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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】遠心送風機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
F04D29/44 X
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023002041
(22)【出願日】2023-01-11
(65)【公開番号】P2024098519
(43)【公開日】2024-07-24
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇仁 真彦
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-124115(JP,A)
【文献】特開2021-76099(JP,A)
【文献】特開2008-121627(JP,A)
【文献】特開2021-1552(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0317839(US,A1)
【文献】特開2021-46837(JP,A)
【文献】特開2009-91962(JP,A)
【文献】特開2015-174580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/42-29/44
B60H 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心ファンとこれを回転駆動するモータがケース体内に収容され、前記ケース体の軸方向中央部より吸気して前記ケース体の径方向外側より圧縮空気を排気する遠心送風機であって、
前記ケース体は、前記遠心ファンを覆って組み付けられ、中央部に吸気用開口部が設けられ径方向外側に第一送風路が形成される第一ケースと、前記モータを回転可能に軸支すると共に前記遠心ファンの外周端部より径方向外側に前記第一送風路と組み合わされる第二送風路が形成される第二ケースと、を備え、
前記第一ケースの吸気用開口部の周縁部には、係止突起が複数箇所に突設されており、前記係止突起の外周側に遠心ファンの回転方向上流側から下流側に向かって幅狭となる抜き孔が各々延設されており、前記第一ケースの内壁面に臨む前記抜き孔の周縁部には面取りされた傾斜面が連なるように形成されていることを特徴とする遠心送風機。
【請求項2】
前記抜き孔は、前記係止突起が突設された吸気用開口部周縁部を含んでそれより前記遠心ファンの回転方向上流側から下流側にわたって所定範囲で形成されている請求項1記載の遠心送風機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばシート空調用或いはHVAC(暖房、換気及び空調:Heating, Ventilation, and Air Conditioning)機器などに用いられる遠心送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車を運転して長距離移動するなど、運転者がシートの背もたれや着座部に長時間に接していると、高温多湿の空気がまとわりつき不快感が増す。このため、主に背もたれ部分と着座部分にこもりやすい高温多湿な空気を調和するシート空調装置が用いられる。
【0003】
シート空調装置としては、シートから空気を吹き出すタイプとシートから空気を吸い込み排出するタイプのシート空調装置がある。ここではより快適な空調効果が期待できる吸い込みタイプのシート空調装置について説明する。吸い込みタイプのシート空調装置は、背もたれ部分と着座部分にこもった高温多湿な空気を吸引して当該領域から除去することで、空調効果が得られるようになっている。
【0004】
例えば、シートから送風機の吸気口に空気が流入する際に生じる騒音を抑制するシート空調システムが提案されている。上ケース部と下ケース部の四隅をねじ止めされて組み立てるケースの上ケース部に吸入口が形成され、下ケース部に固定子及び回転子を備えたモータと遠心多翼ファンが回転可能に支持されている。回転子は遠心多翼ファンと一体に組み付けられている。モータが回転し遠心多翼ファンが回転すると、シート側から上ケース部の吸気口より空気を吸い込んでケースの四方に開口する吹出口より吹き出すようになっている(特許文献1:特開2015-174580号公報)。
【0005】
また、シート空調装置は、背もたれ部分と着座部分のシート空調用ダクトの取り付け部に吸気用開口部が望むように組み付けられるため、ケース体の吸気用開口部の周縁部に周方向で複数箇所にスナップフィットによる係止のための係止突起が突設される場合がある(特許文献2:特許第6793803号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-174580号公報
【文献】特許第6793803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した係止突起は、ケース体とともにモールド成形されて一体に形成される。このため係止突起の先端がアンダーカット部となり、型抜きするために、スナップフィットの外周側にスライドコア用の抜き孔を形成する必要がある。遠心ファンは主板に起立形成されるインペラの密度は疎であるが径方向に長く形成されるため、インペラのブレード上端が抜き孔の直下をかすめるように回転する。インペラの回転により、吸気用開口部から吸い込まれた空気は、圧縮されケース体の外周側の送風路に導かれて排気され抜き孔直下を高圧力高流量の空気が流れることより、空気の脈動の影響を抜き孔が強く受けるため、遠心ファンのブレード枚数と回転数に依存するピークノイズが発生する(図6(a)参照)。尚、図6(a)はFFTアナライザを用いて騒音の周波数解析を行った結果を示す。
【0008】
特に、薄型化を図るためインペラの中央部付近の主板は、軸方向にドーム状に盛り上がって形成されており、この内部にモータが収容されている。このため、ケース体の吸気用開口部の開口径が大きくなり、取付部の仕様により係止突起の形態を変更する余地も少ないという実情もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、ケース体に一体に設けられる係止突起の外周側に設けられる抜き孔形状を改良することでピークノイズの発生を低減した遠心送風機を提供することにある。
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
遠心ファンとこれを回転駆動するモータがケース体内に収容され、前記ケース体の軸方向中央部より吸気して前記ケース体の径方向外側より圧縮空気を排気する遠心送風機であって、前記ケース体は、前記遠心ファンを覆って組み付けられ、中央部に吸気用開口部が設けられ径方向外側に第一送風路が形成される第一ケースと、前記モータを回転可能に軸支すると共に前記遠心ファンの外周端部より径方向外側に前記第一送風路と組み合わされる第二送風路が形成される第二ケースと、を備え、前記第一ケースの吸気用開口部の周縁部には、係止突起が複数箇所に突設されており、前記係止突起の外周側に遠心ファンの回転方向上流側から下流側に向かって幅狭となる抜き孔が各々延設されており、前記第一ケースの内壁面に臨む前記抜き孔の周縁部には面取りされた傾斜面が連なるように形成されていることを特徴とする。
このように、係止突起の外周側に遠心ファンの回転方向に沿って幅狭となる抜き孔が延設されているため、金型アンダーカット部が発生しても第一ケースに係止突起を一体に樹脂成形することができ、第一ケースの内壁面に臨む抜き孔の周縁部に面取りされた傾斜面が連なって形成されていると、遠心ファンのブレード枚数と回転数に依存するピークノイズの発生を低減することができる。
【0011】
前記抜き孔は、前記係止突起が突設された吸気用開口部周縁部を含んでそれより遠心ファンの回転方向上流側から下流側にわたって形成されていると、遠心送風機を着脱する際の係止突起の変形し易さを維持しつつ、遠心ファンの回転による空気の脈動を分散させて圧力変動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
ケース体に一体に設けられる係止突起の外周側に設けられる抜き孔形状を改良することでピークノイズの発生を低減した遠心送風機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1遠心送風機の斜視図である。
図2図1の第一ケースの平面図である。
図3図2の第一ケースの内面側から見た平面図である。
図4図1の第二ケースの斜視図である。
図5図1のアウターロータ型モータの垂直断面図である。
図6】改善前後の騒音FFT解析結果を示す周波数-騒音レベルを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る遠心送風機の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。先ず、遠心送風機の概略構成について図1乃至図3を参照して説明する。モータMは、DCブラシレスモータが用いられ、本実施例ではアウターロータ型モータが用いられる。尚、インナーロータ型モータであってもよい。
【0015】
図1に示すように、遠心送風機1は、遠心ファン2と回転子3が一体に組み付けられ、これらを回転駆動するモータMがケース体4内に収容されている。図1に示すように、ケース体4の軸方向中央部より吸気し、遠心ファン2の回転によって径方向外側へ加圧された空気を軸方向の吸気と逆側へ排気するものである。図1に示すように、ケース体4は、遠心ファン2を覆って組み付けられる第一ケース4aとモータM(回転子3及び固定子5;図5参照)を回転可能に軸支する第二ケース4bを組み合わせて形成される。第一ケース4aと第二ケース4bとは、第一ケース4aの側部外周に設けられた係止片4jを第二ケース4bの側部外周に設けられた係止部4kに係止することで一体に組み付けられる。
【0016】
図5の断面図に示すように、固定子5は、筒状に成形された固定子ハウジング6の軸方向中央部外周に固定子コア7が接着固定されている。固定子コア7は環状のコアバック部7aの中心孔に固定子ハウジング6を挿通し、当該固定子ハウジング6に設けられた段付き部6gに突き当てられて軸方向に位置決めされて組み付けられる。固定子コア7はコアバック部7aより径方向外側に向かって複数の極歯7bが突設されている。極歯7bの周囲はインシュレータ7cに覆われており、モータコイル7dが巻き付けられている。モータコイル7dのコイルリードは、モータ基板12の端子部にはんだ付けされて電気的に接続されている。
【0017】
回転子3は、カップ状に形成された回転子ヨーク3aのハブ3bに回転子軸3cの一端が圧入、接着、焼き嵌めなどのいずれか或いはこれらの組み合わせで一体に組み付けられている。回転子ヨーク3aの内周面には、N極S極交互に着磁された環状の回転子マグネット3dが組み付けられている。回転子ヨーク3aは、インペラ2cとともにインサート成形されている。回転子軸3cは、固定子ハウジング6の筒孔6aに挿入され、固定ハウジング6内に圧入された焼結含油軸受8の筒孔8aに圧入される。回転子軸3cの挿入端部は、固定子ハウジング6の筒孔6aを閉止する閉止部材6bに支持されたスラスト受け6cに突き当てられて支持される。閉止部材6bは固定子ハウジング6の凹部6dに突き当てられて一体に組み付けられる。また、回転子軸3cの挿入端部近傍には、抜け止めワッシャ6eが嵌め込まれて、回転子軸3cが軸方向に抜け止めされる。閉止部材6bは、固定子ハウジング6の凹部6dに封止材6fが充填されて封止される。
【0018】
図1に示すように、遠心ファン2は、ハブ2aより径方向外側に連なる主板2bがドーム状に形成されている。遠心ファン2のハブ2aに対向する吸気用開口部4cより吸気された空気は、主板2b上に形成されたインペラ2cにより径方向外側に設けられた環状送風路に向けて加圧して送り出すことができる。また、遠心ファン2のハブ2a及びこれに連なる主板2bにより吸気用開口部4cとは反対面側にドーム状空間部が形成される。ドーム状空間部には、モータMの回転子3及び固定子7が軸方向に重なりあって収容されている。これにより、遠心送風機1の軸方向寸法を減らして同じ体格の遠心送風機1であっても小型扁平化を図ることができる。
【0019】
図2において、第一ケース4aの中央部には吸気用開口部4cが設けられ、図3に示すように、径方向外側に第一送風路4dが形成されている。なお、吸気用開口部4cは、その中心がモータMの回転子軸3cの軸線と厳密に一致している必要はなく、吸気用開口部4cの位置がケース体4の軸方向中央部付近であって遠心ファン2が効率を落とさずに動作する範囲であればよい。第二ケース4bには、固定子ハウジング6が、モータ底部を覆う板金状のベースプレート11(図5参照)と抵抗溶接されて一体に組み付けられている。図5に示すように、ベースプレート11上には、モータ基板12が基板貫通孔12aに固定子ハウジング6を挿通させた状態で重ねて組み付けられる。モータ基板12には通電回路が形成されている。
【0020】
図4に示すように、第二ケース4bの径方向外側には第一送風路4dと組み合わされる第二送風路4eが形成されている。第一ケース4aと第二ケース4bを組み合わせてケース体4の径方向外側に環状送風路が形成される。第二送風路4eとなる第二ケース4bの底部外周側には加圧された圧縮空気を軸方向沿って排気する排気孔4fが周方向に複数箇所に穿設されている。第二ケース4bの底部に設けられた底部外周壁4h1と底部内周壁4h2との間に複数の拡散板4rが架設され排気孔4fが形成されている。拡散板4rは、第二送風路4eに設けられた排気孔4fより軸方向に排気される空気を、各拡散板4rの傾斜に沿って遠心ファン2の回転方向に対して斜め下方に向かって排気する。
【0021】
図1において、第一ケース4aの吸気用開口部4cの外周縁部には、係止突起4sが周方向で複数箇所(例えば4か所)に突設されている。係止突起4sは、例えばシート空調用ダクトの取り付け部に吸気用開口部4cが臨むように周方向で複数箇所にスナップフィットによる係止のために設けられている。係止突起4sの外周側には遠心ファン2の回転方向上流側から下流側に向かって幅狭となる抜き孔4tが孤状に延設されている。係止突起4sの先端側は楔状の係止部4s1が設けられ、抜き孔4tの上方に突出して形成されている(図2参照)。このように、係止突起4sの外周側に遠心ファン2の回転方向上流側から下流側に向かって幅狭となる抜き孔4tが延設されているため、金型アンダーカット部が発生しても第一ケース4aに係止突起4sを一体に樹脂成形することができる。
【0022】
また、図3において、抜き孔4tの第一ケース4aの内壁面4a1側に臨む周縁部4t1には、面取りされた傾斜面Fが連なって形成されており、傾斜面Fは抜き孔4tの外周側を囲むように面取りされている。このように、抜き孔4tの第一ケース4aの内壁面4a1側に臨む周縁部4t1が面取りされて傾斜面Fが連なって形成されていると、遠心ファン2のブレード枚数と回転数に依存するピークノイズの発生を低減することができる(図6(b)参照)。
【0023】
また、抜き孔4tは、係止突起4sが突設された吸気用開口部4cの外周縁部を含んでそれより遠心ファン2の回転方向上流側から下流側にわたって所定範囲で形成されている。これにより、遠心送風機1をスナップフィットにより着脱する際の係止突起4sの変形し易さを維持しつつ、遠心ファン2の回転による空気の脈動を分散させて圧力変動を抑えることができる。
【0024】
上記構成によれば、ケース体4に一体に設けられる係止突起4sの外周側に設けられる抜き孔4t形状を改良することでピークノイズの発生を低減した遠心送風機1を提供することができる。遠心送風機1を着脱する際の係止突起4sの変形し易さを維持しつつ、遠心ファン2の回転による空気の脈動を分散させて圧力変動を抑えることができる。
【0025】
上記実施形態は、車載用シート空調を例示して説明したが、これに限らずHVAC(暖房、換気及び空調)用の遠心送風機等に用いてもよい。車両以外の、余剰空間が少なく従来の空調用送風機を配置する空間が確保困難な場所であっても、本発明は同様に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1 遠心送風機 2 遠心ファン 2a ハブ 2b 主板 2c インペラ 3 回転子 3a 回転子ヨーク 3b ハブ 3c 回転子軸 3d 回転子マグネット 4a 第一ケース 4a1 内壁面 4b 第二ケース 4c 吸気用開口部 4d 第一送風路 4e 第二送風路 4f 排気孔 4h1 底部外周壁 4h2 底部内周壁 4j 係止片 4k 係止部 4r 拡散板 4s 係止突起 4s1 係止部 4t 抜き孔 4t1 周縁部 F 傾斜面 5 固定子 6 固定子ハウジング 6a 筒孔 6b 閉止部材 6c スラスト受け 6d 凹部 6e 抜け止めワッシャ 6f 封止材 6g 段付き部 7 固定子コア 7a コアバック部 7b 極歯 7c インシュレータ 7d モータコイル 8 焼結含油軸受 8a 筒孔 11 ベースプレート 12 モータ基板 12a 基板貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6