(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法
(51)【国際特許分類】
A63B 24/00 20060101AFI20241129BHJP
A61H 1/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
A63B24/00
A61H1/00
(21)【出願番号】P 2023191148
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2020089364の分割
【原出願日】2019-07-31
【審査請求日】2023-12-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.開催日 平成31年1月29日 集会名 mediVR体験会 2.販売日 平成31年3月26日 販売した場所 株式会社mediVR 大阪本社 3.開催日 令和元年7月6日から令和元年7月7日 集会名 第31回 日本運動器科学会
(73)【特許権者】
【識別番号】517147593
【氏名又は名称】株式会社mediVR
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】原 正彦
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199196(WO,A1)
【文献】特開2010-287221(JP,A)
【文献】特開平11-219100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/00
A63B 21/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ-ションを支援する
ため、
前記ユーザの手の位置を検出する検出部と、
3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという目標動作を要求する要求部と、
前記検出部の検出結果に基づき前記目標動作を行ったと判断されるユーザに対して、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバック部と、
を備えた
リハビリテーション支援装置であって、
前記フィードバック部は、前記目標動作に関して、前記3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという完全クリアか、前記目標物から所定距離内に近づいたという一定クリアかによって、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックを変更するリハビリテーション支援装置。
【請求項2】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と聴覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項3】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項4】
前記フィードバックは、少なくとも聴覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項5】
前記フィードバックは、少なくとも視覚と聴覚と触覚とを刺激するフィードバックである請求項1に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項6】
前記フィードバック部は、前記目標動作を行なった前記ユーザの手に対して触覚を刺激するフィードバックを行なう請求項3乃至5のいずれか1項に記載のリハビリテーション支援装置。
【請求項7】
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ-ションを支援する
ため、
検出部が前記ユーザの手の位置を検出する検出ステップと、
要求部が3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという目標動作を要求する要求ステップと、
フィードバック部が前記検出ステップの検出結果に基づき前記目標動作を行ったと判断されるユーザに対して、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックステップと、
を含むリハビリテーション支援方法
であって、
前記フィードバックステップは、前記目標動作に関して、前記3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという完全クリアか、前記目標物から所定距離内に近づいたという一定クリアかによって、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックを変更するリハビリテーション支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リハビリテーション支援装置及びリハビリテーション支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、非特許文献1には、小脳性失調の患者向けのリハビリテーションについて開示がある。特に202頁において、Implications for rehabilitation approachesの最初の一文に、この分野の治療方法に関してある程度確立されたような研究が存在しない、と書かれている。そして主に「修繕」的アプローチか、「機能補助」的アプローチの2点があると記載されている。
【0003】
また、非特許文献2は、脳梗塞/脳出血後(stroke)の治療に関するAHAのガイドラインであり、e122の左欄に、"Limb Apraxia"つまり、失行=思うように体を動かせない状態(運動障害)について書かれている。ここには、"there is a paucity of research on therapeutic interventions for limb apraxia."と書かれており、運動障害を改善する調査が進んでいないことが書かれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Rehabilitation in practice "Cerebellar ataxia: pathophysiology and rehabilitation" Clinical Rehabilitation 2011; 25: 195-216
【文献】AHA/AGA Guideline "Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、上記文献に記載の技術では、効果的に運動障害を改善することができなかった。
【0006】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るリハビリテーション支援装置は、
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ-ションを支援するため、
前記ユーザの手の位置を検出する検出部と、
3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという目標動作を要求する要求部と、
前記検出部の検出結果に基づき前記目標動作を行ったと判断されるユーザに対して、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバック部と、
を備えたリハビリテーション支援装置であって、
前記フィードバック部は、前記目標動作に関して、前記3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという完全クリアか、前記目標物から所定距離内に近づいたという一定クリアかによって、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックを変更する。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るリハビリテーション支援方法は、
運動障害を有するユーザに対するリハビリテ-ションを支援するため、
検出部が前記ユーザの手の位置を検出する検出ステップと、
要求部が3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという目標動作を要求する要求ステップと、
フィードバック部が前記検出ステップの検出結果に基づき前記目標動作を行ったと判断されるユーザに対して、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックステップと、
を含むリハビリテーション支援方法であって、
前記フィードバックステップは、前記目標動作に関して、前記3次元仮想空間内で目標物に対して仮想的に触れるという完全クリアか、前記目標物から所定距離内に近づいたという一定クリアかによって、前記目標動作を行ったタイミングとほぼ同時に行うフィードバックを変更する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効果的に運動障害を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るリハビリテーション支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るリハビリテーション支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るリハビリテーション支援装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としてのリハビリテーション支援装置100について、
図1を用いて説明する。リハビリテーション支援システム100は、運動障害を有するユーザ110に対するリハビリテ-ションを支援する装置である。
【0013】
図1に示すように、リハビリテーション支援装置100は、要求部101とフィードバック部102とを含む。要求部101は、表示部111に表示された3次元仮想空間内での目標動作(例えば、表示部111に表示された目標物に対し仮想的に触れる動作)を要求する。
【0014】
フィードバック部102は、目標物に対して仮想的に触れたユーザに対して、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを、目標物に触れたタイミングとほぼ同時に行う。
【0015】
上記のように多重のフィードバック(マルチチャネルフィードバック)を行なうことにより、運動障害を効果的に改善することができる。また、このマルチチャネルフィードバックによってユーザの脳内に運動モデルが再構築されると、幻肢痛を含む疼痛症状が改善する。
【0016】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るリハビリテーション支援システム200について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係るリハビリテーション支援システム200の構成を説明するための図である。
【0017】
図2に示すように、リハビリテーション支援システム200は、リハビリテーション支援装置210と、2つのベースステーション231、232と、ヘッドマウントディスプレイ233と、2つのコントローラ234、235とを備える。ユーザ220は、椅子221に座りながら、ヘッドマウントディスプレイ233の表示に合わせて、上半身を傾けたり、ねじったり、手を様々な方向に伸ばしたりすることでリハビリテーション動作を行なう。本実施形態では、椅子に座って行なう主に上肢を用いたリハビリテーションを前提に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばベッド上で行ってもよいし、立位で行ってもよいし、手以外の部分にセンサを装着することにより、下肢や体幹、指や頭部、顔面を用いた動作を行ってもよい。VRを利用することにより、座れない患者であっても、ベッド上で最大限のリハビリテーションを行なうことができる。
【0018】
2つのベースステーション231、232は、ヘッドマウントディスプレイ233の動きおよびコントローラ234、235の動きを検知して、リハビリテーション支援装置210に送る。リハビリテーション支援装置210は、ユーザ220のリハビリテーション動作を評価しつつ、ヘッドマウントディスプレイ233の表示制御を行なう。ヘッドマウントディスプレイ233としては、非透過タイプでも、ビデオシースルータイプでも、オプティカルシースルータイプでも構わず、さらには映像表示手段としてはモニターを周囲や周囲の一部に配置したような形でも、ホログラムのような立体映像技術やその代替手段を用いても構わない。すなわち、Virtual Reality、Augmented Reality、Mixed Reality等のいずれの手段を用いても構わないし、さらに付言すると映像を用いずに実在するオブジェクトを用いてシステムが構成されてもよい。ヘッドマウントディスプレイ233には、ヘッドフォンスピーカ236が付属しており、リハビリテーション支援装置210は、ユーザ220のリハビリテーション動作の評価結果に応じた音声を、ヘッドフォンスピーカ236から出力する。なお、音声出力手段もヘッドフォンに限定されず、骨伝導イヤホンや外部の音響装置を用いてもよい。
【0019】
本実施形態では、ユーザ220の動作を検出するためのセンサの一例として、ユーザ220が手に持つコントローラ234、235や、ベースステーション231、232を示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。画像処理によりユーザの手の位置を検出するためのカメラ(深度センサを含む)、温度によりユーザの手の位置を検出するためのセンサ、ユーザの腕に装着させる腕時計型のウェアラブル端末などや、モーションキャプチャ、各種装置に内蔵されたジャイロセンサーなどが、動作検出部に含まれてもよい。
【0020】
リハビリテーション支援装置210は、動作検出部211と表示制御部212と要求部213と評価部214と更新部215とタスクセットデータベース216とフィードバック部217とを備える。
【0021】
動作検出部211は、ユーザ220が手に持つコントローラ234、235の位置をベースステーション231、232を介して取得し、ユーザ220の左右の手の位置の変化によりユーザ220のリハビリテーション動作を検出する。
【0022】
表示制御部212は、検出したリハビリテーション動作に応じて動くアバターオブジェクト241と、リハビリテーション動作の目標を示す目標オブジェクト242と、を仮想空間内に生成する。そして、それらのアバターオブジェクト241および目標オブジェクト242の画像を、動作検出部211が検出したヘッドマウントディスプレイ233の向きおよび位置に応じて、表示画面240に表示させる。アバターオブジェクト241および目標オブジェクト242の画像は、背景画像243に重畳表示される。ここでは、アバターオブジェクト241は、コントローラ234、235と同じ形状をしているがこれに限定されるものではない。アバターオブジェクト241は、コントローラ234、235の動きに合わせて表示画面240中を動く。アバターオブジェクト241に表示されている通り、コントローラ234、235にはボタンが用意されており、各種設定操作など可能に構成されている。
【0023】
表示制御部212は、目標オブジェクト242を表示画面240中に表示する。表示制御部212は、目標オブジェクト242を、表示位置および大きさを徐々に変えつつ、表示画面240中で動かす。例えば、目標オブジェクト242をユーザ220の頭上方向から下方に向けて降下してきているように動かして表示したり、目標オブジェクト242をユーザ220に向かって近づくように動かして表示したりすればよい。なお、ここでは、目標オブジェクト242が動く例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、静止した目標オブジェクト242を表示してもよい。
【0024】
ユーザ220は、コントローラ234、235を動かして、画面中のアバターオブジェクト241を、目標オブジェクト242に近づける。アバターオブジェクト241が目標オブジェクト242にぶつかると、表示制御部212は目標オブジェクト242を消滅させ、フィードバック部217は、目標動作が達成されたとして、メッセージ250を表示する。より評価をシビアにするため、アバターオブジェクト241に含まれるセンサオブジェクト(例えば、アバターオブジェクト241の中心点)と目標オブジェクト242との距離がどこまで縮まったかによってリハビリテーション動作を評価してもよいし、目標動作を単一目標物に固定せずに同時に複数用意してもよいし、例えば手の動かし方や歩行時の下肢の動かし方等、その軌跡を目標動作として設定してもよい。
【0025】
フィードバック部217は、表示制御部212を介して、メッセージ250を、リハビリテーション動作の評価に応じて変化させることが好ましい。例えば、センサオブジェクトが目標オブジェクト242の中心に接触すれば、「あっぱれ」と表示し、センサオブジェクトが目標オブジェクト242の中心の周囲部分のみに接触すれば「おみごと」と表示するなどである。
【0026】
タスクセットデータベース216は、複数のタスクのセットを格納している。タスクとは、ユーザが行なうべき1回のリハビリテーション動作を示す。具体的には、1つのタスクを表わす情報として、どの位置にどのような速度で、どのような大きさの目標オブジェクトを出現させたか、その際、アバターオブジェクトはどのような大きさだったかなどを格納している。
【0027】
具体的には、左右の目標オブジェクト242の大きさ、アバターオブジェクト241(センサオブジェクト)の大きさ、目標オブジェクト242の落下(動作)スピード、目標オブジェクトの位置がタスクの内容となる。さらに詳細に言えば、右と左のそれぞれにおいて、目標オブジェクトの位置を見やすくするための視認用オブジェクトの半径(視認サイズ)、アバターオブジェクト241と反応する目標オブジェクトの半径(評価サイズ)もタスクの内容として設定可能である。つまり、ユーザには半径20cmのボールを見せつつ、そのボールの中央に位置する半径10cmのボールにタッチして初めて「あっぱれ」と評価する。視認サイズが小さければ、ユーザは目標オブジェクトを見つけるのが困難になる。視認サイズを大きくすれば、ユーザは目標オブジェクトを見つけやすくなる。評価サイズを大きくすれば、アバターオブジェクト241のずれの許容量が大きくなり、より位置ずれの許容度が上がる。評価サイズを小さくすれば、アバターオブジェクト241のずれの許容量が小さくなりよりシビアにリハビリテーション動作を評価できる。これらの視認サイズと評価サイズとを一致させることもできる。
【0028】
アバターオブジェクト241のセンササイズ(センサオブジェクトのサイズ)を左右バラバラに設定することもできる。センササイズが大きければ、手の位置が目標オブジェクトから大きくずれていても、タスクを達成したことになるためリハビリテーション動作の難易度は下がる。逆にセンササイズが小さければ、手を目標オブジェクトの中央領域(評価用サイズに依存)に、正確に動かさなければならないため、よりリハビリテーション動作の難易度が上がる。
【0029】
脳梗塞の後遺症による運動障害など、運動能力に左右差がある場合には、アバターオブジェクトのセンササイズを左右で変えることにより、より効果的なリハビリテーションを行なうことができる。
【0030】
タスクセットデータベース216は、上記のような複数のタスクをどのような順番でユーザに提供するかを決めるタスクセットを格納している。例えば、病院毎のテンプレートとしてタスクセットを格納してもよいし、実行したタスクセットの履歴をユーザごとに格納してもよい。リハビリテーション支援装置210は、インターネットを介して他のリハビリテーション支援装置と通信可能に構成されていてもよく、その場合、1つのタスクセットを、同じユーザが複数の場所で実行することもできるし、様々なテンプレートを離れた複数のユーザ同士で共有することもできる。
【0031】
要求部213は、表示制御部212を介し、タスクセットデータベース216から読出したタスクセットに応じて、表示部240に表示された目標オブジェクト242に対し仮想的に触る動作を要求する。ここで、目標オブジェクトは単一目標物に固定せずに同時に複数用意してもよいし、例えば手の動かし方や歩行時の下肢の動かし方等、その軌跡を目標動作として設定してもよい。また、目標オブジェクトは仮想ではなく、実在するものを用意してもよい。
【0032】
フィードバック部217は、目標オブジェクト242に対して仮想的に触れたユーザに対して、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを、目標オブジェクト242に触れたタイミングとほぼ同時に行う。例えば1秒以内であれば効果が高く、ユーザの動作タイミングとフィードバックのタイミングとの間隔が近ければ近いほど(遅延が小さいほど)効果が大きい。
【0033】
ここでは、フィードバック部217は、「あっぱれ!」という画像により、ユーザの視覚を刺激するフィードバックを行ないつつ、同時に、スピーカ236から出力する音声により、ユーザの聴覚を刺激するフィードバックを行なう。
【0034】
さらに、フィードバック部217は、「あっぱれ!」という画像でユーザ220の視覚を刺激するフィードバックと、スピーカ236から出力する音声でユーザ220の聴覚を刺激するフィードバックと、コントローラ234が振動することでユーザ220の触覚を刺激するフィードバックとを同時に出力させてもよい。
【0035】
また、フィードバック部217は、「あっぱれ!」という画像でユーザ220の視覚を刺激するフィードバックと、コントローラ234が振動することでユーザ220の触覚を刺激するフィードバックとの2種類のフィードバックのみを同時に出力させてもよい。
【0036】
あるいは、フィードバック部217は、「あっぱれ!」という音声でユーザ220の聴覚を刺激するフィードバックと、コントローラ234が振動することでユーザ220の触覚を刺激するフィードバックとの2種類のフィードバックのみを同時に出力させてもよい。
【0037】
上記のように、ユーザのリハビリテーション動作とほぼ同時に、5感のうち2つ以上の感覚を刺激するフィードバックを返すことにより、ユーザの運動障害を、革新的に回復させることができる。すなわちそのようなフィードバック方法は、ユーザのボディコントロールを修正するのに非常に効果的であり、従来の例えばセラピストが口頭で行うような目標動作の達成タイミングからディレイの大きいフィードバック、または単一の感覚フィードバックでは、全く達成できなかった顕著な効果を奏することができる。従来のディレイの大きいフィードバックでは、ユーザがリハビリテーション動作の達成感を感じることが難しく、脳内に運動モデルを再構築できなかった。ディレイが小さいほぼリアルタイムのフィードバックを2つ以上の感覚刺激を用いて実現することにより、運動系の障害が劇的に改善する。つまり、既存のやり方では改善できなかったユーザの運動障害を改善させることができる。さらに、入力感覚刺激を3つ以上用いることで、脳内に再構築された運動モデルをより長期間にわたって保持することが可能となる。
【0038】
評価部214は、動作検出部211が検出したリハビリテーション動作と、表示制御部212によって表示された目標オブジェクトが表わす目標位置とを比較して、ユーザ220のリハビリテーション能力を評価する。具体的には、動作検出部211が検出したリハビリテーション動作に対応して移動するアバターオブジェクト241と目標オブジェクト242との3次元仮想空間中の位置を比較することにより評価する。
【0039】
これらが一致すれば、タスクを完全クリアしたものと評価し、ポイントをフル加算する。位置が一致しなくても、所定距離内であれば、タスクを一定クリアしたものと評価し、ポイントを部分加算する。評価部214によるこれらの評価は、フィードバック部217のリアルタイムマルチチャネルフィードバックと連動して行なわれる。したがって、これらのリアルタイムマルチチャネルフィードバックの入力刺激の種類や強度は、目標動作の種類やその達成度に応じて適宜調整されてもかまわない。例えば、視覚刺激の場合は文字や表示物の大きさや色、光度、視覚刺激の刺激時間や複数回一定の間隔で行う等の刺激パターン、左右個別または両目を用いて同時に視覚刺激するかどうかを、目標動作の種類やその達成度に応じて変更してもよい。さらに、聴覚刺激の場合は音の種類や音量、音の伝達手段、聴覚刺激の刺激時間や特定のリズムで刺激する等の刺激パターン、左右個別または両耳から同時に聴覚刺激するかどうかを、目標動作の種類やその達成度に応じて変更してもよい。触覚刺激の場合は振動パターンや振動刺激の持続時間等の触覚刺激のパターンや、振動や痛み、または冷たいや熱いといった温度知覚刺激の強度、あるいは触覚刺激の部位や複数の部位を刺激するかどうかを、目標動作の種類やその達成度に応じて変更してもよい。例えば、一部のみ目標動作を達成できた場合にはより文字を小さく、音を小さく、触覚振動刺激を弱くしてもいいし、どれか一つのみ弱く、または強くすることで達成度をフィードバックする形にしてもよい。刺激の強弱の付け方は、例えば触覚刺激は強くするが聴覚刺激は弱くする等逆のパターンを用いてもよい。また、例えば下肢等歩行動作に関するフィードバックの場合は下肢等特定の部位の振動刺激を強くしてもよい。また、上肢動作に関するフィードバックの場合は視覚刺激を強くしてもよい。さらに、指(趾)の動作のフィードバックの場合は左右の第何指(趾)の動作の達成かに応じて聴覚刺激の音階を調整してもよい。また、体幹の動作に関するフィードバックの場合にはどの方向に姿勢をずらすかによって例えば前方の場合は体幹の腹側に触覚刺激を与える等して刺激部位を変えてもよい。さらには顔面の動作のフィードバックの場合には、例えば口の目標動作を指定して達成できた場合の聴覚刺激は「口」という言葉を用いて行うなど動作を行った器官の名前を用いるようにするなど、目標動作の種類やその達成度に応じてフィードバックの種類や強度をいかように調整してもかまわない。また、例えばある刺激を与える期間が1秒を超えるような場合も、フィードバックの開始が目標動作の達成とほぼ同時(1秒以内など)であればフィードバックを行う上で問題ない。さらに、フィードバック部217は、ユーザ220が、どの身体部位を動かして目標動作を行なったかを判定し、目標動作を行なったユーザ220の身体部位に対して触覚を刺激するフィードバックを行なうことが好ましい。つまり例えば、右足を動かしてリハビリテーション動作を行なった場合には、右足に振動を与えるなどのフィードバックを行なうことが好ましい。
【0040】
表示制御部212は、目標オブジェクト242を、奥行き方向について異なる位置(例えば3段階の位置)に出現させることができる。評価部214は、それぞれ、異なるポイント(遠いオブジェクトには高いポイント、近いオブジェクトには低いポイント)を付与する。
【0041】
更新部215は、積算されたポイントに応じて、目標課題を更新する。例えば、課題達成率(目標達成数/課題数)などを用いて目標課題を更新してもよい。
【0042】
図3は、リハビリテーション支援装置210における処理の流れを示すフローチャートである。
【0043】
ステップS301において、キャリブレーション処理として、リハビリテーション動作の目標をユーザに合わせて初期化する。具体的には、各患者に最初にキャリブレーションとして行動可能範囲の作業を行ってもらい、それを初期値に設定した上で目標をユーザに合わせて初期化する。
【0044】
次に、ステップS303において、タスクを開始する。具体的にはオペレータが、一つ一つのタスクをリアルタイムで指定していく方法のほか、タスクセットデータベースから、テンプレートと呼ばれるタスクセットを読出して、あらかじめ設定された複数のタスクから順番にタスク要求(つまり表示制御部212による目標オブジェクトの表示)を行なってもよい。
【0045】
ステップS305において、指定されたタスクに応じた目標オブジェクトを表示する。
ステップS307において、タスクを達成したか否かを判定し、達成した場合には、ステップS309に進み、ユーザの五感のうち少なくとも2つの感覚を刺激するリアルタイムマルチチャネルフィードバックを行なう。ステップS309では、各目標動作の強度や種類に応じて、あらかじめ設定されたマルチチャネルフィードバックの種類や強度が選択される。
【0046】
さらにステップS311において、全タスクが終了したか判定し、終了でなければ、ステップS303に戻り、次のタスクを開始する。終了であれば、累計ポイントを算出して処理を終了する。
【0047】
<自験例>
小脳失調、脳出血、脳性麻痺、脳梗塞後の麻痺、進行性核上性麻痺等の難病症例からの知見として、これまでのセラピストによるリハビリ(※つまり口頭などによるディレイのあるフィードバックのみの場合)を継続しても回復しないレベルの運動障害が認められるような場合に、単一刺激(視覚のみ、聴覚のみなど)のリアルタイムフィードバックを行うことで、数週間単位で徐々に運動障害が改善する例が散見された。ただし全く改善しない例も多く、改善度も軽微であることが多かった。
【0048】
しかしこういった患者に対して2つの感覚(視覚と聴覚、視覚と触覚、聴覚と触覚)からのリアルタイムマルチチャネルフィードバックを行うことで数分単位で運動モデルの脳内構築が進み、運動障害が劇的に改善することが確認される症例を多く認めた。ただしこの場合も構築された運動モデルの記憶期間が短く、1回の治療介入における機能改善維持期間が長くとも1週間程度である症例が多かった。
【0049】
これに対し、3つの感覚(視覚、聴覚、触覚)からのリアルタイムマルチチャネルフィードバックを行うと、運動モデルの脳内構築が数分単位で達成できることに加えて、1回の治療介入における機能改善維持期間が1週間を超えて維持される症例を多く認めた。2つの感覚器官からのフィードバック時に比べ記憶の定着効率が劇的に改善した。これらの結果は複数の患者に対する治療介入によって経験的に確認された。また、運動モデルの脳内構築に伴い、いわゆるRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼ばれるような運動障害患者にしばしば認められる疼痛(幻肢痛を含む)症状にも改善を認めた。例えば、疼痛スケールであるVisual Analogue Scaleを用いたアンケートでは、このような治療によってVASが5から0へ改善した等の結果が得られた。これらの治療効果は、今までの医学では達成できなかった劇的な効果であると考えられることを複数の医師や理学療法士、作業療法士によって確認した。
【0050】
以上、本実施形態によれば、2つ以上の感覚器官を用いて目標動作の達成とほぼ同時(1秒以内など)に多重のフィードバック(マルチチャネルフィードバック)を行なうことにより、脳内において非常に効率的に運動モデルの再構築を行い、運動障害を効果的に改善することができる。また、このリアルタイムマルチチャネルフィードバックによってユーザの脳内に運動モデルが再構築されると、脳内運動モデルの欠損やギャップによって生じる幻肢痛を含む疼痛症状が改善する。
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0051】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現するリハビリテーション支援プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる。