(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ハンドルカバー構造
(51)【国際特許分類】
B62J 23/00 20060101AFI20241129BHJP
B62J 17/10 20200101ALI20241129BHJP
【FI】
B62J23/00 B
B62J17/10
(21)【出願番号】P 2023013091
(22)【出願日】2023-01-31
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田中 駿也
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 和也
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】迎 勝雅
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066139(WO,A1)
【文献】特開2013-35305(JP,A)
【文献】特開2004-98858(JP,A)
【文献】特開2010-83201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 23/00
B62J 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗り型車両(1)のハンドルカバー構造において、
前記鞍乗り型車両(1)が有する操向ハンドル(2)と、前記操向ハンドル(2)の周囲を覆うハンドルカバー(30)と、を備え、
前記ハンドルカバー(30)は、
カバー外観面(41)を形成するアウターカバー(40)と、
少なくとも一部が前記アウターカバー(40)に覆われるインナーカバー(50)と、を備え、
前記インナーカバー(50)は、
正面視で前記アウターカバー(40)と重ならない位置で車両前方に臨むインナー前面(55)と、前記インナー前面(55)に対してカバー内方に凹む前面凹部(56)と、を形成する前面形成部(54)と、
前記アウターカバー(40)に覆われるインナー外面(51)と、前記インナー外面(51)に対してカバー内方に凹み、前記インナー外面(51)に沿って車両前後方向に延びる溝部(53)と、を形成するインナー外面形成部(52)と、を備え、
前記溝部(53)の車両前後方向の前端部(53a)は、前記前面凹部(56)に開放されていることを特徴とするハンドルカバー構造。
【請求項2】
前記前面凹部(56)は、車幅方向に延び、車幅方向外側ほど車両後方に位置するように傾いて形成され、
前記溝部(53)の幅は、車幅方向で前記前面凹部(56)の幅よりも狭く、
前記前面凹部(56)の車幅方向外側に、前記溝部(53)の前端部(53a)が接続されていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【請求項3】
前記前面凹部(56)の車幅方向外側の部位(56e)は、車幅方向外側ほど車両上下方向の幅を狭める先細り形状であることを特徴とする請求項2に記載のハンドルカバー構造。
【請求項4】
前記溝部(53)は、前記前端部(53a)から車両後方かつ車幅方向外側に向けて延びていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【請求項5】
前記前面凹部(56)の車幅方向外側の外側縁(56d)と、前記溝部(53)の車幅方向外側の外側縁(53d)とは、互いに直線状に連なるように配置されていることを特徴とする請求項4に記載のハンドルカバー構造。
【請求項6】
前記前面凹部(56)は、車幅方向で左右一対備えられ、
前記ハンドルカバー(30)の車幅方向内側には、前記前面凹部(56)よりも車両上方の部位から一対の前記前面凹部(56)の間に突出する下方突出部(37)を備え、
前記下方突出部(37)は、車両上方ほど車幅方向外側かつ車両後方に位置するように傾斜した外側縁(35c)を有し、
前記下方突出部(37)の前記外側縁(35c)と、前記前面凹部(56)の車幅方向内側の内側縁(56a)とは、同じ方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【請求項7】
前記前面凹部(56)の前記インナー前面(55)からの深さよりも、前記溝部(53)の前記インナー外面(51)からの深さの方が浅く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【請求項8】
前記ハンドルカバー(30)は、ミラーステー(3d1)を貫通させる開口部(38)を備え、
前記アウターカバー(40)のアウター前縁(42b)の車幅方向外側から車両後方に延びるアウター外側縁(42c)は、前記開口部(38)よりも車幅方向外側に配置され、
前記溝部(53)の外側縁(53d)は、前記開口部(38)よりも車幅方向内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【請求項9】
前記溝部(53)の車両前後方向の後端部(53b)は、前記溝部(53)の底面よりも車両上方に突出する段部(53c)を備えていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【請求項10】
前記前面凹部(56)は、車幅方向内側が深く、車幅方向外側ほど浅くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハンドルカバー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドルカバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクータ型車両において、操向ハンドルに固定したウインドスクリーンの背面に走行風を導入するために、ウインドスクリーンの下部に導風路を備えた構成がある(例えば、特許文献1参照)。また、操向ハンドルを覆うハンドルカバーとハンドルカバー両側のナックルガードとを備え、ハンドルカバーおよびナックルガードに形成される傾斜面で走行風を所定方向に流す構成がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-203453号公報
【文献】特開2013-63739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の構成においては、走行風を導くための開口や傾斜面等がハンドルカバー周辺に露出するため、ハンドルカバー周辺の外観性に影響しやすいという課題がある。
【0005】
そこで本発明は、鞍乗り型車両のハンドルカバー構造において、外観性を向上させた上でハンドルカバー周辺の走行風の流れを調整可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の第一の態様は、鞍乗り型車両(1)のハンドルカバー構造において、前記鞍乗り型車両(1)が有する操向ハンドル(2)と、前記操向ハンドル(2)の周囲を覆うハンドルカバー(30)と、を備え、前記ハンドルカバー(30)は、カバー外観面(41)を形成するアウターカバー(40)と、少なくとも一部が前記アウターカバー(40)に覆われるインナーカバー(50)と、を備え、前記インナーカバー(50)は、正面視で前記アウターカバー(40)と重ならない位置で車両前方に臨むインナー前面(55)と、前記インナー前面(55)に対してカバー内方に凹む前面凹部(56)と、を形成する前面形成部(54)と、前記アウターカバー(40)に覆われるインナー外面(51)と、前記インナー外面(51)に対してカバー内方に凹み、前記インナー外面(51)に沿って車両前後方向に延びる溝部(53)と、を形成するインナー外面形成部(52)と、を備え、前記溝部(53)の車両前後方向の前端部(53a)は、前記前面凹部(56)に開放されていることを特徴とする。
この構成によれば、ハンドルカバーをアウターカバーおよびインナーカバーの二層構造とし、かつインナーカバーにおける正面視(車両前面視)でアウターカバーと重ならない位置のインナー前面に前面凹部を形成することで、前面凹部がアクセントとなってハンドルカバーの外観性を向上させることができる。インナーカバーの前面凹部で受けた走行風は、溝部の前端部から溝部内の流路(導風路)を流れ、アウターカバーおよびインナーカバーの間からカバー後方に排出される。このとき、溝部を任意の方向に向けることで、ハンドルカバー内を流れる走行風の向きを調整可能とすることができる。溝部はアウターカバーにより隠されるので、外観性への影響を抑えることができる。
【0007】
本発明の第二の態様は、前記前面凹部(56)は、車幅方向に延び、車幅方向外側ほど車両後方に位置するように傾いて形成され、前記溝部(53)の幅は、車幅方向で前記前面凹部(56)の幅よりも狭く、前記前面凹部(56)の車幅方向外側に、前記溝部(53)の前端部(53a)が接続されていることを特徴とする。
この構成によれば、車幅方向外側ほど車両後方に位置する前面凹部の車幅方向外側の端部に、溝部の前端部を配置することで、前面凹部で受けた走行風は、前面凹部の傾斜に沿って車幅方向外側に流れた後、溝部の前端部(導入口)に自然に案内される。これにより、ハンドルカバー内の溝部に沿って走行風を良好に案内することができる。
【0008】
本発明の第三の態様は、上記第二の態様において、前記前面凹部(56)の車幅方向外側の部位(56e)は、車幅方向外側ほど車両上下方向の幅を狭める先細り形状であることを特徴とする。
この構成によれば、前面凹部の車幅方向外側を先細り形状とすることで、前面凹部の車幅方向外側ほど走行風の流路が狭まり、前面凹部の車幅方向外側に流れる走行風の流れを安定させる。これにより、前面凹部で受けた走行風を溝部へ良好に案内することができる。
【0009】
本発明の第四の態様は、上記第二又は第三の態様において、前記溝部(53)は、前記前端部(53a)から車両後方かつ車幅方向外側に向けて延びていることを特徴とする。
この構成によれば、溝部が前端部から車両後方ほど車幅方向外側に位置するように延びるので、溝部に案内された走行風は車幅方向外側に向けられる。これにより、ハンドルカバーの後方に位置する運転者への風当たりを抑えることができる。
【0010】
本発明の第五の態様は、上記第二から第四の態様の何れか一つにおいて、前記前面凹部(56)の車幅方向外側の外側縁(56d)と、前記溝部(53)の車幅方向外側の外側縁(53d)とは、互いに直線状に連なるように配置されていることを特徴とする。
この構成によれば、前面凹部の外側縁と溝部の外側縁とが直線状に連なることで、前面凹部の外側縁に沿って流れる走行風を、溝部内へ、溝部の外側縁ひいては長さ方向に沿ってスムーズに流すことができる。
【0011】
本発明の第六の態様は、上記第一から第五の態様の何れか一つにおいて、前記前面凹部(56)は、車幅方向で左右一対備えられ、前記ハンドルカバー(30)の車幅方向内側には、前記前面凹部(56)よりも車両上方の部位から一対の前記前面凹部(56)の間に突出する下方突出部(37)を備え、前記下方突出部(37)は、車両上方ほど車幅方向外側かつ車両後方に位置するように傾斜した外側縁(35c)を有し、前記下方突出部(37)の前記外側縁(35c)と、前記前面凹部(56)の車幅方向内側の内側縁(56a)とは、同じ方向に延びていることを特徴とする。
この構成によれば、ハンドルカバーの下方突出部の外側縁に沿って走行風を車幅方向外側に流しながら、この走行風の一部を前面凹部の内側縁近傍で取り入れ、前面凹部および溝部を通じて任意の方向へ案内することができる。「同じ方向に延びる」とは、実質的に前面視で互いに重なるように配置されることの意である。
【0012】
本発明の第七の態様は、上記第一から第六の態様の何れか一つにおいて、前記前面凹部(56)の前記インナー前面(55)からの深さよりも、前記溝部(53)の前記インナー外面(51)からの深さの方が浅く形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、インナー外面に形成した溝部を浅く形成することで、溝部を形成するためにインナーカバーの内面(裏面)に突出するビード等の突部の高さを抑え、ハンドルカバー内の部品配置スペースへの影響を抑えることができる。前面凹部側から見て溝部の前端部が見え難くなり、外観性への影響を抑えることができる。
【0013】
本発明の第八の態様は、上記第一から第七の態様の何れか一つにおいて、前記ハンドルカバー(30)は、ミラーステー(3d1)を貫通させる開口部(38)を備え、前記アウターカバー(40)のアウター前縁(42b)の車幅方向外側から車両後方に延びるアウター外側縁(42c)は、前記開口部(38)よりも車幅方向外側に配置され、前記溝部(53)の外側縁(53d)は、前記開口部(38)よりも車幅方向内側に配置されていることを特徴とする。
この構成によれば、アウターカバーの前縁から外側縁に沿って案内される走行風は、ミラーステーを貫通させる開口部よりも車幅方向外側を流れ、溝部に沿って案内される走行風は、開口部よりも車幅方向内側を流れる。このため、ハンドルカバーの各形状に沿って案内される走行風は、開口部に至り難く、意図せぬ風切り音の発生を抑えることができる。
【0014】
本発明の第九の態様は、上記第一から第八の態様の何れか一つにおいて、前記溝部(53)の車両前後方向の後端部(53b)は、前記溝部(53)の底面よりも車両上方に突出する段部(53c)を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、溝部を通って後端部から排出される走行風の排出量をコントロールすることができる。
【0015】
本発明の第十の態様は、上記第一から第九の態様の何れか一つにおいて、前記前面凹部(56)は、車幅方向内側が深く、車幅方向外側ほど浅くなるように形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、ハンドルカバー等のカバー部材は、一般的に車幅方向外側が車両後方に位置するように傾斜した形状となるので、この形状に対して前面凹部を傾けて設けることで、変化のある斬新な外観を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鞍乗り型車両のハンドルカバー構造において、外観性を向上させた上でハンドルカバー周辺の走行風の流れを調整可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態における自動二輪車の車体前部の左側面図である。
【
図2】上記自動二輪車のハンドルカバー周辺の左側面図である。
【
図4】上記ハンドルカバーのアウターカバーを取り外した状態を示す
図3に相当する前面図である。
【
図5】上記ハンドルカバーのガイド溝部の前端部周辺を斜め下方から見た斜視図である。
【
図6】上記ガイド溝部の後端部周辺を斜め上方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、車体左右中心を示す線CLが示されている。
本実施形態で用いる「中間」とは、対象の両端間の中央のみならず、対象の両端間の内側の範囲を含む意とする。
【0019】
<車両全体>
図1は、車両(移動体)の一例としてのスクータ型の自動二輪車(鞍乗り型車両)1の車体前部を、車両左右方向(車幅方向)左側から見た左側面図である。
自動二輪車1は、操向輪である前輪3と、駆動輪である後輪(不図示)と、を備えている。前輪3は、左右一対のフロントフォーク3aに支持され、バーハンドル(操向ハンドル)2によって操向可能である。後輪は、スイング式のパワーユニット(不図示)に支持され、パワーユニットによって駆動可能である。バーハンドル2、フロントフォーク3aおよび前輪3を含むステアリング系部品は、車体フレーム10の前端部のヘッドパイプ10aに操向可能に支持されている。パワーユニットの前部は、車体フレーム10の前後中間部(中央に限らない)に上下揺動可能に支持されている。パワーユニットは、駆動源として、例えば内燃機関および電気モータの少なくとも一方を備えている。
【0020】
左右一対のフロントフォーク3aの上部は、ブリッジ部材3bによって互いに連結されている。ブリッジ部材3bの上方に延びるステムパイプ3cは、ヘッドパイプ10aに挿通されている。ステムパイプ3cの上部は、ヘッドパイプ10aの上方に突出し、バーハンドル2の左右中央部を支持している。バーハンドル2の周囲は、ハンドルカバー30で覆われている。バーハンドル2の左右側部には、左右一対のバックミラー3d等が取り付けられている。ブリッジ部材3bには、前輪3の上部を覆うフロントフェンダ3eが支持されている。
【0021】
前輪3と後輪との間には、運転者が足を置くフロアステップ6が設けられている。フロアステップ6の前方には、フロントボディ11が設けられている。フロアステップ6の後方には、リアボディ(不図示)が設けられている。リアボディの上方には、乗員が着座するシート(不図示)が配置されている。フロントボディ11およびリアボディの間でフロアステップ6の上方の空間K1は、乗員が車体を跨ぐ際の跨ぎ空間K1とされている。フロントボディ11の上方には、車幅方向に延びるバーハンドル2が配置されている。
【0022】
自動二輪車1の車体フレーム10の周囲は、車体カバー20で覆われている。車体カバー20は、フロントボディ11の外面を形成するフロントカバー21と、フロアステップ6を覆うフロアカバー24と、を備えている。フロントカバー21の前面側には、ヘッドライト等の灯火器14が配置されている。フロアカバー24の上面は、フロアステップ6の足載せ面24aを形成している。足載せ面24aは、例えば車幅方向の全幅に渡って平坦状である。フロアステップ6は、車幅方向内側で上方に隆起するセンタートンネルを備えてもよい。
【0023】
<ハンドルカバー構造>
次に、ハンドルカバー30の構造について説明する。
図2~
図4を参照し、ハンドルカバー30は、車両前後方向(進行方向)の前方側に向けて走行(前進)する自動二輪車1(
図1参照)に備えられ、車両前方からの走行風の一部をカバー内に流し、この走行風をカバー後方で任意の方向に向けて吹き出すことで、カバー後方の走行風の流れを調整可能である。ハンドルカバー30の構成は、特に記載がなければ、車体左右中央CLに関して左右対称である。
【0024】
ハンドルカバー30は、側面視で前下がりに傾斜したカバー前上面(カバー外観面、アウター外面)41を形成するアウターカバー40と、アウターカバー40に覆われる第二カバー前上面(インナー外面)51を形成するインナーカバー50と、を備えている。ハンドルカバー30は、アウターカバー40およびインナーカバー50の間に走行風の一部を取り込み、この走行風を後述するガイド溝部53に沿って後方に流すことで、カバー後方での走行風の流れを調整可能とする。
【0025】
ハンドルカバー30は、車両前方かつ上方に臨む前上面部31と、車両後方かつ上方に臨む後上面部32と、を備えている。前後上面部31,32よりも下方に位置する下面部33は、全体的に車両下方に臨んでいる。下面部33の車幅方向中央部には、下方に延びる筒状のネック部34が形成されている。ネック部34は、ステムパイプ3cの上部の周囲を覆っている。
【0026】
前上面部31は、アウターカバー40およびインナーカバー50で構成されている。前上面部31の車幅方向内側の領域は、前上方に凸の膨出形状をなし、アウターカバー40の車幅方向内側の部位によって曲面状の外観面を形成している。前上面部31の車幅方向外側の領域は、車幅方向外側に直線状に延び、アウターカバー40およびインナーカバー50の車幅方向外側の部位によって凹凸のある外観面を形成している。
後上面部32は、インナーカバー50の後上部で構成されている。後上面部32には、速度計等を含むメータ装置の表示部32aが配置されている。
【0027】
前上面部31は、車体左右中央CLを含む車幅方向内側の規定の領域を形成する中央領域部35と、中央領域部35よりも車幅方向外側の規定の領域を形成する左右一対の延出領域部36と、を備えている。
【0028】
中央領域部35は、車両前方から見た前面視において、下方側ほど左右幅が狭まる形状とされている。中央領域部35は、前面視において、上方に凸の円弧状をなして車幅方向に延びる中央部上縁35aと、中央部上縁35aの左右端から前下方かつ車幅方向内側に延びる左右一対の中央部側縁35bと、左右の中央部側縁35bの下端から前下方かつ車幅方向内側へ、中央部側縁35bよりも車幅方向内側への傾斜を強めて延びる左右一対の中央部第二側縁35cと、を有している。
【0029】
左右の中央部第二側縁35cは、各々の下端が車体左右中央CLで互いに接続されている。左右の中央部第二側縁35cは、前面視V字状の中央部前縁35dを形成している。中央領域部35における中央部上縁35aに沿って規定の上下幅で車幅方向に延びる部位は、前記メータ装置の表示部32aの前上方に立ち上がるバイザー部35eとされている。
【0030】
延出領域部36は、前面視において、左右の中央部側縁35bおよび中央部第二側縁35cから車幅方向外側へ延びている。延出領域部36は、前面視において、中央部上縁35aの左右端から車幅方向外側へ延びる左右一対の延出部上縁36aと、左右の延出部上縁36aの車幅方向外側端から前下方かつ車幅方向内側に延びる左右一対の延出部外側縁36bと、左右の延出部外側縁36bの下端から前下方かつ車幅方向内側へ、車幅方向内側への傾斜を強めて延びる左右一対の延出部前縁36cと、を有している。左右の延出部前縁36cは、各々の下端が車体左右中央CLで互いに接続されている。左右の延出部前縁36cは、前面視で中央部前縁35dよりも浅いV字状の第二前縁36dを形成している。中央部前縁35dおよび第二前縁36dの下端(頂点)は、前面視で実質的に重なっている。
【0031】
アウターカバー40は、前上面部31の中央領域部35におけるバイザー部35eを除く領域と、前上面部31の延出領域部36における前下部(後述する前面形成部54)を除く領域と、に渡って一体に設けられている。以下、アウターカバー40における中央領域部35を構成する部位をアウター中央部40a、延出領域部36を構成する部位をアウター延出部40bと称する。また、アウター中央部40aの前縁をアウター中央部前縁42a、アウター延出部40bの前縁をアウター延出部前縁42b、アウター延出部40bの車幅方向外側縁をアウター延出部外側縁42c、とそれぞれ称する。アウター中央部前縁42aは、中央領域部35の中央部前縁35dと実質的に重なり、アウター延出部外側縁42cは、延出領域部36の延出部外側縁36bと実質的に重なる。アウターカバー40は、合成樹脂製の一体成型品の本体部を有している。
【0032】
本実施形態において、車両右側のアウター延出部40bには、上方に凸の膨出部40cが形成されている。膨出部40cは、バーハンドル2に支持したブレーキ用マスターシリンダのリザーバタンク2aを避ける空間をアウター延出部40bの下方に形成している。車両左側のアウター延出部40bには膨出部40cは形成されていない。
【0033】
インナーカバー50は、ハンドルカバー30の前上面部31、後上面部32および下面部33に渡って(ハンドルカバー30の全体に渡って)設けられている。インナーカバー50は、例えば車両前後方向で前後分割体50f,50rに分割され(
図7、
図8参照)、これらがバーハンドル2を前後から挟み込むようにしてバーハンドル2に取り付けられている。前後分割体50f,50rは、それぞれ合成樹脂製の一体成型品の本体部を有している。インナーカバー50は、ハンドルカバー30のカバー本体と称してもよい。以下、インナーカバー50におけるアウターカバー40に覆われる領域の部位をインナー外面形成部52と称する。
【0034】
インナーカバー50のインナー外面形成部52は、アウターカバー40が形成するアウター外面41に沿うインナー外面51と、インナー外面51に対してカバー内方(実施形態では実質的に下方)に凹む左右一対のガイド溝部(溝部)53と、を有している。各ガイド溝部53は、インナー外面51に沿って車両前後方向に延び、後方側ほど車幅方向外側に位置するように傾斜している。
【0035】
ここで、車両右側のアウター延出部40bの下方において、インナー外面形成部52には、リザーバタンク2aを避ける開口部52aが形成されている。開口部52aによって、車両右側のガイド溝部53の後上部は切り欠かれている。開口部52aの上方には、リザーバタンク2aの上部が突出している。
以下、ガイド溝部53の説明は、車両左側のガイド溝部53を参照して行う。車両右側のガイド溝部53が切り欠かれない場合、ガイド溝部53は左右対称に備えることができる。
【0036】
インナーカバー50は、ハンドルカバー30の前上面部31におけるアウターカバー40を避けて車両前方に臨む領域(左右のアウター延出部前縁42bよりも前方の領域)を、左右一対の前面形成部54としている。各前面形成部54は、インナーカバー50における車両前方に臨むインナー前面55と、インナー前面55に対して車両後方側に凹む前面凹部56と、を有している。
【0037】
左右のインナー前面55は、それぞれ車幅方向外側ほど後方側に位置するように傾斜している。左右の前面凹部56は、それぞれインナー前面55に沿うように傾斜し(すなわち車幅方向外側ほど後方側に位置するように傾斜し)、車幅方向に延びている。
【0038】
左右の前面凹部56は、それぞれ車幅方向内側から車幅方向外側に至るほど前後方向で浅くなるように形成されてもよい。ここで、ハンドルカバー30の前面側の形状は、車幅方向外側ほど後方に位置するように傾斜して形成されている。このハンドルカバー30の形状の傾斜に対して、前面凹部56の形状の傾斜を異ならせる(車幅方向外側ほど前方に位置するように傾斜させる)ことで、ハンドルカバー30の前面側の形状に変化を持たせることができる。
【0039】
各前面凹部56は、それぞれ前面視で車幅方向外側が吊り上がった形状(概ねひし形)に形成されている。各前面凹部56は、前面視において、中央領域部35の中央部第二側縁35cに沿って車幅方向外側ほど後上方に位置するように延びる凹部第一上縁56aと、凹部第一上縁56aの車幅方向外側端から凹部第一上縁56aよりも水平寄りの傾斜で車幅方向外側ほど上方に位置するように延びる凹部第二上縁56bと、延出領域部36の延出部前縁36cに沿って車幅方向外側ほど後上方に位置するように延びる凹部第一下縁56cと、凹部第一下縁56cの車幅方向外側端から凹部第一下縁56cよりも垂直寄りの傾斜で車幅方向外側ほど後上方に位置するように延びる凹部第二下縁56dと、を有している。凹部第二上縁56bは、アウター延出部前縁42bに沿うように延びている。凹部第二下縁56dは、延出部外側縁36bと略平行をなし、前面形成部54の左右方向中間部(中央に限らない)を上下に横断するように延びている。
【0040】
前面視において、凹部第一上縁56aと凹部第一下縁56cとのなす角度、および凹部第二上縁56bと凹部第二下縁56dとのなす角度は、それぞれ鋭角である。前面凹部56の前面視形状は、上下幅よりも左右幅の方が大きいひし形とされる。前面凹部56の車幅方向外側の部位(凹部外側部56e)は、車幅方向外側ほど上下方向の幅が狭い先細り形状とされている。例えば、凹部外側部56eは、凹部第二上縁56bと凹部第二下縁56dとに挟まれた三角形状の部位である。前面凹部56は、上下方向の幅よりも車幅方向の幅が広く、この前面凹部56に対して、ガイド溝部53は車幅方向の幅が狭い。ガイド溝部53の前端部(導入口)53aは、前面凹部56の車幅方向外側の端部(凹部第二上縁56bの外側端部)に接続され、前面凹部56の内側に流路を開放している。
【0041】
ガイド溝部53は、前端部53aから後方へ、インナー外面51に沿って延びている。ガイド溝部53は、後側ほど車幅方向外側に位置するように傾斜して延びている。ガイド溝部53は、車幅方向の幅(溝幅)に対して上下方向の深さ(溝深さ)が浅い偏平の断面形状を有している。ガイド溝部53は、断面形状を一定にして前後方向に延びている。ガイド溝部53の車幅方向外側の外側縁53dは、前面視において、前面凹部56の車幅方向外側の外側縁(凹部第二下縁56d)に対し、互いに略直線状に連なるように配置されている。前記「略直線状」とは、両外側縁53d,56dが完全に直線状に連なることに限らず、例えばガイド溝部53の溝幅程度の範囲で互いにずれたり角度を有したりして連なってもよい。
【0042】
図5、
図7を参照し、ガイド溝部53は、上下方向の深さが、前面凹部56の前後方向の深さ(特に前面凹部56の車幅方向外側での深さ)よりも浅くなるように形成されている。前面凹部56の凹部第二上縁56bにおける前面凹部56内に臨む段差部56b1は、ガイド溝部53の前端部53aが接続される部位において、ガイド溝部53の断面形状に切り欠かれている。これにより、ガイド溝部53の前端部53aは、ガイド溝部53内の流路を前面凹部56内に開放(連通)させ、前面凹部56内に受け止められた走行風の一部をガイド溝部53内に導入可能とする。ガイド溝部53内に導入された走行風は、ガイド溝部53に沿って後上方かつ車幅方向外側に流れ、前上面部31の延出領域部36における左右の延出部上縁36aから排出される。
【0043】
図6、
図8を参照し、ガイド溝部53の後端部53bには、ガイド溝部53の底面から上方に突出する段部53cが備えられている。段部53cは、インナーカバー50における後分割体50rの上縁に形成されている。段部53cがガイド溝部53の底面よりも上方に突出することで、ガイド溝部53の後端部53bの開口面積が狭まり、走行風の排出量が抑えられる。
本実施形態では、アウターカバー40のアウター延出部40bは、前上面部31の延出領域部36の延出部上縁36aを越えて、後上面部32の上部と重なるまで後下方に延びている。ガイド溝部53の後端部53bから排出された走行風は、一旦アウターカバー40のアウター延出部40bの内側に排出されて勢いを弱めた後、アウターカバー40およびインナーカバー50の間の隙間、あるいはアウターカバー40に形成された開口等からカバー外部に排出される。
【0044】
ハンドルカバー30の中央領域部35の下部は、左右の前面凹部56の間に上方から入り込むように下方に突出する下方突出部(先端部)37とされている。下方突出部37は、前面視で左右の中央部第二側縁35cの間に挟まれた逆三角形状の部位であり、中央領域部35の上部(前面視で左右の中央部側縁35bの間に挟まれた部位、前面凹部56よりも上方の部位)から下方に突出する。
下方突出部37の左右の中央部第二側縁35cの各々は、左右同側の前面凹部56の車幅方向内側の内側縁(凹部第一上縁56a)に対し、互いに重なるように配置されている。前記「互いに重なるように配置」とは、前面視で互いに重なる又は交差する配置に限らず、前面視で互いに接近して並んで延びる配置を含む。
【0045】
アウターカバー40における車両前方に臨む縁部には、上下方向に延びる垂下壁43が形成されている。垂下壁43は、左右のアウター中央部前縁42a、アウター延出部前縁42bおよびアウター延出部外側縁42cに渡って形成されている。垂下壁43は、アウターカバー40のアウター外面41の縁から下方に延び、インナーカバー50のインナー外面51に下端を近接させる。これにより、アウターカバー40の前縁近傍から、アウターカバー40およびインナーカバー50の間の隙間に走行風が侵入し難くされている。
【0046】
アウターカバー40およびインナーカバー50の間の隙間に多くの走行風が侵入すると、ハンドルカバー30ひいてはステアリング系部品に拘束感が生じたり風切り音が生じたりする虞がある。これに対し、垂下壁43によってアウターカバー40の車両前方側の隙間の発生を抑えることで、前記拘束感および風切り音の発生が抑えられている。
【0047】
一方、走行風の一部は、前面凹部56およびガイド溝部53を通じてカバー後方の乗車位置に向けて案内される。前面凹部56で受け止めた走行風は、前面凹部56の車幅方向外側に流れてガイド溝部53の前端部(導入口)53aに案内され、ガイド溝部53に沿って規定方向に案内される。本実施形態では、ガイド溝部53に導入された走行風は、ハンドルカバー30の車幅方向外側(ガイド溝部53の前端部53aよりも車幅方向外側)に案内される。これにより、ハンドルカバー30の後方に位置する運転者への風当たりが抑えられるとともに、ハンドルカバー30の後方に走行風が程よく供給され、ハンドルカバー30後方の負圧ひいては空気抵抗の発生が抑えられる。
【0048】
ガイド溝部53の後端部(導出口)53bには段部53cが備えられ(
図6、
図8参照)、ガイド溝部53の後端部53bからの走行風の排出量が抑えられる。その結果、ガイド溝部53を通る走行風の流速が抑えられる。これにより、走行風の流れによる空力でハンドルカバー30ひいてはステアリング系部品に転舵の拘束感が生じることが抑えられる。
【0049】
図3、
図4を参照し、ハンドルカバー30には、バーハンドル2に固定されるバックミラー3dのミラーステー3d1を貫通させるための開口部38が形成されている。開口部38は、前上面部31の延出領域部36の車幅方向外側に片寄った位置に配置されている。開口部38は、アウターカバー40およびインナーカバー50をそれぞれ上下方向で貫通する円形の開口を形成している。開口部38には、ミラーステー3d1における上下方向に沿う基部3d2が挿通される。
【0050】
開口部38よりも車幅方向外側には、アウターカバー40の前縁(アウター延出部前縁42b)の車幅方向外側から車両後方に延びる外側縁(アウター延出部外側縁42c)が配置されている。これにより、アウターカバー40の車両前方側の垂下壁43に沿って車幅方向外側に流れる走行風は、開口部38よりも車幅方向外側に案内されて車両後方に流れる。
【0051】
開口部38よりも車幅方向内側には、ガイド溝部53の外側縁53dが配置されている。すなわち、ガイド溝部53の全体が開口部38よりも車幅方向内側に配置されている。これにより、ガイド溝部53に沿って流れる走行風は、開口部38よりも車幅方向内側に案内されて車両後方に流れる。
実施形態では、ハンドルカバー30内を流れる走行風が開口部38に至り難くできる。
【0052】
以上説明したように、上記実施形態におけるハンドルカバー構造は、進行方向(車両前後方向)の前方に向けて走行する移動体(自動二輪車1)のハンドルカバー構造であって、前記移動体の幅方向(車幅方向)に延びるバーハンドル2と、前記バーハンドル2の周囲を覆うハンドルカバー30と、を備え、前記ハンドルカバー30は、カバー外観面(アウター外面41)を形成するアウターカバー40と、少なくとも一部が前記アウターカバー40に覆われるインナーカバー50と、を備え、前記インナーカバー50は、前記アウターカバー40を避けて前記進行方向前方(車両前方)に臨むインナー前面55と、前記インナー前面55に対してカバー内方(前記進行方向後方、車両後方)に凹む前面凹部56と、を形成する前面形成部54と、前記アウターカバー40に覆われるインナー外面51と、前記インナー外面51に対してカバー内方(車両上下方向下方)に凹み、前記インナー外面51に沿って前記進行方向に延びるガイド溝部53と、を形成するインナー外面形成部52と、を備え、前記ガイド溝部53の前記進行方向の前端部53aは、前記前面凹部56の内側に開放されている。
この構成によれば、ハンドルカバー30をアウターカバー40およびインナーカバー50の二層構造とし、かつインナーカバー50におけるアウターカバー40を避けたインナー前面55に前面凹部56を形成することで、前面凹部56がアクセントとなってハンドルカバー30の外観性を向上させることができる。インナーカバー50の前面凹部56で受けた走行風は、ガイド溝部53の前端部53aからガイド溝部53内の流路(導風路)を流れ、アウターカバー40およびインナーカバー50の間からカバー後方に排出される。このとき、ガイド溝部53を任意の方向に向けることで、ハンドルカバー30内を流れる走行風の向きを調整可能とすることができる。ガイド溝部53はアウターカバー40により隠されるので、外観性への影響を抑えることができる。
【0053】
上記ハンドルカバー構造において、前記前面凹部56は、前記幅方向(車幅方向)に延び、前記幅方向外側ほど前記進行方向後方に位置するように傾いて形成され、前記ガイド溝部53は、前記幅方向の幅が前面凹部56の幅よりも小さく、前記前面凹部56の前記幅方向外側の端部に、前記ガイド溝部53の前端部53aが接続されている。
この構成によれば、幅方向外側ほど進行方向後方に位置する前面凹部56の幅方向外側の端部に、ガイド溝部53の前端部53aを配置することで、前面凹部56で受けた走行風は、前面凹部56の傾斜に沿って幅方向外側に流れた後、ガイド溝部53の前端部(導入口)53aに自然に案内される。これにより、ハンドルカバー30内のガイド溝部53に沿って走行風を良好に案内することができる。
【0054】
上記ハンドルカバー構造において、前記前面凹部56の前記幅方向外側の部位(凹部外側部56e)は、前記幅方向外側ほど前記移動体の上下方向の幅を狭める先細り形状である。
この構成によれば、前面凹部56の幅方向外側を先細り形状とすることで、前面凹部56の幅方向外側ほど走行風の流路が狭まり、前面凹部56の幅方向外側に流れる走行風の流れを安定させる。これにより、前面凹部56で受けた走行風をガイド溝部53へ良好に案内することができる。
【0055】
上記ハンドルカバー構造において、前記ガイド溝部53は、前記前端部53aから前記進行方向後方かつ前記幅方向外側に向けて延びている。
この構成によれば、ガイド溝部53が前端部53aから進行方向後方ほど幅方向外側に位置するように延びるので、ガイド溝部53に案内された走行風は幅方向外側に向けられる。これにより、ハンドルカバー30の後方に位置する運転者への風当たりを抑えることができる。
【0056】
上記ハンドルカバー構造において、前記前面凹部56の前記幅方向外側の外側縁(凹部第二下縁56d)と、前記ガイド溝部53の前記幅方向外側の外側縁53dとは、互いに直線状に連なるように配置されている。
この構成によれば、前面凹部56の外側縁(凹部第二下縁56d)とガイド溝部53の外側縁53dとが直線状に連なることで、前面凹部56の外側縁(凹部第二下縁56d)に沿って流れる走行風を、ガイド溝部53の外側縁53dひいては長さ方向に沿ってスムーズに流すことができる。
【0057】
上記ハンドルカバー構造において、前記前面凹部56は、前記幅方向で一対備えられ、前記ハンドルカバー30の前記幅方向内側には、前記移動体の上下方向で前記前面凹部56よりも上方の部位から一対の前記前面凹部56の間に入り込むように、前記上下方向下方に突出する下方突出部37を備え、前記下方突出部37の前記幅方向外側には、前記上下方向上方ほど前記幅方向外側かつ前記進行方向後方に位置するように傾斜した外側縁(中央部第二側縁35c)を有し、前記下方突出部37の前記外側縁(中央部第二側縁35c)と、前記前面凹部56の前記幅方向内側の内側縁(凹部第一上縁56a)とは、互いに重なるように配置されている。
この構成によれば、ハンドルカバー30の下方突出部37の外側縁(中央部第二側縁35c)に沿って走行風を幅方向外側に流しながら、この走行風の一部を前面凹部56の内側縁(凹部第一上縁56a)近傍で取り入れ、前面凹部56およびガイド溝部53を通じて任意の方向へ案内することができる。
【0058】
上記ハンドルカバー構造において、前記前面凹部56の前記インナー前面55からの深さよりも、前記ガイド溝部53の前記インナー外面51からの深さの方が浅く形成されている。
この構成によれば、インナー外面51に形成したガイド溝部53を浅く形成することで、ガイド溝部53を形成するためにインナーカバー50の内面(裏面)に突出するビード等の突部の高さを抑え、ハンドルカバー30内の部品配置スペースへの影響を抑えることができる。前面凹部56側から見てガイド溝部53の前端部53aが見え難くなり、外観性への影響を抑えることができる。
【0059】
上記ハンドルカバー構造において、前記ハンドルカバー30は、前記バーハンドル2に固定されるミラーステー3d1を貫通させる開口部38を備え、前記アウターカバー40のアウター前縁(アウター延出部前縁42b)の前記幅方向外側から前記進行方向後方に延びるアウター外側縁(アウター延出部外側縁42c)は、前記開口部38よりも前記幅方向外側に配置され、前記ガイド溝部53の外側縁53dは、前記開口部38よりも前記幅方向内側に配置されている。
この構成によれば、アウターカバー40の前縁(アウター延出部前縁42b)から外側縁(アウター延出部外側縁42c)に沿って案内される走行風は、ミラーステー3d1を貫通させる開口部38よりも幅方向外側を流れ、ガイド溝部53に沿って案内される走行風は、開口部38よりも幅方向内側を流れる。このため、ハンドルカバー30の各形状に沿って案内される走行風は、開口部38に至り難く、意図せぬ風切り音の発生を抑えることができる。
【0060】
上記ハンドルカバー構造において、前記ガイド溝部53の前記進行方向の後端部53bは、前記ガイド溝部53の底面よりも上方に突出する段部53cを備えている。
この構成によれば、ガイド溝部53を通って後端部53bから排出される走行風の排出量をコントロールすることができる。運転者側から見てガイド溝部53の後端部53bが目立たなくなり、外観性への影響を抑えることができる。
【0061】
上記ハンドルカバー構造において、前記前面凹部56は、前記幅方向内側が深く、前記幅方向外側ほど浅くなるように形成されている。
この構成によれば、ハンドルカバー30等のカバー部材は、一般的に幅方向外側が後方に位置するように傾斜した形状となるので、この形状に対して前面凹部56を傾けて設けることで、変化のある斬新な外観を形成することができる。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、ガイド溝部は、ハンドルカバーの上面側に一対備える構成に限らず、単一または三つ以上の溝部を備えたり、左右非対称に備えたり、ハンドルカバーの下面側等に備えたりしてもよい。また、前面凹部も単一又は三つ以上に備えたり左右非対称に備えたりしてもよい。
本実施形態のハンドルカバー構造は、自動二輪車以外の鞍乗り型車両に適用してもよい。前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪(四輪バギー等)の車両も含まれる。また、鞍乗り型車両以外の車両(乗用車、バス、トラック等)に適用してもよい。
本実施形態のハンドルカバー構造は、車両に適用されるものであるが、本発明は車両への適用に限らず、航空機や船舶等の種々輸送機器、ならびに建設機械や産業機械等、様々な乗物や移動体に適用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両、移動体)
2 バーハンドル(操向ハンドル)
3d1 ミラーステー
30 ハンドルカバー
35c 中央部第二位側縁(外側縁)
37 下方突出部
38 開口部
40 アウターカバー
41 アウター外面(カバー外観面)
42b アウター延出部前縁(アウター前縁)
42c アウター延出部外側縁(アウター外側縁)
50 インナーカバー
51 インナー外面
52 インナー外面形成部
53 ガイド溝部(溝部)
53a 前端部
53b 後端部
53c 段部
53d 外側縁
54 前面形成部
55 インナー前面
56 前面凹部
56a 凹部第一上縁(内側縁)
56d 凹部第二下縁(外側縁)
56e 凹部外側部(幅方向外側の部位)