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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】窒化ガリウム膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/203 20060101AFI20241129BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20241129BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241129BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01L21/203 S
H01L21/205
C23C14/06 A
C23C14/34 S
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023500606
(86)(22)【出願日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2022000256
(87)【国際公開番号】W WO2022176422
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2021025261
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅延
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/075599(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/167715(WO,A1)
【文献】特開2013-125851(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009577(WO,A1)
【文献】特開2016-204748(JP,A)
【文献】特開2019-192697(JP,A)
【文献】特開2008-270749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/203
H01L 21/205
C23C 14/06
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内の窒素およびガリウムを含むターゲットに対向するように基板を配置し、
前記真空チャンバ内にスパッタリングガスを供給し、
前記真空チャンバ内に窒素ラジカルを供給し、
前記ターゲットに電圧を印加することによって前記スパッタリングガスのプラズマを生成し、
前記スパッタリングガスのイオンを前記ターゲットに衝突させてガリウムイオンを生成し、
前記ターゲットへの前記電圧の印加を停止し、前記真空チャンバ内の電子と前記窒素ラジカルとが反応した窒素陰イオンと、前記ガリウムイオンと、が反応した窒化ガリウムを前記基板上に堆積させる、ことを含み、
前記ターゲットへの前記電圧が停止しているとき、前記窒素ラジカルの供給が停止される、窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項2】
真空チャンバ内の窒素およびガリウムを含むターゲットに対向するように基板を配置し、
前記真空チャンバ内にスパッタリングガスを供給し、
前記真空チャンバ内に窒素ラジカルを供給し、
前記ターゲットに電圧を印加することによって前記スパッタリングガスのプラズマを生成し、
前記スパッタリングガスのイオンを前記ターゲットに衝突させてガリウムイオンを生成し、
前記ターゲットへの前記電圧の印加を停止し、前記真空チャンバ内の準安定状態のスパッタリングガスを利用して窒素原子を生成し、前記真空チャンバ内の電子と前記窒素原子とが反応した窒素陰イオンと、前記ガリウムイオンと、が反応した窒化ガリウムを前記基板上に堆積させる、ことを含み、
前記ターゲットへの前記電圧が停止しているとき、前記窒素ラジカルの供給が停止される、窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項3】
前記電圧の印加の停止時間は、2(μsec)以上10(msec)以下である、請求項1または請求項2に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項4】
前記ターゲットへの前記電圧の印加は、所定の周波数を有するパルス状である、請求項3に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項5】
前記所定の周波数は、90(Hz)以上400(kHz)以下である、請求項4に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項6】
前記ターゲットは、前記窒素に対する前記ガリウムが0.7以上2以下の組成比を有する窒化ガリウムである、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項7】
前記ターゲットは、前記窒素よりも前記ガリウムが多い組成の窒化ガリウムである、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項8】
前記スパッタリングガスは、アルゴンまたはクリプトンである、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項9】
前記基板は、石英基板である、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項10】
前記基板は、ガラス基板である、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項11】
前記基板には、窒化アルミニウム膜が設けられている、請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記基板を加熱する、請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【請求項13】
前記基板は、400℃以上600℃以下で加熱される、請求項12に記載の窒化ガリウム膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、窒化ガリウム膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の中小型表示装置においては、液晶やOLED(Organic Light Emitting Diode)を用いた表示装置が既に製品化されている。なかでも、自発光型素子であるOLEDを用いたOLED表示装置は、液晶表示装置と比べて、高コントラストでバックライトが不要という利点を有する。しかしながら、OLEDは有機化合物で構成されるため、有機化合物の劣化によってOLED表示装置の高信頼性を確保することが難しい。
【0003】
近年、次世代表示装置として、回路基板の画素内に微小なLEDチップを実装した、いわゆるマイクロLED表示装置またはミニLED表示装置の開発が進められている。LEDは、OLEDと同様の自発光型素子であるが、OLEDと異なり、ガリウム(Ga)またはインジウム(In)などを含む安定した無機化合物で構成されるため、OLED表示装置と比較すると、マイクロLED表示装置は高信頼性を確保しやすい。さらに、LEDチップは、発光効率が高く、高輝度を実現することができる。したがって、マイクロLED表示装置またはミニLED表示装置は、高信頼性、高輝度、および高コントラストの次世代表示装置として期待されている。
【0004】
ところで、マイクロLEDなどで用いられる窒化ガリウム膜は、一般的には、サファイア基板上に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)またはHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)を用いて800℃~1000℃という高温で成膜されている。しかしながら、近年、比較的低温で成膜することができるスパッタリングによる窒化ガリウム膜の成膜が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-164927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化ガリウム膜の成膜が低温で行うことができれば、ガラス基板上に直接マイクロLEDを形成することも可能である。しかしながら、スパッタリングによる窒化ガリウム膜は、十分な品質のものが得られていなかった。
【0007】
本発明の一実施形態は、上記問題に鑑み、低温で成膜することができ、高品質な窒化ガリウム膜の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法は、真空チャンバ内の窒素およびガリウムを含むターゲットに対向するように基板を配置し、真空チャンバ内にスパッタリングガスを供給し、真空チャンバ内に窒素ラジカルを供給し、ターゲットに電圧を印加することによってスパッタリングガスのプラズマを生成し、スパッタリングガスのイオンをターゲットに衝突させてガリウムイオンを生成し、ターゲットへの電圧の印加を停止し、真空チャンバ内の電子と窒素ラジカルとが反応した窒素陰イオンと、ガリウムイオンと、が反応した窒化ガリウムを前記基板上に堆積させる。
【0009】
真空チャンバ内の窒素およびガリウムを含むターゲットに対向するように基板を配置し、真空チャンバ内にスパッタリングガスを供給し、真空チャンバ内に窒素ラジカルを供給し、ターゲットに電圧を印加することによってスパッタリングガスのプラズマを生成し、スパッタリングガスのイオンをターゲットに衝突させてガリウムイオンを生成し、ターゲットへの電圧の印加を停止し、真空チャンバ内の準安定状態のスパッタリングガスを利用して窒素原子を生成し、真空チャンバ内の電子と窒素原子とが反応した窒素陰イオンと、ガリウムイオンと、が反応した窒化ガリウムを基板上に堆積させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法に用いる成膜装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法を示すフローチャート図である。
図3】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法において、スパッタリング電源および窒素ラジカル供給源のオンまたはオフのタイミングを示すシーケンス図である。
図4】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法において、スパッタリング電源および窒素ラジカル供給源のオンまたはオフのタイミングを示すシーケンス図である。
図5】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法を示すフローチャート図である。
図6】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法において、スパッタリング電源および窒素ラジカル供給源のオンまたはオフのタイミングを示すシーケンス図である。
図7】本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法において、スパッタリング電源および窒素ラジカル供給源のオンまたはオフのタイミングを示すシーケンス図である。
図8】本発明の一実施形態に係る発光素子の構成を示す模式図である。
図9】本発明の一実施形態に係る半導体素子の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施形態はあくまで一例にすぎず、当業者が、発明の主旨を保ちつつ適宜変更することによって容易に想到し得るものについても、当然に本発明の範囲に含まれる。また、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、または形状などが模式的に表される場合がある。しかし、図示された形状などはあくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0012】
本明細書において「αはA、BまたはCを含む」、「αはA、BおよびCのいずれかを含む」、「αはA、BおよびCからなる群から選択される一つを含む」、といった表現は、特に明示が無い限り、αがA~Cの複数の組み合わせを含む場合を排除しない。さらに、これらの表現は、αが他の要素を含む場合も排除しない。
【0013】
本明細書において、説明の便宜上、「上」もしくは「上方」または「下」もしくは「下方」という語句を用いて説明するが、原則として、構造物が形成される基板を基準とし、基板から構造物に向かう方向を「上」または「上方」とする。逆に、構造物から基板に向かう方向を「下」または「下方」とする。したがって、基板上の構造物という表現において、基板と向き合う方向の構造物の面が構造物の下面となり、その反対側の面が構造物の上面となる。また、基板上の構造物という表現においては、基板と構造物との上下関係を説明しているに過ぎず、基板と構造物との間に他の部材が配置されていてもよい。さらに、「上」もしくは「上方」または「下」もしくは「下方」の語句は、複数の層が積層された構造における積層順を意味するものであり、平面視において重畳する位置関係になくてもよい。
【0014】
本明細書において、各構成に付記される「第1」、「第2」、または「第3」などの文字は、各構成を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限り、それ以上の意味を有さない。
【0015】
本明細書および図面において、同一または類似する複数の構成を総じて表記する際には同一の符号を用い、これらの複数の構成のそれぞれを区別して表記する際には、小文字または大文字のアルファベットを添えて表記する場合がある。また、1つの構成のうちの複数の部分を区別して表記する際には、ハイフンと自然数を用いる場合がある。
【0016】
以下の各実施形態は、技術的な矛盾を生じない限り、互いに組み合わせることができる。
【0017】
<第1実施形態>
図1図4を参照して、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法について説明する。
【0018】
[1.成膜装置10の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法に用いる成膜装置10の構成を示す模式図である。
【0019】
図1に示すように、成膜装置10は、真空チャンバ100、基板支持部110、加熱部120、ターゲット130、ターゲット支持部140、ポンプ150、スパッタリング電源160、スパッタリングガス供給源170、および窒素ラジカル供給源180を備える。成膜装置10は、いわゆるスパッタリング装置である。
【0020】
真空チャンバ100内には、基板支持部110、加熱部120、ターゲット130、およびターゲット支持部140が設けられている。基板支持部110および加熱部120は、真空チャンバ100内の下方に設けられている。基板は、基板支持部110上に配置される。加熱部120は、基板支持部110内に設けられ、基板支持部110上の基板を加熱することができる。ターゲット130およびターゲット支持部140は、真空チャンバ100内の上方に設けられている。ターゲット130は、ターゲット支持部140によって支持され、基板支持部110に対向するように設けられている。
【0021】
なお、図1では、真空チャンバ100内の下方に基板支持部110および加熱部120が設けられ、真空チャンバ100内の上方にターゲット130およびターゲット支持部140が設けられる例を示したが、これらは逆であってもよい。
【0022】
ターゲット130は、窒素およびガリウムを含む窒化ガリウムである。ターゲット130の窒化ガリウムの組成比は、窒素に対するガリウムが0.7以上2以下であることが好ましい。また、基板上に成膜される窒化ガリウム膜の窒素は、窒素ラジカル供給源から供給することができる一方、窒化ガリウム膜のガリウムはターゲット130から供給されるため、ターゲット130の窒化ガリウムの組成比は、窒素よりもガリウムが多いことがさらに好ましい。
【0023】
真空チャンバ100の外側には、ポンプ150、スパッタリング電源160、スパッタリングガス供給源170、および窒素ラジカル供給源180が設けられている。
【0024】
ポンプ150は、配管151を通じて真空チャンバ100に接続されている。ポンプ150は、配管151を通じて、真空チャンバ100内の気体を排出することができる。また、配管151に接続されたバルブ152の開閉によって、真空チャンバ100内の圧力を一定に保持することができる。ポンプ150として、例えば、ターボ分子ポンプまたはクライオポンプなどを用いることができる。
【0025】
スパッタリング電源160は、配線161を介してターゲット130と電気的に接続されている。スパッタリング電源160は、直流電圧(DC電圧)または交流電圧(AC電圧)を生成し、ターゲット130に生成した電圧を印加することができる。交流電圧は、13.56(MHz)である。また、スパッタリング電源160は、ターゲット130にバイアス電圧を印加し、さらに、直流電圧または交流電圧を印加することもできる。
【0026】
スパッタリング電源160は、周期的にターゲット130に印加する電圧を停止することができる。ターゲット130への電圧の印加の停止時間は、2(msec)以上10(msec)以下である。また、スパッタリング電源160のターゲット130への印加は、所定の周波数を有するパルス状であってもよい。この場合、所定の周波数は、100(kHz)以上500(kHz)以下である。
【0027】
スパッタリングガス供給源170は、配管171を通じて真空チャンバ100に接続されている。スパッタリングガス供給源170は、配管171を通じて、真空チャンバ100内にスパッタリングガスを供給することができる。また、配管171に接続されたマスフローコントローラ172によって、スパッタリングガスの流量を制御することができる。スパッタリングガス供給源170から供給するスパッタリングガスとして、アルゴン(Ar)またはクリプトン(Kr)を用いることができる。
【0028】
窒素ラジカル供給源180は、真空チャンバ100内に設けられた配管181と接続され、配管181から基板支持部110上に配置された基板に向けて窒素ラジカルを照射することができる。窒素ラジカル供給源180は、窒素ガスをプラズマ化して窒素ラジカルを生成することができる。
【0029】
なお、窒素ラジカル供給源180は、真空チャンバ100内に設けられ、真空チャンバ100内で窒素ラジカルを生成してもよい。
【0030】
[2.窒化ガリウム膜の製造方法]
図2図4を参照して、本発明の一実施形態である窒化ガリウム膜の製造方法について説明する。窒化ガリウム膜は、成膜装置10を用いて製造されるため、以下では、便宜上、図1に示す符号を参照して説明する場合がある。
【0031】
図2は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法を示すフローチャート図である。
【0032】
ステップS100では、基板が、ターゲット130と対向するように基板支持部110上に配置される。基板として、例えば、石英基板またはガラス基板などを用いることができる。また、基板として、窒化アルミニウム膜が形成された石英基板またはガラス基板などを用いることもできる。
【0033】
ステップS110では、基板が、加熱部120によって所定の温度で加熱される。所定の温度は、例えば、400℃以上600℃未満である。
【0034】
ステップS120では、ポンプ150が、所定の真空度以下となるように真空チャンバ100内の気体を排出する。所定の真空度は、例えば、10-6(Pa)である。
【0035】
ステップS130では、スパッタリングガス供給源170が、真空チャンバ100内にスパッタリングガスを供給する。スパッタリングガスとして、例えば、アルゴンまたはクリプトンを用いることができる。また、真空チャンバ100内の圧力は、所定の圧力となるようにマスフローコントローラ172によってスパッタリングガスの流量が調整される。所定の圧力は、例えば、0.1(Pa)以上10(Pa)以下である。
【0036】
ステップS140では、窒素ラジカル供給源180が、真空チャンバ100内に窒素ラジカルを供給する。
【0037】
ステップS150では、スパッタリング電源160が、基板に対してターゲット130がカソードとなるようにターゲット130に所定の電圧を印加する。これにより、真空チャンバ100内のスパッタリングガスがプラズマ化され、スパッタリングガスのイオン(具体的には、陽イオン)と電子が生成される。スパッタリングガスのイオンは、基板とターゲット130との間の電位差によって加速され、ターゲット130に衝突する。その結果、ターゲット130からガリウムイオン(例えば、ガリウム陽イオン)が放出される。
【0038】
ステップS160では、スパッタリング電源160が、ターゲット130への電圧の印加を停止する。このとき、反応により生成した窒化ガリウムを基板上に堆積させることができる。ここで、窒化ガリウムの生成について説明する。
【0039】
ステップS160では、窒素ラジカル供給源180から窒素ラジカルが供給されている。窒素原子または窒素ラジカルは、電気陰性度が大きく、電子を引き付けやすい。そのため、窒素ラジカルは、真空チャンバ100内の電子と反応し、窒素陰イオンが生成される。また、生成された窒素陰イオンは、基板近傍に存在するガリウムイオン(具体的には、ガリウム陽イオン)と再結合反応し、窒化ガリウムが生成される。生成された窒化ガリウムは基板上に堆積される。陽イオンと陰イオンの再結合反応は、大きなエネルギーを放出するため、基板の温度が低い場合であっても、基板上に成膜される窒化ガリウム膜は高品質な膜となる。このように、ステップS160では、ターゲット130への電圧の印加を停止し、スパッタリングが行われていない状態であっても、窒素ラジカル供給源180から供給される窒素ラジカルを利用して、窒化ガリウムを生成することができる。
【0040】
なお、陽イオンおよび陰イオンは、それぞれ、正イオンおよび負イオンという場合がある。
【0041】
また、ステップS160では、希ガスの準安定状態を利用して、窒化ガリウムを生成することができる。
【0042】
希ガスプラズマ中には、寿命の長い準安定状態の希ガス原子が存在することが知られている。例えば、アルゴン原子およびクリプトン原子の準安定状態エネルギーは、それぞれ、11.61(eV)および9.91(eV)である。このような準安定状態のアルゴン原子またはクリプトン原子は、スパッタリングのプラズマ中において生成され、寿命が長いためにプラズマが消滅した後であっても存在することができる。すなわち、準安定状態のアルゴン原子またはクリプトン原子は、ターゲット130への電圧の印加を停止した後においても存在することができる。
【0043】
ターゲット130への電圧の印加を停止した後において、真空チャンバ100内には、窒素ラジカル供給源180からの窒素ラジカル以外にも、窒素分子が存在する。電子の衝突による窒素分子から窒素原子への解離エネルギーは9.756(eV)であるが、このエネルギーはアルゴン原子またはクリプトン原子の準安定状態エネルギーと近い。そのため、窒素分子と準安定状態のアルゴン原子またはクリプトン原子とが衝突すると、窒素分子の解離反応が起こり、窒素ラジカルおよび窒素原子が生成される。すなわち、ターゲット130への電圧の印加を停止した後においても、準安定状態のアルゴン原子またはクリプトン原子によって窒素ラジカルおよび窒素原子が生成される。上述したように、窒素ラジカルおよび窒素原子の電気陰性度は大きいため、窒素ラジカルおよび窒素原子は真空チャンバ100内の電子と反応し、窒素陰イオンが生成される。また、生成された窒素陰イオンは、基板近傍に存在するガリウムイオンと再結合反応し、窒化ガリウムが生成される。
【0044】
以上説明したように、ステップS160では、窒素ラジカルだけでなく、準安定状態のアルゴン原子またはクリプトン原子を利用することにより、窒化ガリウムを生成することができる。
【0045】
本実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法では、ステップS150およびステップS160を繰り返すことにより、基板上に窒化ガリウム膜が成膜される。ここで、図3および図4を参照して、スパッタリング電源160のオンまたはオフのタイミングについて例示する。
【0046】
図3および図4は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法において、スパッタリング電源および窒素ラジカル供給源のオンまたはオフのタイミングを示すシーケンス図である。
【0047】
図3では、周期的にターゲット130に印加する電圧が停止される。すなわち、スパッタリング電源160は、ターゲット130に電圧を印加する第1の期間とターゲット130に電圧を印加しない第2の期間とを周期的に繰り返すようにパルス状に制御する。第1の期間と第2の期間とは、同じ時間であってもよく、異なる時間であってもよい。第1の期間は、特に限定されないが、プラズマの安定する時間によって決定されてもよい。第2の期間は、準安定状態のスパッタガスの寿命または準安定励起窒素分子の寿命によって決定されてもよい。第2の期間は、例えば、2(μsec)以上10(msec)である。また、パルスの周波数は、例えば、90(Hz)以上400(kHz)以下である。
【0048】
図4では、スパッタリング電源160は、第1の期間と第2の期間とが同一であるパルス状の電圧によって、ターゲット130に印加する電圧を制御する。この場合、所定の周波数を決定すれば、第1の期間と第2の期間とが等分される。そのため、スパッタリング電源は、1つのパラメータである周波数に基づいてターゲット130に印加する電圧を制御することができる。周波数は、例えば、90(Hz)以上400(kHz)以下である。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法によれば、ターゲット130への電圧の印加を停止したときに、窒素ラジカルおよび準安定状態のスパッタリングガスを利用することによって、基板温度が低温でありながら、高品質な窒化ガリウム膜を形成することができる。
【0050】
<第2実施形態>
図5図7を参照して、第1実施形態と異なる、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法について説明する。なお、以下では、第1実施形態で説明した構成については説明を省略する場合がある。
【0051】
図5は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法を示すフローチャート図である。
【0052】
本実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法では、ステップS160が実行された後に、ステップS170が実行される。
【0053】
ステップS170では、窒素ラジカル供給源180が、真空チャンバ100内への窒素ラジカルの供給を停止する。ステップS170では、窒素ラジカルの供給が停止されているため、第1実施形態で説明した準安定状態のスパッタリングガスを利用した窒化ガリウムの生成が支配的となる。
【0054】
本実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法では、ステップS140~ステップS170を繰り返すことにより、基板上に窒化ガリウム膜が成膜される。ここで、図6および図7を参照して、スパッタリング電源160のオンまたはオフのタイミングについて例示する。
【0055】
図6および図7は、本発明の一実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法において、スパッタリング電源および窒素ラジカル供給源のオンまたはオフのタイミングを示すシーケンス図である。
【0056】
図6では、周期的にターゲット130に印加する電圧が停止される。すなわち、スパッタリング電源160は、ターゲット130に電圧を印加する第1の期間とターゲット130に電圧を印加しない第2の期間とを周期的に繰り返すようにパルス状に制御する。また、窒素ラジカル供給源180は、第2の期間に、真空チャンバ100内への窒素ラジカルの供給を停止する。窒素ラジカルの供給が停止される期間は、第2の期間以下である。すなわち、窒素ラジカルの供給が停止される期間は、例えば、2(μsec)以上10(msec)である。パルスの周波数は、例えば、90(Hz)以上400(kHz)以下である。
【0057】
図7では、スパッタリング電源160は、第1の期間と第2の期間とが同一であるパルス状の電圧によって、ターゲット130に印加する電圧を制御する。また、ターゲット130に電圧が印加されないとき、真空チャンバ100内への窒素ラジカルの供給も停止される。すなわち、スパッタリング電源160と窒素ラジカル供給源とは、所定の周波数で同期されるように制御される。所定の周波数は、例えば、90(Hz)以上400(kHz)以下である。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る窒化ガリウム膜の製造方法によれば、ターゲット130への電圧の印加を停止したときに、窒素ラジカルまたは準安定状態のスパッタリングガスを利用することによって、基板温度が低温でありながら、高品質な窒化ガリウム膜を形成することができる。
【0059】
<第3実施形態>
図8は、本発明の一実施形態に係る発光素子1000の構成を示す模式図である。
【0060】
図8に示すように、発光素子1000は、基板1010、バリア層1020、バッファー層1030、n型半導体層1040、発光層1050、p型半導体層1060、n型電極1070、およびp型電極1080を含む。発光素子1000は、いわゆるLED(Light Emitting Diode)であるが、これに限られない。
【0061】
基板1010として、例えば、石英基板またはガラス基板などを用いることができる。バリア層1020として、例えば、窒化シリコン膜などを用いることができる。バッファー層1030として、例えば、窒化アルミニウム膜などを用いることができる。n型半導体層1040として、シリコンをドープした窒化ガリウム膜などを用いることができる。発光層1050として、窒化インジウムガリウム膜と窒化ガリウム膜とが交互に積層された積層体を用いることができる。p型半導体層1060として、マグネシウムをドープした窒化ガリウム膜などを用いることができる。n型電極1070として、インジウムなどの金属を用いることができる。p型電極1080として、パラジウムまたは金などの金属を用いることができる。
【0062】
発光素子1000の製造方法は次のとおりである。基板1010上に、窒化シリコン膜および窒化アルミニウム膜を順に成膜し、バリア層1020およびバッファー層1030を形成する。また、バッファー層1030の上に、シリコンをドープした窒化ガリウム膜を成膜する。また、バッファー層1030の上に、窒化インジウムガリウム膜と窒化ガリウム膜とを交互に成膜し、積層体を形成する。また、積層体の上に、マグネシウムをドープした窒化ガリウム膜を成膜する。次に、マグネシウムをドープしたガリウム膜、積層体、およびシリコンをドープした窒化ガリウム膜を、フォトリソグラフィーを用いてエッチングし、p型半導体層1060、発光層1050、およびn型半導体層1040を形成する。このとき、シリコンをドープした窒化ガリウム膜の一部の表面を露出させるようにエッチングする。n型半導体層1040およびp型半導体層1060のそれぞれの上に、n型電極1070およびp型電極1080を形成する。
【0063】
第1実施形態または第2実施形態で説明した窒化ガリウム膜の製造方法は、発光層1050の窒化ガリウム膜だけでなく、発光層1050の窒化アルミニウム膜の成膜にも適用することができる。窒化アルミニウムガリウム膜を成膜する場合、成膜装置10のターゲット130として、窒素、アルミニウム、およびガリウムを含む窒化アルミニウムガリウムを用いることができる。また、2つの真空チャンバを基板搬送部を介して接続し、一方の真空チャンバ内で窒化ガリウム膜を成膜し、真空を破ることなく、他方の真空チャンバ内で窒化アルミニウムガリウムを成膜してもよい。
【0064】
なお、第1実施形態または第2実施形態で説明した窒化ガリウム膜の製造方法は、バッファー層1030の窒化アルミニウム膜、n型半導体層1040のシリコンをドープした窒化ガリウム膜、またはp型半導体層1060のマグネシウムをドープした窒化ガリウム膜の成膜に適用することもできる。
【0065】
以上、本実施形態に係る発光素子1000は、第1実施形態または第2実施形態で説明した窒化ガリウム膜の製造方法が適用されて窒化ガリウム膜などを形成することができるため、耐熱性の低い、例えばガラス基板を用いて作製することができる。
【0066】
<第4実施形態>
図9は、本発明の一実施形態に係る半導体素子2000の構成を示す模式図である。
【0067】
図9に示すように、半導体素子2000は、基板2010、バリア層2020、バッファー層2030、窒化ガリウム層2040、第1の窒化アルミニウムガリウム層2050、第2の窒化アルミニウムガリウム層2060、第3の窒化アルミニウムガリウム層2070、ソース電極2080、ドレイン電極2090、ゲート電極2100、第1の絶縁層2110、第2の絶縁層2120、およびシールド電極2130を含む。半導体素子2000は、いわゆるHEMT(High Electron Mobility Transistor)であるが、これに限られない。
【0068】
基板2010として、例えば、石英基板またはガラス基板などを用いることができる。バリア層2020として、例えば、窒化シリコン膜などを用いることができる。バッファー層2030として、例えば、窒化アルミニウム膜などを用いることができる。窒化ガリウム層2040として、窒化ガリウム膜を用いることができる。第1の窒化アルミニウムガリウム層2050として、窒化アルミニウムガリウム膜を用いることができる。第2の窒化アルミニウムガリウム層2060として、例えば、シリコンをドープした窒化ガリウム膜を用いることができる。第3の窒化アルミニウムガリウム層2070として、窒化アルミニウムガリウム膜を用いることができる。ソース電極2080およびドレイン電極2090として、例えば、チタンまたはアルミニウムなどの金属を用いることができる。ゲート電極2100として、例えば、ニッケルまたは金などの金属を用いることができる。第1の絶縁層2110として、例えば、窒化シリコン膜を用いることができる。第2の絶縁層2120として、例えば、酸化シリコン膜を用いることができる。シールド電極2130として、例えば、アルミニウム/チタン(Al/Ti)などの積層金属を用いることができる。
【0069】
半導体素子2000の製造方法は次のとおりである。基板2010上に、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化ガリウム膜、および窒化アルミニウムガリウム膜を成膜し、バリア層2020、バッファー層2030、窒化ガリウム層2040、および第1の窒化アルミニウムガリウム層2050を形成する。また、第1の窒化アルミニウムガリウム層2050の上に、シリコンをドープした窒化アルミニウムガリウム膜および窒化アルミニウムガリウム膜を成膜する。次に、窒化アルミニウムガリウム膜およびシリコンをドープした窒化アルミニウムガリウム膜を、フォトリソグラフィーを用いてエッチングし、第3の窒化アルミニウムガリウム層2070および第2の窒化アルミニウムガリウム層2060を形成する。このとき、シリコンをドープした窒化アルミニウムガリウム膜の一部の表面を露出させるようにエッチングする。第2の窒化アルミニウムガリウム層2060の上に、ソース電極2080およびドレイン電極2090を形成する。また、第3の窒化アルミニウムガリウム層2070の上に、ゲート電極2100を形成する。ソース電極2080、ドレイン電極2090、およびゲート電極2100を覆うように、窒化シリコン膜および酸化シリコン膜を順に成膜し、第1の絶縁層2110および第2の絶縁層2120を形成する。第2の絶縁層2120の上に、シールド電極2130を形成する。
【0070】
第1実施形態または第2実施形態で説明した窒化ガリウム膜の製造方法は、窒化ガリウム層2040の窒化ガリウム膜だけでなく、バッファー層2030の窒化アルミニウム膜、第1の窒化アルミニウムガリウム層2050の窒化アルミニウム膜、第2の窒化アルミニウムガリウム層2060のシリコンをドープした窒化アルミニウムガリウム膜、および第3の窒化アルミニウムガリウム層2070の窒化アルミニウムガリウム膜の成膜に適用することができる。
【0071】
以上、本実施形態に係る半導体素子2000は、第1実施形態または第2実施形態で説明した窒化ガリウム膜の製造方法が適用されて窒化ガリウム膜などを形成することができるため、耐熱性の低い、例えばガラス基板を用いて作製することができる。
【0072】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除、もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略、もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0073】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0074】
10:成膜装置、 100:真空チャンバ、 110:基板支持部、 120:加熱部、 130:ターゲット、 140:ターゲット支持部、 150:ポンプ、 151:配管、 152:バルブ、 160:スパッタリング電源、 161:配線、 170:スパッタリングガス供給源、 171:配管、 172:マスフローコントローラ、 180:窒素ラジカル供給源、 181:配管、 1000:発光素子、 1010:基板、 1020:バリア層、 1030:バッファー層、 1040:n型半導体層、 1050:発光層、 1060:p型半導体層、 1070:n型電極、 1080:p型電極、 2000:半導体素子、 2010:基板、 2020:バリア層、 2030:バッファー層、 2040:窒化ガリウム層、 2050:第1の窒化アルミニウムガリウム層、 2060:第2の窒化アルミニウムガリウム層、 2070:第3の窒化アルミニウムガリウム層、 2080:ソース電極、 2090:ドレイン電極、 2100:ゲート電極、 2110:第1の絶縁層、 2120:第2の絶縁層、 2130:シールド電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9