(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒および共沈法を利用した酸化触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/83 20060101AFI20241129BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20241129BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241129BHJP
B01J 35/56 20240101ALI20241129BHJP
B01J 23/78 20060101ALI20241129BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241129BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241129BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20241129BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241129BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20241129BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20241129BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241129BHJP
【FI】
B01J23/83 M
B01J37/03 B
B01J37/08
B01J35/56 301Z
B01J23/78 M
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B11/031
C25B11/052
C25B11/061
C25B11/077
C25B9/23
(21)【出願番号】P 2023530706
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(86)【国際出願番号】 KR2021017252
(87)【国際公開番号】W WO2022114723
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0158897
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ギル・ホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】チ・ウ・ロ
(72)【発明者】
【氏名】キュ・ホ・ソン
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/245929(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155503(WO,A1)
【文献】特開2012-099266(JP,A)
【文献】Hoon Chung et al,米国,2019 Annual Merit Review and Peer Evaluation Report,DOE,2019年09月,70-75
【文献】S C Grice et al,Electronic Structure and Reactivity of TM-Doped La1-xSrxCoO3 (TM=Ni, Fe) Heterogeneous Catalysts,Int. J. Mol. Sci,米国,ACS,2018年09月05日,8(10),9567-9578
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/78、23/83
B01J 37/03
B01J 35/40
C01G 51/00
C25B 9/00
C25B 11/00
C01F 17/30
C01F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形、不定形または板状形の1次粒子;またはこのような1次粒子が凝集された2次粒子の形態を有する、下記化学式1のペロブスカイト系酸化物を含
み、
前記ペロブスカイト系酸化物の1次粒子は、10nm~3μmの粒径を有し、単分散型粒径分布を有する、陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒:
[化学式1]
La
1-xSr
xCoO
3-y
前記化学式1で、0≦x≦1であり、0≦y≦0.3である。
【請求項2】
0.7≦x≦1であり、0<y≦0.3である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒。
【請求項3】
前記ペロブスカイト系酸化物上にドーピングされており、
Ba、Fe、NiおよびMnからなる群より選択された1種以上の異種元素をさらに含む、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒。
【請求項4】
12以上のpHを有する水溶媒内で、キレート剤の存在下で、ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩を共沈反応させて、触媒前駆体を形成する段階;および
前記触媒前駆体を500℃以上の温度で焼成して
下記化学式1のペロブスカイト系酸化物を形成する段階を含
むペロブスカイト系酸化触媒の製造方法
:
[化学式1]
La
1-x
Sr
x
CoO
3-y
前記化学式1で、0≦x≦1であり、0≦y≦0.3である。
【請求項5】
13以上のpHを有する水溶媒は、水酸化アンモニウムまたは硫酸アンモニウムを含む第1pH調節剤と、アンモニウムオキサレート、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを含む第2pH調節剤とを水溶媒に順次添加して形成される、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項6】
前記キレート剤は、水酸化アンモニウム(NH
4OH)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)および第1リン酸アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)からなる群より選択された1種以上を含む、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項7】
前記ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩は、1-x:x:1(0≦x≦1)のモル当量比で共沈反応が行われる、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩は、それぞれ金属の酸付加塩またはその水和物の形態を有する、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項9】
前記共沈反応は、不活性雰囲気下で20~100℃の温度で行われる、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項10】
前記触媒前駆体は、La
1-xSr
xCo(OH)
2(0≦x≦1)の化合物を含む、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項11】
前記共沈反応段階後に、50℃以上の温度で前記触媒前駆体を乾燥する段階をさらに含む、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項12】
前記焼成段階は、空気雰囲気下で、600~900℃の温度で行われる、請求項
4に記載のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法。
【請求項13】
多孔性金属構造体;および
前記多孔性金属構造体上に形成された
下記化学式1のペロブスカイト系酸化物を含むペロブスカイト系酸化触媒を含む触媒層を含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極
:
[化学式1]
La
1-x
Sr
x
CoO
3-y
前記化学式1で、0≦x≦1であり、0≦y≦0.3である。
【請求項14】
前記多孔性金属構造体は、ニッケルフォーム(Ni foam)を含む、請求項
13に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化電極。
【請求項15】
前記酸化触媒は、多孔性金属構造体の単位面積当たり0.1~10mg/cm
2の含有量で含まれる、請求項
13に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化電極。
【請求項16】
陰イオン交換膜;
前記陰イオン交換膜の一側に位置する還元電極;および
前記触媒層が前記陰イオン交換膜と接触するように、前記陰イオン交換膜の他側に位置する請求項
13に記載の酸化電極を含む陰イオン交換膜水電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(ら)との相互引用
本出願は、2020年11月24日付韓国特許出願第10-2020-0158897号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、優れた触媒活性および電気伝導度、均一な粒径分布および広い表面積、そして優れた耐久性を示す陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒および共沈法を利用した酸化触媒の製造方法と、これを含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムに関する。
【背景技術】
【0003】
水電解技術は、水を電気的に分解して水素を生産する技術であり、1800年代に胎動し、1920年代から商業的な水素生産に活用されてきた。最近は再生エネルギーの必要性および占有率が大きく増加することによって、低炭素、グリーン水素の生産のための解決策として注目されている。
【0004】
現在商業的に主に適用されている水電解技術としては、アルカリ水電解(AWE;Alkaline Water Electrolysis)システムと、陽イオン交換膜水電解(PEMWE;Proton Exchange Membrane Water Electrolysis)システムがある。
【0005】
このうち、アルカリ水電解方法は、安価なニッケル基盤の電極と多孔性膜を使用するため、価格競争力を確保することができるが、多孔性ダイヤフラム(Diaphragm)と電極間の間隔が広くて内部抵抗が高く、低い電流密度でだけ稼働が可能であるという短所がある。また、アルカリ水電解システムは、スタックの体積が大きく、運転費用が高く、多孔性ダイヤフラムの適用により電流密度の急激な変化が難しいため、風力または太陽熱などの再生エネルギー源に連係して適用し難いという短所がある。
【0006】
一方、陽イオン交換膜水電解システムは、MW規模で開発中にある。このような陽イオン交換膜水電解システムは、高い電流密度で駆動が可能であり、システムのコンパクトな設計が可能であるだけでなく、製造される水素純度が高く、初期出力圧力および最小負荷を低く維持することができる。また、応答速度が速いため再生エネルギーと連係して水素を製造するに適する。
【0007】
しかし、前記陽イオン交換膜水電解システムでは、高価の貴金属触媒と、腐食を防止するためにバイポーラプレート(Bipolar plate)を貴金属で使用しなければならないため、全体的な製造費用が大きく増加するという短所がある。
【0008】
そこで、現在商業的に適用中であるアルカリ水電解システムおよび陽イオン交換膜水電解システムを代替するための技術として、陰イオン交換膜水電解システムが提案されており、これに対する関心および研究が大幅に増加している。
【0009】
このような陰イオン交換膜水電解システムは、コンパクトな設計が可能であり、アルカリ水電解システムと同一の雰囲気で稼動されるため、非貴金属材質の使用が可能である。したがって、このような陰イオン交換膜水電解システムは、前記アルカリ水電解システムおよび陽イオン交換膜水電解システムの長所を共に生かすことができるシステムとして考慮になり得る。
【0010】
しかし、このような陰イオン交換膜水電解システムの性能向上のためには、より大きい過電圧に伴う酸素発生反応、例えば、下記反応式の反応が起こる酸化電極(ANODE)で、優れた電気伝導度および触媒活性を示し、これと共に高い耐久性を有する酸化触媒の使用が要求される。
【0011】
[反応式1]
4OH-→O2+2H2O+4e-
【0012】
前記陰イオン交換膜水電解システムが約100℃以下の低い温度で駆動されることを考慮して、前記要件を満たす酸化触媒として、IrO2またはRuO2などの貴金属触媒が考慮になったことがある。しかし、これら貴金属触媒は、単価が高くて商品化が難しく、陰イオン交換膜水電解システムの長所を生かし難い。
【0013】
そこで、最近は前記酸化触媒として、層状構造化合物(LDH;Layered double hydroxides)、ペロブスカイト(Perovskites)系化合物またはスピネル(Spinel)系化合物を適用するための研究が続いている。しかし、前記層状構造化合物およびスピネル系化合物は、比較的に高い触媒活性を有するが、電気伝導度が低くて酸化触媒としての使用に適しない面がある。
【0014】
これとは異なり、ペロブスカイト系化合物は、ABO3(Aはアルカリ土類金属または希土類金属、Bは遷移金属)の一般式で表される酸化物であって、格子酸素が酸素発生反応に可逆的に参加して優れた触媒活性を示すことができ、多様な金属原子のドーピングなどを通じて優れた電気伝導度と共に示すことができる。
【0015】
しかし、既存に知られたペロブスカイト系化合物は、相対的に1000℃を超える高温、固相反応により主に生成されるため、このような高温反応過程で前記化合物粒子の粒径が増加し、表面積が減少して触媒活性が低下される場合が多かった。また、既存のペロブスカイト系化合物は、電気伝導度および耐久性も十分でないため、まだ陰イオン交換膜水電解システムに適用されて優れた特性を示す良好な酸化触媒は開発されていない実情である。
【0016】
そのために、優れた触媒活性、電気伝導度および耐久性を有し、広い表面積を有するように製造可能なペロブスカイト系酸化触媒の開発が継続して要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明は、相対的に低い温度で均一な粒径分布および広い表面積を有するように提供可能であり、多数の酸素欠陥部位を有することができるため、優れた触媒活性、電気伝導度および耐久性を示す陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒およびその製造方法を提供することに目的がある。
【0018】
本発明はまた、前記酸化触媒を含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムを提供することに目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで、本発明は、下記化学式1のペロブスカイト系酸化物を含む陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒を提供する。
【0020】
[化学式1]
La1-xSrxCoO3-y
【0021】
前記化学式1で、0≦x≦1であり、0≦y≦0.3である。
【0022】
本発明はまた、12以上のpHを有する水溶媒内で、キレート剤の存在下で、ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩を共沈反応させて、触媒前駆体を形成する段階;および
前記触媒前駆体を500℃以上の温度で焼成して前記化学式1のペロブスカイト系酸化物を形成する段階を含む前記化学式1の酸化物を含むペロブスカイト系酸化触媒の製造方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、多孔性金属構造体;および
前記多孔性金属構造体上に形成された前記ペロブスカイト系酸化触媒を含む触媒層を含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極を提供する。
【0024】
本発明はまた、陰イオン交換膜;
前記陰イオン交換膜の一側に位置する還元電極;および
前記触媒層が前記陰イオン交換膜と接触するように、前記陰イオン交換膜の他側に位置する前記酸化電極を含む陰イオン交換膜水電解システムを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のペロブスカイト系酸化触媒は、共沈法を利用して相対的に低い温度で構成原子組成を精密に制御して製造および提供され得る。その結果、前記本発明の酸化触媒は、より小さい粒径および均一な粒径分布を有するように提供され得、より広い表面積を有することができる。
【0026】
また、前記本発明の酸化触媒は、ランタンおよびストロンチウムの含有モル比を調節して、格子構造中に多数の酸素欠陥部位を有するように製造および提供され得る。このような酸素欠陥部位は、触媒活性点として作用することができ、電荷の移動を促進させることができる。
【0027】
したがって、前記本発明のペロブスカイト系酸化触媒は、優れた電気伝導度および触媒活性を有することができるだけでなく、その構造的安定性により非常に優れた耐久性を有することができることが確認された。
【0028】
このような酸化触媒の優れた諸般物性により、前記ペロブスカイト系酸化触媒は、陰イオン交換膜水電解システムに非常に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1a~
図1fは実施例1~6で製造された陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】
図2a~
図2eは実施例6~10で製造された陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の電子顕微鏡(SEM)写真である(ただし、実施例6に関する
図2aは
図1fとスケールを異にして示した)。
【
図3】
図3は実施例6~10の酸化触媒を溶媒に分散させた結果を比較して示す写真である。
【
図4】
図4aは実施例1~6の酸化触媒をXRDに分析した結果を比較して示す図面であり、
図4bは実施例6の酸化触媒の結晶構造分析のために、そのXRDスペクトルを拡大して示す図面である。
【
図5】
図5aは実施例1~6の酸化触媒に対して、電圧範囲1.2~1.8Vの間の電流密度(mA/cm
2)を測定したLSV(Linear sweep voltage)グラフであり、
図5bは実施例6~10の酸化触媒に対して、電圧範囲1.2~1.8Vの間の電流密度(mA/cm
2)を測定したLSVグラフである。
【
図6】
図6は実施例6~10の酸化触媒に対してターフェル傾斜(Tafel slope)を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は実施例6~8の酸化触媒に対して、1.62Vでインピーダンス(Impedance)を測定した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8a~8cは実施例7の酸化触媒に対して、CV(Cyclic voltammetry)法およびLSV(Linear sweep voltage)法で1000サイクルの間に駆動して、酸化触媒の耐久性を評価した結果を示す図面である。
【
図9a】
図9aは実施例7の酸化触媒を使用して製造された陰イオン交換膜水電解システムに対して、電圧を増加させながら電流密度の変化を測定した結果を示すグラフである。
【
図9b】
図9bは実施例7の酸化触媒を使用して製造された陰イオン交換膜水電解システムに対して、一定の電流密度で稼働時間による電圧変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明において、第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明することに使用され、前記用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別するための目的のみで使用される。
【0031】
また、本明細書で使用される用語は、単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、 一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、これらの組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。
【0032】
また本明細書において、各層または要素が各層または要素の「上に」に形成されるものと言及される場合には、各層または要素が直接各層または要素の上に形成されることを意味したり、他の層または要素が各層の間、対象体、基材の上に追加的に形成され得ることを意味する。
【0033】
本発明は、多様な変更を加えることができ、多様な形態を有することができるところ、特定の実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に限定するのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解されなければならない。
【0034】
以下、発明の実施形態による陰イオン交換膜水電解用酸化触媒およびその製造方法と、これを含む酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムについて詳しく説明する。
【0035】
発明の一実施形態によれば、下記化学式1のペロブスカイト系酸化物を含む陰イオン交換膜水電解用ペロブスカイト系酸化触媒が提供される。
【0036】
[化学式1]
La1-xSrxCoO3-y
【0037】
前記化学式1で、0≦x≦1であり、0≦y≦0.3である。
【0038】
本発明者らは、陰イオン交換膜水電解システムに適用されるに適した優れた諸般物性の酸化触媒を開発するために研究を重ねた。このような研究の結果、前記化学式1のペロブスカイト系酸化物が共沈法を利用して、例えば、1000℃以下の低い温度で製造および提供され得ることが確認された。
【0039】
したがって、高温の固相反応過程で、前記酸化物粒子がかたまって成長することを抑制することができ、前記ペロブスカイト系酸化物をより小さい粒径および均一な粒径分布を有するように提供できることを確認した。また、このような共沈法を利用した低温製造過程が可能になることによって、前記ペロブスカイト系酸化物の格子構造で触媒活性点として作用可能な表面欠点または酸素欠陥部位などが高温反応により埋められることを抑制することができる。したがって、一実施形態の酸化触媒は、より広い表面積および優れた酸化触媒活性を示すことができる。
【0040】
また、前記ペロブスカイト系酸化物は、ランタンおよびストロンチウムの2種の希土類金属元素を含むところ、これらランタンおよびストロンチウムの含有モル比を調節して、格子構造中に多数の酸素欠陥部位を有するように製造および提供され得ることが確認された。このような酸素欠陥部位の生成は、+3の酸化数を有するランタンイオンが+2の酸化数を有するストロンチウムイオンに置換されながら、酸素欠乏が発生するためであると予測される。このような格子構造中の酸素欠陥部位は触媒活性点として作用することができ、電荷の移動を促進させることができるため、前記化学式1のペロブスカイト系酸化物を含む酸化触媒は、優れた触媒活性および電気伝導度を同時に示すことができる。
【0041】
さらに、前記ペロブスカイト系酸化物は、優れた構造的安定性を有することによって、約1000サイクル以内の駆動時にも優れた電気伝導度および活性を維持する優れた耐久性を有することが確認された。
【0042】
結局、一実施形態の酸化触媒は、前記化学式1のペロブスカイト系化合物を含んで、電気伝導度、触媒活性および耐久性が優れるように発現することができ、広い表面積を有するように提供され得るため、陰イオン交換膜水電解システムおよびその酸化電極(anode)に非常に好適に適用され得る。
【0043】
一方、前記化学式1で、xはストロンチウムの含有モル比を示し、yは酸素欠陥部位の比率を示すことができる。化学式1の酸化物で、酸素欠陥部位は水電解システムの酸化電極で起こる下記反応式1の酸素生成反応で中間生成物の生成を円滑にする触媒活性点および助触媒として作用することができ、電荷の移動を促進することができる。
【0044】
[反応式1]
4OH-→O2+2H2O+4e-
【0045】
したがって、前記一実施形態の酸化触媒の優れた電気伝導度および触媒活性の側面で、前記yは0超過の値を有することができ、0<y≦0.3、あるいは0.0001≦y≦0.1の範囲を有することができる。ただし、酸素欠陥部位の比率が過度に増加すれば、前記酸化触媒の構造安定性が低下することがある。
【0046】
前記酸素欠陥部位の比率は、前記化学式1の製造過程中の共沈反応段階の温度や、ストロンチウムの含有モル比などにより調節され得る。より具体的に、前記酸素欠陥部位の比率を増加させるためには、+3の酸化数を有するランタンイオンが+2の酸化数を有するストロンチウムイオンに置換される比率xを増加させることが好ましい。このような側面で、前記xは0.7≦x≦1の範囲を有することが好ましい。
【0047】
ただし、0.8≦x≦1の範囲内では、前記化学式1の酸化物が板状形の粒子形態を有することができ、xのモル比が増加するほど粒径が大きくなって酸化触媒の表面積が減少することができる。このような側面で、前記xは0.7≦x≦0.9の範囲を有することがより好ましい。
【0048】
前述したxのモル比、具体的にランタン、ストロンチウムおよびコバルトのモル比は、前記酸化触媒をICPなどの方法で元素分析したり、XRD分析して確認され得、前記酸素欠陥部位の比率yは前記酸化触媒をXRD分析して確認され得る。
【0049】
一方、前記一実施形態の酸化触媒に含まれる化学式1のペロブスカイト系酸化物は、球形、不定形または板状形の1次粒子;またはこのような1次粒子が凝集された2次粒子の形態を有することができる。
【0050】
より具体的に、前記触媒の粒子形態は、前記ランタンおよびストロンチウムの含有モル比や後述する製造条件などを制御して調節され得る。例えば、ストロンチウムのモル比xが0.6以下である場合、球形または不定形の1次粒子が凝集された2次粒子の形態で主に製造され得、xが増加するほど粒径が減少することが確認された。これに比べて、前記xが0.8以上に増加すれば、板状形の1次粒子の形態で主に製造され得、xが増加するほど粒子がかたまって粒径が増加することが確認された。これはイオン半径が大きいSr2+イオン(1.44Å)がLa3+イオン(1.36Å)部位に置換されることによって、結晶格子構造が変化するためであると予測される。
【0051】
この時、前記ペロブスカイト系酸化物の1次粒子は10nm~3μmの粒径を有することができる。より具体的に、前記xが0.6以下である時、主に形成される球形または不定形の1次粒子は、例えば、10nm~400nm、あるいは20nm~100nm範囲内の粒径を有することができ、前記板状形の1次粒子は、例えば、400nm~3μm、あるいは1~2μmの粒径を有することができる。この時、前記「粒径」は、各1次粒子表面の任意の二点を連結する直線のうち最長直線距離と定義され得る。
【0052】
前記ペロブスカイト系酸化物は、広い表面積および触媒活性の側面で、10nm~1.5μm、あるいは10nm~1μmの粒径を有することが好ましく、球形またはこれに近接した不定形粒子形態を有することが好ましい。また、前記ペロブスカイト系酸化物は、後述する製造方法で製造されて、単分散型粒径分布を有することができ、その結果、より均一な粒径分布および広い表面積を有することができる。
【0053】
前述した粒径および粒径分布は、前記酸化触媒を電子顕微鏡で分析したり、一般的なレーザ粒度分析器を利用して確認することができる。
【0054】
一方、前述したペロブスカイト系酸化物は、それ自体で陰イオン交換膜水電解用酸化触媒として適用されることもできるが、異種元素が少量ドーピングされた状態で適用されることもできる。このような追加的なドーパントの添加により、触媒活性点が増加して前記酸化物の酸化触媒としての活性および電気伝導度がより向上することができる。このような添加可能なドーパントの種類は特に制限されず、例えば、Ba、Fe、NiおよびMnからなる群より選択された1種以上の異種元素がドーピングされ得る。
【0055】
前述のような優れた触媒活性および電気伝導度と、広い表面積を有するペロブスカイト酸化物は、共沈法を利用した製造方法を通じて製造され得る。そこで、発明の他の実施形態により、前記一実施形態のペロブスカイト系酸化触媒の製造方法が適用される。
【0056】
このような他の実施形態の製造方法は、12以上のpHを有する水溶媒内で、キレート剤の存在下で、ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩を共沈反応させて、触媒前駆体を形成する段階;および
前記触媒前駆体を500℃以上の温度で焼成して前記化学式1のペロブスカイト系酸化物を形成する段階を含む。
【0057】
このような他の実施形態の製造方法では、共沈法を利用して触媒前駆体およびペロブスカイト系酸化物の構成原子を原子水準まで精密に制御することができる。また、このような共沈法を利用すれば、前記酸化物粒子の粒径を所望の小さい範囲に制御することができ、より均一な粒径分布を有するように製造することができる。
【0058】
また、前記共沈法を利用すれば、以降の焼成段階で500~1000℃、あるいは600~900℃内外の低い熱処理を行って前記ペロブスカイト系酸化物および酸化触媒を製造できることが確認された。
【0059】
これにより、既存の高温固相反応および熱処理過程で、酸化触媒粒子の表面積が増加したり、表面欠点または酸素欠陥部位が埋められて触媒の活性が低下することを抑制することができる。ただし、前記熱処理温度が過度に高くなれば、酸化触媒の粒径が大きくなって表面積が小さくなり、触媒活性点が減少して触媒活性の側面で悪影響を及ぼすことがある。
【0060】
さらに、前記他の実施形態の製造方法では、比較的低い単価を有する金属酸付加塩の形態を反応物として使用することができるため、優れた諸般物性を有する一実施形態の酸化触媒をより経済的に製造できるようになる。
【0061】
一方、前記他の実施形態の製造方法で、前記12以上のpHを有する水溶媒は、中性の水溶媒、例えば、蒸溜水に、複数のpH調節剤を多段階で処理して形成され得る。
【0062】
具体的な一例によれば、前記中性の水溶媒を水酸化アンモニウムまたは硫酸アンモニウムを含む第1pH調節剤で処理してpH6~7を維持し、これに対して、アンモニウムオキサレート、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを含む第2pH調節剤を追加処理して、13以上、あるいは13.5以上、あるいは13.5~14のpHを有する水溶媒を得ることができる。このような多段階の工程により、共沈法に必要なpHのより精密な制御が可能になる。
【0063】
前記共沈反応段階で、前記ランタン塩およびストロンチウム塩は、水溶媒のpHにより様々な形態で存在することができる。具体的に、ランタン塩は、水溶媒内で、La3+、La(OH)2+、La(OH)2
+、La(OH)4
-またはLa(OH)3の形態で存在することができるが、pH6以上ではLa(OH)2+、La(OH)2
+、およびLa(OH)3形態で主に存在し、pH9以上ではLa(OH)4
-のイオンが追加的に生成され得る。また、ストロンチウム塩は、水溶媒内でSr2+形態で存在し、pH12以上ではSr2++OH-→SrOH-形態で沈殿することができる。
【0064】
つまり、前記共沈反応段階の水溶媒のpHが前述した12以上の範囲に調節されると、これらランタン塩およびストロンチウム塩の存在形態が適切に調節されることで、後述するコバルトの錯化合物と共沈反応して適切な原子組成の触媒前駆体が得られる。
【0065】
また、前記共沈反応段階で、前記キレート剤は、共沈反応の反応速度を制御して、所望の構造の触媒前駆体をより効果的に得るために使用される。より具体的に、前記キレート剤は、前記コバルト塩と先に配位結合してコバルト錯化合物を形成することができる。したがって、このようなコバルト錯化合物がランタン塩およびストロンチウム塩と徐々に反応して化学量論比により所望の原子組成、均一な粒径分布および格子構造を有する触媒前駆体およびこれを利用した酸化触媒を製造できるようになる。
【0066】
前記キレート剤の種類は特に制限されないが、前記コバルト塩との適切な反応性などを考慮して、アンモニウム塩化合物を使用することができ、その具体的な例としては、水酸化アンモニウム(NH4OH)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)および第1リン酸アンモニウム((NH4)2HPO4)からなる群より選択された1種以上が挙げられる。
【0067】
このようなキレート剤として水酸化アンモニウムが使用される場合の例を挙げれば、前記キレート剤と、コバルト塩との反応は、下記反応式2に整理されたような2段階で行われ得る。
【0068】
[反応式2]
M2++nNH4OH→[M(NH3)n]2++2H2O 1段階
[M(NH3)n]2++2OH-+nH2O→M(OH)2+nNH4OH 2段階
【0069】
前記反応式2でMはCoを含む。
【0070】
このうち第1段階では、ナノスケールの粒径を有する1次粒子が形成され得、2段階では、オストヴァルト熟成(Ostwald ripening)現象によりこれら1次粒子がかたまってほぼマイクロスケールの粒径を有する2次粒子が形成され得る。このようなコバルト錯化合物が形成されながら、このような錯化合物がランタン塩およびストロンチウム塩と徐々に反応して、所望の粒径範囲、均一な粒径分布、制御された原子組成および格子構造を有する触媒前駆体が製造され得る。
【0071】
このような共沈反応段階で、Co2+イオンは、空気中にCo3+またはCo4+に酸化され得るが、このような酸化および相転移が起これば、触媒前駆体の化学量論比による原子組成、粒径および粒径分布を制御し難いこともある。したがって、前記共沈反応段階は、酸素または空気が遮断された雰囲気または不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0072】
一方、前記共沈反応段階で、前記ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩の種類は特に制限されず、共沈反応で使用可能であると知られた一般的な塩の形態を有することができる。ただし、より具体的な例で、前記ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩は、これら金属に硝酸イオンが結合された硝酸塩など酸付加塩や、その水和物の形態を有することができる。
【0073】
このように他の実施形態の製造方法では、比較的に単価が低い酸付加塩を反応物として使用して、触媒前駆体および酸化触媒を製造することができるため、全体的な酸化触媒製造工程の経済性および量産性を向上させることができる。
【0074】
また、前記共沈反応段階では、前述のように、共沈反応の速度を制御しながら化学量論比により原子組成を調節して触媒前駆体および酸化触媒を製造することができる。したがって、前記他の実施形態の製造方法で、前記ランタン塩、ストロンチウム塩およびコバルト塩は、酸化触媒に含まれる各金属のモル比と対応するモル比、つまり、ランタン塩:ストロンチウム塩:コバルト塩のモル比が1-x:x:1(0≦x≦1)のモル当量比で共沈反応が行われ得る。
【0075】
また、前述したキレート剤を使用して、適切な比率でコバルトの錯化合物を形成し、反応速度を好適に制御するために、前記キレート剤は、その濃度と、前記金属塩の総濃度の比が前記金属塩の濃度:前記キレート剤の濃度の比率が1:0.6~1:6、あるいは1:0.7~1:3、あるいは1:0.8~1:1.2を満たすように使用されることが好ましい。
【0076】
一方、前述のように、このような共沈反応段階は、酸素または空気遮断雰囲気や、窒素気体など不活性雰囲気下で行われ得、適切な反応速度の制御のために、例えば、20~100℃、あるいは50~80℃の温度で行われ得る。
【0077】
前述した共沈反応段階を経ると、所望の原子組成で各金属元素を含む触媒前駆体が製造され得る。このような触媒前駆体は、以降の段階で形成される酸化触媒と同一のモル比でコバルト、ランタンおよびストロンチウムの各金属元素を含む水酸化化合物の形態になることができる。より具体的に、前記触媒前駆体は、La1-xSrxCo(OH)2(0≦x≦1)の化合物を含む粒子形態で製造され得る。
【0078】
一方、前記共沈反応段階後には、必要に応じて、50℃以上、あるいは50~100℃、あるいは60~90℃の温度で前記触媒前駆体を乾燥する段階をさらに行うことができ、このような乾燥段階前に蒸溜水などの水またはエタノールなどのアルコールを使用して、前記触媒前駆体を1回以上、あるいは1~3回にかけて洗浄する段階をさらに行うことができる。
【0079】
前述した過程を通じて触媒前駆体を製造した後は、これを、例えば、空気雰囲気下で、500℃以上、あるいは500~1000℃、あるいは600~900℃の温度で焼成して一実施形態の酸化触媒を製造することができる。
【0080】
ただし、前述のように、前記焼成温度が過度に高くなれば、酸化触媒の粒径が大きくなってその表面積が小さくなることがあり、また触媒活性点が埋められて酸化触媒の活性などに悪影響を及ぼすことがあるため好ましくない。
【0081】
前述した過程を通じて、大きい表面積、優れた触媒活性および電気伝導度と、優れた耐久性を示す一実施形態の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒が経済的、効率的に製造され得る。このような酸化触媒は、前述した優れた諸般物性により、陰イオン交換膜水電解システムの酸化電極に好適に使用され得る。
【0082】
このような酸化電極は、前記一実施形態の酸化触媒を含むことを除いては、一般的な陰イオン交換膜水電解システム用酸化電極の構成に従うことができる。例えば、このような酸化触媒は、多孔性金属構造体;および前記多孔性金属構造体上に形成された前記一実施形態のペロブスカイト系酸化触媒を含む触媒層を含んで構成され得る。
【0083】
また、前記多孔性金属構造体は、ニッケル金属を含むことができ、具体的にニッケル金属の多孔性構造体であるニッケルフォーム(Ni foam)を含む形態であり得る。
また、このような多孔性金属構造体の片面で、前記酸化触媒は、多孔性金属構造体の単位面積当たり0.1~10mg/cm2の含有量で含まれ得、このような酸化触媒が前記金属構造体の気孔内に含まれている形態で含まれ得る。
【0084】
前記範囲内で、前記酸化触媒の含有量が増加するほど陰イオン交換膜水電解システムの性能が改善され得る。ただし、前記酸化触媒の含有量が過度に増加すれば、水電解システムの性能がむしろ減少することがある。
【0085】
前記酸化触媒を含む触媒層の形成厚さは、前記酸化触媒の含有量に比例して増加するこどができ、特に制限されない。
【0086】
一方、前記多孔性金属構造体としては、以前から商用化されたニッケルフォーム(Ni foam)を使用することができるが、その気孔度は、50~200PPI(Pores per inch)、具体的に70~170PPI、例えば110PPIであり得る。
【0087】
また、前記多孔性金属構造体の厚さは、150~350μm、具体的に200~300μm、例えば250μmであり得る。
【0088】
前述した酸化電極は、一実施形態の酸化触媒の使用を除いては、一般的な陰イオン交換膜水電解システムの酸化電極製造方法により製造され得るため、これに関する追加的な説明は省略する。
【0089】
発明のまた他の実施形態によれば、前記酸化電極を含む陰イオン交換膜水電解システムが提供される。このような水電解システムは、陰イオン交換膜;前記陰イオン交換膜の一側に位置する還元電極;および前記触媒層が前記陰イオン交換膜と接触するように、前記陰イオン交換膜の他側に位置する前記また他の実施形態の酸化電極を含んで構成され得る。
【0090】
これは、前述した実施形態の酸化触媒および酸化電極を含むことによって、水電解性能が向上したものであり得る。
【0091】
以下、前述した酸化電極に関する説明は省略し、この他の構成要素について詳しく説明する。
【0092】
前記実施形態の水電解システムは、前記還元電極および前記酸化電極とそれぞれ連結されたポテンショスタット(potentiostat)を含むことができる。
前記酸化電極は、前述した一実施形態の酸化電極を使用し、前記還元電極としては、白金(Pt)および炭素(C)が炭素紙(carbon paper)上に複合コーティングされたものを使用することができる。
【0093】
このような水電解システムは、前記酸化および還元電極と、陰イオン交換膜を含む一つのセルだけを含むこともできるが、このようなセルを複数で含み、これらセルを直列に積層して水電解スタックを構成することもできる。
【0094】
前記水電解スタックは、電解液タンクを含むことができ、前記電解液タンクは、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ水溶液を貯蔵し、これを前記陰イオン交換膜に供給する役割を果たすことができる。
【0095】
前記電解液タンクから前記陰イオン交換膜にアルカリ水溶液が供給され、前記酸化電極および前記還元電極に直流電源が印加されると、前記陰イオン交換膜内のアルカリ水溶液の分解生成物である水酸化イオン(OH-)は前記酸化電極表面で触媒反応して酸素、水、および電子を発生させ、電子は外部導線に沿って還元電極に移動することができる。前記還元電極の表面では電子と水が触媒反応して、水素と水酸化イオン(OH-)を発生させることができる。前記酸化電極で発生した酸素および前記還元電極で発生した水素はそれぞれ、前記単位セル外部の貯蔵タンクに移動させて貯蔵することができる。
【0096】
この他の事項は、当業界に広く知られた水電解システムを参考にして実現することができる。
【0097】
以下、発明の理解のために好ましい実施例が提示される。しかし、下記の実施例は発明を例示するためのものに過ぎず、発明をこれらだけに限定するのではない。
【0098】
実施例1~10:化学式1(La
1-x
Sr
x
CoO
3-y
)の酸化触媒の製造
まず、反応器に1~4lの蒸溜水(DIW)を満たし、第1pH調節剤としてアンモニア水溶液(水酸化アンモニウム)を添加した後、600rpm以上に攪拌して、反応器内部pHを7に、内部温度を常温で60℃まで維持した。第2pH調節剤としてNaOH溶液を投入して、反応器内部pHを13.5以上に維持した。
【0099】
その後、キレート剤として水酸化アンモニウム(NH4OH)水溶液を混合した。次に、ランタン塩:ストロンチウム塩:コバルト塩のモル比(Molar ratio)を制御して1-x:x:1のモル比で製造された金属水溶液を原料として製造した。この時、各金属塩としては、La(NO3)3、Sr(NO3)2、およびCo(NO3)2を使用して蒸溜水に溶解した。また、実施例1~10では、前記xのモル比を下記表1の組成に記載されたとおり異にした。
【0100】
このように製造した金属水溶液とNaOHおよびNH4OHの混合物を定量ポンプを利用して反応器内に投入した。次に、反応器で攪拌速度は600~1,000rpmにして、攪拌下に共沈反応を行った。この時、モル比(Molar ratio)は金属イオン:キレート剤としての水酸化アンモニウム水溶液=1:0.7~1:6に調節した。共沈反応時間を4時間以上行った。共沈反応が終わると遠心分離機を利用して沈殿物を分離し、蒸溜水(DIW)とエタノール(Ethanol)でそれぞれ洗浄した。以降、80℃オーブンで12時間乾燥した。
【0101】
以降、下記表1に記載された条件で、空気雰囲気下で焼成して、実施例1~10の化学式1のペロブスカイト酸化物を含む酸化触媒をそれぞれ製造した。
【0102】
【0103】
<実験例1>SEMイメージ測定
まず、ストロンチウムのモル比xを異にする実施例1~6の酸化触媒を電子顕微鏡(SEM)で分析して、その写真を
図1a~1fにそれぞれ示した。
【0104】
前記
図1a~1fを参照すれば、Srモル比xが増加するほど酸化触媒粒子の粒径は大量減少し、ただし、xが0.8以上1以下の範囲では、xが増加するほど板状形粒子が製造されてその粒径が増加することが確認された。より具体的に、実施例1の酸化触媒は、100nm以下の粒径を有する球形または不定形の1次粒子がかたまっており、Sr含有量が増加するほど1次粒子のサイズは数十nmサイズに小さくなり、x=0.8以上ではマイクロスケールの粒径(例えば、1μm以上の粒径)を有する板状形粒子が成長することが確認された。具体的に、実施例6の酸化触媒は、ほとんど板状形粒子からなり、これはイオン半径が大きいSr
2+イオン(1.44Å)がLa
3+イオン(1.36Å)部位を完全に置換しながら格子構造が変わるためであると予測される。
【0105】
一方、焼成温度を異にする実施例6~10の酸化触媒を電子顕微鏡(SEM)で分析して、その写真を
図2a~2eにそれぞれ示した(
図2a:実施例7、
図2b:実施例6、
図2c~2e:実施例8~10;焼成温度の増加により整理)。この時、
図1および2は互いに異なるスケールの電子顕微鏡写真であり、実施例6に対する
図1fおよび
図2bは互いに異なるスケールでそれぞれ示したものである。
【0106】
前記
図2a~2eを参照すれば、焼成温度の増加により酸化触媒粒子の粒径が増加することが確認され、特に、900℃を超える焼成温度では板状形粒子形態を有する酸化触媒の粒子凝集が発生して粒径の急激な増加が現れることが確認された。したがって、焼成温度が過度に高くなれば、粒径が増加し、表面積が小さくなって触媒活性の側面で不利であることが確認された。
【0107】
追加的に、実施例6~10の酸化触媒を溶媒(蒸溜水)に分散させた結果、
図3に図示されたとおり、焼成温度が増加するほど酸化触媒の分散度が低くなって不適であることが確認された。
【0108】
<実験例2>XRD分析
前記実施例1~6の酸化触媒をXRDで分析して、これらのXRDスペクトルを
図4aに比較して示した。また、実施例6の酸化触媒の結晶構造分析のために、そのXRDスペクトルを拡大して
図4bに示した。
【0109】
図4aを参照すれば、ストロンチウムのモル比xが増加するほど低い角度(Low angle)にXRDピーク(Peak)が移動する。また、xが0.6以下である実施例1~4の酸化触媒は、三方晶系(Trigonal)構造(捩じられたキュービック(Cubic))を有し、xが0.8以上である実施例5および7の酸化触媒は、酸素欠陥部位を有する格子構造を有することが確認された。
【0110】
また、
図4bを参照すれば、実施例6の酸化触媒は、酸素欠陥部位を有する六方晶系(Hexagonal)SrCoO
3-y構造を有することが確認された[Zeitschrift fur Naturforschung B | Volume 63: Issue 6]。これは+3酸化数を有するランタンイオンが+2酸化数を有するストロンチウムイオンに置換されながら酸素欠乏が発生するためであると予測された。
【0111】
<実験例3>電気化学特性評価(電圧別電流密度など測定)
まず、前記実施例1~6で製造された酸化触媒の電気化学評価結果を
図5aに示した。
【0112】
より具体的に、実施例1~6の酸化触媒に対して、電圧範囲1.2~1.8Vの間の電流密度(mA/cm
2)を測定したLSV(Linear sweep voltage)グラフおよび10mA/cm
2電流密度での過電圧(Overpotential;mV)を
図5a示した。
【0113】
前記
図5aを参照すれば、Srのモル比xが増加するほど電気伝導度が増加するため、同一電圧で電流密度が増加することが確認された。
【0114】
また、次の方法で、前記10および50mA/cm2電流密度での過電圧をそれぞれ測定した。
【0115】
対電極(Counter electrode)(Pt)、基準電極(Hg/HgO)使用して測定を行った。グラッシーカーボン電極(Glass carbon electrode)(3mm in diameter)に触媒を塗布して作用電極(Working electrode)として使用した。作用電極(Working electrode)は5~10mg触媒粒子を5%ナフィオン溶液(Nafion solution)20μLを1mL(ethanol:isopropanol=4:1(v:v))溶かした溶液に投入して均一な触媒溶液を作るために超音波処理(Sonication)(30min)実施する。10μL溶液をグラッシーカーボン電極に担持する(Loading mass:0.05mg/cm2)。分極曲線(Polarization curve)を5~10mV/s(1.0M KOH solution)で測定した。初期のデータはIR補正した(IR corrected)。
【0116】
このような測定結果、実施例5の触媒の10mA/cm2電流密度での過電圧は420mVであり、50mA/cm2電流密度では486mV過電圧を示すことが確認された。これに比べて、実施例6の触媒は10mA/cm2電流密度で過電圧は410mVであり、50mA/cm2電流密度では470mV過電圧を示すことが確認された。これにより、前記xが増加するほど触媒の電気伝導度および活性などが向上することが確認された。
【0117】
一方、焼成温度を異にする実施例6~10の酸化触媒に対しても、前記
図5aと同様な方法で電気化学的特性を評価し、その評価結果を
図5bに示した。具体的に、
図5bは実施例6~10の酸化触媒に対して、電圧範囲1.2~1.8Vの間の電流密度(mA/cm
2)を測定したLSVグラフと、10mA/cm
2電流密度での過電圧(Overpotential;mV)測定結果を示す図面である。
【0118】
図5bを参照すれば、焼成温度が増加するほど一定の電流密度で過電圧は増加して、電気伝導度および触媒の活性は低くなることが確認された。具体的に、10mA/cm
2電流密度で実施例7の触媒(焼成温度:600℃)の過電圧は410mVであり、実施例10の触媒(焼成温度:1000℃)の過電圧は520mVまで増加することが確認された。これは焼成温度が増加するほど粒子のかたまり(Sintering effect)により表面積が減少して触媒活性面積が減るためであると予測される。
【0119】
<実験例4>電気化学特性評価(Tafel slope:ターフェル傾斜)
前記実施例6~10の触媒に対して、ターフェル傾斜(Tafel slope)を測定した結果を
図6に示した。
【0120】
ターフェル傾斜(Tafel slope)は、電流を10倍増加させる時に必要な電圧変化量を意味し、ターフェル傾斜(Tafel slope)が小さいほど低い電圧にも電流が多く流れて優れた電気伝導度を示すことを確認できる。
【0121】
図6を参照すれば、焼成温度が増加するほどターフェル傾斜(Tafel slope)は49から60mV/decまで増加して、酸化触媒の電気伝導度が減少することが確認された。
【0122】
参考までに、酸化電極での酸素発生反応(OER)は、次の機作(Mechanism)に従う。
【0123】
【0124】
前記機作(Mechanism)によれば、焼成温度が増加することによって反応速度決定段階が変わることを確認できる。600℃の焼成条件(実施例7)でターフェル傾斜(Tafel slope)は49mVdec-1であり、反応速度決定段階はMO-→MO+e-に従う。1000℃では(実施例10)触媒の反応速度決定段階はMOH+OH-⇔MO-+H2Oに従う。これは焼成温度により触媒表面状態が変わるためであると予測される。
【0125】
<実験例5>電気化学特性評価(Impedance)
実施例6~8の酸化触媒に対して、1.62Vでインピーダンス(Impedance)を測定した結果を
図7に示した。これは酸化触媒の電荷移動抵抗(Charge transfer resistance)を測定するための評価結果である。
【0126】
図7を参照すれば、焼成温度が増加するほど電荷移動抵抗(Charge transfer resistance)は増加することを示す。これは焼成温度が増加すれば粒子がかたまって成長するため表面積が減少し、触媒表面積が減少すれば活性点が減って触媒活性が減少するためであると予測される。
【0127】
また、大気条件で焼成温度が増加すれば触媒粒子の内部エネルギーが増加するため、触媒表面に移動することが容易であり、表面欠点を満たすため欠点が減少する。触媒表面欠点(Defects)は酸素欠陥部位や、不純物による欠陥に区分されるが、焼成温度が増加することにより酸素欠乏と不純物による欠陥が減少する。表面酸素欠陥部位に電子は移動することが容易であるが、欠陥が減れば電子の移動経路が制限されるため電荷の移動抵抗は増加する傾向を示す。
【0128】
<実験例6>触媒の耐久性評価
実施例7で製造された酸化触媒の耐久性を評価するためにCV(Cyclic voltammetry)法で電圧範囲(1.1-2.1V)で1000サイクルの間に駆動した後の評価結果と、LSV(Linear sweep voltage)法で電圧範囲(1.1-1.8V)で1000サイクルの間に駆動した後の電流密度を測定した結果および過電圧測定結果を
図8a~8cにそれぞれ示した。
【0129】
図8a~8cを参照すれば、実施例7の触媒はバブル(Bubble)による触媒脱離が発生する以前である800
thまでは安定しており、優れた構造的安定性および耐久性を示すことが確認された。
【0130】
<実験例7>陰イオン交換膜水電解システムの特性評価
前記実施例7の酸化触媒を使用して、陰イオン交換膜;前記陰イオン交換膜の一側に位置する還元電極;および前記触媒層が前記陰イオン交換膜と接触するように、前記陰イオン交換膜の他側に位置する前記酸化触媒を含む酸化電極を含む陰イオン交換膜水電解システムを製造した。
【0131】
その製造のために、まず、前記実施例7の触媒のコーティング用インク組成物はIPA 90wt%およびDIW 10wt%の混合溶媒に前記触媒を約1wt%の含有量で超音波処理(Sonication)方法を利用して溶解して製造した。また、このような組成物にアイオノマー(Ionomer)はfumatech製品を触媒に対して30wt%の含有量で添加した。
【0132】
以降、80℃のホットプレート(Hot plate)上に、気孔度および厚さが110PPIおよび250μmであるニッケルフォーム(Nickel foam)を配置した。前記ニッケルフォーム(Nickel foam)上に、前記インク組成物を表面に均一に噴射して触媒層を形成した。この時、ニッケルフォーム(Nickel foam)の単位面積当たり触媒層のローディング量が2.0mg/cm2である酸化電極を製造し、このような酸化電極と共にPt/C(Pt 40wt%)_の還元電極およびfumatech FAA-3-50の陰イオン交換膜を使用して、陰イオン交換膜水電解セルを製造した。
【0133】
このような水電解セルに対して、電圧を増加しながら電流密度を測定した結果を
図9aおよび9bにそれぞれ示した。これを参照すれば、1A/cm
2電流密度で実施例7:1.95V電圧を示す。
【0134】
これにより、実施例7の酸化触媒は、陰イオン交換膜水電解システムで優れた特性を示すことを確認した。