信号分配部201で分配した無線信号を信号合成部221経由でアナログ電気/光信号変換部231へ送り、アナログ光/電気信号変換部240で電気信号に変換したものを計測部250で測定した際の振幅推定値を算出する。なお、振幅の推定(T113)は手順T111の前に行ってもよいし、手順T111と手順T112の間に行ってもよい。
【0070】
次に、先ほど計測部250で測定した振幅と、先ほど推定した振幅を比較する。このとき、推定した振幅と測定した振幅の間に誤差があれば、振幅調整部171を用いて振幅を調整して誤差がなくなるように調整する必要がある。すなわち、制御情報記憶部270で保存している振幅調整部171の制御情報を更新する。以上より、送信ブランチB1の振幅誤差補正が完了する。
【0071】
[2]送信ブランチB2の振幅誤差を補正する手順(T12)
次に、送信ブランチB2の振幅誤差を補正する手順(T12)について説明する。まず、手順T121に示すように、送信ブランチB1は出力せず、送信ブランチB2のみ無線信号を出力する。無線信号の出力、停止の制御は、前述したとおり高周波調整部191、192で行ってもよいし、信号分割分配部151で行ってもよいし、信号発生部100で行ってもよい。また、光伝送路131が送信ブランチごとに割り当てられている場合は、光伝送路131で行ってもよい。
【0072】
次に、送信ブランチB2の振幅を測定する(T122)。振幅の測定は、信号発生部100から無線信号(正弦波)を生成し、信号分配部202で分配した無線信号を信号合成部221経由でアナログ電気/光信号変換部231へ送り、アナログ光/電気信号変換部240で電気信号に変換したものを計測部250で測定する。このとき、測定に用いるために信号発生部100から出力した無線信号は、制御演算部260へ記録しておく。
【0073】
次に、送信ブランチB2の推定振幅との誤差を補正する(T123)。推定振幅との誤差を補正は、まず制御情報記憶部270の情報と、先ほど制御演算部260へ記録した無線信号より、信号分配部202で分配した無線信号を信号合成部221経由でアナログ電気/光信号変換部231へ送り、アナログ光/電気信号変換部240で電気信号に変換したものを計測部250で測定した際の振幅推定値を算出する。なお、振幅の推定(T123)は手順T121の前に行ってもよいし、手順T121と手順T122の間に行ってもよい。また、手順T11の前に行ってもよい。
【0074】
次に、先ほど計測部250で測定した振幅と、先ほど推定した振幅を比較する。このとき、推定した振幅と測定した振幅の間に誤差があれば、振幅調整部172を用いて振幅を調整して誤差がなくなるように調整する必要がある。すなわち、制御情報記憶部270で保存している振幅調整部172の制御情報を更新する。以上より、送信ブランチB2の振幅誤差補正が完了する。
【0075】
なお、手順T11と手順T12の順番はどちらが先でもよい。仮に手順T12を先に実施する場合、手順T11の振幅の推定は、先述したタイミングのほかに、手順T12の前に行ってもよい。
【0076】
[3]隣接する送信ブランチB1、B2の位相誤差を求める手順(T2)
最後に、隣接する送信ブランチB1、B2の位相誤差を求める手順(T2)について説明する。まず、制御情報記憶部270の情報を基に制御演算部260より位相調整部181、182を調整し、送信ブランチB1、B2の位相φ1、φ2を初期値(例えば、0度)に設定する(T21)。
【0077】
次に、送信ブランチB1、B2を同時に出力する(T22)。このとき、アナログ光/電気信号変換部から式(4)で示される直流成分が出力されるため、計測部250で出力を測定し(T23)、そのときの位相φ1と振幅の測定値を制御演算部260で記録する(T24)。
【0078】
次に、隣接する送信ブランチB1、B2の内、既に位相誤差を補正済みの位相を固定し、もう一方の位相を変化させる。ただし、まだいずれの送信ブランチの位相も補正されていない場合は、任意の一方の位相を固定する。今回の場合、例えば、位相φ2を固定する。このとき、式(4)より、位相φ1を初期値から360度を超えない範囲で掃引させると最大値と最大値を1つずつもつ出力が得られることがわかる。この特性を得るため、位相φ1が初期値から360度を超えていないか判定する(T25)。
【0079】
判定の結果、位相φ1が初期値から360度を超えていない場合は、送信ブランチB1の位相調整部181を調整し、位相φ1を任意の角度Δφ(例えば、1度)位相を進める(T26)。なお、位相を遅らせてもよい。
【0080】
図3は光/電気変換部の出力(正弦波)を示す図である。上述した手順T23~26を繰り返すことで、図3に示すような正弦波状の測定結果G1が得られ、測定結果G1から振幅が最大となるときの位相φ1maxを決定できる(T27)。
【0081】
一方で、制御情報記憶部270の情報を基に制御演算部260で計算することで、位相φ2に対して位相φ1を変化させたときに計測部250で得られる測定値を推定することができるため、推定値G2が得られる。推定値G2からも測定結果が最大になると予想されるφ1max´を推測できるため、前述した位相φ1maxと比較することで、制御情報記憶部270に記録された制御情報との誤差を判定できる。
【0082】
次に、前述した誤差の判定結果を基に制御情報記憶部270に記録された制御情報を補正する(T28)。なお、ここでは振幅が最大となるときの位相を基に補正を行ったが、振幅が最小となるときの位相φ1minを基に補正を行ってもよい。また、誤差を減らすために振幅が最大となる位相φ1maxと振幅が最小となる位相φ1minの両方で誤差を推定し、両者を平均することで補正を行ってもよい。同様に、正弦波を360度未満の範囲で変化させると、最小値超過、最大値未満の振幅が2度現れることを利用し(例えば、最大値1ボルト、最小値0ボルトの正弦波には、0度から360度未満の範囲に0.5ボルトが2度現れる)、2つの位相を基に誤差を推定し、両者を平均することで補正を行ってもよい。以上より、隣接する送信ブランチB1、B2の位相誤差の補正が完了する。
【0083】
このように、集約局1で測定した情報を基に隣接する送信ブランチB1、B2の振幅誤差と位相誤差の補正を実現できる。なお、式(1)~(4)でも説明したとおり、この説明は隣接する送信ブランチB2、B3に対しても成り立つし、送信ブランチが4つ以上存在する場合も成り立つ。また、無線信号をフーリエ級数展開すると周波数の異なる複数の正弦波の足し算となることから、この説明の考え方は一般的な無線信号についても成り立つ。
【0084】
[第1の実施形態の変形例]
図4は、信号合成部とアナログ光/電気信号変換における接続の変形例を示すブロック図である。第1の実施形態に係るフェーズドアレイアンテナシステムでは、信号合成部221、222で送信ブランチ間の信号を合成した後の経路長は無視できる。これは、式(4)を用いて説明することができる。
【0085】
送信ブランチB1の無線信号の位相に比例する位相値φ1、および送信ブランチB2の無線信号の位相に比例する位相値φ2を、
φ1=ブランチB1の位相+合成後の伝送線路で変化する位相
φ2=ブランチB2の位相+合成後の伝送線路で変化する位相
とすると、式(4)の「φ1-φ2」おいて、合成後の伝送線路で変化する位相同士が打ち消されるためである。
【0086】
このため、図4に示すように、信号合成部221、222からRFの伝送路を引き延ばし、RFスイッチなどで入力対称の信号を切替え、アナログ電気/光信号変換部を共通化してもよい。ただし、周波数が高くなると伝送路による損失が大きくなるため、アナログ光/電気信号変換部240から十分な出力が得られなくなる可能性がある。このため、仮に共通化する場合は6GHz未満(5GのSub6まで)とするか、6GHz以上(例えば、ミリ波)で使用する場合は伝送線路を極力短くしたほうがよい。
【0087】
電気信号から光信号へ変換すると、伝送路による損失が大幅に減る。このため、小型化や低コスト化の観点から見ればアナログ電気/光信号変換部を共通化してもよいが、消費電力(電力ロス)の観点から見れば、第1の実施形態に示したように、信号合成部の直後にアナログ電気/光信号変換部を設けたほうがよい。
【0088】
また、第1の実施形態や本実施形態において、アンテナで受信した無線信号を張出局2から集約局1へ伝送するためにアナログ電気/光信号変換部を別に設けている場合は、アナログ電気/光信号変換部231、232の代わりにそれを利用してもよい。
【0089】
さらに、第1の実施形態や本実施形態において、フォトニックアンテナのように無線信号を光信号に変換するアンテナの場合、上り信号(張出局から集約局方向へ送る無線信号)を伝送するためのアナログ電気/光信号変換部を設けている場合がある。その場合、回路上にスイッチなどを設け、信号合成部の出力を上り信号用のアナログ電気/光信号変換部に入力してもよい。
【0090】
[第2の実施形態]
図5は、第2の実施形態における各送信ブランチ間の位相誤差および振幅誤差に関する誤差補正の手順(校正方法)を示すフローチャートである。第2の実施形態では、校正手順を変更した例を示す。第1の実施形態と同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。また、説明を簡単にするために、第1の実施形態と同じく、隣接する送信ブランチB1と送信ブランチB2の場合について説明する。また、説明を簡単にするため、無線信号は送信ブランチB1、B2で異なる位相と振幅を持つ正弦波を送信する場合を考える。つまり、前述した式(1)~(4)と同じ条件の場合を考える。第2の実施形態における、各送信ブランチ間の位相誤差および振幅誤差に関する誤差補正の手順を図5のフローチャートを用いて説明する。
【0091】
第1の実施形態と同様(T11、T12、T21~T24)に、隣接する送信ブランチB1、B2の内、既に位相誤差を補正済みの位相を固定し、もう一方の位相を変化させる。ただし、まだいずれの送信ブランチの位相も補正されていない場合は、任意の一方の位相を固定する。今回の場合、例えば、位相φ2を固定する。このとき、式(4)より、位相φ1を初期値から180度を超えない範囲で掃引させると、第1の実施形態で述べた振幅が最大となる位相φ1max、または振幅が最小となる位相φ1minのいずれか1つをもつ出力が得られることがわかる。この特性を得るため、位相φ1が初期値から180度を超えていないか判定する(T25b)。
【0092】
判定の結果、位相φ1が初期値から180度を超えていない場合は、送信ブランチB1の位相調整部181を調整し、位相φ1を任意の角度Δφ(例えば、1度)位相を進める(T26)。なお、位相を遅らせてもよい。
【0093】
図6は、光/電気変換部の出力(正弦波)G3を示す図である。図7は、光/電気変換部の出力(正弦波)G4を示す図である。上述した手順T23、24、25b、26を繰り返すことで、図6、または図7に示すような正弦波状の測定結果G3、またはG4が得られ、測定結果G3に最大値が含まれているか判定する(T27b)。
【0094】
判定方法は、測定結果の任意の連続する位相φ1a-Δφ、φ1a、φ1a+Δφに対する振幅B1~B3に対し、B1<B2かつB2>B3を満たすものがあれば極大値を含む、B1>B2かつB2<B3を満たすものがあれば極小値を含むとする。なお、φ1a+2・Δφに対する振幅をB4とするとき、Δφの間隔を十分細かくしない、または計測部250の性能上B2=B3かつB1<B2かつB3>B4のように極大となる振幅が連続して2つ以上得られた場合、連続する2つ以上の振幅の平均を極大値とし、結果に極大値を含むものとみなす。同様に、B2=B3かつB1>B2かつB3<B4のように極小となる振幅が連続して2つ以上得られた場合、連続する2つ以上の振幅の平均を極小値とし、結果に極小値を含むものとみなす。極大値、または極小値のいずれか一方のみ含む場合、その結果を最大値、または最小値とし、そのときの位相をφ1maxまたはφ1minとする。
【0095】
図8は、極大値の数と極小値の数を示す図である。図8に示すように極大値と極小値が両方存在する場合、極大値の数>極小値の数となる場合は極大値同士を比較し、値が大きいものを最大値、このときの位相をφ1maxとする。または、極大値の数<極小値の数となる場合は極小値同士を比較し、値が小さいものを最小値、このときの位相をφ1minとする。この結果、φ1maxを含む場合は測定結果G3に最大値が含まれている、φ1minを含む場合は測定結果G3に最大値が含まれていないとみなす。なお、極大値と極小値の数が同数の場合、第1の実施形態に従い、位相の補正を行うとよい。
【0096】
一方で、制御情報記憶部270の情報を基に制御演算部260で計算することで、位相φ2に対して位相φ1を変化させたときに計測部250で得られる測定値を推定することができるため、推定値G2が得られる。推定値G2からも測定結果が最大になると予想されるφ1max´と、測定結果が最大になると予想されるφ1min´を推測できるため、前述した位相φ1maxまたは位相φ1minと比較することで、制御情報記憶部270に記録された制御情報との誤差を判定できる。
【0097】
次に、前述した誤差の判定結果を基に制御情報記憶部270に記録された制御情報を補正する(T28b1、T28b2)。以上より、隣接する送信ブランチB1、B2の位相誤差の補正が完了する。
【0098】
このように、第1の実施形態と同様の作用効果を、位相φ1を360度掃引する第1の実施形態と比較して半分の掃引ステップで実現できる。また、第1の実施形態と同様に、この説明は隣接する送信ブランチB2、B3に対しても成り立つし、送信ブランチが4つ以上存在する場合も成り立つ。また、無線信号をフーリエ級数展開すると周波数の異なる複数の正弦波の足し算となることから、この説明の考え方は一般的な無線信号についても成り立つ。
【0099】
[第3の実施形態]
第3の実施形態では、第1、第2の実施形態の形態で無視していた信号分配部と信号合成部の経路長差が無視できない場合の補正方法を示す。第1、第2の実施形態と同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0100】
第1の実施形態では、隣接する2つの信号分配部と信号合成部を接続する伝送線路長が同じになるように信号合成部221、222を配置することで伝送線路長差に起因する位相差を無視できたが、製造誤差や外的要因により経路長に差が生じる場合、アナログ光/電気信号変換部240から出力される振幅に誤差が生じる。
【0101】
これについて、数式を用いて説明する。説明を簡単にするために、送信ブランチB1、B2のみの場合を考える。すなわち、信号分配部201、202、信号合成部221、アナログ電気/光信号変換部231、アナログ光/電気信号変換部240に焦点をあてて説明する。また、説明を簡単にするために、無線信号は送信ブランチB1、B2で異なる位相と振幅を持つ正弦波を送信する場合を考える。まず、送信ブランチB1の無線信号が信号分配部201で分配され、信号合成部221を経由してアナログ電気/光信号変換部231へ入力されると、アナログ電気/光信号変換部231より式(5)で表される電界E1が出力される。
【0102】
【数5】
ここで、D1は信号分配部201と信号合成部221間の伝送線路長に起因する位相遅れであり、その他のパラメータについては式(1)で説明したとおりである。同様に、送信ブランチB2の無線信号が信号分配部202で分配され、信号合成部221を経由してアナログ電気/光信号変換部231へ入力されると、アナログ電気/光信号変換部231より式(6)で表される電界E2が出力される。
【0103】
【数6】
ここで、D2は信号分配部202と信号合成部221間の伝送線路長に起因する位相遅れであり、その他のパラメータについては式(2)で説明したとおりである。よって、送信ブランチB1、B2を同時に入力すると、式(5)と式(6)が加算された信号が出力される。
【0104】
また、アナログ光/電気信号変換部240に電界を入力すると、式(3)の電流Iが出力される。ここで、送信ブランチB1と送信ブランチB2の無線信号の周波数が等しいとすると、f1=f2となる。このとき、式(3)を計算すると式(7)で示される直流成分が得られる。
【0105】
【数7】
【0106】
式(4)と比較するとcosの中に位相遅れ成分D1とD2が含まれているため、式(4)で示した送信ブランチB1と送信ブランチB2の位相差を正確に測定することができない。また、基板の損失が大きい場合、あるいは高い周波数を伝送する場合などは、伝送線路伝搬時の減衰に起因する振幅差を無視できない可能性がある。つまり、第1、第2の実施形態で示した手順で補正を行うと、各送信ブランチの振幅誤差を正確に補正できない可能性がある。このため、信号分配部201と信号合成部221間の伝送線路長と、信号分配部202と信号合成部221間の伝送線路長を推定する必要がある。そこで、各線路長を推定する方法について以下に説明する。
【0107】
一般に、任意のRF回路の反射係数をFFT(Fast Fourier Transform)することでTDR(Time Domain Reflectometry)解析を行うことができ、その結果からRF回路の伝送線路長などを推定することができる。
【0108】
一方、第1の実施形態で示した構成は集約局1と張出局2の間に電気/光信号変換部121と光/電気信号変換部141が入っており、これらに双方向性はない。このため、反射係数を測定することができず、集約局1を用いて張出局2の各伝送線路長を求めることはできない。そこで、信号発生部100から無線信号を送信し、信号分配部201で折り返し、計測部250で測定した透過係数をFFTすることで各伝送線路長を推定する。
【0109】
図9は、RF回路の一例を示す図である。図9のRF回路は入力ポートP1~P4、マイクロストリップラインL1、L2、方向性結合器C1を含む。入力ポートP1~P4はそれぞれインピーダンスが50オームの信号源、または測定器、または負荷を接続する。また、マイクロストリップラインL1、L2、方向性結合器C1の線路幅はインピーダンスが50オームになるように設計する。また、マイクロストリップラインC1の線路間の間隔は、送信する無線信号の波長に対して40分の1倍である。また、マイクロストリップラインL1、L2の線路長は送信する無線信号の波長の2倍である。なお、これらのパラメータはあくまで一例であり、実際に実装する際はこれらと同じ値を使用する必要はない。このとき、入力ポート1から4に対する透過係数をFFTすると、図10に示すような特性が得られる。
【0110】
図10図11は、インピーダンスの変化を示す図である。図10に示すように、伝送線路中に伝送線路以外の装置が間に入るとFFT後の結果に特徴的な変動である非連続点が現れる。例えば、方向性結合器を挿入した場合は、図10のようなピークが生じる。
【0111】
次に、マイクロストリップラインL2の長さLを送信する無線信号の波長と同じ長さに変更し、入力ポート1から4に対する透過係数をFFTすると、図11に示すような特性が得られる。図11に示すように、図10と比較すると、伝送線路長が変化するとピークの位置も変化する。
【0112】
これを利用することで、透過係数をFFTした結果を読み解くことで伝送線路長の推定を実現できる。ただし、実際には信号発生部100から計測部250の間に様々な装置が含まれるため、FFTした結果はさらに複雑になる。よって、透過係数から伝送線路長を推定する場合は、各装置の透過係数を事前にFFTして各装置の特徴を把握しておき、グラフから特徴を読み取ることで伝送線路長を計算により推定する、または事前に信号発生部100から計測部250の間の装置を回路シミュレーションソフト上に再現し、実測したFFTと回路シミュレーションにより得られたFFTの結果を比較することで伝送線路長を推定する、または機械学習を用いることでFFTの結果の特徴量から伝送線路長を推定するとよい。または、前述した推定方法を複数組み合わせることで伝送線路長の推定精度を上げてもよい。
【0113】
(各伝送線路と信号選択部による伝送線路長差の推定方法)
図12は、第3の実施形態における各伝送線路と信号選択部による伝送線路長差を推定する手順を示すフローチャートである。説明を簡単にするために、送信ブランチB1の場合について説明する。
【0114】
まず、制御演算部260により信号発生部100と計測部250を連係動作させる。これにより、ベクトルネットワークアナライザのような機能を模擬できるようにする。すなわち、信号発生部100から測定信号を発生し、計測部250で振幅と位相を測定することで透過係数の複素数を測定できるようにする。この際、例えば信号発生部100と計測部250をSOLT(Short-Open-Load-Thru)校正、TRL(Thru-Reflect-Line)校正などを行うことで、測定器起因の位相誤差と振幅誤差を除去しておく。
【0115】
次に、信号発生部100から前述した方法で送信ブランチB1のみ測定信号を送信する(T31)。次に、信号発生部100から信号分配部201を経由して伝搬してきた測定信号を計測部250で測定する(T32)。この測定値が透過係数となるため、測定値をFFTする(T33)。FFTした結果を基に前述した方法で各位置の伝送線路長を求める(T34)。
【0116】
このように、FFTした結果を基に前述した方法で各位置の伝送線路長を求めることで、伝送線路291と信号選択部310を合わせた伝送線路長の推定を実現できる。なお、位相遅れ成分D1と減衰α1は、伝送線路291と信号選択部310を合わせた伝送線路長(d)に、送信ブランチB1を実装している基板の位相定数(β)と減衰定数(α)を乗算することで、求める(D1=β・d、α1=α・d)ことができる。
【0117】
よって、第1、第2の各実施形態で手順T11の振幅誤差補正を行う際は減衰α1を考慮した補正を制御演算部260で行い、手順T2で位相誤差補正を行う際は位相遅れ成分D1を考慮した補正を制御演算部260で行う。
【0118】
以上より、伝送線路291と信号選択部310を合わせた伝送線路長の補正が完了するため、伝送線路長の影響を反映した校正手順を実施できる。なお、図12の手順は他の送信ブランチに対しても成り立つ。よって、図12の補正を加えた後、第1、第2の各実施形態と同様の構成処理を行うことで、各実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0119】
[第3の実施形態の変形例]
図13は、第3の実施形態の変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。第3の実施形態の変形例では、第1の実施形態とは張出局2の一部構成が異なる。第1の実施形態と同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0120】
張出局2は、光/電気信号変換部141、信号分割分配部151、送信ブランチB1~B3、高周波・位相・振幅制御部160、伝送線路291、292、293、信号選択部310、信号合成部220、アナログ電気/光信号変換部230を備える。
【0121】
伝送線路291~293は、信号分配部201~203で抜き出した無線信号の一部を信号選択部310へ伝送する機能を有する。伝送線路291~293は、例えば、同軸ケーブル、またはマイクロストリップライン、または導波管といった伝送線路により実現できる。
【0122】
信号選択部310は、伝送線路291~293の無線信号の内、位相誤差と振幅誤差を補正したい任意の2つの送信ブランチの無線信号を選択し、信号合成部220へ入力する機能を有する。信号選択部310は、例えば、マトリクススイッチのようなRFスイッチを用いることで実現できる。
【0123】
なお、伝送線路291~293の分離が確保できるRF電力合成器で、入力ポートを伝送線路の数だけ用意できる場合は、第1の実施形態で述べた方法を用い、位相誤差と振幅誤差を補正したい任意の2つの送信ブランチのみ給電する操作を行うことで、信号合成部220へ2つの送信ブランチの無線信号を入力できるため、信号選択部310を設けなくても別段問題はない。
【0124】
伝送線路291~293と信号選択部310により生じる伝送線路差を第3の実施形態で説明した方法を用いて補正することにより、前述した通り、隣接しない送信ブランチとの振幅・位相誤差を補正することができるようになる。
【0125】
[第4の実施形態]
(フェーズドアレイアンテナシステムの構成)
図14は、第4の実施形態の変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。第4の実施形態では、集約局1の別の形態を示す。第1~3の実施形態と同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0126】
計測部251は、第1~3の実施形態で信号発生部100から出力していた測定信号を出力する機能と、第1~3の実施形態で計測部250にて測定していた信号を測定可能な機能を有する。計測部251は、例えば、DACとADCとそれを制御する機能(DPGA、DSP、電子計算機など)を備えた装置、あるいはベクトルネットワークアナライザ、あるいはテスト用の信号源とオシロスコープをRFスイッチで切り替えられるようにした装置などにより実現できる。
【0127】
これにより、信号発生部100には無線信号のみ出力可能で、測定信号を出力する機能を備えない装置を使用可能である。なお、計測部251から出力する測定信号は信号発生部100から出力される無線信号と同じものを出力してもよいし、正弦波などの専用の信号を出力してもよい。ただし、専用の信号を出力する場合は、信号発生部100から出力する無線信号と計測部251から出力する無線信号の中心周波数を揃える必要がある。
【0128】
切替部301は、信号多重部111へ入力する信号を信号発生部100、または計測部251に切り替える機能を有する。切替部301は、例えば、RFスイッチなどにより実現できる。
【0129】
(誤差補正方法)
第4の実施形態における校正手順(校正方法)について説明する。初めに、切替部301を計測部251側に切り替える。次に、信号発生部100の代わりに計測部251から計測信号を出力し、第1の実施形態、または第2の実施形態の校正手順に沿って位相誤差と振幅誤差を補正する。なお、校正手順を実施する際、制御演算部260は信号発生部100と計測部250の代わりに計測部251と連係動作を行う。最後に、切替部301を信号発生部100側に切り替えることで、位相誤差と振幅誤差を補正した結果を反映して空間に無線信号を放射可能である。
【0130】
なお、式(7)から明らかなように、各送信ブランチへ出力する計測信号は同じ計測部251から出力されるため、位相差を測定する際は信号発生部100から計測信号を出力した際と同じ位相差が得られる。また、本実施形態で説明した集約局1は、第3の実施形態に適用することも可能であるし、第1、第2の実施形態と組み合わせることも可能である。よって、第1~3の実施形態と同様の作用効果を、信号発生部100には無線信号のみ出力可能で、測定信号を出力する機能を備えない装置を用いても実現できる。
【0131】
また、図示しないが、複数の張出局があり、それらに対応する複数台の信号発生部が存在する場合、多ポートの切替部301を用いて計測部251を共通化することで、1台の計測部251を使用して複数個所の張出局を校正することも可能である。これにより、少ない台数の計測部251を用いて第1~3の各実施形態を実現できる。すなわち、第1~3の各実施形態と比較して計測部の数を減らせるため、集約局も低コスト、小型化、低消費電力で実現できる。
【0132】
[第5の実施形態]
(フェーズドアレイアンテナシステムの構成)
図15は、第5の実施形態の変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。第5の実施形態では、集約局の別の形態を示す。第1~4の実施形態と同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0133】
集約局1は主に計測部により構成される集約局1a、主に信号発生部、制御演算部、制御情報記憶部などから構成される集約局1b、主に光スイッチにより構成される集約局1cを含む。なお、電気/光信号変換部121a、121bは電気/光信号変換部121と同じ機能を有する。また、集約局1a~1cは同じ建物内に設けてもよいし、それぞれを別の建物に分割して設けてもよい。当然、集約局1a~1cのうち一部の機能を同じ建物内に設け、残りの機能を別の建物に設けてもよい。また、集約局1cを光伝送路13に組み込んでもよい。
【0134】
光スイッチ320は、光伝送路131へ入力する信号を電気/光信号変換部121a、または電気/光信号変換部121bへ切り替える機能を有する。光スイッチ320は、例えば、メカニカル方式、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式、光導波路方式の光スイッチを用いて実現できる
【0135】
(誤差補正方法)
第5の実施形態における校正手順(校正方法)について説明する。初めに、光スイッチ320を電気/光信号変換部121a側に切り替える。次に、信号発生部100の代わりに計測部251から計測信号を出力し、第1の実施形態、または第2の実施形態の校正手順に沿って位相誤差と振幅誤差を補正する。なお、校正手順を実施する際、制御演算部260は信号発生部100と計測部250の代わりに計測部251と連係動作を行う。なお、集約局1aと集約局1bを離れた場所に設置する場合、計測部251と制御演算部260の連携は、例えばイーサネットなどを用いて行う。最後に、光スイッチ320を電気/光信号変換部121b側に切り替えることで、位相誤差と振幅誤差を補正した結果を反映して空間に無線信号を放射可能である。
【0136】
なお、式(7)から明らかなように、各送信ブランチへ出力する計測信号は同じ計測部251から出力されるため、位相差を測定する際は、信号発生部100から計測信号を出力した際と同じ位相差が得られる。また、本実施形態で説明した集約局1は、第3の実施形態に適用することも可能であるし、第1、第2の実施形態と組み合わせることも可能である。よって、第1~3の実施形態と同様の作用効果を、信号発生部100には無線信号のみ出力可能で、測定信号を出力する機能を備えない装置を用いても実現できる。
【0137】
また、図示しないが、複数の張出局があり、それらに対応する複数台の信号発生部が存在する場合、多ポートの光スイッチ320を用いて計測部251を共通化することで、1台の計測部251を使用して複数個所の張出局を校正することも可能である。なお、第4の実施形態と異なり、計測部251をRF領域ではなく光領域で切り替えを行うため伝送路上での損失が少なく、第4の実施形態よりも信号発生部100から離れた位置に計測部251を設置できるようになる。よって、1台の計測部251で賄える張出局の数が増える。これにより、第4の実施形態よりも集約局側をさらに低コスト化、小型化、低消費電力化できる。
【0138】
以上説明したように、上記実施形態によれば、集約局に校正機能を持たせることによって、フェーズドアレイアンテナシステムの構成を簡素化でき、その結果、張出局の低消費電力化、小型化、低コスト化を図ることができるすることが可能となる。
【符号の説明】
【0139】
1、1a、1b、1c 集約局
2 張出局
13、131、132 光伝送路
100 信号発生部
111 信号多重部
121、121a、121b 電気/光信号変換部
141 光/電気信号変換部
151 信号分割分配部
160 高周波・位相・振幅制御部
171、172、173 振幅調整部
181、182、183 位相調整部
191、192、193 高周波調整部
201、202、203 信号分配部
211、212、213 アンテナ部
220、221、222 信号合成部
230、231、232 アナログ電気/光信号変換部
240 アナログ光/電気信号変換部
250、251 計測部
260 制御演算部
270 制御情報記憶部
291、292、293 伝送線路
301 切替部
310 信号選択部
320 光スイッチ
B1、B2、B3 送信ブランチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15