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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】電源装置およびアブレーションシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023500493
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2021006669
(87)【国際公開番号】W WO2022176202
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】平尾 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮本 久生
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0220999(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0083239(US,A1)
【文献】特表2020-517355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブレーションカテーテルにおける複数の電極を含む3個以上の印加電極に対して、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための電力を供給する電源部と、
前記電力を供給して前記アブレーションを行う際に、前記3個以上の印加電極に対して、複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が互いに同一の期間に印加されるように、前記パルス電圧を制御する制御部と
を備え
前記制御部は、
前記複数種類の正の振幅値を有する前記パルス電圧を利用して、
前記3個以上の印加電極のうちの隣接する印加電極同士における、前記パルス電圧の振幅値差の絶対値が、第1閾値以下となるように制御することにより、
前記隣接する印加電極付近での電界強度が、所定の電界閾値以下となるように制御する
電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記隣接する印加電極同士における、前記パルス電圧の振幅値差の絶対値のうちの最大値が、第2閾値以上となるように制御する
請求項に記載の電源装置。
【請求項3】
前記3個以上の印加電極がいずれも、前記アブレーションカテーテルにおける前記複数の電極としての3個以上の電極によって、構成されている
請求項1または請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記アブレーションカテーテルが、患者体内の患部に対して前記アブレーションを行うことによって、不整脈の治療を行う際に使用されるカテーテルである
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の電源装置。
【請求項5】
複数の電極を有するアブレーションカテーテルと、電源装置とを備え、
前記電源装置は、
前記アブレーションカテーテルにおける前記複数の電極を含む3個以上の印加電極に対して、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための電力を供給する電源部と、
前記電力を供給して前記アブレーションを行う際に、前記3個以上の印加電極に対して、複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が互いに同一の期間に印加されるように、前記パルス電圧を制御する制御部と
を有しており、
前記制御部は、
前記複数種類の正の振幅値を有する前記パルス電圧を利用して、
前記3個以上の印加電極のうちの隣接する印加電極同士における、前記パルス電圧の振幅値差の絶対値が、第1閾値以下となるように制御することにより、
前記隣接する印加電極付近での電界強度が、所定の電界閾値以下となるように制御する
アブレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブレーションを行うためのアブレーションカテーテルと、アブレーションを行うための電力を供給する電源装置とを備えたアブレーションシステム、ならびに、そのようなアブレーションシステムに適用される電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者体内の患部(例えば癌などの腫瘍を有する患部)を治療するための医療機器の1つとして、そのような患部に対してアブレーションを行う、アブレーションシステムが提案されている。このアブレーションシステムは、アブレーションカテーテルとしての電極カテーテルと、アブレーションを行うための電力を供給する電源装置と、を備えている。また、例えば特許文献1には、不可逆電気穿孔法(IRE:Irreversible Electroporation)を用いたアブレーションを行う、アブレーションシステムについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-500170号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、このようなアブレーションシステムでは一般に、アブレーションによる治療の有効性を向上させることが求められている。アブレーションによる治療の有効性を向上させることが可能な、電源装置およびアブレーションシステムを提供することが望ましい。
【0005】
本発明の一実施の形態に係る電源装置は、アブレーションカテーテルにおける複数の電極を含む3個以上の印加電極に対して、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための電力を供給する電源部と、上記電力を供給して上記アブレーションを行う際に、上記3個以上の印加電極に対して、複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が互いに同一の期間に印加されるように、上記パルス電圧を制御する制御部と、を備えたものである。また、上記制御部は、上記複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧を利用して、上記3個以上の印加電極のうちの隣接する印加電極同士におけるパルス電圧の振幅値差の絶対値が、第1閾値以下となるように制御することにより、上記隣接する印加電極付近での電界強度が、所定の電界閾値以下となるように制御する。
【0006】
本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムは、複数の電極を有するアブレーションカテーテルと、上記本発明の一実施の形態に係る電源装置と、を備えたものである。
【0007】
本発明の一実施の形態に係る電源装置およびアブレーションシステムでは、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行う際に、上記3個以上の印加電極に対して、複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が互いに同一の期間に印加されるように、パルス電圧が制御される。ここで、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションでは一般に、非常に高い電圧(パルス電圧)を電極に印加する必要があるが、そのような高電圧に起因した電界集中に伴って、電極の端部から放電が発生し易くなる。このような放電が電極の端部で発生すると、アブレーションによる治療の際に、血栓が発生したり、放電時の衝撃によって、アブレーションカテーテルの留置位置がずれてしまうおそれがある。これに対して、上記した複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が互いに同一の期間に印加されるように制御されることで、高電圧のパルス電圧に起因した電界集中が抑制され易くなり、上記印加電極の端部からの放電が発生しにくくなることから、上記したような血栓の発生や、アブレーションカテーテルの留置位置のずれが、防止され易くなる。また、上記隣接する印加電極付近での電界強度が、所定の電界閾値以下となることから、上記した電界集中が更に抑制され易くなる。したがって、上記した放電が更に発生しにくくなることから、上記したような血栓の発生や、アブレーションカテーテルの留置位置のずれが、更に防止され易くなる。その結果、アブレーションによる治療の有効性が、更に向上することになる。
【0009】
この場合において、上記制御部は、上記隣接する印加電極同士におけるパルス電圧の振幅値差の絶対値のうちの最大値が、第2閾値以上となるように制御してもよい。このようにした場合、そのようなパルス電圧の振幅値差の絶対値が、上記第1閾値以下に制御されつつ、そのような振幅値差の絶対値のうちの最大値が、最小限の値(上記第2位閾値)以上に担保されることから、以下のようになる。すなわち、電界が発生する範囲(アブレーション範囲)を確保しつつ、上記した電界集中が抑制されることになる。その結果、アブレーションによる治療の有効性が、より一層向上する。
【0010】
また、上記3個以上の印加電極がいずれも、上記アブレーションカテーテルにおける上記複数の電極としての3個以上の電極によって、構成されているようにしてもよい。このようにした場合、アブレーションの際の制御対象となるパルス電圧が印加される印加電極が、アブレーションカテーテルの電極(上記3個以上の電極)のみで構成されることから、上記したパルス電圧の制御を、容易に行うことができる。その結果、アブレーションの際の利便性が、向上することになる。ちなみに、上記3個以上の印加電極としては、そのようなアブレーションカテーテルの電極以外では、例えば、上記した対極板などが挙げられる。
【0011】
なお、上記アブレーションカテーテルとしては、例えば、患者体内の患部に対して上記アブレーションを行うことによって、不整脈の治療を行う際に使用されるカテーテルが、挙げられる。また、上記アブレーションの対象が、例えば、患者体内における腫瘍を有する患部であってもよい。
【0012】
本発明の一実施の形態に係る電源装置およびアブレーションシステムによれば、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行う際に、上記3個以上の印加電極に対して、複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が互いに同一の期間に印加されるように、パルス電圧の制御を行うようにしたので、以下のようになる。すなわち、前述したような血栓の発生や、アブレーションカテーテルの留置位置のずれが、防止され易くなる。よって、アブレーションによる治療の有効性を、向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステムの全体構成例を模式的に表すブロック図である。
図2図1に示したアブレーションカテーテルの詳細構成例を表す模式図である。
図3図2に示したカテーテルシャフトの先端付近における変形状態の一例を表す模式図である。
図4図2に示したカテーテルシャフトの先端付近における他の変形状態の一例を表す模式図である。
図5】アブレーションの際の一般的な電圧波形例を表すタイミング図である。
図6】比較例に係るアブレーションの際の電圧波形例等を表す模式図である。
図7】実施例に係るアブレーションの際の電圧波形例等を表す模式図である。
図8図6図7に示した各種パラメータの大小関係の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(アブレーションカテーテルの4個の電極に対する電圧制御を行う例)
2.変形例
【0015】
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係るアブレーションシステム5の全体構成例を、模式的にブロック図で表したものである。このアブレーションシステム5は、例えば図1に示したように、患者9の体内における患部90を治療する際に用いられるシステムであり、そのような患部90に対して所定のアブレーションを行うようになっている。なお、上記した患部90としては、例えば、不整脈等を有する患部や、癌(肝癌,肺癌,乳癌,腎臓癌,甲状腺癌など)等の腫瘍を有する患部などが、挙げられる。
【0016】
ここで、詳細は後述するが、本実施の形態のアブレーションシステム5では、上記した患部90に対するアブレーションとして、不可逆電気穿孔法(IRE)を用いた、非熱性アブレーションを行うようになっている。
【0017】
このようなアブレーションシステム5は、図1に示したように、アブレーションカテーテル1、液体供給装置2および電源装置3を備えている。また、このアブレーションシステム5を用いたアブレーションの際には、例えば図1に示した対極板4も、適宜使用されるようになっている。
【0018】
(A.アブレーションカテーテル1)
アブレーションカテーテル1は、例えば血管を通して患者9の体内に挿入され、患部90をアブレーションすることで、上記した不整脈や腫瘍等の治療を行うための電極カテーテルである。アブレーションカテーテル1はまた、そのようなアブレーションの際に、所定の灌注用の液体L(例えば、生理食塩水等)を先端側から流し出す(噴射させる)、灌注機構を有している。換言すると、アブレーションシステム5は、そのような灌注機構付きのアブレーションシステムとなっている。なお、このようなアブレーションカテーテル1の内部には、後述する液体供給装置2から液体Lが供給され、循環して流れるようになっている(図1参照)。
【0019】
図2は、アブレーションカテーテル1の詳細構成例を、模式的に表したものである。このアブレーションカテーテル1は、カテーテル本体(長尺部分)としてのカテーテルシャフト11(カテーテルチューブ)と、このカテーテルシャフト11の基端側に装着されたハンドル12とを備えている。
【0020】
(カテーテルシャフト11)
カテーテルシャフト11は、可撓性を有する管状構造(中空のチューブ状部材)からなり、自身の軸方向(Z軸方向)に沿って延伸する形状となっている(図2参照)。具体的には、カテーテルシャフト11の軸方向の長さは、ハンドル12の軸方向(Z軸方向)の長さと比べて、数倍~数十倍程度に長くなっている。
【0021】
図2に示したように、カテーテルシャフト11は、比較的可撓性に優れるように構成された、先端部(先端可撓部11A)を有している。また、この先端可撓部11A内には、図1に示したように、後述する所定の先端付近構造6が、設けられている。このカテーテルシャフト11はまた、自身の軸方向(Z軸方向)に沿って延在するように内部に複数のルーメン(内孔,細孔,貫通孔)が形成された、いわゆるマルチルーメン構造を有している。このようなカテーテルシャフト11におけるルーメン内には、各種の細線(後述する導線50や偏向用ワイヤ、変形用ワイヤ60等)がそれぞれ、互いに電気的に絶縁された状態で挿通されるようになっている。また、このカテーテルシャフト11の内部には、そのような各種の細線を挿通させるためのルーメンに加え、前述した灌注用の液体Lを流すためのルーメンが、軸方向に沿って延伸するように形成されている。
【0022】
このようなカテーテルシャフト11の外径は、例えば、0.3~4.0mm程度であり、カテーテルシャフト11の軸方向の長さは、例えば、300~1500mm程度である。また、カテーテルシャフト11の構成材料としては、例えば、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)(登録商標)およびナイロン等の、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0023】
ここで、上記した先端付近構造6は、図2に示したように、カテーテルシャフト11の分岐点(先端付近構造6の基端側に位置)と、カテーテルシャフト11の最先端付近(後述する先端チップ110付近)に位置する合流点と、これらの分岐点と合流点との間を湾曲状にて個別に繋ぐ部分である複数(この例では5個)の分岐構造61a~61eと、を含んでいる。これらの分岐構造61a~61eは、カテーテルシャフト11の軸方向(Z軸方向)と直交する面内(X-Y平面内)において、略等間隔にて互いに離間配置されている。
【0024】
また、図2に示したように、これらの分岐構造61a~61eには、それらの湾曲状の延在方向に沿って、1または複数の電極111(この例では、4個の電極111)がそれぞれ、所定の間隔をおいて離間配置されている。各電極111は、リング状の電極となっている。一方、上記した分岐構造61a~61e同士の合流点(カテーテルシャフト11の最先端付近)には、先端チップ110が配置されている。
【0025】
このような電極111はそれぞれ、前述したように、例えば、電位測定用またはアブレーション用の電極であり、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、SUS、金(Au)、白金(Pt)等の、電気伝導性の良好な金属材料により構成されている。一方、先端チップ110は、例えば各電極111と同様の金属材料により構成されているほか、例えばシリコーンゴム樹脂やポリウレタン等の、樹脂材料により構成されている。なお、前述した不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションの際に好適な、各電極111のパラメータとしては、一例として、以下のようなものが挙げられる。すなわち、各電極111の長さ(カテーテルシャフト11の軸方向に沿った電極長)が、0.3~5.0mm程度であり、カテーテルシャフト11の軸方向に沿って隣接する電極111同士の間隔が、0.3~5.0mm程度であるのが好ましい。
【0026】
このような各電極111には、前述した導線50における先端側が、個別に電気的接続されている。また、各導線50における基端側は、カテーテルシャフト11内からハンドル12内を介して、アブレーションカテーテル1の外部へと接続可能となっている。具体的には、図1に示したように、各導線50の基端側は、ハンドル12におけるZ軸方向に沿った基端部分(コネクタ部分)から、外部へと取り出されるようになっている。
【0027】
なお、上記した分岐構造61a~61eごとに配置された4個の電極111は、本発明における「3個以上の電極」および「3個以上の印加電極」の一具体例に対応している。
【0028】
ここで、このような先端付近構造6の形状は、ハンドル12に対する後述する変形操作(後述する変形操作部123に対する操作)に応じて、変化する(変形する)ように構成されている。具体的には、先端付近構造6が軸方向(Z軸方向)に沿って展開されていない非展開形状(収縮形状:後述する図3参照)と、先端付近構造6をこの非展開形状から軸方向に沿って展開させた展開形状(拡張形状:図2および後述する図4参照)との間で、先端付近構造6の形状が変化するようになっている。詳細は後述するが、このような非展開形状(第1の形状)の一例としては、上記した複数の分岐構造61a~61eにより構成される、「花弁形状」(平坦形状の場合の一例:後述する図3参照)が挙げられる。一方、上記した展開形状(第2の形状)の一例としては、このような花弁形状(各分岐構造61a~61e)が軸方向に沿って展開された形状(いわゆる「バスケット形状」:図2および後述する図4参照)が、挙げられる。
【0029】
ちなみに、上記した「バスケット形状」とは、例えば図2図4に示したように、複数の分岐構造61a~61eにより形成される形状が、バスケットボールの表面上に形成された曲線状の模様に、類似した形状であることを意味している。
【0030】
(ハンドル12)
ハンドル12は、アブレーションカテーテル1の使用時に操作者(医師)が掴む(握る)部分である。このハンドル12は、図2に示したように、カテーテルシャフト11の基端側に装着されたハンドル本体121と、回転操作部122と、変形操作部123とを有している。
【0031】
ハンドル本体121は、操作者が実際に握る部分(把持部)に相当し、その軸方向(Z軸方向)に沿って延びる形状となっている。このハンドル本体121は、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂により構成されている。
【0032】
回転操作部122は、詳細は後述するが、カテーテルシャフト11の先端付近(先端可撓部11A)を双方向に偏向させる(撓ませる)、偏向動作の際に操作される部分である。この回転操作部122は、図示しない一対の偏向用ワイヤとともに、そのような偏向動作の際に用いられるようになっている。具体的には、そのような偏向動作の際に、アブレーションカテーテル1の操作者によって、回転操作部122が操作(回転操作)されるようになっている。このような回転操作部122は、図2に示したように、ロック機構40および回転板41を含んで構成されている。
【0033】
なお、上記した一対の偏向用ワイヤにおける各先端は、カテーテルシャフト11の先端側(例えば、前述した先端チップ110付近)に固定されている。また、これらの一対の偏向用ワイヤにおける各基端側は、カテーテルシャフト11内から、ハンドル12内(ハンドル本体121内)へと、延伸されるようになっている。
【0034】
回転板41は、図2に示したように、ハンドル本体121に対して、その軸方向(Z軸方向)に垂直な回転軸(Y軸方向)を中心として、回転自在に装着された部材である。この回転板41は、上記した回転操作の際に操作者が実際に操作を行う部分に相当し、略円盤状の形状からなる。具体的には、この例では図2中の矢印d1a,d1bで示したように、ハンドル本体121に対して、回転板41をZ-X平面内で双方向に回転させる操作(上記した回転軸を回転中心とした回転操作)が可能となっている。
【0035】
なお、上記したロック機構40は、このような回転板41のZ-Y平面内での回転位置を、固定(ロック)するための機構である。
【0036】
ここで、この回転板41の側面には、図2に示したように、一対の摘み41a,41bが、回転板41と一体的に設けられている。この例では図2に示したように、回転板41の回転軸を中心として、摘み41aと摘み41bとが互いに点対称となる位置に配置されている。これらの摘み41a,41bはそれぞれ、操作者が回転板41を回転操作する際に、例えば片手の指で操作される(押される)部分に相当する。なお、このような回転板41は、例えば、前述したハンドル本体121と同様の材料(合成樹脂等)により構成されている。
【0037】
また、このような回転板41上には、図示しない一対の留め具が設けられている。これらの留め具はそれぞれ、前述した一対の偏向用ワイヤの各基端を、ねじ止め等により個別に固定するための部材(ワイヤ留め具)である。なお、これらの留め具ではそれぞれ、上記した一対の偏向用ワイヤの各基端を固定する際の、各基端付近の引き込み長を、任意に調整することが可能となっている。
【0038】
上記した変形操作部123は、前述した先端付近構造6の形状を、前述した非展開形状(花弁形状)および展開形状(バスケット形状)の間で変化させる変形操作の際に、操作者によって操作が行われる部分である。このような変形操作の際に用いられる変形用ワイヤ60では、その先端側が、先端付近構造6(前述した先端チップ110付近)に、固定されている。一方、この変形用ワイヤ60の基端側は、図2に示したように、ハンドル本体121の基端から取り出されて、変形操作部123に取り付けられている。
【0039】
このような変形操作部123では、具体的には図2中の矢印d3a,d3bに示したように、変形用ワイヤ60の延在方向(Z軸方向)に沿って、操作されるようになっている。これにより、変形用ワイヤ60をハンドル本体121に対して押し込む操作や、変形用ワイヤ60をハンドル本体121から引き出す操作が、それぞれ行われるようになっている。つまり、詳細は後述するが、このような変形操作部123に対する矢印d3a,d3bの方向への操作が、先端付近構造6を変形させるための変形操作に対応している。また、このような変形操作部123の位置(Z軸方向に沿った設定位置)に応じて、上記した変形操作の際の先端付近構造6の形状が、前述した非展開形状(花弁形状)と展開形状(バスケット形状)との間の任意の中間形状に、設定可能となっている。
【0040】
(B.液体供給装置2)
液体供給装置2は、アブレーションカテーテル1に対して前述した灌注用の液体Lを供給する装置であり、図1に示したように、液体供給部21を有している。
【0041】
液体供給部21は、図1に示したように、後述する制御信号CTL2による制御に従って、上記した液体Lをアブレーションカテーテル1に対して随時供給するものである。また、上記した制御信号CTL2による制御に従って、このような液体Lの供給動作が実行されたり、停止されたりするようになっている。なお、このような液体供給部21は、例えば、液体ポンプや樹脂チューブ等を含んで構成されている。
【0042】
(C.電源装置3)
電源装置3は、図1に示したように、アブレーションカテーテル1(前述した電極111)と後述する対極板4との間に、前述した不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための電力Pout(後述するパルス電圧)を供給すると共に、液体供給装置2における液体Lの供給動作を制御する装置である。この電源装置3は、図1に示したように、入力部31、電源部32、制御部33および表示部34を有している。
【0043】
入力部31は、各種の設定値や所定の動作を指示するための指示信号(操作信号Sm)を入力する部分である。このような操作信号Smは、電源装置3の操作者(例えば技師等)による操作に応じて、入力部31から入力されるようになっている。ただし、これらの各種の設定値が、操作者による操作に応じて入力されるのではなく、例えば、製品の出荷時等に予め電源装置3内で設定されているようにしてもよい。また、入力部31により入力された設定値は、後述する制御部33へ供給されるようになっている。なお、このような入力部31は、例えば所定のダイヤルやボタン、タッチパネル等を用いて構成されている。
【0044】
電源部32は、後述する制御信号CTL1に従って、アブレーションカテーテル1(電極111)と後述する対極板4との間に、上記した不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための、電力Poutを供給する部分である。また、詳細は後述するが、このような電力Poutを供給してアブレーションを行う際に、アブレーションカテーテル1の各電極111に対して、高電圧のパルス電圧(電圧Vout)が印加されるようになっている。なお、このような電源部32は、所定の電源回路(例えばスイッチングレギュレータ等)を用いて構成されている。
【0045】
制御部33は、電源装置3全体を制御すると共に所定の演算処理を行う部分であり、例えばマイクロコンピュータ等を用いて構成されている。具体的には、制御部33は、まず、制御信号CTL1を用いて、電源部32における電力Poutの供給動作を制御する機能(電力供給制御機能)を有している。このような電力Poutの供給動作の際に、制御部33はまた、上記したパルス電圧(電圧Vout)を制御するようになっている。また、制御部33は、制御信号CTL2を用いて、液体供給装置2(液体供給部21)における液体Lの供給動作を制御する機能(液体供給制御機能)を有している。
【0046】
このような制御部33にはまた、アブレーションカテーテル1(各電極111に対応して配置された熱電対等の温度センサ)において測定された温度情報Itが、随時供給されるようになっている(図1参照)。また、この制御部33には、アブレーションカテーテル1の電極111と後述する対極板4との間におけるインピーダンスZについての測定値が、電源部32から随時供給されるようになっている(図1参照)。
【0047】
なお、上記した電力Poutの供給動作の際の、制御部33におけるパルス電圧の制御動作の詳細については、後述する(図7図8)。
【0048】
表示部34は、各種の情報を表示して外部へと出力する部分(モニター)である。表示対象の情報としては、例えば、入力部31から入力される各種の設定値や、制御部33から供給される各種パラメータ、アブレーションカテーテル1から供給される温度情報Itなどが挙げられる。ただし、表示対象の情報としてはこれらの情報には限られず、他の情報を代わりに、あるいは他の情報を加えて表示するようにしてもよい。このような表示部34は、各種の方式によるディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなど)を用いて構成されている。
【0049】
(D.対極板4)
対極板4は、例えば図1に示したように、アブレーションの際に患者9の体表に装着された状態で用いられるものである。具体的には、前述した不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションの際に、アブレーションカテーテル1(電極111)とこの対極板4との間に、電力Poutが供給される)ようになっている。また、このようなアブレーションの際に、上記したインピーダンスZが随時測定され、測定されたインピーダンスZが、電源装置3内において、電源部32から制御部33へと供給されるようになっている(図1参照)。
【0050】
[動作および作用・効果]
(A.基本動作)
このアブレーションシステム5では、例えば前述したように、不整脈を有する患部90や、癌等の腫瘍を有する患部90を治療する際に、そのような患部90に対して、前述した不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションが行われる(図1参照)。このようなアブレーションでは、まず、例えば図1中の矢印P1で示したように、アブレーションカテーテル1におけるカテーテルシャフト11が、例えば血管を通して患者9の体内に挿入される。そして、このアブレーションカテーテル1における先端付近(先端付近構造6内)の電極111と対極板4との間に、電源装置3(電源部32)から電力Pout(電圧Vout)供給されることで、患部90に対してアブレーションが行われる。
【0051】
また、本実施の形態では、そのようなアブレーションの際に、アブレーションカテーテル1に対して、前述した灌注用の液体Lが供給される。具体的には、例えば図2に示したように、ハンドル本体121の基端側(液体流入口)から、このハンドル本体121内に対して、液体Lが供給される。また、電源装置3(制御部33)は、前述した制御信号CTL2を用いて、そのような液体供給装置2における液体Lの供給動作を制御する。そして、例えば図2に示したように、このアブレーションカテーテル1の先端付近(先端付近構造6における前述した分岐点付近)から外部に対して、この液体Lが流し出る(噴射される)。このような液体Lが噴射されることで、アブレーションの際の血液滞留が改善されることから、処置部分に血栓がこびりついたりすることが、回避されることになる。
【0052】
(A-1.回転操作による先端可撓部11Aの偏向動作)
ここで、アブレーションカテーテル1では、操作者による回転板41の回転操作に応じて、カテーテルシャフト11における先端付近(先端可撓部11A)の形状が、双方向に変化する。つまり、前述したような患部90に対するアブレーションの際に、このような回転操作に応じて、先端可撓部11Aを双方向に偏向させる動作(前述した双方向の偏向動作)が、行われる。
【0053】
具体的には、例えば、操作者がハンドル12(ハンドル本体121)を片手で掴み、その片手の指で摘み41aを操作することによって、回転板41を図2中の矢印d1a方向(右回り)に回転させた場合、以下のようになる。すなわち、カテーテルシャフト11内で、前述した一対の偏向用ワイヤのうちの一方の偏向用ワイヤが、基端側へ引っ張られる。すると、このカテーテルシャフト11の先端可撓部11Aが、図2中の矢印d2aで示した方向に沿って湾曲する(撓む)。
【0054】
また、例えば、操作者が摘み41bを操作することによって、回転板41を図2中の矢印d1b方向(左回り)に回転させた場合、以下のようになる。すなわち、カテーテルシャフト11内で、一対の偏向用ワイヤのうちの他方の偏向用ワイヤが、基端側へ引っ張られる。すると、このカテーテルシャフト11の先端可撓部11Aが、図2中の矢印d2bで示した方向に沿って湾曲する。
【0055】
このように、操作者が回転板41を回転操作することで、カテーテルシャフト11における双方向の(首振り)偏向動作を行うことができる。なお、ハンドル本体121を軸回りに(X-Y平面内で)回転させることで、例えば、カテーテルシャフト11が患者の体内に挿入された状態のまま、カテーテルシャフト11の先端可撓部11Aの湾曲方向(偏向方向)の向きを、自由に設定することができる。このようにしてアブレーションカテーテル1では、先端可撓部11Aを双方向に偏向させるための偏向機構が設けられているため、カテーテルシャフト11をその先端付近(先端可撓部11A)の形状を変化させながら、患者9の体内に挿入することができる。
【0056】
(A-2.変形操作による先端付近構造6の変形動作)
続いて、図2に加えて図3図4を参照して、前述した変形操作部123に対する変形操作による、カテーテルシャフト11における先端付近構造6の変形動作について説明する。
【0057】
図3図3(A),図3(B))は、カテーテルシャフト11の先端付近(先端付近構造6)における変形状態(前述した非展開形状の一例としての、前述した花弁形状の状態)の一例を、模式的に表したものである。また、図4図4(A),図4(B))は、カテーテルシャフト11の先端付近(先端付近構造6)における他の変形状態(前述した展開形状の一例としての、前述したバスケット形状の状態)の一例を、模式的に表したものである。なお、図4に示した展開形状(バスケット形状)は、あくまでも一例であり、例えば、図4に示した形状から多少萎んだ(歪んだ)形状等であってもよい。
【0058】
まず、例えば図2中の矢印d3aで示したように、操作者による変形操作部123に対する変形操作により、変形用ワイヤ60をハンドル本体121から引き出す操作が行われると、以下のようになる。すなわち、前述したように、変形用ワイヤ60の基端側が変形操作部123に取り付けられていることから、この場合には、例えば図3(A),図3(B)中の矢印d4aで示したように、上記した引き出す操作に伴って、変形用ワイヤ60が基端側へと引っ張られる。すると、前述したように、この変形用ワイヤ60先端側は、先端付近構造6(先端チップ110付近)に固定されていることから、例えば図3(A),図3(B)に示したように、先端チップ110が基端側へと引っ張られることで、各分岐構造61a~61eが、基端側へと収縮した形状となる。つまり、先端付近構造6が、前述した非展開形状(この例では、X-Y平面内で略平坦化した形状)となる。具体的には、この例では図3(A)に示したように、先端付近構造6の形状が、各分岐構造61a~61eにより構成される、前述した花弁形状となる。
【0059】
一方、例えば図2中の矢印d3bで示したように、操作者による変形操作部123に対する変形操作により、変形用ワイヤ60をハンドル本体121に対して押し込む操作が行われると、以下のようになる。すなわち、この場合には、例えば図4(A),図4(B)中の矢印d4bで示したように、上記した押し込む操作に伴って、変形用ワイヤ60が先端側へと押し出される。すると、例えば図4(A),図4(B)に示したように、先端チップ110が先端側へと押し出されることで、各分岐構造61a~61eが、先端側へと展開された形状となる。つまり、先端付近構造6が、前述した展開形状(Z軸方向に沿って先端側へと展開された形状)となる。具体的には、この例では図4(A)に示したように、先端付近構造6の形状が、各分岐構造61a~61eにより構成される、前述したバスケット形状となる。
【0060】
このようにして、変形操作部123に対する変形操作に応じて、先端付近構造6の変形動作がなされることになる。
【0061】
(B.不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションについて)
ここで、前述した不可逆電気穿孔法(IRE)を用いたアブレーションの詳細について、説明する。
【0062】
まず、この不可逆電気穿孔法は、前述したように非熱性のアブレーション手法であり、周囲の血管や神経への損傷を抑えることができることから、注目されている。具体的には、従来の一般的なアブレーション手法である、RFA(Radiofrequency Ablation:高周波アブレーション)や、クライオ(冷凍)アブレーション等では、熱エネルギーを利用したアブレーションであるため、横隔神経麻痺や食道瘻などの合併症を引き起こすおそれがある。これに対して、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションでは、PFA(Pulsed electric Field Ablation:パルス電界アブレーション)となり、非熱エネルギーを利用したアブレーションとなることから、これらの合併症を引き起こすおそれが無い。
【0063】
詳細には、このような不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションの際には、一般に、心筋(電界強度の閾値:400[V/cm]程度)が最初に、アブレーションの影響を受ける。ただし、このアブレーションの際の電界強度は一般に、食道(電界強度の閾値:1750[V/cm]程度)や、横隔膜神経(電界強度の閾値:3800[V/cm]程度)への影響が生じない程度の値(例えば、1000~1500[V/cm]程度)に設定される。このため、上記したように、横隔神経麻痺や食道瘻などの合併症が生じないことになる。
【0064】
図5は、アブレーションの際の一般的な電圧波形例を、タイミング図で表したものである。具体的には、図5(A)は、上記したRFAの際にアブレーションカテーテルの電極に印加される、一般的な電圧Voutの波形例を、図5(B)は、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーション(上記したPFA)の際にアブレーションカテーテルの電極に印加される、一般的な電圧Voutの波形例を、それぞれ示している。なお、これらの図5(A),図5(B)において、横軸は時間tを示しており、縦軸は電圧(図中に示した基準電位からの電位差)を示している。
【0065】
まず、図5(A)に示したRFAの例では、電圧Voutが、高周波(周波数=500[kHz],周期ΔT=2[μs]程度)の電圧となっており、電圧Voutの振幅値Amが、70V程度となる。ちなみに、このRFAの際に供給される電力は、例えば、25[W]程度である。また、このRFAの場合、例えば図5(A)に示したような、高周波からなる連続波が、長時間(例えば、30~60[s]程度の数十秒オーダー)継続されることから、このRFAは、熱性のアブレーション手法となっている。
【0066】
一方、図5(B)に示したPFAの例では、電圧Voutが、高電圧(振幅値Am=1500[V]程度)かつ短時間(パルス幅Δtp=100[μs]程度)のパルス電圧となっている。つまり、このPFAの場合、このような短時間(上記したような、μsオーダー)のパルス波形となることから、このPFAは上記したRFAとは異なり、非熱性のアブレーション手法となっている。また、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションでは、このような高電圧かつ短時間のパルス電圧を電極に印加することで、エレクトロポレーション(Electroporation)を発生させるようになっている。具体的には、このようなパルス電圧によって、アブレーション対象の細胞においてナノスケールの穴をあけることで、穴があいた細胞においてアポトーシス(細胞自殺)が誘導され、これにより細胞を死滅させるようになっている。
【0067】
(C.パルス電圧の制御動作)
続いて、図6図8を参照して、上記した不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションの際の、制御部33における電圧Vout(上記したパルス電圧)の制御動作について、比較例と比較しつつ詳細に説明する。
【0068】
図6は、比較例に係るアブレーションの際の電圧波形例等を、模式的に表したものであり、図7は、本実施の形態の実施例に係るアブレーションの際の電圧波形例等を、模式的に表したものである。また、図8は、図6図7に示した各種パラメータ(後述する振幅値差ΔVおよび閾値ΔVth1,ΔVth2)の大小関係の一例を、表したものである。
【0069】
具体的には、図6(E),図7(E)では、前述した分岐構造61a~61eごとに配置された4個の電極111(印加電極:便宜上、電極111a~111dと称する)付近において、電圧Vout(パルス電圧)の印加に伴って生じる電界の各等電位面Seの例を、模式的に示している。また、図6(A)~図6(D)および図7(A)~図7(D)では、これらの電極111a~111dに対して個別に印加される各電圧Vout(パルス電圧VoutA~VoutD)のタイミング波形例を、模式的に示している。なお、これらの図6(A)~図6(D)および図7(A)~(D)に示した各パルス電圧VoutA~VoutDでは、互いに同位相のパルス電圧(パルス幅Δtp1,Δtp2,Δtp3を参照)となっている。また、これらの図6(A)~図6(D)および図7(A)~(D)ではそれぞれ、横軸は時間tを示しており、縦軸は電圧(前述した基準電位からの電位差)を示している。
【0070】
(C-1.比較例)
まず、図6に示した比較例では、パルス幅Δtp1,Δtp3の期間において、パルス電圧VoutA,VoutBのグループがそれぞれ、振幅値Am101=1250[V]となると共に、パルス電圧VoutC,VoutDのグループがそれぞれ、0[V]となっている。一方、パルス幅Δtp2の期間では、逆に、パルス電圧VoutA,VoutBのグループがそれぞれ、0[V]となると共に、パルス電圧VoutC,VoutDのグループがそれぞれ、振幅値Am101=1250[V]となっている。つまり、この比較例では、1種類の正(>0)の振幅値Am101(=1250[V])を有するパルス電圧VoutA~VoutDがそれぞれ、4個の印加電極(電極111a~111d)に対して個別に印加されている。
【0071】
このようにして、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションでは、前述したように、非常に高い電圧(図6に示した比較例では、振幅値Am101=1250[V])が、各電極111(電極111a~111d)に対して印加される。ところが、そのような高電圧に起因した電界集中に伴って、電極111の端部から放電が発生し易くなるケースがある。
【0072】
具体的には、図6に示した比較例では、4個の電極111a~111dのうち、隣接する電極111b,111c同士における、パルス電圧VoutB,VoutCの振幅値差ΔVの絶対値:振幅値差ΔV(BC)=Am101)が、非常に大きくなる。詳細には図6中に示したように、この振幅値差ΔV(BC)=Am101が、所定の閾値ΔVth1よりも大きくなる(ΔV(BC)>ΔVth1)。すると、図6中の符号Peで示したように、そのような非常に大きな振幅値差ΔVに起因した電界集中(所定の電界閾値Ethよりも大きな電界強度Eとなる領域)が、これらの電極111b,111c同士の内側の端部にて生じ、放電が発生するケースがあり得る。
【0073】
そして、このような放電が電極111の端部で発生すると、アブレーションによる治療の際に、血栓が発生したり、放電時の衝撃によって、アブレーションカテーテル1の留置位置(患者9の体内での留置位置)がずれてしまうおそれがある。その結果、この比較例のアブレーションでは、アブレーションによる治療の有効性が、低下してしまうことになる。
【0074】
(C-2.本実施の形態の実施例)
これに対して、図7に示した本実施の形態の実施例では、パルス幅Δtp1,Δtp3の期間では、パルス電圧VoutAの振幅値Am1=1500[V]、パルス電圧VoutBの振幅値Am2=1250[V]、パルス電圧VoutCの振幅値Am3=250[V]、パルス電圧VoutD=0[V]となっている。一方、パルス幅Δtp2の期間では、逆に、パルス電圧VoutA=0[V]、パルス電圧VoutBの振幅値Am3=250[V]、パルス電圧VoutCの振幅値Am2=1250[V]、パルス電圧VoutDの振幅値Am1=1500[V]となっている。つまり、この実施例では、上記比較例とは異なり、複数種類の正の振幅値(この例では、3種類の正の振幅値Am1,Am2,Am3)を有するパルス電圧VoutA~VoutDがそれぞれ、4個の印加電極(電極111a~111d)に対して個別に印加されている。
【0075】
この際に本実施の形態では、制御部33は、これら複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧を利用して、以下のような制御を行う。すなわち、制御部33は、4個の電極111a~111dのうちの隣接する電極111同士におけるパルス電圧の振幅値差ΔVの絶対値が、前述した閾値ΔVth1以下となるように制御することにより、これら隣接する電極111付近での電界強度Eが、前述した電界閾値Eth以下となるように制御する。
【0076】
具体的には、図7に示した実施例では、上記比較例とは異なり、隣接する電極111b,111c同士における、パルス電圧VoutB,VoutCの振幅値差ΔVの絶対値:振幅値差ΔV(BC)=|Am2-Am3|(=1000[V])が、閾値ΔVth1以下となる(ΔV(BC)≦ΔVth1)ように制御される。なお、この実施例では、隣接する電極111a,111b同士でのパルス電圧VoutA,VoutBの振幅値差ΔVの絶対値(=250[V])、および、隣接する電極111c,111d同士でのパルス電圧VoutC,VoutDの振幅値差ΔVの絶対値(=250[V])についてもそれぞれ、閾値ΔVth1以下となるように制御されている。
【0077】
このようなパルス電圧VoutA~VoutDの制御により、詳細は後述するが、本実施の形態の実施例では、前述した高電圧のパルス電圧に起因した電界集中が、上記比較例と比べて抑制され易くなる。具体的には、図7中に示したように、例えば、隣接する電極111b,111c付近の端部での電界強度Eが、上記比較例とは異なり、電界閾値Eth以下となっている(E≦Eth)。
【0078】
また、例えば図8に示したように、上記した振幅値差ΔVの絶対値の範囲が、以下のように設定されてもよい。すなわち、まず、上記したように、振幅値差ΔVの絶対値が、閾値ΔVth1以下の範囲(図8中に示した範囲R1:ΔV≦ΔVth1)に設定されてもよい。また、制御部33は、そのような隣接する電極111同士におけるパルス電圧の振幅値差ΔVの絶対値のうち、最大値については、閾値ΔVth2以上となるように制御してもよい(図8中に示した範囲R2参照)。なお、この図8中に示した範囲R2については、便宜上、(ΔVth2≦ΔV≦ΔVth1)として示しているが、閾値ΔVth2以上とする制御対象は、振幅値差ΔVの絶対値自体とするよりも、上記したように、振幅値差ΔVの絶対値のうちの最大値とするのが好ましい。
【0079】
なお、このような閾値ΔVth1,ΔVth2はそれぞれ、本発明における「第1閾値」および「第2閾値」の一具体例に対応している。また、閾値ΔVth1の具体例としては、ΔVth1=1100~1500[V]程度が挙げられ、好ましくは、ΔVth1=1300[V]程度が挙げられる。また、閾値ΔVth2の具体例としては、ΔVth2=500~900[V]程度が挙げられ、好ましくは、ΔVth2=700[V]程度が挙げられる。
【0080】
(D.作用・効果)
このようにして、本実施の形態のアブレーションシステム5では、例えば、以下のような作用および効果が得られる。
【0081】
まず、本実施の形態では、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行う際に、上記した3個以上の印加電極(電極111)に対して、複数種類の正の振幅値(例えば3種類の正の振幅値Am1~Am3)を有するパルス電圧(例えば、パルス電圧VoutA~VoutD)が印加されるように、電圧Vout(パルス電圧)が制御される。このような複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が印加されるように制御されることで、前述したように、高電圧のパルス電圧に起因した電界集中が抑制され易くなり、印加電極の端部からの放電が発生しにくくなる。その結果、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションの際に、前述したような血栓の発生や、アブレーションカテーテル1の留置位置のずれが、防止され易くなる。よって、本実施の形態では、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションによる治療の有効性を、向上させることが可能となる。
【0082】
また、本実施の形態では、上記した複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧を利用して、前述した隣接する印加電極同士におけるパルス電圧の振幅値差ΔVの絶対値が、閾値ΔVth1以下となるように制御されることで、そのような隣接する印加電極付近での電界強度Eが、所定の電界閾値Eth以下となるように制御される。このようにして、隣接する印加電極付近での電界強度Eが、所定の電界閾値以下となることから、上記した電界集中が、更に抑制され易くなる。したがって、上記した放電が更に発生しにくくなることから、上記したような血栓の発生や、アブレーションカテーテル1の留置位置のずれが、更に防止され易くなる。その結果、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションによる治療の有効性を、更に向上させることが可能となる。
【0083】
更に、本実施の形態では、上記したパルス電圧の振幅値差ΔVの絶対値のうちの最大値が、閾値ΔVth2以上となるように制御した場合には、以下のようになる。すなわち、そのようなパルス電圧の振幅値差ΔVの絶対値が、閾値ΔVth1以下に制御されつつ、そのような振幅値差ΔVの絶対値のうちの最大値が、最小限の値(閾値ΔVth2)以上に担保されることから、前述したように、電界が発生する範囲(アブレーション範囲)を確保しつつ、上記した電界集中が抑制されることになる。その結果、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションによる治療の有効性を、より一層向上させることが可能となる。
【0084】
加えて、本実施の形態では、上記した3個以上の印加電極がいずれも、アブレーションカテーテル1の電極111(3個以上の電極111)によって、構成されているようにしたので、以下のようになる。すなわち、アブレーションの際の制御対象となるパルス電圧が印加される印加電極が、アブレーションカテーテル1の電極111のみで構成されることから、そのようなパルス電圧の制御を、容易に行うことができる。その結果、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションの際の利便性を、向上させることが可能となる。
【0085】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0086】
例えば、上記実施の形態において説明した各部材の材料等は限定されるものではなく、他の材料としてもよい。また、上記実施の形態では、アブレーションカテーテル1の構成を具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。具体的には、例えばカテーテルシャフト11の内部に、首振り部材として、撓み方向に変形可能な板バネが設けられているようにしてもよい。
【0087】
また、上記実施の形態では、ハンドル12(ハンドル本体121および回転操作部122)の構成についても具体的に挙げて説明したが、必ずしも全ての部材を備える必要はなく、また、他の部材を更に備えていてもよい。具体的には、例えば、前述した変形操作部123の構成については、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の構成であってもよい。
【0088】
更に、カテーテルシャフト11における先端付近の形状の態様は、上記実施の形態で説明したものには限られない。具体的には、上記実施の形態では、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が回転板41の操作に応じて両方向に変化するタイプ(バイディレクションタイプ)のアブレーションカテーテルを例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、例えば、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が、回転板41の操作に応じて片方向に変化するタイプ(シングルディレクションタイプ)のアブレーションカテーテルであってもよい。この場合、前述した操作用ワイヤを、1本(1つ)だけ設けることとなる。また、カテーテルシャフト11における先端付近の形状が、固定となっているタイプのアブレーションカテーテルであってもよい。この場合には、前述した操作用ワイヤや回転板41等が、不要となる。
【0089】
また、カテーテルシャフト11の先端付近(先端付近構造6内)における、各電極111の配置や形状、個数(1または複数個)等は、上記実施の形態で挙げたものには限られない。更に、この先端付近構造6の形状についても、上記実施の形態で説明した形状(前述した平坦形状(花弁形状)や、前述した非平坦形状(バスケット形状)など)には限られず、他の形状であってもよい。加えて、この先端付近構造6自体の構成(前述した分岐点や合流点、複数の分岐構造における、配置や形状、個数等)についても、上記実施の形態で説明した構成には限られず、他の構成であってもよい。
【0090】
加えて、上記実施の形態で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0091】
また、上記実施の形態では、液体供給装置2および電源装置3のブロック構成を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態で説明した各ブロックを必ずしも全て備える必要はなく、また、他のブロックを更に備えていてもよい。更に、アブレーションシステム5全体としても、上記実施の形態で説明した各装置に加えて、他の装置を更に備えていてもよい。
【0092】
更に、上記実施の形態では、電力供給制御機能および液体供給制御機能を含む制御部33における制御動作(前述したパルス電圧の制御等を用いたアブレーションの処理動作)について、具体的に説明した。しかしながら、これらの電力供給制御機能および液体供給制御機能等における制御手法(パルス電圧の制御等を用いたアブレーションの手法)については、上記実施の形態で挙げた手法には限られない。具体的には、上記実施の形態では、複数種類の正の振幅値を有するパルス電圧が印加されるように、パルス電圧を制御する手法について、具体的に説明したが、上記実施の形態で説明した手法には限られず、他の手法を用いてパルス電圧を制御するようにしてもよい。また、実施の形態で説明したように、パルス電圧の振幅値差ΔVの絶対値が、閾値ΔVth1以下となるように制御したり、そのような振幅値差ΔVの絶対値のうちの最大値が、閾値ΔVth2以上となるように制御するのではなく、他の制御手法を用いて制御するようにしてもよい。
【0093】
加えて、上記実施の形態では、パルス電圧が印加される3個以上の印加電極が、いずれも、アブレーションカテーテル1の電極111によって構成されている場合について説明したが、この場合の例には限られない。すなわち、例えば、そのようなアブレーションカテーテルの電極111とともに、他の電極(例えば、前述した対極板4など)を含めて、パルス電圧が印加される3個以上の印加電極を構成するようにしてもよい。また、上記実施の形態等では、アブレーションカテーテル1における複数の電極111と対極板4との間にそれぞれ、不可逆電気穿孔法を用いたアブレーションを行うための電力Poutが供給される場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、複数の電極111に対してそのような電力Poutを供給する手法としては、例えば、対極板4を用いずに、複数の電極111同士の間にそれぞれ、そのような電力Poutを供給する手法であってもよい。
【0094】
また、上記実施の形態で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0095】
更に、上記実施の形態では、灌注用の液体Lを外部に噴射する(灌注機構を有する)アブレーションカテーテル1を例に挙げて説明したが、この例には限られず、例えば、そのような灌注機構を有しないアブレーションカテーテルにおいて、本発明を適用するようにしてもよい。
【0096】
また、上記実施の形態では、アブレーションの対象が、患者9の体内における不整脈を有する患部90や、腫瘍を有する患部90である場合を、例に挙げて説明したが、これらの例には限られない。すなわち、アブレーションの対象が、患者9の体内の他の部位(臓器や体組織など)である場合についても、本発明のアブレーションシステムを適用することが可能である。
【0097】
更に、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8