(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】鉛系電池、特に待機電力を蓄えることを目的とした鉛系電池の診断および寿命の予測方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20241129BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20241129BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20241129BHJP
G01R 31/379 20190101ALI20241129BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20241129BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20241129BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20241129BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241129BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20241129BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20241129BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/42 P
G01R31/367
G01R31/379
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/389
G01R31/392
H02J7/34 G
H02J7/00 Y
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022198584
(22)【出願日】2022-12-13
【審査請求日】2023-02-10
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンジェル・ジフコフ・キルシュフ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ギレ
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・セルラ
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-334725(JP,A)
【文献】特開平11-233162(JP,A)
【文献】特開2006-010601(JP,A)
【文献】特開平08-136629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0267111(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0027056(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0188198(US,A1)
【文献】国際公開第2009/047581(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/42
G01R 31/367
G01R 31/379
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/387
G01R 31/389
G01R 31/392
H02J 7/34
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性電解質を採用す
る電池を診断するための方法であって、
a/前記電池に印加される過充電電流(I
ovch)を連続的に測定するステップと、
b/DC電流の下で、前記電池の内部抵抗(R
120s)を定期的に測定するステップと、
c/ステップa/で測定された前記過充電電流
から導出されるパラメータを正規化し、ステップb/で測定された前記内部抵
抗を正規化するステップと、
d
/ステップc/で正規化された前記過充電電流から導出される前記パラメータ
の関数における、ステップc/で正規化された前記内部抵抗の対数値の
変化と、基準電池の過充電電流および内部抵抗のキャリブレーション測定の線形回帰から取得される、キャリブレーション直線との間の偏差を推定するステップと、
e/前記推定された偏差(Δ)を
前記電池に応じて所定の閾値と比較するステップであって、
前記偏差が正であり前記閾値より高い場合に、その早まったエージングのために前記電池の交換が必要であり、
前記偏差が負であり、前記閾値より低い場合に、前記電池を交換する必要はない、とする、ステップとを含む方法。
【請求項2】
前記測定された過充電電流から導出される前記パラメータは、前記電池の電圧が1蓄電池当たり2.25Vから2.3Vの間に入るフロート充電値で維持されるときのフロート過充電電流の積分値(Q
ovch)である、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
ステップc/における前記内部抵抗の前記正規化は、前記測定された内部抵抗(R
120s)を、1kHzのAC電流の下で測定された新しい電池の内部抵抗または同じ種類の新しい基準電池の内部抵抗で割ることによって実行される、請求項1に記載の診断方法。
【請求項4】
ステップc/における前記過充電電流の前記正規化は、前記測定された過充電電流の積分値(Q
ovch)を前記電池の公称容量(Cn)で割って、過充電指数(N
ovch)を定義することによって実行される、請求項2に記載の診断方法。
【請求項5】
f/過充電限界値(N
max)と前記過充電指数(N
ovch)との間の比(N
max/N
ovch)を推定するステップと、
g/ステップf/で推定された前記比(N
max/N
ovch)を1と比較するステップであって、
前記推定された比(N
max/N
ovch)が1より低い場合、前記電池の正常なエージングを超過しているので前記電池が交換される必要があるとする、ステップとをさらに含む、請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
ステップg/で比較された比(N
max/N
ovch)が1より高い場合、および
ステップd/で推定された前記偏差の絶対値(Δ)が前記所定の閾値より低い場合、
h/式
【数1】
を使用して前記電池の余寿命(RBLT)を決定するステップであって、
BOTは、前記電池が稼動していた実際の時間を指定する、ステップをさらに含む、請求項5に記載の診断方法。
【請求項7】
ステップb/における前記電池の前記内部抵抗(R
120s)の定期的測定は、固定された時間間隔にわたって充電電流または放電電流を印加することによって実行される、請求項1に記載の診断方法。
【請求項8】
前記固定された時間間隔は、
前記電池の公称容量(Cn)に対応する放電電流に対して60秒から180秒の間である、請求項7に記載の診断方法。
【請求項9】
測定センサーと、前記
測定センサーによって行われた測定に基づき、ユーザに、前記電池の故障、または前記電池の正しい動作のいずれかを通知するメッセー
ジを配信するように構成されているプロセッサとを備える、請求項1に記載の前記方法を実装するために、水性電解質を採用する電池を制御するためのシステム(BMS)。
【請求項10】
前記電池
が電力の待機貯蔵所として機能するか、または電気自動車の低電圧ネットワークのためのベースおよびバックアップとして機能する用途における請求項1に記載の方法または請求項9に記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーの貯蔵の分野に関するものであり、より具体的には鉛電池の分野に関するものである。
【0002】
より具体的には、そのような電池を診断し、有利にはその寿命を予測する方法に関するものである。
【0003】
鉛蓄電池を参照しつつ説明されているが、本発明は、水性電解質を採用する電気化学的蓄電池、すなわち「水系電池」に一般的に適用可能である。
【0004】
好ましい待機貯蔵用途を参照しつつ説明されているが、本発明は、任意の定置用途に適用可能である。
【背景技術】
【0005】
いわゆる「定置型」電池は、移動、振動などにさらされる、牽引用蓄電池および始動用電池とは対照的に、置かれている場所に留まる電池である。定置用途は、待機電源および太陽光発電の2つに大別される。
【0006】
主電源、すなわち電力網の中断が、さまざまな種類の深刻な結果(人間の健康への危険、機器の損傷、金銭的損失など)につながり得る多くの用途において、システムは待機電源によってバックアップされている。ここでは、通信事業者、病院、発電所、および大規模データセンター(金融センター、航空交通や鉄道交通を制御するセンターなど)などの電力網についての言及がなされ得る。
【0007】
主電力網に不具合が生じた場合に、供給するように設計された電力を供給することが待機電源の機能である。待機電源が電力網に代わって、同じRMS値のAC電圧を供給しなければならないときに、これは一般に無停電電源(Uninterruptible Power Supply)に対する頭字語「U.P.S」で呼ばれる。
【0008】
待機電源は、バックアップされるべき電力網の途絶を補償するように容量設計されている。これらの途絶は、停電、計画停電および電圧ディップ、マイクロ停止(micro-outage)、過電圧など、さまざまな性質のものであり得る。したがって、数十ミリ秒から数分間にわたって電力を供給するための待機電源が必要になり得る。
【0009】
充電式電池が待機電源として使用される。
【0010】
鉛系電池は、低コストで技術的に成熟していることから、多くの待機電源用途における好ましい技術である。低コストという要件は、電池が滅多に使用されず(すなわち放電され)、したがってその寿命の99%以上にわたって待機モードにあるという事実に関係する。そのような用途では、運転中に突然故障することのない、きわめて予測可能なエネルギー貯蔵システムが求められるので、鉛系電池の技術の成熟ももう1つの重要な利点である。
【0011】
鉛系電池は、望ましい電圧を得るために、直列に接続され、脱塩水と硫酸とからなる電解液に浸された鉛-硫酸蓄電池のセットであり、蓄電池および電解液は同じケーシング内に収納される。
【0012】
電力網に不具合が生じた場合に即座に介入するため、待機電池は常時充電状態に維持される必要がある。充電状態での従来の維持方法は「フロート充電(float charging)」と呼ばれ、電池に開回路電圧より高い電圧(1素子あたり100から150mV程度)を印加することによって自己放電効果が補償される。
【0013】
この電圧は、フロート充電電流、または言い換えると、充電維持電流を発生する。この電流は永久的であり、たとえば容量100Ahの電池の場合、20℃ではフロート充電の電流の振幅は約30mAの値で安定し得る。
【0014】
より正確には、フロート充電は、自己放電の過程を補償するために継続的に適用される電圧制御された過充電であり、この過程は以下の式で表され得る。
負極では:Pb+H2SO4→PbSO4+H2↑ (1)
正極では:PbO2+H2SO4→PbSO4+H2O+1/2O2↑ (2)
【0015】
自己放電過程を補償した後に残った過剰電荷は、寄生電気化学反応、すなわち正極では酸素の放出と集電体の腐食、負極では水素と酸素(一次電池の場合)の再結合放出を促進する。これらの寄生反応は、以下の式で表され得る。
水の電気分解:H2O→2H2↑+O2↑ (3)
負極における水素の放出:4H++4e-→2H2↑ (4a)
正極における酸素の放出:2H2O→O2↑+4H++4e- (4b)
電極グリッド(正極集電体)の腐食:Pb+2H2O→PbO2+2H2↑ (5)
負極における酸素の再結合:O2+4H++4e-→2H2O (6)
【0016】
反応(4b)および(6)は、組み合わせて、酸素循環と呼ばれるものを形成し、制御弁式鉛蓄電池(VRLA)と指定される鉛蓄電池がメンテナンスなしで動作することを可能にする。この種類の電池は、酸素および水素が再結合して水になるのを許す十分な圧力を維持しながら過度の内圧を逃がすように設計された弁ベースの安全排出システムを装備している。
【0017】
対照的に、反応(4a)および(5)は、鉛蓄電池の漸進的劣化を引き起こす不可逆過程と考えられ得る。
【0018】
劣化は2つの平行する過程を介して生じる。
- 一方では、これらの反応は水を消費し、電解液を完全に乾燥させる。
- 他方では、金属集電体は、抵抗が高く脆いPbO2に転換される、すなわち、正極は腐食過程により構造的完全性が喪失するので容量を失う。
【0019】
これら2つの過程の進行は、電池の抵抗の増大につながり、延いてはエネルギー貯蔵能力の喪失を引き起こす。
【0020】
待機エネルギー貯蔵用途では、待機電源システム内で使用される電池に対して2種類の診断パラメータ、各電池の実容量、すなわち電池の健全度(SOH)および電池の余寿命が知られている必要があり、これはシステムの予防保全を確実にするためである。
【0021】
現在のところ、待機電池の劣化の定量的推定は、2つの主要な方法を使用して実行され得る。
【0022】
第1の主要な方法は、最も精度が高く、定電流または定電力で電池を完全に放電させる方法である。慣例により、電池は、待機エネルギー貯蔵システムの仕様上、この放電試験の前に完全に充電されているとみなされる。この放電試験の結果は、放電容量(Cd)を基準容量値(Cref)で正規化することによって「健全度」に関して直接的に提示され得る。したがって、健全度(SOH)は次の関係式で表される。
SOH=100×Cd/Cref (7)
【0023】
正確であるにもかかわらず、この方法は、電池の実際の状態に関する情報を提供することしかできない、すなわち、電池の余寿命を予測することができない。また、この方法は、測定および充電に長時間を要するので、この目的のために装備された研究所の外でのこの方法の実装には問題がある。
【0024】
他の主要な方法は、インピーダンス測定を通じて、またはDC放電パルスの印加および電池の容量もしくは前述の完全放電法を介して推定されたSOHとの相関を通じてのいずれかで、電池の内部抵抗、またはその逆数値が考慮された場合の電気伝導度を推定することである。このアプローチは、電池業界において、および特に、急速電池試験デバイスの主要メーカーの1つであるMidtronics Inc.社によって広く使用されている。この方法を詳細に説明している、出版物[1]も参照されたい。完全放電法と同様に、内部抵抗の推定のこの方法は、電池の余寿命が予測されることを可能にしない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【文献】D.O.Feder,M.J.Hvalac and S.J.McShane,“Updated status of conductance/capacity correlation studies to determine state-of-health of automotive and stand-by lead/acid batteries”,J Power Sources 48 (1994) 135.
【文献】2021年3月11日のウェビナーのPresentation by Avicenne Energy“Batteries durables:une nouvelle reglementation cadre et perspectives de marche” organized by EUROBAT,Association of European Automotive and Industrial Battery Manufacturershttps://www.eurobat.org/events/event/48-eurobat-webiinar-sustainable-batteries-a-new-regulatory-framework-and-market-outlook
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、液体電解質を採用する鉛蓄電池を診断するための方法を、有利には、特に待機エネルギー貯蔵用途のために、その寿命を予測することを目的として改善する必要性がある。
【0027】
本発明の目的は、この要件を少なくとも部分的に満たすことである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
したがって、本発明は、その一態様によれば、水性電解質を採用する蓄電池または電池、および特に鉛蓄電池を診断するための方法に関係し、以下のステップを含む。
a/電池に印加される過充電電流(Iovch)を連続的に測定するステップ、
b/DC電流の下で、電池の内部抵抗(R120s)を定期的に測定するステップ、
c/ステップa/で測定された過充電電流とステップb/で測定された内部抵抗から導出されるパラメータを正規化するステップ、
d/基準電池の内部抵抗および過充電電流のキャリブレーション測定の線形回帰から取得される、キャリブレーション直線に関する、ステップc/で正規化された過充電電流から導出されるパラメータについて考慮された、ステップc/で正規化された内部抵抗の対数値の偏差を推定するステップ、
e/推定された偏差(Δ)を電池の種類に応じて所定の閾値と比較するステップであって、
・偏差が正でありこの閾値より高い場合に、その早まったエージングのために電池交換が必要であり、
・偏差が負であり、この閾値より低い場合に、電池を交換する必要はない、とするステップ。
【0029】
有利な一変更形態によれば、測定された過充電電流から導出されるパラメータは、電池の電圧が1蓄電池当たり2.25Vから2.3Vの間に入るフロート充電値で維持されるときのフロート過充電電流の積分値(Qovch)である。
【0030】
別の有利な変更形態によれば、ステップc/における内部抵抗の正規化は、測定された内部抵抗(R120s)を、1kHzのAC電流の下で測定された新しい電池の内部抵抗または同じ種類の新しい基準電池の内部抵抗で割ることによって実行される。
【0031】
別の有利な変更形態によれば、ステップc/における過充電電流の正規化は、測定された過充電電流の積分値(Qovch)を電池の公称容量(Cn)で割って、過充電指数(Novch)を定義することによって実行される。
【0032】
有利な一実施形態によれば、この方法は、以下のステップをさらに含む。
f/過充電限界値(Nmax)と過充電指数(Novch)との間の比(Nmax/Novch)を推定するステップ、
g/ステップf/で推定された比(Nmax/Novch)を1と比較するステップであって、
- 推定された比(Nmax/Novch)が1より低い場合、電池の正常なエージングを超過しているので電池が交換される必要があるとする、ステップ。
【0033】
有利な別の実施形態によれば、この方法は、以下のステップをさらに含む。
・ステップg/で比較された比(Nmax/Novch)が1より高い場合、および
・ステップd/で推定された偏差の絶対値(Δ)が所定の閾値より低い場合、
h/式
【0034】
【0035】
を使用して電池の余寿命(RBLT)を決定するステップ。
ここで、BOTは、電池が稼動していた実際の時間を指定する。
【0036】
好ましくは、ステップb/における電池の内部抵抗(R120s)の定期的測定は、固定された時間間隔にわたって充電電流または放電電流を印加することによって実行される。
【0037】
また好ましくは、固定された時間間隔は、公称容量(Cn)に対応する放電電流に対して60秒から180秒の間である。
【0038】
本発明の別の主題は、前述の方法を実装するために、水性電解質を採用する電池を制御するためのシステム(BMS)であり、このシステムは測定センサーと、センサーによって行われた測定に基づき、ユーザに、電池の故障、または電池の正しい動作のいずれかを通知するメッセージ、および好ましくは電池の余寿命(RBLT)を示すメッセージを配信するように構成されているプロセッサとを備える。
【0039】
本発明の別の主題は、電池が電気通信基地局、データセンター、原子力発電所など、電力の待機貯蔵所として機能するか、または電気自動車の低電圧ネットワークのためのベースおよびバックアップとして機能する用途において説明されたばかりの診断方法またはシステムの使用である。
【0040】
したがって、本発明は、本質的に、鉛蓄電池を診断し、有利にはその余寿命を推定するための新しい方法であり、電池はより具体的には待機蓄電用途を目的としている。
【0041】
この方法は、過充電電流を積分する連続監視測定(設置時から電池に印加される過充電Ahの計算)と、一定電流または一定電力での短時間放電を使用した電池の内部抵抗のDC電流の下での定期的測定との組合せに基づいている。これは、1時間の電流または公称電力、たとえば1A/Ahまたは1W/Whの問題であり得る。
【0042】
これらの測定結果は、選択された種類の鉛系電池の実験室試験の線形回帰の後に得られたキャリブレーションデータのセットと比較される。
【0043】
この比較は、監視されている電池が正常にエージングを生じているのか、またはそれとも早いエージングを生じているのか(したがって交換すべきであるか)を示す診断指示を引き起こす。
【0044】
また、これらの比較に基づき、日、月、または年単位の運用における余寿命を予測することも可能である。
【0045】
従来技術の方法と比較して、本発明による蓄電池または電池を診断するための方法は多くの利点を有し、とりわけ言及され得るのは以下の通りである。
- キャリブレーションデータを確立するために使用される実験室試験済み基準電池に基づき、原位置で、すなわち電池を商業使用現場から移動することなく、水性電解質を採用する任意の種類の電池技術に基づき望み通りに再現され得る信頼性の高い方法、
- 余寿命を予測するための方法。
【0046】
本発明による診断方法は、水性電解質を採用した電池を実装する待機エネルギー貯蔵用途に適用可能である。これらの用途は、電気通信基地局、データセンター、および原子力発電所を含む。そのような用途は、低コストであること、および高い予測可能性を必要としており、激しい充放電サイクルを伴わない。これらの仕様は、複数の異なる鉛系電池技術によって首尾良く満たされており、いくつかの最近の市場調査では、この状況は少なくとも中期的にはほぼ変わらないことを示している。たとえば、発表資料[2]は、2030年の展望を示している。
【0047】
本発明による診断方法が有利には適用され得るであろうエネルギー貯蔵市場の別の部門は、電気自動車市場である。ほとんどの電気自動車は、自動車の低電圧ネットワークのベースおよびバックアップとして12Vの鉛蓄電池を使用している(すなわち、これは待機エネルギー貯蔵の典型的な事例である)。発表資料[2]によれば、少なくとも2030年までの中期的には、この分野において鉛蓄電池が好ましい選択肢であり続ける。
【0048】
本発明の他の利点および特徴は、本発明の実装例の詳細な説明を読めばより明確にわかるが、この説明は非限定的であり、次の図を参照しつつ例示のために与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1A】先行技術と同様に、60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらそのエージングにおいて電池の第1のグループの容量および高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図1B】先行技術と同様に、60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらそのエージングにおいて電池の第1のグループの容量および高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図2A】先行技術と同様に、60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらそのエージングにおいて電池の第2のグループの容量および高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図2B】先行技術と同様に、60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらそのエージングにおいて電池の第2のグループの容量および高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図3A】先行技術と同様に、50℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらエージングにおいて電池の容量および高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図3B】先行技術と同様に、50℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらエージングにおいて電池の容量および高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図4A】60℃でのエージング中の電池の検査放電電圧における時間の関数としての変化を例示する曲線である。
【
図4B】60℃でのエージング中の電池の検査放電電圧における時間の関数としての変化を例示する曲線であり、
図4Aを時間毎に拡大した図である。
【
図4C】60℃でのエージング中の電池の検査放電電圧における時間の関数としての変化を例示する曲線である。
【
図4D】60℃でのエージング中の電池の検査放電電圧における時間の関数としての変化を例示する曲線であり、
図4Cを時間毎に拡大した図である。
【
図5A】本発明による、そのエージング中の電池のDC電流下での内部抵抗(R
120s)における時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図5B】本発明による、そのエージング中の電池のDC電流下での内部抵抗(R
120s)における時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図6A】本発明による、60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらその加速エージングにおいていくつかの電池の過充電電流における時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図6B】本発明による、60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらその加速エージングにおいていくつかの電池の過充電電流における時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図7A】本発明による、60℃および50℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらその加速エージングにおいて電池の累積過充電における時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図7B】本発明による、60℃および50℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用しながらその加速エージングにおいて電池の累積過充電における時間の関数としての変化を例示する曲線を示す図である。
【
図8A】
図5Aから
図7Bによる測定に基づく、60℃および50℃における電池のDC電流下での過充電(Q
ovch)と内部抵抗(R
120s)との間の相関を例示する曲線を示す図である。
【
図8B】
図5Aから
図7Bによる測定に基づく、60℃および50℃における電池のDC電流下での過充電(Q
ovch)と内部抵抗(R
120s)との間の相関を例示する曲線を示す図である。
【
図8C】
図5Aから
図7Bによる測定に基づく、60℃および50℃における電池のDC電流下での過充電(Q
ovch)と内部抵抗(R
120s)との間の相関を例示する曲線を示す図である。
【
図9】正しいエージング挙動を示す電池についてDC電流下での正規化内部抵抗の対数と正規化過充電との間の線形相関を示す図である。
【
図10A】正しいエージング挙動を示す電池に対する
図9の線形相関から取得されるキャリブレーション直線に関する正しいエージング挙動を示さない電池に対する正規化過充電の関数としてのDC電流下の正規化内部抵抗の対数間の偏差を例示する図である。
【
図10B】正しいエージング挙動を示す電池に対する
図9の線形相関から取得されるキャリブレーション直線に関する正しいエージング挙動を示さない電池に対する正規化過充電の関数としてのDC電流下の正規化内部抵抗の対数間の偏差を例示する図である。
【
図11A】電池に対する正規化過充電の関数としてのDC電流下での正規化内部抵抗の対数の値に応じて、正しいエージングの場合および早いエージングの場合の電池の余寿命の推定を例示する図である。
【
図11B】電池に対する正規化過充電の関数としてのDC電流下での正規化内部抵抗の対数の値に応じて、正しいエージングの場合および早いエージングの場合の電池の余寿命の推定を例示する図である。
【
図12】本発明による電池を診断し電池の余寿命(RBLT)を推定するための方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下の説明において、1蓄電池当たり2.27Vの電圧は、実施例では3つの蓄電池からなる電池の蓄電池1つ当たり2.27Vに等しい電圧を指すことに注意されたい。
【0051】
電池技術
本発明者らは、従来技術の診断方法を比較し、「Sprinter XP6V2800」という名称の下ですでに市販されている電池モデル--Exide社製の電池--を使用して電池を診断し、寿命を予測するための方法を実装した。
【0052】
この市販の電池は、6Vに等しい電圧を供給する、液体電解質がファイバーグラスマットに吸収され、固定化される(AGM技術、AGMは「Absorbed Glass Mat」の略)、3つの蓄電池を備え、公称容量195Ahを有する、制御弁式鉛蓄電池(VRLA)技術を採用する。
【0053】
典型的には、これらの電池は待機エネルギー貯蔵電池として様々なデータセンターに設置されている。
【0054】
ここで、試験された電池は、以下で、図において、頭字語「XP6Vnn」で指定され、nnは電池の1つを指定する数字参照である。
【0055】
実験プロトコル
4つの別々の電池の3つのグループが、1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電電圧および2つの温度レベルまで上げられる温度を使用して加速エージングに曝された。したがって、電池XP6V06、XP6V07、XP6V08、XP6V09からなるグループは、50℃の温度に曝された。一方の電池XP6V01、XP6V03、XP6V04、XP6V05、他方の電池XP6V11、XP6V12、XP6V13、XP6V14からなるグループは、60℃の温度で試験された。
【0056】
25℃での周期的対照試験は、高温での加速エージングを4から5週間行った後に実行された。
【0057】
検査プロトコルは、1kHz開回路で電池の内部インピーダンスのAC電流の下での測定から始め、その後、電池の電圧が1蓄電池当たり1.6Vの値に達するまで195Aに等しい一定の電流(1時間の電流またはC/1h)で完全放電させた。この測定は、HIOKI社によりHIOKI HiTESTER 3554という名称で販売されている計測器を使用して実行された。
【0058】
放電過程の後、電池は、1蓄電池当たり2.4Vの電圧制限で19.5Aから始まる定電流または定電圧領域において再充電された。
【0059】
フロート充電電圧は、充電開始から24時間後に1蓄電池当たり2.27Vに至り、このフロート充電電圧は次の検査手順の開始まで維持された。
【0060】
検査手順に含まれる他の電池試験の実施後数日間、温度は25℃から50℃または60℃まで上昇した。これらの他の試験は、非電気的なものであり、非侵襲的であり、電池の電気化学に影響を与えないものであった。これらは、したがって、従来技術による、および本発明による、診断測定に影響を及ぼさなかった。
【0061】
電池を診断するための従来技術の方法
完全放電測定、および1kHzの高周波でのAC電流下の内部インピーダンスの測定が電池上で実行された。
【0062】
図1A、
図1B、
図2A、
図2B、および
図3A、
図3Bは、それぞれ、60℃および50℃において電池の異なるグループに1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用した場合のエージングに対する電池診断の結果をまとめたものである。
【0063】
60℃で試験された電池の第1のグループは、3つの電池、すなわち、XP6V01、XP6V04、XP6V05の容量の急速減少を示しており、これは早期故障を示し、他の1つの電池、すなわちXP6V03のエージングが遅いことを示している(
図1A)。品質の低い3つの電池は、第1の製造日(2019年5月)のラベルが付けられた製造バッチに属していたが、正しい品質の電池は第2の製造日(2018年11月)のラベルが付けられていたと考えられる。
【0064】
高周波インピーダンスの測定(1kHzの内部抵抗)は、とりわけエージングの開始時に、容量とのきわめて低い相関を示した(
図1B)。正しい電池XP6V03の内部抵抗は、最低のままであったが、他の電池、すなわちXP6V01、XP6V04、XP6V05に関する差は比較的小さいままだった。これらのデータは、高周波内部抵抗が健全度(SOH)の推定に関してあまり感度の高いパラメータではなく、予測目的には使用できないことを示している。具体的には、これらの試験から、1kHzインピーダンスにおける時間の関数としての変化は、良好な電池と早期に故障する電池とで類似していることは明らかである。
【0065】
図2Aは、電池XP6V11、XP6V12、XP6V13、XP6V14の容量における時間の関数としての変化を示しており、これは、正しい電池XP6V03のそれときわめて類似している。これらの結果は、これらの電池のデータシートの情報と一致しており、これは60℃で、1蓄電池当たり2.27Vの電圧において6カ月の電池寿命を示している。容量の減少は、直線的ではなく、データ点に一定の分散がある。
図2Bは、また、電池XP6V11、XP6V12、XP6V13、XP6V14の内部抵抗のゆっくりとした増大を示し、これは容量における時間の関数としての変化と弱い相関を有する。これらの結果は、
図1Aおよび
図1Bのデータとは明らかに異なっており、高周波インピーダンスの著しい増大が、エージングの一月目に観察される。
【0066】
図3Aは、50℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用したエージングに対する電池XP6V06、XP6V07、XP6V08、XP6V09の容量および高周波インピーダンスの変化を示している。これらの電池のエージングは、前述の電池のエージングに比べて明らかに遅いことがわかる。第2の製造日がラベルに記載されている製造バッチに対応する3つの電池XP6V06、XP6V07、XP6V09は、非常にゆっくりと容量を失って行くが、第1の製造日がラベルに記載されている製造バッチから取り出された電池XP6V08は急速に劣化した。このことから、早期故障が製造品質の問題に関係するあることが確認された。正しい電池XP6V06、XP6V07、XP6V09のエージングの速度は、これらの電池のデータシートの情報に従っており、これは50℃で、1蓄電池当たり2.27Vの電圧により12カ月に等しい電池寿命を示している。50℃における正しい電池の容量の変化は、エージングの進んでいる待機電池の理論的挙動と非常によく対応しており、容量は、激しい充放電サイクリングがないので、変曲点まで、非常にゆっくりと減少する。この変曲点は、正極集電体表面に形成される腐食層のある臨界厚さに対応する。
【0067】
この厚さを超えると、集電体の電気抵抗および機械的完全性が急激に劣化し始め、これは容量の急速な損失に対応している。
図3Aのエージングの8から9カ月目における容量の変曲点は、そのことを示している。
【0068】
図3Bを読むと、高周波インピーダンスにおける時間の関数としての変化は、容量における時間の関数としての変化によく対応していないこともわかるであろう。また、容量の著しい差は、1kHzにおけるインピーダンスの非常に小さな差に対応し得ることもわかるであろう。
【0069】
DC電流の下での内部抵抗の測定を介して電池を診断するための方法
電池の電流の下での内部抵抗(RDC)は、オームの法則を使用して次のように推定され得る。
RDC=ΔU/ΔI (8)
ここで、ΔUは固定された時間間隔にわたってΔIに等しいある充電電流または放電電流を印加することに起因する電池の電圧の変化である。
【0070】
この時間間隔の持続時間は、充電/放電動作中に電池内に生じる様々な電気的および電気化学的過程の時定数に関係する。たとえば、1から5msの範囲にある持続時間は、1kHzの周波数によりAC電流の下でHioki計測器によって測定されたものに近いRDC値を供給する。
【0071】
本発明者らは、内部抵抗RDC(より正確にはΔU)の測定に対して最適な条件を選択するために、25℃で195A(C/1h)の一定の電流により制御放電中の電池の電圧曲線の時間の関数としての変化を詳細に分析した。
【0072】
図4Aから
図4Dは、第1グループの2つの電池XP6V03およびXP6V01が60℃でエージングを受けた場合の変化を示している。放電の最初の6分間のデータのズームは、電圧がプラトーになる傾向を有する、電池の公称容量の1.5から5%に対応する、特に1から3分の初期期間における、電池の電圧、エージング、容量変化の間の良い相関を示している(
図4Bおよび
図4D)。この結果から、1Cに等しい電流で2分間放電した後に測定された電池の電圧(U
120sと表されている)を、ΔUを定義するパラメータのうちの1つと見なすことができる。
【0073】
試験が進行する中で測定されたすべてのデータの検査、および1Cに近い電流で放電中の他の鉛系電池の電気的挙動の研究は、1電池当たり2V、または本研究のものについては1電池当たり6Vに等しい基本基準電圧が好適な経験的選択であることを示唆している。
【0074】
したがって、本発明者らは、提案された電池診断方法において、DC電流の下での内部抵抗(以下、R120sと表される)を指標として採用することを決定した。
【0075】
この内部抵抗は、以下の式に従って計算される。
R120s=(6V-U120s)/195A (9)
【0076】
電池の前述の3つのグループのエージングの進行におけるDC電流の下での内部抵抗(R
120s)における時間の関数としての変化が
図5Aおよび
図5Bに示されている。
【0077】
これらの図から、このパラメータR120sの使用は正しい電池と欠陥のある電池とが容易に区別されることを可能にし、後者は内部抵抗の増大が非常に速いことを示すことが明らかである。
【0078】
また、温度を10℃下げると(
図5Bの60℃から
図5Aの50℃)、内部抵抗R
120sにおける時間の関数としての変化が約2倍遅くなり、これはアレニウスの式に対応することもわかるであろう。
【0079】
内部抵抗R120sにおける時間の関数としての変化と電池の容量における時間の関数としての変化との比較は、1から2MΩの間隔におけるR120sの値が最終的に電池の寿命の終わりが近づいていることを示す指標として使用され得ることを示す。
【0080】
過充電電流の積分を使用する電池エージングの監視
前の図(
図1Aから
図5B)のデータから、温度は、特に待機貯蔵用途を目的とする電池のエージングの速度に非常に大きな影響を及ぼすことが明らかである。
【0081】
しかしながら、電池が収納される空間内の周囲温度は一定に保たれることは滅多にない。
【0082】
これは、電池のエージングの定量化および余寿命の推定を困難にする。
【0083】
待機貯蔵用途における充放電サイクル数が少なければ、各電池の2つの電極(アノード、カソード)の活物質が電池のエージングとともに劣化することはないと仮定することが可能になる。
【0084】
したがって、式(3)から(6)を参照しつつ説明されている反応は、電池性能の喪失の唯一の原因であると考えられ得る。
【0085】
電気化学反応に関与する種の数を外部電気回路を通過する電荷キャリアの数に関係付けるファラデーの法則によれば、電池のエージングの進行は、過充電電流および電気的過充電、すなわち過充電されたアンペアアワーに比例する。
【0086】
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ、第1のグループの2つの電池XP6V03およびXP6V01の場合について60℃で1蓄電池当たり2.27Vのフロート充電を適用した場合の加速エージングの進行にわたる過充電電流の変化を示す。ここで、これらの図で使用されている頭字語CUは、「チェックアップ」、すなわち、容量と内部抵抗との定期的測定を意味していることに留意されたい。その部分に対するCUの後に続く01、02、03などの数字は、各対応するチェックアップの番号である。
【0087】
温度の上昇の直後に過充電電流も増大し、一定ではないものの、所与の範囲に収まっていることがわかるであろう。このような理由から、本発明者らは、フロート過充電モードでは、積分電流信号を電池のエージングを明らかにするためのパラメータとして使用することがかなり実用的であろうと考えている。
【0088】
積分電流は、過充電されたアンペアアワーの計算に対応する。過充電されたアンペアアワーは、多数の異なる方法で計算され得る。
【0089】
最も正確なアプローチは、バッテリに印加される総電荷量から放電されたアンペアアワーを差し引くことである。
【0090】
【0091】
Qovchを計算するための近似的方法は、電池の電圧が1蓄電池当たり2.27Vに維持されている間にフロート過充電モードで印加される電流を積分することである。
【0092】
そのようなアプローチは、充電の終わりの後1蓄電池当たり約2.35から2.40Vの電圧でDC電流/DC電圧領域において電池が初期再充電されるときに非常に有効であり得る。
【0093】
この定電圧充電モードでは、4から5時間後に電池の充電状態が99%を超えるが、過充電は無視できるくらい小さいままである。
【0094】
図7Aおよび
図7Bは、それぞれ、60℃および50℃で、電池の前述の3つのグループのエージングの進行において測定された累積過充電(Q
ovch)の変化を示す。
【0095】
これらの
図7Aおよび
図7Bを見ると、電池のほとんどは、印加された過充電の総量が4000Ahに達したときに寿命の終わりに達していることは明らかである。この値は、両方のエージング温度(50℃および60℃)で事実上同じである。より急速なエージングを生じる、欠陥のある電池は、より多くの過充電を吸収する、すなわち、これらはより大きな電流で過充電され、このことは
図6Aおよび
図6Bによって裏付けられる。累積過充電(Q
ovch)における時間の関数としての変化は、特に正常なエージング挙動を有する電池、すなわち正しい電池において、直線的な進行に近い。
【0096】
この結果は、鉛-酸電気化学または水性電解質を採用する任意の他の電気化学を使用する待機電池用途の場合に、累積過充電(Qovch)が好適な電気化学的/電気的エージング指標であることを示す説得力のある指標である。
【0097】
内部抵抗(R
120s)と累積過充電(Q
ovch)との間の相関を使用する電池の寿命の推定
図8A、
図8B、および
図8Cは、それぞれ、60℃と50℃における、電池の前述の3つのグループに対する電池診断パラメータR
120sとQ
ovchとの間の相関を示している。
【0098】
図8Aから
図8Cを見ると、正しい電池の抵抗の対数は、適用される過充電とともに後者が3500から4000Ahの値に達するまで直線的に増大することは明らかである。内部抵抗R
120sは、3500から4000Ahのこの値より高く急速に増大し始め、これは電池の寿命の終わりが急速に近づいていることを示す。これらの曲線の線分は、両方のエージング温度(50℃および60℃)において類似しており、これは内部抵抗(R
120s)と累積過充電(Q
ovch)との間のこの半対数関係が電池診断および寿命予測のためのキャリブレーションデータとして使用され得ることを示している。
【0099】
そうであれば、内部抵抗(R120s)と適用された過充電(Qovch)は、公称容量と公称電圧に関する各電池のサイズ、すなわち直列に接続された蓄電池の数に関係する。
【0100】
さらに、非常に広範な電池モデルが、その全体的寸法のみ異なる同一のコンポーネント、すなわち同じ厚さの電極活物質および電極キャリアおよびセパレータで製造され得る。
【0101】
したがって、同一種類のコンポーネント、すなわち所与の化学的性質を有するコンポーネント(集電体キャリアの合金、電解質、電極活物質およびセパレータの組成)を使用して製造された一連の電池全体に診断方法を適用可能にするために電池パラメータR120sおよびQovchを正規化することが必要である。
【0102】
本発明者らは、適用される過充電を正規化するための最も実用的なパラメータは、電池の公称容量(Cn)であると考えている。結果として得られるパラメータは、関係式
Novch=Qovch/Cn (11)
によって定義される、「過充電指数」またはNovchとして表され得る。
【0103】
内部抵抗R120sは、その一部として、有利には、満充電状態の新しい電池の1kHz高周波内部インピーダンスを使用して、またはそのデータシートに示された値、すなわち同じ種類の新しい基準電池の値を使用して、正規化され得る。
【0104】
その結果得られるパラメータ(rn)は、
【0105】
【0106】
のように記述され得る。
【0107】
図9は、正規化されたパラメータrnを使用して正しい電池から取得された、本方法のキャリブレーションデータを、半対数座標系におけるN
ovchの関数として示している。任意選択で、同じ種類の電池でキャリブレーション作業を行うことで、超えたことで電池が交換されるべきであることを示す比Rn-maxを決定することができる。
【0108】
したがって、比RnとRn-maxとの比較も、任意選択で、電池交換の必要性が識別されることを可能にする。
【0109】
これらのキャリブレーションデータに対して実行された直線当てはめの結果は、内部抵抗R120sと適用された過充電Novchとの間の半対数関係が、電池診断に適用可能な経験的モデリングアプローチであることを示している。この直線当てはめは、正しいエージング基準電池上で実行され、この方法の残りの部分で使用される直線的なキャリブレーション線が取得されることを可能にする。
【0110】
決定の係数(R2、すなわち線形相関係数rの2乗)は2つの測定温度(50℃および60℃)で0.9よりも高い。これらの係数R2は、温度の変化が電池の寿命の予測に有意な影響を及ぼさないと結論するのに十分な近さの値である。
【0111】
したがって、合わせて実験データは寿命の終わりを予測するための2つの信頼できる基準、すなわち、過充電指数閾値と組み合わせた内部抵抗閾値が定義されることを可能にする。
【0112】
エージング欠陥電池から取得されたデータは、早期エージング挙動が認識されることを可能にする基準を導出するために使用され得る。
【0113】
データのこの分析は、それぞれ、50℃および60℃において
図10Aおよび
図10Bに提示されている。過充電の所与の量について、早期エージング挙動を示す電池は、正規化内部抵抗rnの対数から正の偏差Δを示すことがわかるであろう。電池の寿命の前半では、この偏差Δは0.3から0.4まで変化する。
【0114】
これらの結果および
図9において観察されるデータ点の分散から、0.2より小さい偏差Δは、電池の正常なエージングの確認となることと考えられるが、0.2より大きい偏差Δは、早期エージングを示すと考えられ得る。
【0115】
偏差Δが0.2より大きい場合、電池の余寿命がその後計算され、対応する電池が間もなく故障する危険性がある場合にユーザに通知され得る。
【0116】
図9、
図10A、および
図10Bの結果は、同じ事象のその後の繰り返し、すなわち偏差Δ>0.2は、将来の電池故障の信頼できる指標であると考えられ得、電池の緊急交換が必要であることを示している。
【0117】
対照的に、最近すでに交換された電池の存在は、負の偏差、すなわちΔ<-0.2を有する診断事象を通して示される。この場合、ユーザは、メッセージ「battery replaced recently」を介して通知され得る。
【0118】
電池の余寿命の推定は、それぞれ、2つの異なる診断データ点について
図11Aおよび
図11Bに概略として示されている。電池の正常なエージングの場合、電池の診断データ点は、キャリブレーション線に近く、すなわち偏差Δ<0.2である。
【0119】
この場合、残存過充電指数(N
rem)は、
N
rem=N
max-N
ovch (13)
のように表され得る。
ここで、N
maxは、故障するまでに電池によって許容可能な過充電の最大量に対応し、N
ovchは、システムのすべての電池が新品であると仮定して待機貯蔵システムの使用の試運転の開始以来電池に適用された過充電である。ここで、研究されている鉛蓄電池技術についてN
maxは20に等しいということに留意されたい。この値は、
図2A、
図3A、
図7A、および
図7Bに示されているデータから導出される。
【0120】
電池の公称容量(Cn)を使用することで、残存過充電指数(Nrem)は、関係式
Qrem=Cn*Nrem (14)
を介して過充電アンペアアワーの残存数(Qrem)に変換される。
【0121】
さらに、過充電アンペアアワーの数Qremは、平均過充電電流<Iovch>と、時間で表される電池の余寿命(RBLT)との積に等しい、すなわち、
Qrem=<Iovch>* RBLT (15)
に等しい。
【0122】
しかしながら、
図7Aおよび7Bのデータは、パラメータ<I
ovch>が定数と考えられることを可能にし、これは、適用された過充電、すなわちQ
ovchまたはCn*N
ovchと、時間で表された電池の実際の動作時間(BOT)との間の比として、すなわち、
<I
ovch>=Cn*N
ovch/BOT (16)
と表され得る。
【0123】
式(13)から式(16)の組合せは、電池の余寿命について関係式
【0124】
【0125】
が取得されることを可能にする。
【0126】
この式(17)は、Nmax/Novchの項が非常に大きくなるので、新しく設置された電池には適用可能でないことは言うまでもない。待機貯蔵用途では、貯蔵システムのメンテナンスは一般的に年に1回実施されるので、問題はない。
【0127】
また、非常に激しいエージングを示す電池については、Novch>Nmaxであるときに、RBLTの指標は負になる。この場合、電池の電池管理システム(BMS)は、緊急に電池交換をすべきであることを示すメッセージでユーザに通知し得る。
【0128】
図11Aおよび
図11Bは、正規化された内部抵抗が直線的なキャリブレーション線から著しく逸脱するときの、電池の早期エージングの場合も示している。この場合、パラメータN
ovchは、より短い電池寿命の予想に対応するように補正され得る。
図10Aおよび
図10Bの実験データは、この種の2つの連続する読み取りは、この電池を緊急に交換するようにユーザに通知するメッセージの生成の原因となり得ることを示している。
【0129】
図12は、説明したばかりの本発明による方法のアルゴリズムのフローチャートを示しており、これは有利には蓄電池の電池の電池管理システム(BMS)によって実装される。
図12において、アルゴリズムをパラメータ化するデータ(BMSデータ)は、破線の枠の中に示され、測定された電池パラメータ(監視パラメータ)は鎖線の枠の中に示され、出力データはそれにより枠の中に示され、灰色の背景を与えられている。本発明による方法に特有の他の内部変数および手順は、実線の枠の中に示されている。
【0130】
本発明は、これまでに説明した例に限定されず、示されている例の特徴は、特に、例示されていない変更形態の範囲内で一緒に組み合わされ得る。
【0131】
本発明の範囲から逸脱することなく、さらなる変更形態および改善も企図され得る。
【0132】
例示されている例では、採用された電池技術および実験プロトコルで得られた結果は、内部抵抗パラメータR
120sが正極集電体上に形成される腐食層の電気抵抗と相関することを示している。電池の動作の開始時に、腐食層は薄く、このためR
120sの値は非常に低い。
図4Aから
図4Dのデータは、電池の電圧の基準値は、放電の開始後60から180秒の間隔内で設定され得ることを示している。たとえば、60秒(R
60s)の内部抵抗値で同じ種類の分析が実行され、
図8Aから
図8Cに例示されているものと非常によく似たプロットが取得された。
【0133】
電池に印加される放電電流が修正される場合、試し放電の持続時間および電池の基準電圧の選択を補正する必要がある。
【0134】
放電時間への補正は、印加される放電電流に比例する。たとえば、放電電流がCn/0.5h(30分の公称放電電流)に等しい場合、時間範囲間隔は2倍短くなる、すなわち30から90秒(60から180秒に対して)となる。対照的に、より低い放電電流、たとえばCn/2hの印加は、2倍長い試し放電期間(120から360秒)に対応する。
【0135】
様々な放電電流における基準電圧の補正は、0.01から0.1MΩの範囲に留まるDC電流の下での正規化内部抵抗を取得するために、放電電圧過渡値の評価を必要とする、すなわちこれは充電の状態SOC=100%および健全度SOH=100%で1kHzにおけるAC電流の下で測定された電池の内部インピーダンスよりも少なくとも1桁小さくなければならない。
【0136】
説明したばかりの電池診断方法は、主充電反応に使用された電気を放電する過程に対応するアンペアアワーの分離を必要とする。例示されている例では、採用された電池技術および実験プロトコルにより、この分離は放電実験からのデータを使用して達成される、すなわち放電されたアンペアアワーの数は、適用された充電全体から差し引かれる。これは、電気化学的な観点から最も正確なアプローチである。過充電Qovchを推定するための代替的戦略は、フロート充電モードで、すなわち、電圧がこの場合に適切な1蓄電池当たり2.27Vに等しいときに、注入されたアンペアアワーのみを考慮することである。このアプローチは、主に定電流/定電圧モードで充電が実行され、電圧限界が比較的短い時間の間に1蓄電池当たり2.35から2.40Vである場合に非常に有効であり得る。たとえば、定電圧は10から15時間の間に印加される。そのような条件の下で、事前に放電された容量は、最小の過充電で電池に戻される、すなわち、ファラデー効率は97から98%の間となる。充電が1蓄電池当たり2.27Vの制限電圧を使用して実行される場合、フロート充電モードで最初の24から48時間の間に電池に注入されるアンペアアワーを省くことによって過充電の補正が行われ得る。そのような戦略は、対応する時間がメーカーが指定する電池の典型的な寿命よりもはるかに短いので、妥当である。たとえば、使用された「Sprinter XP6V2800」技術は、20℃で8年の寿命と規定されている。