(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】性能向上策提示システム及び性能向上策提示方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20241129BHJP
G06F 119/20 20200101ALN20241129BHJP
【FI】
G06F30/27
G06F119:20
(21)【出願番号】P 2022151379
(22)【出願日】2022-09-22
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 拓夢
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 英男
(72)【発明者】
【氏名】仲田 充
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 信幸
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一朗
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-367965(JP,A)
【文献】特開2020-095377(JP,A)
【文献】特開2021-144481(JP,A)
【文献】特開2016-006587(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108509722(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108830005(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造設計の対象である対象物に対して過去に行われた構造設計の実績値を含む設計パラメータと、前記設計パラメータに基づいて構造解析が行われた前記対象物の構造性能の指標である解析値とを、機械学習の学習用データとして持つ学習用データ部と、
前記学習用データ部から読み出した前記設計パラメータ及び前記解析値を機械学習して得られる予測モデルを用いて、設計変更により入力された設計パラメータから前記対象物の構造性能の指標を予測し、前記予測モデルが予測した前記構造性能の指標に寄与する結果の説明性を表す解釈可能性を計算し、前記解釈可能性から求めた、前記対象物の性能を向上するための性能向上策を、前記予測モデルが予測した前記構造性能の指標と共に提示する計算部と、を備える
性能向上策提示システム。
【請求項2】
前記学習用データ部は、
過去に行われた対象物に対する構造設計の実績値である、前記設計パラメータ及び前記解析値を格納する設計・解析実績データベースと、
前記設計・解析実績データベースから前記対象物ごとに抽出された設計変更前の前記設計パラメータ及び前記解析値、並びに設計変更後の対象物に対する性能向上策を格納する性能向上策学習情報データベースと、を有する
請求項1に記載の性能向上策提示システム。
【請求項3】
前記計算部は、
前記設計・解析実績データベースから読み出した、設計変更前の前記設計パラメータ及び前記解析値に基づいて機械学習を行って第1予測モデルを作成し、前記第1予測モデルにより、前記構造性能の指標を予測する性能予測部と、
前記性能予測部により予測された前記構造性能の指標を予測結果として出力する予測結果出力部と、を有する
請求項2に記載の性能向上策提示システム。
【請求項4】
前記計算部は、
前記設計・解析実績データベースから読み出した、設計変更前の前記設計パラメータ及び前記解析値に基づいて機械学習を行って第2予測モデルを作成し、前記第2予測モデルにより、前記第1予測モデルの特徴量の重要性、前記予測結果に影響する前記第1予測モデルの説明性、及び前記解釈可能性を計算する解釈可能性計算部を有する
請求項3に記載の性能向上策提示システム。
【請求項5】
前記計算部は、
前記性能向上策学習情報データベースから読み出した、設計変更前の前記設計パラメータ、設計変更後の前記設計パラメータ、及び前記性能向上策に基づいて機械学習を行って第3予測モデルを作成し、設計変更前の前記設計パラメータ及び設計変更後の前記設計パラメータと、設計変更前の前記解析値に対する設計変更後の前記第1予測モデルが予測した前記構造性能の指標の偏差とを基にして、前記第3予測モデルにより前記性能向上策を計算する性能向上策計算部と、
前記解釈可能性、及び前記性能向上策を出力する性能向上策出力部と、を有する
請求項3に記載の性能向上策提示システム。
【請求項6】
前記対象物は、制御盤、又は前記制御盤に類似する構造物である
請求項5に記載の性能向上策提示システム。
【請求項7】
前記性能予測部が前記構造性能の予測対象とする前記構造性能の指標は、前記対象物の固有振動数、前記対象物の重量、又は前記対象物に実装される部品の実装部品密度のいずれかである
請求項5に記載の性能向上策提示システム。
【請求項8】
構造設計の対象である対象物に対して過去に行われた構造設計の実績値を含む設計パラメータと、前記設計パラメータに基づいて構造解析が行われた前記対象物の構造性能の指標である解析値とを、機械学習の学習用データとして持つ学習用データ部から読み出した前記設計パラメータ及び前記解析値を機械学習して予測モデルを得るステップと、
前記予測モデルを用いて、設計変更により入力された設計パラメータから前記対象物の構造性能の指標を予測するステップと、
前記予測モデルが予測した前記構造性能の指標に寄与する結果の説明性を表す解釈可能性を計算するステップと、前記解釈可能性から求めた、前記対象物の性能を向上するための性能向上策を、前記予測モデルが予測した前記構造性能の指標と共に提示するステップと、を含む
性能向上策提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性能向上策提示システム及び性能向上策提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械学習を活用した製品設計が研究されている。製品開発においては、製品に対する複数の目的変数(特性)が与えられた状況で、設計変数に応じて変化する複数の特性を向上させるために、複数の目的変数の最適化が行われる。製品等の設計プロセスにおいて、目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を低負荷で可能とするための特許文献1に記載の技術が知られている。
【0003】
この特許文献1には、「複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目のそれぞれについて設定された目標値を満たすような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置」について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術を用いることで、製品等の任意の特性が目標値を満たすことを確認し、又は製品等の特性を目標値に近づけるために、設計者が設計パラメータと、実績とを繰り返し入力し、実験することで、望ましい設計パラメータが予測されていた。そのため、設計者は、製品が要件を満たすまでに複数回の試行検証をする必要があり、構造設計における作業工数の増加につながっていた。
【0006】
また、特許文献1に記載された技術では、設計パラメータ群の解としての好適の程度を示す指標値を出力するための獲得関数が計算されている。しかし、獲得関数を計算するだけでは、設計者に対して設計パラメータ群の解が示されるにとどまる。このため、従来の技術では、設計者に対して隠れた洞察を与えることができない上、設計のためのノウハウを蓄積することが困難であった。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、構造設計が行われる対象物の性能を予測し、性能向上策を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る性能向上策提示システムは、構造設計の対象である対象物に対して過去に行われた構造設計の実績値を含む設計パラメータと、設計パラメータに基づいて構造解析が行われた対象物の構造性能の指標である解析値とを、機械学習の学習用データとして持つ学習用データ部と、学習用データ部から読み出した設計パラメータ及び解析値を機械学習して得られる予測モデルを用いて、設計変更により入力された設計パラメータから対象物の構造性能の指標を予測し、予測モデルが予測した構造性能の指標に寄与する結果の説明性を表す解釈可能性を計算し、解釈可能性から求めた、対象物の性能を向上するための性能向上策を、予測モデルが予測した構造性能の指標と共に提示する計算部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象物の性能を向上するための性能向上策を、予測モデルが予測した構造性能の指標と共に提示することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、性能向上策の提示と、製品の設計変更が行われる場合における、性能向上策提示システムの全体構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る計算機のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る設計・解析実績DBのテーブル構成例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る性能向上策学習情報DBのテーブル構成例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る、設計者が性能向上策の提示を要求せずに、設計を終了した場合の性能向上策提示システムの全体構成例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る、設計者が提示された性能向上策を不採用とし、設計を終了した場合の性能向上策提示システムの全体構成例を示すブロック図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る性能向上策提示システムで行われる性能向上策提示方法の一連の処理の例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る性能予測プログラムの学習処理の例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る性能予測プログラムの予測処理の例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る解釈可能性計算プログラムの学習処理の例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る解釈可能性計算プログラムの予測処理の例を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の一実施形態に係る性能向上策計算プログラムの学習処理の例を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の一実施形態に係る性能向上策計算プログラムの予測処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0012】
[一実施形態]
<性能向上策提示システムの構成例>
図1は、製品の構造設計における性能向上策提示システム100の全体構成例を示すブロック図である。
図1には、設計者130が性能の予測値を確認した上で、プログラム部120に性能向上策の提示を要求し、プログラム部120から提示された性能向上策を採用し、製品を設計変更する場合における性能向上策提示システム100の構成例及び動作例が示される。
【0013】
構造設計の対象である構造物(対象物)を製品と呼ぶ。また、構造物の性能の一つを強度性能と呼ぶ。強度性能は、例えば、地震に耐えうる製品の耐震性能であり、強度性能が高い製品であれば地震発生時に破損が生じにくくなる。また、性能向上策は、プログラム部120によって予測され、設計者130に提示される情報であり、性能向上策を構造設計に反映することで、構造物の性能が高まることが期待される。ただし、設計者130が性能向上策を取り入れて、再び製品の構造設計を行うかどうかは、設計者130の判断に委ねられる。
【0014】
性能向上策提示システム100は、プログラム部120が機械学習を行うための学習用データを蓄積する学習用データ部110と、実際の処理を行うプログラム部120と、設計者PC(Personal Computer)140とを備える。プログラム部120は、各種のプログラムを実行することで所定の計算を行う機能を有しており、計算部の一例として用いられる。プログラム部120の構成については後述する。
【0015】
プログラム部120に対する操作入力、プログラム部120から出力される画面等は、設計者130が利用する設計者PC140に対して行われる。
図1と、後述する
図5及び
図6に示す設計者130は、設計者PC140の表示装置55(後述する
図2を参照)に表示される画面を通じて、プログラム部120の処理内容を確認し、設計者PC140の入力装置を通じてプログラム部120に指示を入力したり、設計変更に関する意思決定を行ったりすることが可能である。
【0016】
<学習用データ部の構成例>
学習用データ部110は、構造設計の対象である対象物に対して過去に行われた構造設計の実績値を含む設計パラメータと、設計パラメータに基づいて構造解析が行われた対象物の構造性能の指標である解析値とを、機械学習の学習用データとして持つ。この学習用データ部110は、設計・解析実績データベース(DB:Data Base)11と、性能向上策学習情報データベース12とを有する。なお、以下の説明では、設計・解析実績DB11、性能向上策学習情報DB12と略記する。
【0017】
設計・解析実績DB11は、過去に行われた構造設計及び構造解析値の実績を格納する。つまり、設計・解析実績DB11は、過去の設計実績を格納している。過去の設計実績とは、例えば、製品を識別するための製品ID、製品の外寸や質量、製品のベースに対する締結方法などの設計パラメータと、製品の固有振動数などの性能指標の解析値とが紐づいたデータである。本実施の形態では、構造物の強度を評価する性能指標が求められる。そして、地震等の影響により固有振動数で製品が共振しないようにするため、本実施形態では、製品の固有振動数が性能指標として採用されている。
【0018】
本実施形態において、設計者130による構造設計の対象物として、例えば制御盤が想定される。制御盤は、例えば、社会インフラストラクチャーの設備(発電所、鉄工所、上下水道等)、発電システム、上下水道システム等において、各設備、各システムの動作を制御するために用いられる。また、発電所等におけるタービンの動作を制御する制御盤もある。
【0019】
通常、製品の構造設計を行う設計者130と、構造解析を行う解析者とは、別の者である。設計者130は構造設計を行うと、不図示の解析者に対して構造設計の情報(CAD(Computer Aided Design)データ等)を渡す。解析者は、設計者130から受け取った構造設計の情報に基づいて構造解析を行う。構造解析の結果は、構造解析値として設計・解析実績DB11に格納される。このように構造設計と構造解析は別の者によって行われるため、設計者130はわずかな構造設計の修正であっても、解析結果を得るまでに時間を要することがある。そこで、設計者130は、本実施の形態に係る性能向上策提示システム100を用いることで、構造設計を行った後、解析者による構造解析を依頼する前に、性能予測結果、性能向上策を得ることができる。
【0020】
性能向上策学習情報DB12は、性能向上策が追加された学習用データを格納する。性能向上策学習情報DB12に格納される学習用データには、設計・解析実績DB11の情報から、設計変更前後の設計情報、及び実施された性能向上策を抽出した実績値が格納されている。このため、学習用データ部110は、設計・解析実績DB11から抽出した、製品の設計変更の前後の情報と、設計変更後の情報に対する性能向上策とを含む性能向上策学習情報DB12を作成する。設計・解析実績DB11及び性能向上策学習情報DB12に格納されている学習用データを学習情報とも呼ぶ。
【0021】
<計算機のハードウェア構成例>
次に、性能向上策提示システム100の各装置を構成する計算機50のハードウェア構成を説明する。
図2は、計算機50のハードウェア構成例を示すブロック図である。計算機50は、本実施の形態に係る性能向上策提示システム100として動作可能なコンピューターとして用いられるハードウェアの一例である。本実施の形態に係る性能向上策提示システム100は、計算機50(コンピューター)がプログラムを実行することにより、
図1に示した各機能ブロックが連携して行う性能向上策提示方法を実現する。
【0022】
計算機50は、バス54にそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit)51、ROM(Read Only Memory)52、及びRAM(Random Access Memory)53を備える。さらに、計算機50は、表示装置55、入力装置56、記憶装置57及びネットワークインターフェイス58を備える。
【0023】
CPU51は、本実施の形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM52から読み出してRAM53にロードし、実行する。RAM53には、CPU51の演算処理の途中で発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれ、これらの変数やパラメータ等がCPU51によって適宜読み出される。ただし、CPU51に代えてMPU(Micro Processing Unit)を用いてもよい。
図1に示したプログラム部120の各プログラム、各出力部の機能は、CPU51の演算処理により実現される。
【0024】
表示装置55は、例えば、液晶ディスプレイモニターであり、計算機50で行われる処理の結果等を設計者130に表示する。入力装置56には、例えば、キーボード、マウス等が用いられ、設計者130が所定の操作入力、指示を行うことが可能である。
図1に示した性能予測ボタン2、性能向上策提示ボタン4は、物理的なボタンでなく、表示装置55に表示された操作用のアイコンとしてよい。
【0025】
記憶装置57としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ又は不揮発性のメモリ等の不揮発性の記録媒体が用いられる。この記憶装置57には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、計算機50を機能させるためのプログラムが記録されている。ROM52及び記憶装置57は、CPU51が動作するために必要なプログラムやデータ等を記録しており、計算機50によって実行されるプログラムを格納したコンピューター読取可能な非一過性の記憶媒体の一例として用いられる。
図1に示した学習用データ部110の各データベースは、記憶装置57に構成される。
【0026】
ネットワークインターフェイス58には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、NICの端子に接続されたLAN(Local Area Network)、専用線等を介して各種のデータを装置間で送受信することが可能である。
【0027】
<テーブル構成例>
ここで、設計・解析実績DB11と性能向上策学習情報DB12のテーブル構成例について、
図3と
図4を参照して説明する。
図3は、設計・解析実績DB11のテーブル構成例を示す図である。
【0028】
設計・解析実績DB11は、過去に行われた対象物に対する構造設計の実績値である、設計パラメータ及び解析値を格納する。この設計・解析実績DB11は、ラベル、外形寸法、質量、締結方法、固有振動数の項目を有する。設計・解析実績DB11に格納される各項目の情報は、実際の製品の設計値、解析結果等である。締結方法は、例えば、製品をベースに締結する方法であり、リベット締め等が想定される。
【0029】
ラベル項目には、製品を識別するために割り振られた、製品名や型式などの一意なラベルが格納される。本実施形態では、ラベルが「AAA」、「BBB」、「CCC」である3種類の製品があると想定する。
【0030】
外形寸法項目には、製品の幅、高さ、奥行きを含む外形寸法(外寸情報の一例)が格納される。
質量項目には、製品の質量が格納される。製品の外寸情報と質量は、機械学習における特徴量、かつ説明変数であり、製品の性能予測重要因子として用いられる。この性能予測重要因子は、強度性能の一つの指標である固有振動数に関連している。
【0031】
締結方法項目には、製品がベースに締結される締結方法が符号の形式で格納される。締結方法には、複数種類あり、本実施形態では、「1」~「3」の3種類の締結方法があると想定する。
【0032】
固有振動数項目には、製品の構造性能の指標(「性能指標」と呼ぶ)の一例として、予め製品に規定される左右方向の固有振動数と前後方向の固有振動数が格納される。機械学習における説明変数は外形寸法と重量、締結方法を含む設計パラメータであり、説明変数と、目的変数である固有振動数との関係が機械学習により算出されることとなる。
【0033】
次に、
図4を参照して性能向上策学習情報DB12のテーブル構成例を説明する。
図4は、性能向上策学習情報DB12のテーブル構成例を示す図である。
【0034】
性能向上策学習情報DB12は、設計・解析実績DB11から対象物ごとに抽出された設計変更前(過去に実際に行った変更前後の関係となる組み合わせ)の設計パラメータ及び解析値、並びに設計変更後の対象物に対する(各組合せにおける変更前後の設計パラメータや性能指標が変化した原因となる、過去に実際に施された性能向上策)性能向上策を格納する。このため、性能向上策学習情報DB12には、
図3に示した設計・解析実績DB11から抽出された、変更前後の関係にあるデータ(設計パラメータ)が格納されている。そして、性能向上策学習情報DB12の変更後のデータには、解析実績値が格納される。
【0035】
また、性能向上策学習情報DB12には、設計パラメータが変更される過程で実施された性能向上策が格納される。性能向上策には、部品追加、加工等の複数の項目が含まれ、実施された性能向上策の項目に数値化した値が格納されている。部品追加とは、例えば、製品を保護するカバーを追加する対応を表している。
【0036】
性能向上策学習情報DB12は、
図4の上段に示す変更前、変更後の大項目と、
図4の下段に示す性能向上策の大項目とを有する。
図4の上段と下段の大項目は一続きで一つのデータの内容を表している。
図4では、ラベル「AAA」の製品に注目して性能向上策学習情報DB12に格納される情報を説明する。
【0037】
変更前項目と変更後項目には、
図3に示した設計・解析実績DB11の各項目の情報(過去に実際に行った変更前後の関係となる組み合わせ)が格納される。すなわち、実際に製品の構造設計が変更された後の情報が変更後項目に格納され、変更後の製品に採用された性能向上策が性能向上策項目に格納される。
【0038】
変更前項目に格納される、ラベル「AAA」の製品の情報は3レコード共に同じである。一方、変更前項目に格納される、ラベル「AAA」の製品の情報は、図中にハッチングを施したセルで異なる。例えば、変更後にラベル「DDD」が割り振られた製品の外形寸法と締結方法は、ラベル「AAA」の製品と同じであるが、質量、左右及び前後の固有振動数が異なる。
【0039】
また、変更後にラベル「EEE」が割り振られた製品の幅と奥行き、前後の固有振動数は、ラベル「AAA」の製品と同じであるが、高さ、質量、締結方法、左右の固有振動数が異なる。
また、変更後にラベル「FFF」が割り振られた製品の高さと奥行きは、ラベル「AAA」の製品と同じであるが、幅、質量、締結方法、左右及び前後の固有振動数が異なる。
【0040】
性能向上策の大項目は、部品追加、加工、補強、締結方法、材質、板厚、重心、実装位置の項目を有する。
例えば、ラベル「DDD」が割り振られた製品の性能向上策として、部品追加の項目に「1」が格納される。これは、部品追加「1」に関連付けられた部品を追加することが性能向上策の一つであることを示している。
また、ラベル「EEE」が割り振られた製品の性能向上策として、補強の項目に「2」が格納される。これは、補強「2」に関連付けられた補強措置をとることが性能向上策の一つであることを示している。
また、ラベル「FFF」が割り振られた製品の性能向上策として、部品追加の項目に「1」が格納され、締結方法の項目に「1」が格納される。これは、部品追加「1」に関連付けられた部品を追加すること、及び締結方法「1」に関連付けられた締結方法を実施することが性能向上策の一つであることを示している。
【0041】
図4に示す性能向上策は、数値で表されているが、設計者130に性能向上策が提示される時は、数値に対応するメッセージが表示されるとよい。設計者130は、表示装置55に表示されたメッセージを読むことで、性能向上策を具体的に把握することができ、提示された性能向上策の採用可否を判断することができる。
【0042】
図3と
図4では、
図1に示す性能予測プログラム21が構造性能の予測対象とする構造性能の指標として、固有振動数を採用した例を示した。しかし、構造性能の予測対象とする構造性能の指標として、固有振動数以外にも、例えば、対象物の重量、又は対象物に実装される部品の実装部品密度のいずれかが用いられてもよい。
【0043】
<プログラム部の構成例>
次に、
図1に戻って、プログラム部120の構成例を説明する。
プログラム部120は、学習用データ部110から読み出した設計パラメータ及び解析値を機械学習して得られる予測モデルを用いて、設計変更により入力された設計パラメータから対象物の構造性能の指標を予測する。また、プログラム部120は、予測モデルが予測した構造性能の指標に寄与する結果の説明性を表す解釈可能性を計算する。そして、プログラム部120は、解釈可能性から求めた、対象物の性能を向上するための性能向上策を、予測モデルが予測した構造性能の指標と共に提示する。このようにプログラム部120は、設計・解析実績DB11及び性能向上策学習情報DB12から各種の情報を読み出し、設計者130に構造設計に対する性能向上策を提示することができる。
【0044】
このプログラム部120は、性能予測プログラム21(性能予測部の一例)と、解釈可能性計算プログラム22(解釈可能性計算部の一例)と、性能向上策計算プログラム23(性能向上策計算部の一例)と、予測結果出力部3及び性能向上策出力部5とを備える。性能予測プログラム21と、解釈可能性計算プログラム22と、性能向上策計算プログラム23は、いずれも設計・解析実績DB11及び性能向上策学習情報DB12から読み出した情報を基に機械学習を行って得られたプログラムである。
【0045】
性能予測プログラム21は、設計・解析実績DB11から読み出した、設計変更前の設計パラメータ及び解析値に基づいて機械学習を行って第1予測モデルを作成し、第1予測モデルにより、構造性能の指標を予測するプログラムである。性能予測プログラム21は、設計・解析実績DB11を基に、少ないデータでより精度の高い性能指標の予測を可能とするためにXGboost(eXtreme Gradient Boosting、勾配ブースティング)を選定する。そして、性能予測プログラム21は、XGboostを使用した機械学習を利用して第1予測モデルを作成する。性能予測プログラム21が性能予測をする時には、第1予測モデルが用いられる。
【0046】
XGboostは、データを学習したモデルに決定木を用いる機械学習の一つの方法である。XGboostでは、多数のデータから抽出した一部のデータに基づいて複数のモデルを学習する。XGboostにより、ある決定木が誤って認識したデータは、優先的に正しく分類できるように別の決定木で再学習する処理が繰り返され、最終的に1つのモデルが得られる。XGboostで最終的に得られた1つのモデルが第1予測モデルとして用いられる。
【0047】
予測結果出力部3は、性能予測プログラム21により予測された構造性能の指標を予測結果として、設計者PC140の表示装置55に出力する。設計者130は、表示装置55に出力された性能指標の予測結果を確認すると、プログラム部120に製品の性能向上策を提示させる指示を、表示装置55に表示された性能向上策提示ボタン4を押下することにより入力する。性能向上策提示ボタン4から入力された性能向上策の提示の指示は、解釈可能性計算プログラム22に入力される。
【0048】
解釈可能性計算プログラム22は、設計・解析実績DB11から読み出した、設計変更前の設計パラメータ及び解析値に基づいて機械学習を行って第2予測モデルを作成し、第2予測モデルにより、第1予測モデルの特徴量の重要性、予測結果に影響する第1予測モデルの説明性、及び解釈可能性を計算するプログラムである。解釈可能性計算プログラム22は、性能予測プログラム21が予測した性能指標に対する各設計パラメータの寄与度、相関関係を算出することができる。解釈可能性計算プログラム22が解釈可能性を計算する時には、第2予測モデルが用いられる。
【0049】
解釈可能性は、性能予測の根拠となる数値を表しており、設計・解析実績DB11に示した製品の外形寸法、質量、固有振動数が例示される。なお、解釈可能性として、製品の強度に関する指標の一つである断面係数が用いられてもよい。また、解釈可能性は、数値に対応する構造設計の問題点等が記述されたメッセージで表されてもよい。この場合、設計者130は、数値の代わりにメッセージを確認することで、構造設計の具体的な問題点を把握することができる。
【0050】
プログラム部120は、設計・解析実績DB11に格納される表形式データに対して最適な解釈可能性技術として、例えばSHAP(SHapley Additive exPlanations)を使用し、設計・解析実績DB11を基に機械学習によって解釈可能性計算プログラム22を作成する。SHAPは、XAI(Explainable AI:説明可能なAI)技術の一つであり、各要素が予測にどれだけの影響を与えるかを求めることができる。プログラム部120は、解釈可能性計算プログラム22としてSHAPを用いることで、あるデータXの各特徴量が、性能予測プログラム21が予測した性能指標に対してどれだけプラス又はマイナスに影響を与えたかが分かる。
【0051】
性能向上策計算プログラム23は、性能向上策学習情報DB12から読み出した、設計変更前の設計パラメータ、設計変更後の設計パラメータ、及び性能向上策に基づいて機械学習を行って第3予測モデルを作成する。そして、性能向上策計算プログラム23は、設計変更前の設計パラメータ及び設計変更後の設計パラメータと、設計変更前の解析値に対する設計変更後の第1予測モデルが予測した構造性能の指標の偏差とを基にして、第3予測モデルにより性能向上策を計算するプログラムである。この性能向上策計算プログラム23は、製品の設計変更前後における性能指標の差、及び設計パラメータの変化に基づいて、製品の構造性能を向上させる施策(「性能向上策」と呼ぶ)を設計者に提示する。性能向上策計算プログラム23が性能向上策を計算する時には、第3予測モデルが用いられる。
【0052】
性能向上策計算プログラム23は、性能向上策学習情報DB12を基に、複数のランダムフォレストを作成し、最も精度の良かったランダムフォレストを使用した機械学習を利用して第3予測モデルを作成する。ランダムフォレストは決定木を用いる手法であり、性能向上策計算プログラム23は、特徴量をランダムに選び出し、複数の決定木を作成する。そして、複数の決定木の予測結果を用いて多数決を求めることで、第3予測モデルの出力を決定する。性能向上策計算プログラム23が計算した性能向上策は、性能向上策学習情報DB12の性能向上策の項目に格納される。
【0053】
性能向上策出力部5は、性能向上策計算プログラム23が計算した解釈可能性、及び性能向上策を、設計者PC140の表示装置55に出力する。設計者130は、性能向上策を確認して製品の設計変更を行うことができる。
【0054】
次に、設計者130の説明を行う。設計者130として示されるブロックは、実際には、設計者130が操作する設計者PC140の機能を表している。
【0055】
設計者130は、設計者PC140の入力装置を通じて、製品の設計変更を行った設計変更情報1を性能予測プログラム21に入力する。設計変更情報1として、例えば、製品の外形寸法、質量、締結方法及び固有振動数のうち、少なくとも一つの情報が含まれる。そして、設計者130は、性能予測ボタン2を押下する。性能予測ボタン2から指示が入力されると同時に、性能予測プログラム21の実行が開始される。
【0056】
その後、上述したように性能予測プログラム21による性能予測の予測結果が予測結果出力部3を通じて設計者PC140の表示装置55に表示される。設計者130は、性能予測結果を確認し、必要に応じて性能向上策提示ボタン4を押下する。この性能向上策提示ボタン4から指示が入力されると同時に、解釈可能性計算プログラム22が実行される。解釈可能性計算プログラム22の実行後に、性能向上策計算プログラム23が実行されると、性能向上策計算プログラム23が計算した性能向上策が性能向上策出力部5を通じて設計者PC140の表示装置55に表示される。設計者130は、性能向上策を確認し、性能向上策を踏まえて製品の設計変更を再び行う。そして、設計者130は、設計変更した変更情報を再び性能予測プログラム21に入力することが可能である。
【0057】
<性能向上策の提示を要求せずに設計を終了する処理の流れ>
次に、設計者130が製品の性能の予測値を確認し、性能が十分であると判断した場合に、性能向上策の提示を要求せずに設計を終了する処理の流れについて、
図5を参照して説明する。
【0058】
図5は、設計者130が性能向上策の提示を要求せずに、設計を終了した場合の性能向上策提示システム100の全体構成例を示す図である。性能向上策提示システム100の構成は、
図1を参照して説明したとおりであるため、
図1と
図5で共通する箇所の詳細な説明は省略する。
【0059】
設計者130は、性能予測プログラム21の予測結果を、予測結果出力部3を介して確認する。設計者130は、予測結果出力部3から出力された予測結果が要求性能を満たすと判断した場合は設計終了6とする。この時、設計者130は、設計者PC140を通じてプログラム部120に設計終了を指示する。その後、設計変更情報1により変更された設計データが解析者に渡され、設計変更された構造物の解析が行われる。
【0060】
<性能向上策を不採用とし、設計を終了する処理の流れ>
次に、設計者130が製品の性能の予測値を確認した上で、性能向上策を要求した後、プログラム部120から提示された性能向上策を不採用とし、設計を終了する場合について、
図6を参照して説明する。
【0061】
図6は、設計者130が提示された性能向上策を不採用とし、設計を終了した場合の性能向上策提示システム100の全体構成例を示す図である。性能向上策提示システム100の構成は
図1を参照して説明したとおりであるため、
図1と
図6で共通する箇所の詳細な説明は省略する。
【0062】
設計者130は、性能向上策計算プログラム23により計算され、性能向上策出力部5を介して提示された性能向上策を確認する。そして、設計者130は、出力された性能向上策が既に実施済み、又は各種設計要件を満たさないなどの理由により不採用とした場合は設計終了7とする。この時、設計者130は、設計者PC140を通じてプログラム部120に設計終了を指示する。その後、設計変更情報1により変更され、性能向上策が反映された設計データが解析者に渡され、設計変更された構造物の解析が行われる。
【0063】
設計者130が確認した性能向上策を受け入れる場合、以降の処理では、設計者130が新たな設計変更情報1をプログラム部120に入力する。例えば、設計者130は、プログラム部120から提示された性能向上策を、不図示のCAD等の設計支援プログラムを通じて入力し、性能向上策の内容が反映された製品設計を行うことができる。逆に、設計者130が確認した性能向上策を受け入れない場合、不図示のCAD等の設計支援プログラムには、プログラム部120から提示された性能向上策の内容を反映しない。
【0064】
次に、性能向上策提示システム100の処理の例について、
図7を参照して説明する。
図7は、性能向上策提示システム100で行われる性能向上策提示方法の一連の処理の例を示すフローチャートである。ここでは、性能向上策提示システム100のユーザとしての設計者130の操作手順を示す。
【0065】
始めに、設計者130は、性能向上策提示システム100(例えば、表計算ソフトウェアのマクロ機能)を起動し、設計対象となる構造物の設計変更情報1を入力する(S1)。設計変更情報1には、各種の設計パラメータが含まれる。
【0066】
次に、設計者130は、性能予測ボタン2を押下し(S2)、性能予測プログラム21を実行する。次に、設計者130は、性能予測プログラム21が計算し、予測結果出力部3から出力された性能指標の予測値である性能予測結果を確認する(S3)。
【0067】
次に、設計者130は、性能予測結果を設計仕様と比較し、性能向上策の再検討が必要であるか否かを判断する(S4)。設計者130は、性能向上策の検討が必要でないと判断した場合(S4のNO)、設計を終了する。なお、
図5に示した構成図は、ステップS4のNO判定を表現したものである。
【0068】
一方、設計者130が性能向上策の検討が必要であると判断した場合(S4のYES)、性能向上策提示ボタン4を押下し(S5)、解釈可能性計算プログラム22と性能向上策計算プログラム23を実行する。
【0069】
次に、設計者130は、性能向上策出力部5から提示された解釈可能性と性能向上策を確認する(S6)。そして、設計者130は、提示された性能向上策を採用するか否かを判断する(S7)。設計者130は、提示された性能向上策の採用が必要でないと判断した場合(S7のNO)、設計を終了する。なお、
図6に示した構成図は、ステップS7のNO判定を表現したものである。また、ステップS7のNO判定は、ステップS7に至るまでに一度以上、性能向上策が採用され(S7のYES)、再びステップS1~S6の処理が行われたことで、これ以上の性能向上策の採用が必要でないと判断された場合も含まれる。
【0070】
一方、設計者130は、性能向上策の採用が必要であると判断した場合(S7のYES)、再びステップS1に戻り、構造設計を修正し、修正後の設計変更情報1を再度、プログラム部120に入力する。このように設計者130が構造設計を修正し、設計変更情報1を入力することで、向上性能策を絞り込むことが可能となる。これにより、設計変更や軽微な設計修正がある度に、設計者130とは別の解析者に構造解析を依頼する手間を省くことができるので、設計者130の作業工数の削減や後戻りの低減が見込まれる。
【0071】
次に、プログラム部120で実行される各プログラムの処理の例について、
図8~
図13を参照して説明する。以下の説明では、各プログラムの学習段階と予測段階に分けて処理を説明する。
【0072】
<性能予測プログラムの処理>
始めに、性能予測プログラム21の学習段階と予測段階の処理について、
図8と
図9を参照して説明する。
図8は、性能予測プログラム21の学習処理の例を示すフローチャートである。
【0073】
学習段階において、性能予測プログラム21が設計・解析実績DB11から学習情報を読み込む(S11)。性能予測プログラム21が読み込む学習情報は、
図3に示した設計・解析実績DB11に含まれる任意のデータである。
【0074】
次に、性能予測プログラム21は、前処理としてデータの標準化処理を行う(S12)。データの標準化処理は、例えば、元のデータの平均を「0」、標準偏差を「1」に変換する正規化法である。データの標準化処理により、様々な種類の製品のデータが正規化される。次に、性能予測プログラム21は、
図3で説明した説明変数と目的変数の関係に基づいて、Xgboostを利用した機械学習を行う(S13)。
【0075】
そして、性能予測プログラム21は、ステップS13の機械学習の処理で作成した学習済みモデルを保存して(S14)、本処理を終了する。性能予測プログラム21の機械学習の処理で作成された学習済みモデルが、製品の性能を予測可能な第1予測モデルである。第1予測モデルは、例えば、プログラム部120が読み書き可能な記憶装置57の所定領域に保存される。
【0076】
図9は、性能予測プログラム21の予測処理の例を示すフローチャートである。
【0077】
予測段階において、性能予測プログラム21は、設計者130により入力された入力情報を読み込む(S21)。この入力情報には、設計パラメータである設計変更情報1、性能予測ボタン2の入力指示が含まれる。次に、性能予測プログラム21は、学習段階で作成した第1予測モデルを記憶装置57から読み込む(S22)。
【0078】
次に、性能予測プログラム21は、入力情報を第1予測モデルに入力し、第1予測モデルに基づいて性能指標を計算する(S23)。
図3に示したように、性能指標として、予め製品に規定される左右方向の固有振動数と前後方向の固有振動数がある。
【0079】
そして、性能予測プログラム21は、性能予測結果である計算結果を予測結果出力部3に出力する(S24)。この計算結果は、予測結果出力部3を通じて表示装置55に表示され、設計者130が計算結果を確認することが可能である。
【0080】
<解釈可能性計算プログラムの処理>
次に、解釈可能性計算プログラム22の学習段階と予測段階の処理について、
図10と
図11を参照して説明する。
図10は、解釈可能性計算プログラム22の学習処理の例を示すフローチャートである。
【0081】
学習段階において、解釈可能性計算プログラム22が設計・解析実績DB11から学習情報を読み込む(S31)。解釈可能性計算プログラム22が読み込む学習情報は、
図3に示した設計・解析実績DB11に含まれる任意のデータである。
【0082】
次に、解釈可能性計算プログラム22は、前処理としてデータの標準化処理を行う(S32)。データの標準化処理により、様々な種類の製品のデータが一定の範囲に収まる。次に、解釈可能性計算プログラム22は、
図3で説明した説明変数と目的変数の関係について、SHAPを利用した機械学習を行う(S33)。
【0083】
そして、解釈可能性計算プログラム22は、ステップS13の機械学習の処理で作成した学習済みモデルを保存して(S34)、本処理を終了する。解釈可能性計算プログラム22の機械学習の処理で作成された学習済みモデルが、解釈可能性を計算可能な第2予測モデルである。第2予測モデルは、例えば、プログラム部120が読み書き可能な記憶装置57の所定領域に保存される。
【0084】
図11は、解釈可能性計算プログラム22の予測処理の例を示すフローチャートである。
【0085】
予測段階において、解釈可能性計算プログラム22は、設計者130により入力された入力情報を読み込む(S41)。この入力情報には、設計パラメータである設計変更情報1、性能向上策提示ボタン4の入力指示が含まれる。次に、解釈可能性計算プログラム22は、学習段階で作成した第2予測モデルを記憶装置57から読み込む(S42)。
【0086】
次に、解釈可能性計算プログラム22は、入力情報を第2予測モデルに入力し、第2予測モデルに基づいて解釈可能性を計算する(S43)。この計算により、第1予測モデルが予測した性能指標に寄与する特徴量の重要性が求められる。次に、解釈可能性計算プログラム22は、解釈可能性の計算結果を、プログラム部120が読み書き可能な記憶装置57の所定領域に保存する(S44)。
【0087】
そして、解釈可能性計算プログラム22は、解釈可能性を可視化した図を生成し、この図を記憶装置57の所定領域に保存して(S45)、本処理を終了する。
【0088】
<性能向上策計算プログラムの処理>
次に、性能向上策計算プログラム23の学習段階と予測段階の処理について、
図12と
図13を参照して説明する。
図12は、性能向上策計算プログラム23の学習処理の例を示すフローチャートである。
【0089】
学習段階において、性能向上策計算プログラム23が性能向上策学習情報DB12から学習情報を読み込む(S51)。性能向上策計算プログラム23が読み込む学習情報は、
図4に示した性能向上策学習情報DB12に含まれる任意のデータである。
【0090】
次に、性能向上策計算プログラム23は、
図4で説明した説明変数について、変更前後の設計パラメータと性能指標の偏差である偏差データを作成する(S52)。
図4に示した性能向上策学習情報DB12のラベル「DDD」の製品では、変更前の質量「390」が変更後の質量「400」となるので、変更前後の設計パラメータの偏差は、質量「10」である。また、変更前の性能指標である固有振動数が左右「5.5」、前後「10」から変更後の左右「6.0」、前後「11」となるので、変更前後の性能指標の偏差は左右「0.5」、前後「1」である。これらの偏差をまとめた偏差データがステップS52の処理で作成される。
【0091】
次に、性能向上策計算プログラム23は、
図3で説明した説明変数と目的変数の関係について、ランダムフォレストを用いた機械学習を行う(S53)。
【0092】
そして、性能向上策計算プログラム23は、ステップS53の機械学習の処理で作成した学習済みモデルを保存して(S54)、本処理を終了する。性能向上策計算プログラム23の機械学習の処理で作成された学習済みモデルが、製品の性能向上策を予測可能な第3予測モデルである。第3予測モデルは、例えば、プログラム部120が読み書き可能な記憶装置57の所定領域に保存される。
【0093】
図13は、性能向上策計算プログラム23の予測処理の例を示すフローチャートである。
【0094】
予測段階において、性能向上策計算プログラム23は、性能向上策学習情報DB12から変更前の大項目に格納された変更前データを読み込む(S61)。次に、性能向上策計算プログラム23は、設計者130により入力された設計パラメータの変更入力値を読み込む(S62)。設計パラメータの変更入力値は、性能向上策学習情報DB12に格納される変更後の大項目に格納された変更後データである。次に、性能向上策計算プログラム23は、
図12に示した学習処理で作成した第3予測モデルを記憶装置57から読み込む(S63)。
【0095】
次に、性能向上策計算プログラム23は、第3予測モデルを用いて、変更後の設計パラメータによる製品の性能予測を行う(S64)。次に、性能向上策計算プログラム23は、設計パラメータの偏差と、性能指標の予測値の偏差とを計算する(S65)。
【0096】
次に、性能向上策計算プログラム23は、ステップS65で計算した各偏差を第3予測モデルに入力し、第3予測モデルに基づく性能向上策(性能指標)を計算する(S66)。そして、性能向上策計算プログラム23は、性能向上策出力部5を通じて、表示装置55に性能向上策の計算結果、解釈可能性計算プログラム22が保存した解釈可能性の計算結果を表示し、必要に応じて解釈可能性の計算結果を可視化した図を表示する(S67)。設計者130は、表示装置55に表示する情報を必要に応じて選択することが可能である。
【0097】
以上説明した一実施形態に係る性能向上策提示システム100では、製品の構造設計の変更に関わって性能が予測されるだけでなく、解釈可能性、性能向上策が計算される。この際、プログラム部120が製品に対して過去に施された構造性能の向上策を機械学習することによって、性能予測の根拠が設計者130に示される。このため、設計者130が製品の構造設計を行った後に、プログラム部120に性能予測を指示できる。この結果、設計者130が解析者に構造解析を依頼しなくても、設計変更後の性能予測結果を確認することが可能となり、設計変更後の性能予測結果を確認するまでの時間を短くし、作業工数を削減することができる。また、設計変更後の製品の品質保証のための構造解析や各種手続き等に要する作業の回数を減らすことができる。
【0098】
また、設計者130がプログラム部120に性能向上策の提示を指示することで、性能予測の根拠となる解釈可能性と、性能向上策とが設計者130に提示される。このため、設計者130は、解釈可能性を確認した上で、性能向上策を適用するか否かを判断することができる。
【0099】
従来は、製品の設計変更に際して、製品の構造設計後に解析者が解析し、解析結果に問題あれば設計者130が設計修正を検討していた。そして、設計者130の暗黙知、経験から改善点を見つけて修正しており、設計者130による試行錯誤が必要であった。一方、本実施形態に係る性能向上策提示システム100では、設計者130が、例えば、耐震強度を上げたい、実装構造を変更したいという希望に沿って変更したデータ(例えば、設計変更情報1)を追加するだけの設計変更を行えばよい。また、設計者130は、性能向上策提示ボタン4を押すだけの操作で、設計変更の度に性能向上策を提示させることができる。このため、設計者130は、性能向上策を確認して設計を修正することが可能であり、設計の修正が容易となる。
【0100】
なお、上述した実施の形態では、性能向上策提示システム100が製品の強度(性能)を評価する固有振動数を基に、製品の性能向上策を提示していた。ここで、製品の強度とは、例えば、製品の耐震性が挙げられる。他に性能向上策提示システム100が軽量化(性能)を評価する重量、実装可能空間(性能)を評価する実装部品密度を基に、製品の性能向上策を提示してもよい。設計者130は、設計変更した制御盤の性能が過剰であることが分かれば、例えば、制御盤のフレーム等の不要な部材を除く設計変更を行うことで、制御盤を軽量化することが可能となる。また、実装可能空間が評価されることで、設計者130は、制御盤の実装可能空間に対して、これ以上の部品を実装できない、又はより小さな部品であれば配置できる等を判断し、新たに設計変更することもできる。
【0101】
また、上述した実施形態では、対象物を制御盤とし、制御盤を構造設計の対象としたが、制御盤に類似する構造物を構造設計及び性能評価の対象物として性能向上策提示システム100を用いてもよい。例えば、配電盤、分電盤、サーバ、PC、爆発物探知装置、医療装置を構造設計の対象として性能向上策提示システム100を用いてもよい。他にも、対象物を土木建築物(例えば、住宅、橋、プラント設備)とし、土木建築物における耐震設計を行う際に、性能向上策提示システム100を用いてもよい。
【0102】
なお、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…設計変更情報、2…性能予測ボタン、3…予測結果出力部、4…性能向上策提示ボタン、5…性能向上策出力部、6,7…設計終了、11…設計・解析実績DB、21…性能予測プログラム、22…解釈可能性計算プログラム、23…性能向上策計算プログラム、100…性能向上策提示システム、110…学習用データ部、120…プログラム部、130…設計者、140…設計者PC、11…設計・解析実績DB、12…性能向上策学習情報DB