(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】耐干渉性の固体参照電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
G01N27/30 311C
(21)【出願番号】P 2022526134
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 AU2020051213
(87)【国際公開番号】W WO2021087572
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-08-17
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】590003283
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】マセード,デイビッド サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェプサライネン,ミッコ カレヴィ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/035116(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/201200(WO,A1)
【文献】特開昭59-190650(JP,A)
【文献】特開2003-262606(JP,A)
【文献】MANGOLD, K. M. et al,,Reference electrodes based on conducting polymers,Fresenius J Anal Chem,2000年,Vol.367,pp.340-342
【文献】KISIEL, A. et al.,Polypyrrole Microcapsules in All-solid-state Reference Electrodes,Electroanalysis,2012年,Vol.24, No.1,pp.165-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体とイオン連絡をする参照要素、分析物と接触するための電極表面、および前記電極表面と前記参照要素との間に位置する固体イオン交換材料を含み、
前記複合体は、参照アニオンを含む固体無機塩が充填された電気絶縁性の水透過性ポリマー基質を含み、前記固体無機塩は、ポリマー基質に分散した粒子状固体であり、前記固体無機塩は、前記複合体の水和によって前記参照要素における前記参照アニオンの飽和溶液濃度が一定になるように、水に十分に溶解するものであり、および前記参照アニオンは、参照電位を提供するために参照要素において所望の酸化還元半反応に参加することができ、
前記固体イオン交換材料は、1つ以上の非妨害アニオンを含み、
前記参照要素は、前記固体イオン交換材料から電気的に絶縁されており、
使用時において、妨害アニオンが前記分析物の溶液に存在する場合、前記固体イオン交換材料は、1つ以上の前記妨害アニオンを、前記非妨害
アニオンとの交換により固定化する、固体参照電極。
【請求項2】
前記固体イオン交換材料が、金属塩またはイオン交換樹脂を含む、請求項1に記載の固体参照電極。
【請求項3】
前記固体イオン交換材料が、前記固体無機塩よりも低い水溶性を有する金属塩を含む、請求項1または2に記載の固体参照電極。
【請求項4】
前記非妨害アニオンが前記参照アニオンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項5】
前記固体イオン交換材料が、銀、水銀、および鉛からなる群から選択されるカチオンを含む金属塩を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項6】
前記固体イオン交換材料が、前記参照要素に存在する金属を含む金属塩を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項7】
前記妨害アニオンが、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、およびシアン化物イオンからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項8】
前記固体イオン交換材料が、粒子状材料である、請求項1~7のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項9】
前記固体イオン交換材料が、前記複合体の前記ポリマー基質に充填されている、または前記電極表面と前記参照要素との間に位置するさらなるポリマー複合体に充填されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項10】
前記さらなるポリマー複合体は、水和性ポリマー中に分散された前記固体イオン交換材料を含む、請求項9に記載の固体参照電極。
【請求項11】
前記固体イオン交換材料が、前記複合体の前記ポリマー基質に充填されている、請求項9に記載の固体参照電極。
【請求項12】
前記固体イオン交換材料が、前記複合体の少なくとも1質量%の量で存在する、請求項11に記載の固体参照電極。
【請求項13】
前記固体イオン交換材料が、前記電極表面と前記複合体との間に位置する前記さらなるポリマー複合体の水透過性層に充填されている、請求項9または10に記載の固体参照電極。
【請求項14】
前記参照アニオンが塩化物イオンである、請求項1~13のいずれか1項に記載の固体参照電極。
【請求項15】
前記参照要素がAg/AgClおよびカロメルからなる群から選択される、請求項14に記載の固体参照電極。
【請求項16】
前記水透過性ポリマー基質が、ヘテロ原子を含むビニルモノマーのビニルポリマーを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の固体参照電極。
【請求項17】
前記ビニルポリマーが架橋されている、請求項16に記載の固体参照電極。
【請求項18】
前記架橋されたビニルポリマーが、i)ビニルエステル、ビニルアミド、およびアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種のビニルモノマー、ならびにii)少なくとも2種の共重合可能なビニル官能基を含む架橋剤のコポリマーである、請求項17に記載の固体参照電極。
【請求項19】
前記複合体が、前記固体無機塩を少なくとも30質量%含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の固体参照電極。
【請求項20】
分析物の電気化学的分析のためのシステムであって、前記システムは、
請求項1~19のいずれか一項に記載の固体参照電極、
イオン選択性電極および作用電極から選択される第2の電極、ならびに
前記第2の電極と前記参照電極との間の電位差を測定する手段、を含むシステム。
【請求項21】
分析物の電気化学的分析方法であって、前記方法は、
i)請求項1~19のいずれか一項に記載の固体参照電極、ならびに
ii)イオン選択性電極および作用電極から選択される第2の電極、を分析物と接触させること、および
前記第2の電極と前記参照電極との間の電気化学的電位差を測定すること、を含む方法。
【請求項22】
前記分析物は、溶液中に1つ以上の妨害アニオンを含み、前記1つ以上の妨害アニオンは、期待される電極電位からの逸脱を引き起こす参照要素での競合的酸化還元反応に参加することができる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記妨害アニオンは、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、およびシアン化物イオンからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記妨害アニオンは、硫化物イオンを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記固体イオン交換材料は、1つ以上の前記妨害アニオンを、前記非妨害アニオンとの交換により固定化する、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体参照電極に関する。特に、この電極は、参照アニオンを含む無機塩を充填したポリマー複合体とイオン連絡する(またはイオン的に連絡する、イオンの連絡をする;in ionic communication)参照要素と、電極表面と参照要素との間に位置する固体イオン交換材料とを含む。使用中、固体イオン交換材料は、材料中に存在する非妨害イオンとの交換により、分析物中に存在する妨害イオンを固定化する。また、本発明は、固体参照電極を含む分析物の電気化学的分析システム、および固体参照電極を用いた分析物の電気化学的分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電位差測定や電圧測定などの電気分析技術は、指示電極と参照電極の両方に依存しており、これらの性能は測定の精度にとって同等に重要である。したがって、参照電極が安定した再現性のある電位を提供することが重要であり、それは分析対象種を含む分析物中の種の濃度に実質的に依存しない。
【0003】
一定の参照電位を提供するために、参照電極は伝統的に、ケーシング内に収められた塩濃度既知の液体またはゲル電解質の槽に浸された参照要素を含む。塩化カリウム(KCl)電解質中の銀/塩化銀(Ag/AgCl)とカロメル(Hg/Hg2Cl2)参照電極が一般的である。電解質はケーシングによって分析物から実質的に隔離されているが、分析物と内部電解質の間には、イオン交換を行い、電気化学セルを完成させるための液体接合部(ソルトブリッジ)が必要である。この液体接合部は、通常、ケーシングに設けられた小さな開口部または多孔質プラグで構成される。
【0004】
従来の参照電極は、多くの用途に適しているが、大きな欠点もある。例えば、電解液が液体接合部から漏れ、分析物を参照電解質塩で汚染する可能性があること、分析物が内部電解液に浸入して電解質塩濃度に影響を与え、参照ハーフセル反応に干渉する外来種を導入してしまうことなどが挙げられる。接合部または電解質はこれらの懸念を軽減するように設計できるが、電解質と分析物の間の液体接触を最小限にすることと、分析測定における誤差の原因となる許容接合電位を維持することは、本質的にトレードオフの関係にあると言える。さらに、従来の電極は、電解液の体積や複雑な構造により小型化が難しく、また一般的に位置依存性があり、壊れやすく、費用やメンテナンスが必要である。
【0005】
液体電解質リザーバとそれに対応する液-液接合を持たない固体参照電極を使用して、これらの課題の1つ以上に対処するために、多くの以前の取り組みがなされてきた。Vonauら、DE10305005は、KClの凝固したメルトに埋め込まれた焼結Ag/AgCl参照要素を記述している。KClは、セラミック層と外側ケーシング内に封入され、ケーシングの小さな開口部でセラミックが露出し、イオン通信を調節し、分析物へのKCl溶解を制限するための接合部を形成している。これらの電極は、内部の塩と分析物の間の多孔質接合に依存しており、その結果、壊れやすく、複雑な構造になっている。
【0006】
一つの有望なアプローチは、参照アニオンを構成する無機塩を充填した水透過性ポリマー基質という形の複合体に参照要素を埋め込むことである。水性分析物中に浸漬すると、参照アニオンの飽和濃度が参照要素に供給されるまで、複合体は水和される。したがって、例えば、Vonauら、DE19533059は、KClを充填したポリエステル樹脂複合体中に埋め込まれたAg/AgCl参照要素を含む参照電極を報告している。Mousaviら、Analyst2013(138)5216及びJournal of Solid State Electrochemistry 2014(18)607は、粒子状のKClを充填したポリ酢酸ビニル(PVAc)ホモポリマーに埋め込まれたAg/AgCl参照要素を含む参照電極を調製した。適切に設計されていれば、ポリマー基質は塩の急速な浸出を防ぐと同時に、参照要素と分析物との間の十分なイオン伝導を可能にする。
【0007】
しかしながら、多くの用途において、分析物には複合体を劣化させる成分や、測定された参照電位の長期安定性を阻害する成分が含まれている。例えば、強酸性または研磨性の分析物は、寸法安定性が失われ、無機塩が溶出する程度にポリマー複合体電極を劣化させることがある。WO2018/201200として公開された本出願人の共同出願のPCT出願において、これは、架橋されたビニルポリマー基質を有する複合体を使用することによって対処された。
【0008】
しかしながら、参照塩を充填したポリマー複合体を含む固体参照電極は、参照要素における競合的な酸化還元反応に参加することができる可溶性イオン種による干渉の影響を受けやすいままである。これらの望ましくない反応は、期待される電極電位から離れたドリフトを引き起こす。特に、硫化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオンのような陰イオン種は、塩化物や硫酸塩を参照アニオンとする参照電極に干渉することがある。
【0009】
したがって、上記の欠点の1つ以上に少なくとも部分的に対処するか、または有用な代替物を提供する固体参照電極を提供する必要性が継続的に存在する。
【0010】
本明細書において、先行技術として示される特許文書又は他の事項への言及は、その文書又は事項が、請求項のいずれかの優先日において知られていたこと、又はそれが含む情報が一般的な一般知識の一部であったことを認めるものとして解釈されてはならない。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、分析物中に存在するイオン種による酸化還元干渉に対する抵抗が増加したポリマー複合体参照電極が、交換可能な非妨害イオンを有する固体イオン交換材料を組み込むことによって得られ得ることを見出した。使用中、固体イオン交換材料は、分析物から電極に拡散する1つ以上の妨害イオンを遮断し、それによって参照要素における望ましくない酸化還元反応の確率を減少させる。イオン交換反応は、妨害イオンを固定化し、測定された参照電位に実質的な影響を与えない非妨害イオンを放出する。
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、以下を含む固体参照電極を提供する。複合体(または複合材料、コンポジット;composite)とイオン連絡をする(またはイオン的に連絡する、イオンの連絡をする;in ionic communication with)参照要素(または基準素子;reference element)であって、当該複合体は、参照アニオンを含む固体無機塩が充填された(または含んだ、備えた、担持された;loaded)水透過性ポリマー基質(またはマトリックス;matrix)を含む、参照要素;分析物と接触するための電極表面;及び電極表面と参照要素との間に位置する固体イオン交換材料であって、固体イオン交換材料は1つ以上の非妨害イオンを含み、使用時(または使用中;in use)において、妨害イオンが分析物の溶液に存在する場合、固体イオン交換材料は、1つ以上の妨害イオンを、非妨害イオンとの交換により固定化させる。
【0013】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、金属塩またはイオン交換樹脂を含む。いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、固体無機塩よりも低い水溶性を有する金属塩を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、1つ以上の非妨害イオンが非妨害アニオンであり、1つ以上の妨害イオンが妨害アニオンである。非妨害アニオンは、参照アニオンを構成してもよい。いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料が、銀、水銀、および鉛からなる群から選択されるカチオンを含む金属塩を含む。いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料が、参照要素に存在する金属を含む金属塩を含む。いくつかの実施形態では、妨害アニオンが、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、およびシアン化物イオンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、妨害アニオンが、硫化物を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料が、粒子状材料である。
【0016】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料が、複合体のポリマー基質に充填されている、または電極表面と参照要素との間に位置する更なるポリマー複合体に充填されている。さらなるポリマー複合体は、水和性ポリマー中に分散された固体アニオン交換材料を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料が、複合体のポリマー基質に充填されている。固体イオン交換材料は、複合体の少なくとも1質量%、例えば少なくとも3質量%の量で存在してもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、電極表面と複合体との間に位置するさらなるポリマー複合体の水透過性層中に充填されている。
【0019】
いくつかの実施形態では、参照アニオンが、塩化物イオンである。いくつかの実施形態では、参照要素が、Ag/AgCl及びカロメルからなる群から選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、水透過性ポリマー基が、ヘテロ原子を含むビニルモノマーのビニルポリマーを含んでいる。ビニルポリマーは、架橋されていてもよい。架橋されたビニルポリマーは、i)ビニルエステル、ビニルアミド、およびアクリレートからなる群から選択される少なくとも1つのビニルモノマーと、ならびにii)少なくとも2種の共重合可能なビニル官能基を含む架橋剤とのコポリマーであってもよい。水和性ポリマーが存在する場合、同様に、ヘテロ原子を含むビニルモノマーのビニルポリマーであってもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、複合体は、固体無機塩を少なくとも30質量%含む。
【0022】
第2の態様によれば、本発明は、分析物の電気化学的分析のためのシステムを提供し、このシステムは、第1の態様の任意の実施形態による固体参照電極;イオン選択性電極および作用電極から選択される第2の電極;ならびに第2の電極と参照電極との間の電位差を測定する手段;を含む。
【0023】
第3の態様によれば、本発明は、分析物の電気化学的分析方法を提供し、この方法は、i)第1の態様のいずれかの実施形態による固体参照電極と、ii)イオン選択性電極及び作用電極から選択される第2の電極とを分析物に接触させること;及び第2の電極と参照電極との間の電気化学的電位の差を測定すること;を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、分析物は、溶液中に1つ以上の妨害イオンを含む。いくつかのそのような実施形態では、妨害イオンは妨害アニオンである。妨害アニオンは、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、およびシアン化物イオンからなる群から選択されてもよい。いくつかの実施形態では、妨害アニオンは硫化物を含む。
【0025】
用語「comprise」、「comprises」及び「comprising」が本明細書(特許請求の範囲を含む)において使用される場合、それらは、記載された特徴、整数、ステップ又は成分を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ又は成分、又はそれらの群の存在を排除するものではないと解釈されるものとする。
【0026】
本明細書で使用されるように、開示された装置の様々な特徴に関連する「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、任意に割り当てられ、単に装置が様々な実施形態で組み込むことができる2以上のそのような特徴を区別するために意図されている。用語は、それ自体、特定の方向性又は順序を示すものではない。さらに、「第1の」特徴の存在は、「第2の」特徴の存在を意味せず、「第2の」特徴の存在は、「第1の」特徴の存在を意味しないことなどが理解されよう。
【0027】
本発明の更なる態様は、発明の詳細な説明の中に以下に現れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本明細書では、本発明の実施形態は、添付の図面を参照して例示的にのみ説明される。
【0029】
図1は、固体イオン交換材料が複合体に分散されている、本発明の一実施形態による固体参照電極を概略的に示す。
【0030】
図2は、固体イオン交換材料が印刷された複合体層に分散されている、本発明の別の実施形態による印刷固体参照電極を概略的に示している。
【0031】
図3は、本発明の別の実施形態による固体参照電極を概略的に示す図であり、固体イオン交換材料は、電極表面と複合体との間に位置する水透過性層に存在する。
【0032】
図4は、実施例2で測定した、硫化物アニオンを含む分析物に140日間暴露したときの、固体イオン交換材料としてAgClを含む電極と、固体イオン交換材料を欠く比較電極の電位応答のプロットである。
【0033】
図5は、実施例3で測定した、硫化物アニオンを含む分析物に曝露したときの、固体イオン交換材料として塩化物充填イオン交換樹脂粒子を含む電極と、固体イオン交換材料を含まない比較電極の電位応答のプロットである。
【0034】
図6は、実施例5で測定した、硫化物アニオンを含む強酸性分析物に曝露したときの、固体イオン交換材料としてAgClを含む電極と、固体イオン交換材料を欠く比較電極の電位応答のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
固体参照電極
本発明は、固体参照電極に関する。この電極は、複合体とイオン連絡する参照要素を含む。複合体は、参照アニオンを含む固体無機塩が充填された水透過性ポリマー基質を含む。電極は、分析物と接触するための電極表面を有し、固体イオン交換材料は、電極表面と参照要素との間に配置される。固体イオン交換材料は、1つ以上の非妨害イオンを含む。使用時において、妨害イオンが分析物の溶液に存在する場合、固体イオン交換材料は、1つ以上の妨害イオンを、非妨害イオンと交換することにより、固定化する。
【0036】
参照要素
固体参照電極は、参照要素を含む。本明細書で使用する場合、参照要素は、使用中の参照電解質に曝露された(または曝された;exposed)ときに参照電位を提供することができる酸化還元カップルを含む、またはその場で開発する導電性本体(またはボディ;body)である。
【0037】
参照要素は、参照アニオンの一定濃度を有する参照電解質と接触した際に安定した電位を提供することができる任意の適切な参照要素であってもよい。そのような参照要素には、塩化銀(Ag/AgCl)、カロメル(Hg/Hg2Cl2)、硫酸銀(Ag/Ag2SO4)、及び硫酸水銀(Hg/Hg2SO4)のレドックス・カップルを有するものを含む。いくつかの実施形態では、参照要素は、Ag/AgClまたはカロメル参照要素であり、これらは、安定した塩化物濃度を含む参照電解質にさらされたときに参照電位を提供するものである。少なくとも部分的には、環境および安全性の理由から、Ag/AgCl参照要素が特に好ましい。
【0038】
Ag/AgCl参照要素は、典型的には電気化学的または化学的酸化によって塩化銀で被覆された銀線または他の銀金属体を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、参照要素は、複合体と接触する表面積を向上させるために、メッシュ状または編組状の金属構造を含。Ag/AgCl参照要素はまた、AgとAgCl粉末の混合物を焼結することなど、他の様々な方法によって作製することができる。印刷されたAg/AgCl参照要素は、基板上に銀の層を印刷し、次亜塩素酸塩などの塩素化剤を用いてその層を化学的に酸化させることで得ることができる。あるいは、AgとAgClの両方の粒子をキャリアに含むインクを使用することもできる。
【0039】
使用時には、参照要素は外部回路を介して他の電極と電気的に接続される。そのため、参照要素には、回路に接続するための適切な電気的終端が設けられているのが一般的である。例えば、銀線参照電極の場合、電気的な終端は、線の被覆されていない端部であることがある。
【0040】
検出電極に対する参照電位は、参照電極の導電性本体を介した電気伝導によって測定される。参照電極は電位差、ボルタンメトリー、アンペロメトリー電気化学分析用に構成されているため、参照要素の電位は、参照要素上の活性酸化還元カップルと電位測定器の間で大きなインピーダンスなしに測定する必要がある。したがって、電極は一般に参照電位の低インピーダンス測定のために構成され、電極の全体的なインピーダンスは、参照要素を通る電気伝導度の制限とは対照的に、参照要素と分析物の間のイオン伝導度の制限に主に起因している。特に、電極は、参照電位が測定される参照要素に結合された抵抗を含んでいない。また、電極は一般に、抵抗器によって分離された2つの異なる電極部で確立されたイオン感受性電位を組み合わせることによって参照電位を決定する電極とは対照的に、測定のために単一の参照電位を提供するように構成されていることが分かる。
【0041】
複合体
参照要素は、複合体とイオン的に連絡する。複合体の役割は、電極が水性分析物と接触して水和した際に、参照要素で参照アニオンの実質的に安定した溶液濃度を提供し、同時に参照要素と分析物との間の十分なイオン伝導性を可能にすることである。参照要素は、使用時にこれらの基準が満たされることを条件として、電解質と接触するか又は電解質に近接する場合、好適には複合体とイオン的に連絡することになる。いくつかの実施形態では、参照要素は、複合体と直接接触している。いくつかの実施形態では、複合体は、電極表面と参照要素との間に少なくとも部分的に配置される。
【0042】
複合体は、参照アニオンを含む固体無機塩を充填した水透過性ポリマー基質を含む。したがって、複合体は、一般に、内部に液体電解質リザーバを持たない固体材料である。しかしながら、使用時に複合体の水和を可能にし、参照要素と分析物との間に満足なイオン伝導度を提供するために、複合体が水に対して十分に透過性であることが必要である。さらに、無機塩の分析物への溶出速度は低いことが好ましい。用途によっては、複合体が強酸性または研磨性の分析物で劣化しにくいことも好ましい。
【0043】
複合体は、デバイスの必要寿命(1週間以上、または1ヶ月以上)の間、意図する水性分析物中で寸法的に安定であることが好ましい。寸法安定性は、多くの用途において重要な機械的要件である。したがって、いくつかの実施形態では、複合体は、水性分析物中に浸漬された際に、固体無機塩の浸出をもたらすので、顕著な膨潤を起こさない。任意の膨潤は、初期体積の約10%未満であってよい。
【0044】
複合体は、固体参照電極の物理的本体を規定することができる。しかし、いくつかの実施形態では、参照電極は、複合体の周囲にケーシングを構成する。ケーシングは、想定される用途に適した絶縁性及び耐久性のある材料、例えばポリ(メタクリル酸メチル)で作製されてもよい。使用される場合、ケースは一般に、複合体を分析物に露出させるための窓を含み、直接的に、または以下に説明するような中間水透過性層を介して、複合体を露出させることができる。
【0045】
複合体のポリマー基質には、参照アニオンを構成する固体無機塩が充填されている。この無機塩は、複合体の水和によって、参照要素における参照アニオンの飽和溶液濃度が一定になるように、水に十分に溶解するものである。固体無機塩は、典型的には粒子状の固体として、ポリマー基質中に分散していてもよい。固体無機塩は典型的にはポリマー基質全体に分散しているが、無機塩の非均一な分布が複合体中に存在することは排除されない。いくつかの実施形態では、無機塩の分布は、重合前のモノマー混合物中の微粒子塩の重量的沈降に起因するものである。
【0046】
固体無機塩の高充填は、参照電極の寿命を延ばすことができるため、有益であると考えられる。いくつかの実施形態では、複合体は、少なくとも10質量%の固体無機塩、好ましくは少なくとも30質量%、より好ましくは少なくとも50質量%の固体無機塩を含んでなる。しかしながら、充填は、複合体の物理的完全性が損なわれるほど高くしない方がよい。適切な充填は、粒子状固体(すなわち粉末)の形態の無機塩を、重合前にモノマー混合物中に重量的に沈降させることによって達成され得る。
【0047】
固体無機塩は、参照アニオンを含んでなる。本明細書で使用されるように、参照アニオンは、参照要素において所望の酸化還元半反応に参加するアニオンである。例えば、Ag/AgCl参照電極およびAg/Ag
2SO
4参照電極は、それぞれ塩化物および硫酸塩参照アニオンを必要とする。使用時には、一定の参照電位を得るために、参照アニオンは複合体中で一定の溶液濃度で提供される必要がある。これは、例えば、Ag/AgCl参照電極の半減期電位が、適用可能なネルンスト式(1)で与えられることから明らかである。
ここで、Eは半セル還元電位、E
0は標準半セル還元電位、Rは普遍気体定数、Tは温度、a
Cl
-は塩化物イオンの活性(濃度と相関がある)である。
【0048】
いくつかの実施形態では、固体無機塩は、硫酸塩、例えばAg/Ag2SO4参照電極のための硫酸カリウムである。他の実施形態では、固体無機塩は、塩化物塩、例えば塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、又は塩化リチウム(LiCl)であり、好ましくはKClである。塩化物参照アニオンは、参照電極が、例えば、Ag/AgCl又はカロメル電極である場合に必要とされる。
【0049】
いくつかの実施形態では、無機塩は無機カチオンと無機アニオンからなり、すなわち配位子または他の有機成分を欠いている。ポリマー基質および無機塩は複合体の化学的に異なる成分であるため、無機塩は複合体のポリマー基質に共有結合していない。対照的に、参照イオンでチャージバランスされたイオン性ポリマーは、無機塩を充填したコンポジットではなく、それ自体では、参照要素で長期的かつ一定の飽和溶液濃度を確立するには不十分な量の易溶性参照イオンを提供する。
【0050】
無機塩は、粒子状固体であってもよい。いくつかの実施形態では、粒子状固体は、1mm未満、好ましくは500ミクロン未満の平均粒子径を有する。粒子は、ポリマー基質全体に十分に分散した分布を形成するのに十分な大きさであってよい。
【0051】
複合体は、参照アニオンを含む無機塩、及びいくつかの実施形態ではまた固体イオン交換材料を充填した水透過性ポリマー基質を含む。本明細書で使用されるように、ポリマー基質は、無機塩がその中に充填される複合体のポリマー相である。少なくともいくつかの実施形態において、複合体は、連続相としてのポリマー基質と、不連続相としての無機塩とを含む。したがって、ポリマー基質のポリマーは、適切な疎水性-親水性バランスを有することが好ましい。水透過性は、複合体の水和を可能にし、参照要素と分析物の間にポリマー基質を介したイオン伝導を提供するのに十分であるべきである。したがって、電極のインピーダンスは許容できるほど低く、電極は、分析物中に置かれたときに許容できる時間で安定した電位を達成し得る(すなわち、条件付けられた状態になる)。しかしながら、ポリマーの実質的な膨潤、電極本体の物理的完全性の喪失、及び/又は無機塩及び/又は固体イオン交換材料の分析物への急速な浸出をもたらすかもしれないので、複合体は親水性過ぎないことがまた好ましい。ポリマー基質は一般に電気絶縁性であり、特に本質的に導電性のポリマー(ポリピロールなど)からは構成されない。したがって、基準物質とイオン交換材料は、使用時に互いに電気的に絶縁される。
【0052】
ポリマー基質が上記の考察を考慮して適切に水透過性である限り、ポリマーの種類は限定されるとは考えられない。したがって、ポリマーは、いくつかの実施形態において、ビニルポリマー、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリサッカライドであってもよい。適切なポリマーの具体例としては、WO2012074356A1に開示されている、プロポキシレートジグリシジルエーテル、メチルメタシレートグリシジル-メタクリレートテトラヒドロフルフリルアクリレートコポリマー、酢酸セルロース、エチルセルロース、およびセルロース等、WO1996035116A1に開示されている、シリコンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリヒドロキシエチル-メタクリレート、ポリ塩化ビニリデン、およびポリウレタン、US6793789B2に開示されている、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、三酢酸セルロース、ニトロセルロースおよびそれらの組み合わせ、US4908117Aに開示されている、フッ化ビニルのポリマー。ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、DE102010050481A1に開示されているエピクロロヒドリンエポキシ樹脂、US8486246B2に開示されている、ポリメタクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリブチルアクリレートなどのポリマー、DE10354100A1に開示されているN-アクリルアミド、WO2006032284A1に開示されているアクリレートポリマー、US7790323B2に開示されている、N-アクロイルアミノエトキシエタノールのポリマーまたはコポリマー、DE102011089707A1に開示されている4級アミンを含むカチオン性モノマーとアニオン性モノマーのコポリマーなどが含まれ得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、複合体のポリマー基質は、ビニルポリマーを含む。本明細書で使用されるように、ビニルポリマーは、拡張アルカン(...-C-C-C-C-...)バックボーン鎖を含む1つ以上のビニルモノマーの付加重合体である。低インピーダンス及び高電気化学的安定性のための最適な疎水性-親水性バランスを達成しつつ、優れた耐薬品性と機械的安定性を提供するためには、これからさらに説明するように、モノマー(複数可)、架橋基及びポリマー基質中の架橋度の適切な組み合わせが必要な場合があるが、広範囲のビニルポリマーが適していると思われる。
【0054】
ビニルポリマーは、ヘテロ原子を含む少なくとも1つのビニルモノマーのポリマーであってよく、任意に2つ以上のヘテロ原子を含むものであってもよい。ヘテロ原子又はヘテロ原子は、酸素及び窒素から選択されてもよい。そのようなヘテロ原子含有ビニルモノマーは、ポリマー骨格鎖に親水性を付与し、複合体を介した水和及びイオン伝導を可能にし得る。いくつかの実施形態では、ヘテロ原子を含有するビニルモノマーは、ビニルエステル、ビニルアミド、アクリレート、アクリロニトリル及びビニルエーテルからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ビニルモノマーはカルボニル基を含んでおり、ビニルエステル、ビニルアミド及びアクリレートからなる群から選択されてもよい。適切なビニルモノマーは、酢酸ビニル、ビニルカプロラクタム、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート及びヘキシル(メタ)アクリレートを含んでもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、ビニルポリマーは、唯一の単官能性モノマーとしてヘテロ原子を含むビニルモノマーを含む。他の実施形態では、ビニルポリマーは、ヘテロ原子を含むビニルモノマーと、ヘテロ原子を欠くより極性の低いビニルモノマーとのコポリマーである。ビニルポリマーに適したモノマー組成物は、本明細書に開示された原理を考慮して、当業者によって過度の負担なく選択され得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、ビニルポリマーは、架橋されたビニルポリマーである。このようなポリマーは、例えば、ヘテロ原子を含むビニルモノマーと共重合可能な架橋剤とを含む混合物を共重合することにより得られ得る。ビニルポリマーの架橋は、いくつかの実施形態において、例えば、強酸性及び/又は高温の使用条件下での化学的攻撃の結果としての劣化に対する電極の耐性を高め得る。いくつかの実施形態では、架橋は、例えば、研磨剤の使用条件下での機械的劣化に対する電極の耐性を強化し得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、ビニルポリマーは、親水性架橋基で架橋される。本明細書で使用されるように、親水性架橋基は、ポリマー基質に親水性を付与する基である。親水性架橋基は、一般に、カルボキシル基、エーテル基、アミド基、アミン基などの1つ以上の親水性官能基を含む有機連結基であり、好ましくはカルボキシル基及び/又はエーテル基である。他の実施形態では、ビニルポリマーは、より疎水性の架橋基で架橋される。この場合、要求される全体的な親水性-疎水性バランスを達成するために、より親水性の骨格が望ましい場合があることが理解されよう。
【0058】
架橋ビニルポリマーは、ヘテロ原子を含むビニルモノマーと、アクリレートまたはメタクリレートなどの少なくとも2つの共重合可能なビニル官能基を有する架橋剤との共重合体であってもよい。架橋剤は、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート又はポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの親水性架橋剤であってもよい。他の実施形態では、架橋剤は、脂肪族架橋剤1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどの疎水性特性を有していてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態において、架橋剤は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート(例えば、Mn=330~20,000)、ポリエチレングリコールジアクリレート(例えば、Mn=250~20,000)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリセロレートジ(メタ)アクリレート、ジウレタンジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート(例えば、Mn=428)、トリメチロールプロパンエストキシレートトリアクリレート、およびトリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレートからなる群から選択される。本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートのいずれかを指す。 いくつかの実施形態では、架橋剤は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートからなる群から選択される。
【0060】
架橋されたビニルポリマーは、適切な架橋密度を含む。架橋密度が低すぎると、化学的およびまたは機械的劣化に対する耐性、あるいは参照電極の長期安定性が、望ましいよりも低くなる場合がある。しかし、架橋密度が高すぎる場合、ポリマーの透過性または機械的特性が満足のいくものでなくなる可能性がある。ビニルポリマーがヘテロ原子を含むビニルモノマーと架橋剤との共重合体である実施形態では、ビニルポリマーは、0.5~7質量%の架橋剤、例えば1~4質量%の架橋剤、又は1.5~3.5質量%の架橋剤を含み得る。
【0061】
固体イオン交換材料
固体参照電極は、1つ以上の非妨害イオンを含む固体イオン交換材料を含む。この材料は、分析物と接触するための電極表面と参照要素との間に位置する。使用中、固体イオン交換材料は、分析物の溶液に存在する1つ以上の妨害イオンを、非妨害イオンと交換することによって固定化する。したがって、固体イオン交換材料の役割は、電極に浸入する妨害イオンとイオン交換により犠牲的に反応し、それによって妨害イオンを固定化し、参照要素に到達するのを防止、抑制または遅延させることである。イオン交換反応で放出されるイオンは非妨害アニオンであるため、電極の電位安定性にほとんど悪影響を与えない。
【0062】
本明細書で使用する場合、妨害イオンは、期待される電極電位からの逸脱を引き起こす参照要素での競合的酸化還元反応に参加することが可能である。対照的に、非妨害イオンは、測定された電極電位に有意な影響を与えないものである。
【0063】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、非妨害アニオンを含む。したがって、イオン交換材料は、アニオン交換によって、分析物中に存在する1つ以上の妨害アニオンから電極を保護し得る。いかなる理論にも束縛されることを望むことなく、本発明者らは、参照電極で予想される関連する酸化還元反応の標準還元電位を比較することによって、所定の電極系について確率的に妨害アニオンと非妨害アニオンとを区別し得ると考える。Ag/AgCl参照電極を例にとり、いくつかのアニオンに対する標準参照還元電位(25℃、1気圧)を表1に示す。参照電極の反応よりも負の標準参照電位で参照要素と反応するアニオンは、測定電位に干渉することが予想される。一方、標準電極反応と同じか、より正の標準電位で反応するアニオンは、測定電位に干渉しないことが予想される。
【表1-1】
【0064】
硫化物、臭化物、ヨウ化物、シアン化物などの陰イオン種は、参照アニオンとして塩化物または硫酸塩に依存する参照電極に干渉し得る。硫酸塩が参照アニオンである場合、塩化物もまた妨害アニオンとなり得る。特に硫化物は、複合体参照電極の長期安定性にとって重大な懸念であることが分かっており、塩化物や硫酸塩を用いた場合と比較して、硫化物が関与する酸化還元反応の標準還元電位の間に大きな違いがあることと一致している。
【0065】
イオン交換材料が含み得る適切な非妨害アニオンの範囲は、参照電位測定の基礎となる酸化還元カップルに依存することになる。Ag/AgClまたは飽和カロメル参照要素の場合、固体イオン交換材料は、塩化物、硫酸塩、または硝酸塩から選択される陰イオンを含んでいてもよい。
【0066】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、交換可能なアニオンとして参照アニオンそのものを含んでいる。これは、結果として生じるイオン交換反応が、既に溶液中に存在する環境中に追加の参照アニオンを単に放出するので、特に好ましい。したがって、Ag/AgClまたは飽和カロメル参照要素の場合、固体イオン交換材料は、交換可能な塩化物を好ましくは含む。Ag/Ag2SO4参照要素の場合、固体イオン交換材料は交換可能な硫酸塩を含み得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、分析物中に存在する1つ以上の妨害カチオンとイオン交換することができる非妨害カチオンを含む。
【0068】
固体イオン交換材料は、一般に、イオン交換機構によって妨害アニオンを固定化し、非妨害イオンを放出できる任意の固体材料であってよい。いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、金属塩又はイオン交換樹脂を含む。固体イオン交換材料は、例えば、10mm未満、又は5mm未満、又は1mm未満、又は500ミクロン未満の平均粒子径を有する粒子状材料であってもよい。したがって、粒子状イオン交換材料は、良好な保護効果が提供されるように、複合体のポリマー基質全体、または複合体と電極表面との間のさらなる保護層に分散され得る。
【0069】
固体イオン交換材料としての金属塩
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は金属塩である。金属塩は、水に完全に不溶である必要はないが、好ましくは、参照アニオンを構成する固体無機塩よりも低い水への溶解度を有する。したがって、電極の有用な寿命の間に複合体から溶出する可能性が低い。さらに、生成塩も比較的不溶性であると予想されるので、相対的な不溶性は、使用中に妨害イオンを固定化することを助け得る。
【0070】
上述したように、本発明は、1つ以上の妨害アニオンから電極を保護するために使用されてもよく、従って、金属塩は、適切な非妨害アニオンの金属塩であってもよい。最も好ましくは、金属塩は参照アニオンそのものを含む。
【0071】
イオン交換反応の生成塩を不溶性の塩として沈殿させることが目的であるため、金属塩の金属の選択は、分析物に予想される妨害アニオンに依存し得る。さらに、金属塩は、妨害アニオンに対して強い親和性を有することが好ましく、その結果、塩メタセシス反応において良好な選択性と迅速なイオン交換速度論を提供する。硫化物アニオンの固定化には、特定のアルカリ金属およびアルカリ土類金属以外のほとんどの金属が不溶性の硫化物を形成するため、広範囲の金属カチオンを含む塩が適している場合がある。臭化物、ヨウ化物、および塩化物のような他の妨害アニオンについては、不溶性塩を形成する金属の範囲はより狭く、例えば銀、水銀及び鉛が含まれる。
【0072】
いくつかの実施形態では、金属塩は、参照要素に存在し、参照酸化還元反応に参加する金属を含む。したがって、電極内部の金属塩のいかなる溶解も、参照要素における競合する酸化還元反応に関与する金属種を放出することはない。いくつかの実施形態では、金属塩は、銀および水銀から選択されるカチオンと、塩化物および硫酸塩から選択されるアニオンとを含む。特に、AgClは、Ag/AgCl参照要素のための好ましいイオン交換金属塩であってもよく、Ag2SO4は、Ag/Ag2SO4参照要素のための好ましいイオン交換金属塩であってもよく、Hg2Cl2は、飽和カロメルの参照要素のための好ましいイオン交換金属塩であってもよい。
【0073】
固体イオン交換材料としてのイオン交換樹脂
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料はイオン交換樹脂である。イオン交換樹脂は、金属塩と同様の方法で、妨害イオンを交換樹脂のイオンと交換することにより、結果として妨害イオンを固定化し、参照要素と相互作用するのを防止すると考えられている。
【0074】
イオン交換樹脂は、例えば架橋ポリスチレンなどのポリマーで、交換可能なイオンによって電荷がバランスされるイオン性官能基を有している。カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の両方が知られており、カチオン性又はアニオン性の妨害イオンの遮断及び固定化が望まれるかどうかに応じて、いずれかを選択し得る。いくつかの実施形態では、イオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂、例えば、強塩基性又は弱塩基性イオン交換樹脂である。塩基性イオン交換樹脂は、典型的には、ペンダント四級化アミン官能基を含み、交換可能なアニオンがカチオン性アミン基の電荷バランスをとる。したがって、電極に含まれるイオン交換樹脂は、最初に適切な非妨害アニオン(例えば塩化物)を充填し得る。塩基性イオン交換樹脂は、最初に充填される非妨害アニオンに対して、分析物中に存在する妨害アニオンよりも低い親和性を有することがあり、これにより妨害アニオンの樹脂への固定化が有利になる。
【0075】
交換イオンが参照要素のレドックス・カップルのものと一致する樹脂を使用することが好ましい。Ag/AgCl参照の場合、アンバージェット(Amberjet)4200Cl、アンバーライト(Amberlite)IRA410Cl、Dowex1X8chloride form、Dowex Marathon A chloride formなどの塩化物ベースの交換樹脂が候補となる。
【0076】
固体イオン交換材料の位置
固体イオン交換材料の少なくとも一部は、電極の分析物接触面と参照要素との間に配置される。上述したように、固体イオン交換材料の役割は、妨害アニオンが電極に拡散する際に妨害アニオンを遮断して固定化し、したがって、参照要素における望ましくない相互作用の確率を減少させることである。したがって、固体イオン交換材料は、この機能を果たすのに適した方法で電極に配置され、分散されている必要がある。
【0077】
また、犠牲的なイオン交換反応に実際に関与するイオン交換材料は、参照要素と電気的に連通しているべきではなく、さもなければ、反応は測定された参照電位に悪影響を及ぼすことは、当業者には明らかであろう。したがって、固体イオン交換材料の少なくとも犠牲的に反応する部分は、例えば複合体の絶縁性ポリマー基質によって参照要素から物理的に分離される。参照要素は、固体イオン交換材料の少なくとも犠牲反応部分から電気的に絶縁されている。
【0078】
固体イオン交換材料は、電極内のポリマー複合体中に充填されてもよい。固体無機塩が充填されているのと同じ複合体のポリマー基質に充填されてもよいし、電極表面と参照要素の間に位置する別のポリマー複合体、例えば、離散電極層に充填されてもよい。固体イオン交換材料と固体無機塩の両方を電極内のポリマー複合体、例えば同じ複合体に充填することにより、製造の簡便さ、電極の水和の制御、妨害イオンの効率的な遮断及び固定化などの多くの利点が得られる可能性がある。また、固体成分は、そのような分析物との適合性を調整することができるポリマー基質(または基質)中に埋め込まれ、任意で全体に分散させることができるので、研磨性または腐食性の分析物を含む優れた電極寿命と信頼性を提供し得る。この構造はまた、電極の保護能力を失うことなく、複合体電極の表面層を除去することによって、例えば表面が汚れた電極のような使用済みの電極を更新する機会を提供する。
【0079】
いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料は、固体無機塩が充填されているのと同じ複合体のポリマー基質中に存在する。したがって、固体イオン交換材料及び参照アニオンを構成する固体無機塩は、例えば粒子状材料として、ポリマー基質中に共分散していてもよい。固体イオン交換材料は、複合体の少なくとも1質量%、例えば少なくとも3質量%の量で存在してもよい。
【0080】
このような構成では、複合体は、例えば、電極ケーシングの窓を介して露出され、それによって、分析物と接触するための電極表面を形成し得る。使用時、電極は分析物に浸され、複合体への水の浸透により水和する。複合体中に拡散した妨害イオンは、固体イオン交換材料とイオン交換反応を起こし、複合体中に固定化された後、参照要素に到達する。本発明者らは、硫化物アニオンは、基質中に分散させた5または10質量%のAgClをふくむ複合体の表面薄層で固定化され、参照要素との干渉が可能な深さまで侵入しないことを実験により見出した。したがって、参照要素は、参照要素と分析物の間の十分なイオン伝導性を確保しながら、妨害イオンが到達する前に固定化されるように、複合体表面の十分な深さに配置されるべきである。いくつかの実施形態では、参照要素は、表面から1mm~10mmの間にある。
【0081】
本発明のそのような実施形態の1つが、
図1に描かれている。電極100は、複合体104に埋め込まれた参照要素102を含む。参照要素102は、塩化銀でコーティングされ、複合体104に接触している近位端106を有する銀線を含む。遠位端108は、複合体から延び、したがって、電位差計に電気的に接続可能である。複合体104は、約2質量%のエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)で架橋されたポリ酢酸ビニルの基質を含む。基質は、複合体の50質量%を超える量で存在する粒子状の塩化カリウム(KCl)、および複合体の約5質量%の量で存在する粒子状の塩化銀(AgCl)を充填している。粒子状成分は、複合体を通して分散される。不浸透性ポリマーケーシング110は、複合体の表面114が分析物と接触するために露出する窓112を除いて、複合体を囲んでいる。
【0082】
使用時、電極100は、1種類以上の分析対象種と硫化物を含む1種類以上の妨害アニオンを含む水性分析物中に浸漬される。複合体は、窓112を介して水和され、KClの一部を溶解し、参照要素102に塩化物イオンの飽和濃度を確立する。電極100は、このように、イオン選択性電極または作用電極の電位を測定することができる安定したAg/AgCl参照電位を提供し、以下により詳細に説明される。
【0083】
分析物中に存在する妨害アニオンは、最初の水和中に、そして拡散によって、参照電極の継続的な使用中に複合体に浸入する。しかしながら、本明細書に開示された原理に従って、妨害アニオンは、表面114と参照要素102との間、例えば場所116に位置する粒子状AgCl粒子上に固定化される。硫化物アニオンを固定化すると考えられるイオン交換反応は、式2によって示される塩メタセシス反応である。
S2-(aq)+2AgCl(s)→Ag2S(s)+2Cl-(aq)(2)
【0084】
複合体104の内部が既に塩化物の飽和濃度を有し、参照要素が、硫化物イオンを遮断し固定化するAgCl粒子から電気的に絶縁されていることを考慮すると、イオン交換反応による塩化物アニオンの放出は、測定参照電位に影響を与えない。
【0085】
別の実施形態は、
図2に描かれている。電極200は印刷電極であり、スクリーン印刷またはインクジェット印刷などの印刷技術によって基板201上に形成される。基板201は、ポリマー基板(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリイミド)、紙基板、ガラス基板、セラミック基板、または酸化インジウムスズを含むフィルムコーティングを有するこれらのいずれかを含む広範な基板のいずれでもよい。参照要素202は、銀及び塩化銀を含む印刷層であり、市販のAg/AgClインクで印刷し得る。複合体204の層は、露出したままである遠位端208を除いて、参照要素の上に印刷され、したがって電位差計に電気的に接続可能である。複合体204は、例えばポリ酢酸ビニル(PVAc)のようなポリマー基質を含み、その中にKClとAgClの両方の粒子が分散している。この層は、PVAcとアセトン中に分散された粒子とを含むインクで印刷され、印刷後に硬化されてもよい。複合体204はまた、複数の印刷層を含んでもよい。複合体の表面214は、分析物と接触するために露出される。任意選択で、電極200は、複合体204の一部の上に絶縁印刷層(図示せず)をさらに含んでもよいが、複合体表面214の一部は、分析物と接触するために露出したままである。使用中、複合体は表面214を通して水和され、したがって、電極100について本明細書に記載されるような参照電位が確立される。しかしながら、硫化物のような妨害アニオンは、参照要素202に到達する前に、イオン交換反応によってポリマー基質中のAgCl粒子に固定化される。
【0086】
他の実施形態では、固体イオン交換材料は、電極表面と固体無機塩を充填した複合体との間に位置する水透過性複合体層中に存在する。水透過性層は、水和性ポリマーに分散された固体イオン交換材料を含んでもよい。水透過性層は、任意に参照アニオンを構成する固体無機塩を含んでもよいが、これは電極の機能または保護効果のために必要なものではないと考えられている。
【0087】
複合体の水和及び参照要素と分析物との間のイオン伝導性は、水透過性層を介して提供されるので、水和性ポリマーの特性に関する同様の考察が、複合体のポリマー基質に適用されることは明らかであろう。したがって、水和性ポリマーは、迅速なコンディショニングと低インピーダンスを可能にするのに適した親水性-疎水性のバランスを示すべきであるが、寸法安定性と固体イオン交換材料の保持も提供しなければならない。したがって、水和性ポリマーは、複合体のポリマー基質におけるものと同じであっても異なっていてもよいが、その組成は、一般に、適切な複合体ポリマー基質について本明細書に記載されているとおりであってもよい。水透過性層は、妨害アニオンの遮断及び固定化を可能にするのに十分な厚さを有するべきであるが、これがインピーダンスを増加させる可能性があるので過度に厚くならないようにする。いくつかの実施形態において、水透過性層の厚さは、1~5mmである。
【0088】
固体イオン交換材料が水透過性層中に存在する実施形態では、複合体は一般に分析物に直接曝されることはない。むしろ、電極ケーシングの窓領域など、分析物との接触が予想される場所で、全体的に、または少なくともその位置で、水透過性層によって覆われる。水透過性層の露出した表面は、分析物と接触するための電極表面となり得る。使用時、電極は分析物に浸され、水透過性層から複合体に水が浸透することにより水和する。水透過性層を通して拡散する妨害イオンは、固体イオン交換材料とのイオン交換反応により、複合体または参照要素に到達する前に水透過性層で固定化される。
【0089】
無機塩を充填した複合体と固体イオン交換材料を含む層との間に、又は電極の分析物接触面を形成する外層として、さらなる水透過性層が存在してもよいことは当然除外されない。
【0090】
本発明の実施形態は、
図3に描かれており、この図において、同様の番号が付けられた項目は、
図1に描かれた電極100について本明細書で説明した通りである。電極300において、参照要素102は、EGDMA架橋ポリビニルアセテート基質とその中に分散された微粒子KClを含む複合体304に埋め込まれている。しかしながら、粒子状イオン交換材料は複合体中に存在せず、代わりに複合体304に対して直接配置された水透過性層318中に存在する。層318は、その中に微粒子AgClが分散されたEGDMA架橋ポリビニルアセテート基質からなり、約1~5mmの厚さを有している。水透過性層の表面314は、ケーシング110の窓112内の分析物と接触するために露出されている。
【0091】
使用時、電極300は、1つ以上の分析対象種と硫化物を含む1つ以上の妨害アニオンを含む水性分析物に浸漬される。水透過性層および複合体は、窓112を介して水和され、KClの一部を溶解し、参照要素108における塩化物イオンの飽和濃度を確立する。電極100は、このように、安定したAg/AgCl参照電位を提供する。分析物中に存在する妨害アニオンは、最初の水和の間、および拡散によって、参照電極の継続的な使用の間に、水透過性層に浸入する。しかしながら、本明細書に開示された原理に従って、妨害アニオンは、例えば表面314と参照要素102との間の位置316において、水透過性層に位置する粒子状AgCl粒子に固定化される。
【0092】
固体参照電極を製造する方法
上記の議論から、多数の異なる電極構成が本発明の範囲に入ることが明らかである。従って、固体参照電極を製造する方法もまた、様々である。
【0093】
方法は、一般に、参照アニオンを含む固体無機塩を充填した水透過性ポリマー基質を含む複合体を製造することを含む。いくつかの実施形態では、固体イオン交換材料もポリマー基質中に分散される。固体無機塩及び固体イオン交換材料は、本明細書において既に説明されている。
【0094】
いくつかの実施形態では、固体無機塩及び任意にまた固体イオン交換材料は、1つ以上のモノマー、架橋性ポリマー又は硬化性樹脂を含む重合性組成物等のポリマー前駆体と組み合わされる。次いで、ポリマー前駆体を重合、架橋及び/又は硬化させて、無機塩及び任意に固体イオン交換材料を充填した水透過性ポリマー基質を形成する。
【0095】
水透過性ポリマー基質がビニルポリマーを含む場合、本方法は、固体無機塩及び任意に固体イオン交換材料を、1つ以上のビニルモノマーを含む重合性組成物と組み合わせることを含み得る。重合性組成物は、任意に、少なくとも2つの共重合可能なビニル官能基を含む架橋剤を含んでもよい。適切なビニルモノマー及び架橋剤は、本明細書に既に記載されている。次いで、複合体は、典型的にはフリーラジカル開始剤又は触媒の存在下で、組成物を重合することによって製造される。重合可能な組成物は、したがって、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンなどの光開始剤を含んでいてもよい。次いで、本方法は、重合を開始し、十分に完了するのに十分な時間、混合物にUV光を照射することを含んでいてもよい。あるいは、混合物は、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)のような熱活性化開始剤を含んでいてもよい。次に、この方法は、重合を開始し、十分に完了させるのに十分な温度および時間、混合物を加熱することを含んでいてもよい。固体無機塩及び任意に固体イオン交換材料を未架橋のビニルポリマーと組み合わせ、その後ポリマーを架橋することによって、架橋ポリマー基質を有する複合体を製造することも想定される。
【0096】
複合体は、参照要素とイオン的に接触するように製造される。適切な参照要素もまた、既に記載されている。それゆえ、いくつかの実施形態では、参照要素は、重合、架橋又は硬化の完了前に、無機塩を含むポリマー前駆体、及び任意に固体イオン交換材料と接触させる。例えば、参照要素をポリマー前駆体に挿入するか、ポリマー前駆体を参照要素にキャストまたは印刷し得る。その後、重合または硬化を開始し、参照要素を複合体に接触または付着させた電極を作製し得る。
【0097】
固体イオン交換材料が複合体中に分散している実施形態では、方法は、複合体の表面を、使用中の分析物と接触させるための電極表面として提供することを含んでいてもよい。例えば、ポリマー前駆体がケーシング内で重合または硬化される場合、その後、複合体の表面を露出させるために、適切なサイズの窓がケーシング内に形成されることがある。
【0098】
固体イオン交換材料が、電極表面と参照イオンを構成する固体無機塩を充填した複合体との間に位置するポリマー複合体の水透過性層中に存在する実施形態では、本発明の方法は、この水透過性層を提供することを含み得る。水透過性層は、固体イオン交換材料、および任意に参照アニオンを構成する固体無機塩も、水和性ポリマーに分散されてなるように提供されてもよい。水和性ポリマーは、本明細書において既に説明されている。したがって、それは、例えば、固体イオン交換材料をポリマー前駆体中に分散させ、前駆体を重合、架橋又は硬化させて、必要な特性を有する水透過性層を形成することによって、複合体のポリマー基質と同様の方法で製造し得る。
【0099】
水透過性層は、複合体に対して形成してもよい。これは、水透過性層上に複合体を形成すること、又は複合体上に水透過性層を形成することのいずれかを含んでもよい。第1の選択肢の例として、
図3に描かれた電極300は、酢酸ビニル、EGDMA、微粒子AgCl及びフリーラジカル開始剤の混合物をケーシング110の底部(窓112が開けられる前)に層として置くことによって製造されてもよい。そして、この混合物を重合して、AgClが分散された架橋ポリ酢酸ビニルを含む水透過性層318を形成する。次いで、酢酸ビニル、EGDMA、粒子状KClおよびフリーラジカル開始剤の混合物をケーシング内に移送し、参照要素102を混合物中の必要な深さまで挿入する。次に、この混合物を重合して、水透過性層の上に複合体304を形成する。最後に、ケーシング内に窓112を形成して表面314を露出させる。
【0100】
第2の代替の例では、i)AgおよびAgClを含む導電性参照要素層、ii)参照要素の一部に、水透過性ポリマー基質中に分散したKClを含む複合体層、ならびにii)複合体層を覆う、水和性ポリマー中に分散したAgClを含む水透過性層を連続的に印刷及び硬化させて基板上に印刷電極を製造することも可能である。
【0101】
固体イオン交換材料が水透過性層に分散されている実施形態では、方法は、使用中の分析物を接触させるための電極表面として水透過性層の表面を提供することを含んでいてもよい。例えば、電極をケーシング内に準備する場合、ケーシング内に適当な大きさの窓を設けて、水透過性層の表面を露出させ得る。
【0102】
分析物の電気化学的分析のためのシステムおよび方法
本発明の固体参照電極は、電位差測定、電圧測定及びアンペロメトリック測定を含む電気化学的分析に使用し得る。電位差分析では、分析物と接触しているイオン感受性電極と参照電極との間の電位差が受動的に測定される。三電極ボルタンメトリー分析では、作用電極と対極を分析物に接触させ、これらの電極間の電位を所定のパターンに従って変化させ、分析物への電流伝達を測定する。参照電極は作用電極に結合されているため、分析の際に作用電位を測定し、制御し得る。電流の流れが制御され、作用電極と参照電極との間の結果として生じる電位差が測定されることを除いて、同様の配置がアンペロメトリック分析で使用される。
【0103】
従って、本発明は、分析物の電気化学的分析のためのシステムに関する。このシステムは、本明細書に記載の固体参照電極、イオン選択性電極又は作用電極(実行される分析の種類に依存する)、及びイオン選択性電極又は作用電極と参照電極との間の電位差を測定する手段、例えば電圧計又はポテンショスタットを含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、システムは、分析物中のイオン濃度を決定するための電位差分析システムである。このシステムは、本明細書に記載の固体参照電極と、イオン選択性電極と、イオン選択性電極と参照電極との間の電位差を測定する手段、例えば電圧計またはポテンショスタットを含む。
【0105】
本発明はまた、分析物の電気化学的分析方法に関するものである。この方法は、本明細書に記載の固体参照電極とイオン選択性電極または対極とを分析物に接触させ、参照電極とイオン選択性電極または作用電極との間の電気化学的電位の差を測定することを含む。2つの電極は、分析物に浸漬することによって接触させ得る。分析物は、水性分析物であってもよい。電気化学的電位の差は、電圧計又はポテンショスタットを用いて測定し得る。
【0106】
いくつかの実施形態において、本方法は、分析物中のイオン濃度を決定する方法である。本方法は、本明細書に記載の固体参照電極及びイオン選択性電極を分析物と接触させること、及びイオン選択性電極と参照電極との間の電気化学的電位の差を測定することを含む。
【0107】
イオン濃度を決定するシステムおよび方法において、イオン選択性電極は特に限定されるとは考えられず、対象とする用途に依存することになる。例えば、イオン選択性電極は、pH、酸化還元電位(ORP)、シアン化物、金属イオン、又は生体センサの電位差センサであってもよい。いくつかの実施形態では、イオン選択性電極は、システムがpH計であるように、水素イオンに敏感である。いくつかの実施形態において、イオン選択性電極は、固体電極、例えば、ポリマー複合体電極である。そのような電極の例は、WO2016/033632に記載されているように、ポリマー基質中に分散したTa2O5及びRuO2の混合物を含む複合体水素イオン選択的センサである。
【0108】
妨害イオンは、環境モニタリング、鉱業、および化学工業におけるプロセスモニタリング、油およびガス関連モニタリングシステム、生物システム、廃水処理およびパイプラインを含む多くの用途において電気化学的分析の対象となる分析物において予想されるものである。
【0109】
いくつかの実施形態では、分析物は、妨害イオンが安定した参照電位を維持するための追加の課題を提示する酸性及び/又は研磨性の分析物である。このような分析物の例は、鉱業及び鉱物処理産業において見出される。いくつかの実施形態では、分析物は、例えば、ヒープリーチング作業からの浸出液及び浸出スラリー、又は酸性鉱山排水のストリーム(または流れ;stream)である。
【0110】
いくつかの実施形態では、分析物は、1つ以上の妨害イオンを含む。妨害イオンは、妨害アニオン、例えば硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、およびシアン化物イオンであってもよい。いくつかの実施形態では、分析物は硫化物を含む。
【0111】
実施例
本発明は、以下の実施例を参照して説明される。実施例は、本明細書に記載される発明を例示するものであり、限定するものではないことが理解される。
【0112】
材料
すべての出発材料は、シグマ・アルドリッチ又は他の市販の供給業者から購入した。使用したKClは、任意の無機汚染物による参照電位のシフトを避けるために、分析品質(VWR AnalaR)であった。モノマー、架橋剤、および開始剤は,純度98%以上のものを使用した。銀粒子(99.9%,5~8μm)および塩化銀粗粉末(99.997%)は、Alfa Aesar社から購入した。塩化物形態の強塩基性(タイプI)イオン交換樹脂であるAmberjetTM 4200 Cl(粒子径600~800μm)は、市販のものを調達した。
【0113】
実施例1.電極の調製
銀線(1.5mm厚,99.95%Ag)を細かいサンドペーパーで研磨し、エタノールで洗浄した。各線を1MKCl溶液中に挿入し、ポテンショスタットに接続した。銀電極(陽極)と白金対極(陰極)の間に小電流(7mA、100秒)を流し、線を塩化銀でコーティングした。
【0114】
酢酸ビニルとエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)の混合物を準備し、EGDMAは全モノマーの2質量%として存在させた。この混合物に,熱開始剤として少量の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(≦2質量%)を添加した。
【0115】
乾燥KCl粉末を各混合物に添加し,沈降したスラリーをピペットでガラス製バイアル(容量1~10mL)に移し,バイアルがKCl粉末でいっぱいになり,モノマー混合物が粒子間の空隙を満たすようにした。固体微粒子添加剤(AgCl、Ag金属粒子またはAmberjetTM4200Clイオン交換樹脂のいずれか)を、表1に示すように混合物の一部に分散させた。その後の重合中にバイアル上部に塩を含まない密閉層を形成するために、少量(0.1-0.5mL)の追加モノマー混合物をバイアルに移した。KClとモノマーの質量比は、混合物中で約2:1であった。
【0116】
次に、塩化銀でコーティングした銀線(長さ2~5cm、バイアルサイズによる)を各バイアルに挿入し、バイアルを密閉した。この混合物を約50℃に約18時間加熱することにより、モノマーを共重合させた。重合終了後、バイアルの底部を研磨して取り除き、固体KClと固体微粒子添加剤の両方を充填したEGDMA架橋ポリ酢酸ビニル(PVAc)の基質を含む固体複合体を露出させた。その後、電極は使用可能な状態になった。
【表1-2】
【0117】
実施例2.金属塩の添加剤を有する電極の電気化学的試験
実施例1で調製した電極E1~E5(1.5mLバイアル容量)の電気化学的性能を、pH9緩衝液中の1g/リットルのNa2S溶液で評価した。電極の電位応答は、Koslow Scientific Companyから入手した飽和カロメル電極(SCE)に対して測定した(これは、安定した性能を確保するために電気化学試験中に定期的にメンテナンスされた)。電極の開回路電位(OCP)信号を記録するために、マルチチャンネルポテンショスタット(Biologic VMP3 potentiostat)を使用した。
【0118】
図4は、電極の電位応答を示している。対照電極E1は、当初SCE電位に対して安定していたが、約30日間分析物に曝露した後、ドリフトを開始した。120日間オンライン上に置いた後、電位は、-45mV対SCEの理論電位と比較して、-132mV対SCEであった。
図4で「X」で示された期間は、SCEの維持が失敗した期間に相当する。
【0119】
対照的に、複合体全体に分散した5質量%(E2)または10質量%(E3)のAgCl粒子を含めると、分析物に硫化アニオンが含まれているにもかかわらず、実験を通して、安定した参照電位を得ることができた。オンラインで120日後、電位は、理論電位の-45mVvsSCEに対して、-44mVvsSCEであった。実験を通して、電位は、電極E2とE3で実質的に同じであった。実験後、複合体と分析物の界面で変色層が観察されたが、複合体の深部では変色は見られなかった。
【0120】
電極電位の保護は、この層で硫化物アニオンが固定化され、複合体を拡散してAg/AgCl線に到達するのを防いだためであると考えられる。硫化物アニオンは、AgCl粒子上の塩化物アニオンと交換し、不溶性のAg2Sを形成し、遊離の塩化物アニオンを放出する
【0121】
Ag金属粒子を5質量%(E4)または10質量%(E5)含有は、硫化物アニオンの干渉によるドリフトから電極を保護する効果はなかった。Ag金属粒子を5質量%含有する電極E4では、最初の20日間は電位が安定していたが、その後激しいドリフトが観察された。
【0122】
実施例3.イオン交換樹脂添加剤を有する電極の電気化学的試験
実施例1で調製した電極E1およびE6(1.5mLバイアル容量)の電気化学的性能を、pH9緩衝液中の1g/リットルのNa2S溶液中で3連で評価した。電極の電位応答は、コスロウ・サイエンティフィック・カンパニー(Koslow Scientific Company)から入手した飽和カロメル電極(SCE)に対して測定した(これは、安定した性能を確保するために電気化学試験中に定期的にメンテナンスされた)。電極の開回路電位(OCP)信号を記録するために、マルチチャンネルポテンショスタット(Biologic VMP3 potentiostat)を使用した。
【0123】
図5は、電極の電位応答を示しており、表示される電位は、3つの電極の平均値である。添加剤のない制御(または対照;control)電極E1とイオン交換樹脂添加剤のある電極E6は、最初は非常によく似た結果を示し、理論電位の-45mVvsSCEに近いレベルで平準化された。約30日目には、実施例2でもこの時期に見られたように、標準電極E1が硫化物イオンによる干渉でドリフトしていることが示唆された。対照的に、塩化物イオンを充填したイオン交換樹脂を含む電極E6は、非常に安定した電位を示し続けた。
【0124】
一つのE1電極と一つのE6電極を24日オンライン後に取り出し、ケーシングを取り除き、電極をかみそりの刃で縦に切断した。電極内部の目視検査により、イオン交換樹脂ビーズが複合体内部に分散していることが確認された。次に、この電極を蛍光X線分析に供した。Rh X線管、ポリキャピラリー光学系、シリコンドリフト検出器を備えたBruker M4 Tornado高性能μXRFスペクトロメータを用いて、20mbarの空気中で乾燥断面の元素マップ(20mmx10mm)を収集した。ポリキャピラリー光学系により、MoKαのスポットサイズ直径25μmのマップを収集することができた。マッピングは25μmのピクセル間隔で、20mspixel-1の取得時間で行われた。X線発生装置は12.5μMのAlフィルターを用いて50kV、599μAで動作させた。XRF画像から、硫黄はE6電極の複合体中に分散した樹脂ビーズに選択的に蓄積していることが明らかになった。一方、D1電極複合体では硫黄の蓄積は確認できなかった。
【0125】
実施例4.加速被毒試験
電極E1(無添加)およびE2(5質量%AgCl添加剤)を、1mmol/リットルの硫化ナトリウム(Na2S)および1mmol/リットルの臭化ナトリウム(NaBr)をpH9で緩衝化した水性溶液中に置き、8バール以上の圧力で7週間維持した。その後、電極を縦断し、実施例3で用いたのと同じ方法でXRFにより分析した。元素マッピングの結果、E1電極の内部への硫黄と臭素の侵入は、E2電極よりも少ないことが示唆された。
【0126】
実施例5.強酸性条件下での金属塩添加電極の電気化学的試験
実施例1で調製した電極E1(無添加)及びE2(5質量%AgCl添加剤)の電気化学的性能を、pH2.6に酸性化した1000ppmのNa2S水溶液中で評価した。各タイプの同一電極を5個ずつ並列に試験した。電極の電位応答は、3mol/リットルのKCl内部電解質を用いた市販のAg/AgCl参照電極(安定した性能を確保するために電気化学試験中に定期的に維持された)に対して測定された。
【0127】
図6は、電極の電位応答を示している。制御電極E1のうち3つは、理論電位差の-9mVに近い初期応答を示したが、7日間のオンラインによってすべて故障した。一方、5つのAgCl含有電極E2は、いずれも50日近くは安定していた。その後、性能が変化し、2つは大きく変動したが、3つは200日を超えてオンラインでも信頼できる参照電位を提供し続けた。
【0128】
当業者は、本明細書に記載された発明が、具体的に記載されたもの以外の変形及び修正の影響を受け得ることを理解するであろう。本発明は、本発明の精神及び範囲に属するすべてのそのような変形及び修正を含むと理解される。